【実施例】
【0065】
実施例1
該実施例は、本明細書に記載の組成物の試験的配合物の放射線不透過性について記載する(表1参照)。
【0066】
方法:軸方向CTスキャン(各試験的配合物質を含有したガラスバイアルを通して、1mm)を、70及び120kVpのエネルギーにてSiemens 128 Somatom flash definitionスキャナ上で撮影した。定量データは、平均ハウンズフィールド単位(HU)値±SD(n=4)として表した。
【0067】
【表1】
【0068】
図1は、試験的配合物のCT放射線不透過性データを示す。試験された全ての配合物は、放射線不透過性であった。さらに、配合物1〜3は異なる程度に溶融し、これは、該配合物が非晶質組成物を形成するのに適している可能性があることを示している。
【0069】
実施例2
微小球の調製
SrO−Y
2O
3−Ga
2O
3−SiO
2四元ガラス系内の様々な範囲の組成元素の効果を評価するために、実験の混合設計(Stat-Ease社製Design Expert 8.0.4)を行った。調査された個々の組成元素の範囲は、以下の制約条件(モル分率)に設定された。
制約条件1:0.10≦Y
2O
3≦0.17
制約条件2:0.025≦
SrO≦0.050
制約条件3:0.10≦Ga
2O
3≦0.30
制約条件4:0.50≦SiO
2≦0.75
【0070】
この研究のため、Occlu90Y1.1からOcclu90Y1.16まで(表2による)と示される物質組成物を合成した。分析等級試薬:炭酸ストロンチウム(Sigma-Aldrich社製、米国ミルウォーキー)、酸化イットリウム、酸化ガリウム及び二酸化ケイ素(Sigma-Aldrich社製、カナダ国オークビル)を、分析用天秤(ABT 320-4M、Kern&Sohn社製、ドイツ国)を用いて秤量し、ラギッド回転装置(rugged rotator)(099A RD9912、Glas-Col社製、米国ジョージア州アトランタ)内にて1時間、均一に混合した。各組成物を、50mL又は60mLの白金るつぼ(米国Alpha Aesar社製)に充填した後、高温炉(Carbolite RHF 1600、英国)を用いて焼成して(1550℃、3時間)、周囲温度にて蒸留水中で衝撃急冷した。得られたガラス不規則粒子を、オーブン内で乾燥させ(100℃、24時間)、メノウ遊星ミル(Pulverisette 7; Laval Labs社製、カナダ国)内で粉砕して、篩い分けすることにより20〜75μmのサイズ範囲の不規則粒子を回収した。
【0071】
続いて、不規則粒子をガス/酸素の炎に導入し、溶融させて表面張力により球状の液滴を形成することにより、上記回収された粒子をガラス微小球に形成した。該液滴は、他の固体物に触れる前に急速に冷却することにより、その球状が固体にて保持された。球状化処理の前に、不規則粒子をガス/酸素バーナー上に位置する振動フィーダー内に配し、垂直ガラス管内にゆっくりと振動させて、5〜25g/時間の粉体供給速度で粉体粒子をガス/酸素バーナーの熱い炎の中に直接導いた。バーナーの炎をステンレススチール製容器内へと送り、小さなガラスビーズを炎から追い出しつつ集め、続いて音波篩を用いて選別した。
【0072】
【表2】
【0073】
X線回折
不規則粒子及びビーズの両方の形態における各物質組成物のX線回折(XRD)測定は、X線発生器(40kV、40mA)に結合されると共にCuターゲットX線管を装備している高速LynxEye(登録商標)検出器を備えたBruker D8 Advance XRDシステムを用いて行った。各実験ガラスの標本は、物質(φ8.5mm)をポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)保持リング内へと圧迫することにより調製した。検出器は、走査角度範囲10°<2θ<100°における全ての散乱X線を収集した。システム内の処理ステーションにより、最大9種類の標本を自動かつ無人で連続的に分析するための測定及び移動操作が可能となった。
【0074】
粒子径分析
各ガラスビーズ配合物(20〜75μm)の粒度分布を、Mastersizer 3000(Malvern社製、英国)を用いて測定した。脱イオン化したビーズ懸濁液を、不透明値を6〜8%の範囲にするように調製した。その後、青色(λ=470nm)及び赤色(λ=632.8nm)レーザーの両方を使用し、平均直径d90、d50及びd10として報告された値を用いて、懸濁液を測定した(n=5)。平均直径d90、d50及びd10はそれぞれ、90%、50%及び10%の累積寸法での粒子直径を表す。
【0075】
ヘリウムピクノメトリー
不規則粒子及びビーズの両方の形態における各物質組成物(20〜75μmの粒度範囲のガラスの0.75cc)の真密度は、ヘリウムピクノメトリー(AccuPyc 1340、Micromeritics社製)を用いて測定し、組成物毎につき平均10回の測定結果を示した。
【0076】
示差走査熱量測定
示差走査熱量計(DSC)404 F1 Pegasus(404 F1 Pegasus、Netzsch社製)を用いて、白金るつぼ内部にある不規則粒子及びビーズ両形態の各物質組成物についてのガラス転移温度(T
g)を、20〜1000℃の範囲の温度にわたって測定した。使用した加熱プロファイルは、30℃/分の加熱速度で500℃まで加熱した後、10℃/分の加熱速度で500℃から1000℃まで加熱するという順番に従った。アルゴン(99.999%、Air Liquide社製、カナダ国)を50mL/分の流量で流しながら、測定を行った。DSCは、純粋なIn、Al、Sn、Au及びAgの融点を用いて較正した。熱流曲線におけるステップ変化の変曲点におけるT
gは、Proteus解析ソフトウェア(バージョン6.1)を用いて決定した。
【0077】
電子顕微鏡のスキャン
Hitachi S-4700走査型電子顕微鏡(SEM)を3KV加速電圧、15.5μA加速電流及び12.2mm作動距離で操作して使用し、各ビーズ組成物の炭素被覆形態を調査した。150xにて取得した3つの別々の画像から、真球度の平均パーセントを計算した。倍率には、以下の式を使用した。
%真球度=球状のビーズ数/総ビーズ数×100% 式1
【0078】
抽出物は、ISO 10993−12に従って調製した。0.5gの各ガラス組成物(25〜75μm)を、15mLポリプロピレンBD falcon(登録商標)管(n=3)内の2.5mL脱イオン水(0.2g/mL比)に浸漬した。続いて、不規則粒子については1、3、7及び14日間、ビーズ組成物については1、3、7及び21日間にわたり、標本を振とう式水槽(Model BS-11、Jeio Tech社製、韓国ソウル)中にて2Hz(縦方向運動)で撹拌しつつ培養した。各培養期間の後に、実験物質に由来する抽出物を、3mLシリンジ(Sarstedt社製、カナダ国)を用いると共に滅菌0.20μmフィルターを介して分離した。その後、0.5mLの抽出物を取り出して、2%硝酸溶液4.5mLにより9倍(1:9)に希釈し、続くイオン含有量分析のために4℃にて保存した。
【0079】
化学的耐久性測定
各抽出物のY、Sr、Ga及びSi濃度は、誘導結合プラズマ−原子発光分光法(ICP−AES、Perkin Elmer Optima 8000、米国マサチューセッツ州)を用いて定量した。各測定サイクルの前に、脱イオン水中2%HNO
3中のY、Sr、Ga及びSi(Perkin Elmer社製、米国)を濃度0、0.1、0.5、1.0、2.0及び5.0ppmで含有する標準溶液を調製することにより、較正曲線を得た。標準試料濃度を定期的に測定し、それによって検量線の精度を確認した。各抽出物につき、ICP−AES分析を3回実施した(変数毎にn=3抽出物)。
【0080】
CT放射線不透過性の評価
CT放射線不透過性を評価するため、Siemens Somatom
Definition AS + Scanner(Siemens Healthcare社製、ドイツ国エアランゲン)を使用し、(i)空気中の不規則粒子又はビーズと、(ii)生理食塩水中のビーズとを含むガラスバイアルを通じて軸方向CTスキャン(1mmスライス厚、ピッチ=0.5,70kVp及び120kVp)を撮影することにより、定量測定値を決定した。報告されたHU値は、別々の測定±標準偏差(SD)に基づいている。スキャンには、拡張HU範囲オプションが使用された。
【0081】
生体適合性の評価
細胞毒性評価のために、L−929(マウス線維芽細胞)細胞の培養物をAmerican
Type Culture Collection(ATCC#CCL−1)から取得した。マイコプラズマを含まない細胞系をベンダーから購入し、使用するまで実験室で凍結した。感度を維持するために、細胞を最大15回継代培養した後、廃棄した。この培養物を、5±1%CO
2の空気中における加湿雰囲気中にて、使い捨て組織培養実験器具内において37±10℃で増殖させて、単層として使用した。細胞の増殖及び抽出物の調製に使用した培地は、10%(v/v)ウシ胎児血清(FCS)を添加したイーグル最小必須培地(E−MEM)であった。培地にはまた、2.0%L−グルタミン、1.0%ペニシリン及び1.0%ストレプトマイシンも添加した。細胞毒性アッセイは、代謝活性による細胞の生存率の測定に基づいている。黄色の水溶性のMTT(3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド)は、生存細胞中で青紫色の不溶性ホルマザンに代謝的に還元された。生存細胞の数は、ホルマザンをアルコールに溶解した後の光度測定によって決定された色強度に相関していた。
【0082】
ビーズ組成物を抽出容器内に配し、抽出媒体20mLに対して0.2gの割合で調製した。陰性対照、陽性対照、媒体対照(VC)及びブランクについて、並行して実施した。試験条件下において無毒であることが知られた陰性対照(高密度ポリエチレン(HDPE))は、抽出媒体20mLに対して60cm
2の割合で調製した。試験条件下において有毒であることが知られた陽性対照である0.25%亜鉛ジブチルジチオカルバメート(ZDBC)は、抽出媒体10mLに対して60cm
2の割合で調製した。媒体対照(MTTアッセイ培地)は、試験試料及び各対照と並行して培養した。未処理のMTTアッセイ培地もまた、ベースライン対照として役立つように外周ウェル内に播種した。使用する1日前(24±2時間)に、アッセイプレートを作製した。新鮮なMTTアッセイ培地に、細胞1×105個/mLの濃度で細胞を懸濁させた。96ウェルプレートの外側のウェルには、100μLのMTTアッセイ培地のみを充填した。100μLの細胞懸濁液は、96ウェル組織培養プレートの残りの各ウェルに分注した。ビーズ組成物及びZDBC抽出物について、4つの濃度(無溶媒、75%、50%及び25%)で試験した。HDPEについては、無溶媒にのみ試験した。全てのウェルから、消費された培地を除去した。100μLのブランク(未処理のMTTアッセイ培地)又は抽出物を、ウェル内へと三重に添加した。
【0083】
これらのプレートを、5±1%CO
2の空気中における加湿雰囲気中にて、37±10℃で24±2時間培養した。培養の後、抽出物を除去して、MTT溶液を各ウェルに添加した。これらのプレートを、加湿培養器内にて37±10℃で2時間培養した。培養の後、MTT溶液を各ウェルから除去し、イソプロパノールを各ウェルに添加した。全てのMTT結晶を溶解させた後、イソプロパノールを添加してから約30分後かつ1時間以内に、自動マイクロプレートリーダーを用いて各試験ウェルの吸光度を測定した。アッセイ及び試験物の結果の妥当性について最終評価は、以下に列挙した基準及び科学的判断に基づいている。
1.媒体対照の平均OD
570は、0.2を超える必要がある。
2.媒体対照の左右の平均は、全ての媒体対照ウェルの平均と15%以上異なるべきではない。
3.陽性対照は、生存率の30%以上の減少を誘起すべきである。
4.陰性対照は、生存率の30%以下の減少を誘起すべきである。
データの分析には、以下の式を適用する。
生存率=100×(平均OD試料)/(平均ODvc) 式2
【0084】
統計
密度、T
g及び真球度パーセントのために一元配置ANOVAを使用し、続いてニューマン=コイルス試験により平均値を比較した。p≦0.5の場合に、データは有意であるとみなした。全ての計算は、Mac OS XのPrism 6(GraphPad Software社製、米国ラホヤ)を使用して行った。
【0085】
混合物の設計−実験的設計アプローチ
DOM実験的設計アプローチを用いて、各ガラスベースの実験的な不規則粒子及びビーズについての密度、T
g、真球度、CT放射線不透過性(70kVp及び120kVp)、細胞生存率(25%及び50%)並びにイットリウム放射(1、3、7及び21日)応答に、線形、線形+二乗、二次及び三次多項式の混合方程式を適合させた。混合DOM回帰モデルは、疑似組成元素の割合に応答を関連付けるために開発された。下限(Li)を有する組成元素比率(xi)について、擬似組成元素比率(zi)を以下のようにして計算した:
zi=(xi−Li)/(1−ΣL) 式3
ここで、xiは元の組成元素の割合を表し、Liはi番目の組成元素についての下限の制約条件(限界)表し、Lは設計内の全ての組成元素についての全ての下限の制約条件(限界)の合計を表し、1は混合物の合計を表す。これらの擬似組成元素は、元の(実際の)組成元素の組み合わせであり、各擬似組成元素の最小許容割合がゼロになるように拘束された組成領域を再スケーリングする。この変換は、実際の組成元素システムの使用に比べてより正確なモデル係数の推定を提供することができるため、擬似組成元素のスケーリングに基づいて得られる係数は、以下の説明での文脈において参照される。多項式混合回帰モデル(密度及び放射線不透過性)の有意性のための試験は、各係数(組成の異体)と共に、Design-Expert 8.0.4を用いて実施した。有意なモデル係数項を自動的に決定するために、逆回帰法又は段階的回帰法のいずれかが選択された。いくつかの応答特性y
1、y
2…y
n組成元素は、q組成元素の同じ集合の割合でモデル化されているが、自然に生じる問題は、合成空間において最良の全体的な特性集合が得られるところである。この場合、望ましさ関数(desirability function)アプローチが実施される。
【0086】
X線回折
粘性又は容易な「融解容易性」のいずれかを可能にする設計空間#1からの全ての組成物(表2に示す)に対して、その非晶質性を確認するためにX線回折(XRD)を行った。全ての組成物のスペクトル(
図3に示す)は、潜在的結晶相と見られる鋭く強いピークを含むOcclu90Y1.2及びOcclu90Y1.11(それぞれは不規則粒子及びビーズの形態である)を除いて完全に非晶質であることを示したが、それでもJCPDS標準に対して識別できなかった。Occlu90Y1.2についてのこの観測は、全てがそれぞれのスペクトルにおいて広範な非晶質隆起を示した粘性溶融物に比べてこれらの溶融物が注ぎ易いことを考慮すると、驚くべきかつ予想外のものであった。溶融の容易さの観点から、0.667モルを超えるSiO
2画分を含む組成物は、溶融物(すなわち、Occlu90Y1.3、Occlu90Y1.8、Occlu90Y1.9、Occlu90Y1.10、Occlu90Y1.13及びOcclu90Y1.14)の任意の品質低下を生じることが観測された。
【0087】
ヘリウムピクノメトリー
合成され得る物質に関する密度が提供される。16個のうち計10個の配合物において、平均密度が3.7〜4.3g/cm
3の範囲のガラス不規則粒子を形成し、続いて、平均密度が3.6〜4.1g/cm
3の範囲のビーズに変換した(
図4参照)。
【0088】
表3は、(L−擬似組成元素コーディング及び実際の組成元素コーディングに関する)実際の回帰モデルの妥当性、追加の妥当性の尺度、並びに、R
2、調整されたR
2及び予測されたR
2のようなANOVAを示す。全ての妥当性値は0.9を超えており、有意な回帰モデルが実現されていることを示している。また、不規則粒子の形態とビーズの形態とを比較した物質組成物の観測された挙動と計算された挙動とについての表形式における比較については、(L−擬似コーディングを用いた回帰モデルに基づく)表4に示す。
【0089】
【表3】
【0090】
【表4】
【0091】
表5は、主要な組成元素をランク付けした一覧を提供する。表5は、主要な構造及びデータからのプロパティ応答を提供する。
【0092】
【表5】
【0093】
示差走査熱量測定
合成され得る物質に関するT
gが提供される。16個のうち計10個の配合物において、平均T
gが796〜848℃の範囲のガラス不規則粒子を形成し、続いて、平均T
gが798〜854℃の範囲のビーズに変換した(
図5参照)。
【0094】
表6は、(L−擬似組成元素コーディング及び実際の組成元素コーディングに関する)実際の回帰モデルの妥当性、追加の妥当性の尺度、並びに、R
2、調整されたR
2及び予測されたR
2のようなANOVAを示す。全ての妥当性値は0.9を超えており、有意な回帰モデルが実現されていることを示している。また、不規則粒子の形態とビーズの形態とを比較した物質組成物の観測された挙動と計算された挙動とについての表形式における比較については、(L−擬似コーディングを用いた回帰モデルに基づく)表7に示す。
【0095】
【表6】
【0096】
【表7】
【0097】
表8は、主要な組成元素をランク付けした一覧を提供する。表8は、主要な構造及びデータからのプロパティ応答を提供する。
【0098】
【表8】
【0099】
不規則粒子の形態とビーズの形態とを比較した各組成物のT
gには、有意差は観測されなかった。しかしながら、組成元素のT
gに対する該組成元素の影響の順序は、以下のように有意に変化した:
1.不規則粒子:Y
2O
3>
SrO>SiO
2>Ga
2O
3
2.ビーズ:Y
2O
3>SiO
2>Ga
2O
3>
SrO
【0100】
さらに、影響の順序は密度と異なっており、容易には明らかでない。高いT
g(安定性)を有するには最大充填量のSiO
2が必要である一方で、密度のレベルを下げるには最大充填量の
SrOが必要である。
【0101】
電子顕微鏡のスキャン
合成され得る物質に関する形態が、(
図6に示されるような)SEM画像及びそれらの相対パーセント真球度により提供される。16個のうち計10個の配合物において、平均真球度が90〜98%の範囲のビーズを形成した(
図6及び
図7参照)。
【0102】
表9は、(L−擬似組成元素コーディング及び実際の組成元素コーディングに関する)実際の回帰モデルの妥当性、追加の妥当性の尺度、並びに、R
2、調整されたR
2及び予測されたR
2のようなANOVAを示す。全ての妥当性値は0.8を超えており、有意な回帰モデルが実現されていることを示している。また、不規則粒子の形態とビーズの形態とを比較した物質組成物の観測された挙動と計算された挙動とについての表形式における比較についても、(L−擬似コーディングを用いた回帰モデルに基づく)表10に示す。
【0103】
【表9】
【0104】
【表10】
【0105】
表11は、主要な組成元素をランク付けした一覧を提供する。表11は、主要な構造及びデータからのプロパティ応答を提供する。
【0106】
【表11】
SEMイメージングに基づくと、最終ビーズ製品の形態の各組成物間において、真球度に有意差は観測されなかった。
【0107】
しかしながら、その後の形態学的品質の点で真球度のレベルが高められたことが示された様々な組成物がある。真球度のレベルを高めることに関する組成元素の影響の順序は、
SrO>Y
2O
3>Ga
2O
3>SiO
2の順になった。この影響力の順序は自明ではないが、高品質の成形ビーズを製造するためには重要である。密度に関して以前に示されたように、ガラス中の
SrOの負荷が最小であることを考慮すると、影響の順序は驚くべきことであり、ビーズ密度と同じ序列に従うことが観測されたのは予想外である。
【0108】
図7は、ビーズ形態(設計空間#1)についての、Occlu90Y組成物の真球度パーセントの一覧を示す。
【0109】
化学的耐久性測定
合成され得る物質に関するイットリウム放射が提供される。16個のうち計10個の配合物において、平均イットリウム放射レベルが1日の期間にわたって0〜0.5ppmの範囲のガラス不規則粒子であって、ビーズに変換された該物質については平均イットリウム放射レベルが0.32〜1.84ppm、0.64〜2.20ppm及び0.78〜2.00ppmの範囲であるガラス不規則粒子を形成した(
図8参照)。
【0110】
表12は、(L−擬似組成元素コーディング及び実際の組成元素コーディングに関する)実際の回帰モデルの妥当性、追加の妥当性の尺度、並びに、R
2、調整されたR
2及び予測されたR
2のようなANOVAを示す。全ての妥当性値は0.7を超えており、有意な回帰モデルが実現されていることを示している。また、不規則粒子の形態とビーズの形態とを比較した物質組成物の観測された挙動と計算された挙動とについての表形式における比較については、それぞれ(L−擬似コーディングを用いた回帰モデルに基づく)表13及び表14に示す。
【0111】
【表12】
【0112】
【表13】
【0113】
【表14】
【0114】
表15は、主要な組成元素をランク付けした一覧を提供する。表15は、主要な構造及びデータからのプロパティ応答を提供する。
【0115】
【表15】
【0116】
Y
2O
3放射の制御に関してこの設計空間で評価されたガラスの化学的耐久性は、
SrO及びGa
2O
3の両方に決定的に依存することが示された。そのような傾向は当該技術分野においては知られておらず、特に、いずれの組成元素も、ガラスマトリクス中においてネットワーク改質剤又は中間体のいずれかとして作用し、それによって該ガラスマトリクスのネットワークを潜在的に開放するため、その安定性を低下させることで知られている。
【0117】
図8は、設計空間#1における不規則粒子(A群)として生成された各ガラス組成物についての1,3,7及び14日の時間に関するY、Si、Sr及びGa放出のイオン放出レベルと、ビーズ(B群)として生成された同じガラス組成物についての1,3,7及び21日目の時間に関する比較対象の放出レベルとを示す。
【0118】
CT放射線不透過性の評価
合成され得る物質に関するCT放射線不透過性が提供される(
図9及び
図10参照)。16個のうち計10個の配合物において、平均CT放射線不透過性レベルが70kVp及び120kVpにおいて3532HU〜6132HU及び3141〜4393HUの範囲のガラス不規則粒子をそれぞれ形成した。比較すると、ビーズは、70kVp及び120kVpにおいて5066HU〜8043HU及び5066HU〜6761HUの範囲の(空気中で測定された)平均CT放射線不透過性レベルをそれぞれ示すことが示された。しかし、生理食塩水で測定されたガラスビーズは、70kVp及び120kVpにおいて13,664HU〜17,835HU及び7,341HU〜9,776HUの有意に高い平均CT放射線不透過性レベルをそれぞれ示すことが示された。
【0119】
【表16】
【0120】
表16は、(L−擬似組成元素コーディング及び実際の組成元素コーディングに関する)実際の回帰モデルの妥当性、追加の妥当性の尺度、並びに、R
2、調整されたR
2及び予測されたR
2のようなANOVAを示す。全ての妥当性値は0.6を超えており、有意な回帰モデルが実現されていることを示している。また、不規則粒子の形態とビーズの形態とを比較した物質組成物の観測された挙動と計算された挙動とについての表形式における比較についても、(L−擬似コーディングを用いた回帰モデルに基づく)表17に示す。
【0121】
【表17】
【0122】
表18は、主要な組成元素をランク付けした一覧を提供する。表18は、主要な構造及びデータからのプロパティ応答を提供する。
【0123】
【表18】
【0124】
kVp値を変化させた際に組成物と放射線不透過性との間に観測された変化は、各元素のK吸収端を調べることによって説明される。この研究において考慮される元素は、以下の光子エネルギーにおけるK吸収端を有する:2.14keV(Si)、11.12(Ga)、17.04(Sr)、17.99(Y)。70kVpでは、X線スペクトルの実効エネルギーは、K吸収端エネルギーに近い。したがって、塞栓粒子の減衰特性は、120kVpよりも組成変化に対して敏感である。
【0125】
Y
2O
3−
SrO−Ga
2O
3−SiO
2ガラス系のCT放射線不透過性についての定量的尺度は、現在のところ文献には存在しない。
【0126】
驚くべきことに、製造された物質のCT放射線不透過性レベルは、2455HU値(Kilcup et al., 2015)における造影剤(50:50)であるIsovue造影剤のCT放射線不透過性レベルを超えていた。70kVp及び120kVpのいずれにおいても、最終ビーズの放射線不透過性を高めることに対する組成元素の影響は、
SrO>Y
2O
3>Ga
2O
3の順であることが決定された。したがって、放射線不透過性をさらに高めるためには、ガラスマトリックス内の
SrO、Y
2O
3及びGa
2O
3の添加量を増加させることが必要である。
【0127】
CT放射線不透過性レベルは、生理食塩水中で評価されたビーズの方が空気中で評価された不規則粒子及びビーズよりも実質的に高いことが示されたが(
図10参照)、ビーズの形態である全ての物質は、70kVpにおいて従来のYASガラスよりも有意に高いことが観測され、7/10の物質は、120kVpにおいて同じYASガラスよりも有意に高いと評価された。生理食塩水中で評価された物質に比べて空気中で評価された物質のCT放射線不透過性の増加は期待されるが(c.0HUでの生理食塩水のHU値に比べて、空気は負のHU値を有するため)、これらの観測結果は予想外であった。
【0128】
驚くべきことに、大気中で評価された物質のCT放射線不透過性レベルは、それらの密度が球状化処理後に減少することが示されたとしても、(以下の図に示すように、70kVp及び120kVpの両方において)ビーズの方が不規則粒子よりも有意に高いことが観測された。ビーズ製品開発にとって望ましい特徴は、現在のところ当該技術分野では知られていない。
【0129】
生体適合性の評価
合成され得るビーズの関連する細胞生存率が提供される(
図11参照)。要約すると、全ての試験濃度にてISO10993−5の最小基準を満たす組成物の細胞生存率は、Occlu90Y1.1、Occlu90Y1.2、Occlu90Y1.6、Occlu90Y1.11、Occlu90Y1.5及びOcclu90Y1.16であり、それらの細胞生存率は75%(100%濃度でのOcclu90Y1.16)から99.777%(25%濃度でのOcclu90Y1.11)の範囲であった。Occlu90Y1.12は、その細胞生存率が25%濃度にて14.8%という低さであり、評価された10種のビーズ組成物の中で最も細胞毒性が高いとみなされた。
【0130】
アッセイの妥当性に関し、媒体対照の平均ODは0.2以上であり、媒体対照間の分散は15%以下であった。陽性対照は生存率の30%以上の低下を誘起し、陰性対照は生存率の30%以下の低下を誘起した。したがって、試験系は正常に応答しており、妥当なアッセイの基準を満たしていた。陰性対照及び陽性対照を試験品と同時に実行して、生存範囲を提供した。陽性対照は生存率の99%超の低下を誘起し、陰性対照は生存率の0%低下を誘起した。媒体対照ウェルの分散は15%未満であった。全ての媒体対照ウェルの平均ODは、0.7805〜1.187の範囲であった。したがって、妥当なアッセイの基準を満たしていた。
【0131】
【表19】
【0132】
表19は、(L−擬似組成元素コーディング及び実際の組成元素コーディングに関する)実際の回帰モデルの妥当性、追加の妥当性の尺度、並びに、R
2、調整されたR
2及び予測されたR
2のようなANOVAを示す。全ての妥当性値は、50%濃度での細胞生存率モデルを除いて0.7を超えている。このことは、25%、75%及び100%にて生じた細胞生存率モデルについて、有意な回帰モデルが実現されていることを示している。また、不規則粒子の形態とビーズの形態とを比較した物質組成物の観測された挙動と計算された挙動とについての表形式における比較については、(L−擬似コーディングを用いた回帰モデルに基づく)表20に示す。
【0133】
【表20】
【0134】
表21は、主要な組成元素をランク付けした一覧を提供する。表21は、主要な構造及びデータからのプロパティ応答を提供する。
【0135】
【表21】
【0136】
Y
2O
3−
SrO−Ga
2O
3−SiO
2ガラス系に対する細胞生存率についての定量的尺度は、現在のところ文献には存在しない。
【0137】
様々なレベルの物質濃度における細胞生存率に対する組成元素の効果は、予測されない。線形又は二次モデリング手法を用いて決定できる有意なモデルは存在しないからである。
【0138】
初期の組成元素間の複雑な関係を調べるために、SrOとGa
2O
3との間の実質的な相互作用効果を同定して高い物質濃度(75%及び100%)での細胞生存率を高めるための立方体モデルが必要であった。
【0139】
驚くべきことに、50%濃度(モデルp値0.9750)における細胞生存率については、何の予測関係も確立されなかった。さらに、Occlu90Y1.4、Occlu90Y1.7及びOcclu90Y1.12は、全ての濃度にて最高レベルの細胞毒性を生じる、設計空間内の上位3つの組成物であることが示された。また、同じ組成物が、臨床レベル(120kVp)におけるCT放射線不透過性が最高レベルの上位3つを生じることも示された。これと同時に、Occlu90Y1.15及びOcclu90Y1.16は、CT放射線不透過性レベルがわずかに低いことが示されたものの、各濃度にて最高レベルの細胞生存率が示された。
SrOとGa
2O
3との間の複雑な相互作用は、そのような効果が現在のところ当技術分野では知られていないため、実験設計を実施することなく予測することはできなかった。
【0140】
【表22】
【0141】
TAEのための本質的に放射線不透過性な塞栓粒子を提供することによって、(i)塞栓物質の真の空間分布を達成すること、及び、(ii)TAE中に医師が手技中のフィードバックをリアルタイムで得ることが可能になる。設計の観点からは、現在の組成設計空間は、空間が
90Yの治療効果を保持しつつ放射線不透過性を高めるために開発された。
【0142】
続いて、従来のYASガラス系からAl
2O
3を除去し、ケイ酸塩系ガラス系のためのこれまで知られていない未検査レベルの
SrO及びGa
2O
3を含む組成設計空間の再配置及び増強を行った。このアプローチの第一の関心事は、ガラスネットワークにおける役割がネットワーク修飾物質及び中間物質として機能することである
SrO及びGa
2O
3が、それぞれ、全体的なネットワーク接続性を潜在的に低下させ、結果としてイオン放出レベルが高くなる(そして、このガラス系の化学的耐久性を最小化する)可能性にある。また、このようなアプローチは、その熱力学的不安定性の結果としてガラスの処理能力に悪影響を及ぼし、それにより結晶化を生じさせる可能性もある。
【0143】
表22に示すように、
SrO及びGa
2O
3は、Y
2O
3−SiO
2ガラス系の各臨界特性の重要な組成決定要因であることが判明した。そして、各特性に関するそれらの影響は、現在のところ当該技術分野では知られていない。
【0144】
ここでは、Si、Ga、Sr及びYを含む耐久性のある4元ガラスが示される。これらの物質は、優れた耐久性を示し、シミュレートされた生理学的条件下では、Yを1ppm未満、他の組成元素のそれぞれについては15ppm未満放出することが観察された。さらに、合成の観点からは、SiO
2が0.667モル分率以上であるガラスは製造できないことが注目された。他のすべての元素については、制約条件に関する最小及び最大濃度は、ガラス合成に適していた。
【0145】
物質最適化
【表23】
【0146】
表23は、完全な組成設計空間の範囲内における最適化設計基準を規定する。ここでは、ガラス系内のY
2O
3のロードについては、最大重要度(5)で0.17モル分率を目標とする。ビーズ密度及び真球度のような他の全ての組成元素及び出力は、低レベルの重要度(3)に保たれた。各濃度の細胞生存率には同程度の重要度(3)が付されていたが、その範囲は最小80%かつ最大100%に制限されていた。CT放射線不透過性及びイットリウム放出もまた範囲内に保たれたが、ここでは中間レベルの重要度(4)が付された。
【0147】
【表24】
【0148】
表24は、望ましさ(desirability)分析から導かれた上位3つの組成変化について列挙する。上位3つのうち、わずか2つの組成変化が、Y
2O
3について0.17モル分率のロードレベルの設計基準を満たすことが注目される。残りの2つのバリエーションのうち、溶液#2は最小密度を予測すると共に、最小真球度、70kVpでのCT放射線不透過性、及び最大Y放出も予測する。溶液#1は、21日の期間にわたってその真球度の向上及びY放出の最小化の点で望ましい特性を有することが予測される一方で、より高い密度を予測する。
【0149】
実施例3,4
微小球の調製
線形スクリーニング混合物設計を採用し、それによって放射線不透過性の放射性塞栓粒子の15種類のY
2O
3−
SrO−Ga
2O
3−MnO
2−TiO
2−SiO
2配合物(表25による)を得ると共に、Design Expert Ver 9(Stat-Ease社製)を使用した標準偏差分析(ANOVA)を通じて非単体アルゴリズムを用いることにより分析することとする。実施例3において調査された個々の組成元素の範囲は、以下の制約条件(モル分率)に設定された。
制約条件1:0.10≦Y
2O
3≦0.17
制約条件2:0.025≦
SrO≦0.050
制約条件3:0.10≦Ga
2O
3≦0.30
制約条件4:0.00≦TiO
2≦0.10
制約条件5:0.00≦MnO≦0.05
制約条件6:0.50≦SiO
2≦0.75
*Y
2O
3+
SrO+Ga
2O
3+TiO
2+MnO
2+SiO
2=1.0
【0150】
実施例4は、本明細書に記載のストロンチウムを含む組成物のさらなるスクリーニング及び最適化研究について記載する。二次の最適化混合物設計を採用し、それによって放射線不透過性の放射性塞栓粒子の11種類の
SrO−Ga
2O
3−MnO
2−TiO
2−SiO
2配合物(表26による)を得ると共に、Design Expert Ver 9(Stat-Ease社製)を使用した標準偏差分析(ANOVA)を通じてIV−最適化アルゴリズムを用いることにより分析することとする。調査された個々の組成元素の範囲は、以下の制約条件(モル分率)に設定された。
制約条件1:0.05≦
SrO≦0.15
制約条件2:0.10≦Ga
2O
3≦0.30
制約条件3:0.00≦TiO
2≦0.10
制約条件4:0.00≦MnO≦0.05
制約条件5:0.50≦SiO
2≦0.75
*
SrO+Ga
2O
3+TiO
2+MnO
2+SiO
2=1.0
【0151】
【表25】
【0152】
表26は、イットリウムなしで配合された組成物について記載する。この場合、マンガン及びチタンが治療効果を提供することとなる。
【0153】
【表26】
【0154】
Occlu90Y2.1〜Occlu90Y2.15及びOccluSr89 4.1〜4.11(表25及び26による)と示される物質組成物を合成した。分析等級試薬:炭酸ストロンチウム(Sigma-Aldrich社製、米国ミルウォーキー)、酸化イットリウム、酸化ガリウム及び二酸化ケイ素(Sigma-Aldrich社製、カナダ国オークビル)を、分析用天秤(ABT 320-4M、Kern&Sohn社製、ドイツ国)を用いて秤量し、ラギッド回転装置(rugged rotator)(099A RD9912、Glas-Col社製、米国ジョージア州アトランタ)内にて1時間、均一に混合した。各組成物を、50mL又は60mLの白金るつぼ(米国Alpha Aesar社製)に充填した後、高温炉(Carbolite RHF 1600、英国)を用いて焼成して(1550℃、3時間)、周囲温度にて蒸留水中で衝撃急冷した。得られたガラス不規則粒子を、オーブン内で乾燥させ(100℃、24時間)、メノウ遊星ミル(Pulverisette 7; Laval Labs社製、カナダ国)内で粉砕して、篩い分けすることにより20〜75μmのサイズ範囲の不規則粒子を回収した。
【0155】
続いて、不規則粒子をガス/酸素の炎に導入し、溶融させて表面張力により球状の液滴を形成することにより、上記回収された粒子をガラス微小球に形成した。該液滴は、他の固体物に触れる前に急速に冷却することにより、その球状が固体にて保持された。球状化処理の前に、不規則粒子をガス/酸素バーナー上に位置する振動フィーダー内に配し、垂直ガラス管内にゆっくりと振動させて、5〜25g/時間の粉体供給速度で粉体粒子をガス/酸素バーナーの熱い炎の中に直接導いた。バーナーの炎をステンレススチール製容器内へと送り、小さなガラスビーズを炎から追い出しつつ集め、続いて音波篩を用いて選別した。
【0156】
X線回折
不規則粒子及びビーズの両方の形態における各物質組成物のX線回折(XRD)測定は、X線発生器(40kV、40mA)に結合されると共にCuターゲットX線管を装備している高速LynxEye(登録商標)検出器を備えたBruker D8 Advance XRDシステムを用いて行った。各実験ガラスの標本は、物質(φ8.5mm)をポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)保持リング内へと圧迫することにより調製した。検出器は、走査角度範囲10°<2θ<100°における全ての散乱X線を収集した。システム内の処理ステーションにより、最大9種類の標本を自動かつ無人で連続的に分析するための測定及び移動操作が可能となった。
【0157】
粒子径分析
各ガラスビーズ配合物(20〜75μm)の粒度分布を、Mastersizer 3000(Malvern社製、英国)を用いて測定した。脱イオン化したビーズ懸濁液を、不透明値を6〜8%の範囲にするように調製した。その後、青色(λ=470nm)及び赤色(λ=632.8nm)レーザーの両方を使用し、平均直径d90、d50及びd10として報告された値を用いて、懸濁液を測定した(n=5)。平均直径d90、d50及びd10はそれぞれ、90%、50%及び10%の累積寸法での粒子直径を表す。
【0158】
ヘリウムピクノメトリー
不規則粒子及びビーズの両方の形態における各物質組成物(20〜75μmの粒度範囲のガラスの0.75cc)の真密度は、ヘリウムピクノメトリー(AccuPyc 1340、Micromeritics社製)を用いて測定し、組成物毎につき平均10回の測定結果を示した。
【0159】
示差走査熱量測定
示差走査熱量計(DSC)404 F1 Pegasus(404 F1 Pegasus、Netzsch社製)を用いて、白金るつぼ内部にある不規則粒子及びビーズ両形態の各物質組成物についてのガラス転移温度(T
g)を、20〜1000℃の範囲の温度にわたって測定した。使用した加熱プロファイルは、30℃/分の加熱速度で500℃まで加熱した後、10℃/分の加熱速度で500℃から1000℃まで加熱するという順番に従った。アルゴン(99.999%、Air Liquide社製、カナダ国)を50mL/分の流量で流しながら、測定を行った。DSCは、純粋なIn、Al、Sn、Au及びAgの融点を用いて較正した。熱流曲線におけるステップ変化の変曲点におけるT
gは、Proteus解析ソフトウェア(バージョン6.1)を用いて決定した。
【0160】
電子顕微鏡のスキャン
Hitachi S-4700走査型電子顕微鏡(SEM)を3KV加速電圧、15.5μA加速電流及び12.2mm作動距離で操作して使用し、各ビーズ組成物の炭素被覆形態を調査した。
【0161】
密度、T
g及び真球度パーセントのために一元配置ANOVAを使用し、続いてニューマン=コイルス試験により平均値を比較した。p≦0.5の場合に、データは有意であるとみなした。全ての計算は、Mac OS XのPrism 6(GraphPad Software社製、米国ラホヤ)を使用して行った。
【0162】
X線回折
ここでは、設計空間#2からの3つの組成物であって、(i)高Ti及び低Mnロード、(ii)Ti及びMnの両方についての中程度のロード、及び(iii)低Ti及び高Mnロードにより構成される3つの組成物について調製した。さらに、設計空間#4からの3つの組成物であって、高、中及び低ロードのSrにより構成される3つの組成物についても調製した。「融解容易性」を可能にする6つの組成物全てについて、
図12に示すようなXRDスペクトルに基づいて結晶性を何ら示さない非晶質であることが確認された。
【0163】
ヘリウムピクノメトリー及び示差走査熱量測定
各設計空間にて調製された物質に関する密度は、平均密度が3.2〜4.3g/cm
3の範囲のガラス不規則粒子を形成し、続いて、平均密度が3.2〜3.9g/cm
3の範囲のビーズに変換した(
図13参照)。調製されたOcclu
90Y設計空間#2物質に関するT
gは、平均T
gが787〜821℃の範囲のガラス不規則粒子を形成し、続いて、平均T
gが780〜809℃の範囲のビーズに変換した(
図14参照)。
【0164】
実施例5
該実施例は、本明細書に記載の組成物に放射線照射することによって生成される、計画された理論上の放射性同位体組成物について記載する。
【0165】
【表27】
【0166】
【表28】
【0167】
配合物1:24時間放射線照射
100mgの配合物1組成物に、2E+14n/cm・秒にて24時間放射線照射した。表29は、放射線照射終了(EOI)の後の異なる時間において形成された放射性同位体を示す。組成物の
90Y放射性核種純度も示されている(パーセント)。
【0168】
【表29】
【0169】
図15及び
図16は、各同位体の総活性を表29中のデータに基づいて棒グラフとして示し、Y軸上の異なる線形尺度を有する。
図17は、Y軸が対数スケールであるデータを示す。
図18は、EOIからの経過時間に基づくY−90組成物の放射性核種純度を示す。EOIから108時間経過後には、純度は99.0%より高かった。
【0170】
配合物1:72時間放射線照射
100mgの配合物1組成物に、2E+14n/cm・秒にて72時間放射線照射した。表30は、放射線照射終了(EOI)の後の異なる時間において形成された放射性同位体を示す。組成物の
90Y放射性核種純度も示されている(パーセント)。
【0171】
【表30】
【0172】
図19及び
図20は、各同位体の総活性を表30中のデータに基づいて棒グラフとして示し、Y軸上の異なる線形尺度を有する。
図21は、Y軸が対数スケールであるデータを示す。
図22は、EOIからの経過時間に基づく
90Y組成物の放射性核種純度を示す。EOIから108時間経過後には、純度は99.0%より高かった。
【0173】
配合物2:24時間放射線照射
100mgの配合物2組成物に、2E+14n/cm・秒にて24時間放射線照射した。表31は、放射線照射終了(EOI)の後の異なる時間において形成された放射性同位体を示す。組成物の
90Y放射性核種純度も示されている(パーセント)。
【0174】
【表31】
【0175】
図23及び
図24は、各同位体の総活性を表31中のデータに基づいて棒グラフとして示し、Y軸上の異なる線形尺度を有する。
図25は、Y軸が対数スケールであるデータを示す。
図26は、EOIからの経過時間に基づく
90Y組成物の放射性核種純度を示す。EOIから84時間経過後には、純度は99.0%より高かった。
【0176】
配合物2:72時間放射線照射
100mgの配合物2組成物に、2E+14n/cm・秒にて72時間放射線照射した。表32は、放射線照射終了(EOI)の後の異なる時間において形成された放射性同位体を示す。組成物の
90Y放射性核種純度も示されている(パーセント)。
【0177】
【表32】
【0178】
図27及び
図28は、各同位体の総活性を表32中のデータに基づいて棒グラフとして示し、Y軸上の異なる線形尺度を有する。
図29は、Y軸が対数スケールであるデータを示す。
図30は、EOIからの経過時間に基づく
90Y組成物の放射性核種純度を示す。EOIから84時間経過後には、純度は99.0%より高かった。
【0179】
配合物3:24時間放射線照射
100mgの配合物3組成物に、2E+14n/cm・秒にて24時間放射線照射した。表33は、放射線照射終了(EOI)の後の異なる時間において形成された放射性同位体を示す。組成物の
90Y放射性核種純度も示されている(パーセント)。
【0180】
【表33】
【0181】
図31及び
図32は、各同位体の総活性を表33中のデータに基づいて棒グラフとして示し、Y軸上の異なる線形尺度を有する。
図33は、Y軸が対数スケールであるデータを示す。
図34は、EOIからの経過時間に基づく
90Y組成物の放射性核種純度を示す。EOIから60時間経過後には、純度は99.0%より高かった。
【0182】
配合物3:72時間放射線照射
100mgの配合物2組成物に、2E+14n/cm・秒にて72時間放射線照射した。表34は、放射線照射終了(EOI)の後の異なる時間において形成された放射性同位体を示す。組成物の
90Y放射性核種純度も示されている(パーセント)。
【0183】
【表34】
【0184】
図35及び
図36は、各同位体の総活性を表34中のデータに基づいて棒グラフとして示し、Y軸上の異なる線形尺度を有する。
図37は、Y軸が対数スケールであるデータを示す。
図38は、EOIからの経過時間に基づく
90Y組成物の放射性核種純度を示す。EOIから36時間経過後には、純度は99.0%より高かった。
【0185】
実施例6
製造条件に基づいて計画された放射性同位体組成物
方法論
まず、Occlu90Y設計空間#1及び3にて調製した10個のビーズ配合物の組成物及びOcclu90Y設計空間#2で調製したビーズ配合物の組成物を、各元素についてモル分率から重量パーセントへと変換した。次に、これらのパーセントを、イットリウム、ストロンチウム、ガリウム、ケイ素、チタン及びマンガンの全ての安定同位体の天然存在比と組み合わせて、各配合物中における各安定同位体の重量パーセントのマスターリストを作成した。これらの核種の表は、どの同位体が中性子線捕獲を受けて放射性同位体を生成するかを決定するために参照された。中性子線放射化を受けない全ての同位体は、以降の分析から取り除いた。
【0186】
12個のビーズ組成物の各々について、全ての場合にて1gの試料質量を使用し、一連の計算を実施した。これらの計算には、2×10
14n/cm
2・秒の熱中性子線束値を使用した。該束値は、NRU(カナダ国チョーク川)、MURR(ミズーリ大学)、SAFARI(南アフリカ国)、OPAL(オーストラリア国)及びBR−2(ベルギー国)を含む世界中の複数の放射性同位体製造研究炉において達成可能である。各ビーズ配合物について3つの異なる放射線照射時間(24時間、72時間、168時間)を検討し、生成された放射性同位元素の放射能強度を384時間(約8週間)の減衰期間にわたって追跡した。
【0187】
全11種の配合物についての完全なデータ表を表35〜表67に示す。データの強調部分は、イットリウム−90放射性核種純度が95%を超えていることを示している。暗黄色は、各放射線照射シナリオについて達成可能な最も高い放射性核種純度を示すのに使用されている。
【0188】
EOIの際に存在する各放射性同位体の相対量に対する放射線照射時間変更の影響を強調するために、各ビーズ配合物について3つの異なる製造シナリオを検討した。ゼロでない中性子線捕捉断面積を備える特定の安定同位体が中性子線束に曝されると、該同位体は、断面積、中性子線束及び存在する安定同位体の質量に正比例する一定速度で、放射性同位元素を形成するように放射化する。しかしながら、放射性同位元素は、形成されるとすぐに崩壊し始める。その結果、放射化は同じ初期速度で継続するものの、存在する放射性同位体の量は、時間経過と共に直線的に増加するわけではない。結果として、連続放射線照射下における所与の放射性同位体の最大収率には、約5半減期後に達する。
【0189】
ガリウム−70は、その半減期が21分間であり、2時間未満の放射線照射の後に最大収率に達する。一方で、Ga−72の量(t
1/2=14時間)は約40時間の放射線照射の後に平坦域に達する。これらに対し、長寿命のストロンチウム放射性同位体Sr−85(t
1/2=64.9日)及びSr−87(t
1/2=50.5日)は、数ヶ月もの放射線照射期間にわたって直線的に累積し続ける。イットリウム−90(t
1/2=64h)レベルは約300時間の放射線照射後に安定するが、その増加速度は約150時間を大幅に下回る。結果として、イットリウム含有ビーズの比放射能強度、すなわち、ビーズ1グラムあたりのY−90のBqの数は、170時間(約1週間)を超える放射線照射時間を延長しても、実質的に増加しない。この情報を念頭に置いて、全ての11ビーズ配合物について3つの異なる放射線照射時間が考慮された。第1の最も短い放射線照射時間(24時間)は、作成される長寿命のストロンチウム放射性同位体の量を最小限にするという利点を有するが、比較的低い比放射能(Bq/g)のイットリウム−90を生成するという欠点がある。この14時間のガリウム放射性同位体は、24時間の期間にわたって直線的に累積するため、放射線照射終了時におけるY−90に対するGa−72の比率も最大になるという特徴を有することとなる。24時間の放射線照射期間を用いて生成された全てのデータには、追加のデータテーブルでは「シナリオ1」と付されている。第2のシナリオは、72時間の放射線照射期間を用い、それによってイットリウム−90の直線的増加期間内に留まる。そのため、このシナリオは3つのシナリオの中で最もコスト効果の高いシナリオであり得る。また、放射線照射終了時におけるY−90に対するGa−72と比がわずかに低くなり、それによってGa−72が許容レベルまで減衰するのに必要な時間がわずかに短くなるため、有益となる。これらの同位体(Sr−85、Sr−87及びY−90)の3つ全てが依然として直線的な様式で累積しているため、イットリウム−90に対する長寿命ストロンチウムの比は、本質的にはシナリオ1と同じである。72時間の放射線照射期間を用いて生成された全てのデータには、表35〜67では「シナリオ2」と付されている。
【0190】
最後に、1週間(168時間)の放射線照射を考慮した。このシナリオは、Y−90の平坦領域(約180時間以降)に入らずに製造されたイットリウム−90の比放射能強度を最大化するために選択された一方で、長寿命の放射性ストロンチウムの形成は抑制されなかった。これらの条件下では、Ga−72収率は約60時間後に平坦域になるため、Y−90に対するGa−72の比率は実質的に低くなる。逆に、Sr−85とSr−89の割合はわずかに高くなる。168時間(7日)の放射線照射期間を用いて生成された全てのデータには、添付のデータ表では「シナリオ3」と付されている。3つのシナリオ全てにおいて、熱中性子線捕獲反応のみを考慮した。高速中性子線相互作用による核変換は、それらの断面積が使用される特定の放射線照射サイトの磁束特性に大きく依存するため、除外した。さらに、設計空間#1では、高速中性子線が存在することによって、生成される放射性同位体プロファイルが大きく変わることは想定されない。これらのビーズ(Y、Sr、Ga、Si、O)の成分は、限られた数の高速中性子線反応を起こし、これらの反応により生成される放射性同位元素は一般に短寿命である:ケイ素28はAl−28(t
1/2=2.24分)を生成し、Si−29はAl−29(t
1/2=6.5分)を生成し、Sr−88はRb−88(t
1/2=15.2分)を生成する。これに対する唯一の例外はY−89であり、Y−89は(n,p)反応を受けてSr−89を生成し得る。しかしながら、この反応の断面積は非常に小さく(σ=0.3mb)、Sr−88の熱中性子線放射化に比べると、このルートからのSr−89総量への寄与は無視されると想定される。チタン−46は(n,p)反応を受けて半減期が84日のスカンジウム46を生成し得るため、設計空間#2の特定の配合物にとっては、高速中性子線反応は比較的問題が大きい可能性がある。もっとも、他の高速中性子線反応と同様に、この変換の断面は非常に低く、Occlu90Y2.3及び2.8に存在する少量のチタンと組み合わせると、Sc−46の生成量は無視できる程度になるはずである。
【0191】
理論的な収率予測の結果を表35〜表67に示す。全般的に、ビーズは放射線照射終了後約4〜5日で95%超のY−90放射性核種純度(RNP)に達し、その時点での主要な放射性核種不純物は、常にガリウム−72である。最大の放射性核種純度は、これに続いて4〜6日、すなわちEOI後の10〜12日で一貫して達成される。4GBqの患者線量を処方するのに必要なビーズの質量は、ビーズ組成及び放射線照射時間の両方の関数として変化することが示され、これは予想外ではなかった。このことを表68に示す。表68は、様々な配合のビーズについて選択されたデータを含んでいる。Occlu90Y1.4はイットリウムとガリウムが多い一方で、Occlu90Y1.16はイットリウムを同等量含み、ガリウムを半分しか含まないが、ストロンチウムを実質的により多く含んでいる。Occlu90Y1.1及び1.2は両方ともイットリウムが少ないが、種々の濃度のストロンチウム及びガリウムを含有している。設計空間#2からの化合物はこの比較に含まれていないが、ストロンチウム、ガリウム及びイットリウムに関する組成は設計空間#1のものと非常に類似しており、マンガン及びチタンの添加はそれらの放射性崩壊パターンには有意に影響しない。
【0192】
【表35】
【0193】
【表36】
【0194】
【表37】
【0195】
【表38】
【0196】
【表39】
【0197】
【表40】
【0198】
【表41】
【0199】
【表42】
【0200】
【表43】
【0201】
【表44】
【0202】
【表45】
【0203】
【表46】
【0204】
【表47】
【0205】
【表48】
【0206】
【表49】
【0207】
【表50】
【0208】
【表51】
【0209】
【表52】
【0210】
【表53】
【0211】
【表54】
【0212】
【表55】
【0213】
【表56】
【0214】
【表57】
【0215】
【表58】
【0216】
【表59】
【0217】
【表60】
【0218】
【表61】
【0219】
【表62】
【0220】
【表63】
【0221】
【表64】
【0222】
【表65】
【0223】
【表66】
【0224】
【表67】
【0225】
前述の原理と一致して、放射線照射が長くなるにつれてY−90の比放射能強度がより高くなり、その結果、特定の配合物についてシナリオ1からシナリオ3に移る際に、患者線量を処方するのに必要なビーズの質量がより小さくなる。また、上述のように、「シナリオ3」において考慮される7日放射線照射の結果、4GBq線量中に存在するSr−85及びSr−89の量が実質的により多くなる。しかしながら、存在する放射性ストロンチウムの絶対量は全体的に非常に少なく、表68で考慮される場合におけるY−90放射能強度の0.1%未満であることに注目されたい。より高いイットリウム含有ビーズを使用することによる影響は、任意の所与の列において、上2列(低イットリウム)のビーズ質量と下2列(高イットリウム)のビーズ質量とを比較することによって示される。すなわち、酸化イットリウムのモル分率を0.1から0.17まで増加させると、4GBq線量に必要なビーズの総質量は約1/2に減少する。表68に示された限定的なデータに基づくと、Occlu90Y1.16は、理想的に近い特性の組み合わせを有するように見られる。すなわち、治療量のY−90を送達するために必要なビーズの量がかなり少なく、同じ放射線照射シナリオにおいてSr−85/87の負荷量が他の3つの配合物のうち2つよりも低い。Occlu90Y1.16は他のどのビーズ配合物よりも大きい
酸化ストロンチウムのモル分率(0.05)を含み、理論的にはより多量のSr−85/87が予想されていたため、このことはまず驚くべきことである。加えて、Occlu90Y1.16中の酸化イットリウムのモル分率(0.17)はかなり大きいため、ビーズ1gあたりのY−90の量が多量になるが、その量はOcclu90Y1.4と変わらない。データをより詳細に調査すると、これらの2つの配合物間の重要な相違点は、Occlu90Y1.16の酸化ガリウムのモル分率がOcclu90Y1.4よりも低い(0.167対0.295)ことであることがわかる。Occlu90Y1.16において生じるGa−72の負荷量がより低いことは、99%を超える放射性核種純度を達成するのにこれらのビーズが多くの崩壊時間を必要としないことを意味し、したがって、ビーズ1g当たりのY−90放射能強度がより高い場合に、放射線照射終了のより近くにて使用することができる。最後に、表35に含まれると共にここで説明されたデータは、イットリウム−90の放射性純度が、典型的にはEOIの168−192時間後において99%を超えるビーズ配合物を考慮する。より低い放射性核種純度(おそらく97〜98%)が許容可能であり得る。その場合には、全てのビーズ配合物は、放射線照射終了のより近くにて使用することができ、それによって、4GBqの患者線量を送達するのに必要なビーズの量及び該患者線量におけるSr−85/87の量が(場合によっては劇的に)減少する。
【0226】
【表68】
【0227】
実施例7
短寿命中性子線放射化分析
方法
各ビーズ配合物約100mgをラベル付きポリエチレンバイアルに秤量して、試料の正確な質量を小数点以下4桁まで記録し、バイアルをヒートシールすることにより、中性子線放射化のための試料を調製した。各配合物の重複試料を調製した。その後、各ポリエチレンバイアルをより大きなバイアルに封入し、続いてヒートシールした。
【0228】
正確に知られた濃度のイットリウム、ガリウム、ストロンチウム、チタン及びマンガンの水溶液のTraceCERT認証参照物質(Fluka)水溶液から、標準物質を調製した。0.100mL(Mn標準物質)から3.000mL(Ga標準物質)までの範囲の正確な体積を、別個のポリエチレンバルブ内へとピペット注入して、それらのポリエチレンバルブをヒートシールし、次いでより大きなポリエチレンバイアル内に封入した(ヒートシールも行った)。これらの標準物質試料の各々を重複して調製した。標準物質についての正確な体積及び検体質量については、表69を参照のこと。
【0229】
【表69】
【0230】
試料及び標準物質をMcMaster核反応炉(MNR)でサイトRAB−4において4.2×10
12n/cm
2・秒の熱中性子線束で照射した。このとき、原子炉は、定格電力2.5MWにて動作していた。まず、600−25−600の放射線照射−遅延−計数時間(秒)を、全ての試料に対して用いた。4日(設計スペース#1)又は5日(設計空間#2)遅らせた後、より短い放射線照射時間及び計数時間(60−30−60)を用いて、試料及び標準を再分析した。
【0231】
全てのガンマ発光スペクトルを、GMX30%効率、70mmエンドキャップ高純度ゲルマニウム(HPGe)検出器(ORTEC社製、テネシー州オークリッジ)を用いて記録した。試料は、「位置9」の検出器面から約32.5cmのところに配置した。合計16,383のエネルギーチャネルが使用され、エネルギーウィンドウは0〜2116keVに及んだ。スペクトルは、Windowsバージョン5.31のGammaVision(ORTEC社製、テネシー州オークリッジ、2001)を用いて記録し、Aptec MCA Application Version 7.04(Canberra社製、2002)を用いて分析した。
【0232】
Occlu90Y配合物の元素組成は、標準物質試料のスペクトルにおける選択されたガンマ線の計数率(計数毎秒、cps)を、ビーズ試料のスペクトルにおける対応する放射の計数率と比較することによって、経験的に決定した。これは、以下の単純な比例関係で数学的に表わされる。cps
sampleとcps
standardの項は、それぞれビーズ試料及び標準物質についての特定のガンマ線の計数率であり、質量の項は、標準物質(表2の質量
standard)及び試料(質量
sample、経験的に決定される)中に存在する分析物(例えば、イットリウム、ガリウム等)の質量に関する。
cps
sample/質量
sample=cps
standard/質量
standard
【0233】
用語「質量
standard」を切り離すように並べ替えることによって、ビーズ試料中におけるその分析物の総質量が得られる。(以下に示すように)試料の総質量で割って100%を掛けることにより、ビーズ試料中における分析物の重量パーセントが得られる。
重量%=(質量
sample/質量
total sample)×100%
【0234】
各ビーズ配合物の重複試料を調製及び分析したため、各元素の重量パーセントの値は、2つの重複物の平均として報告される。これらの分析中に生成された放射性同位体のリスト、並びに、5つの分析物(Y、Sr、Ga、Ti、Mn)を同定及び定量するために使用された主要なガンマ線については、表70を参照のこと。
【0235】
【表70】
【0236】
Occlu90Y配合物についての適切な中性子線放射化パラメータを決定するため、5つの分析物(Y、Sr、Ga、Ti及びMn)の予想される濃度範囲を同定する目的でモル分率組成を重量パーセントに変換した(表71参照)。これらの5つの元素の放射性同位体が形成される速度を決定するために、これらの質量パーセントを用いて放射化収率の計算を行った。
【0237】
【表71】
【0238】
ストロンチウム約100mgの試料はわずかしか放射化せず、短寿命放射化生成物であるSr−85m及びSr−87m(表70参照)が検出可能であるためには、数分間の放射化時間が必要となる。また、ビーズ中のイットリウムの量はストロンチウムに比べて実質的に多いにもかかわらず、準安定なY−90mの形成をもたらす核反応の断面が小さいため、イットリウムを定量するには同様の放射線照射パラメータが必要とされた。
【0239】
所望の放射化生成物の量はまた、放射線照射時間を数十分に延長するか使用される試料の質量を増やすかによって増加させることができる一方、さらなる計算は、これにより生成されるガリウム放射性同位元素Ga−70及びGa−72の量は検出器が分析するには多すぎることを示している。結果として、最初の実験には600秒の放射線照射時間が選択され、続いてガンマ計数の開始前に短い遅延(25秒)が行われ、その間に、放射線照射システムから試料を物理的に取り除いて検出器の前に配置した。Sr−85m、Sr−87m及びY−90mについて、崩壊によりこれらの放射性同位体の重要な部分を失うことなく最も有効な計数統計を得るために、600秒という比較的長い計数時間が選択された。
【0240】
ビーズ配合物の1つであるOcclu90Y2.8の典型的なガンマ線スペクトルを、
図39に示す。このスペクトルは、176keV、610keV、630keV及び834keVでのGa−72線により支配されているが、マンガン及びチタンの単一光子放射もまた、それぞれ846keV及び320keVで容易に識別可能である。これらの3つの元素(Ga、Ti、Mn)は、これらのNAAパラメータ(600−25−600)に基づいて容易に定量された。
【0241】
このスペクトル(
図40)の低エネルギー領域をより詳細に見ると、Sr−85m(232keV)及びSr−87m(388.53keV)からのガンマ線放射を識別することができるが、前者の信号対雑音比は正確な量的データを生成するには低すぎる。そのため、ビーズ配合物中のストロンチウムの重量パーセントは、Sr−87mラインのみに基づいて計算した。その場合でも、ストロンチウムの質量の誤差は5〜10%程度であり得る。ビーズ配合物中のストロンチウム含有量は、ビーズのコア内放射線照射に続いて実施されるSr−85の514.0keVガンマ線放射(t
1/2=64.8日)を用いた長寿命中性子線放射化分析によって最もよく決定される。
【0242】
Y−90mガンマ線放射に基づくイットリウムの定量もまた、低質な計数統計(低い信号対雑音比)によって妨げられた。
図40を再び参照すると、予想されるY−90mガンマ線(202.5keV)の1つはベースライン中に完全に埋まっており、また、479.5keVは放射が識別可能であるが、スペクトルのベースライン中のこの小さな「突起」は、このスペクトル中におけるより強い放射についての鋭くはっきりしたライン形状を欠いている。さらに、このラインの総計数率に関連する誤差は、いくつかの試料では20%〜60%の範囲であった。このような大きな不確実性があると、このガンマ線放射に基づく分析は良くても半定量的になる。そのため、Y−90m放射性同位元素に基づいてビーズ配合物中のイットリウムの重量パーセントを決定することはできなかった。
【0243】
結果として、NAAパラメータの第2セットが選択され、この時間を非常に短寿命の準安定放射性同位体Y−89m(t
1/2=16秒)の定量に向けた。この同位体の収率は1分未満の放射線照射の後に最大に達するため、各試料には60秒間放射線照射し、さらに60秒間計数した。これは、放射性崩壊により全てのY−89mを失うことなく、良好な計数統計が生成されるのに十分な長さであった。このようにして処理したOcclu90Y2.8のガンマ線スペクトルを、
図41に示す。
図39と対照的に、顕著なY−89mピークが908.96keVにてはっきりと現れ、これによりビーズ配合物中のイットリウムの定量が可能になる。この短い放射線照射時間を使用することにより、Sr−85m、Sr−87m及びY−90mガンマ線放射が全く検出されないことに注目されたい。すなわち、ガリウム放射性同位元素によるガンマ線のみが、Y−89ピークに加えて存在している。したがって、2つの異なるパラメータセットを利用することにより、Occlu90Y設計空間#1及び#2における5つ全ての重要な分析物−イットリウム、ストロンチウム、ガリウム、チタン及びマンガン−が、短寿命中性子線放射化分析によって定量された。
【0244】
実施例8
コア内での中性子線照射:長寿命放射化生成物の同定及び定量
方法
各ビーズ試料の一部を石英管内に秤量し、続いて石英ウールで栓をした後、アルミニウム箔で包んだ。これらの試料のうち4つ−2つの重複した配合物Occlu90Y1.2及びOcclu90Y1.6が含まれる−を、参照物質である
酸化ストロンチウムの試料と共に、アルミニウム放射線照射カプセル内部に配置した。該カプセルには固有の識別子MNR159845を割り当て、該識別子は、冷間溶接、漏れ試験及び原子炉コアへの挿入を行う前にカプセルに刻印された。このカプセルに含まれる試料の完全なリストは、表72の「カプセル1」という見出しの下に列挙されている。
【0245】
5つの追加のビーズ配合物−2つの重複した配合物Occlu90Y1.4及びOcclu90Y1.7が含まれる−を含有する石英管を、別のカプセル内部に配置した。該カプセルには、刻印、冷間溶接及び漏れ試験を行う前に、名称MNR159846を割り当てた。このカプセルの内容物は、表72の「カプセル2」の見出しの下に列挙されている。
【0246】
積み重ねられたカプセルの長さにわたって均一な中性子線束分布を維持しつつ2つのカプセルが単一の放射線照射部位に挿入され得るため、この放射線照射中に経験した総中性子線束を確認するために必要なのは、単一の参照物質(カプセル1)試料のみである。カプセル1及び2は、2015年9月21日月曜日における稼働開始時にコア内位置2Aに挿入し、2015年10月9日金曜日の稼働終了時にこの部位から取り除いた。この期間には、平日及び2度の土曜日(9月26日と10月3日)に1日約14時間、原子炉を稼働した。カプセルは、10月26日月曜日に安全に回収可能になるまで、水中保管ラック内に保管された。残りの4つのビーズ試料を放射線照射のために同様の方法で調製し、参照物質である
酸化ストロンチウムの試料と共に放射線照射キャニスター内に配置した。このカプセルには、固有の識別子MNR159877を割り当てた。その内容物は、表72の「カプセル3」の見出しの下に列挙されている。
【0247】
【表72】
【0248】
コア位置2Aは、MNRにおける他のコア内放射線照射部位における中性子線束よりも、約50%高い中性子線束を経験している(3MWにおいて、1.6×10
13n/cm
2×秒と比較して、2.5×10
13n/cm
2×秒)。結果として、コア位置2Aは、高出力原子炉における条件を模倣しようとする放射線照射には好ましい部位である。しかしながら、単一の放射線照射部位内に第3のカプセルを挿入することは、3つのカプセルの長さにわたって不均一な中性子線束分布を生じさせることなしに行うことはできない。これには、3つの試料のそれぞれが経験する流束を概算すると共に得られた定量的データに不確実性を導入するための計算モデリングの使用が必要になることとなる。このことを回避するため、カプセル3を別のコア内位置(8B)内に挿入して、9月28日月曜日から10月9日金曜日まで、より低い中性子線束を照射した。カプセル1及び2を原子炉コア内から取り出した後、カプセル3をさらに2週間(10月13日火曜日〜10月24日土曜日)放射線照射するために部位2A内に配置し、その後11月9日月曜日まで水中に保存した。
【0249】
上記の日に各カプセルを開封し、アルミホイルで包まれた管を、換気フードを有する放射性同位体研究室へと輸送した。これらの試料を適切なシールドの後ろに配置して、ホイル及び石英ウールを廃棄した。さらなる分析のために、各試料を、予めラベル付けされたスナップ蓋付きの円筒状ポリエチレン製バイアル(5.5cm×1.8cm、h×d)に移した。
【0250】
全てのガンマ線発光スペクトルを、GMX30%効率、70mmエンドキャップ高純度ゲルマニウム(HPGe)検出器(ORTEC社製、テネシー州オークリッジ)を用いて記録した。試料は、検出器面(「位置9」)から32.5cmのところに配置した。合計16,383のエネルギーチャネルが使用され、エネルギーウィンドウは0〜2116keVに及んだ。スペクトルは、Windowsバージョン5.31のGammaVision(ORTEC社製、テネシー州オークリッジ、2001)を用いて記録し、Aptec MCA Application Version 7.04(Canberra社製、2002)を用いて分析した。60〜1408keVのエネルギー範囲にわたる検出器の効率は、Eu−152/154/155マルチガンマ線標準物質(MGS)ディスク源(Canberra社製)を用いて測定した。
【0251】
ビーズのストロンチウム含有量は、(既知質量の)ストロンチウム標準物質におけるSr−85の514.0keV放射の強度を該ビーズのガンマ線スペクトルにおける対応するラインと比較することにより定量された。標準物質のSr−85含量は、ユーロピウムMGS源を使用して作成した検出器効率曲線を用いて検証された。
【0252】
放射性核種不純物は、ガンマ線ラインに基づいて同定され、過去に生成した検出器効率曲線を用いて定量された。可能な限りにおいて、放射性同位体の同定は、予想される相対強度における少なくとも2つのガンマ線放射の存在によって確認された。この例外はSc−47、Cr−51、Zn−65、Sr−85及びCe−141であり、これらはすべて1つのガンマ線ラインしか有していない。
【0253】
安定な微量不純物及び超微量不純物は、観察された放射性同位体への最も妥当な生成経路に基づいて同定した。各放射性同位体の放射能強度はEOIまで崩壊補正され、各カプセルが経験する中性子線照射条件を正確に捕らえるため、一連の中性子線放射化方程式を質量について解き、合計した。カプセル1及び2内の試料については、稼動日数17日及び稼動電力の変更10回を考慮して27回の個別の放射化計算の結果を合計する必要があった。カプセル3内の試料については、稼働日数22日及び作動中の稼働電力の変更13回を考慮して35回の計算を用いた。これらの計算は、試料内に存在する安定な前駆体同位体の総質量を示した。この質量は、同位体の相対的な天然存在比を考慮して修正し、それによって存在する該化学元素の総質量を明らかにする。この最終工程は、ランタン、タンタル又はテルビウムについては必須ではない。それらの全ては、本質的にモノアイソトピックである。
【0254】
線量率の測定は、ベータスライドシールド(0.3mm厚、0.44mg/cm
2)を備えたVictoreen 451Bイオンチャンバーサーベイメータを用いて行った。各試料をその側部に配し、4度の読み取りを行った。2度はバイアルと接触させて(ビーズから約1.5cm)ベータスライドを交互に開閉させて行い、2度はバイアルの頂部から8.0cmの距離で(ビーズから約9.5cm)ベータスライドを交互に開閉させて行った。EOI後20日(カプセル1及び2)及び19日(カプセル3)において測定を記録した。この測定は、10%の範囲内で正確であると考えられる。
【0255】
3つのカプセルが経験した総中性子線暴露は、9月21日から10月24日までの間の正確な原子炉稼働時間及び電力を記録し、稼働時間にその電力でのその部位の中性子線束を掛けることによって決定された。例えば、カプセル3は、2.0MWで17.0時間稼働している間及び2.5MWで129.5時間稼働している間において、部位8Bにあった。その後、2.0MWで19.0時間、2.5MWで125.3時間、2Aにて放射線照射された。したがって、カプセル3が経験する総束は、以下の合計により与えられる。
【0256】
中性子線総暴露量=(17.0時間・3,600秒・1.07×10
13n/cm
2・秒)+(129.5時間・3,600秒・1.33×10
13n/cm
2・秒)+(19.0時間・3,600秒・1.67×10
13n/cm
2・秒)+(125.3時間・3,600秒・2.08×10
13n/cm
2×秒)
これは、放射線照射の持続時間にわたって合計すると、1.74×10
19n/cm
2になる。カプセル1及び2は、合計1.66×10
19n/cm
2、すなわちカプセル3よりも5%少ない量まで暴露された。このことは、カプセル1及び3に含まれる
酸化ストロンチウム参照物質中のSr−85の収率を定量することによって裏付けられた。
【0257】
これらの放射線照射によって生じた総中性子線曝露は、製造シナリオにおいて妥当に使用される放射線照射条件に容易に関連し得る。例えば、チョークリバー研究所のNational Research Universal(NRU)原子炉のような施設において中性子線束2.0×10
14n/cm
2×秒に曝された試料は、それぞれ23.1時間及び24.1時間、カプセル1/2及びカプセル3と同じ総中性子線暴露を経験することになる。したがって、本明細書で説明する中性子線照射から生じる放射性核種不純物プロファイルは、製造タイプのシナリオから取得される不純物プロファイルの現実的な概算値を提供する。
【0258】
ストロンチウム放射化分析
EOI後17〜20日で得られたビーズ試料のガンマ線スペクトルは、514keVでの強い放射が支配的であり、存在する主なガンマ線放射性同位体はストロンチウム−85(t
1/2=64.8日)であり、イットリウム−90は、ガンマ線分光法では検出不可能であることが注目される。Sr−84前駆体(0.56%)の天然存在比が低く、またその中性子線捕捉断面積が比較的小さい(0.87b)ものの、ビーズ配合物は1.7〜3.9%のストロンチウムを含有することが予想されていたことから、このことは予想外ではなかった。各試料中に存在するストロンチウムの質量は、その514keVガンマ線ラインの強度を
酸化ストロンチウム参照物質のスペクトル中の対応するラインと比較することによって決定した(表73参照)。
【0259】
実験的に決定されたストロンチウムの重量パーセントは、予想されたビーズの組成と十分に比較された。これは、以前に報告した短寿命中性子放射化の結果と一致しており、ガリウム、チタン、マンガン及びイットリウムの理論的に決定された量(実施例7)と実験的に決定された量との間の密接な相関関係を示している。2つの重複配合物Occlu90Y1.2及びOcclu90Y1.6のストロンチウム含有量は7%以内で一致し、さらにOcclu90Y1.4/Occlu90Y1.7のペア(3%未満)間にて観察されたより近い一致は、これらのビーズを製造するために使用されるプロセスにおいて良好な再現性を示した。
【0260】
【表73】
【0261】
主な放射性核種の不純物
Sr−85放射に加えて、4つの主要なラインが、13個のビーズ試料の全てにおけるガンマ線スペクトルに観察された(
図43及び表74参照)。後の日々において所与の試料について再計数すると、エネルギー強度の検出可能な減少のない同一のスペクトルが得られた。これにより、これらのラインを生成する放射性同位体は、半減期が1週間を十分に上回ることが示された。この情報及び該放射の相対強度に基づいて、これらのガンマ線放射は、スカンジウム46(t
1/2=83.4日)及びイットリウム88(t
1/2=106.7日)に明確に割り当てられた。
【0262】
【表74】
【0263】
核種の表を調査すると、スカンジウム46の唯一の妥当な前駆体が安定同位体スカンジウム−45であることが示された。スカンジウム及びイットリウムはいずれも第3族元素であり、多くの化学的性質を共有しているため、これは合理的であると思われた。スカンジウムは、ビーズを製造するために使用された酸化イットリウム中の微量不純物として存在していたと仮定された。しかしながら、ビーズ配合物のスカンジウム含量の定量的分析は、この仮説を裏付けるものではなかった(表75参照)。
【0264】
各試料中に存在するSc−46の放射能強度は、その889keVラインの毎秒の総計数に基づき、このエネルギーでの検出効率の知識と組み合わせて決定された。観察された放射能強度をカプセル1〜3が経験した条件下で生成するために必要な天然スカンジウム(100%Sc−45)の総質量を得るため、一連の中性子放射化方程式を質量について解き、合計した。次に、実験的に決定されたスカンジウムの各質量を対応するビーズ試料の質量で割ることにより、ビーズのスカンジウム含有量を百万分率(ppm)にて算出した。ストロンチウムの長寿命中性子放射化分析(LL NAA)の場合と同様に、スカンジウム含有量の合理的に近い一致が2組の重複配合物にて観察され、再び、Occlu90Y1.2/Occlu90Y1.6のペア間の一致がOcclu90Y1.4/Occlu90Y1.7間よりも近かったことが再現された。
【0265】
スカンジウム含有量とイットリウムの理論重量パーセントとの比較(表75)は、2つの元素の間における相関関係を示さなかった。また、経験上のスカンジウム含有量とガリウム又はストロンチウム含有量のいずれかとの間には、明らかな相関はなかった。しかしながら、スカンジウム含有量とビーズ中におけるケイ素の重量パーセントとの間には、緩やかな相関が検出された。
【0266】
配合物Occlu90Y2.3及びOcclu90Y2.8は、他の11個の試料より有意に高いスカンジウム含量を示した。Occlu90Y2.3と類似のケイ素含有量を備えた他のビーズ配合物とを比較すると、Occlu90Y2.3は、観測された0.60ppmではなく、0.20〜0.25ppmのスカンジウム含有量を有することが予想されるはずであった。同様に、Occlu90Y2.8は、0.44ppmではなく、0.26〜0.30ppmのスカンジウムを含むことが予想されるはずであった。この知見は、これらの2つの試料においてケイ素が唯一のスカンジウム源ではないことを示唆している。
【0267】
【表75】
【0268】
Occlu90Y2.3及びOcclu90Y2.8は、2つだけのチタンを含有するビーズ配合物である。さらに、「予想された」スカンジウム含有量と観察されたスカンジウム含有量との間における観察された差異は、これらの2つの配合物の相対的なチタン含有量に正比例する(Occlu90Y2.3:Δ=0.35−0.40ppm、Ti=4.17%。Occlu90Y2.8:Δ=0.14−0.18ppm,Ti=1.82%)。したがって、合理的には、Occlu90Y2.3及びOcclu90Y2.8を作製するために使用される二酸化チタンが、これら2つの配合物中におけるスカンジウム汚染物質の他の供給源であると結論付けられる。しかしながら、二酸化ケイ素は、相変わらず他の11個のビーズ試料中に見られる低レベルのスカンジウムの最も有力な供給源である。したがって、ビーズ製造プロセスにおいて超純粋なケイ素及び二酸化チタンを使用することにより、主要な放射性核種不純物Sc−46の量を減少させることが可能であると思われる。
【0269】
Sr−85及びSc−46に加えて、ビーズ試料のガンマ線スペクトルは、長寿命イットリウム同位体Y−88の存在を示した。この放射性同位体の生成をもたらす唯一の中性子ベースの核変換は、高速中性子誘導89Y(n、2n’)88Y反応である。イットリウムがY−88の供給源であるという結論は、表76に示すデータによって裏付けられている。表76は、イットリウム重量パーセントとビーズ1グラムあたりに存在するY−88の放射能強度との間の相関を示す。
【0270】
しかしながら、Y−88は化学的汚染物質によって生じるものではないため、より高純度の試薬を使用しても、この放射性核種不純物の量を減少させることはできない。しかし、89Y(n、2n’)88Y変換の断面を調査すると、この反応のエネルギー閾値が11.5MeVであることがわかる。これは、研究炉内に存在する典型的な熱中性子線のエネルギー(約0.025eV)より何桁も大きい。なおも高い中性子線エネルギーでは、反応断面積は0.0019b(En=11.7MeV)から1.2b(En=16.0MeV)へと指数関数的に増加する。したがって、Y−88の形成は、高熱中性子線束において製造照射を行うことによって、すなわち、高エネルギー中性子、特に12MeVより大きいエネルギーを有する中性子の部分が非常に少ない照射部位を使用することにより、最小限に抑えることができる。
【0271】
【表76】
【0272】
Y−88の形成は、放射線照射前に試料を鉛シートに包むことによって完全に排除することが可能であり得る。したがって、現在市販されているイットリウムベースのデバイスは少量のY−88を含有していると仮定され得る。この場合、既存のイットリウム90ベースの治療薬に匹敵する品質のビーズを製造するには、Y−88を完全に排除する必要はない。
【0273】
最後に、イットリウム88及びスカンジウム46はいずれも、ストロンチウム85に比べて極めて少量存在する(表74及び
図42及び43参照)。そのため、これらは半減期が長いにもかかわらず、Sr−85と同程度に速くバックグランドレベルまで減衰することとなる。これは、その高エネルギーガンマ線が患者又は傍観者のいずれかに対する線量率に悪影響を及ぼす場合にのみ、その存在が問題になることを示唆している。この決定を助けるために、13個のビーズ試料の全ての線量率を、ベータスライドシールドが有る場合と無い場合の両方において測定した。表77に示される結果データは、EOI後17〜20日(Y−90の7〜8半減期)でさえ、放射線場の大部分がγ線ではなくβ粒子によるものであることを示している。
【0274】
【表77】
【0275】
マイナー放射性核種不純物
Sc−46、Sr−85及びY−88に起因するはっきりとした5つのラインに加えて、ビーズ試料のいくつかのガンマ線スペクトルには、30本もの小さなラインが観察された。これらの排出のエネルギー及び相対強度を用いることによって、11の微量元素及び超微量元素の存在を同定した(表78参照)。各放射性同位体の検出限界(LOD)は、その特徴的なガンマ線放射の少なくとも1つについて、少なくとも3:1の信号対雑音比を生成するために必要な最小放射能強度として定義した。以下を含む多くの要因のため、検出限界は元素毎に大きく異なる。
・安定な前駆体同位体の天然存在比。
・その中性子捕獲断面積の大きさ。
・検出される放射性同位体の半減期。
・照射終了からガンマ線計数開始までの遅延時間。
・放射性同位体の特徴的なガンマ線ラインの相対強度。
・放射性同位体を明確に識別するために、副次的で比較的低強度のガンマ線ラインを検出する必要性。
・該エネルギーに干渉する任意の種の存在。
・該エネルギーにおける検出器の効率。
【0276】
各放射性同位体の定量限界(LOQ)は、その特徴的なガンマ線放射の少なくとも1つについて、信頼できる計数統計(誤差8%未満)を生成するのに必要な最小放射能強度として定義した。定量限界は本質的にLOD値に依存するが、ガンマ線スペクトルにわたって大きく変動し得るバックグラウンド計数率のような実用上の懸念によっても変動する。したがって、所与の放射性同位体についてのLODとLOQとの間の大きさの変動は、放射性同位体ごとに異なる。
【0277】
11の放射性同位体のそれぞれについてのLOD値及びLOQ値を一連の放射化収率方程式に入力し、この方程式を質量について解いて、LOD及びLOQ放射能強度を発生させるために必要である安定な前駆体同位体の量を明らかにした。これらの質量値を安定な前駆体同位体の相対的な天然存在比を考慮して修正し、親種の化学元素のLOD値及びLOQ値を生成した。これらの値は表8に示されている。表8には、それらの放射化生成物を定量するために使用される放射性同位体及び主要なガンマ線放射も共に示されている。La−140の短い半減期(t
1/2=40.3時間)のため、ランタンのLOD値及びLOQ値は、照射終了後に特定の試料を分析した時間に応じて変動する。
【0278】
【表78】
【0279】
表78に列挙される11個の化学元素のうち、ユウロピウム及びテルビウムのみが、13個のビーズ試料の全てにおいてLOQを超える量で存在していた放射性同位体を有している。さらに2つの元素−鉄及び亜鉛−は、試料の大半において正確に定量可能な放射性同位体を有している。放射性同位体の放射能強度は、前述のようにして存在する化学元素の総質量を計算するために用いた。続いて、ビーズ試料中のこれら4つの元素の濃度を決定した。ユウロピウム、鉄、テルビウム及び亜鉛の定量的データを表79に示す。これらのデータは、13個の各ビーズ配合物中の分析物の千分率(ppt、mg/g)又は百万分率(ppm、mg/g)にて表される。検出可能な(LODを超える)量ではないが定量可能な(LOQ未満の)量で存在する元素は、それらがLOD及びLOQ量で存在することにより生じることとなる濃度の範囲として示される。
【0280】
ビーズ中のユウロピウム、テルビウム、及び亜鉛の濃度は、全て非常に低い百万分率の範囲であり、先に同定されたスカンジウムの量(表5)と同等である。スカンジウムのデータとは対照的に、これらの3つの元素の濃度とビーズ配合物中の設計によって存在するバルク元素のいずれかの濃度との間には、明らかな相関はない(表1参照)。代わりに、これらの微量の不純物は、試料全体にわたってランダムな分布を有するように見える。これらの汚染物質の発生源を特定するためのさらなる分析は、表79中の値に関する有効数字の数が少ないために、妥当性が限定されている。
【0281】
【表79】
【0282】
ビーズ試料中において鉄の濃度がはるかに大きいことは、この元素のほとんど何処にでも存在する性質のため、全く驚くべきことではない。表79中の他の3つの元素と同様に、計算値の有効数字の数が限られているため、この汚染物質の潜在的な発生源に関してさらなる結論を引き出すのは得策でない。
【0283】
ビーズ試料中において、7つのさらなる元素すなわちセリウム(Ce)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ハフニウム(Hf)、イリジウム(Ir)、ランタン(La)及びタンタル(Ta)が検出された。多くの場合において、存在する放射性同位体の量は、検出限界及び定量限界の間に収まった。そのような場合については、値の範囲により示される。他の例では、所与の放射性同位体は、検査された試料の一部にしか検出できなかった。そのような試料中における分析物の濃度はLOD未満として掲載され、「X.XX未満」という表記で示される。数値データについては、表80を参照のこと。
【0284】
【表80】
【0285】
濃度として表される所定の元素の検出限界は、分析されている試料の質量によって変動することに注目されたい。例えば、タンタルの検出限界は0.32μgである(表78参照)。これは、カプセル1〜3と同じ中性子照射条件に曝されたどの試料にも該当する絶対値である。この数(0.32μg)をOcclu90Y1.1ビーズ試料(1.9964g)の質量で割ると、この特定の試料におけるタンタルの検出限界は0.17ppmであることがわかる。しかし、同じ質量のタンタル(0.32μg)をずっと小さなOcclu90Y1.11ビーズ試料(0.9456g)の質量で割ると、検出限界は0.34ppmとなる。
【0286】
ビーズ試料中に11個以上の化学汚染物質が存在すると、まずは警報の原因になるように思われるが、これらの元素及び放射性同位体が存在するレベルは、極めて低い。
図42におけるガンマ線スペクトルに戻って参照すると、y軸(総数)が全範囲で表示されている場合には、表78に列挙される放射性同位体を区別することはできない。
図44のように、Co−60(1,174keV)、Fe−59(1,099keV)及び他の放射性同位体のガンマ線放射が観測可能なのは、相当大きな倍率を用いた場合のみである。このことは、それらが本ビーズ配合物の臨床的特性にごくわずかな影響しか及ぼさないことを示唆している。
【0287】
この仮説をさらに探究するために、2組の「製造シナリオ」放射化収率計算を、2.0×10
14n/cm
2×秒の中性子束での24時間及び7日の照射時間を考慮して11個の異なるビーズ組成物に対して行った。これまでに報告した予測計算とは異なり、これらの計算は、ビーズのバルク化学成分(Ga、Y、Sr、Ti、Si)を無視し、その代わりに、経験的に決定された汚染物質濃度を用いることにより、照射終了時に予想される放射性核種不純物を半定量的に概算した。正確に定量可能な化学元素の不純物−すなわち、ユウロピウム、鉄、スカンジウム及びテルビウム−のみを考慮した。この研究の結果を、表81にまとめる。
【0288】
【表81】
【0289】
表80の値を、ガリウム及びストロンチウムのような元素の存在から予想される付随的な放射化生成物の量と比較すると、ビーズ配合物の放射性同位体プロファイルに対するそれらの全体的な寄与は無視できることが明らかになる。2つのビーズ試料Occlu90Y2.3及びOcclu90Y2.8は、少量の短寿命放射性スカンジウムSc−47(t
1/2=3.42日、E
γ=159.5keV)をも含有していたことに注目されたい。この同位体は高速中性子線反応
47Ti(n,p)
47Scから形成される。したがって、その同位体の存在は、これらの2つのビーズ配合物中にチタンを含めることによって説明される。高速中性子線放射化生成物の形成速度は、使用される照射部位の中性子線エネルギープロファイルに大きく依存するため、製造シナリオで生じるSc−47の量を追加の情報なしに予測することは不可能である。
【0290】
予想される汚染物質
ビーズ製造プロセスは、ビーズ自体に汚染物質を潜在的に導入し得る多数の物質の使用を伴う。これらの元素は、クロム、鉄、白金、ルテニウム、タングステン及びジルコニウムを含む。鉄は全てのビーズ試料(表79参照)において低い千分率レベルで存在することが判明したが、クロムは13個の試料のうち7個において同定された(表80参照)。しかしながら、他の予想される不純物(Pt、Ru、W、Zr)は観察されなかった。このことは、これらの元素が全く存在しないことを示すものではないが、これらの元素の存在が表82に示されている検出限界より低いという決定的な証拠である。
【0291】
【表82】
【0292】
白金は、
194Pt(n,γ)
195mPt反応(σ=0.09b)の小さい断面、及び、白金の特徴的なガンマ線放射の低い強度のため、検出限界が特に高い。また、タングステンの検出限界もかなり高い。これは、タングステンの半減期が短いこと、及び、ビーズ試料を安全にカプセル化することなく分析するために照射の終了後少なくとも2週間待機する必要があるためである。ビーズ試料は2日の期間にわたって計数されたため、タングステンのLODは範囲として表される。
【0293】
参考文献
N. Kilcup, E. Tonkopi, R.J. Abraham, D.Boyd, S. Kehoe. Composition-property relationships for radiopaque composite materials: pre-loaded drug-eluting beads for transarterial chemoembolization.(放射線不透過性複合物質についての組成−特性関係:動脈内化学塞栓術のために予めロードされた薬剤溶出ビーズ) Journal of Biomaterials Applications 30(1), 2015, 93-103. doi:10.1177/0885328215572196.