特許第6826985号(P6826985)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6826985コーティング膜付きガラス板及びその製造方法
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  • 特許6826985-コーティング膜付きガラス板及びその製造方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6826985
(24)【登録日】2021年1月20日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】コーティング膜付きガラス板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/34 20060101AFI20210128BHJP
【FI】
   C03C17/34 Z
【請求項の数】14
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2017-542700(P2017-542700)
(86)(22)【出願日】2016年9月7日
(86)【国際出願番号】JP2016004080
(87)【国際公開番号】WO2017056405
(87)【国際公開日】20170406
【審査請求日】2019年8月2日
(31)【優先権主張番号】特願2015-196052(P2015-196052)
(32)【優先日】2015年10月1日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-233102(P2015-233102)
(32)【優先日】2015年11月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100143236
【弁理士】
【氏名又は名称】間中 恵子
(72)【発明者】
【氏名】籔田 武司
(72)【発明者】
【氏名】山本 透
(72)【発明者】
【氏名】近藤 史佳
(72)【発明者】
【氏名】宮本 瑶子
【審査官】 山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/001675(WO,A1)
【文献】 特開2014−214063(JP,A)
【文献】 特開2010−038948(JP,A)
【文献】 特開2009−237551(JP,A)
【文献】 特開2006−215542(JP,A)
【文献】 特開2015−075707(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C
B32B
G02B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板と、
前記ガラス板の少なくとも一方の主面上に設けられたコーティング膜と、
を含むコーティング膜付きガラス板であって、
前記コーティング膜は、緻密層と多孔質層とを含み、
前記緻密層は、前記多孔質層と前記ガラス板との間に位置しており、
前記多孔質層は、平均粒径が50〜200nmであるシリカ微粒子と前記シリカ微粒子のバインダとを含み、
前記シリカ微粒子と前記バインダとの比(シリカ微粒子:バインダ)が、質量基準で、65:35〜93:7である、
コーティング膜付きガラス板。
【請求項2】
前記コーティング膜は、前記緻密層と前記多孔質層とからなる、
請求項1に記載のコーティング膜付きガラス板。
【請求項3】
前記緻密層は、シリカを主成分として含む、
請求項1又は2に記載のコーティング膜付きガラス板。
【請求項4】
前記緻密層は、アルミニウム、ジルコニウム及びチタンの酸化物からなる群から選ばれた少なくともいずれか1種の酸化物をさらに含み、
前記緻密層において、
アルミニウム酸化物の含有率は、Al23に換算して、前記緻密層に含まれるシリカに対して10質量%以下であり、
ジルコニウム酸化物の含有率は、ZrO2に換算して、前記緻密層に含まれるシリカに対して10質量%以下であり、
チタン酸化物の含有率は、TiO2に換算して、前記緻密層に含まれるシリカに対して10質量%以下である、
請求項3に記載のコーティング膜付きガラス板。
【請求項5】
前記緻密層は、10〜40nmの厚さを有する、
請求項1〜4のいずれか1項に記載のコーティング膜付きガラス板。
【請求項6】
前記緻密層は、10〜20nmの厚さを有する、
請求項5に記載のコーティング膜付きガラス板。
【請求項7】
前記コーティング膜上に配置された接触角向上膜をさらに含む、
請求項1〜のいずれか1項に記載のコーティング膜付きガラス板。
【請求項8】
前記ガラス板の前記一方の主面は、表面凹凸を有しており、
前記ガラス板の表面凹凸が0.4mm以上2.5mm以下の平均間隔Sm、及び0.5μm〜5μmの算術平均粗さRaを有し、
前記コーティング膜は、前記ガラス板の前記表面凹凸上に形成されており、
前記多孔質層において、前記表面凹凸の頂部では前記シリカ微粒子が1層に配置され、前記表面凹凸の底部では前記シリカ微粒子が少なくとも3層に相当する厚さに積層して配置されており、
前記コーティング膜側の面から前記コーティング膜付きガラス板に波長380〜1100nmの光を入射したときの平均透過率から、前記コーティング膜が表面に設けられていない前記ガラス板に前記波長の光を入射したときの平均透過率を差し引いた透過率ゲインが1.5%以上である、
請求項1〜7のいずれか1項に記載のコーティング膜付きガラス板。
【請求項9】
前記ガラス板の前記一方の主面は、表面凹凸を有しており、
前記ガラス板の表面凹凸が0.3mm以上2.5mm以下の平均間隔Sm、及び0.3μm〜5μmの算術平均粗さRaを有し、
前記コーティング膜は、前記ガラス板の前記表面凹凸上に形成されており、
前記多孔質層において、前記表面凹凸の頂部では、前記シリカ微粒子は、1層に、且つ、以下の式で定義される充填率Fが35〜65%となるように、均一に配置されており、
前記コーティング膜側の面から前記コーティング膜付きガラス板に波長380〜1100nmの光を入射したときの平均透過率から、前記コーティング膜が表面に設けられていない前記ガラス板に前記波長の光を入射したときの平均透過率を差し引いた透過率ゲインが2.2%以上である、
請求項1〜7のいずれか1項に記載のコーティング膜付きガラス板。
F=A/B×100
A:1辺が前記シリカ微粒子の平均粒径の10倍である正方領域に含まれている前記シリカ微粒子の個数
B:前記正方領域に前記シリカ微粒子の平均粒径と同一の直径の球を最密に充填したと仮定したときの当該球の充填数
【請求項10】
前記多孔質層において、前記表面凹凸の底部では、前記シリカ微粒子の平均粒径の1.5〜2.1倍に相当する高さに前記シリカ微粒子が積層されている、
請求項に記載のコーティング膜付きガラス板。
【請求項11】
前記ガラス板の前記表面凹凸が、0.05〜1.0度の平均傾斜角θを有する、
請求項10のいずれか1項に記載のコーティング膜付きガラス板。
【請求項12】
前記多孔質層の前記バインダは、シリカを主成分として含む、
請求項11のいずれか1項に記載のコーティング膜付きガラス板。
【請求項13】
前記多孔質層の前記バインダは、チタン及びジルコニウムの酸化物からなる群から選ばれた少なくともいずれか1種の酸化物をさらに含み、
前記多孔質層の前記バインダにおいて、
ジルコニウム酸化物の含有率は、ZrO2に換算して、前記バインダに含まれるシリカに対して5質量%以下であり、
チタン酸化物の含有率は、TiO2に換算して、前記バインダに含まれるシリカに対して5質量%以下である、
請求項12に記載のコーティング膜付きガラス板。
【請求項14】
請求項13のいずれか1項に記載のコーティング膜付きガラス板を製造する方法であって、
ガラス板の一方の主面上にコーティング膜を形成するコーティング膜形成工程を含み、
前記コーティング膜形成工程は、
(a)緻密層形成用コーティング液を用いて緻密層形成用塗膜を形成し、前記緻密層形成用塗膜を乾燥させる工程と、
(b)バインダ原料及びシリカ微粒子を含む多孔質層形成用コーティング液を用いて多孔質層形成用塗膜を形成し、前記多孔質層形成用塗膜を乾燥させる工程と、
(c)乾燥させた前記緻密層形成用塗膜を焼成する工程と、
(d)乾燥させた前記多孔質層形成用塗膜を焼成する工程と、
を含む、コーティング膜付きガラス板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング膜付きガラス板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス及びセラミックなどの基材の表面には、その基材の用途における機能改善を目的として、機能性コーティング膜が形成される。例えば、基材により多くの光を透過させるため又は反射による眩惑を防止するために、基材の表面に低反射コーティング膜が形成される。
【0003】
低反射コーティング膜を備えたガラス板は、車両用ガラス、ショーウィンドウ又は光電変換装置などに利用される。光電変換装置の一種である薄膜型太陽電池では、下地膜、透明導電膜及びアモルファスシリコンなどからなる光電変換層と、裏面薄膜電極とを、ガラス基板の一方の主面上にこの順で積層し、さらにガラス板の一方の主面と対向する他方の主面上に、低反射コーティング膜が形成される。また、他の種類の光電変換装置である、いわゆる結晶系太陽電池では、太陽光の入射側にカバーガラスが設置され、このカバーガラスの表面に低反射コーティング膜が形成される。太陽電池に用いられるガラス板では、このように太陽光の入射側の表面に低反射コーティング膜が形成されることから、より多くの太陽光が光電変換層又は太陽電池素子に導かれ、その発電量が向上することになる。
【0004】
最もよく用いられる低反射コーティング膜は、真空蒸着法、スパッタリング法又は化学蒸着法(CVD法)などにより形成される誘電体膜であるが、シリカ微粒子などの微粒子を含む微粒子含有膜が低反射コーティング膜として用いられることもある。微粒子含有膜は、微粒子を含むコーティング液を、ディッピング法、フローコート法又はスプレー法などによって透明基体上に塗布することにより成膜される。
【0005】
例えば、特開2014−032248号公報(特許文献1)には、表面凹凸を有するガラス板に微粒子とバインダとを含む反射抑制膜が形成され、表面凹凸の頂部においてシリカ微粒子が1層で、且つその充填率が所定範囲内になるように均一に配置されている、光電変換装置用カバーガラスが開示されている。このカバーガラスに施された反射抑制膜によって、波長380〜1100nmの光の平均透過率を少なくとも2.37%向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−032248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば微粒子含有膜のような、多孔質の低反射コーティング膜を備えた従来のコーティング膜付きガラス板においては、コーティング膜の耐久性が不十分なことによりコーティング膜の機能が低下したり、さらにコーティング膜の外側からコーティング膜に浸入した水によりガラス板の表面が劣化したりして、コーティング膜付きガラス板の性能が低下するという問題が生じることがあった。
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑み、ガラス板の主表面に多孔質の低反射コーティング膜が形成されたコーティング膜付きガラス板において、コーティング膜を改善して耐久性に優れたコーティング膜付きガラス板を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
ガラス板と、
前記ガラス板の少なくとも一方の主面上に設けられたコーティング膜と、
を含むコーティング膜付きガラス板であって、
前記コーティング膜は、緻密層と多孔質層とを含み、
前記緻密層は、前記多孔質層と前記ガラス板との間に位置している、
コーティング膜付きガラス板を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のコーティング膜付きガラス板では、コーティング膜が緻密層を含んでおり、該緻密層が多孔質層とガラス板との間に位置している。このような緻密層の存在により、コーティング膜の耐久性が向上してその機能が長期間維持され、さらにコーティング膜の外側からコーティング膜へ浸入する水を低減できるのでガラス板の表面の劣化も抑えることができ、その結果、高い耐久性を有するコーティング膜付きガラス板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例9のコーティング膜付きガラス板のコーティング膜を電界放射型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)で観察した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態1)
本発明のコーティング膜付きガラス板の一実施形態について説明する。
【0013】
本実施形態のコーティング膜付きガラス板は、ガラス板と、そのガラス板の少なくとも一方の主面上に設けられたコーティング膜とを含んでいる。
【0014】
ガラス板は、特に限定されないが、その主面上に設けられるコーティング膜の表面を平滑にするためには、微視的な表面の平滑性が優れているものが好ましい。たとえば、ガラス板は、その主面の算術平均粗さRaがたとえば1nm以下、好ましくは0.5nm以下の平滑性を有するフロート板ガラスであってもよい。また、ガラス板は、フロート板ガラスにおいて本実施形態で特定するコーティング膜が設けられる主面とは反対側の主面に、透明導電膜を含む別のコーティングが施されているガラス板であってもよい。ここで、本明細書における算術平均粗さRaは、JIS B0601−1994に規定された値である。
【0015】
一方で、ガラス板は、その表面に、肉眼で確認できるサイズの巨視的な凹凸を有する型板ガラスであってもよい。なお、ここでいう巨視的な凹凸とは、粗さ曲線における評価長さをセンチメートルオーダーとした際に確認される、平均間隔Smがミリメートルオーダー程度の凹凸のことである。本実施形態では、型板ガラスの表面における凹凸の平均間隔Smは0.3mm以上、さらに0.4mm以上、特に0.45mm以上であることが好ましく、2.5mm以下、さらに2.1mm以下、特に2.0mm以下、とりわけ1.5mm以下であることが好ましい。ここで、平均間隔Smは、粗さ曲線が平均線と交差する点から求めた山谷一周期の間隔の平均値を意味する。さらに、型板ガラス板の表面凹凸は、上記範囲の平均間隔Smとともに、0.5μm〜10μm、特に1μm〜8μmの最大高さRyを有することが好ましい。ここで、本明細書における平均間隔Sm及び最大高さRyは、JIS(日本工業規格) B0601−1994に規定された値である。なお、このような型板ガラスであっても、微視的には(例えば原子間力顕微鏡(AFM)観察のような、粗さ曲線における評価長さが数100nmである表面粗さ測定では)、算術平均粗さRaが数nm以下、例えば1nm以下を満たすことが可能である。したがって、型板ガラスであっても、微視的な表面の平滑性に優れるガラス板として、本実施形態のコーティング膜付きガラス板のガラス板として好適に使用できる。
【0016】
また、型板ガラス板の表面凹凸は、上記範囲の平均間隔Sm、最大高さRyとともに、0.3μm〜5.0μm、特に0.4μm〜2.0μm、さらに0.5μm〜1.2μmの算術平均粗さRaを有することが好ましい。上述の型板ガラスであれば、表面凹凸により防眩効果が充分に得られるが、他方、これら粗度が大きすぎると、面内で反射色調に色ムラが現れやすい。
【0017】
なお、ガラス板は、通常の型板ガラスや建築用板ガラスと同様の組成であってよいが、着色成分を極力含まないことが好ましい。ガラス板において、代表的な着色成分である酸化鉄の含有率は、Fe23に換算して、0.06質量%以下、特に0.02質量%以下が好適である。
【0018】
次に、本実施形態におけるコーティング膜について説明する。
【0019】
コーティング膜は、緻密層と多孔質層とを含んでいる。緻密層は、多孔質層とガラス板との間に位置している。換言すると、コーティング膜において、緻密層は、多孔質層に対してガラス板側に配置されている。なお、本実施形態におけるコーティング膜は、緻密層と多孔質層との位置関係が前述の関係を満たしていればよく、緻密層及び多孔質層以外の他の層をさらに含んでいてもよいが、ここではコーティング膜が緻密層と多孔質層とからなる場合(2層構造の場合)を例に挙げて説明する。
【0020】
緻密層は、実質的に空隙を有しない層である。具体的には、膜の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した際に、視野内に直径10nm以上の空孔を有さないことが好ましく、その滑らかな表面は、算術平均粗さRaが5nm以下であることが好ましい。
【0021】
緻密層の物理的厚さは、例えば10〜40nmであり、10〜20nmであってもよく、20〜40nmであってもよい。緻密層の有無でコーティングの光学特性に大きな影響を与えない。緻密層の屈折率は1.4〜2.0の範囲であることが好ましく、1.55以下がより好ましく、1.50以下がさらに好ましい。
【0022】
緻密層は、前述のとおり空隙を有さないものであれば任意のものを用いることができるが、透明な無機アモルファス材料が好ましく、シリコン酸化物(特にシリカ)を主成分とする連続層であることがより好ましい。なお、緻密層がシリコン酸化物を主成分とするとは、緻密層におけるシリコン酸化物の含有率が50質量%以上であることをいう。
【0023】
シリコン酸化物は屈折率が低いアモルファス材料であり、例えば後述の多孔質層に酸化ケイ素系材料が用いられている場合には、それらとの親和性が高いため、光学特性に影響を与えない程度の薄い膜厚であっても、低反射コーティングとしての耐久性が向上する。
【0024】
緻密層にさらなる耐久性の向上などの効果を発揮させるために、緻密層がシリコン酸化物以外の金属化合物を含むことが好ましい。例えば、緻密層は、シリコン酸化物に加えて、アルミニウム、ジルコニウム及びチタンの酸化物からなる群から選ばれた少なくともいずれか1種の酸化物をさらに含んでいてもよい。緻密層において、アルミニウム酸化物の含有率は、Al23に換算して、緻密層に含まれるシリカに対して10質量%以下であることが好ましい。また、緻密層において、ジルコニウム酸化物の含有率は、ZrO2に換算して、緻密層に含まれるシリカに対して10質量%以下であることが好ましい。また、緻密層において、チタン酸化物の含有率は、TiO2に換算して、緻密層に含まれるシリカに対して10質量%以下であることが好ましい。
【0025】
シリコン酸化物を主成分とする緻密層の供給源としては、シリコンアルコキシドに代表される加水分解性金属化合物を用いることができる。シリコンアルコキシドとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシランを例示できる。加水分解性金属化合物は、いわゆるゾルゲル法により加水分解及び縮重合して緻密膜とすればよい。
【0026】
また、緻密層は、有機化合物を実質的に含んでいないことが好ましい。なお、緻密層が有機化合物を実質的に含んでいないとは、緻密層における有機化合物の含有率が5質量%未満であることをいう。
【0027】
多孔質層は、当該多孔質層の内部に含まれる孤立した閉鎖空孔と、マトリクスとを含んでいる。別の観点から、多孔質層における閉鎖空孔は、マトリクスに囲まれることによって膜内部で孤立している空孔であるということができ、閉鎖空孔の内部には空気が存在していると考えられる。このような閉鎖空孔が膜内部に含まれていることにより、コーティング膜の実効屈折率が減少するので、コーティング膜による低反射効果が得られる。すなわち、本実施形態におけるコーティング膜は、高い低反射性を実現できる低反射コーティング膜として機能し得る。このように、本実施形態のコーティング膜付きガラス板は、表面が凹凸形状を有していなくても、2.5%以上という高い透過率ゲインを実現することができる。なお、本明細書において、透過率ゲインとは、コーティング膜側の面からコーティング膜付きガラス板に波長380〜1100nmの光を入射したときの平均透過率から、コーティング膜が表面に設けられていない(設けられる前の)ガラス板に上記波長の光を入射したときの平均透過率を差し引いた値である。なお、閉鎖空孔の形状及び大きさ、さらにコーティング膜の空孔率などを以下の記載に従って適切な範囲に調整することにより、透過率ゲインを2.6%以上に高めることもでき、さらに2.9%以上に高めることもできる。
【0028】
本実施形態のコーティング膜付きガラス板は、上記のような透過率ゲインを実現できるので、高い光透過性を有することができる。
【0029】
多孔質層は、当該多孔質層の表面に開口している空孔(開放空孔)を実質的に有していない。なお、多孔質層が開放空孔を実質的に有していないとは、多孔質層の表面における開放空孔の数の面密度が0.2個/μm2未満であることをいい、好ましくは0.16個/μm2未満、より好ましくは0.01個/μm2未満であることである。多孔質層は、開放空孔を有していないことが好ましい。なお、開放空孔の数の面密度とは、多孔質層の表面において視野2.5μm角でSEMで観察して開放空孔の数を測定し、その測定値を1視野の面積で除して求められる値である。また、多孔質層が開放空孔を含まないとは、多孔質層の表面を視野2.5μm角で、同一サンプル内で視野を変えて3回観察した場合に、開放空孔が確認されないことをいう。ここで、開放空孔とは、多孔質層の表面をSEMで観察した際に確認される直径5nm以上の開口を有する空孔のことである。コーティング膜の表面に開口している開放空孔の数の面密度を上記範囲内とすることにより、たとえ樹脂などの付着物が表面に付着した場合でも、それを容易に除去することが可能となる。したがって、製造工程での付着物の付着による歩留り低下を抑制できる。
【0030】
閉鎖空孔は、多孔質層の厚さ方向に沿った断面において観察された場合に、略楕円形状を有していてもよい。例えば、閉鎖空孔は、上記断面において観察された場合、略楕円形の孤立した空孔である第1閉鎖空孔と、略楕円形の空孔が2つ以上連結することによって形成されている第2閉鎖空孔とを含む。
【0031】
第1閉鎖空孔と、第2閉鎖空孔を形成している略楕円形の各空孔とは、例えば、長軸長さ30〜80nm、及び、短軸長さ20〜30nmを有している。なお、長軸長さとは、上記断面において観察される略楕円形の空孔の最長径であり、短軸長さとは長軸に直交する方向の径の長さのことである。長軸長さは、20〜80nmであってもよく、30〜70nmであってもよい。短軸長さは、10〜40nmであってもよく、15〜30nmであってもよい。
【0032】
第1閉鎖空孔と、第2閉鎖空孔を形成している略楕円形の各空孔とは、長軸がコーティング膜の膜面にほぼ沿うように配列されていてもよい。すなわちこの場合、第1閉鎖空孔の立体的形状、及び、第2閉鎖空孔を形成している略楕円形の各空孔の立体的形状は、扁平な略回転楕円体であって、回転軸が多孔質層の厚さ方向に沿っているとみなすことができる。
【0033】
上記のように、多孔質層は、膜内部に閉鎖空孔を含む多孔質構造を有している。多孔質層の空孔率が高いほどコーティング膜のみかけの屈折率が低くなるので、コーティング膜付きガラス板の反射率を低減することができる。しかし、空孔率が限度を超えて高くなると、コーティング膜の耐久性が低下する。これらの理由から、多孔質層の空孔率は10〜40%が好ましく、15〜30%がより好ましい。
【0034】
多孔質層の厚さは、例えば50〜300nmであり、好ましくは100〜250nmである。
【0035】
多孔質層は、表面に粒状物が存在していてもよい。ただし、表面に存在する粒状物が多すぎると、コーティング膜付きガラス板の光透過性が低下したり、付着物の除去性が低下したりする場合がある。したがって、多孔質層を表面側からSEMで観察した場合に、多孔質層の表面に確認される直径20〜100nmの粒状物が100個/μm2以下であることが好ましく、75個/μm2以下であることがより好ましく、50個/μm2以下であることが特に好ましい。
【0036】
多孔質層の表面において、評価長さ300nmで、開放空孔の開口部分を除いた部分(表面に上記の粒状物が存在する場合はその粒状物も除いた部分)の表面粗さは、例えば3nm以下の算術平均粗さRaを有する。
【0037】
多孔質層は、上述のとおりマトリクスを含んでいる。このマトリクスは、シリコン、チタン、アルミニウム、ジルコニウム及び/又はタンタルなどの元素を含む金属酸化物を含むことができるが、シリコン酸化物(特にシリカ)を主成分として含むことが好ましい。なお、ここでいうマトリクスの主成分とは、マトリクスに最も多く含まれる成分のことである。
【0038】
シリカは、酸化ケイ素を主成分として含有するガラス板との親和性が優れているため、コーティング膜の耐久性を高めることができる。また、シリカは屈折率が低いため、多孔質層の見かけの屈折率をさらに低減することができ、さらなる透過率ゲインの向上にも寄与する。後述するが、マトリクスには、さらなる耐久性の向上などの効果を発揮させるために、シリコンの酸化物以外の金属化合物を含んでいてもよい。
【0039】
マトリクスの供給源(マトリクス原料)としては、シリコンアルコキシドに代表される加水分解性金属化合物を用いることができる。加水分解性金属化合物は、いわゆるゾルゲル法により加水分解及び縮重合することにより、マトリクスを形成し得る。
【0040】
多孔質層のマトリクスがシリカを含む場合は、マトリクス原料として加水分解性シリコン化合物が用いられる。すなわち、この場合、マトリクスを形成するシリカは、加水分解性シリコン化合物の加水分解縮合生成物に由来する。
【0041】
加水分解性シリコン化合物としては、例えばシリコンアルコキシドが用いられる。本実施形態では、上記のような構造的特徴を有するコーティング膜を得やすいという理由から、シリコンアルコキシドが、1又は2の有機基がシリコン原子に直接結合しているシリコンアルコキシドを含むことが好ましく、さらに、1又は2の有機基がシリコン原子に直接結合しているシリコンアルコキシドからなっていることがより好ましい。またこの有機基は、疎水性であることが好ましい。換言すれば、非加水分解性の官能基の数が1又は2であるシリコンアルコキシドが好適に用いられる。後述するように、加水分解性シリコン化合物が、1又は2の有機基がシリコン原子に直接結合したシリコンアルコキシドからなることによって、コーティング膜が膜内部に閉鎖空孔を含む多孔質構造を効果的に作製することができるからである。シリコン原子に直接結合している有機基は、例えば炭素数1〜5の直鎖アルキル基である。このようなシリコンアルコキシドの具体例として、例えばメチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン及びジメチルジエトキシシランが挙げられる。さらに、この1又は2の有機基がシリコン原子に直接結合しているシリコンアルコキシドの一部は、その有機基が架橋性であるものを含むことができる。この有機基は、エポキシ基やビニル基を含む有機基であることが好ましい。このような架橋性を有する有機基がシリコン原子に直接結合しているシリコンアルコキシドの例として、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS)を挙げることができる。この場合、加水分解性シリコン化合物の加水分解性縮合生成物は、非加水分解性の官能基に由来する有機基を含む。
【0042】
多孔質層におけるマトリクスは有機基を含有してもよいが、好ましくはマトリクスが有機基を含有しないことである。有機基を含有しないマトリクスは、より優れた耐久性及び耐摩耗性を有するからである。
【0043】
多孔質層のマトリクスがシリカを主成分とする場合に、当該マトリクスが、アルミニウム、チタン及びジルコニウムからなる群から選ばれた少なくともいずれか1種の元素の酸化物をさらに含んでいてもよい。マトリクスがこれらの酸化物をさらに含むことにより、コーティング膜の耐久性が向上する。なお、コーティング膜のマトリクスがこれらの金属酸化物を含む場合は、金属塩化物及びオキシ塩化物など水溶性の無機化合物がマトリクス原料に添加されることが好ましい。
【0044】
多孔質層のマトリクスは、シリカを90〜100質量%含んでいることが好ましく、94〜100質量%含んでいることがより好ましい。コーティング膜のマトリクスがアルミニウム、チタン及びジルコニウムからなる群から選ばれた少なくともいずれか1種の元素の酸化物を含む場合、当該酸化物はコーティング膜に2〜7質量%含まれていることが好ましく、3〜6質量%含まれていることがより好ましい。
【0045】
多孔質層は、閉鎖空孔、開放空孔及びマトリクス以外に、例えば中実微粒子などを含んでいてもよい。多孔質層が中実微粒子を含むことにより、多孔質層の耐久性が向上する。中実微粒子は、マトリクスによって固定される。中実微粒子は、平均粒径が例えば10〜100nmであり、この範囲の粒径をもつ略球状の一次粒子であっても、より小さな一次粒子が凝集することでこの範囲の粒径をもつ二次粒子であってもよい。平均粒径が大きいほど、多孔質層の耐久性を向上させる観点からは好ましい。しかし、平均粒径が大きすぎると、多孔質層の表面粗さが大きくなり、例えば多孔質層がコーティング膜の最外層である場合に、コーティング膜に付着した付着物を除去することが困難になるため好ましくない。中実微粒子としては、例えばシリカ微粒子を用いることができる。なお、中実微粒子の平均粒径とは、SEMを用いて多孔質層の断面を観察することによって求められる。具体的に、粒子の全体を観察できる任意の50個の粒子について、その最大径及び最小径を測定してその平均値を各粒子の粒径とし、50個の粒子の粒径の平均値を「平均粒径」とする。
【0046】
多孔質層に含まれる閉鎖空孔、及び、含まれる場合がある開放空孔は、任意の方法で形成され得るが、多孔質層を形成するためのコーティング液に空孔生成剤として含まれ、且つ所定温度以上の熱処理によって消失する微粒子に由来することが好ましい。このような微粒子は、いわゆる鋳型として用いられ、最終的には熱処理によって消失することにより、当該微粒子が占めていた部分が孔としてコーティング膜内に残留する。このように形成される孔が、閉鎖空孔や開放空孔となる。空孔生成剤として用いられる微粒子として、例えば400℃以上、好ましくは600℃以上の熱処理によって、揮発、熱分解又は焼失によって消失する微粒子を用いることができる。
【0047】
空孔生成剤として用いられる微粒子は、例えば有機ポリマー微粒子である。有機ポリマー微粒子は、その表面に親水性基を有することが好ましい。親水性基の例としては、ヒドロキシ基、カルボニル基及びカルボキシル基が例示できるが、これらに限られない。この好ましい有機ポリマー微粒子は、コーティング液中で分離しにくく、また、膜内部に閉鎖空孔を有する多孔質構造のコーティング膜を効果的に作製するのに適している。この有機ポリマー微粒子の平均粒径は、好ましくは10〜200nmであり、より好ましくは20〜150nmであり、特に好ましくは30〜100nmである。なお、有機ポリマー微粒子の平均粒径とは、光散乱式粒度分布測定によって求められる値である。
【0048】
本実施形態のコーティング膜付きガラス板は、例えば、
ガラス板の一方の主面上にコーティング膜を形成するコーティング膜形成工程を含み、
前記コーティング膜形成工程が、
(A)緻密層形成用コーティング液を用いて緻密層形成用塗膜を形成し、前記緻密層形成用塗膜を乾燥させる工程と、
(B)マトリクス原料及び空孔生成剤を含む多孔質層形成用コーティング液を用いて多孔質層形成用塗膜を形成し、前記多孔質層形成用塗膜を乾燥させる工程と、
(C)乾燥させた前記緻密層形成用塗膜を焼成する工程と、
(D)乾燥させた前記多孔質層形成用塗膜を焼成する工程と、
を含む製造方法によって製造することができる。
【0049】
緻密層形成用コーティング液は、緻密層を形成する材料を供給する供給源を含む。緻密層を形成する材料は、上述したとおりである。例えば、緻密層がシリコン酸化物(特にシリカ)を主成分とする材料によって形成されている場合、供給源としては、上述したように、シリコンアルコキシドに代表される加水分解性金属化合物を用いることができる。シリコンアルコキシドとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシランを例示できる。加水分解性金属化合物は、いわゆるゾルゲル法により加水分解及び縮重合して、緻密膜を形成する。また、緻密層が、シリコンの酸化物に加えて、さらに、アルミニウム、ジルコニウム及びチタンの酸化物からなる群から選ばれた少なくとも1以上の元素の酸化物をさらに含んでいている場合は、それらの酸化物の供給源を緻密層形成用コーティング液に添加する。例えば、緻密層が酸化アルミニウム(Al23)を含む場合は、例えばハロゲン化アルミニウム(例えば塩化アルミニウム)を供給源として用いることができる。
【0050】
多孔質層形成用コーティング液に含まれる空孔生成剤は、上述したとおりである。また、マトリクス原料とは、いわゆるゾルゲル法により加水分解及び縮重合してマトリクスを形成し得る加水分解性金属化合物であり、その詳細は上述のとおりである。
【0051】
多孔質層形成用コーティング液がマトリクス原料として加水分解性シリコン化合物を含み、且つ空孔生成剤として、所定温度以上の熱処理によって消失する微粒子(例えば有機ポリマー微粒子)を含む場合、加水分解性シリコン化合物の加水分解縮合生成物100質量部に対し、微粒子は12〜38質量部であることが好ましく、15〜35質量部がより好ましく、17〜25質量部が特に好ましい。多孔質層形成用コーティング液が微粒子をこのような割合で含むことにより、透過率ゲイン2.5%以上を実現できるように閉鎖空孔をコーティング膜内部に形成することが容易となる。
【0052】
また、マトリクス原料に含まれる加水分解性シリコン化合物が、1又は2の架橋性の有機基がシリコン原子に直接結合している加水分解性シリコン化合物(架橋性の加水分解性シリコン化合物)である場合、マトリクス原料における該架橋性の加水分解性シリコン化合物の含有率は、0.1〜5質量%であることが好ましく、0.2〜2.5%であることがより好ましい。ここで、この含有率は、マトリクス原料として用いた加水分解性シリコン化合物の加水分解縮合生成物の質量全体に対する、架橋性の加水分解性シリコン化合物の加水分解縮合生成物の質量%である。
【0053】
別の観点から、多孔質層形成用コーディング液において、空孔生成剤100質量部に対し、該架橋性の加水分解性シリコン化合物の加水分解縮合物の質量は0.2〜10質量部であることが好ましく、1〜6質量部であることがより好ましい。多孔質層形成用コーティング液が架橋性の加水分解性シリコン化合物をこのような割合で含むことにより、コーティング膜内部に閉鎖空孔がより容易に形成され、また開放空孔や表面の粒状物をより効果的に抑制することができ、樹脂などの付着物がコーティング膜の表面に付着した場合でも、それをより容易に除去することが可能となる。
【0054】
緻密層形成用コーティング液及び多孔質層形成用コーティング液は、緻密層形成材料の供給源や、多孔質層形成用のマトリクス原料及び空孔生成剤の他に、それぞれ、加水分解触媒、レベリング剤、界面活性剤及び溶媒などの他の成分を適宜含んでいてもよい。加水分解触媒は、加水分解性金属化合物の加水分解を促進させるために用いられる。レベリング剤及び界面活性剤は、コーティング液を塗布して形成される塗膜のレベリング性向上、コーティング液のガラス板などの下地への濡れ性向上及びコーティング液の塗布ムラの低減のために用いられる。
【0055】
緻密層形成用コーティング液及び多孔質層形成用コーティング液の固形分濃度は、特には限定されない。コーティング液の塗布ムラが生じず、乾燥及び焼成工程で塗膜にクラックなどの欠陥が生じず、さらにコーティング膜を所定範囲内の厚さとすることができるような適切な固形分濃度となるように、コーティング液を溶媒で適宜希釈して調製することができる。
【0056】
多孔質層形成用コーティング液がマトリクス原料として加水分解性金属化合物を含む場合、コーティング液にはその加水分解性金属化合物の加水分解生成物が含まれることになる。そのため、加水分解性金属化合物と空孔生成剤とが混合された状態で、加水分解性金属化合物を加水分解して加水分解生成物を含む多孔質層形成用コーティング液を調製してもよいし、加水分解性金属化合物を予め加水分解させた加水分解液を調製しておき、その加水分解液と空孔生成剤とを混合して多孔質層形成用コーティング液を調製してもよい。
【0057】
コーティング膜が緻密層と多孔質層との2層構造であって、上記2種のコーティング液を順にガラス板表面に供給する場合の製造方法の一例について説明する。まず、緻密層形成用コーティング液を、ガラス板の一方の主面上に所定厚さに塗布して、緻密層形成用塗膜を形成する。この緻密層形成用塗膜が少なくとも乾燥して流動性を失った状態、つまり乾燥膜となった後、その上に多孔質層形成用コーティング液を供給して多孔質層形成用塗膜を形成して、乾燥させる。その後、緻密層形成用塗膜と多孔質層形成用塗膜とを一度に焼成して、緻密層及び多孔質層を得る。すなわち、この製造方法の例では、コーティング膜形成工程において、上記工程(A)〜(D)が(A)→(B)→(C),(D)(工程(C)と工程(D)とは同時実施)の順で実施される。
【0058】
また、別の例として、緻密層形成用塗膜を乾燥させた後に焼成して緻密層を形成した後、その緻密層上に多孔質層形成用コーティング液を塗布して多孔質層形成用塗膜を形成し、その塗膜を乾燥させた後で焼成して多孔質層を形成する方法を用いてもよい。すなわち、この製造方法の例では、コーティング膜形成工程において、上記工程(A)〜(D)が(A)→(C)→(B)→(D)の順で実施される。
【0059】
これらのコーティング液を塗布する方法には、公知の任意の方法、例えばスピンコーティング、ロールコーティング、バーコーティング、ディップコーティング、スプレーコーティングなど、を用いることができるが、スピンコーティングが膜厚の均一性の点で、またロールコーティングやバーコーティングが大きなサイズのガラス板に容易に適用でき、生産性に優れる点でより適している。
【0060】
次に、多孔質層形成用コーティング液を用いた多孔質層の形成において、閉鎖空孔を含み、且つ開放空孔を有さない多孔質構造が形成されるメカニズムの一例について説明する。ここでは、多孔質層形成用コーティング液が加水分解性金属化合物をマトリクス原料として含む場合を例に挙げて説明する。加水分解性金属化合物が、シリコン原子に直接結合する疎水性の有機基の数が1又は2の加水分解性シリコン化合物からなり、また、空孔生成剤として含まれる有機ポリマー微粒子がその表面に親水性基を有する場合、塗膜内で加水分解性シリコン化合物と有機ポリマー微粒子との再配列が起こり、乾燥によりその再配列された構造が固定される。この再配列において、加水分解生成物は疎水性基を有するので、親水性の強いガラス板の反対側(すなわち塗膜の自由表面側)の近傍に集まり、表面張力により平滑な表面を形成する。一方、有機ポリマー微粒子は親水性基を有するので、ガラス板表面に集まろうとし、塗膜の自由表面上に突出することがほとんどない。これにより、開放空孔を有さない多孔質構造を効果的に形成することができる。さらに、加水分解性金属化合物が、シリコン原子に直接結合する疎水性の有機基の数が1又は2の加水分解性シリコン化合物と、前述の所定量の架橋性の加水分解性シリコン化合物とからなる場合、上述の塗膜内での再配列において、架橋性の加水分解性シリコン化合物の加水分解生成物が有機ポリマー微粒子の表面とガラス板の表面とを架橋するように働く。これにより、有機ポリマー微粒子がよりガラス板表面に集まり、塗膜の自由表面上に突出することがより効果的に抑制される。この乾燥工程によって、塗膜中の溶媒を揮発させて、且つ加水分解生成物を縮合させる。塗膜の乾燥温度及び乾燥時間は、特には限定されないが、例えば300〜400℃に設定した加熱炉に、20〜120秒間保持することができる。このとき、塗膜の表面温度は100〜150℃に達している。なお、この乾燥工程においては、空孔生成剤のほとんどは、消失せずに残っていると考えられる。
【0061】
次に、乾燥工程で得られた塗膜を焼成する。この焼成工程により、空孔生成剤が揮発、熱分解又は焼失によって消失して、空孔が形成される。焼成温度及び焼成時間は、特には限定されないが、一例としては、400〜500℃で1〜5分間の焼成を挙げることができる。他の例として、600℃以上で1分間以上の焼成を挙げることができる。前者の例の焼成では、空孔生成剤は消失するが、マトリクスに含有される有機基はその多くが消失せずに残存する。一方、後者の例の焼成では、空孔生成剤及びマトリクスの有機基が共に消失するため、有機基を含まないマトリクスが得られ、コーティング膜が高い耐久性及び耐摩耗性を有する。好適な焼成条件として、市販のソーダ石灰ガラス板を風冷強化する際のガラス板の加熱条件が挙げられる。例えば、640〜780℃に設定した加熱炉に塗膜を1〜3分間保持すればよい。このとき、塗膜の表面温度は630〜690℃に達している。この焼成工程で塗膜が膜厚方向に収縮し、さらにそのとき既に形成されている空孔もまた膜厚方向に収縮することにより、第1閉鎖空と、第2閉鎖空孔を形成する各空孔とが、上記のような略楕円形を有するように形成されると考えられる。
【0062】
以上の方法によれば、本実施形態のコーティング膜付きガラス板を製造することができる。
【0063】
(実施形態2)
本発明のコーティング膜付きガラス板の別の実施形態について説明する。なお、本実施形態のコーティング膜付きガラス板は、コーティング膜上に配置された接触角向上膜をさらに含むことを除き、実施形態1のコーティング膜付きガラス板と同じ構成を有する。したがって、本実施形態では、接触角向上膜についてのみ説明する。
【0064】
接触角向上膜は、液体が付着したときに高い接触角を有する膜である。この膜がコーティング膜上に設けられることにより、設けられていない場合と比較して、コーティング膜付きガラス板の表面の撥水性及び撥油性が向上する。したがって、本実施形態のコーティング膜付きガラス板は、優れた汚れ落ち性を有し、例えば加工時に表面に付着した汚れも簡単に除去できる。その結果、汚れの付着による外観不良などの問題を解決でき、製造工程での歩留りを向上させることも可能となる。より具体的な例を挙げて説明すると、例えば、低反射コーティング膜付きガラス板を光電変換装置に用いる際、当該コーティング膜付きガラス板と他の板状体との間に光電変換素子を挟み込み、熱可塑性樹脂製の中間膜を用いて封止し、合せガラス構造を形成することがある。この合せガラス構造によって、当該光電変換素子は外部環境から効果的に保護され、光電変換素子としての耐久性及び耐候性が向上する。この合せガラス構造においては、コーティング膜は外側、すなわち中間膜と接しない側に配置される。しかし、この合せガラス構造を形成する工程において、中間膜の作製に用いられる熱可塑性樹脂が、意図せずコーティング膜に付着することがある。ガラス板において、このように意図せず熱可塑性樹脂が付着した部分と、付着していない部分とで外観に差があるので、そのままでは外観不良であると見做されてしまう。一方、付着した熱可塑性樹脂を除去しようとしても、付着した熱可塑性樹脂はコーティング膜の多孔質層の奥まで浸透してしまい、除去することがとても困難なので、結果的に外観不良により製造工程での歩留まりを低下させてしまう場合がある。しかし、本実施形態のコーティング膜付きガラス板では、接触角向上膜が設けられていることにより、表面に付着した熱可塑性樹脂などの汚れがコーティング膜の内部まで浸透することがないので、意図せず付着した付着物を容易に除去することができる。
【0065】
接触角向上膜は、コーティング膜表面の液体の接触角を高めることができる膜であればよいため、その材料は特には限定されないが、例えば、シリコンに直接結合した疎水基を有する加水分解性シリコン化合物の加水分解物が好適に用いられる。該化合物においては、シリコンに結合する疎水基の数は1又は2であり、加水分解性基としては、アルコキシル基、アセトン基、アルケニルオキシ基、アミノ基及びハロゲン基が好ましい。疎水基としては、アルキル基、フルオロアルキル基及びアルケニル基が好ましく、その炭素数は好ましくは1〜30、より好ましくは1〜6である。具体的には、疎水基としてはメチル基、エチル基及びビニル基が好ましく、加水分解性基としてはメトキシ基及びエトキシ基が好ましい。また、別の例としては、フッ素系表面防汚処理剤として市販されているものであり、フルオロアルキル基含有シラン化合物や、パーフルオロポリエーテル含有シラン化合物を挙げることができる。
【0066】
接触角向上膜の厚さは、用いられる材料の撥水性などの機能に応じて適宜決定されることが好ましいが、例えば1nm〜50nmとすることができる。
【0067】
本実施形態のコーティング膜付きガラス板は、例えば、実施形態1で説明したコーティング膜付きガラス板の製造方法によって得られたコーティング膜付きガラス板を準備し、そのコーティング膜付きガラス板のコーティング膜の表面上に、接触角向上膜を形成する材料を含む処理液を塗布することによって製造することができる。処理液は、接触角向上膜を形成する材料に溶剤などを添加することによって準備することができる。
【0068】
接触角向上膜の接触角は、コーティング膜表面よりも高い接触角を有していればよいため特には限定されないが、例えば水の接触角で50〜110°であり、好ましくは水の接触角で70〜110°である。
【0069】
(実施形態3)
本発明のコーティング膜付きガラス板のさらに別の実施形態について説明する。本実施形態のコーティング膜付きガラス板は、多孔質層の構成が異なる点を除き、実施形態1及び2のコーティング膜付きガラス板と同じ構成を有する。したがって、本実施形態では、特に多孔質層について詳しく説明する。
【0070】
本実施形態のコーティング膜付きガラス板におけるガラス板及び緻密層には、実施形態1で説明したガラス板及び緻密層を適用できる。
【0071】
多孔質層は、シリカ微粒子と、シリカ微粒子のバインダとを含む。
【0072】
シリカ微粒子は、多孔質層の骨格を構成する。シリカ微粒子の平均粒径は、例えば50〜200nmであり、好ましくは75〜150nm、さらに好ましくは75〜120nmである。ここで、「平均粒径」とは、レーザー回折式粒度分布測定法により測定した粒度分布において、体積累積が50%に相当する粒径(D50)を意味する。
【0073】
シリカ微粒子には、中空のシリカ微粒子を使用することも可能であるが、多孔質層の耐久性を重視する場合は、中実(中空でない)のシリカ微粒子を使用することが好ましい。
【0074】
シリカ微粒子のバインダは、シリカ微粒子と下地層(例えば緻密層)との間、及び隣接するシリカ微粒子の間に介在し、これらの接合強度を高める役割を担う。バインダとしては、シリコン酸化物(シリカ)や、チタン、アルミニウム、ジルコニウム及びタンタルなどの金属酸化物が好適であるが、シリコン酸化物が最も適している。シリコン酸化物(シリカ)は、シリカ微粒子との親和性が高いために補強剤として優れており、屈折率が低いためにコーティング膜による反射抑制効果を阻害しない。したがって、シリカ微粒子のバインダは、シリコン酸化物(シリカ)を主成分とすることが好ましい。ここでいうバインダの主成分とは、バインダに最も多く含まれる成分のことである。
【0075】
多孔質層のバインダがシリコン酸化物(シリカ)を主成分として含む場合、バインダは、チタン及びジルコニウムからなる群から選ばれた少なくともいずれか1種の元素の酸化物をさらに含んでいてもよい。バインダとしてジルコニウム酸化物がさらに添加された多孔質層が設けられることにより、コーティング膜付きガラス板の透過率ゲインをより高めることができる。ジルコニウム酸化物の添加により透過率ゲインが向上する理由は明らかではない。発明者らは、この理由について、バインダがジルコニウム酸化物を含有するとバインダがより緻密になり、多孔質層の空隙率が上がってコーティング膜のみかけの屈折率が下がるためではないかと、考えている。これにより、透過率ゲインをより高めることができると考えられる。また、ジルコニウム酸化物が添加されることにより、多孔質層の耐アルカリ性が向上する。また、多孔質層のバインダがチタン酸化物(チタニア、TiO2)を含むことにより、多孔質層の耐アルカリ性を向上させることができる。
【0076】
シリカを主成分とするバインダが、チタン及びジルコニウムからなる群から選ばれた少なくともいずれか1種の元素の酸化物をさらに含む場合、ジルコニウム酸化物の含有率は、ZrO2に換算して、バインダに含まれるシリカに対して5質量%以下が好ましく、チタン酸化物の含有率は、TiO2に換算して、バインダに含まれるシリカに対して5質量%以下が好ましい。
【0077】
バインダの供給源としては、シリコンアルコキシドに代表される加水分解性金属化合物を用いることができる。シリコンアルコキシドとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシランを例示できる。加水分解性金属化合物は、いわゆるゾルゲル法により加水分解及び縮重合してバインダ酸化物とすればよい。
【0078】
加水分解性金属化合物の加水分解は、シリカ微粒子が存在する溶液中で実施することが好ましい。シリカ微粒子の表面に存在するシラノール基と、シリコンアルコキシドなどの金属化合物が加水分解して生成したシラノール基との縮重合反応が促進され、シリカ微粒子の結合力向上に寄与するバインダの割合が高まるためである。具体的には、シリカ微粒子を含む溶液を撹拌しながら、加水分解触媒及びシリコンアルコキシドを順次添加することにより、多孔質層形成用コーティング液を調製することが好ましい。
【0079】
多孔質層におけるシリカ微粒子とバインダとの比(シリカ微粒子:バインダ)は、質量基準で、例えば65:35〜93:7であり、好ましくは80:20〜93:7である。この比の範囲からなるシリカ微粒子とバインダとから構成されている多孔質層は、シリカ微粒子の骨格の間に適度な空隙が確保されるため、コーティング膜付きガラス板の透過率ゲインを高めることができる。また、シリカ微粒子の骨格の間に空隙が確保されて多孔質層の見かけの屈折率が下がり、反射抑制効果が増大するとともに、バインダがシリカ微粒子の骨格の強度の維持に寄与する。バインダの比率が高すぎると、シリカ微粒子の間の空隙が失われることとなる。反対に、バインダの比率が低すぎると、シリカ微粒子の骨格の強度が低下する。
【0080】
次に、上記のようなシリカ微粒子とバインダとを含む多孔質層を含むコーティング膜付きガラス板について、より具体的な例を挙げて説明する。なお、以下に示すコーティング膜付きガラス板の例は、例えば、住宅の屋根用など反射光に配慮すべき光電変化装置において光入射側に配置されるカバーガラスとして好適に用いることができるものであり、反射光を分散させるための凹凸が表面に形成された型板ガラスにコーティング膜が設けられるコーティング膜付きガラス板である。
【0081】
本実施形態の第1の例のコーティング膜付きガラス板では、ガラス板の一方の主面が表面凹凸を有しており、ガラス板の表面凹凸が0.4mm以上2.5mm以下の平均間隔Sm、及び0.5μm〜5μmの算術平均粗さRaを有している。コーティング膜は、ガラス板の表面凹凸上に形成されている。なお、上述のとおり、コーティング膜には緻密層と多孔質層とが含まれており、緻密層と多孔質層との位置関係は、実施形態1で説明したとおりである。この第1の例では、コーティング膜の多孔質層において、表面凹凸の頂部ではシリカ微粒子が1層に配置され、表面凹凸の底部ではシリカ微粒子が少なくとも3層に相当する厚さに積層して配置されている。
【0082】
この第1の例のコーティング膜付きガラス板において、コーティング膜側の面から、コーティング膜付きガラス板に波長380〜1100nmの光を入射したときの平均透過率から、コーティング膜が表面に設けられていないガラス板に波長380〜1100nmの光を入射したときの平均透過率を差し引いた透過率ゲインが、1.5%以上であり、好ましくは2.0%以上であり、より好ましくは2.4%以上である。
【0083】
第1の例では、上記のとおり、ガラス板の表面凹凸の頂部において、シリカ微粒子は、単層(1層)となるように、言い換えれば互いに積み重なることなく配置されている。これに対し、表面凹凸の底部において、シリカ微粒子は、3層以上、好ましくは4層以上、に相当する厚さとなるように配置されている。シリカ微粒子の積層数の相違がもたらす多孔質層の厚さ分布により、可視域におけるコーティング膜付きガラス板からの反射率曲線は平坦化し、380〜1100nmの波長域において1.5〜3%の限られた範囲に収まり、さらにはこの波長域における反射率の最大値と最小値との差を1%以下にすることができる。
【0084】
シリカ微粒子の平均粒径がrであるとき、表面凹凸の底部における多孔質層の膜厚が3r以上であれば、この多孔質層はシリカ微粒子3層相当以上の厚さを有することになる。シリカ微粒子の積層数や膜厚は、SEMなどを用い、反射抑制膜の断面を実際に観察することによって確認できる。シリカ微粒子の平均粒径rの範囲は、上述のとおりである。
【0085】
本実施形態の第2の例のコーティング膜付きガラス板では、ガラス板の一方の主面が表面凹凸を有しており、ガラス板の表面凹凸が0.3mm以上2.5mm以下の平均間隔Sm、及び0.3μm〜5μmの算術平均粗さRaを有している。この例では、ガラス板の表面凹凸の算術平均粗さRaは0.4μm〜2μmが好ましく、0.5μm〜1.5μmがより好ましい。コーティング膜は、ガラス板の表面凹凸上に形成されている。なお、上述のとおり、コーティング膜には緻密層と多孔質層とが含まれており、緻密層と多孔質層との位置関係は、実施形態1で説明したとおりである。この第2の例では、コーティング膜の多孔質層において、表面凹凸の頂部では、シリカ微粒子は、1層に、且つ、以下の式(1)で定義される充填率Fが35〜65%となるように、均一に配置されている。
F=A/B×100 (1)
A:1辺が前記シリカ微粒子の平均粒径の10倍である正方領域に含まれている前記シリカ微粒子の個数
B:前記正方領域に前記シリカ微粒子の平均粒径と同一の直径の球を最密に充填したと仮定したときの当該球の充填数
ここで、A及びBの値は、正方領域に球の全体が完全に含まれるもののみをカウントし、部分的に含まれる球をカウントせずに求める。
【0086】
この第2の例のコーティング膜付きガラス板において、コーティング膜側の面からコーティング膜付きガラス板に波長380〜1100nmの光を入射したときの平均透過率から、コーティング膜が表面に設けられていないガラス板に波長380〜1100nmの光を入射したときの平均透過率を差し引いた透過率ゲインが、2.2%以上である。
【0087】
第2の例では、上記のとおり、ガラス板の表面凹凸の頂部において、シリカ微粒子は、単層(1層)となるように、言い換えれば互いに積み重なることなく配置されている。これに対し、表面凹凸の底部において、シリカ微粒子は、例えばシリカ微粒子の平均粒径の1.5〜2.1倍に相当する厚さとなるように積層されている。シリカ微粒子の膜厚は、SEMなどを用い、多孔質層の断面を実際に観察することによって確認できる。シリカ微粒子の積層数の相違がもたらす多孔質層の厚さ分布により、可視域におけるコーティング膜付きガラス板からの反射率曲線が平坦化される。このため、反射ムラによる外観の低下(色ムラ)を抑制することができる。シリカ微粒子の平均粒径の範囲は、上述のとおりである。
【0088】
また、第2の例では、上記のとおり、コーティング膜の多孔質層において、表面凹凸の頂部では、シリカ微粒子は上記式(1)で定義される充填率Fが35〜65%となるように、均一に配置されている。ここで、「均一に配置」とは、SEMで表面凹凸の頂部における多孔質層のシリカ微粒子の配置状態を観察したときに、表面凹凸の頂部の他の箇所と比較してシリカ微粒子同士の間隔(隣り合うシリカ微粒子の中心管の距離)が極端に大きい箇所が観察されないようにシリカ微粒子が配置されている状態をいう。例えば、シリカ微粒子同士の間隔が、シリカ微粒子の平均粒径の1.1〜1.6倍に収まるようにシリカ微粒子が配置されている状態をいう。
【0089】
充填率Fは、シリカ微粒子の配置の疎密状態を示す。充填率Fが65%より大きく、表面凹凸の頂部に配置されたシリカ微粒子の配置が過密であると、透過率ゲインを高めることが難しくなる。また、充填率Fが35%より小さいと、シリカ微粒子同士を均一に配置することが難しくなり、透過率ゲインを高めることが難しくなる。充填率Fは、40〜60%が好ましく、45〜55%がさらに好ましい。
【0090】
第1の例及び第2の例のコーティング膜付きガラス板では、共に、ガラス板の表面凹凸は、θ=tan-1(4Ra/Sm)で表わされる平均傾斜角θが、0.05〜1.0度、特に0.1〜0.5度であることが好ましい。平均傾斜角θが小さくなるほどガラス表面の凹凸が緩やかになり、膜を形成した際に十分な膜厚分布が形成されにくく、外観不良が生じる可能性がある。また、平均傾斜角θが大きくなるほどガラス表面の凹凸が急峻になり、凸部の頂部に膜が形成されず、ガラス板が露出する可能性があるため、反射率が上昇する傾向がある。
【0091】
本実施形態のコーティング膜付きガラス板は、例えば、
ガラス板の一方の主面上にコーティング膜を形成するコーティング膜形成工程を含み、
前記コーティング膜形成工程が、
(a)緻密層形成用コーティング液を用いて緻密層形成用塗膜を形成し、前記緻密層形成用塗膜を乾燥させる工程と、
(b)バインダ原料及びシリカ微粒子を含む多孔質層形成用コーティング液を用いて多孔質層形成用塗膜を形成し、前記多孔質層形成用塗膜を乾燥させる工程と、
(c)乾燥させた前記緻密層形成用塗膜を焼成する工程と、
(d)乾燥させた前記多孔質層形成用塗膜を焼成する工程と、
を含む製造方法によって製造することができる。
【0092】
本実施形態におけるコーティング膜形成工程において、緻密層を形成する工程(工程(a)及び(c))は、実施形態1で説明した工程(A)及び(C)と同じであるため、ここでは多孔質層を形成する工程についてのみ詳しく説明する。
【0093】
上記工程(b)及び(d)のとおり、微粒子含有層である多孔質層は、バインダの供給源となる化合物(バインダ原料)と、シリカ微粒子とを含む多孔質形成用コーティング液を下地(例えば緻密層形成用塗膜や、緻密層)上に供給して多孔質層形成用塗膜を形成し、その後乾燥させ、さらに加熱することによって作製できる。多孔質形成用コーティング液の供給は、例えば、緻密層形成用塗膜又は緻密層が表面上に設けられているガラス板を多孔質形成用コーティング液に浸すこと(ディッピング)によって行うことができるが、多孔質層用コーティング液を緻密層形成用塗膜又は緻密層が表面上に設けられているガラス板上に噴霧(スプレー)する方法が製造効率に優れており、量産に適している。
【0094】
スプレー法は、製造効率の点では量産に適しているが、量産に適用したときには膜厚に不均一性が生じやすいという問題も抱えている。この不均一性は、スプレーガンから放たれたミスト状のコーティング液やそのミストの分布(スプレーパターン)の重なりに起因し、サイズが直径数mm程度の反射色調の色ムラとして現れる。
【0095】
スプレー法による色ムラは、多孔質層が形成されるガラス板の表面が、平滑であっても凹凸を有していても視認されうるが、表面凹凸の形状が上述の範囲内にあるときに、結果的に解消される。
【0096】
スプレー法によって多孔質層を形成する方法について説明する。ここでは、多孔質層が緻密層上に直接形成される場合を例に挙げて説明する。まず、緻密層形成用塗膜又は緻密層が表面上に設けられているガラス板を準備する。シリカ微粒子と、シリカ微粒子のバインダ原料とを含む多孔質形成用コーティング液を、ガラス板に形成されている緻密層形成用塗膜又は緻密層上に噴霧する。この多孔質形成用コーティング液の噴霧は、例えば、水平に保持されたガラス板の上方からガラス板との距離を一定に保持したスプレーガンを用いて実施される。
【0097】
次に、多孔質層形成用コーティング液が噴霧されたガラス板を、例えば300〜400℃の電気炉に30〜90秒間入れて、コーティング液を乾燥させてコーティング液に含まれる溶媒などを除去する。さらに、ガラス板を例えば700〜800℃の電気炉に3〜5分間入れて、コーティング液に含まれる金属化合物から酸化物を生成させてシリカ微粒子のバインダを生成させる。
【0098】
多孔質形成用コーティング液には、界面活性剤が添加されていてもよい。界面活性剤としては、シリコン系界面活性剤あるいはフッ素系界面活性剤が適している。また、多孔質形成用コーティング液における界面活性剤の濃度は、0.005質量%以上0.5質量%以下、特に0.01質量%以上0.3質量%以下、が好適である。界面活性剤が添加されることで、多孔質形成用コーティング液の表面張力が低下するので、多孔質形成用塗膜が乾燥する際に当該塗膜が濃縮されるのに伴い微粒子の凝集が促進される。その結果、ガラス板が表面凹凸を有する型板ガラスであって、緻密層の表面にもその表面凹凸の形状が反映されている場合でも、凹部に微粒子が堆積されるので、好ましい多孔質層が形成されると考えられる。
【実施例】
【0099】
以下、本発明について実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明は、本発明の要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0100】
まず、各実施例及び各比較例で作製したコーティング膜付きガラス板の各特性の評価方法を説明する。
【0101】
(透過特性及び透過率ゲイン)
分光光度計(島津製作所製 紫外可視分光光度計UV−3100)を用い、コーティング膜の形成前後におけるガラス板の透過率曲線(透過スペクトル)をそれぞれ測定した。平均透過率は、波長380〜1100nmにおける透過率を平均化して算出した。コーティング膜が設けられたガラス板の平均透過率の、当該コーティング膜が設けられる前のガラス板の平均透過率に対する増分を透過率ゲインとした。
【0102】
(耐久性)
コーティング膜付きガラス板の耐久性を、高温高湿試験により評価した。コーティング膜付きガラス板の試験片を、温度85℃、相対湿度85%に設定した恒温槽内に設置し、1000時間放置した。その後、試験片を恒温槽から取り出し、流水洗浄した後、乾燥させた。この高温高湿試験前後の平均透過率の変化を測定し、±0.8%以内であれば耐久性に優れていると判断した。なお、高温高湿試験前後の平均透過率は、上記の「透過特性及び透過率ゲイン」の場合と同じ分光光度計を用いたが、コーティング膜が施されていない側のガラス板の表面に対する高温高湿試験の影響を除去するため、コーティング膜が施されていない側を、ジプロピレングリコールを浸液としてカバーガラスで覆って測定した。
【0103】
(付着物の除去性1)
市販の太陽電池用合せガラス中間膜(エチレン・ビニルアルコール共重合体、EVA SKY、株式会社ブリヂストン製)を20×30mmに切断し、それをコーティング膜付きガラス板のコーティング膜上に置き、150℃に設定したオーブン中へ投入し5分間保持した。その後、コーティング膜付きガラス板をオーブンから取り出して室温まで放冷し、中間膜を剥ぎ取った。
【0104】
コーティング膜付きガラス板において中間膜を載せていた箇所を、エタノールを染み込ませたセルロース系不織布(ベンコット(R)、旭化成せんい株式会社製)で擦り、剥ぎ取った際にコーティング膜上に付着して残っていた中間膜材料を拭き取った。この拭き取りでは、コーティング膜の表面に残留する中間膜材料を除去することができるが、コーティング膜の膜中に染み込んだ中間膜材料を除去することができない。
【0105】
コーティング膜において、拭き取った後の中間膜材料が付着していた箇所(付着部)と、中間膜を置かなかった箇所(未付着部)との反射色調の違いを目視で確認し、下記の判断基準で付着汚れ性を評価した。
◎:付着部と未付着部との反射色の差が、ほとんど認められない。
○:付着部と未付着部との反射色の差が認められるが、その差はわずかである。
△:付着部と未付着部との反射色の差が認められる。
×:付着部と未付着部との反射色の差が、明らかに認められる。
【0106】
(付着物の除去性2)
中間膜をコーティング膜付きガラス板のコーティング膜上に置いて、150℃に設定したオーブン中に投入して保持する時間を30分に変更した点を除いて、上記の「付着物の除去性1」と同じ方法で付着物の除去性の試験を行った。付着汚れ性の評価の判断基準も、上記の「付着物の除去性1」と同じとした。
【0107】
(実施例1)
<緻密層形成用コーティング液の調製>
テトラエトキシシラン(正珪酸エチル、多摩化学工業株式会社製)10.4質量部、イソプロピルアルコール(IPA)15.7質量部、1N硝酸0.3質量部、精製水3.6質量部を攪拌混合し、40℃にて8時間加水分解反応を行い、シリカ固形分濃度10質量%の加水分解液を得た。得られた加水分解液をイソプロピルアルコールで希釈してSiO2に換算した固形分濃度を3質量%とし、加水分解液Aを得た。
【0108】
加水分解液A2.0g、イソプロピルアルコール5.46g、TiO2源(チタニウム(ジイソプロポキシド)ビス(2,4ペンタジオネート)75%イソプロピルアルコール溶液の1質量%IPA希釈液)1.82g、Al23源(AlCl3・6H2Oの1質量%水溶液)0.71gを攪拌混合し、実施例1の緻密層形成用コーティング液を得た。実施例1の緻密層形成用コーティング液において、SiO2に換算したケイ素酸化物100質量部に対する、Al23に換算したアルミニウム化合物の質量部は2.5質量部、TiO2に換算したチタン化合物の質量部は6.7質量部であった。
【0109】
<多孔質層形成用コーティング液の調製>
実施例1では、実施形態1及び2のコーティング膜付きガラス板のコーティング膜に含まれる多孔質層を形成した。すなわち、層の内部に含まれる閉鎖空孔とマトリクスとを含む多孔質層を形成した。多孔質層形成用コーティング膜のマトリクス原料として、メチルトリエトキシシラン(MTES、多摩化学工業株式会社製)を用いた。したがって、まずMTES加水分解液を調製した。IPA(溶媒)64.38g、精製水8.05g、1N硝酸(加水分解触媒)1.0g、MTES26.57gをガラス瓶に秤量し、40℃にて8時間加水分解反応を行い、固形分濃度10質量%の加水分解液(MTES加水分解液)を得た。次に、このMTES加水分解液3.0g、IPA(溶媒)6.25g、3−メトキシ−1−ブタノール(溶媒)0.30g、有機ポリマー微粒子分散液(空孔生成剤)(ポリメタクリル酸メチル系架橋物、株式会社日本触媒製「エポスターMX−050」、微粒子の平均粒子径0.05〜0.10μm、固形分濃度10.0質量%)0.75gをガラス製容器に入れ、コーティング液を得た。コーティング液において、表1に示されている空孔生成剤の含有率とは、コーティング液に含まれるマトリクス原料の質量(マトリクス原料として用いた材料の加水分解縮合生成物の質量)を100質量部としたときの空孔生成剤の質量部のことである。
【0110】
<ガラス板の準備>
実施例1では、型板ガラスをガラス板として用いた。この型板ガラスは、通常のソーダライムシリケート組成からなり、評価長さ1cmで評価した表面凹凸の算術平均粗さRaが0.76μm、平均間隔Smが1120μm(JIS B0601−1994の規定に基づく)、厚さ3.2mmの日本板硝子株式会社製であった。この型板ガラスを100×100mmに切断し、アルカリ溶液(KOH 25wt%水溶液)に浸漬して超音波洗浄機を用いて洗浄し、脱イオン水で水洗したのち常温で乾燥させてコーティング膜を形成するためのガラス板とした。コーティング膜を形成する前のこのガラス板の透過特性を前述のとおり評価したところ、平均透過率91.7%であった。
【0111】
<コーティング膜の作製>
緻密層形成用コーティング液及び多孔質層形成用コーティング液の塗布は、スピンコート法で行なった。
準備された上記ガラス板をスピンコート装置上で水平に保持し、ガラス板の中央部に緻密層形成用コーティング液を滴下し、ガラス板を回転数1000rpmで回転させ、10秒間その回転数を保持した後、ガラス板の回転を停止させた。これにより、ガラス板の一方の主面上に緻密層形成用塗膜が形成された。次いで、この緻密層形成用塗膜から溶媒を除去して乾燥させた。乾燥は、緻密層形成用塗膜が一方の主面上に形成されたガラス板を、350℃に設定した電気炉内で60秒間保持した後電気炉から取り出し、室温まで放冷することで行った。
次に、乾燥した緻密層形成用塗膜が一方の主面上に形成されたガラス板をスピンコート装置上で水平に保持し、ガラス板上の緻密層形成用塗膜上の中央部に多孔質層形成用コーティング液を滴下し、ガラス板を回転数650rpmで回転させ、10秒間その回転数を保持した後、ガラス板の回転を停止させた。これにより、緻密層形成用塗膜上に、多孔質層形成用塗膜が形成された。次いで、この多孔質層形成用塗膜から溶媒を除去して乾燥させた。乾燥は、緻密層形成用塗膜及び多孔質層形成用塗膜の積層体が一方の主面上に形成されたガラス板を、350℃に設定した電気炉内で60秒間保持した後電気炉から取り出し、室温まで放冷することで行なった。
次に、緻密層形成用塗膜及び多孔質層形成用塗膜の積層体を焼成した。焼成は、塗膜を760℃に設定した電気炉内で5分間保持することによって行った。これにより、ガラス板上に緻密層及び多孔質層がこの順に配置されたコーティング膜が得られた。
【0112】
(実施例2)
<緻密層形成用コーティング液の調製>
実施例1で準備した加水分解液A2.0g、イソプロピルアルコール6.79g、ZrO2源(ZrOCl2・8H2O水溶液の1質量%水溶液)0.78g、Al23源(AlCl3・6H2Oの1質量%水溶液)0.43gを攪拌混合し、実施例2の緻密層形成用コーティング液を得た。SiO2に換算したケイ素酸化物100質量部に対する、Al23に換算したアルミニウム化合物の質量部は1.5質量部、ZrO2に換算したジルコニウム化合物の質量部は5質量部であった。
【0113】
<多孔質層形成用コーティング液の調製>
実施例2においては、実施例1と同じ多孔質層形成用コーティング液を調製した。
【0114】
<ガラス板の準備>
実施例2においては、実施例1と同じガラス板を準備した。
【0115】
<コーティング膜の作製>
実施例2においては、実施例1と同じ方法により、コーティング膜付きガラス板を作製した。
【0116】
(実施例3)
<緻密層形成用コーティング液の調製>
実施例1で準備した加水分解液A2.0g、イソプロピルアルコール7.29g、Al23源(AlCl3・6H2Oの1質量%水溶液)0.71gを攪拌混合し、実施例3の緻密層形成用コーティング液を得た。SiO2に換算したケイ素酸化物100質量部に対する、Al23に換算したアルミニウム化合物の質量部は2.5質量部であった。
【0117】
<多孔質層形成用コーティング液の調製>
実施例3においては、実施例1と同じ多孔質層形成用コーティング液を調製した。
【0118】
<ガラス板の準備>
実施例3においては、実施例1と同じガラス板を準備した。
【0119】
<コーティング膜の作製>
実施例3においては、実施例1と同じ方法により、コーティング膜付きガラス板を作製した。
【0120】
(実施例4)
<緻密層形成用コーティング液の調製>
実施例1で準備した加水分解液A2.0g、イソプロピルアルコール7.22g、ZrO2源(ZrOCl2・8H2O水溶液の1質量%水溶液)0.78gを攪拌混合し、実施例4の緻密層形成用コーティング液を得た。SiO2に換算したケイ素酸化物100質量部に対する、ZrO2に換算したジルコニウム化合物の質量部は5質量部であった。
【0121】
<多孔質層形成用コーティング液の調製>
実施例4においては、実施例1と同じ多孔質層形成用コーティング液を調製した。
【0122】
<ガラス板の準備>
実施例4においては、実施例1と同じガラス板を準備した。
【0123】
<コーティング膜の作製>
実施例4においては、実施例1と同じ方法により、コーティング膜付きガラス板を作製した。
【0124】
(実施例5)
<緻密層形成用コーティング液の調製>
実施例1で準備した加水分解液A2.0g、イソプロピルアルコール6.91g、TiO2源(チタニウム(ジイソプロポキシド)ビス(2,4ペンタジオネート)75%イソプロピルアルコール溶液の1質量%IPA希釈液)1.09gを攪拌混合し、実施例5の緻密層形成用コーティング液を得た。SiO2に換算したケイ素酸化物100質量部に対する、TiO2に換算したチタン化合物の質量部は4質量部であった。
【0125】
<多孔質層形成用コーティング液の調製>
実施例5においては、実施例1と同じ多孔質層形成用コーティング液を調製した。
【0126】
<ガラス板の準備>
実施例5においては、実施例1と同じガラス板を準備した。
【0127】
<コーティング膜の作製>
実施例5においては、実施例1と同じ方法により、コーティング膜付きガラス板を作製した。
【0128】
(実施例6)
<緻密層形成用コーティング液の調製>
実施例1で準備した加水分解液A2.0g、イソプロピルアルコール8.00gを攪拌混合し、実施例6の緻密層形成用コーティング液を得た。
【0129】
<多孔質層形成用コーティング液の調製>
実施例6においては、実施例1と同じ多孔質層形成用コーティング液を調製した。
【0130】
<ガラス板の準備>
実施例6においては、実施例1と同じガラス板を準備した。
【0131】
<コーティング膜の作製>
実施例6においては、実施例1と同じ方法により、コーティング膜付きガラス板を作製した。
【0132】
(実施例7)
実施例7では、実施例1で作製したコーティング膜付きガラス板のコーティング膜上に、以下の接触角向上膜形成用コーティング液を用いて作製された接触角向上膜がさらに設けられたコーティング膜付きガラス板を作製した。
【0133】
<接触角向上膜形成用コーティング液の調製>
実施例1で多孔質層形成用コーティング液を調製する際に用いたMTES加水分解液と同じMTES加水分解液(固形分濃度10質量%)を調製し、このMTES加水分解液をIPAで固形分濃度が3質量%となるように希釈した。得られた固形分濃度3質量%のMTES加水分解液0.67g、IPA8.83g、オキシ塩化ジルコニウム八水和物(ZrOCl2・8H2O)の1質量%水溶液0.26g、塩化アルミニウム六水和物(AlCl3・6H2O)の1質量%水溶液0.24gを混合し、接触角向上膜形成用コーティング液を得た。
【0134】
<接触角向上膜の作製>
実施例1のコーティング膜付きガラス板と同じコーティング膜付きガラス板を準備した。準備されたコーティング膜付きガラス板をスピンコート装置上で水平に保持し、コーティング膜上の中央部に接触角向上膜形成用コーティング液を滴下し、ガラス板を回転数1000rpmで回転させ、10秒間その回転数を保持した後、ガラス板の回転を停止させた。これにより、コーティング膜上に接触角向上膜形成用塗膜が形成された。次いで、この接触角向上膜形成用塗膜から溶媒を除去して乾燥させた。乾燥は、接触角向上膜形成用塗膜が形成されたコーティング膜付きガラス板を、350℃に設定した電気炉内で60秒間保持した後電気炉から取り出し、室温まで放冷することで行った。
【0135】
(実施例8)
実施例8では、実施例1で作製したコーティング膜付きガラス板のコーティング膜上に、以下の接触角向上膜形成用コーティング液を用いて作製された接触角向上膜がさらに設けられたコーティング膜付きガラス板を作製した。
【0136】
<接触角向上膜形成用コーティング液の調製>
実施例7で用いた固形分濃度3質量%のMTES加水分解液をそのまま接触角向上膜形成用コーティング液とした。
【0137】
<接触角向上膜の作製>
実施例8においては、実施例7と同じ方法により、接触角向上膜を作製した。
【0138】
(実施例9)
<緻密層形成用コーティング液の調製>
実施例9においては、実施例1と同じ緻密層形成用コーティング液を調製した。
【0139】
<多孔質層形成用コーティング液の調製>
実施例9においては、実施例1と同じ多孔質層形成用コーティング液を調製した。
【0140】
<ガラス板の準備>
実施例9においては、実施例1と同じガラス板を準備した。
【0141】
<コーティング膜の作製>
スプレー法により、緻密層形成用コーティング液を、準備された上記ガラス板の一方の主面上に塗布した。スプレー法による塗布は、市販のスプレーガンを用い、水平に保持されたガラス板の一方の主面の上方から緻密層形成用コーティング液を噴霧して行った。これにより、ガラス板の一方の主面上に緻密層形成用塗膜が形成された。次いで、この緻密層形成用塗膜から溶媒を除去して乾燥させた。乾燥は、緻密層形成用塗膜が一方の主面上に形成されたガラス板を、350℃に設定した電気炉内で60秒間保持した後電気炉から取り出し、室温まで放冷することで行った。
次に、乾燥した緻密層形成用塗膜が一方の主面上に形成されたガラス板をスピンコート装置上で水平に保持し、ガラス板上の緻密層形成用塗膜上の中央部に多孔質層形成用コーティング液を滴下し、ガラス板を回転数650rpmで回転させ、10秒間その回転数を保持した後、ガラス板の回転を停止させた。これにより、緻密層形成用塗膜上に、多孔質層形成用塗膜が形成された。次いで、この多孔質層形成用塗膜から溶媒を除去して乾燥させた。乾燥は、緻密層形成用塗膜及び多孔質層形成用塗膜の積層体が一方の主面上に形成されたガラス板を、350℃に設定した電気炉内で60秒間保持した後電気炉から取り出し、室温まで放冷することで行なった。
次に、緻密層形成用塗膜及び多孔質層形成用塗膜の積層体を焼成した。焼成は、塗膜を760℃に設定した電気炉内で5分間保持することによって行った。これにより、ガラス板上に緻密層及び多孔質層がこの順に配置されたコーティング膜が得られた。得られたコーディング膜を電界放射型走査型電子顕微鏡(S−4500、株式会社日立製作所製)によって観察した。図1に、実施例9のコーティング膜を電界放射型走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す。
【0142】
<接触角向上膜形成用コーティング液の調製>
実施例9においては、実施例7と同じ接触角向上膜形成用コーティング液を調製した。
【0143】
<接触角向上膜の作製>
実施例9においては、実施例7と同じ方法により、接触角向上膜を作製した。
【0144】
(実施例10)
<緻密層形成用コーティング液の調製>
テトラエトキシシラン(正珪酸エチル、多摩化学工業株式会社製)20.4質量部、イソプロピルアルコール(IPA)24.2質量部、1N硝酸0.6質量部、精製水14.4質量部を攪拌混合し、40℃にて8時間加水分解反応を行い、シリカ固形分濃度10質量%の加水分解液を得た。得られた加水分解液をイソプロピルアルコールで希釈してSiO2に換算した固形分濃度を6質量%とし、加水分解液Bを得た。
この加水分解液B50.0g、イソプロピルアルコール949.2g、ZrO2源(ZrOCl2・8H2O水溶液の50質量%水溶液)0.80gを攪拌混合し、実施例10の緻密層形成用コーティング液を得た。SiO2に換算したケイ素酸化物100質量部に対する、ZrO2に換算したジルコニウム化合物の質量部は9.2質量部であった。
【0145】
<多孔質層形成用コーティング液の調製>
多孔質層形成用コーティング膜のマトリクス原料として、メチルトリエトキシシラン(MTES、多摩化学工業株式会社製)及び3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS)(信越化学工業製)を用いた。つまり、有機ポリマー微粒子分散液(空孔生成剤)(実施例1と同じ)10.25g、GPTMS0.05g、実施例1と同じMTES加水分解液41.0g、3−メトキシ−1−ブタノール(溶媒)3.00gを秤量し、IPA(溶媒)を加えて全量を100gとした。この液をよく攪拌し、コーティング液を得た。コーティング液において、表2に示されているマトリクス原料におけるGPTMSの含有率とは、マトリクス原料として用いた材料の加水分解縮合生成物の質量全体に対する、GPTMSの加水分解縮合生成物の質量%のことである。
また、コーティング液に含まれる空孔生成剤の質量を100質量部としたときの、GPTMSの加水分解縮合物の質量は3.45質量部であった。
【0146】
<ガラス板の準備>
実施例10においては、実施例1と同じガラス板を準備した。
【0147】
<コーティング膜の作製>
実施例10においては、実施例1と同じ方法により、コーティング膜付きガラス板を作製した。
【0148】
(実施例11)
<緻密層形成用コーティング液の調製>
実施例11においては、実施例10と同じ緻密層形成用コーティング液を調製した。
【0149】
<多孔質層形成用コーティング液の調製>
実施例11においては、空孔生成剤8.20g、GPTMS0.04gとしたことを除き、実施例10と同様にして多孔質層形成用コーティング液を調製した。コーティング液におけるGPTMSの加水分解縮合物は3.45質量部であった。
【0150】
<ガラス板の準備>
実施例11においては、実施例1と同じガラス板を準備した。
【0151】
<コーティング膜の作製>
実施例11においては、実施例1と同じ方法により、コーティング膜付きガラス板を作製した。
【0152】
(実施例12)
<緻密層形成用コーティング液の調製>
実施例12においては、実施例10と同じ緻密層形成用コーティング液を調製した。
【0153】
<多孔質層形成用コーティング液の調製>
実施例12においては、空孔生成剤14.35g、GPTMS0.12gとしたことを除き、実施例10と同様にして多孔質層形成用コーティング液を調製した。コーティング液におけるGPTMSの加水分解縮合物は5.92質量部であった。
【0154】
<ガラス板の準備>
実施例12においては、実施例1と同じガラス板を準備した。
【0155】
<コーティング膜の作製>
実施例12においては、実施例1と同じ方法により、コーティング膜付きガラス板を作製した。
【0156】
(実施例13)
<緻密層形成用コーティング液の調製>
実施例13においては、実施例10と同じ緻密層形成用コーティング液を調製した。
【0157】
<多孔質層形成用コーティング液の調製>
実施例13では、空孔生成剤8.20g、GPTMS0.02gとしたことを除き、実施例10と同様にして多孔質層形成用コーティング液を調製した。コーティング液におけるGPTMSの加水分解縮合物は1.72質量部であった。
【0158】
<ガラス板の準備>
実施例13においては、実施例1と同じガラス板を準備した。
【0159】
<コーティング膜の作製>
実施例13においては、実施例1と同じ方法により、コーティング膜付きガラス板を作製した。
【0160】
(比較例1)
緻密層を形成しない点を除き、実施例1と同じ方法で、コーティング膜付きガラス板を作製した。すなわち、比較例1のコーティング膜は、多孔質層のみから構成されたものであり、実施例1の多孔質層形成層コーティング液をガラス板の一方の主面上に直接塗布することによって作製された。なお、多孔質層形成層コーティング液の調製方法、及び多孔質層の作製方法は、実施例1と同じであった。
【0161】
(実施例14)
<緻密層形成用コーティング液の調製>
実施例14においては、実施例1と同じ緻密層形成用コーティング液を調製した。
【0162】
<多孔質層形成用コーティング液の調製>
実施例14では、実施形態3のコーティング膜付きガラス板のコーティング膜に含まれる多孔質層を形成した。すなわち、シリカ微粒子とシリカ微粒子のバインダとを含む多孔質層を形成した。シリカ微粒子分散液(扶桑化学工業(株)、PL−7、平均粒径100nm、固形分濃度23質量%)39.1質量部、エチルセロソルブ56.4質量部、1N塩酸(加水分解触媒)1質量部を攪拌混合し、さらに攪拌しながらテトラエトキシシラン3.5質量部を添加し、引き続き40℃に保温しながら8時間撹拌して原液を得た。この原液における固形分濃度は9質量%であり、固形分中の微粒子とバインダ(酸化物換算)との比率は、質量基準で90:10であった。なお、上記シリカ微粒子は、中実の(言い換えれば中空ではない)微粒子であった。次に、得られた原液11質量部、3−メトキシ−1−ブタノール10.0質量部、2−プロパノール78.8質量部、シリコン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング社製、L7001)0.02質量部、オキシ塩化ジルコニウム八水和物(特級、関東化学株式会社)の50質量%水溶液0.34質量部を攪拌混合し、多孔質層形成用コーティング液を得た。
【0163】
<ガラス板の準備>
実施例14においては、実施例1と同じガラス板を準備した。
【0164】
<コーティング膜の作製>
まず、実施例1と同じ方法により緻密層形成用塗膜を形成し、この塗膜を実施例1と同じ方法で乾燥させた。
次に、スプレー法により、多孔質層形成用コーティング液を乾燥させた緻密層形成用塗膜上に塗布した。スプレー法による塗布は、市販のスプレーガンを用い、水平に保持されたガラス板上の緻密層形成用塗膜の上方から多孔質層形成用コーティング液を噴霧して行った。次いで、緻密層形成用塗膜及び多孔質層形成用塗膜の積層体が形成されたガラス板を350℃の電気炉に60秒間入れて、多孔質形成用塗膜の溶媒を除去した。
次に、緻密層形成用塗膜及び多孔質層形成用塗膜の積層体を焼成した。焼成は、塗膜を760℃に設定した電気炉内で5分間保持することによって行った。これにより、ガラス板上に緻密層及び多孔質層がこの順に配置されたコーティング膜が得られた。
【0165】
(実施例15)
<緻密層形成用コーティング液の調製>
実施例15においては、実施例2と同じ緻密層形成用コーティング液を調製した。
【0166】
<多孔質層形成用コーティング液の調製>
実施例15においては、実施例14と同じ多孔質層形成用コーティング液を調製した。
【0167】
<ガラス板の準備>
実施例15においては、実施例1と同じガラス板を準備した。
【0168】
<コーティング膜の作製>
実施例15においては、実施例14と同じ方法により、コーティング膜付きガラス板を作製した。
【0169】
(実施例16)
<緻密層形成用コーティング液の調製>
実施例16においては、実施例3と同じ緻密層形成用コーティング液を調製した。
【0170】
<多孔質層形成用コーティング液の調製>
実施例16においては、実施例14と同じ多孔質層形成用コーティング液を調製した。
【0171】
<ガラス板の準備>
実施例16においては、実施例1と同じガラス板を準備した。
【0172】
<コーティング膜の作製>
実施例16においては、実施例14と同じ方法により、コーティング膜付きガラス板を作製した。
【0173】
(実施例17)
<緻密層形成用コーティング液の調製>
実施例17においては、実施例4と同じ緻密層形成用コーティング液を調製した。
【0174】
<多孔質層形成用コーティング液の調製>
実施例17においては、実施例14と同じ多孔質層形成用コーティング液を調製した。
【0175】
<ガラス板の準備>
実施例17においては、実施例1と同じガラス板を準備した。
【0176】
<コーティング膜の作製>
実施例17においては、実施例14と同じ方法により、コーティング膜付きガラス板を作製した。
【0177】
(実施例18)
<緻密層形成用コーティング液の調製>
実施例18においては、実施例5と同じ緻密層形成用コーティング液を調製した。
【0178】
<多孔質層形成用コーティング液の調製>
実施例18においては、実施例14と同じ多孔質層形成用コーティング液を調製した。
【0179】
<ガラス板の準備>
実施例18においては、実施例1と同じガラス板を準備した。
【0180】
<コーティング膜の作製>
実施例18においては、実施例14と同じ方法により、コーティング膜付きガラス板を作製した。
【0181】
(実施例19)
<緻密層形成用コーティング液の調製>
実施例19においては、実施例6と同じ緻密層形成用コーティング液を調製した。
【0182】
<多孔質層形成用コーティング液の調製>
実施例19においては、実施例14と同じ多孔質層形成用コーティング液を調製した。
【0183】
<ガラス板の準備>
実施例19においては、実施例1と同じガラス板を準備した。
【0184】
<コーティング膜の作製>
実施例19においては、実施例14と同じ方法により、コーティング膜付きガラス板を作製した。
【0185】
実施形態1のコーティング膜付きガラス板と同じ構成を有する実施例1〜6、実施形態2のコーティング膜付きガラス板と同じ構成を有する実施例7〜9、並びに比較例1のコーティング膜付きガラス板についての評価結果(平均透過率、透過率ゲイン、耐久性及び付着物の除去性の結果)を表1に示す。また、実施形態1のコーティング膜付きガラス板と同じ構成を有する実施例10〜13のコーティング膜付きガラス板についての評価結果(平均透過率、透過率ゲイン、耐久性及び付着物の除去性の結果)を表2に示す。また、実施形態3のコーティング膜付きガラス板と同じ構成を有する実施例14〜19のコーティング膜付きガラス板についての評価結果(平均透過率、透過率ゲイン及び耐久性の結果)を表3に示す。なお、表3には、多孔質層における微粒子、SiO2バインダ及びZrO2の含有率(質量%)も示されている。
【0186】
【表1】
【0187】
【表2】
【0188】
【表3】
【0189】
表1及び2に示すように、実施例1〜13のコーティング膜付きガラス板は、透過率ゲインが2.8%以上を満たしており、さらに高温高湿試験後の透過率変化も小さく、高い耐久性を示している。これに対し、緻密層が設けられていない比較例1のコーティング膜付きガラス板は、実施例1〜13のコーティング膜付きガラス板よりも高温高湿試験後の透過率変化が大きく、耐久性に劣っていた。
【0190】
また、コーティング膜上に接触角向上膜が設けられている実施例7〜9のコーティング膜付きガラス板は、付着物の除去性1及び2の試験において、いずれの試験でも非常に優れた結果を示した。これに対し、接触角向上膜が設けられていない実施例1〜6及び10〜13のコーティング膜付きガラス板は、付着物の除去性1及び2の試験において、実施例7〜9の場合よりも結果が劣っていた。特に、より厳しい条件の試験である付着物の除去性2の試験では、実施例7〜9のコーティング膜付きガラス板が、付着物の除去性1の試験と同様に非常に優れた結果を示したのに対し、実施例1〜6のコーティング膜付きガラス板は付着物の除去性1の試験のよりも付着汚れ性がさらに低下した。このように、より厳しい条件の下では、接触角向上膜の有無による効果の差が大きくなることが確認された。
【0191】
実施例1〜9のコーティング膜付きガラス板とは多孔質層の構造が異なる実施例14〜19のコーティング膜付きガラス板は、表3に示すとおり、透過率ゲインが2.3%以上を満たしており、さらに高温高湿試験後の透過率変化も小さく、高い耐久性を示すことが確認されている。
【産業上の利用可能性】
【0192】
本発明のコーティング膜付きガラス板は、高い光透過性を有しつつ、且つ高い耐久性も有するので、例えば車両用ガラス、ショーウィンドウ又は光電変換装置用ガラス板などのあらゆる分野に利用できる。
図1