特許第6826449号(P6826449)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6826449
(24)【登録日】2021年1月19日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】蒸気タービンシステム
(51)【国際特許分類】
   F01D 9/02 20060101AFI20210121BHJP
   F01K 17/02 20060101ALI20210121BHJP
【FI】
   F01D9/02 102
   F01K17/02
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-20486(P2017-20486)
(22)【出願日】2017年2月7日
(65)【公開番号】特開2018-127919(P2018-127919A)
(43)【公開日】2018年8月16日
【審査請求日】2020年1月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100210572
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100134544
【弁理士】
【氏名又は名称】森 隆一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100126893
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 哲男
(72)【発明者】
【氏名】西川 豊治
(72)【発明者】
【氏名】椙下 秀昭
(72)【発明者】
【氏名】松本 和幸
(72)【発明者】
【氏名】間所 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】深尾 伸次
(72)【発明者】
【氏名】桑村 祥弘
(72)【発明者】
【氏名】小西 英治
【審査官】 高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−038308(JP,A)
【文献】 特開2012−215104(JP,A)
【文献】 特開2006−002729(JP,A)
【文献】 特開昭62−157209(JP,A)
【文献】 特開2013−044310(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 9/02
F01D 17/08
F01D 25/10
F01K 7/22
F01K 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
静翼及び動翼を有し、供給される蒸気によって軸線回りに回転する蒸気タービンと、
前記蒸気タービンから抽気された蒸気が流通する蒸気ラインと、
中空構造の静翼の中空部と前記蒸気タービンの外部との間で加熱流体を循環させ、前記静翼を加熱するための静翼加熱ラインと、
前記蒸気ラインを流通する蒸気と前記静翼加熱ラインを流通する加熱流体とを熱交換させることで前記加熱流体を加熱する熱交換手段とを備え
前記蒸気ラインが、蒸気タービンから抽出した蒸気を蒸気タービンの軸端に供給し、前記軸端の蒸気漏れを防止するためのグランドシール蒸気ラインである蒸気タービンシステム。
【請求項2】
前記蒸気タービンは、高圧タービンと、中圧タービンと、低圧タービンと、を備え、
前記蒸気ラインは、前記高圧タービン、前記中圧タービン、前記低圧タービンの少なくとも一つから抽出した蒸気を前記低圧タービンの軸端に供給し、前記軸端の蒸気漏れを防止するためのグランドシール蒸気ラインである請求項に記載の蒸気タービンシステム。
【請求項3】
前記蒸気ラインは、前記高圧タービンの蒸気の流通方向における下流側、前記中圧タービンの蒸気流通方向における下流側、前記低圧タービンの蒸気の流通方向における上流側の少なくとも一つから抽出した蒸気を前記低圧タービンの蒸気の流通方向における下流側の軸端に供給し、前記軸端の蒸気漏れを防止するためのグランドシール蒸気ラインである請求項に記載の蒸気タービンシステム。
【請求項4】
前記静翼に供給される前の加熱流体の温度と、前記静翼の中空部を流通した後の加熱流体の温度とを計測する温度計測手段を備える請求項1から3のいずれか一項に記載の蒸気タービンシステム。
【請求項5】
静翼及び動翼を有し、供給される蒸気によって軸線回りに回転する蒸気タービンと、
前記蒸気タービンから抽気された蒸気が流通する蒸気ラインと、
中空構造の静翼の中空部と前記蒸気タービンの外部との間で加熱流体を循環させ、前記静翼を加熱するための静翼加熱ラインと、
前記蒸気ラインを流通する蒸気と前記静翼加熱ラインを流通する加熱流体とを熱交換させることで前記加熱流体を加熱する熱交換手段とを備え
前記静翼に供給される前の加熱流体の温度と、前記静翼の中空部を流通した後の加熱流体の温度とを計測する温度計測手段を備える蒸気タービンシステム。
【請求項6】
前記温度計測手段の計測結果に基づいて前記加熱流体の前記静翼の中空部への供給量を制御する制御手段を備える請求項4又は5に記載の蒸気タービンシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蒸気タービンのプラントシステムは、例えば、ボイラと、ボイラからの蒸気で駆動する蒸気タービン(高圧蒸気タービン、中圧蒸気タービン、低圧蒸気タービンなど)と、各タービンの駆動で発電する発電機と、低圧蒸気タービンから排気された蒸気を水に戻してボイラに供給する復水器と、これら各機器を制御する制御装置とを備えて構成されている。
【0003】
また、復水器とボイラの間に、蒸気タービンから抽出した蒸気との熱交換で復水器水を加熱する給水加熱器や、蒸気タービンからの蒸気漏出、蒸気タービンへの外部空気の流入を防ぐためのグランドシール蒸気系統(グランドシール蒸気ライン)の蒸気の熱及び復水の回収を行うためのグランド蒸気回収復水装置(GSC)を備えて構成したものもある。
【0004】
一方、蒸気タービンは、ロータとステータとを備え、ロータは、軸線方向に軸状に並設された複数のロータディスクと、各ロータディスクの外周から軸線中心の径方向に突出して放射状に配設された複数の動翼とを備えている。
【0005】
ステータは、ロータを囲繞するように配設され、タービンの内部を外部から区画するケーシング本体及びケーシング本体の内周部に支持されて一体に設けられた翼環からなるケーシングと、複数の静翼とを備えている。
【0006】
また、一つのロータディスクの複数の動翼とこれに対応する静翼が一つの「段」を構成しており、蒸気タービンには、多数段の動翼、静翼が設けられている。さらに、複数の段は、動翼及び静翼の翼高さ(ロータに略直交する方向の翼の長さ)が蒸気の流通方向上流側から下流側に向かうに従い大きくなるように構成されている。
【0007】
このように構成した蒸気タービンは、蒸気が軸線方向一端側からケーシング内に供給されて軸線方向他端側に流通するとともに、各段の静翼での圧力降下によって運動エネルギーが生じ、これを動翼によって回転トルクに変換し、ロータを軸線周りに回転させることができる。
【0008】
ここで、蒸気タービンの内部(ケーシングの内部)では、下流段側ほどエネルギーが減少し、例えば低圧蒸気タービンの最終段(最終翼群内部)では湿りが発生する。この蒸気の湿り(水分)は様々な形態で蒸気タービンにエネルギー損失をもたらすだけでなく、水滴となって翼を浸食し、損傷させるおそれがある。特に、静翼表面に付着した粗大な水滴が静翼の後縁部から飛散して動翼に衝突することにより、エネルギーの損失だけでなく動翼の損傷を招くケースがある。
【0009】
これに対し、静翼を中空構造で形成するとともに中空部に加熱流体を流通させ、加熱流体で静翼を加熱することにより、付着しようとする水分を蒸発させ、静翼の外面に水滴等の水分が付着しないようにする手法が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2013−148039号公報
【特許文献2】特許第3617212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記従来の静翼の中空部に加熱流体を流通させ、静翼の外面に水滴等の水分が付着しないようにする手法において、加熱流体を生成するために外部のエネルギーを用いてしまうと、トータルのエネルギー効率が大きく低下してしまう。
【0012】
そこで、特許文献2では、蒸気タービンの高圧段前の軸封パッキンから抽出したグランドシール蒸気系統(グランドシール蒸気ライン)のリーク蒸気を加熱流体として利用し、コントロール弁を介して静翼の中空部に導入し、静翼を加熱している。また、その排気蒸気をタービンの低圧段落に放流するようにするようにしている。この場合には、蒸気タービンシステムの系内の蒸気(熱エネルギー)を利用して静翼を加熱することができる。
【0013】
しかしながら、この場合には、万一、静翼の中空部にリーク蒸気を供給する静翼加熱系統(静翼加熱用ライン)で漏れなどが発生すると、グランドシール蒸気系統も一緒に止めることが必要になり、結果として、静翼加熱系統の不具合によって蒸気タービンの駆動を止めざるを得なくなってしまう。
【0014】
また、グランドシール蒸気系統のリーク蒸気を加熱流体として利用するため、グランドシールのための蒸気が減ることになり、場合によってはグランドシールに支障をきたし、十分なグランドシールが行えなくなるおそれもある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の蒸気タービンシステムは、静翼及び動翼を有し、供給される蒸気によって軸線回りに回転する蒸気タービンと、前記蒸気タービンから抽気された蒸気が流通する蒸気ラインと、中空構造の静翼の中空部と前記蒸気タービンの外部との間で加熱流体を循環させ、前記静翼を加熱するための静翼加熱ラインと、前記蒸気ラインを流通する蒸気と前記静翼加熱ラインを流通する加熱流体とを熱交換させることで前記加熱流体を加熱する熱交換手段とを備え、前記蒸気ラインが、蒸気タービンから抽出した蒸気を蒸気タービンの軸端に供給し、前記軸端の蒸気漏れを防止するためのグランドシール蒸気ラインである。
【0016】
また、本発明の蒸気タービンシステムにおいては、前記蒸気タービンは、高圧タービンと、中圧タービンと、低圧タービンと、を備え、前記蒸気ラインは、前記高圧タービン、前記中圧タービン、前記低圧タービンの少なくとも一つから抽出した蒸気を前記低圧タービンの軸端に供給し、前記軸端の蒸気漏れを防止するためのグランドシール蒸気ラインであってもよい。
さらに、本発明の蒸気タービンシステムにおいては、前記蒸気ラインは、前記高圧タービンの蒸気の流通方向における下流側、前記中圧タービンの蒸気流通方向における下流側、前記低圧タービンの蒸気の流通方向における上流側の少なくとも一つから抽出した蒸気を前記低圧タービンの蒸気の流通方向における下流側の軸端に供給し、前記軸端の蒸気漏れを防止するためのグランドシール蒸気ラインであってもよい。
【0017】
本発明の蒸気タービンシステムにおいては、前記静翼に供給される前の加熱流体の温度と、前記静翼の中空部を流通した後の加熱流体の温度とを計測する温度計測手段を備えることがより望ましい。
本発明の蒸気タービンシステムは、静翼及び動翼を有し、供給される蒸気によって軸線回りに回転する蒸気タービンと、前記蒸気タービンから抽気された蒸気が流通する蒸気ラインと、中空構造の静翼の中空部と前記蒸気タービンの外部との間で加熱流体を循環させ、前記静翼を加熱するための静翼加熱ラインと、前記蒸気ラインを流通する蒸気と前記静翼加熱ラインを流通する加熱流体とを熱交換させることで前記加熱流体を加熱する熱交換手段とを備え、前記静翼に供給される前の加熱流体の温度と、前記静翼の中空部を流通した後の加熱流体の温度とを計測する温度計測手段を備えていてもよい。
また、本発明の蒸気タービンシステムにおいては、前記温度計測手段の計測結果に基づいて前記加熱流体の前記静翼の中空部への供給量を制御する制御手段を備えてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の蒸気タービンシステムにおいては、蒸気タービンから抽気された蒸気の熱を利用して水などの加熱流体を加熱し、この加熱流体を静翼内に流通させることにより、静翼の外面に付着する水滴などの水分を加熱除去することができる。これにより、湿りの発生によるエネルギー損失や動翼の損傷を低減、防止することができる。また、タービンの熱段落で得られるエネルギーを増大させることができ、タービン効率の向上を図ることも可能になる。
【0019】
さらに、蒸気タービンから抽気する蒸気として、従来回収されていなかったタービン軸端の蒸気(シール蒸気)を利用すれば、蒸気タービンシステムの熱効率を高めつつ静翼の表面に付着する水分を除去することが可能になる。
【0020】
また、例えば、グランドシール蒸気系統(グランドシール蒸気ライン)に加熱流体用の熱交換器を設け、グランドシール蒸気系統を流通する蒸気の熱で加熱流体を加熱するように構成するなどすれば、グランドシール蒸気系統と静翼加熱系統(静翼加熱ライン)を別系統にすることができる。これにより、故障などの何らかの要因で加熱流体の供給を停止することが必要になった場合であっても、タービン軸端への蒸気の供給を停止する必要がない。さらに、タービン軸端への蒸気の供給に静翼加熱が全く影響しないため、従来のように静翼を加熱することでシール蒸気が足りなくなり、タービン軸端からの蒸気漏れが発生するおそれを解消することができる。
【0021】
さらに、グランドシール蒸気系統に加熱流体用の熱交換器を設け、グランドシール蒸気系統を流通する蒸気の熱で加熱流体を加熱するようにすれば、軸端に供給する蒸気の熱を従来よりも下げることができる。これにより、軸端への蒸気の熱によるロータの熱変形を防止することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係る蒸気タービンシステムの一例を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る蒸気タービンの一例を示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る蒸気タービンの静翼及び動翼等を拡大した断面図である。
図4】本発明の一実施形態に係る蒸気タービンの静翼の断面図である。
図5】本発明の一実施形態に係る蒸気タービンシステムの変更例を示す図である。
図6】本発明の一実施形態に係る蒸気タービンシステムの変更例を示す図である。
図7】本発明の一実施形態に係る蒸気タービンシステムの変更例を示す図である。
図8】本発明の一実施形態に係る蒸気タービンシステムの変更例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図1から図8を参照し、本発明の一実施形態に係る蒸気タービンシステムについて説明する。ここで、本実施形態では、本発明に係る蒸気タービンシステムが例えば発電プラントなどであるものとして説明を行う。
【0024】
本実施形態の蒸気タービンシステムAは、図1及び図2に示すように、例えば、ボイラ(不図示)と、ボイラからの蒸気(主蒸気)P1で駆動する蒸気タービン(高圧蒸気タービン1a、中圧蒸気タービン1b、低圧蒸気タービン1c)1と、各蒸気タービン1の駆動に従動して発電する発電機(不図示)と、低圧蒸気タービン1cや中圧蒸気タービン1bから排出された蒸気を水に戻してボイラに供給するための復水器(不図示)と、これら各機器を制御する制御装置(不図示)とを備えている。
【0025】
蒸気タービン1は、図2及び図3に示すように、ロータ2とステータ3とを備えて構成されている。
【0026】
ロータ2は、軸線O1方向に軸状に並設された複数のロータディスク4と、各ロータディスク4の外周から軸線O1中心の径方向外側に突出して放射状に配設された複数の動翼5とを備えている。
【0027】
ステータ3は、ロータ2を囲繞するように配設され、蒸気タービン1の内部を外部から区画するケーシング本体6及びケーシング本体6の内周部に支持されて一体に設けられた翼環(外環)7からなるケーシング8と、翼環7から径方向内側に突出して放射状に配設されるとともに軸線O1方向(蒸気P1の流通方向)に所定の間隔をあけて配設された複数の静翼10とを備えている。
【0028】
また、一つのロータディスク4に設けられ、周方向に並ぶ複数の動翼5が環状動翼群を構成し、周方向に並ぶ複数の静翼10が環状静翼群を構成する。そして、一つのロータディスク4の複数の動翼5の一つの環状動翼群とこの環状動翼群の蒸気流通方向上流側に隣接する一つの環状静翼群で一つの「段」が構成され、蒸気タービン1には、多数段の動翼5、静翼10が設けられている。さらに、複数の段は、動翼5及び静翼10の翼高さ(ロータ2に略直交する方向の翼の長さ)が蒸気P1の流通方向上流側から下流側に向かうに従い大きくなるように構成されている。
【0029】
翼環7は、ケーシング本体6の内周部に一体に設けられるとともに円周方向に延びて環状に配設されている。
【0030】
静翼10は、径方向外側に設けられ、翼環7に静翼10の基端部を溶接などして接続するための外側シュラウド11と、外側シュラウド11からロータ2に向かう径方向内側に延びる静翼本体12と、静翼本体12の径方向内側(ロータ2側)に一体に設けられた内側シュラウド18とを備えて形成されている。
【0031】
静翼本体12は、図3及び図4に示すように、腹側を構成する腹側部材13と、背側を構成する背側部材14とを備えて形成されている。また、腹側部材13と背側部材14はそれぞれ金属製の板状部材を互いに異なる反り方で湾曲させたものであり、腹側部材13は、その外面/表面が静翼10の腹面となるよう反り加工し、背側部材14は、その外面/表面が静翼10の背面となるよう反り加工して形成されている。
【0032】
静翼本体12は、腹側部材13と背側部材14をそれぞれ静翼10の腹側部15と背側部16を構成するように組み付け、静翼10の前縁部10aと後縁部10bで腹側部材13と背側部材14の端部同士を溶接するなどして形成されている。これにより、静翼10は、その内部(腹側部材13の内面/裏面と背側部材14の内面/裏面の間)に、翼高さ方向に沿って延びる中空部17を備えている。
【0033】
さらに、本実施形態の蒸気タービンシステムAにおいては、図1及び図3に示すように、例えば低圧蒸気タービン1cの静翼10、さらに低圧蒸気タービン1cの下流側の静翼10など、蒸気P1の温度や圧力の低下に伴い蒸気流路R内で湿りが発生し得る部分の静翼10(静翼本体12)に、ケーシング8の外部から静翼10の外側シュラウド11を貫通して静翼本体12の中空部17に達し、内側シュラウド18側から中空部17を通じて外側シュラウド11を貫通しケーシング8の外部に延びる静翼加熱ライン20が具備されている。
【0034】
さらに、高圧蒸気タービン1a、低圧蒸気タービン1cの蒸気流通方向下流側の軸端から抽出した蒸気P2を低圧蒸気タービン1cの蒸気流通方向上流側の軸端に供給し、軸端でのリーク蒸気の発生、外部空気のタービン内への侵入を防止するためのグランドシール蒸気ライン(グランドシール蒸気系統、蒸気ライン)21が設けられている。
【0035】
そして、本実施形態の蒸気タービンシステムAにおいては、グランドシール蒸気ライン21に加熱流体用の熱交換器(熱交換手段)22が設けられ、この加熱流体用の熱交換器22に静翼加熱ライン20が接続されている。これにより、ポンプの駆動によって、静翼10の中空部17に加熱流体用の熱交換器22で加熱した加熱流体P3が供給され、中空部17から加熱流体用の熱交換器22に返送され、順次加熱流体P3が熱交換器22と静翼10の中空部17の間で循環する。
【0036】
したがって、本実施形態の蒸気タービンシステムAにおいては、蒸気タービン1から抽気された蒸気P2の熱を利用して水などの加熱流体P3を加熱し、この加熱流体P3を静翼10内に流通させることにより、静翼10の外面に付着する水滴などの水分を加熱除去することができる。これにより、湿りの発生によるエネルギー損失や動翼の損傷を低減、防止することができる。また、タービン1の熱段落で得られるエネルギーを増大させることができ、タービン効率の向上を図ることも可能になる。
【0037】
さらに、蒸気タービン1から抽気する蒸気P2として、従来回収されていなかったタービン軸端の蒸気(シール蒸気)P2の熱エネルギーを利用することで、蒸気タービンシステムAの熱効率を高めつつ静翼10の表面に付着する水分を除去することが可能になる。
【0038】
また、グランドシール蒸気ライン21に加熱流体用の熱交換器22を設け、グランドシール蒸気ライン21を流通する蒸気P2の熱で加熱流体P3を加熱するように構成したことで、グランドシール蒸気ライン21と静翼加熱ライン20を別系統にすることができる。これにより、故障などの何らかの要因で加熱流体P3の供給を停止することが必要になった場合であっても、タービン軸端への蒸気P2の供給を停止する必要がない。さらに、タービン軸端への蒸気P2の供給に静翼加熱が全く影響しないため、従来のように静翼10を加熱することでシール蒸気P2が足りなくなり、タービン軸端からの蒸気漏れが発生するおそれを解消することができる。
【0039】
さらに、グランドシール蒸気ライン21に加熱流体用の熱交換器22を設け、グランドシール蒸気ライン21を流通する蒸気P2の熱で加熱流体を加熱するようにしたことで、軸端に供給する蒸気P2の熱を従来よりも下げることができる。これにより、軸端への蒸気P2の熱によるロータ2の熱変形を防止することもできる。
【0040】
以上、本発明に係る蒸気タービンシステムの一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0041】
例えば、加熱流体を熱交換器22で加熱するための蒸気P2は、特に限定する必要はなく、図5に示すように、中圧蒸気タービン1bのシール蒸気P2であってもよい。また、図6に示すように低圧蒸気タービン1cの流通方向上流側の蒸気P2を抽出し、加熱用の蒸気に利用してもよい。勿論、図7に示すように、中圧蒸気タービン1bの蒸気P2、低圧蒸気タービン1cの上流側の蒸気P2を併用してもよい。
【0042】
また、図8に示すように、静翼10の中空部17に供給する加熱流体P3の温度、静翼10の中空部17から排出された加熱流体P3の温度、熱交換器22によって加熱流体P3を加熱した後のシール蒸気P2の温度などを温度センサ(温度計測手段)24で計測し、この計測結果に基づいて加熱流体P3の静翼10への供給量を制御するように構成してもよい。
【0043】
この場合には、静翼10の中空部17に供給する加熱流体P3の温度、静翼10の中空部17から排出された加熱流体P3の温度を計測することで、静翼10の加熱効率/加熱状態を確認することができる。これにより、温度が高すぎて静翼10などに熱変形が生じたり、温度が低すぎて静翼10の表面の水分を十分に除去できないなどの不都合が生じることを防止できる。また、熱交換器22によって加熱流体P3を加熱した後のシール蒸気P2の温度を計測することで、ロータ2の熱変形などの不都合が生じないようにシール蒸気P2を供給することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 蒸気タービン
1a 高圧蒸気タービン
1b 中圧蒸気タービン
1c 低圧蒸気タービン
2 ロータ
3 ステータ
4 ロータディスク
5 動翼
7 翼環(外環)
8 ケーシング
10 静翼
10a 前縁部
10b 後縁部
11 外側シュラウド
12 静翼本体
13 腹側部材
14 背側部材
15 腹側部
16 背側部
17 中空部
18 内側シュラウド
20 静翼加熱ライン(静翼加熱系統)
21 グランドシール蒸気ライン(蒸気ライン、グランドシール蒸気系統)
22 熱交換器(熱交換手段)
24 温度センサ(温度計測手段)
A 蒸気タービンシステム
O1 軸線
P1 主蒸気
P2 シール蒸気
P3 加熱用流体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8