(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0023】
(本発明の実施形態に係る反射型拡散板の概要)
本発明の実施形態に係る反射型拡散板について詳細に説明するに先立ち、本発明の実施形態に係る反射型拡散板の概要について、以下で簡単に言及しておく。
【0024】
以下で詳述する本発明の実施形態に係る反射型拡散板は、光の均質拡散及び光学開口の均質拡大機能を備えた、マイクロレンズアレイ型の反射型拡散板である。かかる反射型拡散板の有する光学体(すなわち、マイクロレンズ)は、光拡散機能を有する凸面が、互いに異なる形状であり、かつ、各レンズの境界輪郭部が異なる曲線により隣接するレンズと接することを特徴とする構造体である。
【0025】
上記特許文献1及び特許文献2に開示されているような、従来のマイクロレンズアレイ構造による光学体の場合、一般的なガウシアン状の光拡散機能及び画像機器におけるモアレ抑制機能を付加し得るのみであり、均質なエネルギー分布の拡散特性を満足することが難しいという問題があった。つまり、可視光領域のコリメート光や、コリメート性のある主光線を有して一定の開口を持つテレセントリック光に対して、一定領域における角度成分内でエネルギー分布の均質性が非常に高く、この角度成分の一定領域を超過するとエネルギーが急激に減少し得る光学機能(以下、「トップハット型拡散」ともいう。)に関する課題を解決できていないという問題があった。
【0026】
以下で詳述する本発明の実施形態に係る反射型拡散板は、可視光領域のコリメート光や、コリメート性のある主光線を有して一定の開口を持つテレセントリック光に対して、垂直入射光の一定領域における角度成分内で反射成分の均質性が非常に高く、斜め入射光の正面反射輝度と拡散輝度の比率を制御することを特徴とする光学体である。
【0027】
より詳細には、本発明の実施形態に係る反射型拡散板は、マイクロレンズアレイを構成する各単位セル(すなわち、単レンズであるマイクロレンズ)の配置、曲率半径、円形開口径に摂動(換言すれば、ばらつき)を持たせることで、相互に異なる湾曲及び曲面の領域を複数持ち、かかる領域境界が相互に異なる曲面であり、接線方位が相互に異なる俯瞰投影軌跡が異なる曲線を以って区切られる多数の湾曲及び曲面からなる光学体を有する。これにより、上記のような課題を解決し、従来のガウス型光拡散には有していない、高均質拡散機能と光学開口制御機能とを併せ持った光学体を実現することが可能となる。
【0028】
以下で詳述する反射型拡散板の特徴は、以下の通りである。
1)マイクロレンズアレイを構成する単レンズ(マイクロレンズ)の曲面部は、球面体、又は、非球面体である。
2)マイクロレンズアレイを構成する単レンズの配置は、ランダム配置である。
3)マイクロレンズアレイを構成する単レンズの基準開口径D、基準曲率半径R、摂動量δを最適に選択することで、拡散反射光の均質性を実現することができる。
4)湾曲及び曲面を持たない領域(換言すれば、マイクロレンズアレイが配置された光学体の平坦部の広さ)は、5%未満である。
5)マイクロレンズアレイにおける各湾曲領域の境界は、相互に異なる曲面である。
6)マイクロレンズアレイの表面に反射層を有していても良い。
7)マイクロレンズアレイに対する0度入射光(垂直入射光)の反射分布は、所望の拡散角範囲内でトップハット特性を示す。
8)マイクロレンズアレイに対する0度入射光のピーク反射輝度値をAとし、20度入射光又は40度入射光のピーク反射輝度値をBとすると、0.3≦A/B≦1.0である。
【0029】
以下では、以上のような特徴を有する本発明の実施形態に係る反射型拡散板について、詳細に説明する。
【0030】
(反射型拡散板について)
以下では、
図1〜
図12Cを参照しながら、本発明の第1の実施形態に係る反射型拡散板1について詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る反射型拡散板の構成を模式的に示した説明図である。
図2及び
図3は、本実施形態に係る反射型拡散板が有する単レンズについて説明するための説明図である。
図4は、本実施形態に係る反射型拡散板が備える単レンズ群の一例を上方から見た電子顕微鏡写真である。
図5は、本実施形態に係る反射型拡散板の構成を模式的に示した説明図である。
図6A〜
図7Bは、本実施形態に係る反射型拡散板が備える単レンズ群の配置方法について説明するための説明図である。
図8は、本実施形態に係る反射型拡散板からの反射光の輝度分布を模式的に示した説明図である。
図9は、反射拡散光の分布特性の判定方法について説明するための説明図である。
図10A及び
図10Bは、本実施形態に係る反射型拡散板の反射拡散特性について説明するための説明図である。
図11A及び
図11Bは、本実施形態に係る反射型拡散板の反射拡散特性について説明するための説明図である。
図12A〜
図12Cは、開口径、曲率半径及び摂動量と反射拡散光の分布特性との関係を説明するためのグラフ図である。
【0031】
本実施形態に係る反射型拡散板1は、基材上に複数のマイクロレンズ(以下、「単レンズ」とも称する。)が配置された、マイクロレンズアレイ型の反射型拡散板である。かかる反射型拡散板1は、
図1に模式的に示したように、透明基材10と、透明基材10の表面に形成された単レンズ群20と、を有している。
【0032】
<透明基材10について>
透明基材10は、本実施形態に係る反射型拡散板1に入射する光の波長帯域において、透明とみなすことが可能な材質からなる基材である。かかる透明基材10は、フィルム状のものであっても良いし、板状のものであっても良い。かかる基材の材質については、特に限定するものではないが、例えば、ポリメチルメタクリレート(polymenthyl methacrylate:PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(Polyethylene terephthalate:PET)、ポリカーボネート(polycarbonate:PC)、環状オレフィン・コポリマー(Cyclo Olefin Copolymer:COC)、環状オレフィンポリマー(Cyclo Olefin Polymer:COP)、トリアセチルセルロース(Triacetylcellulose:TAC)等といった公知の樹脂を透明基材10として用いることも可能であるし、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、白板ガラス等といった公知の光学ガラスを用いることも可能である。
図1では、透明基材10が矩形である場合を例に挙げて図示を行っているが、透明基材10の形状は矩形に限定されるものではなく、例えば反射型拡散板1が実装される表示装置、投影装置、照明装置等の形状に応じて、任意の形状を有していても良い。
【0033】
<単レンズ群20について>
透明基材10の表面には、複数の単レンズ21からなる単レンズ群20が形成されている。本実施形態に係る反射型拡散板1において、単レンズ群20は、
図1に模式的に示したように、複数の単レンズ21が互いに隣接するように(換言すれば、単レンズ21間に隙間(平坦部)が存在しないように)形成されることが好ましい。透明基材10上に単レンズ21を隙間なく配置させる(換言すれば、単レンズの充填率が100%となるように配置させる)ことで、入射光のうち拡散板表面で散乱せずにそのまま透過してしまう成分(以下、「0次透過光成分」ともいう。)を抑制することが可能となる。その結果、複数の単レンズ21が互いに隣接するように配置された単レンズ群20では、拡散性能を更に向上させることが可能となる。
【0034】
また、本実施形態に係る単レンズ群20では、
図1に模式的に示したように、各単レンズ21は、規則的に配置されているのではなく、不規則に(ランダムに)配置されている。ここで、「不規則」とは、反射型拡散板1における単レンズ群20の任意の領域において、単レンズ21の配置に関する規則性が実質的に存在しないことを意味する。従って、任意の領域での微小領域において単レンズ21の配置にある種の規則性が存在したとしても、任意の領域全体として単レンズ21の配置に規則性が存在しないものは、「不規則」に含まれるものとする。なお、本実施形態に係る単レンズ群20における単レンズ21の不規則な配置方法については、以下で改めて詳述する。
【0035】
本実施形態において、単レンズ群20を構成する単レンズ21は、凸レンズとなっている。また、本実施形態に係る単レンズ群20では、各単レンズ21の表面形状は、特に限定されるものではなく、球面成分のみを含むものであっても良いし、非球面成分が含まれていてもよい。
【0036】
また、本実施形態に係る単レンズ群20では、上記のような各単レンズ21の配置のみならず、各単レンズ21の開口径及び曲率半径についても、単レンズ群20全体でばらつきを有している。
【0037】
複数の単レンズ21が互いに隣接するように設けられ、単レンズ21が透明基材10上に不規則に形成され、かつ、各単レンズ21の開口径及び曲率半径にばらつき(ランダム性)を持たせることで、それぞれの単レンズ21の外形は、互いに同一の形状とはならず、
図1に模式的に示したように様々な形状を有するようになり、対称性を有しなくなるものが多くなる。
【0038】
このような場合、
図2に模式的に示したように、単レンズAでは曲率半径がr
Aであるのに対し、単レンズBでは曲率半径がr
B(≠r
A)となるという状況も多く生じるようになる。隣接する単レンズの曲率半径が異なる場合、隣接する単レンズ間の境界は直線のみで構成されるのではなく、その少なくとも一部に曲線を含むようになり、
図3に模式的に示したように、単レンズ21の外形(単レンズ21を俯瞰した場合の外形の投影軌跡)は、互いに異なる複数の湾曲及び曲面の境界で構成されるようになる。単レンズ間の境界の少なくとも一部に曲線が含まれることで、単レンズ間の境界での配置の規則性が更に崩れることとなり、回折成分を更に低減することが可能となる。
【0039】
図4は、本実施形態に係る反射型拡散板における単レンズ群20の一部を、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)により上方から観察した場合のSEM写真である。
図4から明らかなように、単レンズ群20を構成する単レンズ21の外形(俯瞰投影軌跡)は、様々な形状を有しており、単レンズ21の開口径も互いに相違していることがわかる。
【0040】
<反射層30について>
また、本実施形態に係る反射型拡散板1では、
図5に模式的に示したように、単レンズ群20を構成する各単レンズ21の表面に、反射層30が更に設けられていることが好ましい。かかる反射層30を単レンズ群20の表面に設けることで、本実施形態に係る反射型拡散板1の反射性能(すなわち、入射光の反射率)を更に向上させることが可能となる。
【0041】
かかる反射層30は、所望の反射率を実現することが可能なものであれば、任意の材質を用いて形成することが可能である。このような反射層30として、例えば、AlもしくはAgの何れかを含む金属層、又は、TiO
2もしくはZnSの何れかを含む無機反射層を挙げることができる。Al又はAgの何れかを含む金属層としては、例えば、Al単体、Ag単体、又は、AgPCu合金等のようにAl又はAgを含有する合金等の金属層を挙げることができる。また、TiO
2もしくはZnSの何れかを含む無機反射層としては、例えば、TiO
2及びSiO
2を含有する無機反射層や、ZnS及びSiO
2を含有する反射層等を挙げることができる。
【0042】
また、かかる反射層30の厚みについては、特に限定するものではないが、例えば10nm未満の厚みを有する反射層30を形成することは困難が伴うことから、反射層30の厚みは、10nm以上であることが好ましい。一方、上記のような材質を用いて反射層30を形成した場合、厚みが200nm以上となることで、100%の反射率を示すようになる。そのため、コスト性等の観点から、反射層30の厚みは、200nm以下であることが好ましい。かかる反射層30の厚みは、より好ましくは、100nm以上200nm以下である。
【0043】
<単レンズ21の配置方法について>
以下では、以上説明したような単レンズ21の配置方法について、具体的に説明する。
本実施形態に係る反射型拡散板1において、上記のような特徴を有する複数の単レンズ21が配置された単レンズ群20は、主に以下の2つの配置方法により実現することが可能である。
【0044】
一つの配置方法は、基準となる形状を有する単レンズ21を、初めからランダムに配置していく配置方法である。以下、この配置方法を、「ランダム配置方法」ともいう。この配置方法では、基準となる形状を有する単レンズ21をランダムに配置した上で、単レンズ21の形状(すなわち、開口径及び曲率半径)をばらつかせる(摂動させる)。そのため、
図4に示した、実際の単レンズ群20の配置の様子を示したSEM写真から明らかなように、ある程度マクロ的に単レンズ群20を俯瞰した場合であっても、単レンズ21の配置に規則性を見出すことはできない。
【0045】
もう一つの配列方法は、基準となる形状を有する単レンズ21を規則的に配列させた基準となる状態(以下、「初期配列状態」ともいう。)をひとまず設定した上で、かかる初期配列状態から、単レンズ21の形状(すなわち、開口径及び曲率半径)と、配置位置(より詳細には、単レンズ21の頂点位置)と、をばらつかせる(摂動させる)方式である。以下、この配置方法を、「基準配置方法」ともいう。この配置方法では、規則的な単レンズ21の配列を経たうえで、単レンズ21の形状及び配置にランダム性を持たせるため、ある程度マクロ的に単レンズ群20を俯瞰すると、初期配列状態をある程度推定できるような配置となっている。
【0046】
[ランダム配置方法について]
まず、
図6A及び
図6Bを参照しながら、ランダム配置方法の流れについて、簡単に説明する。
ランダム配置方法では、
図6Aに示したように、レンズ配置位置をxy座標系で考えた場合に、レンズ配置位置のx座標及びy座標を、乱数で決定していく。この際、着目している単レンズ21について、既に配置されている各単レンズ21との距離を計算し、既に配置されている単レンズ21との重なり幅が、予め設定されている許容範囲内であれば、着目している単レンズ21を配置していくようにする。逆に、計算した重なり幅が許容範囲を超える場合には、着目している単レンズ21は配置しないようにする。このようにして、ランダム配置方法における初期配列が決定される。
【0047】
上記のような配置方法における許容範囲が、
図6Bに示した最大重ね合わせ量O
vである。この最大重ね合わせ量O
vは、互いに隣接する単レンズ21との重なり幅の最大値として捉えることが可能である。
【0048】
以上がランダム配置方法の概略であるが、より具体的なランダム配置方法のアルゴリズムは特に限定されるものではなく、例えば、特開2012−181816号公報に開示されているような公知の方法を利用することが可能である。
【0049】
以上のようにして初期配列を決定した後、
図6Bに示したような単レンズ21の開口径φや曲率半径Rをパラメータとして更に摂動させることにより、ランダムな形状を有する単レンズ21を、ランダムに配置させることが可能となり、平坦部の発生を抑制することが可能となる。
【0050】
以上のようなランダム配置方法において、単レンズ群20における、互いに隣接する2つの単レンズ21の重なり幅の最大値をO
v[μm]とし、互いに隣接する2つの単レンズ21の開口径を、それぞれD
1[μm]、D
2[μm]としたときに、以下の式(101)で表される関係が成立することが好ましい。下記式(101)で表される関係が成立しない場合には、ランダム配置を実現するためのパラメータのばらつき度合いが不十分となり、十分なランダム性を実現することが困難となる可能性がある。
【0052】
[基準配置方法について]
続いて、
図7A及び
図7Bを参照しながら、基準配置方法の流れについて、簡単に説明する。
図7Aに示したように、基準配置方法では、まず、基準となる初期配列状態をまず設定する。単レンズ21の規則的な配列状態は、特に限定するものではなく、単レンズ21の頂点位置が正方形状に配置される四角配置や、正六角形の頂点及び正六角形の中心に対応する位置に単レンズ21の頂点位置が配置される六角配置等を適宜利用すればよい。この際、基準配置方法を実施した後の単レンズ群20に、なるべく平坦部を生じさせないようにするために、規則的な配列状態は、六方最密格子等のような最密配列状態にすることが好ましい。
【0053】
かかる基準配置方法では、
図7A左側中段の図に示したように、格子間隔(
図7Bにおける基準格子ピッチG)をパラメータとする。その上で、
図7A左側下段の図に示したように、パラメータである格子間隔を、最密パターンに対応する値から小さくしていく。これにより、
図7A右側上段の図に示したように、各単レンズが重なりあうようになり、平坦部が無くなる。
【0054】
その後、
図7A右側中段の図に示したように、各単レンズ21のレンズ中心(頂点位置)を、格子点からランダムに動かしていく。具体的には、格子点からの最大移動距離をパラメータとし(
図7Bにおける最大摂動量M)、0〜1の乱数と最大移動距離との積を移動距離として、個々に決定していく。また、移動角度についても、乱数を用いて決定していく。これにより、
図7A右側下段の図に示したように、最終的な単レンズ21の配置パターンが決定することとなる。
【0055】
その後、
図7Bに示したような単レンズ21の開口径φや曲率半径Rをパラメータとして更に摂動させることにより、ランダムな形状を有する単レンズ21を、ランダムに配置させることが可能となる。
【0056】
以上、
図6A〜
図7Bを参照しながら、本実施形態に係る単レンズ21の配置方法について、具体的に説明した。
【0057】
<反射型拡散板1の反射拡散特性について>
本実施形態に係る反射型拡散板1は、単レンズ群20に光が垂直入射する場合(換言すれば、透明基材10の表面法線方向と平行な方向から光が入射する場合)に、かかる入射光の反射光の輝度分布が、所定の拡散角度範囲内で略均一となる。換言すれば、本実施形態に係る反射型拡散板1は、所定の拡散角度範囲内でトップハット型の反射特性を示す。
【0058】
ここで、本実施形態において反射特性がトップハット型であるとは、
図8に模式的に示したように、垂直入射した光の反射光の輝度分布について、所望の拡散角度範囲θ
diff内において、反射光輝度値が、反射光輝度のピーク値Nit
topを中心として、±10%の範囲内に収まっている状態が実現されていることをいう。
【0059】
図8に示したような状態が実現されることで、反射型拡散板からの反射拡散光の分布は、均質性を有するようになり、周期的な回折光等も発生しなくなる。一方、
図8に示したようなトップハット型の反射特性が実現されていない場合には、反射型拡散板からの反射拡散光の分布は、均質ではなくなり、周期的な回折光等が発生する可能性が高くなる。
【0060】
本実施形態において、例えば
図9左側の図に示したように、反射拡散光の分布が均一である場合、着目する反射型拡散板は、垂直入射光に対して、所定の拡散角度範囲内で略均一な反射拡散性を有している(すなわち、合格ラインに達している)と判断する。一方、
図9右側の図に示したように、反射拡散光の分布にムラが見られて均一ではなく、場合によっては周期的な回折パターンが観察される場合、着目する反射型拡散板は、垂直入射光に対して、所定の拡散角度範囲内で略均一な反射拡散性を有していない(すなわち、合格ラインに達していない)と判断する。
【0061】
なお、
図9左側に示した反射拡散特性は、基準開口径D=80μm、基準曲率半径R=100μm、摂動量δ=5%、単レンズの重なり幅の最大値(すなわち、最大重ね合せ量)O
V=40μmである反射型拡散板の反射拡散特性である。また、
図9右側に示した反射拡散特性は、基準開口径D=80μm、基準曲率半径R=500μm、摂動量δ=0%、最大重ね合せ量O
V=36μmである反射型拡散板の反射拡散特性である。
【0062】
また、本実施形態に係る反射型拡散板1は、透明基材10の表面法線方向とのなす角が所定の値となる斜め方向から単レンズ群20に入射する光について、特定の関係が成立する。
【0063】
具体的には、
図10Aに模式的に示したように、反射型拡散板1に対して、透明基材10の表面法線方向とのなす角θ
inが20度又は40度の方向から斜めに入射してくる光について、反射型拡散板1によって生じる反射拡散光の輝度分布に着目する。ここで、
図10Bに模式的に示したように、反射拡散光の輝度分布のうち、入射光の進行方向と表面法線方向とで規定される平面における反射拡散光の輝度分布を、以下では便宜的に「経度方向の輝度分布」と称することとし、反射拡散光の輝度分布のうち、入射光の進行方向と表面法線方向とで規定される平面に対して直交する平面における反射光の輝度分布を、以下では便宜的に「緯度方向の輝度分布」と称することとする。
【0064】
本実施形態に係る反射拡散板1に対して、入射角度θ
in=0度で入射してくる光(すなわち、表面法線方向と平行な方向から反射拡散板1に対して垂直入射する光)については、
図11Aに一例を示したように、反射拡散光の経度方向の輝度分布と緯度方向の輝度分布とは、ほぼ同一の分布形状となり、拡散角度=0度を中心として、ほぼ左右対称となるような輝度分布となる。
【0065】
一方、本実施形態に係る反射拡散板1に対して、入射角度θ
in=20度又は40度で入射してくる光について、反射拡散光の緯度方向の輝度分布については、入射角度θ
in=0度の場合と同様に、拡散角度=0度を中心として、ほぼ左右対称となるような輝度分布となる一方で、反射拡散光の経度方向の輝度分布については、拡散角度=0度を中心として、左右非対称となる輝度分布となる。
図11Bは、入射角度θ
in=20度で入射してくる光の反射拡散光の輝度分布の一例を示したものであるが、緯度方向の輝度分布はほぼ左右対称な輝度分布となる一方で、経度方向の輝度分布は、左右非対称な輝度分布となっていることがわかる。
【0066】
本実施形態では、
図11Bに示したような斜め入射時の反射拡散光の輝度分布(より詳細には、入射角度θ
in=20度又は40度における反射拡散光の輝度分布)の少なくとも何れか一方に関して、面法線方向の反射輝度値をAとし、反射拡散成分のピーク反射輝度値をBとしたときに、0.3≦A/B≦1の関係が成立する。
【0067】
図11Bに示した例の場合、拡散角度=0度における反射輝度値が、上記の輝度値Aとなり、拡散角度50度近傍における経度方向の輝度分布のピーク値が、上記の輝度値Bとなる。なお、入射角度θ
in=20度であるにも関わらず、ピーク輝度値Bを与える拡散角度が50度近傍となるのは、本実施形態で着目する反射拡散板1の単レンズ群において、開口径及び曲率半径が所定のばらつき(すなわち、摂動量)を有しているからである。
【0068】
上記の(A/B)で与えられる輝度比は、1超過の値を取ることはない。従って、輝度比(A/B)の上限値は、1となる。一方、輝度比(A/B)の値が0.3未満となる場合には、反射拡散光の輝度分布のムラが大きくなりすぎて、より均一な拡散角度分布特性を実現させることが困難となる。従って、輝度比(A/B)の下限値は、0.3となる。輝度比(A/B)の値の範囲は、より好ましくは、0.5以上1.0以下である。
【0069】
本発明者らは、基準開口径D、基準曲率半径R、摂動量δを変えながら公知の光線追跡シミュレーションを実施して、反射型拡散板の反射拡散特性(より詳細には、上記のような垂直入射光の反射拡散特性、及び、斜め入射光の反射拡散特性)について、上記のような基準で検証を行った。具体的には、本発明者らは、基準開口径D=30μm、50μm、又は、80μmとし、基準曲率半径R=30μm、100μm、又は、500μmとした場合に、摂動量δ=0%、5%、10%、20%、又は、30%として、反射型拡散板の反射拡散特性についてシミュレーションを行った。
【0070】
得られた結果を、以下の表1及び
図12A〜
図12Cに模式的に示した。ここで、
図12A〜
図12Cにおいて、白抜きのバーで示した領域が、垂直入射光及び斜め入射光の双方についての反射拡散特性が、合格となった領域を示している。
【0072】
得られた上記のような評価結果に基づき、本発明者らは、垂直入射光に関する反射拡散特性、及び、斜め入射光に関する反射拡散特性の双方が合格となる領域と、垂直入射光に関する反射拡散特性、又は、斜め入射光に関する反射拡散特性の少なくとも何れか一方が不合格となる領域と、の境界を与える関係式について、更なる検討を行った。その結果、単レンズ群20の基準開口径をD[μm]とし、基準曲率半径をR[μm]とし、基準開口径D及び基準曲率半径Rそれぞれのばらつき割合(摂動量)をδ[%]としたときに、以下の式(103)で表される関係が成立する場合に、垂直入射光に関する反射拡散特性、及び、斜め入射光に関する反射拡散特性の双方が合格となる可能性が極めて高くなることを知見した。
【0074】
従って、本実施形態に係る反射拡散板1では、単レンズ群20の基準開口径D、基準曲率半径R、及び、摂動量δについて、上記式(103)の関係が成立することが好ましい。
【0075】
以上、
図1〜
図12Cを参照しながら、本実施形態に係る反射型拡散板1について、詳細に説明した。
【0076】
以上説明したような本実施形態に係る反射型拡散板1は、単レンズ21の配置と、単レンズ21の形状(開口径及び曲率半径)と、にランダム性を持たせることにより、より均一な拡散角度分布特性を実現することが可能となる。また、本実施形態に係る反射型拡散板1では、単レンズ21の開口径や曲率半径を制御することで、拡散板1を透過した光の拡散角を自由に設計することが可能となる。
【0077】
(反射型拡散板の製造方法の一例について)
以下では、
図13を参照しながら、本発明の実施形態に係る反射型拡散板1の製造方法の一例について、簡単に説明する。
図13は、本実施形態に係る反射型拡散板の製造方法の流れの一例を示した流れ図である。
【0078】
本実施形態に係る反射型拡散板の製造方法では、まず、基盤の洗浄が実施される(ステップS101)。かかる基盤は、例えば、ガラスロールのようなロール状のものであってもよく、ガラスウェハのような平板状のものであってもよい。
【0079】
次に、洗浄後の基盤に対して、レジスト(例えば、金属酸化物を用いたレジストや、有機物を用いたレジスト等)が形成される(ステップS103)。かかるレジストの形成処理は、ロール状の基盤に対しては、塗布処理又はディッピングにより実現され、平板状の基盤に対しては、各種のコーティング処理により実現される。
【0080】
その後、レジストの形成された基盤に対して、露光処理が実施される(ステップS105)。かかる露光処理は、グレースケールマスク等を利用した露光(複数のグレースケールマスクの重ね合わせによる多重露光を含む。)、平板又はロール板に対するグレースケール露光、ピコ秒パルスレーザやフェムト秒パルスレーザ等を用いたレーザ露光など、公知の様々な露光方法を適宜適用することが可能である。
【0081】
その後、露光後の基盤をアルカリ現像し(ステップS107)、Niスパッタ等の公知のスパッタ処理(ステップS109)を施すことにより、本実施形態に係る反射型拡散板1を製造する際のマスター原盤(例えば、ガラスマスターやメタルマスター等)が完成する(ステップS111)。その後、完成したマスター原盤を用いて、ソフトモールド等といったモールドが作成される(ステップS113)。
【0082】
次に、製造されたモールドを利用して、基板ガラスや基板フィルム等に転写処理を実施し(ステップS115)、必要に応じて反射膜や保護膜等を成膜する(ステップS117)ことで、本実施形態に係る反射型拡散板1が製造される。
【0083】
一方、ガラス基板に対して直接加工を施す場合には、ステップS107におけるアルカリ現像処理に引き続き、CF
4等の公知の化合物を用いたドライエッチング処理を実施し(ステップS119)、その後、必要に応じて反射膜や保護膜等を成膜する(ステップS121)ことで、本実施形態に係る反射型拡散板1が製造される。
【0084】
なお、
図13に示した製造方法の流れは、あくまでも一例であって、本実施形態に係る反射型拡散板の製造方法が
図13に示した例に限定されるものではない。
【0085】
(反射型拡散板の適用例)
次に、本実施形態に係る反射型拡散板1の適用例について、簡単に説明する。
【0086】
以上説明したような本実施形態に係る反射型拡散板1は、その機能を実現するために光を拡散させる必要がある装置に対して、適宜実装することが可能である。機能を実現するために光を拡散させる必要がある装置としては、例えば、各種のディスプレイ等の表示装置や、プロジェクタ等の投影装置を挙げることができる。
【0087】
また、本実施形態に係る反射型拡散板1は、液晶表示装置のバックライトに対して適用することも可能であり、光整形の用途にも用いることが可能である。更に、本実施形態に係る反射型拡散板1は、各種の照明装置に対しても適用することが可能となる。
【0088】
なお、機能を実現するために光を拡散させる必要がある装置は、上記の例に限定されるものではなく、光の拡散を利用する装置であればその他の公知の装置に対しても、本実施形態に係る反射型拡散板1を適用することが可能である。
【実施例】
【0089】
続いて、実施例及び比較例を示しながら、本発明に係る反射型拡散板について、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、あくまでも本発明に係る反射型拡散板の一例にすぎず、本発明に係る反射型拡散板が下記の例に限定されるものではない。
【0090】
(試験例1)
以下では、市販の光線追跡シミュレーション用アプリケーションを利用して、以下の表2に示したような基準開口径D[μm]、基準曲率半径R[μm]、及び、摂動量δ[%]に基づき単レンズ21をランダム配置方法により配置した場合の諸特性を、シミュレートした。なお、以下のシミュレーションでは、単レンズ21を形成するレンズ材料を、透明樹脂又はガラスとした。また、反射層30としては、単レンズ群20の表面に対し、AgPCu合金を用いた反射層を100nm成膜した条件とした。
【0091】
シミュレーションにより得られた反射拡散光の輝度分布について、トップハット型の拡散特性を有しているか、トップ部の輝度分布が均質性を有しているか、斜め入射光に関する反射輝度特性を満足しているか、の3点に関して、評価を行った。なお、各評価基準は、以下の通りである。
【0092】
[トップハット型の拡散特性]
○:反射拡散光の輝度分布がトップハット形状である。
×:反射拡散光の輝度分布がトップハット形状ではない。
【0093】
[均質性]
○:垂直入射光に対する反射拡散光の輝度分布においてトップ部の輝度変化が10%以下
×:垂直入射光に対する反射拡散光の輝度分布においてトップ部の輝度変化が10%超過
【0094】
[斜め入射光に関する反射輝度特性]
○:20度入射光及び40度入射光の少なくとも何れか一方の輝度比(A/B)が0.3≦A/B≦1の範囲内
×:20度入射光及び40度入射光の双方の輝度比(A/B)が0.3≦A/B≦1の範囲外
【0095】
得られた評価結果を、以下の表2にまとめて示した。
【0096】
【表2】
【0097】
また、上記実施例1、実施例2及び比較例1については、
図14A〜
図16Cとして、得られた反射拡散光の輝度分布を示している。
図14A〜
図14Cは、実施例1の反射型拡散板における反射拡散光の輝度分布であり、
図15A〜
図15Cは、実施例2の反射型拡散板における反射拡散光の輝度分布であり、
図16A〜
図16Cは、比較例1の反射型拡散板における反射拡散光の輝度分布である。
【0098】
更に、上記実施例3、実施例4及び比較例2については、
図17〜
図19として、反射型拡散板における単レンズ群の表面形状(俯瞰投影軌跡)と反射拡散光の分布の様子とを併せて示している。
図17は、実施例3の反射型拡散板に関するものであり、
図18は、実施例4の反射型拡散板に関するものであり、
図19は、比較例2の反射型拡散板に関するものである。
【0099】
上記表2、及び、
図14A〜
図19からも明らかなように、本発明の実施例に対応する反射型拡散板では、優れた反射拡散特性を示しているのに対し、本発明の比較例に対応する反射型拡散板では、均質な反射拡散特性を実現できていないことがわかる。
【0100】
(試験例2)
続いて、試験例1と同様にして、基準開口径D=80μm、基準曲率半径R=200μm、及び、摂動量δ=10%として、単レンズ21をランダム配置方法により配置した場合の反射拡散特性を、シミュレートした。なお、かかるシミュレーションでは、単レンズ21を形成するレンズ材料を、透明樹脂又はガラスとした。また、反射層30としては、単レンズ群20の表面に対し、AgPCu合金を用いた反射層を100nm成膜した条件とした。
【0101】
得られた結果を、
図20A〜
図20Cに示した。
図20Aは、入射角度θ
in=0度における反射拡散特性を示したグラフ図であり、
図20Bは、入射角度θ
in=20度における反射拡散特性を示したグラフ図であり、
図20Cは、入射角度θ
in=40度における反射拡散特性を示したグラフ図である。
【0102】
ここで、本試験例において、入射角度θ
in=20度における輝度比(A/B)の値は、0.65となり、入射角度θ
in=40度における輝度比(A/B)の値は、0となった。
【0103】
図20A〜
図20Cから明らかなように、本発明の実施例に対応する本試験例での反射型拡散板は、優れた反射拡散特性を示していることがわかる。
【0104】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。