(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記駆動源トルク制御装置は、取得した前記駆動源トルクを、前記駆動源トルクが第2判定トルク以上となった時点からの時間について積分し、その積分値が判定値以上となった場合に、前記ショック抑制制御を開始することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の車両。
前記駆動源トルク制御装置は、前記駆動源と前記駆動輪との間で動力を伝達できない状態を検出可能であって、前記ショック抑制制御を開始後、前記駆動源と前記駆動輪との間で動力を伝達できない状態が検出された場合に、前記ショック抑制制御を終了することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の車両。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明者は、特許文献1のように、検出された入力軸と出力軸との相対回転角度に基づいて、入力軸または出力軸が加減速される制御について詳細に検討してみた。すると、車両にショックが発生する場合があることがわかった。
【0007】
本発明は、駆動源と駆動輪との間の動力伝達経路中に複数の動力伝達部材を有する車両において、車両のショックの発生をより確実に抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者は、特許文献1のように、検出された入力軸と出力軸との相対回転角度に基づいて、入力軸または出力軸を加減速させる技術を詳細に検討してみた。すると、エンジン回転速度が速いときに、車両にショックが発生する場合があることがわかった。より詳細に検討した結果、検出された入力軸と出力軸との相対回転角度に基づいて制御しているため、車両にショックが発生していると考えた。
【0009】
特許文献1では、検出された入力軸と出力軸との相対回転角度の絶対値が所定の閾値を超えたときに、入力軸または出力軸の加減速制御が開始される。つまり、実際に入力軸と出力軸との相対回転角度の絶対値が閾値を超える状況になるまで、加減速制御が実行されない。また、入力軸は、動力伝達経路においてクランク軸より駆動輪に近い位置に配置される。よって、入力軸の回転速度の変化は、クランク軸の回転速度(つまり、エンジン回転速度)の変化に対して遅れて生じる。そのため、実際に入力軸と出力軸との相対回転角度の絶対値が閾値を超える状況になってから加減速制御を行っても、加減速制御がショックの発生の抑制に間に合わない場合がある。
加減速制御をより早く実行するには、閾値を小さくすることが考えられる。しかし、制御の精度を確保するためには、閾値を小さくすることには限界がある。また、たとえ閾値を小さくしても、入力軸と出力軸との相対回転角度の絶対値が閾値を超えたことを検出してから加減速制御を開始するため、加減速制御が車両のショックの発生の抑制に間に合わない場合がある。
【0010】
そこで、本願発明者は、動力伝達経路中の2つの軸の相対回転角度の絶対値が閾値を超えたことを検出してから、車両のショックの発生を抑制する制御を開始するのではなく、以下の技術的思想を思いついた。その技術的思想とは、動力伝達経路中の2つの軸の相対回転角度の絶対値が閾値を超えるような状況の予兆を検出した場合に、ショックの発生を抑制する制御を開始するというものである。つまり、所定の大きさの相対回転角度を検出するより前に、車両のショックが発生しうる状況を検出する。それにより、所定の大きさの相対回転角度を検出してからショックの発生を抑制する制御を開始する場合よりも早くショックの発生を抑制する制御を開始できる。
【0011】
また、本願発明者は、駆動源で発生する駆動源トルクから、動力伝達経路において隣り合う2つの動力伝達部材の相対移動の方向を判別できることに気付いた。また、本願発明者は、駆動源トルクから動力伝達部材の相対移動の動向を把握することで、動力伝達経路中の2つの軸の所定の大きさの相対回転角度を検出するより前に、車両のショックが発生しうる状況を検出できることに気付いた。
これらから、本願発明者は、動力伝達経路中の2つの軸の所定の大きさの相対回転角度を検出するより前に、駆動源トルクに基づいて車両のショックが発生しうる状況を検出して、車両のショックの発生を抑制する制御を開始することを思いついた。
【0012】
<1>本発明の車両は、駆動源と、駆動輪と、前記駆動源と前記駆動輪との間で動力を伝達する動力伝達経路に設けられる複数の動力伝達部材と、前記駆動源で発生する駆動源トルクを制御する駆動源トルク制御装置とを含む車両である。前記駆動源トルク制御装置は、前記駆動源トルクを取得可能であり、前記駆動輪を加速させるために前記駆動源トルクを制御する場合に、前記動力伝達経路にある前記複数の動力伝達部材の間の遊びが減少しているときの前記複数の動力伝達部材の間の相対速度の絶対値、および、前記動力伝達経路に前記複数の動力伝達部材の間の遊びが無くなったときに前記複数の動力伝達部材の間で伝達される伝達トルクの少なくとも一方が減少するように、取得した前記駆動源トルクに基づいて前記駆動源トルクを制御するショック抑制制御を行い、前記動力伝達経路に前記複数の動力伝達部材の間の遊びが無くなったときに生じる車両のショックを抑制することを特徴とする。
【0013】
この構成によると、車両は、駆動源と、駆動輪を有する。また、車両は、駆動源と駆動輪との間で動力を伝達する動力伝達経路に設けられた複数の動力伝達部材を有する。複数の動力伝達部材の間には遊びが設けられる。そのため、駆動輪を加速させようとする場合、加速用の動力伝達経路において、複数の動力伝達部材の間の遊びが徐々に減少する。この遊びが無くなってから、複数の動力伝達部材の間でトルクが伝達されて、駆動輪が加速し始める。
【0014】
車両は、駆動源で発生する駆動源トルクを制御する駆動源トルク制御装置を有する。駆動源トルク制御装置は、駆動源トルクを取得する。駆動源トルク制御装置は、駆動源トルクを推定することで取得してもよく、センサによって駆動源トルクを検出してもよい。駆動源トルク制御装置は、駆動輪を加速させるために駆動源トルクを制御する場合に、動力伝達経路にある複数の動力伝達部材の間の遊びが減少しているときの複数の動力伝達部材の間の相対速度の絶対値、および、動力伝達経路に複数の動力伝達部材の間の遊びが無くなったときに複数の動力伝達部材の間で伝達される伝達トルクの少なくとも一方が減少するように、取得した駆動源トルクに基づいて駆動源トルクを制御するショック抑制制御を行う。複数の動力伝達部材の間の遊びが減少しているときの複数の動力伝達部材の間の相対速度の絶対値が小さいことにより、動力伝達経路に複数の動力伝達部材の間の遊びが無くなったときに生じる車両のショックが抑制される。複数の動力伝達部材の間の遊びが無くなったときに複数の動力伝達部材の間で伝達される伝達トルクが小さいことにより、動力伝達経路に複数の動力伝達部材の間の遊びが無くなったときに生じる車両のショックが抑制される。このように、ショック抑制制御により、動力伝達経路に複数の動力伝達部材の間の遊びが無くなったときに生じる車両のショックが抑制される。
【0015】
このように、駆動源トルク制御装置は、駆動源トルクに基づいて、ショックの発生を抑制するショック抑制制御を行う。駆動源トルクを使うことで、複数の動力伝達部材の相対移動の方向を判別できる。よって、駆動源トルクから複数の動力伝達部材の相対移動の動向を把握することで、相対回転角度や相対回転速度を検出しなくても、車両のショックが発生しうる状況を検出できる。また、駆動源トルクから複数の動力伝達部材の相対移動の動向を把握することで、相対回転角度や相対回転速度を検出するより前に、車両のショックが発生しうる状況を検出できる。よって、本発明の駆動源トルク制御装置は、相対回転角度や相対回転速度を検出してから、車両のショックの発生を抑制する制御を開始する場合に比べて、より早くショックの発生を抑制する制御を開始することができる。その結果、車両のショックの発生をより確実に抑制できる。
【0016】
<2>本発明の1つの観点によると、本発明の車両は、以下の構成を有することが好ましい。
前記駆動源トルク制御装置は、取得した前記駆動源トルクに基づいて、前記ショック抑制制御を開始するタイミングを決定する。
【0017】
この構成により、相対回転角度や相対回転速度を検出してから、車両のショックの発生を抑制する制御を開始する場合に比べて、より早くショックの発生を抑制する制御を開始することができる。
【0018】
<3>本発明の1つの観点によると、本発明の車両は、以下の構成を有することが好ましい。
前記駆動源トルク制御装置は、前記駆動源トルクを推定することによって前記駆動源トルクを取得する。
【0019】
この構成によると、駆動源トルクを取得するために駆動源トルクを検出するセンサを設ける必要がない。
【0020】
<4>本発明の1つの観点によると、本発明の車両は、上述の<3>の構成に加えて、以下の構成を有することが好ましい。
前記駆動源が、燃焼室を有するエンジン部である。車両は、エンジン回転速度を検出するエンジン回転速度センサと、前記燃焼室に供給される空気の量を調整するスロットル弁と、前記スロットル弁の開度を検出するスロットルセンサと、を有する。前記駆動源トルク制御装置は、前記スロットルセンサの信号と前記エンジン回転速度センサの信号に基づいて、前記駆動源トルクを推定する。
【0021】
この構成によると、駆動源トルク制御装置は、スロットルセンサの信号とエンジン回転速度センサの信号に基づいて、駆動源トルクを推定する。そのため、駆動源トルクを比較的精度良く推定することができる。よって、車両のショックの発生をより確実に抑制できる。また、一般的な車両は、スロットルセンサとエンジン回転速度センサを有する。そのため、車両が一般的に有するセンサを使って、駆動源トルクを推定できる。つまり、ショック抑制制御のために新たなセンサを設ける必要がない。
【0022】
<5>本発明の1つの観点によると、本発明の車両は、上述の<3>の構成に加えて、以下の構成を有することが好ましい。
前記駆動源が、燃焼室を有するエンジン部である。車両は、エンジン回転速度を検出するエンジン回転速度センサと、前記燃焼室に供給される空気の量を調整するスロットル弁と、前記スロットル弁の開度を変更するために運転者によって操作されるアクセル操作子と、前記アクセル操作子の操作量を検出するアクセルセンサと、を有する。前記駆動源トルク制御装置は、前記アクセルセンサの信号と前記エンジン回転速度センサの信号に基づいて、前記駆動源トルクを推定する。
【0023】
この構成によると、駆動源トルク制御装置は、アクセルセンサの信号とエンジン回転速度センサの信号に基づいて、駆動源トルクを推定する。スロットル弁の開度は、アクセルセンサが検出したアクセル操作子の操作量に基づいて変更される。したがって、アクセルセンサの信号に基づいて駆動源トルクを推定することにより、実際の駆動源トルクが変化するより前にその変化を把握できる。よって、車両のショックが発生しうる状況をより早く検出できる。よって、車両のショックの発生をより確実に抑制できる。また、一般的な車両は、アクセルセンサを有する場合がある。その場合、車両が一般的に有するセンサを使って、駆動源トルクを推定できる。つまり、ショック抑制制御のために新たなセンサを設ける必要がない。
【0024】
<6>本発明の1つの観点によると、本発明の車両は、上述の<4>または<5>の構成に加えて、以下の構成を有することが好ましい。
前記エンジン部は、前記燃焼室内の燃料と空気との混合気に点火する点火装置を有する。前記駆動源トルク制御装置は、前記スロットルセンサまたは前記アクセルセンサの信号と前記エンジン回転速度センサの信号と前記点火装置の点火時期とに基づいて、前記駆動源トルクを推定する。
【0025】
この構成によると、駆動源トルク制御装置は、スロットルセンサまたはアクセルセンサの信号とエンジン回転速度センサの信号と点火装置の点火時期に基づいて、駆動源トルクを推定する。そのため、駆動源トルクの推定に、スロットルセンサまたはアクセルセンサの信号とエンジン回転速度センサの信号を使用して点火時期を使用しない場合に比べて、駆動源トルクをより精度良く推定することができる。よって、車両のショックの発生をより一層確実に抑制できる。
【0026】
<7>本発明の1つの観点によると、本発明の車両は、以下の構成を有することが好ましい。
前記駆動源トルク制御装置は、前記ショック抑制制御において、前記駆動輪を加速させるために前記駆動源トルクを制御する場合に、前記動力伝達経路にある前記複数の動力伝達部材の間の遊びが減少しているときの前記複数の動力伝達部材の間の前記相対速度の絶対値、および、前記動力伝達経路に前記複数の動力伝達部材の間の遊びが無くなったときに前記複数の動力伝達部材の間で伝達される前記伝達トルクの少なくとも一方が減少するように、前記駆動源トルクを減少させてから増大させる。
【0027】
この構成によると、駆動源トルクを一旦減少させてから増大させることで、ショック抑制制御を行わない場合に比べて、駆動源トルクを増加させつつ、駆動トルクを抑えることができる。それにより、動力伝達経路にある複数の動力伝達部材の間の遊びが減少するときの複数の動力伝達部材の間の相対速度の絶対値、および、動力伝達経路に複数の動力伝達部材の間の遊びが無くなったときに複数の動力伝達部材の間で伝達される伝達トルクの少なくとも一方が小さくなる。それにより、複数の動力伝達部材の間の遊びが無くなったときのショックが抑制される。
【0028】
<8>本発明の1つの観点によると、本発明の車両は、以下の構成を有することが好ましい。
前記駆動源トルク制御装置は、取得した前記駆動源トルクが第1判定トルク以上となった場合に、前記ショック抑制制御を開始する。
【0029】
駆動輪を減速状態から加速状態に変化するとき、駆動源トルクは増加する。駆動源トルクが増加中であってもその値が小さければ、動力伝達部材同士の接触によるショックが発生しない場合がある。駆動源トルク制御装置は、取得した駆動源トルクが第1判定トルク以上となったか否か判断する。これにより、車両のショックが発生しうる状況であることを精度良く検出できる。そして、駆動源トルク制御装置は、駆動源トルクが第1判定トルク以上となった場合に、ショック抑制制御を行う。そのため、車両のショックが発生しない状況にも関わらずショック抑制制御を行うことをより確実に防止できる。
【0030】
<9>本発明の1つの観点によると、本発明の車両は、以下の構成を有することが好ましい。
前記駆動源トルク制御装置は、取得した前記駆動源トルクを、前記駆動源トルクが第2判定トルク以上となった時点からの時間について積分し、その積分値が判定値以上となった場合に、前記ショック抑制制御を開始する。
【0031】
駆動源トルク制御装置が取得した駆動源トルクが第2判定トルク以上となった時点を、基準時とする。駆動源トルク制御装置は、取得した駆動源トルクを、基準時からの時間について積分する。そして、駆動源トルク制御装置は、その積分値が判定値以上となったか否か判定する。これにより、車両のショックが発生しうる状況であることをより精度良く検出できる。そして、駆動源トルク制御装置は、この積分値が判定値以上となった場合に、ショック抑制制御を行う。そのため、車両のショックが発生しない状況にも関わらずショック抑制制御を行うことをより確実に防止できる。
【0032】
<10>本発明の1つの観点によると、本発明の車両は、以下の構成を有することが好ましい。
前記駆動源トルク制御装置は、経過時間に基づいて、前記ショック抑制制御を終了するタイミングを決定する。
【0033】
この構成によると、駆動源トルク制御装置は、経過時間に基づいてショック抑制制御を終了するタイミングを決定する。具体的には、例えば、ショック抑制制御を開始してからの経過時間に基づいて、ショック抑制制御を終了するタイミングを決定してもよい。また、例えば、ショック抑制制御の開始後、取得した駆動源トルクが所定値以上となった時点からの経過時間に基づいて、ショック抑制制御を終了するタイミングを決定してもよい。ショック抑制制御の開始後、ある程度の時間が経過すれば、複数の動力伝達部材の間で動力が伝達されていると推定できる。そのため、経過時間に基づいてショック抑制制御を終了するタイミングを決定することで、動力伝達部材同士が接触するときに確実にショック抑制制御を行うことができる。また、ショック抑制制御が無駄に長くなるのを防止できる。
【0034】
<11>本発明の1つの観点によると、本発明の車両は、以下の構成を有することが好ましい。
車両は、前記駆動源の回転速度を検出する駆動源回転速度センサを有する。前記駆動源トルク制御装置は、前記ショック抑制制御を開始後、前記駆動源回転速度センサの信号に基づいて、前記ショック抑制制御を終了するタイミングを決定する。
【0035】
この構成によると、駆動源トルク制御装置は、駆動源の回転速度を検出する駆動源回転速度センサの信号に基づいてショック抑制制御を終了するタイミングを決定する。加速用の動力伝達経路に複数の動力伝達部材の遊びが無くなるまでは、駆動源の回転速度が増加する場合がある。加速用の動力伝達経路に複数の動力伝達部材の遊びが無くなった後、駆動源の回転速度が一時的に減少する場合がある。
これらの現象を利用することで、ショック抑制制御を終了するタイミングを決定できる。よって、駆動源の回転速度に基づいてショック抑制制御を終了するタイミングを決定することで、動力伝達部材同士が接触するときに確実にショック抑制制御を行うことができる。また、ショック抑制制御が無駄に長くなるのを防止できる。
【0036】
<12>本発明の1つの観点によると、本発明の車両は、以下の構成を有することが好ましい。
車両は、前記動力伝達経路に設けられた入力軸と、前記動力伝達経路において前記入力軸と前記駆動輪との間に設けられた出力軸とを含む。前記駆動源トルク制御装置は、前記入力軸と前記出力軸との相対回転角度を検出可能であって、前記ショック抑制制御を開始後、検出した前記入力軸と前記出力軸との相対回転角度に基づいて前記ショック抑制制御を終了するタイミングを決定する。
【0037】
この構成によると、駆動源トルク制御装置は、動力伝達機構の入力軸と出力軸の相対回転角度を検出する。駆動源トルク制御装置は、検出した入力軸と出力軸の相対回転角度に基づいて、ショック抑制制御を終了するタイミングを決定する。駆動輪が減速状態から加速状態に変化するとき、入力軸と出力軸の相対回転角度が変化する。入力軸と出力軸の相対回転角度から、複数の動力伝達部材の間で動力が伝達されている状態か否かを推定できる。そのため、入力軸と出力軸の相対回転角度に基づいてショック抑制制御を終了するタイミングを決定することで、動力伝達部材同士が接触するときに確実にショック抑制制御を行うことができる。また、ショック抑制制御が無駄に長くなるのを防止できる。
【0038】
<13>本発明の1つの観点によると、本発明の車両は、以下の構成を有することが好ましい。
前記駆動源トルク制御装置は、前記駆動源と前記駆動輪との間で動力を伝達できない状態を検出可能であって、前記ショック抑制制御を開始後、前記駆動源と前記駆動輪との間で動力を伝達できない状態が検出された場合に、前記ショック抑制制御を終了する。
【0039】
この構成によると、駆動源トルク制御装置は、駆動源と駆動輪との間で動力を伝達できない状態を検出可能である。駆動源と駆動輪との間で動力を伝達できない状況とは、例えば、変速機のギヤ位置を変更するためにクラッチを切断状態にした場合等である。駆動源と駆動輪との間で動力を伝達できない状況では、動力伝達部材同士が接触しても大きなショックが起こりにくい。そのため、ショック抑制制御が必要でない。駆動源トルク制御装置は、駆動源と駆動輪との間で動力を伝達できない状態が検出された場合にショック抑制制御を終了する。そのため、ショック抑制制御が無駄に長くなるのを防止できる。
【0040】
<14>本発明の1つの観点によると、本発明の車両は、以下の構成を有することが好ましい。
前記駆動源が、燃焼室を有するエンジン部である。車両は、複数のギヤ位置を選択可能に有する変速機を含む。前記駆動源トルク制御装置は、前記変速機の現在のギヤ位置を取得可能であって、前記変速機の前記ギヤ位置を変更する要求があった場合、または、前記変速機の前記ギヤ位置の変更が検出された場合、前記ショック抑制制御を終了する。
【0041】
変速機のギヤ位置が変更されると、動力伝達経路、および、動力伝達経路中の動力伝達部材が変更される場合がある。そのため、ギヤ位置が変更される前に行っていたショック抑制制御を継続しても、変更後の動力伝達経路中の動力伝達部材同士の接触によるショックを抑制できない場合がある。もしくは、ショック抑制制御を行わなくても、変更後の動力伝達経路中の動力伝達部材同士の接触によるショックが起こらない場合がある。駆動源トルク制御装置は、変速機のギヤ位置を変更する要求があった場合、または、変速機のギヤ位置の変更が検出された場合、ショック抑制制御を終了する。そのため、ショック抑制制御が無駄になるのを防止できる。
【0042】
<15>本発明の1つの観点によると、本発明の車両は、以下の構成を有することが好ましい。
前記駆動源が、燃焼室を有するエンジン部である。車両は、前記動力伝達経路に設けられた入力軸、および、前記動力伝達経路において前記入力軸と前記駆動輪との間に設けられた出力軸を含むと共に、前記出力軸の回転速度に対する前記入力軸の回転速度の比が互いに異なる複数のギヤ位置を選択可能に有する変速機を含む。前記駆動源トルク制御装置は、前記出力軸の回転速度に対する前記入力軸の回転速度の比が大きくなるように前記ギヤ位置を変更した場合に前記駆動源トルクを一時的に増加させるブリッピング操作が実行されたか否か判定し、前記ブリッピング操作が実行されたと判定した場合に、前記ショック抑制制御を行わない。
【0043】
出力軸の回転速度に対する入力軸の回転速度の比が大きくなるようにギヤ位置を変更することを、シフトダウンという。ブリッピング操作は、シフトダウンをスムーズに行うために、シフトダウン中に駆動源トルクを一時的に増加させる操作である。ブリッピング操作の際にショック抑制制御を行うと、ブリッピング操作によって増加するはずの駆動源トルクが増加しなくなる。そのため、ブリッピング操作によるスムーズなシフトダウンが得られなくなる恐れがある。駆動源トルク制御装置は、ブリッピング操作が実行されたと判定された場合に、ショック抑制制御を行わない。そのため、ブリッピング操作によるスムーズなシフトダウンが得られる。
【0044】
<16>本発明の1つの観点によると、本発明の車両は、以下の構成を有することが好ましい。
前記駆動源トルク制御装置は、前記駆動源トルクを検出する駆動源トルクセンサを含む。
【0045】
この構成によると、駆動源トルク制御装置は、駆動源トルクを推定する場合に比べて、より精度良くトルクを取得できる。
【0046】
<用語の定義>
本発明において「ショック」とは、物理的な単発的な振動を意味する。言い換えると、連続的ではない振動を意味する。また、「ショック」レベルは、乗員が不快に感じるレベルである。
【0047】
本発明において、「駆動輪を加速させるために駆動源トルクを制御する場合」に、「動力伝達経路にある複数の動力伝達部材の間の遊びが減少している」とは、駆動輪を加速させるための動力伝達経路において、複数の動力伝達部材の間の遊びが減少している状態をいう。本発明において、「駆動輪を加速させるために駆動源トルクを制御する場合に」「動力伝達経路に複数の動力伝達部材の間の遊びが無くなったとき」とは、駆動輪を加速させるための動力伝達経路において、複数の動力伝達部材の間の遊びが無くなった状態をいう。
【0048】
本発明において、「複数の動力伝達部材の相対速度」とは、2つの動力伝達部材の間の相対速度である。2つの動力伝達部材のうち動力伝達経路において駆動源に近い方の動力伝達部材に対する他方の動力伝達部材の相対速度であってもよく、その逆であってもよい。いずれの場合でも、「複数の動力伝達部材の相対速度の絶対値」は同じ値である。
【0049】
本発明において、「駆動輪を加速させるために駆動源トルクを制御する場合」に、「動力伝達経路に複数の動力伝達部材の間の遊びが無くなったときに複数の動力伝達部材の間で伝達される伝達トルク」は、常に正のトルクである。より詳細には、2つの動力伝達部材のうち動力伝達経路において駆動源に近い方の動力伝達部材から他方の動力伝達部材に正の伝達トルクが伝達される。
【0050】
本発明において、「動力伝達経路にある複数の動力伝達部材の間の遊びが減少しているときの複数の動力伝達部材の間の相対速度の絶対値が減少する」とは、ショック抑制制御を行わない場合に比べて、動力伝達経路にある複数の動力伝達部材の間の遊びが減少しているときの複数の動力伝達部材の間の相対速度の絶対値が減少することを意味する。本発明において、「動力伝達経路に複数の動力伝達部材の間の遊びが無くなったときに複数の動力伝達部材の間で伝達される伝達トルクが減少する」とは、ショック抑制制御を行わない場合に比べて、動力伝達経路に複数の動力伝達部材の間の遊びが無くなったときに複数の動力伝達部材の間で伝達される伝達トルクが減少することを意味する。
【0051】
本発明において、「駆動源と駆動輪との間で動力を伝達できない状態」とは、例えば、変速機がニュートラル状態の場合やクラッチが切断状態の場合などを指す。
【0052】
本発明において、「駆動源トルクが第1判定トルク以上となる」とは、駆動源トルクが第1判定トルク未満の状態から上昇して第1判定トルク以上になることを指す。この定義は、「駆動源トルクが第2判定トルク以上となった時点」という表現にも適用される。
【0053】
本明細書において、「Aに基づいて」、何かを行う(例えば制御する)とは、Aだけを使用してもよく、AとA以外を使用してもよい。
【0054】
本明細書において、ある部品の端部とは、部品の端とその近傍部とを合わせた部分を意味する。
【0055】
本明細書において、回転可能であるとは、特に限定しない限り360°以上回転可能なことを意味する。揺動可能であるとは、特に限定しない限り360°未満回転可能なことを意味する。回転するとは、360°回転する場合と360°未満しか回転しない場合の両方を含む。
【0056】
本明細書において、AとBがX方向に並ぶとは、以下の状態を指す。X方向と直交するいずれの方向からAとBを見た場合であっても、X方向を示す任意の直線または曲線がAとBの両方を通る。また、A全体がBとX方向に並ぶとは、A全体がBとX方向に向かい合っていることを指す。つまり、X方向に見て、A全体がBと重なる状態を指す。全体を一部に言い換えてもよい。なお、AとBは、接触していてもよい。また、AとBは、離れていてもよい。AとBの間に、Cが存在していてもよい。
【0057】
本明細書において、AがBより前方にあるとは、以下の状態を指す。Aが、Bの最前端を通り前後方向に直交する平面の前方にある。AとBは、前後方向に並んでいてもよく、並んでいなくてもよい。なお、AがBより後方にある、AがBより上方または下方にある、AがBより右方または左方にあるという表現にも、同様の定義が適用される。
【0058】
本明細書において、複数の選択肢のうちの少なくとも1つ(一方)とは、複数の選択肢から考えられる全ての組み合わせを含む。複数の選択肢のうちの少なくとも1つ(一方)とは、複数の選択肢のいずれか1つであってもよく、複数の選択肢の全てであってもよい。例えば、AとBとCの少なくとも1つとは、Aのみであってもよく、Bのみであってもよく、Cのみであってもよく、AとBであってもよく、AとCであってもよく、BとCであってもよく、AとBとCであってもよい。
【0059】
特許請求の範囲において、ある構成要素の数を明確に特定しておらず、英語に翻訳された場合に単数で表示される場合、本発明は、この構成要素を、複数有してもよい。また本発明は、この構成要素を1つだけ有してもよい。
【0060】
本発明において、含む(including)、有する(comprising)、備える(having)およびこれらの派生語は、列挙されたアイテム及びその等価物に加えて追加的アイテムをも包含することが意図されて用いられている。
本発明において、取り付けられた(mounted)、接続された(connected)、結合された(coupled)、支持された(supported)という用語は、広義に用いられている。具体的には、直接的な取付、接続、結合、支持だけでなく、間接的な取付、接続、結合および支持も含む。さらに、接続された(connected)および結合された(coupled)は、物理的又は機械的な接続/結合に限られない。それらは、直接的なまたは間接的な電気的接続/結合も含む。
【0061】
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての用語(技術用語および科学用語を含む)は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。一般的に使用される辞書に定義された用語のような用語は、関連する技術および本開示の文脈における意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、理想化されたまたは過度に形式的な意味で解釈されることはない。
【0062】
本明細書において、「好ましい」という用語は非排他的なものである。「好ましい」は、「好ましいがこれに限定されるものではない」ということを意味する。本明細書において、「好ましい」と記載された構成は、少なくとも、請求項1の構成により得られる上記効果を奏する。また、本明細書において、「してもよい」という用語は非排他的なものである。「してもよい」は、「してもよいがこれに限定されるものではない」という意味である。本明細書において、「してもよい」と記載された構成は、少なくとも、請求項1の構成により得られる上記効果を奏する。
【0063】
本発明では、上述した好ましい構成を互いに組み合わせることを制限しない。本発明の実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、以下の説明に記載されたまたは図面に図示された構成要素の構成および配置の詳細に制限されないことが理解されるべきである。本発明は、後述する実施形態以外の実施形態でも可能である。本発明は、後述する実施形態に様々な変更を加えた実施形態でも可能である。また、本発明は、後述する変更例を適宜組み合わせて実施することができる。
【発明の効果】
【0064】
以上のように、本発明によると、駆動源と駆動輪との間の動力伝達経路中に複数の動力伝達部材を有する車両において、車両のショックの発生をより確実に抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0066】
<本発明の実施形態>
以下、本発明の実施形態の車両1について
図1を参照しつつ説明する。
車両1は、駆動源20Aと、駆動輪3を有する。また、車両1は、駆動源20Aと駆動輪3との間で動力を伝達する動力伝達経路60pに設けられた複数の動力伝達部材61、62を有する。動力伝達経路60pには、動力伝達部材61、62以外の動力伝達部材も配置される。複数の動力伝達部材61、62の間には遊びが設けられる。そのため、駆動輪3を加速させようとする場合、加速用の動力伝達経路60pにおいて、複数の動力伝達部材61、62の間の遊びG1が徐々に減少する。この遊びG1が無くなってから、複数の動力伝達部材61、62の間でトルクが伝達されて、駆動輪3が加速し始める。
【0067】
車両1は、駆動源20Aで発生する駆動源トルクを制御する駆動源トルク制御装置91を有する。駆動源トルク制御装置91は、駆動源トルクを取得する。駆動源トルク制御装置91は、駆動源トルクを推定することで取得してもよく、センサによって駆動源トルクを検出してもよい。駆動源トルク制御装置91は、駆動輪3を加速させるために駆動源トルクを制御する場合に、動力伝達経路60pにある複数の動力伝達部材61、62の間の遊びG1が減少しているときの複数の動力伝達部材61、62の間の相対速度の絶対値、および、動力伝達経路60pに複数の動力伝達部材61、62の間の遊びG1が無くなったときに複数の動力伝達部材61、62の間で伝達される伝達トルクの少なくとも一方が減少するように、取得した駆動源トルクに基づいて駆動源トルクを制御するショック抑制制御を行う。複数の動力伝達部材61、62の間の遊びが減少しているときの複数の動力伝達部材61、62の間の相対速度の絶対値が小さいことにより、動力伝達経路60pに複数の動力伝達部材61、62の間の遊びが無くなったときに生じる車両1のショックが抑制される。複数の動力伝達部材61、62の間の遊びが無くなったときに複数の動力伝達部材61、62の間で伝達される伝達トルクが小さいことにより、動力伝達経路60pに複数の動力伝達部材61、62の間の遊びが無くなったときに生じる車両1のショックが抑制される。このように、ショック抑制制御により、動力伝達経路60pに複数の動力伝達部材61、62の間の遊びG1が無くなったときに生じる車両1のショックが抑制される。
【0068】
このように、駆動源トルク制御装置91は、駆動源トルクに基づいて、ショックの発生を抑制するショック抑制制御を行う。駆動源トルクを使うことで、複数の動力伝達部材61、62の相対移動の方向を判別できる。よって、駆動源トルクから複数の動力伝達部材61、62の相対移動の動向を把握することで、相対回転角度や相対回転速度を検出しなくても、車両1のショックが発生しうる状況を検出できる。また、駆動源トルクから複数の動力伝達部材61、62の相対移動の動向を把握することで、相対回転角度や相対回転速度を検出するより前に、車両1のショックが発生しうる状況を検出できる。よって、本発明の駆動源トルク制御装置91は、相対回転角度や相対回転速度を検出してから、車両1のショックの発生を抑制する制御を行う場合に比べて、より早くショックの発生を抑制する制御を開始することができる。その結果、車両1のショックの発生をより確実に抑制できる。
【0069】
<本発明の実施形態の具体例>
次に、上述した本発明の実施形態の具体例について、
図2〜
図7を用いて説明する。基本的に、実施形態の具体例は、上述した本発明の実施形態の特徴を全て有している。上述した本発明の実施形態と同じ部位についての説明は省略する。実施形態の具体例は、本発明の車両を自動二輪車に適用した一例である。
【0070】
以下の説明における前後方向は、特に限定しない限り、車両前後方向である。以下の説明における左右方向は、特に限定しない限り、車両左右方向である。以下の説明における上下方向は、特に限定しない限り、車両上下方向である。車両
上下方向とは、車両を水平な路面に直立させた状態における上下方向である。車両左右方向および車両前後方向とは、上記の状態において、車両に乗車する運転者から見た方向である。車両左右方向は、車幅方向でもある。なお、
図2および
図3に示す符号FおよびReは、車両前方向と車両後方向をそれぞれ表す。
図2に示す符号Uと符号Dは、車両上方向と車両下方向をそれぞれ表す。
図3に示す符号Lと符号Riは、車両左方向と車両右方向をそれぞれ表す。以下の説明は、基本的に、車両が、水平な路面に配置されていることを前提とする。
【0071】
<1> 自動二輪車の全体構成
図2に示すように、自動二輪車1は、前輪2と、後輪3と、車体フレーム4とを有する。車体フレーム4は、その前部にヘッドパイプ4aを有する。ヘッドパイプ4aには、ステアリングシャフト(図示せず)が回転可能に挿入されている。ステアリングシャフトの上端部は、ハンドルユニット5に連結されている。ハンドルユニット5は、一対のフロントフォーク6の上端部に固定されている。一対のフロントフォーク6の下端部は、前輪2を支持する。前輪2は、タイヤとホイールを含む。
【0072】
車体フレーム4は、一対のスイングアーム7の前端部を揺動可能に支持する。一対のスイングアーム7の後端部は、後輪3を支持する。後輪3は、タイヤとホイールを含む。また、スイングアーム7は、揺動中心より後方の位置において、リアサスペンション8を介して車体フレーム4に接続されている。
【0073】
図2に示すように、車体フレーム4は、シート9と燃料タンク10を支持する。なお、シート9は、ライダー(運転者)が座る部位であって、ライダーの腰または背中がもたれかかる部位は含まない。また、シート9は、タンデムライダー(乗員)が座る部位は含まない。
【0074】
車体フレーム4は、エンジンユニット20を支持する。エンジンユニット20は、シート9の上端9aより下方に配置される。エンジンユニット20の少なくとも一部は、シート9の少なくとも一部と上下方向に並んでいる。左方向または右方向に見て、エンジンユニット20は、前輪2より後方で、且つ、後輪3より前方に配置される。また、車体フレーム4は、バッテリー(図示せず)を支持する。バッテリーは、後述するECU90や各種センサなどの電子機器に電力を供給する。
【0075】
自動二輪車1は、左右両側の下部にフットレスト11を有する。フットレスト11は、ライダーの足を載せるためのものである。右のフットレスト11のほぼ真ん前に、ブレーキペダル12が設けられている。ライダーの足でブレーキペダル12が操作されることで、後ブレーキ装置(図示せず)が作動して後輪3が制動される。また、図示は省略するが、左のフットレスト11のほぼ真ん前には、シフトペダルが設けられている。シフトペダルは、後述する変速機50(
図3参照)のギヤ位置を切り換えるために操作される。なお、シフトペダルの代わりに、ハンドルユニット5にシフトスイッチが設けられてもよい。
【0076】
ハンドルユニット5には、ライダーによって操作される各種スイッチを有する。ハンドルユニット5は、アクセルグリップ13と、ブレーキレバー(図示せず)と、クラッチレバー(図示せず)を有する。これらは、ライダーの手で操作される。
【0077】
アクセルグリップ13は、エンジンユニット20で発生する駆動源トルクを調整するために操作される。アクセルグリップ13は、回転操作される。基本的に、アクセルグリップ13の操作量(回転量)が大きいほど、駆動源トルクは大きくなる。アクセルグリップ13は、本発明のアクセル操作子に相当する。ブレーキレバーが操作されることで、前ブレーキ装置(図示せず)が作動して前輪2が制動される。
図4に示すように、自動二輪車1は、アクセルグリップ13の操作量を検出するアクセルセンサ72を有する。クラッチレバーは、後述するクラッチ42(
図3参照)を接続状態と切断状態とを切り換えるために操作される。
図4に示すように、自動二輪車1は、クラッチレバーの操作量を検出するクラッチセンサ73を有する。
【0078】
自動二輪車1は、後輪3または前輪2の回転速度を検出する車輪速度センサ(図示せず)を有する。自動二輪車1は、後輪3の回転速度を検出する車輪速度センサと、前輪2の回転速度を検出する車輪速度センサの両方を有していてもよい。後述するECU90は、車輪速度センサの信号に基づいて自動二輪車1の車速を検出する。
【0079】
<2> エンジンユニットの構成
図3に示すように、エンジンユニット20は、エンジン部20Aと動力伝達部20Bを有する。エンジン部20A(駆動源)は、駆動源トルクを発生させる。エンジン部20Aで発生した駆動源トルクは、動力伝達部20Bに伝達される。
【0080】
図2に示すように、エンジンユニット20は、クランクケース21、シリンダボディ22、シリンダヘッド23、およびヘッドカバー24を有する。シリンダボディ22は、クランクケース21の上端部に取り付けられる。シリンダヘッド23は、シリンダボディ22の上端部に取り付けられる。ヘッドカバー24は、シリンダヘッド23の上端部に取り付けられる。クランクケース21は、複数の部品の組み合わせで構成されている。シリンダボディ22とシリンダヘッド23とヘッドカバー24とは、別体である。しかし、シリンダボディ22とシリンダヘッド23とヘッドカバー24のいずれか2つまたは3つが一体成型されていてもよい。
【0081】
<2−1> エンジン部の構成
エンジン部20Aは、ガソリンエンジンである。エンジンユニット20は、4ストロークエンジンである。エンジン部20Aは、単気筒エンジンである。4ストロークエンジンは、気筒ごとに、吸気行程、圧縮行程、燃焼行程(膨張行程)、および排気行程をこの順で繰り返す。3気筒の燃焼行程のタイミングは互いに異なっている。
【0082】
図2および
図3に示すように、エンジン部20Aは、クランク軸25を有する。
図2に示すように、クランク軸25は、クランクケース21に収容される。
図4に示すように、自動二輪車1は、エンジン回転速度センサ81を有する。エンジン回転速度センサ81は、クランク軸25の回転速度、即ち、エンジン回転速度を検出する。より詳細には、エンジン回転速度センサ81は、単位時間当たりのクランク軸25の回転数を検出する。エンジン回転速度センサ81は、本発明の駆動源回転速度センサに相当する。
【0083】
図示は省略するが、クランク軸25は、スターターモータおよび発電機に連結されている。スターターモータおよび発電機は、クランクケース21に収容される。スターターモータは、バッテリーからの電力により作動する。スターターモータは、エンジン部20Aの始動時にクランク軸25を回転させる。発電機は、クランク軸25の動力(回転力)によって電力を生成する。バッテリーは、発電機で生成された電力によって充電される。なお、スターターモータと発電機は一体化されていてもよい。
【0084】
図3に示すように、シリンダボディ22は、シリンダ孔22aを有する。シリンダ孔22a内に、ピストン26が摺動自在に設けられる。ピストン26は、コネクティングロッド27を介してクランク軸25に連結されている(
図3参照)。エンジン部20Aは、燃焼室28を有する。燃焼室28は、シリンダヘッド23の下面とシリンダ孔22aとピストン26によって形成される。エンジン部20Aは、点火プラグ29を有する。点火プラグ29の先端部は、燃焼室28内に配置されている。点火プラグ29は、燃焼室28内で燃料と空気との混合気に点火する。点火プラグ29は、本発明の点火装置に相当する。点火プラグ29は、
図4に示す点火コイル30に接続されている。点火コイル30は、点火プラグ29の火花放電を生じさせるための電力を蓄える。点火コイル30は、点火プラグ29の点火時期を制御する。燃焼室28内の混合気が点火されて燃焼することによって、ピストン26が往復動する。それにより、クランク軸25に駆動源トルクが発生する。
【0085】
図3に示すように、燃焼室28は、シリンダヘッド23内に形成された吸気通路31および排気通路32に接続されている。吸気通路31および排気通路32は、空間である。吸気通路31は、吸気弁33によって開閉される。排気通路32は、排気弁34によって開閉される。吸気弁33および排気弁34は、動弁装置(図示せず)によって駆動される。動弁装置は、シリンダヘッド23に収容される。動弁装置は、クランク軸25と連動して作動する。
【0086】
図3に示すように、吸気通路31は、吸気管15に接続されている。大気中の空気は、吸気管15と吸気通路31を通って、燃焼室28に供給される。吸気通路31内または吸気管15内には、インジェクタ35の先端部が配置されている。インジェクタ35は、吸気通路31内または吸気管15内において燃料を噴射する。インジェクタ35は、燃焼室28に燃料を供給する燃料供給装置である。インジェクタ35は、燃料ホースを介して
図4に示す燃料ポンプ36に接続されている。燃料ポンプ36は、燃料タンク10内に配置されている。燃料ポンプ36によって、燃料タンク10内の燃料がインジェクタ35に圧送される。なお、インジェクタ35は、燃焼室28において燃料を噴射するように配置されていてもよい。また、燃料供給装置として、インジェクタ35の代わりに、キャブレターを用いてもよい。キャブレターは、燃焼室28の負圧を利用して、燃焼室28内に燃料を供給するように構成される。
【0087】
吸気管15内には、スロットル弁37が配置されている。スロットル弁37は、燃焼室28に供給される空気の量を調整する。ライダーがアクセルグリップ13を操作することによって、スロットル弁37の開度が変更される。スロットル弁37の制御方式は、電子制御式である。つまり、後述するECU90が、アクセルセンサ72の信号に基づいて、スロットル弁37の開度を制御する。
図4に示すように、自動二輪車1は、スロットル開度センサ82(スロットルセンサ)を有する。スロットル開度センサ82は、スロットル弁37の位置を検出することで、スロットル弁37の開度を検出する。スロットル弁37の開度を以下、スロットル開度という。
【0088】
図3に示すように、排気通路32は、排気管16に接続されている。
図2および
図3に示すように、排気管16は、マフラー17に接続されている。マフラー17内には、排ガスを浄化する触媒(図示せず)が配置されている。燃焼行程において燃焼室28で発生した燃焼ガス(排ガス)は、排気通路32に排出される。その後、排ガスは、排気管16およびマフラー17を通って大気に排出される。
【0089】
<3> 動力伝達機構の構成
図2および
図3に示すように、自動二輪車1は、動力伝達機構
60を有する。動力伝達機構60は、エンジンユニット20の動力伝達部20Bと、チェーン65と、ドリブンスプロケット64を含む。動力伝達機構60は、エンジン部20A(詳細にはクランク軸25)で発生した駆動源トルクを後輪3に伝達可能である。以下の説明において、後輪3を駆動輪3という場合がある。動力伝達機構60は、エンジン部20Aと駆動輪3との間で動力を伝達する。動力伝達機構60は、エンジン部20Aから駆動輪3に至る動力伝達経路60pを有する。つまり、動力伝達経路60pは、エンジン部20Aと駆動輪3との間で動力を伝達する。
【0090】
図3に示すように、動力伝達部20Bは、ドライブギヤ40と、ドリブンギヤ41と、クラッチ42と、変速機50と、ドライブスプロケット43とを含む。ドライブギヤ40、ドリブンギヤ41、クラッチ42、および、変速機50は、クランクケース21に収容される。ドライブスプロケット43は、クランクケース21の外側(左側)に配置される。なお、
図3は、単一の平面で切断した断面図ではない。
図3は、クランク軸25、入力軸51および出力軸52を通るように切断した断面を示している。但し、
図3中のクランク軸25の表示は、断面でなく、側面を表している。
【0091】
ドライブギヤ40は、クランク軸25に一体回転可能に設けられている。変速機50は、入力軸51および出力軸52を有する。入力軸51および出力軸52は、動力伝達経路60pに設けられる。入力軸51および出力軸52は、動力伝達経路60pに設けられる。出力軸52は、動力伝達経路60pにおいて入力軸51と駆動輪3との間に設けられる。ドリブンギヤ41は、入力軸51に相対回転可能に設けられている。ドリブンギヤ41は、ドライブギヤ40と噛み合う。
【0092】
クラッチ42は、入力軸51の端部に設けられている。クラッチ42は、ドリブンギヤ41に連結されており、ドリブンギヤ41から動力が伝達される。クラッチ42は、接続状態と切断状態に切り換え可能に構成されている。接続状態は、ドリブンギヤ41から伝達された動力を入力軸51に伝達できる状態である。つまり、接続状態は、クランク軸25の動力を入力軸51に伝達できる状態である。切断状態は、ドリブンギヤ41から伝達された動力を入力軸51に伝達できない状態である。つまり、切断状態は、クランク軸25の動力を入力軸51に伝達できない状態である。クラッチ42は、クラッチレバー(図示せず)の操作量に基づいて、接続状態と切断状態との間で制御される。クラッチ42は、クラッチセンサ73の信号に基づいてECU90によって制御される。クラッチセンサ73を設けずに、クラッチ42がワイヤーを介してクラッチレバーに接続されていてもよい。クラッチレバーの操作量が、ゼロより大きく操作量の最大値より小さい所定の範囲内のとき、クラッチ42は半クラッチ状態である。クラッチ42が半クラッチ状態のとき、クランク軸25の動力の一部が入力軸51に伝達される。クラッチ42は、例えば、摩擦クラッチなどの一般的なクラッチが用いられている。クラッチ42の具体的な構成の説明は省略する。
【0093】
変速機50は、入力軸51の動力を出力軸52に伝達可能に構成されている。出力軸52の回転速度に対する入力軸51の回転速度の比を、変速比という。変速機50は、変速比を変更可能に構成されている。変速機50は、変速比の異なる複数のギヤ位置を選択可能に有する。変速機50は、シーケンシャルシフト式の変速機である。シーケンシャルシフト式の変速機では、ギヤ位置を変更する際、変速比の大きさの順に隣り合うギヤ位置にしか変更できない。変速比が大きくなるようにギヤ位置を変更することを、シフトダウンという。また、変速機50は、ニュートラル状態となることができる。ニュートラル状態は、入力軸51の動力を出力軸52に伝達できない状態である。動力伝達機構60は、ギヤ位置ごとに異なる動力伝達経路60pを有する。変速機50のギヤ位置が変更されると、動力を伝達する動力伝達経路60pも変更される。
【0094】
ドライブスプロケット43は、出力軸52に設けられている。ドライブスプロケット43は、出力軸52と一体的に回転する。
図2に示すように、駆動輪3の車軸には、ドリブンスプロケット64が設けられる。ドライブスプロケット43とドリブンスプロケット64に、チェーン65が巻き掛けられている。出力軸52の動力はチェーン65を介して駆動輪3に伝達される。それにより、駆動輪3は回転する。なお、スプロケット43、64とチェーン65の代わりに、プーリとベルトを用いてもよい。
【0095】
駆動源トルクが正の値の場合、エンジン部20Aから駆動輪3に動力が伝達される。駆動源トルクが正の値の場合、基本的に、駆動輪3は、加速するか一定速度で回転する。駆動源トルクが負の値の場合、駆動輪3は減速する。駆動源トルクが正の値であっても、前ブレーキ装置または後ブレーキ装置が作動している場合、駆動輪3は減速する場合がある。また、駆動源トルクが正の値であっても、クラッチ42が切断状態の場合、駆動輪3は減速する場合がある。駆動源トルクが正の値であっても、勾配の大きい上り坂を走行する場合、駆動輪3は減速する場合がある。駆動源トルクが負の値であっても、勾配の大きい下り坂を走行する場合、駆動輪3は加速する場合がある。
【0096】
以下、変速機50の詳細について説明する。
図3に示すように、変速機50は、常時噛合式(コンスタントメッシュ式)の変速機である。変速機50は、6つのギヤ位置を有する。入力軸51には、ギヤ53a、53b、53c、53d、53e、53fが設けられている。以下、ギヤ53a、53b、53c、53d、53e、53fを、ギヤ53(
図5参照)と総称する。6つのギヤ53の歯数は、互いに異なる。出力軸52には、ギヤ54p、54q、54r、54s、54t、54uが設けられている。以下、ギヤ54p、54q、54r、54s、54t、54uを、ギヤ54(
図5参照)と総称する。6つのギヤ54の歯数は、互いに異なる。入力軸51の6つのギヤ53a〜53fは、出力軸52の6つのギヤ54p〜54uとそれぞれ噛み合う。
【0097】
ギヤ53b、53eは、入力軸51に相対回転可能に設けられている。ギヤ53b、53eとそれぞれ噛み合うギヤ54q、54tは、出力軸52と一体的に回転する。ギヤ54p、54r、54s、54uは、出力軸52に相対回転可能に設けられている。ギヤ54p、54r、54s、54uとそれぞれ噛み合うギヤ53a、53c、53d、53fは、入力軸51と一体的に回転する。
【0098】
ギヤ53c、53dは、入力軸51に軸方向に移動可能に設けられている。ギヤ53c、53dは、互いに連結されており、一体的に軸方向に移動する。ギヤ54q、54tは、出力軸52に軸方向に移動可能に設けられている。以下、ギヤ53c、53d、54q、54tを、可動ギヤ53c、53d、54q、54tと称する。
【0099】
可動ギヤ53c、53d、54q、54tは、図示しないシフトアクチュエータによって軸方向に駆動される。可動ギヤ53c、53d、54q、54tをシフトアクチュエータによって駆動するための機構として、公知のシフトカムとシフトフォーク(共に図示せず)が用いられる。ライダーがシフトペダル(図示せず)を操作することで、変速機50のギヤ位置を変更する要求が後述するECU90に入力される。以下、この要求を、ギヤ位置変更要求と称する。ギヤ位置変更要求があると、ECU90はシフトアクチュエータを制御する。それにより、シフトカムの回転角度(回転位置)が制御される。
【0100】
可動ギヤ53c、53dは、それぞれ、片方の側面に、複数のドグ凸部55c、55dを有する。ギヤ53bは、可動ギヤ53cと向かい合う面に、複数のドグ凹部56bを有する。ギヤ53eは、可動ギヤ53dと向かい合う面に、複数のドグ凹部56eを有する。可動ギヤ54qの一方の側面には、複数のドグ凸部55q1が設けられ、可動ギヤ54qの他方の側面には、複数のドグ凸部55q2が設けられている。ギヤ54pは、可動ギヤ54qと向かい合う面に、複数のドグ凹部56pを有する。ギヤ54rは、可動ギヤ54qと向かい合う面に、複数のドグ凹部56rを有する。可動ギヤ54tの一方の側面には、複数のドグ凸部55t1が設けられ、可動ギヤ54tの他方の側面には、複数のドグ凸部55t2が設けられている。ギヤ54sは、可動ギヤ54tと向かい合う面に、複数のドグ凹部56sを有する。ギヤ54uは、可動ギヤ54tと向かい合う面に、複数のドグ凹部56uを有する。
【0101】
このように、ギヤ53b、53c、53d、53eおよび6つのギヤ54は、ドグ部材を兼ねている。ドグ部材とは、ドグ部(ドグ凸部またはドグ凹部)を有する部材である。以下、ドグ凸部55c、55d、55q1、55q2、55t1、55t2を、ドグ凸部55(
図5および
図6参照)と総称する。ドグ凹部56b、56e、56p、56r、56s、56uを、ドグ凹部56(
図5および
図6参照)と総称する。
【0102】
図3に示すように、ドグ凸部55は、ギヤ53またはギヤ54の側面から突出している。ドグ凹部56は、凹状に形成されている。軸方向に向かい合う2つのギヤ(53または54)に設けられたドグ凸部55とドグ凹部56は、噛み合い可能に構成されている。
図5に示すように、1つのギヤ(53または54)に設けられる複数のドグ凹部56は、周方向に並んでいる。1つのギヤ(53または54)に設けられる複数のドグ凸部55は、周方向に並んでいる。1つのギヤ(53または54)に設けられるドグ凸部55の数は、このドグ凸部55と向かい合うギヤ(53または54)に設けられたドグ凹部56の数より少ない。なお、ドグ凸部55の数は、ドグ凹部56の数と同じであってもよい。ドグ凹部56の周方向長さは、このドグ凹部56と向かい合うギヤ(53または54)に設けられたドグ凸部55の周方向長さより長い。
【0103】
ドグ凸部55を有する可動ギヤ(53または54)が、ドグ凹部56を有するギヤ(53または54)に向かって軸方向に移動することで、ドグ凸部55がドグ凹部56の内側に配置される。なお、ドグ凹部56を有する可動ギヤ(53または54)が、ドグ凸部55を有するギヤ(53または54)に向かって軸方向に移動することで、ドグ凸部55がドグ凹部56の内側に配置されてもよい。ドグ凸部55がドグ凹部56の内側に配置されると、ドグ凸部55とドグ凹部56が接触する。詳細には、ドグ凸部55の周方向端部がドグ凹部56の周方向端部に接触する。この状態を、ドグ凸部55とドグ凹部56が噛み合うという。
【0104】
図3および
図5は、ギヤ54tのドグ凸部55t2が、ギヤ54uのドグ凹部56uと接触した状態を示している。クラッチ42が接続状態のとき、ドグ凸部55t2とドグ凹部56uが接触すると、ギヤ54tとギヤ54uが一体的に回転する。それにより、入力軸51の動力が、ギヤ53f、ギヤ54u、ギヤ54tの順で、出力軸52に伝達される。この場合の動力伝達経路60pには、ギヤ53f、ギヤ54u、ギヤ54tがこの順で並んでいる。ドグ凸部55t2以外のドグ凸部55がドグ凹部56と接触した場合も、入力軸51の回転力が、3つのギヤを介して出力軸52に伝達される。ここでの3つのギヤとは、2つのギヤ53と1つのギヤ54、または、1つのギヤ53と2つのギヤ54である。
【0105】
6つのドグ凸部55c、55d、55q1、55q2、55t1、55t2のいずれがドグ凹部56に接触するかによって、変速機50のギヤ位置は異なる。つまり、6つのドグ凸部55c、55d、55q1、55q2、55t1、55t2がドグ凹部56に接触した状態が、変速機50の6つのギヤ位置に相当する。変速機50のニュートラル状態は、どのドグ凸部55もドグ凹部56の内側に挿入されてない状態である。
【0106】
上述したように、ドグ凹部56の周方向長さは、このドグ凹部56と向かい合うギヤ(53または54)に設けられたドグ凸部55の周方向長さより長い。つまり、向かい合う2つのギヤ(53または54)は、噛み合い可能なドグ凹部56とドグ凸部55の間に常に遊び(play、backlash)を有するように形成されている。
【0107】
ドグ凸部55の周方向両端部のうち、どちらの端部がドグ凹部56に接触するかは、自動二輪車1が加速中か減速中かによって異なる。つまり、ドグ凸部55とドグ凹部56の接触位置は、駆動輪3が加速中か減速中かによって異なる。したがって、接触するドグ凸部55とドグ凹部56の組み合わせが同じ場合であっても、駆動輪3が加速中か減速中かによって、動力を伝達する動力伝達経路60pが異なる。駆動輪3の加速中に動力を伝達する動力伝達経路60pを、加速用の動力伝達経路60pa(
図6および
図7参照)という。駆動輪3の減速中に動力を伝達する動力伝達経路60pを、減速用の動力伝達経路60pdという。なお、減速用の動力伝達経路60pdは、図示していない。
【0108】
図5および
図6に示すように、駆動輪3の加速中、ドグ凸部55の加速接触位置55Aと、ドグ凹部56の加速接触位置56Aが接触する。加速接触位置55A、56Aは、加速用の動力伝達経路60paの一部を構成する。
図6に示すように、駆動輪3の減速中、ドグ凸部55の減速接触位置55Dと、ドグ凹部56の減速接触位置56Dが接触する。減速接触位置55D、56Dは、減速用の動力伝達経路60pdの一部を構成する。加速接触位置55Aおよび減速接触位置55Dは、ドグ凸部55の周方向一端部と他端部である。加速接触位置56Aおよび減速接触位置56Dは、ドグ凹部56の周方向一端部と他端部である。
【0109】
図5および
図6に示すように、駆動輪3の加速中、ドグ凸部55の減速接触位置55Dとドグ凹部56の減速接触位置56Dとの間に、遊びGaが存在する。
図6に示すように、駆動輪3の減速中、ドグ凸部55の加速接触位置55Aと、ドグ凹部56の加速接触位置56Aとの間に、遊びGdが存在する。
【0110】
駆動輪3が減速状態から加速状態に変化する場合、まず、減速接触位置55D、56Dが離れていく。その一方、加速接触位置55A、56Aの間の遊びGdが減少していく。つまり、ドグ凸部55とドグ凹部56が接触していない状況に一時的になる。加速接触位置55A、56Aの間の遊びGdが無くなってから、ドグ凸部55とドグ凹部56との間でトルクが伝達される。その後、駆動輪3が加速し始める。言い換えると、加速用の動力伝達経路60paにおいて遊びGaがある間は、ドグ凸部55とドグ凹部56の間でトルクが伝達されず、駆動輪3は加速しない。また、駆動輪3が加速状態から減速状態に変化する場合には、加速接触位置55A、56Aが離れていく。その一方で、減速接触位置55D、56Dの間の遊びGaが減少していく。減速接触位置55D、56Dの間の遊びGaが無くなってから、ドグ凸部55とドグ凹部56との間でトルクが伝達される。その後、駆動輪3が減速し始める。
【0111】
6つのギヤ53の歯部を、歯部57と総称する。6つのギヤ54の歯部を、歯部58と総称する。互いに噛み合うギヤ53とギヤ54は、歯部57と歯部58の間に遊びを有するように形成されている。
図5に示すように、駆動輪3の加速中、ギヤ53の歯部57の加速接触位置57Aと、ギヤ54の歯部58の加速接触位置58Aが接触する。駆動輪3の減速中、ギヤ53の歯部57の減速接触位置57Dと、ギヤ54の歯部58の減速接触位置58Dが接触する。駆動輪3の加速中、ギヤ53の歯部57の減速接触位置57Dと、ギヤ54の歯部58の減速接触位置58Dとの間に、遊びGtaが存在する。駆動輪3の減速中、ギヤ53の歯部57の加速接触位置57Aと、ギヤ54の歯部58の加速接触位置58Aとの間に、遊びGtdが存在する。
【0112】
駆動輪3が減速状態から加速状態に変化する場合、減速接触位置57D、58Dが離れていくと同時に、加速接触位置57A、5
8Aの間の遊びGtdが減少していく。加速接触位置57A、58Aの間の遊びGtdが無くなってから、駆動輪3は加速し始める。厳密には、加速接触位置57A、58Aの間の遊びGtdが無くなってから、加速接触位置55Aと加速接触位置56Aとの接触面の面積がゼロから増加する。加速接触位置55Aと加速接触位置56Aとの接触面の面積が最大の状態になってから、駆動輪3は加速し始める。駆動輪3が加速状態から減速状態に変化する場合、加速接触位置57A、58Aが離れていくと同時に、減速接触位置57D、58Dの間の遊びGtaが減少していく。減速接触位置57D、58Dの間の遊びGtaが無くなってから、駆動輪3は減速し始める。
【0113】
ドグ凸部55を有するギヤ(53または54)と、このギヤと向かい合いドグ凹部56を有するギヤ(53または54)は、本発明の複数の動力伝達部材に相当する。互いに噛み合うギヤ53とギヤ54も、本発明の複数の動力伝達部材に相当する。動力伝達機構60は、ギヤ53の
歯部とギヤ54の
歯部との間の遊び、ギヤ53の
ドグ部とギヤ53の
ドグ部との間の遊び、ギヤ54の
ドグ部とギヤ54の
ドグ部と間の遊び以外にも、動力伝達部材の間の遊びを有する。例えば、ドライブギヤ40とドリブンギヤ41の間にも、遊びが設けられる。つまり、ドライブギヤ40およびドリブンギヤ41は、本発明の複数の動力伝達部材に相当する。また、ドライブスプロケット43とチェーン65との間、および、チェーン65とドリブンスプロケット64との間にも、遊びが設けられる。つまり、ドライブスプロケット43およびチェーン65は、本発明の複数の動力伝達部材に相当する。チェーン65およびドリブンスプロケット64も、本発明の複数の動力伝達部材に相当する。以下の説明において、本発明の複数の動力伝達部材に相当するこれらの部材を、複数の動力伝達部材と称する場合がある。
【0114】
駆動輪3が減速状態から加速状態に変化する場合、エンジン部20Aに近い動力伝達部材から順に、加速用の動力伝達経路60paにおける動力伝達部材の間の遊びが無くなっていく。加速用の動力伝達経路60paにおいて、全ての動力伝達部材の間の遊びが無くなってから、駆動輪3が加速し始める。駆動輪3を加速状態から減速状態に変化する場合、駆動輪3に近い動力伝達部材から順に、減速用の動力伝達経路60pdにおける動力伝達部材の間の遊びが無くなっていく。減速用の動力伝達経路60pdにおいて、全ての動力伝達部材の間の遊びが無くなってから、駆動輪3が減速し始める。
【0115】
図4に示すように、自動二輪車1は、入力軸センサ83、出力軸センサ84、ギヤ位置センサ85、および、ニュートラルセンサ86を有する。入力軸センサ83は、入力軸51の回転角速度を算出する。出力軸センサ84は、出力軸52の回転角速度を算出する。ギヤ位置センサ85は、変速機50のギヤ位置を検出する。詳細には、ギヤ位置センサ85は、シフトカム(図示せず)の回転角度を検出する。ニュートラルセンサ86は、変速機50がニュートラル状態であるか否かを検出する。ニュートラルセンサ86は、シフトカム(図示せず)の回転角度がニュートラル状態に対応した角度の場合にのみ、電気信号を出力する。
【0116】
<5> ECU90の構成
<5−1> ECU90の全体構成
自動二輪車1は、自動二輪車1の各部の動作を制御するECU(Electronic Control Unit)90を有する。ECU90は、1箇所に配置された1つの装置であってもよく、異なる位置に配置された複数の装置で構成されていてもよい。
図4に示すように、ECU90は、アクセルセンサ72、クラッチセンサ73、スロットル開度センサ82、エンジン回転速度センサ81、ギヤ位置センサ85、ニュートラルセンサ86、入力軸センサ83、出力軸センサ84等の各種センサと接続されている。さらに、ECU90は、点火コイル30、インジェクタ35、燃料ポンプ36、スロットル弁37等に接続されている。
【0117】
ECU90は、プロセッサと、記憶装置を有する。プロセッサは、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、特定用途向け集積回路(ASIC)、プログラム可能な論理回路(PLC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)などである。プロセッサは、レジスタを内蔵していてもよい。記憶装置は、プロセッサで実行される処理に必要な情報を記憶する。記憶装置は、例えば、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)を含む。RAMは、プロセッサがプログラムを実行するときに各種データを一時的に記憶する。ROMは、プロセッサに実行させるプログラムを記憶する。プロセッサが、記憶装置に記憶されたプログラムや各種データに基づいて情報処理を実行することで、各種の機能処理部が実現される。
【0118】
ECU90は、点火コイル30、インジェクタ35、および燃料ポンプ36、スロットル弁37等に対して動作指令信号を送信する。点火コイル30、インジェクタ35、燃料ポンプ36、およびスロットル弁37が制御されることで、駆動源トルクが制御される。ECU90は、上述の実施形態の駆動源トルク制御装置91に含まれる。ECU90は、本発明の駆動源トルク制御装置に含まれる。以下、ECU90が行う処理について具体的に説明する。
【0119】
<5−2> 駆動源トルクの推定
ECU90は、駆動源トルクを推定する。ECU90は、少なくとも、スロットル開度センサ82の信号とエンジン回転速度センサ81の信号に基づいて、駆動源トルクを推定する。より具体的には、例えば、ECU90は、予めECU90の記憶部に記憶されたマップを使って、駆動源トルクを推定する。ECU90は、点火プラグ29の点火時期とスロットル開度センサ82の信号とエンジン回転速度センサ81の信号に基づいて、駆動源トルクを推定することが好ましい。以下、ECU90によって算出された駆動源トルクの推定値を、推定駆動源トルクと称する。
【0120】
<5−5> 動力伝達状態の検出
ECU90は、入力軸センサ83の信号と出力軸センサ84の信号に基づいて、入力軸51と出力軸52との相対回転角度を算出する。具体的には、まず、ECU90は、入力軸センサ83により検出された入力軸51の回転角速度と、出力軸センサ84により検出された出力軸52の回転角速度との差から、入力軸51と出力軸52の相対回転角速度を算出する。そして、算出された相対回転角速度を時間で積分して、入力軸51と出力軸52との相対回転角度を算出する。
【0121】
入力軸51と出力軸52との相対回転角度は、駆動輪3の減速時における限界値をゼロとする。
図5に示すように、動力伝達経路60pに、ギヤ53f、ギヤ54u、ギヤ54tが並んでいる場合を例に挙げる。ギヤ53fの歯部57の減速接触位置57Dとギヤ54uの歯部58の減速接触位置58Dが接触し、且つ、ギヤ54uのドグ凹部56の減速接触位置56Dとギヤ54tのドグ凸部55の減速接触位置55Dが接触しているとき、入力軸51と出力軸52との相対回転角度は、駆動輪3の減速時における限界値となる。なお、入力軸51と出力軸52との相対回転角度は、駆動輪3の加速時における限界値をゼロとしてもよい。
【0122】
<5−4> 燃料供給量の制御
ECU90は、インジェクタ35による燃料供給量を制御する。具体的には、ECU90は、インジェクタ35による燃料噴射時間を制御する。ECU90は、センサ71〜73、81〜86等の信号に基づいて、燃料供給量を制御する。ECU90は、決定した燃料供給量に基づいた動作指令信号を、燃料ポンプ36およびインジェクタ35に送信する。それにより、インジェクタ35は、ECU90により決定された量の燃料を噴射する。
【0123】
<5−5> 点火時期の制御
ECU90は、点火プラグ29の点火時期を制御する。点火時期とは、点火プラグ29の放電のタイミングのことである。点火時期は、圧縮上死点を基準としたクランク軸25の回転角度で表される。圧縮上死点とは、圧縮行程と燃焼行程の間のピストン26の上死点のことである。ECU90は、センサ71〜73、81〜86等の信号に基づいて点火時期を制御する。例えば、スロットル開度センサ82の信号とエンジン回転速度センサ81の信号に基づいて、点火時期を制御する。ECU90は、決定した点火時期に基づいた動作指令信号を、点火コイル30に送信する。それにより、所定のタイミングで、点火プラグ29の火花放電が行われる。
【0124】
<5−6> ショック抑制制御
ECU90は、駆動輪3を減速状態から加速状態に変更する場合に、駆動源トルクの制御として、ショック抑制制御を行う。言い換えると、ECU90は、駆動輪3を加速させるために駆動源トルクを制御する場合に、ショック抑制制御を行う。ショック抑制制御は、加速用の動力伝達経路60paに複数の動力伝達部材の間の遊びが無くなったときに生じる自動二輪車1のショックを抑制する制御である。言い換えると、ショック抑制制御は、加速用の動力伝達経路60pa中の動力伝達部材同士が接触していない状態から接触する状態に変化したときに生じる自動二輪車1のショックを抑制する制御である。
【0125】
ショック抑制制御を開始する前の駆動輪3の減速状態は、駆動輪3が減速している状況であれば、特に限定されない。駆動源トルクが負の値であってもよい。駆動源トルクが正の値で、クラッチ42が切断状態であってもよい。駆動源トルクが正の値で、勾配の大きい上り坂を走行している状態でもよい。駆動源トルクが正または負の値で、前ブレーキ装置および後ブレーキ装置の少なくとも一方が作動していてもよい。
【0126】
ショック抑制制御は、駆動輪3を減速状態から加速状態に変更する場合に、必ず実行されなくてもよい。ショック抑制制御は、駆動輪3を減速状態から加速状態に変更する場合に、必ず実行されてもよい。自動二輪車1は、ショック抑制制御を行うか否かを、ライダーが選択できるように構成されていることが好ましい。例えば、ハンドルユニット5のスイッチの操作によって、ショック抑制制御を行うか否かを選択できてもよい。また、自動二輪車1は、ショック抑制制御を行う走行モードと行わない走行モードを有していてもよい。そして、走行モードをライダーが選択できるようになっていてもよい。また、ショック抑制制御が、走行モードごとに異なっていてもよい。
【0127】
図7(a)〜
図7(e)は、ショック抑制制御を行った場合の一例を示すグラフである。
図7(a)〜
図7(e)の横軸は、共通の時間を示す。
図7(a)の縦軸は、スロットル開度センサ82により検出されたスロットル開度と、アクセルセンサ72により検出されたアクセル操作量を示す。
図7(b)の縦軸は、実際の駆動源トルクを示す。なお、推定駆動源トルクは、実際の駆動源トルクに対してほとんど遅れはない。
図7(b)中の二点鎖線の曲線は、ショック抑制制御を行わない場合の駆動源トルクを示している。
図7(c)の縦軸は、エンジン回転速度を示す。
図7(d)の縦軸は、ECU90によって検出された入力軸51と出力軸52との相対回転角度を示す。
図7(e)の縦軸は、後輪3に設けた車輪速度センサによって検出された駆動輪(後輪)の回転速度を示す。
【0128】
図7(a)〜
図7(e)の例では、グラフの全期間にわたって、クラッチ42は接続状態であり、前ブレーキ装置および後ブレーキ装置は作動していない。また、グラフの全期間にわたって、路面はほぼ水平である。
図7(a)および
図7(b)に示すように、横軸の左端の時点では、アクセル操作量はゼロであって、駆動源トルクが負の値である。つまり、エンジンブレーキが働いている。それにより、駆動輪3は減速している。横軸の左端の時点の直後に、アクセル操作量が増加している。これにより、ECU90は、減速状態から加速状態に変化させるための制御を開始する。まず、ECU90は、
図7(a)に示すように、スロットル弁37の開度を増大させる。それに伴って、駆動トルクが増加している。駆動トルクが正の値になると、エンジン部20Aに近い動力伝達部材から順に、動力伝達経路60中の動力伝達部材が隣り合う動力伝達部材から離れる。
【0129】
ECU90は、以下のショック抑制制御の開始条件A1およびA2の少なくとも一方が成立するか否かを判定する。ECU90は、ショック抑制制御の開始条件A1およびA2のいずれか一方の判定処理しか行わないようにプログラムされていてもよい。また、ECU90は、ショック抑制制御の開始条件A1およびA2の両方の判定処理を行えるようにプログラムされていてもよい。
【0130】
ショック抑制制御の開始条件A1は、推定駆動源トルクが所定の判定トルクTrA1(第1判定トルク)以上となることである。
図7(b)のグラフに、判定トルクTrA1の一例を表示した。判定トルクTrA1は、1つの値でなくてもよい。ECU90は、例えばギヤ位置センサ85の信号に基づいて判定トルクTrA1を変更してもよい。ECU90は、ギヤ位置センサ85の信号とエンジン回転速度センサ81の信号に基づいて判定トルクTrA1を変更してもよい。ECU90は、推定駆動源トルクに基づいて判定トルクTrA1を変更してもよい。判定トルクTrA1は、変更されなくてもよい。
【0131】
例えば
図7(b)に示すように、推定駆動源トルクが所定の判定トルクTrA0(第2判定トルク)となった時点を、基準時t0とする。
図7(b)では、判定トルクTrA0は、ゼロであるが、正の値であっても負の値であってもよい。ECU90は、推定駆動源トルクを基準時t0からの時間について積分する。ショック抑制制御の開始条件A2は、この積分値が所定の判定値以上となることである。判定トルクTrA0は1つの値でなくてもよい。判定値は1つの値でなくてもよい。ECU90は、例えばギヤ位置センサ85の信号に基づいて判定トルクTrA0または判定値を変更してもよい。ECU90は、ギヤ位置センサ85の信号とエンジン回転速度センサ81の信号に基づいて判定トルクTrA0または判定値を変更してもよい。ECU90は、推定駆動源トルクに基づいて判定トルクTrA0または判定値を変更してもよい。判定トルクTrA0は、変更されてなくてもよい。判定値は、変更されなくてもよい。
【0132】
ECU90は、ショック抑制制御の開始条件A1またはA2が成立した場合、後述するショック抑制制御の非開始条件B1〜B3のいずれかが成立するか否かを判定する。開始条件A1およびA2は、ショック抑制制御を開始する条件である。つまり、開始条件A1およびA2は、ショック抑制制御を開始するタイミングを決定する条件である。非開始条件B1〜B3は、ショック抑制制御を開始しない条件である。ECU90は、ショック抑制制御の非開始条件B1〜B3の一部の条件の判定処理しか行わないようにプログラムされていてもよい。ECU90は、ショック抑制制御の非開始条件B1〜B3の全ての条件の判定処理を行えるようにプログラムされていてもよい。
【0133】
ECU90は、ショック抑制制御の開始条件A1またはA2が成立し、且つ、ショック抑制制御の非開始条件B1〜B3のうち判定処理を行った非開始条件がいずれも成立しない場合、ショック抑制制御を開始することを決定する。開始条件A1およびA2は、推定駆動源トルクを用いた条件である。よって、ECU90は、推定駆動源トルクに基づいて、ショック抑制制御を開始するタイミングを決定する。
【0134】
ショック抑制制御の非開始条件B1は、クランク軸25と駆動輪3との間で動力を伝達できない状態が検出されることである。この検出には、クラッチセンサ73またはニュートラルセンサ86が用いられる。クラッチセンサ73によりクラッチ42が切断状態であることが検出された場合、または、ニュートラルセンサ86により変速機50のニュートラル状態が検出された場合、クランク軸25と駆動輪3との間で動力を伝達できないと判定される。
【0135】
ショック抑制制御の非開始条件B2は、ギヤ位置変更要求があること、または、変速機50のギヤ位置の変更が検出されることである。変速機50のギヤ位置を変更する際、クラッチ42を切断状態にすれば、非開始条件B1が成立する。しかし、ギヤ位置を変更する際、クラッチ42を切断状態にしないことがある。非開始条件B2は、このような場合にショック抑制制御を開始しないための条件である。ギヤ位置変更要求は、シフトペダル(またはシフトスイッチ)が操作されることで、ECU90に入力される。変速機50のギヤ位置が変更されたか否かは、ギヤ位置センサ85の信号に基づいて判定してもよい。この場合、ギヤ位置センサ85は、本発明の駆動源トルク制御装置に含まれる。また、変速機50のギヤ位置が変更されたか否かは、ECU90によって推定されたギヤ位置に基づいて判定してもよい。ギヤ位置の推定には、例えば、エンジン回転速度センサ81の信号と、出力軸センサ84の信号を用いてもよい。自動二輪車1が車輪速度センサを有する場合、ギヤ位置の推定に、出力軸センサ84の代わりに車輪速度センサの信号を用いてもよい。
【0136】
ECU90は、ブリッピング操作が実行されたか否かの判定を行う。ブリッピングとは、変速機50のシフトダウンをスムーズに行うために、シフトダウン中に駆動源トルクを一時的に増加させる操作である。
ECU90は、変速機50のギヤ位置が最も変速比が大きいギヤ位置以外であり、且つ、アクセル操作量が所定の第1
ブリッピング判定領域内であり、且つ、アクセル操作量の変化量が所定の第2
ブリッピング判定領域内である場合に、ブリッピング操作が実行されたと判定する。第1
ブリッピング判定領域と、第2
ブリッピング判定領域は、それぞれ、ギヤ位置によって異なってもよい。ショック抑制制御の非開始条件B3は、ブリッピング操作が実行されたと判定されることである。
【0137】
ECU90は、推定駆動源トルク等に基づいて、ショック抑制制御を開始することを決定した場合、ショック抑制制御を実行する。ショック抑制制御においては、以下の2つの状況のいずれか一方が成立するように、駆動源トルクが制御される。第1の状況は、加速用の動力伝達経路60paにある複数の動力伝達部材の間の遊びが減少しているときの複数の動力伝達部材の間の相対速度の絶対値が減少する状況である。第2の状況は、加速用の動力伝達経路60paに複数の動力伝達部材の間の遊びが減少して無くなったときに複数の動力伝達部材の間で伝達される伝達トルクが減少する状況である。ショック抑制制御において、第1の状況と第2の状況の両方が成立するように駆動源トルクが制御されてもよく、第1の状況だけが成立するように駆動源トルクが制御されてもよく、第2の状況だけが成立するように駆動源トルクが制御されてもよい。このようなショック抑制制御によって、加速用の動力伝達経路60paに複数の動力伝達部材の間の遊びが無くなったときに生じる自動二輪車1のショックが抑制される。
【0138】
加速用の動力伝達経路60paにある複数の動力伝達部材の間の遊びが減少しているときの複数の動力伝達部材の間の相対速度の絶対値が減少するとは、ショック抑制制御を行わない場合に比べて、加速用の動力伝達経路60paにある複数の動力伝達部材の間の遊びが減少しているときの複数の動力伝達部材の間の相対速度の絶対値が減少することを意味する。加速用の動力伝達経路60paにある複数の動力伝達部材の間の遊びが減少しているときに、複数の動力伝達部材の間の相対速度の絶対値が徐々に減少するように制御されてもよい。加速用の動力伝達経路60paに複数の動力伝達部材の間の遊びが無くなったときに複数の動力伝達部材の間で伝達される伝達トルクが減少するとは、ショック抑制制御を行わない場合に比べて、加速用の動力伝達経路60paに複数の動力伝達部材の間の遊びが無くなったときに複数の動力伝達部材の間で伝達される伝達トルクが減少することを意味する。
【0139】
ショック抑制制御における駆動源トルクの制御とは、具体的には、例えば
図7(b)に示すように、駆動源トルクを減少させた後、増加させる制御である。増加率は減少率に比べて小さい。駆動源トルクの増加は比較的緩やかである。駆動源トルクを一旦減少させてから増大させることで、ショック抑制制御を行わない場合に比べて、駆動源トルクを増加させつつ、駆動トルクを抑えることができる。それにより、加速用の動力伝達経路60paにある複数の動力伝達部材の間の遊び(例えばGd)が減少するときの複数の動力伝達部材の間の相対速度が小さくなる。それにより、複数の動力伝達部材の間の遊びが無くなったときのショックが抑制される。
【0140】
駆動源トルクを制御するとは、具体的には、点火時期を制御することであってもよい。また、スロットル開度を制御することであってもよい。また、スロットル開度と燃料噴射量を制御することであってもよい。点火時期とスロットル開度の両方を制御することであってもよい。それ以外であってもよい。点火時期を制御する場合には、ショック抑制制御を行わない場合よりも点火時期を遅角させる。
【0141】
ECU90は、以下のショック抑制制御の終了条件C1〜C4のいずれかが成立したときに、ショック抑制制御を終了する。終了条件C1〜C4は、ショック抑制制御を終了する条件である。ECU90は、ショック抑制制御の終了条件C1〜C4の一部の条件の判定処理しか行わないようにプログラムされていてもよい。ECU90は、ショック抑制制御の終了条件C1〜C4の全ての判定処理を行えるようにプログラムされていてもよい。また、終了条件C1〜C4の判定処理を実施する優先順位が設定されていてもよい。例えば、終了条件C4が成立しなかった場合に、終了条件C1〜C3のいずれかの判定処理を行ってもよい。
【0142】
ショック抑制制御の終了条件C1は、所定の終了判定基準時からの経過時間が、所定の終了判定時間以上となることである。つまり、ECU90は、経過時間に基づいて、ショック抑制制御を終了するタイミングを決める。終了判定時間は、終了判定基準時によって異なる。終了判定基準時は、例えば、ショック抑制制御を開始した時点であってもよい。また、終了判定基準時は、推定駆動源トルクが所定値以上となった時点であってもよい。この所定値は、上述した判定トルクTrA1または判定トルクTrA0と同じであってもよく、異なっていてもよい。終了判定基準時ごとの終了判定時間は、ECU90によって変更されてもよい。終了判定基準時ごとの終了判定時間は、変更されなくてもよい。
【0143】
ショック抑制制御の終了条件C2およびC3は、エンジン回転速度センサ81の信号に基づいて、ショック抑制制御を終了するタイミングを決定する条件である。
図7(c)および
図7(e)に示すように、駆動輪3が減速状態から加速状態に変化する場合、エンジン回転速度が増加して、その後、減少する。詳細には、駆動輪3を減速状態から加速状態に変化させるための制御を開始すると、一時的にクランク軸25が無負荷の状態となり、エンジン回転速度が増加する。
図7の例では、駆動トルクが負の値から正の値に変化した後、一時的にクランク軸25が無負荷の状態となる。その後、第1動力伝達部材と第2動力伝達部材の加速接触位置(例えば55Aと56A)が接触することで、エンジン回転速度が下降する。終了条件C2は、このエンジン回転速度の増加を検出することである。終了条件C3は、このエンジン回転速度の増加後の減少を検出することである。
【0144】
具体的には、ショック抑制制御の終了条件C2は、ショック抑制制御を開始後、エンジン回転速度センサ81により検出されたエンジン回転速度が所定の終了判定速度以上となることである。または、ショック抑制制御を開始後、エンジン回転速度センサ81により検出されたエンジン回転速度の増加率が、所定の終了判定値以上となることである。終了判定値はゼロであってもよい。ショック抑制制御の終了条件C2は、エンジン回転速度センサ81の信号を用いた上記以外の条件であってもよい。
【0145】
ショック抑制制御の終了条件C3は、ショック抑制制御を開始後、エンジン回転速度センサ81により検出されたエンジン回転速度が上昇後、減少に変化することである。または、ショック抑制制御を開始後、エンジン回転速度センサ81により検出されたエンジン回転速度が上昇後、所定の値以下に減少に変化することである。ショック抑制制御の終了条件C3は、エンジン回転速度センサ81の信号を用いた上記以外の条件であってもよい。
【0146】
ショック抑制制御の終了条件C4は、ECU90により検出された入力軸51と出力軸52との相対回転角度に基づいて、ショック抑制制御を終了するタイミングを決定する条件である。上述したように、入力軸51と出力軸52との相対回転角度は、駆動輪3の減速時における限界値をゼロとする。そのため、
図7(d)に示すように、駆動輪3が減速状態から加速状態に変化すると、入力軸51と出力軸52との相対回転角度は、ゼロから増加する。終了条件C4はこの相対回転角度の増加を利用したものである。具体的には、ショック抑制制御の終了条件C4は、入力軸51と出力軸52との相対回転角度が、所定の終了判定角度以上となることである。終了判定角度は、最小値(ゼロ)と最大値の中間の値より大きい値とすることが好ましい。終了判定角度は、最小値(ゼロ)と最大値の中間の値以下の値であってもよい。なお、入力軸51と出力軸52との相対回転角度が、駆動輪3の加速時における限界値をゼロとする場合には、ショック抑制制御の終了条件C4は、例えば、入力軸51と出力軸52との相対回転角度が、所定の終了判定角度以下となることであってもよい。
【0147】
ECU90は、ショック抑制制御の終了条件D1およびD2のいずれかが成立したときに、ショック抑制制御を終了する。ショック抑制制御の終了条件D1およびD2は、ショック抑制制御の途中で終了する条件である。ECU90は、ショック抑制制御の終了条件D1およびD2のいずれか一方の判定処理しか行わないようにプログラムされていてもよい。ECU90は、ショック抑制制御の終了条件D1およびD2の両方の判定処理を行えるようにプログラムされていてもよい。また、ECU90は、ショック抑制制御の終了条件D1およびD2の両方の判定処理を行わなくてもよい。
【0148】
ショック抑制制御の終了条件D1は、ショック抑制制御の開始後、クランク軸25と駆動輪3との間で動力を伝達できない状態が検出されることである。この検出には、クラッチセンサ73またはニュートラルセンサ86が用いられる。クラッチセンサ73によりクラッチ42が切断状態であることが検出された場合、または、ニュートラルセンサ86により変速機50のニュートラル状態が検出された場合、クランク軸25と駆動輪3との間で動力を伝達できないと判定される。クラッチセンサ73およびニュートラルセンサ86は、本発明の駆動源トルク制御装置に含まれる。
【0149】
ショック抑制制御の終了条件D2は、ショック抑制制御の開始後、ギヤ位置変更要求があること、または、変速機50のギヤ位置の変更が検出されることである。変速機50のギヤ位置を変更する際、クラッチ42を切断状態にすれば、終了条件D1が成立する。しかし、ギヤ位置を変更する際、クラッチ42を切断状態にしないことがある。終了条件D2は、このような場合にショック抑制制御を終了するための条件である。ギヤ位置変更要求は、シフトペダル(またはシフトスイッチ)が操作されることで、ECU90に入力される。変速機50のギヤ位置が変更されたか否かは、ギヤ位置センサ85の信号に基づいて判定してもよい。この場合、ギヤ位置センサ85は、本発明の駆動源トルク制御装置に含まれる。また、変速機50のギヤ位置が変更されたか否かは、ECU90によって推定されたギヤ位置に基づいて判定してもよい。ECU90は、例えば、エンジン回転速度センサ81の信号と、出力軸センサ84の信号に基づいて、ギヤ位置を推定する。なお、自動二輪車1が車輪速度センサを有する場合、出力軸センサ84の代わりに車輪速度センサの信号を用いてもよい。
【0150】
実施形態の具体例は、上述した本発明の実施形態の効果に加えて、以下の効果を奏する。
【0151】
ECU90が、スロットル開度センサ82の信号とエンジン回転速度センサ81の信号に基づいて、駆動源トルクを推定した場合、以下の効果が得られる。駆動源トルクを比較的精度良く推定することができる。よって、自動二輪車1のショックの発生をより確実に抑制できる。また、一般的な自動二輪車は、スロットル開度センサとエンジン回転速度センサを有する。そのため、自動二輪車が一般的に有するセンサを使って、駆動源トルクを推定できる。つまり、ショック抑制制御のために新たなセンサを設ける必要がない。
【0152】
ECU90が、スロットル開度センサ82の信号とエンジン回転速度センサ81の信号と点火プラグ29の点火時期に基づいて、駆動源トルクを推定した場合、以下の効果が得られる。駆動源トルクの推定に、スロットル開度センサ82の信号とエンジン回転速度センサ81の信号を使用して点火時期を使用しない場合に比べて、駆動源トルクをより精度良く推定することができる。よって、自動二輪車1のショックの発生をより一層確実に抑制できる。
【0153】
ショック抑制制御の開始条件A1が成立した場合に、ショック抑制制御を開始することで、以下の効果が得られる。ショック抑制制御の開始条件A1は、推定駆動源トルクが判定トルクTrA1以上となることである。駆動輪3が減速状態から加速状態に変化するとき、駆動源トルクは増加する。駆動源トルクが増加中であってもその値が小さければ、動力伝達部材同士の接触によるショックが発生しない場合がある。ECU90は、推定駆動源トルクが判定トルクTrA1以上となったか否か判断する。これにより、自動二輪車1のショックが発生しうる状況であることを精度良く検出できる。そして、ECU90は、推定駆動源トルクが判定トルクTrA1以上となった場合に、ショック抑制制御を行う。そのため、自動二輪車1のショックが発生しない状況にも関わらずショック抑制制御を行うことをより確実に防止できる。
【0154】
ショック抑制制御の開始条件A2が成立した場合に、ショック抑制制御を開始することで、以下の効果が得られる。ショック抑制制御の開始条件A2は、推定駆動源トルクが第2判定トルク以上となった時点からの時間についての推定駆動源トルクの積分値が、判定値以上となることである。推定駆動源トルクの積分値が判定値以上となったか否か判定することで、自動二輪車1のショックが発生しうる状況であることをより精度良く検出できる。そして、ECU90は、この積分値が判定値以上となった場合に、ショック抑制制御を行う。そのため、自動二輪車1のショックが発生しない状況にも関わらずショック抑制制御を行うことをより確実に防止できる。
【0155】
ショック抑制制御の終了条件C1が成立した場合に、ショック抑制制御を終了することで、以下の効果が得られる。ショック抑制制御の終了条件C1は、所定の終了判定基準時からの経過時間が、所定の終了判定時間以上となることである。ショック抑制制御の開始後、ある程度の時間が経過すれば、複数の動力伝達部材の間で動力が伝達されていると推定できる。そのため、経過時間に基づいてショック抑制制御を終了するタイミングを決定することで、動力伝達部材同士が接触するときに確実にショック抑制制御を行うことができる。また、ショック抑制制御が無駄に長くなるのを防止できる。
【0156】
ショック抑制制御の終了条件C2またはC3が成立した場合に、ショック抑制制御を終了することで、以下の効果が得られる。ショック抑制制御の終了条件C2およびC3は、エンジン回転速度センサ81の信号に基づいた条件である。加速用の動力伝達経路60paに複数の動力伝達部材の遊びが無くなるまでは、エンジン回転速度が増加する場合がある。加速用の動力伝達経路60paに複数の動力伝達部材の遊びが無くなった後、エンジン回転速度が一時的に減少する場合がある。これらの現象を利用することで、ショック抑制制御を終了するタイミング
を決定できる。よって、エンジン回転速度に基づいてショック抑制制御を終了するタイミングを決定することで、動力伝達部材同士が接触するときに確実にショック抑制制御を行うことができる。また、ショック抑制制御が無駄に長くなるのを防止できる。
【0157】
ショック抑制制御の終了条件C4が成立した場合に、ショック抑制制御を終了することで、以下の効果が得られる。ショック抑制制御の終了条件C4は、ECU90で検出された入力軸51と出力軸52との相対回転角度に基づいた条件である。駆動輪3が減速状態から加速状態に変化するとき、入力軸51と出力軸52との相対回転角度が変化する。入力軸51と出力軸52との相対回転角度から、複数の動力伝達部材の間で動力が伝達されている状態か否かを推定できる。そのため、入力軸51と出力軸52との相対回転角度に基づいてショック抑制制御を終了するタイミングを決定することで、動力伝達部材同士が接触するときに確実にショック抑制制御を行うことができる。また、ショック抑制制御が無駄に長くなるのを防止できる。
【0158】
ショック抑制制御の終了条件D1が成立した場合に、ショック抑制制御を終了することで、以下の効果が得られる。ショック抑制制御の終了条件D1は、クラッチセンサ73またはニュートラルセンサ86によりエンジン部20Aと駆動輪3との間で動力を伝達できない状態が検出されることである。エンジン部20Aと駆動輪3との間で動力を伝達できない状況では、動力伝達部材同士が接触しても大きなショックが起こりにくい。そのため、ショック抑制制御が必要でない。ECU90は、エンジン部20Aと駆動輪3との間で動力を伝達できない状態が検出された場合にショック抑制制御を終了する。そのため、ショック抑制制御が無駄に長くなるのを防止できる。
【0159】
ショック抑制制御の終了条件D2が成立した場合に、ショック抑制制御を終了することで、以下の効果が得られる。ショック抑制制御の終了条件D2は、ギヤ位置変更要求があること、または、ギヤ位置の変更が検出されることである。変速機50のギヤ位置が変更されると、加速用の動力伝達経路60pa、および、加速用の動力伝達経路60pa中の動力伝達部材が変更される場合がある。そのため、ギヤ位置が変更される前に行っていたショック抑制制御を継続しても、変更後の動力伝達経路中の動力伝達部材同士の接触によるショックを抑制できない場合がある。もしくは、ショック抑制制御を行わなくても、変更後の動力伝達経路中の動力伝達部材同士の接触によるショックが起こらない場合がある。ECU90は、変速機50のギヤ位置を変更する要求があった場合、または、変速機50のギヤ位置の変更が検出された場合、ショック抑制制御を終了する。そのため、ショック抑制制御が無駄になるのを防止できる。
【0160】
ショック抑制制御の非開始条件B3が成立した場合に、ショック抑制制御を行わないことで、以下の効果が得られる。ショック抑制制御の非開始条件B3は、ブリッピング操作が実行されたと判定されることである。ブリッピング操作の際にショック抑制制御を行うと、ブリッピング操作によって増加するはずの駆動源トルクが増加しなくなる。そのため、ブリッピング操作によるスムーズなシフトダウンが得られなくなる恐れがある。ECU90は、ブリッピング操作が実行されたと判定された場合に、ショック抑制制御を行わない。そのため、ブリッピング操作によるスムーズなシフトダウンが得られる。
【0161】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述した実施形態および実施形態の具体例に限られるものではなく、請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。以下、本発明の実施形態の変更例について説明する。
【0162】
<駆動輪の変更例>
上記実施形態の具体例において、後輪3が、駆動輪である。しかし、本発明において、車両の駆動輪は、前輪であってもよい。駆動輪は、前輪と後輪の両方であってもよい。
【0163】
<スロットル弁の制御方式の変更例>
上記実施形態の具体例において、スロットル弁37の制御方式は、電子制御式である。しかし、本発明において、スロットル弁の制御方式は、機械制御式であってもよい。つまり、スロットル弁が、スロットルワイヤを介してアクセル操作子に接続されていてもよい。
【0164】
<エンジン部の変更例>
上記実施形態およびその具体例において、エンジン部20A(駆動源)は、ガソリンエンジンである。本発明のエンジン部は、ディーゼルエンジンであってもよい。本発明のエンジン部は、水素ロータリーエンジンでもよい。
【0165】
上記実施形態およびその具体例において、エンジン部20A(駆動源)は、4ストロークエンジンである。しかし、本発明において、エンジン部は、2ストロークエンジンであってもよい。
【0166】
上記実施形態の具体例において、エンジン部20Aは、単気筒エンジンである。しかし、本発明において、エンジン部は、多気筒エンジンであってもよい。気筒数は特に限定されない。本発明のエンジン部が多気筒エンジンの場合、吸気系の構成は、独立スロットル式であることが好ましい。独立スロットル式は、燃焼室ごとにスロットル弁を有する。
【0167】
本発明のエンジン部は、過給機を有する過給エンジンであってもよい。過給機は、燃焼室に供給される空気を圧縮する装置である。過給機は、機械式過給機(スーパーチャージャ)であってもよく、排気タービン式過給機(いわゆるターボチャージャ)であってもよい。
【0168】
<駆動源の変更例>
上記実施形態およびその具体例において、駆動源はエンジン部20Aである。しかし、本発明において、駆動源は、電動モータであってもよい。駆動源は、エンジン部と電動モータの両方であってもよい。駆動源が電動モータの場合、車両は、駆動源トルクを調整するためにライダーによって操作されるアクセル操作子を有する。駆動源トルクは、アクセル操作子の操作量に基づいて検出してもよい。駆動源が電動モータを含む場合、駆動源の回転速度を検出する駆動源回転速度センサが設けられてもよい。駆動源トルク制御装置は、上述の終了条件C2およびC3と同様に、駆動源回転速度センサの信号に基づいてショック抑制制御を終了するタイミングを決定してもよい。
【0169】
<複数の動力伝達部材の変更例>
本発明の複数の動力伝達部材は、互いに噛み合うギヤ同士であってもよい。ここでのギヤは、平歯車に限らず、例えば、傘歯車(ベ
ベルギヤ)や、斜歯車などの公知の全ての種類のギヤを含む。本発明の複数の動力伝達部材は、ドグ凸部を有するドグ部材と、このドグ凸部が嵌め込み可能なドグ凹部を有するドグ部材であってもよい。本発明の複数の動力伝達部材は、スプライン穴を有するスプライン部材と、スプライン穴に嵌め込み可能なスプスプライン部材(スプライン軸)であってもよい。本発明の複数の動力伝達部材は、スプロケットとチェーンであってもよい。本発明の複数の動力伝達部材は、プーリと、ベルトであってもよい。ベルトは、噛み合い伝動ベルトである。噛み合い伝動ベルトは、例えば歯付ベルトである。ベルトは、金属製であっても、ゴム製であってもよい。
【0170】
<変速機の変更例>
上記実施形態の具体例において、変速機50の変速方式は、マニュアルトランスミッション方式である。しかし、本発明において、変速機の変速方式は、フルオートマチックトランスミッション方式であってもよい。また、変速機の変速方式は、セミオートマチックトランスミッション方式であってもよい。マニュアルトランスミッション方式では、ライダーがクラッチレバーとシフトペダルを操作することでギヤの切り換えが行われる。フルオートマチックトランスミッション方式では、車速やエンジン回転速度等に応じて自動的にシフトアクチュエータが駆動されて、ギヤの切り換えが行われる。セミオートマチックトランスミッション方式は、クラッチの操作のみ自動化され、ライダーがシフトペダルを操作することでギヤの切り換えが行われる。
【0171】
上記実施形態の具体例において、変速機50は、同期噛合機構(シンクロメッシュ機構)を有さない常時噛合式(コンスタントメッシュ式)の変速機である。しかし、本発明において、変速機は、同期噛合機構(シンクロメッシュ機構)を有する常時噛合式の変速機であってもよい。同期噛合機構は、軸方向に並んで配置され、噛み合い可能なドグ凹部とドグ凸部を有する2つのギヤの速度を同調させる機構である。また、変速機は、選択摺動式(スライディングメッシュ式)の変速機であってもよい。選択摺動式の変速機では、ギヤが軸方向に摺動して、他のギヤと噛み合う。本発明の変速機は、副変速機を有していてもよい。本発明の変速機は、シーケンシャルシフト式の変速機でなくてもよい。
【0172】
上記実施形態の具体例において、動力伝達機構60は、変速比の異なる複数のギヤ位置を選択可能に有する変速機50を含む。しかし、本発明において、動力伝達機構は、変速比を連続的に変化させる無段変速機を有していてもよい。
【0173】
上記実施形態およびその具体例において、動力伝達機構60は、変速機50を有する。しかし、本発明において、動力伝達機構は、変速機(無段変速機を含む)を有しなくてもよい。
【0174】
<駆動源トルクの推定の変更例>
上記実施形態の具体例において、ECU90(駆動源トルク制御装置)は、スロットル開度センサ82の信号とエンジン回転速度センサ81の信号に基づいて、駆動源トルクを推定する。しかし、本発明において、駆動源トルク制御装置は、これ以外の方法で、駆動源トルクを推定してもよい。例えば、アクセルセンサ(72)の信号とエンジン回転速度センサ(81)の信号に基づいて、駆動源トルクが推定されてもよい。スロットル弁(37)の開度は、アクセルセンサ(72)が検出したアクセル操作子の操作量に基づいて変更される。したがって、アクセルセンサ(72)の信号に基づいて駆動源トルクを推定することにより、実際の駆動源トルクが変化するより前にその変化を把握できる。よって、車両のショックが発生しうる状況をより早く検出できる。よって、車両のショックの発生をより確実に抑制できる。また、一般的な車両は、アクセルセンサを有する場合がある。その場合、車両が一般的に有するセンサを使って、駆動源トルクを推定できる。つまり、ショック抑制制御のために新たなセンサを設ける必要がない。
【0175】
本発明の駆動源トルク制御装置は、スロットル開度センサ(82)の信号とエンジン回転速度センサ(81)の信号と点火装置(29)の点火時期に基づいて、駆動源トルクを推定してもよい。その場合、駆動源トルクの推定に、スロットル開度センサ(82)の信号とエンジン回転速度センサ(81)の信号を使用して点火時期を使用しない場合に比べて、駆動源トルクをより精度良く推定することができる。よって、車両のショックの発生をより一層確実に抑制できる。
【0176】
<駆動源トルクの取得の変更例>
本発明の駆動源トルク制御装置は、駆動源トルクを検出する駆動源トルクセンサを含んでいてもよい。つまり、上記実施形態の具体例において、推定駆動源トルクの代わりに、駆動源トルクセンサにより検出された駆動源トルクを使ってもよい。それにより、駆動源トルク制御装置は、駆動源トルクを推定する場合に比べて、より精度良くトルクを取得できる。駆動源トルクセンサを設ける必要がないという点では、駆動トルクを推定することで駆動トルクを取得することが好ましい。本発明の駆動源トルク制御装置は、推定駆動源トルクと、駆動源トルクセンサにより検出された駆動源トルクの両方を使用してもよい。なお、駆動源トルクセンサにより検出される駆動源トルクは、推定駆動源トルクと同様に、実際の駆動源トルクに対してほとんど遅れはない。
【0177】
<ショック抑制制御の変更例>
本発明において、ショック抑制制御を開始する条件は、上述の条件A1、A2、B1〜B3に限らない。ショック抑制制御を終了する条件は、上述の条件C1〜C4、D1、D2に限らない。
【0178】
本発明のショック抑制制御は、例えば、アダプティブクルーズコントロール(ACC)等の運転支援制御を実施しているときに行われてもよい。運転支援制御中にショック抑制制御を行う場合、アクセルセンサの検出信号の代わりに、駆動源トルク制御装置が生成するアクセル要求が使用される。運転支援制御中にショック抑制制御を行う場合、クラッチセンサ73の検出信号の代わりに、駆動源トルク制御装置が生成するクラッチ要求が使用される。運転支援制御中にショック抑制制御を行う場合、ギヤ位置変更要求は、シフトペダルまたはシフトスイッチの操作に基づくものではなく、駆動源トルク制御装置が生成する。アダプティブクルーズコントロールは、オートクルーズコントロール、または、アクティブクルーズコントロールとも呼ばれる。ACCは、前方車両との距離を維持しつつ、前方車両に追従させる制御である。
【0179】
本発明の駆動源トルク制御装置は、駆動輪を減速させるために駆動源トルクを制御する場合に、減速用の記動力伝達経路に複数の動力伝達部材の間の遊びが無くなったときに生じる車両のショックを抑制するショック抑制制御を行ってもよい。つまり、駆動輪を
加速状態から
減速状態に変更する場合に、ショック抑制制御を行ってもよい。具体的には、駆動源トルク制御装置は、減速用の動力伝達経路にある複数の動力伝達部材の間の遊びが減少しているときの複数の動力伝達部材の間の相対速度の絶対値、および、減速用の動力伝達経路に複数の動力伝達部材の間の遊びが無くなったときの複数の動力伝達部材の間で伝達される伝達トルクの少なくとも一方が減少するように、取得した駆動源トルクに基づいて駆動源トルクを制御する。
【0180】
<車両の変更例>
本発明の車両は、前輪と後輪を有する。前輪の数は1つであっても、複数であってもよい。後輪の数は、1つであっても、複数であってもよい。本発明の車両は、自動二輪車に限定されない。本発明の車両は、自動車であってもよい。本発明の車両は、少なくとも1つの前輪と、少なくとも1つの後輪を有する。本発明の車両は、動力伝達経路にトルクコンバータがない車両であることが好ましい。本発明の車両は、自動二輪車以外の鞍乗型車両であってもよい。鞍乗型車両とは、ライダーが鞍にまたがるような状態で乗車する車両全般を指す。鞍乗型車両は、自動二輪車、自動三輪車、四輪バギー(ATV:All Terrain Vehicle(全地形型車両))等を含む。また、自動二輪車は、スクータ、原動機付き自転車、モペット等を含む。
【0181】
本願の基礎出願である特願2017−137667の駆動源トルク取得部、ショック抑制制御部、動力伝達状態検出部、動力伝達不可検出部、ギヤ位置取得部、およびブリッピング操作判定部は、本願の駆動源トルク制御装置に含まれる。