(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0023】
これらの図面において、同じ要素には、同じ参照番号を付した。当業者に周知の特徴及び機能は、明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書で、詳細に記載していない。
【0024】
明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書において、用語「計算機能力」は、電子計算機で実行されるオペレーション(オペレーション)の数を意味する。従って、コンピュータの使用量の減少は、コンピュータで実行されるオペレーションの数を減少させて、同じ結果又は同じ種類の結果を達成させることを意味する。
【0025】
図1は、電気牽引式、即ち、通常「電気自動車」として知られている自動車2を示している。電気自動車は周知であるので、理解するのに必要な構造要素だけを記載する。自動車2は、下記の構造要素を備えている、
− 動力車輪6を駆動させ、回転させて自動車2を道路8に沿って移動させることができる電気モータ4,及び,
− モータ4に電気エネルギーを供給するバッテリ10。
【0026】
バッテリ10は、電気的接続するための2個の端子12、14及び2個の端子12、14の間で電気的接続されている数個の電池を備えている。端子12及び14は、付勢される電気負荷に接続されている。従って、これらの要素は、特に、電気モータ4に接続されている。
【0027】
図1を簡略にするために、4個の電池18〜21だけを示した。主として、これらの電池は、幾つかのステージに分類される。これらのステージは、端子12及び14の間で直列に接続されている。
図1では、2個のステージだけを記載した。第1のステージは、電池18及び19を含んでいて、第2のステージは、電池20及び21を含んでいる。各ステージは、平行に接続された数個の分岐を有している。ステージの各分岐は、1個の電池又は直列接続された数個の電池を有している。
図1では、第1のステージは、2個の分岐を有している。各分岐は、単一の電池を有している。第2のステージは、
図1に示した例における第1のステージと構造的に同じである。
【0028】
ここでは、バッテリ10の全ての電池は、製造上の許容差を除いて、構造的に同じである。従って、電池18だけを、詳細に記載する。
【0029】
電池18は、2個の電気接続端子30、32を有している。2個の電気接続端子30、32は、電池18を他の電池及びバッテリ10の端子12及び14に接続している。電池18も又、自由度が無く、バッテリ10の他の電池に機械的に固着されていて、いわゆる電池の「パック」を形成している。電池18は、使用されていないときは、電気エネルギーを貯蔵することが出来る。次いで、この貯蔵された電気エネルギーは、使用されてモータ4を駆動させ、電池18を放電させる。或いは、電池18も電気エネルギーを受けることができ、充電することができる。再充電に続く電池の完全な放電は、いわゆる充電/放電サイクル又は簡単に呼称されている「電池のサイクル」を構成する。
【0030】
電池18は、周知のタイプで、例えば、LiPB(リチウム−イオンポリマーバッテリ又はその他の電池である。
【0031】
電池18は、初期公称静電容量C
nini、初期内部抵抗RO
ini、最大電流フロー強度I
max、最大電圧U
max、最小電圧U
min及び関数OCV(SOC
k)で特徴づけられる。静電容量C
niniは、電池18の初期静電容量である。電池の静電容量は、電池に貯蔵される電気エネルギーの最大量を表わす。この静電容量は、Ahで表わされる。電池18が経時変化するに従って、即ち、充電及び放電サイクルの数が増えるに従って、電池の静電容量は減少する。時間kにおける電池18の公称静電容量をC
n,kと表わす。
【0032】
初期内部抵抗RO
iniは、電池が経時変化する前の電池18の内部抵抗値である。電池の内部抵抗値は物理量で、電池の大多数の電気的モデルに見いだされる。電池が経時変化するとき、主として、内部抵抗が増加する。時間kにおける電池18の内部抵抗をRO
kと表わす。
【0033】
I
maxは最大電流フロー強度で、電池に損傷を与えずに、電池18から与えられる。
【0034】
U
maxは最大電圧で、電池に損傷を与えずに、電池の端子30と32の間で絶えず存在する。
【0035】
電圧U
minは電池18が完全に放電されたときの端子30と32の間の最小電圧である。以下、I
max、U
max、U
minは、経時的に変化しない一定の物理量として取り扱う。
【0036】
OCV(SOC
k)は、電池18の充電状態SOC
kの関数としての電池18の無負荷電圧を戻す所定の関数である。無負荷電圧は、電池18が2時間電気負荷から電気的に絶縁された後で、端子30と32の間で測定可能な電圧である。
【0037】
電池18の時間kにおける充電状態はSOC
kで記載する。充電状態は、電池18の充電率で表わす。電池18に貯蔵された電気エネルギーの量が、その静電容量C
n,kに等しい時、充電率は100%である。電池18に貯蔵された電気エネルギーの量がゼロの時、即ち、電気的負荷を付勢するのに、電池18からエネルギーが抽出されない場合、充電率は0%である。
【0038】
パラメータC
nini、RO
ini、I
max、U
max、及び関数OCV(SOC
k)は、電池の周知のパラメータである。例えば、それらは、電池の製造業者によって与えられるか、又は電池に関して行なった測定から実験的に決定される。
【0039】
同様に、バッテリ10は、各電池に下記を備えている。
− 電池の端子間の電圧を測定する電圧計、及び
− この電池の充電又は放電流強度を測定する電流計。
【0040】
図1を簡略にするために、電池18の1個の電圧計34と1個の電流計36だけを記載した。
【0041】
上記で記載した電池18の種々のパラメータとは違って、電池18の充電状態SOC
kは、測定不可能である。従って、推定する必要がある。この目的のために、自動車2は、バッテリ10を管理するシステム40、又はBMS(バッテリ・マネージメント・システム)を備えている。システム40は、特に、バッテリ10の充電状態及びバッテリ10の健康状態を測定する機能を有している。バッテリの充電状態及び健康状態を測定するために、システム40は、バッテリ10の各電池の充電状態及び健康状態を推定することができる。電池の健康状態は、電池の経時変化の進行状態で表わす。時間kにおける電池の健康状態はSOH
kで表わす。以下において、電池の健康状態は、比C
n,k/C
niniによって測定される。従って、電池の健康状態を計算するために、システム40は、現在の時間kにおける電池の静電容量C
n,kを推定することができる。
【0042】
これらの推定を行なうために、システム40は、バッテリ10の各電圧計及び電流計に電気的に接続されていて、各電池の端子間の電圧及び電流強度の測定値を取るようになっている。
【0043】
システム40は、メモリ42及びプログラム制御可能な電子コンピュータ44を備えていて、メモリ42に記録された指令を実行できるようになっている。この目的のために、メモリ42は、
図10〜12及び/又は
図17の方法を実行するのに必要な指令を内蔵している。メモリ42も、これらの方法を実行するのに必要な種々のパラメータの初期値を内蔵している。従って、システム40の構造は、バッテリを管理する従来のシステムの構造と同じか、又は似ているので、更に詳細に記載するのを割愛する。
【0044】
図2は、電池18の電気的モデル50を表わしている。このモデルは、[first−order Thevenin model]又は[lumped parametermodel]として知られていて、端子32から始まり、直列に連続して接続され、端子30で終結していて下記を備えている。
− 無負荷電圧OCV(SOC
k)の発電機52、
− 平行RC回路54、及び
− 時間kにおける内部抵抗56(以下「内部抵抗RO
k」という)。
【0045】
回路54は、値R
Dの抵抗に平行に接続されたコンデンサC
Dを含んでいる。モデル50のこれら2つのパラメータR
D及びC
Dは周知であって、経時的に一定であると考える。回路54の端子における時間kの電圧をV
D,kと記載する。電池18の端子30と32の間の時間kにおける電圧の値をY
kと記載し、同じ時間における電池18の充電又は放電流強度をi
kと記載する。
【0046】
図3は、システム40において実行され、電池18の充電状態及び健康状態を推定する推定器(エスティメータ)の配置の第1の態様を示している。各推定器は、コンピュータで実行される推定アルゴリズムの形で実行されている。従って、以下「推定器の実行」及び「推定アルゴリズムの実行」と言う。この第1の態様において、システム40は、充電状態がSOC
k、及び電圧の測定値Y
k及び測定強度i
kに基づく抵抗V
Dkの推定器60を備えている。この実施の態様では、推定器60は、カルマンフィルタの形をしている。従って、状態モデル62(
図4)及び観察モデル64(
図5)を使用している。
図4及び
図5において、これらのモデルの方程式は、既に定義した表記法を使用して表わしている。RO
k2及びC
n,k3は、それぞれ、時間k2及びk3における電池18の内部抵抗及び容量を表わしている。これらの時間k2及びk3は、後記で定義される。更に、モデル62において、X
kは、時間kにおける状態のベクトル[SOC
k、V
D,k]
Tを表わしている。
この記載において、記号
「T」は、数学的変換オペレーションを表わしている。乗法オペレーションは、オペレータにより、“.”又は“*”として表記される。
【0047】
以下、時間の原点が、時間kがゼロ値に対応するものを想定する。この条件において、現在の時間kは、kT
eに等しい;T
eは、バッテリ10の電流計及び電圧計の測定のためのサンプリング時間である。従って、T
eは、システム40によって電圧及び電流強度を得るための2回連続して行なう時間k及びk−1に分けられる。通常、時間T
eは、0.1秒と10秒の間で一定である。この態様では、T
eは、1秒±20%である。例えば、T
eは1秒に等しい
【0048】
モデル62において、W
kは、状態ノイズベクトルである。ここでは、ノイズW
kは、中心ガウスホワイトノイズである。このノイズは、使用したモデルの不確実性を表わしている。時間kにおけるノイズW
kの共分散マトリックスをQ
kと表わす。Q
kは、以下の関係式で定義される。Qk=E(W
k*W
kT);但し、E(…)は、数学的確率変数の期待関数。同じように、モデル62は、X
k+1=F
kX
k+B
ki
k+W
kと記載される;但し、
− F
kは、時間kにおける遷移マトリックス、
− B
kは、時間kにおける制御ベクトル。
【0049】
特に、モデル62によって、直前の充電状態SOC
kから、時間k+1における充電状態SOC
k+1を推定することができる。
【0050】
モデル64によって、充電状態SOC
k、電圧V
D,k及び測定強度i
kから、時間kにおける電圧の値y
kを推定することができる。このモデルにおいて、V
kは、中心ガウスホワイトノイズである。以下、時間kにおけるノイズV
kの共分散マトリックスをR
kと表わす。此処に記載した特定のケースの場合、マトリックスR
kは、1列マトリックス及び1行マトリックスの行列式で、関係式Rk=E(V
k*V
kT)で定義される。このノイズV
kは、ノイズW
k及びsj初期ベクトル状態X
0とは無関係である。
【0051】
函数OCV(SOC
k)は、通常、非線形なので、モデル64は非線形である。このため、推定器60は、カルマンフィルタの拡張バージョンで、EKF(Extended kalmanFilter)としてよく知られている。この拡張バージョンは、ベクトルX
kの近傍においてモデル64を線形化することで、最終的には、y
k=H
kX
k+RO
k2・i
k+V
kの形の線形観察モデルに終結する。モデル64はベクトルX
kの近傍においてテイラー級数に展開される。次いで、2次で始まる導函数の寄与を無視する。従って、マトリックスH
kは、充電状態SOC
kの近傍において、函数OCVの最初の導函数に等しい。このモデル64の線形化は、通常、充電状態SOC
kの新しい値それぞれに対して実施される。
【0052】
推定器60は、充電状態SOC
k+1を推定することを可能にするために、静電容量C
n,k3及び内部抵抗RO
k2を認識する必要がある。電池18の静電容量及び内部抵抗は、経時的に変化する。この経時変化を考慮するために、時間k3及びk2における電池18の静電容量と内部抵抗を、それぞれ、推定する。推定器66が、測定値y
k2,測定強度i
k2,及び充電状態SOC
k2から内部抵抗RO
k2を推定する。他の推定器68が、測定強度i
k3,及び充電状態SOC
k3から静電容量を推定する。
【0053】
電池18の内部抵抗及び静電容量は、その充電状態よりも、非常にゆっくりと変化する。従って、推定精度を無視せずに、電池の充電状態を推定するのに必要な計算機力を制限するために、推定器66及び68の実行使用頻度を、推定器60より少なくする。以下、推定器66及び68の実行時間を、それぞれ、k
2及びk
3として、時間kと区別する。時間k
2のセット、及び時間k
3のセットは、時間kのセットのサブセットである。従って、連続した2つの時間k2とk2−1の間、及び連続した2つの時間k3とk3−1の間には、(長短に関係無く)経過する数期間Te及び数時間kが存在する。
【0054】
推定器66及び68は、それぞれ、カルマンフィルタの形で実行する。推定器66は、状態モデル70(
図6)及び観察モデル72(
図7)を使用する。
これらのモデルにおいて、ノイズW
2,k2及びV
2,k2は、中心ガウスホワイトノイズである。以下において、ノイズW
2,k2及びV
2,k2の共分散を、それぞれ、Q
2,k2及びR
2,k2と表わす。観察モデル72によって、直接測定可能物理量U
k2の値を推定することができる。物理量U
k2は、最後のN−測定値y
kの合計である。物理量U
k2は、下記の関係式で定義される。
【数1】
【0055】
Nは、必ず1以上の整数で、以下に記載する方法で計数する。上記の関係式及びモデル72において、時間kは、時間k2に等しい。
【0056】
モデル72は充電状態SOC
k、電圧V
D,k、及び時間k=k2で測定した強度i
kだけではなく、推定器60のN回前の推定、及び時間k2及びk2−1の間に測定したN回前の測定強度も考慮に入れる。中間測定値、及び時間k2及びk2−1の間の推定結果を考慮するという事実によって、内部抵抗RO
k2の推定の精度を高めることが可能である。
【0057】
推定器68は、状態モデル74(
図8)及び観察モデル76を使用する。モデル74及び76において、ノイズW
3,k3及びV
3,k3は、中心ガウスホワイトノイズである。以下において、ノイズW
3,k3及びV
3,k3の共分散を、それぞれ、Q
2,k3及びR
2,k3と表わす。モデル76は線形モデルで、拡張カルマンフィルタではなく、推定器68に替えて、簡単なカルマンフィルタを使用することができる。
【0058】
観察モデル76によって、直接測定可能な物理量Z
k3の値を推定することができる。物理量Z
k3は、最後のN−測定値強度i
kの合計である。物理量Z
k3は、下記の関係式で定義される。
【数2】
【0059】
上記の関係式及びモデル76において、時間kは、時間k
3に等しい。この物理量Z
k3は、時間k3の前の時間k−1で測定した強度i
k−1だけではなく、時間k3とk3−1の間で測定したN測定強度も考慮に入れる。Nは、絶対に1以上の整数で、以下に記載する方法で計数する。この場合のNは、モデル72で導入されたNと必ずしも等しくなる必要はない。中間測定値、及び時間k3及びk3−1の間の推定結果を考慮するという事実によって、静電容量C
n,k3の推定精度を高めることが可能である。
【0060】
図10の方法を参照して、特に電池18の充電状態を推定するケースに関して、推定器60、66及び68の機能を説明する。
【0061】
この方法は、先ず、推定器60、66及び68を実行させるのに必要な種々の共分散マトリックス(行列)を調整するフェーズ100から始まる。より正確には、オペレーション102を行なう間、推定器60の共分散マトリックスQ
kとR
kは、関係式Q
k=[N
0G
0,
k(N
0)]
−1及びR
k=Iを使用して自動的に調整される。ただし、
−N
0は、予め決定された、必ずゼロより大きな整数、
−Iは、単位マトリックス、及び
−G
0,
k(N
0)は、下記の式で定義される。
【数3】
【0062】
通常、N
0は、システム40を設計している間に選択され、次いで、一旦設定されると、これで決定である。N
0は100以下である。例えば5と15の間である。この態様では、N
0は選択して10に等しくする。
【0063】
前記の関係式を使用することでマトリックスQ
0及びR
0の調整、並びにマトリックスQ
kとR
kの調整が、以下に記載するように、かなり簡単になる。実際、選択されるべき唯一のパラメータは、整数N
0の値である。
【0064】
オペレーション104を実行する間、共分散Q
2,0及びR
2,0も調整される。例えば、Q
2,0は、選択されて、[(β
*RO
ini)/(3
*N
ceol*Ns)]
2に等しいとされる。但し、
− βは、選択される定数で、0.3又は0.5に等しいか、或いは大きく、好ましくは0.8より大きく、通常3未満、
− N
ceolは、寿命に達する前の電池18の充電又は放電サイクルの予想数、及び
− N
sは、電池18の充電及び放電サイクル毎に内部抵抗を評価する回数。
【0065】
100で割ったパーセンテージで表わされる定数βは、初期内部抵抗RO
iniの値とその寿命価値の最後との間の差を表わしている。βは、主として、使用者又は実験的に測定して設定される。N
ceolは、実験的に測定して設定されるか、又は電池18の製造業者のデータから得られるサイクル数である。N
sは、コンピュータ44によって実行される充電状態を推定する方法によって設定される。以下に説明するように、この態様では、内部抵抗は、サイクル毎に1回推定される。従って、N
sは1に等しいとする。
【0066】
図示したように、共分散R
2,0は、(2ε
mU
max/300)
2)に等しくなるように選択される。但し、ε
mは、パーセンテージ(%)で表される電圧計34の最大誤差である。
【0067】
共分散Q
2,k2及びR
2,k2は、一定であって、それぞれ、Q
2,0及びR
2,0に等しいと考えられる。
【0068】
オペレーション106を実行中、共分散Q
3.0及びR
3,0が調整される。例えば、共分散Q
3.0は、[Y*C
nini/(3*N
Ceol*N
S]
2に等しいとする。但し、Yは、100で割ったパーセンテージで表され、静電容量C
niniと、電池18の最後の寿命の静電容量との差である。Yは、使用者によって選択され、0.05〜0.8の間、好ましくは0.05〜0.3の間で一定である。この実施の態様では、Y=0.2である。
【0069】
共分散R
3,0は、例えば、(2*ε
im*I
max/300)
2に等しくなるように選択される。但し、ε
imは、パーセンテージ(%)で表される電流計36の最大誤差である。
【0070】
共分散Q
3,k3及びR
3,k3は、一定であって、それぞれ、Q
3,0及びR
3,0に等しいと考えられる。
【0071】
一旦、共分散マトリックスの調整が完了すると、電池18の充電状態の推定が開始される。
【0072】
フェーズ110を実行する間、電圧計34及び電流計36は、時間kごとに、それぞれ、値y
K及び強度i
kを測定する。システム40が、これらの測定値を、ただちに、受け取って、メモリ42に記録する。フェーズ110は、時間kごとに繰り返される。
【0073】
並行して、推定器60は、フェーズ114の電池18の時間kごとの充電状態の推定を実行する。
【0074】
ステップ116を実行する間、推定器60は、それぞれ、電池18の充電状態の予測
及び同V
D,k/k−1、並びに時間kにおける回路54の端子間の電圧V
Dを算する。ここで使用するインデックス、記号等を説明する。インデックス[k/k−1]は、この予測が、時間ゼロと時間k−1の間で行った測定値だけを考慮して、行ったということを示している。従って、演繹的予測値と言える。インデックス[k/k]は、時間kにおける予測が、時間ゼロと時間kの間で行った全ての測定値を考慮して、行ったということを示している。従って、帰納的予測値と言える。予測値
及びV
D,k/k−1はモデル62を参照して測定強度i
k−1及び量C
n,k3から算出された。モデル62において、状態遷移マトリックスF
k−1は、kに関係なく一定なので、時間kごとに再評価する必要は無い、ということに留意するべきである。
【0075】
ステップ117を実行する間、同じく、推定器60は、状態x
kのベクトルの予測誤差に対する共分散マトリックスの予測P
k/k−1を計算する。この計算は、主として、下記の関係式を参照して行われる。
[数4]
P
k/k−1 = F
k−1P
k−1/k−1F
k−1T+Q
k−1
【0076】
これら種々のマトリックスF
k−1,P
k−1/k−1及びQ
k−1は、すでに定義したので割愛する。
【0077】
次いで、ステップ118を実行する間、推定器60は、予測値
及びV
D,k/k−1に関してモデル64を線形化することによって、マトリックスH
kを構成する。
【0078】
ステップ120を実行する間、共分散マトリックスQ
k及びR
kは、自動的に更新される。そのために、この態様では、ステップ118の間に構成されたマトリックスH
kを考慮に入れて、ステップ120は、オペレーション102と同じとする。
【0079】
この後、ステップ122を実行する間、推定器60は、予測値
と、測定値y
kとモデル64から予測された値
との間の差の関数としてのV
D,k/k−1を補正する。この差は、「イノベーション(innovation)」として知られている。このステップは、下記のオペレーションを含んでいる。
− 予測値
を計算するオペレーション124、次いで
− 予測値
及びV
D,k/k−1、並びにマトリックスP
k/k−1を補正して、補正済予測値
、V
D,k/k、及びP
k/kを得るオペレーション126。
【0080】
オペレーション124を実行する間、モデル64を使用して予測値
を計算する。この際、モデル64では、充電状態の値は
に等しいとされ、電圧V
D,kの値はV
D,k/k−1に等しいとされる。以下、測定値y
kとその予測値
との間の差をE
kと記載する。
【0081】
イノベーションE
kに基づいて、演繹的推定値
及びV
D,k/k−1を補正する方法は多数ある。例えば、オペレーション126を実行する間、これらの推定値は、カルマン(kalman)ゲインK
kを使用して補正される。ゲインK
kは、式[K
k=P
k/k−1H
Tk(H
kP
k/k−1H
Tk+R
k)
−1]によって与えられる。次いで、演繹的予測値が、式[x
k/k=x
k/k−1+K
kE
k]を使用して補正される。
【0082】
マトリックスP
k/k−1は、式[P
k/k=P
k/k−1−K
kH
kP
k/k−1]を使用して補正される。
【0083】
電池18の充電状態を新たに推定する必用がある場合、ステップ116〜122が、時間毎に繰り返される。
【0084】
並行して、ステップ130を実行する間、コンピュータ44は、強度i
kのそれぞれの新たな測定値と、所定の電流閾値SH
iとを比較する。測定強度がこの閾値SH
iを超えない限り、推定器66の実行は抑止されない。逆に、一旦、測定強度がこの閾値SH
iを超えた場合、推定器66の実行は、直ちに停止される。閾値SH
iは、通常、I
max/2より大きく、0.8*I
max又は0.9*I
maxより大きいと有利である。
【0085】
推定器66は、時間kにおける内部抵抗RO
k2を推定するフェーズ140を実行する。この態様では、強度i
kが、閾値SH
iを超えた場合、時間k2は時間kに等しくなる。
【0086】
このために、ステップ142を実行する間、推定器66は、モデル70から内部抵抗の演繹的予測値
を計算する。
【0087】
次いで、ステップ144を実行する間、推定器66は、内部抵抗の推定誤差の共分散マトリックスの予測値P
2,k2/k2−1を計算する。例えば、この予測値は、式[
P2,k2/k2−1=P
2,k2−1/k2−1+Q
2,0]を使用して計算される。この態様ではモデル72は、状態の変数の線形関数であることに留意されるべきである。従って、マトリクッスH2,k2を得るのに、予測値
の近傍で線形化する必要はない。この態様では、マトリクッスH
2,k2は、−Nに等しい。
【0088】
ステップ148を実行する間、推定器66は、測定した物理量u
k2と、同じく物理量である予測値
との間の差の関数としての予測値
を補正する。この態様では、Nは、選択された所定の一定値で、好ましくは10又は30より大きい。値y
kは、測定され、かつ、得ることができるので、量U
k2も得ることができる。
【0089】
より詳細に述べると、オペレーション150を実施する間、コンピュータ44は、測定した量U
k2を得て、予測値
を計算する。量
は、モデル72を使用して計算される。このモデル72において、値RO
k2は、その前に計算されたRO
k2/
k2−1と同じとする。
【0090】
次に、オペレーション152を実行する間、推定器66は、イノベーションE
k2の関数としての予測値
を補正する。イノベーションE
k2は、測定量U
k2と予測量
との間の差に等しい。例えば、オペレーション152を実行する間、オペレーション126を実行する間に実行された方法と同じ方法が採用される。従って、オペレーション152を、さらに詳細に記載することを割愛する。次いで、前記の推定値RO
k2−1/k2−1の替わりに、推定器60が次の実行をする間、新たな推定値RO
k2/k2が使用される。
【0091】
測定強度i
kが大きくなった時だけ推定器66を実行させることによって、内部抵抗の推定精度を上げ、同時に、この方法を実施するのに必要な計算機能力を低減することができる。実際、強度i
kが大きくなっている時、電流計の測定精度が高くなる。
【0092】
更に、フェーズ110及び114と並行して、この方法はステップ160を含んでいる。ステップ160を実行する間、時間kごとに、推定値SOC
kが、所定の上方閾値SH
socと比較される。推定値SOC
kが、この閾値SH
soc以下の場合、この方法は、直ちに、ステップ162及び164と共に続行される。そうでない場合、ステップ160は、次の時間kにおいて繰り返される。閾値SH
socは、主として、90%と100%の間にある。
【0093】
ステップ162を実行する間に、コンピュータ44は、カウンターをゼロに初期化し、次いで、このステップのスタートから、強度i
kの新たな測定毎に、カウンターを1だけ進める。更に、各時間kにおいて、同じ時間に発生した測定強度i
k及び推定値SOC
kを、この時間kと関連させて、データベースに記録する。
【0094】
ステップ162と並行して、ステップ164を実行する間、コンピュータ44は、新たな推定値SOC
kをそれぞれ、所定の閾値SL
socと比較する。閾値SL
socは、例えば、0%〜10%の間にある。推定値SOC
kが、この閾値SL
socより高い位置を維持している限り、ステップ162は、その次の時間kにおいて反復される。そうでない場合、電池18の推定値SOC
kが、この閾値SL
soc以下に降下すると、コンピュータ44は、直ちに、推定器68の実行をトリガーし、かつカウンターの増進を停止する。従って、この閾値を超えてしまわない限り、推定器68の実行は抑止される。
【0095】
フェーズ166を実行している間、推定器68は時間k3における静電容量
C
n,k3を推定する。従って、時間k3は、推定器68のエグゼキューションがトリガーされる時間kに等しい。
【0096】
フェーズ140にも同じことが言える。推定器68が、各時間kにおいて、実行されない、と命令された場合、時間k3−1は時間k−1に対応しない。逆に、時間k3と時間k3−1は、NT
e(Nはステップ162の間に計数された数)より大きいか、或いは等しい時間間隔で隔てられている。
【0097】
推定器68のカルマンフィルターのパラメータは、フェーズ166の時間k3−1における前のイテレションの最後で得たこれらのパラメータの前の値で初期化される。
【0098】
フェーズ166は、下記を含んでいる。
− ステップ170の間の、モデル74を使用した予測値C
n,k3/k3−1の計算、
− ステップ172の間の、静電容量の推定誤差の共分散マトリックスの予測値P
3,k3/k3−1の計算、及び
− ステップ174の間の、予測値C
n,k3/k3−1及びP
3,k3/k3−1の補正。
【0099】
ステップ172及び174の間、観測可能性H
3、k3のマトリックスは、[(SOC
k−SOC
k−n)]
*3600/(NT
e)に等しい。但し、Nは、推定した充電状態が閾値SH
SOC以下に降下した時間と、推定した充電状態が閾値SL
SOC以下に降下した時間との間の経過した時間kの数である。値Nは、ステップ162の間で計算された値に等しい。
【0100】
ステップ174は、測定物理量z
k3及び物理量z
k3の予測値
の計算を行なうオペレーション176を含んでいる。この態様では、物理量z
k3の取得は、時間k−1とk−Nの間で測定された最後のN強度の合計の計算を含んでいる。予測値
は、モデル76から得ることができる。
【0101】
次に、オペレーション178の間、推定器68は、測定物理量z
k3及び予測値
の間の差の函数としての予測値C
n,k3/k3−1を補正して、帰納的推定値C
n,k3/k3を得る。この補正は、例えば、ステップ126に関して記載した様にして行なわれる。
【0102】
次に、静電容量C
n,k3/k3は、推定器60に送られる。推定器60がC
n,k3/k3を使用して、次の時間の電池18の充電状態を推定する。
【0103】
電池18が、その大部分を放電した後で、推定器68の命令実行をトリガーする事実によって、推定精度が高くなり、かつ同時にこの方法を実施するのに必要なコンピュータの使用量を低減する。
【0104】
フェーズ166の最後で、ステップ180において、コンピュータが、式SOH
k3=C
n,k3/C
niniを使用して、時間k3における健全状態SOH
k3を計算する。
【0105】
図11は、バッテリ10の充電状態を評価する方法を表わしている。時間kにおいて、バッテリ10の充電状態は、このバッテリ10の電池のそれぞれの充電状態から評価される。例えば、これは、以下に記載した方法で行なわれる。ステップ190の間に、コンピュータ44は、バッテリのステージの各電池の充電状態を合計することによって、バッテリの各ステージの充電状態を評価する。
【0106】
次に、ステップ192の間に、バッテリの充電状態は、ステップ190の間で評価したステージの充電状態の最小値に等しいとする。
【0107】
図11に記載したように、各時間kにおけるバッテリの充電状態の評価には、時間kにおける複数の電池のそれぞれの充電状態の評価だけを使用することが必要である。従って、第1の解決策は、各時間kおけるフェーズ114を実行することによって、複数の電池のそれぞれに対して、
図10の評価法を並行して実行することを含んでいる。然しながら、バテッリの充電状態の評価の精度を低下させずに、必要なコンピュータの使用量を制限するために、
図12の方法に関して記載した電池の充電状態を評価の実行時間を割当てることも可能である。
【0108】
図12の方法は、3つの優先度レベル、即ち高度優先度レベル、中間優先度レベル、及び低位優先度レベルだけを使用する簡素化されたケースを記載している。更に、優先度レベルが高度優先度レベルの電池の充電状態は、各時間k及び、従って、フリケンシf
eに於いて評価する必要があるとの仮説が想定される。優先度レベルが中間優先度レベルの電池の充電状態は、この1/3のフリケンシ、従ってフリケンシf
e/3に於いて評価する必要があるとの仮説が想定される。最後に、優先度レベルが低位優先度レベルの電池の充電状態は、この1/10のフリケンシ、従ってフリケンシf
e/10に於いて評価する必要があるとの仮説が想定される。この例では、高度優先度レベル及び中間優先度レベルの場合、予め分かって場所の数は限られている。換言すれば、高度優先度レベルが割当てられた電池の数は、予め決められた最大数に限定される。同じことが、中間優先度レベルが割当てられた電池に関しても言える。
【0109】
(記憶を再生、強調するための)リフレッシュを必要とする複数の電池のそれぞれの充電状態を推定する時間を割当てるために、ステップ198の間に、コンピュータは、各電池に優先度レベルを割当てることから始める。
【0110】
ステップ198は、オペレーション200から始める。その間、システム40は、複数の電池のそれぞれの端子の間の電圧の測定値y
kを取得する。
【0111】
次に、オペレーション202の間、測定値y
kが、上方閾値SH
yを超えているか、又は下方閾値SL
y未満の場合、高度優先度レベルの十分な場所が残っている限り、コンピュータ44は、この電池に高度優先度レベルを割当てる。上方閾値SH
yは、0.9
*U
maxより大きいか、或いは等しく、好ましくは0.95
*U
maxより大きい。下方閾値SL
yに関しては、これは、U
minより大きいか、又はU
minに等しく、かつ1.1
*U
min又は1.05
*U
min未満である。電圧がU
maxに近いか、又はU
minに近い複数の電池の充電状態を推定するには、頻繁にリフレッシュすることが重要である。実際、そのような状況にある電池の充電状態を推定にエラーがあると、その電池の電気的及び機械的性質の低下につながる。
【0112】
次に、オペレーション204の間に、コンピュータ44は、他の複数の電池に対して、測定電流値y
kと、その前の値y
k−x(但し、Xは、1より大きいか又は等しい所定の整数で、通常5或いは10未満、この態様では1である)との間の電圧差を計算する。
【0113】
オペレーション205の間に、コンピュータ44は、対の電池を同定する。複数の電池が、同じ時間kで、同じ電圧差及び同じ測定値y
kを有する場合、それらは「対の」電池であると考えられる。このために、ステップ205において、コンピュータ44は、1個の電池の電圧差及び同じ測定値y
kを、同じ時間における複数の他の電池の電差及び測定値y
kと比較して、これら複数の他の電池の中で、対の電池か、又はこの電池の単なる複数の電池かを識別する。次いで、この電池の識別子、及び対の電池であると識別された電池又は複数の電池の識別子は、1セットに分類されて、メモリ42に記録される。上述した比較は、例えば、未だ、識別子が、対の電池と記録された複数のセットの1つへの組み込みが完了していないバッテリ10の複数の電池のそれぞれに対して実施される。その後、対の電池のそれぞれのセットの複数の電池の唯一の電池だけに対して優先度レベルが割当てられる。従って、オペレーション206及びそれに続くステップ208及び210は、対の電池を有していない複数の電池だけ、及び対の電池のそれぞれのセットの単一のセットだけに対して実施される。
【0114】
オペレーション206の間に、コンピュータが、複数の電池を、オペレーション204の間に計算された差の絶対値が減少する順番に従って分類する。次いで、コンピュータは、この分類による最初の複数の電池に、高度優先度レベルと一緒に、残っている場所を割当てる。次いで、コンピュータは、この分類による次の複数の電池に、中間優先度レベルと一緒に、残っている場所を割当てる。最後に、コンピュータは、この分類による最後の複数の電池に、低位優先度レベルと一緒に、残っている場所を割当てる。
【0115】
一旦、それぞれの電池に、優先度レベルが割当てられると、ステップ208の間に、コンピュータ44は、それらの優先度レベルの函数として、複数の電池の充電状態を推定するための情報をフレッシュなものに書き直すためにリフレッシュ・タイムを割当てる。ステップ208は、それぞれの優先度レベルに関与する推定のためのリフレッシュ回数に従うように、実行される。このために、例えば、コンピュータ44は、先ず第1に、高度優先度レベルの複数の電池の推定をリフレッシュする必要がある時間を予約する。次に、コンピュータ44は、中間優先度レベルの複数の電池の充電状態の推定をリフレッシュする必要がある時間を予約する。最後に、低位優先度レベルが割当てられた複数の電池に対しても同じことを実行する。
【0116】
これを説明するために、高度優先度レベルが電池18に割当てられ、中間優先度レベルが電池19及び20に割当てられ、低位優先度レベルが電池21に割当てられたものと仮定する。更に、時間T
eの間に、コンピュータは、
図10の方法のフェーズ114を、多くて2回実行するものと仮定する。これらの想定によって得た結果を
図13に示す。
図13において、時間k〜k+11を、x−軸にそって記載した。これら各時間の上の2つの箱は、コンピュータ44が、各時間kで,
図10の方法のフェーズ114を2回実行することができるという事実を表わしている。これらの箱のそれぞれにおいて、フェーズ114が実行される電池の数が示してある。これらの箱の中に数字が記載されていないのは、
図10の方法が実行されなかったこと、従って、節約されたコンピューティング電力は、例えば、推定66及び68の実行のように、他の目的に使用される。
【0117】
最後に、ステップ210の間に、優先度レベルが割当てられた電池のそれぞれに対して、コンピュータ44が、この電池のための予定時間においてフェーズ114を実行する。これらの予定時間以外では、コンピュータ44は、この電池のためにフェーズ114を完全実行するのを抑止する。同じように、優先度レベルが割当てられていない対の電池に対するフェーズ114の実行も抑止される。
【0118】
並行して、ステップ212の間に、優先度レベルが割当てられていない対の電池のそれぞれに対するこの電池の充電状態の推定値は、この電池の対の電池に対してステップ210の間に計算された最後の推定値に等しいものとされる。従って、フェーズ114は、対の電池の1つだけに対して実行される。このことによって、判定
精度を低下させずに、バッテリの充電状態を判定するのに必要なコンピューティング電力の使用量を減少させることが可能になる。
【0119】
任意選択的に、ステップ210と並行して、時間kごとに、コンピュータ44が、この時間kにおいて、ステップ210において処理されなかった電池のそれぞれの充電状態を想定するステップ214を実行する。ステップ214は、同じ時間において、完全実行フェーズ114が実行されなかった全ての電池に対して、補正ステップ122を実行せずに、想定ステップ116だけを実行することを含んでいる。実際、想定ステップ116は、ステップ122に比べて、コンピューティング電力の使用量がはるかに少ない。従って、想定ステップ116は、例えば、それぞれの時間kにおいて実行される。従って、ステップ214を実行する時、時間kにおいて、バッテリの複数の電池それぞれの充電状態の新たな推定を実行する。
【0120】
一定の間隔で、ステップ198及び208を反復して、これらの電池のそれぞれに割当てられた優先度のレベル、及びこれらの電池の充電状態を推定するためのリフレッシュ回数を更新する。複数の電池の充電状態を推定するためのリフレッシュ・タイムを割当てる方法によって、バッテリに対して判定された充電状態の精度を低下させずに、必要なコンピューティング電力の使用量を制限することが可能になる。実際、
図12の方法は、電圧差が小さな電池は、放電量も充電量も少ない電池なので、その充電状態は、急速には変化しないという事実を利用する。従って、バッテリに対して判定された充電状態の精度を低下させずに、低周波数で、これらの電池の充電状態を推定することができる。
【0121】
図10及び11の方法を実行する間、所定の時間において1個の電池の充電状態SOC
kが計算のために必要とする各時間で、前記充電状態SOC
kは、この電池に対して推定又は予測された最後の充電状態に等しいものとする。換言すれば、充電状態は、充電状態を推定又は予測した時、2つの連続した時間の間で一定を維持していると考えられる。
【0122】
同じように、コンピュータ44が、1個の電池に対して推定フェーズ114を実行するときはいつでも、コンピュータ44は、同じ電池に対するこのフェーズの前の実行の最後に得た値から、この実行に必要な情報を探索するということに留意するべきである。このことは、たとえば、特に、状態変数に関して言えることである。然しながら、前の時間は、必ずしも時間k−1ではなく、この電池に割当てられた優先度レベルに依存して、時間k−3又はk−4の場合もあり得ることに留意するべきである。
【0123】
1個の電池の充電状態を推定する方法には、多くの態様が可能である。例えば、
図14は、推定器の別のアレンジメントを表わしている。このアレンジメントは、推定器66及び68が、単一の推定器230に替わった以外には、
図3のアレンジメントと同じである。推定器230は、同時に、電池18の静電容量と内部抵抗を同時に推定する。推定器230の使用頻度は、推定器60に比べて少ない。k4を推定器230の実行時間とし、C
n,k4及びRO
k4を時間k4において推定された静電容量と内部抵抗とする。セット[時間k4]は、[時間k]のサブセットである。
【0124】
推定器230は、同じ時間における、静電容量C
n,k4及び内部抵抗RO
k4を推定する。この推定器230は、状態モデル232(
図15)及び観察モデル234(
図16)を使用するカルマン・フィルタを実行しする。
【0125】
図17の方法及び電池18の特定のケースに関して、この推定器230の機能を説明する。
図17の方法は、ステップ130〜174を、ステップ240、242、244、及び静電容量及び内部抵抗を推定するフェーズ226と置き換えた以外には、
図10の方法を同じである。
【0126】
ステップ240の間、コンピュータ44は、時間kごとに、測定値y
kを、上方閾値SH
y2と比較する。主として、閾値SH
y2は、0.8
*U
max又は0.9
*U
maxより大きいか、又は等しい。測定値y
kが、この閾値SH
y2以下に降下した場合だけに、ステップ242及び244が実行される。
【0127】
ステップ241の間、コンピュータ44はカウンタをゼロに初期化することからスタートし、次いで、新たな時間kごとに、このカウンタを、1だけ増分する。更に、これらの時間ごとに、測定強度i
k、値y
k、充電状態SOC
k及び推定電圧V
D,kを、この時間kと共にデータベースに記録する。
【0128】
ステップ242と並行して、ステップ244の間、コンピュータ44は、時間kごとに、新測定値y
kを、下方電圧閾値SL
y2と比較する。この下方電圧閾値SL
y2は、1.2
*U
min又は1.1
*U
min未満か、又は等しく、かつU
minより大きいが、等しい。
【0129】
一旦、測定値y
kが、この閾値SL
y2以下に降下した場合だけに、ステップ242の間に、カウンタの増分が停止され、推定器230の実行がトリガーされる。一方、測定値y
kが、この閾値SL
y2以上にある限り、推定器230の実行が抑止される。
【0130】
推定器230が、フェーズ246を実行する。前述したように、時間k4及びk
4−1が、NT
eより大きいか、又は等しい時間間隔で分割されている。但し、Nは、ステップ242の間に増分されたカウンタの値である。推定器230の機能は、推定器66及び68に関して前述した機能から推測することができる。従って、更に詳細に記載することは割愛する。
【0131】
他の電気的モデル及び他の状態モデルを使用して、電池18の充電状態を推定することができる。例えば、簡単な変形として、回路54は省略される。一方、より複雑な電気的モデルは、相互に直列に電気的接続された幾つかの並列RC回路を備えている。従って、電池18の状態モデルを、修飾・変形して、その電池の新しい電気的モデルに対応させるべきである。然しながら、前述した全ては、修飾・変形した状態モデルに、容易に適用することができる。例えば、修飾・変形した状態モデルの例は特許文献3に記載されている。
【0132】
モデル50のパラメータR
D及びC
Dも、所定の定数パラメータであると考えずに、推定することができる。この目的のために、これら2つのパラメータR
D及びC
Dを、例えば、状態X
kのベクトルに導入し、[SOC
k,V
D,k,R
D,k及びC
D,k]
Tを導出する。例えば、状態モデルは変形されて、2つの式R
D,k+1=R
D,k及びC
D,k+1=C
D,kを取り込む。
【0133】
状態X
kのベクトルを電池の温度で補償して、同じ時間におけるこの温度を、この電池の充電状態として推定することができる。
【0134】
電池には、温度センサのような補助センサを装着することができる。この場合、補助的に測定された物理量を考慮するために、観察モデルを変形することができる。特許文献3は、変形観察モデルを記載している。
【0135】
電池をシミュレートするための電気モデルは、非特許文献1のチャプタ3.3に記載されている。
【0136】
共分散マトリックスR
k及びQ
kの自動連続調整は、別の方で行うことができる。例えば、非特許文献2に記載されている、いわゆる[Covariance Matching](共分散調整)法を使用することができる。この方法は、例えば、オペレーション102に関して記載したように、マトリックスR
0及びQ
0の初期セット・アップの後で適用される。
【0137】
他の変形として、マトリックスQ
0、R
0、Q
k及びR
kは、オペレーション102及び120に関して前述したようには調整されない。例えば、これらのマトリックスは、通常の方法で調整される。簡素化されたケースにおいて、それらは一定である。例えば、マトリックスR
0は、前記センサの製造業者が提供したデータを使用して、又はこれらのセンサに対して実行されたテスト、及び連続テストによるマトリックスQ
0を使用してセット・アップされる。
【0138】
予測値を修正するためのステップ122又は178は、それぞれに、実行することができる。例えば、1つの好ましい方法において、充電状態の予測及び電圧V
D,kの修正は、2つのタームから構成される2次費用関数Jの最小化によって実行される:
− 測定値の予測誤差に結合されたターム、及び
− 状態のベクトルの予測誤差に結合された別のターム。
この方法は、非特許文献3に詳細に記載されている。
【0139】
別の変形として、推定器60は、カルマン・フィルタの形では実行されない。例えば、充電状態は、IIR(Infinite Impulse Response=無限インパルス応答)フィルタの形で、充電状態の経時的展開をシミュレートすることによって推定される。IIR(無限インパルス応答)フィルタの係数は、RLS(Recursive Least Square=反復最小二乗法)によって推定される。
【0140】
他の状態モデルを使用して、電池の内部抵抗及び静電容量を推定することができる。例えば、モデル232を、
図18に示したモデル250に置き換えることができる。モデル250において、α、β、及びγは一定で、それらの値は、電池のメーカーのデータ又は実験的に測定したデータから得ることができる。主として、
− αは、1プラス又はマイナス30%又は10%(1±30%又は10%)、
− βも、1プラス又はマイナス30%又は10%(1±30%又は10%)、及び
− γは、主として、0.1と0.5の間。例えば、γは、0.2プラス又はマイナス30%又は10%(0.2±30%又は10%)。
【0141】
モデル250において、N
Ckは、時間kの前に実行された電池の充電/放電サイク=に降下し、次いで下方閾値SL
SOC以下に降下する時間数を計数することによって測定される。w
ad,kは、中心ガウスホワイトノイズである。γは、電池の初期静電容量C
niniと、その電池の寿命静電容量の最後との間のパーセンテージ(%)で表現された差である。このモデルは、下記の事実を考慮する。
− 内部抵抗は、電池の老化と共に増加すること、及び
− 電池の静電容量は、電池の老化と共に減少すること。
【0142】
同じような方法で、状態モデル70を、以下の状態モデルと置き換えることができる:[RO
k2+1=(α+β
Ck2/N
cEOL)RO
k2+W
2,k2]。このモデルの異なる記号は前述したので、説明は割愛する。
【0143】
状態モデル74を、以下の状態モデルと置き換えることができる:
[C
n,k3+1=(1−γN
Ck3/N
CEOL)C
n,k3+V
3,k3]。このモデルの異なる記号は前述したので、説明は割愛する。
【0144】
推定器68に使用される観察モデルに依存して、量Z
k3を、それぞれ計算することができる。例えば、量Z
k3は、時間kとk−N+1の間で測定された最後のN強度の合計に等しい。この場合、Nは1に等しく、Z
k3=i
k3である。
【0145】
共分散マトリクッスQ
k及びR
kの初期化に関して上述した説明は、推定器68及び230の初期化にも適用することができる。
【0146】
別の変形として、推定器68は、カルマン・フィルタの形では実行されない。例えば、充電状態は、IIR(Infinite Impulse Response=無限インパルス応答)フィルタの形で、充電状態の経時的展開をシミュレートすることによって推定される。IIR(無限インパルス応答)フィルタの係数は、RLS(Recursive Least Square=反復最小二乗法)によって推定される。
【0147】
図10及び
図17の方法は、Nが所定の定数に等しいとすることによって、簡素化することができる。この場合、Nが計算され、ステップ160、162、240及び242は省略される。例えば、Nは1に等しく、一方では、必ず、1又は5又は10より大きい。
【0148】
他の変形として、時間k3とk3−1の間の時間kごとに、予想値C
n,kを計算するステップだけが実行されるが、この予測値を補正するステップ174は実行されない。従って、コンピューティング電力の使用量を制限して、これらの時間ごとの電池の静電容量の新しい予測値を得る。同じようにして、時間k4とk4−1の間の時間kごとに、静電容量及び内部抵抗の予想値を計算するステップだけが実行される。然しながら、これらの予測値を補正するステップは実行されない。従って、これらの変形では、電池の静電容量は、時間kごとに予測されるが、この予測値は、時間k3とk3−1又は時間k4とk4−1の間で、部分的にのみ実行され、完全実行は、時間k3又はk4においてだけ実行される。
【0149】
時間k3とk3−1又は時間k4とk4−1の間における時間kごとに、第1アルゴリズムを実行することによって、静電容量を推定することができ、次いで、時間k3又はk4において、第1のアルゴリズムとは異なる第2のアルゴリズムを実行し、かつ実質的に大きなコンピューティング動力を使用することによって、静電容量が推定される。上述したように、第1及び第2のアルゴリズムは、それぞれ、カルマン・フィルタの単一ステップ170,及びフェーズ166又は246に、必ずしも対応しない。それらは、2つの完全に異なる推定アルゴリズムである。
【0150】
電池の静電容量を推定するステップ166又は246は、
図10を参照して説明したように充電状態の閾値を超えた場合、又は
図17を参照して説明したように電圧の閾値を超えた場合、それに反応して、トリガーされる。これらのステップ166及び246は、電流の出力量の閾値を超えた場合にも、反応してトリガーされる。このために、電池の電圧又は充電状態が所定の上方閾値以下に降下した時間と共にスタートし、時間kごとに、コンピュータ44が、式[QC
k=QC
k−1+i
kT
e.]を使用して出力電流の量QC
kを計算する。一旦、QC
kが、上方閾値SH
Qを超えると、フェーズ166又は246が、実行される。一方、量QC
kが、閾値SH
Qを超えたままでいる限り、フェーズ166又は246の実行は抑止される。変形として、量QC
kは、時間kにおけるNを含んだスライディング・ウインドーで計算される(Nは、所定の定数。)。
【0151】
他の態様においては、静電容量及び/又は内部抵抗の推定を、閾値を超えたことに反応して、トリガーすることは省略される。例えば、これらの推定は、一定間隔でトリガーされる。利用可能なコンピューティング電力が、各時間kにおけるこの静電容量及びこの内部抵抗を推定するのに十分ならば、この一定間隔はT
eに等しい。
【0152】
図12の方法には、他に多くの態様が可能である。例えば、オペレーション205を省略することができる。この場合、対の電池は同定されず、かつステップ212は省略される。
【0153】
オペレーション202は、多様な方法で実行される。例えば、上方又は下方閾値の一つが使用される。オペレーション202は省略される。
【0154】
優先度レベルの数は任意であって、少なくとも2又は3より大きい。複数の電池に優先度レベルを割当てる方法は、他に幾つかある。例えば、1個の電池の優先度レベルは、その優先度レベルを、その電圧差及びその電圧に関係づける式を使用して、計算される。後者の場合、比較オペレーションは省略される。
【0155】
複数の電池の優先度レベルの函数としての電池のリフレッシュ時間と関連して記載した方法は、唯一の例である。これらのタスクの優先度レベルの函数としてのタスクを命令する他の既知の方法は、複数の電池の充電状態の推定のためのリフレッシュ時間の命令に関して記載したケースに適応させることができる。
【0156】
図12に記載された複数の電池それぞれの充電状態を推定するためのリフレッシュ時間のスケジューリングは省略される。例えば、時間lごとに、複数の電池それぞれの充電状態を推定するのに必要なコンピューティング電力が利用できる場合が、このような場合である。
【0157】
変形として、コンピュータ44は、それぞれ、各電池のため
図10又は17の推定方法を並行して実行することができる幾つかのプログラム可能なサブコンピュータを含んでいる。
【0158】
1個の電池の健康状態も、式[SOH
K=RO
K/RO
ini]を使用して計算することができる。
【0159】
バッテリ10は、例えば、鉛バッテリ、電気二重層コンデンサ、又は燃料電池のような如何なるタイプのバッテリとも置き換えることができる。この場合、推定器60の状態モデル及び/又は観察モデルは、任意選択的に、バテッリ技術を考慮に入れて、適応される。
【0160】
前記で特定した事は、ハイブリッド車、即ち、動力車輪の駆動が、同時に、又は交互に、電気モータ及び熱内燃機関によって実行される自動車にも適用される。自動車2は、トラック、モーターバイク又はオート三輪、及びバッテリで付勢される電気モータを使用して動力車を駆動することによって動かすことができる全ての車が含まれる。例えば、それはホイストでもよい。
【0161】
バッテリ10は、バッテリ10を商用電源に電気的に接続する電源コンセントを使用して再充電することができる。バッテリ10は、熱内燃機関によっても再充電することができる。