特許第6826756号(P6826756)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6826756水酸基を有する新規なエピスルフィド化合物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6826756
(24)【登録日】2021年1月20日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】水酸基を有する新規なエピスルフィド化合物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/08 20060101AFI20210128BHJP
   C07D 331/02 20060101ALI20210128BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20210128BHJP
【FI】
   C08G75/08
   C07D331/02CSP
   G02B1/04
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-51211(P2017-51211)
(22)【出願日】2017年3月16日
(65)【公開番号】特開2018-154690(P2018-154690A)
(43)【公開日】2018年10月4日
【審査請求日】2020年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】今川 陽介
(72)【発明者】
【氏名】山本 良亮
(72)【発明者】
【氏名】堀越 裕
【審査官】 藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】 特開平9−110979(JP,A)
【文献】 特開2001−163875(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/158157(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 75/00 − 75/32
C07D 331/02
G02B 1/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるエピスルフィド化合物。
【化1】
【請求項2】
1,2:4,5−ジエポキシペンタン−3−オールをチア化する請求項1に記載のエピスルフィド化合物の製造方法。
【請求項3】
チア化剤を用いて前記チア化を行う請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載のエピスルフィド化合物のホモポリマー。







【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は屈折率の高い光学材料の原料である新規なエピスルフィド化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高屈折率材料を得るためには硫黄の含有量を高めることが有効であり、エピスルフィド基を有する化合物が広く使用されている。中でもビス(β−エピチオプロピル)スルフィド(特許文献1)、及びビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィド(特許文献2)が幅広く使用されている。これらのエピスルフィド化合物はメガネレンズ材料などに使用されている。
【0003】
メガネレンズとして使用される場合、材料を染色した染色レンズがよく用いられている。ビス(β−エピチオプロピル)スルフィドやビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィドは骨格内にエピスルフィド基以外に官能基を有さないため、硬化物の染色性が課題であった。染色性改善のため、表面処理を行う方法が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−110979号公報
【特許文献2】特開平11−322930号公報
【特許文献3】特開2000−345480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は水酸基を有する新規のエピスルフィド化合物及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意検討した結果、分子内に1つの水酸基を持つ新規のエピスルフィド化合物によって上記課題を解決できること見出した。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0007】
[1] 下記式(1)で表されるエピスルフィド化合物。
【化1】
【0008】
[2] 1,2:4,5−ジエポキシペンタン−3−オールをチア化する[1]に記載のエピスルフィド化合物の製造方法。
【0009】
[3] チア化剤を用いて前記チア化を行う[2]に記載の製造方法。
【0010】
[4] [1]に記載のエピスルフィド化合物のホモポリマー。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、単量体として重合可能な水酸基を有する新規なエピスルフィド化合物を製造できる。また、本発明のエピスルフィド化合物は高い屈折率及び高い染色性を光学材料に付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1で合成した化合物のHCNMRチャートを示す図である。
図2】実施例1で合成した化合物の13CNMRチャートを示す図である。
図3】実施例1で合成した化合物のMSスペクトルチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明における水酸基を有する新規なエピスルフィド化合物は下記式式(1)で示される。
【化2】
【0014】
式(1)で示されるエピスルフィド化合物は1,2:4,5−ジエポキシペンタン−3−オールをチア化することで合成され、反応式は例えば下記式(2)のように表される。
【化3】
【0015】
1,2:4,5−ジエポキシペンタン−3−オールは、公知の手法によって入手可能であり、例えばJ.Am.Chem.SOC.,Vol.112,No.14,1990に記載の手法により容易に合成して用いることができ、例えば反応式は式(3)のように表される。
【化4】
【0016】
チア化法としては、例えばチア化剤を用いる手法が挙げられる。チア化剤としては一般的なものが使用可能であり、例えばチオシアン酸塩、チオ尿素、トリフェニルホスフィンスルフィド、及び3−メチルベンゾチアゾール−2−チオンが挙げられる。チオシアン酸塩、チオ尿素が反応性が高く好ましく、チオ尿素が更に好ましい。
これらは市販品が入手可能であり、2種以上を併用しても良い。
【0017】
チア化剤の使用量は、1,2:4,5−ジエポキシペンタン−3−オールを基準として2〜20モル当量の範囲であり、収率と反応効率の観点から好ましくは、2〜10モル当量、より好ましくは2〜5モル当量の範囲である。
【0018】
反応は溶媒を用いても無溶媒でもよい。溶媒を使用するときは、系内の化合物が可能なものであれば限定されず、具体例としては、水、メタノ−ル、エタノ−ル、イソプロパノ−ル等のアルコール類、ジエチルエ−テル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエ−テル類;メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ等のヒドロキシエ−テル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類及び、ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類が挙げられる。
これらは2以上を併用することができ、エ−テル類、ヒドロキシエ−テル類、ハロゲン化炭化水素類、芳香族炭化水素類とアルコ−ル類の組合せがエポキシ化合物及びチア化剤の溶解性から好ましい。
溶媒を使用する場合の使用量は1,2:4,5−ジエポキシペンタン−3−オールを基準として0.1%〜50%の範囲である。
【0019】
また、重合抑制剤を使用することが収率の点から好ましく、重合抑制剤として酸及び酸無水物を使用することができる。酸および酸無水物としては、酢酸、無水酢酸が好ましく、添加量は通常反応液総量に対して、0.001〜10wt%の範囲である。
【0020】
反応温度は0〜100℃の範囲であり、好ましくは10〜50℃である。温度が高いと副反応が進行し、温度が低いと十分な反応速度が得られない。
【0021】
また、反応終了後の反応液を酸性水溶液で洗浄することが好ましく、得られる式(1)で示されるエピスルフィド化合物の安定性を向上させることができる。酸性水溶液に用いる酸の具体例としては、硝酸、塩酸、硫酸、ホウ酸、ヒ酸、燐酸、青酸、酢酸、過酢酸、チオ酢酸、シュウ酸、酒石酸、コハク酸、及びマレイン酸が挙げられる。これらは2種類以上を混合して用いても良い。酸性水溶液のpHは通常pH6以下であり、好ましくはpH3以下である。
【0022】
前記反応により得られた式(1)で示されるエピスルフィド化合物は、反応液より分液やカラムクロマトグラフィー等、通常の精製方法を使用することで高純度品を得ることができる。
【0023】
式(1)で表されるエピスルフィド化合物は公知の方法で重合硬化させることが可能であり、硬化触媒を添加し必要に応じて加熱することで硬化物を得ることが可能である。好ましい具体例としてはアミン類、ホスフィン類、第4級アンモニウム塩類、第4級ホスホニウム塩類であり、より好ましくは、第4級アンモニウム塩類、第4級ホスホニウム塩類である。
【0024】
式(1)で表されるエピスルフィド化合物は単独で硬化してホモポリマーとしてもよく、他のモノマーとの混合物として硬化してもよい。
本発明で得られる硬化物は高屈折率及び染色性に優れる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の効果を奏する限りにおいて適宜実施形態を変更することが出来る。
【0026】
[染色性の評価方法]
下記の組成の染色浴に90℃で30分浸漬し、染色性を以下のように定義した。
染色性=100−全光線透過率(%)
染色浴組成:
セイコープラックス ダイヤコート ブラウンD 0.2重量%
セイコープラックス 染色助剤 0.3重量%
ベンジルアルコール 2.0重量%
[屈折率]
光学材料の屈折率はデジタル精密屈折率計(株式会社島津製作所製、KPR−2000)を用い、25℃でのd線での屈折率を測定した。
【0027】
<1,2:4,5−ジエポキシペンタン−3−オールの合成>
文献J.Am.Chem.SOC.,Vol.112,No.14,1990に従い、アラビトールを出発原料に1,2:4,5−ジエポキシ−ペンタン−3−オールの合成を行った。純度94%であり、以下の実施例等に用いた。
【0028】
[実施例1]
<1,2:4,5−ジエピチオペンタン−3−オールの合成>
1,2:4,5−ジエポキシ−ペンタン−3−オール0.1mol(11.6g)を、トルエン83ml及びメタノール83mlに加えて溶解させ、液温を20℃まで冷却した。その溶液にチオ尿素0.4mol(63.3g)及び無水酢酸0.012mol(1.2g)を加えて2時間攪拌した。
反応溶液に1N硫酸を400ml加えトルエン200mlで抽出し、トルエン層を水200mlで三回洗浄した。トルエン層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を留去し、1,2:4,5−ジエピチオペンタン−3−オールの粗体を得た。得られた粗体をシリカカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=6:1)にて単離した。
単離した化合物の1H−NMR分析の結果を図1に、13C−NMRの結果を図2に、MS分析の結果を図3に示した。各スペクトルの解析結果から、式(1)のエピスルフィド化合物が生成していることを確認した。
【0029】
[実施例2]
実施例1で合成した式(1)のエピスルフィド化合物4.0gに硬化触媒としてテトラブチルホスホニウムクロリドを0.004g添加して20℃、1.3kPaの条件で5分真空脱気して光学材料用組成物を得た。得られた光学材料用組成物を2枚のガラス板とテープから構成されるモールド(直径83mm、厚み2.6mm)に注入し、30℃で10時間保持し、次いで100℃まで10時間かけて昇温し、最後に100℃で1時間保持して重合硬化させた。得られた硬化物の屈折率ndは1.666であった。また硬化物の染色性を確認した結果、77%であった。
【0030】
[比較例1]
エピスルフィド化合物をビス(β−エピチオプロピル)スルフィドに変えた以外は実施例2と同じ手法で重合を行い、硬化物を得た。硬化物の染色性を確認した結果、15%であった。
図1
図2
図3