(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6827233
(24)【登録日】2021年1月21日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】六価クロム還元剤及び六価クロムの還元処理方法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/00 20060101AFI20210128BHJP
C12N 1/16 20060101ALI20210128BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20210128BHJP
C02F 11/00 20060101ALI20210128BHJP
C02F 11/02 20060101ALI20210128BHJP
A62D 3/37 20070101ALI20210128BHJP
A62D 3/02 20070101ALI20210128BHJP
B01J 20/24 20060101ALI20210128BHJP
B09C 1/10 20060101ALI20210128BHJP
【FI】
C09K3/00 SZAB
C12N1/16 A
C12N1/20 A
C02F11/00 H
C02F11/02
A62D3/37
A62D3/02
B01J20/24 B
C09K3/00 109
B09C1/10
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-119325(P2016-119325)
(22)【出願日】2016年6月15日
(65)【公開番号】特開2017-222790(P2017-222790A)
(43)【公開日】2017年12月21日
【審査請求日】2019年5月23日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514273228
【氏名又は名称】株式会社JEMCO
(73)【特許権者】
【識別番号】390021289
【氏名又は名称】朝明精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188765
【弁理士】
【氏名又は名称】赤座 泰輔
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100136995
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 千織
(74)【代理人】
【識別番号】100163164
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 敏之
(74)【代理人】
【識別番号】100198247
【弁理士】
【氏名又は名称】並河 伊佐夫
(72)【発明者】
【氏名】神谷 正光
(72)【発明者】
【氏名】浦田 明成
【審査官】
井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−272552(JP,A)
【文献】
特開2009−082861(JP,A)
【文献】
特開2006−204963(JP,A)
【文献】
特開2012−006000(JP,A)
【文献】
特開2015−021357(JP,A)
【文献】
地盤工学会誌,2011年,Vol.59,No.7,p.10−13
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/00
A62D 3/00
B09C 1/00
C02F 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母菌、乳酸菌及び納豆菌を含む菌叢と、糖類水溶液と、を含む培養液を含む六価クロム還元剤であって、
アスコルビン酸(アスコルビン酸塩を含む)及び/又はエリソルビン酸(エリソルビン酸塩を含む)を1〜30質量%含有し、
硫酸鉄(+I)、硝酸鉄(+I)又は塩化鉄(+I)から選択される金属塩を0.2〜20質量%含有し、
還元された三価クロムとキレート化合物を形成する、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸又はコハク酸から選択される多価カルボン酸(多価カルボン酸塩を含む)を0.2〜10質量%含有し、
該キレート化合物を吸着し固定化するリグニンを1〜40質量%含有する、
ことを特徴とする六価クロム還元剤。
【請求項2】
請求項1に記載の六価クロム還元剤を用いた六価クロムの還元処理方法であって、六価クロム汚染物のpHが1.9〜13.3であることを特徴とする六価クロムの還元処理方法。
【請求項3】
請求項1に記載の六価クロム還元剤を用いた六価クロムの還元処理方法であって、六価クロム汚染物の六価クロム濃度が232〜5230mg/Lであることを特徴とする六価クロムの還元処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌及び納豆菌を含む菌叢と、糖類水溶液と、を含む培養液を含む六価クロム還元剤に関する。
【背景技術】
【0002】
六価クロムによる汚染問題は周知であり、六価クロムの人体への悪影響は計り知れない。従来から、六価クロムを人体への悪影響の少ない三価クロムへ還元する、六価クロム還元剤が知られている。
【0003】
特許文献1には、廃糖蜜由来の加温又は発酵成分の酵素を有効成分とする六価クロム還元剤が、記載されている。特許文献2には、亜硫酸カルシウムを有効成分とする六価クロム還元剤が、記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−189594号公報
【特許文献2】特開2009−066570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
六価クロムによる被汚染物には様々な条件のものがある。六価クロムは使用時に幅広いpH(水素イオン指数)で使用され、六価クロム被汚染物も幅広いpH(強酸性から強アルカリ性まで)を示すものがある。しかし、従来の六価クロム還元剤は、強酸性または強アルカリ性の六価クロム被汚染物を効率良く還元処理することができるものではない。六価クロム被汚染物が強酸性または強アルカリ性である場合には、六価クロム被汚染物を水や中和剤などで中和処理してから還元処理を行う必要があり、中和処理は時間や手間を要し合理的でない。六価クロムによる汚染には土壌汚染があり、被汚染物である土壌が強酸性または強アルカリ性である場合、六価クロム還元処理は土壌を掘り起こして中和処理してから行う必要があり、手間を要するものであった。また、六価クロムが含有しているものの一つとしてセメント(普通ポルトランドセメントなど)があるが、従来の六価クロム還元剤では、セメントが強アルカリ性であるため、セメントに含有している六価クロムを効率良く還元処理することが難しかった。
【0006】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、六価クロム被汚染物が強酸性または強アルカリ性である場合であっても、中和処理を要することなく、六価クロム被汚染物の還元処理を可能にする六価クロム還元剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の六価クロム還元剤は、酵母菌、乳酸菌及び納豆菌を含む菌叢と、糖類水溶液と、を含む培養液を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明の六価クロム還元剤によれば、酵母菌、乳酸菌及び納豆菌を含む菌叢を用いていることにより、幅広いpHの六価クロム被汚染物の還元処理ができる。
【0009】
ここで、上記六価クロム還元剤において、アスコルビン酸(アスコルビン酸塩を含む)及び/又はエリソルビン酸(エリソルビン酸塩を含む)を含む、ものとすることができる。これによれば、六価クロム濃度が1000mg/L以上の高濃度の六価クロム被汚染物の還元処理ができるものとなる。
【0010】
また、上記六価クロム還元剤において、金属塩を含む、ものとすることができる。これによれば、金属塩の金属が酸化され易いため、六価クロムの還元を促進する。このため、六価クロム被汚染物の還元処理により優れたものとなる。
【0011】
また、上記六価クロム還元剤において、多価カルボン酸を含む、ものとすることができる。これによれば、六価クロムが還元された三価クロムと多価カルボン酸とがキレート化合物を形成する。そして、三価クロムと多価カルボン酸とのキレート化合物は化学変化的に安定なものであるため、三価クロムが六価クロムに酸化されることを抑制することができる。
【0012】
また、上記六価クロム還元剤において、リグニンを含む、ものとすることができる。これによれば、リグニンは、重金属キレート化合物の吸着性に優れるため、三価クロムと多価カルボン酸とのキレート化合物を吸着し、固定化することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の六価クロム還元剤によれば、六価クロム被汚染物が強酸性または強アルカリ性である場合であっても、中和処理を要することなく、六価クロム被汚染物の還元処理を可能にする六価クロム還元剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の六価クロム還元剤培養液を培養する装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について説明する。本発明の六価クロム還元剤は、酵母菌、乳酸菌及び納豆菌を含む菌叢と、糖類水溶液と、を含む培養液を含むことを特徴とするものである。糖類水溶液の、酵母菌、乳酸菌及び納豆菌を含む菌叢による発酵によって生じる酵素が、六価クロムを還元すると推測される。
【0016】
酵母菌とは、葉緑素を含まず、出芽または分裂によって繁殖する真菌類のことであり、酵母菌には子嚢菌門と担子菌門に属するものがある。子嚢菌門の例として、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、カンジダ(Candida)属、トルロプシス(Torulopsis)属、ジゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属、シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属、ピチア(Pichia)属、ヤロウィア(Yarrowia)属、ハンセヌラ(Hansenula)属、クルイウェロマイセス(Kluyveromyces)属、デバリオマイセス(Debaryomyces)属、ゲオトリクム(Geotrichum)属、ウィッケルハミア(Wickerhamia)属、フェロマイセス(Fellomyces)属がある。担子菌門の例として、スポロボロマイセス(Sporobolomyces)属がある。本発明の酵母菌として、これら酵母菌の1種又は複数種が使用することができるが、これらの中でも糖類水溶液の発酵により生じる酵素の六価クロム還元性に優れるサッカロマイセス属、シゾサッカロマイセス属の1種又は複数種が好んで使用することができ、特にサッカロマイセス属は、ドライイーストなどとして市販されているためより好んで使用することができる。
【0017】
乳酸菌とは、糖類を発酵させて乳酸を発生させる菌類の総称である。乳酸菌の例として、ラクトバシラス(Lactobacillus)属、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、ラクトコッカス((Lactococcus)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、リューコノストック(Leuconostoc)属がある。本発明の乳酸菌として、これら乳酸菌の1種又は複数種が使用することができる。これらの中でもラクトバシラス(Lactobacillus)属が、ヨーグルトなどの製造用に市販されているものであるため、好んで使用することができる。
【0018】
納豆菌とは、枯草菌バチルス・サチリス(Bacillus subtilis)の変種(B. subtilis var.natto、B. subtilis (natto))に分類される細菌である。分類体系によっては、枯草菌の近縁種バチルス・ナットウ(B. natto)として分類される場合もある。本発明の納豆菌として、これら納豆菌の1種又は複数種が使用することができる。納豆菌は納豆製造用に市販されているものを使用することができる。
【0019】
酵母菌、乳酸菌及び納豆菌を含む菌叢は、酵母菌の1種以上、乳酸菌の1種以上及び納豆菌の1種以上を単に混ぜ合わせたものを糖類に接種することによって本発明の菌叢として使用することができるが、培養することによって、繰り返し使用することが可能となる。
【0020】
培養は、糖類水溶液を培地として用いる。培養温度は、10〜50℃が酵母菌、乳酸菌及び納豆菌の培養に適しているため好ましい。10℃未満だと菌の培養が遅くなるおそれがある。一方、50℃を超えると酵母菌又は乳酸菌が死滅するおそれがある。より好ましくは、20〜40℃である。糖類はその種類を問わないが、ブドウ糖や果糖を多く含む糖類が培養速度に優れるため好んで使用することができる。
【0021】
ここで、六価クロム還元剤において、アスコルビン酸及び/又はエリソルビン酸を含む、ものとすることができる。これによれば、六価クロム濃度が1000mg/L以上の高濃度の六価クロム被汚染物の還元処理ができるものとなる。
【0022】
アスコルビン酸及びエリソルビン酸は、ナトリウム塩やカリウム塩を含むものであっても良い。アスコルビン酸及びエリソルビン酸のナトリウム塩やカリウム塩の含有量は、40質量%以下であることが好ましい。六価クロム被汚染物の還元処理能力に優れるためである。40質量%を超えると六価クロム被汚染物の還元処理能力が劣るおそれがある。より好ましくは20質量%以下であり、最も好ましくは10質量%以下である。
【0023】
六価クロム還元剤における、アスコルビン酸及び/又はエリソルビン酸の含有量は、1〜30質量%であることが好ましい。六価クロム濃度が高い六価クロム被汚染物の還元処理に適しているためである。1質量%未満だと高い六価クロム濃度の六価クロム被汚染物の還元処理が劣るおそれがある。一方、30質量%を超えると糖類水溶液への溶解が困難となるおそれがある。より好ましくは、3〜20質量%であり、最も好ましくは、5〜10質量%である。
【0024】
また、上記六価クロム還元剤において、金属塩を含む、ものとすることができる。これによれば、金属塩の金属が酸化され易いため、六価クロムの還元を促進する。このため、六価クロム被汚染物の還元処理により優れたものとなる。
【0025】
金属塩の金属としては、自らが酸化可能な金属元素であれば使用することができる。金属の酸化数は、自らが酸化可能であることが必要であるため、その金属の最大酸化数より小さい酸化数であることが必要となる。具体的には、バナジウム(+I,+II)、マンガン(+I,+II,+III)、鉄(+I,+II)、コバルト(+I,+II)、ニッケル(+I,+II)、銅(+I,+II)などを挙げることができる。これらの中でも、鉄(+I,+II)、銅(+I,+II)が環境への悪影響が少ないため好んで使用することができ、特に鉄(+I,+II)が好ましい。
【0026】
金属塩の塩を形成する陰イオンとしては、特に限定されるものではないが、硫酸イオン、亜硫酸イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、塩素酸イオン、亜塩素酸イオン、次亜塩素酸イオン、リン酸イオン、塩化物イオン、臭化物イオンを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
金属塩としては、上記の金属と陰イオンとの組み合わせであれば、特に限定されるものではないが、環境への悪影響が少なく、六価クロムの還元性に優れる、硫酸鉄(+I)、硝酸鉄(+I)、塩化鉄(+I)が好んで使用することができる。
【0028】
六価クロム還元剤における、金属塩の含有量は、0.2〜20質量%であることが好ましい。六価クロムの還元性の効率に優れるためである。金属塩の含有量が、0.2質量%未満だと六価クロムの還元性の効率に劣り、20質量%を超えると六価クロムの還元性の効率が頭打ちとなり含有量に対する効果の向上が望めない。より好ましくは、0.5〜15質量%であり、最も好ましくは、1〜10質量%である。
【0029】
また、上記六価クロム還元剤において、多価カルボン酸を含む、ものとすることができる。これによれば、六価クロムが還元された三価クロムと多価カルボン酸とがキレート化合物を形成する。そして、三価クロムと多価カルボン酸とのキレート化合物は化学変化的に安定なものであるため、三価クロムが六価クロムに酸化されることを抑制することができる。
【0030】
多価カルボン酸は、ナトリウム塩やカリウム塩を含むものであっても良い。多価カルボン酸のナトリウム塩やカリウム塩の含有量は、40質量%以下であることが好ましい。六価クロム被汚染物の還元処理能力に優れるためである。40質量%を超えると六価クロム被汚染物の還元処理能力が劣るおそれがある。より好ましくは20質量%以下であり、最も好ましくは10質量%以下である。
【0031】
多価カルボン酸としては、例えば、シトラコン酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、酒石酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸ジグリコール酸、シクロヘキサノン−3,5−ジエン−1,2−カルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族、脂環族ジカルボン酸類やこれらの無水物が挙げられる。これらの中でも、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、酒石酸が、三価クロムと多価カルボン酸とがキレート化合物を形成し易く、かつ、汎用であるためより好んで使用することができる。
【0032】
六価クロム還元剤における、多価カルボン酸の含有量は、0.2〜10質量%であることが好ましい。六価クロムが還元された三価クロムと多価カルボン酸とがキレート化合物を形成し易いためである。多価カルボン酸の含有量が、0.2質量%未満であると、多価カルボン酸の量の不足により、キレート化合物を形成することができない三価クロムが生じ、この三価クロムが酸化されて六価クルムが再び生じるおそれがある。一方、10質量%を超えると、理由不明であるが、六価クロムの還元性が阻害されることとなる。より好ましくは、0.3〜5質量%であり、最も好ましくは、0.5〜3質量%である。
【0033】
また、上記六価クロム還元剤において、リグニンを含む、ものとすることができる。これによれば、リグニンは、重金属キレート化合物の吸着性に優れるため、三価クロムと多価カルボン酸とのキレート化合物を吸着し、固定化することができるためである。なお、リグニンとは、木材、わら、竹など木化した植物体の主成分の一つで、ベンゼン環を含む三次元状の網目構造の高分子化合物であり、主として細胞と細胞とをつなぎ合わせる接着剤の役割を有するものである。リグニンは、木材の20〜30質量%を占め、主に紙の製造工程で副産物として大量に産出するものである。従って、紙の原料として使われる木材由来の副産物であるリグニンが廃棄物を利用する観点から好んで使用することができる。なお、木材は針葉樹でも広葉樹でも紙の原料であれば使用することができるが、樹木としての成長の観点から針葉樹を多く含む原料であることがより好ましい。
【0034】
六価クロム還元剤における、リグニンの含有量は、1〜40質量%であることが好ましい。三価クロムと多価カルボン酸とのキレート化合物の吸着性に優れるためである。リグニンの含有量が、1質量%未満であると三価クロムと多価カルボン酸とのキレート化合物を吸着しきれず三価クロムが六価クロムに酸化してしまうおそれがある。一方、40質量%を超えると還元剤の粘度が高くなり取り扱いが困難になるおそれがある。より好ましくは、3〜30質量%であり、最も好ましくは、5〜20質量%である。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、試験例1〜41は実施例である。
【0036】
六価クロム還元剤の性能を評価するための六価クロム汚染物には、六価クロムの濃度分布が均一な汚泥を使用した。六価クロム汚染物は、pHをおよそ2,7,13に調整し、濃度をおよそ250,5000mg/Lに調整した。その性状を表1に記載する。
【0037】
【表1】
【0038】
菌及び糖には次のものを使用した。酵母菌:スーパーカメリヤ(日清製粉株式会社製ドライイースト)、乳酸菌:スーパーケフィアヨーグルトたね菌(サプリメントファン)、納豆菌:成瀬菌(株式会社成瀬発酵化学研究所)、糖:りきっ糖(日本テクノ環境株式会社製ブドウ糖・果糖混合物)。
【0039】
培養液の培養は次にように行った。糖を質量で8倍に希釈したものを培地として、培地に酵母菌、乳酸菌及び納豆菌を接種し、35℃で10日間培養することによって、培養液を得た。培養液の培養には、培養液培養装置1を使用し、培養液培養装置1として、1トン型培養装置(朝明精工株式会社製微生物培養装置)を使用した。培養液培養装置1は、
図1に示すように、パレット16に、容量1トンのタンク11を有し、温度調節器12とヒーター13によって、培養液を一定温度に調整することができるようになっている。培地、酵母菌、乳酸菌及び納豆菌は、投入口14から投入され、35℃に加熱されることによって発酵が進み酵素が発生する。なお、発酵の状態によって、タンク11内の圧力が上昇した際には、圧抜弁15によってタンク11内の圧力の異常上昇を防ぐことができる構造になっている。
【0040】
六価クロムの還元性の評価は、汚泥に対して還元剤を重量比で1:1の割合で添加して、3日、30日経過後に、六価クロムの溶出試験を行うことによって評価した。
【0041】
六価クロムの溶出試験は、環境省告示46号(土壌汚染に係る環境基準による「溶出試験」)に従い、JIS K 0102:2016(工場排水試験方法)65.2クロム(VI)に準拠して測定した。そして、六価クロム溶出量が、0.02mg/L未満であるものを◎、0.02mg/L以上、0.05mg/L未満であるものを○、0.05mg/L以上0.1mg/L未満であるものを△、0.1mg/Lを超えるものを×として評価した。
【0042】
(試験例1〜3)
試験例1〜3は、表2に示す六価クロム還元剤について、六価クロム濃度とpHの異なる汚泥の六価クロム還元性を評価した。
【0043】
【表2】
【0044】
培養液(酵母菌、乳酸菌及び納豆菌を含む菌叢と、糖類水溶液と、を含む培養液)から構成された六価クロム還元剤である試験例1は、幅広いpHの汚泥(汚泥A,B,C)の六価クロムを還元したが、高い六価クロム濃度の汚泥(汚泥D〜F)の六価クロムを十分に還元できなかった。培養液とアスコルビン酸から構成された六価クロム還元剤である試験例2は、幅広いpHの汚泥(汚泥A,D,B,E,C,F)の六価クロムを還元したことに加え、高い六価クロム濃度の汚泥(汚泥D〜F)の六価クロムを還元した。培養液とアスコルビン酸と硫化鉄(I)から構成された六価クロム還元剤である試験例3は、幅広いpHについての六価クロム濃度に係らず汚泥の六価クロムを高い効率で還元した。
【0045】
(試験例4〜11)
試験例4〜11は、表3に示す六価クロム還元剤について、六価クロムの還元性を評価した。汚泥は汚泥D(Cr(VI)濃度:5000mg/L,pH:2)を以下の全ての試験例(試験例4〜39)について使用した。
【0046】
【表3】
【0047】
試験例4〜11から、アスコルビン酸又はエリソルビン酸に係らず、金属塩の種類に係らず、多価カルボン酸の種類に係らず、六価クロム還元剤は、汚泥の六価クロムを三価クロムに還元し、30日経過後では、三価クロムの六価クロムへの酸化を抑制していることが確認できた。
【0048】
(試験例12〜18)
試験例12〜18は、表4に示すように、六価クロム還元剤に使用されるアスコルビン酸の添加量を変更したものである。アスコルビン酸の添加量が少ない試験例12では、六価クロム還元性がやや劣るものとなった。アスコルビン酸の添加量が過剰な試験例16〜18では、六価クロム還元性に変化はないが、溶媒液への溶解性がやや劣るものとなった。
【0049】
【表4】
【0050】
(試験例19〜25)
試験例19〜25は、表5に示すように、六価クロム還元剤に使用される硫酸鉄(I)の添加量を変更したものである。硫酸鉄(I)の添加量が少ない試験例19では、六価クロム還元性がやや劣るものとなった。硫酸鉄(I)の添加量が多い試験例23〜25では、六価クロム還元性に変化はなく、過剰な添加量であると考えられる。
【0051】
【表5】
【0052】
(試験例26〜32)
試験例26〜32は、表6に示すように、六価クロム還元剤に使用されるクエン酸の添加量を変更したものである。クエン酸の添加量が少ない試験例26では、キレートの形成が十分でないため、30日後の溶出試験において三価クロムが酸化され六価クロムが増えたものと考えられる。クエン酸の添加量が多い試験例31,32では、六価クロムの還元がやや阻害される結果となった。
【0053】
【表6】
【0054】
(試験例33〜39)
試験例33〜39は、表7に示すように、六価クロム還元剤に使用されるリグニン溶液の添加量を変更したものである。リグニン溶液の添加量が少ない試験例33では、キレートがリグニン溶液に吸着されないため、30日後の溶出試験において三価クロムが酸化され六価クロムが増えたものと考えられる。リグニン溶液の添加量が多い試験例37〜39では、六価クロム還元剤の粘度が上昇し、取扱性が困難なものとなった。
【0055】
【表7】
【符号の説明】
【0056】
1…培養液培養装置、11…タンク、12…温度調節器、13…ヒーター、14…投入口、15…圧抜弁、16…パレット。