特許第6826504号(P6826504)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6826504プレキャストコンクリート柱における避雷導体の接続構造及び接続方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6826504
(24)【登録日】2021年1月19日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】プレキャストコンクリート柱における避雷導体の接続構造及び接続方法
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/14 20060101AFI20210121BHJP
   E04B 1/21 20060101ALI20210121BHJP
   E04B 1/92 20060101ALI20210121BHJP
   H02G 13/00 20060101ALI20210121BHJP
【FI】
   E04H9/14 D
   E04B1/21 C
   E04B1/92
   H02G13/00
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-135367(P2017-135367)
(22)【出願日】2017年7月11日
(65)【公開番号】特開2019-15153(P2019-15153A)
(43)【公開日】2019年1月31日
【審査請求日】2019年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124316
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】高谷 真次
【審査官】 河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−266437(JP,A)
【文献】 特開2015−137518(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0205133(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/14
E04B 1/21
E04B 1/92
H02G 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上階のプレキャストコンクリート柱と下階のプレキャストコンクリート柱のそれぞれの内部に上側避雷導体と下側避雷導体が埋設され、前記下側避雷導体の上部と前記上側避雷導体の下部の少なくともいずれか一方が、それを埋設した一方の前記プレキャストコンクリート柱から突出し、この突出した前記下側避雷導体と前記上側避雷導体の少なくともいずれか前記一方をその突出した側に位置する他方の前記プレキャストコンクリート柱内の前記上側避雷導体と前記下側避雷導体の少なくともいずれか他方に接続するプレキャストコンクリート柱における避雷導体の接続構造であり、
前記他方のプレキャストコンクリート柱中の、軸方向の端面以外の側面に露出しない位置に、前記上側避雷導体と前記下側避雷導体の少なくともいずれか前記他方が接続されながら、その避雷導体の反対側の端部が開放した導体のスリーブが埋設され、
このスリーブの前記開放した端部以外の外側部分に、そのスリーブを埋設した側の前記他方のプレキャストコンクリート柱の内部に埋設された前記上側避雷導体と前記下側避雷導体の少なくともいずれか前記他方が接続され、
前記スリーブの内部に、少なくとも一部において前記スリーブの内部に固定された状態で導体材が配置され、前記一方のプレキャストコンクリート柱から突出した前記下側避雷導体と前記上側避雷導体の少なくともいずれか前記一方が前記スリーブ内に挿入され前記導体材に接触し
前記上階のプレキャストコンクリート柱の下端面と前記下階のプレキャストコンクリート柱の上端面との間に充填材が充填されていることを特徴とするプレキャストコンクリート柱における避雷導体の接続構造。
【請求項2】
前記導体材は弾性変形可能な弾性体であり、前記一方のプレキャストコンクリート柱から突出した前記下側避雷導体と前記上側避雷導体の少なくともいずれか前記一方が前記スリーブ内に挿入されたとき、前記導体材は前記下側避雷導体と前記上側避雷導体の少なくともいずれか前記一方に接触したまま弾性変形することを特徴とする請求項1に記載のプレキャストコンクリート柱における避雷導体の接続構造。
【請求項3】
前記スリーブと、このスリーブ内に挿入される前記下側避雷導体と前記上側避雷導体の少なくともいずれか一方は同軸上に配置されていることを特徴とする請求項1、もしくは請求項2に記載のプレキャストコンクリート柱における避雷導体の接続構造。
【請求項4】
上階のプレキャストコンクリート柱と下階のプレキャストコンクリート柱のそれぞれの内部に上側避雷導体と下側避雷導体が埋設され、前記下側避雷導体の上部と前記上側避雷導体の下部の少なくともいずれか一方が、それを埋設した一方の前記プレキャストコンクリート柱から突出し、この突出した前記下側避雷導体と前記上側避雷導体の少なくともいずれか前記一方をその突出した側に位置する他方の前記プレキャストコンクリート柱内の前記上側避雷導体と前記下側避雷導体の少なくともいずれか他方に接続するプレキャストコンクリート柱における避雷導体の接続方法であり、
前記他方のプレキャストコンクリート柱中の、軸方向の端面以外の側面に露出しない位置に、前記上側避雷導体と前記下側避雷導体の少なくともいずれか前記他方が接続されながら、その避雷導体の反対側の端部が開放した導体のスリーブを埋設し、
このスリーブの前記開放した端部以外の外側部分に、そのスリーブを埋設した側の前記他方のプレキャストコンクリート柱の内部に埋設された前記上側避雷導体と前記下側避雷導体の少なくともいずれか前記他方を接続し、
前記スリーブの内部に、少なくとも一部において前記スリーブの内部に固定された状態で導体材を配置しておき、前記一方のプレキャストコンクリート柱から突出した前記下側避雷導体と前記上側避雷導体の少なくともいずれか前記一方を前記スリーブ内に挿入し前記導体材に接触させ
前記上階のプレキャストコンクリート柱の下端面と前記下階のプレキャストコンクリート柱の上端面との間に充填材を充填することを特徴とするプレキャストコンクリート柱における避雷導体の接続方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプレキャストコンクリート柱(PC柱)を用いた建築物において、屋上に設置された避雷針を接地させるために上下に隣接する柱内に埋設された避雷導体を互いに接続したプレキャストコンクリート柱における避雷導体の接続構造、及びその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
屋上階の避雷針を接地させる目的で、屋上階で避雷針に接続された最上階の避雷導体に、各階のPC柱内に埋設される避雷導体を接続する場合、上下に隣接するPC柱の接合部においてPC柱同士を接合するときに各PC柱内の避雷導体を接続することが必要になる(特許文献1、2参照)。
【0003】
PC柱内の避雷導体を互いに接続する方法として主に、一端においてコンクリート中の柱主筋に接続され、他端がPC柱の端面から露出、または突出する接続金物を柱主筋の接続部分とは別の位置で互いに接続する、または接触させる方法(特許文献1)と、PC柱内に主筋と平行に埋設した導電体をPC柱の端部位置で互いに接続する方法(特許文献2)が挙げられる。
【0004】
前者は上階側のPC柱の落とし込み時に下階側のPC柱の上端面から突出している接続金物に上階側のPC柱に埋設された接続金物を接触させる方法であるが、両接続金物の接触部分は主筋同士を接続するための、グラウト材が充填されるスリーブ内の空間に連通しているため、結果的に両接続金物の接触部分の回りにもグラウト材を充填することが必要になる。この接続金物の回りに充填されるグラウト材は接続金物を被覆し、外気(暴露)から保護する意味がある。PC柱の軸方向の端面に接続金物が露出している例(図2)においても、接続金物を外気から保護するために接続金物の周囲にグラウト材を充填し、接続金物を被覆することが必要である。
【0005】
後者の導電体はPC柱の軸方向の端面には露出せず、PC柱の側面に形成された切欠きに露出しているため、後者の方法ではPC柱同士の接合のみでは導電体同士を接続することができない。この場合、PC柱の側面から両導電体間に金属板を跨設することにより導電体同士を接続することになるが、金属板を露出させたままにはできないため、切欠き内に金属板を埋めるためのグラウト材を充填することが必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−227199号公報(段落0018〜0033、図1図2
【特許文献2】特開2010−174590号公報(段落0026〜0032、図6図9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このようにいずれの方法でも上階側のPC柱を下階のPC柱上に落とし込むだけでは避雷導体(接続金物)を互いに接続しながら外気から保護する状態にすることはできず、少なくともグラウト材の充填作業が不可欠であるため、作業数が多く、作業効率が低い。
【0008】
本発明は上記背景より、上階側のPC柱の落とし込みのみにより避雷導体同士の接続と外気からの保護が行え、グラウト材の充填を不要にするプレキャストコンクリート柱における避雷導体の接続構造及び接続方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明のプレキャストコンクリート柱における避雷導体の接続構造は、上階のプレキャストコンクリート柱と下階のプレキャストコンクリート柱のそれぞれの内部に上側避雷導体と下側避雷導体が埋設され、前記下側避雷導体の上部と前記上側避雷導体の下部の少なくともいずれか一方が、それを埋設した一方の前記プレキャストコンクリート柱から突出し、この突出した前記下側避雷導体と前記上側避雷導体の少なくともいずれか前記一方をその突出した側に位置する他方の前記プレキャストコンクリート柱内の前記上側避雷導体と前記下側避雷導体の少なくともいずれか他方に接続するプレキャストコンクリート柱における避雷導体の接続構造であり、
前記他方のプレキャストコンクリート柱中の、軸方向の端面以外の側面に露出しない位置に、前記上側避雷導体と前記下側避雷導体の少なくともいずれか前記他方が接続されながら、その避雷導体の反対側の端部が開放した導体のスリーブが埋設され、
このスリーブの前記開放した端部以外の外側部分に、そのスリーブを埋設した側の前記他方のプレキャストコンクリート柱の内部に埋設された前記上側避雷導体と前記下側避雷導体の少なくともいずれか前記他方が接続され、
前記スリーブの内部に、少なくとも一部において前記スリーブの内部に固定された状態で導体材が配置され、前記一方のプレキャストコンクリート柱から突出した前記下側避雷導体と前記上側避雷導体の少なくともいずれか前記一方が前記スリーブ内に挿入され前記導体材に接触し
前記上階のプレキャストコンクリート柱の下端面と前記下階のプレキャストコンクリート柱の上端面との間に充填材が充填されていることを構成要件とする。
【0010】
「下側避雷導体の上部と上側避雷導体の下部の少なくともいずれか一方が、それを埋設した一方のプレキャストコンクリート柱から突出し」とは、図1に示すように下側避雷導体4の上部が下階のプレキャストコンクリート柱(以下、本項目中、PC柱)2の上端面2aから突出する場合と、図2に示すように上側避雷導体3の下部が上階のプレキャストコンクリート柱(以下、本項目中、PC柱)1の下端面1aから突出する場合と、図3に示すように両避雷導体4、3がそれぞれを埋設したPC柱2、1から突出する場合があることを言う。
【0011】
図3はPC柱1、2の材軸に直交する断面上(平面上)、下階のPC柱2と上階のPC柱1の互いに異なる位置からそれぞれ下側避雷導体4と上側避雷導体3を突出させ、各避雷導体4、3をその突出した側のPC柱1、2内に埋設されたスリーブ5、5内に挿入させた場合の例を示す。突出する下側避雷導体4と上側避雷導体3の平面上の位置が相違することに対応し、各PC柱1、2に埋設されるスリーブ5、5の位置も相違する。突出した下側避雷導体4は上階のPC柱1のスリーブ5内の導体材6に接触し、突出した上側避雷導体3は下階のPC柱2のスリーブ5内の導体材6に接触する。
【0013】
避雷導体4、3は各PC柱2(1)内に配筋される主筋を兼ねない場合と、主筋を兼ねる場合がある。前者の場合、避雷導体4、3は主筋と干渉しない領域に、主筋とは別に埋設される。前者の場合、PC柱2、1軸方向の、避雷導体4、3間での引張力伝達の必要はないため、スリーブ5内へのモルタル等の充填の必要性はないが、後者の場合には主筋として機能する避雷導体4、3間で引張力を伝達させる必要があるため、スリーブ5内にモルタル等を充填する等の作業が必要になることもある。
【0014】
避雷導体4(3)が突出した側に位置する他方のPC柱1(2)の内部にスリーブ5が埋設され、スリーブ5の開放した端部(端面)が他方のPC柱1(2)の下端面1a、または上端面2aに面する。スリーブ5の、開放した端部の反対側の端部等、開放した端部以外の部分には、スリーブ5を埋設した他方のPC柱1(2)の内部に埋設された他方の避雷導体3(4)が溶接等により導通可能に接続されている。
【0015】
スリーブ5が図1に示すように上階のPC柱1に埋設される場合、スリーブ5はPC柱1の下端部に埋設され、スリーブ5の下端部がPC柱1の下端面1aに位置する。図2に示すようにスリーブ5が下階のPC柱2に埋設される場合、スリーブ5はPC柱2の上端部に埋設され、スリーブ5の上端部がPC柱2の上端面2aに位置する。スリーブ5の開放した下端面、または上端面はPC柱1、2の下端面1a、または上端面2aに合致している(面一である)必要はない。
【0016】
但し、スリーブ5は両PC柱1、2の接合後にスリーブ5の内部に挿入される避雷導体4(3)を外気から保護する役目を果たすため、上階のPC柱1の下階のPC柱2への接合状態では、後述の充填材の存在によりスリーブ5の内部は外気から遮断された状態になる。
【0017】
上階のPC柱1は下階のPC柱2に直接、接合される場合と、図示するようにスラブ7を挟んで接合される場合があるが、直接、接合される場合とスラブ7を挟んで接合される場合のいずれも、PC柱1の下端面1aとPC柱2の上端面2a間には図示しないレベル調整用のモルタル等の充填材が充填されるため、この充填材がスリーブ5の内部を外気から遮断する。充填材は基本的(避雷導体4、3が主筋を兼ねない場合)にはスリーブ5の開放した端面(開口部)をその周囲の空間から閉塞(遮断)すればよく、スリーブ5の内部に充填される必要はないため、両PC柱1、2の接合後の充填材の充填作業は発生しない。避雷導体4、3が主筋を兼ねる場合には、上記のようにスリーブ5内への充填材の充填を要することもある。
【0018】
スリーブ5の開放した端部(端面)からは、一方のPC柱2(1)から突出した一方の避雷導体4(3)が挿入され、スリーブ5の内部に配置された導体材6に接触することで、他方の避雷導体3(4)と一方の避雷導体4(3)が、すなわち上階のPC柱1内の上側避雷導体3と下階のPC柱2内の下側避雷導体4が導体のスリーブ5を通じて導通可能な状態になる。上側避雷導体3と下側避雷導体4、及びスリーブ5と導体材6には導体として銅、アルミニウム等が使用されるが、材料は問われない。
【0019】
導体材6は少なくとも一部においてスリーブ5内で移動しない固定状態に配置され、スリーブ5への固定部分以外の部分は例えば固定部分に対して弾性変形可能な状態にある。導体材6は弾性変形可能でない場合もあるが、その場合、図4に示すようにスリーブ5内に挿入される一方の避雷導体4(3)の一部がスリーブ5内で弾性変形可能であることもある。
【0020】
以上のように導体であるスリーブ5の開放した端部からスリーブ5内に一方の避雷導体4(3)を挿入するだけで、一方の避雷導体4(3)がスリーブ5内の導体材6に接触し、他方の避雷導体3(4)と一方の避雷導体4(3)が間接的に接続されて導通可能になるため、上階のPC柱1内の上側避雷導体3と下階のPC柱2内の下側避雷導体4の個別の接続作業が不要になる。「スリーブ5内に一方の避雷導体4(3)を挿入すること」は、上階のPC柱1を下階のPC柱2上に落とし込むことにより行われるため、上階のPC柱1を下階のPC柱2の上端面2a上に単に設置するだけで両避雷導体3、4が接続された状態になる。
【0021】
またスリーブ5の端部が、その内部に挿入される一方の避雷導体4(3)を、両PC柱1、2間に充填される充填材により外気から遮断することで、スリーブ5内への充填材の充填作業が生じないため、各PC柱1、2内の避雷導体3、4を互いに接続しながら、外気から保護するための作業数が削減され、作業効率が向上する。
【0022】
スリーブ5内の導体材6に一方の避雷導体4(3)が接触することは、具体的には導体材6が弾性変形可能な弾性体であることにより(請求項2)、または一方の避雷導体4(3)がスリーブ5と同軸上に配置されることにより(請求項3)可能になる。
【0023】
導体材6が弾性変形可能な弾性体である場合、例えば導体材6は、一方のプレキャストコンクリート柱2(1)から突出した下側避雷導体4と上側避雷導体3の少なくともいずれか一方がスリーブ5内に挿入されたとき、下側避雷導体4と上側避雷導体3の少なくともいずれか一方に接触したまま弾性変形する(請求項2)。導体材6が弾性変形することで、その復元力が常に一方の避雷導体4(3)に作用するため、接触状態が維持され易く、導通状態の安定性が高まる。
【0024】
この場合、導体材6はスリーブ5を軸方向に見たときの、スリーブ5の中心(軸)側へスリーブ5の内周面から張り出し、周囲においてスリーブ5の内周面に溶接、接着等により固定され、固定部分以外の部分が固定部分に対して弾性変形する。「スリーブ5の内周面」はスリーブ5の軸方向を向いた下面、もしくは上面以外の、周回する面を指す。
【0025】
スリーブ5を軸方向に見たとき、導体材6は下側避雷導体4と上側避雷導体3の少なくともいずれか一方が重なる位置まで張り出すか、重なる大きさを持つ。この場合、導体材6はスリーブ5内に挿入された下側避雷導体4、または上側避雷導体3がその軸方向に突き当たることにより容易に弾性変形可能な柔軟性を持つ。下側避雷導体4、または上側避雷導体3は導体材6に接触した状態を維持できればよいため、必ずしも直線状態を維持する必要はなく、弾性変形して湾曲することもある。スリーブ5の内周面から張り出す導体材6の枚数は任意であり、1枚の場合と複数枚の場合がある。
【0026】
一方の避雷導体4(3)がスリーブ5と同軸上に配置されること(請求項3)は、避雷導体4(3)の軸心とスリーブ5の軸心が実質的に同一線上に位置することを言う。避雷導体4(3)がスリーブ5と同軸上に配置されることで、下階のPC柱2に上階のPC柱1を突き合わせて接合しようとするときに、設計上、避雷導体4(3)の軸心がスリーブ5の軸心に一致する。従ってスリーブ5内の予め決められた位置に導体材6を固定しておけば、導体材6に避雷導体4(3)を接触させ易くなる。
【0027】
この他、図4に示すように例えば複数枚、または複数本の導体材6がスリーブ5内周の軸方向を向いた下面、もしくは上面に並列して固定されているような場合で、スリーブ5内に入り込む避雷導体4(3)の区間がスリーブ5の軸方向長さより幾らか大きい場合には、避雷導体4(3)がスリーブ5内に納まったときに避雷導体4(3)をスリーブ5内の下面、もしくは上面に突き当てて弾性変形させることができるため、いずれかの導体材6に避雷導体4(3)を接触させ易くなる意味もある。
【0028】
一方のPC柱2(1)に対し、他方のPC柱1(2)を接続する手順は接続方法の発明となる(請求項4)。具体的には他方のPC柱1(2)中の、軸方向の端面以外の側面に露出しない位置に、上側避雷導体3と下側避雷導体4の少なくともいずれか他方が接続されながら、その避雷導体3(4)の反対側の端部が開放した導体のスリーブ5を埋設し、このスリーブ5の開放した端部以外の外側部分に、そのスリーブ5を埋設した側の他方のプレキャストコンクリート柱1(2)の内部に埋設された上側避雷導体3と下側避雷導体4の少なくともいずれか他方を接続し、スリーブ5の内部に、少なくとも一部においてスリーブ5の内部に固定された状態で導体材6を配置しておき、一方のPC柱柱2(1)から突出した下側避雷導体4と上側避雷導体3の少なくともいずれか一方をスリーブ5内に挿入し、導体材6に接触させ、上階のプレキャストコンクリート柱1の下端面1aと下階のプレキャストコンクリート柱2の上端面2aとの間に充填材を充填することにより一方のPC柱2(1)への他方のPC柱1(2)の接合と同時に、両避雷導体3、4の接続が行われる。
【発明の効果】
【0029】
導体のスリーブの開放した端部からスリーブ内に一方の避雷導体を挿入するだけで、一方の避雷導体がスリーブ内の導体材に接触し、他方の避雷導体と一方の避雷導体が導通可能になるため、上階のPC柱内の上側避雷導体と下階のPC柱内の下側避雷導体の個別の接続作業を不要にすることができる。
【0030】
またスリーブの端部が、内部に挿入される一方の避雷導体を、両PC柱間に充填される充填材により外気から遮断することで、PC柱接合後のスリーブ5内への充填材の充填作業を不要にするため、各PC柱内の避雷導体を接続しながら保護するための作業数が削減され、作業効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】(a)はスリーブを上階のPC柱に埋設した場合に、スラブを挟んで下階のPC柱上に上階のPC柱を建て込むときの様子を示した縦断面図、(b)はスラブを挟んで下階のPC柱に上階のPC柱を接合したときの様子を示した縦断面図である。
図2】(a)はスリーブを下階のPC柱に埋設した場合に、スラブを挟んで下階のPC柱上に上階のPC柱を建て込むときの様子を示した縦断面図、(b)はスラブを挟んで下階のPC柱に上階のPC柱を接合したときの様子を示した縦断面図である。
図3】対になる一組の下階のPC柱と上階のPC柱間において、下階のPC柱から突出する下側避雷導体を上階のPC柱に埋設されたスリーブ内の導体材に接触させ、上階のPC柱から突出する上側避雷導体を下階のPC柱に埋設されたスリーブ内の導体材に接触させた場合のPC柱の組み合わせ例を示した縦断面図である。
図4】下階のPC柱から突出した下側避雷導体をスリーブ内で湾曲させて導体材に接触させた場合の例を示した縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1は内部に上側避雷導体3と下側避雷導体4がそれぞれ埋設され上階のプレキャストコンクリート柱(以下、PC柱)1と下階のプレキャストコンクリート柱(以下、PC柱)2を互いに接合することにより上側避雷導体3と下側避雷導体4を互いに接続した接続構造の具体例を示す。
【0033】
下側避雷導体4の上部と上側避雷導体3の下部の少なくともいずれか一方は、それを埋設した一方のPC柱2(1)から突出し、この突出した少なくともいずれか一方の避雷導体4(3)が、その突出した側に位置する他方のPC柱1(2)内の少なくともいずれか他方の避雷導体3(4)にスリーブ5を介して接続される。
【0034】
図面ではPC柱1、2と避雷導体3、4、及びスリーブ5を概略的に示しているが、スリーブ5は実際には例えばPC柱1、2内に配筋される図示しない主筋を接続するための継手用のスリーブより細く、継手用のスリーブのPC柱1、2への埋設に影響する程の太さはない。スリーブ5は外気から保護されるよう、他方のPC柱1(2)の、軸方向の端面を除く側面に露出しない位置に埋設される。PC柱1、2内の避雷導体3、4は各PC柱1、2の主筋を兼ねる働きを持つこともある。
【0035】
上記の他方の避雷導体3(4))を埋設した他方のPC柱1(2)中に、上側避雷導体3と下側避雷導体4の少なくともいずれか他方(他方の避雷導体3(4))が接続されながら、その他方の避雷導体3(4)の反対側の端部(端面)が開放した導体のスリーブ5が埋設されている。スリーブ5の内部に少なくとも一部において固定された状態で導体材6が配置されている。スリーブ5内には一方のプレキャストコンクリート柱2(1)から突出した上記の一方の避雷導体4(3)が挿入され、導体材6に接触する。
【0036】
図1は下側避雷導体4の上部が、それを埋設した下階のPC柱2の上端面2aから上階のPC柱1側へ突出し、上階のPC柱1の下端部内にスリーブ5が埋設された場合の例を示す。図1はまた、導体材6が弾性変形可能な弾性体である場合の例でもある。この例では下階のPC柱2から突出した下側避雷導体4がスリーブ5内に挿入されたとき、導体材6は下側避雷導体4に接触したまま弾性変形する。
【0037】
図2は上側避雷導体3の下部が、それを埋設した上階のPC柱1の下端面1aから下階のPC柱2側へ突出し、下階のPC柱2の上端部内にスリーブ5が埋設された場合の例を示す。図2も導体材6が弾性変形可能な弾性体である場合の例を示している。この例でも上階のPC柱1から突出した上側避雷導体3がスリーブ5内に挿入されたとき、導体材6は上側避雷導体3に接触したまま弾性変形する。
【0038】
スリーブ5の、一方のPC柱2(1)から突出した一方の避雷導体4(3)側の端部はその一方の避雷導体4(3)が挿入可能なように開放し、内部は中空になっている。上階のPC柱1内に埋設されたスリーブ5は図1に示すように下端側が開放し、下階のPC柱2内に埋設されたスリーブ5は図2に示すように上端側が開放する。
【0039】
スリーブ5が上階のPC柱1に埋設された図1に示す例の場合、スリーブ5の開放した端面側の端部はそれを埋設した上階のPC柱1の下端面1aに揃えられるか、それに近い状態でPC柱1中に埋設される。
【0040】
上階のPC柱1が下階のPC柱2に直接、接合される場合も、図示するようにスラブ7を介して接合される場合も、両PC柱1、2の端面1a、2a間には図示しないレベル調整用のモルタル等の充填材が充填され、上階のPC柱1の落とし込み時に充填材がスリーブ5の周囲で均される。この結果、スリーブ5の内部が充填材の存在によりPC柱1、2の外部から遮断されるため、避雷導体3、4が各PC柱1、2の主筋を兼ねない場合には、スリーブ5内に挿入される一方の避雷導体4(3)と導体材6の保護のためにスリーブ5内に充填材を充填する必要性は生じない。
【0041】
導体材6は図1図2に示すようにスリーブ5内部の開放した端面の反対側の端面を除く内周面、または図4に示すようにその端面にスリーブ5側の一部において溶接等により固定される。
【0042】
図1図2では少なくとも2枚の導体材6、6が、スリーブ5の軸方向に段差が付いてスリーブ5の内周面に固定された場合の例を示しているが、スリーブ5に固定される導体材6の枚数は任意である。導体材6はスリーブ5の内周面側の周囲(外周)部分においてスリーブ5の内周面に溶接等により固定され、周囲以外の部分が弾性変形可能である場合には、周囲部分以外の部分が固定部分に対して弾性変形可能な状態になる。
【0043】
この場合、複数枚の導体材6、6の周囲(外周)部分の反対側の内周側の部分は、スリーブ5の軸方向に見たときの平面上、互いに重なり合い、その重なり合った部分に、スリーブ5内に挿入される一方の避雷導体4(3)が接触し、各図の(b)に示すように導体材6、6が弾性変形する。
【0044】
図3は対になる一組の下階のPC柱2と上階のPC柱1間において、下階のPC柱2の上端面2aから下側避雷導体4を突出させると共に、上階のPC柱1の下端面1aから上側避雷導体3を突出させ、それぞれの突出側のPC柱1、2内に埋設されたスリーブ5内の導体材6に下側避雷導体4と上側避雷導体3を接触させた場合の例を示し、図1に示す例と図2に示す例の組み合わせ例に相当する。
【0045】
図4はスリーブ5と、スリーブ5内に挿入される一方の避雷導体4(3)が実質的に同軸上に配置されている場合の例を示す。図4はまた、上記のようにスリーブ5内部の、開放した端面の反対側の端面に複数枚、または複数本の導体材6、6をスリーブ5の軸方向に向け、スリーブ5の軸方向に直交する方向(幅方向)に並列させて固定した場合の例を示している。
【0046】
この場合、スリーブ5内に挿入される一方の避雷導体4(3)は複数枚等の導体材6の内、いずれか2枚等の導体材6、6間に差し込まれ、そのまま少なくともいずれか一方の導体材6に接触する。
【0047】
または図4に示すようにスリーブ5内部の端面に一方の避雷導体4(3)の先端が接触(衝突)し、一方の避雷導体4(3)の先端側の部分が屈曲、または湾曲して少なくともいずれか一方の導体材6に接触する。図4は一方の避雷導体4(3)である下側避雷導体4の上端部が弾性変形して湾曲している状況を示している。
【符号の説明】
【0048】
1……上階のプレキャストコンクリート柱(PC柱)、1a……下端面、
2……下階のプレキャストコンクリート柱(PC柱)、2a……上端面、
3……上側避雷導体、
4……下側避雷導体、
5……スリーブ、
6……導体材、
7……スラブ。
図1
図2
図3
図4