特許第6826970号(P6826970)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6826970
(24)【登録日】2021年1月20日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】漏洩位置推定装置及び漏洩位置推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 3/24 20060101AFI20210128BHJP
【FI】
   G01M3/24 D
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-207546(P2017-207546)
(22)【出願日】2017年10月26日
(65)【公開番号】特開2019-78698(P2019-78698A)
(43)【公開日】2019年5月23日
【審査請求日】2020年1月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 直樹
(72)【発明者】
【氏名】中江 修二
(72)【発明者】
【氏名】林 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】青田 浩美
(72)【発明者】
【氏名】新川 恵理子
【審査官】 森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−264807(JP,A)
【文献】 特開2016−161397(JP,A)
【文献】 特開昭61−153539(JP,A)
【文献】 特開平05−187604(JP,A)
【文献】 特開平11−160188(JP,A)
【文献】 特開昭54−155885(JP,A)
【文献】 特開2019−049391(JP,A)
【文献】 米国特許第04960079(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 3/00−3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流通する配管を内部に含んだ容器において前記配管から前記流体が漏洩する漏洩位置を推定する漏洩位置推定装置であって、
前記容器の外部に設けられ、前記容器の壁の複数の部位での前記漏洩に起因する振動に関する情報をそれぞれ検知するための複数のセンサと、
前記複数のセンサのそれぞれによって検知された前記情報から前記漏洩位置を推定する制御部と
を備え、
前記制御部は、
前記流体の漏洩が発生すると仮想した仮想漏洩位置に関する位置情報と、前記仮想漏洩位置において前記流体の漏洩が発生した際に前記複数のセンサのそれぞれによって検知される前記情報の推定値であるとともに前記位置情報に対応して前記複数のセンサのそれぞれに対して予め設定される推定情報の集合である推定情報群とをそれぞれ有する複数のマップ要素を含むマップを記憶するマップ記憶部と、
前記複数のセンサのそれぞれによって検知された前記情報の集合である情報群に対応する推定情報群を抽出し、前記抽出された推定情報群に対応する前記位置情報に基づいて前記漏洩位置を推定する漏洩位置推定部と
を含む漏洩位置推定装置。
【請求項2】
前記抽出された推定情報群は、複数の前記推定情報群の中で前記情報群に最も近似する推定情報群である、請求項1に記載の漏洩位置推定装置。
【請求項3】
前記推定情報のそれぞれは、前記推定情報が属する推定情報群における1つの基準推定情報に対する比として記述され、
前記情報のそれぞれは、前記情報が属する情報群における1つの基準情報に対する比として記述される、請求項1または2に記載の漏洩位置推定装置。
【請求項4】
前記複数のセンサはそれぞれ接触式センサである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の漏洩位置推定装置。
【請求項5】
前記容器は、ボイラの圧力容器である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の漏洩位置推定装置。
【請求項6】
流体が流通する配管を内部に含んだ容器において前記配管から前記流体が漏洩する漏洩位置を推定する漏洩位置推定方法であって、
前記容器の壁の複数の部位での前記漏洩に起因する振動に関する情報をそれぞれ検知するための複数のセンサを前記容器の外部に設けるセンサ設置ステップと、
前記センサ設置ステップの後、前記複数のセンサのそれぞれが前記情報を検知する情報検知ステップと、
前記流体の漏洩が発生すると仮想した仮想漏洩位置に関する位置情報と、前記仮想漏洩位置において前記流体の漏洩が発生した際に前記複数のセンサのそれぞれによって検知される前記情報の推定値であるとともに前記位置情報に対応して前記複数のセンサのそれぞれに対して予め設定される推定情報の集合である推定情報群とをそれぞれ有する複数のマップ要素を含むマップに基づいて、前記複数のセンサのそれぞれによって検知された前記情報の集合である情報群に対応する推定情報群を抽出し、前記抽出された推定情報群に対応する前記位置情報に基づいて前記漏洩位置を推定する漏洩位置推定ステップと
を含む漏洩位置推定方法。
【請求項7】
前記漏洩位置推定方法は、前記センサ設置ステップの前に、前記複数のセンサが前記容器の外部において設置される各設置位置を決定する設置位置決定ステップをさらに含み、
前記設置位置決定ステップは、
前記容器内の異なる任意の位置で前記漏洩が発生したときに前記容器内における各漏洩による各音波が前記容器の壁を振動させる振動加速度レベルの和を、前記容器の壁の複数の部位においてそれぞれ計算する第1ステップと、
前記振動加速度レベルの和の値が最も大きい部位を前記設置位置の1つと決定する第2ステップと、
前記第2ステップにおいて決定された前記1つの設置位置から、予め決められた距離だけ離れた少なくとも1つの位置を前記設置位置の少なくとも1つと決定する第3ステップと
を含む、請求項6に記載の漏洩位置推定方法。
【請求項8】
前記設置位置決定ステップは、前記第3ステップの後に、新たに決定された少なくとも1つの前記設置位置のそれぞれから、予め決められた距離だけ離れた少なくとも1つの位置を前記設置位置の少なくとも1つと決定することを少なくとも1回行う第4ステップをさらに含む、請求項7に記載の漏洩位置推定方法。
【請求項9】
前記漏洩位置推定方法は、前記漏洩位置推定ステップの前に、
前記容器内の異なる任意の位置で前記漏洩が発生したときの前記容器内における各漏洩による各音波の伝搬状況を解析する音波伝搬解析ステップと、
前記音波伝搬解析ステップにおいて解析された前記音波の前記伝搬状況に基づいて、前記マップを作製するマップ作製ステップと
をさらに含む、請求項6〜8のいずれか一項に記載の漏洩位置推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、漏洩位置推定装置及び漏洩位置推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラの伝熱管のように、容器内に配置された管状の部材からの流体の漏洩を検出する装置又は方法が、例えば特許文献1〜4に記載されている。特許文献1には、アコースティック・エミッション(AE)センサを用いた装置が記載されている。特許文献2には、音響センサを用いた装置が記載されている。特許文献3には、ボイラ炉壁の振動データを取得し、定常時と異常時における振動データのレベル差から、リーク、ノイズ、負荷変化の3つの判断基準に基づいて、リーク及びリーク位置を検出する装置が記載されている。特許文献4には、一端部がボイラの炉内に挿入された聴音管を介して取り付けられた音波検出器の信号に基づいてボイラ圧力部の噴破を検出する装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61−153539号公報
【特許文献2】特許第5306561号公報
【特許文献3】特許第2512657号公報
【特許文献4】特許第2846267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の装置では、AEセンサで伝熱管内の状況を把握するためにMHzオーダーの高周波数情報を収集する必要があるため、装置が高額になるといった問題点があった。特許文献2に記載の装置では、ボイラに装置を後付けする場合にボイラの側面に穴あけ加工を行う必要があり、工事費がかかるといった問題点があった。また、集音部を容器壁面に取り付けた場合、炉内の加圧を行うと、集音部に設けられたマイクロホンが圧力に耐えられずに損傷するおそれがあるといった問題点もあった。特許文献3の装置では、検出可能とされているリーク位置は、実際には部位レベルの大雑把なものであり、数メートルのオーダーでリーク位置を特定することは困難であるといった問題点があった。特許文献4の装置では、ボイラ圧力部の噴破を検出できるものの、噴破の位置を精度よく検出することは困難であるといった問題点があった。
【0005】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも1つの実施形態は、容器内の漏洩位置を安価に精度よく推定可能な漏洩位置推定装置及び漏洩位置推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の少なくとも1つの実施形態に係る漏洩位置推定装置は、
流体が流通する配管を内部に含んだ容器において前記配管から前記流体が漏洩する漏洩位置を推定する漏洩位置推定装置であって、
前記容器の外部に設けられ、前記容器の壁の複数の部位での前記漏洩に起因する振動に関する情報をそれぞれ検知するための複数のセンサと、
前記複数のセンサのそれぞれによって検知された前記情報から前記漏洩位置を推定する制御部と
を備え、
前記制御部は、
前記流体の漏洩が発生すると仮想した仮想漏洩位置に関する位置情報と、前記仮想漏洩位置において前記流体の漏洩が発生した際に前記複数のセンサのそれぞれによって検知される前記情報の推定値であるとともに前記位置情報に対応して前記複数のセンサのそれぞれに対して予め設定される推定情報の集合である推定情報群とをそれぞれ有する複数のマップ要素を含むマップを記憶するマップ記憶部と、
前記複数のセンサのそれぞれによって検知された前記情報の集合である情報群に対応する推定情報群を抽出し、前記抽出された推定情報群に対応する前記位置情報に基づいて前記漏洩位置を推定する漏洩位置推定部と
を含む。
【0007】
上記(1)の構成によると、容器の壁の複数の部位での漏洩に起因する振動に関する情報をそれぞれ検知するための複数のセンサを設け、流体の漏洩が発生すると仮想した仮想漏洩位置に関する位置情報と、仮想漏洩位置において流体の漏洩が発生した際に複数のセンサのそれぞれによって検知される情報の推定値であるとともに位置情報に対応して複数のセンサのそれぞれに対して予め設定される推定情報の集合である推定情報群とをそれぞれ有する複数のマップ要素を含むマップに基づいて、複数のセンサのそれぞれによって検知された情報の集合である情報群に対応する推定情報群を抽出し、抽出された推定情報群に対応する位置情報に基づいて漏洩位置を推定することができるので、容器内の漏洩位置を精度よく推定することができる。また、複数のセンサは容器の外部に設けられることにより、安価なセンサを用いることができるので、安価な装置を構成することができる。
【0008】
(2)いくつかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記抽出された推定情報群は、複数の前記推定情報群の中で前記情報群に最も近似する推定情報群である。
【0009】
上記(2)の構成によると、例えば機械学習などの方法を用いて情報群に最も近似する推定情報群を抽出することで、複数のセンサによって検知された情報群に対して正確な漏洩位置の推定を行うことができる。
【0010】
(3)いくつかの実施形態では、上記(1)または(2)の構成において、
前記推定情報のそれぞれは、前記推定情報が属する推定情報群における1つの基準推定情報に対する比として記述され、
前記情報のそれぞれは、前記情報が属する情報群における1つの基準情報に対する比として記述される。
【0011】
漏洩位置での漏洩の程度の違いによって、複数のセンサのそれぞれによって検知された絶対値としての情報は異なる場合がある。上記(3)の構成によると、情報及び推定情報をそれぞれ基準情報及び基準推定情報に対する相対値とすることにより、複数のセンサのそれぞれによって検知された情報と推定情報とが絶対値としては異なっていたとしても、相対値としては近似することになる。したがって、漏洩位置での漏洩の程度に違いがあっても、情報群に対して正確な漏洩位置の推定を行うことができる。
【0012】
(4)いくつかの実施形態では、上記(1)〜(3)のいずれかの構成において、
前記複数のセンサはそれぞれ接触式センサである。
【0013】
上記(4)の構成によると、接触式センサは非接触式センサよりも安価なので、非接触式センサを用いた場合に比べて安価な装置を提供することができる。
【0014】
(5)いくつかの実施形態では、上記(1)〜(4)のいずれかの構成において、
前記容器は、ボイラの圧力容器である。
【0015】
上記(5)の構成によると、ボイラにおいて、圧力容器内の漏洩位置を安価に精度よく検出することができる。
【0016】
(6)本発明の少なくとも1つの実施形態に係る漏洩位置推定方法は、
流体が流通する配管を内部に含んだ容器において前記配管から前記流体が漏洩する漏洩位置を推定する漏洩位置推定方法であって、
前記容器の壁の複数の部位での前記漏洩に起因する振動に関する情報をそれぞれ検知するための複数のセンサを前記容器の外部に設けるセンサ設置ステップと、
前記センサ設置ステップの後、前記複数のセンサのそれぞれが前記情報を検知する情報検知ステップと、
前記流体の漏洩が発生すると仮想した仮想漏洩位置に関する位置情報と、前記仮想漏洩位置において前記流体の漏洩が発生した際に前記複数のセンサのそれぞれによって検知される前記情報の推定値であるとともに前記位置情報に対応して前記複数のセンサのそれぞれに対して予め設定される推定情報の集合である推定情報群とをそれぞれ有する複数のマップ要素を含むマップに基づいて、前記複数のセンサのそれぞれによって検知された前記情報の集合である情報群に対応する推定情報群を抽出し、前記抽出された推定情報群に対応する前記位置情報に基づいて前記漏洩位置を推定する漏洩位置推定ステップと
を含む。
【0017】
上記(6)の方法によると、容器の壁の複数の部位での漏洩に起因する振動に関する情報をそれぞれ検知するための複数のセンサを設け、流体の漏洩が発生すると仮想した仮想漏洩位置に関する位置情報と、仮想漏洩位置において流体の漏洩が発生した際に複数のセンサのそれぞれによって検知される情報の推定値であるとともに位置情報に対応して複数のセンサのそれぞれに対して予め設定される推定情報の集合である推定情報群とをそれぞれ有する複数のマップ要素を含むマップに基づいて、複数のセンサのそれぞれによって検知された情報の集合である情報群に対応する推定情報群を抽出し、抽出された推定情報群に対応する位置情報に基づいて漏洩位置を推定することができるので、容器内の漏洩位置を精度よく推定することができる。また、複数のセンサは容器の外部に設けられることにより、安価なセンサを用いることができるので、安価に容器内の漏洩位置を推定することができる。
【0018】
(7)いくつかの実施形態では、上記(6)の方法において、
前記漏洩位置推定方法は、前記センサ設置ステップの前に、前記複数のセンサが前記容器の外部において設置される各設置位置を決定する設置位置決定ステップをさらに含み、
前記設置位置決定ステップは、
前記容器内の異なる任意の位置で前記漏洩が発生したときに前記容器内における各漏洩による各音波が前記容器の壁を振動させる振動加速度レベルの和を、前記容器の壁の複数の部位においてそれぞれ計算する第1ステップと、
前記振動加速度レベルの和の値が最も大きい部位を前記設置位置の1つと決定する第2ステップと、
前記第2ステップにおいて決定された前記1つの設置位置から、予め決められた距離だけ離れた少なくとも1つの位置を前記設置位置の少なくとも1つと決定する第3ステップと
を含む。
【0019】
上記(7)の方法によると、設置位置には、漏洩に起因する振動加速度レベルを検知可能な漏洩位置の範囲が最も広くなる位置が含まれるので、その位置から適当な間隔をあけた複数の設置位置を決定することにより、最適な設置位置を決定することができる。
【0020】
(8)いくつかの実施形態では、上記(7)の方法において、
前記設置位置決定ステップは、前記第3ステップの後に、新たに決定された少なくとも1つの前記設置位置のそれぞれから、予め決められた距離だけ離れた少なくとも1つの位置を前記設置位置の少なくとも1つと決定することを少なくとも1回行う第4ステップをさらに含む。
【0021】
上記(8)の方法によると、任意の大きさの容器に対して、最適な設置位置を決定することができる。
【0022】
(9)いくつかの実施形態では、上記(6)〜(8)のいずれかの方法において、
前記漏洩位置推定方法は、前記漏洩位置推定ステップの前に、
前記容器内の異なる任意の位置で前記漏洩が発生したときの前記容器内における各漏洩による各音波の伝搬状況を解析する音波伝搬解析ステップと、
前記音波伝搬解析ステップにおいて解析された前記音波の前記伝搬状況に基づいて、前記マップを作製するマップ作製ステップと
をさらに含む。
【0023】
上記(9)の方法によると、数値計算によってマップを作製することができるので、任意の構成の容器に関するマップを作製することができる。
【発明の効果】
【0024】
この発明の少なくとも1つの実施形態によれば、容器の壁の複数の部位での漏洩に起因する振動に関する情報をそれぞれ検知するための複数のセンサを設け、流体の漏洩が発生すると仮想した仮想漏洩位置に関する位置情報と、仮想漏洩位置において流体の漏洩が発生した際に複数のセンサのそれぞれによって検知される情報の推定値であるとともに位置情報に対応して複数のセンサのそれぞれに対して予め設定される推定情報の集合である推定情報群とをそれぞれ有する複数のマップ要素を含むマップに基づいて、複数のセンサのそれぞれによって検知された情報の集合である情報群に対応する推定情報群を抽出し、抽出された推定情報群に対応する位置情報に基づいて漏洩位置を推定することができるので、容器内の漏洩位置を精度よく推定することができる。また、複数のセンサは容器の外部に設けられることにより、安価のセンサを用いることができるので、安価な装置を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態に係る漏洩位置推定装置の概略構成図である。
図2】本発明の一実施形態に係る漏洩位置推定装置の制御部の概略構成図である。
図3】本発明の一実施形態に係る漏洩位置推定装置の制御部に記憶されたマップの概略図である。
図4】本発明の一実施形態に係る漏洩位置推定装置を用いて圧力容器内の漏洩位置を推定する動作を説明するためのフローチャートである。
図5】本発明の一実施形態に係る漏洩位置推定装置を用いて圧力容器内の漏洩位置を推定する動作における情報群と推定情報群とのマッチングを説明するためのグラフである。
図6】本発明の一実施形態に係る漏洩位置推定装置において複数のセンサが設置される設置位置を決定する動作を説明するためのフローチャートである。
図7】本発明の一実施形態に係る漏洩位置推定装置において複数のセンサが設置される設置位置を決定する動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照して本発明のいくつかの実施形態について説明する。ただし、本発明の範囲は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、本発明の範囲をそれにのみ限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0027】
図1に示されるように、本発明の一実施形態に係る漏洩位置推定装置10は、ボイラ1の圧力容器2内に設けられた配管3からガス又は液体状の流体が漏洩する漏洩位置を推定するためのものである。漏洩位置推定装置10は、圧力容器2の外周面2a(壁)上に配置された複数のセンサ11a〜11jと、センサ11a〜11jのそれぞれと電気的に接続された制御部12とを備えている。尚、図1には10個のセンサが図示されているが、ボイラ1の大きさや漏洩位置の推定精度等に基づき、センサの個数は任意に変更可能である。
【0028】
圧力容器2内で配管3の任意の位置(漏洩位置)から流体が漏洩すると、漏洩に起因した音が発生し、その音の音波によって圧力容器2の外周面2aが振動する。センサ11a〜11jはそれぞれ、外周面2aの異なる部位でこの振動に関する情報(例えば、振動時の外周面2aの変位、振動周波数、振動の加速度、振動の速度等のように、振動の程度を定量的に特徴づけることのできる情報)を検知する。この目的によれば、センサ11a〜11jには、変位計、AEセンサ、振動加速度計等の接触式センサを使用することができる。代替的には、レーザ振動計等の非接触式センサも使用することができる。センサ11a〜11jとして非接触式センサを使用する場合には、センサ11a〜11jは、圧力容器2の外部であるが外周面2aに接しないように設けられる。一般的に、非接触式センサよりも接触式センサの方が安価なので、複数のセンサ11a〜11jを備える漏洩位置推定装置10では、接触式センサを使用した方が安価になる。
【0029】
図2に示されるように、制御部12は、センサ11a〜11jのそれぞれと電気的に接続される情報収集部13と、情報収集部13と電気的に接続された漏洩位置推定部14と、漏洩位置推定部14と電気的に接続さるとともにマップ20を記憶するマップ記憶部15とを備えている。情報収集部13は、センサ11a〜11jのそれぞれによって検知された振動に関する情報を収集し、漏洩位置推定部14に伝送する。漏洩位置推定部14は、後述する動作で、マップ記憶部15に記憶されたマップ20に基づいて、センサ11a〜11jのそれぞれによって検知された振動に関する情報から漏洩位置を推定する。
【0030】
図3に示されるように、マップ20は、センサ11a〜11jを縦軸にとり、流体の漏洩が発生すると仮想した配管3(図1参照)における仮想漏洩位置に関する位置情報P−1〜P−10を横軸にとったマトリクスである。尚、位置情報の個数はセンサの個数と同じである。上述したように、センサの個数は任意に変更可能であるため、マップ20における位置情報の個数もセンサの個数により変更可能である。位置情報P−1〜P−10にはそれぞれ、圧力容器2(図1参照)内における配管3の特定の位置が割り当てられている。マトリクスを構成する各セル23には数値が入力されている。これらの数値は、各セル23に対応する仮想漏洩位置で漏洩が発生すると仮想した場合に、各セル23に対応するセンサが検知するであろう情報の推定値(推定情報)を意味している。これらの数値は、圧力容器2内の異なる仮想漏洩位置で漏洩が発生したときの圧力容器2内における各漏洩による各音波の伝搬状況を解析し、解析された音波の伝搬状況に基づく数値計算によって求められる。マップ20は数値計算によって作製することができるので、任意の構成の圧力容器2に関するマップを作製することができる。
【0031】
本実施形態では、情報及び推定情報のそれぞれを、単位をデシベル(dB)とする振動加速度レベルとして説明する。マップ20において、各位置情報に対応してセンサ11a〜11jのそれぞれに対して予め設定される推定情報の集合をそれぞれ推定情報群21と定義し、各位置情報と各推定情報群21とを合わせてマップ要素22と定義する。すなわち、本実施形態のマップ20は、10個のマップ要素22を含み、各マップ要素22の推定情報群21はそれぞれ10個の推定情報を含んでいる。尚、図3にマップ20の各セル23に入力されている数値は単なる例示であり、マップ20がこれらの数値に限定されるものではない。また、マップ要素22及び推定情報のそれぞれの個数も、位置情報の個数と同様に、センサの個数により変更可能である。
【0032】
次に、漏洩位置推定装置10を用いて圧力容器2内の漏洩位置を推定する動作を、図1〜3を参照しながら図4のフローチャートに基づいて説明する。
圧力容器2の外周面2a上に、制御部12の情報収集部13に電気的に接続された複数のセンサ11a〜11jを設置する(ステップS1)。センサ11a〜11jはそれぞれ、互いに適当な間隔をあけて外周面2a全体をカバーできるように設置されることが好ましい。各センサの設置位置を決定する方法の一例は後述する。センサ11a〜11jを設置した後、センサ11a〜11jはそれぞれ、外周面2aの振動加速度レベルを検知し(ステップS2)、検知した振動加速度レベルを情報収集部13に送信する。その後、漏洩位置推定部14は、マップ記憶部15に記憶されたマップ20に基づいて、情報収集部13に収集された振動加速度レベルから漏洩位置を推定する(ステップS3)。
【0033】
次に、ステップS3における漏洩位置の推定動作について詳細に説明する。
圧力容器2内で配管3から流体の漏洩が発生したときに、センサ11a〜11jのそれぞれによって検知された振動加速度レベル(情報)の集合(情報群)を、図5のような棒グラフで表す。漏洩位置推定部14(図2参照)は、センサ11a〜11jのそれぞれによって検知された振動加速度レベルの情報群に対し、各位置情報に対する各推定情報群21(図4参照)をマッチングする。
【0034】
例えば、ある位置情報に対する推定情報群21aよりも、別の位置情報に対する推定情報群21bのほうが、センサ11a〜11jのそれぞれによって検知された振動加速度レベルの情報群により近似している。このような操作を線形重回帰モデルのような機械学習モデルを用いて行い、センサ11a〜11jのそれぞれによって検知された振動加速度レベルの情報群に最も近似する推定情報群を抽出する。抽出された推定情報群からは、これに対応する位置情報が得られる。各位置情報には、圧力容器2(図1参照)内における配管3(図1参照)の特定の位置が割り当てられているので、得られた位置情報に基づいて漏洩位置が推定される。機械学習モデルを用いて情報群に最も近似する推定情報群を抽出することで、複数のセンサ11a〜11jによって検知された振動加速度レベルの情報群に対して正確な漏洩位置の推定を行うことができる。
【0035】
このように、外周面2aの複数の部位での漏洩に起因する振動加速度レベルをそれぞれ検知するための複数のセンサ11a〜11jを設け、流体の漏洩が発生すると仮想した仮想漏洩位置に関する位置情報P−1〜P−10と、仮想漏洩位置において流体の漏洩が発生した際に複数のセンサ11a〜11jのそれぞれによって検知される振動加速度レベルの推定値であるとともに位置情報P−1〜P−10に対応して複数のセンサ11a〜11jのそれぞれに対して予め設定される推定情報の集合である推定情報群21とをそれぞれ有する複数のマップ要素22を含むマップ20に基づいて、複数のセンサ11a〜11jのそれぞれによって検知された振動加速度レベル(情報)の集合である情報群に対応する推定情報群21を抽出し、抽出された推定情報群21に対応する位置情報に基づいて漏洩位置を推定することができるので、圧力容器2内の漏洩位置を精度よく推定することができる。尚、この方法によれば、特定された仮想漏洩位置から数メートルのオーダーの誤差範囲内に、実際の漏洩位置を見つけることができる。
【0036】
また、この実施形態では、センサ11a〜11jは圧力容器2の外部に設けられている。一般に、圧力容器2の内部は外部に比べて温度や圧力等に関して厳しい環境にあるため、圧力容器2の内部に設けられるセンサは、圧力容器2の外部に設けられるセンサに比べて高価になる。このため、漏洩位置推定装置10には安価なセンサを用いることができるので、安価な漏洩位置推定装置10を構成することができる。
【0037】
この実施形態では、マップ20の各セル23に入力された数値は振動加速度レベルの絶対値であり、これらから構成された推定情報群21と、センサ11a〜11jによって検知された振動加速度レベルの絶対値で構成された情報群とをマッチングしているが、この形態に限定するものではない。マップ20の各セル23に入力される数値は、各推定情報群21に属する1つの推定情報、例えば最も大きい値を有する推定情報を基準推定情報として、他の推定情報をこの基準推定情報で割り算した値、すなわち基準推定情報に対する各推定情報の比であってもよく、この場合は、各数値は0から1までの値となる。この場合のマッチングに際しては、センサ11a〜11jのそれぞれによって検知された各振動加速度レベルのうち最も大きい値を有する振動加速度レベルを基準情報として他の振動加速度レベルをこの基準情報で割り算した値が情報として用いられることになる。
【0038】
漏洩位置での漏洩の程度の違いによって、センサ11a〜11jによって検知された振動加速度レベルの絶対値は異なる場合がある。しかし、情報及び推定情報をそれぞれ基準情報及び基準推定情報に対する相対値とすることにより、センサ11a〜11jのそれぞれによって検知された情報と推定情報とが絶対値としては異なっていたとしても、相対値としては近似することになる。したがって、漏洩位置での漏洩の程度に違いがあっても、情報群に対して正確な漏洩位置の推定を行うことができる。尚、基準情報及び基準推定情報はそれぞれ、情報群及び推定情報群の中の最も大きい値を有する情報及び推定情報であることに限定するものではなく、最も小さい値を有する情報及び推定情報や、中央値又は平均値等であってもよい。
【0039】
この実施形態では、各センサの設置位置の決定方法については特に説明しなかったが、以下に、各センサの設置位置の決定方法の一例を、図7を参照しながら図6のフローチャートに基づいて説明する。
まず、圧力容器2(図1参照)内の異なる任意の位置で流体の漏洩が発生したときに圧力容器2内における各漏洩による各音波が圧力容器2の外周面2aを振動させる振動加速度レベルの和を、外周面2aの複数の部位においてそれぞれ計算する(ステップS11)。
【0040】
図7(a)には、圧力容器2の外周面2aの一部において、計算された振動加速度レベルの和の分布の概略的な一例が示されている。次に、この振動加速度レベルの和の分布の中から、振動加速度レベルの和の値が最も大きい部位A(図7(b))を設置位置の1つ(以下、「初期位置A」という)と決定する(ステップS12)。振動加速度レベルの和の値が最も大きい部位にセンサを設置すると、設置されたセンサは、漏洩に起因する振動加速度レベルを検知可能な漏洩位置の範囲が最も広くなる。次に、ステップS12において決定された初期位置Aから、予め決められた距離だけ離れた少なくとも1つの位置を設置位置の少なくとも1つと決定する(ステップS13)。図7(c)では、ステップS13において決定された設置位置は、設置位置B1〜B4に相当する。
【0041】
圧力容器2の大きさ次第では、ステップS11〜S13までの動作だけでは外周面2a全体をカバーすることができない。このため、新たに決定された少なくとも1つの設置位置(図7(c)では設置位置B1〜B4に相当)のそれぞれから、予め決められた距離だけ離れた少なくとも1つの位置を設置位置の少なくとも1つと決定することを少なくとも1回繰り返す(ステップS14)。これにより、任意の大きさの圧力容器2に対して、最適な設置位置を決定することができる。図7(c)では、設置位置B1に対して、予め決められた距離だけ離れた設置位置Cが決定される。続いて、設置位置Cに対して、予め決められた距離だけ離れた設置位置D1及びD2が決定される。この際、任意の2つの設置位置間が一定の距離以上となるように、設置位置を決定する。複数の設置位置が外周面2a全体をカバーするようになったら、この動作を終了する。
【0042】
この決定方法によると、設置位置には、漏洩に起因する振動加速度レベルを検知可能な漏洩位置の範囲が最も広くなる位置(初期位置A)が含まれるので、その初期位置Aから適当な間隔をあけた複数の設置位置を決定することにより、最適な設置位置を決定することができる。
【0043】
この実施形態では、制御部12は情報収集部13を備え、センサ11a〜11jによって検知された振動加速度レベルが情報収集部13に収集されているが、この形態に限定するものではない。例えば、制御部12は情報収集部13を備えず、センサ11a〜11jによって検知された振動加速度レベルが直接、漏洩位置推定部14に伝送されるような構成であってもよい。
【0044】
この実施形態では、漏洩位置推定装置10は、ボイラ1の圧力容器2内の漏洩位置を推定するものとして説明されているが、この形態に限定するものではない。任意の装置の容器内に含まれる配管からの流体の漏洩の位置を推定するものとして使用することもできる。
【符号の説明】
【0045】
1 ボイラ
2 圧力容器
2a (圧力容器の)外周面(壁)
3 配管
10 漏洩位置推定装置
11a〜11j センサ
12 制御部
13 情報収集部
14 漏洩位置推定部
15 マップ記憶部
20 マップ
21 推定情報群
22 マップ要素
23 セル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7