(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1〜6のいずれか1項に記載の酸化物触媒の存在下において、プロパン又はイソブタンの気相接触アンモ酸化反応により、不飽和ニトリルを製造する、不飽和ニトリルの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。なお、本明細書において、「〜」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いる。例えば「1〜100」との数値範囲の表記は、その上限値「100」及び下限値「1」の双方を包含するものとする。また、他の数値範囲の表記も同様である。
【0014】
[酸化物触媒]
本実施形態の酸化物触媒は、プロパン又はイソブタンの気相接触アンモ酸化反応に用いられ、複合酸化物を含む酸化物触媒である。以下、プロパン又はイソブタンと、酸素などの酸素源と、アンモニアなどの窒素源と、から不飽和ニトリルを合成する反応を単に「気相接触アンモ酸化反応」という。
【0015】
本実施形態の酸化物触媒は、所定の複合酸化物を含み、必要に応じて、複合酸化物を担持する担体を含んでいてもよい。以下、各成分について詳説する。
【0016】
(複合酸化物)
複合酸化物は、複合酸化物から過酸化水素水を用いて単離される触媒活性種を含み、該触媒活性種が、STEM−EDX測定において下記組成式(1)で表される平均組成を有する。
組成式:
Mo
1V
aSb
bNb
cW
dX
eO
n・・・(1)
(Xは、Te、Ce、Ti及びTaからなる群より選ばれる1種以上を示し、a、b、c、及びdは、0.050≦a≦0.200、0.050≦b≦0.200、0.100≦c≦0.300、0≦d≦0.100、0≦e≦0.100、a≦cの関係式を満たし、nは、他の元素の原子価によって決まる数である。)
【0017】
本実施形態において触媒活性種は、酸化物触媒、より具体的には複合酸化物から、過酸化水素水を用いて単離することができ、このようにして単離されたものを触媒活性種と呼ぶ。この際、酸化物触媒が担体を含む場合には、担体が混在した状態で触媒活性種が単離されてもよいが、担体と触媒活性種とは別の成分である。そして、単離した触媒活性種の平均組成は、STEM−EDXにより測定することができる。ここで、STEM−EDXとは、エネルギー分散型特性X線検出器を装備した走査型透過電子顕微鏡である。
【0018】
ここで触媒活性種とは、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、アンチモン(Sb)、ニオブ(Nb)、を少なくとも含む結晶相であり、プロパン及び/又はイソブタンをアンモ酸化するための触媒活性を有する複合金属酸化物である。なお、触媒活性種には、必要に応じてタングステン(W)や、テルル(Te)及びセリウム(Ce)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)からなる群より選ばれる1種以上の他の金属(X)がさらに含まれていてもよい。
【0019】
前述した触媒活性種は、例えば、特許文献1(特許第5547057号)においては、M1結晶構造をもつ該第一の相として記載されており、また、非特許文献1(Safonova, O., et. al., J. Phys. Chem. B 2006, 110, 23962-23967.)、非特許文献2(Millet, J.M., et. al., Appl. Catal., A 2002, 232, 77.)、非特許文献3(Millet, J.M., et. al., Appl. Catal., A 2003, 244, 359.)、非特許文献4(Baca, M., et. al., Top. Catal.2003, 23, 39.)等にも同様の説明がなされている。
【0020】
本発明者らの鋭意検討の結果、触媒活性種のNbの含有率を高め、相対的にVの含有率を低減した酸化物触媒を用いることにより、気相接触アンモ酸化反応における不飽和ニトリルの収率向上が図れることが明らかとなった。すなわち、触媒活性種の組成式(1)が上記の平均組成を有することにより、気相接触アンモ酸化反応によって得られる不飽和ニトリルの収率が向上する。
【0021】
また、後述の酸化物触媒の製造方法で述べるように、特定のNb含有液を原料として使用すること、または/さらに、特定の触媒製造工程を経ることにより、触媒活性種中のNbの含有率を高めることができ、相対的にVの含有率を低減することができることを見出した。非特許文献5(Shannon et al., Acta A 32 (1976) 751)によれば、NbとV(酸化物中、五価、六配位の場合)のイオン半径は、それぞれ0.64Åと0.54Åであり、18.5%も異なることから、ヒューム・ロザリーの法則により、一般的にはほとんど固溶置換しないものと考えられる。ここで、ヒューム・ロザリーの法則とは、置換型固溶体において、それぞれのイオン半径の差が10%程度までは成分比のほぼ全域にわたって固溶する一方、イオン半径が15%以上異なる場合、ほとんど固溶しないことを示した法則である。触媒活性種内の詳細な置換構造ははっきりとは分かっていないものの、イオン半径が0.59Åと比較的Nb,Vいずれとも差の小さい(Nb:8.5%、)Moの占有するサイトをNbが置換し、不安定化された隣接するVが占有していたサイトをMoが置換する等、本触媒活性種が非常に複雑な結晶構造を持つが故の特異的な置換現象が起きているものと推察される。
【0022】
触媒活性種中のNbの含有率を高め、相対的にVの含有率を低減することにより、不飽和ニトリルの収率向上が図れる要因は以下のように考えられる。まず、Nbは、高い融点を有しており、高い融点を有するNbの含有率を高めると、反応雰囲気下で触媒活性種の安定性が向上する。これにより、不飽和ニトリルの収率が向上できるものと考えられる。
【0023】
また、本実施形態においては、触媒活性種中のMo−O−Vの含有率に対する、Sbの含有率を、従来の触媒と比べて相対的に高めることが好ましい。これにより、プロパン又はイソブタンの脱水素反応の活性点であるものの、非選択的な分解活性を引き起こすと考えられるMo−O−Vの含有率を相対的に低減して、気相接触アンモ酸化反応の活性点であるSbの含有率を相対的に高めることができる。そのため、不飽和ニトリルの収率が向上できるものと考えられる。
【0024】
本実施形態の好適態様として、不飽和ニトリルはアクリロニトリルを指す。
【0025】
本実施形態における複合酸化物とは、本実施形態の酸化物触媒を構成する金属酸化物である。上記金属酸化物の金属としては、少なくともモリブデン(Mo)、バナジウム(V)、アンチモン(Sb)、及びニオブ(Nb)を含み、必要に応じてその他の金属を含んでいてもよい。
【0026】
本実施形態における触媒活性種とは、上記方法、具体的には後述の(物性1)の測定方法に示されるように、過酸化水素で処理を行って得られる金属成分を指す。複合酸化物は、通常、2つの結晶相とアモルファス成分を含むことが多い。これらの2つの結晶相は、酸化耐性の強い相と、酸化耐性の弱い相で構成されており、本触媒系においては、酸化耐性の強い相が、触媒活性種に相当することが非特許文献1に記載されているように知られている。ここで、複合酸化物に対して、過酸化水素水を用いた前処理を行うと、酸化耐性の弱い相は溶解されるものの、酸化耐性の強い相である触媒活性種は、溶解されず、酸化処理前の状態を維持することができる。このため、酸化処理を行うことにより、複合酸化物から、酸化耐性の弱い相を溶解し、触媒活性種を単離することができ、精度よく触媒活性種の組成を測定することができる。
【0027】
また、後述の(物性4)の測定方法に示されるように、処理前後において重量の増減がほぼ見られない担体の質量割合から、下記の式を用いて、複合酸化物の重量を100%とした時の、触媒活性種(G
1)の質量割合を算出することができる。触媒活性種の質量割合は、重量分率で、43質量%以上であることが好ましく、45質量%以上であることがより好ましく、48質量%以上であることがさらに好ましい。
【数1】
I
1:酸化物触媒中の担体の質量割合
I
2:過酸化水素水による酸化処理により得られる酸化物触媒の残留物中の担体の質量割合
【0028】
触媒活性種は、その他の金属元素(X)を更に含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。その他の金属元素(X)としては、特に制限されないが、例えば、Te、Ce、Ti、及びTaが挙げられる。触媒活性種がその他の金属元素(X)を含む場合、その他の金属元素(X)は、1種類の金属元素であってもよく、複数種類の金属元素であってもよい。なお、触媒活性種が、その他の金属元素(X)を含まない場合、組成式(1)は、下記式(1a)のように表される。
Mo
1V
aSb
bNb
cW
dO
n・・・(1a)
(a、b、c、d及びnは、組成式(1)と同義である。)
【0029】
触媒活性種の平均組成の測定は、上述のとおり、酸化物触媒から、過酸化水素水を用いて触媒活性種を単離し、単離した触媒活性種をSTEM−EDXにより測定でき、具体的には、実施例に記載の方法(物性1)によって行うことができる。
【0030】
組成式(1)におけるaは、0.050≦a≦0.200であり、0.050≦a≦0.150を満たすことが好ましく、0.080≦a≦0.150を満たすことがより好ましく、0.100≦a≦0.150を満たすことがさらに好ましく、0.100≦a≦0.130を満たすことがよりさらに好ましい。
【0031】
組成式(1)におけるbは、0.050≦b≦0.200であり、0.050≦b≦0.150を満たすことが好ましく、0.070≦b≦0.150を満たすことがより好ましく、0.080≦b≦0.150を満たすことがさらに好ましい。
【0032】
組成式(1)におけるcは、0.100≦c≦0.300であり、0.100≦c≦0.250を満たすことが好ましく、0.130≦c≦0.250を満たすことがより好ましく、0.140≦c≦0.200を満たすことがさらに好ましい。
【0033】
組成式(1)におけるdは、0≦d≦0.100であり、0<d≦0.100を満たすことが好ましく、0.010≦d≦0.100を満たすことがより好ましく、0.020≦d≦0.100を満たすことがさらに好ましい。
【0034】
組成式(1)におけるeは、0≦e≦0.100であり、0≦e≦0.050を満たすことが好ましく、0≦e≦0.010を満たすことがより好ましく、e=0を満たすことがさらに好ましい。なお、eは、モリブデン1原子に対する、Te、Ce、Ti及びTaからなる群より選ばれる1種以上の金属Xの含有率を示し、金属Xを2種以上含む場合には、その合計の含有率を示す。
【0035】
a、b、c、d、及びeがそれぞれ上記範囲を満たすことにより、不飽和ニトリルの収率がより向上する傾向にある。触媒活性種の平均組成は、酸化物触媒の製造の際に元素を含む原料成分量を調整することにより制御することができる。また、特にa≦cの関係式を満たすようにすることは、特定のNb含有液を原料として使用することにより制御することができる。
【0036】
組成式(1)は、0.050≦a≦0.150、及び0.100≦c≦0.250を満たすことが好ましく、0.050≦a≦0.150、0.080≦b≦0.150、0.100≦c≦0.250、及び0≦d≦0.100を満たすことがより好ましい。また、組成式(1)は、0.050≦a≦0.150、0.100≦c≦0.250、及びe=0を満たすことが好ましく、0.050≦a≦0.150、0.08≦b≦0.150、0.100≦c≦0.250、0≦d≦0.100、及び、及びe=0を満たすことがより好ましい。組成式(1)が上記組成を満たすことにより、不飽和ニトリルの収率がより向上する傾向にある。
【0037】
組成式(1)は、a≦cの関係式を満たし、不飽和ニトリルの収率をさらに向上させる観点から、1.1×a≦cの関係式を満たすことが好ましく、1.3×a≦cの関係式を満たすことがより好ましく、1.5×a≦cの関係式を満たすことがさらに好ましい。また、組成式(1)は、c≦a×3.0の関係式を満たすことが好ましく、c≦a×2.5の関係式を満たすことがより好ましく、c≦a×2.0の関係式を満たすことがさらに好ましい。
【0038】
触媒活性種に含まれるSbは、上述のとおり、気相接触アンモ酸化反応の活性点であると考えられるため、一定量含まれることが好ましい。具体的には、組成式(1)は、0.100≦b/(a+b+c)≦0.400の関係式を満たすことが好ましく、0.150≦b/(a+b+c)≦0.300の関係式を満たすことがより好ましく、0.200≦b/(a+b+c)≦0.300の関係式を満たすことがさらに好ましい。組成式(1)が上記関係式を満たすことにより、不飽和ニトリルの収率がより向上する傾向にある。
【0039】
触媒活性種は一定量のSbを含むことが好ましく、組成式(1)が、7.00≦100×b/(1+a)≦11.00の関係式を満たすことが好ましく、8.00≦100×b/(1+a)≦10.00の関係式を満たすことがより好ましく、8.50≦100×b/(1+a)≦10.00の関係式を満たすことがさらに好ましい。組成式(1)が)上記関係式を満たすことにより、不飽和ニトリルの収率がより向上する傾向にある。
【0040】
(担体)
本実施形態の酸化物触媒は、複合酸化物に加えて、担体を含んでいてもよい。すなわち、本実施形態の酸化物触媒は、複合酸化物が担体に担持された形態であってもよい。担体としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等の酸化物が用いられるが、目的物の選択性の低下が小さく、形成した触媒粒子の耐摩耗性、粒子強度が良好となる観点から、シリカが好適である。
【0041】
シリカ担体の量は、シリカ担体と複合酸化物の合計質量、すなわち酸化物触媒の総量に対して、通常20質量%〜80質量%であり、好ましくは30質量%〜70質量%であり、より好ましくは40質量%〜60質量%である。
【0042】
本実施形態の酸化物触媒の好ましい態様の一つは、複合酸化物を担持する担体としてシリカを含有し、シリカの質量割合が、前記酸化物触媒の総量に対して、SiO
2換算で、30質量%〜70質量%である酸化物触媒である。
【0043】
シリカ担体の原料としては特に限定されないが、例えば、シリカゾル(コロイダルシリカとも呼ばれる)、粉末状シリカ等が挙げられる。シリカ担体の原料としては、取り扱いの容易さの観点から、シリカゾルが好ましい。シリカゾルに含まれるシリカの平均一次粒子径は特に限定されない。また、シリカ担体としては、異なる平均一次粒子径を有するシリカゾルを混合して使用してもよい。
【0044】
本実施形態の酸化物触媒の形状及び粒子の大きさとしては、特に制限はないが、流動床触媒として使用する場合流動性の観点から、球状が好ましく、10〜150μmの粒子径を有することが好ましい。
【0045】
[酸化物触媒の製造方法]
本実施形態の酸化物触媒は、原料を適宜調合して前駆体スラリーを得る原料調合工程と、前駆体スラリーを乾燥して乾燥粒子を得る乾燥工程と、乾燥粒子を焼成して酸化物触媒を得る焼成工程と、を含む製造方法により製造することができる。また、本実施形態の酸化物触媒の製造方法は、必要に応じて、得られた酸化物触媒の突起体を除去する除去工程を有していてもよい。
【0046】
なお、以降において、水性混合液Aは基礎出願(特願2019-106015号公報及び特願2019-106018号公報)における、ニオブを含んでいない混合液(B)に相当する。また、ニオブ原料液Bは、基礎出願(特願2019-106015号公報及び特願2019-106018号公報)における、ニオブを含む触媒製造用組成物、触媒製造用組成物(A)あるいは混合液に相当する。さらに、前駆体スラリーCは、基礎出願(特願2019-106015号公報及び特願2019-106018号公報)における、前駆体スラリーあるいは原料調合液に相当する。
【0047】
(原料調合工程)
原料調合工程は、特に制限されないが、例えば、モリブデン原料、バナジウム原料、アンチモン原料、及び水を混合して水性混合液Aを調製する調製工程Aと、ニオブ原料と有機酸を混合してニオブ原料液Bを調製する調製工程Bと、水性混合液Aとニオブ原料液Bとを混合して前駆体スラリーCを調製する混合工程Cと、を含む。
【0048】
本実施形態の酸化物触媒は、調製工程Bにおいて後述する好ましい調製条件を採用するによって、または、混合工程Cにおいて後述する好ましい混合条件を採用することによって、製造することができる。
【0049】
次に、目的とする組成に合わせて、先立って調製工程Bで調製した有機酸とニオブ原料を含むニオブ原料液Bと水性混合液Aを混合して、原料調合液を前駆体スラリーとして得る(混合工程C)。例えば触媒がWやCeを含む場合は、Wを含む化合物を好適に混合して原料調合液を得る。WやCeを含む化合物は、水性混合液Aの中に添加することもできるし、ニオブ原料液Bと水性混合液Aを混合する際に同時に添加することもできる。
【0050】
酸化物触媒がシリカ担体含む、つまり、複合酸化物がシリカ担体に担持されている場合は、シリカゾルを含むように原料調合液を調製することができ、この場合、シリカゾルは適宜添加することができる。
【0051】
(調製工程A)
調製工程Aは、モリブデン原料、バナジウム原料、アンチモン原料、及び水を混合して水性混合液Aを調製する工程である。より具体的には、モリブデン原料、バナジウム原料、アンチモン原料を水に添加し、撹拌しながら所定の温度以上に加熱することにより、水性混合液Aを調製することができる。このとき、触媒がWやCeなどを含む場合は、タングステン原料やセリウム原料をさらに添加してもよい。
【0052】
ここで、水性混合液Aに用いる成分原料としては、特に限定されず、例えば、下記の化合物を用いることができる。
【0053】
モリブデン原料としては、特に制限されないが、例えば、酸化モリブデン、ジモリブデン酸アンモニウム、ヘプタモリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸が挙げられ、中でも、ヘプタモリブデン酸アンモニウムを好適に用いることができる。
【0054】
バナジウム原料としては、特に制限されないが、例えば、五酸化バナジウム、メタバナジン酸アンモニウム、硫酸バナジルが挙げられ、中でも、メタバナジン酸アンモニウムを好適に用いることができる。
【0055】
アンチモン原料としては、アンチモン酸化物を好適に用いることができる。また、タングステン原料としては、特に制限されないが、例えば、メタタングステン酸アンモニウムが好適に用いられる。セリウム原料としては、特に制限されないが、例えば、硝酸セリウム・6水和物が好適に用いられる。
【0056】
撹拌時の温度の下限は、通常、80℃以上であり、90℃以上が好ましい。各判事の温度を80℃以上とすることにより、水に対し、一般的に難溶解性であるアンチモン酸化物と他の酸化物原料(例えば、バナジウム原料)との酸化/還元反応がより促進される傾向にある。一方で、撹拌時の温度の上限は、通常、突沸を避けるため、100℃以下であることが好ましい。
【0057】
(調製工程B)
調製工程Bは、ニオブ原料と有機酸を混合してニオブ原料液Bを調製する工程である。調製工程Bにおいては、水をさらに混合してもよい。ニオブ原料は一般に難溶性であるため、有機酸を共存させて水中に溶解させる。この際、本実施形態の酸化物触媒の調製においては、ニオブ原料液BにおけるNb含量が高く、Nbの分散性が良好であることが好ましい。
【0058】
このような観点から、調製工程Bにおいては有機酸とNbのモル比や濁度を調製しつつ、ニオブ原料と有機酸を撹拌しながら加熱しながらで混合することが好ましい。より具体的には、Nbに対する有機酸のモル比(有機酸/Nb)を2.40以下とすることで、Nb濃度を十分に高くすると共に、還元剤として機能する有機酸の使用量を十分に減らすことができる。また、ニオブ原料液Bの濁度を500NTU以下とすることで、十分に高濃度のNbが含まれていながらも、Nbの分散性を良好に保つことができる。このようにして得られるニオブ原料液Bにより、本実施形態の酸化物触媒における複合酸化物中のNbの含有率を高め、アルカンの分解活性を引き起こすと考えられるVの含有率を相対的に低くすることで、不飽和ニトリルの収率を高めることができる。
【0059】
ニオブ原料としては、Nbを含む化合物であれば特に限定されないが、いずれも難溶性であるので有機酸を共存させて溶解させる。ニオブ原料の具体例としては、以下に限定されないが、シュウ酸水素ニオブ、シュウ酸ニオブアンモニウム、NbCl
3、NbCl
5、Nb
2(C
2O
4)
5、Nb
2O
5、ニオブ酸、Nb(OC
2H
5)
5、ニオブのハロゲン化物、ニオブのハロゲン化アンモニウム塩、及びこれらの組み合わせを挙げることができる。これらの中でも、ニオブ原料液Bに他の金属を添加する場合に、他の金属への影響を低減する観点から、ニオブ酸及びシュウ酸水素ニオブが好ましい。なお、ニオブ酸は水酸化ニオブ及び酸化ニオブを含む。ニオブ原料は、長期保存や脱水の進行によって変質する場合があるため、ニオブ原料液Bの調製にはニオブ原料製造直後のものを用いるのが好ましいが、多少変質した化合物を用いてもよい。
【0060】
ニオブ原料液Bの調製に際して、ニオブ原料は、固体でもよいし、懸濁液の形態であってもよい。ニオブ酸を使用する場合は、溶解し易さの観点から、粒径が小さいほうが好ましい。ニオブ酸は使用前にアンモニア水及び/又は水によって洗浄することもできる。
【0061】
有機酸としては、特に限定されないが、例えば、ジカルボン酸を挙げることができる。ジカルボン酸の具体例としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸が挙げられるが、触媒製造時の焼成段階における金属酸化物の過還元を抑制する観点から、シュウ酸が好ましく、より具体的にはシュウ酸無水物及びシュウ酸二水和物が好ましい。ジカルボン酸は、一種のみを加えてもよいし、複数のジカルボン酸を組み合わせてもよい。
【0062】
上述したように、Nbに対する有機酸のモル比(有機酸/Nb)は、低いことが好ましい。モル比(有機酸/Nb)の値が大きくなるほどNb濃度が低くなり、ニオブ原料液BにおけるNbの分散性および安定性は良好となる傾向にあるが、過度に大きいと還元剤として働く有機酸の影響で得られる触媒が過還元となるおそれがあり、またNb量が不足することで活性点となる触媒活性種が十分に形成されず生成物の分解抑制効果も十分に得られなくなる。一方、モル比(有機酸/Nb)の値が小さくなるほどNb濃度が高くなり、十分な量のNbを含むニオブ原料液Bとなるが、当該ニオブ原料液BにおけるNbの分散性が低下し、結果として触媒活性種内へのNbの均一な導入が困難となる。このような観点から、上記モル比(有機酸/Nb)を2.40以下とする。すなわち、上記モル比を2.40以下とすることで、還元剤として働く有機酸の導入量を過剰にすることなく十分な量のNbを導入することが出来るため、活性点となる触媒活性種が十分に形成され、生成物の分解抑制効果も十分に得ることができ、結果として得られる触媒の性能が良好なものとなる。上記同様の観点から、上記モル比(有機酸/Nb)は、2.20以下であることが好ましく、1.90以上2.18以下であることがより好ましく、1.95以上2.15以下であることが更に好ましい。
【0063】
なお、前述したように、仮にニオブ原料液B中におけるNbの分散性が良好な状態でない場合はNbの沈殿が観測され、Nb濃度の値の経時的な変化が顕著となる傾向にある。そのため、本実施形態におけるモル比は、ニオブ原料液Bの調製直後から常温にて1日静置した後の濃度に基づいて評価することとする。なお、本明細書中、「常温」は15〜25℃程度の温度を意味する。上記モル比は、具体的には、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。また、上記モル比(有機酸/Nb)は、用いる原料の比率により、上記した範囲に調整することができる。
【0064】
ニオブ原料液Bの濁度は、値が大きくなるほどNbの分散性が悪いことを示唆し、値が小さくなるほどNbの分散性が良好であることを示唆する。このような観点から、ニオブ原料液Bの濁度は500NTU以下である。本実施形態においては、前述のように、モル比(有機酸/Nb)を2.40以下と低減しているにもかかわらず、濁度が十分に低いことから、活性点となる触媒活性種が十分に形成され、生成物の分解抑制効果も十分に得ることができる。またこれに加え、Nbの良好な分散性により触媒活性種内へのNbの均一な導入が可能となり、結果として得られる酸化物触媒の性能がとりわけ良好なものとなる。上記同様の観点から、上記濁度は0.5NTU以上400NTU以下であることが好ましく、1.0NTU以上200NTU以下であることがより好ましい。
【0065】
なお、前述したように、仮にニオブ原料液B中におけるNbの分散性が良好な状態でない場合はNbの沈殿が観測され、濁度の値の経時的な変化が顕著となる傾向にある。そのため、本実施形態における濁度も、ニオブ原料液Bの調製直後から常温にて1日静置した後の濁度に基づいて評価することとする。上記濁度は、具体的には、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。また、上記濁度は、後述する好ましい製法を採用することにより、上記した範囲に調整することができる。
【0066】
調製工程Bにおける混合温度は、60℃超80℃未満が好ましく、63℃以上78℃以下であることがより好ましく、65℃以上75℃以下であることがさらに好ましい。上記混合温度が60℃超とすることにより、Nbの十分な分散が促進される傾向にある。また、上記混合温度が80℃未満とすることにより、ニオブ原料液B中で形成される有機酸とNbとの錯体が安定化し、Nbが高濃度であっても十分な分散性が確保される傾向にある。また、調製工程Bにおいては、上記加熱と共に攪拌を行うことが好ましい。これにより、モル比(有機酸/Nb)を上記範囲内に抑えつつも、濁度を低く抑得ることができる。
【0067】
また、調製工程Bにおける混合時間は、有機酸とニオブ原料の反応を十分に進める観点から反応時間を十分に長くとることが望ましいが、長すぎると混合液が加温された状態に過剰に長時間さらされるために有機酸とNbの錯体の安定性が低下する懸念がある。Nbが高濃度であっても十分な分散性を確保する観点から、溶解工程を1時間以上8時間以下で実施することが好ましく、より好ましくは3時間以上7時間以下であり、さらに好ましくは4時間以上6時間以下である。
【0068】
有機酸とニオブ原料を撹拌しながら加熱した場合は、有機酸とニオブ原料の混合物の温度を5℃以下に冷却した後、固体を吸引濾過によって濾別し、ニオブ原料液Bとする。
【0069】
上記の中でも、本実施形態の酸化物触媒をより効率的に得る観点から、有機酸とNbのモル比を有機酸/Nbとして、2.40以下とし、且つ有機酸とニオブ原料を撹拌しながら80℃以下で混合することが好ましい。これらを満たす条件を調製条件bという。
【0070】
(混合工程C)
混合工程Cは、水性混合液Aとニオブ原料液Bとを混合して前駆体スラリーCを調製する工程である。混合工程Cにおいては、必要に応じて、過酸化水素、塩基性水溶液、タングステン原料やセリウム原料などの他の金属原料、及び/又は担体原料をさらに混合してもよい。このようにして得られる前駆体スラリーCは均一な混合液の場合もあるが、通常はスラリーである。
【0071】
混合工程Cの混合条件は、特に制限されないが、例えば、混合温度は50℃以上80℃以下が好ましく、60℃以上80℃以下がより好ましい。また、撹拌時間は、1時間以上5時間以下が好ましい。
【0072】
混合工程Cにおいて過酸化水素を添加する方法としては、例えば、水性混合液Aと過酸化水素を混合してから、さらにニオブ原料液Bを混合する方法;ニオブ原料液Bと過酸化水素を混合してから、さらに水性混合液Aを混合する方法;水性混合液A、ニオブ原料液B、過酸化水素を同時に混合する方法;水性混合液Aとニオブ原料液B混合してから、さらに、過酸化水素を混合する方法が挙げられる。このなかでも、水性混合液Aと過酸化水素を混合してから、さらにニオブ原料液Bを混合する方法が好ましい。
【0073】
混合工程Cにおいて過酸化水素を添加する場合、水性混合液A中のアンチモン(Sb)に対する過酸化水素のモル比(H
2O
2/Sb)は、好ましくは0.01以上5.0以下であり、より好ましくは2.0以上4.0以下であり、さらに好ましくは2.5以上3.5以下である。また、水性混合液Aと過酸化水素を混合する場合は、加熱条件下で、水性混合液Aを撹拌しながら過酸化水素を添加することが好ましい。このとき、温度は、通常、30℃〜70℃であり、60℃以上であることが好ましい。また、撹拌時間は、30分〜2時間であることが好ましい。
【0074】
さらに、混合工程Cにおいて塩基性水溶液を添加する方法としては、例えば、水性混合液Aと塩基性水溶液を混合してから、さらにニオブ原料液Bを混合する方法;ニオブ原料液Bと塩基性水溶液を混合してから、さらに水性混合液Aを混合する方法;水性混合液A、ニオブ原料液B、塩基性水溶液を同時に混合する方法;水性混合液Aとニオブ原料液B混合してから、さらに、塩基性水溶液を混合する方法が挙げられる。このなかでも、水性混合液Aとニオブ原料液B混合してから、さらに、塩基性水溶液を混合する方法が好ましい。
【0075】
混合工程Cにおいて添加する塩基性水溶液としては、特に制限されないが、例えば、アンモニア水、アミン、アルカリ水溶液等が挙げられる。このなかでも、乾燥工程において、大部分が蒸発し、その後の工程に影響を及ぼさないことから、アンモニア水であることが最も好ましい。
【0076】
混合工程Cにおいて塩基性水溶液を添加する場合、ニオブ原料液B中のニオブ(Nb)に対するNH
3のモル比(NH
3/Nb)は、好ましくは0.01以上5以下であり、より好ましくは2.0以上4以下であり、さらに好ましくは2.5以上3.5以下である。
【0077】
上記の中でも、本実施形態の酸化物触媒より効率的に得る観点から、混合工程Cにおいて、アンチモン(Sb)に対する過酸化水素のモル比(H
2O
2/Sb)が2.5以上となるように過酸化水素を混合し、且つ、ニオブ(Nb)に対するアンモニアのモル比(NH
3/Nb)が2.0以上になるようにアンモニアを混合することが好ましい。また、混合工程CにおけるpHを5以上とし、60℃以上の加熱条件下で撹拌して、前駆体スラリーを得ることが好ましい。これらを満たす条件を混合条件cという。なお、pHは、上述した塩基性水溶液を用いて調整することができる。
【0078】
混合工程Cにおいてタングステン原料やセリウム原料などの他の金属原料を添加する方法としては、例えば、水性混合液Aと他の金属原料を混合してから、さらにニオブ原料液Bを混合する方法;ニオブ原料液Bと他の金属原料を混合してから、さらに水性混合液Aを混合する方法;水性混合液A、ニオブ原料液B、他の金属原料を同時に混合する方法;水性混合液Aとニオブ原料液Bを混合してから、さらに、他の金属原料を混合する方法が挙げられる。
【0079】
また、混合工程Cにおいて担体原料を添加する方法としては、例えば、水性混合液Aと担体原料を混合してから、さらにニオブ原料液Bを混合する方法;ニオブ原料液Bと担体原料を混合してから、さらに水性混合液Aを混合する方法;水性混合液A、ニオブ原料液B、担体原料を同時に混合する方法;水性混合液Aとニオブ原料液Bを混合してから、さらに、担体原料を混合する方法が挙げられる。
【0080】
なお、複合酸化物がシリカ担体に担持された酸化物触媒を得る場合は、担体原料としては、シリカゾルを用いることができる。
【0081】
(その他の条件)
上記調製条件bと混合条件cを両方採用することにより、上述した各関係式を満たす酸化物触媒が得られる。特に、1.1×a≦cや1.5×a≦cの関係式や、8.00≦100×b/(1+a)≦10.00の関係式を満たす酸化物触媒を得ることができるため、好ましい。
【0082】
また、上記調製条件b又は混合条件cと同時に、水性混合液Aに含まれるバナジウム原料の量が、ニオブ原料液Bに含まれるニオブ原料の量に対し、相対的に低いことが好ましい。具体的には、ニオブ原料に含まれるニオブ原子に対するバナジウム原料に含まれるバナジウム原子の原子比V/Nbが、2.7以下であることが好ましく、2.0以下であることがより好ましく、1.7以下であることがさらに好ましい。原子比V/Nbは、水性混合液Aのバナジウム原料とニオブ原料液Bのニオブ原料の各濃度や、水性混合液Aとニオブ原料液Bの混合比により調整することができる。
【0083】
(乾燥工程)
乾燥工程は、上述の工程で得られた前駆体スラリーCを乾燥して、乾燥粉体を得る工程である。乾燥は公知の方法で行うことができ、例えば、噴霧乾燥又は蒸発乾固によって行うことができる。このなかでも、噴霧乾燥により微小球状の乾燥粉体を得ることが好ましい。噴霧乾燥法における噴霧化は、遠心方式、二流体ノズル方式、又は高圧ノズル方式によって行うことができる。乾燥熱源は、スチーム、電気ヒーターなどによって加熱された空気を用いることができる。噴霧乾燥装置の乾燥機入口温度は150〜300℃が好ましく、乾燥機出口温度は100〜160℃が好ましい。
【0084】
(焼成工程)
焼成工程は、乾燥工程で得られた乾燥粉体を焼成して酸化物触媒を得る工程である。焼成装置としては、回転炉(ロータリーキルン)を使用することができる。焼成器の形状は特に限定されないが、管状であると、連続的な焼成を実施することができるため好ましい。焼成管の形状は特に限定されないが、円筒であるのが好ましい。加熱方式は外熱式が好ましく、電気炉を好適に使用できる。
【0085】
焼成管の大きさ、材質等は焼成条件や製造量に応じて適当なものを選択することができるが、その内径は、好ましくは70〜2000mm、より好ましくは100〜1200mmであり、その長さは、好ましくは200〜10000mm、より好ましくは800〜8000mmである。焼成器に衝撃を与える場合、焼成器の肉厚は衝撃により破損しない程度の十分な厚みを持つという観点から、好ましくは2mm以上、より好ましくは4mm以上であり、また衝撃が焼成器内部まで十分に伝わるという観点から、好ましくは100mm以下、より好ましくは50mm以下である。焼成器の材質としては、耐熱性があり衝撃により破損しない強度を持つものであること以外は特に限定されず、SUSを好適に使用できる。
【0086】
焼成管の中には、粉体が通過するための穴を中心部に有する堰板を、粉体の流れと垂直に設けて焼成管を2つ以上の区域に仕切ることもできる。堰板を設置する事により焼成管内滞留時間を確保しやすくなる。堰板の数は1つでも複数でもよい。堰板の材質は金属が好ましく、焼成管と同じ材質のものを好適に使用できる。堰板の高さは確保すべき滞留時間に合わせて調整することができる。例えば内径150mm、長さ1150mmのSUS製の焼成管を有する回転炉で250g/hrで粉体を供給する場合、堰板は好ましくは5〜50mm、より好ましくは10〜40mm、更に好ましくは13〜35mmである。堰板の厚みは特に限定されず、焼成管の大きさに合わせて調整することが好ましい。例えば内径150mm、長さ1150mmのSUS製の焼成管を有する回転炉の場合、焼成管の厚みは、好ましくは0.3mm以上30mm以下、より好ましくは0.5mm以上15mm以下である。
【0087】
乾燥粉体の割れ、ひび等を防ぐと共に、均一に焼成するために、焼成管を回転させるのが好ましい。焼成管の回転速度は、好ましくは0.1〜30rpm、より好ましくは0.5〜20rpm、更に好ましくは1〜10rpmである。
【0088】
乾燥粉体の焼成には、乾燥粉体の加熱温度を、400℃より低い温度から昇温を始めて、550〜800℃の範囲内にある温度まで連続的に又は断続的に昇温するのが好ましい。
【0089】
焼成雰囲気は、空気雰囲気下でも空気流通下でもよいが、焼成の少なくとも一部を、窒素等の実質的に酸素を含まない不活性ガスを流通させながら実施することが好ましい。不活性ガスの供給量は乾燥粉体1kg当たり、50Nリットル以上であり、好ましくは50〜5000Nリットル、更に好ましくは50〜3000Nリットルである(Nリットルは、標準温度・圧力条件、即ち0℃、1気圧で測定したリットルを意味する)。このとき、不活性ガスと乾燥粉体は向流でも並流でも問題ないが、乾燥粉体から発生するガス成分や、乾燥粉体とともに微量混入する空気を考慮すると、向流接触が好ましい。
【0090】
焼成工程は、1段でも実施可能であるが、焼成が前段焼成と本焼成からなり、前段焼成を250〜400℃の温度範囲で行い、本焼成を550〜800℃の温度範囲で行うことが好ましい。前段焼成と本焼成を連続して実施してもよいし、前段焼成を一旦完了してからあらためて本焼成を実施してもよい。また、前段焼成及び本焼成のそれぞれが数段に分かれていてもよい。
【0091】
前段焼成は、好ましくは不活性ガス流通下、加熱温度250℃〜400℃、好ましくは300℃〜400℃の範囲で行う。250℃〜400℃の温度範囲内の一定温度で保持することが好ましいが、250℃〜400℃範囲内で温度が変動する、若しくは緩やかに昇温、降温しても構わない。加熱温度の保持時間は、好ましくは30分以上、より好ましくは3〜12時間である。
【0092】
前段焼成温度に達するまでの昇温パターンは直線的に上げてもよいし、上又は下に凸なる弧を描いて昇温してもよい。
【0093】
前段焼成温度に達するまでの昇温時の平均昇温速度には特に限定はないが、一般に0.1〜15℃/min程度であり、好ましくは0.5〜5℃/min、更に好ましくは1〜2℃/minである。
【0094】
本焼成は、好ましくは不活性ガス流通下、550〜800℃、好ましくは580〜750℃、より好ましくは600〜720℃、更に好ましくは620〜700℃で実施する。620〜700℃の温度範囲内の一定温度で保持することが好ましいが、620〜700℃の範囲内で温度が変動する、若しくは緩やかに昇温、降温しても構わない。本焼成の時間は0.5〜20時間、好ましくは1〜15時間である。
【0095】
焼成管を堰板で区切る場合、乾燥粉体及び/又は複合酸化物触媒は少なくとも2つ、好ましくは2〜20、より好ましくは4〜15の区域を連続して通過する。温度の制御は1つ以上の制御器を用いて行うことができるが、前記所望の焼成パターンを得るために、これら堰で区切られた区域ごとにヒーターと制御器を設置し、制御することが好ましい。例えば、堰板を焼成管の加熱炉内に入る部分の長さを8等分するように7枚設置し、8つの区域に仕切った焼成管を用いる場合、乾燥粉体及び/又は複合酸化物触媒の温度が前記所望の焼成温度パターンとなるよう8つの区域を各々の区域について設置したヒーターと制御器により設定温度を制御することが好ましい。なお、不活性ガス流通下の焼成雰囲気には、所望により、酸化性成分(例えば酸素)又は還元性成分(例えばアンモニア)を添加してもかまわない。
【0096】
本焼成温度に達するまでの昇温パターンは直線的に上げてもよいし、上又は下に凸なる弧を描いて昇温してもよい。
【0097】
本焼成温度に達するまでの昇温時の平均昇温速度には特に限定はないが、一般に0.1〜15℃/min、好ましくは0.5〜10℃/min、より好ましくは1〜8℃/minである。
【0098】
本焼成終了後の平均降温速度は好ましくは0.05〜100℃/min、より好ましくは0.1〜50℃/minである。また、本焼成温度より低い温度で一旦保持することも好ましい。保持する温度は、本焼成温度より10℃、好ましくは50℃、より好ましくは100℃低い温度である。保持する時間は、0.5時間以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは3時間以上、さらに好ましくは10時間以上である。
【0099】
前段焼成を一旦完了してからあらためて本焼成を実施する場合は、本焼成で低温処理を行うことが好ましい。
【0100】
低温処理に要する時間、すなわち乾燥粉体及び/又は複合酸化物触媒の温度を低下させた後、昇温して焼成温度にするまでに要する時間は、焼成器の大きさ、肉厚、材質、触媒生産量、連続的に乾燥粉体及び/又は複合酸化物触媒を焼成する一連の期間、固着速度・固着量等により適宜調整することが可能である。例えば、内径500mm、長さ4500mm、肉厚20mmのSUS製焼成管を使用する場合においては、連続的に触媒を焼成する一連の期間中に好ましくは30日以内、より好ましくは15日以内、更に好ましくは3日以内、特に好ましくは2日以内である。
【0101】
例えば、内径500mm、長さ4500mm、肉厚20mmのSUS製の焼成管を有する回転炉により6rpmで回転しながら35kg/hrの速度で乾燥粉体を供給し、本焼成温度を645℃に設定する場合、温度を400℃まで低下させた後、昇温して645℃にする工程を1日程度で行うことができる。1年間連続的に焼成する場合、このような低温処理を1ヶ月に1回の頻度で実施することで、安定して酸化物層温度を維持しながら焼成することができる。
【0102】
[不飽和ニトリルの製造方法]
本実施形態の不飽和ニトリルの製造方法は、本実施形態の酸化物触媒の存在下において、プロパン又はイソブタンを気相接触アンモ酸化反応させて、不飽和ニトリルを製造する。
【0103】
(原料)
原料のプロパン又はイソブタン及びアンモニアは必ずしも高純度である必要はなく、エタン、エチレン、n−ブタン等の不純物を3vol%以下含むプロパンや、水等の不純物を3vol%以下程度含むアンモニアのような工業グレードのガスを使用できる。酸素含有ガスとしては、特に限定されないが、例えば、空気、酸素を富化した空気、純酸素、又はこれらをヘリウム、アルゴン、二酸化炭素、窒素等の不活性ガス若しくは水蒸気で希釈したガスを反応に供することもできる。このなかでも、工業スケールで用いる場合には簡便さから空気を用いることが好ましい。
【0104】
(反応条件)
プロパン又はイソブタンの気相接触アンモ酸化反応は、特に限定されないが、例えば、以下の条件で行うことができる。反応に供給する酸素のプロパン又はイソブタンに対するモル比は好ましくは0.1〜6であり、より好ましくは0.5〜4である。反応に供給するアンモニアのプロパン又はイソブタンに対するモル比は、好ましくは0.3〜1.5であり、より好ましくは0.7〜1.2である。
【0105】
反応温度は、好ましくは350〜500℃であり、より好ましくは380〜470℃である。反応圧力は、好ましくは5×10
4〜5×10
5Paであり、より好ましくは1×10
5〜3×10
5Paである。接触時間は、好ましくは0.1〜10sec・g/cm
3であり、より好ましくは0.5〜5sec・g/cm
3である。気相接触アンモ酸化反応の諸条件を上記範囲とすることにより、副生成物の生成をより抑制し、不飽和ニトリルの収率をより向上できる傾向にある。
【0106】
本実施形態において、接触時間は次式で定義される。
接触時間(sec・g/cm
3)=(W/F)×273/(273+T)
ここで、W、F及びTは次のように定義される。
W=充填触媒量(g)
F=標準状態(0℃、1.013×10
5Pa)における原料混合ガス流量(Ncm
3/sec)
T=反応温度(℃)
【0107】
気相接触アンモ酸化反応における反応方式は、固定床、流動床、移動床等従来の方式を採用できる。このなかでも、反応熱の除去が容易な流動床反応器が好ましい。また、気相接触アンモ酸化反応は、単流式であってもリサイクル式であってもよい。
【実施例】
【0108】
以下、具体的な実施例及び比較例を挙げて本実施形態をさらに詳細に説明するが、本実施形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例及び比較例によって何ら限定されるものではない。後述する、実施例及び比較例において行われた各種の物性及び評価は、以下の方法により測定された。
【0109】
[実施例1]
<調製工程A;水性混合液(A
1)の調製>
水2572gに、ヘプタモリブデン酸アンモニウム〔(NH
4)
6Mo
7O
24・4H
2O〕436.4gと、メタバナジン酸アンモニウム〔NH
4VO
3〕54.6gと、三酸化二アンチモン〔Sb
2O
3〕91.4gと、硝酸セリウム〔Ce(NO
3)
3・6H
2O〕5.4gとを加え、攪拌しながら98℃で2時間加熱して水性混合液(A
1)を調製した。
【0110】
<調製工程B;ニオブ原料液(B
1)の調製>
次の方法でニオブ原料液を調液した。水57.9kgを混合槽内に加え、その後、水を45℃まで加熱した。次に、攪拌しながら、シュウ酸二水和物〔H
2C
2O
4・2H
2O〕72.2kgを投入し、続いてNb
2O
5として76.0質量%を含有するニオブ酸19.9kgを投入し、両者を水中で混合した。この液を70℃で8時間加熱撹拌することによって、水性混合液を得た。この水性混合液を静置、氷冷後、固体を吸引濾過によって濾別し、均一なニオブ原料液(B
1)を得た。このニオブ原料液のシュウ酸/ニオブのモル比は下記の分析により2.11であった。得られたニオブ原料液は、下記の実施例2〜5の酸化物触媒の製造におけるニオブ原料液(B
1)として用いた。
【0111】
ニオブ原料液(B
1)のシュウ酸/ニオブのモル比は下記のように算出した。調製から1日経過後、ニオブ原料液(B
1)を40℃で20分攪拌する加熱処理を実施し、当該加熱処理から20℃で7日静置した後、シュウ酸/ニオブのモル比と濁度を測定した。
【0112】
るつぼに、ニオブ原料液(B
1)10gを精秤し、120℃で2時間乾燥した後、600℃で2時間熱処理して得られた固体のNb
2O
5の重さから上記水性混合液内のNb濃度を算出したところ、Nb濃度は1.072mol/kgであった。
【0113】
また、300mLのガラスビーカーにニオブ原料液(B
1)3gを精秤し、約80℃の熱水20mLを加え、続いて1:1硫酸10mLを加えた。このようにして得られた混合液をウォーターバス中で液温70℃に保ちながら、攪拌下、1/4規定KMnO
4を用いて滴定した。KMnO
4によるかすかな淡桃色が約30秒以上続く点を終点とした。シュウ酸濃度は、滴定量から次式に従って算出したところ、シュウ酸濃度は2.26mol/kgであった。
2KMnO
4+3H
2SO
4+5H
2C
2O
4→K
2SO
4+2MnSO
4+10CO
2+8H
2O
【0114】
さらに、濁度は、ニオブ原料液(B
1)を調製から1日静置した後、HACH社製 2100AN Turbidimeterを用いて測定した。溶液30mLを測定セルに入れ、US EPA method 180.1に基づいて測定を行ったところ、ニオブ原料液(B
1)の濁度は69NTUであった。
【0115】
<混合工程;前駆体スラリー(C
1)の調製>
得られた水性混合液(A
1)を70℃に冷却した後に、その水性混合液(A
1)に対し、SiO
2として34.1質量%を含有するシリカゾル593.8gを添加し、さらに、液温が55℃となった時点で、H
2O
2として30質量%含有する過酸化水素水181gを添加し、水性混合液(A
1')を得た。その直後、ニオブ原料液(B
1)309.1g、メタタングステン酸アンモニウム水溶液を34.2g(純度50%)、粉体シリカ247.5gを水2228gに分散させた分散液を、水性混合液(A
1)に順次添加した後に、25%アンモニア水を51.7g添加し、65℃で2.5時間攪拌熟成し、前駆体スラリー(C
1)を得た。
【0116】
<乾燥工程;乾燥粉体(E
1)の調製>
得られた前駆体スラリー(C
1)を、遠心式噴霧乾燥器に供給して乾燥し、微小球状の乾燥粉体(D
1)を得た。乾燥熱源は空気とした。なお、以下の実施例及び比較例の遠心式噴霧乾燥器においても同様の乾燥熱源を用いた。乾燥器の入口温度は210℃、出口温度は120℃であった。得られた乾燥粉体(D
1)を目開き32μmの篩を用いて分級し、分級品である乾燥粉体(E
1)を得た。
【0117】
<焼成工程;酸化物触媒(F
1)の調製>
得られた乾燥粉体(E
1)100gを直径3インチのパイレックス製焼成管(パイレックスは登録商標)に充填し、5.0NL/minの窒素ガス流通下、管を回転させながら、685℃で2時間焼成して酸化物触媒(F
1)を得た。
【0118】
<除去工程>
底部に直径1/64インチの3つの穴のある穴あき円盤を備え、上部にペーパーフィルターを設けた垂直チューブ(内径41.6mm、長さ70cm)に酸化物触媒(F
1)を50g投入した。次いで、それぞれの穴を経由して、その垂直チューブの下方から上方に向けて、室温にて空気を流通させて、焼成体同士の接触を促した。このときの気流が流れる方向における気流長さは56mm、気流の平均線速は332m/sであった。24時間後に得られた酸化物触媒(F
1)中には突起体が存在しなかった。
【0119】
<物性1;触媒活性種(G
1)のSTEM−EDXによる組成分析>
500mLのガラスビーカーにH
2O
2を10質量%含有する過酸化水素水200gを入れ、水温を27℃に調整した。そして、この過酸化水素水に対して、突起体を除去した後の酸化物触媒(F
1)15gを加え、マグネチックスターラーを用いて500rpmで5時間攪拌した後、吸引濾過により不溶成分を得た。得られた不溶成分を、50℃で12時間乾燥し、残留物(H1)を回収した。回収した残留物(H
1)は、過酸化水素水による酸化処理により、触媒活性種(G
1)と担体(例えばシリカ)以外のその他の結晶が取り除かれたものであり、触媒活性種(G
1)と担体を含むものである。
【0120】
得られた残留物(H
1)を、乳鉢で30秒すりつぶして粉体試料を得た。そして、得られた粉体試料0.1gと、エタノール液6mLを、内容積10mLのバイヤル瓶に入れた。そのバイヤル瓶を卓上型超音波洗浄機(ヤマト科学社製YAMATO BRANSON)内に置き、60秒間超音波で振動させて、残留物(H
1)の粉体試料を、エタノール液に分散させた。
【0121】
その後、この粉体試料のエタノール分散液をカーボン支持膜が付いたCuメッシュ(エラスチックカーボン支持膜;グリットピッチ 100μm;応研商事株式会社製)上に滴下し、その後、1分程度保持したのち、滴下した液を濾紙など使い除去した。これにより、分散液中の触媒粒子をCuメッシュのカーボン支持膜上に乗せたサンプルを作製した。子のようにして作製したサンプルをSTEM−EDXを用いて観察した。
【0122】
粉体試料中の触媒活性種(G
1)の組成定量には、エネルギー分散型特性X線検出器を装備した走査型透過電子顕微鏡(STEM−EDX)を用いた。走査型透過電子顕微鏡(STEM)はHD2300A(日立ハイテクノロジーズ製)を使用し、エネルギー分散型特性X線(EDX)検出器には、Apollo XLT2 SUTW(アメテック製)を用いた。また、EDX計測および解析のソフトとしてGenesis(Ver6.53、アメテック製)を用いた。
【0123】
EDXのエネルギー校正方法は以下のとおりであった。AlとCuが存在する試料を用いて、200kVで加速された電子線を試料に照射し、特性X線を検出した。この時検出された特性X線のスペクトルにおいて、Al−Kα線のピーク強度がCu−Kα線のピーク強度と同程度もしくは少し高くなり、かつカウント数(CPS)が1000〜5000cpsになる測定場所を選択した。ソフト上のCalibration機能を用いて、測定回数5回とし、ピーク1にAl−Kα線のエネルギー値(1.486eV)を、ピーク2にCu−Kα線のエネルギー値(8.04eV)を設定して、エネルギー値の校正を実施した。
【0124】
特性X線の測定条件は以下のとおりであった。加速電圧200kV、Operation Mode;Normal、対物絞りNo.2(穴径60μmΦ、照射角 約15mrad)、検出器傾斜角度26°、EDXアパーチャーを挿入し、触媒粒子の中心部分周辺を含むようにエリア分析によりスペクトルを測定する。EDX検出条件は時定数7.68μsec、積算時間70〜80sec程度で測定した。
【0125】
定量手法はSTEM用薄膜補正法(Thin Apx)を用いた。Nb、Mo、Sb、WではL線を、VはK線を使用し定量を実施した。定量の際に用いるKファクターは、ソフト上に登録されている値、Nb−L:3.52,Mo−L;3.62,Sb−L;5.59,V−K;1.34, W−L;7.68(装置メーカー;アメテックEDAXの推奨値であるKファクター)を使用した。また、定量の際に用いる試料密度は7.8g/cm
3(Nb、Mo、Sb、Vの平均密度)とし、膜厚は50nmと設定した。バックグラウンド除去はオートとして定量を行った。
【0126】
15点測定しそれらを平均することで触媒活性種(G
1)の組成を算出した。この際、担体(例えばシリカ)が組成として算出された場合は測定結果から除外した。また、上述した過酸化水素水による酸化処理を経ることで、サンプル中に結晶として存在する粒子は触媒活性種(G
1)のみである。よって、観察視野の中で、観測された粒子の内、結晶の周期性を反映した格子縞が観測されている粒子を観測することで、触媒活性種(G
1)を効率的に探すことができる。触媒活性種(G
1)の組成を表1に示す。
【0127】
<物性2;プロパンのアンモ酸化反応の反応評価>
上記で得られた酸化物触媒(F
1)を用いて、以下の方法により、プロパンを気相接触アンモ酸化反応に供した。内径25mmのバイコールガラス流動床型反応管に酸化物触媒を40g充填し、反応温度445℃、反応圧力40kPaでプロパン:アンモニア:酸素:ヘリウム=1:1.1:2.9:11.6のモル比の混合ガスを接触時間3.0(sec・g/cm
3)で供給した。
【0128】
アクリロニトリルの収率は次のように求めた。生成したアクリロニトリルのモル数を、予め濃度既知のアクリロニトリルのガスをガスクロマトグラフィー(GC:島津製作所社製の製品名「GC2014」)にて分析して検量線を採った後に、アンモ酸化反応によって生成したガスをGCに定量注入し、測定した。測定したアクリロニトリルのモル数から、下記式に従い、アクリロニトリルの収率を求めた。
アクリロニトリルの収率(%)=(生成したアクリロニトリルのモル数)/(供給したプロパンのモル数)×100
この触媒(F
1)について連続して反応を行い、反応開始10日後に測定したアクリロニトリル(AN)の反応収率を表1に示す。
【0129】
<物性3;担体量の測定>
担体量は、酸化物触媒(F
1)の総量(100質量%)に対するSiO
2担体量(質量%)として、得られた酸化物触媒(F
1)を、一軸式メノー製自動乳鉢器(日陶科学社製)を用いて二時間、粉砕・混合し、塩化ビニル製リング(リガク社製)に、一軸プレスで加圧成形した。得られたペレットを、波長分散型蛍光X線分析(リガク社製の商品名「RIX1000」、Cr管球、管電圧50kV、管電流50mA)を用い、予めソフトウェアに登録された感度ライブライリから、含有率を求めるファンダメンタル・パラメータ(FP)法によって半定量分析で測定した。測定により求められた担体(例えばシリカ)の質量割合(I
1)(%)を表1に示す。
【0130】
<物性4;蛍光X線分析による触媒活性種の組成と量の測定>
物性1測定上で得られた残留物(H
1)を、物性3と同様に乳鉢で粉砕・混合し、加圧成形して得られたペレットを蛍光X線で組成分析を行った。求めた担体の質量割合(I
2)(%)と物性3で測定した酸化物触媒(F
1)中の担体の質量割合(I
1)(%)から、下記の式を用いて、複合酸化物の重量を100%とした時の、触媒活性種(G
1)の質量割合(J
1)(%)を算出することができる。得られた触媒活性種の質量割合(J
1)(%)を表1に示す。
【数2】
【0131】
[実施例2]
水性混合物(A
1)の調製において、水の添加量を2564gに、ヘプタモリブデン酸アンモニウムの添加量を440.9gに、メタバナジン酸アンモニウムの添加量を52.2gに、三酸化二アンチモンの添加量を90.5gに、硝酸セリウムの添加量を5.49gに変更し、添加するニオブ原料液(B
1)を300.7gに変更し、前駆体スラリー(C
1)の調合工程において、過酸化水素水の添加量を179.2gに、シリカゾルの添加量を593.8gに、メタタングステン酸アンモニウム水溶液の添加量を34.6gに、粉体シリカの添加量を247.5gに水の添加量を2228gに変更した以外は実施例1と同様に、酸化物触媒を調製し、実施例1と同様の方法で、物性1〜3の評価を行った。
【0132】
[実施例3]
水性混合物(A
1)の調製において、水の添加量を2732gに、ヘプタモリブデン酸アンモニウムの添加量を421.1gに、メタバナジン酸アンモニウムの添加量を63.8gに、三酸化二アンチモンの添加量を76.1gに、硝酸セリウムの添加量を5.25gに変更し、添加するニオブ原料液(B
1)を176.8gに変更し、前駆体スラリー(C
1)の調合工程において、過酸化水素水の添加量を192.3gに、シリカゾルの添加量を862.2gに、メタタングステン酸アンモニウム水溶液の添加量を33.0gに、粉体シリカの添加量を196.0gに水の添加量を1764gに変更した以外は実施例1と同様に、酸化物触媒を調製し、実施例1と同様の方法で、物性1〜3の評価を行った。
【0133】
[実施例4]
水性混合物(A
1)の調製において、水の添加量を2909gに、ヘプタモリブデン酸アンモニウムの添加量を448.3gに、メタバナジン酸アンモニウムの添加量を67.9gに、三酸化二アンチモンの添加量を84.7gに、硝酸セリウムの添加量を5.6gに変更し、添加するニオブ原料液(B
1)を211.7gに変更し、前駆体スラリー(C
1)の調合工程において、過酸化水素水の添加量を166.7gに、シリカゾルの添加量を791.8gに、メタタングステン酸アンモニウム水溶液の添加量を35.2gに、粉体シリカの添加量を180.0gに水の添加量を1620gに変更した以外は実施例1と同様に、酸化物触媒を調製し、実施例1と同様の方法で、物性1〜3の評価を行った。
【0134】
[実施例5]
前駆体スラリー(C
1)の調合工程において、メタタングステン酸アンモニウム水溶液を添加しなかった以外は実施例1と同様に、酸化物触媒を調製し、実施例1と同様の方法で、物性1〜3の評価を行った。
【0135】
[実施例6]
水性混合液(A
1)の調製において、水を25kg、ヘプタモリブデン酸アンモニウム〔(NH
4)
6Mo
7O
24・4H
2O〕を4.088kg、メタバナジン酸アンモニウム〔NH
4VO
3〕を0.646kg、三酸化二アンチモン〔Sb
2O
3〕を0.907kg、及び硝酸セリウムを0.051kgに変更し、攪拌しながら95℃で1時間加熱した以外は実施例1と同様に水性混合液(A
1)を調製した。
【0136】
ニオブ原料液(B
1)の調製において、水を77.3kg、シュウ酸二水和物〔H
2C
2O
4・2H
2O〕を57.0kg、ニオブ酸を15.7kgに変更し、73℃で6時間加熱撹拌することによって得られた水性混合液を攪拌しながら自然放冷することによって40℃まで冷却した以外は実施例1と同様にニオブ原料液(B
1)を調製した。
【0137】
実施例1と同様にして、ニオブ原料液(B
2)のシュウ酸/ニオブのモル比と濁度を測定した。その結果、Nb濃度は0.756mol/kg、シュウ酸濃度は1.74mol/kg、濁度は32NTUであった。
【0138】
得られた水性混合液(A
1)を70℃に冷却した後に、その水性混合液(A
1)に、34.0質量%のSiO
2を含有するシリカゾル7.038kgを添加し、さらに、30質量%のH
2O
2を含有する過酸化水素水1.06kgを添加し、55℃で30分間撹拌を続けた。さらにその液に、ニオブ原料液(B
1)を3.850kgと、粉体シリカ(日本アエロジル社製、商品名「アエロジル200」)2.4kgを水197.6kgに分散させた分散液と、酸化タングステンとして50.2重量%含むメタタングステン酸アンモニウム液0.319kgとを順次添加した後に、50℃で2.5時間攪拌し、前駆体スラリー(C
1)を得た。
【0139】
上記以外は、実施例1と同様に酸化物触媒を調製し、実施例1と同様の方法で、物性1〜3の評価を行った。
【0140】
[実施例7]
ニオブ原料液(B
1)の調製において、水を83.2kgに、シュウ酸二水和物〔H
2C
2O
4・2H
2O〕を52.3kgに、ニオブ酸を14.5kgに変更し、78℃で5時間加熱撹拌した以外は実施例6と同様に酸化物触媒を調製し、実施例1と同様の方法で、物性1〜3の評価を行った。
【0141】
実施例1と同様にして、得られたニオブ原料液(B
1)のシュウ酸/ニオブのモル比と濁度を測定した。その結果、Nb濃度は0.753mol/kg、シュウ酸濃度は1.77mol/kg、濁度は41NTUであった。
【0142】
[比較例1]
水88.7kgを混合槽内に加え、その後、水を50℃まで加熱した。次に、攪拌しながら、シュウ酸二水和物〔H
2C
2O
4・2H
2O〕48.1kgを投入し、続いてNb
2O
5として76.3質量%を含有するニオブ酸13.2kgを投入し、両者を水中で混合した。この液を95℃で3時間加熱撹拌することによって得られた水性混合液を攪拌しながら自然放冷することによって40℃まで冷却した。その後、−10℃/hrで2℃まで冷却し、1時間放置した。次いで、濾過機に析出した固体と混合液の混合体を注ぎ込み、析出した固体を濾過することにより混合液を得た。
【0143】
得られた混合液をニオブ原料液(B
1)として用いた以外は実施例1と同様に、酸化物触媒を調製し、実施例1と同様の方法で、物性1〜3の評価を行った。また、得られたニオブ原料液(B
1)の分析を実施例1と同様に行ったところ、このニオブ原料液(B
1)のNb濃度は0.578mol/kg、シュウ酸/ニオブのモル比は2.77、濁度は201NTUであった。
【0144】
[比較例2]
比較例1と同様に調製したニオブ原料液(B
1)を用いて調製を行った以外は実施例3と同様に、酸化物触媒を調製し、実施例1と同様の方法で、物性1〜3の評価を行った。
【0145】
[比較例3]
比較例1と同様に調製したニオブ原料液(B
1)を用いて調製を行った以外は実施例5と同様に、酸化物触媒を調製し、実施例1と同様の方法で、物性1〜3の評価を行った。
【0146】
[実施例8]
ニオブ原料液(B
1)の調製において、投入した水量を67.5kgに、シュウ酸二水和物〔H
2C
2O
4・2H
2O〕を64.6kgに、ニオブ酸を17.9kgに変更し、95℃で4時間加熱撹拌した以外は実施例1と同様に、酸化物触媒を調製し、実施例1と同様の方法で、物性1〜3の評価を行った。
【0147】
[比較例4]
ニオブ原料液(B
1)の調製においては実施例8と同様に行い、それ以外は実施例6と同様に酸化物触媒を調製し、実施例1と同様の方法で、物性1〜3の評価を行った。
【0148】
【表1】
プロパン又はイソブタンの気相接触アンモ酸化反応に用いられる酸化物触媒であって、複合酸化物を含み、該複合酸化物が、前記複合酸化物から過酸化水素水を用いて単離される触媒活性種を含み、該触媒活性種が、STEM−EDX測定において下記組成式(1)で表される平均組成を有する、酸化物触媒;
(Xは、Te、Ce、Ti及びTaからなる群より選ばれる1種以上を示し、a、b、c、及びdは、0.050≦a≦0.200、0.050≦b≦0.200、0.100≦c≦0.300、0≦d≦0.100、0≦e≦0.100、a≦cの関係式を満たし、nは、他の元素の原子価によって決まる数である。)