【実施例1】
【0016】
実施例1に係る超音波接合治具につき、
図1から
図9を参照して説明する。以下、
図2(a)の紙面手前側および
図2(b)の紙面上側を超音波接合治具の正面側(前方側)とし、その前方側から見たときの上下左右方向を基準として説明する。
【0017】
図1に示されるように、超音波接合においては、金製や銀製や銅製等の積層体である金属箔10(金属板)と金属製のバスバー11(基材)を重ねて支持台40上に載せた状態で、金属箔10に超音波接合機に取付けられたヘッド1(超音波接合治具)を押圧しながら、ヘッド1を所定の周波数で水平方向に超音波振動(以下、単に「振動」と言うこともある。)させる。これにより、金属箔10とバスバー11との対向面10a,11aにおいて、ヘッド1の押圧力と超音波振動が作用して金属表面の酸化物やその他の汚れが除去され、さらに押圧力と超音波振動により生じる摩擦発熱により金属原子間で接合が行われる。さらに尚、本実施例において使用される超音波接合機は、ヘッド1を所定の周波数で水平方向に直線的に往復振動させる一般的な超音波接合機であるため、構造や動作等の詳しい説明や図示を省略する。
【0018】
先ず、ヘッド1の構造について説明する。
図2(a)および
図2(b)に示されるように、ヘッド1は、アルミ合金製やチタン合金製等の金属製であり、円筒状を成す本体部2と、本体部2の下端面から下方に突出する複数の突起3と、隣接する突起3の基端間に形成される突起間平面部4と、突起間平面部4において突起3の周囲に隣接して設けられる凹部5と、から主に構成され、複数の突起3および凹部5は、本体部2の下端面における内径側に千鳥状に配置されている。尚、
図2(a)において、左右方向に等間隔に配置される突起3および凹部5は、本体部2の下端面において前後略中央に配置される突起3および凹部5(
図2(b)参照)のみを模式的に示したものである。また、突起間平面部4の幅は、突起3の水平方向の幅の1/2〜2、好ましくは3/4〜5/4である。
【0019】
また、本体部2の下端面における外径側には、全周に亘って突起3および凹部5が配置されない環状平面部6が形成されており、環状平面部6は、上述した突起間平面部4と同一平面上に構成されている。
【0020】
図2(b)に示されるように、突起3は、ヘッド1の振動方向に沿って左右方向に整列しており、振動方向と略直交するように対向配置される側面を構成する第1壁部31と、振動方向と略平行に対向配置される側面を構成する第2壁部32と、本体部2の下端面と略平行な平坦面となるように構成された突起3の先端の突起端面33とから、載頭四角錐形状をなし、本体部2の下端面に平行に切った断面が断面矩形状を成している。尚、突起3を構成する第1壁部31および第2壁部32は略同一構成であるため、第1壁部31について説明し、第2壁部32の説明を省略する。
【0021】
図3および
図4に示されるように、第1壁部31は、突起3の先端(下方)に向かって先細りするテーパ形状を成しており、突起3の先端側に振動方向に対して略垂直に形成される垂直面部34から基端に向かうにつれて振動方向に対する傾斜角度(突起3の第1壁部31と本体部2の下端面(突起間平面部4)とで成す角度のうち、突起3外側の角度)が段階的に大きくなるように構成されることにより、全体が略四分弧状を成している。
【0022】
図3〜
図5に示されるように、突起間平面部4において突起3の周囲に設けられる凹部5は、突起間平面部4の表面を基準にして突起3の全周囲に突起3の突出方向(下方向)とは反対側(上方側)に凹むことにより、突起3の基端と略同一形状に構成されている。詳しくは、
図4および
図5に示されるように、凹部5は、振動方向と略直交するように対向配置される突起3の第1壁部31とそれぞれ対向する第1内壁部5aと、振動方向と略平行に対向配置される突起3の第2壁部32とそれぞれ対向する第2内壁部5bとにより区画され、下面視矩形状を成しており、凹部5の底面5cは、本体部2の下端面と略平行な平坦面となるように構成されている。
【0023】
また、凹部5の第1内壁部5aおよび第2内壁部5bは、突起3の第1壁部31および第2壁部32からそれぞれ所定間隔離間して振動方向に対して略垂直に形成され、突起3の基端は、凹部5の底面5cから立ち上がった状態となっている。尚、突起3の基端は、第1壁部31や第2壁部32から立ち上がっていてもよい。さらに、凹部5の開口からは、突起3の先端側が下方に突出しており、突起3の先端の突出部分の高さHは、金属箔10の厚さTよりも小さく設定されている(
図8(a)参照)。尚、突起3の先端の突出部分の高さHは、5〜200μm、好ましくは10〜70μm、金属箔10の厚さTの1/4〜9/10、好ましくは1/3〜4/5である。
【0024】
次いで、ヘッド1を使用して金属箔10とバスバー11を接合する超音波接合方法について説明する。
図6(a)に示されるように、突起3を金属箔10に食い込ませた状態で突起3に荷重と振動が加えられることによって、金属箔10には、振動方向と略直交するように対向配置される第1壁部31により、荷重と振動により力F1が略振動方向に作用するとともに、突起端面33により、押圧力F2が略鉛直方向に作用する。尚、
図6(b)に示されるように、第2壁部32は振動方向と平行な面であるため、金属箔10には、振動方向と略平行に対向配置される第2壁部32により、上述した力F1は作用せず、突起端面33により、押圧力F2のみが略鉛直方向に作用する。このように、突起3の突起端面33により、金属箔10に対して押圧力F2が略鉛直方向に作用することで超音波振動を効率よく伝達させることができるため、金属箔10およびバスバー11の金属表面の酸化物やその他の汚れを除去し、金属原子間での接合を行いやすくすることができる。
【0025】
ヘッド1を使用して金属箔10とバスバー11を接合する際には、先ず、
図7(a)に示されるように、突起3の先端側の垂直面部34を金属箔10に食い込ませた状態において、金属箔10には、振動方向と略直交するように対向配置される第1壁部31により、力F1が略振動方向に作用し、第1壁部31に沿って金属箔10の成分が上方(突起3の基端側)に押し上げられて盛り上がり10bが形成される。このとき、第1壁部31は、突起3の先端側の垂直面部34が振動方向に対して略垂直に構成されているため、突起3を金属箔10に食い込ませた状態において、第1壁部31が金属箔10の成分を上方に押し上げるように作用する力を抑制することができる。尚、
図7(a)および
図7(b)においては、突起3を金属箔10に食い込ませた際に、突起3の振動により第1壁部31と金属箔10の表面との間に形成される微小隙間Gを示している。また、説明の便宜上、図示を省略するが、振動方向と略平行に対向配置される側面を構成する第2壁部32と金属箔10の表面との間には、力F1が作用しないため、金属箔10の成分の盛り上がり10bや微小隙間Gが形成されることはない、あるいは、形成されるが無視できるほど小さい。
【0026】
次に、
図7(b)に示されるように、突起3を金属箔10にさらに食い込ませていくと、突起間平面部4が金属箔10の表面に当接する。このとき、第1壁部31に沿って形成される金属箔10の成分の盛り上がり10bは、凹部5内に保持された状態となっている。言い換えれば、金属箔10の成分の盛り上がり10bに邪魔されることなく、突起3を金属箔10に食い込ませた状態で突起間平面部4を金属箔10の表面に当接させることができる。
【0027】
また、
図7(a)および
図7(b)に示されるように、第1壁部31は、突起3の先端側の垂直面部34から基端に向かうにつれて振動方向に対する傾斜角度(突起3の第1壁部31と本体部2の下端面(突起間平面部4)とで成す角度のうち、突起3外側の角度)が段階的に大きくなるように構成されることにより、突起3を金属箔10に食い込ませていくにつれて、金属箔10に対して荷重と振動により力F1が作用する方向を略振動方向だけでなく略鉛直方向にも向かわせることができる。これにより、金属箔10に対して第1壁部31による力F1と突起端面33による押圧力F2とを共に略鉛直方向に作用させることができる。また、突起3の先端側の垂直面部34から基端に向かうにつれて振動方向に対する傾斜角度が段階的に大きくなるように構成されることにより、
図7(a)から
図7(b)に移行する過程で突起3が金属箔10に食い込みやすくなっている。
【0028】
ここで、突起3を金属箔10に所望の深さまで食い込ませた
図7(b)に示される状態を詳しく説明する。突起間平面部4を金属箔10の表面に当接させた状態において、第1壁部31の先端側では、突起3の垂直面部34が振動方向に対して略垂直に配置されるため、力F1が主に振動方向に作用し、金属箔10の成分が上方に押し上げられ難くなっている。また、第1壁部31の基端側では、突起間平面部4と連続するように振動方向に対する傾きが小さくなるため、突起間平面部4による押圧力F3と協働して力F1が略鉛直方向に作用し、金属箔10の成分の盛り上がり10bを下方に押さえ込んで押し広げるようになっている。
【0029】
また、
図8(a)に示されるように、突起3の先端の突出部分の高さHは、金属箔10の厚さTよりも小さく設定されており、突起3が金属箔10を貫通することがなく、突起3を金属箔10に食い込ませた状態で金属箔10の表面を突起間平面部4および環状平面部6により押圧することができるため、ヘッド1の本体部2の下端面の広い範囲を利用して押圧力と超音波振動を金属箔10およびバスバー11に伝達させることができる。
【0030】
これによれば、本実施例におけるヘッド1は、突起3を金属箔10に押圧して食い込ませていった際に突起3の全周囲(特に振動方向両側)で発生する金属箔10の成分の盛り上がり10bを、突起3の突出方向とは反対側に凹む凹部5内に保持することにより、突起間平面部4を金属箔10の表面に確実に接触させることができるため、金属箔10とバスバー11との対向面10a,11aに作用する振動による力を大きな状態に維持して、金属箔10に押圧力と振動による力を効果的に作用させて金属箔10とバスバー11を確実に接合することができる。また、突起3の先端が金属箔10を貫通してバスバー11に接触することがないため、加工時に金属箔10の強度が保たれ、突起間平面部4を金属箔10の表面に確実に接触させることができるため、ヘッド1と金属箔10との接触面積が大きくなり、金属箔10に押圧力を均等に作用させることができ、金属箔10とバスバー11の接合強度を高めることができる。
【0031】
また、凹部5は、突起3の基端と略同一形状に形成されるため、凹部5の第1内壁部5aおよび第2内壁部5bが突起3の第1壁部31および第2壁部32に対してそれぞれ相補的に配置されるため、突起3の第1壁部31および第2壁部32により押し上げられて発生する金属箔10の成分の盛り上がり10bを凹部5内に保持しやすくすることができる。
【0032】
また、突起3の基端は、凹部5の底面5cから立ち上がっているため、突起3の第1壁部31および第2壁部32により押し上げられて発生する金属箔10の成分の盛り上がり10bを保持するための凹部5内の容量を大きくすることができる。
【0033】
また、突起3は、断面矩形状であるため、突起3の振動方向に位置する第1壁部31により、金属箔10に振動を伝えやすく、かつ突起3の振動方向に沿った第2壁部32により、突起3の食い込みによって金属箔10に形成される後述する凹部13の体積を小さくすることができる。
【0034】
また、突起3の先端の突起端面33は、本体部2の下端面と略平行な平坦面となるように構成されているため、突起間平面部4とともに突起3の先端の突起端面33により金属箔10を押圧することができるため、金属箔10に対して均等に押圧力を作用させることができる。
【0035】
また、突起3は、先端側に形成される垂直面部34により、振動方向に位置する第1壁部31の先端が振動方向に対して略垂直であるため、突起3の振動方向に位置する第1壁部31により金属箔10に振動をより伝えやすくすることができる。
【0036】
次いで、ヘッド1を使用して超音波接合を行った金属箔10とバスバー11の接合構造について説明する。
図8(b)および
図8(c)に示されるように、ヘッド1によって押圧された金属箔10の表面には、わずかに陥没した円形の接合部12が形成される。接合部12には、複数の有底状の凹部13と、隣接する凹部13間に形成された凹部間平坦部14と、凹部13の外径側に全周に亘って凹部13が形成されない環状平坦部15と、が形成されている。
【0037】
また、
図9(a)〜
図9(c)に示されるように、接合部12の凹部13は、矩形の底面13aと、振動方向と略直交するように対向する第1側面13bと、振動方向と略平行に対向する第2側面13cと、から構成されている。尚、第1側面13bの幅寸法W1は、第2側面13cの幅寸法W2よりも、前述した突起3の振動により第1壁部31と金属箔10の表面との間に形成される微小隙間Gの幅寸法分わずかに大きくなっている。さらに、接合部12の凹部13の開口には、第1側面13bに沿って金属箔10の成分の盛り上がり10bが形成されている。
【0038】
これによれば、有底状の接合部12の凹部13は金属箔10を貫通しないので金属箔10とバスバー11との接合領域が広く、ヘッド1の突起3の振動により接合部12の凹部13の開口に沿って形成される金属箔10の成分の盛り上がり10bの有無により、超音波振動が与えられたか否が分かるため、金属箔10とバスバー11とが正しく接合されたかどうか判別することができる。
【0039】
また、金属箔10とバスバー11は、隣接する凹部13間、すなわちヘッド1の突起間平面部4が当接することにより押圧された凹部間平坦部14と、ヘッド1の環状平面部6が当接することにより押圧された環状平坦部15において、金属箔10とバスバー11が接合されるため、接合部12における金属箔10とバスバー11との接合領域が略均一に接合されることとなり、金属箔10とバスバー11の接合強度をより高めることができる。
【実施例4】
【0049】
次に、実施例4に係る超音波接合治具につき、
図12を参照して説明する。尚、前記実施例に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0050】
図12に示されるように、実施例4におけるヘッド(超音波接合治具)においては、突起303は、振動方向と略直交するように対向配置される側面を構成する第1壁部331と、振動方向と略平行に対向配置される側面を構成する第2壁部332と、本体部2の下端面と略平行な平坦面となるように構成された突起303の先端の突起端面333とから、台形板状をなし、本体部2の下端面に平行に切った断面が断面矩形状を成している。尚、第2壁部332は、振動方向に直交する方向から見て略台形、かつ本体部2の下端面(突起間平面部4)に対して略垂直な面として構成されている。
【0051】
また、突起間平面部4に隣接して設けられる凹部305は、突起303の振動方向両側に突起間平面部4の表面を基準にして突起303の突出方向(下方向)とは反対側(上方側)に凹むことによりに構成されている。詳しくは、凹部305は、振動方向と略直交するように対向配置される突起303の第1壁部331とそれぞれ対向する第1内壁部305aと、振動方向と略平行に対向配置される突起303の第2壁部332と同一平面上に配置される第2内壁部305bとにより区画され、下面視長方形状を成しており、凹部305の底面305cは、本体部2の下端面と略平行な平坦面となるように構成されている。
【0052】
これによれば、本実施例におけるヘッドは、突起303を金属箔10に押圧して食い込ませていった際に突起303の振動方向両側で発生する金属箔10の成分の盛り上がり10bを、突起303の突出方向とは反対側に凹む凹部305内に保持することにより、突起間平面部4を金属箔10の表面に確実に接触させることができるため、金属箔10とバスバー11との対向面10a,11aに作用する振動による力を大きな状態に維持して、金属箔10に押圧力と振動による力を効果的に作用させて金属箔10とバスバー11を確実に接合することができる。
【0053】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0054】
例えば、前記実施例では、ヘッド1の本体部2は、円筒状のものに限らず、金属箔と超音波接合される基材の形状に合わせて自由に構成されてよい。また、金属箔と超音波接合される基材は、バスバーに限らず、各種端子やケーブル等、自由に選択されてよい。
【0055】
また、前記実施例では、凹部5,105,205,305の開口から突出する突起3,103,203,303の先端側の突出部分の高さHが金属箔10の厚さTよりも小さく構成されるものとして説明したが、これに限らず、ヘッドの下端面における突起間平面部および環状平面部を金属箔の表面に当接させることができ、金属箔を貫通することがなければ、凹部の開口から突出する突起の先端側の突出部分の高さが金属箔の厚みと略同一に構成されてもよい。
【0056】
また、複数の突起3,103,203,303の形状は、凹部5,105,205,305の開口から先端が突出するものであれば、自由に構成されてよいが、突起の少なくとも振動方向に位置する側面の形状は突起の内側に向かって凹む、いわゆる内向き凸の凹形状であることが好ましい。
【0057】
また、複数の突起3,103,203,303は、千鳥状に配置されているが、碁盤目状に配置されてもよい。