(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6826731
(24)【登録日】2021年1月20日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】炎症性呼吸器疾患の予防又は治療用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4192 20060101AFI20210128BHJP
A61K 31/4184 20060101ALI20210128BHJP
A61K 31/44 20060101ALI20210128BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20210128BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20210128BHJP
【FI】
A61K31/4192
A61K31/4184
A61K31/44
A61P11/00
A61P29/00
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-538532(P2017-538532)
(86)(22)【出願日】2016年9月9日
(86)【国際出願番号】JP2016076554
(87)【国際公開番号】WO2017043616
(87)【国際公開日】20170316
【審査請求日】2019年9月4日
(31)【優先権主張番号】特願2015-178885(P2015-178885)
(32)【優先日】2015年9月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】特許業務法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金廣 有彦
(72)【発明者】
【氏名】藤井 詩子
(72)【発明者】
【氏名】森近 大介
(72)【発明者】
【氏名】小田 尚廣
(72)【発明者】
【氏名】宮原 信明
(72)【発明者】
【氏名】谷口 暁彦
(72)【発明者】
【氏名】加来田 博貴
【審査官】
大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/041449(WO,A1)
【文献】
特開2013−177329(JP,A)
【文献】
特開2014−076953(JP,A)
【文献】
特表2003−507465(JP,A)
【文献】
国際公開第2000/061233(WO,A1)
【文献】
特表2007−517037(JP,A)
【文献】
特表2004−505036(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)または下記式(2)で示される化合物であるRXRアゴニストを有効成分とする
、COPDの予防又は治療用医薬組成物。
【化1】
[式中、Dは、CMe
2、Nメチル、Nエチル又はNイソプロピルから選択され;
R
1は、メチル基、ヒドロキシ基、メトキシ基又はエトキシ基から選択され;
R
2は、H、メチル基又はエチル基から選択され;
Xは、N、CH又はC-CF
3から選択され;
Y,Zは、N又はCHから選択される。]
【化2】
[式中、R
3は、直線若しくは分岐状の、非置換若しくは置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基及びアリール基からなる群から選択され;
R
4は、直線若しくは分岐状の、非置換若しくは置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基及びアルコキシ基からなる群から選択され;
Wは、NR
5又はCR
52から選択され;
R
5は水素、直線若しくは分岐状の、非置換若しくは置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基及びアリール基から選択され;
X
1,Y
1は、CH又はNから選択され;
X
2,Y
2は、CH、CR
6又はNから選択され;
R
6は、直線若しくは分岐状の、非置換若しくは置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、ハロゲン、ニトロ基及びアミノ基からなる群から選択され;
Z
1は、直接、又はアルキレン基、アルケニレン基及びアルキニレン基からなる群から選択される連結基を介したカルボキシル基、カルボン酸エステル、又はヒドロキサム酸から選択される。]
【請求項2】
前記式(1)で示される化合物であるRXRアゴニストを有効成分とする、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
下記式(3)で示される化合物であるRXRアゴニストを有効成分とする、請求項
2に記載の医薬組成物。
【化3】
[式中、XはN又はC-CF
3から選択される。]
【請求項4】
前記式(2)で示される化合物であるRXRアゴニストを有効成分とする、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
下記式(4)で示される化合物であるRXRアゴニストを有効成分とする、請求項
4に記載の医薬組成物。
【化4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レチノイドX受容体(retinoid X receptor; RXR)に対する作動性化合物(以降、「RXRアゴニスト」と称す。)を有効成分とする肺気腫、気管支喘息、肺線維症などの炎症性呼吸器疾患の予防又は治療のための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
肺気腫は、肺局所に好中球や肺胞マクロファージなどの炎症細胞浸潤を認め、細気管支の線維化や肺胞が破壊される非可逆性疾患であり、気管支喘息は気道過敏性の亢進、気道狭窄を特徴とする気道の慢性炎症性疾患である。また、肺線維症は肺胞上皮の障害において修復機能が異常に働き、肺間質に線維化が起こる進行性難治性疾患である。
【0003】
肺気腫、気管支喘息及び肺線維症の気道炎症及び気腫化、線維化の病態生理は未だ明らかではない。
【0004】
肺気腫に対しては、気管支拡張剤である吸入長期間作用性抗コリン薬や吸入長期間作用性β2刺激薬等が使用されるが、あくまで対症療法であり根本的な治療薬は未だ確立されていない。また気管支喘息の長期管理として、吸入ステロイド薬と吸入長期間作用性β2刺激薬、ロイコトリエン受容体拮抗剤、経口ステロイド薬等にて最適な治療を行ってもコントロール不良な難治性喘息や喘息死が未だ多く存在している。さらに肺線維症に対する有効な治療薬は現在まで開発されていない。
【0005】
レチノイドX受容体(RXR)はDNAの転写を調節する転写因子の一種である核内受容体であり、リガンド依存的に転写を調節する。RXRは遺伝子発現に関与しており、ホモダイマーもしくは他の核内受容体であるペルオキシソーム増殖剤応答性受容体γ(PPAR-γ)、肝X受容体(LXR)、レチノイド受容体(RAR)、ビタミンD受容体(VDR)、NR4等とヘテロダイマーを形成し作用を発揮する。
【0006】
RXRフルアゴニストは動物実験において糖尿病や炎症性疾患に効果があるとの報告がある。しかし、気道炎症の報告はなされていない。
【0007】
これまでPPAR-γやNR4を活性化することにより制御性T細胞を誘導できる可能性が報告されている。したがって、RXRアゴニストによって上記のRXRヘテロダイマーを活性化すれば相加的又は相乗的な作用が期待できる。
【0008】
興味深いことに、RXRアゴニストによるRXRヘテロダイマーに対する活性化は、RXRアゴニストの構造に依存して差異を生じることが知られる。したがって、RXRパーシャルアゴニストごとにRXRヘテロダイマーに対する活性化能が異なる可能性があり、化合物夫々の薬効を調べてみる必要がある。
【0009】
これまでに、RXRアゴニストNEt-3IBであれば、既知のRXRフルアゴニストに比べて、トリグリセリド上昇などが軽減化することを見出している(例えば、特許文献1参照)。RXRアゴニストNEt-3IBの構造式は、式(5)の通りである。
【0010】
【化1】
【0011】
また本発明者らは、上記のような副作用を生じない新たなRXRアゴニストとして、下記のRXR選択的パーシャルアゴニストを創出している(例えば、特許文献2〜4参照)。
【0012】
【化2】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2010−111588号公報
【特許文献2】特開2013−177329号公報
【特許文献3】国際公開2008/105386号
【特許文献4】特開2014−076953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、炎症性呼吸器疾患に対して従来の方法と異なる作用機序による、予防もしくは治療しうる化合物を有効成分として用いた医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、各種RXRアゴニストについて、各種炎症性呼吸疾患モデルを用いてその薬効を調べ、本発明を完成した。
【0016】
すなわち本発明は、RXRアゴニストを有効成分とする炎症性呼吸器疾患の予防又は治療用医薬組成物である。
【0017】
好ましくは、下記式(1)または下記式(2)で示される化合物であるRXRアゴニストを有効成分とする、前記医薬組成物である。
【0018】
【化3】
【0019】
[式中、Dは、CMe
2、Nメチル、Nエチル又はNイソプロピルから選択され;
R
1は、メチル基、ヒドロキシ基、メトキシ基又はエトキシ基から選択され;
R
2は、H、メチル基又はエチル基から選択され;
Xは、N、CH又はC-CF
3から選択され;
Y,Zは、N又はCHから選択される。]
【0020】
【化4】
【0021】
[式中、R
3は、直線若しくは分岐状の、非置換若しくは置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基及びアリール基からなる群から選択され;
R
4は、直線若しくは分岐状の、非置換若しくは置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基及びアルコキシ基からなる群から選択され;
Wは、NR
5又はCR
52から選択され;
R
5は水素、直線若しくは分岐状の、非置換若しくは置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基及びアリール基から選択され;
X
1,Y
1は、CH又はNから選択され;
X
2,Y
2は、CH、CR
6又はNから選択され;
R
6は、直線若しくは分岐状の、非置換若しくは置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、ハロゲン、ニトロ基及びアミノ基からなる群から選択され;
Z
1は、直接、又はアルキレン基、アルケニレン基及びアルキニレン基からなる群から選択される連結基を介したカルボキシル基、カルボン酸エステル又はヒドロキサム酸から選択される。]
【0022】
ここで、前記式(1)で示される化合物であるRXRアゴニストを有効成分とすることが好ましく、下記式(3)で示される化合物であるRXRアゴニストを有効成分とすることが特に好ましい。
【0023】
【化5】
【0024】
[式中、XはN又はC-CF
3から選択される。]
【0025】
また、前記式(2)で示される化合物であるRXRアゴニストを有効成分とすることが好ましく、下記式(4)で示される化合物であるRXRアゴニストを有効成分とすることが特に好ましい。
【0026】
【化6】
【0027】
本発明の好適な実施態様は、肺気腫の予防又は治療用医薬組成物である。また、本発明の他の好適な実施態様は、気管支喘息の予防又は治療用医薬組成物である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、COPD(肺気腫・慢性気管支炎)、気管支喘息、気管支喘息COPD合併症候群、肺線維症、好酸球性多発血管性肉芽腫症、嚢胞性線維症、急性気管支炎、急性咽頭炎、急性喉頭炎、急性喉頭蓋炎、急性扁桃炎などの急性上気道炎、などの炎症性呼吸器疾患に対する予防又は治療効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】CBt-PMN投与時の肺気腫モデルマウスの静肺コンプライアンス評価のグラフである。
【
図2】NEt-4IB投与時の肺気腫モデルマウスの静肺コンプライアンス評価のグラフである。
【
図3】肺気腫モデルマウスの気管支肺胞洗浄液の細胞分画の細胞数のグラフである。
【
図4】CBt-PMN投与時の肺気腫モデルマウスの肺組織中の平均肺胞間距離を評価したグラフである。
【
図5】NEt-4IB投与時の肺気腫モデルマウスの肺組織中の平均肺胞間距離を評価したグラフである。
【
図6】肺気腫モデルマウスの肺組織のHE染色像の写真である。
【
図7】気管支喘息モデルマウスの肺気道過敏性評価のグラフである。
【
図8】気管支喘息モデルマウスの気管支肺胞洗浄液の細胞分画の細胞数のグラフである。
【
図9】気管支喘息モデルマウスの肺組織のHE染色像の写真である。
【
図10】気管支喘息モデルマウスの気管支肺胞洗浄液の上清中のサイトカイン(IL-5,IL-13)の測定結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の医薬組成物は、炎症性呼吸器疾患を予防または治療するための組成物であり、RXRアゴニストを有効成分とするものである。
【0031】
好適には、下記式(1)または下記式(2)で示される化合物であるRXRアゴニストを有効成分とする、前記医薬組成物である。
【0033】
[式中、Dは、CMe
2、Nメチル、Nエチル又はNイソプロピルから選択され;
R
1は、メチル基、ヒドロキシ基、メトキシ基又はエトキシ基から選択され;
R
2は、H、メチル基又はエチル基から選択され;
Xは、N、CH又はC-CF
3から選択され;
Y,Zは、N又はCHから選択される。]
【0035】
[式中、R
3は、直線若しくは分岐状の、非置換若しくは置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基及びアリール基からなる群から選択され;
R
4は、直線若しくは分岐状の、非置換若しくは置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基及びアルコキシ基、からなる群から選択され;
Wは、NR
5又はCR
52から選択され;
R
5は水素、直線若しくは分岐状の、非置換若しくは置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基及びアリール基から選択され;
X
1,Y
1は、CH又はNから選択され;
X
2,Y
2は、CH、CR
6又はNから選択され;
R
6は、直線若しくは分岐状の、非置換若しくは置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、ハロゲン、ニトロ基及びアミノ基からなる群から選択され;
Z
1は、直接、又はアルキレン基、アルケニレン基及びアルキニレン基からなる群から選択される連結基を介したカルボキシル基、カルボン酸エステル、又はヒドロキサム酸から選択される。]
【0036】
より好適には、下記式(3)又は式(4)で示される化合物であるRXRアゴニストを成分とする組成物である。本発明中において、式(3)においてXがNである化合物のことを「CBt-PMN」と称することがある。また式(4)で示される化合物のことを「NEt-4IB」と称することがある。
【0038】
[式中、XはN又はC-CF
3から選択される。]
【0040】
本発明において、上記の化合物は、さらに、薬学的に許容される塩であってもよい。また、上記のいずれかの化合物又はその塩において、異性体(例えば光学異性体、幾何異性体及び互換異性体)などが存在する場合は、本発明はそれらの異性体を包含し、また溶媒和物、水和物及び種々の形状の結晶を包含するものである。
【0041】
本発明において、薬学的に許容される塩とは、薬理学的及び製剤学的に許容される一般的な塩が挙げられる。そのような塩として、具体的には以下が例示される。
【0042】
塩基付加塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩;トリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、ブロカイン塩等の脂肪族アミン塩;N、N−ジベンジルエチレンジアミン等のアラルキルアミン塩;ピリジン塩、ピコリン塩、キノリン塩、イソキノリン塩等の複素環芳香族アミン塩;テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウム塩、メチルトリオクチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩;アルギニン塩、リジン塩等の塩基性アミノ酸塩等が挙げられる。
【0043】
酸付加塩としては、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、過塩素酸塩等の無機酸塩;酢酸塩、プロピオン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、アスコルビン酸塩等の有機酸塩;メタンスルホン酸塩、イセチオン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩等のスルホン酸塩;アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等の酸性アミノ酸等を挙げることができる。
【0044】
本明細書において用いる用語は、単独で又は他の用語と一緒になって以下の意義を有する。
【0045】
「アルキル基」は、炭素数1〜20、好ましくは1〜10個の直鎖状又は分枝状のアルキル基を意味し、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ぺンチル基、イソぺンチル基、ネオぺンチル基、tert-ぺンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。好ましくは、炭素数1〜6個のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ぺンチル基、イソぺンチル基、ネオぺンチル基、tert-ぺンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基が挙げられる。
【0046】
「アルケニル基」は、上記「アルキル基」に1個又はそれ以上の二重結合を有する炭素数2〜20個、好ましくは2〜8個の直鎖状又は分枝状のアルケニル基を意味し、例えば、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1、3-ブタジエニル基、3-メチル-2-ブテニル基等が挙げられる。
【0047】
「アリール基」は、単環芳香族炭化水素基(フェニル基)及び多環芳香族炭化水素基(例えば、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基等)を意味する。好ましくは、フェニル基又はナフチル基(1-ナフチル基、2-ナフチル基)が挙げられる。
【0048】
「アルキニル基」は、上記アルキル基に1個又はそれ以上の三重結合を有する炭素数2〜20個、好ましくは2〜10個のアルキニル基を意味し、例えば、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基等が挙げられる。
【0049】
「アルコキシ基」とは、炭素数1〜20の直鎖状または分枝(鎖)状のアルコキシ基を意味し、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクタデカノキシ基、アリルオキシ基などが挙げられる。炭素数1〜6個の直鎖状または分枝状の低級アルコキシ基が好ましい。
【0050】
「アシル基」とは、アルカノイル基およびアロイル基などを意味する。該アルカノイル基としては、例えば、炭素数1〜6個、好ましくは1〜4個のアルキル基を有するアルカノイル基(ホルミル基、アセチル基、トリフルオロアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基など)が挙げられる。アロイル基としては、例えば、炭素数7〜15個のアロイル基、具体的には、例えばベンゾイル基、ナフトイル基などが挙げられる。
【0051】
本発明において、上記の化合物は、RXRに対しパーシャルアゴニスト活性を有する。RXRはDNAの転写に関わる核内受容体であることから、上記の化合物は転写調節化合物ということもできる。本明細書において「調節」という用語又はその類似語は、作用の増強又は抑制を含めて最も広義に解釈する必要がある。上記の化合物が増強作用又は抑制作用のいずれを有するかは、以下に示す実施例において具体的に示した方法に従って容易に検定可能である。
【0052】
本発明の医薬組成物を用いる場合には、投与量は特に限定されない。上記の化合物を併用してレチノイドの作用を調節する場合、あるいは、レチノイドを含む医薬を併用せずに、生体内に既に存在するレチノイン酸の作用調節のために本発明の薬剤を投与する場合など、あらゆる投与方法において適宜の投与量が容易に選択できる。例えば、経口投与の場合には有効成分を成人一日あたり0.01〜1000mg程度の範囲で用いることができる。レチノイドを有効成分として含む医薬と本発明の組成物とを併用する場合には、レチノイドの投与期間中、及び/又はその前若しくは後の期間のいずれにおいても本発明の組成物を投与することが可能である。
【0053】
本発明の組成物を有効成分とする医薬として、上記の化合物から選ばれる1種又は2種以上の物質をそのまま投与してもよいが、好ましくは、上記の化合物の1種又は2種以上を含む、経口用あるいは非経口用の医薬組成物として投与することが好ましい。経口用あるいは非経口用の医薬組成物は、当業者に利用可能な製剤用添加物、即ち薬理学的及び製剤学的に許容しうる担体を用いて製造することができる。例えば、炎症性呼吸器疾患に治療効果を示す医薬に上記の化合物の1種又は2種以上を配合して、いわゆる合剤の形態の医薬組成物として用いることもできる。具体的には、吸入ステロイド薬、吸入長期間作用性β2刺激薬、ロイコトリエン受容体拮抗剤、経口ステロイド薬等と併用して用いることもできる。
【0054】
経口投与に適する医薬用組成物としては、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤、及びシロップ剤等を挙げることができ、非経口投与に適する医薬組成物としては、例えば、注射剤、点滴剤、坐剤、吸入剤、点鼻剤、軟膏剤、クリーム剤、及び貼付剤等を挙げることができる。上記の医薬組成物の製造に用いられる薬理学的及び製剤学的に許容しうる担体としては、例えば、賦形剤、崩壊剤ないし崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤ないし溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、及び粘着剤等を挙げることができる。
【0055】
以下において、本発明に係る組成物の各種薬理作用ならびに製造方法を具体的に説明する。本発明の有効成分である化合物の製造方法において用いられた出発原料及び試薬、並びに反応条件などを適宜修飾ないし改変することにより、本発明の組成物に包含される化合物はいずれも製造可能である。本発明の組成物である化合物の製造方法は、実施例に具体的に説明されたものに限定されるものではない。
【実施例】
【0056】
実施例1
<肺気腫マウスの作成、薬効評価>
肺気腫マウスを以下の手順で作成し、薬効評価を行った。
【0057】
[手順1]
BALB/c雌性マウスにペントバルビタール又はイソフルランの投与による麻酔下で気道内に豚膵エラスターゼの投与を行い(day 0)肺気腫モデルを作成した。
[手順2]
Day -4からRXRパーシャルアゴニストである、CBt-PMN(式(3)で示される化合物)、及びNEt-4IB(式(4)で示される化合物)を配合した飼料を与えた。また、対照として既存薬であるRXRフルアゴニストのベキサロテン(bexarotene)を配合した飼料を与えた。
[手順3]
Day 4及びday 14に再びペントバルビタール又はキシラジン・ケタミンの投与による麻酔下で気管切開後、気管内チューブを挿入し、呼吸機能測定装置(Flexiware, SIREQ社)を用いて気腫性変化の評価のために静肺コンプライアンスの測定を行った。静肺コンプライアンスは肺組織の伸びやすさを表しているが、肺胞域の組織破壊を伴う疾患である肺気腫では静肺コンプライアンスが上昇する。
[手順4]
手順3の後、マウスを溢血安楽死させ、気管支肺胞洗浄を行った後に、肺組織を取り出し、肺気腫の評価を行った。
[手順5]
非治療群として、通常の飼料を与えた群も同様に肺気腫を惹起させ、静肺コンプライアンスの測定および、気腫性変化の評価を行った。
[手順6]
得られたデータについてAnovaの有意差検定を行い、非治療非肺気腫群に対しp<0.05を*で示した。また、非治療肺気腫群に対しP<0.05を#で示した。
【0058】
得られた結果を
図1〜6に示す。
図1は、CBt-PMN投与時の肺気腫モデルマウスの静肺コンプライアンス評価のグラフである。
図2は、NEt-4IB投与時の肺気腫モデルマウスの静肺コンプライアンス評価のグラフである。非治療群と比較し、RXRパーシャルアゴニストである、CBt-PMNやNEt-4IBを投与した群において静肺コンプライアンスの有意な改善効果を認めた。また、CBt-PMN投与群の方が、NEt-4IB投与群よりも改善効果が少し大きかった。
【0059】
図3は、肺気腫モデルマウスの気管支肺胞洗浄液の細胞分画の細胞数のグラフである。急性期の気道炎症を評価するためにエラスターゼ投与後4日目のマウスに対して気管内挿管下で気管支肺胞洗浄を施行し、気管支肺胞洗浄の細胞分画の評価を行った。非治療群と比較し、RXRパーシャルアゴニストNEt-4IB投与群において、総細胞数、好中球数の抑制効果を認めた。総細胞数ならびにマクロファージにおいて、RXRパーシャルアゴニストNEt-4IB投与群は、薬物非投与群に比べ有意な減少を認め、その効果はRXRフルアゴニストのベキサロテンに比べても顕著であった。
【0060】
図4は、CBt-PMN投与時の肺気腫モデルマウスの肺組織中の平均肺胞間距離を評価したグラフである。
図5は、NEt-4IB投与時の肺気腫モデルマウスの肺組織中の平均肺胞間距離を評価したグラフである。肺組織をホルマリン固定後HE染色し、肺気腫の評価のために平均肺胞壁を測定した。非治療群と比較しRXRパーシャルアゴニストである、CBt-PMNやNEt-4IBを投与した群において気腫性変化の改善効果を認めた。また、CBt-PMN投与群の方が、NEt-4IB投与群よりも改善効果が大きかった。
図6に、肺気腫モデルマウスの肺組織のHE染色像の写真を示す。肺気腫マウス(PPE/Vehicle)では、非疾患誘発群(PBS/vehicle)に比べ、肺胞腔の拡大を認めた。肺組織の病理組織学検討では、非治療群(PPE/Vehicle)と比較しRXRパーシャルアゴニストCBt-PMN投与群(PPE/CBt-PMN)において肺胞腔拡大の有意な改善効果を認めた。
【0061】
実施例2
<気管支喘息マウスの作成、薬効評価>
気管支喘息マウスを以下の手順で作成し、下記の手順で薬効評価を行った。
【0062】
[手順1]
BALB/c雌性マウスに卵白アルブミン(OVA)の腹腔内投与(20 g of OVA emulsified in 2.25 mg aluminum hydroxide in a total volume of 100 μL)による全身感作をday 0とday 14に施行後、超音波ネブライザーによるOVA吸入曝露(20分間を3日:day 28-30)を行い、喘息反応を惹起させた。
[手順2]
Day 25からRXRアゴニスト(NEt-4IB)を配合した飼料を与えた。Day 32にペントバルビタール投与による麻酔下にて気管切開を施行し、気管内にチューブを挿入した。呼吸機能測定装置に接続後、気道狭窄の評価のために気道過敏性(気道抵抗)を測定した。
[手順3]
気道過敏性は、OVA吸入最終暴露48時間後に気管内挿管したマウスに対して呼吸機能測定装置(Flexivent, SIREQ社)を用いて測定した。なお、気道過敏性はメサコリン吸入により惹起させた。
[手順4]
手順2の後、マウスを溢血安楽死させ、気管支肺胞洗浄を施行した。その後、肺組織を摘出し、気道組織の評価を行った。
[手順5]
非治療群として、通常の飼料を与えた群も同様に喘息反応を惹起させ、気道過敏性の測定及び気道炎症の評価を行った。
[手順6]
また非喘息コントロール群として、OVAによる感作をおこなわずにOVAの吸入曝露のみを行う2群(RXRアゴニスト配合飼料摂取群、通常飼料摂取群)の気道過敏性及び気道炎症の評価も同様に行った。
[手順7]
得られたデータについてAnovaの有意差検定を行い、非治療非喘息群に対しp<0.01を**、p<0.05を*で示した。また、非治療喘息群に対しP<0.05を#で示した。
【0063】
得られた結果を、
図7〜10に示す。
図7は、気管支喘息モデルマウスの肺気道過敏性評価のグラフである。喘息マウスでは、メサコリン吸入濃度の上昇とともに気道抵抗の増加を認めた。黒四角(■)で示す非治療群と比較し、黒三角(▲)で示すRXRパーシャルアゴニスト投与群において、気道過敏性の有意な改善効果を認めた。
【0064】
図8は、気管支喘息モデルマウスの気管支肺胞洗浄液の細胞分画の細胞数のグラフである。非治療群と比較し、RXRパーシャルアゴニストNEt-4IB投与群において、総細胞数、リンパ球数、好酸球数の抑制効果を認めた。
【0065】
図9は、気管支喘息モデルマウスの肺組織のHE染色像の写真である。肺組織をホルマリン固定後、HE染色している。OVAにて感作したマウスでは、OVAを吸入曝露することにより、肺病理組織にて血管気道周囲に好酸球を中心とした炎症細胞浸潤が認められた。肺組織の病理組織学検討では、非治療群と比較しRXRパーシャルアゴニストNEt-4IB投与群において気道局所の炎症細胞浸潤の改善効果を認めた。
【0066】
図10は、気管支喘息モデルマウスの気管支肺胞洗浄液の上清中のサイトカイン(IL-5,IL-13)の測定結果のグラフである。ここでは、気管支肺胞洗浄液中の上清液を採取し、ELISA法にてサイトカインを測定した。非治療群と比較し、RXRパーシャルアゴニストNEt-4IB投与群においてTh2サイトカインであるIL-5、IL-13の抑制効果を認めた。
【0067】
いずれの動物実験とも、岡山大学動物実験委員会の審査を受け実施した。
【0068】
以上の実施例からわかるように、RXRパーシャルアゴニストであるCBt-PMN及びNEt-4IBはその反復経口投与によって、肺気腫モデルまた気管支喘息モデルにおいて顕著な抗炎症効果を示した。以上から、本発明の組成物は、炎症性呼吸器疾患の予防および治療の有効成分としての作用が期待でき、有用な医薬の提供を可能とすることができる。