【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明の鉄骨梁接合用仮支持部材は、鉄骨梁の端部に一体化した端部プレートをコンクリート部材の表面に接合するまでの間、前記コンクリート部材に表面側から仮接合され、前記端部プレートを支持する仮設の仮支持部材であり、
前記コンクリート部材の表面に重なり、前記コンクリート部材中に仮固定される仮固定具が貫通する平板と、この平板の表面に一体化し、前記端部プレートに鉛直方向下向きと水平方向にそれぞれ係止する鉛直係止部と水平係止部を備え、この鉛直係止部と水平係止部とで区画された一部の領域が前記端部プレートが重なる受け部となり、
前記受け部に、前記端部プレートに形成された、または形成される定着具挿通孔に重なる仮接合具挿通孔が形成され、前記受け部以外の領域に、前記仮固定具が挿通する仮固定具挿通孔が形成されていることを構成要件とする。
【0010】
鉄骨梁は表面が鉛直面等をなす柱、壁等の構造体の対向する表面間に架設され、軸方向の少なくとも一方の端部に端部プレートが一体化する。「端部プレートの一体化」は主に溶接による接合を言う。この鉄骨梁の少なくとも一方の端部に一体化した端部プレート側の構造体が鉄筋コンクリート造、またはプレキャストコンクリート製を含むコンクリート部材であり、端部プレートが一体化しない側の構造体は必ずしもコンクリート部材であるとは限らない。鉄骨梁7は少なくとも一方の端部に一体化する端部プレート8を含め、
図1に示すように対向する構造体間に納まりながら、鉄骨梁7の軸方向に自由な移動が制約された状態で、対向する構造体間に架設され、双方に接合される。
【0011】
仮支持部材1はコンクリート部材9が配置された側に配置され、そのコンクリート部材9には後述の仮固定具5により仮固定される。「コンクリート部材の表面」は主に鉛直面である。仮支持部材1はコンクリート部材9への端部プレート8の接合が完了し、その後の養生が済むまでコンクリート部材9に仮固定された状態を維持することで端部プレート8(鉄骨梁7)を支持し、養生後、回収される。
【0012】
鉄骨梁7は先行して使用状態にある構造体間に架設されることから、端部プレート8が一体化した側のコンクリート部材9の表面には予め端部プレート8を受けるためのアンカー孔やボルト挿通孔が形成されていない。このため、コンクリート部材9には
図2に示すように表面側から、端部プレート8をコンクリート部材9に接合するアンカー等の定着具10を定着させるための定着具定着孔9aを端部プレート8の接合前に形成することが必要になる。端部プレート8はコンクリート部材9への定着具定着孔9aの形成後にコンクリート部材9の表面側に配置される。
図2では定着具定着孔9aと端部プレート8の関係を示すために、便宜的に端部プレート8付きの鉄骨梁7を示しているが、定着具定着孔9aの形成時には鉄骨梁7は架設されていない。鉄骨梁7は上記した仮支持部材1の仮固定後に架設され、仮支持部材1に支持される(
図4、
図5)。
【0013】
一方、仮支持部材1は端部プレート8をコンクリート部材9への接合位置に位置決めしたまま、端部プレート8の接合完了まで支持し、コンクリート部材9表面の面内水平方向(鉄骨梁の幅方向)にも移動しないように保持する役目を果たすことが必要である。すなわち、仮支持部材1はコンクリート部材9への仮固定状態で、仮支持部材1の表面側に端部プレート8を配置し、端部プレート8を支持しながら、その面内水平方向にも端部プレート8を拘束できる形状である必要がある。
【0014】
この関係で、仮支持部材1は
図4−(a)に示すようにコンクリート部材9の表面に重なるプレート等の平板2と、平板2の表面に一体化し、端部プレート8が鉛直方向下向きに係止する鉛直係止部3と、端部プレート8が平板2表面の面内水平方向に係止する水平係止部4を構成要素として備える。「鉛直係止部3等の一体化」は主に溶接による接合を言う。鉛直係止部3と水平係止部4は平板2の表面全体を端部プレート8が重なる領域である受け部21とそれ以外の領域に区画する。端部プレート8は受け部21の表面にその厚さ方向に重なる。
【0015】
鉛直係止部3は端部プレート8(鉄骨梁7)の鉛直荷重を負担し、水平係止部4は端部プレート8の面内水平方向のいずれかの向きへの移動を拘束する。鉛直係止部3の、端部プレート8の係止面は実質的に水平面をなし、水平係止部4の係止面は実質的に鉛直面をなす。鉛直係止部3と水平係止部4は連続する場合と不連続の場合がある。
【0016】
1個(枚)の仮支持部材1の水平係止部4は面内水平方向のいずれかの向きへの、端部プレート8の移動を拘束するため、仮支持部材1は端部プレート8の面内水平方向のいずれの向きへの移動を拘束する上では、
図4−(a)に示すように1枚の端部プレート8に付き、2個で対になって使用される。端部プレート8は対になる2個の仮支持部材1、1の平板2、2に跨りながら、コンクリート部材9の表面に対向させられる。端部プレート8はコンクリート部材9の表面に重なって仮固定された仮支持部材1(平板2)の受け部21の表面に重なるため、端部プレート8のコンクリート部材9側の背面とコンクリート部材9の表面との間には
図4−(b)に示すように少なくとも仮支持部材1(平板2)の板厚分の空隙が確保される。
図4は仮支持部材1と端部プレート8の関係を示すために、仮支持部材1に端部プレート8が支持された状況を示している。
【0017】
端部プレート8は平板2の受け部21に重なり、端部プレート8の受け部21に重ならない領域がコンクリート部材9に接合されるまでの間、平板2に一時的に仮接合される。この端部プレート8の受け部21への仮接合のために、受け部21には
図4−(a)に示すように端部プレート8を仮接合するボルト等の仮接合具6が挿通する仮接合具挿通孔2aが形成される。
【0018】
仮接合具挿通孔2aに対応した端部プレート8の位置には、
図3に示すように最終的に端部プレート8をコンクリート部材9に固定するアンカー等の定着具10が挿通するための定着具挿通孔8aが形成され、仮接合具6は
図5に示すように定着具挿通孔8aと仮接合具挿通孔2aを挿通することにより端部プレート8を平板2に仮接合する(請求項4)。仮接合具6がボルトの場合、仮接合具6は仮接合具挿通孔2aに螺入する。定着具挿通孔8aには最終的に端部プレート8をコンクリート部材9に固定する定着具10が挿通するため、定着具挿通孔8aは平板2の仮接合具挿通孔2aの位置を含め、コンクリート部材9に穿設される後述の定着具定着孔9aに対応した位置に形成される。
【0019】
平板2の受け部21以外の領域には、平板2が端部プレート8を支持し、鉄骨梁7の自重をコンクリート部材9に伝達するために、
図4−(a)に示すように平板1をコンクリート部材9に仮固定するための仮設のアンカー等の仮固定具5が挿通する仮固定具挿通孔2bが形成される。図面では1枚の平板2に複数個の仮固定具挿通孔2bを形成しているが、仮固定具挿通孔2bの数は任意である。仮固定具挿通孔2bに対応した位置のコンクリート部材9にはボルト、またはアンカー等の仮固定具5が仮固定されるための仮固定具定着孔9bが穿設される。
【0020】
コンクリート部材9にはまた、端部プレート8をコンクリート部材9に接合する定着具10が定着されるための上記した定着具定着孔9aも穿設される。定着具定着孔9aは端部プレート8に形成された、または形成される定着具挿通孔8aに対応した位置に形成されるが、具体的には定着具挿通孔8aは後述のように定着具定着孔9aの実際の穿設位置に合わせ、工場等で形成(穿設)される。仮固定具5は端部プレート8のコンクリート部材9への接合後には仮支持部材1(平板2)と共に回収されることから、仮固定具定着孔9bからの離脱を容易にするために、図面では
図4〜
図6に示すように仮固定具5にボルトを使用している。この場合、仮固定具定着孔9bには図示しないが、ボルトが螺入する雌ねじスリーブ(雌ねじアンカー)が挿入(埋設)される。
【0021】
仮支持部材1は平板2の仮固定具挿通孔2bを挿通する仮固定具5がコンクリート部材9の仮固定具定着孔9bに埋設等により定着されることによりコンクリート部材9に仮固定される。仮支持部材1はこの状態で
図5−(a)に示すように平板2の鉛直係止部3上に端部プレート8が載置されることにより端部プレート8を支持する。仮支持部材1、1は前記のように2個で対になってコンクリート部材9に仮固定され、端部プレート8はこの2個の仮支持部材1、1の鉛直係止部3、3に支持される。端部プレート8は2個の仮支持部材1、1の平板2、2の水平係止部4、4に面内水平方向に係止することにより面内水平方向の移動に対して拘束される。
【0022】
鉄骨梁7が対向する構造体間に架設された状態では前記のように鉄骨梁7が軸方向に移動できる距離が制限されているため、端部プレート8(鉄骨梁7)がコンクリート部材9の表面から遠ざかる向きに移動できる距離も制限されている。従って端部プレート8が平板2の鉛直係止部3上に載置されたときに、端部プレート8のコンクリート部材9から遠ざかる向きへの移動可能距離より大きい幅を鉛直係止部3が持てば、鉛直係止部3が端部プレート8を支持した状態で鉄骨梁7が軸方向に移動しても端部プレート8が鉛直係止部3から離脱する可能性はないため、鉛直係止部3は端部プレート8の鉛直荷重を安全に負担し、コンクリート部材9に伝達することができる。
【0023】
仮支持部材1は本体の平板2とその表面に一体化する鉛直係止部3及び水平係止部4から成立するため、簡素な構造(形状)でありながら、コンクリート部材9の表面に仮固定された状態を維持することで、端部プレート8のコンクリート部材9への接合完了まで、少なくとも一方がコンクリート部材9である構造体間に架設された状態にある鉄骨梁7を安全に支持する能力を有することになる。
【0024】
同様に水平係止部4が端部プレート8のコンクリート部材9から遠ざかる向きへの移動可能距離より大きい幅を持てば、鉄骨梁7が軸方向に移動しても端部プレート8が水平係止部4から離脱することはないため、水平係止部4は端部プレート8の面内水平方向の移動を拘束することができる。
【0025】
前記のように1枚の端部プレート8に付き、2個(枚)の仮支持部材1、1が使用されるため、2個の仮支持部材1、1が対になることで、端部プレート8の面内水平方向のいずれの向きにも移動を拘束することが可能である。結果として端部プレート8を鉛直係止部3が支持している状態での面内水平方向のずれが防止、または抑制されるため、端部プレート8を鉛直方向と面内水平方向(鉄骨梁7幅方向)に正確に位置決めした状態でコンクリート部材9に接合することが可能であり、端部プレート8の設置精度が向上する。
【0026】
仮支持部材1を用いて端部プレート8をコンクリート部材9に接合する際には、
図2に示すように端部プレート8をコンクリート部材9に接合する定着具10をコンクリート部材9に定着させるための定着具定着孔9aがコンクリート部材9に表面側から穿設される(請求項2)。定着具定着孔9aは端部プレート8に予め形成された、または後から形成される定着具挿通孔8aに対応した位置に穿設される。このとき、並行して仮支持部材1をコンクリート部材9に仮固定する仮固定具5を仮固定させるための仮固定具定着孔9bをコンクリート部材9に穿設すること、または上記のように穿設した仮固定具定着孔9bに仮固定具5を受ける雌ねじスリーブ(雌ねじアンカー)を埋設することも行われる。
【0027】
「後から形成される定着具挿通孔8a」とは、コンクリート部材9に先行して穿設された定着具定着孔9aに合わせて端部プレート8に定着具挿通孔8aを形成することを言う(請求項3)。この場合、定着具定着孔9aに合わせて定着具挿通孔8aを形成することで、定着具挿通孔8aを予め形成しておく場合の施工誤差を軽減、あるいは解消することが可能になる。定着具定着孔9aに合わせて定着具挿通孔8aを形成することは、例えば穿設後の定着具定着孔9aの位置を正確に端部プレート8の背面に墨出し等の手段で転写(実測)し、その位置に従って定着具挿通孔8aを形成(穿設)することにより可能である。定着具挿通孔8aの形成は工場で、または現場付近で行われる。
【0028】
定着具定着孔9aをコンクリート部材9に穿設した後には(請求項2)、上記のように仮支持部材1が仮固定具5によりコンクリート部材9に仮固定され、仮支持部材1の鉛直係止部3と水平係止部4に端部プレート8が鉛直方向下向きと水平方向に係止させられる(請求項2)。端部プレート8が鉛直係止部3に係止させられることは、端部プレート8(鉄骨梁7)が鉛直係止部3に支持されることであり、水平係止部4に係止させられることは、対になる2個の仮支持部材1、1に端部プレート8が面内水平方向(鉄骨梁7の幅方向)に係止させられることを言い、端部プレート8(鉄骨梁7)が面内水平方向に拘束(保持)されることである。このとき、前記のように端部プレート8は仮支持部材1の平板2に一体化している鉛直係止部3と水平係止部4に係止することで、端部プレート8は鉛直方向と面内水平方向に位置決めされるため、端部プレート8は仮支持部材1、1に対して正確に設置される。
【0029】
仮支持部材1に端部プレート8が係止させられた後、
図5に示すように端部プレート8が平板2の受け部21に重ねられて仮接合される(請求項2)。この仮接合は前記のようにボルト等の仮接合具6を平板2の受け部21に重なる端部プレート8の定着具挿通孔8aと平板2の仮接合具挿通孔2aを挿通させることにより行われる(請求項4)。
【0030】
仮接合具6が端部プレート8の定着具挿通孔8aと平板2の仮接合具挿通孔2aを挿通し、端部プレート8を仮支持部材1の平板2に仮接合することで、
図6に示すように平板2の受け部21に重ならない部分に形成されている定着具挿通孔8aからコンクリート部材9の定着具定着孔9aにまで定着具10を挿通させ、定着させることができる。
【0031】
端部プレート8の平板2への仮接合後、端部プレート8の一部の定着具挿通孔8aを挿通し、アンカー等の定着具10がコンクリート部材9の定着具定着孔9aに埋設等により定着される(請求項2)。定着具10は端部プレート8の定着具挿通孔8aを挿通し、例えば定着具埋設孔9a内へのモルタル、接着剤等の充填等により定着具埋設孔9aに埋設されることにより定着される。「一部の定着具挿通孔8a」は端部プレート8が平板2の受け部21に重なる部分以外の部分に形成されている定着具挿通孔8aを指す。定着具10がコンクリート部材9に定着されることで、端部プレート8(鉄骨梁7)の鉛直荷重を定着具10を介してコンクリート部材9に負担させた状態にすることができる。
【0032】
図面では1枚の端部プレート8に付き、2本の仮接合具6で2個の仮支持部材1、1に仮接合し、4本の定着具10でコンクリート部材9に本接合しているが、仮接合用の仮接合具6の本数と本接合用の定着具10の本数は任意である。仮接合具6が挿通していた端部プレート8の定着具挿通孔8aには仮支持部材1、1の回収後、定着具10が挿通させられて定着具定着孔9aに定着させられ、端部プレート8の本接合に寄与する。
【0033】
定着具10の定着具定着孔9aへの定着時、端部プレート8の一部を平板2に仮接合したまま、端部プレート8の他の一部をコンクリート部材9に本接合することができるため、端部プレート8を対になる2個の仮支持部材1、1のみに支持させたまま、端部プレート8をコンクリート部材9に接合することが可能になる。
【0034】
従って対になる2個の仮支持部材1、1のみが、端部プレート8のコンクリート部材9への仮支持から本接合までの間、端部プレート8(鉄骨梁7)を支持することができ、端部プレート8(鉄骨梁7)の仮支持のためのサポート、またはサポートと足場を含む支保工が不要になるため、端部プレート8のコンクリート部材9への接合のための仮設の設備が簡略化され、支保工の設置分の経費が節減され、時間が短縮される。
【0035】
定着具10の定着具定着孔9aへの定着後、仮支持部材1は回収され、端部プレート8の残りの定着具挿通孔8aを挿通して定着具10が定着具定着孔9aに埋設等により定着される(請求項2)。「残りの定着具挿通孔8a」は
図6〜
図8に示すように端部プレート8が平板2の受け部21に重なる部分に形成されている定着具挿通孔8aを指し、端部プレート8の仮支持部材1への仮接合時に両者を接合していた仮接合具6が挿通していた定着具挿通孔8aである。
【0036】
仮支持部材1の回収時には端部プレート8の定着具挿通孔8aを挿通し、端部プレート8を平板2に仮接合していた仮接合具6、及び仮支持部材1をコンクリート部材9に仮固定していた仮固定具5も回収される。仮接合具6の回収により開放した端部プレート8の(残りの)定着具挿通孔8aから定着具10が挿通させられ、定着具定着孔9aに埋設される等により定着される。端部プレート8の全定着具挿通孔8aから定着具10が定着具定着孔9aに定着されることで、端部プレート8のコンクリート部材9への接合が完了する。