【文献】
Mol Vis,2005,vol.11,p.263−273(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/AY720432参照)
【文献】
Molecular Therapy Methods Clin Dev,2014 ,vol.1,Article 14009
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記CRB2タンパク質が、真正後生動物のCRB2タンパク質であり、好ましくはヒト、非ヒト霊長類、マウス、ネコ、イヌ、ブタ、ヒツジ、ウシ、ウマ、epine、ヤギ、又はオオカミ由来のCRB2タンパク質であり、より好ましくは、前記CRB2タンパク質が、ヒトCRB2タンパク質である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の医薬。
CRB2タンパク質が、配列番号40〜63、65〜83のいずれか1つの、より好ましくは配列番号40〜42のいずれか1つのアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか又は該配列からなり、前記CRB2タンパク質が、網膜電図記録法によって測定したときに機能的に活性がある、請求項1〜5のいずれか一項に記載の医薬。
CRB2をコードするヌクレオチド配列が、治療効果を得るのに十分なCRB2タンパク質の発現をもたらすプロモーターを含む発現制御エレメントに動作可能に連結されており、ここで前記プロモーターは、好ましくは、欠失型CMVプロモーター及びCMVプロモーターからなる群から選択され、好ましくは前記プロモーターは、配列番号121によるCMVプロモーター及び配列番号133による欠失型CMVプロモーターからなる群から選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の医薬。
【発明を実施するための形態】
【0023】
定義
本明細書で使用されるときの「昆虫細胞」とは、組換えパルボウイルス(rAAV)ベクターの複製を可能にし、培養で維持することができる昆虫細胞を指す。例えば、使用される細胞株は、ヨトウガ(Spodoptera frugiperda)、ショウジョウバエ(Drosophilla)細胞株、又はカ細胞株、例えば、ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)由来細胞株に由来しうる。好適な昆虫細胞又は細胞株は、バキュロウイルス感染に感受性のある昆虫種由来の細胞であり、例えば、Se301、SeIZD2109、SeUCR1、Sf9、Sf900+、Sf21、BTI-TN-5B1-4、MG-1、Tn368、HzAm1、Ha2302、Hz2E5、High Five(Invitrogen社、カリフォルニア州、USA)及びexpresSF+(登録商標)(US6,103,526;Protein Sciences Corp社、コネチカット州、USA)が含まれる。培養で昆虫細胞に用いる成長条件、及び昆虫細胞における培養での異種産物の生産は、当技術分野に周知であり、例えば、昆虫細胞の分子工学について、以下の文献に記載されている。昆虫細胞での分子工学及びポリペプチドの発現の方法論は、例えば、Summers及びSmith、1986、A Manual of Methods For Baculovirus Vectors and Insect Culture Procedures、Texas Agricultural Experimental Station Bull、No. 7555、College Station, Tex;Luckow、1991、Prokopら編、Cloning and Expression of Heterologous Genes in Insect Cells with Baculovirus Vectors' Recombinant DNA Technology and Applications、97〜152;King, L. A.及びR. D. Possee、1992、The baculovirus expression system、Chapman and Hall、イギリス;O'Reilly, D. R.、L. K. Miller、V. A. Luckow、1992、Baculovirus Expression Vectors: A Laboratory Manual、New York;W. H. Freeman及びRichardson, CD.、1995、Baculovirus Expression Protocols、Methods in Molecular Biology、volume 39;米国特許第4,745,051号;米国特許出願公開第2003148506号並びにWO03/074714に記載されている。
【0024】
本明細書で使用されるとき、「動作可能に連結されている」という用語は、機能的な関係にあるポリヌクレオチド(又はポリペプチド)エレメントの連結を指す。核酸は、それが別の核酸配列と機能的な関係内に配置されている場合に、「動作可能に連結されている」。例として、転写調節配列は、それがコード配列の転写に影響を及ぼす場合に、コード配列に動作可能に連結されている。動作可能に連結されているということは、連結されているDNA配列が、典型的に近接しており、2つのタンパク質コード領域を結合することが必要である場合では、近接し、リーディングフレーム内にあるということを意味する。「制御下」という言い回しが、本明細書で互換的に使用される。
【0025】
「発現制御配列」は、それが動作可能に連結しているヌクレオチド配列の発現を調節する核酸配列を指す。発現制御配列は、その発現制御配列が、ヌクレオチド配列の転写及び/又は翻訳を制御及び調節する場合に、ヌクレオチド配列に「動作可能に連結している」。そのため、発現制御配列は、プロモーター、エンハンサー、配列内リボソーム進入部位(IRES)、転写ターミネーター、タンパク質コード遺伝子の前の開始コドン、イントロン用のスプライシングシグナル、及び終止コドンを含みうる。「発現制御配列」という用語は、最低でも、その存在が発現に影響を与えるように設計されている配列を含むことを意図し、追加の好都合な成分も含みうる。例えば、リーダー配列及び融合パートナー配列は、発現制御配列である。当該用語は、フレームの内外にある望ましくない潜在的な開始コドンが配列から除かれるような、核酸配列の設計をも含みうる。それはまた、望ましくない潜在的なスプライシング部位が除かれるような、核酸配列の設計を含みうる。それは、ポリA尾部、すなわち、mRNAの3'端にある一連のアデニン残基であり、ポリA配列と称される配列の付加を指示する配列、すなわちポリアデニル化配列(pA)を含む。それはまた、mRNAの安定性を増強するように設計されうる。転写及び翻訳の安定性に影響を及ぼす発現制御配列、例えばプロモーター等、並びに翻訳をもたらす配列、例えばKozak配列等は、昆虫細胞では公知である。より低い発現レベル又は高い発現レベルが達成されるように、発現制御配列は、それが動作可能に連結しているヌクレオチド配列を変調するような性質でありうる。
【0026】
本明細書で使用されるとき、「プロモーター」又は「転写調節配列」という用語は、1つ以上のコード配列の転写を制御するように機能し、コード配列の転写開始部位の転写の方向に対して上流に位置し、DNA依存性RNAポリメラーゼの結合部位、転写開始部位、及び任意の他のDNA配列の存在によって構造的に特定される核酸断片を指し、該任意の他のDNA配列としては、転写因子結合部位、リプレッサー及びアクチベータータンパク質の結合部位、並びに直接的又は間接的にプロモーターからの転写量を調節するように作用することが当業者に公知である任意の他のヌクレオチドの配列が挙げられるが、それらに限定されない。「構成的」プロモーターは、大多数の生理的及び発達上の条件下で、大多数の組織で活性があるプロモーターである。「誘導性」プロモーターは、例えば化学誘導物質を適用することによって、生理的に又は発達上調節されたプロモーターである。「組織特異的」プロモーターは、特定の型の組織又は細胞でのみ活性がある。
【0027】
「実質的に同一の」、「実質的同一性」、「%同一性」又は「本質的に類似の」若しくは「本質的類似性」という用語は、2つのペプチド又は2つのヌクレオチド配列が、デフォルトパラメーターを使用したGAPやBESTFITプログラム等によって最適に整列している場合に、本明細書のどこかで定義されているように、少なくともある割合の配列同一性を共有することを意味する。GAPは、ニードルマン-ブンシュ広域アラインメントアルゴリズムを使用して、それらの全長にわたって2つの配列を整列させて、マッチ数を最大にし、ギャップ数を最小にする。一般に、GAPデフォルトパラメーターは、ギャップ作製ペナルティ=50(ヌクレオチド)/8(タンパク質)及びギャップ伸長ペナルティ=3(ヌクレオチド)/2(タンパク質)を用いて使用される。ヌクレオチドについて、使用するデフォルトスコアマトリックスは、nwsgapdnaであり、タンパク質について、デフォルトスコアマトリックスは、Blosum62である(Henikoff及びHenikoff、1992、PNAS 89、915〜919頁)。RNA配列が、DNA配列に本質的に類似している又はある程度の配列同一性を有すると言う際に、DNA配列中のチミン(T)は、RNA配列中のウラシル(U)に等価であると考えられることは明らかである。パーセンテージ配列同一性に用いる配列アラインメント及びスコアは、Accelrys Inc社、9685 Scranton Road、サンディエゴ、カリフォルニア州92121-3752 USAから入手可能なGCG Wisconsin Package、バージョン10.3、又はオープンソースのソフトウェアであるEmboss For Windows(登録商標)(最新バージョン2.7.1-07)等のコンピュータプログラムを使用して決定することができる。或いは、パーセント類似性又は同一性を、FASTA、BLAST等のデータベースを検索することによって決定することができる。
【0028】
本明細書で使用されるとき、「核酸構築物」という用語は、例えば核酸分子の発現が可能なプロモーター等、発現制御エレメントに動作可能に連結された核酸分子(典型的にはDNAから構成される)を意味することを意図する。
【0029】
本明細書で使用されるとき、「遺伝子治療ベクター」という用語は、宿主細胞内で複製することが可能である及び/又は別の核酸セグメントが動作可能に連結されて、該付着されたセグメントの複製をもたらす、核酸分子(典型的にはDNAから構成される)を意味することを一般に意図する。ウイルスは、適例となる遺伝子治療ベクターである。本明細書で使用されるとき、「ベクター」という用語は、遺伝子材料(すなわち核酸)から構成される遺伝子構築物を指す。ベクターは、挿入されたコード配列が、適した発現細胞内で転写及び翻訳されうるように配列されている、本明細書に記載されているような1つ以上の遺伝子要素を含んでいてもよい。更に、ベクターは、1つ以上の核酸セグメント、遺伝子、プロモーター、エンハンサー、アクティベーター、複数クローニング領域、又は任意のそれらの組合せを含んでいてもよく、そのようなものとしては、1つ以上の天然及び/又は人工の供給源から得られる又は由来するセグメントが挙げられる。
【0030】
本明細書に開示の遺伝子治療ベクターは、任意選択で、感染性のウイルス粒子内に含まれてもよい。「ウイルス粒子」又は「ビリオン」という用語が、本明細書で互換可能に使用される。それゆえ、本発明はまた、本発明の核酸構築物又は遺伝子治療ベクターを含むビリオン並びに宿主細胞を包含する。
【0031】
本明細書で使用されるとき、「タンパク質」、「ポリペプチド」及び「ペプチド」は、互換可能に使用され、2つ又はそれ以上のアミノ酸残基を共に連結している少なくとも1つのアミド結合を含んだ分子を含む。互換可能に使用されるものの、概して、ペプチドが、比較的短い(例えば2アミノ酸から100アミノ酸残基の長さの)分子である一方で、タンパク質又はポリペプチドは、比較的長い(例えば100残基又はそれ以上の長さの)ポリマーである。しかし、具体的に鎖長によって規定されない限り、ペプチド、ポリペプチド及びタンパク質という用語は、互換可能に使用される。
【0032】
本明細書で使用されるとき、「対象」という用語(互換可能に「患者」ともいわれる)は、本発明の遺伝子治療ベクター、医薬組成物、又はビリオンのためのレシピエントとして役割を果たしうる、任意の対象を指す。ある特定の態様において、対象は、脊椎動物と予想され、ここで脊椎動物は、あらゆる動物種(好ましくは哺乳動物種、例えばヒト)を意味することが意図されている。ある態様では、「患者」は、任意の動物宿主を指し、そのような宿主としては、以下に限定されないが、ヒト、非ヒト霊長類、ウシ、イヌ、ヤギ(caprine)、キャビネ(cavine)、カラス、エピン(epine)、ウマ、ネコ、ヤギ(hircine)、ウサギ(lapine)、野ウサギ(leporine)、オオカミ(lupine)、マウス、ヒツジ、ブタ、ラシーヌ(racine)、キツネ等が挙げられ、限定なく、飼養化された家畜、成群性又は移動性の動物、外来の又は動物学的な種、並びに伴侶動物、ペット、及び獣医の監督下にある任意の動物が挙げられる。
【0033】
本明細書で使用されるとき、「有効量」は、レシピエント対象への治療効果、予防効果、又は他の有益な効果を提供するためのものであることが、当業者に理解されよう。
【0034】
「単離された」という用語は、自然状態に見出されるときには通常伴っている成分を実質的又は本質的に含まない物質を指す。そのため、本発明に従う単離されたポリヌクレオチドは、好ましくは、天然又はin situの環境で通常はそれらのポリヌクレオチドに会合している物質を含まない。
【0035】
本明細書で使用されるときの「同じ機能的なクラスでのアミノ酸置換」という言い回しは、当業者にとって明らかとなるようないわゆる「保存的な」アミノ酸置換に関する。保存的なアミノ酸置換とは、類似の側鎖を有した残基の相互互換性を指す。例えば、脂肪族側鎖を有するアミノ酸の群は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシンであり、脂肪族水酸基側鎖を有するアミノ酸の群は、セリン及びスレオニンであり、小さな側鎖を有するアミノ酸の群は、アラニン、セリン、スレオニン、メチオニン及びグリシンであり、含アミド側鎖を有するアミノ酸の群は、アスパラギン及びグルタミンであり、芳香族側鎖を有するアミノ酸の群は、フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファンであり、塩基性側鎖を有するアミノ酸の群は、リジン、アルギニン及びヒスチジンであり、酸性側鎖を有するアミノ酸の群は、アスパラギン酸及びグルタミン酸であり、含硫側鎖を有するアミノ酸の群は、システイン及びメチオニンである。好適な保存的アミノ酸置換基は、バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リジン-アルギニン、アラニン-バリン、及びアスパラギン-グルタミンである。本明細書に開示のアミノ酸配列の置換バリアントは、開示されている配列の少なくとも1つの残基が除去されており、その場所に、異なる残基が挿入されているものである。好ましくは、アミノ酸変化は保存的である。天然に発生したアミノ酸それぞれに好適な保存的置換は、以下、すなわち、Alaからser、Argからlys、Asnからgln又はhis、Aspからglu、Cysからser又はala、Glnからasn、Gluからasp、Glyからpro、Hisからasn又はgln、Ileからleu又はval、Leuからile又はval、Lysからarg、gln又はglu、Metからleu又はile、Pheからmet、leu又はtyr、Serからthr又はgly、Thrからser又はval、Trpからtyr、Tyrからtrp又はphe、及びValからile又はleuである。
【0036】
本発明の詳細な説明
本発明は、網膜障害、又は網膜中の細胞変化、具体的にはCRB1の1つ若しくは複数の変異に起因する変化に付随する障害の治療に関する。より具体的には、本発明は、レーバー先天性黒内障(LCA)、具体的にはレーバー先天性黒内障8(LCA8)の治療と、進行性網膜色素変性症(RP)、特に進行性網膜色素変性症12(RP12)、或いは前記の早発性RP12の治療に関する。本発明は、動物において、網膜活性及び構造的な完全性の喪失を少なくとも部分的に減少させる方法を提供し、該網膜活性及び該構造的な完全性の喪失は、前記動物において少なくともCrumbsホモログ(CRB)機能が部分的に失われることを含む。好ましくは、前記網膜活性及び構造的な完全性の喪失を減少させることは、1つ以上の研究、診断及び/又は治療のレジメンで使用するために、生物的に機能的なCrumbsホモログ(CRB)ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質を発現する第1の治療遺伝子産物をコードする、第1の核酸セグメントを発現する組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)発現ベクターを介して達成され、上記の使用は、例えば、哺乳類動物の眼の1つ以上の障害又は疾患の治療を含み、具体的には、ヒトでのCrumbsホモログ(CRB)の十分な生物的機能の喪失に起因する、レーバー先天性黒内障8(LCA8)や網膜色素変性症(RP)等の網膜ジストロフィーを含めた先天性網膜失明を治療するためのものである。治療は、毒性がないか又はほぼないことが好適である。
【0037】
第1の態様では、本発明は、医薬として使用するための遺伝子治療ベクターに関し、該遺伝子治療ベクターは、a)Crumbsホモログ-2(CRB2)タンパク質をコードするヌクレオチド配列、及び/又はb)改変型Crumbsホモログ-1(CRB1)タンパク質若しくは改変型Crumbsホモログ-3(CRB3)タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、該改変型CRB1タンパク質又は該改変型CRB3タンパク質は、タンパク質のC末端部分に改変を含む。好ましくは、該改変型CRB1タンパク質又は該改変型CRB3タンパク質のC末端部分は、以降に更に定義するように、CRB2タンパク質のC末端部分と実質的な同一性があり、好ましくは、CRB2タンパク質のC末端部分と少なくとも85、90、93、95、97、98又は99%の同一性がある。好ましくは、改変型CRB1 CRB3タンパク質のタンパク質のC末端部分の改変は、in vivoアッセイで決定することができるように、タンパク質の毒性を低減する。好ましくは、改変型CRB1タンパク質又は改変型CRB3タンパク質をコードする配列を含む遺伝子治療ベクターは、野生型CRB1タンパク質又は野生型CRB3タンパク質よりも毒性が少なく、より好ましくは、改変型CRB1タンパク質又は改変型CRB3タンパク質をコードする配列を含む遺伝子治療ベクターは、in vivoアッセイで毒性がほぼないか又はない。好ましくは、アッセイは、一方の眼に、改変型CRB1タンパク質又は改変型CRB3タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含有するAAV粒子を用い、他方の眼に、対照として野生型CRB2タンパク質、野生型CRB1又は野生型CRB3をコードするヌクレオチド配列を用いて、CRB2のレベルが低減しているか又はCRB2を欠いているマウス網膜、好ましくは、CRB1を欠いており且つCRB2レベルが低減しているマウス網膜を硝子体内形質導入する工程と、形質導入の1か月後及び3か月後に網膜電図を決定する工程とを含み、ここで野生型CRB1又は野生型CRB3を形質導入した網膜での網膜電図と比べて、改変型CRB1又は改変型CRB3を形質導入した網膜での網膜電図で、a波及び/又はb波の最大振幅(マイクロボルトで)のパーセンテージが増加したことが、改変型CRB1タンパク質又は改変型CRB3タンパク質に毒性が少ないことを示すか、又は野生型CRB2によるa波及び/若しくはb波の最大振幅から、改変型CRB1タンパク質若しくは改変型CRB3タンパク質によるa波及び/若しくはb波の最大振幅を減算した差の少なくとも60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98、99又は100%である、網膜電図でのa波及び/又はb波の最大振幅(マイクロボルトで)は、毒性がない。そのため、in vivoアッセイは、好ましくは、
i)CRB2のレベルが低減しているか又はCRB2を欠いているマウス、好ましくは、CRB1を欠いており且つCRB2のレベルが低減しているマウス、より好ましくは、Crb2コンディショナルノックアウト(cKO)又はCrb1Crb2
F/+ cKOマウス、より好ましくは、Crb2
F/FChx10Cre/+ cKOマウス又はCrb1
-/-Crb2
F/+Chx10Cre/+ cKOマウスの一方の眼(例えば左眼)に、1μLの5.10
9ゲノムコピーの改変型CRB1タンパク質又は改変型CRB3タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)を用いて、硝子体内形質導入する工程であって、好ましくは、rAAVは、ShH10Yであり、改変型CRB1又は改変型CRB3をコードするヌクレオチド配列は、最小CMVプロモーター又はCMVプロモーターに動作可能にそれぞれ連結している、工程と、
ii)該マウスの他方の眼(例えば右眼)に、対照として1μLの5.10
9ゲノムコピーの野生型CRB2タンパク質、野生型CRB1タンパク質又は野生型CRB3タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むrAAVを用いて、硝子体内形質導入する工程であって、好ましくは、rAAVは、ShH10Yであり、野生型CRB2、CRB1タンパク質又はCRB3タンパク質をコードするヌクレオチド配列は、CMV、最小限のCMV又はCMVのプロモーターに動作可能にそれぞれ連結している、工程と、
iii)形質導入の1か月後及び3か月後に網膜電図を作成する工程であって、
野生型CRB1又は野生型CRB3を形質導入した網膜の網膜電図と比べて、改変型CRB1若しくは改変型CRB3を形質導入した網膜の網膜電図でのa波及び/若しくはb波の最大振幅のパーセンテージが増加することが、改変型CRB1タンパク質若しくは改変型CRB3タンパク質に毒性が少ないことを示すか、又は
野生型CRB2によるa波及び/若しくはb波の最大振幅から、改変型CRB1タンパク質若しくは改変型CRB3タンパク質によるa波及び/若しくはb波の最大振幅を減算した差の、少なくとも60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98、99又は100%である、網膜電図でのa波及び/若しくはb波の最大振幅が、改変型CRB1タンパク質若しくは改変型CRB3タンパク質は毒性がないことを示す、網膜電図を作成する工程と
を含み、より好ましくは、当該工程からなる。
【0038】
代替の好適な実施形態では、改変型CRB1タンパク質又は改変型CRB3タンパク質をコードする配列を含む遺伝子治療ベクターは、in vitroアッセイで毒性がほぼないか又はない。好ましくは、in vitroアッセイは、改変型CRB1タンパク質若しくは改変型CRB3タンパク質をコードするヌクレオチド配列、又は対照として、CRB1タンパク質、CRB2タンパク質若しくはCRB3タンパク質をコードするヌクレオチド配列を用いて、ヒト由来網膜色素上皮細胞をトランスフェクションする工程と、トランスフェクションの72時間後の細胞の生存率を決定する工程とを含む。好ましくは、CRB1、CRB2及びCRB3の対照タンパク質は、野生型のCRB1、CRB2及びCRB3のタンパク質である。改変型CRB1タンパク質又は改変型CRB3タンパク質が、野生型CRB1タンパク質又は野生型CRB3タンパク質よりも高い生細胞のパーセンテージを有することは、改変型CRB1タンパク質又は改変型CRB3タンパク質が、野生型CRB1タンパク質又は野生型CRB3タンパク質よりも毒性が低いことを示す。或いは、生細胞のパーセンテージが、対照のCRB2タンパク質の生細胞のパーセンテージの少なくとも60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98、99又は100%であることは、改変型CRB1タンパク質又は改変型CRB3タンパク質は毒性がないことを示す。
【0039】
より詳細には、in vitroアッセイは、好ましくは、改変型CRB1タンパク質又は改変型CRB3タンパク質をコードするヌクレオチド配列を、トランスフェクション対照として緑色蛍光タンパク質をコードするヌクレオチド配列と共に用いて、ヒト由来網膜色素上皮細胞をトランスフェクションする工程を含む。CRB2を用いてトランスフェクトされたヒト由来網膜色素上皮細胞が、対照として使用された。トランスフェクションの72時間後、細胞の生存率を決定した。好ましくは、生細胞のパーセンテージ[すなわち、%生細胞={1.00-(死細胞数÷全細胞数)}×100]が、対照のCRB2タンパク質の生細胞のパーセンテージの少なくとも60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98、99又は100%であること、より好ましくは、生細胞のパーセンテージが、対照のCRB2タンパク質の生細胞のパーセンテージに等しいそれよりも高いということが、改変型CRB1タンパク質又は改変型CRB3タンパク質は毒性がないことを示す。好適な実施形態では、任意のこれらのタンパク質をコードするヌクレオチド配列を用いて細胞を処理した後の生細胞の量が、CRB2で処理した対照細胞での生細胞の量の少なくとも80、90又は95%である場合、改変型CRB1タンパク質又は改変型CRB3タンパク質は、非毒性であると考えられる。
【0040】
生存することができない細胞は、導入遺伝子のタンパク質を発現しないため、好適な実施形態では、生細胞のパーセンテージの決定に加えて、該細胞によって発現された改変型CRB1タンパク質又は改変型CRB3タンパク質の量も、例えばELISAやウェスタンブロット等で決定する。本実施例では、ウェスタンブロットに用いる方法を示した。改変型CRB1タンパク質又は改変型CRB3タンパク質をコードするヌクレオチド配列を用いて処理された細胞が、野生型CRB1又は野生型CRB3の対照よりも多くのタンパク質発現を示すならば、その改変型CRB1タンパク質又は改変型CRB3タンパク質は、毒性がより少ないと考えられる。改変型CRB1タンパク質又は改変型CRB3タンパク質をコードするヌクレオチド配列を用いて処理された細胞が、CRB2対照細胞でのCRB2タンパク質発現(好ましくは、例えばアクチンタンパク質レベル等、ハウスキーピングタンパク質に正規化される)の少なくとも60、65、70、75、80、85、90、95又は100%のタンパク質発現を示すならば、その改変型CRB1タンパク質又は改変型CRB3タンパク質は、非毒性であると考えられる。
【0041】
改変型CRB1タンパク質又は改変型CRB3タンパク質をコードするヌクレオチド配列を用いたトランスフェクション後の生細胞のパーセンテージが、CRB2タンパク質をコードするヌクレオチド配列を用いたトランスフェクション後の生細胞のパーセンテージと統計的に有意差がないか、又はそれより高くないならば、CRB構築物は毒性がない。好ましくは、改変型CRB1タンパク質若しくは改変型CRB3タンパク質をコードするヌクレオチド配列を用いたトランスフェクション後の生細胞のパーセンテージが、CRB2タンパク質をコードするヌクレオチド配列を用いたトランスフェクション後の生細胞のパーセンテージの5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60%未満ならば、その構築物は、毒性であると言う。
【0042】
好ましくは、ヒト由来網膜色素上皮細胞は、ARPE19細胞であり、好ましくは、ATCC CRL-2302から得られる。
【0043】
好適な実施形態では、遺伝子治療ベクターは、CRB2タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む。
【0044】
全長CRB1(例えば配列番号1〜2)は、そのサイズのために通常はアデノ随伴ウイルス内で使用することができないが、最近では、欠失型CMVプロモーター(最小CMV、好ましくは配列番号133)やhGRK1プロモーター[Pellissierら(2014) Mol Ther Methods & Clinical Dev1:14009]等、小さなプロモーターを使用する際に、AAV9を使用して全長CRB1を発現することができることが示された。通常の全長CRB1 cDNAのサイズは、約4.22kbである。この配列を含み、CMVプロモーター、末端逆位反復や5'非翻訳領域等の他の発現エレメントをも含むベクターは、およそ5.2kbとなる。本発明の好適なベクターの通常のゲノムであるAAVは、4.7kbであるため、4.9kbより大きな組換えゲノムは、カプシド内に正しくパッケージングされず、それゆえ欠陥のあるウイルスをしばしば生じる。結果として、CRB1の短縮化されたバージョンもまた、遺伝子治療に有用である場合があると考えられるが、いくつかの種にその短いバリアントが発生するためであると共に、そのタンパク質構造がCRB2に似ている点に因る。しかし、本発明者らは、思いがけず、天然に発生した短いCRB1のバリアント(全長CRB1と比べてEGFドメインを欠いており、短いCRB1又はsCRB1は、配列番号3に示されている)と、またCRB3A(配列番号84)との両方に毒性があることを見出した(AAV5及びAAV9のカプシドで試験されており、本発明の実施例1を参照されたいが、そこでは、CRB1がノックアウトされた免疫的に無処理の網膜で短いヒトCRB1を発現することには毒性があることが示されている)。それゆえ、本発明の遺伝子治療ベクターが、天然に発生したCRB1タンパク質及び/又はCRB3タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含まず、天然に発生した短いCRB1バリアント(全長CRB1と比べてEGFドメインを欠いている)をコードするヌクレオチド配列を含まないことは、好適である。これらの配列の例は、配列表に示されている(例えば、CRB1については配列番号1〜39及び64、並びにCRB3については配列番号84〜120)。よりいっそう驚くべきことに、本発明者らは、天然に発生した短いCRB1バリアントと、CRB3とにみられる大きな毒性作用を、CRB2が生じないことを見出した。
【0045】
CRB1を欠いているマウス、CRB2を欠いているマウス、CRB1を欠いており且つCRB2のレベルが低減しているマウス、CRB2を欠いており且つCRB1のレベルが低減しているマウス、及びCRB1とCRB2との両方を欠いているマウスに関する本発明者らの分析によって、CRB1とCRB2には非常に類似した機能があることが示唆されている。同様に、Crumbsホモログ(CRB)タンパク質の機能は、交換可能であり、例えば、ヒトCRB1タンパク質は、Crumbs(Crb)タンパク質を欠いているショウジョウバエで、表現型を部分的にレスキューすることができ(den Hollanderら、2001)、ゼブラフィッシュCRB2Bタンパク質は、CRB2Aタンパク質を欠いているゼブラフィッシュの表現型をレスキューすることができる(Omori及びMalickiら、2006)。ヒトCRB2タンパク質のレベルを内因的又は外因的に増加させることの他の利点は、以下の通りである。
【0046】
A)ヒトCRB2 cDNAが、約3.9kbと小さく、その結果、CRB2 cDNAと発現エレメントとを含む、典型的にはわずか約4.9kbの発現カセットを生じる。パルボウイルスベクターを使用し、ヒトCRB2の発現を網膜で得ることができることが見出された。
【0047】
B)生来のCRB2は、マウスの網膜では、光受容細胞とミュラーグリア細胞との両方に存在し、網膜色素上皮細胞にも存在する可能性がある。他の種でも、生来のCRB2は、光受容体に存在し、光受容細胞で機能的である。しかし、ヒトでは、生来のCRB2のみが、ミュラーグリア細胞に、より具体的には、ミュラーグリア細胞で外境界膜の接着接合部に近接した亜頂端領域に存在するが、光受容細胞には存在しない。マウスとヒトとの間で状況が異なることが認識されている(
図1及び
図2)。いくつかのマウスモデルが開発されており、いくつかのマウスモデルで実験が行われている。本実施例では、RP12に罹っているヒトに現れるものに類似した表現型を有するコンディショナルノックアウトマウスが開発されていることが、説明されている。
【0048】
C)CRB1を欠損したヒトの免疫系は、組換えCRB1を非自己タンパク質として認識する場合があり、組換えCRB1に対する免疫反応を招く可能性がある。CRB2は、これらの患者の網膜及び他器官の上皮に既に発現し、免疫寛容されているため、自己タンパク質として認識され、免疫応答を生じることがない。
【0049】
上記に言及したような全長及び短いCRB1の毒性の原因は、未だ不明であり、DNA、RNA又はタンパク質のレベルに因ることがありうる。何らかの理論に縛られることを望むものではないが、例えば、短いCRB1タンパク質の過剰発現によって、不可欠なタンパク質が除掃されるか、又は短いCRB1 cDNAのRNA転写物によって、マイクロRNAの不均衡が生じる可能性がある。
【0050】
好適な実施形態では、CRBタンパク質の毒性は、実施例3に示されているように、ヒト由来網膜色素上皮細胞を使用して試験する。簡単に述べれば、アッセイを以下のように実施する。in vitroアッセイは、(改変型)CRB1タンパク質又は(改変型)CRB3タンパク質をコードするヌクレオチド配列を用いて、トランスフェクション対照として緑色蛍光タンパク質をコードするヌクレオチド配列と共に、ヒト由来網膜色素上皮細胞をトランスフェクションする工程を含む。各種のCRB構築物(例えばCRB1、sCRB1、CRB2アイソフォーム1、CRB2アイソフォーム2、CRB2アイソフォーム3、CRB3、又はそれらの改変バージョン等)のうち1つを用いて、対照のGFP構築物[Aartsenら(2010)PLoS One 5:e12387、「GFAP-driven transgene expression in activated Muller glial cells following intravitreal injection oF AAV2/6 vectors」、UniProtKB/Swiss-Prot 配列P42212]と共に、リン酸カルシウム法[例えば、Sambrook及びRussell(2001)「Molecular Cloning: A Laboratory Manual (第3版)」、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、New Yorkに記載]を使用して、ARPE19細胞(ATCC CRL-2302)をトランスフェクトする。CRB2構築物(好ましくは、配列番号40に示されているようなCRB2配列を有する)、野生型CRB1構築物(好ましくは、配列番号1若しくは2に示されているようなCRB1配列を有するか、又は野生型の短いCRB1の場合には配列番号3である)又は野生型CRB3構築物(好ましくは、配列番号84に示されているようなCRB3配列)を用いてトランスフェクトされた細胞を、生細胞のパーセンテージを比較するために対照として使用した。各CRB構築物又は対照を、別々のペトリ皿内で、2連で試験する。CRB構築物を等モル量で使用し、ペトリ皿当たり総量20μgのDNAを添加する。CRB構築物を、実施例2.1に記載されているように作製する。簡単に述べれば、CRB構築物を化学合成によって作製し、pUC57内へサブクローニングする。これらの構築物は、AAV2 ITR(配列番号131及び配列番号132)、CMVプロモーター(配列番号121)、試験されるCRB cDNA(例えば、配列番号40又は他のCRB配列)、イントロン5(配列番号128)、及び合成pA(配列番号130)を含む。
【0051】
GFP構築物は、トランスフェクションの内在性対照として、及び20μgの固定量のDNAを細胞に提供するために使用する。例えば、18μgのCRB構築物に2μgのGFP構築物を加えて使用する。このようにして、例えば、2、4、8又は16μgのCRB構築物に、18、16、12又は4μgのGFP構築物をそれぞれ加える等、同量のDNAを添加しながら、等モルの一連のプラスミド濃度を試験することができる。
【0052】
トランスフェクションの前日に、10cmペトリ皿にて、10%ウシ胎児血清及びペニシリン/ストレプトマイシンを補充したDMEM中に、ARPE19細胞を30%の集密度で2連に播種する。トランスフェクションの2時間前に培地を更新した後、ディッシュ当たり500μlの0.25M CaCl
2及びTE(10mM Tris、1mM EDTA pH8)緩衝液中に、20μgのDNAを用いて、トランスフェクション混合物を調製する。常時ボルテックスしながら、500μlの2×HBS(281mM NaCl、100mM Hepes、1.5mM Na
2HPO
4、pH7.12)をトランスフェクション混合物に滴下添加し、完全な混合物を細胞に直接加えて、終夜インキュベートする。培地を翌朝に更新する(10%ウシ胎児血清及びペニシリン/ストレプトマイシンを補充したDMEMを使用)。2日後(すなわち、トランスフェクションの72時間後)に、付着又は浮遊している細胞を、別々に(1組の2連)又は合わせて(第2の2連)採取し、遠心分離した後に、1mLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS;137mM NaCl、2.7mM KCl、10mM Na
2HPO
4及び1.76mM KH
2PO
4、pH7.4)に再懸濁する。続いて、Luna自動細胞計数装置(Logos Biosystems, Inc社、アナンデール、USA)を用いて、生存率について細胞を試験する。計数装置は、細胞の数を決定し、トリパンブルー染色を経て、生細胞と非生細胞とを区別する。トリパンブルー染色は、実施例3で更に設定されているような、Life Technologies社による標準的なプロトコールを使用して実施した。生存率のパーセンテージを使用して、このアッセイに採用された構築物に毒性があること又は毒性がないことをどのように決定することができるかは、上記に記載されている。
【0053】
生存することができない細胞は、導入遺伝子のタンパク質を発現しないため、CRBタンパク質の発現を、生細胞のパーセンテージの代わりに、又はそれに加えて、決定することができる。CRBタンパク質の発現は、例えば実施例3に概略されたウェスタンブロッティングやELISA等、任意のタンパク質アッセイを使用して決定することができる。短く述べれば、細胞溶解物由来のタンパク質を、SDS-page電気泳動によって分離する。ニトロセルロース膜へ転写した後、該ニトロセルロース膜を、CRB、GFP及びアクチンのタンパク質について免疫染色し、Odyssey赤外イメージングシステム(LI-COR;Westburg BV社、ルースデン、オランダ)によって分析する。アクチンタンパク質を、得られたデータの正規化に使用した。このアッセイに採用された構築物に毒性があること又は毒性がないことをどのように決定することができるかは、上記に記載されている。
【0054】
より好適な実施形態では、実施例6に示されているように、及び上記により詳細にin vivoテストについて記載されているように、マウス網膜に網膜電図記録法を使用して、CRBタンパク質の毒性を試験する。
【0055】
好適な実施形態では、本発明による遺伝子治療ベクターは、CRB1遺伝子の変異に起因する網膜障害の治療又は予防で使用するためのものである。言い換えれば、好適な実施形態では、本発明は、CRB1遺伝子の変異に起因する網膜障害の治療に際して医薬を製造するための、本発明による遺伝子治療ベクターの使用に関する。好ましくは、CRB1遺伝子のそのような変異は、網膜電図記録法(ERG)、多焦点ERG、光学干渉断層撮影(OCT)、微小視野計測、視野誘発電位(VEP)試験、機能的磁気共鳴画像試験、又は迷路行動試験[例えば、Bainbridgeら(2008)、N Engl J Med.、5月22日、358(21):2231〜9頁、Annearら(2011)、Gene Ther.、1月、18(1):53〜61頁、Maguireら(2008)、N Engl J Med.、5月22日、358(21):2240〜8頁、Testaら(2013)、Ophthalmology.、6月、120(6):1283〜91頁、Cideciyanら(2008)、Proc Natl Acad Sci USA.、9月30日、105(39):15112〜7頁、Watkinsら(2012)、Brain、5月、135(Pt 5):1566〜77頁を参照されたい]を使用して決定することができるように、機能的なCRB1タンパク質の喪失をもたらす。これらの方法は、検査された眼での網膜視覚機能の退行又は進行を測定するための定量可能な手法を提供する。好ましくは、網膜障害は、レーバー先天性黒内障又は網膜色素変性症であり、より好ましくは、LCA8又はRP12である。
【0056】
網膜色素変性症(RP)は、初めに桿体光受容体に、続いて錐体光受容体に影響を及ぼす遺伝性網膜ジストロフィーの進行性又は後期の重篤な形態を表す、常染色体劣性又は優性の疾患群である。1番染色体の長(q)腕の31位から32.1位に位置し、この遺伝子での及び臨床上の不均一性の発生に関与し、それゆえRP12遺伝子座に割り当てられている(van Soestら、1994) 12番目の遺伝子が、Crumbsホモログ-1(CRB1)であった(den Hollanderら、1999)。RP12遺伝子は、側細動脈での網膜色素上皮の保持(PPRPE)を伴うRPの原因であった(Heckenlivelyら、1982)。網膜色素変性症の原因となるいくつかの遺伝子は、レーバー先天性黒内障の原因ともなる。CRB1遺伝子はまた、レーバー先天性黒内障(LCA)8型(LCA8)及びPPRPEを伴わない進行型のRPにも関与していた(den Hollanderら、2004)。LCAは、全遺伝性網膜ジストロフィーの中でも最も早期に最も重篤な形態を表す、常染色体劣性又は優性の疾患群である。RP12又はLCA8の遺伝子は、主に光受容体及びミュラーグリア細胞で網膜の外境界膜の接着接合部に近接した亜頂端領域に発現される、Crumbsホモログ-1(CRB1)をコードする。CRB1は、光受容体とミュラーグリア細胞との間の接着の形成及び維持の際に役割を果たす。CRB1タンパク質がない場合には、これらの細胞の間の接着が弱まり、正常な網膜の積層が失われることにつながる。CRB1タンパク質がない場合には、細胞の極性の維持及び光受容体とミュラーグリア細胞との間の接着の維持に必要な、亜頂端のCRB1/PALS1/MUPP1及びCRB1/PALS1/PATJタンパク質複合体が、不安定化する。CRB1遺伝子の変異は、CRB1遺伝子に変異を有するRP又はLCA8でそうであるように、亜頂端のCRB1/PALS1/MUPP1及びCRB1/PALS1/PATJタンパク質複合体を維持するための、及び光受容体とミュラーグリア細胞との間の接着を維持するための、CRB1タンパク質の能力を低減又は消失させる。なぜ、レーバー先天性黒内障に関連する重篤且つ早期の視覚機能障害を有したCRB1遺伝子変異を持つ人々がいる一方で、より緩やかな視覚の喪失と、網膜色素変性症に関連した他の眼の問題とに遭う人々がいるのかは不明である。他の遺伝子上の要因(CRB2等、Alvesら、2013)が、CRB1遺伝子変異の作用を修正して、これらの状態の重篤性に影響を与えることがある。
【0057】
LCAの最初の報告は、Theodor Leberによって1869年に公表された。現在では、少なくとも20遺伝子が、LCAの原因となることが報告されている。CRB1の変異は、LCAの全症例の約15%を占めており、このことは、それをLCAの主因の1つたらしめている。LCA8の診断は、典型的には、生後最初の数ヶ月内に、重篤な視覚障害又は全盲、平坦な網膜電図(ERG)、及び不随意の眼球運動(眼振)を呈した乳幼児になされる(Hufnagelら、2013)。LCA8における正常な網膜構造の喪失は、他の疾患の形態とは異なっており、他の疾患では、一般に年齢に伴って悪化する、網膜の著しい菲薄化を呈するか(Pasadhikaら、2009)、又はGucy2d遺伝子内の変異に起因するLCA1の場合にそうであるように、網膜活性を失った網膜構造の保持を呈する。研究では、スペクトル領域光学干渉断層撮影(SDOCT)を使用して黄斑中心窩及び傍中心窩領域を走査し、LCA8患者が、眼疾患のない人々、又はLCA2等の他の型のLCAである患者に比べて、典型的には、6つの網膜層を失い且つ未成熟な外観を有した、より厚みのある網膜を呈することが明らかになった(Jacobsonら、2003)。
【0058】
重篤性がより低い網膜変性は、機能的なCRB1遺伝子を欠いている網膜色素変性症に起因する視覚機能障害の患者に観察される。網膜色素変性症は、遺伝性の網膜変性随伴性失明の主因である。網膜色素変性症(RP)は、Donders博士によって1857年に初めて特定され命名された病的状態である。網膜色素変性症は、遺伝性であり、進行性であり、臨床的に特徴的であり、網膜の光受容体に対する及び光受容体の真下の色素上皮のジストロフィー又は損傷に類似した特徴を共通に有する、関連状態の一群である。現在では、少なくとも50遺伝子が、優性又は劣性のRPの原因であることが報告されている。30〜40%ほどが常染色体優性であり、50〜60%が常染色体劣性であり、5〜15%がX染色体に連鎖している。有病率は、全年齢群で4000分の1であり、65歳よりも若年の集団では3000人に1人である。CRB1の変異は、RPの全症例の約3〜5%を占めており、このことは、それをRPの主因の1つたらしめている。CRB1遺伝子の劣性変異(RP及びLCA)によって影響を及ぼされる患者の数は、RPE65遺伝子の変異によって影響を及ぼされる患者数(LCA2型又はLCA2)のおよそ2倍であり、RPE65遺伝子の変異については、AAV媒介性遺伝子治療の治験が成功したことが記載されている。RP患者の診断は、典型的には、生後最初の10年以内に、初期の視覚の問題、特に薄明りでの問題になされる。末梢周辺の視覚の喪失としてのこの症状は、トンネル状視野として知られる。中心視野は、疾患の後期の段階まで温存される。RP12患者は、典型的には、側細動脈での網膜色素上皮の保持(PPRPE)を呈する(Heckenlively、1982)。RPの患者の網膜構造が保持されていることは、CRB1遺伝子の変異に起因するLCA8の患者と比べた場合に、RP患者の方が将来的な治療戦略により適しているということを示唆しているが、LCA8患者では、CRB1遺伝子を適時に発現することで、LCA8の網膜の構造及び機能がレスキューされることになる。
【0059】
マウスでCRB1機能が失われることによって、比較的軽度の網膜の崩壊と変性とが引き起こされるが、ヒトでCRB1機能が失われることによって、進行性のRP12又はLCA8が引き起こされる。なぜ、レーバー先天性黒内障に伴う重篤且つ早期の視覚機能障害を有したCRB1遺伝子変異を持つ人々がいる一方で、より緩やかではあるが進行性である早発性の視覚の喪失と、網膜色素変性症に伴う他の眼の問題とに遭う人々がいるのかは不明である。また、なぜCRB1を欠いているマウスが、CRB1を欠いているヒトに比べて比較的軽度の表現型を示すのかも不明である。他の遺伝子上の要因(CRB2等、Alvesら、2013)が、Crb1遺伝子変異の作用を修正して、これらの状態の重篤性に影響を与えることがある。実際に、網膜でCRB2を欠いているマウスは、CRB1を欠いているヒト患者に検出される進行性RPを模した表現型を示し(Alvesら、2013)、CRB2及びCRB1を欠いているマウスは、CRB1を欠いているヒト患者に検出されるLCA8を模する(Pellissierら、PLoS Genet.、2013、12月、9(12):e1003976)。関与する他の要因は、光曝露である。すなわち、CRB1を欠いているマウスでは、中程度のレベルの白色光への曝露によって、網膜の崩壊と変性のレベルが大幅に増加する(van de Pavertら、2004;van de Pavertら、2007a;van de Pavertら、2007b)。
【0060】
マウス及びヒトでの表現型は、CRB1タンパク質及びCRB2タンパク質の局在性の違いのために、部分的に異なる。マウスの網膜では、免疫電子顕微鏡法によって、CRB1が、ミュラーグリア細胞の頂端の繊毛で、外境界膜(OLM)の接着接合部(AJ)に近接した亜頂端領域(SAR)に局在することが示された。マウスの網膜では、CRB2は、2つの領域に局在している。外境界膜(OLM)の接着接合部(AJ)に近接した亜頂端領域(SAR)の光受容体の内部セグメント、並びに外境界膜(OLM)の接着接合部(AJ)に近接した亜頂端領域(SAR)のミュラーグリア細胞の頂端の繊毛である(van Rossumら、2006)。マウス網膜でCRB1が失われることによって、それゆえ、機能的なCRB2タンパク質を光受容体及びミュラーグリア細胞に留め、その結果、軽度の表現型がもたらされる。
【0061】
ヒトの網膜では、免疫電子顕微鏡法によって、CRB2が、ミュラーグリア細胞の頂端の繊毛で、外境界膜(OLM)の接着接合部(AJ)に近接した亜頂端領域(SAR)に局在していることが示された。ヒトの網膜では、CRB1は、2つの領域に局在している。外境界膜(OLM)の接着接合部(AJ)に近接した亜頂端領域(SAR)の光受容体の内部セグメント、並びに外境界膜(OLM)の接着接合部(AJ)に近接した亜頂端領域(SAR)のミュラーグリア細胞の頂端の繊毛である(Pellissierら、Hum Mol Genet.、2014年7月15日、23(14):3759〜71頁)。ヒト網膜でCRB1が失われることは、それゆえ、機能的なCRB2タンパク質をミュラーグリア細胞のSARに留めるが、光受容体には留めず、その結果、重篤な表現型がもたらされる。
【0062】
Crb1遺伝子に変異を担持した3つのマウスモデルが記載されている。Crb1遺伝子に天然に発生したrd8変異をホモ接合で有するマウス(Crb1
rd8/rd8)は、軽度の網膜変性を呈し、網膜の四分円の1つに優先的に下(腹側)鼻部の四半盲を呈する(Alemanら、2011;Mehalowら、2003)。あらゆるCRB1タンパク質を欠いているホモ接合ノックアウトマウス(Crb1
-/-)は、軽度の網膜変性を呈し、網膜の四分円の1つに優先的に下(腹側)側頭部の四半盲を呈する(van de Pavertら、2004;van de Pavertら、2007a)。野生型マウスのCRB1を発現しないが、249位にアミノ酸トリプトファン(W)からシステイン(C)への置換を有したCRB1を発現しているヘテロ接合ノックイン/ヘテロ接合ノックアウトマウス(Crb1
C249W/-)は、かなり後期の軽度の網膜変性を呈する(van de Pavertら、2007b)。Crb1
C249W/-マウスは、両対立遺伝子にC250W置換を有したRP12患者のマウスモデルとして開発された。
【0063】
重要なことに、3つのマウスモデル(Crb1
rd8/rd8、Crb1
-/-又はCrb1
C249W/-)のいずれとも、網膜電図記録法によって測定された場合に、網膜機能に意義のある減少がなかった(Alemanら、2011;Mehalowら、2003;van de Pavertら、2004;van de Pavertら、2007a;van de Pavertら、2007b)。ゆえに、これらのマウスは、網膜電図記録法によって測定するときに、CRB遺伝子治療ベクターの有効性を試験するには適さないように思われた。
【0064】
新たに開発された他のいくつかのマウスモデルは、遺伝子置換治療を評価するためには有用である。第1に、網膜色素上皮を除く全網膜細胞でCRB2を欠いている、Crb2コンディショナルノックアウトマウス(Crb2 cKO)(例えばCrb2
flox/floxChx10Cre)(Alvesら、2013)である。第2に、光受容体でCRB2を欠いている、Crb2コンディショナルノックアウトマウス(例えばCrb2
flox/floxCrxCre)(Alvesら、Hum Mol Genet.、2014年7月1日、23(13):3384〜401頁)である。第3に、ミュラーグリア細胞でCRB2を欠いている、Crb2コンディショナルノックアウトマウス(例えばCrb2
flox/flox PdgfraCre)(Alvesら、Hum Mol Genet.、2014年7月1日、23(13):3384〜401頁)である。第4に、全網膜細胞でCRB1を欠いており、網膜色素上皮を除く全網膜細胞でCRB2の発現が低減している、Crb1ホモ接合Crb2ヘテロ接合コンディショナルノックアウトマウス(例えばCrb1
-/-Crb2
flox/+Chx10Cre)(Pellissierら、Hum Mol Genet.、2014月7月15日、23(14):3759〜71頁)である。第5に、全網膜細胞でCRB1を欠いており、光受容体でCRB2の発現が低減している、Crb1ホモ接合Crb2ヘテロ接合コンディショナルノックアウトマウス(例えばCrb1
-/-Crb2
flox/+CrxCre)である。第6に、全網膜細胞でCRB1を欠いており、ミュラーグリア細胞でCRB2の発現が低減している、Crb1ホモ接合Crb2ヘテロ接合コンディショナルノックアウトマウス(例えばCrb1
-/-Crb2
flox/+PdgfraCre)である。第7に、全網膜細胞でCRB1を、網膜色素上皮を除く全網膜細胞でCRB2を欠いている、Crb1ホモ接合Crb2ホモ接合コンディショナルノックアウトマウス(例えばCrb1
-/-Crb2
flox/floxChx10Cre)(Pellissierら、PLoS Genet.、2013年12月、9(12):e1003976)である。第8に、全網膜細胞でCRB1を、光受容体でCRB2を欠いている、Crb1ホモ接合Crb2ホモ接合コンディショナルノックアウトマウス(例えばCrb1
-/-Crb2
flox/floxCrx10Cre)である。第9に、全網膜細胞でCRB1を、ミュラーグリア細胞でCRB2を欠いている、Crb1ホモ接合Crb2ホモ接合コンディショナルノックアウトマウス(例えばCrb1
-/-Crb2
flox/floxPdgfraCre)である。
【0065】
網膜色素上皮を除く全網膜細胞でCRB2を欠いている、Crb2コンディショナルノックアウトマウス(例えばCrb2
flox/floxChx10Cre)(Alvesら、2013)は、遺伝子置換治療を評価するために使用された。Crb2
flox/floxChx10Creは、1ヶ月齢から6ヶ月齢にERGによって測定されるときに、進行性の網膜変性、並びに網膜機能の暗順応(桿体媒介性)及び明順応(錐体媒介性)の喪失を示す(Alvesら、2013)。該マウスは、12〜18ヶ月齢に失明する。これらの動物は、Crb2 cKOの網膜へCRB2をAAV媒介性移送することによって、ERGによって立証されたように視覚を取り戻した。生後のCrb2 cKOの網膜にCRB2をAAV媒介性移送することによって、光受容体及びミュラーグリア細胞でCRB2が発現し、CRB2の発現時に網膜構造の保持が引き起こされた。これらの実験は、重度に変性しているCrb2 cKOの網膜でさえも、AAV-CRB2の単回投与後に、網膜構造の保持を実現することが可能であることを示す。
【0066】
ヒト患者で本発明の遺伝子治療ベクターの有効性を試験するために、網膜電図記録法、瞳孔測定、走査型レーザー検眼鏡、光学干渉断層撮影や行動試験等、いくつかの基準並びに最先端技術が利用可能である。特に、AAV-CRB遺伝子治療ベクターを用いて網膜を処理した上での早期の皮質性視覚機能の発達のバイオマーカーとして、機能的磁気共鳴画像試験(fMRI)を使用することは、各種の投与レジメンを解析及び解釈するために最も有用となる。
【0067】
好適な実施形態では、本発明の遺伝子治療ベクターは、併用療法で、例えば、a)例えばGDNFやCTNF等の保護因子、栄養因子又は成長因子の追加、b)例えばプロスタグランジン類縁体、ベータ遮断剤、アルファアゴニスト及び/又は炭酸脱水酵素阻害剤等を含有する点眼剤等、眼内で眼圧を正常化する薬物の追加、c)例えば人工装具のコンタクトレンズ等、眼の光感受性を減少させる薬物又はツールの追加、d)例えばレチノイド等、網膜のレチノイド回路を正常化する薬物の追加、e)例えばマグネシウム塩やカルシウム塩等、網膜外境界膜の接着接合部の強度を増加させる薬物の追加、に組み合わせて使用される。
【0068】
好適な実施形態では、本発明の遺伝子治療ベクターは、CRB1遺伝子の変異に起因する網膜障害に罹っている対象に1回のみ適用される。同じ又は類似のベクター、例えば同じ又は別のカプシドを持つものを再度適用することは、暗所での視覚低下の徴候に対し有利となってゆくことが期待される。その同じ又は類似のベクターは、AAVベクターの注射が網膜下に低度の免疫応答を惹起するので、再度適用されてもよい。これに対して、硝子体内注射は、免疫応答を生じることが実証されているが、そのような場合には、別の適切なベクターが使用されてもよい(Liら、2008、Intraocular route of AAV2 vector administration defines humoral immune response and therapeutic potential.、Mol Vis.、14:1780〜1789頁)。視覚野を試験することによる、淡色光での視覚課題を用いる迷路実験、しかし優先的にはfMRI実験は、再度の適用が有利となる時点の決定において最も役に立つことが想定される。
【0069】
好適な実施形態では、CRB1遺伝子の変異に起因する網膜障害に罹っており、且つ本発明による遺伝子治療ベクター、核酸構築物、ビリオン、宿主細胞又は医薬組成物を使用して治療される対象は、哺乳類であり、例えばヒト、非ヒト霊長類、マウス、イヌ、ネコ、ブタ、ニワトリ、サル、ウシ、ヒツジ、ウサギである。最も好ましくは、対象はヒトである。
【0070】
本発明の好適な遺伝子治療ベクターでは、a)CRB2タンパク質は、真正後生動物のCRB2タンパク質であり、好ましくはヒト、非ヒト霊長類、マウス、ネコ、イヌ、ブタ、ヒツジ、ウシ、ウマ、エピン(epine)、ヤギ又はオオカミ由来のCRB2タンパク質であり、より好ましくは、CRB2タンパク質は、ヒトCRB2タンパク質である、b)改変型CRB1タンパク質は、真正後生動物の改変型CRB1タンパク質であり、好ましくはヒト、非ヒト霊長類、マウス、ネコ、イヌ、ブタ、ヒツジ、ウシ、ウマ、エピン(epine)、ヤギ又はオオカミ由来の改変型CRB1タンパク質であり、より好ましくは、改変型CRB1タンパク質は、ヒトの改変型CRB1タンパク質である、及び/又はc)改変型CRB3タンパク質は、真正後生動物の改変型CRB3タンパク質であり、好ましくはヒト、非ヒト霊長類、マウス、ネコ、イヌ、ブタ、ヒツジ、ウシ、ウマ、エピン(epine)、ヤギ又はオオカミ由来の改変型CRB3タンパク質であり、より好ましくは、改変型CRB3タンパク質は、ヒトの改変型CRB3タンパク質である。
【0071】
本発明の好適な実施形態では、遺伝子治療ベクターは、組換えパルボウイルスベクター又はレンチウイルスベクターである。
【0072】
パルボウイルス(Parvoviridae)科のウイルスは、小型の動物DNAウイルスである。パルボウイルス科は、2つの亜科に分類されうる。脊椎動物に感染するパルボウイルス(Parvovirinae)と、昆虫に感染するデンソウイルス(Densovirinae)である。パルボウイルス亜科のメンバーを、本明細書でパルボウイルスと称し、デペンドウイルス(Dependovirus)属を含む。それらの属名から推定されるように、デペンドウイルスのメンバーは、細胞培養で生産用に感染させるために、通常はアデノウイルスやヘルペスウイルス等、ヘルパーウイルスを用いた共感染を必要とする点で独特である。
【0073】
デペンドウイルス属としては、常態でヒト(例えば血清型1、2、3A、3B、4、5及び6)又は霊長類(例えば血清型1及び血清型4)に感染するアデノ随伴ウイルス(AAV)、並びに他の恒温動物に感染する関連ウイルス(例えばウシ、イヌ、ウマ及びヒツジのアデノ随伴ウイルス)が挙げられる。今日では、血清学的に識別されうる型である少なくともAAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8及びAAV-9を区別することが可能である。AAVベクターは、18から26nm、典型的には約25nmの径を有した構造タンパク質の正二十面体の外被を備えた一本鎖DNAから構成される。パルボウイルス及びパルボウイルス科の他のメンバーに関する更に他の情報は、Kenneth I. Berns、「Parvoviridae:The Viruses and Their Replication」、第69章、Fields Virology(第3版、1996)に記載されている。便宜上、AAVを参照することにより、本発明を本明細書に更に例示し記載する。しかし、本発明は、AAVに限定されず、他のパルボウイルスに等しく適用可能でありうることが理解される。また、本発明は、キメラカプシドタンパク質を含むAAVキメラウイルス、及び/又は野生型パルボウイルスに見出されるのと類似したサイズ(18〜26nm径)をも有するAAVハイブリッドウイルス(又は偽型ウイルス)に拡張されることも理解される。記載及びいくつかの例は、WO0028004に供されている。AAVキメラ及び/又はハイブリッドのウイルスは、例えばAAV2/1、AAV2/3、AAV2/4、AAV2/5、AAV2/5.2、AAV2/6、AAV2/7、AAV2/8及びAAV2/9である。
【0074】
AAVゲノムは、ウイルスの複製に必要なタンパク質をコードするrep遺伝子と、ウイルス構造タンパク質をコードするcap遺伝子とからなる。複製に必要な1種以上のrep遺伝子(例えばrep40、rep 52、rep 68及び/若しくはrep 78)又はカプシド構造に必要なcap遺伝子(例えばVP-1、VP-2及び/若しくはVP-3)は、例えば、アデノ随伴ベクターを調製する際に、ウイルス内で導入遺伝子に置換することができる。5'端及び3'端に依然として存在するITR領域は、シス作用性エレメントとして、導入遺伝子を感染性の組換えAAV粒子内にパッケージングするために、及び組換えAAVゲノムのDNAの複製のために、必要である(Kotin, R. M.(1994)、Hum gene Ther.、5(7):793〜801頁)。本明細書での「組換えパルボウイルス又はAAVベクター」(又は「rAAVベクター」)とは、1つ以上の目的のポリヌクレオチド配列、目的の遺伝子、又はパルボウイルス若しくはAAVの末端逆位反復配列(ITR)が隣接している「導入遺伝子」を含むベクターを指す。そのようなrAAVベクターは、AAVのrep遺伝子産物及びcap遺伝子産物(すなわちAAVのRepタンパク質及びCapタンパク質)を発現している昆虫又は哺乳類の宿主細胞内に存在する際に、複製され、感染性ウイルス粒子内にパッケージングされうる。rAAVベクターが、より大きな核酸構築物内(例えば染色体内、又はクローニング若しくはトランスフェクションに使用されるプラスミドやバキュロウイルス等、別のベクター内)へ組み入れられる際には、rAAVベクターは、典型的には、AAVパッケージング機能及び必要なヘルパー機能の存在下で、複製及び被包化によって「レスキュー」されうる、「プロベクター」と称される。そのため、好適な実施形態では、本発明の遺伝子治療ベクターは、rAAVベクターである。よりいっそう好ましくは、rAAVは、組換えアデノ随伴ウイルス血清型1(rAAV1)、組換えアデノ随伴ウイルス血清型2(rAAV2)、組換えアデノ随伴ウイルス血清型3(rAAV3)、組換えアデノ随伴ウイルス血清型4(rAAV4)、組換えアデノ随伴ウイルス血清型5(rAAV5)、組換えアデノ随伴ウイルス血清型6(rAAV6)、組換えアデノ随伴ウイルス血清型7(rAAV7)、組換えアデノ随伴ウイルス血清型8(rAAV8)、組換えアデノ随伴ウイルス血清型9(rAAV9)、血清型バリアント、例えばミュラーグリア細胞の形質導入を高めるための血清型バリアント、例えばrAAV6 ShH10(Klimczakら、2009、PLoS One、4、e7467)やShH10Y(Dalkaraら、2011、Mol Ther、19、1602〜1608頁)、及びそれらの組合せからなる群から選択される。
【0075】
好適な実施形態では、ヌクレオチド配列は、配列番号40〜63、65〜83のいずれか1つの、より好ましくは配列番号40〜42のいずれか1つの、最も好ましくは配列番号40のアミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、好ましくは少なくとも100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、CRB2タンパク質をコードする。そのようなCRB2タンパク質は、好ましくは、37アミノ酸残基の細胞内ドメインを、又は代替的に細胞内ドメインに加算して63アミノ酸残基の膜貫通ドメインを有する。理論に縛られることを望むものではないが、これらのドメインは、具体的には、該細胞のアクチン細胞骨格に連結されているCrumbsホモログ(CRB)タンパク質複合体の膜局在及び形成に最も関連があるものとされ、この膜局在及び形成は、表現型と非毒性とをレスキューするために重要であるものと考えられている。より好ましくは、ヌクレオチド配列は、配列番号40〜63、65〜83のいずれか1つの、より好ましくは配列番号40〜42のいずれか1つの、最も好ましくは配列番号40のアミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、好ましくは少なくとも100%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる、CRB2タンパク質をコードする。よりいっそう好ましくは、ヌクレオチド配列は、配列番号40〜63、65〜83のいずれか1つの、より好ましくは配列番号40〜42のいずれか1つの、最も好ましくは配列番号40に示されるようなアミノ酸配列を含むか又はそれからなる、CRB2タンパク質をコードする。好適な実施形態では、CRB2タンパク質は、配列番号40〜63、65〜83、より好ましくは配列番号40〜42のいずれか1つの、よりいっそう好ましくは配列番号40に示されるような配列の、連続した37アミノ酸のカルボキシ(C)末端領域と少なくとも95%の同一性がある連続したアミノ酸配列を含む。好ましくは、本明細書に規定されているようなアミノ酸配列を含むか又はそれからなるCRB2タンパク質は、機能的な、又は言い換えれば、活性があるCRB2タンパク質である。本明細書に規定されているようなアミノ酸配列を含むか又はそれからなるタンパク質が、機能的なCRB2タンパク質であるか否かを試験するために、好ましくは、網膜電図記録法を実施する。
【0076】
簡単に述べれば、AAVベクター、好ましくは、AAV2/9又はAAV2/5は、カプシドがAAV9又はAAV5であり、且つITRがAAV2であり、CMVプロモーターに動作可能に連結された本明細書に規定されているようなアミノ酸配列を含むか又はそれからなるCRB2タンパク質の発現を可能にするために生成される。本明細書に示すような実施例に従って、構築物を作製することができる。AAVベクターを、Crb2 cKOマウス(Crb2
F/F-Chx10Cre)の網膜に、生後14日目に網膜下投与する。対側の眼は、試験されるCRB2タンパク質の代わりにGFPを含む対照のAAVベクターを受ける。陽性対照の動物は、配列番号40、41又は42によるCRB2タンパク質を発現する組換えAAVを受ける。3ヶ月齢又はそれ以降に、すなわちウイルスの適用から少なくとも2.5か月後に、Tanimotoらに記載されているように(Tanimoto N、Sothilingam V、Seeliger MW、Functional phenotyping of mouse models with ERG.、Methods Mol Biol.、2013;935:69〜78頁)、a波及びb波の網膜電図を作成する。簡単に述べれば、麻酔をかけたマウスの網膜を、各種の強度の閃光に曝露する[x軸上で光強度はlog(cd
*s/m
2)として表される]。網膜電図でのb波及び/又はa波の最大振幅(マイクロボルトで)が、AAV-GFP処理した対側の網膜と比べて、少なくとも1.1倍、1.2倍、1.3倍、1.4倍、1.5倍、1.6倍、1.7倍、1.8倍、1.9倍、又は2.0倍に増加している場合に、本明細書に規定されたようなアミノ酸配列を含むか又はそれからなるCRB2タンパク質は、CRB2活性を有する(又は機能的なCRB2タンパク質となる)ものと考えられる。より好ましくは、治療の有効性を大幅に増加させるため、AAVベクターを、生後14日目ではなく、生後3日目又は4日目に投与する。
【0077】
好適な実施形態では、本発明による遺伝子治療ベクターでは、CRB2、改変型CRB1又は改変型CRB3をコードするヌクレオチド配列は、CRB2、改変型CRB1タンパク質又は改変型CRB3タンパク質それぞれの治療効果を得るのに十分な発現をもたらすプロモーターを含む発現制御エレメントに動作可能に連結されて、該プロモーターは、好ましくは、CMVプロモーターであって好ましくは配列番号121によるもの、CMVプロモーター、欠失型CMV又は最小CMVプロモーター、欠失型ヒトRLBP1プロモーター、ヒト光受容体特異的ロドプシンキナーゼプロモーター及びヒト桿体光受容体特異的ロドプシンプロモーターからなる群から選択される。本発明で使用するために好適である、実例となるヒトミュラーグリア特異的レチンアルデヒド結合タンパク質1(RLBP1)プロモーター(Pellissier Lp、Hoek RM、Vos RM、Aartsen WM、Klimczak RR、Hoyng SA、Flannery JG、Wijnholds J(2014)、Specific tools for targeting and expression of Muller glia cells.、Mol Ther Methods & Clinical Dev、1:14009;公表されたVazquez-Chonaら、2009;Vogelら、2007に記載のマウスRLBP1プロモーターに部分的に類似している)の核酸配列は、配列番号122に示されている。
【0078】
本発明で使用するために好適である、実例となるヒトGRK1特異的プロモーター(Khaniら、2007;Boyeら、2012)の核酸配列は、配列番号123に示されている。
【0079】
本発明で使用するために好適である、実例となるヒトRHO特異的プロモーター(Pellissier Lp、Hoek RM、Vos RM、Aartsen WM、Klimczak RR、Hoyng SA、Flannery JG、Wijnholds J(2014)、Specific tools for targeting and expression of Muller glia cells.、Mol Ther Methods & Clinical Dev、1:14009)の核酸配列は、配列番号124に示されている。
【0080】
実例となる欠失型CMVプロモーター(Pellissier Lp、Hoek RM、Vos RM、Aartsen WM、Klimczak RR、Hoyng SA、Flannery JG、Wijnholds J(2014)、Specific tools for targeting and expression oF Muller glia cells.、Mol Ther Methods & Clinical Dev、1:14009)の核酸配列は、配列番号133に示されている。
【0081】
本発明の具体的に好適な遺伝子治療構築物は、以下、すなわちAAV-hGRK1-CRB2(桿体光受容体及び錐体光受容体に特異的である);AAV-hRHO-CRB2(桿体光受容体に特異的であるが錐体光受容体には特異的ではない);AAV-CMV-CRB2(桿体+錐体光受容体、ミュラーグリア細胞及び網膜色素上皮で発現を可能にする);AAV-CMV-CRB2-miRT(網膜色素上皮での転写を低減する);AAV-欠失型RLBP1-CRB2;AAV-欠失型CMV-CRB2である。AAV-hGRK1-CRB2(桿体光受容体及び錐体光受容体に特異的である)及びAAV-hRHO-CRB2(桿体光受容体に特異的であるが錐体光受容体には特異的ではない)及びAAV-CMV-CRB2が最も好適である。
【0082】
AAV転写物の発現を低下させるための実例となる、本発明と組み合わせて使用することができるマイクロRNA標的部位(miRT)の核酸配列であって、網膜色素上皮細胞内のmiRT配列(Karaliら、2011)を含有する核酸配列は、配列番号125〜127に示されている。これらの配列は、例えばAAV-CMV-CRB2-miRTベクター内の推定された機能的な標的部位であり、miRNA配列そのものではない。標的CRB2-miRT mRNA転写物を認識し、その翻訳に干渉するか又はそれを分解するmiRNAは、RPEで発現される。当業者は、本発明で、そのようなmiRTを使用することが可能である(例えばKaraliら(2011)、PLoS One、6(7):e22166、doi:10.1371/journal.pone.0022166.、電子公開2011年7月26日を参照されたい)。
【0083】
本発明の好適な実施形態では、組換えCRBタンパク質、好ましくは、CRB2は、桿体光受容細胞及び錐体光受容細胞で発現され、網膜色素上皮及びミュラーグリア細胞では発現されない。このことは、例えば、配列番号123によるヒト光受容体特異的ロドプシンキナーゼプロモーターを適用することによって、達成されうる。その結果、網膜は、変性から保護される。本発明の好適な遺伝子治療ベクターは、AAV2 ITR及びAAV5カプシドタンパク質を使用したhGRK1-hCRB2(In5)-spAである。
【0084】
本発明の一実施形態では、遺伝子治療ベクターは、改変型CRB1タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む。このヌクレオチド配列は、例えばヒトCRB1等のサイズのために、CMVプロモーターの制御下に配置することができないが、これは生存可能なAAVビリオンを生成するには大きすぎる構築物を生じるためである。それゆえ、AAVビリオンを生成するために、結果的に最大で約4.9kbのベクターを生じるプロモーター及びエンハンサーエレメントを使用しなければならない。そのような場合には、例えば欠失型CMVプロモーター又はヒト光受容体特異的ロドプシンキナーゼプロモーターを適用することができる。
【0085】
好適な実施形態では、本発明による遺伝子治療ベクターは、以下、すなわち、例えば任意の野生型又は変異型のAAV等の末端逆位反復と、例えばCMVプロモーター/エンハンサー等のプロモーター/エンハンサーと、例えばIn5等の野生型又は合成の転写スプライシング供与/受容部位と、例えばspA等の野生型又は合成の転写ポリアデニル化部位と、例えば網膜色素上皮等の網膜細胞型で転写活性を低減させるための1つ以上のマイクロRNA標的部位とのうち、1つ以上に動作可能に連結された、CRBタンパク質をコードするヌクレオチド配列を更に含む。好適な実施形態では、本発明による遺伝子治療ベクターは、任意の種の野生型又は変異型Crumbsホモログ(CRB)タンパク質をコードする、野生型、変異型又はコドン最適化されたDNA配列を含む。
【0086】
好適な実施形態では、CRB2、改変型CRB1又は改変型CRB3の安定的な転写プロセシングのために、例えば合成イントロン(In5)等、野生型又は合成の転写スプライシング供給/受容部位が、遺伝子治療ベクター内に挿入される。Crumbsホモログ(CRB)遺伝子のコード配列内にある実例となる合成イントロン(In5)の好適な核酸配列は、配列番号128に示されている。イントロンは、好ましくはCRB2、改変型CRB1又は改変型CRB3のcDNA内で、エクソンNNNAG/イントロン/GNNNエクソンの配列と共に2つの近接するエクソン間に挿入され、G、A、T、Cは、4種のヌクレオチドのうち1種を表し、Nは、4種のヌクレオチドのいずれかを表す。
【0087】
好適な実施形態では、本発明による遺伝子治療ベクターは、配列番号40のアミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、好ましくは少なくとも100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、CRB2タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、該ベクターでは、プロモーターは、配列番号121によるCMVプロモーターである。
【0088】
特に好適な実施形態では、本発明による遺伝子治療ベクターは、配列番号40のアミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、好ましくは少なくとも100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、CRB2タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、該ベクターでは、プロモーターは、配列番号123によるヒト光受容体特異的ロドプシンキナーゼプロモーターである。好適な実施形態では、改変型CRB1タンパク質又は改変型CRB3タンパク質のアミノ酸配列のC末端部分の変異は、i)CRB1又はCRB3のPDZ結合ドメインが、配列番号40のアミノ酸残基1282〜1285によって置換されていること、ii)CRB1又はCRB3のFERM結合ドメインが、配列番号40のアミノ酸残基1251〜1264によって置換されていること、iii)CRB1又はCRB3の膜貫通ドメインが、配列番号40のアミノ酸残基1225〜1247によって置換されていること、iv)CRB1又はCRB3のC末端の16アミノ酸残基が、配列番号40のアミノ酸残基1270〜1285によって、又は配列番号40のアミノ酸残基1270〜1285の保存的アミノ酸置換によって置換されていること、v)CRB1又はCRB3のFERM結合ドメイン、N末端の2アミノ酸残基及びC末端の5アミノ酸残基からなるCRB1又はCRB3のアミノ酸配列が、配列番号40のアミノ酸残基1249〜1269によって、又は配列番号40のアミノ酸残基1249〜1269の保存的アミノ酸置換によって置換されていること、vi)CRB1又はCRB3の膜貫通ドメイン、N末端の2アミノ酸残基及びC末端の1アミノ酸残基からなるCRB1又はCRB3のアミノ酸配列が、配列番号40のアミノ酸残基1223〜1248によって、又は配列番号40のアミノ酸残基1223〜1248の保存的アミノ酸置換によって置換されていること、vii)配列番号40の1243位、1254位、1257位、1258位、1259位、1261位及び/又は1274位に対応する位置にセリン、スレオニン又はチロシンのいずれかを含むCRB1又はCRB3のアミノ酸配列であって、好ましくは、1243位、1254位、1259位、1261位及び1274位のアミノ酸残基が、セリンであり、1257位及び1258位のアミノ酸残基が、それぞれスレオニン及びチロシンである、アミノ酸配列、並びにviii)又は1つ若しくは複数のi)〜vii)の組合せ、からなる群から選択される。
【0089】
好適な実施形態では、改変型CRB1タンパク質又は改変型CRB3タンパク質のC末端部分は、該タンパク質の最後の70残基、60残基、40残基、35残基、30残基、25残基、20残基、15残基、10残基、5残基である。好ましくは、配列番号1〜39、64(改変型CRB1)又は配列番号84〜120(改変型CRB3)に対応する該タンパク質の最後の70残基、60残基、40残基、35残基、30残基、25残基、20残基、15残基、10残基、5残基である。
【0090】
CRBタンパク質のC末端は、2つのタンパク質相互作用ドメイン、すなわち膜貫通ドメインに直に近接して位置しているFERMドメインと、C末端のPDZドメインとを含む。更に、潜在的なリン酸化部位がある。CRB1/CRB2/CRB3のFERMドメインは、例えばEPB41L5(=YMO1)やモエシン等、いくつかのタンパク質に結合することができる。CRB1/CRB2/CRB3のPDZドメインは、少なくとも2つのタンパク質、すなわちMPP5(=PALS1)及びPAR6ファミリーメンバー(例えばPAR6A、PAR6B、PAR6C、PAR6D等)に結合することができる。C末端のアミノ酸配列(最後の63アミノ酸残基)の小さな改変の結果、CRBタンパク質複合体の動力学に違いを生じることができる場合がある。更に、CRBの機能を阻害する結合タンパク質がある一方で、CRBの機能を増強する結合タンパク質もある。そのため、CRB1又はCRB3のC末端部分の、CRB2アミノ酸残基(又は同じ機能的なクラス由来のアミノ酸残基)への別々のアミノ酸配列変異/置換のそれぞれが、生来のCRB1及びCRB3にみられる毒性を低減する可能性がある。
【0091】
示された異なる種由来のCrumbsホモログ(CRB)ファミリーメンバー配列の間の類似性は、本技術分野の当業者によって容易に認識される。
【0092】
配列番号77のコンセンサス配列のアミノ酸位置を参照することにより説明されているときのCrumbsホモログ(CRB)コンセンサス領域:アミノ酸位置:265〜1515位、1555〜2068位及び2083〜2146位。CRB可変領域:アミノ酸位置:1〜264位、1516〜1554位及び2069〜2082位。Crumbsホモログ(CRB)のコンセンサス列の注目すべき他の領域は、
(1)コンセンサス配列のアミノ酸265位から301、304位から341位、346位から384位、386位から423位、425位から461位、462位から498位、499位から530位、543位から579位、580位から609位、607位から644位、646位から683位、685位から721位、723位から759位、761位から798位、800位から836位、838位から900位、902位から938位、940位から976位、978位から1019位、1205位から1241位、1479位から1515位、1756位から1792位、1794位から1830位、1832位から1868位、1871位から1912位、1912位から1948位、1950位から1987位、1989位から2027位、2028位から2068位にある上皮成長因子様ドメイン(光受容体やミュラーグリア細胞等の極細胞での活性に不可欠であることが知られており、例えばRichardら、2006;van de Pavertら、2007bを参照されたい)、
(2)コンセンサス配列のアミノ酸1021位から1203位、1248位から1478位及び1555位から1755位にあるラミニンG様ドメイン(細胞の接着、シグナリング、遊走、アセンブリ及び分化の活性に不可欠であることが知られている)、
(3)アミノ酸位置2083位から2109位にある膜貫通ドメイン、
(4)FERMタンパク質結合モチーフとC末端のPDZタンパク質結合モチーフとを含有する、アミノ酸2110位から2146位にある高度に保存された37アミノ酸のC末端領域(Richardら、2006)
を含んでいても含んでいなくともよい。
【0093】
第2の態様では、本発明は、a)Crumbsホモログ-2(CRB2)タンパク質をコードするヌクレオチド配列及び少なくとも1つのパルボウイルス末端逆位反復(ITR)配列であって、好ましくは、Crumbsホモログ-2(CRB2)タンパク質をコードするヌクレオチド配列が、CRB2タンパク質の治療効果を得るのに十分な発現を可能にするプロモーターを含む発現制御エレメントに動作可能に連結されている、CRB2タンパク質をコードするヌクレオチド配列及び少なくとも1つのITR配列、並びに/又はb)Crumbsホモログ-1(改変型CRB1)タンパク質又はCrumbsホモログ-3(改変型CRB3)タンパク質をコードするヌクレオチド配列及び少なくとも1つのITR配列であって、好ましくは、改変型CRB1タンパク質又は改変型CRB3タンパク質をコードするヌクレオチド配列が、改変型CRB1又は改変型CRB3タンパク質の治療効果を得るのに十分な発現を可能にするプロモーターを含む発現制御エレメントに動作可能に連結されており、該改変型CRB1タンパク質又は該改変型CRB3のタンパク質が、該タンパク質のC末端部分に変異を含む、改変型CRB1タンパク質又は改変型CRB3タンパク質をコードするヌクレオチド配列及び少なくとも1つのITR配列を含む、核酸構築物に、好ましくは単離された核酸構築物に関する。より好ましくは、この変異によって、CRB2タンパク質のC末端部分との改変型CRB1タンパク質又は改変型CRB3タンパク質の実質的な同一性が提供される。好ましくは、改変型CRB1タンパク質又は改変型CRB3タンパク質をコードする配列を含む核酸構築物には、in vitroアッセイ及び/又はin vivoアッセイで毒性がない。好ましくは、in vitroアッセイは、上記に記載したような改変型CRB1タンパク質又は改変型CRB3タンパク質をコードするヌクレオチド配列を用いて、ヒト由来網膜色素上皮細胞をトランスフェクションする工程を含む。好ましくは、in vivoアッセイは、上記に記載したような改変型CRB1タンパク質又は改変型CRB3タンパク質をコードするヌクレオチド配列を用いて、マウスの網膜を形質導入する工程を含む。
【0094】
好適な実施形態では、核酸構築物は、CRB2タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む。
【0095】
好適な実施形態では、改変型CRB1タンパク質又は改変型CRB3タンパク質のアミノ酸配列のC末端部分の変異によって、CRB2タンパク質のC末端部分との改変型CRB1タンパク質又は改変型CRB3タンパク質の実質的な同一性が、好ましくは、CRB2タンパク質のC末端部分との、より好ましくは、配列番号40の以下の範囲のアミノ酸残基との、85、90、93、95、97、98、99又は100%の同一性が、提供される。好適な実施形態では、改変型CRB1タンパク質又は改変型CRB3タンパク質のアミノ酸配列のC末端部分の変異は、i)CRB1又はCRB3のPDZ結合ドメインが、配列番号40のアミノ酸残基1282〜1285によって置換されていること、ii)CRB1又はCRB3のFERM結合ドメインが、配列番号40のアミノ酸残基1251〜1264によって置換されていること、iii)CRB1又はCRB3の膜貫通ドメインが、配列番号40のアミノ酸残基1225〜1247によって置換されていること、iv)CRB1又はCRB3のC末端の16アミノ酸残基が、配列番号40のアミノ酸残基1270〜1285によって、又は配列番号40のアミノ酸残基1270〜1285の保存的アミノ酸置換によって置換されていること、v)CRB1又はCRB3のFERM結合ドメイン、N末端の2アミノ酸残基及びC末端の5アミノ酸残基からなるCRB1又はCRB3のアミノ酸配列が、配列番号40のアミノ酸残基1249〜1269によって、又は配列番号40のアミノ酸残基1249〜1269の保存的アミノ酸置換によって置換されていること、vi)CRB1又はCRB3の膜貫通ドメイン、N末端の2アミノ酸残基及びC末端の1アミノ酸残基からなるCRB1又はCRB3のアミノ酸配列が、配列番号40のアミノ酸残基1223〜1248によって、又は配列番号40のアミノ酸残基1223〜1248の保存的アミノ酸置換によって置換されていること、vii)配列番号40の1243位、1254位、1257位、1258位、1259位、1261位及び/又は1274位に対応する位置にセリン、スレオニン又はチロシンのいずれかを含むCRB1又はCRB3のアミノ酸配列であって、好ましくは、1243位、1254位、1259位、1261位及び1274位のアミノ酸残基が、セリンであり、1257位及び1258位のアミノ酸残基が、それぞれスレオニン及びチロシンである、アミノ酸配列、並びにviii)又は1つ若しくは複数のi)〜vii)の組合せ、からなる群から選択される。
【0096】
第3の態様では、本発明は、本発明による核酸構築物を含むビリオンに関し、好ましくは、ビリオンはAAVビリオンである。
【0097】
第4の態様では、本発明は、本発明による核酸構築物を含む宿主細胞に関する。好ましくは、宿主細胞は、本明細書で上記に記載されているような哺乳類宿主細胞又は昆虫宿主細胞である。宿主細胞が哺乳類宿主細胞である場合、好ましくはヒト宿主細胞である。
【0098】
第5の態様では、本発明は、本発明による遺伝子治療ベクター、本発明による核酸構築物、又は本発明によるビリオンと、薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物に関する。薬学的に許容される賦形剤は、本技術分野の当業者に周知である。薬学的に許容される賦形剤の例は、緩衝剤、担体、ビヒクル又は希釈剤である。好ましくは、該医薬組成物は、以下、すなわち脂質、リポソーム、脂質複合体、エトソーム、ニオソーム、ナノ粒子、マイクロ粒子、リポスフェア、ナノカプセル、又はそれらの任意の組合せのうち1つ以上を更に含む。好適な実施形態では、該医薬組成物は、ヒトの眼に投与するために製剤化される。典型的には、該組成物は、網膜又は周囲組織内への直接的な注射によって投与される。より具体的には、該組成物は、網膜下又は硝子体内注射に適していることが求められ、それゆえNaCl又は糖類を使用した、滅菌された等張の流体であることが求められる。この点について、本発明者らは、国際特許出願公開WO2012/114090A1及びWO2011/133933A2を参照する。
【0099】
第6の態様では、本発明は、(a)本発明に従う遺伝子治療ベクター、本発明による核酸構築物、本発明によるビリオン、又は本発明による医薬組成物と、(b)CRB1遺伝子の変異に起因する網膜障害の1つ以上の症状の予防、治療又は改善の際に、(a)による遺伝子治療ベクター又は医薬組成物を使用するための取扱説明書とを含むキットに関する。
【0100】
本書面で及びその特許請求の範囲で、「含む」という動詞及びその活用は、非制限的な趣旨に使用されて、当該語に続く事項が含められているが、具体的にふれられていない事項は除外されないということを意味する。更に、1つの要素又は要素の1つのみが在ることを文脈から明確に必要とされない限り、不定冠詞「1つ(a)」又は「1つ(an)」によって要素を指すことで、1つを超える要素が存在するという可能性は除外されない。不定冠詞「1つ(a)」又は「1つ(an)」は、それゆえ通常は「少なくとも1つ」を意味する。
【0101】
本明細書に引用された全ての特許及び参照文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0102】
以下の実施例は、説明の目的のみに供されており、いずれにせよ本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0103】
【表1A】
【表1B】
【表1C】
【表1D】
【表1E】
【表1F】
【実施例】
【0105】
マウスモデルの記載:
Crb1
-/+Crb2
F/FChx10Cre/+マウス及びCrb1
-/-Crb2
F/FChx10Cre/+マウス
Crb1
-/+Crb2
F/FChx10Cre/+マウス(Crb1についてヘテロ接合性であり、loxP挿入されたCrb2についてホモ接合性である)の網膜は、Crb2
F/FChx10Cre/+の網膜に観察されるものと、ある程度まで類似しているがより重篤な表現型を示す。網膜電図記録法は、速やかに進行する大幅な網膜活性の喪失を1ヶ月齢に示す。その表現型は、E15.5(この時点でCrb2
F/FChx10Cre/+の網膜でのE17.5に類似している)で既に、外境界膜の崩壊を伴って開始し、網膜細胞のロゼットを検出することができる。これらのマウスの網膜のCrb2
F/FChx10Cre/+の網膜との主要な違いは、いくつかの網膜細胞型が異常な局在をする点である。例えば、いくらかのアマクリン細胞が、光受容体層に異所的に局在し、いくらかの桿体光受容体及び錐体光受容体が、ガングリオン細胞層に異所的に局在する。それでもなお、これらの網膜には、依然として3つの顆粒層(外部及び内部、並びにガングリオン)と、2つの網状層(外部及び内部)があり、このことは、網膜の積層が肉眼で見て正常であることを示唆している。
【0106】
Crb1
-/-Crb2
F/FChx10Cre/+マウス(Crb1についてホモ接合性であり、loxP挿入されたCrb2についてホモ接合性であり、Crb1Crb2 cKOとも示される)の網膜は、最も重篤な表現型を示す(
図6)。網膜電図記録法は、1ヶ月齢に視覚の重度の喪失を示した(依然としていくらか網膜活性があるものの;
図7)。これらの網膜は、分離した光受容体層を示さず(外側及び内側のセグメント、顆粒層又は外網状層がない)、外網状層はないが、広い顆粒単層、内網状層及びガングリオン細胞層がある。顆粒層は、桿体光受容体、錐体光受容体、双極細胞、水平細胞、アマクリン細胞及びミュラーグリア細胞の顆粒を含有するが、驚くべきことに、ガングリオン細胞の顆粒をも含有する。内網状層は、細胞顆粒を時々しか含有しない。常態ではガングリオンの顆粒を含有し、アマクリン細胞を排除するガングリオン細胞層は、加えて桿体光受容体、双極細胞、水平細胞及びミュラーグリア細胞の顆粒を含有する。そのように、積層になった網膜があるのに対して、いくつかの早期の、並びに後期に生じた細胞が、異所的に局在する。更に、E15.5、E17.5、P1及びP5で、網膜前駆細胞の分裂に大幅な増加がある。付随して、桿体光受容体、双極細胞、ミュラーグリア細胞や後期に生じるアマクリン細胞等、後期に生じる細胞型に増加があるが、ガングリオン細胞、錐体光受容体、水平細胞や早期に生じるアマクリン細胞等、早期に生じる細胞型にはない。アポトーシスの増加は、E13.5、E17.5、P1、P5、P14及び3ヶ月齢に検出された。これらのデータは、CRBタンパク質(CRB2及びCRB1)が、網膜前駆細胞、桿体光受容体、錐体光受容体、双極細胞及びミュラーグリア細胞の間の接着接合部を維持することに加えて、後期に生じた網膜前駆細胞の増殖を抑制する、又は細胞周期から適時に外れる際に、役割を果たすことを示唆している。
【0107】
Crb1
-/-Crb2
F/+Chx10Cre/+マウス
Crb1
-/-Crb2
F/+Chx10Cre/+マウスでは、形態学的な表現型は、P10に開始し(
図4)、3ヶ月齢に、大幅に減少したERGが検出され(データ示さず)、6ヶ月齢には、これは非常に明らかである(一方、Crb1
-/-の網膜には、減少は何ら検出されない)。これらの網膜では、網膜の背部(上部)は網膜変性を示さないのに対して、腹部(下側頭部及び鼻部)は示す。このことは、部分的に、網膜の四分円の1つのみ(下側頭部)が(限られた)網膜変性を示すCRB1
-/-の網膜と、網膜の四分円の1つのみ(下鼻部)が(限られた)網膜変性を示すCrb1
rd8/rb8の網膜とを想起させる。これらのマウスは、本発明者らのAAV CRB遺伝子治療ベクターを、網膜電図記録法(ERG)によって機能的に試験するために有用であるが、これは対照の二重ヘテロ接合のCrb1
+/-Crb2
F/+Chx10Cre/+の網膜が、形態学的な又はERG上での表現型を示さないためである。残念ながら、3ヶ月齢及び6ヶ月齢で、対照と変異マウス(50%のC57BL/6J及び50%の129/Olaを交雑させた遺伝的背景)との信頼区間は、互いに非常に近く、このことは、該モデルについて(部分的)レスキュー研究を解釈することを困難にしている。99.9%のC57BL/6Jの背景にあるCrb1
-/-Crb2
F/+Chx10Cre/+マウスが作製中にあり、更に低いマウス間多様性が提供されよう。以降に記載するように、本発明者らは、Crb2
F/FChx10Cre/+の網膜が、網膜色素変性症患者でのCRB1の喪失を模しており、その網膜電図は解釈が容易であることから、レスキュー研究には最良であるものと考えている。
【0108】
(実施例1)
免疫的に無処理のCRB1ノックアウトの網膜で短いヒトCRB1を発現することには、毒性がある
ヒトCRB1遺伝子の選択的転写物があることに留意することが重要である。エクソン3及び4を欠いているもののオープンリーディングフレームを維持しているある転写物は、全長CRB1よりも短い形態をコードするが、ヒト(配列番号3)及び例えば類人猿、サル、イヌ、ウマ、ネコ及び他の多くの種に存在するものの、マウスには存在しない。とりわけ、CRB2の配列(配列番号40)は、この天然に発生した短いCRB1のバリアント(sCRB1又はsCRB1ΔE3/4)の配列に非常に類似している。最初の試みで、本発明者らは、CMVプロモーター、短いCRB1、該短いCRB1 cDNA配列内の合成イントロン(In5)、及び合成spAを備えたAAVベクターを生成した。AAV血清型9(AAV9)にパッケージングされたこのベクターを網膜下注射したところ、本発明者らは、ミュラーグリア細胞及び光受容体の「外境界膜」で、短いCRB1の著しい発現を検出した。同様に、AAV血清型5(AAV5)にパッケージングされたベクターを用いて結果を得た。本発明者らは、1μlのAAV2/9-CMV-hCRB1ΔE3/4In5-spA(1.00×10
10個の送達されたベクターゲノム)に加えて、10倍少ない用量のAAV2/9-CMV-GFP-WPRE-pA(1.00×10
9個の送達されたベクターゲノム)を、CRB1を欠いており且つCRB2のレベルが低減している網膜(Crb1
-/-Crb2
flox/+Chx10Creの網膜)のうち左眼内に網膜下注射した。対側の対照の眼は、1μlのAAV2/9-CMV-GFP-WPRE-pA(1.00×10
10個の送達されたベクターゲノム)を受けた。Crb1
-/-Crb2
flox/+Chx10Creの網膜は、1ヶ月齢から3ヶ月齢まで、更に6ヶ月齢までに、進行性の網膜機能の喪失を示した(データ示さず)。処理眼は、網膜の広範な領域にミュラーグリア細胞及び光受容体の「外境界膜」で、及び網膜色素上皮で、短いCRB1の発現を示した。しかし、独立して生成された2つのウイルス粒子バッチを使用して、本発明者らは、ミュラーグリア細胞又は光受容体又は網膜色素上皮での短いCRB1のバリアントの発現に起因する、光受容体層並びに網膜色素上皮層の喪失を、組織化学と免疫組織化学との両方によって検出した。これらの毒性作用の原因は、更に分析する予定であり、例えば、CRB1無処理のCrb1ノックアウト網膜での免疫応答、異所発現作用、マウス及びヒトのCRB1タンパク質の不適合性、短いCRB1と全長のCRB1との違い、他のCRB1転写物又はタンパク質の発現への短いCRB1の干渉、用量依存的な毒性、タイミングが不適切な短いCRB1の発現でありうるが、高いレベルで恒常的に短い(又は全長)CRB1の発現を培養細胞株に生じることができないことに関連する可能性がある。野生型C57BL/6Jの網膜で短いCRB1を発現させるという予備的な研究では、同様に毒性を示したが、このことは、免疫的に無処理のCrb1ノックアウト網膜で、毒性が短いヒトCRB1の発現のみに起因しないことを示唆している。このことは、治療ベクターでCRB2の発現を試験するよう本発明者らを駆り立てたが、これはCRB2の発現が、細胞株内で良好な忍容性を示すためである。ミュラーグリア細胞又は光受容細胞又は網膜色素上皮でCRB2を発現させた結果、毒性作用は生じなかった。より具体的には、ミュラーグリア細胞又は光受容細胞又は網膜色素上皮でCRB2を発現させた結果、光受容体層及び/又は網膜色素上皮層の喪失は検出されなかった。このミュラーグリア細胞及び光受容細胞及び網膜色素上皮でCRB2発現の毒性作用を欠いていたことは、将来的な臨床適用の開発にとって有意義である。本発明者らは、非常に高いレベルのAAV-CRB2ベクター(10
10個の送達されたベクターゲノム)を使用したが、毒性作用が検出されなかったことに留意されたい。
【0109】
(実施例2)
AAV媒介性の遺伝子治療は、Crumbsホモログ(CRB)機能の喪失に起因した網膜色素変性症(RP)のマウスモデルで視覚機能及び行動を回復させる
この実施例では、本発明者らは、出生後のCrb2 cKOマウスのミュラーグリア細胞及び光受容体へCrumbsホモログ(CRB)の種特異的バージョン(すなわちヒト)を送達することによって、これらの細胞の機能を回復させることができるか否かを評価した。血清型6(バリアントShH10Y)のAAVベクターを使用して、生後23日目(P23)のCrb2 cKOマウスのミュラーグリア細胞及び光受容体に、ヒトCRB2を網膜下で送達した。網膜電図(ERG)試験及び行動試験を使用して、視覚機能を査定し、免疫組織化学を使用して、処理眼及び非処理眼での治療用導入遺伝子の発現、Crumbsホモログ(CRB)複合体タンパク質の局在及び網膜構造の保持を調べた。
【0110】
この実施例では、P23のCrb2 cKOマウスの左眼に網膜下で送達されたAAVベクターが、野生型CRB2の発現、視覚機能及び行動の回復、並びに桿体光受容体及び錐体光受容体の保持を促進したことが実証されている。注射後10週間で、処理眼及び非処理の眼での網膜機能(ERG)を分析した。いくつかの実験では、ERGを、注射後4週間から10週間まで(評価した最新の時点)、2週間毎に実施した。注射後10週間で、全ての動物を屠殺し、それらの処理網膜及び非処理網膜を、CRB2の発現及びCrumbsホモログ(CRB)複合体タンパク質の局在について評価した。
【0111】
結果は、Crb2 cKOマウスの処理眼に、桿体媒介性及び錐体媒介性の機能が回復したことを裏付けている(ERGのa波及びb波の振幅が、非処理眼の約2倍良好であった)。また、処理効果は、投与後少なくとも10週間は安定であった。組織学によって、処置されたマウスにおいて、ミュラーグリア細胞及び光受容体でAAV媒介性のCRB2発現があったこと、及びCrumbsホモログ(CRB)複合体タンパク質の局在が回復したことが明らかになった。更に、錐体細胞の密度が、処理眼では、対側の非処理対照よりも高くなっていた。この結果は、処理によって、処理後少なくとも10週間は、桿体光受容体及び錐体光受容体を保持することが可能であることを示唆している。このことは、出生後の遺伝子治療が、Crumbsホモログ遺伝子の変異に起因するRPの哺乳類モデルで、視覚機能及び行動を回復させ、網膜構造を保持することが可能であることを、初めて実証したものである。重要なことに、よく特徴付けられ且つ臨床的に意義のあるAAVベクターを使用して、結果を得た。すなわち、それゆえ得られたin vivoの動物モデルのデータは、CRB1遺伝子の変異に起因するLCA8及び/又はRPに罹患している小児を治療するための、AAVに基づく遺伝子治療ベクターの基盤を提供する。
【0112】
2.1.材料及び方法
実験動物
本発明者らの設備で、Crb2(flox/flox)マウスを生成した。Chx10Creヘテロ接合の胚を、ジャクソン研究所(バーハーバー、メイン州、USA)の生物資源庫から入手した。本発明者らの設備で、ヘテロ接合体を交配し、Crb2(flox/flox)Chx10Creホモ接合体マウス及び同質遺伝子系統のCrb2(flox/+)Chx10Cre対照の子孫(どちらもChx10Creについてヘテロ接合性である)を生産した。本発明者らの研究所の中央設備で、全てのマウスを、12時間/12時間の明期/暗期のサイクルで繁殖及び維持した。食餌及び水を自由に得られるものとした。全ての動物研究は、当地の施設の動物の飼養及び使用委員会によって承認され、眼部及び視覚研究における動物の使用に関するARVO声明並びにKNAW(オランダ王立芸術科学アカデミー)規則に従って遂行した。
【0113】
AAVベクターの構築
ヒトCRB2(hCRB2)を送達するために、血清型6バリアントのShH10Yカプシドタンパク質及びAAV2 ITR及びRepタンパク質を備えたAAVベクター(AAV2/ShH10Y)を使用したが、その理由は、それらが、堅牢な形質導入効率を示すこと、及び網膜のミュラーグリア細胞並びに光受容体で、他のAAV血清型よりも速やかな発現の発生を示すことが示されていたためである。血清型6バリアントShH10Y AAVカプシドは、John Flannery博士(カリフォルニア大学、バークレー、カリフォルニア州、USA)から供与された。AAV血清型5は、Plasmid Factoryから入手した。AAV血清型9は、Joost Verhaagen博士(オランダ神経科学研究所)から入手した。hCRB2の発現を駆動するために、遍在性のサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターを選択した。本研究で使用された、実例となる遍在性のCMVプロモーターの核酸配列を、配列番号121に示す。CMVプロモーターには、BglII制限部位(AGATCT)が5'配列に隣接されている。CRB2の安定な転写プロセシングのために、CRB2 cDNAに挿入された合成イントロン(In5)を使用した。Crumbsホモログ(CRB)遺伝子のコード配列中の、実例となる合成イントロン(In5)の核酸配列を、配列番号128に示す。該イントロンを、CRB2 cDNA内で、2つの近接したエクソンの間に、エクソンNNNAG/イントロン/GNNNエクソンの配列と共に挿入したが、上式で、G、A、T、Cは、4種のヌクレオチドのうち1種を表し、Nは、4種のヌクレオチドのいずれかを表す。転写を効率よく終結させるために、合成ポリアデニル化(spA)配列を使用した。Crumbsホモログ(CRB)遺伝子の翻訳領域の後の終止コドンと、3'側に隣接する末端逆位反復との間の、使用された実例となる合成ポリアデニル化領域(Levittら、1989)の核酸配列を、配列番号129に示す。合成ポリアデニル化部位には、BglII制限部位(AGATCT)が3'配列に隣接している。CMVプロモーターと、Crumbsホモログ(CRB)遺伝子の翻訳領域との間に位置する、使用された実例となる5'非翻訳領域の核酸配列を、配列番号130に示す。
【0114】
BglII制限部位を5'端及び3'端に含有し、配列番号40に特定された配列を有するCMV-hCRB2In5-spA断片は、GenScript社(ピスカタウェイ、ニュージャージー州、USA)が合成した。BglII CMV-hCRB2In5-spA断片を、BglII制限部位が隣接したAAV2の2つの末端逆位反復(ITR)(配列番号131及び配列番号132)を含有するpUC57(Thermo Fisher Scientific社、ウォルサム、マサチューセッツ州、USA)内へクローニングした。結果として得られた4.9kbのAAV-hCRB2プラスミドは、配列番号40に特定された配列を含有しており、配列を確認した。
【0115】
AAVベクターをパッケージングして、以前に公開された方法(Zolotukhinら、1999、Hermensら、1999、Ehlertら、2010)に従い、イオジキサノール勾配超遠心分離によって精製した。ウイルス粒子を希釈して、洗浄し、ダルベッコ平衡塩溶液(Life Technologies社、ブレイスウェイク、オランダ)中でAmicon 100kDa MWCO Ultra-15デバイス(Millipore社、ビレリカ、マサチューセッツ州、USA)を使用して濃縮し、定量的リアルタイムPCRによって(Aartsenら、2010)力価を測定した。結果として得られた力価は、AAV2/ShH10Y-CMV-hCRB2若しくはAAV2/9-CMV-hCRB2(AAV2 ITR及びRepタンパク質;AAV9カプシドタンパク質)又はAAV2/5-CMV-hCRB2(AAV2 ITR及びRepタンパク質;AAV5カプシドタンパク質)について1.00×10
13個のウイルスゲノム/ml(vg/ml)であった。
【0116】
網膜下の注射
典型的な実験では、1μlのAAV2/ShH10Y-CMV-hCRB2(1.00×10
10個の送達されたベクターゲノム)に加えて、10倍少ない用量のAAV2/ShH10Y-CMV-GFP-WPRE-pA(1.00×10
9個の送達されたベクターゲノム)を、生後23日目(P23)に、各Crb2(flox/flox)Chx10Creマウスの左眼に網膜下で送達した。1μlのAAV2/ShH10Y-CMV-GFP-WPRE-pA(1.00×10
10個の送達されたベクターゲノム)を用いて、対側の対照の右眼に注射した。網膜下の注射は、以前に記載されているように実施した(Aartsenら、2010)。さらなる分析を、首尾よく同等の注射を受けた動物(>60%に網膜の剥離及び最小の合併症がある)のみではなく、全ての動物に行った。網膜剥離域はウイルスの形質導入域に対応することが、よく確立されている(Cideciyanら、2008;Timmersら、2001)。
【0117】
網膜電図解析
代表的な実験では、以前に記載された方法(Haireら、2006)に小さな修正を加えたものに従って、PCに基づく制御及び記録ユニット(Toennies Multiliner Vision、Jaeger/Toennies、ホッシュベルグ、ドイツ)を使用し、処理したCrb2 cKO(n=3)及び同質遺伝子系統の対照(n=2)の網膜電図(ERG)を記録した。最初のERG測定を、注射後4週間に記録し、続いて以降2週間毎に、注射後10週間(本研究で評価した最新の時点)まで記録した。処理した動物に並行して、月齢の合った同質遺伝子系統の対照を時点毎に記録した。マウスをそれぞれ終夜(12時間超)暗所に馴化させ、100mg/kgのケタミン、20mg/kgのキシラジン及び生理食塩水の1:1:5の比率の混合液を用いて麻酔した。1%トロピカミド及び2.5%フェニルエフリン塩酸塩を用いて、瞳孔を広げた。加熱循環水浴を使用して、体温を38℃に維持した。角膜の乾燥を防ぐため、ヒドロキシプロピルメチルセルロース2.5%をそれぞれの眼に点眼した。オーダーメードの金製のワイヤーループの角膜電極を使用して、全視野ERGを記録した。参照電極及び接地電極を、眼と眼の間及び尾内に、それぞれ皮下で設置した。7通りに強度を増加させた白色閃光の系列(0.1mcds/m
2から1.5cds/m
2)を用いて、暗順応の桿体の記録を誘発させた。低強度の刺激に用いる刺激間の間隔を、1.1秒とした。高強度の3点(100mcds/m
2、1cds/m
2及び5cds/m
2)では、刺激間の間隔を、それぞれ2.5秒、5.0秒及び20.0秒とした。10回の応答を記録し、各強度で平均化した。次いで、マウスを100cds/m
2の白色バックグラウンドに2分間、光馴化させた。5通りに光強度を増加させた系列(100mcds/m
2から12cds/m
2)を用いて、明順応の錐体の応答を誘発させた。50回の応答を記録し、各強度で平均化した。100cds/m
2のバックグラウンドの存在下で、全ての刺激を起こさせた。b波の振幅を、各波形のa波のトラフから正のピークまでの差として規定した。
【0118】
或いは、強度を増加させた光パルスの系列(2.7cds/m
2から25cds/m
2、対数的に10レベルにわたって拡大させた)を用いて、ERGの記録を誘発させた。パルス長は、0.5から5msecの範囲とした。パルス間には、およそ2秒(.5Hz)の遅延があった。30回の応答を記録し、各強度で平均化した。ある強度レベルから次に移るために、余分の遅延を取り入れなかった。パルス間に、バックグラウンドの照光は存在しなかった。a波のトラフを、刺激発生後の0から30ミリ秒の間の最小の応答として規定した。b波のピークを、刺激発生後の15から100ミリ秒の間の最大の応答として規定した。a波の振幅を、ベースラインとa波のトラフとの差として規定したのに対し、b波の振幅を、b波のピークとa波のトラフとの差として規定した。
【0119】
CMV-hCRB2で処理した(n=3)全てのCrb2 cKOマウス(処理眼と非処理眼の両方)及び同質遺伝子系統の対照のマウスの、明順応のb波の最大振幅(12cds/m2で生成した)を平均化し、標準誤差を生成するために使用した。時点毎に(注射後4週から10週)これらの計算を行った。最終的なグラフ図とするため、これらのデータを、Sigma Plot内に取込んだ。各群内で経時で(注射後4週対注射後10週)、2標本t検定を使用して、処理眼と非処理眼との間でP値を算出した。有意差は、P-値<0.05として定義した。
【0120】
組織の調製
注射の10週間後に、処理されたP23のCrb2 cKOマウスと、月齢が合った同質遺伝子系統の対照とを、暗所に2時間馴化させた。暗所馴化後直ちに、暗赤色光下(>650nm)でマウスを屠殺した。注射眼及び非注射眼の角膜縁に、熱した針を用いて12:00の位置に印を付け、方向付けに役立てた。暗赤色光下で眼球摘出を実施し、直ちに眼を4%パラホルムアルデヒド中に置いた。以前に記載されている方法(Haireら、2006)に従って、凍結薄切に使用する眼を調製した。簡単に述べれば、それぞれの眼から角膜を取り出し、残りの眼杯の内部にレンズを置いたままとした。方向付けを維持するために、焼けた角膜縁に近接する強膜内に、小さな「V」形の切り込みを入れた。終夜固定した後、レンズ及び硝子体を取り出した。残りの網膜RPEを含有する眼杯を、PBS中30%ショ糖に、4℃で少なくとも1時間置いた。次いで、眼杯を、クリオスタット化合物(Tissue Tek OCT 4583;Sakura Finetek, Inc社、トーランス、カリフォルニア州、USA)中に置き、ドライアイス/エタノール浴中で急速凍結した。クリオスタット(Microtome HM550;ウォルドルフ、ドイツ)を用いて、眼を、10μmで順次に切片にした。ホールマウント解析に使用する眼を、以前に記載されている方法(van de Pavertら、2007)に従って調製した。以前に述べたように方向付けを済ませた。終夜固定した後、網膜を乱さないように、角膜、レンズ、硝子体及び網膜色素上皮を、それぞれの眼から取り出した。方向付けを維持するために、切り込みを、元の角膜縁穴に近接した網膜の上部(背部)部分に入れた。
【0121】
免疫組織化学及び顕微鏡観察
網膜の凍結切片及びホールマウントを1×PBS中で3回洗浄した。これらの洗浄後、試料を0.5%TritonX-100(登録商標)中で、暗所、室温で1時間、インキュベートした。次に、試料を1%ウシ血清アルブミン(BSA)PBS溶液中、室温で1時間、ブロッキングした。0.3%Triton-X100(登録商標)/1%BSA中に希釈したウサギポリクローナルCRB2抗体EP13又はSK11(それぞれ1:1000及び1:200;Penny Rashbass博士、シェフィールド大学、イギリスより供与)を用いて、網膜切片を37℃で終夜、インキュベートした。一次インキュベーションに続いて、網膜切片及びホールマウントを1×PBS中で3回洗浄した。
【0122】
1×PBS中に1:500希釈したシアニン染料Cy5タグ化IgG二次抗体(Molecular Probes社、ユージーン、オレゴン州、USA)を用いて、網膜切片を室温で1時間インキュベートした。二次抗体を用いたインキュベーションに続いて、切片及びホールマウントを1×PBS中で洗浄した。4',6'-ジアミノ-2-フェニルインドール(DAPI)を用いて、網膜切片を室温で5分間、対比染色した。1×PBS及び水を用いた最後の洗浄の後、切片を水性ベースの封入剤(DAKO)に乗せてカバーガラスを掛けた。網膜のホールマウントは、スライド上に、12:00の位置に網膜の上側(背側)部分を配して向けて置いた。試料をDAKOに載せてカバーガラスを掛けた。
【0123】
網膜切片は、共焦点顕微鏡[LCSバージョン2.61、Build 1537ソフトウェアを取り付けたLeica TCS SP5 AOBSスペクトル共焦点顕微鏡(バンノックバーン、イリノイ州、USA)]を用いて分析した。全ての画像を、20×と63×のどちらかの倍率で同一の露出設定で撮影した。DAPI及びCRB2染色を使用するための励起波長を、それぞれ405nm及び650nmとした。発光スペクトルを、それぞれ440〜470nm及び670nmとした。網膜のホールマウントは、QImaging Retiga 4000Rカメラ及びQImaging QCapture Proソフトウェア(QImaging, Inc社、サレー、ブリティッシュコロンビア州、カナダ)を取り付けた広視野蛍光顕微鏡(Axioplan2)(Zeiss社、ソーンウッド、ニューヨーク州、USA)を用いて分析した。各ホールマウントの四分円を、同一の露出設定下で5×で画像化し、次いでPhotoshop(登録商標)(バージョン7.0)(Adobe社、サンノゼ、カリフォルニア州、USA)にて合一した。
【0124】
2.2.結果
AAV処理されたCrb2 cKOマウスで光受容体機能(ERG)が回復した。
Crb2 cKOマウスでの桿体及び錐体の応答は、1ヶ月齢で大幅に減少し、3ヶ月齢で次第に減少することが、以前に報告されている(Alvesら、2013)。ここに、本発明者らは、遍在性の(CMV)プロモーターの制御下でヒトCRB2遺伝子(配列番号40)を保有するAAVベクターを用いて、このマウスをP23に処理することで、網膜電図記録法(ERG)によって測定されるような桿体光受容体機能の実質的な回復につながることを示している。CMV-hCRB2処理眼又は対照のCMV-GFP処理眼からの代表的な桿体の痕跡によって、注射後10週に、CMV-hCRB2処理眼の桿体の機能が、正常のおよそ40%に回復したことが示された。以前の報告と同様に、対側の非処理眼の桿体の応答は、この時点までに正常の約20%であった。重要なことに、桿体光受容体のa波及びb波の機能の回復は、3か月で安定なままであった(本研究で評価された最新の時点)(
図10を参照)。桿体の網膜機能(ERG)は、Crb2 cKOマウスで部分的に保持された。研究によって、非常に小さなERGの振幅すら、堅牢な視覚行動に転換されることが示されている(Williamsら、2006)。実際に、AAV-RPE65治療を受けたLCA2患者は、ERG応答が全く無いにも関わらず、行動面の回復を示すことが見出された(Maguireら、2008)。それゆえ、AAV-hCRB2ベクターによって、Crb2 cKOの網膜での網膜機能の喪失をレスキューすることは、将来的な遺伝子治療研究のために非常に有望である。これは、候補となる臨床上の遺伝子治療ベクターを使用して、Crumbsホモログ(CRB)機能を欠いている哺乳類で網膜機能の喪失をレスキューした最初の例である。
【0125】
首尾よく同等の注射を受けた個体(>60%の網膜の剥離及び最小の合併症がある)のみではなく、全ての動物に、解析を実施した。網膜剥離域はウイルスの形質導入域に対応することが、よく確立されている(Cideciyanら、2008;TimMersら、2001)。網膜下注射が成功しなかったマウスは、暗順応のb波又はa波のERGの機能をレスキューできないと共に、hCRB2及びGFPの発現を欠いているか又は限定的であることを示した(
図10を参照)。非処理のCrb2 cKOの桿体の応答におけるマウス(3ヶ月齢までの60〜80%の野生型)間にばらつきがあるため、処理眼対非処理眼で桿体の平均的な応答を統計的に比較することは、問題を孕む。しかし、1つの動物内では、桿体のERGの振幅は、パートナー同士の眼の間でほぼ等しく、それゆえ本発明者らは、処理眼対非処理眼について、マウス間での桿体のa波及びb波の振幅の比率の平均を算出し、次いで、これらの比率を経時でプロットした。
【0126】
遍在性のCMVプロモーターは、Crb2 cKOマウスのミュラーグリア細胞及び光受容体で、hCRB2導入遺伝子の発現を駆動する。
CRB1遺伝子の変異に起因するLCA8及びRPの患者で、CRB1の欠損は、ミュラーグリア細胞と光受容体との両方に影響を及ぼす。それゆえ、両細胞型を標的とする手段として、遍在性のCMVプロモーターを本研究のために選んだ。網膜下注射すると、in vivoでのマウスのミュラーグリア細胞及び光受容体に効率良く感染する(並びに、例えば、in vitroのヒト網膜ミュラーグリア細胞に感染するが、
図12を参照されたい)ことから、AAV6バリアントのShH10Yのカプシドを選んだ。AAV-CMV-hCRB2を用いた処理後10週のCrb2 cKOの網膜の免疫染色によって、このプロモーターが、光受容体の内部セグメント及びミュラーグリア細胞の頂端の繊毛で、hCRB2の堅牢な発現を駆動することが明らかになった。典型的には、この治療ベクターを用いて注射された眼由来の網膜の横断面では、外境界膜に高強度のhCRB2染色を呈するのに対して、同じマウス由来の対側のモックのGFP処理眼は、hCRB2の発現を全く欠く。CMV媒介性のhCRB2発現のレベルは、同質遺伝子系統の対照眼にみられるレベルに近付いていた。CMV-hCRB2を処理した神経網膜でのhCRB2の発現は、外境界膜に限局していた。hCRB2の発現は、網膜色素上皮に見出されることもあった。正常な哺乳類の網膜では、網膜色素上皮はまた、外境界膜よりも低いレベルではあるが、PALS1(Parkら、2011)等、Crumbsホモログ(CRB)複合体メンバーを発現する(Pellissier LP、Lundvig DM、Tanimoto N、Klooster J、Vos RM、Richard F、Sothilingam V、Garcia Garrido M、Le Bivic A、Seeliger MW、Wijnholds J.、Hum Mol Genet.、2014年7月15日、23(14):3759〜71頁)。Crb2 cKOの野生型RPE細胞でのhCRB2の過剰発現は、網膜色素上皮の注目すべき形態又は機能の変化をもたらさない。しかし、とりわけ、CMVプロモーター構築物は、光受容細胞、ミュラーグリア細胞及び網膜色素上皮の外では、hCRB2の治療的な発現を駆動しなかった。この標的外の発現の欠如は、将来的な臨床適用の開発にとって意義がある。必要に応じて、網膜色素上皮細胞で発現されるmiRNAに特異的なマイクロRNA標的部位(miRT)を使用することによって、網膜色素上皮での過剰発現を低減させることができる(Karaliら、2011)。
【0127】
ヒトでのCRB1の欠損が、ERGによって非常によく検出されるLCA8及び進行性RPの原因となる一方で、マウスでのCRB1の欠損は、後期に発生する網膜変性と、網膜の四分円の1つに限定された変性の原因となり、且つERGによって検出されないことに留意することが重要である。本発明者らの免疫電子顕微鏡観察のデータは、マウスで、CRB1が、ミュラーグリア細胞の「外境界膜」に限局するのに対して、ヒトでは、CRB1が、ミュラーグリア細胞及び光受容体の「外境界膜」に局在することを示す。本発明者らの免疫電子顕微鏡観察のデータは、マウスで、CRB2が、ミュラーグリア細胞及び光受容体の「外境界膜」に局在するのに対して、ヒトでは、CRB2が、ミュラーグリア細胞の「外境界膜」に限局することを示す。CRB1を欠いているマウス、CRB2を欠いているマウス、CRB1を欠き且つCRB2のレベルが低減しているマウス、CRB2を欠き且つCRB1のレベルが低減しているマウス、及びCRB1とCRB2のどちらも欠いているマウスに関する本発明者らの分析は、CRB1とCRB2とが非常に類似した機能を有することを示唆している。同様に、Crumbsホモログ(CRB)タンパク質の機能は、交換可能であり、例えば、ヒトCRB1タンパク質は、Crumbs(Crb)タンパク質を欠いているショウジョウバエで、表現型を部分的にレスキューすることができ(den Hollanderら、2001)、ゼブラフィッシュのCRB2Bタンパク質は、CRB2Aタンパク質を欠いているゼブラフィッシュで、表現型をレスキューすることができる(Omori及びMalicki、2006)。
【0128】
2.3.考察
実施例1及び実施例2の前に、3.1章の材料及び方法に記載されているように、いくつかのプラスミドを裸のプラスミドDNAとして、細胞株にトランスフェクトした(例えばHEK293、MDCKII及びARPE19細胞株)。短いか又は全長のCRB1 cDNAを有するトランスフェクト細胞株は、低いCRB1の発現を常時生じたことは明らかであった。全長CRB1 cDNA(配列番号1)又は短いCRB1 cDNA(全細胞外ドメインを欠いているCRB1;配列番号3)を安定に発現する細胞株(例えばHEK293及びMDCKII細胞株)もまた、低い発現を有していた。これに対して、CRB2 cDNAを発現している細胞株は、高いCRB2タンパク質の発現を生じる。これらの観察は、細胞が、CRB1の発現の増加よりもCRB2の発現の増加の方をうまく操ることを示す。
【0129】
いくつかのマウスモデルで実験を実施している。
【0130】
CRB1タンパク質の発現を欠き且つCRB2タンパク質のレベルが低減している網膜で、短いヒトCRB1を過剰発現させた。そのため、これらのマウスは、依然として、ミュラーグリア細胞及び光受容細胞に、生来の機能的なCRB2タンパク質を有するが、その理由は、マウスの網膜のCRB2が、両細胞型に存在するためである。この残りのマウスCRB2タンパク質は、CRB1タンパク質の機能を引き継ぐことが可能であることが想定される。50%のC57BL/6J及び50%の129/Olaの遺伝的背景にあるこれらのマウスは、網膜での表現型を試験的にレスキューするにはあまり適さなかった。対照のマウスと変異マウスとは、網膜電図記録法を使用して測定したときに網膜活性が大幅に異なる。しかし、実験動物には、かなりの変動があり、その結果、信頼区間は互いに近い。表現型をレスキューすることに関していえば、該マウスモデルは、依然として次善にあり、戻し交配によって、99.9%のC57BL/6Jにまで更に最適化することができたはずである。最近、CRB1を欠き且つCRB2のレベルが低減しているマウス(75%のC57BL/6J及び25%の129/Olaの遺伝的背景にある)で、上記に概説したような実験設定に従って、AAV9にてヒトCRB2を使用した試行を開始した。記載されているAAV2/ShH10Y-CMV-CRB2実験にあるように、AAV2/9-CMV-CRB2(1.00×10
10個の送達されたベクターゲノム)ウイルス粒子をP14のCrb1
-/-Crb2
F/+Chx10Creの網膜(75%のC57BL/6J及び25%の129/Olaの遺伝的背景にある)内へ注射し、4ヶ月齢に分析することによって、ERGのレスキューの結果を得た。
【0131】
CRB2を欠いているマウスの網膜で、ヒトCRB2を過剰発現させた。これらのマウスは、依然として、機能的なCRB1タンパク質をミュラーグリア細胞に有するが、機能的なCRBタンパク質を光受容細胞に欠く。この状況は、RP12又はLCA8に罹っている患者にみられる状況に最も近似している。これらの患者では(機能的なCRB1を欠いている)、CRB2がミュラーグリア細胞に存在するが、光受容細胞には存在しない(
図1及び
図2も参照)。Crb2コンディショナルノックアウトマウスの網膜は、1ヶ月齢及び3ヶ月齢の網膜活性に大きな差を示す。Crb2変異マウスの網膜は、表現型の点でレスキューされ、信頼区間が分離し、よく解釈することができる。
【0132】
CRB1を欠き且つCRB2のレベルが低減しているマウス(Crb1
-/-Crb2
F/+Chx10Cre)の網膜で、ヒトCRB2を過剰発現させた。これらのマウスは、CRB1を網膜に欠いているが、依然として、低減されたレベルの機能的なCRB2タンパク質をミュラーグリア細胞及び光受容細胞に有する。この状況は、CRB1を欠いているマウス(CRB2のレベルが低減している遺伝的背景にある)に似ている。75%のC57BL/6J及び25%の129/Olaの遺伝的背景にある、対照のCrb2
F/+コンディショナルノックアウトマウスの網膜は、野生型マウスに比べて、網膜活性の喪失を示さない。75%のC57BL/6J及び25%の129/Olaの遺伝的背景にある、Crb1Crb2
F/+コンディショナルノックアウトマウスの網膜は、3ヶ月齢の網膜活性に大きな差を示す。Crb1Crb2
F/+変異マウスの網膜は、表現型の点でレスキューされ、信頼区間が分離し、よく解釈することができる。これらの実験は、CRB2が、哺乳類疾患モデルで、CRB1の表現型をレスキューすることできることを示している。
【0133】
本実施例は、組換えヒトCRB2の発現を示す眼で、網膜電図記録法を使用して網膜活性として測定される表現型が、レスキューされることを示す。組換えヒトCRB2の発現がない際には、表現型はレスキューされない。
【0134】
いくつかのプロモーターを使用して、実験を実施している。本発明者らは、以下のプロモーター遺伝子構築物を使用している。
- 全長CMV-CRB2[Crb2 cKOマウス及びCrb1Crb2(flox/+)cKOマウスでのレスキュー実験にて]
- 全長CMV-sCRB1[Crb1Crb2(flox/+)cKOマウスでのレスキュー実験にて]
- 全長CMV-GFP(発現実験にて)
- 欠失型CMV-GFP(発現実験にて)
- 欠失型CMV-CRB1[Crb1Crb2(flox/+)cKOマウスでのレスキュー実験及び毒性実験にて]
- hGRK1-CRB1(Crb1 KOマウスでの発現実験にて;レスキュー実験及び毒性実験は以下の通り)
- hRHO-CRB1(Crb2 KOマウスでの発現実験にて;レスキュー実験及び毒性実験は以下の通り)
- hGRK1-CRB2(Crb2 cKOマウスでの発現実験にて;レスキュー実験は以下の通り)
- hRHO-CRB2(Crb2 cKOマウスでの発現実験にて;レスキュー実験は以下の通り)
- RLBP1-GFP(発現実験にて)
【0135】
2.4.結論
長期の治療は、本明細書に開示されているrAAVベクターのCRB2構築物を使用して、Crumbsホモログ(CRB)欠損の哺乳類モデルであるCrb2 cKOマウス、Crb1Crb2
F/+ cKOマウスで達成可能である。重要なことに、これらの結果は、毒性のために、短いCRB1又は全長CRB1の構築物を使用することによっては得られなかった一方で、当該結果は、非毒性のCRB2構築物を用いて得ることができた。重要なことに、CRB1の表現型の喪失に起因する異なる程度のLCA8及びRPを模し、且つCRB1及び/又はCRB2を欠いているマウスで、CRB2遺伝子治療ベクターを試験するためのツールが存在する。これらの結果は、網膜ジストロフィー、並びに具体的にはCRB1の喪失に起因するLCA8及びRPを治療するために、rAAVに基づくCRB2遺伝子治療ベクターを首尾よく使用することについてのエビデンスを提供する。レスキュー実験ではAAV2/9-CMV-hCRB2-spAを、発現実験ではAAV2/5-CMV-hRHO-CRB2-spA及びAAV2/5-hGRK1-CRB2-spAを使用した実験もまた、実施されており、また、AAV5ベクター又はAAV9ベクター内の短いヒトCRB1の過剰発現は毒性があるのに対し、AAV2/9ベクター、又はhRHO若しくはhGRK1プロモーターを使用すると、ヒトCRB2を過剰発現させた際に毒性が検出されなかった。
【0136】
(実施例3)
細胞計数及びウェスタンブロッティングによるAPRE19細胞株でのCRBタンパク質の毒性試験
3.1.材料及び方法
以下の実施例に従って、ヒト由来網膜色素上皮細胞を使用して、CRBタンパク質の毒性を試験することができる。リン酸カルシウム法(例えばSambrook及びRussell (2001)、Molecular Cloning:A Laboratory Manual (第3版)、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、New York)を使用して、各種の(改変された)CRB構築物(例えばCRB1、sCRB1、CRB2アイソフォーム1、CRB2アイソフォーム2、CRB2アイソフォーム3、CRB3等)のうち1つを用いて、対照のGFP構築物(Aartsenら(2010)、PLoS One、5:e12387;GFAP-driven transgene expression in activated Muller glial cells following intravitreal injection oF AAV2/6 vectors;UniProtKB/Swiss-Prot配列P42212)と共に、ARPE19細胞(ATCC CRL-2302)をトランスフェクトする。CRB2構築物を対照として使用する(CRB2配列:配列番号40)。CRB構築物を等モル量で使用し、ペトリ皿当たり総量20μgのDNAを加える。実施例2.1.に記載されているように、CRB構築物を作製する。簡単に述べれば、CRB構築物を、化学合成によって作製し、pUC57内にサブクローニングする。これらの構築物は、AAV2 ITR(配列番号131及び配列番号132)、CMVプロモーター(配列番号121)、試験するCRB cDNA(例えば配列番号40)又は他のCRB配列、イントロン5(配列番号128)及び合成pA(配列番号130)を含む。GFP構築物をトランスフェクションの内在性対照として、固定量で使用する。例えば、18μgのCRB構築物に加えて、2μgのGFP構築物を使用する。このようにして、同量のDNAを加える一方で、例えば2、4、8又は16μgのCRB構築物に、それぞれ18、16、12又は4μgのGFP構築物を加える等、等モルのプラスミド濃度系列を試験することができる。
【0137】
トランスフェクションの前日に、10cmペトリ皿で、10%ウシ胎児血清及びペニシリン/ストレプトマイシンを補充したDMEM中に、ARPE19細胞を30%の集密度で2連に播種する。トランスフェクションの2時間前に培地を更新した後、ディッシュ当たり500μlの0.25M CaCl
2及びTE(10mM Tris、1mM EDTA、pH8)緩衝液中20μgのDNAを含む、トランスフェクション混合物を調製する。常時ボルテックスしながら、500μlの2×HBS(281mM NaCl、100mM Hepes、1.5mM Na
2HPO
4、pH7.12)を、トランスフェクション混合物に滴下添加し、完全な混合物を細胞に直接添加して、終夜インキュベーションする。翌朝に、培地を更新する。2日後(すなわち、トランスフェクションの72時間後)に、付着又は浮遊している細胞を別々に採取し(1組の2連)及び合わせて(第2の2連)、遠心分離の後、1mLのリン酸緩衝生理食塩水(137mM NaCl、2.7mM KCl、10mM Na
2HPO
4及び1.76mM KH
2PO
4)に再懸濁する。続いて、以下について細胞を試験する。
- Luna自動細胞計数装置(Logos Biosystems, Inc社、アナンデール、USA)を用いた細胞数及び生存率。該計数装置は、細胞数を決定し、トリパンブルー染色を経て生細胞と非生細胞とを区別する。トリパンブルー染色は、以降に概説されるLife Technologies社による標準的なプロトコールを使用して実施した。
- ウェスタンブロッティングによるタンパク質発現。細胞溶解物由来のタンパク質を、SDS-Page電気泳動によって分離する。ニトロセルロース膜に転写した後、ニトロセルロース膜を、CRB、GFP及びアクチンタンパク質について免疫染色し、Odyssey赤外イメージングシステム(LI-COR;Westburg BV社、ルースデン、オランダ)によって解析する。この方法は、2003年出版、2012年1月改訂のWestern Blot Analysis developed for Aerius and Odyssey Family of Imagers by Li-Cor(http://biosupport.licor.com/docs/Wester_Blot_Analysis_11488.pdf)についてのマニュアルに記載されている。一次抗体として、抗CRB1(AK2、AK5及びAK7;van de Pavertら、2004)及び抗CRB2(Pen Rashbash氏からのSKII、van de Pavertら、2004に記載)及び抗GFP(Becton Dickinson and Company社)を使用した。二次抗体(IRDye 800-CW ヤギ抗ニワトリ、マウス若しくはウサギ、又はロバ抗ヤギ)は、Li-Cor由来である。
【0138】
Life Technologies社による標準プロトコールを使用したトリパンブルー染色
プロトコール
以下の手順は、細胞の生存率を正確に決定することを可能にすることになる。血球計算盤の格子内の生細胞数を細胞の総数で除して、細胞の生存率を算出する。細胞がトリパンブルーを取り込む場合に、それらは生存不能であるものと見なされる。
1.血球計算盤を使用して、細胞株懸濁液の細胞密度を決定する。
2.等張緩衝塩溶液、pH7.2から7.3中0.4%トリパンブルー溶液(すなわちリン酸緩衝生理食塩水)を調製する。
3.0.1mLのトリパンブルー原液を1mLの細胞に加える。
4.血球計算盤にロードし、顕微鏡下、低倍率で直ちに検査する。
5.青く染まっている細胞の数及び総細胞数を計数する。
%生細胞数=[1.00-(青い細胞の数÷総細胞数)]×100
【0139】
培養物mL当たりの生細胞数を算出するために、以下の式を使用する。
生細胞数×10
4×1.1=個/mL培養物(希釈係数を補正することを忘れないように)
【0140】
3.2.結果
ARPE19細胞で全長CRB1をトランスフェクションすることによって、高い剥離/死細胞数がもたらされ、CRB1トランスフェクト生細胞が20%未満になるという結果になった。ARPE19細胞でCRB2をトランスフェクションすることによって、トランスフェクト生細胞が95%超になるという結果となった。このことは、全長CRB1は毒性がある及び/又は細胞成長を阻害することを示す。ARPE19細胞でのGFP又はHEK293T細胞でのCRB1とは対照的に、付着細胞で発現されるCRB1の量は、ウェスタンブロットによってほぼ検出されない(
図13)。更に、3倍過載でさえ、CRB1をトランスフェクトされたARPE19細胞での参照タンパク質のレベル(アクチン)は、GFPをトランスフェクトされたARPE19細胞よりもいっそう低い。このことは、全長CRB1は毒性がある及び/又は細胞成長を阻害することを実証する。
【0141】
全長CRB1による毒性作用をCRB2と比べて更に分析するために、本発明者らは、以下の構築物、すなわちAAV-欠失型CMV-CRB1;AAV-hGRK1-CRB1、AAV-hGRK1-sCRB1、AAV-hRHO-sCRB1を使用した。
【0142】
(実施例4)
AAV2/9-CMV-CRB2-In5を使用したCrb1(-/-)Crb2(flox/+)Chx10Cre及びCrb2(flox/flox)Chx10Creマウスでの遺伝子置換治療
全網膜細胞でCRB1を欠いており、且つ網膜色素上皮を除く全網膜細胞でCRB2のレベルが低減しているCrb1Crb2
flox/+コンディショナルノックアウトマウス(例えば75%のC57BL/6J及び25%の129/Olaの遺伝的背景にあるCrb1
-/-Crb2
flox/+Chx10Cre)並びにCrb2 cKOマウス(99.9%のC57BL/6Jの遺伝的背景)を使用して、AAV2/9-CMV-CRB2-In5を使用した遺伝子置換治療を評価した。75%のC57BL/6J及び25%の129/Olaの遺伝的背景にあるCrb1
-/-Crb2
flox/+Chx10Creマウスは、3ヶ月齢から6ヶ月齢のERGによって測定したときに、進行性の網膜変性並びに網膜機能の暗順応(桿体媒介性)及び明順応(錐体媒介性)の喪失を示した(Pellissier L.P. (2014)、CRB2 acts as a modifying factor of CRB1-related retinal dystrophies in mice.、Hum Mol Genet.、7月15日、23(14):3759〜71頁)。該マウスは、12〜18ヶ月齢で失明する。
【0143】
AAV2/9-CMV-hCRB2-In5を使用した、Crb1Crb2
flox/+ cKOの網膜へのCRB2のAAV媒介性移送によって、これらの動物は、ERGによって証明されるように視覚を回復した。生後Crb1Crb2
flox/+ cKOの網膜へのCRB2のAAV媒介性移送によって、光受容体及びミュラーグリア細胞でCRB2が発現され、CRB2の発現時に網膜構造の保持を生じた。
【0144】
4.9kbのAAV2-CMV-hCRB2-In5を含む1μLの2.10
10ゲノムコピーのAAV9ウイルス粒子を使用して、Crb1Crb2
flox/+ cKOの網膜又はCrb2 cKOの網膜に、網膜下でCRB2をAAV媒介性移送することによって、ERGである
図14(a〜c、g〜h)によって証明されているように、これらの動物は視覚を回復した。生後Crb1Crb2
flox/+ cKOの網膜又はCrb2 cKOの網膜に、網膜下でCRB2のAAV9媒介性移送することによって、光受容体及びミュラーグリア細胞でCRB2が発現され、CRB2の発現時に網膜構造の保持を生じた。
【0145】
これらの実験は、重度に変性しているCrb1Crb2
flox/+ cKO又はCrb2 cKOの網膜でさえも、AAV2/9-CMV-hCRB2-In5(短いAAV-CRB2中の)の単回投与後に、網膜構造の保持を実現することが可能であることを示す。これらのデータは、Crb1
-/-Crb2
flox/+Chx10
Creの網膜でのCRB1の喪失が、AAV-CRB2を使用したレスキューによって補填されうることを実証している。言い換えれば、これらのデータは、Crb1
-/-Crb2
flox/+Chx10Creの網膜でAAV-CRB2を使用することによって、CRB2のレベルが上昇することで、CRB1を欠き且つCRB2のレベルが低減している網膜で、変性の表現型がレスキューされうることを実証している。
【0146】
(実施例5)
AAV2/9-CMV-CRB1を使用したCrb1(-/-)Crb2(flox/+)Chx10Creでの遺伝子置換治療の欠如
4.8kbのAAV2-最小CMV-hCRB1発現ベクター(すなわち、hCRB1が動作可能に最小CMVプロモーターに連結され、AAV2 ITRが隣接し、AAV9カプシドタンパク質内にパッケージングされている)を含む1μLの10
10ゲノムコピーのAAV9ウイルス粒子を使用して、Crb1Crb2
flox/+ cKOの網膜(99.9%のC57BL/6Jの遺伝的背景)に、網膜下でCRB1をAAV媒介性移送することでは、これらの動物は、ERGである
図14(d〜f)によって証明されているように、視覚を回復しなかった。免疫組織化学実験によって証明されているように、生後Crb1Crb2
flox/+ cKOの網膜へCRB1を網膜下でAAV媒介性移送することによって、光受容体及びミュラーグリア細胞でCRB1が発現されたが、CRB1発現時に網膜構造の保持はもたらされなかった(データ示さず)。これらの実験は、重度に変性しているCrb1Crb2
flox/+ cKOの網膜へAAV-CRB1を単回投与した後に、野生型CRB1が網膜構造を維持する能力に欠くことを示す。実施例4は、野生型CRB2が遺伝子置換治療として動作することを示すのに対して、実施例5は、野生型CRB1がCrb1
-/-Crb2
flox/+Chx10Creの網膜では動作することができないことを実証する。
【0147】
(実施例6)
Crb1(-/-)Crb2(flox/+)Chx10CreマウスでのCRBタンパク質の毒性試験
CRBタンパク質の毒性は、以下の実施例に従って、Crb1(-/-)Crb2(flox/+)Chx10Creマウスを使用して試験することができる。
【0148】
6.1.材料及び方法
Crb1(-/-)Crb2(flox/+)Chx10Creマウスの網膜に、組換えAAV発現ベクター内の(改変型)CRB構築物(例えば、CRB1、短いCRB1、CRB2アイソフォーム1、CRB2アイソフォーム2、CRB2アイソフォーム3、CRB3等)を用いて、一方の眼で硝子体内注射するのに対して、対側の眼は、対照のAAV-GFP構築物[Aartsenら(2010)、PLoS One 5:e12387;GFAP-driven transgene expression in activated Muller glial cells following intravitreal injection of AAV2/6 vectors;UniProtKB/Swiss-Prot配列P42212]を受ける。AAV形質導入法[Aartsenら(2010)、PLoS One 5:e12387;GFAP-driven transgene expression in activated Muller glial cells following intravitreal injection of AAV2/6 vectorsに記載]を使用して、該ベクターを用いて眼を処理する。対照の動物は、AAV-CRB2構築物を一方の眼に、対照のAAV-GFP構築物を対側の眼に受ける(CRB2配列;配列番号40)。AAV-CRB構築物を、Crb1(-/-)Crb2(flox/+)Chx10Creマウスの眼内には、等モル量で且つ総量1μLの5.10
9から10
10ゲノムコピーのAAV2/ShH10Y-(CMV又は最小CMV)-CRBで、対側の対照の眼には、同量のAAV2/ShH10Y-(CMV又は最小CMV)-GFPを用いて、硝子体内注射する。実施例2.1.に記載されているように、AAV-CRB構築物を作製する。簡単に述べれば、CRB構築物を化学合成によって作製し、pUC57内にサブクローニングする。これらの構築物は、AAV2 ITR(配列番号131及び配列番号132)、CMVプロモーター(配列番号121)又は最小CMVプロモーター、試験されるCRB cDNA(例えば配列番号40)又は他のCRB配列、合成pA(配列番号130)、及び任意選択でイントロン5(配列番号128)を含む。GFP構築物を、形質導入の内在性対照として、固定量で使用する。プラスミドをAAV血清型ShH10Yカプシドにパッケージングする。マウスの網膜へ遺伝子を硝子体内でShH10Y媒介性移送することによって、ミュラーグリア細胞及び内部の他の網膜細胞型(Pellissierら(2014)、Molecular Therapy Methods & Clinical Development 1:14009;Specific tools for targeting and expression in Muller glial cells)並びに網膜の毛様体においてタンパク質を発現する。
【0149】
3頭から7頭のCrb1
-/-Crb2
F/+Chx10Cre
Tg/+(Crb1Crb2
F/+ cKO)に、1μLの5.10
9から10
10ゲノムコピーのCRB又はGFP対照のウイルス粒子を用いて、2週齢に硝子体内注射した。In vivoでの網膜機能を、3ヶ月齢から5ヶ月齢に、暗順応(終夜暗所に順応させる)又は明順応(記録の10分前に、30cd/m
2のバックグラウンド照明を用いて光に順応させる)の条件下での網膜電図記録法によって分析することになる。ケタミン(66.7mg/kg体重)及びキシラジン(11.7mg/kg体重)を使用して、マウスを麻酔する。瞳孔を広げて、単回のロイヤルブルーの閃光刺激を-3から1.5 log cd・s/m
2の範囲とする。2sの刺激間の間隔で20回の応答を平均化する。a波の応答によって、光受容体の直接的な機能(暗順応条件下では桿体及び錐体、並びに明順応条件下では錐体からのみ)が明らかとなり、b波によって、網膜活性が明らかとなった。代表的な実験を
図15に示す。
【0150】
CRBタンパク質の潜在的な毒性(ERGによって決定されるときに網膜活性の低下によって表される)を、対側のGFPの眼と比較して測定する。ERG応答の平均の大幅な低下を、毒性と見なすことになる。
図15には、CRB1タンパク質が毒性の徴候を示すのに対して、CRB2は示さないという例が示されている。
【0151】
Crb1Crb2
F/+ cKO又はCrb2 cKOの眼に硝子体内形質導入した際のCRBタンパク質の網膜での発現を、それぞれのCRBタンパク質に対する抗体(例えば、van de Pavertら、J. Cell Science、2004にあるような抗CRB2又は抗CRB1又は抗CRB3)を使用して、標準的な免疫組織化学によって検査した。
【0152】
6.2.結果
Crb1Crb2
F/+ cKOの眼への全長CRB1の硝子体内形質導入は、網膜電図のb波及びa波の大幅な低減をもたらす。全長CRB2を使用した類似の実験では、b波又はa波の減少は示されない。このことは、CRB2は毒性がないのに対し、1μLの5.10
9から10
10ゲノムコピーのカプシドShH10Y粒子を使用して硝子体内に適用した際に、全長CRB1は、Crb1Crb2
F/+ cKOの網膜に対して毒性がある(網膜電図でa波及び/又はb波を低減させる)ことを示す。
【0153】
参考文献
以下の参考文献は、本明細書での説明を補充する例示的な手順又は他の詳細を提供する程度にまで、具体的に本明細書に参照のため組み込まれる。
【0154】
国際特許出願公開WO2011/133933及び本明細書で言及された特許の参考文献。
【0155】
【表3】