(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6827393
(24)【登録日】2021年1月21日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】動物の健康状態管理システム及び管理方法
(51)【国際特許分類】
A01K 29/00 20060101AFI20210128BHJP
【FI】
A01K29/00 A
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-183384(P2017-183384)
(22)【出願日】2017年9月25日
(65)【公開番号】特開2019-58079(P2019-58079A)
(43)【公開日】2019年4月18日
【審査請求日】2019年2月1日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター「革新的技術開発・緊急展開事業(うち地域戦略プロジェクト)」、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの)
(73)【特許権者】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100187322
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 直輝
(72)【発明者】
【氏名】阿出川 俊和
(72)【発明者】
【氏名】横山 宗央
【審査官】
田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】
特許第6101878(JP,B1)
【文献】
特開2017−062125(JP,A)
【文献】
特開2017−085941(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0319336(US,A1)
【文献】
特開2018−050794(JP,A)
【文献】
国際公開第2017/077676(WO,A1)
【文献】
前田龍太郎,「社会課題対応常時・継続モニタリングシステムの開発(先端研究)の成果」 農業分野 スマート農業・畜産システムの開発,ナノマイクロビジネス展 先導研究プロジェクト成果報告会資料,2014年 4月24日,pp.1-21
【文献】
福井陽士 他,赤外線サーモグラフィを用いた健康牛における体表各部の表面温度解析及び左右差の検討,日本獣医師会雑誌,2014年 4月,Vol.67 No.4,pp.249-254
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 29/00
A01K 67/00−67/04
A61B 5/01
G01J 5/00−5/62
G01N 25/00−25/72
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物の体温を用いて健康状態を管理する動物の健康状態管理システムであって、
前記動物に哺乳する哺乳部と、
前記哺乳部から両側方に延びる支持部の両端に設けられ、非接触で所定の範囲の温度分布を測定する2つの測温部と、
前記温度分布から前記動物の体温に相関する相関温度を抽出する抽出部と、
前記抽出部が抽出した前記相関温度から前記動物の健康状態を管理する管理部と、
を備え、
前記2つの測温部は、前記哺乳部に対して哺乳時の前記動物の頭部の前記動物の正面方向から左右にオフセットされて配置され、それぞれ前記動物の頭部を前記動物の横方向から指向するように固定されている、
動物の健康状態管理システム。
【請求項2】
前記測温部は、前記所定の範囲の温度分布を示す熱画像を撮影するサーモグラフィカメラであり、
前記抽出部は、前記熱画像内において前記相関温度に対応する部分の温度を抽出することで、前記相関温度の抽出を行う請求項1記載の動物の健康状態管理システム。
【請求項3】
前記測温部は、複数の範囲の温度分布を測定し、
前記抽出部は、前記複数の範囲の温度分布から抽出される相関温度の平均値を前記管理部にて管理する相関温度とする請求項1又は2記載の動物の健康状態管理システム。
【請求項4】
さらに前記動物の個体を識別する個体識別部と、を備え、
前記管理部は、前記個体ごとの健康状態を管理する請求項1から3のいずれか一項に記載の動物の健康状態管理システム。
【請求項5】
前記管理部は、前記抽出部が抽出した前記相関温度を記憶部に記憶していき、当該記憶部に記憶された相関温度の履歴から前記動物の平常状態を算出する請求項1から4のいずれか一項に記載の動物の健康状態管理システム。
【請求項6】
前記管理部は、前記抽出部が抽出した前記相関温度と、前記動物の平常状態とを比較して前記動物の異常を判別する請求項5記載の動物の健康状態管理システム。
【請求項7】
さらに前記管理部が前記動物の健康状態について異常と判別した場合に、当該異常に関する情報を発信する通信部と、を備える請求項6記載の動物の健康状態管理システム。
【請求項8】
さらに前記抽出部にて抽出した相関温度を校正するための校正部を備える請求項1から7のいずれか一項に記載の動物の健康状態管理システム。
【請求項9】
動物の体温を用いて健康状態を管理する動物の健康状態管理方法であって、
前記動物に哺乳する哺乳部から両側方に延びる支持部の両端にて哺乳時の前記動物の頭部の正面方向から左右にオフセットされて配置され、それぞれ前記動物の頭部を前記動物の横方向から指向するように固定されており、非接触で所定の範囲の温度分布を測定する2つの測温部により、前記哺乳時の前記動物の頭部を測定する測温工程と、
前記温度分布から前記動物の体温に相関する相関温度を抽出する抽出工程と、
前記抽出工程にて抽出した前記相関温度から前記動物の健康状態を管理する管理工程と、
を備える動物の健康状態管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家畜等の動物の健康状態を管理する管理システム及び管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、牛等の動物の健康状態を管理する上で体温を測定する必要がある。牛等に対する体温測定では、体温計などの接触型温度計を直腸内又は口内に挿入して測定しており、測定中には一定時間、定位置に留めなければならなかった。それゆえ、測定者にも、動物にも多大なストレスや労力がかかっていた。
【0003】
そこで、動物の健康状態を判断する方法として、動物の体内に、通信可能で体温測定のできる半導体チップを埋め込むことで、常時動物の健康状態を監視・管理するものがある。(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−34265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の発明では、動物の体内に半導体チップを埋め込むためには獣医師による施術が必要である。また、半導体チップが故障した場合等にも、施術によって半導体チップを交換しなければならない。従って、特許文献1の技術を用いた場合でも、管理者や動物に多大なストレスや労力がかかるという問題がある。
【0006】
特に、子牛など幼畜は免疫力が弱いため、施術により細菌やウイルス等に感染しやすいという問題もある。
【0007】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは動物の健康状態を管理する者及び測定対象である動物に対するストレスや労力を削減しつつ動物の健康状態を管理することのできる動物の健康状態管理システム及び管理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、本発明に係る動物の健康状態管理システムは、動物の体温を用いて健康状態を管理する動物の健康状態管理システムであって、前記動物に哺乳する哺乳部と、前記哺乳部
から両側方に延びる支持部の両端に設けられ、非接触で所定の範囲の温度分布を測定する2つの測温部と、前記温度分布から前記動物の体温に相関する相関温度を抽出する抽出部と、前記抽出部が抽出した前記相関温度から前記動物の健康状態を管理する管理部と、を備え、前記2つの測温部は、前記哺乳部に対して哺乳時の前記動物の頭部の正面方向から左右にオフセットされて配置され、それぞれ前記動物の頭部を前記動物の横方向から指向するように固定されている。
【0009】
また、上述した管理システムにおいて、前記測温部は、前記所定の範囲の温度分布を示す熱画像を撮影するサーモグラフィカメラであり、前記抽出部は、前記熱画像内において最も高い温度を前記相関温度として抽出することとしてもよい。
【0010】
また、上述した管理システムにおいて、前記測温部は、複数の範囲の温度分布を測定し、前記抽出部は、前記複数の範囲の温度分布から抽出される相関温度の平均値を前記管理部にて管理する相関温度としてもよい。
【0011】
また、上述した管理システムにおいて、さらに前記動物の個体を識別する個体識別部と、を備え、前記管理部は、前記個体ごとの健康状態を管理することとしてもよい。
【0012】
また、上述した管理システムにおいて、前記管理部は、前記抽出部が抽出した前記相関温度を記憶部に記憶していき、当該記憶部に記憶された相関温度の履歴から前記動物の平常状態を算出することとしてもよい。
【0013】
また、上述した管理システムにおいて、前記管理部は、前記抽出部が抽出した前記相関温度と、前記動物の平常状態とを比較して前記動物の異常を判別することとしてもよい。
【0014】
また、上述した管理システムにおいて、さらに前記管理部が前記動物の健康状態について異常と判別した場合に、当該異常に関する情報を発信する通信部と、を備えてもよい。
【0015】
また、上述した管理システムにおいて、さらに前記抽出部にて抽出した相関温度を校正するための校正部を備えてもよい。
【0016】
また、上記した目的を達成するために、本発明に係る動物の健康状態管理方法では、動物の体温を用いて健康状態を管理する動物の健康状態管理方法であって、前記動物に哺乳する哺乳部
から両側方に延びる支持部の両端にて哺乳時の前記動物の頭部の正面方向から左右にオフセットされて配置され、それぞれ前記動物の頭部を前記動物の横方向から指向するように固定されており、非接触で所定の範囲の温度分布を測定する2つの測温部により、前記哺乳時の前記動物の頭部を測定する測温工程と、前記温度分布から前記動物の体温に相関する相関温度を抽出する抽出工程と、前記抽出工程にて抽出した前記相関温度から前記動物の健康状態を管理する管理工程と、を備える。
【発明の効果】
【0017】
上記手段を用いる本発明によれば、動物の健康状態を管理する者及び測定対象である動物に対するストレスや労力を削減しつつ動物の健康状態を管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る動物の健康状態管理システムの全体構成図である。
【
図2】本発明の一実施形態における動物の健康状態管理ルーチンを示すフローチャートである。
【
図3】熱画像から相関温度を抽出する説明図である。
【
図4】本発明の第1変形例に係る動物の健康状態管理システムの概略構成図である。
【
図5】(a)本発明の第2変形例に係る動物の健康状態管理システムの概略構成図、及び(b)校正部の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
【0020】
図1には本実施形態に係る動物の健康状態管理システムの全体構成図が示されており、同図に基づき本発明における管理システムの構成について説明する。
【0021】
管理システム1は、動物の体外から当該動物の体温を非接触で測定し、測定した体温に基づき健康状態の管理を行うシステムである。本実施形態においては健康状態の管理対象の動物を子牛Cとし、複数の子牛Cを管理する。
【0022】
管理システム1は、主に、子牛Cに哺乳する哺乳部2と、当該哺乳部2に設けられ、非接触で所定の範囲の温度分布を測定する測温部3と、子牛Cの健康状態を集中管理する処理装置4を有している。
【0023】
詳しくは、哺乳部2は、子牛Cが哺乳のために咥える人工乳首10が本体部11から突出しており、当該本体部11が輸送管12を介してミルクタンク13に接続されている。ミルクタンク13には子牛Cの飼料であるミルクが貯留されており、当該ミルクタンクの上部にはカメラ支持部14が形成されている。カメラ支持部14は輸送管12と同方向に突出しており、当該カメラ支持部14上に測温部3が設けられている。
【0024】
測温部3は、サーモグラフィカメラ20がカメラ向き調整部21により支持されている。サーモグラフィカメラ20は、レンズ部分がカメラ向き調整部21により哺乳時の子牛Cの頭部に指向するよう固定されている。カメラ向き調整部21は、手動又は自動で動作してサーモグラフィカメラ20の向きを変更することも可能である。
【0025】
サーモグラフィカメラ20は、測定対象物から発せられる赤外線量に基づいて、非接触で所定の範囲の温度分布を示す熱画像(静止画又は動画)を撮影可能なカメラである。
【0026】
処理装置4は、サーモグラフィカメラ20と有線、無線、又はインターネット等の通信網を介して接続された、パーソナルコンピュータ(PC)やサーバ等のコンピュータであり、抽出部30、個体識別部31、管理部32、記憶部33、出力部34、通信部35を有している。なお、これらの各部はコンピュータや付属部品がプログラムに従って実行する各処理機能を示したものであり、これらの機能は主にCPU等の演算処理装置により実現される。
【0027】
抽出部30は、サーモグラフィカメラ20により撮影された熱画像から子牛Cの体温(深部体温)に相関する相関温度を抽出する部分である。相関温度を抽出する手法としては、例えば、抽出部30は、子牛Cの頭部において深部体温と相関性の高い部位とされる、眼球、眼の周囲、又は耳の内側など体毛の被覆が少ない部位を指定して、当該部位の温度を抽出したり、熱画像内において最も高い温度の範囲の平均温度を抽出したりすることで行う。又は、熱画像そのものからではなく、例えば熱画像のヒストグラムを算出し、当該ヒストグラムから温度分布が多い温度を相関温度として抽出してもよい。
【0028】
個体識別部31は、子牛Cの個体を識別する部分である。例えば、ミルクタンク13に図示しないスキャナが搭載されており、子牛Cに付された個体情報を有する標識(例えば、耳標等)をスキャンする。次に、個体識別部31は、スキャンした情報と内蔵されている個々の子牛の個体情報とを照らし合わせて、子牛Cの個体を識別する。なお、子牛Cに付された標識を用いて個体を識別することに限らず、例えば子牛を収納しているカーフハッチを認識することで子牛Cの個体を識別してもよい。
【0029】
管理部32は、抽出部30により抽出された相関温度と、個体識別部31により認識された個体情報を取得して、子牛Cの個体ごとの相関温度を記憶部33に記憶させる部分である。また管理部32は、記憶部33に記憶されている子牛Cの各個体の相関温度の履歴から平熱体温を算出し、当該平熱体温と最新の相関温度との比較から子牛Cの異常を判別する等の健康状態管理を行う部分でもある。さらに、管理部32は、哺乳部2における子牛Cによる哺乳の開始を検知したり、サーモグラフィカメラ20による熱画像の撮影の制御等も行う部分である。
【0030】
記憶部33は、子牛Cの相関温度と、当該相関温度を取得した日時及び熱画像を記憶しており、子牛Cの個体ごとに相関温度のデータベースが構築される部分である。
【0031】
出力部34は、例えばディスプレイやプリンタであり、画面上や紙に管理部32にて管理している健康状態に関する情報を出力する部分である。
【0032】
通信部35は、必要に応じて外部の装置と通信可能な部分である。例えば、通信部35は管理部32が子牛Cの健康状態に異常があると判別した場合等に、管理者や獣医師等が所持している端末等にその旨を発信する。また、事態の緊急性に応じて発信先を選択することも可能である。例えば子牛Cが微熱等の緊急性の低い異常状態である場合には管理者のみに発信し、高熱等の緊急性の高い異常状態である場合には獣医師にも発信を行う。さらに、異常状態が検出されたときには、出力部34において緊急性に応じたアラート表示を出したり、図示しないアラーム等で警告音を発する等して、処理装置4を操作している者に対して注意喚起してもよい。
【0033】
このように構成された管理システム1は、各子牛Cが哺乳する際に、サーモグラフィカメラ20により熱画像を撮影し、そこから子牛Cの体温の相関温度を抽出して、この相関温度に基づき健康状態の管理を行う。
【0034】
詳しくは、
図2に本実施形態に係る健康状態管理ルーチンについてフローチャートで示されており、
図3には熱画像から相関温度を抽出する説明図が示されている。以下、
図3を途中で参照しつつ、
図2のフローチャートに沿って説明する。なお
図3に示す熱画像は説明を簡単にするため主要な部分のみ熱表示している。
【0035】
まず、ステップS1として、管理部32が、哺乳部2における子牛Cの哺乳開始を検知する。なお、これと同時に管理部32は個体識別部31を介して、哺乳中の子牛Cに付けられた図示しない耳標を認識することで子牛Cの個体を特定する。
【0036】
次に、ステップS2として、管理部32は、サーモグラフィカメラ20により、哺乳中の子牛Cの頭部の熱画像を撮影する(測温工程)。このとき撮影する熱画像は、この後の相関温度の抽出を確実に行うため、静止画像である場合は連写により複数枚(例えば30枚程度)撮影するのが好ましく、動画像である場合は一定時間撮影するのが好ましい。
【0037】
次に、ステップS3として、抽出部30にて、ステップS2で撮影した熱画像から子牛Cの深部体温に相関する相関温度T0を抽出する(抽出工程)。例えば、
図3に示すように、抽出部30は熱画像Pから最も温度の高い部位、すなわち、露出部位Sを手動又は自動で選択し、当該部位から所定の区域Z(例えば8×8〜16×16ピクセル)内の平均温度を相関温度として抽出する。また、ここでの相関温度の抽出では、複数の静止画像を撮影した場合には、各画像における所定の区域Z内の平均温度を算出することで、相関温度の精度を向上させることができる。
【0038】
次に、ステップS4として、管理部32は、上記ステップS3にて抽出した相関温度から記憶部33に記憶されている対応する個体の平熱Tnを取得し、相関温度T0と平熱Tnとの温度差(T0−Tn)が第1の所定温度Taより高いか否かを判別する。当該第1の所定温度Taは、子牛Cにおける高熱状態を判別するための閾値である。当該判別結果が真(Yes)である場合、即ち相関温度T0と平熱Tnとの温度差が第1の所定温度Taより高い場合は、ステップS5に進む。
【0039】
ステップS5では、管理部32は通信部35を介して、管理者及び登録されている獣医の所持する端末へ、子牛Cが高熱状態であることを知らせる発信を行う。
【0040】
一方、上記ステップS4の判別結果が偽(No)である場合、即ち相関温度T0と平熱Tnとの温度差が第1の所定温度Ta以下である場合は、ステップS6に進む。
【0041】
ステップS6として、管理部32は、相関温度T0と平熱Tnとの温度差が第2の所定温度Tbより高いか否かを判別する。当該第2の所定温度Tbは、子牛における微熱状態を判別するための閾値であり、第1の所定温度よりも低い値に設定されている(Tb<Ta)。当該判別結果が真(Yes)である場合、即ち相関温度T0と平熱Tnとの温度差が第2の所定温度Tbより高い場合は、ステップS7に進む。
【0042】
ステップS7では、管理部32は通信部35を介して、管理者の端末のみへ、子牛Cが微熱状態であることを知らせる発信を行う。
【0043】
一方、上記ステップS6の判別結果が偽(No)である場合、即ち相関温度T0と平熱Tnとの温度差が第2の所定温度Tb以下である場合は、子牛Cはほぼ平常状態にあり、ステップS8に進む。
【0044】
ステップS8として、管理部32は、上記ステップS3で抽出した相関温度を記憶部33に記憶することで、記憶部33におけるデータベースを更新する。当該ステップS8の処理終了後は当該ルーチンをリターンする。なお、ステップS4〜S8は管理工程である。
【0045】
このようにして、本実施形態における管理システム1は、サーモグラフィカメラ20を用いて非接触で子牛Cの体温の相関温度を抽出し、当該相関温度に基づいて子牛Cの健康状態を管理することから、子牛Cに対し特別な施術等は必要なく、管理者も直接子牛Cに接触して体温を測定する必要もなくなるため、子牛C及び管理者に対するストレスや労力を削減しつつ動物の健康状態を管理することができる。
【0046】
特に、熱画像を撮影するサーモグラフィカメラにより測温し、当該熱画像内において相関温度に対応する部分の温度を抽出することで、相関温度の抽出を行うため、容易に子牛Cの相関温度を取得することができる。
【0047】
さらに、子牛Cの個体識別を行い、各個体ごとの健康状態を管理することで、複数の子牛Cについてまとめて健康管理を行いつつ、個々の子牛Cの健康状態を管理することができる。
【0048】
また、子牛Cの相関温度を記憶部33に記憶していき、この記憶された相関温度の履歴から子牛Cの平熱体温(平常状態)を算出することで、個々の子牛C特有の健康状態を把握することもできる。
【0049】
そして、相関温度を抽出した際に、対応する子牛Cの平常状態と比較して当該子牛Cの異常を判別することで、個々の子牛Cに応じた異常を検出することができる。
【0050】
さらに、異常を検出した際には、当該異常に関する情報を通信部35から管理者や獣医に発信することで、子牛Cの異常に対応することができる。
【0051】
以上で本発明の実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。
【0052】
上記実施形態では、子牛Cが哺乳を開始することをトリガとしてサーモグラフィカメラ20による測定を開始としているが、開始するトリガはこれに限られるものではなく、他の要素をトリガとしてもよい。
【0053】
また、上記実施形態では、測温部3は哺乳部2に設けられているが、測温部3のサーモグラフィカメラ20を単体で設置してもよいし、その他の飼料提供部等に設けてもよい。
【0054】
また、上記実施形態では、抽出部30は熱画像から相関温度を抽出しているが、相関温度の抽出方法はこれに限られない。例えば、抽出部は熱画像そのものからではなく、サーモグラフィカメラ等が検知した温度データから相関温度を抽出してもよい。例えば、サーモグラフィカメラは画素ごとに温度データを出力できるため、対象区域の温度データ群から相関温度を抽出してもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、健康状態を管理する対象動物を子牛Cとし、測定対象を頭部としているが、対象動物及び測定対象はこれに限られるものではない。例えば、豚等の他の家畜を対象動物としたり、深部体温と相関性の高い表面温度を示す部分であれば頭部以外を測温対象としたりすることもできる。
【0056】
また、上記実施形態では、子牛Cが平熱よりも所定温度以上高い場合を異常状態として判別しているが、異常状態の判別はこれに限られるものではない。例えば、平熱よりも所定温度以下であるか否かを判別することで、低体温症等の異常状態を検出するようにしてもよい。
【0057】
また、上記実施形態では測温部3においてサーモグラフィカメラ20を1台用いて測温しているが、測温部におけるサーモグラフィカメラの数はこれに限られるものではない。
【0058】
例えば、
図4を参照すると、本発明の第1変形例に係る動物の健康状態管理システムの概略構成図が示されており、以下これらの図に基づき第2変形例について説明する。なお、上記実施形態と同じ構成については同じ符号を付し、詳しい説明は省略する。
【0059】
図4は
図1の構成を上面から視た概略構成図であり、処理装置4については図示を省略している。第1変形例の管理システム1’では、ミルクタンク13に設けられているカメラ支持部14’がミルクタンク13の側方(幅方向)に延びており、その両端にそれぞれサーモグラフィカメラ20a、20bが設けられている。
【0060】
これらのサーモグラフィカメラ20a、20bは、それぞれ哺乳時の子牛Cの頭部の正面方向から左右にオフセットされて配置され、子牛Cの横方向から子牛Cの頭部を指向するようにレンズが向けられて固定されている。
【0061】
図示しない処理装置4は、このような2つのサーモグラフィカメラ20a、20bにより子牛Cの頭部を撮影し、それぞれのサーモグラフィカメラ20a、20bに基づく相関温度T1、T2を抽出して、その平均値を体温管理に用いる相関温度T0とする。
【0062】
このように第1変形例に係る管理システム1’によれば、サーモグラフィカメラ20a、20bが横から子牛Cの頭部を撮影することで、眼球、眼の周囲、又は耳の内側等の深部体温度相関性の高い部位をより明確に撮影することができる。またこの2つサーモグラフィカメラ20a、20bに基づく相関温度T1、T2の平均値を用いることで、測温精度を向上させることができる。
【0063】
また、非接触で測温を行うサーモグラフィカメラ20による測温精度を向上させるために、上記実施形態にサーモグラフィカメラの校正(キャリブレーション)用の校正部を設けてもよい。
【0064】
例えば、
図5を参照すると、(a)校正部を追加した本発明の第2変形例に係る動物の健康状態管理システムの概略構成図、及び(b)校正部の構成図が示されており、以下これらの図に基づき第1変形例について説明する。なお、上記実施形態と同じ構成については同じ符号を付し、詳しい説明は省略する。
【0065】
図5(a)に示すように、当該第2変形例における管理システム1’’では、ミルクタンク13に設けられているカメラ支持部14’’がミルクタンク13の一側方に延びており、その一端部分にキャリブレーション用の校正部40が設けられている。当該第2変形例における調整21’’は管理部32の制御の下、水平方向に回転自在でもある。
【0066】
校正部40は、例えば
図5(b)に示すように、発熱体41(例えばペルチェ素子)と、当該発熱体41と連結された棒状の伝熱体42とを有しており、当該発熱体41と伝熱体42の複数箇所にサーミスタ43a〜43dが設けられている。
【0067】
発熱体41は有底円筒状の断熱材からなるケース44により覆われており、伝熱体42は当該ケース44上面から上方に突出している。さらに、当該ケース44の外周から、上部が開放された円筒状のカバー45が上方に延びている。当該カバー45は、赤外線が通過する透明な素材からなり、伝熱体42に風が当たるのを防ぐ風防の機能を有する。
【0068】
校正部40の発熱体41及び各サーミスタ43a〜43dは図示しない管理部32に接続されており、管理部32により発熱体41の温度設定及び各サーミスタ43a〜43dによる温度測定が行われる。
【0069】
このような構成にて、管理部32は、サーモグラフィカメラ20’’により子牛Cの頭部の撮影を行う前又は後、或いはその両方にて、調整部21’’によりサーモグラフィカメラ20を校正部40に指向させ、熱画像の撮影を行う。管理部32は、この校正部40を撮影した熱画像の温度分布と各サーミスタ43a〜43dにより測定される温度とを対応付ける。そして、管理部32は、子牛Cの熱画像を校正部40の熱画像の温度分布により校正した上で、抽出部30による相関温度の抽出を行う。
【0070】
これにより、相関温度の精度をさらに向上させることができる。この第2変形例の校正部40に基づく校正は、第1変形例として示した2台のサーモグラフィカメラ20a、20bに対しても適用可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 管理システム
2 哺乳部
3 測温部
4 処理装置
20、20a、20b、20’’ サーモグラフィカメラ
30 抽出部
31 個体識別部
32 管理部
33 記憶部
34 出力部
35 通信部
40 校正部
C 子牛
P 熱画像
S 露出部位
Z 区域