特許第6826787号(P6826787)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6826787現像液のリサイクル装置及びリサイクル方法、並びに現像装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6826787
(24)【登録日】2021年1月20日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】現像液のリサイクル装置及びリサイクル方法、並びに現像装置
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/30 20060101AFI20210128BHJP
   G03F 7/00 20060101ALI20210128BHJP
   G03F 7/033 20060101ALI20210128BHJP
   G03F 7/095 20060101ALN20210128BHJP
【FI】
   G03F7/30 501
   G03F7/00 502
   G03F7/033
   !G03F7/095
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2020-561093(P2020-561093)
(86)(22)【出願日】2020年7月30日
(86)【国際出願番号】JP2020029212
【審査請求日】2020年10月30日
(31)【優先権主張番号】特願2019-142373(P2019-142373)
(32)【優先日】2019年8月1日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕登
【審査官】 川口 真隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−47638(JP,A)
【文献】 特表平6−504230(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/30
G03F 7/00
G03F 7/033
G03F 7/095
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分散性の合成ゴム系重合体を含有する感光性樹脂層を有するフレキソ印刷原版を現像した後の使用済の水系現像液をリサイクルするための装置であって、前記装置が、使用済の水系現像液から樹脂凝集物を分離するための回転体を有する遠心分離機を含み、前記回転体の回転軸を含む鉛直方向の断面形状が、略円筒形又は略円錐台形の輪郭を有し、前記回転体が、その側面に、遠心分離された使用済水系現像液を前記回転体の内側から外側に流出させるためのスリットを有することを特徴とするリサイクル装置。
【請求項2】
前記スリットの前記回転体の内部に開く開口面積の合計をAcm、前記回転体の内部体積をBcmとした場合に、スリット開口面積比率(B/A)の値が30000〜140000の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のリサイクル装置。
【請求項3】
前記回転体が、上下に分割されて構成され、それらの上下の分割体の間に前記スリットが形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のリサイクル装置。
【請求項4】
前記スリットの開口が、前記回転体の内壁の中央高さ以上の位置に設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のリサイクル装置。
【請求項5】
前記回転体の内壁を覆うように樹脂凝集物を収集するための不織布又は樹脂製シート製の袋が設置されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のリサイクル装置。
【請求項6】
前記水分散性の合成ゴム系重合体が、ブタジエン骨格及び/又はスチレン骨格を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のリサイクル装置。
【請求項7】
水分散性の合成ゴム系重合体を含有する感光性樹脂層を有するフレキソ印刷原版を現像した後の使用済の水系現像液をリサイクルする方法であって、請求項1〜6のいずれかに記載のリサイクル装置によって、使用済の水系現像液から樹脂凝集物を分離することを含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
水分散性の合成ゴム系重合体を含有する感光性樹脂層を有するフレキソ印刷原版を、リサイクル水系現像液を含む水系現像液を用いて現像するためのフレキソ印刷原版の現像装置であって、前記現像装置が、現像後の使用済の水系現像液をリサイクルするために請求項1〜6のいずれかに記載のリサイクル装置を含むことを特徴とするフレキソ印刷原版の現像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂凝集物を効率的に分離除去できるフレキソ印刷原版の現像液のリサイクル装置、及びかかる装置を使用した現像液のリサイクル方法、及びフレキソ印刷原版の現像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキソ印刷原版は、一般的に、支持体上に感光性樹脂組成物から形成される感光性樹脂層が設けられた構造を有する。かかるフレキソ印刷原版の製版は、例えば、紫外線で感光性樹脂層を選択的に露光し、露光後の感光性樹脂層を水系現像液によって現像することによって行なわれる。現像により、未露光部分の感光性樹脂層中の感光性樹脂組成物は、印刷版から除去されて、現像液中に分散又は溶解する。同一の現像液を用いて感光性樹脂層の現像を繰り返すと、現像液中に分散した感光性樹脂組成物の濃度が上昇し、現像速度が低下したり、分散していた感光性樹脂組成物が凝集して、浮遊する樹脂凝集物が生成する。この樹脂凝集物は、印刷版の表面に再付着し、版面の品質を低下させる。そのため、感光性樹脂組成物の濃度が高くなった現像液を廃棄し、新しい現像液に取り換えて製版を再開することが必要となる。しかし、使用済みの現像液を廃棄して新しい現像液に取り換えることを繰り返すことは、環境への負荷や製造コストの面から好ましいものではない。
【0003】
特許文献1には、現像液に凝集剤を添加して樹脂凝集物を積極的に生成させ、樹脂凝集物を現像液から取り除く方法が開示されている。しかし、凝集剤の添加はコストがかかり、さらに、凝集剤が添加された現像液は、そのままでは現像液としてリサイクルすることができないという問題がある。
【0004】
現像液をリサイクルして再使用するための現像液処理方法として、メンブレンフィルター等の濾材を用いた濾過分離方法が提案されている。特許文献2には、濃縮用タンクと濾過フィルターの間で循環運転することにより、樹脂凝集物を濾過する方法が開示されている。しかし、濾過分離方法の場合、樹脂凝集物によってフィルターが目詰まりする問題がある。例えばメンブレンフィルターでは、逆洗処理(ろ過方向と逆方向にろ液を流す処理)を定期的に行なって目詰まりを取り除く作業が必要である。
【0005】
一方、濾材を使用しない分離方法として、遠心分離方法が検討されている。特許文献3及び4には、インサイドディスクを有する遠心沈降型の遠心分離機を使用して樹脂凝集物を分離除去する方法が開示されている。この方法では、濾材を使用した分離方法のような目詰まりの問題はなく、遠心分離機内に樹脂凝集物が蓄積可能な限界容積まで、連続的に現像液を処理することができる。しかし、特許文献3及び4の遠心沈降型の遠心分離機では、現像液よりも比重の小さい分散固形物が遠心分離機の回転部の内側から外側へ流出しないようにせき止めるために、インサイドディスクを遠心分離機内に設けることが必要である。特許文献3で使用するインサイドディスクは、ねじ止め等で固定して使用するものであり、脱着が面倒であった。特許文献4には、固定する必要のないインサイドディスクが開示されているが、使用するインサイドディスクの素材と遠心分離の条件及び現像液との関係で最適な条件設定が面倒であった。また、特許文献3及び4のようなインサイドディスクを用いた遠心分離方法では、樹脂凝集物の分離除去比率を高くすることが難しかった。上記のような課題のために、目詰まりや処理条件設定の難しさがなく、且つ、樹脂凝集物の分離除去比率の高い現像液のリサイクル装置やリサイクル方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−194824公報
【特許文献2】特開平10−34147号公報
【特許文献3】特開平7−328620号公報
【特許文献4】特開平11−047638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は、目詰まりや処理条件設定の難しさがなく、且つ、樹脂凝集物の分離除去比率の高いフレキソ印刷原版の現像液のリサイクル装置、及びかかる装置を使用した現像液のリサイクル方法、及びフレキソ印刷原版の現像装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らはかかる課題を解決するために鋭意検討した結果、特許文献3,4のようなインサイドディスクの代わりに、遠心分離機の回転体の側面にスリットを設け、このスリットを利用して樹脂凝集物を含まない現像液を効率よく取り出すことにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は、以下の(1)〜(8)の構成からなる。
(1)水分散性の合成ゴム系重合体を含有する感光性樹脂層を有するフレキソ印刷原版を現像した後の使用済の水系現像液をリサイクルするための装置であって、前記装置が、使用済の水系現像液から樹脂凝集物を分離するための回転体を有する遠心分離機を含み、前記回転体の回転軸を含む鉛直方向の断面形状が、略円筒形又は略円錐台形の輪郭を有し、前記回転体が、その側面に、遠心分離された使用済水系現像液を前記回転体の内側から外側に流出させるためのスリットを有することを特徴とするリサイクル装置。
(2)前記スリットの前記回転体の内部に開く開口面積の合計をAcm、前記回転体の内部体積をBcmとした場合に、スリット開口面積比率(B/A)の値が30000〜140000の範囲であることを特徴とする(1)に記載のリサイクル装置。
(3)前記回転体が、上下に分割されて構成され、それらの上下の分割体の間に前記スリットが形成されていることを特徴とする(1)又は(2)に記載のリサイクル装置。
(4)前記スリットの開口が、前記回転体の内壁の中央高さ以上の位置に設けられていることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のリサイクル装置。
(5)前記回転体の内壁を覆うように樹脂凝集物を収集するための不織布又は樹脂製シート製の袋が設置されていることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のリサイクル装置。
(6)前記水分散性の合成ゴム系重合体が、ブタジエン骨格及び/又はスチレン骨格を有することを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のリサイクル装置。
(7)水分散性の合成ゴム系重合体を含有する感光性樹脂層を有するフレキソ印刷原版を現像した後の使用済の水系現像液をリサイクルする方法であって、(1)〜(6)のいずれかに記載のリサイクル装置によって、使用済の水系現像液から樹脂凝集物を分離することを含むことを特徴とする方法。
(8)水分散性の合成ゴム系重合体を含有する感光性樹脂層を有するフレキソ印刷原版を、リサイクル水系現像液を含む水系現像液を用いて現像するためのフレキソ印刷原版の現像装置であって、前記現像装置が、現像後の使用済の水系現像液をリサイクルするために(1)〜(6)のいずれかに記載のリサイクル装置を含むことを特徴とするフレキソ印刷原版の現像装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、インサイドディスクを使用しなくても簡単な構成で使用済の現像液から樹脂凝集物を効率的に分離除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のリサイクル装置の一実施形態を示す断面図である。
図2図1のリサイクル装置の遠心分離機の回転体の部分を上から見た図である。
図3図1のリサイクル装置の遠心分離機の回転体の部分を斜め上から見た図である。
図4図1のリサイクル装置の遠心分離機の運転中の状況を示す図である。
図5図1のリサイクル装置の遠心分離機のオーバーフローした状況を示す図である。
図6】実施例で採用した接続経路を示す図である。
図7】実施例1〜4,6〜8,比較例1,2で使用した遠心分離機の回転体の断面形状、スリットの位置及び形状を示す図である。
図8】実施例5で使用した遠心分離機の回転体の断面形状、スリットの位置及び形状を示す図である。
図9】実施例9で使用した遠心分離機の回転体の断面形状、スリットの位置及び形状を示す図である。
図10】実施例10で使用した遠心分離機の回転体の断面形状、スリットの位置及び形状を示す図である。
図11】実施例11で使用した遠心分離機の回転体の断面形状、スリットの位置及び形状を示す図である。
図12】(a)は、実施例12で使用した遠心分離機の回転体の断面形状、スリットの位置及び形状を示す図であり、(b)は、スリットの個数を示す図である。
図13】(a)は、実施例13で使用した遠心分離機の回転体の断面形状、スリットの位置及び形状を示す図であり、(b)は、スリットの個数を示す図である。
図14】比較例3で使用した遠心分離機の回転体の断面形状を示す図である。
図15】比較例4で使用した遠心分離機の回転体の断面形状を示す図である。
【符号の説明】
【0011】
1:ハウジング
2:回転体(本体)
3:回転体の蓋状カバー
4:スリット
5:回転軸(駆動軸)
6:使用済の現像液の供給口
7:処理済の現像液の排出口
8:不織布
9:処理済の現像液
10:浮上成分(樹脂凝集物)
11:処理済の現像液
11´:オーバーフローした処理済の現像液
12:循環ポンプ
13:循環ライン
14:現像液タンク
15:流量調整バルブ
16:送りライン
17:開閉バルブ
18:遠心分離機(リサイクル装置)
19:処理液ライン
20:処理液タンク
21:インサイドディスク
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、感光性樹脂層を有するフレキソ印刷原版を現像した後の使用済の水系現像液を遠心分離機によってリサイクルするための装置であり、特に遠心分離機の回転体の側面に、遠心分離された使用済水系現像液を回転体の内側から外側に流出させるためのスリットを設けたことを特徴とする。以下、最初に本発明のリサイクル装置の遠心分離機の特徴的な構成について説明し、次に、本発明のリサイクル装置の処理対象である現像液について説明する。
【0013】
本発明のリサイクル装置は、遠心分離機を含み、遠心分離機の回転体によって使用済の水系現像液から樹脂凝集物を分離する。遠心分離機の回転体は、その回転軸を含む鉛直方向の断面形状が、略円筒形又は略円錐台形の輪郭を有するが、従来から採用されている略円筒形状の方が、処理効率の点で好ましい。使用済の水系現像液中に含まれる比重の軽い樹脂凝集物は、遠心分離機の回転体の内部に供給されて遠心分離されることにより、浮上成分となって回転体の回転軸に近い側に集まり、残りの水系現像液から分離される。
【0014】
本発明のリサイクル装置では、回転体が、その側面に、遠心分離された使用済水系現像液を前記回転体の内側から外側に流出させるためのスリットを有することを特徴とする。このスリットは、遠心分離により樹脂凝集物を分離されて樹脂凝集物を実質的に含まない残りの水系現像液を、回転体の内側から外側に流出する役割を有する。本発明では、このスリットにより、インサイドディスクを設けなくても、樹脂凝集物を実質的に含まない現像液を効率よく取り出すことができ、遠心分離機のメンテナンス性を大幅に向上させることができる。
【0015】
スリットの形状としては特に限定されないが、液体の流れを大幅に低減させない限り、連続的(全面)に設ける必要はなく、分割されたスリットでも良い。分割されたスリットとしては、長方形や円形のスリットが配列されたもの等である。スリットは、製造のし易さと処理水の流れから、回転方向と平行に配列して設けることが好ましい。スリットの個数は、少なくとも一つ存在すればよいが、複数個設ける場合は、遠心分離機の回転体の側面に回転対称で均等に分布するように配置することが好ましい。回転体の側面にスリットを設ける方法は、特に限定されず、例えば、回転体を蓋状のカバーと本体の上下に分割して構成し、それらの上下の分割体の間に連続的なスリットを形成することができる。具体的には、回転体の本体の上部に蓋状のカバーを設け、スリット幅に相当する厚みのスペーサーを部分的に入れてボルト止めで固定し、カバーと回転体の本体との隙間を連続的なスリットとすることができる。別の方法としては、回転体の側面に必要とする幅のスリット状の切り込みを入れる加工を行うことで複数の分割されたスリットを設けることは可能であるが、製造のし易さから蓋状のカバーを取り付けて連続的なスリットを形成する方法が好ましい。
【0016】
本発明では、スリットの開口面積と回転体の内部体積の比率が、特定の範囲にあることが、樹脂凝集物によるスリットの詰まりを防止するために好ましい。具体的には、スリットの前記回転体の内部に開く開口面積の合計をAcm、前記回転体の内部体積をBcmとした場合に、スリット開口面積比率(B/A)の値が30000〜140000の範囲であることが好ましく、3500〜13000の範囲であることがより好ましい。スリット開口面積比率(B/A)が上記下限未満では、樹脂凝集物の除去率に劣るおそれがあり、上記上限を超えると、処理効率に劣るおそれがある。なお、回転体の内部体積は、回転体の直径及び高さから計算することができる。
【0017】
樹脂凝集物を回転体の内側から外側にスムーズに排出するためには、スリットの数は問題ではなく、回転体の内部体積に対するスリットの開口面積の比率が重要である。同じ内部体積の回転体に多数の小面積のスリットを形成しても、少数の大面積のスリットを形成しても、開口面積の合計が同じであれば、同様の効果を奏する。また、スリットの方向も特に限定されず、水平方向でも、斜め方向でも、階段状でも、スリット開放面積が変化するような形状でも、同様の効果を奏する。同じ形状の回転体であれば、回転体の内部体積をスリットの開口面積で割ったスリット開口面積比率の値が大きくなると、最大処理液流量が増えて、樹脂凝集物の除去率が下がる傾向になるが、形状が異なると関係性が変わる。例えば回転体の直径が大きくなると、遠心力が大きくなり、最大処理液流量が増えて、樹脂凝集物の除去率も大きくなる傾向になる。但し、スリットの回転体の内側に面する開口面積は、回転体の外側に面する開口面積と同じか、又はそれより小さいことが好ましい。
【0018】
処理前の使用済の現像液は、回転体に供給口から供給されて遠心分離処理される。供給口を配置する位置としては、回転体の底部が好ましい。そのため、スリットの開口は、前記回転体の内壁の中央高さ以上の位置に設けられていることが好ましい。スリットの開口の位置を回転体の現像液供給口から遠い位置に配置した方が分離性能に優れる。これは、スリットの開口の位置を回転体の現像液の供給口から遠い位置に配置することで、回転体内に投入された処理前の使用済の現像液が横に広がる流れの影響を受けることなく、遠心分離処理ができるためである。
【0019】
本発明のリサイクル装置で用いる遠心分離機とは、遠心力を発生させて固体と液体とを分離又は比重の異なるものを分離させる装置である。本発明に用いる遠心分離機は、向心加速度が200〜4000Gの範囲で遠心分離することが好ましい。遠心分離機が処理できる現像液の処理量は、遠心分離機内の体積によって決まる。現像機と接続して直接現像液を処理する場合は現像機中の現像液量に対して最適な処理量の遠心分離機を準備すれば良い。現像液の量が60リットルの場合、処理量は毎分0.3リットル以上であることが好ましく、現像液の量が200リットルの場合、処理量は毎分1リットル以上であることが好ましい。なお、本発明では、遠心分離効果を高めるために現像液に凝集剤を添加することも可能ではあるが、現像液を再利用するためには凝集剤を用いない方が好ましい。
【0020】
本発明のリサイクル装置は、樹脂凝集物を簡単に取り出すために、遠心分離機の回転体の内壁に沿って不織布又は樹脂製シート製の袋を設けても良い。回転体の内壁に沿って不織布又は樹脂製シート製の袋を設けることで、回転体の内部に蓄積した樹脂凝集物を不織布又は樹脂製シート製の袋と一緒に回転体の外へ取り出すことができる。取り出し効率の点では、不織布がより好ましい。樹脂製シート製の袋では、回転体の内部壁面に沿わせて固定する作業が必要となる。
【0021】
不織布としては、市販の不織布を用いることが可能である。本発明では、回転体の内壁を覆うように不織布を配置することで、遠心力で樹脂凝集物と分離された現像液が不織布を通して液体流路へ移動しやすくなる効果もあると推測される。使用する不織布としては、遠心分離機の回転体の側面に自立するものであって、処理済の現像液の流れを邪魔したり、樹脂凝集物による目詰りを起こさないものであればいずれのものでもよい。不織布が無くても遠心分離は可能であるが、浮上成分の除去が簡便になるために用いた方が良い。不織布の素材としてはポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン、塩化ビニル、セルロースなどが考えられるが、これに限定されない。また、不織布の自立性を向上させるために、処理済の現像液の流れを邪魔しない範囲内で熱融着繊維を配合しても良い。不織布の厚みとしては、薄すぎると自立が困難になるということから、5mm以上であることが好ましく、10mm以上がより好ましい。一方、厚すぎると浮上成分が溜まるスペースが減るため、80mm以下が好ましく、40mm以下がより好ましい。不織布の目付量としては、少なすぎると不織布の強度が弱くなるため、100g/m以上が好ましく、200g/m以上がより好ましい。一方、目付量が多すぎると液の流れを邪魔してしまうので、800g/m以下が好ましく、400g/m以下がより好ましい。特に好ましい不織布の例としては、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリエステル、セルロース等の素材で、目付が200〜500g/m、厚みが10〜30mmの不織布が挙げられる。樹脂製シート製の袋としては、ポリエチレン等の樹脂製の袋を用いることができる。樹脂製シート製の袋は、微細な穴を有することが好ましく、スリットの処理水流路を妨げないように配置すれば良い。樹脂製シートの厚みは、0.02〜0.5mmであることができる。
【0022】
次に、本発明のリサイクル装置の処理対象である現像液について説明する。この現像液は、水分散性の合成ゴム系重合体を含有する感光性樹脂層を有するフレキソ印刷原版を現像した後の使用済の水系現像液である。かかる使用済の現像液には、フレキソ印刷原版中の未露光部分の感光性樹脂層の構成成分に由来する樹脂凝集物が含まれる。本発明では、感光性樹脂層の主要な構成成分である合成ゴム系重合体として、水分散性のものを使用する。そのため、使用済の現像液の樹脂凝集物には、水分散性の合成ゴム系重合体が多く含まれている。これらの水分散性の合成ゴム系重合体は、水よりも比重が軽いため、遠心分離により、浮上成分となって、残りの水系現像液から容易に分離されることができる。
【0023】
水分散性の合成ゴム系重合体は、感光性樹脂層に適度なゴム弾性を付与するために用いられるものであり、従来公知のゴム成分が使用可能である。水分散性の合成ゴム系重合体としてはゴム弾性を付与するために室温で固形であることが好ましい。水分散性の合成ゴム系重合体の具体的な例としては、ポリブタジエン、ポリクロロプレン、ポリアクリロニトリル−ブタジエン、ポリアクリル、エピクロルヒドリン、ポリウレタン、ポリイソプレン、ポリスチレ−ンイソプレン共重合体、ポリスチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、ブチル重合体、塩素化ポリエチレンなどが挙げられ、これら重合体にアクリル酸やメタクリル酸などの他の成分を共重合して得られる重合体などを挙げることができる。
【0024】
これらの中でも現像性と物性の面より、ブタジエン骨格及び/又はスチレン骨格を有する水分散性の合成ゴム系重合体が好ましく、水分散ラテックスがより好ましい。水分散ラテックスとしては、分子内にゲル化度で表される架橋構造を持つラテックスであっても構わない。分子内に架橋構造を持つラテックスとしては、重量平均ゲル化度20〜80%の水分散ラテックスから得られる疎水性重合体であることが好ましい。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併合して用いても良い。なお、水分散性のラテックスとは、ゴムの重合体微粒子が水中に分散し、安定な懸濁液となっているものである。この水分散ラテックスから水を除去することにより、重合体が得られる。
【0025】
フレキソ印刷原版の感光性樹脂層は、物性や耐水性の向上のために、水不溶性の合成ゴム系重合体を性能に悪影響しない範囲で含有していてもよい。水不溶性の合成ゴム系重合体としては、ポリブタジエン、ポリクロロプレン、ポリアクリロニトリル−ブタジエン、ポリウレタン、ポリイソプレン、ポリスチレン−イソプレン共重合体、ポリスチレン−ブタジエン共重合体などが挙げられる。
【0026】
フレキソ印刷原版の感光性樹脂層は水分散性の合成ゴム系重合体以外の水溶性又は水分散性のポリマーを含有していてもよい。水溶性又は水分散性のポリマーとしては、ポリアミドに親水基を導入した水溶性ポリアミドや水分散性ポリアミド、部分ケン化ポリ酢酸ビニルやその誘導体や、アニオン性アクリル系ポリマー等が挙げられる。
【0027】
かかる感光性樹脂層を有するフレキソ印刷原版を現像した後の使用済の現像液では、水分散性の合成ゴム系重合体が現像液に分散しているので、現像液中のポリマー濃度が急激に上昇することはない。また、合成ゴム系重合体が水分散性であるために遠心分離による廃液処理に適している。
【0028】
フレキソ印刷原版の感光性樹脂組成物は、上述の水分散性の合成ゴム系重合体に加えて、光重合性不飽和単量体化合物、及び光重合開始剤などを含む。これらの追加の構成成分は、当業者にとっては周知であるので、ここでは詳述しない。
【0029】
フレキソ印刷原版は、感光性樹脂層に加えて支持体を有し、支持体の上に感光性樹脂層が配置されることができる。また、感光性樹脂層の上には、保護層及び感赤外線層が配置されることができる。これらの要素は、当業者にとっては周知であるので、ここでは詳述しない。
【0030】
本発明のリサイクル装置の処理対象とする現像液は、水を主成分とする水系現像液である。水系現像液としては、水のみであってもよく、水に可溶な現像促進剤を添加した水溶液であってもよい。現像促進剤としては、界面活性剤、酸、塩基、塩などが挙げられる。界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤を挙げることができる。酸としては、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸やギ酸、酢酸、シュウ酸、コハク酸、クエン酸、マレイン酸、パラトルエンスルホン酸などの有機酸が挙げられる。塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどが挙げられる。塩としては、炭酸ナトリウムや珪酸ナトリウムなどが挙げられる。現像速度の点から、水に可溶な現像促進剤が好ましい。現像促進剤としては、市販の石鹸や洗剤を用いても良い。現像促進剤は、界面活性剤、酸、塩基、及び塩を併用しても良く、感光性樹脂組成物の成分に応じて最適な現像促進剤の配合を決めれば良い。
【0031】
また、水系現像液は、水以外に水に可溶な有機溶剤を含有していても良い。このような有機溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、セロソルブ、グリセリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
【0032】
また、泡の発生を抑制するために消泡剤を水系現像液に添加してもよい。消泡剤としては、水溶性の消泡剤であれば何でもよい。消泡剤の成分としては高級アルコール、脂肪酸誘導体、シリカ、アルマイト、シリコーンなどが挙げられる。
【0033】
次に本発明のリサイクル装置を図面を用いて具体的に説明する。
図1は、本発明のリサイクル装置の一実施形態の概略図である。図1中、1は、ハウジングであり、2は、回転体であり、3は、回転体の蓋状カバーであり、4は、回転体2と蓋状カバー3の間に形成されたスリットであり、5は、回転体の回転軸(駆動軸)であり、6は、処理される使用済の現像液の供給口であり、7は、処理済の現像液の排出口であり、8は、回転体2の内壁を一周覆うように設置された不織布である。
【0034】
図1に示す実施形態では、回転体2は、回転体の回転軸5を含む鉛直方向の断面形状が、略円筒形の輪郭を有する。本発明では、供給口6より供給された使用済の現像液は、遠心分離機の回転体2内で比重の小さい樹脂凝集物と、樹脂凝集物が除去された比重の大きい処理済の現像液に分離される。回転体2は、図2及び3に示されるようにバスケット型の本体を有し、その上にドーナツ型の蓋状カバー3が取付けられており、本体とカバーの間には隙間(スリット4)を開けるためにスペーサーを入れて4か所ネジ止めしてある。回転体は回転軸(駆動軸)を通じてモーターと接続してあり、回転させると発生する向心加速度により外方向の遠心力が発生する。使用済の現像液は供給口から回転体内に供給され、回転体内に供給されるとすぐに回転体の側面に張り付く状態になり、遠心力により、図4に示されるように、比重の小さい樹脂凝集物からなる浮上成分10と比重の大きい処理済の現像液9に分離される。具体的には、印刷原版の未露光部分の感光性樹脂層に由来する水分散性の合成ゴム系重合体は、水より比重が軽いため浮上成分10となって回転体の内側(中心部側)に分離し、比重の大きい処理済の現像液9は回転体の外側(回転体の内壁側)に分離する。回転体の内壁には遠心力により水圧がかかっており、回転体の内壁側にある比重の大きい処理済の現像液9がスリット4から流出する。流出する液体は、水圧の力でスリットを通過するためにスプレー状に噴出する形状となる。この噴き出した処理済の現像液は、図1に示されるハウジング1中に回収され、排出口7へと導かれる。排出口から排出された処理済の現像液は、樹脂凝集物が取り除かれているため、リサイクル現像液として使用することができる。
【0035】
また、予め回転体の内壁に沿って不織布8を設置している場合には、不織布の上に樹脂凝集物10が蓄積されていく。回転体内の樹脂凝集物が満たされた状態になると、図5に示すように、回転体上部の蓋状カバー3を超えて処理済の現像液11′があふれる現象(オーバーフロー)が発生する。オーバーフローが起きる前に現像液の供給を停止し、しばらく脱水運転した後に遠心分離機の回転を止めて、不織布を取り出すことで樹脂凝集物を排出する。樹脂凝集物を取り除いた後に、新たな不織布を配置して遠心分離を再開すればよい。
【0036】
なお、この実施形態では、スリットの形成方法としては、回転体と回転体の蓋状カバーとのボルト接合を例に用いたが、ボルト接合以外の方法も可能である。例えば、回転体と蓋状カバーとが一体となっており、スリットが切ってあっても問題ない。また、スリットの代わりに穴が多数あっても同様の効果がある。
【0037】
また、この実施形態では、遠心分離機の回転体は縦型構造を例にして説明したが、横型構造であっても同様の効果がある。
【0038】
本発明のリサイクル装置は、現像液のリサイクル装置を備えた従来公知のフレキソ印刷原版の現像装置において、従来のリサイクル装置の効果的な代替として好適に使用することができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
<感光性樹脂印刷原版の作製>
(1)感光性樹脂組成物の作製
感光性樹脂組成物A:
水分散性の合成ゴム系重合体としてブタジエンラテックス(日本ゼオン製、LX111NF 固形分濃度55%)91質量部、光重合性不飽和単量体化合物としてオリゴブタジエンアクリレート(共栄社化学製ABU−3:分子量2700)15質量部、ラウリルメタクリレート10質量部、トリメチロールプロパントリメタクリレート10質量部、光重合開始剤としてベンジルジメチルケタール1質量部、親水性重合体として共栄社化学製のPFT−3(ウレタンウレア構造を有する分子量約20,000の重合物、固形分濃度25%)20質量部、重合禁止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル0.1質量部、可塑剤として液状ブタジエン9質量部をトルエン5質量部とともに容器中で混合してから、加圧ニーダーを用いて105℃で混練りし、その後トルエンと水を減圧留去して、感光性樹脂組成物Aを得た。
【0041】
感光性樹脂組成物B:
水分散性の合成ゴム系重合体としてブタジエンラテックス(日本ゼオン製、LX111NF 固形分濃度55%)56.4質量部、光重合性不飽和単量体化合物としてポリブタジエン末端ジアクリレート(大阪有機化学製、BAC−45)10質量部と、アクリルモノマー(1,9−ノナンジオールジメタクリレート)10質量部とを混合し、120℃に加熱した乾燥機で2時間水分を蒸発させて、混合物を得た。この混合物と、ブタジエンゴム(日本ゼオン製、ニポールBR1220)6質量部と、界面活性剤(日油製、ノニオンTA−405)7質量部(固形分として4質量部)と、可塑剤として液状ブタジエン10質量部とをニーダー中で45分間混練した。その後、ニーダー中に、重合禁止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル0.2質量部と、光重合開始剤としてベンジルジメチルケタール1質量部とを投入し、5分間混練して、感光性樹脂組成物Bを得た。
【0042】
感光性樹脂組成物C:
水分散性の合成ゴム系重合体としてカルボキシ変性メチルメタクリレート−ブタジエンラテックス(日本エイアンドエル製、MR174 固形分濃度 50%)100質量部、光重合性不飽和単量体化合物としてオリゴブタジエンアクリレート(共栄社化学製ABU−3:分子量2700)15質量部、ラウリルメタクリレート10質量部、トリメチロールプロパントリメタクリレート10質量部、光重合開始剤としてベンジルジメチルケタール1質量部、親水性重合体として共栄社化学製のPFT−3(ウレタンウレア構造を有する分子量約20,000の重合物、固形分濃度25%)20質量部、重合禁止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル0.1質量部、可塑剤として液状ブタジエン9質量部をトルエン5質量部とともに容器中で混合してから、加圧ニーダーを用いて105℃で混練りし、その後トルエンと水を減圧留去して、感光性樹脂組成物Cを得た。
【0043】
感光性樹脂組成物D:
水分散性の合成ゴム系重合体として、スチレン−ブタジエンラテックス(日本ゼオン製、C4850 固形分濃度 70%)71質量部、光重合性不飽和単量体化合物としてオリゴブタジエンアクリレート(共栄社化学製ABU−3:分子量2700)15質量部、ラウリルメタクリレート10質量部、トリメチロールプロパントリメタクリレート10質量部、光重合開始剤としてベンジルジメチルケタール1質量部、親水性重合体として共栄社化学製のPFT−3(ウレタンウレア構造を有する分子量約20,000の重合物、固形分濃度25%)20質量部、重合禁止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル0.1質量部、可塑剤として液状ブタジエン9質量部をトルエン5質量部とともに容器中で混合してから、加圧ニーダーを用いて105℃で混練りし、その後トルエンと水を減圧留去して、感光性樹脂組成物Dを得た。
【0044】
(2)保護層塗工液の調製
低ケン化度ポリビニルアルコール(PVA405 (株)クラレ製)と可塑剤(サンフレックスSE270 三洋化成工業製 脂肪族多価アルコール系ポリエーテルポリオール 固形分濃度85%)とNBRラテックス(SX1503A 日本ゼオン(株)製 固形分濃度42%)を、固形分重量比で35/35/30になるように、水・イソプロピルアルコール混合液に溶解し、保護層塗工液を調製した。
【0045】
(3)感赤外線層塗工液の調製
カーボンブラック分散液(AMBK−8 オリエント化学工業(株)製)と共重合ポリアミド(PA223 東洋紡績(株)製)を固形分重量比で63/37になるように、メタノール・エタノール・イソプロピルアルコール混合液に溶解し、感赤外線層塗工液を調製した。
【0046】
(4)積層フィルムの作製
両面に離形処理を施した100μmのPETフィルム上に、(3)で調製した感赤外線層塗工液を適切な種類のバーコーターを用いて塗工し、120℃で5分間乾燥し、PETフィルム上に膜厚1.5μmの感赤外線層を積層した。この時の光学濃度は2.3であった。この光学濃度は白黒透過濃度計DM−520(大日本スクリーン製造(株))によって測定した。次いで、上記感赤外線層の上に、(2)で調製した保護層塗工液を適切な種類のバーコーターを用いて塗工し、120℃で5分間乾燥し、PETフィルム上に膜厚1.5μmの感赤外線層と膜厚0.5μmの保護層がこの順に積層されている積層フィルムを得た。
【0047】
(5)感光性樹脂組成物A,B,C,Dと積層フィルムからなる感光性樹脂印刷原版A,B,C,Dの作製
共重合ポリエステル系接着剤を塗工した100μmのPETフィルム上に、(1)で作製した感光性樹脂組成物Aを配置し、その上から、(4)で作製した積層フィルムを重ね合わせた。ヒートプレス機を用いて100℃でラミネートし、PET支持体、接着層、感光性樹脂層、保護層、感赤外線層および離型処理PET保護フィルム(カバーフィルム)からなるフレキソ印刷原版を得た。版の総厚は1.14mmであった。感光性樹脂組成物AをB,C,又はDに変更した以外は、感光性樹脂印刷原版Aと同様にして、感光性樹脂印刷原版B〜Dを作製した。
【0048】
<フレキソ印刷原版を現像した後の使用済の水系現像液の調製>
水道水中に、現像促進剤としてのオレイン酸ナトリウムを現像液全体の1質量%の量で溶解し、水系現像液を作成した。この水系現像液中で、カバーフィルムを剥離した上記フレキソ印刷原版を、直径200μmのナイロン製フィラメントを毛材としたブラシでこする方式の現像機で現像することで、フレキソ印刷原版を現像した後の使用済の水系現像液を調製した。このとき、水系現像液中の感光性樹脂組成物の濃度が5質量%となるようにした。
【0049】
<遠心分離機と現像液タンク、処理液タンクの接続方法>
上記水系現像液50Lを溜める現像液タンク14とこのタンク内の現像液を循環させる循環ポンプ12、流量調整バルブ15、遠心分離機18、処理液タンク20を図6のように接続した。
【0050】
<不揮発分を表すNV値の測定方法>
遠心分離機と現像液タンク、処理液タンクを上記接続方法で接続して、上記使用済の水系現像液の作製方法の通りに調製した現像液を、遠心分離機で所定の向心加速度となる回転数で遠心分離して処理した。処理済の現像液は処理液タンクに溜まる。ここからサンプリングした液を処理後サンプルとし、処理前に現像液タンクからサンプリングした液を処理前サンプルとした。アルミホイル製カップに処理前サンプルと処理後サンプルをそれぞれ2グラム取り、真空乾燥機で80℃で2時間乾燥させて、不揮発分を表すNV値[%]を測定した。質量の測定は電子精密天秤で行った。計算式は以下の通りである。
NV値[%]=(乾燥後質量−アルミホイル製カップの質量)÷(乾燥前質量−アルミホイル製カップの質量)×100
【0051】
<樹脂凝集物除去率の評価>
測定したNV値から樹脂濃度を理論計算して求めた。計算式は以下の通りである。
樹脂濃度[%]=NV値−オレイン酸ナトリウムの添加量(1質量%)
処理前サンプルと処理後サンプルの樹脂濃度から樹脂凝集物除去率を計算した。計算式は以下の通りである。
樹脂凝集物除去率[%]=(処理前サンプルの樹脂濃度−処理後サンプルの樹脂濃度)÷(処理前サンプルの樹脂濃度)×100
【0052】
<流量評価>
遠心分離機と現像液タンク、処理液タンクを上記接続方法で接続して、流量調整バルブを開き、遠心分離機の排出口から処理済の現像液を留出させた。留出する処理済の現像液を10秒間カップで受けて、メスシリンダーにてカップで受けた容量[L]を計測した。容量計測値の6倍を1分間当たりの流量[L/min]とした。
【0053】
実施例1
感光性樹脂印刷原版Aを使用して、使用済の水系現像液の調製方法に従って使用済の水系現像液を調製した。図7に示した遠心分離機〔円筒形の回転体の内部直径R=30cm、円筒形の回転体の高さH=20cm、底部密閉型〕の回転体の内部に、内壁を一周覆うように不織布(ポリエステル製、厚み20mm、目付380g/m)(図1図2)を設けた。回転体の蓋状カバー状カバーと回転体の本体の間で、0.03mmの厚みのスペーサーを入れて回転体の蓋状カバーをねじ止めすることでスリットの開口面積の合計Aを調整した。この遠心分離機を前記接続方法で現像タンク、処理液タンクと接続し、流量を測定してから遠心分離機を運転して、回転体容量の2倍量の現像液を通液したところでオーバーフロー(図5)が発生しない流量を最大処理量とした。この最大処理量で回転体容量の2倍量の現像液を通液したところで止めて、上記方法で樹脂凝集物除去率を評価した。その結果を表1に示す。
【0054】
実施例2〜13および比較例1〜4
遠心分離機の構造や遠心分離条件を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法で実験を行った。その結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
実施例14〜16
感光性樹脂印刷原版Aの代わりに感光性樹脂印刷原版B,C,又はDを使用した以外は、実施例1と同様の方法で遠心分離処理を行った。その結果を表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
表1,2から、本発明の構成要件を満たす実施例1〜16はいずれも、高い樹脂凝集物除去率と高い最大処理量を両立していることがわかる。
具体的には、実施例1、2は、スリット開口面積比率が特に好ましい範囲である例であり、樹脂凝集物回収率及び最大処理能力が良好になっている。
実施例3は、実施例1と比べて円筒形回転体の直径が大きいため、処理液にかかる遠心力が大きくなり、樹脂凝集物除去率がさらに良好になっている。
実施例4は、実施例3に比べてスリット開口面積比率が小さいため、樹脂凝集物除去率が下がるが、最大処理流量が増大している。
実施例5から、スリット位置が円筒形回転体の上方ではなく中央部であっても、良好な遠心分離処理が可能であることが分かる。
実施例6〜7から、実施例1と比べて向心加速度を増加又は減少させても、通常の遠心分離機の加速度領域内であれば十分な遠心分離が可能であることが分かる。
実施例8は、不織布を使用していない例であるが、実施例1と同様に良好な結果であり、不織布を使用しなくとも(樹脂凝集物の取り出しの点では不便であるが)良好な遠心分離処理が可能であることが分かる。
実施例9は、図9に示すようにスリット開口部が円筒形回転体の下方にあるため、実施例1と比べて樹脂除去率が若干低下しているが、依然としてスリットにより良好な遠心分離が可能となっている。
実施例10は、図10に示すように円筒形の回転体の代わりに円錐台形の回転体を使用したものである。実施例1と比較すると樹脂凝集物除去率がわずかに低下するが、このような形状でも良好な結果である。
実施例11は、図11に示すようにスリットの断面を斜めとし、円筒形回転体本体の上部をすり鉢状としたものである。すり鉢の傾斜角度は、水平方向から30度になるようにした。このような形状でも、実施例1と変わらず良好な結果となっている。
実施例12は、図12に示すようにスリットが4カ所あるような構造である。実施例1などのようなスペーサーを入れることで円筒形回転体の蓋状カバーと円筒形回転体の本体の間に連続的な隙間を作る方法ではなく、スペーサーは入れないで、予め円筒形回転体の上部に深さ0.7mm幅10mmの溝を4カ所入れて、円筒形回転体の蓋状カバーとの間に開口部ができるような構造とした。このようにスリットの個数を変更しても、実施例1と比較して円筒形回転体の直径もスリット開口面積比率の値も変わらないため、同様の評価結果となっている。
実施例13は、図13に示すようにスリット開口部が18カ所あるような構造である。実施例12と同様の方法で開口部の数を異ならせた。具体的には、予め円筒形回転体の上部に深さ0.4mm幅4mmの溝を18カ所入れて、円筒形回転体蓋状カバーとの間に開口部ができるような構造とした。このようにスリットの個数を変更しても、実施例1と比較して円筒形回転体の直径もスリット開口面積比率の値も変わらないため、同様の評価結果となっている。
さらに、表2に示されるように、感光性樹脂印刷原版(感光性樹脂層)の種類を変更した実施例14〜16においても、実施例1と同様に良好な処理結果であった。
【0059】
一方、比較例1は、スリット開口面積比率が好ましい範囲よりも大きすぎるため、最大処理量が小さい。
比較例2は、スリット開口面積比率が好ましい範囲よりも小さいため、樹脂除去率が小さい。
比較例3は、図14に示すようにインサイドディスク21を円筒形回転体の内側に設置して遠心分離を実施した。インサイドディスクは厚み0.3mmのポリプロピレン製の板で作成し、円筒形回転体の内側の図14で示した位置に、上蓋と4つのボルトで固定した。この方式では、回転筒内の対流が発生するため、樹脂凝集物除去率が低く、分離効率に劣る。
比較例4では、図15に示すようにスペーサーを入れないことでスリットを全く設けずに遠心分離した。この場合、図5に示すようなオーバーフローによって処理済の現像液を取り出すため、遠心力により浮上して内側に溜まった樹脂凝集物が処理済の現像液と一緒に流出してしまい、ほとんど樹脂凝集物が分離できていない。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、インサイドディスクを使用しなくても単純な構成で使用済の現像液から樹脂凝集物を効率的に分離除去することができる。従って、本発明は、当業界において極めて有用である。
【要約】
目詰まりや処理条件設定の難しさがなく、且つ、樹脂凝集物の分離除去比率の高いフレキソ印刷原版の現像液のリサイクル装置、及びかかる装置を使用した現像液のリサイクル方法、及びフレキソ印刷原版の現像装置を提供する。水分散性の合成ゴム系重合体を含有する感光性樹脂層を有するフレキソ印刷原版を現像した後の使用済の水系現像液をリサイクルするための装置であって、前記装置が、使用済の水系現像液から樹脂凝集物を分離するための回転体を有する遠心分離機を含み、前記回転体の回転軸を含む鉛直方向の断面形状が、略円筒形又は略円錐台形の輪郭を有し、前記回転体が、その側面に、遠心分離された使用済水系現像液を前記回転体の内側から外側に流出させるためのスリットを有することを特徴とする。好ましくは、前記スリットの前記回転体の内部に開く開口面積の合計をAcm、前記回転体の内部体積をBcmとした場合に、スリット開口面積比率(B/A)の値が30000〜140000の範囲である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15