(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記前部支持体および前記後部支持体の少なくとも一方は、中心から放射状に等角度間隔で配置された環状の弾性リングを少なくとも3個備え、前記各弾性リングは、それぞれ前記外筒に内接するとともに、前記副軸と外接する状態で固着されていることを特徴とする請求項1に記載のツールホルダ。
前記前部支持体および前記後部支持体の少なくとも一方は、中心から放射状に等角度間隔で配置された環状の弾性リングを少なくとも3個備え、前記各弾性リングの外周部は、外周リングと一体とされ、前記外周リングは、前記外筒に圧入嵌合され、前記各弾性リングの内周部は、前記副軸と外接する状態で固着されていることを特徴とする請求項2に記載のツールホルダ。
前記弾性リングは、円形、長円形、楕円形、略多角形または略ハート形の断面形状を有する環状に形成されていることを特徴とする請求項2または3に記載のツールホルダ。
前記前部支持体又はその近傍には、前記主軸の軸心に直角の断面内において直交する二方向における前記副軸の弾性変位または弾性歪を検出するための検出センサが配置されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のツールホルダ。
前記後部支持体又はその近傍には、前記主軸の軸心方向および軸心回りのねじり方向からなる2方向のうち、少なくとも1つの方向を検出するための検出センサが配置されている請求項1ないし5のいずれかに記載のツールホルダ。
前記前部支持体および前記後部支持体の少なくとも一方は、前記主軸の軸心方向、前記主軸の軸心に直角の断面内において直交する二方向、および前記主軸の軸心回りのねじり方向からなる4方向のうち、少なくとも1つの方向に対し、ダンピング機能を有するものであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のツールホルダ。
前記前部支持体および前記後部支持体の少なくとも一方は、前記副軸との間に微小な間隙を形成しつつ前記前部支持体および前記後部支持体の前記少なくとも一方に固着されるリング部材を備え、前記ダンピング機能は、前記間隙に流体を充填することによって生じるスクィーズ効果によって発揮されるものであることを特徴とする請求項7に記載のツールホルダ。
前記流体は、磁性流体であり、前記リング部材は、磁力を有する磁性体によって構成され、前記磁性体は前記間隙に対し磁界ループを生じさせることにより前記磁性流体の漏洩抑制機能を発揮させるものであることを特徴とする請求項8に記載のツールホルダ。
【背景技術】
【0002】
機械加工時には、加工の継続とともに工具切れ刃が摩耗していき、加工精度が劣化していく。このため、1個の工具切れ刃で加工できる切削距離や加工個数にある閾値を設けて、加工精度が加工公差を超える前に、工具切れ刃の交換を行っているのが一般的である。切削距離に伴って工具切れ刃の摩耗が定常的に進行していく場合には、このような工具寿命を閾値管理で対応可能である。しかし、現実には工具切れ刃の異常摩耗や欠損といった予測しがたい非定常な切れ刃損傷がたびたび起こっている。このような非定常な切れ刃損傷に対しては、上記の経験則に基づく閾値から工具寿命を管理することができない。このため、工具切れ刃が異常摩耗や欠損をした後も継続して使用し、不良品続出といった歩留まりの低下を来すことが多い。また、このようなトラブルを回避する安全策として、工具切れ刃の交換までの切削距離を短めに設定して工具費の増大を来したり、加工条件を低めに設定して加工能率の低下を惹起する、などの問題を抱えている。
【0003】
これらの課題に対し、これまで工作機械の主軸モータの駆動動力の測定や、主軸頭や工作物の振動測定等により、加工中の加工異常や工具の非定常な切れ刃損傷をインプロセス検知する試みがなされている。
【0004】
このうち前者の加工中の主軸モータの駆動動力を測定する方法は、駆動動力の検出が比較的簡便なことから、機械加工現場への適用事例が増えつつある。しかし仕上げ加工工程などでは、切り屑生成に要する消費動力が小さく、かかる消費動力は、主軸駆動モータの駆動動力の中に埋没してしまうこと、また主軸駆動モータの回転慣性が大きく、切れ刃欠損のような瞬時の小さな消費動力変動を忠実に測定できないこと、などの問題がある。
【0005】
切れ刃の欠損挙動などを瞬時に検知するためには、高い周波帯域までの加工力の測定を可能にする必要があるが、そのためには加工力の発生箇所すなわち加工点から、加工力の検出端までの距離を可能な限り近づけ、加工点から検出端に至る間の回転慣性や往復慣性を最小にし動特性を高めることが肝要である。このため、文献1や文献2では、主軸の工具側に副軸を設けて回転慣性を低減し、加工トルクの測定帯域の上限を高めている。しかし、この検出方式では、主軸内に検出機能を搭載しているため、検出系のみが故障しても、検出系を修理している間は主軸が使用できなくなり、工作機械本体の稼働率が大幅に低下する。
【0006】
ここで、工作機械の主軸に嵌合して工具を保持するツールホルダにて工具の加工力をインプロセスで検知しようとした場合、工具とツールホルダとは常に対をなして使用されるものであるので、工具毎に用意されるツールホルダの夫々に検知機能を持たせなくてはならない。
【0007】
そのほか文献3では、主軸に働く加工力を、静圧軸受の軸と軸受間の相対変位を測定することにより加工力の検出を可能にしている。しかしビルトインタイプのローター軸の慣性が大きく、この慣性の検出信号への配慮がなされておらず、測定周波数帯域が著しく低く制限されている。また流体軸受の筐体には配管類がつながれていることから、回転を前提としておらず、回転する工具への適用は想定されていない。
【0008】
文献4においても、工具刃先にはたらく加工力を、この加工力により工具にはたらく曲げモーメントを、軸方向の磁歪フィルムにより検出可能にしている例が示されているが、外輪の取り付け部材は本体に固定され、工具交換に必須な着脱が容易にできない。また主軸側の転がり軸受は軸方向が固定され、刃先側の転がり軸受が軸方向にフリーな軸受配置となっている。これに対し、加工精度は刃先位置で決定されることを勘案すると、可能な限り刃先に近い位置にあるべき固定支点が、当該公知例では主軸側に配置されており実用に供しない。
【0009】
一方、文献5〜10には、加工負荷の限界値を検知可能な機構を内蔵し、工具を把持できるツールユニットが示されている。しかしいずれも、過負荷トルクや過負荷スラストのリミッターとしての機能をもたせているだけで、加工の負荷トルクや負荷スラストの時間的に連続した変化を検出することはできない。とくに、円周方向に等配されたステップに対応して間欠的に検出される円周方向や軸方向の偏位からは、時々刻々変化する連続した負荷変動を測定することはできず、切れ刃のチッピングや工具折損、切り屑の絡まりといった瞬時に起きる挙動を検知できず、工具折損予知につなげる
加工力把握ができない。
【0010】
また文献11で示されている実施例では、検出子として「ひずみゲージ」を用いている。ひずみゲージを用いた検出方式については、測定対象である負荷により生ずる部材のひずみ、いわゆる負荷ひずみと、測定箇所の温度変化に伴う宿命的な熱ひずみの分別が必須であり、ひずみゲージを貼り付ける部材の熱膨張係数に合わせた抵抗変化を補償するひずみゲージを用いたり、負荷によって対称箇所にひずみゲージを貼りブリッジ回路を組んで温度影響を補償するなどの対策を講じても、10
−6オーダーあるいはそれ以内のミクロなひずみを高精度に測定することは至難である。
【0011】
このため一般的には、ひずみゲージの貼り付け箇所の剛性をあえて低くし、大きなひずみを生じるようにしている。これらのことを考慮すると、当該文献の例において、検出感度を確保する手法は、剛性低下によるびびり振動発生や加工寸法精度劣化などの加工系への悪影響が危惧される。
【0012】
なお文献11には、回転する検出系への電流供給の手段として、自動巻き腕時計に類似した回転に伴う自家発電により、回転するツールホルダに電源供給している。しかしこの発電手法では、主軸が回転していない作動前の動作チェックや、機外での検出精度校正などができない。これらの作業を可能にするには、新たな電源供給手段が必要になるという課題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述したように、機械加工ラインにおいて、高い周波数帯域までの加工力のインプロセス測定を可能にし、急激な加工力変化に対して敏感に検知できる測定手段を実現することが課題である。そのためには、加工点から測定箇所までの回転慣性および往復慣性を低減し、高周波数帯域までの加工力の測定を可能とすること、また機械加工ラインへの適用を可能にするべく、測定手段の構成や構造を単純にしてコストパフォーマンスを高めることが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明にかかるツールホルダは、検出部を構成する弾性支持系を直列的に接続するのではなく、単純構造にして、測定性能を向上させるとともに廉価可能している。
【0016】
このため、請求項1記載のツールホルダは、工作機械の主軸との嵌合が可能なテーパー部と、先端に工具を把持するチャックを有し、前記テーパー部と同軸心に配置される副軸と、
前記副軸を支持する1対の弾性支持体と、
前記テーパー部に対する
前記副軸の弾性変位または弾性歪を検出する検出センサと、前記検出センサによる検出信号を処理する信号処理手段および処理された信号を送信する送信手段と、前記検出センサ、
前記信号処理手段および
前記送信手段に対する電源を供給する電源供給手段とを備えるツールホルダであって、
前記テーパー部は、前記テーパー部に固着される外筒と、前記外筒に固着される内筒とを備え、前記副軸は、前記内筒の内部に貫挿され、前記1対の弾性支持体は、
前記外筒と前記副軸との間に介在し、前記副軸の先端側に配置される前部支持体と、
前記副軸の後端側に配置される後部支持体とで構成され、
前記前部支持体および
前記後部支持体は、
弾性変形可能であり、前記検出センサは、
前記前部支持体、前記後部支持体、前記外筒または前記内筒のいずれかに装着され、前記主軸の軸心方向、
前記主軸の軸心に直角の断面内において直交する二方向、および
前記主軸の軸心回りのねじり方向からなる4方向のうち、少なくとも1つの方向における前記テーパー部に対する前記副軸の弾性変位または弾性歪を検出するものである。
【0017】
請求項
2記載のツールホルダは、請求項
1に記載のツールホルダにおいて、前記前部支持体および前記後部支持体の少なくとも一方は、中心から放射状に等角度間隔で配置された環状の弾性リングを少なくとも3個備え、前記各弾性リングは、それぞれ前記外筒に
内接するとともに、前記副軸と外接する状態で固着されている。
【0018】
請求項3記載のツールホルダは、請求項1に記載のツールホルダにおいて、前記前部支持体および前記後部支持体の少なくとも一方は、中心から放射状に等角度間隔で配置された環状の弾性リングを少なくとも3個備え、前記各弾性リングの外周部は、外周リングと一体とされ、前記外周リングは、前記外筒に圧入嵌合され、前記各弾性リングの内周部は、前記副軸と外接する状態で固着されている。
【0019】
請求項4記載のツールホルダは、請求項
2または3に記載のツールホルダにおいて、前記弾性リングは、円形、長円形、楕円形、略多角形または略ハート形の断面形状を有する環状に形成されている。
【0020】
請求項5記載のツールホルダは、請求項1ないし4のいずれかに記載のツールホルダにおいて、前記前部支持体又はその近傍には、前記主軸の軸心に直角の断面内において直交する二方向における前記副軸の弾性変位または弾性歪を検出するための検出センサが配置されている。
【0021】
請求項6記載のツールホルダは、請求項1ないし5のいずれかに記載のツールホルダにおいて、前記後部支持体又はその近傍には、前記主軸の軸心方向および軸心回りのねじり方向からなる2方向のうち、少なくとも1つの方向を検出するための検出センサが配置されている。
【0022】
請求項7記載のツールホルダは、請求項1ないし6のいずれかに記載のツールホルダにおいて、前記前部支持体および前記後部支持体の少なくとも一方は、前記主軸の軸心方向、
前記主軸の軸心に直角の断面内において直交する二方向、および
前記主軸の軸心回りのねじり方向からなる4方向のうち、少なく1つの方向に対し、ダンピング機能を有するものである。
【0023】
請求項8記載のツールホルダは、請求項7に記載のツールホルダにおいて、前記前部支持体および前記後部支持体の少なくとも一方は、前記副軸との間に微小な間隙を形成しつつ
前記前部支持体および前記後部支持体の前記少なくとも一方に固着されるリング部材を備え、前記ダンピング機能は、前記間隙に流体を充填することによって生じるスクィーズ効果によって発揮されるものである。
【0024】
請求項9記載のツールホルダは、請求項8に記載のツールホルダにおいて、前記流体は、磁性流体であり、前記リング部材は、磁力を有する磁性体によって構成され、
前記磁性体は前記間隙に対し磁界ループを生じさせることにより前記磁性流体の漏洩抑制機能を発揮させるものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明のツールホルダによれば、工具はチャックを介して副軸に装着されて一体化されており、加工中の工具に働く加工力や加工トルクは副軸に伝達される。副軸は一対の弾性支持体を介してテーパー部に支持されていることから、工具からチャックおよび副軸までの往復慣性および回転慣性が低減される。このように、回転する慣性体である工具、チャック、副軸の回転慣性および往復慣性が低減され、その結果、工具、チャックおよび副軸の固有振動数が高くなり、工具にかかる加工力を高周波数帯域まで測定することが可能となる。故に、工具切れ刃の微小な欠損や折損を実時間にて迅速に検出可能となる。
【0026】
このように、本発明の副軸は、工具と工作機械の主軸との間にテーパー部およびチャックを介して配置されることから、工作機械の主軸における加工力の測定方法に比較して、加工負荷のかかる加工点から測定点に至る力の伝達経路を遥かに短縮できる。これにより、加工点から測定点までの間の往復慣性および回転慣性を更に低減できるので、高周波数帯域までの加工力の測定の信頼性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明のツールホルダは、加工力の検出センサを、可能な限り加工点に近い位置に配置して、加工点から検出センサまでの加工力の伝達経路を最短にし、この力伝達経路がもつ往復慣性および回転慣性を最小にするとともに、加工力による振動の発生を抑制する減衰機能を備え、加工力の測定可能な周波数帯域を高めたものである。
【0029】
ここで、最初に、本発明に至った測定系の構成について、
図1に示す測定系のモデル図を用いて説明する。
図1(a)は従来技術による一般的な加工力の測定モデル、
図1(b)は本発明の加工力の測定モデルを示す。
【0030】
図1(a)および
図1(b)において、主軸軸心方向にZ軸、該主軸軸心に垂直な面内におけるお互いに直交する方向にX軸及びY軸を、またZ軸周りのねじり方向にθ軸をとる。工具切れ刃にかかる加工力のうち、X軸、Y軸およびZ軸の3軸方向にはたらく分力をそれぞれPx、Py、Pzとし、また該主軸軸心周りに働くねじりモーメントをMtとし、ここではMtも含め4分力をまとめて加工力と呼ぶことにする。この4分力の全てないしその一部を、ここでの加工力の測定対象としている。
【0031】
工具切れ刃の加工点Oにはたらく加工力の4分力を、直接に測定することができないので、加工点から離れた測定位置(
図1(a)では測定点A,B,C)に伝達してくる力に伴う弾性変位ないしは弾性歪を測定することになるが、この力の伝達経路が加工力の測定特性に大きく影響する。すなわち、静的ないしごく低周波帯域の加工力であれば、刃先にかかるPx、Py、Pz、Mtの4分力を、それぞれに対応する測定値Px、Py、Pz、Qtから、幾何学的な換算をするだけで求めることができる。
【0032】
これに対し、加工点Oに変動する加工力の4分力Px、Py、Pz、Mtがはたらくとき、加工点Oから測定点A、B、Cに至るまで力は直列的に接続され伝達されていくが、加工点Oから遠ざかるにつれて、力の伝達経路上にある往復慣性や回転慣性が増えていき、検出センサで検出できる周波数帯域の上限が低下していく。
【0033】
そこで本発明では、
図1(b)に示すように、加工力を、上述したようなPxとPy、Pz、Mtといったそれぞれの測定点A、B、Cに力が直列的に接続され伝達される経路ではなく、測定点A’、B’、C’がともに剛体とみなせる副軸上にあって疑似的に同一体とみなせる一体検出方式、すなわち工具を4軸方向に同時に弾性支持する構造を採用している。
【0034】
以下、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照して説明する。以下の図において、同一部材には同一符号を付し、説明を省略または簡略化する。図面は発明の構成を模式的に示すものであり、構成の一部を省略または簡略化しており、寸法も実際の装置とは必ずしも同一ではない。まず、
図2から
図14を参照して、本発明の第1実施形態について説明する。
図2は、第1実施形態のツールホルダ1の断面図を示し、
図3は該ツールホルダを含む加工力検出のシステム構成概要図である。
【0035】
工具4を把持できるようにしたチャック5を一端にもつ副軸6は、内筒7および該内筒とネジ固定され一体化された外筒16に対して、前部支持体11および後部支持体12を介して弾性支持されており、外筒16は、工具4、チャック5、副軸6、内筒7およびテーパー部3と主軸軸心を共有し、テーパー部3にネジ固定されている。また、外筒16の後端(チャック5側とは反対側の端部)は、ナイロン樹脂製の防水カバー10内に貫入され、防水カバー10によって囲繞されている。ここで、前部支持体11および後部支持体12は、ともに
図4に示すように、有底円筒形状の底にあたる底円板面11fに細工を施した形状をしている。すなわち、底円板面11fには、軸心周りに4個のリングばね11bが等分配置され、該リングばねのリングばね外周部11cは外周リング11aと一体になっており、該外周リングの外径は外筒16に圧入嵌合され、該リングばねのリングばね内周部11eは、副軸6と嵌合し低融点合金により固着されている。
【0036】
図5には、前部支持体11の外周リング11aの内径に、軟磁性の側板A(32)および側板B(33)と、両者間に挟まれた同心状で非磁性のスペースリング31、およびその外周には厚さ方向に着磁された同心の磁石34が嵌合された状態を示す。なお、嵌合しているこれらの位置関係を理解しやすくするために、軟磁性の側板A(32)、側板B(33)と、両者間に挟まれたスペースリング31、および磁石34は、一部破断して示している。これら4者は、サンドイッチ状に接着された後、外周は前部支持体11の外周リング11aの内径に嵌合し、内周は副軸6の外径との間に、直径で30μmから80μmの微小間隙35をもたせるように、仕上げ加工されており、副軸6との組み立て後に、微小間隙35に磁性流体を充填している。
図6は、
図5におけるD−D矢視を示した図である。
【0037】
このように、前部支持体11および後部支持体12における非磁性リングと副軸6との間の磁性流体により、加工力により誘起される該副軸の軸直角方向の振動に対し、スクィーズ効果に基づくダンピング効果を発揮する。また副軸6の2ヶ所に支持体を配置したことにより、並進方向の振動モードだけでなく、主軸軸心に対するピッチング方向の振動モードに対してもダンピング効果を発揮する。なお、磁性流体の替わりに、汎用油などの粘性流体を微小間隙に充てんしても、毛細管現象により粘性流体が微小間隙に滞留し、同様にダンピング効果を発揮することを確認している。その場合には、磁石円板34、40や角リング磁石52には磁性をもたせる必要はなく、所定の微小間隙が形成できる硬質のものであれば、その材質を問わない。
【0038】
図7に、後部支持体12を副軸に組み立てる様子を示す。なお、理解しやすくするために、スペースリング37、側板C(38)、側板D(39)および磁石円板は1/2だけ描き、軸心を通る断面も表すとともに、トルクベース43の一部も破断して示している。
【0039】
本実施形態では、後部支持体12は前部支持体11と同じ形状をしており、該後部支持体の外周リング12aの内径には、非磁性のスペースリング37と、その外周の磁石円板40とが、軟磁性の側板C(38)および側板D(39)で挟み込んだ状態で接着され、嵌合している。また側板Cおよびスペースリングの内径と副軸6との間には、直径で30μmから80μmの微小間隙が形成され、この間隙に磁性流体が充填されている。またスペースリング37の端面と側板D(39)の右側面は、組み立て後に面一に仕上げられており、トルクベース43を副軸6に組み立てられた時に、スペースリング37および側板D(39)とトルクベース43との間には15μmから40μmの微小間隙が形成されており、しかもスペースリング37の内周には面取りを、トルクベース43には同心円状の逃げ溝45を設けており、両者の組み立て時にはリング状の空隙46が形成されている。
【0040】
これら円筒方向およびスラスト方向の微小間隙に、磁性流体41を充填している。しかし空隙46には完全には磁性流体が満たされず、一部が空間として残る。この空隙46内の空間では圧縮性が無視でき、副軸6の軸方向の振動と軸直角方向の振動の相互干渉を回避できる。
【0041】
また、緩み止め効果の高い銅合金製のナット47を用いて、トルクベース43を副軸6にネジ締め固定している。
【0042】
図8に、
図2におけるC−C矢視を、また
図9には
図8におけるA−A矢視を示す。
【0043】
トルクベース43は、銅合金製のナット47により副軸6にネジ締め固定されている。一方、回転軸対称に配置されたTセンサ49は、センサ基板50を介してTセンサ台48にネジ締め固定されており、該Tセンサ台は、内筒7にボルト53により固定されている。ここで、Tセンサ49は、表面に測定端子69(69’)を備えており、回転方向の変位を検出できるように測定端子69(69’)は対面するトルクドグ44に押し当てられる。該トルクドグのTセンサとは反対の面は、間隙15μmから40μmの微小間隙を隔てて、ランド51および該ランドを取り巻く角リング磁石52と対向し、この微小間隙には磁性流体57が充填されている。
【0044】
なお通し穴56を介して、外筒16から内筒7を軸方向に吊りボルトで固定している。
【0045】
図10は、
図2におけるB−B断面を示す。前部支持体11に隣接する軸直角断面の図である。内筒7の互いに直交するX軸およびY軸の2方向に、対を成すX軸センサ13およびY軸センサ13’を取り付け、内筒7に対する副軸6の軸直角方向の相対的な弾性変位を測定しており、対向する2個のX軸センサ13の差分、およびこれらに直交する2個のY軸センサ13’の差分から、工具切れ刃にかかる加工力FxおよびFyを換算している。
【0046】
なお加工力Fzに対しては、外筒16にネジ固定されたZセンサベース上に設置されたZ軸センサ14により、副軸6の後端面と該外筒との間の軸方向の弾性変位を測定し、この弾性変位とFzが比例するとして、換算している。Z軸センサ13、Y軸センサ13’、Tセンサ49、Z軸センサ14には、公知のセンサを用いることができ、例えば、渦電流型変位センサや電気容量型変位センサ、レーザ変位センサなどを用いることができる。更には、X軸センサ13、Y軸センサ13’は、前部支持体11、後部支持体12、外筒16に設けられても良い。
【0047】
ここで、前部支持体11および後部支持体12に用いたリングばねは、
図11に示すように、前後2ヶ所のリングばね支持の計算モデルとして表し、両者が同じ形状及び寸法の支持体の場合(実質的に同じ剛性、等しい剛性である場合)には、
図12のような計算結果を得ている。ここで、計算に用いた記号の説明を
図18に示す。
【0048】
設計で与えられる加工負荷に対して、この計算結果から得られるリングばね11bないしこの断面二次モーメントから、リングばねの断面寸法を決定している。例えば、計算によれば、汎用の用途に対するリングばねでは、断面寸法の縦横比は1:1程度が推奨されるが、太径の穴明け加工の場合には、スラスト力が大きいため、リングばねの高さ寸法よりも大きな幅寸法(すなわち軸方向寸法)が求まるなど、該計算モデルによりリングばねを定量的に設計可能にしている。また、Px、Pyに比べて相対的に軸方向のPzが大きいので、この方向の剛性を高めることで、より安定した加工状態での加工力の測定ができる。
【0049】
一方、微小径の穴明け加工の場合には、穴位置誤差やドリル折損が問題になるが、軸直角方向すなわちX軸方向およびY軸方向の支持剛性を抑制することで、PxおよびPyの検出感度を高めることができ、微小径の穴明け加工においてもドリル折損の原因となる軸直角方向の加工力を高精度に測定することができる。言い換えれば、用途に応じた剛性設計を可能としたものであり、太径の穴明け加工の場合と同様に、微小径のエンドミル加工でも、PxおよびPyの感度を高めた支持体設計が可能である。
【0050】
本実施形態では、前部支持体11および後部支持体12にはともに同じ形状寸法のリングばねを採用しているが、必ずしも両支持体のリングばね11bとリングばね12bとの剛性を等しく採る必要はない。
【0051】
図11の計算モデルにおいて、加工点に軸直角方向に加工力Pがはたらくとして、
前部支持体11にかかる負荷:(1+a/L)P
後部支持体12にかかる負荷:(a/L)P
となり、後部支持体12に比べて前部支持体11には、加工力の水平分力PxあるいはPyだけ大きな負荷が働く。
【0052】
このため本実施形態のように、前部支持体11と後部支持体12に等しい剛性を持たせた場合には、より大きな負荷が前部支持体に働くことから、軸方向の前部支持体近傍にX軸センサおよびY軸センサを配置することで、感度の高い加工力の検出ができる。
【0053】
検出感度は落ちるものの、軸方向の後部支持体近傍にX軸センサおよびY軸センサを配置することによっても、本発明の効果(感度の高い加工力検出)は得られる。
【0054】
なお、前部支持体11のリングばねの剛性を後部支持体12のリングばねの剛性よりも高くなるように構成しても良い。具体的には、後部支持体12よりも前部支持体11のリングばねの断面の縦および横の寸法を大にして、断面二次モーメントIxおよびIyをより大きく採ることにより、支持剛性を高くすることができる。
【0055】
支持剛性を高くすれば、加工点での剛性を高めることが可能となり、より大きな加工負荷に対しても安定な加工を行うことができる。
【0056】
即ち、本実施形態においては、上記のような構成によって、検出対象の弾性変位量を、サブミクロンからミクロンレベルの弾性変位量とすることができ、更には、支持剛性の設計を変更することによって適宜弾性変形可能(支持剛性に応じて弾性変位量の調節が可能)となるので、支持剛性を適正な範囲に調節することで、従来、両立することが困難であった、十分な検出感度と加工安定性との両立を図ることができる。
【0057】
なお、信号処理送信部8は、検出センサからの検出信号を増幅する検出信号増幅部、増幅された検出信号のA/D変換部、アンテナを有する送信部からなり、該送信部とパーソナルコンピュータ(以下、「PC」と称す。)との間には、廉価で汎用性に富んだWi−Fi方式により無線通信を行い、PCにて受信された加工力のデータは、PCの画面上でグラフ表示されるほか、工作機械への制御指令として用いられる。
【0058】
次に、
図13及び
図14を用いて、回転するツールホルダに非接触で電源供給する方式について説明する。
図13は、
図3のF−F矢視図であり、また
図14は、
図13のG−G矢視図である。手段としては、冷却機能をもった固定間座21を介して工作機械のクイル20に固定された、外周溝を持つ扇状の軟磁性材でできたセクタヨーク22と、該セクタヨークの外周溝に卷線された固定コイル23と、該セクタヨークに対して微小ギャップを隔ててこれに対向する外周位置に同心溝を持つ軟磁性円板9と、該同心溝に卷線された銅巻線の回転コイル18とで非接触トランスを構成し、固定コイル23に発振増幅部27から交流電源を供給することにより、回転する回転コイル18には、同じ周波数の交流が誘起される。この誘起された交流を、整流回路と電圧レギュレータを介して直流電源を得ている。
【0059】
ここで、固定側のセクタヨーク22を、全周ではなくセクタ状にした理由は、ツールホルダ交換時に、ATCのフォークとの干渉を回避するためである。このため、回転コイル18に対する固定コイルの包含角度に逆比例した高い電圧を発振増幅部27から固定コイル23に印加している。これは、固定コイルに対して回転コイルの巻き数を、包含角度に逆比例させた巻き数としても、同様の効果が得られる。
【0060】
また固定コイル23に通電すると、セクタヨークが温度上昇を来すので、固定間座21には通液穴を設けており、運転時には加工液を通して冷却し、セクタヨーク22の温度上昇を抑制している。
【0061】
稼働時間の短い作業にあっては、必ずしも上述のように非接触給電方法を採る必要はなく、ツールホルダに蓄電池を内蔵しておき、ATCストッカーに収納された状態など、稼働していない静止位置において、該蓄電池に充電しておき、主軸に搭載された計測時にはこの蓄電池を電源として使用しても、同様の効果が得られることは、自明である。
【0062】
このように、本実施形態のツールホルダ1によれば、工具切れ刃の微小な欠損や折損を加工プロセス中に実時間で検出することができる。また、前部支持体11と後部支持体12からなる工具の弾性支持系では、通常、加工力による振動の誘起が危惧されるが、両支持体にスクィーズ効果を利用したダンピング機能を付加することで、加工の安定化を図るとともに、より高い周波数帯域までの加工力を忠実に検出可能にしている。
【0063】
加工力の検出感度を高める副軸の弾性変位量と、加工の安定性を決める支持剛性とは、二律相反(トレードオフ)の関係にあり、従来のツールホルダを用いた加工力の測定機構では、これらを両立させることが困難となっていた。即ち、加工の安定性を高めるべく工具から主軸に至るまでのあらゆる箇所の支持剛性を高くすると、測定箇所近傍の弾性変位量も測定限界を下まわり、測定できなくなる。また、検出可能な
弾性変位量にまで支持剛性を譲歩する(低下させる)と、加工中にびびり振動が発生するといった事態が生じる。本実施形態にかかるツールホルダ1は、上記のように構成することで、サブミクロンからミクロンレベルの弾性変位量が検出できるようになっており、検出された弾性変位量を加工力に換算することで、加工力の検出感度と加工安定性との両立を実現するものとなっている。
【0064】
また、この種の測定系では、一般に測定値が温度影響を受けやすいが、本実施形態では温度による熱膨張方向に直交する方向の変位の変化により加工力を検知するようにしており、測定系の温度上昇による熱膨張に対して、加工力の検出信号が極めて鈍感なことが特長である。即ち、検出信号への温度影響を抑制し、測定値の信頼性を向上させることができる。
【0065】
さらに、本実施形態では、回転するツールホルダ1への非接触給電を可能としており、定期的に繰り返さなければならなかった充電作業の煩雑さから解放される。
【0066】
また、通信手段として、市場性の高いWi−Fi方式を採用しており、市販のWi−Fi用汎用モジュールを適用することで、測定データの無線通信を可能としており、加工力の検出機能を持つツールホルダ1を備えた加工力検出システムを廉価に構築することができる。
【0067】
次に、
図15を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。上記第1実施形態では、前部支持体11および後部支持体12は、それぞれ4個の円形のリングばねを備えて構成されたが、リングばねの形状は円形に限られるものではなく、
軸対称形状の環状構造であればよい。このため、第2実施形態においては、円形のリングばね11b、12bに代えて、
図15に示すように、長円形やおむすび形、菱形形状やハート形状といったリングばねが用いられる。
このような形状のリングばねであっても、同様の効果が得られる。とくに、主軸軸心に対し垂直な断面において、円周方向に長く、また半径方向に短い半径方向に潰れた形状のリングばね形状とすることで、ツールホルダ1の外径寸法を小さくでき、キャビティなどの掘り込みの深い加工に対して、懐(ふところ)が深くなり、より加工可能範囲が広がる効果がある。なお、このような複雑なリング形状であっても、ワイヤカット(WEDM)により形成することで、加工工数には大差なく加工が可能である。
【0068】
尚、上記第1及び第2実施形態において、前部支持体11あるいは後部支持体12に配置されるリングばねの個数は、4個に限定されるものではなく、3個以上のリングばねを円周方向に等間隔に配置すれば、回転軸周りに一様のオリエンテーションが得られ、同様の効果が得られる。
【0069】
更に、上述の上記第1実施形態においては、微小間隙に磁性流体を充填して振動の抑制を行っているが、これに代えて、通常の流体を充填するだけであっても、毛細管現象により微小間隙に流体が浸透し、充填状態が維持されるので、上述したのと同様のダンピング効果が得られる。
【0070】
また、上記第1実施形態では、静止側の固定コイル23を含んだ「コ」の字形断面と、回転側の回転コイル18を含んだ「コ」の字形断面とを、半径方向に間隙をもって対向させて構成し、非接触でツールホルダ1に電源供給するようにしているが、これに代えて、
図16に示すように固定コイル23’と回転コイル18’とを軸方向に配置してもよい。
【0071】
具体的には、本変形例に係るツールホルダ1は、軟磁性円板9’の外周付近の端面に同心状の溝を設け、被覆銅線を卷線した回転コイル18’を該溝に埋設している。一方、軟磁性円板の端面に対して、わずかの間隙を隔てて軟磁性材製のセクタヨーク22’が配置され、クイル20に固定されている。該セクタヨークの上下面には、回転コイル18’と半径を同じくする円弧状の溝が設けられ、被覆銅線を卷線した固定コイル23’が埋設されている。固定コイル23’と回転コイル18’の両者は、ある間隙例えばサブミリオーダーの間隙を隔てて対向するように、セクタヨーク22’は固定間座21’を介してクイル20に固定されている。このように、固定コイル23’と回転コイル18’を軸方向(上下方向)に配置しても、同様の非接触給電が可能である。
【0072】
なお、この変形例では、固定コイル円弧は、回転コイルのほぼ1/3の範囲で対向させているが、これは工具交換の際に、障害にならないように配慮したものである。工具交換の際に障害にならない場合、あるいは工具交換の際の着脱ストロークをわずかに増大させることが可能な場合には、一部を対向させる円弧状の固定コイルに替わって、リング状の固定コイルとし、全周にわたって回転コイルと固定コイルを対向させることによっても、同様の非接触給電が可能である。
【0073】
加えて、上記第1実施形態においては、非接触トランスの回転コイル18は、銅巻線で構成されたが、これに代えて、
図17に示すように、銅巻線18の外側に樹脂ファイバーを卷線して回転コイルを形成してもよい。具体的には、本変形例では、回転コイルは、抗張力樹脂ファイバー(ポリアミド系細線)61を銅巻線18の外側に整列巻線して覆い、接着剤でコーティングしている。ツールホルダは毎分数万回転といった高速で使用されることが多い。このため、軟磁性円板9の外周に卷線された銅被覆線は、この回転領域では、遠心力に抗しきれずに破断に至る。本変形例のように構成することにより、毎分数万回転といった高速で使用しても、銅線コイルの遠心力による破断を抑止できるという効果がある。
【0074】
また、上記第1実施形態においては、防水カバー10にはナイロン樹脂製の防水カバー10を用いた、然しながら、毎分数万回転といった高速で工具4を動作させる場合には、遠心力によって防水カバーの強度を超えて破断してしまう。そこでこのような場合には、ナイロン樹脂製の防水カバーに代えて、ガラス繊維をプリプレグと積層した後、キュアして固化し、取り付け部を仕上げ加工したものを防水カバーとして使用してもよい。特に、この場合、回転するツールユニットの内蔵基板から直接、ワイヤレス発信するために、信号透過性の高いガラス繊維強化のGFRP(Glass fiber reinforced plastics)としている。
【0075】
尚、検出信号の発信アンテナを、防水カバーの外周に配置する場合には、上記のGFRP製防水カバーに限定されず、CFRP(Carbon fiber reinforced plastics)や金属製防水カバーであっても、同様の効果が得られる。