(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6826611
(24)【登録日】2021年1月19日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】少なくとも2つの異なる強度の領域を有する自動車部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/00 20060101AFI20210121BHJP
C21D 1/673 20060101ALI20210121BHJP
C21D 1/18 20060101ALI20210121BHJP
C23C 10/50 20060101ALI20210121BHJP
C23C 10/56 20060101ALI20210121BHJP
C23C 10/26 20060101ALI20210121BHJP
B21D 22/20 20060101ALI20210121BHJP
B21D 22/26 20060101ALI20210121BHJP
【FI】
C21D9/00 A
C21D1/673
C21D1/18 C
C23C10/50
C23C10/56
C23C10/26
B21D22/20 H
B21D22/26 D
【請求項の数】16
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-544516(P2018-544516)
(86)(22)【出願日】2017年2月23日
(65)【公表番号】特表2019-512594(P2019-512594A)
(43)【公表日】2019年5月16日
(86)【国際出願番号】EP2017054231
(87)【国際公開番号】WO2017144612
(87)【国際公開日】20170831
【審査請求日】2018年10月22日
(31)【優先権主張番号】16157417.3
(32)【優先日】2016年2月25日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518033288
【氏名又は名称】ベンテラー マシネンバウ ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100120662
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 桂子
(72)【発明者】
【氏名】ヒールシャー、クリスツィアン
(72)【発明者】
【氏名】ウェルネケ、シモン
(72)【発明者】
【氏名】ホルン、ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ドボラック、 ボレク
(72)【発明者】
【氏名】コウツ、ラドバン
(72)【発明者】
【氏名】シェーレ、マルタン
【審査官】
伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2010/0300584(US,A1)
【文献】
国際公開第2015/110456(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/00− 9/44
C21D 1/18
C21D 1/673
C22C 38/00−38/60
B21D 22/20−22/30
C23C 10/00−10/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる強度を有する少なくとも2つの領域と保護層とを有する自動車部品(14)の製造方法であって、
金属でプレコートされたブランク(2)であって、硬化させることができる鋼合金からなり、プレカットされたブランクを提供し、
AC1温度以上の加熱温度まで均一に加熱し、
プレコーティングとブランク(2)を合金化するために、前記加熱温度を保持し、
合金化されたブランク(2)を、450℃と700℃との間であって、少なくとも前記加熱温度の未満の中間冷却温度まで均一に中間冷却し、前記ブランク(2)を第1のタイプの領域(10)で中間冷却温度から少なくともAC3温度まで部分加熱し、第2のタイプの領域(11)を中間冷却温度で保持し、
自動車部品(14)を形成するために、部分的に焼き戻されたブランク(12)を熱間成形およびプレス硬化し、1400MPaより大きい引張強度が第1のタイプの領域(10)で生成され、1050MPaより小さい引張強度が第2のタイプの領域(11)で生成され、前記第1のタイプの領域(10)と前記第2のタイプの領域(11)との間に50mm未満の幅を有する遷移領域(19)が生成され、
前記中間冷却により、ベイナイト微細構造が生成される、方法。
【請求項2】
前記加熱温度が、AC3温度以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
加熱温度への均一加熱が連続炉(3)中で実施される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
中間冷却温度への均一な中間冷却が、連続炉(3)またはチャンバ炉で実施される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記遷移領域(19)が、40mm未満の幅(20)を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記遷移領域(19)が、30mm未満の幅(20)を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記遷移領域(19)が、25mm未満の幅(20)を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
AlSiコーティングがプレコーティングとして使用される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
均一な中間冷却が多段階で実施される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
中間冷却の第1段階が、より低い冷却速度の第2段階またはその後の段階と比較して、より高い冷却速度で実施される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記部分加熱が、接触加熱によって実施される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記接触加熱が、接触板(9a)またはローラーによって実施される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記部分加熱が、異なる温度の少なくとも2つのゾーン(16、17)を含む炉内で実施される、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
熱間成形およびプレス硬化が、複数のブランクに対して同時に実施される、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
第2のタイプの領域(11)において、750〜1050MPaの引張強さが生成される、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記自動車部品が、自動車のピラー、長手部材、レールまたは枠、または車体部品である、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1に記載の特徴による、異なる強度の少なくとも2つの領域と保護層とを有する自動車部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シートメタル成形によって自動車部品を製造することが知られている。一方で、例えばエンジンフードまたは屋根外板などの外装を含む板金部品が製造されている。しかしながら、モノコックボディの場合には、自動車の構造部品も製造される。これらの構造部品は、特に、自動車のピラー(支柱)、ルーフレール、枠(シル)、クロス部材、または長手部材、ならびに自動車のボディ(本体)に組み込まれた他の構造部品である。
【0003】
自動車の車体自体に対する安全要件の増大、ならびに燃料消費の低減およびCO2排出の低減に対する法定要件に伴い、従来から知られている熱間成形およびプレス硬化技術が十分に確立されている。この目的のために、硬化され得る鋼合金製のシート金属部品は、最初に、材料構造がオーステナイト化するように、AC3より高い温度まで加熱される。まだ熱を持った状態において、次にブランクが形成され、形成が完了すると、材料構造が硬化するように急速に冷却される。特に、マルテンサイトが形成される。
【0004】
結果として、より薄い壁厚を有する部品を製造することが可能であり、この態様は、部品の重量を低減するが、同時に、少なくとも一定またはより高い強度を有する。
【0005】
さらに、文献DE102 08 216 C1には、プレス成形工程中において既に、異なる強度の領域を有する部品を製造することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】DE 102 08 216 C1
【発明の概要】
【0007】
しかしながら、硬化され得る鋼合金から作られる構成要素は、腐食に対しても脆弱である。そのため、保護層またはコーティングとも呼ばれる耐腐食層を、熱間成形およびプレス硬化された構成要素に提供することもまた、従来から知られている。
【0008】
本発明の目的は、耐腐食性を示し、異なる強度の領域を選択的に明確に画定した、コスト効率の高い方法で、自動車部品を製造する方法を提供することである。
【0009】
上記目的は、本発明によれば、請求項1に開示された特徴による方法によって達成される。
【0010】
本方法の有利な実施形態は、従属請求項に記載されている。
【0011】
異なる強度を有する少なくとも2つの領域と耐食層とを有する自動車部品を製造するための本発明の方法は、以下のプロセスステップを特徴とする。
- プレコートされたブランクであって、特に鋼合金で作られプレカットされ、硬化させることができるブランクを提供する、
- 少なくともAC1温度以上、好ましくはAC3温度以上の加熱温度まで、均一に加熱する、
- プレコーティングをブランクと合金化するために、加熱温度を保持する、
- 合金化されたブランクを450℃と700℃との間であるが少なくとも加熱温度未満の中間冷却温度まで均一に中間冷却し、任意選択で、中間冷却温度を一定期間保持する、
- 中間冷却温度+/−50℃から少なくともAC3温度まで、第1のタイプの領域においてブランクを部分的に加熱し、第2のタイプの領域を、実質的に中間冷却温度+/−50℃に保持する、
- 自動車部品を形成するために、部分的に焼き戻された(tempered)ブランクを熱間成形してプレス硬化する。ここで、引張り強度が1400MPaを超える第1のタイプの領域で生成され、引張り強度が1050MPa未満の第2のタイプの領域で生成され、これらの領域の間に、50mm未満の幅を有する遷移領域が生成される。
したがって、本方法の第1のステップは、硬化され得る鋼合金で作られたプレコートされた出発材料を提供することである。この場合、前記硬化性鋼合金は、コイルから巻き戻され、既にブランクに個片化されている鋼材料であってもよいし、あるいは、直接プレカットされたブランクであってもよい。これに関連して、プレカットブランクは、ほぼ、最終輪郭に近く、部品が熱間成形後に有すると考えられるトリミングを有する。
【0012】
この出発物質は、プレコートされる。この場合、それは、特に、アルミニウムシリコンコーティングである。硬化され得る鋼合金は、好ましくはホウ素−マンガン鋼である。
【0013】
次いで、この時点で、出発材料は、AC1温度以上、好ましくは硬化され得る鋼合金の鉄炭素ダイアグラムのAC3温度以上の加熱温度まで加熱される。さらに、この加熱温度は、好ましくは一定時間、特に90秒〜300秒間維持される。この場合、プレコートとブランクとの合金化が起こる。これは、プレコートをブランクの表面に拡散させる、とも説明される。コーティングは、20μm〜40μmの層厚を有することが好ましい。特に、明確な金属間相が形成される。加熱温度への均一な加熱は、特に連続炉内で行われる。
【0014】
一旦加熱温度に達すると、特に加熱温度の保持段階が完了すると、合金化ブランクの予備被覆による中間冷却温度への均一な中間冷却が行われる。中間冷却温度は好ましくは450℃と700℃との間であり、少なくとも加熱温度未満である。したがって特に好ましくはAC1未満である。好ましくは、中間冷却温度+/−50℃が、保持期間の間、保持される。中間冷却により、特に中間冷却の温度範囲により、目標とする方法で1つ以上の材料構造を製造することが可能である。中間冷却温度を約500℃に選択すると、材料構造は、急冷硬化後に750MPa〜1050MPaの引張強度を有するベイナイトに主に変態する。中間冷却温度が約600℃に選択される場合、およそ500MPaから750MPaまでの引張り強さを有する、フェライト/パーライトを主成分とする微細構造が、急冷硬化後に形成される。例えば、ベイナイト系材料構造を製造するために、ブランクは約500℃の冷却温度まで、毎秒3〜15℃の冷却速度で冷却される。その後の保持時間は、好ましくは30秒〜90秒である。フェライト/パーライト材料構造を得るために、ブランクは約600℃の温度まで、毎秒3〜15℃の冷却速度で冷却され、この中間冷却温度も、30秒〜90秒の間、保持される。
【0015】
自動車部品の領域が異なる強度を示すために、特に、いくつかの領域が、1300MPaを超える、特に1400MPaを超える、より好ましくは1550MPaを超える引張強度を有する高強度または超高強度特性を示すために、均一に中間冷却され合金化されたブランクは、第1のタイプの領域において、したがって、特定の領域において、中間冷却温度+/−50℃から少なくともAC3温度まで、部分的に加熱される。残りの領域は、第2のタイプの領域と呼ばれ、実質的に中間冷却温度+/−50℃に保持される。第1のタイプの領域を少なくともAC3温度、好ましくは930℃〜980℃まで加熱する処理が、好ましくは第1のタイプの領域が完全にオーステナイト化するように実行される。第1のタイプの領域のこの加熱が少なくともAC3温度まで実施される場合、領域間で異なる方法で部分的に焼戻されたブランクは、熱間成形およびプレス硬化工具に移され、この焼戻し状態で熱間成形され、次いでプレス硬化される。このようにして、1400MPaを超える、好ましくは1550MPaを超える引張強度が第1のタイプの領域で生成され、1050MPa未満の引張強度Rmが第2のタイプの領域で生成される。
【0016】
本発明によれば、第1のタイプの領域と第2のタイプの領域との間の遷移領域は、50mm未満の幅を有することも提供される。特に、この幅は、第1のタイプの領域の少なくともAC3温度への部分加熱を、特に短時間で、特に毎秒30℃を超える加熱速度で実施することによって達成することができる。加熱時間は、好ましくは20秒未満、特に15秒未満、より好ましくは10秒未満である。ブランク内で起こる第1のタイプの領域から第2のタイプの領域への熱伝導は、時間の短さによりわずかな程度しか起こらず、その結果、後続の熱間成形およびプレス硬化によって、はっきりと画定された遷移領域が達成される。熱間成形およびプレス硬化のサイクル時間は、好ましくは約10秒〜20秒、特に15秒である。さらに、特に、中間冷却の完了、より具体的には、中間冷却の保持時間の完了と、熱間成形およびプレス硬化工具との間の比較的短い移送時間が実現される。好ましくは、転送時間は2秒〜15秒である。
【0017】
さらに、加熱温度への均一な加熱は、連続炉中で行うことが特に好ましい。この目的のために、連続炉は、好ましくは、加熱温度に達し、これを保持するために、予備被覆合金となる第1のゾーンを有する。連続炉は、場合によっては、通過方向において前後に配置される部分ゾーンを有することができる。例えば、第1のゾーンは、加熱温度に迅速に到達するように、AC3温度よりも有意に高い超過温度を有し得る。例えば、超過温度は1000℃より大きくてもよく、特に1100℃より大きく、好ましくは1200℃を超える。次いで、この第1のゾーンに、コーティングを合金化するための第2の温度ゾーンが輸送方向に続く。第2の温度ゾーンにおける温度は、好ましくはAC3であるか、またはAC3温度のわずか上であるか、または、より具体的にはAC3温度+/−30℃であり、これにより、被覆合金およびブランクが完全にオーステナイト化する。
【0018】
次いで、輸送方向において第2のゾーンの後に、特に450℃から700℃の間の温度を目標とした均一な冷却のために、第3のゾーンを設けることができる。
【0019】
第2のゾーンと第3のゾーンとは、好ましくは、熱放出材によって互いに分離される。
【0020】
任意選択的に、追加的または代替的に、第2のゾーンと第3のゾーンとは、通過方向において前後に配置され、および/または上下に配置され、または部分的に重なり合う複数の誘導装置によって調整される。連続炉は、内部炉雰囲気または温度を有するバーナー炉としてその基本モードで運転することができる。次いで、誘導装置は、第2および第3のゾーンを、少なくとも局所的に、より高い温度にさらに加熱する。
【0021】
中間冷却温度への均一な中間冷却、および所望により、中間冷却温度の任意の保持も、好ましくは連続炉中で行われる。中間冷却のためのこの連続炉は、好ましくは連続炉モジュールとして設計され、特に、加熱温度まで加熱する連続炉に直接接続される。
【0022】
代替として、中間冷却は、チャンバ炉内で行うこともできる。さらに、代替として、別個の冷却ステーションを使用することも可能である。第3の変形例として、空気中で冷却することも可能である。空気冷却は、空気中での受動的中間冷却として実施することができる。特に、空気中での受動的な中間冷却の場合、中間冷却温度の能動的な保持段階が実行される。能動的とは、加熱手段を使用することを意味する。この能動的な保持段階は、例えばチャンバ炉、多層炉、または緩衝炉においても行うことができる。さらに、連続炉モジュールは、均一加熱および均一中間冷却全体に使用され、中間冷却を実行するために、冷却ステーションまたは冷却プレートが連続炉モジュールに一体化される。
【0023】
その結果、本発明の方法は、特に、自動車用の構造部品を製造するために使用することができる。前記構造部品は、小面積、ストリップ状、および/または島状の軟質領域として、第2のタイプの領域を有することになる。これらの領域は、例えば、トリガーストリップまたは側壁アイランド(side wall islands)であってもよく、その結果、特定の所定の変形点は、車両衝突の場合に最初に変形される。結合箇所、特に、2つの自動車部品を互いに結合するための部品の結合フランジは、第2のタイプの領域つまり軟質領域で形成することができ、その結果、自動車衝突および変形の場合に、これらの領域の結合箇所が引き裂かれることが防止され、後続のジョイントに沿った破損への影響が低減される。
【0024】
さらに、本発明の方法は、40mm未満、特に30mm未満、より好ましくは25mm未満の幅の遷移領域を設定することを可能にする。結果として、極めて鮮明に画定された異なる強度の領域を達成することが可能である。
【0025】
この点に関して、第2のタイプの領域、特に軟質領域は、小さい面積のみを覆うか、または占めるように、しかし、好ましくは自動車部品の全面積に基づいて形成される。自動車部品の主要部分は、硬化された材料構造、すなわち第1のタイプの領域を有するべきである。好ましくは、自動車部品の70%以上、特に80%以上、より好ましくは90%以上が、第1のタイプの領域を含む。
【0026】
さらに、中間冷却温度への中間冷却は、特に好ましくは多段階で、したがって少なくとも2段階で実施することができる。中間冷却の第1段階は、より低い冷却速度を有する第2段階よりも高い冷却速度を有する。これは、中間冷却の第1段階において温度がより低下することを意味する。中間冷却の第2段階では、より長い時間をかけて、より小さい降下温度が達成される。次いで、少なくとも2段階の中間冷却の後に、中間冷却温度での保持段階を順番に行うことができる。
【0027】
中間冷却の実施に応じて、ベイナイト系を主成分とする微細構造またはフェライト/パーライト系を主成分とする微細構造がこのようにして生成される。しかしながら、フェライト、パーライトおよびベイナイトの混合構造を中間冷却で製造することも可能である。
【0028】
中間冷却に続いて、部分加熱が、特に第1のタイプの領域を接触加熱することによって実施される。同時に、第2のタイプの領域は、特に実質的に中間冷却温度に保持される。部分加熱は、特に好ましくは接触加熱によって行われる。この目的のために、接触板を合金化ブランクの表面上に配置する。伝導、すなわち、接触プレートからブランクへの熱伝導が起こる。この目的のために、接触板は、AC3温度以上の温度を有することが好ましい。接触板自体は、誘導によって、熱放射によって、特にバーナー加熱によって加熱される。また、加熱手段、例えば、加熱カートリッジまたは加熱ワイヤを接触板に設置することができる。しかし、接触板自体を電気抵抗ヒータとして設計することも可能である。接触プレートに電圧を印加することによって、接触プレートはそれ自体を加熱する。接触プレートがブランク上に配置される場合、熱は、接触プレートからブランクに、特に少なくとも第1のタイプのオーステナイト化領域に伝導される。
【0029】
代替として、部分加熱は、少なくとも2つのゾーンを有する炉内で行うことが可能である。冷却プレートまたはテンパリングプレートを炉に組み込むか、またはブランク上に配置して、冷却プレートが中間冷却温度で第2のタイプの領域を保持し、第1のタイプの領域が炉内でAC3以上の温度に加熱されるようにすることも可能である。炉は、連続炉として設計することができるが、チャンバ炉、多層炉、またはバッファ炉としても設計することができる。
【0030】
代替として、第1のタイプの領域がレーザ放射によって直接加熱されることも可能である。この構成は、AC3以上に加熱されるべきではない第2のタイプの領域が広範囲に設けられる場合に、特に有用である。
【0031】
したがって、本発明の方法は、特に、より軟質の領域すなわち第2のタイプの領域に、マルテンサイト成分を有するベイナイト微細構造に対応する性質として、750MPaと1050MPaとの間の引張強度を設定することを可能にする。さらに、より軟質の領域において、フェライト/パーライト微細構造比率に対応する600MPaと750MPaとの間の引張強度を設定することが可能である。
【0032】
その結果、特に自動車部品を構造部品として製造することができる。それらは、好ましくは自動車のピラーであり、さらにより好ましくはAラーまたはBピラーである。しかしながら、長手方向部材を製造することも可能である。さらに、レール、特に屋根レールまたは枠(sill)さえも製造することができる。しかし、ボディ部品も、本発明の方法によって製造することもできる。特に、結合フランジ、所定の変形箇所、結合領域、穴縁部、トリガーストリップおよび/または側壁アイランドは、第2のタイプの領域、すなわちより軟らかい領域として形成される。
【0033】
熱間成形及びプレス硬化工具として多段落下工具(multi−fold falling tool)を使用することが特に好ましい。特に、2段落下または4段落下ツールである。このことは、1回の移動の間に、2つの構成要素が同時に形成され、形成の完了後に、2つの構成要素も同時にプレス硬化されることを意味する。4段落下工具の場合、4つのブランクは、閉じる動きの間に、構成要素に同時に形成され、続いて、4つの構成要素の全てがプレス硬化される。
【0034】
さらに、2つの個別の温度制御ステーションが、2段落下熱間成形およびプレス硬化工具のために使用され得ることが特に好ましい。中間冷却のための冷却ステーションおよびAC3を超える部分加熱のための部分加熱ステーションの両方を、温度制御ステーションと呼ぶことができる。これは、2つの別個の中間冷却ステーションおよび/または2つの別個の加熱ステーションが、2段落下熱間成形およびプレス硬化工具のために使用されることを意味する。4段落下熱間成形およびプレス硬化工具の場合、2つの2段落下温度制御ステーション、すなわち、2つの2段落下冷却ステーションおよび2段落下部分加熱ステーションを使用することができる。
【0035】
温度制御ステーションは、好ましくは、熱間成形およびプレス硬化工具のプレスサイクルで作動する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】接触加熱による方法を実施するための本発明の熱間成形ラインである。
【
図2】2ゾーン炉加熱による
図1の代替設計変形である。
【
図4】この方法を実施するための時間−温度図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
なお、説明を簡略化するために重複する説明を省略する場合であっても、各図において同一または類似の構成要素には同一の符号を付してある。
【0038】
図1は、本発明の方法を実施するための本発明の熱間成形ライン1を示す。まず、ブランク2が、プレカットブランクの形態で、ここでは特にBピラーのために提供される。このブランクは、連続炉3を通過し、連続炉3の第1の加熱ゾーン4において、ブランク2は、AC1以上、特にAC3以上の温度に加熱される。従って、連続炉3の加熱ゾーン4の端部5において、ブランク2は加熱温度を示す。しかしながら、それは、端部5に達する前に加熱温度を示すこともでき、次いで、加熱ゾーン4において、残りの時間、加熱温度を保持する。この場合、プレコーティングはブランク2と合金化し、加熱ゾーン4の端部5で、コーティングはブランク2と完全に合金化する。
【0039】
この加熱ゾーンの後に中間冷却ゾーン6が続き、そこでブランク2は450℃と700℃との間であって、少なくとも加熱温度未満の温度に冷却される。中間冷却ゾーン6の端部7において、均一に中間冷却されたブランク8は中間冷却温度を示す。
【0040】
次に、均一に中間冷却されたブランク8は、接触加熱ステーション9に移送され、接触加熱ステーション9を閉じることにより、ブランク2は、接触板9aとの領域接触により、第1のタイプ10の領域で少なくともAC3の温度まで部分的に加熱される。第2のタイプ11の領域では、ブランク2は、実質的に中間冷却温度+/−50℃に相当する温度を有する。特に、この温度は、第1のタイプ10の領域が、接触加熱ステーション9の接触プレート9aと直接的に接触するベアリングを有することによって達成される。第2のタイプの領域11は、接触板9a上に直接位置しておらず、すなわち、凹部9dが絶縁空隙9bとしてその間に配置されている。接触板9a自体は、加熱手段9c、例えばインダクタによって加熱される。熱間成形およびプレス硬化の後、焼戻しブランク12上の第1のタイプの領域10および第2のタイプの領域11は、高い強度を有する第1のタイプ領域10および比較的低い強度を有する第2のタイプの領域11と同等とすべきである。
【0041】
次いで、部分的に強化されたブランク12は、熱間成形およびプレス硬化工具13に直接移送され、熱間成形およびプレス硬化によって、異なる強度の2つの領域を有する自動車部品14に成形される。ここでは、Bピラーの製造が示されており、成形後、プレカットブランクは、Bピラーの最終輪郭に適合され、成形プロセス後、Bピラーは、断面において帽子形の輪郭を有する。しかしながら、本発明の方法によって、レール、長手方向部材、並びに自動車の他の構造部品を製造することも可能である。
【0042】
さらに、
図1は、熱間成形およびプレス硬化工具13を示し、ここでは、特に、2段落下工具として示されている。これは、閉鎖運動により、2つの構成要素が同時に形成され、プレス硬化されることを意味する。また、4段落下工具を使用することが好ましい場合がある。接触加熱ステーション9はまた、2段落下、好ましくは4段落下様式で設計することもできる。
【0043】
図2は、接触加熱ステーション9とは対照的に、ゾーン炉15が本明細書で使用される、
図1の代替設計変形例を示す。ゾーン炉15は、より高い温度、特にAC3温度以上の第1のゾーン16と、より低い温度、すなわち+/−50℃の中間冷却温度に相当するより低い温度の第2のゾーン17とを有する。例えば、隔壁18等をゾーン炉15内に配置して、中間冷却温度にあるブランク8を異なる領域で相応に焼き戻すことができる。この場合も、第1のタイプの領域10と第2のタイプの領域11とを有する、部分的に強化されたブランク12が製造され、このブランクは続いて熱間成形され、プレス硬化される。ゾーン炉15は、2ゾーン炉である必要はなく、第1のタイプおよび第2のタイプの領域10、11の幾何学的位置に応じて、複数ゾーン炉として設計することもできる。ゾーン炉15は、連続炉として運転することができる。しかし、特に多層炉として空間を節約するために、多層構造に設計することもできる。また、多層連続炉として設計することもできる。第1のゾーン16では、炉が著しく高い内部温度、特に1,000℃よりも高い内部温度を有することが特に好ましい。
【0044】
図3は、第1および第2のタイプの領域10、11と、2つの領域の間の遷移領域19を示す。遷移領域19は、第1のタイプの領域10と第2のタイプの領域11との間に幅を持って延在する。幅は、本発明によれば、好ましくは50mm未満である。この場合、第2のタイプの領域11は、島領域または内陸領域として設計される。その結果、それは、第1のタイプの領域10によって完全に囲まれる。本発明によれば、第1のタイプの領域10は、好ましくは1400MPaより大きい、特に1500MPaより大きい引張強度を有する。引張強度は、約2000MPaに制限されるべきである。しかし、鋼合金によってより大きな引張強度を達成することが可能であれば、これも本発明の範囲内である。
【0045】
図4は、本発明の方法のシーケンスを概略的に示し、ここで生成される温度Tは、Y軸上に摂氏温度で示され、秒単位の時間は、X軸上に示されるが、縮尺通りではない。まず、時間S0において、ブランク2を室温で供給する。次いで、このブランクを連続炉3に入れ、時間S1まで加熱温度(ここでは約AC3で示す)まで加熱する。例として示される加熱プロセスは、実際には、直線状、漸進的、二分的、または混合形態であり得る。これらは、ここでは、直線によって示され、単に例示の目的のために、縮尺通りではない。加熱時間は、約300〜400秒、特に320〜380秒、好ましくは350〜370秒、特に360秒である。この時間は、時間S2までの加熱温度の保持を既に含むこともできる。時間S2において、均一に加熱され合金化されたブランク8は、均一な中間冷却に移され、中間冷却温度まで均一に冷却される。これは、好ましくは30秒〜200秒、好ましくは50秒〜100秒の期間で実施される。従って、均一に中間冷却された温度は、時間S3で中間冷却ステーションを出て、部分加熱ステーション、例えば接触加熱ステーション9に送られる。これは時間S4に示される。S3からS4への転送時間は、できるだけ短いことが好ましい。中間冷却温度から部分加熱温度への加熱ステップは、時間S3からS5で示される。部分焼き戻しの開始であるS4から部分焼き戻しを停止するS5までは、通常20秒未満、特に15秒未満、好ましくは10秒未満、さらにより好ましくは8秒である。次に、時間S5において、部分的に焼戻されたブランク12は、熱間成形およびプレス硬化ツール13に移送され、熱間成形およびプレス硬化される。その際、第1のタイプの領域10は加熱温度、すなわちAC3温度以上で急冷され、第2のタイプの領域11は中間冷却温度+/−50℃で急冷される。ここではAC1の範囲で示されている。時間S6において、プレス硬化が完了する。プレス硬化された部品の温度は、プレスショップから撤去したとき、室温すなわち約20℃から、200℃の間である。
【符号の説明】
【0046】
1:熱間成形ライン
2:ブランク
3:連続炉
4:3に対する加熱ゾーン
5:4の終端
6:3に対する中間冷却ゾーン
7:6の終端
8:均一中間冷却ブランク
9:接触加熱ステーション
9a:接触板
9b:エアギャップ
9c:加熱手段
9d:凹部
10:第1のタイプの領域
11:第2のタイプの領域
12:部分焼戻しブランク
13:熱間成形・プレス硬化工具
14:自動車部品
15:ゾーン炉
16:15に対する最初のゾーン
17:15の第2のゾーン
18:15に対する隔壁
19:10〜11の遷移領域
20:19に対する幅