(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
放射線の吸収に応じてシンチレーション光を発生する複数のシンチレータが2次元に配置されたシンチレータアレイと、前記シンチレーション光の強度に応じて電気信号を出力する複数の光検出器が前記複数のシンチレータに対応するように配置された光検出器アレイと、を備える放射線位置検出器において実施される放射線位置検出方法であって、
前記電気信号に基づいて、前記シンチレーション光を検出した位置の重心位置を算出する第1ステップと、
前記複数のシンチレータを識別するための領域が示された2次元マップ、及び前記重心位置に基づいて、最初に前記シンチレーション光を発生した前記シンチレータを特定する第2ステップと、を含み、
前記2次元マップに示された前記領域は、
前記複数のシンチレータの1つである第1シンチレータに対応付けられた第1領域と、
前記複数のシンチレータのうち前記第1シンチレータに隣接する第2シンチレータに対応付けられた第2領域と、
前記第1領域と前記第2領域との間において前記第1領域側に位置し且つ前記第2シンチレータに対応付けられた第3領域と、
前記第1領域と前記第2領域との間において前記第2領域側に位置し且つ前記第1シンチレータに対応付けられた第4領域と、を有し、
前記第2ステップでは、前記第1領域又は第4領域に前記重心位置が位置する場合には、前記第1シンチレータを、最初に前記シンチレーション光を発生した前記シンチレータと特定し、前記第2領域又は第3領域に前記重心位置が位置する場合には、前記第2シンチレータを、最初に前記シンチレーション光を発生した前記シンチレータと特定する、放射線位置検出方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような放射線位置検出においては、放射線(例えばγ線或いはX線)がコンプトン散乱を起こすことで、互いに異なるシンチレータにおいてシンチレーション光が発生する場合がある。このような場合、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータを特定すべきである。しかし、シンチレーション光を検出した位置の重心位置に基づいてシンチレータを特定すると、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータではなく、放射線の散乱後にシンチレーション光を発生したシンチレータを特定するおそれがある。その理由は、コンプトン散乱によって放射線の散乱後に発生したシンチレーション光の強度の方が、最初に発生したシンチレーション光の強度よりも大きくなる傾向があるからである。
【0005】
本発明は、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータを精度良く特定することができる放射線位置検出方法、放射線位置検出器及びPET装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の放射線位置検出方法は、放射線の吸収に応じてシンチレーション光を発生する複数のシンチレータが2次元に配置されたシンチレータアレイと、シンチレーション光の強度に応じて電気信号を出力する複数の光検出器が複数のシンチレータに対応するように配置された光検出器アレイと、を備える放射線位置検出器において実施される放射線位置検出方法であって、電気信号に基づいて、シンチレーション光を検出した位置の重心位置を算出する第1ステップと、複数のシンチレータを識別するための領域が示された2次元マップ、及び重心位置に基づいて、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータを特定する第2ステップと、を含み、2次元マップに示された領域は、複数のシンチレータの1つである第1シンチレータに対応付けられた第1領域と、複数のシンチレータのうち第1シンチレータに隣接する第2シンチレータに対応付けられた第2領域と、第1領域と第2領域との間において第1領域側に位置し且つ第2シンチレータに対応付けられた第3領域と、第1領域と第2領域との間において第2領域側に位置し且つ第1シンチレータに対応付けられた第4領域と、を有し、第2ステップでは、第1領域又は第4領域に重心位置が位置する場合には、第1シンチレータを、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータと特定し、第2領域又は第3領域に重心位置が位置する場合には、第2シンチレータを、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータと特定する。
【0007】
本発明の放射線位置検出器及びPET装置は、放射線の吸収に応じてシンチレーション光を発生する複数のシンチレータが2次元に配置されたシンチレータアレイと、シンチレーション光の強度に応じて電気信号を出力する複数の光検出器が複数のシンチレータに対応するように配置された光検出器アレイと、電気信号に基づいて、シンチレーション光を検出した位置の重心位置を算出する算出部と、複数のシンチレータを識別するための領域が示された2次元マップ、及び重心位置に基づいて、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータを特定する特定部と、を備え、2次元マップには、複数のシンチレータのうち隣接する第1シンチレータ及び第2シンチレータが示されており、2次元マップに示された領域は、複数のシンチレータの1つである第1シンチレータに対応付けられた第1領域と、複数のシンチレータのうち第1シンチレータに隣接する第2シンチレータに対応付けられた第2領域と、第1領域と第2領域との間において第1領域側に位置し且つ第2シンチレータに対応付けられた第3領域と、第1領域と第2領域との間において第2領域側に位置し且つ第1シンチレータに対応付けられた第4領域と、を有し、特定部は、第1領域又は第4領域に重心位置が位置する場合には、第1シンチレータを、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータと特定し、第2領域又は第3領域に重心位置が位置する場合には、第2シンチレータを、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータと特定する。
【0008】
本発明の放射線位置検出方法、放射線位置検出器及びPET装置では、第1シンチレータのみにおいてシンチレーション光が発生した場合には、シンチレーション光を検出した位置の重心位置が、第1シンチレータに対応付けられた第1領域に位置するから、第1シンチレータが、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータと正しく特定される。第2シンチレータのみにおいてシンチレーション光が発生した場合にも同様に、第2シンチレータが、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータと正しく特定される。ここで、第1シンチレータにおいて放射線がコンプトン散乱を起こすことで、第1シンチレータ及び第2シンチレータのそれぞれにおいてシンチレーション光が発生すると、第2シンチレータにおいて発生したシンチレーション光の強度の方が、第1シンチレータにおいて発生したシンチレーション光の強度よりも大きくなる傾向がある。そのため、シンチレーション光を検出した位置の重心位置が、第1領域と第2領域との間において第2領域側に位置する第4領域に位置する傾向がある。このような場合であっても、第4領域が第1シンチレータに対応付けられているため、第1シンチレータが、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータと正しく特定される。第2シンチレータにおいて放射線がコンプトン散乱を起こすことで、第1シンチレータ及び第2シンチレータのそれぞれにおいてシンチレーション光が発生した場合にも同様に、第2シンチレータが、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータと正しく特定される。よって、本発明の放射線位置検出方法、放射線位置検出器及びPET装置によれば、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータを精度良く特定することができる。
【0009】
複数のシンチレータのそれぞれの間には、シンチレーション光を遮光する遮光層が設けられていてもよい。これにより、シンチレーション光を発生したシンチレータから、そのシンチレータに隣接するシンチレータにシンチレーション光が漏れることが防止されるため、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータをより精度良く特定することができる。
【0010】
複数の光検出器のそれぞれは、抵抗チェーンに接続されていてもよい。これにより、シンチレーション光を検出した位置の重心位置を容易に且つ正確に算出することができる。
【0011】
1つの第1シンチレータには、複数の第2シンチレータが隣接しており、複数の第2シンチレータにそれぞれ対応付けられた複数の第3領域は、第5領域を介して互いに離間しており、第2ステップでは、第5領域に重心位置が位置する場合には、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータの特定を行わなくてもよい。これにより、シンチレーション光を検出した位置の重心位置が第5領域に位置する場合を不適切な信号としてとしてキャンセルし、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータの特定を簡易化することができる。
【0012】
1つの第1シンチレータには、複数の第2シンチレータが隣接しており、複数の第2シンチレータにそれぞれ対応付けられた複数の第3領域は、互いに接触していてもよい。これにより、シンチレーション光を検出した位置の重心位置がいずれの領域に位置する場合にも、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータの特定を実施することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータを精度良く特定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の一実施形態について放射線位置検出器の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
図1の(a)に示されるように、PET装置1は、被検体Tが載置されるベッド(図示せず)と、断面円形状の開口を有するガントリ2と、ガントリ2内の検出器リングで検出されたデータが転送される画像処理部3と、を備えている。
図1の(b)に示されるように、PET装置1のガントリ2内の検出器リングにおいては、所定線L0を中心線とする円周上に、複数の放射線位置検出器10が互いに接触するようにリング状に配置されている。PET装置1は、陽電子放出核種(陽電子を放出する放射性同位元素)で標識された薬剤が投与された被検体Tから放出されるγ線(放射線)を検出する装置である。PET装置1によれば、複数のスライス位置において被検体Tの断層像を取得することができる。
【0017】
図2に示されるように、放射線位置検出器10は、シンチレータアレイ20と、光検出器アレイ30と、算出部40と、特定部50と、記憶部60と、を備えている。なお、
図1においては、シンチレータアレイ20及び光検出器アレイ30が側面図として示されており、算出部40、特定部50及び記憶部60がブロック図として示されている。
【0018】
シンチレータアレイ20は、複数のシンチレータ21と、遮光層22と、を有している。複数のシンチレータ21は、2次元に配置されている。本実施形態では、複数のシンチレータ21は、行方向及び列方向のそれぞれの方向に沿ってマトリックス状に配置されている。各シンチレータ21は、γ線の吸収に応じてシンチレーション光を発生する。一例として、各シンチレータ21は、四角柱状を呈している。
【0019】
遮光層22は、複数のシンチレータ21のそれぞれの間、及び複数のシンチレータ21の外側の表面に設けられている。つまり、遮光層22は、シンチレータ21と光検出器31とが光学的に接続される面を除いてシンチレータ21を覆っている。遮光層22は、γ線を通過させる一方で、シンチレータ21において発生するシンチレーション光を遮光する。遮光層22は、例えば、テフロン(登録商標)テープや高反射多層膜フィルム等であり、各シンチレータ21間に挿入されることで構成されている。
【0020】
光検出器アレイ30は、複数の光検出器31と、出力取出部32と、を有している。複数の光検出器31は、複数のシンチレータ21に対応するように配置されている。本実施形態では、複数の光検出器31は、複数のシンチレータ21と1対1で対応するように配置されている。シンチレータ21は、対応する光検出器31の光検出面上に光学的に接続されている。光検出器31は、シンチレータ21において発生したシンチレーション光を検出し、シンチレーション光の強度に応じて電気信号を出力する。一例として、光検出器31は、SiPM(Silicon Photomultiplier)であり、シンチレーション光の強度に応じて増幅されたパルス状の電気信号を出力する。
【0021】
出力取出部32は、抵抗チェーン33を含んでいる。抵抗チェーン33には、複数の光検出器31のそれぞれが接続されている。抵抗チェーン33では、行方向に隣接する光検出器31同士、行方向の一端側において列方向に隣接する光検出器31同士、及び行方向の他端側において列方向に隣接する光検出器31同士が抵抗33aを介して接続されている。各光検出器31から出力された電気信号は、行方向の一端側において列方向に接続された複数の抵抗33aの両端のそれぞれ、及び行方向の他端側において列方向に接続された複数の抵抗33aの両端のそれぞれから取り出される。
【0022】
算出部40は、出力取出部32と電気的に接続されている。算出部40は、光検出器アレイ30から取り出された電気信号に基づいて、シンチレーション光を検出した位置の重心位置を算出する。1つの光検出器31から電気信号が出力された場合、シンチレーション光を検出した位置の重心位置は、その1つの光検出器31の位置である。また、複数の光検出器31から電気信号が出力された場合、シンチレーション光を検出した位置の重心位置は、その複数の光検出器31のそれぞれの位置に電気信号の強度で重み付けすることで得られる重心位置である。ここで、算出部40による重心位置の算出の一例について説明する。算出部40は、出力取出部32から取り出される電気信号V1,V2,V3,V4をモニタリングし、電気信号V1,V2,V3,V4のいずれかが閾値を超えた際に、次の式(1)及び式(2)、若しくは式(3)及び式(4)により比率F1及び比率F2を算出する。そして、算出部40は、比率F1に基づいて行方向における重心位置Xを算出し、比率F2に基づいて列方向における重心位置Yを算出する。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【0023】
特定部50は、算出部40と電気的に接続されている。特定部50は、複数のシンチレータ21を個々に識別するための領域が示された2次元マップ、及び算出部40から出力された重心位置(X,Y)に基づいて、最初にγ線と反応したシンチレータ21、つまり、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータ21を特定する。1つのシンチレータ21がシンチレーション光を発生した場合、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータ21は、その1つのシンチレータ21である。また、複数のシンチレータ21がシンチレーション光を発生した場合、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータ21は、その複数のシンチレータ21のうち時間的に最初にシンチレーション光を発生したシンチレータ21である。
【0024】
ここで、2次元マップの一例について説明する。なお、説明の便宜上、
図3では、複数のシンチレータ21にそれぞれ対応する複数のシンチレータ領域21Aが2次元マップM1に示されているが、複数のシンチレータ領域21Aが2次元マップM1に示されている必要はない。
【0025】
図3に示されるように、各シンチレータ領域21Aは、正方形状を呈しており、1つのシンチレータ領域21Aには、行方向、列方向、及び2つの対角方向に8つのシンチレータ領域21Aが隣接している。
図3において中央に示される1つのシンチレータ領域21Aを第1シンチレータ領域211とし、第1シンチレータ領域211に隣接する8つのシンチレータ領域21Aを第2シンチレータ領域212として、第1シンチレータ領域211及びその右側の第2シンチレータ領域212に着目すると、2次元マップM1には、第1領域R1、第2領域R2、第3領域R3及び第4領域R4が示されている。第1シンチレータ領域211は、複数のシンチレータ21の1つである第1シンチレータに対応する。第2シンチレータ領域212は、複数のシンチレータ21のうち第1シンチレータに隣接する第2シンチレータに対応する。
【0026】
第1領域R1は、第1シンチレータのみにおいて発生したシンチレーション光に基づく重心分布(当該シンチレーション光を検出した位置の重心位置の分布)を含んでおり、第1シンチレータに対応付けられている。第1領域R1は、円形状を呈しており、第1シンチレータ領域211の中央に位置している。第2領域R2は、第2シンチレータのみにおいて発生したシンチレーション光に基づく重心分布を含んでおり、第2シンチレータに対応付けられている。第2領域R2は、円形状を呈しており、第2シンチレータ領域212の中央に位置している。
【0027】
第3領域R3は、第1領域R1と第2領域R2との間において第1領域R1側に位置しており、第2シンチレータに対応付けられている。第3領域R3は、第1領域R1と第2領域R2とを結ぶ直線に沿った方向を長手方向とする長尺形状を呈しており、第1シンチレータ領域211内において第1領域R1と第2領域R2とを結ぶ直線上に位置している。第4領域R4は、第1領域R1と第2領域R2との間において第2領域R2側に位置しており、第1シンチレータに対応付けられている。第4領域R4は、第1領域R1と第2領域R2とを結ぶ直線に沿った方向を長手方向とする長尺形状を呈しており、第2シンチレータ領域212内において第1領域R1と第2領域R2とを結ぶ直線上に位置している。
【0028】
以上の第1領域R1、第2領域R2、第3領域R3及び第4領域R4の関係は、第1シンチレータ領域211と、第1シンチレータ領域211に隣接する複数の第2シンチレータ領域212のそれぞれとの間において成立する。第1シンチレータ領域211において、複数の第2シンチレータにそれぞれ対応付けられた複数の第3領域R3は、第5領域R5を介して互いに離間している。2次元マップM1において、いずれの1つのシンチレータ領域21Aを第1シンチレータ領域211と捉えても、以上の第1領域R1、第2領域R2、第3領域R3及び第4領域R4の関係が成立する。
【0029】
特定部50は、算出部40によって算出された重心位置(X,Y)が、2次元マップM1のいずれの領域に位置するか、判定する。そして、特定部50は、重心位置(X,Y)が位置する領域に対応付けられたシンチレータ21を、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータ21と特定する。
図3に示される例では、特定部50は、第1領域R1又は第4領域R4に重心位置(X,Y)が位置する場合には、第1シンチレータを、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータ21と特定する。また、特定部50は、第2領域R2又は第3領域R3に重心位置(X,Y)が位置する場合には、第2シンチレータを、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータ21と特定する。なお、特定部50は、第5領域R5に重心位置(X,Y)が位置する場合には、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータ21の特定を行わない。
【0030】
記憶部60は、特定部50と電気的に接続されている。記憶部60は、ROM(Read-only Memory)、RAM(Random-Access Memory)等に代表される記憶媒体によって構成されている。記憶部60は、2次元マップM1及びその他の情報を記憶している。
【0031】
次に、放射線位置検出器10において実施される放射線位置検出方法について、
図4を参照しつつ説明する。
【0032】
まず、算出部40は、光検出器アレイ30の出力取出部32により取り出される電気信号V1,V2,V3,V4に基づいて、シンチレーション光を検出した位置の重心位置(X,Y)を算出する(第1ステップ、S11)。具体的には、算出部40は、上述したように、式(1)及び式(2))、若しくは式(3)及び式(4)を用いることにより、電気信号V1,V2,V3,V4から比率F1及び比率F2を算出し、比率F1及び比率F2に基づいて、重心位置(X,Y)を算出する。
【0033】
次に、特定部50は、算出部40によって算出された重心位置(X,Y)が、2次元マップM1のいずれの領域に位置するか、判定する(第2ステップ、S12)。そして、特定部50は、重心位置(X,Y)が位置する領域に対応付けられたシンチレータ21を、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータ21と特定する(第2ステップ、S13)。具体的には、特定部50は、上述したように、第1領域R1又は第4領域R4に重心位置(X,Y)が位置する場合には、第1シンチレータを、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータ21と特定する。また、特定部50は、第2領域R2又は第3領域R3に重心位置(X,Y)が位置する場合には、第2シンチレータを、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータ21と特定する。なお、特定部50は、第5領域R5に重心位置(X,Y)が位置する場合には、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータ21の特定を行わない。
【0034】
以上のように構成された放射線位置検出器10及びPET装置1、並びに放射線位置検出器10において実施される放射線位置検出方法によって奏される効果について、従来技術の課題とともに説明する。
【0035】
PET装置等に用いられている放射線位置検出器では、PET装置におけるイメージ分解能や定量性の向上のために、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータを精度良く特定することが望ましい。そこで、例えば個々のシンチレータの大きさを小さくすることにより、より多くのシンチレータを放射線位置検出器に配置させることが考えられる。そのようなシンチレータに1対1にて対応して配置することができる光検出器として、例えばMPPC(Multi-Pixel Photon Counter、登録商標)等のSiPMがある。例えば非特許文献1に記載の放射線位置検出器の光検出器は、SiPMである。この放射線位置検出器では、シンチレーション光を検出した位置の重心位置、及びシンチレータを個々に識別するための領域が示された2次元マップに基づいて、シンチレーション光を発生したシンチレータを特定することが考えられる。この放射線位置検出器により算出される重心位置は、
図5のフラッドマップに示される円状分布A1、及び隣接する円状分布A1を結ぶ各長尺状分布A2に現れることが知られている。
【0036】
図5のフラッドマップには、説明の便宜上、複数のシンチレータにそれぞれ対応する複数のシンチレータ領域100Aが示されている。シンチレータ領域100Aは、行方向及び列方向のそれぞれの方向に沿ってマトリックス状に配置された4つのシンチレータの配置に対応する。各シンチレータ領域100Aには、円状分布A1がそれぞれ含まれている。各長尺状分布A2は、隣接する円状分布A1を格子状又はクロス状に結んでいる。各シンチレータのうち1つのシンチレータのみにおいてシンチレーション光が発生した場合には、重心位置は、そのシンチレータに含まれる各円状分布A1に現れる。また、シンチレータにおいてγ線がコンプトン散乱を起こした場合には、重心位置は、各長尺状分布A2に現れる傾向がある。なお、シンチレータにおいてγ線がコンプトン散乱を起こしていなくても、或るシンチレータにおいて発生したシンチレーション光が、隣接するシンチレータへの光漏れを起こした場合においても、各長尺状分布A2に重心位置が現れることがある。2次元マップには、このような各円状分布A1及び各長尺状分布A2を含むように複数の領域が設けられている。
【0037】
図6の2次元マップには、
図5と同様に、説明の便宜上、複数のシンチレータにそれぞれ対応する複数のシンチレータ領域100Aが行方向及び列方向のそれぞれの方向に沿って9つの正方形状の複数のシンチレータ領域100Aが設けられている。各シンチレータ領域100Aは、各シンチレータに対応付けられている。なお、
図6には、理解容易の為、フラッドマップ上の重心分布(当該重心位置の分布)である各円状分布A3及び各長尺状分布A4が併せて示されている。各円状分布A3は、1つのシンチレータのみにおいて発生したシンチレーション光に基づく重心分布である。各円状分布A3は、各シンチレータ領域100Aに含まれている。一方、各長尺状分布A2は、隣接する2つのシンチレータにおいて発生したシンチレーション光に基づく重心分布である。各長尺状分布A2は、隣接する円状分布A3を格子状又はクロス状に結んでいる。
図6に示されるように、各シンチレータ領域100Aの境界は、隣接する円状分布A3の間の中間に位置している。上述した放射線位置検出器は、この2次元マップのいずれの領域に重心位置が位置するか、判定する。そして、上述した放射線位置検出器は、その重心位置が位置するシンチレータ領域100Aに対応付けられたシンチレータを、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータと特定する。重心位置が、例えば2次元マップの中央に位置する領域(
図6において斜線で示された領域)に含まれる円状分布A3或いは長尺状分布A4に位置する場合には、上述した放射線位置検出器は、そのシンチレータ領域100Aに対応付けられたシンチレータを、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータと特定する。
【0038】
しかしながら、このような2次元マップでは、シンチレータにおいてγ線がコンプトン散乱を起こした場合に、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータを誤って特定してしまうという問題が生じることがある。以下、この問題について説明するために、コンプトン散乱を起こすγ線の特性について説明する。
【0039】
図7に示されるように、最初にシンチレーション光を発生するまでにおける511keVのγ線Hの進行方向の角度を0度とすると、この角度に対して、コンプトン散乱を起こしたγ線Hの進行方向の角度(コンプトン散乱角)は90度以下の確率が高いことがわかる。なお、コンプトン散乱角が90度未満である場合を前方散乱という。
図8では、グラフG10は、散乱γ線エネルギーE
Sを示し、グラフG20は、反跳電子エネルギーE
RE(散乱地点に付寄されたエネルギー)を示す。また、縦軸は、散乱γ線エネルギーE
Sと反跳電子エネルギーE
REとの比率を表し、横軸は、コンプトン散乱角θを表している。コンプトン散乱角θにおける、散乱γ線エネルギーE
S及び反跳電子エネルギーE
REは、エネルギー保存則に基づいて求まる。
図8に示されるように、散乱γ線エネルギーE
Sは、コンプトン散乱角が0度のとき(すなわち、コンプトン散乱していないとき)に最大値をとり、コンプトン散乱角θが大きくなるにつれて低くなり、コンプトン散乱角が180度のときに最小値をとる。一方、反跳電子エネルギーE
REは、コンプトン散乱角が0度のときに最小であり、コンプトン散乱角が大きくなるにつれて大きくなり、コンプトン散乱角が180度のときに最大値となる。従って、γ線が前方散乱を起こしたことにより、互いに異なるシンチレータにおいてシンチレーション光がそれぞれ発生した場合には、γ線Hの散乱後に発生したシンチレーション光の強度の方が、最初に発生したシンチレーション光の強度よりも大きくなる傾向があることがわかる。
【0040】
図9では、互いに隣接する4つのシンチレータ100が、列方向X1に沿って配置されている。
図9に示されるように、1つのシンチレータ100においてγ線H1が前方散乱を起こすことで、2つのシンチレータ100のそれぞれにおいてシンチレーション光が発生している。すなわち、地点P1において最初にシンチレーション光が発生し、その後、地点P2においてシンチレーション光が発生している。この場合、上述したように、地点P2におけるシンチレーション光の強度の方が、地点P1におけるシンチレーション光の強度よりも大きくなる。従って、シンチレーション光を検出した位置の重心位置は、列方向X1において、最初にシンチレーション光が発生した地点P1よりも地点P2に近い位置に位置する。換言すれば、重心位置は、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータ100ではなく、γ線H1の散乱後にシンチレーション光を発生したシンチレータ100に近い位置に位置する。
【0041】
次に、このようなγ線の特性を踏まえた上で、再び
図6を参照しつつ、上述した問題(すなわち、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータ100を誤って特定してしまうという問題)について説明する。
【0042】
図6において、例えば2次元マップの中央のシンチレータ領域100A(斜線で示された領域)に対応付けられたシンチレータ100においてγ線がコンプトン散乱を起こすことで、そのシンチレータ100、及びそのシンチレータ領域100Aの右側のシンチレータ領域100Aに対応付けられるシンチレータ100のそれぞれにおいてシンチレーション光が発生した場合を考える。すなわち、中央のシンチレータ領域100Aに対応付けられたシンチレータ100において最初にシンチレーション光が発生し、その後、右側のシンチレータ領域100Aに対応付けられたシンチレータ100においてシンチレーション光が発生した場合である。この場合、重心位置は、中央のシンチレータ領域100Aではなく、そのシンチレータ領域100Aの右側のシンチレータ領域100Aに位置する傾向がある。従って、上述した放射線位置検出器は、右側のシンチレータ領域100Aに対応付けられたシンチレータ100を、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータ100と誤って特定してしまう。
【0043】
図10では、PET装置200を構成する2つのシンチレータアレイ101,102が、地点P3を挟んで互いに対向する位置に配置されている。
図10に示されるように、地点P3において1つの消滅事象(annihilation event)が起こり、互いに逆方向に飛行する一対のγ線が発生している。一対のγ線のうち一方のγ線は、シンチレータアレイ101の地点P4に到達している。シンチレータアレイ101では、地点P4においてのみシンチレーション光が発生している。他方のγ線は、シンチレータアレイ102の地点P5に到達してコンプトン散乱を起こしている。シンチレータアレイ102では、地点P5及び地点P6においてそれぞれシンチレーション光が発生している。このような場合、上述したように、重心位置は、列方向X1において地点P5よりも地点P6に近い地点P7に位置する傾向がある。シンチレータアレイ102において、上述した放射線位置検出器は、地点P5を含むシンチレータ100ではなく、地点P7を含むシンチレータ100を最初にシンチレーション光を発生したシンチレータ100と特定してしまう。結果として、PET装置200は、地点P7と地点P8とを結ぶ直線L10上に消滅事象が発生したと誤って特定してしまう。
【0044】
これに対し、本実施形態の2次元マップM1では、
図3に示されるように、第1シンチレータのみにおいてシンチレーション光が発生した場合には、シンチレーション光を検出した位置の重心位置(X,Y)が、第1シンチレータに対応付けられた第1領域R1に位置するから、第1シンチレータが、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータ21と正しく特定される。第2シンチレータのみにおいてシンチレーション光が発生した場合にも同様に、第2シンチレータが、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータ21と正しく特定される。また、第1シンチレータにおいてγ線がコンプトン散乱を起こすことで、第1シンチレータ及び第2シンチレータのそれぞれにおいてシンチレーション光が発生した場合には、上述したように、第2シンチレータにおいて発生したシンチレーション光の強度の方が、第1シンチレータにおいて発生したシンチレーション光の強度よりも大きくなる傾向がある。そのため、シンチレーション光を検出した位置の重心位置(X,Y)が、第1領域R1と第2領域R2との間において第2領域R2側に位置する第4領域R4に位置する傾向がある。このような場合であっても、第4領域R4が第1シンチレータに対応付けられているため、第1シンチレータが、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータ21と正しく特定される。第2シンチレータにおいてγ線がコンプトン散乱を起こすことで、第1シンチレータ及び第2シンチレータのそれぞれにおいてシンチレーション光が発生した場合にも同様に、第2シンチレータが、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータ21と正しく特定される。よって、本実施形態の放射線位置検出方法、放射線位置検出器10及びPET装置1によれば、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータ21を精度良く特定することができる。
【0045】
また、本実施形態のように、複数のシンチレータ21のそれぞれの間には、シンチレーション光を遮光する遮光層22が設けられていてもよい。これにより、例えばシンチレーション光を発生した第1シンチレータから、第2シンチレータにシンチレーション光が漏れることが防止されるため、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータ21をより精度良く特定することができる。
【0046】
また、本実施形態のように、複数の光検出器31のそれぞれは、抵抗チェーン33に接続されていてもよい。これにより、シンチレーション光を検出した位置の重心位置(X,Y)を容易に且つ正確に算出することができる。
【0047】
また、本実施形態のように、1つの第1シンチレータ領域211には、複数の第2シンチレータ領域212が隣接しており、複数の第2シンチレータにそれぞれ対応付けられた複数の第3領域R3は、第5領域R5を介して互いに離間しており、第2ステップS13では、第5領域R5に重心位置(X,Y)が位置する場合には、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータ21の特定を行わなくてもよい。これにより、シンチレーション光を検出した位置の重心位置(X,Y)が第5領域R5に位置する場合を不適切な信号としてキャンセルし、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータ21の特定を簡易化することができる。
【0048】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されない。上述した実施形態では、2次元マップM1には、第5領域R5が示されていたが、
図11及び
図12に示されるように、2次元マップM2及び2次元マップM3には、第5領域R5が示されていなくてもよい。この場合、第3領域R3は、互いに接触している。すなわち、第1シンチレータ領域211には、第1領域R1の周りに第3領域R3が隙間なく並んでいる。また、例えば第1シンチレータ領域211の右側の第2シンチレータ領域212に含まれる第4領域R4についても、第3領域R3と同様に、互いに接触している。すなわち、第2シンチレータ領域212には、第2領域R2の周りに第4領域R4が隙間なく並んでいる。従って、2次元マップM2或いは2次元マップM3の全体にわたって第1領域R1、第2領域R2、第3領域R3及び第4領域R4が隙間なく並んでいる。第1領域R1の右側に隣接する第3領域R3は、第1領域R1と第1中心点と第2中心点とによって囲まれた領域である。第2領域R2の左側に隣接する第4領域R4は、第2領域R2と第1中心点と第2中心点とによって囲まれた三角形領域である。第1中心点は、第1領域R1、第1シンチレータ領域211の右側の第2シンチレータ領域212に含まれる第2領域R2、及び、第1シンチレータ領域211の右上側の第2シンチレータ領域212に含まれる第2領域R2と第1領域R1との第1中点、を結ぶ三角形の中心(重心)である。第2中心点は、第1領域R1、第1シンチレータ領域211の右側の第2シンチレータ領域212に含まれる第2領域R2、及び、第1シンチレータ領域211の右下側の第2シンチレータ領域212に含まれる第2領域R2と第1領域R1との第2中点、を結ぶ三角形の中心(重心)である。また、第1領域R1の右上側に隣接する第3領域R3は、第1領域R1と第1中心点と第3中心点と第1中点とによって囲まれた方形領域である。第3中心点は、第1領域R1、第1シンチレータ領域211の上側の第2シンチレータ領域212に含まれる第2領域R2、及び第1中点、を結ぶ三角形の中心(重心)である。なお、第1中心点は、第1シンチレータ領域211の右側の第2シンチレータ領域212に含まれる第2領域R2と第1領域R1との第3中点、及び第1中点、の中点であってもよく、第2中心点は、第3中点と第2中点との中点であってもよい。また、第3中心点は、第1シンチレータ領域211の上側の第2シンチレータ領域212に含まれる第2領域R2と第1領域R1との第4中点、及び第1中点、の中点であってもよい。このように、2次元マップM2或いは2次元マップM3の全体にわたって第1領域R1、第2領域R2、第3領域R3及び第4領域R4が隙間なく並んでいることにより、シンチレーション光を検出した位置の重心位置(X,Y)が2次元マップM2或いは2次元マップM3のいずれの領域に位置する場合にも、最初にシンチレーション光を発生したシンチレータ21の特定を実施することができる。
【0049】
また、上述した実施形態では、2次元マップM1に示された各シンチレータ領域21Aは、マトリックス状に配置された各シンチレータ21に対応していたが、
図13に示されるように、2次元マップM4に示された各シンチレータ領域21Aは、左右方向に隣接するシンチレータ21同士が上下方向に半ピッチずれて配置されるような各シンチレータ21に対応していてもよい。すなわち、2次元マップM4には、第1領域R1及び第2領域R2が三角格子点状に配置されてもよい。この場合、第3領域R3及び第4領域R4は、第1領域R1及び第2領域R2を三角格子状に結んでいる。これにより、各シンチレータ21の配置に対応して2次元マップM4の第1領域R1、第2領域R2、第3領域R3及び第4領域R4を配置させることができる。
【0050】
本発明による放射線位置検出方法、放射線位置検出器及びPET装置は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上述した実施形態では、複数のシンチレータ21のそれぞれの間に、遮光層22が設けられていたが、遮光層22を設けなくてもよい。また、上述した実施形態では、γ線が検出されていたが、検出される放射線はγ線に限られない。放射線は、例えばX線であってもよい。