(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ラジアルベアリングまたは前記スプラインベアリングは、弾性変形を許容する鋼球を有するものであり、弾性変形による前記副軸の弾性変位が所望の範囲となるように、それぞれのベアリングにおける前記鋼球の接触面の曲率に対する前記鋼球の径を決定していることを特徴とする請求項1または2に記載のツールホルダ。
前記ラジアルベアリングはラジアル玉軸受によって構成され、前記スプラインベアリングは、ボールスプライン軸受によって構成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のツールホルダ。
前記ラジアルベアリングの近傍には、前記主軸の軸心に直角の断面内において直交する二方向における前記副軸の弾性変位を検出するための検出センサが配置されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のツールホルダ。
前記スプラインベアリングの近傍には、前記主軸の軸心方向および軸心回りのねじり方向からなる2方向のうち、少なくとも1つの方向を検出するための検出センサが配置されている請求項1ないし5のいずれかに記載のツールホルダ。
前記二種類の支持部の少なくとも一方は、前記主軸の軸心方向、前記主軸の軸心に直角の断面内において直交する二方向、および前記主軸の軸心回りのねじり方向からなる4方向のうち、少なくとも1つの方向に対し、ダンピング機能を有するものであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のツールホルダ。
前記二種類の支持部の少なくとも一方は、前記副軸との間に微小な間隙を形成しつつ前記二種類の支持部の前記少なくとも一方に固着されるリング部材を備え、前記ダンピング機能は、前記間隙に流体を充填することによって生じるスクィーズ効果によって発揮されるものであることを特徴とする請求項7に記載のツールホルダ。
前記流体は、磁性流体であり、前記リング部材は、磁力を有する磁性体によって構成され、前記磁性体は前記間隙に対し磁界ループを生じさせることにより前記磁性流体の漏洩抑制機能を発揮させるものであることを特徴とする請求項8に記載のツールホルダ。
【背景技術】
【0002】
機械加工時には、加工の継続とともに工具切れ刃が摩耗していき、加工精度が劣化していく。このため、1個の工具切れ刃で加工できる切削距離や加工個数にある閾値を設けて、加工精度が加工公差を超える前に、工具切れ刃の交換を行っているのが一般的である。切削距離に伴って工具切れ刃の摩耗が定常的に進行していく場合には、このような工具寿命を加工力や加工個数の閾値管理で対応可能である。しかし、現実には工具切れ刃の異常摩耗や欠損といった予測しがたい非定常な切れ刃損傷がたびたび起こっている。このような非定常な切れ刃損傷に対しては、上記の経験則に基づく閾値から工具寿命を管理することはできない。このため、工具切れ刃が異常摩耗や欠損をした後も継続して使用し、不良品続出といった歩留まりの低下を来すことが多い。また、このようなトラブルを回避する安全策として、工具切れ刃の交換までの切削距離を短めに設定して工具費の増大を来したり、加工条件を低めに設定して加工能率の低下を惹起する、などの問題を抱えている。
【0003】
これらの課題に対し、これまで、工作機械の主軸モータの回転駆動に消費される駆動動力の測定や、主軸頭や工作物の振動測定等により加工力を測定し、加工中の加工異常や工具の非定常な切れ刃損傷を、測定された加工力に基づきインプロセス検知する試みがなされている。
【0004】
このうち前者の加工中の主軸モータの駆動動力を測定する方法は、駆動動力の検出が比較的簡便なことから、機械加工現場への適用事例が増えつつある。しかし主軸モータが無負荷回転する場合であっても、主軸モータの電気的なロスやモータ軸受の摩耗などのメカニカルロスのため、多くの駆動動力を消費する。これに対し仕上げ加工工程などでは、切り屑生成に要する消費動力が小さく、検知すべき加工にかかる消費動力が主軸駆動モータの駆動動力の中に埋没してしまうこと、また主軸駆動モータの回転慣性が大きく、切れ刃欠損のような瞬時の小さな消費動力変動を忠実に測定できないこと、などの問題がある。
【0005】
切れ刃の欠損挙動などを瞬時に検知するためには、高い周波数帯域までの加工力の測定を可能にする必要があるが、そのためには加工力の発生箇所すなわち加工点と、加工力の検出端との距離を可能な限り近づけ、加工点から検出端に至る間の回転慣性や往復慣性を最小にすることが肝要である。このため、文献1や文献2では、主軸の工具側に副軸を設けて回転慣性を低減し、加工トルクの測定帯域の上限を高めている。しかし、この検出方式では、主軸内に検出機能を搭載しているため、検出系のみが故障しても、検出系を修理している間は主軸が使用できなくなり、工作機械本体の稼働率が大幅に低下する。
【0006】
一方で、工作機械の主軸に嵌合して工具を保持するツールホルダにて工具の加工力をインプロセスで検知しようとした場合、工具とツールホルダとは常に対をなして使用されるものであるので、工具毎に用意されるツールホルダの夫々に検知機能を持たせなくてはならない。
【0007】
そのほか文献3では、主軸に働く加工力を、静圧軸受の軸と軸受間の相対変位を測定することにより加工力の検出を可能にしている。しかし、ビルトインタイプのローター軸の慣性が大きく、この慣性の検出信号への配慮がなされておらず、測定帯域が著しく低く制限されている。また、流体軸受の筐体には配管類がつながれていることから、回転を前提としておらず、回転する工具への適用は想定されていない。
【0008】
文献4においても、工具刃先にはたらく加工力を、この加工力により工具にはたらく曲げモーメントに置き換えて、軸方向の磁歪フィルムにより検出可能にしている例が示されているが、外輪の取り付け部材は本体に固定され、工具交換に必須な着脱が容易にできない。また主軸側の転がり軸受は軸方向に固定され、刃先側の転がり軸受が軸方向にフリーな軸受配置となっている。これに対し、加工精度は刃先位置で決定されることを勘案すると、可能な限り刃先に近い位置にあるべき固定支点が、当該公知例では主軸側に配置されおり実用に供しない。
【0009】
一方、文献5〜10には、加工負荷の限界値を検知可能な機構を内蔵し、工具を把持できるツールユニットが示されている。しかし、いずれも、過負荷トルクや過負荷スラストのリミッターとしての機能をもたせているだけで、加工の負荷トルクや負荷スラストの時間的に連続した変化を検出することはできない。とくに、円周方向に等配されたステップに対応して間欠的に検出される円周方向や軸方向の偏位からは、時々刻々変化する連続した負荷変動を測定することはできず、切れ刃のチッピングや工具折損、切り屑の絡まりといった瞬時に起きる挙動を検知できず、工具折損予知につなげる
加工力把握ができない。
【0010】
また文献11で示されている実施例では、検出子として「ひずみゲージ」を用いている。ひずみゲージを用いた検出方式については、測定対象である負荷により生ずる部材のひずみ、いわゆる負荷ひずみと、測定箇所の温度変化に伴う宿命的な熱ひずみの分別が必須であり、ひずみゲージを貼り付ける部材の熱膨張係数に合わせた抵抗変化を補償するひずみゲージを用いたり、負荷によって対称箇所にひずみゲージを貼りブリッジ回路を組んで温度影響を補償するなどの対策を講じても、10
−6オーダーあるいはそれ以内のミクロなひずみを高精度に測定することは至難である。
【0011】
このため一般的には、ひずみゲージの貼り付け箇所の剛性をあえて低くし、大きなひずみを生じるようにしている。これらのことを考慮すると、当該文献の例において、検出感度を確保する手法は、剛性低下によるびびり振動発生や加工寸法精度劣化などの加工系への悪影響が危惧される。
【0012】
なお、文献11には、回転する検出系への電流供給の手段として、自動巻き腕時計に類似した回転に伴う自家発電により、回転するツールホルダに電源を供給している。しかしこの発電手法では、主軸が回転していない作動前の動作チェックや、機外での検出精度校正などができない。これらの作業を可能にするには、新たな電源供給手段が必要になるという課題がある。
【0013】
一方、工具を把持する副軸の支持方法についてであるが、転がり軸受の内輪と外輪との間に荷重が付加されると、内輪と外輪の間に介在する転動体と両輪の転動面との接触箇所において、局部的な弾性変形を生じ、主軸剛性を低下させることは広く知られ、重切削する工作機械の主軸では主軸の支持剛性の向上が重要な課題となっている。一方でこの弾性変形を積極的に活用する例として、この弾性変形量を検知することで、軸に働く負荷を評価することが行われている。
【0014】
文献12に示された公知例では、主軸が一定速度で回転していることを前提に、凹溝を通過する時間間隔の変化を検出してアキシャル荷重を測定している。しかし、回転していない停止状態では、アキシャル荷重の測定も測定精度校正も全くできない。また回転角度間隔で間欠的にねじれ変形量を測定しており、この角度間隔内で生じるアキシャル荷重の急速な変化を検出することはできない。このように、測定可能な周波数帯域はきわめて低く制限され、例えば、切れ刃刃先にチッピングが発生しても、その急激な荷重の変化挙動を検出することができない。文献12の
図6の例では、回転角90°ごとに凹溝が配置されているように読み取れ、この角度間隔でしか荷重変化を測定していないため、これよりも小さい回転角度内に発生する加工力変化を検出することはできない。
【0015】
なお、複数のセンサを用いた検出信号の位相差についても触れているが、検出角度位置の測定精度が上がるだけで、アキシャル荷重の急激な時間変化を測定することはできない。
【0016】
文献13および文献14には、車のタイヤから受ける荷重を、1対のアンギュラーコンタクト軸受を背面組み合わせした軸受ボックスで受けているときの、路面からの負荷を計測する適用例である。これら2つの公知例では、回転体に磁石を等配置したエンコータを取り付け、軸受ボックスに固定した磁気検知素子にて軸の弾性変位により、タイヤから受ける荷重を検知している。しかし、文献14の公知例では回転体が回転していることが前提であり静止中には検出感度の校生ができない。また文献14では、1対のアンギュラーコンタクト軸受を背面組み合わせした軸受間の中央付近に半径方向の弾性変位を測定するようにしているが、タイヤからの曲げモーメントを考慮すると、弾性変位が最小に近い位置で測定している。これに対し文献13では、検出センサを車体側に移動して検出感度を高めているものの、センサおよび被検出端の取り付け箇所の動剛性低下が危惧される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上述したように、機械加工ラインにおいて、高い周波数帯域までの加工力のインプロセス測定を可能にし、急激な加工力変化に対して敏感に検知できる測定手段を実現することが課題である。そのためには、加工点から測定箇所までの回転慣性および往復慣性を小さく抑制し、高周波数帯域までの加工力の測定を可能とすること、また機械加工ラインへの適用を可能にするべく、構成や構造を単純にしてコストパフォーマンスを高めることが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するため、本発明にかかるツールホルダは、検出部を構成する弾性支持系を直列的に接続するのではなく、単純な構造にして、測定性能を向上させるとともに廉価可能している。
【0020】
このため、請求項1記載のツールホルダは、工作機械の主軸との嵌合が可能なテーパー部と、先端に工具を把持するチャックを有し、前記テーパー部と同軸心に配置される副軸と、前記テーパー部と前記副軸との間に介在し、該副軸を支持する二種類の支持部と、
前記テーパー部に対する副軸の弾性変位または弾性歪を検出する検出センサと、前記検出センサによる検出信号を処理する信号処理手段および処理された信号を送信する送信手段と、前記検出センサ、
前記信号処理手段および
前記送信手段に対する電源を供給する電源供給手段とを備えるツールホルダであって、
前記テーパー部は、前記テーパー部に固着される外筒と、前記外筒に固着される内筒とを備え、前記副軸は、前記内筒の内部に貫挿され、前記支持部は、
前記内筒と前記副軸との間に介在し、前記副軸の先端側に配置されるラジアルベアリングと、
前記副軸の後端側に配置されるスプラインベアリングとの二種類であり、前記検出センサは、
前記二種類の支持部、前記外筒または前記内筒のいずれかに装着され、前記主軸の軸心方向、
前記主軸の軸心に直角の断面内において直交する二方向、および
前記主軸の軸心回りのねじり方向からなる4方向のうち、少なくとも1つの方向における前記テーパー部に対する前記副軸の弾性変位を検出するものである。
【0021】
請求項
2記載のツールホルダは、請求項
1に記載のツールホルダにおいて、前記ラジアルベアリングおよび前記スプラインベアリングは、それぞれの外輪が前記内筒に固着され、
前記副軸は、
前記主軸の軸線方向に平行な複数のスプライン溝を有し、
前記スプライン溝が前記スプラインベアリングの鋼球を嵌入しつつ
前記スプラインベアリングに装着されるとともに、前記ラジアルベアリングの内輪に固着されるものである。
【0022】
請求項
3記載のツールホルダは、請求項1
または2に記載のツールホルダにおいて、前記ラジアルベアリングまたは前記スプラインベアリングは、弾性変形を許容する鋼球を有するものであり、
弾性変形による前記副軸の弾性変位が所望の範囲となるように、それぞれのベアリングにおける
前記鋼球の接触面の曲率に対する
前記鋼球の径を決定しているものである。
【0023】
請求項
4記載のツールホルダは、請求項1ないし
3のいずれかに記載のツールホルダにおいて、前記ラジアルベアリングはラジアル玉軸受によって構成され、前記スプラインベアリングは、ボールスプライン軸受によって構成されている。
【0024】
請求項
5記載のツールホルダは、請求項1ないし
4のいずれかに記載のツールホルダにおいて、前記ラジアルベアリングの近傍には、前記主軸の軸心に直角の断面内において直交する二方向における前記副軸の弾性変位を検出するための検出センサが配置されている。
【0025】
請求項
6記載のツールホルダは、請求項1ないし
5のいずれかに記載のツールホルダにおいて、前記スプラインベアリングの近傍には、前記主軸の軸心方向および軸心回りのねじり方向からなる2方向のうち、少なくとも1つの方向を検出するための検出センサが配置されている。
【0026】
請求項
7記載のツールホルダは、請求項1ないし
6のいずれかに記載のツールホルダにおいて、前記二種類の支持部の少なくとも一方は、前記主軸の軸心方向、
前記主軸の軸心に直角の断面内において直交する二方向、および
前記主軸の軸心回りのねじり方向からなる4方向のうち、少なく1つの方向に対し、ダンピング機能を有するものである。
【0027】
請求項
8記載のツールホルダは、請求項
7に記載のツールホルダにおいて、前記二種類の支持部の少なくとも一方は、前記副軸との間に微小な間隙を形成しつつ
前記二種類の支持部の前記少なくとも一方に固着されるリング部材を備え、前記ダンピング機能は、前記間隙に流体を充填することによって生じるスクィーズ効果によって発揮されるものである。
【0028】
請求項
9記載のツールホルダは、請求項
8に記載のツールホルダにおいて、前記流体は、磁性流体であり、前記リング部材は、磁力を有する磁性体によって構成され、
前記磁性体は前記間隙に対し磁界ループを生じさせることにより前記磁性流体の漏洩抑制機能を発揮させるものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明のツールホルダは、工具と一体化された副軸が、お互いに離れた2支持部で軸心を同じくするテーパー部に弾性支持されているので、テーパー部に対する副軸の弾性変位量を検出センサを用いて測定することにより、加工点から伝達される加工力を検知することができる。ここで、検出センサを加工点に近づけるほど、加工点から検出センサに至るまでの往復慣性および回転慣性をより一層抑制することができ、加工力や加工トルクの減衰が抑制され、慣性体の固有振動数を高めることができ、より高い周波数帯域までの加工力を信頼性高く検出することができる。故に、工具切れ刃の微小な欠損や折損を実時間にて迅速に検出可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明のツールホルダは、加工力検知機能を有するものであり、加工力の検出センサを、可能な限り加工点に近い位置に配置して、加工点から検出センサまでの加工力の伝達経路を大幅に短縮し、この力伝達経路がもつ往復慣性および回転慣性を十分に抑制するとともに、加工力による振動の発生を抑制する減衰機能を備え、加工力の測定可能な周波数帯域を高めたものである。
【0032】
最初に、本発明に至った測定系の構成について、
図1に示す測定系のモデル図を用いて説明する。
図1(a)は、従来技術による一般的な加工力の測定モデル、
図1(b)は本発明の加工力の測定モデルを示す。
図1(c)は、
図1(a)および
図1(b)における座標軸系を示しており、加工点Oを原点として、主軸軸心方向にZ軸、該主軸軸心に垂直な面内におけるお互いに直交する方向にX軸及びY軸を、またZ軸周りのねじり方向にθ軸をとっている。工具切れ刃にかかる加工力のうち、X軸、Y軸およびZ軸の3軸方向にはたらく分力をそれぞれPx、Py、Pz、また該主軸軸心周りに働くねじりモーメントをMtとし、ここではMtも含めて加工力の4分力と呼ぶことにする。ここでは、この4分力の全てないしその一部を、加工力の測定対象としている。
【0033】
工具切れ刃の加工点Oにはたらく加工力の4分力を、直接に測定することができないので、加工点から離れた測定位置(
図1(a)では測定点A,B,C)に伝達してくる力ないしはそれに伴う弾性歪を測定することになるが、この力の電圧経路が加工力の測定特性に大きく影響する。すなわち、準静的ないし、ごく低周波数帯域の加工力であれば、Px、Py、Pz、Mtの4分力を、それぞれに対応する測定値Fx、Fy、Fz、Qtから、幾何学的な換算をするだけで求めることができる。これらの記号の対応関係を、
図2に示す。
【0034】
これに対し、加工点Oに変動する加工力のPx、Py、Pz、Mtがはたらくとき、加工点Oから測定点A、B、Cに至るまで力は直列的に伝達されていくが、加工点Oから遠ざかるにつれて、力の伝達経路上にある往復慣性や回転慣性が増えていき、それに伴って検出センサで検出できる周波数帯域の上限が低下していく。
【0035】
そこで本発明では、加工力を、上述したPxとPy、Pz、Mtといったそれぞれの測定点A、B、Cへの直列的な力の伝達経路ではなく、
図1(b)に示すように、測定点A’、B’、C’がともに剛体とみなせる副軸上にあって、疑似的に同一箇所とみなせる一体検出方式を採ることにより、往復慣性や回転慣性を抑制しており、また鋼球の接触剛性に起因した弾性変位を検出する方式を採ることにより、加工力の測定系を単純構造にしている。
【0036】
以下、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照して説明する。以下の図において、同一部材には同一符号を付し、説明を省略または簡略化する。図面は発明の構成を模式的に示すものであり、構成の一部を省略または簡略化しており、寸法も実際の装置とは必ずしも同一ではない。まず、
図3から
図15を参照して、本発明の第1実施形態について説明する。
図3は、第1実施形態のツールホルダ1の断面図を示し、
図4は該ツールホルダを含む加工力検出のシステム構成概要を示す。
【0037】
工具4を把持できるようにしたチャック5を一端にもつ副軸6は、内筒7および該内筒とネジ固定され一体化された外筒16に対して、
図1のモデル図にて示した支持点A’に該当する箇所では回転自在なラジアルベアリング11、
図1のモデル図にて示した支持点B’に該当する箇所では往復動自在なスプラインベアリング12を介して、鋼球とレース面との間の接触剛性により弾性支持されており、外筒16は、工具4、チャック5、副軸6、内筒7およびテーパー部3と主軸軸心を共有し、テーパー部3にネジ固定されている。
【0038】
図5には、
図3におけるB−B矢視図を示す。ラジアルベアリング11は、鋼球11aと内輪11bおよび外輪11cのレース面との間で金属接触しており、半径方向(すなわち軸直角方向)あるいは主軸軸心方向に負荷がかかると、負荷方向にサブミクロンからミクロンレベルの弾性変形を生じる。
【0039】
図6には、ラジアルベアリング11周りの部組みの様子を示している。また
図7には、
図6における主軸軸心を通る断面のD−D矢視の断面図を示し、副軸6の挿入状況を
図7中に想像線で示している。なお、
図6における内筒7および外筒16は、理解を助けるために、1/2にカットした断面を描いている。まずスペースリング31の外周には、厚さ方向に磁界をもった等厚の磁石円板34が嵌まり、スペースリング31と磁石円板34の両側面には、軟磁性材からなる側板A(32)および側板B(33)が、サンドイッチ状に接着され一体化されたあと、内径が副軸6の外径よりもわずかに大きく追加工され、組み立て時に直径で30μmから80μmの微小間隙を形成されるようにしている。この微小間隙には、真空吸引により磁性流体60が充てんされ、次いで、ラジアルベアリング11の内輪11bが圧入され、ベアリングナット35により該内輪を副軸6の軸方向に固定する。
【0040】
この副軸と部組み状態にあるサンドイッチ構造の磁石円板34およびラジアルベアリングの外輪11cの外径を内筒7に嵌合し、内周にOリング58を組み込んだエンドプレート17により、外輪11cをセットビス36により主軸軸心方向に磁石円板34および外輪11cを固定する。
【0041】
なお、側板A(32)および側板B(33)の側面の内周側にはヌスミが設けられており、側板B(33)、磁石円板34、側板A(32)、外輪11cの4者を内筒7に嵌合し固定したとき、内輪11bの軸方向の弾性変位が拘束されるようになっている。
【0042】
ここで、側板A(32)、スペースリング31および側板B(33)の内径と副軸6との間に充てんされた磁性流体により、加工力により誘起される該副軸の半径方向の振動は、磁性流体のスクィーズ効果によりダンピングされ制振される。
【0043】
図8は、スプラインベアリング12周りの構成部品、およびそれらの部組み手順を示す。なお、理解を助けるために、スペースリング37、側板C(38)、側板D(39)および磁石円板40の軸心を通る1/2カット断面を示すとともに、スプラインベアリング12およびトルクベース43の一部も破断して示している。
【0044】
副軸6の外周には主軸軸心方向に平行な4本のスプライン溝6aが形成されており、一方のスプラインベアリング12の外輪12dの対向する角度位置4か所にも、同様に主軸軸心方向に平行な4本のスプライン溝12cが形成されており、両スプライン溝の間にわずかの予荷重を与えるように、直径を選別した鋼球4個を各スプライン溝に組み込んでいる。これら4個の鋼球を2個のスペーサリング12aで挟みこんで、鋼球の主軸軸心方向の移動をすきま嵌め程度に制限している。
【0045】
また磁石円板40の内周には非磁性のスペースリング37が挿入されており、その両側を、軟磁性の側板C(38)および側板D(39)で挟み込んだ状態で接着されている。
また側板Cおよびスペースリングの内径と副軸6との間には、直径で30μmから80μmの微小間隙が形成され、この間隙に磁性流体41が充てんされている。またスペースリング37の端面と側板D(39)の右側面は、組み立て後に面一に仕上げられており、トルクベース43が副軸6に組み立てられた時に、スペースリング37および側板D(39)とトルクベース43との間には15μmから40μmの微小間隙が形成されており、しかも
スペースリング37の内周には面取りを、トルクベース43には同心円状の逃げ溝45を設けており、これらをスプラインベアリング12およびトルクベース43と一緒に、副軸6に組み立てられ、ナット
47にて副軸ねじ部6cに締結されたとき、トルクベース43とスペースリング37との間には、リング状の空隙46が形成されている。
【0046】
これら円筒方向およびスラスト方向の微小間隙には、磁性流体41が充てんされている。この磁性流体により、副軸の半径方向の振動および主軸軸心方向の振動を制振できる。なお、スプラインベアリング12の面取り部と逃げ溝45とで構成される空隙46には、完全には磁性流体が満たさず、一部が空間だまりとして残っており、この圧縮性に富んだ空気だまりが存在することで、磁性流体の非圧縮性が解放され、副軸6の軸方向の振動と軸直角方向の振動との相互干渉が無視できるレベルに緩和される。また副軸6の2ヶ所、すなわち
図1(b)における支持点A’にはラジアルベアリング11を、支持点B’にはスプラインベアリング12を配置し、ともに微小間隙に磁性流体を充てんしたダンパーを並列に配置したことにより、並進方向の振動モードだけでなく、主軸軸心に対するピッチング方向の振動モータに対してもダンピング効果を発揮できるようにしている。
【0047】
なお、ナット47の材質を銅合金として、トルクベース43を副軸6にねじ締結することで、このねじ締結の緩み止め効果を高めている。
【0048】
図9に、
図3におけるC−C矢視図を、また
図10には
図9におけるA−A矢視図を示す。
【0049】
トルクベース43は、銅合金製のナット47により副軸6にネジ締め固定されている。一方、回転軸対称に配置された1対のTセンサ49は、センサ基板50を介してTセンサ台48にネジ締め固定されており、該Tセンサ台は、内筒7にボルト53により固定されている。ここで、Tセンサ49は、表面に測定端子69(69’)を備えており、回転方向の変位を検出できるように測定端子69(69’)は対面するトルクドグ44に押し当てられる。該トルクドグのTセンサとは反対の面は、間隙15μmから40μmの微小間隙を隔てて、ランド51および該ランドを取り巻く角リング磁石52と対向し、この微小間隙には磁性流体57が充填されている。
【0050】
なお、通し穴56を介して、外筒16から内筒7を軸方向に吊りボルトで固定している。
【0051】
図11は、
図3におけるE−E矢視の断面図である。ラジアルベアリング11に隣接する軸直角断面の図である。内筒7の互いに直交するX軸およびY軸の2方向に、対を成すX軸センサ13およびY軸センサ13’を取り付け、内筒7に対する副軸6の軸直角方向の相対的な弾性変位を測定しており、対向する2個のX軸センサ13の差分、およびこれらに直交する2個のY軸センサ13’の差分から、工具切れ刃にかかる加工力のX方向分力FxおよびY方向分力Fyを、
図2に示した換算式を用いて換算している。なお、X軸センサおよびY軸センサの検出信号の微調整には、シムの厚さを種々変えることで調整している。
【0052】
なお、加工力のZ方向分力Pzに対しては、外筒16にネジ固定されたZセンサベース上に設置されたZ軸センサ14により、副軸6の後端面と該外筒との間の軸方向の弾性変位を測定し、この弾性変位とPzが比例するとして換算している。Z軸センサ13、Y軸センサ13’、Tセンサ49、Z軸センサ14には、公知のセンサを用いることができ、例えば、渦電流変位センサや電気容量変位センサ、光変位センサなどを用いることができる。更には、X軸センサ13、Y軸センサ13’は、前部支持体11、後部支持体12、外筒16に設置して副軸との相対変位を測定しても良い。
【0053】
従来例では、加工力検出への温度変化による熱ひずみの影響が問題であったが、ここでは問題となる熱ひずみに対して直交する方向の弾性ひずみを測定することで、その影響を最小にしている。
【0054】
ここで、
図12に、本実施形態におけるラジアルベアリング11およびスプラインベアリング12における鋼球に働く負荷と副軸にかかる分力との相関、および働く力を変位検出するときの検出感度の計算例を示す。また当該図中に用いた記号の説明を、
図20に示す。
図12の縦横の弾性変位が検出感度に比例する。
図12の(a)列はX方向分力およびY方向分力について、
図12(b)列はZ方向分力について、
図12(c)列は回転モーメントについての説明と、負荷および検出感度の計算式について記しており、いずれも予荷重0の例である。
【0055】
ここでは、鋼球とレース面との接触点での弾性変位が、両者に働く負荷の2/3乗に比例し、負荷が増すほど検出感度が低下していくハードスプリング状の挙動を示す一般則に基づいて導いている。また図中に示されたPx、Py、Pz、Mtの検出感度の比例定数α、β、γは、鋼球の直径やレース面の曲率半径に依存し、また接する材質によっても異なってくるほか、組み立て時の予荷重によっても異なってくる。
【0056】
なお、信号処理送信部8は、検出センサからの
検出信号を増幅する検出信号増幅部、増幅された検出信号のA/D変換部、アンテナを持った送信部からなり、該送信部とパーソナルコンピュータ(以下、「PC」と称す。)間は、廉価で汎用性に富んだWi−Fi方式により無線通信を行い、PCにて受信された加工力のデータは、PCの画面上でグラフ表示されるほか、工作機械への制御指令として用いられる。
【0057】
また信号処理送信部8は、防水カバー10で覆われ、加工液などの湿気から保護されている。
本実施形態では、該信号処理送信部に信号送信モジュールが組み込まれており、検出信号が内部より送信されるので、無線信号の透過性に富んだナイロン樹脂製の防水カバーを採用している。
【0058】
なお、この回転するツールホルダへの電源供給手段としては、
図4あるいは
図4中のF−F矢視図を示した
図13、および
図13におけるG−G矢視図である
図14に示すように、冷却機能をもった固定間座21を介して工作機械のクイル20に固定された、外周溝を持つ扇状の軟磁性材製のセクタヨーク22と、同じく軟磁性材でできた該セクタヨークの外周溝に卷線された固定コイル23と、該セクタヨークに対して微小ギャップを隔ててこれに対向する外周位置に同心溝を持つ軟磁性円板9と、該同心溝に被覆銅線を卷線された回転コイル18とで非接触トランスを構成し、固定コイル23に発振増幅部27から交流電源を供給することにより、回転する回転コイル18には、同じ周波数の交流が誘起される。この誘起された交流を、整流回路と電圧レギュレータを介して直流電源を得ている。
【0059】
ここで、固定側のセクタヨーク22を、全周ではなくセクタ状にした理由は、ツールホルダ交換時に、ATC(Automatic Tool Change)のフォークとの干渉を回避するためである。このため、回転コイル18に対する固定コイルの包含角度に逆比例した高い電圧を発振増幅部27から固定コイル23に
供給している。これは、固定コイルに対して回転コイルの巻き数を、包含角度に逆比例する巻き数としても、同様の効果が得られる。
【0060】
また固定コイル23に通電すると、セクタヨークが温度上昇を来すので、固定間座21には通液穴を設けており、運転時には加工液を通して冷却し、セクタヨーク22の温度上昇を抑制している。
【0061】
稼働時間の短い作業にあっては、必ずしも上述のような非接触給電方法を採る必要はなく、ツールホルダに蓄電池を内蔵しておき、ATCストッカーに収納された状態など、稼働していない静止位置において、該蓄電池に充電しておき、主軸に搭載された計測時にはこの蓄電池を電源として使用しても、同様の効果が得られることは、自明である。
【0062】
また、
本実施形態では、固定コイルと回転コイルを対向させて、非接触トランスを構成して、電源を回転体に供給しているが、給電する固定コイル側、受電する回転コイル側ともに、コイルのほかにコンデンサと抵抗とを組み合わせたLCR共振回路を構成して、非接触で回転する信号処理・送信部に電源を供給することもできる。この場合には、固定コイルと回転コイルとを対向させることなく、より大きく離れていても非接触で電源供給ができる。
【0063】
本実施形態において、工具切れ刃すなわち加工点から、チャックに近い支持点であるラジアルベアリングの鋼球位置までの距離をa、該ラジアルベアリングの鋼球位置からチャックから遠い方の支持点であるスプラインベアリング12の鋼球位置までの距離をL、加工点に軸直角方向にかかる荷重をPとすると、軸直角方向には、
ラジアルベアリングにかかる負荷 : (1+a/L)P
スプラインベアリングにかかる負荷: (a/L)P
となり、ラジアルベアリング付近の軸直角方向の弾性変位で検出できるようにすることで、該弾性変位から換算して得られる支持点の負荷に対して、おおよそ(1+a/L)倍の高い感度の荷重Pの検出信号が得られる。
【0064】
つまり、ラジアルベアリングにかかる軸直角方向の負荷は、スプラインベアリングにかかる軸直角方向の負荷よりもPだけ大きいので、大きな負荷のかかるチャックに近い支持点であるラジアルベアリングの支持剛性の方を高める構造とすることが望ましい。これにより、工具刃先の剛性を高めることができるので、より安定な加工を行うことができ、加工負荷の大きな加工においても高感度で加工力を検出することができる。
【0065】
ここで、
図15を参照して支持剛性の設計手法について説明する。
図15は、凹球面とΦ1.5mmの鋼球を接触させたときの接触点変位の計算例(軸受鋼製の鋼球を軌道面に負荷INで押し付けた時の垂直荷重による負荷方向の弾性変位の計算例)を示す図である。このように、鋼球の直径や、凹球面の曲率を変えることで、支持剛性を自在に設計できる。まあ、負荷をあらかじめ与える、いわゆる予荷重をかけておくことによって、図中の凹球面の実質的な曲率半径R
2を大きくでき、〔弾性変位/2R
2〕の勾配を小さくでき、剛性を高めることができる。以上の説明は、1個の鋼球と凹球面について記しているが、鋼球の個数が増える場合にも、それに応じた比例係数を掛けるだけで、同じ説明が有効である。また、検出感度すなわち弾性変位と負荷との関係は、
図12からも明らかなように、おおむね負荷の1/3乗に逆比例する関係にあり、あらかじめ両者の相関を求め、両者が比例関係になるようにゲイン補正することで、さらに加工負荷検出の利便性が高まる。なお上記した支持剛性と加工力の検出感度は、当然のことながらトレードオフの関係にあり、加工の負荷に応じた支持剛性と検出感度が選択される。
【0066】
例えば、太径の穴明けの場合には、Fx、Fyに比べて相対的に軸方向のFzが大きいので、ラジアルベアリングの鋼球に対する軌道面の曲率半径を小さくし、この方向の剛性を高めることで、より安定した加工状態で加工力の測定ができる。同様に、微小径のエンドミル加工では、FxおよびFyの感度を高めた支持点の剛性設計ができるなど、種々の加工用途に応じたラジアルベアリングおよびスプラインベアリングの剛性設計が可能である。
【0067】
このように、本実施形態のツールホルダ1によれば、チャックに近い支持点に配慮したラジアルベアリングの内外輪のレース面と鋼球との間のX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向の弾性変形量からFx、Fy、Fzを検知し、またチャックから遠い支持点に配置したスプラインベアリングのスプライン溝と鋼球との間の回転方向の弾性変形からMtを検知するように構成した。つまり、検出センサを加工点に可能な限り近づけ、加工点から検出センサに至るまでの往復慣性および回転慣性をより小さくした構成としているので、より高い周波数帯域までの加工力検出を可能にし、工具切れ刃の微小な欠損や折損を瞬時に検出可能としているのである。
【0068】
なお、通常は、前段支持体と後段支持体からなる工具の弾性支持系では、加工力により振動が誘起されることが危惧されるが、本実施形態においては、ラジアルベアリング11とスプラインベアリング12からなる両支持体と内筒ないし外筒との間にスクィーズ効果を利用したダンピング機能を付加することで、加工の安定化を図るとともに、より高い周波数帯域までの加工力を精密に検出可能にしている。
【0069】
さらに、本実施形態では、回転するツールホルダ1への非接触給電が可能となるように構成されているので、定期的に繰り返さなければならなかった充電作業の煩雑さから解放される。
【0070】
また通信手段として、汎用性の高いWi−Fi方式を採用しており、市販のWi−Fi用汎用モジュールを流用することで、測定データの無線通信を可能としており、加工力の検出機能を持つツールホルダを廉価に構築することができる。
【0071】
またこの種の測定系では、一般に測定値が温度影響を受けやすいが、本実施形態では温度による熱膨張方向に直交する方向の変位の変化により加工力を検知するようにしており、測定系の温度上昇による熱膨張に対して、加工力の検出信号が極めて鈍感なことが特長である。即ち、検出信号の温度影響を抑制し、測定値の信頼性を向上させることができる。
【0072】
次に、
図16〜
図18を参照して本発明の第2実施形態について説明する。
図16は、第2実施形態のツールホルダ1の断面図であり、
図17は、
図16におけるI−I矢視図、
図18は、
図17におけるH−H矢視の断面図である。上記第1実施形態では、扇様のセクタヨーク22の外周に巻かれた固定コイル23が、回転する軟磁性円板9の外周に巻かれた回転コイル18とは、軟磁性円板9の半径方向に微小間隙を隔てた外周の対向する位置に配置されていた。
【0073】
これに対し第2実施形態では、軟磁性円板9’の外周付近の端面に同心状の溝を設け、被覆銅線を卷線した回転コイル18’をこの溝に埋設している。一方、軟磁性円板の端面に対して、わずかの間隙を隔てて軟磁性材製のセクタヨーク22’を配置している。該セクタヨークの上下面には、回転コイル18’と半径を同じくする円弧状の溝が設けられ、被覆銅線を卷線した固定コイル23’が埋設されている。固定コイル23’と回転コイル18’の両者はサブミリオーダーの間隙を隔てて対向するように、セクタヨーク22’は固定間座21’を介してクイル20に固定されている。このように、固定コイル23’と回転コイル18’を端面方向に配置しても、同様の非接触給電が可能である。
【0074】
なお、第2実施形態では、固定コイル円弧は、回転コイルのほぼ1/3の範囲で対向させているが、これは自動工具交換の際に、障害にならないように配慮したものである。工具交換の際に障害にならない場合、あるいは工具交換の際の着脱ストロークをわずかに増大させることが可能な場合には、一部を対向させる円弧状の固定コイルに替わって、リング状の固定コイルとし、全周にわたって回転コイルと固定コイルを対向させることによっても、同様の非接触給電が可能である。
【0075】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能であることは容易に推察できるものである。
【0076】
例えば、上記各実施形態では、被覆銅線が卷線された回転コイル18、18’を用いたが、これに代えて、
図19に示すように、被覆銅線で卷線された回転コイルの外周に、高抗張力樹脂ファイバーを整列巻きして補強した回転コイルを用いてもよい。作今の毎分数万回転といった高速回転要求に対して、被覆銅線の巻線だけでは、銅線自身の遠心力で破断してしまう。そのため本変形例では、卷線された回転コイルの外周を、ポリアミド系の樹脂ファイバーで卷線し、巻線の隙間を接着剤で固めて補強し、より高い回転数での使用を可能にしている。
【0077】
また、上記第1実施形態では、微小間隙に磁性流体を充填して振動の抑制を行っているが、微小間隙に機械油などの汎用の流体を充填するだけでも、毛細管現象により微小間隙に流体が浸透し、充填状態が維持されるので、上述したのと同様のダンピング効果が得られることを確認している。なおこの場合には、磁石円板34、40や角リング磁石52に磁性を持たせる必要はなく、所定の微小間隙が形成できる材質のものであれば、その材質を問わない。
【0078】
また、上記第1実施形態では、防水カバー10にはナイロン樹脂製の防水カバー10を用いた、然しながら、樹脂製の防水カバー10も、内部の信号処理・送信部8かたの無線発信に対し透過性に富んだナイロン樹脂製の材質を採用しているが、上述のような高速回転では、遠心力がナイロン樹脂の破断強度を超えてしまい、損壊してしまう。このため、このような高速回転に対しては、ガラス繊維で強化した樹脂でモールドしたGFRP(Glass Fiber Reinforced Plastics)製の防水カバーとすることで、高速回転を可能にしている。なお信号処理・送信部8からの検出信号を、防水カバーの外部に設けたアンテナにより発信する場合にはこの限りではなく、防水カバーには電磁波に配慮した材質選択をする必要はなくなる。