特許第6827447号(P6827447)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6827447
(24)【登録日】2021年1月21日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】表面修飾ナノ粒子
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/08 20060101AFI20210128BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20210128BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20210128BHJP
   C09D 11/037 20140101ALI20210128BHJP
   C09K 11/70 20060101ALN20210128BHJP
   C09K 11/56 20060101ALN20210128BHJP
【FI】
   C09K11/08 G
   H01L29/06 601N
   B82Y20/00
   C09D11/037
   !C09K11/70
   !C09K11/56
【請求項の数】10
【外国語出願】
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-143494(P2018-143494)
(22)【出願日】2018年7月31日
(62)【分割の表示】特願2017-45600(P2017-45600)の分割
【原出願日】2012年12月21日
(65)【公開番号】特開2019-31663(P2019-31663A)
(43)【公開日】2019年2月28日
【審査請求日】2018年8月7日
(31)【優先権主張番号】61/579,440
(32)【優先日】2011年12月22日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509295262
【氏名又は名称】ナノコ テクノロジーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】特許業務法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ナーサニ,イマド
【審査官】 小出 輝
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−116507(JP,A)
【文献】 特表2010−533198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/08
B82Y 20/00
C09D 11/037
H01L 29/06
C09K 11/56
C09K 11/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ粒子と、
リガンド相互作用剤と、
メラミン化合物である結合/架橋剤と、
グアイフェネシンと、
を含んでおり、
前記リガンド相互作用剤は、前記ナノ粒子の表面と会合する第1の部分と、前記結合/架橋剤と結合する第2の部分とを含んでおり、
前記グアイフェネシンは前記結合/架橋剤と結合する、組成物。
【請求項2】
前記ナノ粒子は、半導体ナノ粒子である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記リガンド相互作用剤はC−C20脂肪酸である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記メラミン化合物は、ヘキサメトキシメチルメラミンである、請求項に記載の組成物。
【請求項5】
前記リガンド相互作用剤−C20脂肪酸エステルある、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記ナノ粒子の表面にあるキャッピングリガンドを更に含んでおり、
前記リガンド相互作用剤の第1の部分は、前記キャッピングリガンドとインターカレーションする、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
極性溶媒を更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
アクリレートを更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記半導体ナノ粒子は、CdS、CdSe、CdTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、InP、InAs、InSb、AlP、AlS,AlAs、AlSb、GaN、GaP、GaAs、GaSb、PbS、PbSe、Si、Ge及びそれらの組合せの何れかを含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項10】
インクである、請求項1に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<A.ナノ粒子>
大きさが2〜100nmのオーダーであって、多くの場合、量子ドット及び/又はナノ粒子と称される粒子からなる化合物半導体の調製及びキャラクタリゼーション(characterization)に大きな関心が持たれてきた。これらの研究は、ナノ粒子におけるサイズ調整可能な電子、光学及び化学特性に主に焦点を当ててきた。生物学的ラベリング(biological labeling)、太陽電池、触媒作用、生物学的イメージング、発光ダイオードのような多様な商業的用途への適用可能性から、半導体ナノ粒子は、大きな関心を集めている。
【背景技術】
【0002】
2つの基本的な因子が、共に、個々の半導体ナノ粒子の大きさに関係しており、そのユニークな特性を主に担っている。第1の因子は、大きな表面対体積比である:粒子が小さくなると、内部にある原子に対する表面原子の数の比が増加する。これは、材料の特性全般において重要な役割を果たす表面特性をもたらす。第2の因子は、半導体ナノ粒子を含む多くの材料では、材料の電気的特性は、サイズで変化することである。更に、量子閉じ込め効果のために、バンドギャップは、通常、ナノ粒子のサイズが大きくなると、徐々に減少する。この効果は、「箱への電子(electron in a box)」の閉込めの結果であり、対応するバルク半導体材料で観察される連続的なバンドではなく、原子及び分子で観察されるバンドと類似した離散的エネルギーレベルを生じさせる。半導体ナノ粒子は、ナノ粒子材料の粒子サイズ及び組成に依存する狭帯域放射を示す傾向がある。第1励起子遷移(バンドギャップ)のエネルギーは、粒子径が減少するにつれて増大する。
【0003】
外側の有機不動態層を伴った、本明細書にて「コアナノ粒子」と称される単一の半導体材料の半導体ナノ粒子は、比較的低い量子効率(quantum efficiencies)を有する傾向がある。これは、ナノ粒子表面上に位置する欠陥及びダングリングボンドで発生する電子−正孔再結合が、非放射電子−正孔再結合をもたらし得ることによる。
【0004】
量子ドットの無機表面の欠陥及びダングリングボンドを排除する一つの方法は、典型的には、バンドギャップが広く、コア粒子に対する格子不整合が小さい第2の無機材料をコア粒子の表面に成長させ、「コア−シェル」粒子を生成することである。コア−シェル粒子は、さもなくば非放射再結合中心として作用するであろう表面状態から、コアに閉じ込められたキャリアを分離する。一例として、CdSeコア表面上で成長したZnSがある。別のアプローチは、量子ドット−量子井戸構造のような、特定の材料の幾つかのモノレイヤーからなる単一のシェル層に、「電子−正孔」対が完全に閉じ込められたコアマルチシェル構造を調製することである。ここで、コアはバンドギャップが広い材料であり、バンドギャップがより狭い材料の薄いシェルが続いて、バンドギャップがより広い材料の層でキャップされる。例として、コアナノ結晶の表面でCdをHgで置換し、HgSの少数のモノレイヤーを堆積させて、その後、CdSのモノレイヤーを上に成長させることで成長させられたCdS/HgS/CdSがある。得られた構造は、HgS層における光励起キャリアの明確な閉じ込めを示す。
【0005】
最も研究及び調整された半導体ナノ粒子は、ZnS、ZnSe、CdS、CdSe及びCdTeなどのII−VI族材料であり、加えて、これらの材料を組み込んだコア−シェル及びコア−マルチシェル構造であった。かなりの関心を引き起こしたその他の半導体ナノ粒子には、GaN、GaP、GaAs、InPやInAsのようなIII−V材料やIV−VI材料を組み込んだナノ粒子が含まれている。コアナノ粒子及びコア−シェルナノ粒子を合成する方法は、例えば、共同所有の米国特許第6,379,635号、第7,803,423号、第7,588,828号、第7,867,556号、及び第7,867,557号に開示されている。これら特許の各々の内容は、その全体が、引用を以て本明細書の一部となる。
【0006】
<B.表面修飾>
ナノ粒子の多くの用途は、半導体ナノ粒子が、特定の媒体と相溶性を有する(compatible)ことを要求している。例えば、蛍光標識、インビボ(in vivo)イメージングや治療学などの幾つかの生物学的用途は、ナノ粒子が水性環境と相溶性を有することを要求している。その他の用途では、ナノ粒子は、芳香族化合物、アルコール、エステルやケトンなどの有機媒体中に分散可能であることが望ましい。例えば、有機系分散剤中に分散した半導体ナノ粒子を含有するインク配合物は、光起電(PV)デバイス用の半導体材料の薄膜を製造するために重要である。
【0007】
半導体ナノ粒子の用途について特に魅力的な可能性がある分野は、次世代の発光ダイオード(LED)の開発にある。LEDは、例えば、自動車の照明、交通信号、一般照明、液晶ディスプレイ(LCD)のバックライトやディスプレイ画面にて、ますます重要になってきている。ナノ粒子ベースの発光デバイスは、通常、シリコーン又はアクリレートである光学的に明澄な(十分に透明な)LED封入媒体に半導体ナノ粒子を埋め込み、その後、それをソリッドステートLEDの上に配置することで作製されてきた。半導体ナノ粒子の使用は、潜在的に、従来の蛍光体の使用に対して顕著な利点を有している。例えば、半導体ナノ粒子は、LEDの発光波長を調整する能力をもたらす。半導体ナノ粒子はまた、媒体中に十分に分散されると、吸収特性が強く、散乱が低い。ナノ粒子は、LEDの封入材料に組み込まれてよい。量子効率の損失を防ぐためには、ナノ粒子を封入材料中に十分に分散させることが重要である。ナノ粒子は、LED封止材料に配合されると凝集する傾向があって、それによってナノ粒子の光学性能を低下させるという問題が、これまでに開発された方法には存在している。さらに、ナノ粒子がLED封止材料に組み込まれた後でも、酸素はまだ、ナノ粒子の表面へと封止材料を通って移動することができ、これにより、光酸化が起こり、量子収率(QY)が低下する可能性がある。
【0008】
媒体とのナノ粒子の相溶性だけでなく、凝集、光酸化及び/又はクエンチング(quenching)へのナノ粒子の感受性(susceptibility)は、ナノ粒子の表面組成によって主に媒介される。任意のコア、コア−シェル又はコア−マルチシェルナノ粒子における最終的な無機表面原子に対する配位(coordination)は不完全であり、表面における反応性の高い「ダングリングボンド」は、粒子の凝集を引き起こし得る。この問題は、キャッピングリガンド又はキャッピング剤と称する保護有機基を用いて、「裸の」表面原子を不動態化(キャッピング)することによって克服される。粒子のキャッピング又は不動態化は、粒子凝集が起こるのを防止するだけではない。コア材料の場合には、キャッピングリガンドはまた、その周囲の化学環境から粒子を保護し、粒子に電子安定化(不動態化)をもたらす。キャッピングリガンドは、通常、粒子の最も外側の無機層における金属原子の表面に結合したルイス塩基である。キャッピングリガンドの特性は、特定の媒体とのナノ粒子の相溶性をほとんど決定する。これらのキャッピングリガンドは、通常、疎水性である(例えば、アルキルチオール類、脂肪酸類、アルキルホスフィン類、アルキルホスフィンオキシド類など)。従って、ナノ粒子は、通常、ナノ粒子の合成及び単離後に、トルエンのような疎水性溶媒中に分散されている。このようにキャップされたナノ粒子は、通常、より極性が高い媒体には分散しない。
【0009】
ナノ粒子の表面を改質するために最も広く使用される手法は、リガンド交換として知られている。コア合成及び/又はシェル化手順中に、ナノ粒子の表面に配位結合する親油性リガンド分子は、その後、極性/荷電リガンド化合物と交換されてもよい。代替的な表面修飾のストラテジーは、ナノ粒子の表面に既に配位しているリガンド分子と極性/荷電分子又はポリマー分子をインターカレーションする(intercalate)。現在のリガンド交換及びインターカレーション手順は、ナノ粒子に水性媒体との相溶性を与えるが、通常、対応する非修飾ナノ粒子よりも、量子収率(QY)が低く、及び/又は、サイズがかなり大きい材料が得られてしまう。
【0010】
故に、当該分野において、様々な媒体と相溶性を有するナノ粒子と、ナノ粒子の完全性(integrity)と光物理的特性を維持しながら、ナノ粒子の表面を修飾して、所望の相溶性を与える技術とが必要とされている。
【0011】
本発明の主題は、上記の1又は複数の問題の影響を克服し、或いは、少なくとも低減することに向けられている。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、ナノ粒子の表面を修飾する方法と、表面修飾ナノ粒子を製造する方法とを提供する。概して、本発明の方法は、本明細書にてリガンド相互作用剤(ligand interactive agent)と称する第1のタイプの分子を、ナノ粒子の表面と会合させる(associating)工程を含んでいる。リガンド相互作用剤は、その後、結合/架橋剤(linking/crosslinking agent)と反応させられる。結合/架橋剤は、2つの目的を果たす:(1) それは、リガンド相互作用剤の分子間を架橋する(また、ナノ粒子表面のその他のリガンド間も架橋する可能性ある)。(2) それは、1又は複数の表面修飾リガンドに定着点(anchor point)を提供する。
【0013】
リガンド相互作用剤は、1又は複数の様々な異なるモードでナノ粒子表面と会合してよい。例えば、キャッピングリガンドのような、既にナノ粒子表面上にあるリガンドと、インターカレーションすることで、ナノ粒子表面と会合してよい。リガンド相互作用剤は、このような既存のリガンドとリガンド交換することで、ナノ粒子表面と会合してよい。リガンド相互作用剤は、ナノ粒子表面と親和性を有する1又は複数の官能基を含んでいても、いなくともよい。リガンド相互作用剤とナノ粒子表面との間の相互作用におけるこれらのモードの1又は複数は、一時に作用してよい。
【0014】
リガンド相互作用剤は、結合/架橋剤と相互作用する1又は複数の官能基を含んでいる。結合/架橋剤は、ナノ粒子表面にてリガンド相互作用剤の分子間を架橋する。故に、結合/架橋剤は、ナノ粒子のリガンドシェルへと組み込まれる。結合/架橋剤は、リガンド相互作用剤の官能基に対して特異的な親和性又は反応性を有してよく、このような官能基の間を架橋してよい。結合/架橋剤は、多座(multi-dentate)であってよく、ナノ粒子表面にて2、3又は4以上のリガンド間を架橋してよい。
【0015】
架橋によって、ナノ粒子のリガンドシェルの安定性と耐性(robustness)が増加してよい。その結果として、ナノ粒子は、劣化、クエンチング、光退色などの影響を受け難くなってよい。
【0016】
イニシエータ(initiator)又は触媒が、架橋を開始又は促進するのに用いられてよい。例えば、イニシエータ又は触媒は、酸のような化学的イニシエータであってよい。イニシエータは、光学イニシエータであってよい。
【0017】
結合/架橋剤はまた、表面修飾リガンドに対して付着点として機能してよい。表面修飾リガンドは、特定の溶媒又は媒体との表面修飾ナノ粒子の親和性を修飾する機能性を組み込んでよい。例えば、表面修飾リガンドは、極性基を組み込んでよく、水、アルコール、ケトン、インク樹脂、エポキシ樹脂や極性アクリレート樹脂等の極性溶媒との表面修飾ナノ粒子の親和性を増加させる。別の例としては、表面修飾リガンドは、シリコーン又は同種のものを含んでよく、シリコーンマトリクスとの表面修飾ナノ粒子の親和性を増加させる。特定のリガンド相互作用剤、結合/架橋剤、及び表面修飾リガンドについては、以下において詳細に説明される。
【0018】
ある実施形態では、リガンド相互作用剤は最初に、ナノ粒子の表面と会合する。その後、ナノ粒子は、結合/架橋剤及び表面修飾剤と反応して、架橋と、ナノ粒子への表面修飾剤の結合とがなされる。
【0019】
別の実施形態では、表面修飾リガンドは、リガンド相互作用剤と予め会合している(pre-associated)。ナノ粒子は、ナノ粒子の表面と会合するリガンド相互作用剤/表面修飾リガンドの組合せにさらされる。その後、ナノ粒子は、結合/架橋剤にさらされて、架橋がなされてよい。
【0020】
上記の概要は、本発明について、可能性のある実施形態の全てや全ての態様を概説することを意図してはいない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
本特許又は本願の包袋は、少なくとも1枚のカラーの図を含んでいる。カラーの図を含む本特許又は本願に係る公報の写しは、請求と必要な費用を支払うことで、特許庁から与えられるであろう。
【0022】
図1図1は、ナノ粒子の表面を修飾する方法の模式図である。
【0023】
図2図2は、リガンド相互作用剤の模式図である。
【0024】
図3図3は、リガンド相互作用剤としてイソプロピルミリステートを、結合/架橋剤としてHMMMを、表面修飾リガンドとしてPEGを用いて、ナノ粒子の表面を修飾する方法を図示している。
【0025】
図4図4は、PEG修飾ミリステート(PEG-modified myristate)表面修飾リガンドを用いてナノ粒子の表面を修飾する方法を図示している。
【0026】
図5図5は、PDMSに懸濁したシリコーン相溶性ナノ粒子(図5A)と未修飾のナノ粒子(図5B)の蛍光スペクトルを示す。
【0027】
図6図6は、エポキシ樹脂に懸濁したエポキシ相溶性ナノ粒子(図6A)と未修飾のナノ粒子(図6B)の蛍光スペクトルを示す。
【0028】
図7図7は、水中における水溶性のナノ粒子の蛍光スペクトルを示す。
【0029】
図8図8は、エポキシ封入剤に懸濁したエポキシ相溶性ナノ粒子を組み込んでいるLED(図8A)と、エポキシに懸濁したアクリルビーズに封入された未修飾ナノ粒子を組み込んでいるLED(図8B)の発光スペクトルを示す。
【0030】
図9図9は、エポキシ封入剤に懸濁したエポキシ相溶性ナノ粒子を組み込んでいるLED(図9A)と、エポキシに懸濁したアクリルビーズに封入された未修飾ナノ粒子を組み込んでいるLED(図9B)の安定性測定を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1は、表面修飾ナノ粒子を作製する方法の実施形態を模式的に図示している。ナノ粒子100は、ナノ粒子の表面と会合した有機リガンド101のシェルを含んでいる。本発明は、ナノ粒子の特定の種類には限定されない。金属酸化物のナノ粒子(例えば、酸化鉄、磁性ナノ粒子、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム)、金ナノ粒子及び銀ナノ粒子は全て、本明細書に記載した方法を用いて処理及び表面修飾できる。好ましい実施形態ではナノ粒子は、半導体材料、好ましくは、発光半導体材料を含んでよい。半導体材料は、周期表の第2族乃至第16族における任意の1又は複数からのイオンを組み込んでいてよく、二元、三元及び四元材料、即ち、2、3又は4種の異なるイオンを夫々組み込んでいる材料を含んでよい。例えば、ナノ粒子は、これらに限定されないが、CdS、CdSe、CdTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、InP、InAs、InSb、AlP、AlS,AlAs、AlSb、GaN、GaP、GaAs、GaSb、PbS、PbSe、Si、Geやそれらの組合せのような半導体材料を組み込んでよい。様々な実施形態では、ナノ粒子の直径は、約100nm未満、約50nm未満、約20nm未満、約15nm未満、及び/又は、約2乃至10nmの範囲であってよい。
【0032】
CdS、CdSe、ZnS、ZnSe、InPやGaN等の単一の半導体材料を含むナノ粒子の量子効率は、比較的低いことがある。これは、非放射電子−正孔再結合が、ナノ粒子の表面の欠陥とダングリングボンドで起こるからである。これらの問題に少なくとも部分的に対処するために、ナノ粒子のコアは、コアの材料とは異なる材料、例えば、「コア」の材料とは異なる半導体材料の1又は複数の層(本明細書では「シェル」と称する)で、少なくとも部分的に覆われてもよい。各シェルに含まれる材料は、周期表の第2族乃至第16族における任意の1又は複数のイオンを組み込んでよい。ナノ粒子が2又は3以上のシェルを有する場合、各シェルは、異なる材料で形成されてよい。典型的なコア/シェル材料では、コアは、上述した材料の1つから形成されており、シェルは、バンドギャップエネルギーがより大きく、コア材料と同様な格子寸法を有する半導体材料を含んでいる。典型的なシェル材料には、ZnS、ZnO、MgS、MgSe、MgTe及びGaNが含まれるが、これらに限定されない。典型的なマルチシェルナノ粒子は、InP/ZnS/ZnOである。コア内に、表面状態から離れて荷電キャリアを閉じ込めることは、ナノ粒子に大きな安定性と、高い量子収率とをもたらす。
【0033】
開示されている方法は、任意の特定のナノ粒子材料に限定されないが、開示されている方法の利点は、カドミウムフリーのナノ粒子、即ち、カドミウムを含んでいない材料からなるナノ粒子の表面を修飾するのに使用できることである。カドミウムフリーのナノ粒子の表面を修飾することは特に困難であることが分かっている。従来技術のリガンド交換方法のような従来技術の方法が使用されて、カドミウムフリーのナノ粒子表面が修飾される場合、カドミウムフリーのナノ粒子は容易に劣化する。例えば、カドミウムフリーのナノ粒子の表面を修飾する試みは、そのようなナノ粒子の発光量子収率(QY)を著しく低下させることが観察されている。その一方、開示されている方法は、表面修飾されたカドミウムフリーナノ粒子に高いQYを与える。例えば、開示されている方法で得られたカドミウムフリーのナノ粒子は、水に分散でき、約20%よりも、約25%よりも、約30%よりも、約35%よりも、約40%よりも大きいQYを有している。カドミウムフリーのナノ粒子の例には、 ZnS、ZnSe、ZnTe、InP、InAs、InSb、AlP、AlS、AlAs、AlSb、GaN、GaP、GaAs、GaSb、PbS、PbSe、Si、Geなどの半導体材料を含むナノ粒子があり、特に、これらの材料の一つからなるコアと、これらの材料の別の一つからなる1又は複数のシェルとを備えているナノ粒子がある。
【0034】
典型的には、コア、コア/シェル、又はコア/マルチシェルナノ粒子を生成するのに用いられるコア化手順及び/又はシェル化手順の結果として、ナノ粒子は、ミリスチン酸、ヘキサデシルアミン及び/又はトリオクチルホスフィンオキシドのような表面結合リガンド101で少なくとも部分的に覆われる。このようなリガンドは、典型的には、コア化手順及び/又はシェル化手順が実行された溶媒由来とされる。この種のリガンド101は、上述したように、無極の媒体におけるナノ粒子の安定性を増加し、電子的安定性をもたらし、及び/又は、ナノ粒子の有害な凝集を無し得る一方で、このようなリガンドは通常、水性溶媒のような極性の大きい媒体にてナノ粒子が安定に分散又は溶解するのを妨げる。
【0035】
ナノ粒子100を修飾する最初のステップとして、ナノ粒子は、リガンド相互作用剤102にさらされて、リガンド相互作用剤102とナノ粒子100の表面との会合がもたらされる。リガンド相互作用剤102の概略は、より詳細に図2に示されている。リガンド相互作用剤は、鎖部分103と官能基104とを備えており、官能基104は、以下で述べるように、結合/架橋剤に対する特異的な親和性又は反応性を有している。このような官能基104としては、例えば、チオ基、ヒドロキシル基、カルボキシアミド基、エステル基、カルボキシル基などの求核基が挙げられる。エステルは、このような官能基104の一例である。鎖部分103は、例えば、アルカン鎖であってもよい。リガンド相互作用剤102はまた、ナノ粒子の表面に対して親和性を有する部分(moiety)105を備えていても、いなくともよい。このような部分105の例としては、チオール、アミン、カルボキシル基やホスフィンが挙げられる。リガンド相互作用基102は、このような部分105を含まない場合、キャッピングリガンド101(図1参照)とインターカレーションすることで、ナノ粒子100の表面と会合することができる。リガンド相互作用剤102の例としては、イソプロピルミリステートのような、C8−20脂肪酸及びそれらのエステルが挙げられる。
【0036】
図1を再度参照すると、リガンド相互作用剤102は、単に、ナノ粒子の合成に用いられるプロセスの結果としてナノ粒子100と会合してよく、更なる量のリガンド相互作用剤102にナノ粒子100をさらす必要が無くなることに留意すべきである。この場合、更なるリガンド相互作用剤をナノ粒子と会合させる必要がないであろう。代替的に又は追加的に、ナノ粒子100は、合成及び単離された後に、リガンド相互作用剤102にさらされてよい。例えば、ナノ粒子100は、ある期間、リガンド相互作用剤102を含む溶液中にてインキュベートされてよい。このようなインキュベーション又はインキュベーション期間の一部では、昇温されて、ナノ粒子100の表面とのリガンド相互作用剤102の会合が促進されてよい。リガンド相互作用剤102をナノ粒子100と会合させることで、リガンド相互作用剤−ナノ粒子会合錯体(association complex)110が得られる。
【0037】
ナノ粒子100の表面とのリガンド相互作用剤102の会合に続いて、ナノ粒子は、結合/架橋剤106及び表面修飾リガンド107にさらされる。結合/架橋剤106は、リガンド相互作用剤102の官能基104に対する特異な親和性を有する官能基を含んでいる。結合/架橋剤106はまた、表面修飾リガンド107に対して特異な反応性を有している。故に、結合/架橋剤106は、ナノ粒子100のリガンドシェルと架橋するように働き、そしてまた、ナノ粒子100の表面に、表面修飾リガンド107を結合するように働いてよい。
【0038】
リガンド相互作用剤−ナノ粒子会合錯体110は、結合/架橋剤106及び表面修飾リガンド107に順次さらされてよい。例えば、ナノ粒子100(リガンド相互作用剤102を含む)は、ある期間、結合/架橋剤106にさらされて、架橋がなされてよく、その後、引き続いて、表面修飾リガンド107にさらされて、ナノ粒子100のリガンドシェルに表面修飾リガンド107が組み込まれてよい。代わりに、ナノ粒子100は、結合/架橋剤106と表面修飾リガンド107の混合物にさらされて、架橋と、表面修飾リガンドの組込みとが、単一のステップでなされてもよい。
【0039】
好適な結合/架橋剤の例には、リガンド相互作用剤102の分子を架橋し、表面修飾リガンド107への結合部位を与える任意の剤が含まれる。特に適した結合/架橋剤106には、メラミン系化合物(melamine-based compounds)がある。
【化1】
【0040】
特に適したメラミン系結合/架橋剤は、ヘキサメトキシメチルメラミン(HMMM)である。
【化2】
【0041】
HMMMは、CYMEL303として、サイテックインダストリーズ社(ウエストパターソン、ニュージャージー)から商業的に入手できる。HMMMは、例えば、アミド、カルボキシル基、ヒドロキシル基やチオールのような種々の官能基を架橋する酸触媒反応を示し得る。強酸の存在下では、HMMMは、約75℃を超える温度にてチオール含有化合物を架橋し、約130℃を越える温度にてカルボキシル又はアミド含有化合物を架橋する。これらの温度は、限定することを意図するものではない。約120℃などのより低い温度は、より遅い速度で架橋をもたらし得る。本明細書に開示された実施形態は、ナノ粒子と、HMMMのようなメラミン化合物とを含む組成物である。組成物は、極性溶媒を含んでもよい。組成物は、インク配合物であってもよい。
【0042】
強いプロトン酸の存在は、通常、HMMMとの架橋を触媒するのに必要とされる。最も活性な触媒は、最も低いpKa値を有するものである。触媒の例は、無機酸、p−トルエンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、シュウ酸、マレイン酸、ヘキサミン酸(hexamic acid)、リン酸、アルキルリン酸エステル(alkyl phosphate ester)、フタル酸、アクリル酸、サリチル酸などが挙げられる。
【0043】
図1を参照すると、表面修飾リガンド107は、リガンド相互作用剤102と結合することで、ナノ粒子100と会合する。表面修飾リガンド107は、特定の溶媒又は媒体とのナノ粒子(compatibility)の相溶性を修飾できる。例えば、ナ粒子100と表面修飾リガンド107を会合させることで、ナノ粒子100は、水性溶媒に溶解可能に、又は水性溶媒と相溶性を有するようになってよい。このような表面修飾リガンドの具体例としては、ポリエチレングリコールなどのポリエーテルが挙げられる。表面修飾リガンド107の一例には、ヒドロキシル末端ポリエチレングリコールがある。その他の表面修飾リガンドが選択されて、その他の媒体又は溶媒との相溶性が与えられてよい。例えば、ポリジメチルシロキサン(polydimethysiloxane)(PDMS)のような、シリコーン系の表面修飾リガンドが、表面修飾リガンドとして使用されてよく、シリコーン樹脂とポリカーボネート樹脂とのナノ粒子の相溶性を付与する表面修飾リガンドとして使用することができる。別の例としては、グアイフェネシン(guaifenesin)が使用されて、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPTM)のような、極性溶媒や極性アクリレートとの相溶性が付与されてよい。
【0044】
図1に示す実施形態は、次のように要約される。ナノ粒子100は、キャッピングリガンド101を組み込んでおり、リガンド相互作用剤102と共に、適切な溶媒にてインキュベートされて、リガンド相互作用剤102とナノ粒子100の表面との会合が起こる。結合/架橋剤106と、表面修飾リガンド107と、イニシエータ又は触媒とが加えられる。混合物全体は、架橋と、ナノ粒子100のリガンドシェルへの表面修飾リガンドの会合とを行うのに十分な時間及び温度で、一緒に加熱される。
【0045】
図3に示す実施形態では、キャッピングリガンド301を含むナノ粒子300は、リガンド相互作用剤302としてのイソプロピルミリステートにさらされる。図3に示す実施形態によれば、イソプロピルミリステートは、キャッピングリガンドとインターカレーションすることで、ナノ粒子300の表面と会合する。このようなインターカレーションは、数分から数時間の範囲の期間、トルエンのような溶媒中にて、ナノ粒子及びイソプロピルミリステートをインキュベートすることによって成すことができる。ある実施形態では、ナノ粒子及びイソプロピルミリステートを、約5分間、約50〜60℃のトルエン中で加熱し、次いで室温で一晩放置する。ある実施形態では、約200mgのナノ粒子を、約100マイクロリットルのイソプロピルミリステートを用いてインキュベートできる。
【0046】
図3に示す実施形態では、HMMMを結合/架橋剤306として、サリチル酸を触媒308として、モノメトキシポリエチレンオキサイド(mPEG)を表面修飾リガンド307として与えている。トルエン中のHMMM、サリチル酸及びmPEGの混合物をナノ粒子混合物に添加して、約数分から数時間の範囲の期間にわたって約140℃に加熱することで、PEG−修飾ナノ粒子309を生成できる。
【0047】
図3に示す実施形態により、水性分散剤(aqueous dispersant)との相溶性のあるPEG修飾ナノ粒子が得られる。表面修飾リガンドは、その他の媒体との相溶性を与えるように調整されてよい。上記のように、ポリジメチルシロキサン(PDMS)のようなシリコーン系の表面修飾リガンドは、シリコーン樹脂とポリカーボネート樹脂とのナノ粒子の相溶性を付与する表面修飾リガンドとして使用することができる。別の例として、グアイフェネシンが使用されて、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPTM)のような、極性溶媒や極性アクリレートとの相溶性が付与されてよい。 一般に、HMMMと反応し、トルエンに可溶である任意の表面修飾リガンドは、図3に示す実施形態で使用することができる。
【0048】
図4は、代替的実施形態を図示しており、キャピングリガンド401を含むナノ粒子400は、表面修飾リガンド402を用いて処理され、当該リガンド402は、HMMMである結合/架橋剤406と反応可能な官能基(エステル基)を含んでいる。表面修飾リガンド402は、ミリステート系(myristate-based)リガンドであって、ナノ粒子400に水溶性を与える官能基(PEG−OCH)を含んでいる。表面修飾リガンド402はまた、ナノ粒子400の表面に対して特異的親和性を有する官能基(図4に示す実施形態では、「X」と表記)を含んでよい。このような官能基の例としては、チオールやカルボキシル基が挙げられる。
【0049】
表面修飾リガンドが、ナノ粒子400の表面と会合すると、その後、ナノ粒子400は、結合/架橋剤406及び触媒408と反応し、表面修飾リガンド402間で架橋される。図4に示す実施形態において、HMMMが、結合/架橋剤406であり、サリチル酸が触媒408である。表面修飾リガンドを架橋することで、表面修飾ナノ粒子409のリガンドシェルの安定性が高められる。
【実施例】
【0050】
<1.シリコーン相溶性ナノ粒子>
608nmで赤色発光する、カドミウムフリーの量子ドットナノ粒子(CFQD)(InP/ZnS)(200mg)を、イソプロピルミリステート(100マイクロリットル)と共にトルエン(1mL)中に分散させた。混合物を約1乃至2分間50℃で加熱し、その後、室温で15時間ゆっくりと振とうさせた。HMMM(Cymel 303) (400mg)、モノヒドロキシポリジメチルシロキサン(MW 5kD) (200mg)、及びp−トルエンスルホン酸(70mg)のトルエン溶液(4mL)を、ナノ粒子分散液に加えた。混合液を脱気し、電磁撹拌機を用いて300rpmで撹拌しつつ、140℃で4時間還流させた。窒素のストリームを1時間、フラスコに通して、求核基とHMMMの反応で生じる揮発性の副産物を確実に除去した。混合物を室温まで冷めるままにし、不活性ガス下で保存した。表面修飾ナノ粒子は、未修飾のナノ粒子と比べて、蛍光量子収率の損失が小さく又は無く、発光ピーク又は半値全幅(FWHM)値に変化はなかった。表面修飾ナノ粒子は、様々な分子量の(10乃至1000kD)PDMSポリマーに良好に分散し、残留トルエンを除去した後でさえ、分散したままであった。反対に、PDMSに分散させた同じ濃度の未修飾ナノ粒子は、凝集して、ホストシリコーンから分離した。
【0051】
以下のようにしてフィルムを調整した。トルエン(〜200マイクロリットル)に分散させたナノ粒子(6mg)を、スパーテルを用いて、PDMS樹脂(1g)と十分に混合した。混合物を、真空下で数時間、強力に脱気して、トルエンを除去した。そして、混合物をスライドガラスの上に載せて、フィルムを形成した。
【0052】
図5A及び図5Bは夫々、PDMSに懸濁した表面修飾ナノ粒子と未修飾ナノ粒子の蛍光スペクトルを示している。図5A及び図5Bの各々について、4つの測定が実行されている。1つの測定は、内標準のみの空試料であり、3つの測定は、PDMSに懸濁したナノ粒子である。表面修飾ナノ粒子の蛍光量子収率(QY=59%)は、未修飾ナノ粒子のもの(QY=56%)よりも大きい。未修飾ナノ粒子の量子収率は、凝集効果及び再吸収効果により減少する。
【0053】
<2.エポキシ相溶性ナノ粒子>
525nmで緑色発光する、カドミウムフリーの量子ドットナノ粒子(CFQD)(InP/ZnS)(200mg)を、イソプロピルミリステート(100マイクロリットル)と共にトルエン(1mL)中に分散させた。混合物を約1乃至2分間50℃で加熱し、その後、室温で15時間ゆっくりと振とうさせた。HMMM(Cymel 303) (400mg)、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル(200mg)、サリチル酸(70mg)のトルエン溶液(4mL)を、ナノ粒子分散液に加えた。混合液を脱気し、電磁撹拌機を用いて300rpmで撹拌しつつ、140℃で4時間還流させた。窒素のストリームを1時間、フラスコに通して、求核基とHMMMの反応で生じる揮発性の副産物を確実に除去した。混合物を室温まで冷めるままにし、不活性ガス下で保存した。表面修飾ナノ粒子は、未修飾のナノ粒子と比べて、蛍光量子収率の損失が小さく又は無く、発光ピーク又は半値全幅(FWHM)値に変化はなかった。表面修飾ナノ粒子は、様々な分子量のエポキシポリマーに良好に分散し、残留トルエンを除去した後でさえ、分散したままであった。反対に、同じ濃度の未修飾ナノ粒子は、凝集して、ホストマトリクスから分離した。
【0054】
図6A及び図6Bは夫々、EX135エポキシ樹脂に懸濁した表面修飾ナノ粒子と未修飾ナノ粒子の蛍光スペクトルを示している。図6A及び図6Bの各々について、4つの測定が実行されている。1つの測定は、内標準のみの空試料であり、3つの測定は、エポキシ樹脂に懸濁したナノ粒子である。表面修飾ナノ粒子の蛍光量子収率(QY=60%)は、未修飾ナノ粒子のもの(QY=58%)よりも大きい。未修飾ナノ粒子の量子収率は、凝集効果及び再吸収効果により減少する。
【0055】
<3.ポリスチレン相溶性ナノ粒子>
608nmで赤色発光する、カドミウムフリーの量子ドットナノ粒子(CFQD)(InP/ZnS)(200mg)を、イソプロピルミリステート(100マイクロリットル)と共にトルエン(1mL)中に分散させた。混合物を約1乃至2分間50℃で加熱し、その後、室温で15時間ゆっくりと振とうさせた。HMMM(Cymel 303) (400mg)、モノメトキシポリエチレンオキシド(CHO−PEG2000−OH)(400mg)、サリチル酸(50mg)のトルエン溶液(4mL)を、ナノ粒子分散液に加えた。混合液を脱気し、電磁撹拌機を用いて300rpmで撹拌しつつ、130℃で2時間還流させた。窒素のストリームを1時間、フラスコに通して、求核基とHMMMの反応で生じる揮発性の副産物を確実に除去した。混合物を室温まで冷めるままにし、不活性ガス下で保存した。表面修飾ナノ粒子は、未修飾のナノ粒子と比べて、蛍光量子収率の損失が小さく又は無く、発光ピーク又は半値全幅(FWHM)値に変化はなかった。修飾されたドットのアリコートをポリスチレン樹脂又はポリスチレンコポリマー樹脂(トルエン中5%固形分、例えば、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレン又はスチレン−エチレン/プロピレン−スチレン(SEPS、SEBS、Kraton))と混合し、修飾されたナノ粒子は、ホストポリスチレン樹脂に非常に良く分散し、残留トルエンを除去した後でも分散したままであった。同じナノ粒子濃度にて、未修飾でそのままのナノ粒子は、凝集して、ホスト樹脂から分離した。表面修飾ナノ粒子のフィルムは均一であるが、未修飾のナノ粒子のフィルムでは、ナノ粒子は顕著に凝集した。
【0056】
<4.水相溶性ナノ粒子>
608nmで赤色発光する、カドミウムフリーの量子ドットナノ粒子(CFQD)(InP/ZnS/ZnO)(200mg)を、イソプロピルミリステート(100マイクロリットル)と共にトルエン(1mL)中に分散させた。混合物を約1乃至2分間50℃で加熱し、その後、室温で15時間ゆっくりと振とうさせた。HMMM(Cymel 303) (400mg)、モノメトキシポリエチレンオキシド(CHO−PEG2000−OH)(400mg)、サリチル酸(50mg)のトルエン溶液(4mL)を、ナノ粒子分散液に加えた。混合液を脱気し、電磁撹拌機を用いて300rpmで撹拌しつつ、140℃で4時間還流させた。窒素のストリームを1時間、フラスコに通して、求核基とHMMMの反応で生じる揮発性の副産物を確実に除去した。混合物を室温まで冷めるままにし、不活性ガス下で保存した。表面修飾ナノ粒子は、未修飾のナノ粒子と比べて、蛍光量子収率の損失が小さく又は無く、発光ピーク又は半値全幅(FWHM)値に変化はなかった。
【0057】
表面修飾ナノ粒子のアリコートを真空下で乾燥し、脱イオン水を残留物に加えた。表面修飾ナノ粒子は、水性媒体に良く分散し、いつまでも分散したままであった。反対に、未修飾のナノ粒子は、水性媒体に懸濁できなかった。
【0058】
図7は、水中における表面修飾ナノ粒子の蛍光スペクトルを示す。4つの測定が実行された。1つの測定は、内標準のみの空試料であり、3つの測定は、エポキシ樹脂に懸濁したナノ粒子である。表面修飾ナノ粒子の蛍光量子収率は、47である。ナノ粒子を修飾して水溶性を増加させる従来方法(例えば、メルカプト修飾水溶性リガンドを用いたリガンド交換)は、穏和な条件下では、ナノ粒子に水溶性を与えるのには効果がないことに注目すべきである。熱や超音波のような、厳しい条件下では、水溶性になるフラクションの量子収率は、非常に低い(QY<20%)。本発明の方法は、反対に、水溶性のナノ粒子に高い量子収率を与える。
【0059】
この実施例のように調製した表面修飾ナノ粒子はまた、良好に分散し、そして、エタノール、プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、ブタノール、トリプロピルメチルメタクリレート(tripropylmethylmethacrylate)、又はメチルメタクリレートなどの他の極性溶媒に、恒久的に分散したままとなる。
【0060】
<5.LED安定化及び輝度増加>
エポキシ相溶性ナノ粒子を、実施例2について説明したように調整した。エポキシ相溶性ナノ粒子を、LEDエポキシ封止剤(EX135)に加えた。封止剤と青色発光LEDチップとを用いて、LEDを調整した。図8Aは、表面修飾ナノ粒子を組み込んでいるLEDの発光曲線を示している。発光測定を、一週間毎日、その後、毎週行った。図8Bは、未修飾のナノ粒子を組み込んでいるLEDの発光曲線を示している。未修飾のナノ粒子を、最初にアクリルビーズに組み込み、その後、ビーズをエポキシに封入した。予想したように、両方のLEDの発光強度は、LEDが劣化するにつれて、時間と共に減少した。しかしながら、表面修飾ナノ粒子を組み込んでいるLEDの絶対発光強度は、未修飾ナノ粒子を組み込んでいるLEDの強度の約2倍となっている。
【0061】
図9A及び図9Bは夫々、表面修飾したナノ粒子と未修飾のナノ粒子と関して、効果の割合(percent efficacy)a、発光強度の割合b、LED強度の割合cを時間に亘って示している。効果の割合は、人間の目の感度に基づいた光の輝度の測定値である。発光強度の割合は、発光ピークの強度の測定値である。LED強度の割合は、青色LEDチップの強度の測定値である。図9A及び図9Bに図示したデータは、表面修飾ナノ粒子を組み込んでいるLEDは、高度に架橋されたポリマービーズに埋め込まれた未修飾のナノ粒子を組み込んでいるLEDに匹敵するLED安定性を有していることを示している。高度に架橋されたビーズにナノ粒子を組み込んで、得られたビーズをLED封止剤(例えば、EX135)に封止することは、ナノ粒子の安定性を可能な限り大きくするのに効果的である。しかしながら、封入したビーズを用いているLEDデバイスは、ビーズ製造の化学反応に加えて、ビーズによる光経路での光散乱の割合が高いことに起因して、輝度の低下に悩まされる。表面修飾ナノ粒子を用いたLEDは、ビーズを封入したLEDに匹敵するLED安定性を達成しているが、未修飾ナノ粒子を組み込んでいるLEDの絶対発光強度の約2倍である絶対発光強度を有している。
【0062】
好ましい実施形態及びその他の実施形態に関する上記の説明は、出願人が考えた発明概念の範囲又は適用性を制限することを意図するものではない。開示されている主題の任意の実施形態又は態様に従って上述された特徴は、単独で、又は、説明されたその他の任意の特徴と組み合わされて、開示されている主題の任意のその他実施形態又は態様にて使用されてよい。
【0063】
本明細書に含まれている発明概念を開示することと交換で、出願人は、添付の特許請求の範囲によって与えられるすべての特許権を望んでいる。従って、添付の特許請求の範囲は、特許請求の範囲又はその均等物の範囲内の全範囲について、あらゆる修正及び変更を含むことが意図されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9