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特許6827386超音波接合治具、超音波接合方法および接合構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6827386
(24)【登録日】2021年1月21日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】超音波接合治具、超音波接合方法および接合構造
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/10 20060101AFI20210128BHJP
   H01M 50/531 20210101ALN20210128BHJP
【FI】
   B23K20/10
   !H01M2/26 A
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-156753(P2017-156753)
(22)【出願日】2017年8月15日
(65)【公開番号】特開2019-34316(P2019-34316A)
(43)【公開日】2019年3月7日
【審査請求日】2020年2月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000230249
【氏名又は名称】日本メクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100163212
【弁理士】
【氏名又は名称】溝渕 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100156535
【弁理士】
【氏名又は名称】堅田 多恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】宮城 弘志
(72)【発明者】
【氏名】駿河 洋一
(72)【発明者】
【氏名】小谷野 修平
【審査官】 黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−152792(JP,A)
【文献】 特開平10−156555(JP,A)
【文献】 特開2006−159277(JP,A)
【文献】 特開平7−124761(JP,A)
【文献】 特開2006−278849(JP,A)
【文献】 特開2017−6940(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/150350(WO,A1)
【文献】 特表平8−501907(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第19909660(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/10
H01M 2/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の突起を有し、該突起の基端間に形成される突起間平面部を金属板に押圧しながら振動させ、前記金属板と金属製の基材とを接合する超音波接合治具であって、
前記突起の突出方向とは反対側に凹む凹部が少なくとも前記突起の振動方向両側に形成されていることを特徴とする超音波接合治具。
【請求項2】
前記突起の突出方向とは反対側に凹む凹部が前記突起の全周囲に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の超音波接合治具。
【請求項3】
前記凹部は、前記突起の基端と同一形状に形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の超音波接合治具。
【請求項4】
前記突起の基端は、前記凹部の底面から立ち上がっていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の超音波接合治具。
【請求項5】
複数の突起と該突起の基端間に形成される突起間平面部を有し、
前記突起の突出方向とは反対側に凹む凹部が少なくとも前記突起の振動方向両側に形成されている超音波接合治具を使用して金属板と金属製の基材とを接合する超音波接合方法であり、
前記突起の高さより肉厚の前記金属板に押圧しながら振動させることを特徴とする超音波接合方法。
【請求項6】
金属板と金属製の基材とが接合されたものであって、
前記金属板の表面に有底状の凹部が形成され、
前記凹部の周囲には、凹部間平坦部が形成され、
前記凹部間平坦部には、前記凹部の開口に沿って金属板成分の盛り上がりが形成されることを特徴とする接合構造。
【請求項7】
前記金属板と前記基材とは隣接する前記凹部間が接合されていることを特徴とする請求項6に記載の接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波振動によって金属板と金属製の基材とを接合するための超音波接合治具、超音波接合方法および接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波接合においては、金属板と金属製の基材を重ねて支持台上に載せた状態で、金属板に超音波接合治具を押圧しながら、超音波接合治具を所定の周波数で水平方向に超音波振動させることにより、金属板と基材との対向面において、超音波接合治具の押圧力と超音波振動が作用して金属表面の酸化物やその他の汚れが除去され、さらに押圧力と超音波振動により生じる摩擦発熱により金属原子間で接合が行われる。
【0003】
特許文献1に開示されているチップ(超音波接合治具)は、電極積層体(金属板)に当接する加工面において格子状に配置される複数の突起を有し、複数の突起のうち最外周に配された突起の輪郭線上に、その一方向の外寸法をAとしたときR≧A/6を満たす半径Rの円弧を有するように面取りを設けることにより、超音波接合による電極積層体の破れの発生を防いでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2013/105361号(第9頁、第2図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1にあっては、チップの加工面における複数の突起により電極積層体を押圧しながら、突起の先端部を電極積層体に食い込ませた状態で超音波振動させているため、電極積層体に対して突起が相対振動した際に、振動により突起の振動方向両側の側面から作用する力により電極積層体成分(金属板成分)が上方に押し上げられてしまい、電極積層体と基材と対向面に作用する振動による力が小さくなることで電極積層体と基材との接合強度が低下してしまうという問題があった。特に、電極積層体の厚さが薄い薄膜である場合にこの問題が顕著になることが判明した。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、金属板と金属製の基材との対向面に作用する振動による力を大きい状態に維持することができる超音波接合治具および超音波接合方法ならびに接合強度の高い接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の超音波接合治具は、
複数の突起を有し、該突起の基端間に形成される突起間平面部を金属板に押圧しながら振動させ、前記金属板と金属製の基材とを接合する超音波接合治具であって、
前記突起の突出方向とは反対側に凹む凹部が少なくとも前記突起の振動方向両側に形成されていることを特徴としている。
この特徴によれば、複数の突起を金属板に押圧して食い込ませていった際に突起の振動方向両側で発生する金属板成分の盛り上がりを、突起の突出方向とは反対側に凹む凹部内に保持することにより、突起間平面部を金属板の表面に確実に接触させることができるため、金属板と金属製の基材との対向面に作用する振動による力を大きな状態に維持することができる。
【0008】
前記突起の突出方向とは反対側に凹む凹部が前記突起の全周囲に形成されていることを特徴としている。
この特徴によれば、複数の突起を金属板に押圧して食い込ませていった際に突起の全周囲で発生する金属板成分の盛り上がりを、突起の突出方向とは反対側に凹む凹部内に保持することにより、突起間平面部を金属板の表面により確実に接触させることができるため、金属板と金属製の基材との対向面に作用する振動による力を大きな状態に維持することができる。
【0009】
前記凹部は、前記突起の基端と同一形状に形成されることを特徴としている。
この特徴によれば、凹部が突起の基端と同一形状に形成されることにより、凹部の側面が突起の側面に対して相補的に配置されるため、突起の側面により押し上げられて発生する金属板成分の盛り上がりを凹部内に保持しやすくすることができる。
【0010】
前記突起の基端は、前記凹部の底面から立ち上がっていることを特徴としている。
この特徴によれば、突起の基端が凹部の底面から立ち上がることにより、突起の側面により押し上げられて発生する金属板成分の盛り上がりを保持するための凹部内の容量を大きくすることができる。
【0011】
本発明の超音波接合方法は、
複数の突起と該突起の基端間に形成される突起間平面部を有し、
前記突起の突出方向とは反対側に凹む凹部が少なくとも前記突起の振動方向両側に形成されている超音波接合治具を使用して金属板と金属製の基材とを接合する超音波接合方法であり、
前記突起の高さより肉厚の前記金属板に押圧しながら振動させることを特徴としている。
この特徴によれば、突起の先端が金属板を貫通して基材に接触することがないため、加工時に金属板の強度が保たれ、突起の周囲に形成される金属板成分の盛り上がりを凹部内に保持しながら、突起の基端間に形成される突起間平面部を金属板の表面に接触させることができるため、金属板に押圧力と振動による力を効果的に作用させて金属板と基材を確実に接合することができる。
【0012】
本発明の接合構造は、
金属板と金属製の基材とが接合されたものであって、
前記金属板の表面に有底状の凹部が形成され、
前記凹部の周囲には、凹部間平坦部が形成され、
前記凹部間平坦部には、前記凹部の開口に沿って金属板成分の盛り上がりが形成されることを特徴としている。
この特徴によれば、有底状の凹部は金属板を貫通しないので金属板と基材との接合領域が広く確保でき、金属板と基材の接合強度を高めることができ、かつ超音波接合治具の突起の振動により凹部の開口に沿って形成される金属板成分の盛り上がりの有無により、超音波振動が与えられたか否が分かるため、金属板と金属製の基材とが正しく接合されたかどうか判別することができる。
【0013】
前記金属板と前記基材とは隣接する前記凹部間が接合されていることを特徴としている。
この特徴によれば、凹部だけでなく隣接する凹部間が接合されることにより、金属板と基材との接合領域が均一に接合されるため、金属板と基材の接合強度をより高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施例1に係る発明の超音波接合の原理を示す図である。
図2】(a)は、本発明の実施例1の超音波接合治具のヘッドの構造を示す側面図であり、(b)は、ヘッドを下方から見た構造を示す平面図である。
図3】本発明の実施例1のヘッドに形成される突起および凹部の形状を示す斜視図である。
図4図2(a)における囲い部Aの拡大図であり、本発明の実施例1における突起および凹部の形状を示す正面図である。
図5図2(b)における囲い部Bの拡大図であり、本発明の実施例1における突起および凹部の形状を示す平面図である。
図6】(a)は、本発明の実施例1における突起を振動させながら金属箔に押圧して金属箔とバスバーとを超音波接合している状態を示す正面断面図であり、(b)は、同じく側面断面図である。
図7】(a)および(b)は、本発明の実施例1における超音波接合における突起および凹部と金属箔成分の盛り上がりとの関係を示す正面断面図である。
図8】(a)は、本発明の実施例1における金属箔とバスバーとを超音波接合している状態を示す正面断面図であり、(b)は、超音波接合後の接合部の構造を示す正面断面図であり、(c)は、超音波接合後の接合部を上方から見た構造を示す平面図である。
図9】(a)は、本発明の実施例1における超音波接合により金属箔の表面に形成された凹部を上方から見た構造を示す平面図であり、(b)は、(a)のA−A断面における凹部の正面断面図であり、(c)は、(b)のB−B断面における凹部の側面断面図である。
図10】本発明の実施例2における突起および凹部の形状を示す平面図である。
図11】本発明の実施例3における突起および凹部の形状を示す平面図である。
図12】本発明の実施例4における突起および凹部の形状を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る超音波接合治具、超音波接合方法および接合構造を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例1】
【0016】
実施例1に係る超音波接合治具につき、図1から図9を参照して説明する。以下、図2(a)の紙面手前側および図2(b)の紙面上側を超音波接合治具の正面側(前方側)とし、その前方側から見たときの上下左右方向を基準として説明する。
【0017】
図1に示されるように、超音波接合においては、金製や銀製や銅製等の積層体である金属箔10(金属板)と金属製のバスバー11(基材)を重ねて支持台40上に載せた状態で、金属箔10に超音波接合機に取付けられたヘッド1(超音波接合治具)を押圧しながら、ヘッド1を所定の周波数で水平方向に超音波振動(以下、単に「振動」と言うこともある。)させる。これにより、金属箔10とバスバー11との対向面10a,11aにおいて、ヘッド1の押圧力と超音波振動が作用して金属表面の酸化物やその他の汚れが除去され、さらに押圧力と超音波振動により生じる摩擦発熱により金属原子間で接合が行われる。さらに尚、本実施例において使用される超音波接合機は、ヘッド1を所定の周波数で水平方向に直線的に往復振動させる一般的な超音波接合機であるため、構造や動作等の詳しい説明や図示を省略する。
【0018】
先ず、ヘッド1の構造について説明する。図2(a)および図2(b)に示されるように、ヘッド1は、アルミ合金製やチタン合金製等の金属製であり、円筒状を成す本体部2と、本体部2の下端面から下方に突出する複数の突起3と、隣接する突起3の基端間に形成される突起間平面部4と、突起間平面部4において突起3の周囲に隣接して設けられる凹部5と、から主に構成され、複数の突起3および凹部5は、本体部2の下端面における内径側に千鳥状に配置されている。尚、図2(a)において、左右方向に等間隔に配置される突起3および凹部5は、本体部2の下端面において前後略中央に配置される突起3および凹部5(図2(b)参照)のみを模式的に示したものである。また、突起間平面部4の幅は、突起3の水平方向の幅の1/2〜2、好ましくは3/4〜5/4である。
【0019】
また、本体部2の下端面における外径側には、全周に亘って突起3および凹部5が配置されない環状平面部6が形成されており、環状平面部6は、上述した突起間平面部4と同一平面上に構成されている。
【0020】
図2(b)に示されるように、突起3は、ヘッド1の振動方向に沿って左右方向に整列しており、振動方向と略直交するように対向配置される側面を構成する第1壁部31と、振動方向と略平行に対向配置される側面を構成する第2壁部32と、本体部2の下端面と略平行な平坦面となるように構成された突起3の先端の突起端面33とから、載頭四角錐形状をなし、本体部2の下端面に平行に切った断面が断面矩形状を成している。尚、突起3を構成する第1壁部31および第2壁部32は略同一構成であるため、第1壁部31について説明し、第2壁部32の説明を省略する。
【0021】
図3および図4に示されるように、第1壁部31は、突起3の先端(下方)に向かって先細りするテーパ形状を成しており、突起3の先端側に振動方向に対して略垂直に形成される垂直面部34から基端に向かうにつれて振動方向に対する傾斜角度(突起3の第1壁部31と本体部2の下端面(突起間平面部4)とで成す角度のうち、突起3外側の角度)が段階的に大きくなるように構成されることにより、全体が略四分弧状を成している。
【0022】
図3図5に示されるように、突起間平面部4において突起3の周囲に設けられる凹部5は、突起間平面部4の表面を基準にして突起3の全周囲に突起3の突出方向(下方向)とは反対側(上方側)に凹むことにより、突起3の基端と略同一形状に構成されている。詳しくは、図4および図5に示されるように、凹部5は、振動方向と略直交するように対向配置される突起3の第1壁部31とそれぞれ対向する第1内壁部5aと、振動方向と略平行に対向配置される突起3の第2壁部32とそれぞれ対向する第2内壁部5bとにより区画され、下面視矩形状を成しており、凹部5の底面5cは、本体部2の下端面と略平行な平坦面となるように構成されている。
【0023】
また、凹部5の第1内壁部5aおよび第2内壁部5bは、突起3の第1壁部31および第2壁部32からそれぞれ所定間隔離間して振動方向に対して略垂直に形成され、突起3の基端は、凹部5の底面5cから立ち上がった状態となっている。尚、突起3の基端は、第1壁部31や第2壁部32から立ち上がっていてもよい。さらに、凹部5の開口からは、突起3の先端側が下方に突出しており、突起3の先端の突出部分の高さHは、金属箔10の厚さTよりも小さく設定されている(図8(a)参照)。尚、突起3の先端の突出部分の高さHは、5〜200μm、好ましくは10〜70μm、金属箔10の厚さTの1/4〜9/10、好ましくは1/3〜4/5である。
【0024】
次いで、ヘッド1を使用して金属箔10とバスバー11を接合する超音波接合方法について説明する。図6(a)に示されるように、突起3を金属箔10に食い込ませた状態で突起3に荷重と振動が加えられることによって、金属箔10には、振動方向と略直交するように対向配置される第1壁部31により、荷重と振動により力F1が略振動方向に作用するとともに、突起端面33により、押圧力F2が略鉛直方向に作用する。尚、図6(b)に示されるように、第2壁部32は振動方向と平行な面であるため、金属箔10には、振動方向と略平行に対向配置される第2壁部32により、上述した力F1は作用せず、突起端面33により、押圧力F2のみが略鉛直方向に作用する。このように、突起3の突起端面33により、金属箔10に対して押圧力F2が略鉛直方向に作用することで超音波振動を効率よく伝達させることができるため、金属箔10およびバスバー11の金属表面の酸化物やその他の汚れを除去し、金属原子間での接合を行いやすくすることができる。
【0025】
ヘッド1を使用して金属箔10とバスバー11を接合する際には、先ず、図7(a)に示されるように、突起3の先端側の垂直面部34を金属箔10に食い込ませた状態において、金属箔10には、振動方向と略直交するように対向配置される第1壁部31により、力F1が略振動方向に作用し、第1壁部31に沿って金属箔10の成分が上方(突起3の基端側)に押し上げられて盛り上がり10bが形成される。このとき、第1壁部31は、突起3の先端側の垂直面部34が振動方向に対して略垂直に構成されているため、突起3を金属箔10に食い込ませた状態において、第1壁部31が金属箔10の成分を上方に押し上げるように作用する力を抑制することができる。尚、図7(a)および図7(b)においては、突起3を金属箔10に食い込ませた際に、突起3の振動により第1壁部31と金属箔10の表面との間に形成される微小隙間Gを示している。また、説明の便宜上、図示を省略するが、振動方向と略平行に対向配置される側面を構成する第2壁部32と金属箔10の表面との間には、力F1が作用しないため、金属箔10の成分の盛り上がり10bや微小隙間Gが形成されることはない、あるいは、形成されるが無視できるほど小さい。
【0026】
次に、図7(b)に示されるように、突起3を金属箔10にさらに食い込ませていくと、突起間平面部4が金属箔10の表面に当接する。このとき、第1壁部31に沿って形成される金属箔10の成分の盛り上がり10bは、凹部5内に保持された状態となっている。言い換えれば、金属箔10の成分の盛り上がり10bに邪魔されることなく、突起3を金属箔10に食い込ませた状態で突起間平面部4を金属箔10の表面に当接させることができる。
【0027】
また、図7(a)および図7(b)に示されるように、第1壁部31は、突起3の先端側の垂直面部34から基端に向かうにつれて振動方向に対する傾斜角度(突起3の第1壁部31と本体部2の下端面(突起間平面部4)とで成す角度のうち、突起3外側の角度)が段階的に大きくなるように構成されることにより、突起3を金属箔10に食い込ませていくにつれて、金属箔10に対して荷重と振動により力F1が作用する方向を略振動方向だけでなく略鉛直方向にも向かわせることができる。これにより、金属箔10に対して第1壁部31による力F1と突起端面33による押圧力F2とを共に略鉛直方向に作用させることができる。また、突起3の先端側の垂直面部34から基端に向かうにつれて振動方向に対する傾斜角度が段階的に大きくなるように構成されることにより、図7(a)から図7(b)に移行する過程で突起3が金属箔10に食い込みやすくなっている。
【0028】
ここで、突起3を金属箔10に所望の深さまで食い込ませた図7(b)に示される状態を詳しく説明する。突起間平面部4を金属箔10の表面に当接させた状態において、第1壁部31の先端側では、突起3の垂直面部34が振動方向に対して略垂直に配置されるため、力F1が主に振動方向に作用し、金属箔10の成分が上方に押し上げられ難くなっている。また、第1壁部31の基端側では、突起間平面部4と連続するように振動方向に対する傾きが小さくなるため、突起間平面部4による押圧力F3と協働して力F1が略鉛直方向に作用し、金属箔10の成分の盛り上がり10bを下方に押さえ込んで押し広げるようになっている。
【0029】
また、図8(a)に示されるように、突起3の先端の突出部分の高さHは、金属箔10の厚さTよりも小さく設定されており、突起3が金属箔10を貫通することがなく、突起3を金属箔10に食い込ませた状態で金属箔10の表面を突起間平面部4および環状平面部6により押圧することができるため、ヘッド1の本体部2の下端面の広い範囲を利用して押圧力と超音波振動を金属箔10およびバスバー11に伝達させることができる。
【0030】
これによれば、本実施例におけるヘッド1は、突起3を金属箔10に押圧して食い込ませていった際に突起3の全周囲(特に振動方向両側)で発生する金属箔10の成分の盛り上がり10bを、突起3の突出方向とは反対側に凹む凹部5内に保持することにより、突起間平面部4を金属箔10の表面に確実に接触させることができるため、金属箔10とバスバー11との対向面10a,11aに作用する振動による力を大きな状態に維持して、金属箔10に押圧力と振動による力を効果的に作用させて金属箔10とバスバー11を確実に接合することができる。また、突起3の先端が金属箔10を貫通してバスバー11に接触することがないため、加工時に金属箔10の強度が保たれ、突起間平面部4を金属箔10の表面に確実に接触させることができるため、ヘッド1と金属箔10との接触面積が大きくなり、金属箔10に押圧力を均等に作用させることができ、金属箔10とバスバー11の接合強度を高めることができる。
【0031】
また、凹部5は、突起3の基端と略同一形状に形成されるため、凹部5の第1内壁部5aおよび第2内壁部5bが突起3の第1壁部31および第2壁部32に対してそれぞれ相補的に配置されるため、突起3の第1壁部31および第2壁部32により押し上げられて発生する金属箔10の成分の盛り上がり10bを凹部5内に保持しやすくすることができる。
【0032】
また、突起3の基端は、凹部5の底面5cから立ち上がっているため、突起3の第1壁部31および第2壁部32により押し上げられて発生する金属箔10の成分の盛り上がり10bを保持するための凹部5内の容量を大きくすることができる。
【0033】
また、突起3は、断面矩形状であるため、突起3の振動方向に位置する第1壁部31により、金属箔10に振動を伝えやすく、かつ突起3の振動方向に沿った第2壁部32により、突起3の食い込みによって金属箔10に形成される後述する凹部13の体積を小さくすることができる。
【0034】
また、突起3の先端の突起端面33は、本体部2の下端面と略平行な平坦面となるように構成されているため、突起間平面部4とともに突起3の先端の突起端面33により金属箔10を押圧することができるため、金属箔10に対して均等に押圧力を作用させることができる。
【0035】
また、突起3は、先端側に形成される垂直面部34により、振動方向に位置する第1壁部31の先端が振動方向に対して略垂直であるため、突起3の振動方向に位置する第1壁部31により金属箔10に振動をより伝えやすくすることができる。
【0036】
次いで、ヘッド1を使用して超音波接合を行った金属箔10とバスバー11の接合構造について説明する。図8(b)および図8(c)に示されるように、ヘッド1によって押圧された金属箔10の表面には、わずかに陥没した円形の接合部12が形成される。接合部12には、複数の有底状の凹部13と、隣接する凹部13間に形成された凹部間平坦部14と、凹部13の外径側に全周に亘って凹部13が形成されない環状平坦部15と、が形成されている。
【0037】
また、図9(a)〜図9(c)に示されるように、接合部12の凹部13は、矩形の底面13aと、振動方向と略直交するように対向する第1側面13bと、振動方向と略平行に対向する第2側面13cと、から構成されている。尚、第1側面13bの幅寸法W1は、第2側面13cの幅寸法W2よりも、前述した突起3の振動により第1壁部31と金属箔10の表面との間に形成される微小隙間Gの幅寸法分わずかに大きくなっている。さらに、接合部12の凹部13の開口には、第1側面13bに沿って金属箔10の成分の盛り上がり10bが形成されている。
【0038】
これによれば、有底状の接合部12の凹部13は金属箔10を貫通しないので金属箔10とバスバー11との接合領域が広く、ヘッド1の突起3の振動により接合部12の凹部13の開口に沿って形成される金属箔10の成分の盛り上がり10bの有無により、超音波振動が与えられたか否が分かるため、金属箔10とバスバー11とが正しく接合されたかどうか判別することができる。
【0039】
また、金属箔10とバスバー11は、隣接する凹部13間、すなわちヘッド1の突起間平面部4が当接することにより押圧された凹部間平坦部14と、ヘッド1の環状平面部6が当接することにより押圧された環状平坦部15において、金属箔10とバスバー11が接合されるため、接合部12における金属箔10とバスバー11との接合領域が略均一に接合されることとなり、金属箔10とバスバー11の接合強度をより高めることができる。
【実施例2】
【0040】
次に、実施例2に係る超音波接合治具につき、図10を参照して説明する。尚、前記実施例に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0041】
図10に示されるように、実施例2におけるヘッド(超音波接合治具)においては、突起103は、振動方向と略直交するように対向配置される側面を構成する第1壁部131と、振動方向と略平行に対向配置される側面を構成する第2壁部132と、本体部2の下端面と略平行な平坦面となるように構成された突起103の先端の突起端面133とから、載頭四角錐形状をなし、本体部2の下端面に平行に切った断面が断面矩形状を成している。尚、突起103の第1壁部131は、第2壁部132よりも幅寸法が小さく構成されることにより、突起103の外形が長方形状に構成されている。
【0042】
また、突起間平面部4において突起103の周囲に隣接して設けられる凹部105は、突起間平面部4の表面を基準にして突起103の全周囲に突起103の突出方向(下方向)とは反対側(上方側)に凹むことにより、突起103の基端と略同一形状(長方形状)に構成されている。詳しくは、凹部105は、振動方向と略直交するように対向配置される突起103の第1壁部131とそれぞれ対向する第1内壁部105aと、振動方向と略平行に対向配置される突起103の第2壁部132とそれぞれ対向する第2内壁部105bとにより区画され、下面視長方形状を成しており、凹部105の底面105cは、本体部2の下端面と略平行な平坦面となるように構成されている。
【0043】
これによれば、本実施例におけるヘッドは、凹部105が突起103の基端と略同一形状に形成されるため、凹部105の第1内壁部105aおよび第2内壁部105bが突起103の第1壁部131および第2壁部132に対してそれぞれ相補的に配置されるため、突起103の第1壁部131および第2壁部132により押し上げられて発生する金属箔10の成分の盛り上がり10bを凹部105内に保持しやすくすることができる。
【0044】
また、突起103は、振動方向と略直交するように対向配置される第1壁部131が振動方向に沿って対向配置される第2壁部132よりも幅寸法が小さい長方形状に構成されているため、突起103の食い込みによって金属箔10に形成される接合部12の凹部13の体積を小さくすることができる。
【実施例3】
【0045】
次に、実施例3に係る超音波接合治具につき、図11を参照して説明する。尚、前記実施例に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0046】
図11に示されるように、実施例3におけるヘッド(超音波接合治具)においては、突起203は、円弧形状の壁部231から断面円形状を成し、突起203の先端の突起端面233は、本体部2の下端面と略平行な平坦面となるように構成されている。
【0047】
また、突起間平面部4において突起203の周囲に隣接して設けられる凹部205は、突起間平面部4の表面を基準にして突起203の全周囲に突起203の突出方向(下方向)とは反対側(上方側)に凹むことにより、突起203の基端と略同一形状(円形状)に構成されている。詳しくは、凹部205は、突起203の壁部231と対向する円弧形状の内壁部205aにより区画され、下面視円形状を成しており、凹部205の底面205bは、本体部2の下端面と略平行な平坦面となるように構成されている。
【0048】
これによれば、本実施例におけるヘッドは、凹部205が突起203の基端と略同一形状に形成されるため、凹部205の内壁部205aが突起203の壁部231に対してそれぞれ相補的に配置されるため、突起203の壁部231により押し上げられて発生する金属箔10の成分の盛り上がり10bを凹部205内に保持しやすくすることができる。
【実施例4】
【0049】
次に、実施例4に係る超音波接合治具につき、図12を参照して説明する。尚、前記実施例に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0050】
図12に示されるように、実施例4におけるヘッド(超音波接合治具)においては、突起303は、振動方向と略直交するように対向配置される側面を構成する第1壁部331と、振動方向と略平行に対向配置される側面を構成する第2壁部332と、本体部2の下端面と略平行な平坦面となるように構成された突起303の先端の突起端面333とから、台形板状をなし、本体部2の下端面に平行に切った断面が断面矩形状を成している。尚、第2壁部332は、振動方向に直交する方向から見て略台形、かつ本体部2の下端面(突起間平面部4)に対して略垂直な面として構成されている。
【0051】
また、突起間平面部4に隣接して設けられる凹部305は、突起303の振動方向両側に突起間平面部4の表面を基準にして突起303の突出方向(下方向)とは反対側(上方側)に凹むことによりに構成されている。詳しくは、凹部305は、振動方向と略直交するように対向配置される突起303の第1壁部331とそれぞれ対向する第1内壁部305aと、振動方向と略平行に対向配置される突起303の第2壁部332と同一平面上に配置される第2内壁部305bとにより区画され、下面視長方形状を成しており、凹部305の底面305cは、本体部2の下端面と略平行な平坦面となるように構成されている。
【0052】
これによれば、本実施例におけるヘッドは、突起303を金属箔10に押圧して食い込ませていった際に突起303の振動方向両側で発生する金属箔10の成分の盛り上がり10bを、突起303の突出方向とは反対側に凹む凹部305内に保持することにより、突起間平面部4を金属箔10の表面に確実に接触させることができるため、金属箔10とバスバー11との対向面10a,11aに作用する振動による力を大きな状態に維持して、金属箔10に押圧力と振動による力を効果的に作用させて金属箔10とバスバー11を確実に接合することができる。
【0053】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0054】
例えば、前記実施例では、ヘッド1の本体部2は、円筒状のものに限らず、金属箔と超音波接合される基材の形状に合わせて自由に構成されてよい。また、金属箔と超音波接合される基材は、バスバーに限らず、各種端子やケーブル等、自由に選択されてよい。
【0055】
また、前記実施例では、凹部5,105,205,305の開口から突出する突起3,103,203,303の先端側の突出部分の高さHが金属箔10の厚さTよりも小さく構成されるものとして説明したが、これに限らず、ヘッドの下端面における突起間平面部および環状平面部を金属箔の表面に当接させることができ、金属箔を貫通することがなければ、凹部の開口から突出する突起の先端側の突出部分の高さが金属箔の厚みと略同一に構成されてもよい。
【0056】
また、複数の突起3,103,203,303の形状は、凹部5,105,205,305の開口から先端が突出するものであれば、自由に構成されてよいが、突起の少なくとも振動方向に位置する側面の形状は突起の内側に向かって凹む、いわゆる内向き凸の凹形状であることが好ましい。
【0057】
また、複数の突起3,103,203,303は、千鳥状に配置されているが、碁盤目状に配置されてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1 ヘッド(超音波接合治具)
2 本体部
3 突起
4 突起間平面部
5 凹部
5a 第1内壁部
5b 第2内壁部
5c 底面
6 環状平面部
10 金属箔(金属板)
10a 対向面
10b 盛り上がり
11 バスバー(基材)
11a 対向面
12 接合部
13 凹部
13a 底面
13b 第1側面
13c 第2側面
14 凹部間平坦部
15 環状平坦部
31 第1壁部
32 第2壁部
33 突起端面
34 垂直面部
40 支持台
103 突起
105 凹部
105a 第1内壁部
105b 第2内壁部
131 第1壁部
132 第2壁部
203 突起
205 凹部
205a 内壁部
231 壁部
303 突起
305 凹部
305a 第1内壁部
305b 第2内壁部
305c 底面
331 第1壁部
332 第2壁部
F1 力
F2,F3 押圧力
G 微小隙間
W1,W2 幅寸法
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12