特許第6826567号(P6826567)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6826567酵母のタンパク質フォールディング機構(protein−folding machinery)改良によるジンセノサイド生産増大
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6826567
(24)【登録日】2021年1月19日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】酵母のタンパク質フォールディング機構(protein−folding machinery)改良によるジンセノサイド生産増大
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/19 20060101AFI20210121BHJP
   C12P 5/02 20060101ALI20210121BHJP
   C12P 17/02 20060101ALI20210121BHJP
   C12P 19/00 20060101ALI20210121BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20210121BHJP
【FI】
   C12N1/19ZNA
   C12P5/02
   C12P17/02
   C12P19/00
   !C12N15/31
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-149258(P2018-149258)
(22)【出願日】2018年8月8日
(65)【公開番号】特開2019-30293(P2019-30293A)
(43)【公開日】2019年2月28日
【審査請求日】2018年8月8日
(31)【優先権主張番号】10-2017-0101319
(32)【優先日】2017年8月9日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】301040648
【氏名又は名称】コーリア リサーチ インスティテュート オブ ケミカル テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム スンチャン
(72)【発明者】
【氏名】イ ジュヨン
(72)【発明者】
【氏名】チャン インソン
(72)【発明者】
【氏名】キム ソヒョン
(72)【発明者】
【氏名】チェガル ジョンゴン
【審査官】 山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】 特表2016−514957(JP,A)
【文献】 特表2011−514157(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2013−0137443(KR,A)
【文献】 特表2016−511639(JP,A)
【文献】 特表2015−509729(JP,A)
【文献】 Funct. Integr. Genomics, 2014, 14(3), pp.545-557
【文献】 Acta Pharmaceutica Sinica, 2016, 51(6), pp.998-1003
【文献】 Metab. Eng., 2017, 42, pp.25-32
【文献】 Appl. Environ. Microbiol., 2003, 69(8), pp.4951-4965
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00−15/90
C12P1/00−41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質フォールディング(protein-folding)関与タンパク質の発現レベルが内在性発現レベルより増加した、ジンセノサイド又はその前駆体生産用組換えジンセノサイド生産酵母であって、
前記タンパク質フォールディング関与タンパク質はシャペロンタンパク質であり、前記シャペロンタンパク質はCPR5及びERO1からなる群から選択される少なくとも1つであり、前記ジンセノサイドはダンマラン(dammarane)系サポニンである、酵母
【請求項2】
前記CPR5の遺伝子は配列番号1の塩基配列からなり、ERO1の遺伝子は配列番号3の塩基配列からなる、請求項に記載の組換えジンセノサイド生産酵母。
【請求項3】
前記酵母は、サッカロマイセス・セレビシエ(S. cerevisiae)、サッカロマイセス・バヤヌス(S. bayanus)、サッカロマイセス・ブラウディ(S. boulardii)、サッカロマイセス・ブルデリ(S. bulderi)、サッカロマイセス・カリオカヌス(S. cariocanus)、サッカロマイセス・カリオカス(S. cariocus)、サッカロマイセス・チェバリエリ(S. chevalieri)、サッカロマイセス・ダイレネンシス(S. dairenensis)、サッカロマイセス・エリプソイデウス(S. ellipsoideus)、サッカロマイセス・ユーバヤヌス(S. eubayanus)、サッカロマイセス・エキシグス(S. exiguus)、サッカロマイセス・フロレンチヌス(S. florentinus)、サッカロマイセス・クルイベリ(S. kluyveri)、サッカロマイセス・マティニアエ(S. martiniae)、サッカロマイセス・モナセンシス(S. monacensis)、サッカロマイセス・ノルベンシス(S. norbensis)、サッカロマイセス・パラドキサス(S. paradoxus)、サッカロマイセス・パストリアヌス(S. pastorianus)、サッカロマイセス・スペンセロラム(S. spencerorum)、サッカロマイセス・トゥリセンシス(S. turicensis)、サッカロマイセス・ユニスポラス(S. unisporus)、サッカロマイセス・ウバラム(S. uvarum)、及びサッカロマイセス・ゾナタス(S. zonatus)からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の組換えジンセノサイド生産酵母。
【請求項4】
前記酵母は、さらにジンセノサイド合成に関与する遺伝子の発現が内在性発現レベルより増加した、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組換えジンセノサイド生産酵母。
【請求項5】
前記遺伝子は、PgDDS(Panax ginseng, dammarenediol-II synthase)、PgPPDS(Panax ginseng cytochrome P450 CYP716A47)、PgCPR(Panax ginseng, NADPH-cytochrome P450 reductase)、tHMG1(S. cerevisiae HMG-CoA reductase)及びPgSE(Panax ginseng, squalene epoxidase)からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子である、請求項に記載の組換えジンセノサイド生産酵母。
【請求項6】
前記前駆体は、スクアレン又は2,3−オキシドスクアレンである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組換えジンセノサイド生産酵母。
【請求項7】
ジンセノサイド生産酵母菌株のタンパク質フォールディング(protein-folding)関与タンパク質の発現レベルを内在性発現レベルより増加させるステップを含む、ジンセノサイド生産能が向上した組換え酵母の製造方法であって、
前記タンパク質フォールディング関与タンパク質はシャペロンタンパク質であり、前記シャペロンタンパク質はCPR5及びERO1からなる群から選択される少なくとも1つである、製造方法
【請求項8】
前記ジンセノサイド生産酵母菌株は、PgDDS(Panax ginseng, dammarenediol-II synthase)、PgPPDS(Panax ginseng cytochrome P450 CYP716A47)、PgCPR(Panax ginseng, NADPH-cytochrome P450 reductase)、tHMG1(S. cerevisiae HMG-CoA reductase)及びPgSE(Panax ginseng, squalene epoxidase)からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現レベルが内在性発現レベルより増加した、請求項に記載の組換え酵母の製造方法。
【請求項9】
ジンセノサイド及びジンセノサイド前駆体生産酵母菌株のタンパク質フォールディング(protein-folding)関与タンパク質の発現レベルを内在性発現レベルより増加させるステップを含む、ジンセノサイド前駆体生産能が向上した組換えジンセノサイド及びジンセノサイド前駆体生産酵母の製造方法であって、
前記タンパク質フォールディング関与タンパク質はシャペロンタンパク質であり、前記シャペロンタンパク質はCPR5及びERO1からなる群から選択される少なくとも1つであり、前記ジンセノサイドはダンマラン(dammarane)系サポニンである、製造方法
【請求項10】
前記ジンセノサイド前駆体は、スクアレン及び2,3−オキシドスクアレンを含む、請求項に記載の組換え酵母の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜のいずれか一項に記載の組換えジンセノサイド生産酵母を培養するステップを含む、ジンセノサイド又はその前駆体の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジンセノサイドの生産を増大するための組換え酵母及びそれを用いてジンセノサイドを生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サポニンとは、植物界に広く存在する配糖体において糖でない部分が様々な環式化合物からなる物質を意味する。高麗人参又は紅参に主要生理活性成分として含まれるサポニン成分であるトリテルペンサポニン(triterpene saponin)は、他の植物において見られるサポニンとは化学構造が異なるので、この高麗人参サポニンを他の植物系サポニンと区別するために、高麗人参(Ginseng)配糖体(Glycoside)という意味でジンセノサイド(Ginsenoside)と呼ぶ。
【0003】
ジンセノサイドは、アグリコン(aglycone)の構造によってプロトパナキサジオール系(Protopanaxadiol-type, PPDタイプ)ジンセノサイド、プロトパナキサトリオール系(Protopanaxatriol-type, PPTタイプ)ジンセノサイド、及びオレアノール酸系(Oleanolic acidタイプ)ジンセノサイドの3種類に分類される。これら3つのグループは、さらに化合物構造中の環の3位の炭素、6位の炭素及び20位の炭素位置にグリコシド結合(glycosicid bond)により付着する糖部分(アグリコン)(sugar moieties(aglycones))の位置及び数によって分類される。オレアノール酸系ジンセノサイドの基本骨格は5環性であり、それには唯一ジンセノサイドRoが含まれ、そのアグリコンはオレアノール酸(oleanolic acid)である。現在、40種以上のジンセノサイドが分離されており、それらのほとんどはPPDタイプのジンセノサイドである。PPDタイプのジンセノサイドには、Rb1、Rb2、Rb3、Rc、Rd、ギペノシドXVII(Gypenoside XVII)、化合物O(Compound O)、化合物Mc1(Compound Mc1)、F2、化合物Y(Compound Y)、化合物Mc(Compound Mc)、Rg3、Rh2、CKが含まれる。PPTタイプのジンセノサイドには、Re、Rg1、Rf、Rg2、Rh1などが含まれる。
【0004】
高麗人参の代表的な薬理効果はジンセノサイドにより現れることが知られており、現在まで約30種の様々なジンセノサイドが高麗人参及び高麗人参加工品から分離されており(Shibata, 2001)、抗糖尿活性、抗炎症作用、老化防止作用、抗癌作用など各種薬理作用を有することが報告されている。また、ジンセノサイド以外の他の生理活性成分としてフェノール性成分、ポリアセチレン、アルカロイド、多糖体などが知られている。フェノール性成分は老化抑制の有効成分として10種以上の抗酸化性、フェノール性物質が開示されており、これらは高血圧抑制、抗癌、抗酸化、美白活性などの生理活性としても知られている。最近の研究結果では、様々なストレスに対して非特異的に肉体的、精神的安定状態を維持する抗ストレス効果があるとされている(Leeら, 2008)。
【0005】
全世界で高麗人参を商業的に栽培している国は、韓国、中国、日本、米国、カナダ、ヨーロッパ諸国などである。1980年末までは全世界の高麗人参の約46%を韓国が生産していたが、1990年代になって39%程度に占有率が減少し、中国が50%以上、米国とカナダの花旗参が10%を占めるようになり、最近ではその占有率がさらに減少している現状である。最も大きな理由として、韓国の高麗人参は薬効において非常に優れていることが知られているが、価格競争力においては非常に脆弱な面があることが挙げられる。よって、韓国の高麗人参の特性や長所は非常に多いものの、現在の急変する世界情勢やWTO、国家間のバイオ産業への重点投資、経済危機などに噛み合った高麗人参製品の国際競争力の向上のための努力が切実に求められている現況である。
【0006】
高麗人参の薬理学的な研究結果は高麗人参のサポニン成分であるジンセノサイドに対する関心を増大させ、それらの大量生産の必要性が高まっているが、一般の耕作方法により高麗人参の有用物質を大量生産するには、4〜6年の長い栽培期間、遮光栽培による病虫害防除の難しさ、輪作栽培などの問題があるので、新たな代替生産方法の開発が切実に求められている。
【0007】
近年、生命工学技術に基づいて高麗人参のサポニン関連遺伝子が大量に発見されるにつれ、それらの遺伝子を用いてジンセノサイドを酵母から大量生産するための技術開発も注目を集めてきている。ジンセノサイドは植物体においてメバロン酸生合成経路を含むイソプレノイド合成経路により生合成(Cristensen, 2008)されるので、酵母のエルゴステロール生合成経路を再設計することによりジンセノサイド生産菌株を開発する合成生物学研究が行われている。近年、中国のHuangとZhangの共同研究チームが高麗人参のプロトパナキサジオールダンマレンジオールIIシンターゼ(protopanaxadiol dammarenediol-II synthase)、プロトパナキサジオールシンターゼ(protopanaxadiol synthase)遺伝子をシロイヌナズナから確保したNADPH−シトクロムP450レダクターゼ(NADPH-cytochrome P450 reductase)遺伝子と共に酵母サッカロマイセス・セレビシエに発現させることによりプロトパナキサジオールを生産するのに成功したことを報告した。彼らは、スクアレン及び2,3−オキシドスクアレン(2,3-oxidosqualen)供給を増大させるために、N末端HMG遺伝子tHMG1を過剰発現させ、FPPシンターゼ遺伝子(ERG20)、スクアレンシンターゼ遺伝子(EFG9)、2,3−オキシドスクアレンシンターゼ遺伝子(ERG1)も同時に過剰発現させることによりプロトパナキサジオール生産に必要な前駆体供給を増大させた。また、酵母コドンに合わせてプロトパナキサジオール合成遺伝子を合成することによりさらにプロトパナキサジオール変換効率を高め、最終的にウリジンジホスフェートグリコシルトランスフェラーゼ(uridin diphosphate glycosyl-transferase)遺伝子を導入することによりジンセノサイド生合成経路を完成した(Dai et al., 2013)。今後、さらなる最適化作業により、ジンセノサイド生産合成酵母は植物体から抽出する複雑な工程過程を代替する経済的な生産工程を提供するものと期待されている。
【0008】
こうした背景の下、本発明者らは、酵母を用いたジンセノサイド生産量を増大させるために鋭意研究を重ねた結果、ジンセノサイド生産酵母のタンパク質フォールディングに関与するタンパク質の発現が増加した組換え酵母及び前記酵母の製造方法を開発し、前記組換え酵母は従来のジンセノサイド生産能を有する酵母よりジンセノサイド生合成の中間産物であるプロトパナキサジオールの生産量が増加することを確認し、本発明を完成するに至った。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J. Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory press, Cold Spring Harbor, New York, 1989
【非特許文献2】F.M. Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc., New York
【非特許文献3】Ju Young Lee, Chang Duk Kang, Seung Hyun Lee, Young Kyoung Park and Kwang Myung Cho (2015) Engineering cellular redox balance in Saccharomyces cerevisiae for improved production of L-lactic acid. Biotechnol. Bioeng., 112, 751-758.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ジンセノサイド又はその前駆体生産用組換え酵母を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、前記組換え酵母を製造する方法を提供することを目的とする。
【0012】
さらに、本発明は、前記組換え酵母を用いてジンセノサイド又はその前駆体を高収率で生産する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以下、これらを具体的に説明する。一方、本発明で開示される各説明及び実施形態はそれぞれ他の説明及び実施形態にも適用される。すなわち、本発明で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本発明に含まれる。また、下記の具体的な記述に本発明が限定されるものではない。
【0014】
本発明の目的を達成するための本発明の一態様は、タンパク質フォールディング関与タンパク質の発現レベルが内在性発現レベルより増加した、ジンセノサイド又はその前駆体生産用組換え酵母を提供する。
【0015】
本発明における「タンパク質フォールディング(Protein folding)」とは、線形のアミノ酸複合体であるタンパク質が固有の折り畳まれた構造(folded structure又はnative structure)を作る過程を意味する。前記タンパク質フォールディングが正常に行われないと、正常にフォールディングされていないタンパク質が蓄積され、それにより小胞体ストレスが誘導されることがある。前記ストレスを解決するためにアンフォールディングタンパク質反応(Unfolded protein response: UPR)が起こる。
【0016】
前記アンフォールディングタンパク質反応は、1)小胞体のタンパク質フォールディング能力の増加、2)タンパク質の流入減少、3)アンフォールディングタンパク質の分解などを含むものであり、前記反応により小胞体内のアンフォールディングタンパク質を減少させることができる。よって、アンフォールディングタンパク質反応も減少する。
【0017】
本発明は、タンパク質のフォールディングに関与するタンパク質の発現レベルを増加させることにより、小胞体のタンパク質フォールディング能力を増加させてアンフォールディングタンパク質反応を減少させ、その結果ジンセノサイド又はその前駆体の生産を増大させることを特徴とする。
【0018】
具体的には、タンパク質フォールディングに関与するタンパク質はシャペロン(Chaperone)タンパク質である。
【0019】
前記「シャペロン(Chaperone)タンパク質」とは、細胞内のタンパク質フォールディングを援助するタンパク質であり、シャペロンタンパク質のほとんどは熱を受けるか、ストレスを受けると発現するが、一般の条件下でも発現して必要とする機能を果たすことができる。前記シャペロンタンパク質は、アンフォールディングタンパク質又はミスフォールディングタンパク質を認識するのが一般的である。細胞内には様々なタンパク質が存在し、前記タンパク質のフォールディング条件も異なるため、様々なタイプのシャペロンタンパク質が存在する。
【0020】
本発明の実施例において、タンパク質のフォールディングに関与するシャペロンタンパク質の内在性発現レベルが増加するに伴ってスクアレン、2,3−オキシドスクアレン及びプロトパナキサジオールの生産量が増加することを示し(実施例3)、タンパク質フォールディング機構の改良によりジンセノサイド及びその前駆体の生産が増大することが確認された。
【0021】
具体的には、前記タンパク質のフォールディングに関与するシャペロンタンパク質には、CPR5、PDI1、ERO1、KAR2、JEM1、LHS1、HSP82、YDJ1、SSA2、SSB1、GET3、SCJ1、FPR2、MPD1などが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
本発明の一具体例において、前記タンパク質フォールディング(protein-foldeing)関与タンパク質は、CPR5、PDI1及びERO1からなる群から選択される少なくとも1つである組換え酵母を提供する。
【0023】
本発明における「CPR5(Cyclosporin-sensitive Proline Rotamase 5)」とは、ERのペプチジル−プロリルシス−トランスイソメラーゼ(Peptidyl-prolyl cis-trans isomerase)であり、プロリン残基にN末端ペプチド結合のシス−トランス異性化を触媒する。また、CPR5は、ERにおいてUPRにより転写的に誘導される。CPR5は、タンパク質フォールディングに関与するシャペロンの1つであり、ERにおいてアンフォールディングタンパク質が蓄積されると発現量が増加してタンパク質フォールディングを誘導する。CPR5はアナログとしてCPR2を有する。
【0024】
前記CPR5及びそれをコードする遺伝子情報は米国国立保健研究所のGenBankなどのデータベースから得られ、例えば前記CPR5遺伝子は配列番号1の塩基配列を有するが、これに限定されるものではない。
【0025】
また、前記CPR5をコードする遺伝子は、配列番号1で表される塩基配列だけでなく、前記配列と80%以上、具体的には90%以上、より具体的には95%以上、さらに具体的には99%以上の相同性を示す塩基配列であって実質的に前記転写因子と同一又は相当する効能を示す転写因子をコードする遺伝子配列であれば制限はない。さらに、このような相同性を有する塩基配列であれば、一部の配列が欠失、改変、置換又は付加された塩基配列も本発明に含まれることは言うまでもない。
【0026】
本発明における「PDI1(Protein Disulfide Isomerase 1)」とは、ERルーメンの多機能酸化レダクターゼであり、非天然ジスルフィド結合を架け替え、分泌及び細胞表面タンパク質におけるジスルフィド結合に必須である。また、MNL1(Manoseidase-like protein 1)と複合体を形成し、アンフォールディングタンパク質に結合されたMan8GlcNAc2オリゴ糖をMan7GlcNAc2で処理し、アンフォールディングタンパク質を除去するERAD(Endoplasmic-reticulum-associated protein degradation)を促進する。PDI1はアナログとしてEUG1を有する。
【0027】
前記PDI1及びそれをコードする遺伝子情報は米国国立保健研究所のGenBankなどのデータベースから得られ、例えば前記PDI1遺伝子は配列番号2の塩基配列を有するが、これに限定されるものではない。
【0028】
また、前記PDI1をコードする遺伝子は、配列番号2で表される塩基配列だけでなく、前記配列と80%以上、具体的には90%以上、より具体的には95%以上、さらに具体的には99%以上の相同性を示す塩基配列であって実質的に前記転写因子と同一又は相当する効能を示す転写因子をコードする遺伝子配列であれば制限はない。さらに、このような相同性を有する塩基配列であれば、一部の配列が欠失、改変、置換又は付加された塩基配列も本発明に含まれることは言うまでもない。
【0029】
本発明における「ERO1(ER Oxidation or Endoplasmic Reticulum Oxidoreductin)」とは、ERにおいて酸化性タンパク質フォールディングのために要求されるチオール酸化酵素であり、調節結合の還元及び酸化により調節されたフィードバックでER酸化還元の均衡を維持する上で必須の酵素である。また、還元されたPdi1pは、Ero1p調節結合の直接還元によりEro1pを活性化する。チオール基質の欠乏及び酸化されたPdi1pの蓄積は、Pdi1pにより媒介された酸化及びEro1p調節結合の自発酸化によりEro1pを不活性化する。
【0030】
前記ERO1及びそれをコードする遺伝子情報は米国国立保健研究所のGenBankなどのデータベースから得られ、例えば前記ERO1遺伝子は配列番号3の塩基配列を有するが、これに限定されるものではない。
【0031】
また、前記ERO1をコードする遺伝子は、配列番号3で表される塩基配列だけでなく、前記配列と80%以上、具体的には90%以上、より具体的には95%以上、さらに具体的には99%以上の相同性を示す塩基配列であって実質的に前記転写因子と同一又は相当する効能を示す転写因子をコードする遺伝子配列であれば制限はない。さらに、このような相同性を有する塩基配列であれば、一部の配列が欠失、改変、置換又は付加された塩基配列も本発明に含まれることは言うまでもない。
【0032】
前記「相同性」とは、与えられたアミノ酸配列又は塩基配列に一致する程度を意味し、百分率で表される。本発明において、与えられたアミノ酸配列又は塩基配列と同一又は類似の活性を有するその相同性配列は「%の相同性」と表される。例えば、スコア(score)、同一性(identity)、類似度(similarity)などのパラメーター(parameter)を計算する標準ソフトウェア、具体的にはBLAST 2.0を用いるか、定義されたストリンジェントな条件下でサザンハイブリダイゼーション実験で配列を比較することにより確認することができ、定義される好適なハイブリダイゼーション条件は当該技術の範囲内であり、当業者に周知の方法(例えば、非特許文献1、2)で決定されてもよい。
【0033】
本発明における「内在性発現レベル」とは、微生物が天然の状態又は当該遺伝子の発現レベルを改変する前の母菌株において発現するmRNA又はタンパク質の発現レベルを意味する。これは、本質的に菌株などの細胞や組織などにおいて正常な状況又は特定遺伝子の発現を調節する前の状況で与えられたmRNA又はタンパク質を生産する程度である。内在性発現レベルは、菌株の種類、細胞のタイプ及び組織間で比較されてもよく、一部の刺激により誘発された発現レベルと比較されてもよい。具体的には、タンパク質フォールディング関与タンパク質の発現を調節していない微生物において発現するmRNA又はタンパク質の発現レベルであってもよい。
【0034】
本発明における「発現レベルが内在性発現レベルより増加」とは、当該ポリペプチドをコードする遺伝子が自然の状態又は改変前の状態より多く発現し、機能性を有する当該ポリペプチドを多く生産することを意味する。
【0035】
具体的には、本発明におけるCPR5、PDI1及びERO1の発現レベルの増加は、1)前記タンパク質をコードするポリヌクレオチドのコピー数の増加、2)前記ポリヌクレオチドの発現を増加させる発現調節配列の改変、3)前記タンパク質の活性を強化する染色体上のポリヌクレオチド配列の改変、4)それらの組み合わせにより強化する改変などにより行われるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
前記1)ポリヌクレオチドのコピー数の増加は、特にこれらに限定されるものではないが、ベクターに作動可能に連結された形態で行われるか、宿主細胞内の染色体内に挿入されることにより行われる。具体的には、本発明の酵素をコードするポリヌクレオチドが作動可能に連結された、宿主に関係なく複製されて機能するベクターが宿主細胞内に導入されることにより行われるか、前記ポリヌクレオチドが作動可能に連結された、宿主細胞内の染色体内に前記ポリヌクレオチドを挿入することのできるベクターが宿主細胞内に導入されることにより前記宿主細胞の染色体内の前記ポリヌクレオチドのコピー数を増加する方法で行われる。
【0037】
本発明における「ベクター」とは、好適な宿主内で標的タンパク質を発現させることができるように、好適な調節配列に作動可能に連結された前記標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列を含有するDNA産物を意味する。前記調節配列には、転写を開始するプロモーター、その転写を調節するための任意のオペレーター配列、好適なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、並びに転写及び翻訳の終結を調節する配列が含まれる。ベクターは、好適な宿主細胞内に形質転換されると、宿主ゲノムに関係なく複製及び機能することができ、ゲノム自体に組み込まれる。
【0038】
本発明に用いられるベクターは、宿主細胞内で複製可能なものであれば特に限定されるものではなく、当業界で公知の任意のベクターを用いることができる。通常用いられるベクターの例としては、天然状態又は組換え状態のプラスミドとして複製起点、プロモーター及びターミネーターが挙げられる。前記複製起点は、酵母自己複製配列(autonomous replication sequence, ARS)を含んでもよい。前記酵母自己複製配列は、酵母動原体配列(centrometric sequence, CEN)により安定化される。前記プロモーターは、CYCプロモーター、TEFプロモーター、GPDプロモーター、PGKプロモーター、ADHプロモーターなどからなる群から選択されてもよい。前記ターミネーターは、PGK1、CYC1、GAL1などからなる群から選択されてもよい。前記ベクターは、選択マーカーをさらに含んでもよい。
【0039】
このように細胞内染色体導入用ベクターにより、染色体内に標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを変異したポリヌクレオチドに置換することができる。前記ポリヌクレオチドの染色体内への導入は、当業界で公知の任意の方法、例えば相同組換えにより行うことができるが、これに限定されるものではない。
【0040】
本発明における「形質転換」とは、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを宿主細胞内に導入することにより、宿主細胞内で前記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質を発現させることを意味する。形質転換されたポリヌクレオチドは、宿主細胞内で発現するものであれば、宿主細胞の染色体内に挿入されて位置するか、染色体外に位置するかに関係なく、それら全てを含むものである。また、前記ポリヌクレオチドは、標的タンパク質をコードするDNAやRNAを含むものである。前記ポリヌクレオチドは、宿主細胞内に導入されて発現するものであれば、いかなる形態で導入されるものでもよい。例えば、前記ポリヌクレオチドは、自ら発現する上で必要な全ての要素を含む遺伝子構造体である発現カセット(expression cassette)の形態で宿主細胞に導入されてもよい。通常、前記発現カセットは、前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結されたプロモーター(promoter)、転写終結シグナル、リボソーム結合部位及び翻訳終結シグナルを含むことができる。前記発現カセットは、自己複製可能な発現ベクター形態であってもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、それ自体の形態で宿主細胞に導入され、宿主細胞において発現に必要な配列と作動可能に連結されたものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0041】
また、前記「作動可能に連結」されたものとは、本発明の標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドの転写を開始及び媒介するプロモーター配列と前記遺伝子配列が機能的に連結されたものを意味する。
【0042】
次に、2)ポリヌクレオチドの発現を増加させる発現調節配列の改変は、特にこれらに限定されるものではないが、前記発現調節配列の活性がさらに強化されるように、核酸配列の欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより配列上の変異を誘導して行うこともでき、より強い活性を有する核酸配列に置換することにより行うこともできる。前記発現調節配列には、特にこれらに限定されるものではないが、プロモーター、オペレーター配列、リボソーム結合部位をコードする配列、転写及び翻訳の終結を調節する配列などが含まれてもよい。
【0043】
前記ポリヌクレオチド発現単位の上流には、本来のプロモーターの代わりに強力な異種プロモーターが連結されうるが、前記強力なプロモーターの例としては、GPDプロモーター、TEFプロモーター、ADHプロモーター、CCW12、GALプロモーター、PGKプロモーターなどが挙げられ、より具体的には、サッカロマイセス・セレビシエ由来のプロモーターであるPGK1プロモーターに作動可能に連結されることにより、前記酵素をコードするポリヌクレオチドの発現率を向上させることができるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
また、3)染色体上のポリヌクレオチド配列の改変は、特にこれらに限定されるものではないが、前記ポリヌクレオチド配列の活性がさらに強化されるように、核酸配列の欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより発現調節配列上の変異を誘導して行うこともでき、より強い活性を有するように改良されたポリヌクレオチド配列に置換することにより行うこともできる。
【0045】
本発明の一実施例においては、CPR5、PDI1又はERO1の過剰発現を誘導するために、前記遺伝子のプロモーターを高発現構成的プロモーターであるPGK1プロモーターに置換するためのPGK1プロモーター置換ベクターを作製し、前記ベクターを用いて作製した置換カセットをPPD酵母変異株に形質導入することにより、CPR5、PDI1又はERO1過剰発現組換え酵母を作製した(実施例2)。
【0046】
具体的な一実施例によれば、前記組換え酵母を用いてジンセノサイド生合成の中間産物であるスクアレン、2,3−オキシドスクアレン及びプロトパナキサジオールの生産量を対照群と比較して測定した結果、CPR5、PDI1又はERO1が過剰発現した組換え酵母の全てにおいて対照群と比較して生産量が増加することが確認され、特にCPR5又はERO1過剰発現組換え酵母において生産量が最も大きく増加することが確認された(実施例3、表3、表4及び図4)。
【0047】
本発明の組換え酵母は、ジンセノサイド、スクアレン及び2,3−オキシドスクアレンの生産量を増加させることができる。
【0048】
本発明における「ジンセノサイド生産用組換え酵母」とは、ジンセノサイドの生産能のない母菌株にジンセノサイドの生産能が付与された酵母を意味する。
【0049】
本発明における「ジンセノサイド(ginsenoside)」とは、高麗人参由来のダンマラン(dammarane)系サポニン又はその誘導体を意味するが、他の植物で見出されるサポニンとは異なる特異な化学構造を有する。前記ジンセノサイドは、特にこれらに限定されるものではないが、一例として、PPD(protopanaxadiol)系のジンセノサイド、PPT(protopanaxatriol)系のジンセノサイドなどが挙げられ、他の例として、PPD、PPT、Ra3、Rb1、Rb2、Rb3、Rc、Rd、Re、Rg1、Rg2、Rg3、Rh1、Rh2、Rs1、C−O、C−Y、C−Mc1、C−Mc、F1、F2、コンパウンドK(compound K)、ジペノサイドXVII(Gypenoside XVII)、ジペノサイドLXXV(Gypenoside LXXV)、Rs2、PPD、Re、Rg1、Rf、F1、Rg2、PPT、Rh1などの単独又は混合物が挙げられ、さらに他の例として、PPD、PPT、コンパウンドK(compound K)、Rb1、Rb2、Rb3、Rc、Rd、Re、F1、F2、Rg1、Rg2、Rg3、Rh1、Rh2などの単独又は混合物が挙げられる。具体的には、プロトパナキサジオール系ジンセノサイドである。
【0050】
本発明における「ジンセノサイド前駆体生産用組換え酵母」とは、自然にジンセノサイド前駆体生産能を有する酵母、又はジンセノサイド前駆体の生産能のない母菌株にジンセノサイド前駆体の生産能が付与された酵母を意味する。
【0051】
本発明における「ジンセノサイド前駆体」とは、ジンセノサイド生合成代謝過程の中間生成物である。ジンセノサイド生合成は、メバロン酸代謝経路でイソペンテニル二リン酸及びジメチルアリル二リン酸が生産され、これらはスクアレン及びスクアレンが酸化した2,3−オキシドスクアレンに変形される。2,3−オキシドスクアレンの環化によりダンマレンジオールIIが生成され、これは様々なジンセノサイドに合成される。ジンセノサイド前駆体には、これら全ての中間生成物が含まれる。また、この前駆体により生成される他の系列のサポニンなども含まれてもよい。これには、さらにβ−アミリン(β-amyrin)又はオレアネート(Oleanate)が含まれてもよい。
【0052】
具体的には、ジンセノサイド前駆体生産用組換え酵母はスクアレン又は2,3−オキシドスクアレンを生産することができる。
【0053】
本発明の一具体例において、前記ジンセノサイド前駆体はスクアレン及び2,3−オキシドスクアレンを含む組換え酵母を提供する。
【0054】
本発明における「スクアレン」とは、一種のイソプレノイド又はテルペノイド系化合物に属し、6個の二重結合を有する多価不飽和脂肪であり、C3050の化学式を有する。スクアレンは、ジンセノサイド生合成の中間生産物であり、メバロン酸経路により生産される。また、体内で強力な抗酸化作用を示すと共に、ステロイドホルモンやビタミンD、胆汁酸、細胞膜の構成成分であるコレステロールの生合成にも用いられ、新型インフルエンザなどのワクチン免疫補助剤としても用いられる。
【0055】
本発明における「2,3−オキシドスクアレン」とは、ジンセノサイドを含むサポニンだけでなく、細胞膜ステロールの前駆体であるラノステロールとシクロアルテノールの合成前駆体でもある。これは、スクアレンがスクアレンエポキシダーゼにより酸化されて生産される。
【0056】
前記酵母は、サッカロマイセス(Saccharomyces)、ジゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)、ピキア(Pichia)、クルイベロマイセス(Kluyveromyces)、カンジダ(Candida)、シゾサッカロマイセス(Shizosaccharomyces)、イッサチェンキア(Issachenkia)、ヤロウィア(Yarrowia)又はハンゼヌラ(Hansenula)に属する菌株であってもよい。
【0057】
サッカロマイセスに属する菌株は、例えばサッカロマイセス・セレビシエ(S. cerevisiae)、サッカロマイセス・バヤヌス(S. bayanus)、サッカロマイセス・ブラウディ(S. boulardii)、サッカロマイセス・ブルデリ(S. bulderi)、サッカロマイセス・カリオカヌス(S. cariocanus)、サッカロマイセス・カリオカス(S. cariocus)、サッカロマイセス・チェバリエリ(S. chevalieri)、サッカロマイセス・ダイレネンシス(S. dairenensis)、サッカロマイセス・エリプソイデウス(S. ellipsoideus)、サッカロマイセス・ユーバヤヌス(S. eubayanus)、サッカロマイセス・エキシグス(S. exiguus)、サッカロマイセス・フロレンチヌス(S. florentinus)、サッカロマイセス・クルイベリ(S. kluyveri)、サッカロマイセス・マティニアエ(S. martiniae)、サッカロマイセス・モナセンシス(S. monacensis)、サッカロマイセス・ノルベンシス(S. norbensis)、サッカロマイセス・パラドキサス(S. paradoxus)、サッカロマイセス・パストリアヌス(S. pastorianus)、サッカロマイセス・スペンセロラム(S. spencerorum)、サッカロマイセス・トゥリセンシス(S. turicensis)、サッカロマイセス・ユニスポラス(S. unisporus)、サッカロマイセス・ウバラム(S. uvarum)、又はサッカロマイセス・ゾナタス(S. zonatus)であってもよい。
【0058】
本発明の一具体例において、前記酵母はサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae: S. cerevisiae)であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0059】
一般に、前記サッカロマイセス・セレビシエは、様々な発酵過程に用いられる酵母菌の一種として知られており、糖分をエタノールに変換する活性を有することが知られている。
【0060】
前記ジンセノサイドを生産する酵母は、特にこれらに限定されるものではないが、ジンセノサイド生合成に必須の前駆体であるスクアレンの生合成の増大のためのメバロン酸代謝経路を強化するために、HMG−CoAをメバロン酸に変換するHMG−CoAレダクターゼ(HMG-CoA reductase; tHMG1)、及びスクアレンを2,3−オキシドスクアレンに変換する高麗人参由来スクアレンエポキシダーゼ(Panax ginseng, squalene epoxidase; PgSE)の活性を内在性活性より増加させるように改変し、ジンセノサイド生合成代謝経路を導入するために、2,3−オキシドスクアレンをダンマレンジオールIIに変換する高麗人参由来ダンマレンジオールIIシンターゼ(Panax ginseng, dammarenediol-II synthase; PgDDS)、ダンマレンジオールIIをプロトパナキサジオールに変換する高麗人参由来シトクロムP450 CYP716A47(Panax ginseng cytochrome P450 CYP716A47; PgPPDS)、及び高麗人参由来NADPH−シトクロムP450レダクターゼ(Panax ginseng NADPH-cytochrome P450 reductase; PgCPR)の活性を導入するように改変されたものであってもよい。
【0061】
本発明の他の具体例において、前記酵母は、さらにジンセノサイド合成に関与する遺伝子の発現が内在性発現レベルより増加した組換え酵母を提供する。
【0062】
本発明のさらに他の具体例において、前記遺伝子はPgDDS(Panax ginseng, dammarenediol-II synthase)、PgPPDS(Panax ginseng cytochrome P450 CYP716A47)、PgCPR(Panax ginseng, NADPH-cytochrome P450 reductase)、tHMG1(S. cerevisiae HMG-CoA reductase)及びPgSE(Panax ginseng, squalene epoxidase)からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子である組換え酵母を提供する。
【0063】
本発明の一実施例においては、ジンセノサイド生合成代謝経路に関する酵素は形質転換により導入し、メバロン酸代謝経路に関する酵素は高発現構成的プロモーターであるGPD1(TDH3)プロモーターから転写されて内在性発現より増加して発現するようにした(実施例1)。
【0064】
ここで、前記ジンセノサイド生合成代謝経路に関する酵素には、それぞれ配列番号4〜8のアミノ酸配列、又はそれと70%以上、より具体的には80%以上、さらに具体的には90%以上の相同性を有するアミノ酸配列が含まれてもよい。
【0065】
本発明の他の態様は、ジンセノサイド生産酵母菌株のタンパク質フォールディング関与タンパク質の発現レベルを内在性発現レベルより増加させるステップを含む、ジンセノサイド生産能が向上した組換え酵母の製造方法を提供する。
【0066】
本発明の一具体例において、CPR5、PDI1、ERO1からなる群から選択される少なくとも1つの前記タンパク質フォールディング関与タンパク質の発現レベルを内在性発現レベルより増加させる、組換え酵母の製造方法を提供する。
【0067】
前記ジンセノサイド生産酵母菌株、タンパク質フォールディング関与タンパク質、CPR5、PDI1、ERO1、内在性発現レベルなどについては前述した通りである。
【0068】
本発明の他の具体例において、前記ジンセノサイド生産酵母菌株は、PgDDS(Panax ginseng, dammarenediol-II synthase)、PgPPDS(Panax ginseng cytochrome P450 CYP716A47)、PgCPR(Panax ginseng, NADPH-cytochrome P450 reductase)、tHMG1(S. cerevisiae HMG-CoA reductase)及びPgSE(Panax ginseng, squalene epoxidase)からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現レベルが内在性発現レベルより増加したものである。
【0069】
本発明のさらに他の態様は、ジンセノサイド前駆体生産酵母菌株のタンパク質フォールディング関与タンパク質の発現レベルを内在性発現レベルより増加させるステップを含む、ジンセノサイド前駆体生産能が向上した組換え酵母の製造方法を提供する。
【0070】
本発明の一具体例において、前記ジンセノサイド前駆体は、スクアレン及び2,3−オキシドスクアレンを含む、組換え酵母の製造方法を提供する。
【0071】
本発明の他の具体例において、CPR5、PDI1、ERO1からなる群から選択される少なくとも1つの前記タンパク質フォールディング関与タンパク質の発現レベルを内在性発現レベルより増加させる、組換え酵母の製造方法を提供する。
【0072】
前記タンパク質フォールディング関与タンパク質、CPR5、PDI1、ERO1、内在性発現レベルなどについては前述した通りである。
【0073】
本発明のさらに他の態様は、前記組換え酵母を培養するステップを含む、ジンセノサイド又はその前駆体の生産方法を提供する。
【0074】
前記方法において、前記酵母を培養するステップは、特にこれらに限定されるものではないが、公知の回分培養法、連続培養法、流加培養法などにより行われる。ここで、培養条件は、特にこれらに限定されるものではないが、塩基性化合物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又はアンモニア)又は酸性化合物(例えば、リン酸又は硫酸)を用いて適正pH(例えば、pH5〜9、具体的にはpH6〜8、最も具体的にはpH6.8)に調節してもよく、酸素又は酸素含有ガス混合物を培養物に導入して好気性条件を維持してもよい。培養温度は20〜45℃、具体的には25〜40℃に維持してもよく、約10〜160時間培養してもよい。前記培養により生産されたジンセノサイドは、培地中に分泌されるか、細胞内に残留してもよい。
【0075】
また、用いられる培養用培地は、炭素供給源として糖及び炭水化物(例えば、グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、モラセス、デンプン及びセルロース)、油脂及び脂肪(例えば、大豆油、ヒマワリ油、落花生油及びココナッツ油)、脂肪酸(例えば、パルミチン酸、ステアリン酸及びリノール酸)、アルコール(例えば、グリセリン及びエタノール)、有機酸(例えば、酢酸)などを個別に又は混合して用いることができるが、これらに限定されるものではない。窒素供給源としては、窒素含有有機化合物(例えば、ペプトン、酵母抽出液、肉汁、麦芽抽出液、トウモロコシ浸漬液、大豆粕及びウレア)、無機化合物(例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム及び硝酸アンモニウム)などを個別に又は混合して用いることができるが、これらに限定されるものではない。リン供給源としては、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、それらに相当するナトリウム含有塩などを個別に又は混合して用いることができるが、これらに限定されるものではなく、その他金属塩(例えば、硫酸マグネシウム又は硫酸鉄)、アミノ酸、ビタミンなどの必須成長促進物質を含んでもよい。
【0076】
前記方法は、生産されたジンセノサイドを回収するステップをさらに含んでもよい。この回収ステップは培養された細胞又はその上清から回収するステップであってもよく、当業者が回収に好適な過程を選択することができる。
【0077】
本発明の前記培養ステップで生産されたジンセノサイドを回収する方法は、培養法、例えば回分、連続、流加培養法などにより当該分野で公知の好適な方法を用いて培養液から目的とする生産物を回収することができる。
【発明の効果】
【0078】
本発明のジンセノサイド生産性が向上した組換え酵母は、配列番号1の塩基配列を有するCPR5、配列番号2の塩基配列を有するPDI1、又は配列番号3の塩基配列を有するERO1からなる群から選択される少なくとも1つの発現レベルが内在性発現レベルより増加するように改変されてジンセノサイド生産能が強化されるので、ジンセノサイド生産に効果的に活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
図1】タンパク質フォールディングの改良によるジンセノサイド生産量の増加について簡単に説明する図である。
図2】ジンセノサイド生合成代謝経路を示す図である。
図3】CPR5、PDI1又はERO1遺伝子を過剰発現するために作製されたベクターであるpUC57−URA3HA−PGK1のベクターマップを示す図である。
図4】CPR5、PDI1又はERO1が過剰発現した場合における、対照群と比較したスクアレン、2,3−オキシドスクアレン及びプロトパナキサジオールの生産量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0080】
以下、実施例及び実験例を挙げて本発明をより詳細に説明する。しかし、これらの実施例及び実験例は本発明を例示的に説明するためのものであり、本発明がこれらの実施例及び実験例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0081】
PPD酵母変異株の作製
本発明の酵母細胞は、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae: S. cerevisiae)CEN.PK2−1D野生型菌株[(MATα ura3-52; trp1-289; leu2-3,112; his3△ 1; MAL2-8; SUC2), EUROSCARF accession number: 30000B]に、ジンセノサイド生合成代謝経路を導入し、ジンセノサイド生合成に必須の前駆体であるスクアレン(squalene)の生合成を増大させるためにメバロン酸代謝経路を強化することにより、プロトパナキサジオール(protopanaxadiol; PPD)を生産する酵母菌株を作製し、前記酵母菌株をPPD酵母変異株と命名した。
【0082】
PPD菌株の遺伝子型は、S.cerevisiae CEN.PK2−1D Δtrp1::PGPD1 tHMG1 + PGPD1 PgSE + Δleu2::PGPD1 PgDDS + PGPD1 PgPPDS + PGPD1 PgCPRである。ジンセノサイド生合成酵素であるPgDDS(Panax ginseng, dammarenediol-II synthase, 配列番号4)、PgPPDS(Panax ginseng cytochrome P450 CYP716A47, 配列番号5)、及びPgCPR(Panax ginseng, NADPH-cytochrome P450 reductase, 配列番号6)と、メバロン酸代謝経路を強化するための代謝経路の酵素であるtHMG1(S.cerevisiae HMG-CoA reductase, 配列番号7)及びPgSE(Panax ginseng, squalene epoxidase, 配列番号8)をコードする遺伝子をそれぞれ高発現構成的プロモーターであるGPD1(TDH3)プロモーターから転写されて発現するようにした。
【実施例2】
【0083】
CPR5、PDI1又はERO1過剰発現酵母変異株の作製
PPD酵母変異株において、タンパク質フォールディングに関与するタンパク質であるCPR5、PDI1又はERO1の過剰発現が前記酵母変異株の成長及びPPD生産能に関与するか否かを確認するために、前記CPR5、PDI1又はERO1の遺伝子が過剰発現した酵母変異株を作製した。まず、CPR5、PDI1又はERO1遺伝子の過剰発現を誘導するために、前記遺伝子のプロモーターを高発現構成的プロモーターであるPGK1プロモーターに置換するためのPGK1プロモーター置換ベクターを作製し、前記ベクターを用いて作製した置換カセットをPPD酵母変異株に形質導入することにより、CPR5、PDI1又はERO1過剰発現酵母変異株を作製した。
【0084】
具体的には、PGK1プロモーター置換ベクターを作製するために、S.cerevisiae CEN.PK2−1のゲノムDNAから高発現構成的プロモーターであるPGK1プロモーター部位配列に、プロモーターの5’及び3’部位にそれぞれ制限酵素SacI及びXbaI認識部位を有するようにPGK1 pro F及びPGK1 pro Rプライマー組み合わせ(表1)を用いたPCR(Polymerase Chain Reaction)を行うことによりPCR断片を増幅し、その後それを電気泳動することにより目的とする断片を得た。ここで、PCR反応は、95で30秒間の変性、56で30秒間のアニーリング、及び72で30秒間の伸長過程を25回繰り返した。前記増幅した断片をSacI及びXbaIで処理し、同じ制限酵素で処理したpUC57−URA3HAベクター(非特許文献3)に挿入してpUC57−URA3HA−PGK1ベクター(配列番号9)(図3)を作製した。
【0085】
前記pUC57−URA3HA−PGK1ベクターの作製のためのプライマー配列及び制限酵素を下記表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
前述したように作製したpUC57−URA3HA−PGK1ベクターを鋳型とし、CPR5プロモーター部位の相同組換え配列であるP_CPR5 F及びP_CPR5 Rプライマー(配列番号12,13)組み合わせを用いたPCRを行うことにより、CPR5プロモーターをPGK1プロモーターに置換するカセットを作製した。同様に、PDI1プロモーター部位の相同組換え配列であるP_PDI1 F及びP_PDI1 Rプライマー(配列番号14,15)組み合わせを用いたPCRを行うことにより、PDI1プロモーターをPGK1プロモーターに置換するカセットを作製し、またERO1プロモーター部位の相同組換え配列であるP_ERO1 F及びP_ERO1 Rプライマー(配列番号16,17)組み合わせを用いたPCRを行うことにより、ERO1プロモーターをPGK1プロモーターに置換するカセットを作製した。ここで、PCR反応は、95で30秒間の変性、56で30秒間のアニーリング、及び72で2分間の伸長過程を25回繰り返した。
【0088】
作製したCPR5プロモーター、PDI1プロモーター又はERO1プロモーター置換用カセットを前記PPD酵母変異株にそれぞれ導入した。導入は一般的な熱ショック形質転換(heat shock transformation)により行われ、形質転換後にウラシルドロップアウト培地(Yeast Nitrogen Base without amino acids 6.7g, CSM minus uracil 0.77g, Glucose 20g, 1L中)で細胞を培養し、ゲノム上のCPR5プロモーター、PDI1プロモーター又はERO1プロモーターが前記カセットによりPGK1プロモーターに置換されるようにした。
【0089】
結果として得られた酵母変異株においてPGK1プロモーターに置換されたことを確認するために、前記細胞のゲノムを鋳型とし、CPR5 to PGK1 F及びCPR5 to PGK1 Rプライマー(配列番号18,19)組み合わせを用いたPCRを行うことにより、CPR5プロモーターがPGK1プロモーターに置換されたことを確認した。また、PDI1 to PGK1 F及びPDI1 to PGK1 Rプライマー(配列番号20,21)組み合わせ、又はERO1 to PGK1 F及びERO1 to PGK1 Rプライマー(配列番号22,23)組み合わせを用いたPCRを行うことにより、PDI1プロモーター又はERO1プロモーターがPGK1プロモーターに置換されたことを確認した。その結果、PPD−CPR5(PCPR5::PPGK1)、PPD−PDI1(PPDI1::PPGK1)及びPPD−ERO1(PERO1::PPGK1)酵母変異株が作製された。
【0090】
前記PGK1プロモーター置換カセットの作製及び置換の確認のためのプライマー配列を下記表2に示す。
【0091】
【表2】
【実施例3】
【0092】
形質転換された酵母変異株の成長及びPPD生産量の確認
前述したように作製した形質転換酵母変異株を2%ブドウ糖含有最小培地(minimal URA drop-out media)50mlにOD600値が0.5になるように接種し、30にて250rpmで攪拌しながら144時間好気条件で培養した。培養中の細胞成長については、分光光度計(spectrophotometer)を用いてOD600値を測定した。培養中の細胞内代謝産物(squalene, 2, 3-oxidosqualene, Protopanaxadiol)については、HPLC(High performance liquid chromatography)を用いて分析を行った。
【0093】
培養の結果(72h及び144h)、細胞成長、すなわち培養物のOD600値及び各細胞内代謝産物の濃度は下記の表3、表4及び図4に示すものとなった。
【0094】
前述したように作製した形質転換酵母変異株の培養による代謝産物濃度を下記表3に示す。
【0095】
【表3】
【0096】
前述したように作製した形質転換酵母変異株の培養による代謝産物濃度の倍数値(144h)を表4に示す。
【0097】
【表4】
【0098】
表3及び4において、対照群はPPD酵母変異株(S. cerevisiae CEN.PK2-1D Δtrp1::PGPD1 tHMG1 + PGPD1 PgSE + Δleu2::PGPD1 PgDDS + PGPD1 PgPPDS + PGPD1 PgCPR)であり、CPR5強化菌株はPPD−CPR5(PCPR5::PPGK1)であり、PDI1強化菌株はPPD−PDI1(PPDI1::PPGK1)であり、ERO1強化菌株はPPD−ERO1(PERO1::PPGK1)である。表4における値は、対照群酵母変異株の各代謝産物(squalene, 2, 3-oxidosqualene, protopnanxadiol)の生産濃度を1とした場合の、作製した酵母変異株から生産された各代謝産物の倍数値を示す。
【0099】
前記結果から、前記酵母変異株の形質転換は細胞成長に大きな影響を及ぼさないことが確認された。また、細胞内代謝産物の濃度測定結果から、CPR5、PDI1又はERO1を過剰発現させるとタンパク質フォールディングの増加に伴ってUPR(Unfolded protein response)が減少し、それによりジンセノサイド生合成の代謝産物が増加し、これは最終的にジンセノサイド生産能が向上したものと予測される。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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