特許第6827322号(P6827322)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6827322
(24)【登録日】2021年1月21日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】生物学的存在の増殖のための容器
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/24 20060101AFI20210128BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20210128BHJP
【FI】
   C12M1/24
   C12M3/00 Z
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-562533(P2016-562533)
(86)(22)【出願日】2015年4月9日
(65)【公表番号】特表2017-514466(P2017-514466A)
(43)【公表日】2017年6月8日
(86)【国際出願番号】US2015025069
(87)【国際公開番号】WO2015160614
(87)【国際公開日】20151022
【審査請求日】2018年4月3日
(31)【優先権主張番号】61/980,673
(32)【優先日】2014年4月17日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】62/120,566
(32)【優先日】2015年2月25日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100090468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐久間 剛
(72)【発明者】
【氏名】ケニー,デイヴィッド アラン
(72)【発明者】
【氏名】クラディアス,ニコラオス パンテリス
(72)【発明者】
【氏名】クウェイ,シャン−ピン
(72)【発明者】
【氏名】ラモハン,アラヴィンド ラガヴァン
(72)【発明者】
【氏名】ウォール,ジョセフ クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】ヤングベア,ケイシー マリー
【審査官】 伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2005/0277188(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0128081(US,A1)
【文献】 特表平06−503465(JP,A)
【文献】 特開2013−212088(JP,A)
【文献】 中国実用新案第202246687(CN,U)
【文献】 特開平06−253815(JP,A)
【文献】 特表平02−500081(JP,A)
【文献】 特開平08−308556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
C12M 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を培養するための容器において、
上面に向かって内向きに先細となる円錐状側壁と一体となった丸くなった縁を有する底により画成された、容積が3リットルより大きい容器本体、および
前記上面から容器開口に上方に延在する一体となった細長い環状首部、
を備え、
前記側壁が4〜10°の傾斜角度で内向きに先細となっており、
前記容器内に収容された液体培地の液体渦を、該液体培地の撹拌中に、乱すように構成された4つ以上の内部バッフルをさらに備え、
各々の該バッフルは、V形の断面を有し、側壁において円周方向に80°〜110°の間隔をおいて設けられ
該バッフルが前記容器の底から側壁に沿って上方に延在すると共に前記容器の底が前記側壁と出合うところで前記容器の縦軸に向かって前記底に沿って半径方向内向きに延在するものであることを特徴とする容器。
【請求項2】
前記容器本体の容積が少なくとも5リットルである、請求項1記載の容器。
【請求項3】
親水性内面を有する、請求項1または2記載の容器。
【請求項4】
前記首部が、先細となった移行区域により前記容器本体に接続されている、請求項1から3いずれか1項記載の容器。
【請求項5】
前記首部の直径が前記容器開口の直径より小さい、請求項1から4いずれか1項記載の容器。
【請求項6】
前記バッフルが前記容器の内面に対して隆起している、請求項1記載の容器。
【請求項7】
前記首部が注ぎ樋をさらに備えた、請求項1から6いずれか1項記載の容器。
【請求項8】
細胞を培養する方法において、
請求項1から7いずれか1項記載の容器に培地を導入する工程、
前記容器に少なくとも1種類の選択された細胞株を導入する工程、および
前記容器を、60rpmより大きい速度で撹拌する工程、
を有してなる方法。
【発明の詳細な説明】
【優先権】
【0001】
本出願は、その内容が依拠され、ここに全て引用される、2014年4月17日に出願された米国仮特許出願第61/980673号の米国法典第35編第119条の下での優先権の恩恵を主張する、2015年2月25日に出願された米国仮特許出願第62/120566号の米国法典第35編第119条の下での優先権の恩恵を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本開示は、概して、実験室の器具に関し、より詳しくは、細胞培養容器およびそれに関連するシステム、構成部材および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
細菌、酵母、菌類および動物/植物細胞などの生物学的存在は、通例、様々なタイプの容器またはフラスコ内において体外で培養される。その細胞またはそれらの副産物は、医薬、薬理学、並びに遺伝子研究および操作を含む生物工学に関連する多種多様の分野で使用される。
【0004】
生物学的存在を培養する方法の1つは、培地が一部満たされた容器内に生物学的存在を入れ、培地を酸素源に暴露しながら、例えば、軌道式振盪機を使用して、容器を撹拌する各工程を含む。撹拌機構の実例が図1に示されている。容器100が振盪台200上に載せられている。この振盪台は、振盪直径の半分に等しい半径を持つ円運動を行う。
【0005】
そのような容器内における微生物の増殖は、培地60が酸素に適切に到達できるかに依存する。容器内に収容される培地に関して、酸素は、容器のヘッドスペース120を通じて培地に運ばれる。気液界面を横切る酸素拡散は液体の表面積に比例するので、液体の表面積が大きいほど、生体媒質の曝気がより良くなる。例えば、容器の振盪により、ヘッドスペースに暴露される液体の表面積をより大きくする渦が生じる。
【0006】
ヘッドスペース120と液相との間の酸素移動速度(OTR)は、OTR=kLα(C*L−CL)と記載でき、式中、kLαは、物質移動容量係数であり、C*Lは、飽和気液界面の酸素濃度であり、CLは、液相中の酸素濃度である。
【0007】
物質移動容量係数のkLαは、容器の形状、工程条件(例えば、振盪速度および充填容積)、並びに生体媒質の性質の関数である。kLαに関する経験的関係は、kLα=C11.921.160.38L-0.83と表すことができ、式中、dは内側容器の最大直径であり、nは振盪速度であり、doは振盪直径であり、VLは充填容積である。
【0008】
この経験的関係から、本出願の出願人等は、所定の最大容積の容器の拡大中の同程度の細胞の曝気は、(i)容器の直径の増加、(ii)振盪速度の増加、および(iii)振盪直径の増加の内の1つ以上により達成できることを示した。容器の直径および振盪直径が不変のままに制約される場合、拡大された容器において同程度の曝気を達成するための原則手法は、振盪速度を増加させることである。しかしながら、振盪速度を増加させると、細胞はより大きい流体力学的(剪断)応力を経験し、応力が最大限界値を超えると、その応力は細胞の生存率にとって有害であり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、流体力学的応力の悪影響なく培地を培養するために使用でき、既存の基幹設備に適合する、高処理量(大容量)細胞培養容器が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の実施の形態によれば、拡大されたバイオリアクタ容器が開示されている。その容器は、3リットルを超える液体容積(例えば、4または5リットル)を有し、既存の基幹設備との適合性を達成するために、より小さい3リットルのバイオリアクタ容器と同じ、最大容器直径、容器高さ、および振盪直径を維持している。5リットル容器の最大容積は、3リットル容器の最大容積より67%大きい。
【0011】
例として、2.5リットルの生体媒質が入れられたここに開示された5リットル容器は、同じ振盪速度で、1.5リットルまで満たされた3リットル容器に匹敵する曝気を達成する。さらに、この5リットル容器は、細胞の生存率にとって最大の許容される剪断応力を超えずに、前記振盪速度の1.5倍で3リットル容器の曝気を19%超える。開示された容器は、必要に応じて、液体渦を乱し、容器内に収容される生体媒質に伝達される最大剪断応力を低下させる複数の内部バッフルを備える。各バッフルは、容器の内面に対して隆起している(すなわち、凸状である)。
【0012】
様々な実施の形態において、細胞を培養するための容器は、上面に向かって内向きに先細となっている円錐状側壁と一体となった丸くなった縁を有する底により画成された容器本体を備えている。この容器はさらに、上面から容器開口に上方に延在する一体となった細長い環状首部を備えている。従来のフラスコとは対照的に、その側壁は、4〜10°の傾斜角度で内向きに先細となっている。
【0013】
そのような容器を使用して細胞を培養する方法は、その容器に培地を導入する工程、その容器に少なくとも1種類の選択された細胞株を導入する工程、および容器を、例えば、60rpmより速い速度で撹拌する工程を有してなる。
【0014】
本開示の主題の追加の特徴および利点は、以下の詳細な説明に述べられており、一部は、その説明から当業者に容易に明白となるか、または以下の詳細な説明、特許請求の範囲、並びに添付図面を含む、ここに記載された本開示の主題を実施することによって、認識されるであろう。
【0015】
先の一般的な説明および以下の詳細な説明の両方とも、本開示の主題の実施の形態を提示しており、特許請求の範囲に記載された本開示の主題の性質および特徴を理解するための概要または骨子を提供することが意図されているのが理解されよう。添付図面は、本開示の主題のさらなる理解を提供するために含まれ、本明細書に包含され、その一部を構成する。図面は、本開示の主題の様々な実施の形態を示しており、その説明と共に、本開示の主題の原理および作動を説明する働きをする。その上、図面および説明は、単なる例示であることが意図され、特許請求の範囲をどのようにも制限することを意図するものではない。
【0016】
本開示の特定の実施の形態の以下の詳細な説明は、同様の構造が同様の参照番号により示されている、以下の図面と共に読まれたときに、最もよく理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】軌道撹拌が行われている容器の説明図
図2A】従来の3リットル容器の説明図
図2B】バッフルを備えた拡大された5リットル容器の説明図
図3A】バッフルを備えた拡大された5リットル容器の透視図を示す図
図3B】バッフルを備えた拡大された5リットル容器の断面図を示す図
図3C】バッフルを備えた拡大された5リットル容器の別の断面図を示す図
図4A】撹拌速度の関数としての容器の側壁に沿った液体の這い上がりを示す、モデル化図および対応する写真
図4B】撹拌速度の関数としての容器の側壁に沿った液体の這い上がりを示す、別のモデル化図および対応する写真
図4C】撹拌速度の関数としての容器の側壁に沿った液体の這い上がりを示す、さらに別のモデル化図および対応する写真
図5】モデル化結果および実験結果に関する撹拌速度に対して液体の這い上がりをプロットしたグラフ
図6】細胞生存率に対する剪断応力の影響を示すグラフ
図7】撹拌速度に対して最大剪断応力をプロットしたグラフ
図8A】3リットルのバッフルなし容器における空気体積分率等高線のモデル化図
図8B】5リットルのバッフルなし容器における空気体積分率等高線のモデル化図
図9A】3リットルのバッフルなし容器および5リットルのバッフルなし容器における曝気を比較するグラフ
図9B】3リットルのバッフルなし容器および5リットルのバッフルなし容器における最大剪断応力を比較するグラフ
図10A】3リットルのバッフル付き容器における空気体積分率等高線のモデル化図
図10B】3リットルの容器のバッフルを備えた5リットル容器における空気体積分率等高線のモデル化図
図10C】本開示の実施の形態によるバッフルを備えた5リットル容器における空気体積分率等高線のモデル化図
図11図10A〜Cの容器に関する体積荷重平均空気体積分率を示すグラフ
図12】3リットルおよび5リットルのバッフル付き容器における最大剪断応力を示すグラフ
図13A】実施例の5リットル容器における空気体積分率等高線のモデル化図
図13B】実施例の5リットル容器における空気体積分率等高線のモデル化図
図14】3リットルおよび5リットルのバッフル付き容器における平均空気体積分率を示すグラフ
図15】3リットルおよび5リットルのバッフル付き容器における最大剪断応力を示すグラフ
図16A】曝気に対する容器の壁材料の影響を示すモデル化図
図16B】曝気に対する容器の壁材料の影響を示すモデル化図
図17A】V形注ぎ樋を有する5リットルのバッフル付き容器の透視図
図17B】V形注ぎ樋を有する5リットルのバッフル付き容器の透視図
図18】5リットルのバッフル付き容器に関する時間に対する細胞密度を市販の容器と比較したグラフ
【発明を実施するための形態】
【0018】
ここで、本開示の主題の様々な実施の形態をより詳しく参照する。そのいくつかの実施の形態は、添付図面に示されている。同じまたは同様の部品を指すために、図面に亘り同じ参照番号が使用されている。
【0019】
図2Aおよび2Bは、従来の3リットルのバッフルなし容器(図2A)、およびここでの様々な実施の形態により開示された、バッフル付きの5リットルの拡大された容器(図2B)の図面である。両方の容器は、内向きに先細となっている円錐状側壁と一体となった丸くなった縁を有する底を有している。
【0020】
5リットル容器の壁は、壁の傾斜角度が30°である3リットル容器とは対照的に、垂直軸から4〜10°(例えば、4°、6°、8°または10°)の傾斜角度で内向きにわずかに先細となっている。5リットル容器の壁がそれほど傾斜していないために、最大容器直径またはその全高を変えずに、容積容量が増加する。短い、内向きに先細となっている移行区域220が、首部210を容器本体230に接続している。3リットル容器の例では、首部の直径は、最大容器直径の約25%である。5リットル容器の例では、首部の直径は、最大容器直径の約33%である。
【0021】
細胞培養培地および細胞は、開口226を通じて、容器に導入し、容器から取り出すことができる。容器の開口226は、容器の内容物がこぼれるのを防ぐために取り外し可能に取り付けられるキャップ(図示せず)により再封止可能であってよい。そのキャップは、フィルタ材料のシートで覆われた開放面を備えてもよい。そのフィルタ材料は、内容物の汚染の虞を低減しながら、酸素を容器内部に入らせる。
【0022】
実施の形態において、5リットル容器の最大外径は、約220から240mmに及んでよく、例えば、約220、230または240mmであってよい。容器本体230の外径は、約180から220mmの、首部に隣接した先細端での最小から、容器の最大外径と等しい最大までに及んでよい。首部210の外径は、約60から80mmに及んでよく、例えば、約60、70または80mmであってよい。首部210の高さは、約50から80mmに及んでよく、例えば、約50、60、70または80mmであってよい。容器の全高は、約280から290mmに及んでよく、例えば、約285mmであってよい。首部210の外側部分は、つかみ面を提供するためにギザギザがあっても、または他の様式で粗面になっていてもよい。実施の形態において、首部は、首部よりも断面積が大きい容器開口226まで広がっている。例えば、容器開口226は、約90から100mmに及ぶ直径を有していてもよい。より大きい開口は、改善された換気のためのより大きい断面積を表す。
【0023】
図2Bを参照すると、各々が、V形、80°〜110°の側壁角度および実施の形態において、2.5リットルの充填高さより低い縦(垂直)軸に対して平行に測定される高さを有する、4つの対称に間隔が置かれたバッフル280が示されている。実施の形態において、バッフルの高さは、2.5リットルの充填レベルの高さの60%から120%である。バッフルは、容器の側壁235に沿って延在し、容器の底が側壁と出合うところで、容器の軸に向かって半径方向内向きに延在している。バッフルが容器の底壁へと内向きに延在する程度は、容器のバッフル壁と底壁との間に形成された角度により測定することができる。図示された実施の形態において、その角度は15°であるが、バッフル壁と底壁との間の角度は、5°〜30°に及んでよい。
【0024】
図3Aは、実施の形態によるバッフルを備えた拡大された5リットル容器の透視設計図を示している。断面図(図3B)において、バッフルは、容器の底に対して15°の傾斜角度を画成している。各バッフルの高さは1.96インチ(約49.7mm)であり、その高さに亘り、各バッフルの深さは0.23インチ(約5.9mm)である。バッフルは、1.04インチ(約26.5mm)の曲率半径を有する傾斜部分で終わっている。0.11インチ(約2.8mm)の曲率内径、0.44インチ(約11.2mm)の曲率外径、および96°の角度を形成するV形断面を有するさらなるバッフルの特徴が、断面3C−3C(図3C)に見える。
【0025】
使用の際に、バッフル280は、撹拌された液体の渦を壊し、生物学的物質の増殖を促進する。5リットルのバイオリアクタのバッフルは、同じ振盪速度で3リットルのバイオリアクタで達成された曝気と同程度の曝気、または細胞の生存率に関する最大の許容される剪断応力を超えずに、1.5倍の振盪速度で改善された曝気を達成するように設計されている。
【0026】
この5リットル容器の設計は、振盪容器内の二相流(空気および液体生体媒質)の計算流体力学(CFD)に基づいている。CFDは、振盪容器の数値モデルを生成するために使用した。そのモデルは、曝気、最大剪断応力および混合の程度についての情報を得るために使用した。3リットル容器の設計に関するベンチマークデータに基づいて、3リットル容器の性能に見合うまたはそれを超えるように、5リットル容器を設計するために、CFD解析を使用した。
【0027】
先に論じた経験的関係に基づいて、増加した充填容積に関して匹敵する細胞曝気を達成するために、容器の最大直径、振盪直径および振盪速度の内の1つ以上を増加させる必要があるであろうと認識した。詳しくは、例として、1.5リットル(3リットル容器)から2.5リットル(5リットル容器)の充填容積を拡大するために、先の式から、(a)最大容器直径を約25%増加させる、または(b)振盪直径を約300%増加させる、および/または(c)振盪速度を約45%増加させる、必要があるであろう。
【0028】
既存の基幹設備に適合した容器を製造するために、最大容器直径および振盪直径は、3リットル容器に対して不変のままであるべきである。3リットル容器は、一般に、60rpmの速度で撹拌されることを認識しているので、5リットル容器において同じ曝気を達成するために、約90rpmの撹拌速度が必要である。しかしながら、下記に論じるように、バッフルのない5リットル容器の撹拌は、細胞の生存率についての最大の許容される応力を超える剪断応力を生じるであろうと思われる。
【0029】
実施の形態において、5リットル容器の設計にバッフルを配置することにより、2.5リットルまで充填された5リットル容器は、60rpmでの1.5リットルまで充填された3リットル容器に匹敵するように機能し、いずれの振盪速度でも、細胞の生存率についての最大の許容される剪断応力を超えずに、90rpmで3リットル容器の性能を超える。
【0030】
3リットル容器の設計を使用して、CFDモデルを最初に検証した。実験において、着色水を収容する3リットル容器を振盪台に置き、振盪直径を40mmにして、様々な撹拌速度(例えば、60、120および200rpm)で軌道撹拌した。容器の軌道回転から生じる遠心力により、液体が容器の側壁に押し上げられ、その液体の自由表面が凹形状をとる。側壁を上がる液体の変位は、撹拌速度および遠心力の付随する増加と共に増加する。液体の這い上がりの写真およびモデル化結果が、図4A〜4Cに示されている。
【0031】
容器の側壁に沿ったモデル予測された液体の這い上がりは、実験測定と極めて一致した。モデル化された液体の這い上がりに対する測定した液体の這い上がりの直接比較が、図5にグラフで示されている。図5に纏められた液体の這い上がりの測定の基準は、図4Bの矢印により示された注入線であった。その線は、容器の底から3cm上に位置している。
【0032】
液体の這い上がり試験に加え、細胞の生存率に影響が生じる前に許される最大剪断応力のベンチマークを設定するために、細胞生存率測定を行った。細胞生存率の測定は、Sf9細胞で行った。120、150および175rpmで撹拌した1リットル容器を使用して、試験を行った。各撹拌速度で、二組の試験を行った:一組は300mLまで満たした容器、もう一組は500mLまで満たした容器。
【0033】
細胞生存率の測定結果が図6に示されている。この図は、細胞が、150rpm以上の撹拌速度で悪影響を受けるのに対し、1リットルのバイオリアクタを120rpmで振盪した場合、細胞生存率は影響を受けないことを示している。
【0034】
1リットルのバイオリアクタのCFDモデルを使用して、測定した細胞生存率を最大の許容される剪断応力に相互に関連付けた。このCFDモデルデータを使用して、様々な実験撹拌速度および充填容積の下での最大剪断応力を計算した。このCFDモデルの結果が図7に示されている。この図は、120rpmでの最大剪断応力が0.28Paであり、これは、細胞生存率に許される最大剪断応力に相互に関連付けられることを示している。
【0035】
60rpmで撹拌した場合の、3リットルのバッフルなし容器、並びに5リットルのバッフルなし容器における空気体積分率の等高線が、図8Aおよび8Bに示されている。液体が容器の側壁に押し付けられるので、容器の中央領域内で、容器が静止している間に液体で満たされる容積中に空気が取り込まれる。充填容積中の平均空気体積分率が、3リットルおよび5リットルの拡大されたバッフルなし容器について、図9Aに与えられている。図9Aは、60rpmで撹拌した場合、5リットルのバッフルなし容器が、3リットルの対応容器よりも、細胞に36%少ない曝気を与えることを示している。図9Bを参照すると、60rpmでは、5リットルのバッフルなし容器における最大剪断応力は、3リットルのバッフルなし容器における最大剪断応力の約2倍である。
【0036】
図9Aに戻ると、5リットルのバッフルなし容器を90rpmで撹拌した場合、細胞の曝気は、60rpmで撹拌した3リットル容器と同程度であることが分かる。しかしながら、図9Bから分かるように、5リットルのバッフルなし容器(90rpm)における最大剪断応力は0.29Pa(図9B)であり、これは、細胞生存率に関する最大の許容される剪断応力を超えている。
【0037】
その5リットル容器にバッフルを導入すると、液体の渦を乱し、最大剪断応力を減少させることができる。この点に関して、様々なバッフル設計を選別試験するために、CFDモデルを使用した。適切なバッフルは、良好な細胞曝気および低い剪断応力の組合せを与える。
【0038】
例示のバッフルは、V形、80°〜110°の側壁角度および実施の形態において、2.5リットルの充填レベルより低い5リットル容器の縦軸に対して平行に測定ときの高さを有する。実施の形態において、バッフル高さは、充填レベルの高さの60%から120%に及び得る。
【0039】
バッフルは、容器の側壁に沿って延在し、側壁が容器の底と出合うところで、容器の中心軸に向かって半径方向内向きに延在する。バッフルが容器の底壁へと内向きに延在する程度は、容器のバッフル壁と底壁との間に形成された角度により測定することができる。
【0040】
図10A〜10Cには、(A)3リットルのバッフル付き容器、(B)3リットルの容器からのバッフル設計を使用した5リットルのバッフル付き容器、および(C)本開示の実施の形態による5リットルのバッフル付き容器における空気体積分率の等高線図が示されている。
【0041】
図10Bおよび10Cを比較すると、開示されたバッフルにより、空気が液体充填容積中深くに取り込まれ、したがって、より細胞曝気を生じることが示される。このことは、図11にグラフで示されるように、空気体積分率の体積荷重平均値によっても実証されている。60rpmで撹拌した容器に関するデータを示す図11から、3リットル容器からのバッフルを備えた5リットル容器と比べた場合、開示されたバッフル設計を使用した5リットルの拡大された容器により、細胞曝気の25%の改善が達成される。
【0042】
まだ図11を参照すると、5リットル容器の曝気性能は、バッフルの再設計により改善されるが、3リットルのバッフル付き容器の性能よりもまだ低い。しかしながら、図12に示されるように、60rpmの撹拌では、再設計されたバッフルを備えた5リットル容器の最大剪断応力は、その3リットルの対応容器における最大剪断応力よりも16%低い。図12からのデータにより、5リットルのバッフル付き容器を、より速い速度で、すなわち、60rpmより速い速度で撹拌することにより、その細胞曝気性能を高めることが可能であろうことが示唆される。CFDモデルは、5リットルのバッフル付き容器を90rpmで撹拌した場合、細胞曝気が著しく増加ことを示している。このことが図13Aおよび13Bに実証されている。この図は、(A)60rpmおよび(B)90rpmでの例示の5リットル容器における空気体積等高線を示している。
【0043】
図14を参照すると、90rpmで撹拌した場合、開示された5リットルの拡大されたバイオリアクタは、その3リットルの対応容器を上回って細胞曝気の19%の増加を与える。これは、再設計されたバッフルにより可能になる。そのバッフルは、5リットルのバッフル付き容器を90rpmで撹拌した場合でさえも、最大剪断応力は0.24Paであり、これは、3リットルのバッフル付き容器に関する剪断応力よりも15%しか大きくなく、最大の許容される剪断応力(0.28Pa)よりも少ないように、最大剪断応力を減少させるのに役立つ。この結果が、図15にグラフで示されている。
【0044】
4つのバッフルを有する5リットルのバッフル付き容器がここに記載されているが、CFDモデルは、2から6個のバッフルを使用し、生体媒質の増殖速度をそれでも改善することが可能であることを示している。実施の形態において、その複数のバッフルは、容器の底の周囲に均等間隔で配置されている。
【0045】
実施の形態において、前記5リットルのバイオリアクタは、親水性材料から製造される(または親水性材料で内面被覆されている)。この材料は、液体が容器の側壁をより高く這い上がるのを促進し、空気を取り込むために液体充填容積の中心により多くの空間を残し、したがって、細胞曝気を増加させる。必要に応じて、容器の内面を処理して、親水性内面を形成してもよい。表面処理の例として、CorningのCellBIND(登録商標)表面処理およびコロナ放電への暴露などの組織培養処理が挙げられる。その容器は、さらなる実施の形態において、例えば、射出成形またはブロー成形により形成できる一体部品である。その容器は、どのような継ぎ目もない。容器の材料の例としては、ポリカーボネート、ポリプロピレンおよびポリエチレンが挙げられる。その容器は、単一チャンバを備えてもよい。
【0046】
曝気に対するバイオリアクタの容器材料の影響が、図16Aおよび16Bに示されている。CFD解析は、容器材料を疎水性(例えば、液体接触角=30°)から親水性(例えば、液体接触角=90°)に変えた場合、体積荷重平均の空気体積分率が13%改善されることを示している。疎水性の容器内壁の材料の平均曝気が0.0785であったのに対し、親水性の容器内壁の材料の平均曝気は0.0888であった。
【0047】
ここに開示された5リットル容器は、ほぼ水平表面(すなわち、容器の底に対して平行)上で終わり、次いで、直径のより小さい首部に移行する側壁を備えることがある。この首部は、直径のより大きい、必要に応じてネジ付きの出口に移行する。図17Aおよび17Bに示されるさらなる実施の形態において、首部は、容器の液体内容物を滑らかに注ぐことを促進する樋300を備えている。この樋付き首部は、ほぼ水平の内部移行表面240から少量の流体を排出することも簡単にする。
【0048】
実施の形態において、樋300は、容器の側壁235から首部210まで延在する。樋は、容器から液体内容物を完全に注ぐために必要な容器の傾斜角を、水平より約80°(例えば、79°)から約45°に減少させる。
【0049】
このV形樋は、実質的に垂直な側壁235を、容器のより大きい直径と同心である、垂直の直径がより小さい注ぎ口260に接続する。容器のより大きい直径と注ぎ口との間に移行は、わずかに勾配のある水平表面244である。この樋の追加により、容器を出る流体流のしぶきが最小になり、容器から静かに注ぐのが難しいどのような残留流体も排除するのに役立つ。
【0050】
実施の形態によるバッフル付きの5リットル容器内の細胞(Sf9)収率を市販のThomson5リットルOptimum Growth Flask内での細胞収率と比較する評価(2.5リットルの充填容積、90rpmの撹拌速度)において、バッフル付きの5リットル容器内での4日間の増殖後の細胞の総数は、比較容器内でのたった約2×1010と比べて、約2.6×1010であった。これは、細胞収率の約30%の増加を表す。
【0051】
関連する評価(3.5リットルの充填容積、100rpmの撹拌速度)において、4日間の増殖後に、細胞収率の約300%の増加が観察された。これは、2つのフラスコ間の差異が、充填容積の増加と共に増加することを実証している。図18は、5リットルのバッフル付き容器に関する時間に対する細胞密度を市販の容器と比較したグラフである。
【0052】
ここに開示された5リットルのバイオリアクタ容器は、3リットル容器と同じ最大直径、高さおよび振盪直径を有し、それゆえ、既存の基幹設備に都合よく適合している。より大きい全体容積のために、この5リットル容器は、その容器内で培養できる生体媒質の体積を67%増加させることができる。さらに、3リットルのバイオリアクタの振盪速度の1.5倍で撹拌した場合(すなわち、90rpm対60rpm)、5リットル容器は、細胞の生存率に関する最大剪断応力を超えずに、細胞曝気の19%の増加を達成する。
【0053】
ここに用いたように、文脈により他に指示のない限り、名詞は、複数の対象を指す。それゆえ、例えば、「バッフル」への言及は、文脈により他に指示のない限り、そのような「バッフル」を2つ以上有する例を含む。
【0054】
範囲は、ここでは、「約」ある特定の値から、および/または「約」別の特定の値までと表現することができる。そのような範囲が表現された場合、例は、そのある特定の値から、および/または他の特定の値まで、を含む。同様に、値が、「約」という先行詞を使用して、近似として表現されている場合、前記特定の値は別の態様を形成することが理解されよう。その範囲の各々の端点は、他方の端点に関連してと、他方の端点とは関係なくの両方において有意であることがさらに理解されよう。
【0055】
特に明記のない限り、ここに述べられたどの方法も、その工程が特定の順序で行われることを必要とすると解釈されることは決して意図されていない。したがって、方法の請求項が、その工程が従うべき順序を実際に述べていない場合、または工程が特定の順序に限定されることが請求項または記載に他の具体的に述べられていない場合、どの特定の順序も暗示されていることも決して意図されていない。いずれか1つの請求項におけるどの述べられた1つまたは多数の特徴または態様も、いずれか他の請求項におけるどの他の述べられた特徴または態様と組み合わせても、置換されても差し支えない。
【0056】
ここでの列挙は、特定の様式で機能するように「構成されている」または「適合されている」構成部材を称する。この点に関して、そのような構成部材は、特定の性質を具体化する、または特定の様式で機能するように「構成されており」または「適合されており」、ここで、そのような列挙は、目的の用途の列挙とは対照的に、構造的列挙であることも留意される。より詳しくは、ある構成部材が「構成されている」または「適合されている」様式へのここでの言及は、その構成部材の既存の物理的状態を意味し、それゆえ、その構成部材の構造的特徴の明白な列挙として解釈すべきである。
【0057】
移行句「含む」を使用して、特定の実施の形態の様々な特徴、要素または工程が開示されているかもしれないが、移行句「からなる」または「から実質的になる」を使用して記載できる実施の形態を含む代わりの実施の形態が暗示されることを理解すべきである。それゆえ、例えば、空気および液体生体媒質を含む容器に対する暗示される代わりの実施の形態は、容器が空気および液体生体媒質からなる実施の形態、並びに容器が空気および液体生体媒質から実質的になる実施の形態を含む。
【0058】
本発明の精神および範囲から逸脱せずに、本発明の様々な改変および変更を行えることが当業者に明白である。本発明の精神および実体を含む開示された実施の形態の改変、組合せ、下位の組合せおよび変更が当業者に想起されるであろうから、本発明は、付随の特許請求の範囲およびその同等物の範囲に全てを含むと解釈すべきである。
【0059】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0060】
実施形態1
細胞を培養するための容器において、
上面に向かって内向きに先細となる円錐状側壁と一体となった丸くなった縁を有する底により画成された容器本体、および
前記上面から容器開口に上方に延在する一体となった細長い環状首部、
を備え、前記側壁が4〜10°の傾斜角度で内向きに先細となっている、容器。
【0061】
実施形態2
前記上面が実質的に水平である、実施形態1に記載の容器。
【0062】
実施形態3
前記容器本体の容積が少なくとも5リットルである、実施形態1に記載の容器。
【0063】
実施形態4
一体部品から構成された、実施形態1に記載の容器。
【0064】
実施形態5
親水性内面を有する、実施形態1に記載の容器。
【0065】
実施形態6
前記首部が、先細となった移行区域により前記容器本体に接続されている、実施形態1に記載の容器。
【0066】
実施形態7
前記首部の直径が前記容器開口の直径より小さい、実施形態1に記載の容器。
【0067】
実施形態8
前記首部の直径が最大容器直径の少なくとも30%である、実施形態1に記載の容器。
【0068】
実施形態9
前記容器内に収容された液体培地の液体渦を、該液体培地の撹拌中に、乱すように構成された2つ以上の内部バッフルをさらに備えた、実施形態1に記載の容器。
【0069】
実施形態10
前記バッフルが前記容器の内面に対して隆起している、実施形態9に記載の容器。
【0070】
実施形態11
前記バッフルがV形断面を有する、実施形態9に記載の容器。
【0071】
実施形態12
前記バッフルが80°〜110°の側壁角度を有する、実施形態9に記載の容器。
【0072】
実施形態13
前記首部が注ぎ樋をさらに備えた、実施形態1に記載の容器。
【0073】
実施形態14
細胞を培養する方法において、
実施形態1に記載の容器に培地を導入する工程、
前記容器に少なくとも1種類の選択された細胞株を導入する工程、および
前記容器を、60rpmより速い速度で撹拌する工程、
を有してなる方法。
【0074】
実施形態15
前記速度が約90rpmである、実施形態14に記載の方法。
【0075】
実施形態16
細胞を培養するための容器において、
上面に向かって内向きに先細となる円錐状側壁と一体となった丸くなった縁を有する底により画成された容器本体、
前記上面から容器開口に上方に延在する一体となった細長い環状首部、および
前記容器内に収容された液体培地の液体渦を、該液体培地の撹拌中に、乱すように構成された2つ以上の内部バッフル、
を備えた容器。
【符号の説明】
【0076】
60 培地
100 容器
120 ヘッドスペース
200 振盪台
210 首部
220 移行区域
226 開口
230 容器本体
235 側壁
240 内部移行表面
244 平面表面
260 注ぎ口
280 バッフル
300 樋
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図10C
図11
図12
図13A
図13B
図14
図15
図16A
図16B
図17A
図17B
図18