特許第6827461号(P6827461)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6827461
(24)【登録日】2021年1月21日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】モリブデン坩堝
(51)【国際特許分類】
   F27B 14/10 20060101AFI20210128BHJP
   B22F 5/00 20060101ALN20210128BHJP
   C22C 1/04 20060101ALN20210128BHJP
【FI】
   F27B14/10
   !B22F5/00 Z
   !C22C1/04 D
【請求項の数】13
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-501754(P2018-501754)
(86)(22)【出願日】2017年2月23日
(86)【国際出願番号】JP2017006793
(87)【国際公開番号】WO2017146139
(87)【国際公開日】20170831
【審査請求日】2019年10月8日
(31)【優先権主張番号】特願2016-35421(P2016-35421)
(32)【優先日】2016年2月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000220103
【氏名又は名称】株式会社アライドマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100077838
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 憲保
(74)【復代理人】
【識別番号】100185650
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100129023
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 敬
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 慎
(72)【発明者】
【氏名】深谷 芳竹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】西野 成恒
【審査官】 瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−196570(JP,A)
【文献】 特開2010−270345(JP,A)
【文献】 特開2013−060348(JP,A)
【文献】 特開平07−278767(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 14/10
B22F 5/00
C22C 1/04
C22F 1/18
C22F 1/00
C30B 29/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の側壁部と、
前記側壁部の一方の端部に一体となって設けられた底部と、
を有し、
前記側壁部は、
外壁から内壁に向かって設けられ、以下に定義する領域である粗大粒領域と、
前記粗大粒領域と接するように内壁から外壁に向かって設けられ、以下に定義する微細粒領域を有し、
前記側壁部の厚さ方向における前記粗大粒領域の割合が10%以上、90%未満であるモリブデン坩堝。
粗大粒領域:インターセプト法で求めた坩堝の高さ方向の粒径が1mm以上の結晶粒が、測定領域の面積の95%以上である領域。
微細粒領域:インターセプト法で求めた坩堝の高さ方向の粒径が10μm以上、500μm以下の結晶粒が、測定領域の面積の95%以上である領域。
【請求項2】
前記側壁部の厚さ方向における前記粗大粒領域の割合が40%以上、80%未満である、請求項1に記載のモリブデン坩堝。
【請求項3】
前記側壁部は、
内壁側から外壁側に向けて厚さ方向に8等分した領域における、内壁側から数えて7番目の領域である外壁側領域が前記粗大粒領域であり、
内壁側から外壁側に向けて厚さ方向に8等分した場合における、内壁側から数えて2番目の領域である内壁側領域が前記微細粒領域である、請求項1または2に記載のモリブデン坩堝。
【請求項4】
純度99.9質量%以上で、残部が不可避不純物のみからなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載のモリブデン坩堝。
【請求項5】
坩堝高さの中央部の位置で、前記外壁側領域および前記内壁側領域を前記側壁部の円周方向に均等に12箇所測定して平均したビッカース硬度がHv140以上、190以下である、請求項3に記載のモリブデン坩堝。
【請求項6】
坩堝高さの中央部の位置で、前記外壁側領域および前記内壁側領域を前記側壁部の円周方向に均等に12箇所測定して平均したビッカース硬度がHv150以上、180以下である、請求項3または5に記載のモリブデン坩堝。
【請求項7】
前記内壁側領域の結晶粒のアスペクト比が1.0以上、2.0以下である、請求項3、5、6のいずれか一項に記載のモリブデン坩堝。
【請求項8】
前記内壁側領域の結晶粒のアスペクト比が1.0以上、1.5以下である、請求項3、5、6、7のいずれか一項に記載のモリブデン坩堝。
【請求項9】
筒状の側壁部と、
前記側壁部の一方の端部に一体となって設けられた底部と、
を有し、
前記側壁部は、
内壁側から外壁側に向けて厚さ方向に8等分した領域における、内壁側から数えて7番目の領域である外壁側領域の結晶粒のアスペクト比が3.0以上、20.0以下であり、
内壁側から外壁側に向けて厚さ方向に8等分した領域における、内壁側から数えて2番目の領域である内壁側領域の結晶粒のアスペクト比が1.0以上、3.0未満であり、
前記外壁側領域のビッカース硬度がHv225以上、350以下であり、
前記内壁側領域のビッカース硬度がHv140以上、225未満である、モリブデン坩堝。
【請求項10】
純度99.9質量%以上で、残部が不可避不純物のみからなる、請求項9に記載のモリブデン坩堝。
【請求項11】
前記外壁側領域の結晶粒のアスペクト比が3.0以上、6.0以下であり、
前記内壁側領域の結晶粒のアスペクト比が1.5以上、2.9以下である、請求項9または10に記載のモリブデン坩堝。
【請求項12】
坩堝の高さ中央部の位置で、前記外壁側領域および前記内壁側領域における坩堝高さ方向の粒径Lおよび坩堝厚さ方向の粒径Wから式(L+W)/2により求めた平均粒径が10.0μm以上、300μm以下である、請求項9〜11のいずれか一項に記載のモリブデン坩堝。
【請求項13】
前記外壁側領域のビッカース硬度がHv230以上、250以下であり、
前記内壁側領域のビッカース硬度がHv160以上、220未満である、請求項9〜12のいずれか一項に記載のモリブデン坩堝。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モリブデン坩堝に関する。
【背景技術】
【0002】
サファイア単結晶は透過率と機械的特性に優れた材料であり、例えば光学材料として広く用いられたり、GaN育成用のエピタキシャル基板として広く使用されたりしている。
【0003】
ここで、サファイアの育成の際には、必ずアルミナを溶融する2050℃以上の温度が必要になり、さらにその温度でアルミナの重量や圧力に耐える坩堝が必要になる。
【0004】
このような条件に耐える坩堝の材料としてはモリブデンが挙げられる。
【0005】
一方で、モリブデンはアルミナを溶融する温度においては坩堝を構成する結晶粒子が二次再結晶成長によって粗大化する。その結果、粗大結晶粒子の粒界面が脆弱になり亀裂発生や亀裂の伝播拡大によって生じる、モリブデンの強度の低下や粒界亀裂からのサファイア融液の漏れが生じるおそれがある。
【0006】
そのため、サファイアの育成にモリブデンの坩堝を用いる場合、二次再結晶成長によるモリブデンの強度の低下やサファイア融液の漏れを防止する必要がある。
【0007】
このような構造としては、まず、二次再結晶粒の粒径をなるべく大きくして粒界表面積を相対的に小さくして坩堝の強度の低下を防ぐ構造が知られている(特許文献1、2)。
【0008】
また、特許文献1、2とは逆に、二次再結晶粒の粒径をなるべく小さくしてサファイア融液の漏れを防止する構造も知られている(特許文献3、4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平2−251085号公報
【特許文献2】特開平2−254285号公報
【特許文献3】特開平9−196570号公報
【特許文献4】特開2010−270345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1〜4記載の構造は以下のような問題があった。
【0011】
まず、特許文献1、2のように二次再結晶粒の粒径をなるべく大きくする構造は、坩堝の強度を高めることはできるものの、粒界亀裂からのサファイア融液の漏れの防止には不十分であるという問題があった。
【0012】
一方で、特許文献3、4のように、二次再結晶粒の粒径をなるべく小さくする構造は、粒界亀裂からのサファイア融液の漏れの防止効果を高めることはできるものの、坩堝の強度を高める効果が不十分であるという問題があった。
【0013】
このように、従来の技術は粒界亀裂からのサファイア融液の漏れの防止と坩堝の強度確保がトレードオフの関係にあり、両方を改善できる構造はないのが現状であった。
【0014】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、融液の漏れの防止と坩堝の強度確保を両立できる構造のモリブデン坩堝を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記した課題を解決するため、本発明の第1の態様は、筒状の側壁部と、前記側壁部の一方の端部に一体となって設けられた底部と、を有し、前記側壁部は、坩堝の高さ中心において外壁から内壁に向かって設けられた粗大粒領域と、前記粗大粒領域と接するように内壁から外壁に向かって設けられた微細粒領域を有し、前記側壁部の厚さ方向における前記粗大粒領域の割合が10%以上、90%未満であるモリブデン坩堝であり、粗大粒領域とはインターセプト法で求めた坩堝の高さ方向の粒径が1mm以上の結晶粒が、測定領域の面積の95%以上である領域であり、微細粒領域とはインターセプト法で求めた坩堝の高さ方向の粒径が10μm以上、500μm以下の結晶粒が、測定領域の面積の95%以上である領域である。
【0016】
本発明の第2の態様は、筒状の側壁部と、前記側壁部の一方の端部に一体となって設けられた底部と、を有し、前記側壁部は、坩堝の高さ中心において内壁側から外壁側に向けて厚さ方向に8等分した領域における、内壁側から数えて7番目の領域である外壁側領域の結晶粒のアスペクト比が3.0以上、20.0以下であり、内壁側から外壁側に向けて厚さ方向に8等分した領域における、内壁側から数えて2番目の領域である内壁側領域の結晶粒のアスペクト比が1.0以上、3.0未満であり、前記外壁側領域のビッカース硬度がHv225以上、350以下であり、前記内壁側領域のビッカース硬度がHv140以上、225未満である、モリブデン坩堝である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、融液の漏れの防止と坩堝の強度確保を両立できる構造のモリブデン坩堝を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】モリブデン坩堝100(熱処理前坩堝101)を示す断面図である。
図2図1の領域R1の拡大断面図である。
図3図2の領域R2の拡大断面図である。なお、粗大粒領域31には結晶粒が記載されていないように見えるが、これは結晶粒の大きさが領域R2よりも大きいためであり、即ち領域R2の粗大粒領域31の結晶粒の数は1つである。
図4図1の領域R1の拡大断面図である。
図5】モリブデン坩堝100の製造方法の一例を示すフロー図である。
図6】実施例1における坩堝の加工率と硬度の関係を示す図である。
図7】実施例1における試料A、B、Cそれぞれの金型からの距離と硬度の関係を示す図である。
図8】実施例1において、試料Aの熱処理前の側壁部21全体の断面の顕微鏡写真を模した図である。
図9】実施例1において、試料Aの熱処理後の側壁部21全体の断面の顕微鏡写真を模した図である。
図10】実施例1において、試料Bの熱処理前の側壁部21全体の断面の顕微鏡写真を模した図である。
図11】実施例1において、試料Bの熱処理後の側壁部21全体の断面の顕微鏡写真を模した図である。
図12】実施例1において、試料Cの熱処理前の側壁部21全体の断面の顕微鏡写真を模した図である。
図13】実施例1において、試料Cの熱処理後の側壁部21全体の断面の顕微鏡写真を模した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明に好適な実施形態を詳細に説明する。
【0020】
最初に本願発明の実施態様を列記して説明する。
本願の第1の態様によるモリブデン坩堝は、筒状の側壁部と、前記側壁部の一方の端部に一体となって設けられた底部と、を有し、前記側壁部は、坩堝の高さ中心において外壁から内壁に向かって設けられ、以下に定義する領域である粗大粒領域と、前記粗大粒領域と接するように内壁から外壁に向かって設けられ、以下に定義する微細粒領域を有し、前記側壁部の厚さ方向における前記粗大粒領域の割合が10%以上、90%未満であるモリブデン坩堝である。
【0021】
ここで、粗大粒領域とはインターセプト法で求めた坩堝の高さ方向の粒径が1mm以上の結晶粒が、測定領域の面積の95%以上である領域であり、微細粒領域とはインターセプト法で求めた坩堝の高さ方向の粒径が10μm以上、500μm以下の結晶粒が、測定領域の面積の95%以上である領域である。
【0022】
上記モリブデン坩堝は、前記側壁部が、内壁側から外壁側に向けて厚さ方向に8等分した領域における、内壁側から数えて7番目の領域である外壁側領域が以下に定義する粗大粒領域であり、内壁側から外壁側に向けて厚さ方向に8等分した場合における、内壁側から数えて2番目の領域である内壁側領域が以下に定義する微細粒領域であるのが望ましい。このような構成とすることで、融液の漏れの防止と坩堝の強度確保の効果をより高めることができる。
【0023】
上記モリブデン坩堝は純度99.9質量%以上で、残部が不可避不純物のみからなる組成とするのが望ましい。このような組成とすることで溶融した材料が坩堝を浸食した場合でも、ごくわずかの不純物汚染で済み、着色などの不具合が回避できる。
【0024】
上記モリブデン坩堝はビッカース硬度がHv140以上、190以下であるのが望ましく、Hv150以上、180以下であるのがより望ましい。ビッカース硬度を上記範囲とすることにより十分に再結晶が進み、外側に粗大粒領域を確実に発現させることができる。
【0025】
上記モリブデン坩堝は内壁側領域の結晶粒のアスペクト比が1.0以上、2.0以下であるのが望ましく、1.0以上、1.5以下であるのがより望ましい。これも十分に再結晶が進んだ証拠であり、外側に粗大粒領域を確実に発現させることができる。
【0026】
また、本願の第2の態様によるモリブデン坩堝は、筒状の側壁部と、前記側壁部の一方の端部に一体となって設けられた底部と、を有し、前記側壁部は、坩堝の高さ中心において内壁側から外側に向けて厚さ方向に8等分した領域における、内壁側から数えて7番目の領域である外壁側領域の結晶粒のアスペクト比が3.0以上、20.0以下であり、内壁側から外側に向けて厚さ方向に8等分した領域における、内壁側から数えて2番目の領域である内壁側領域の結晶粒のアスペクト比が1.0以上、3.0未満である、モリブデン坩堝である。
【0027】
上記第2の態様によるモリブデン坩堝は純度99.9質量%以上で、残部が不可避不純物のみからなる組成とするのが望ましい。このような組成とすることで溶融した材料が坩堝を浸食した場合でも、ごくわずかの不純物汚染で済み、着色などの不具合が回避できる。
【0028】
上記第2の態様によるモリブデン坩堝は外壁側領域の結晶粒のアスペクト比が3.5以上、6.0以下であり、内壁側領域の結晶粒のアスペクト比が1.5以上、2.9以下であるのがより望ましい。アスペクト比をこのような範囲とすることにより、加熱した際に内壁側領域が微細粒領域となり、外壁側領域が粗大粒領域となる。
【0029】
上記第2の態様によるモリブデン坩堝は外壁側領域のビッカース硬度がHv225以上、350以下であるのが望ましく、内壁側領域のビッカース硬度がHv140以上、225未満であるのが望ましい。なお、より好ましい外壁側領域のビッカース硬度はHv230以上、250以下であり、より好ましい内壁側領域のビッカース硬度はHv160以上、220未満である。ビッカース硬度を上記範囲に設定することにより、加熱した際に内壁側領域が微細粒領域となり、外壁側領域が粗大粒領域となる。
【0030】
上記第2の態様によるモリブデン坩堝は平均粒径が10.0μm以上、300μm以下であるのが望ましい。平均粒径を上記範囲に設定することにより、加熱した際に内壁側領域が微細粒領域となり、外壁側領域が粗大粒領域となる。
【0031】
次に、図1図4を参照して本発明の実施形態に係るモリブデン坩堝100の形状について、説明する。
【0032】
ここではモリブデン坩堝100として、CZ(Czochralski)法、EFG法(Edge-defined Film-fed. Growth Method)、HEM法(Heat Exchange Method)等を用いたサファイア単結晶育成用の坩堝が例示されている。
【0033】
図1に示すようにモリブデン坩堝100は、筒状の側壁部21と、側壁部21の一方の端部に一体となって設けられた底部3を有している。
【0034】
また、図2に示すように、側壁部21は、外壁13から内壁11に向かって設けられた粗大粒領域31と、粗大粒領域31と接するように内壁11から外壁13に向かって設けられた微細粒領域33を有する。具体的には、側壁部21は境界23を境に外壁13側が粗大粒領域31に、内壁11側が微細粒領域33に2層化している。
【0035】
次に、モリブデン坩堝100の構造や組成の条件について説明する。
【0036】
<組成>
モリブデン坩堝100を構成する材料は、純度99.9質量%以上で、残部が不可避不純物のみからなるモリブデンが望ましい。このような構成とすることにより、溶融アルミナが坩堝を浸食した場合でも、ごくわずかの不純物汚染で済み、着色などの不具合が回避できる。
【0037】
<粒径分布>
側壁部21は、側壁部21の厚さ方向(図1のX方向)における粗大粒領域31の割合が10%以上、90%未満であるのが望ましく、40%以上、80%未満であるのがより望ましい。
【0038】
より具体的には、図2の側壁部21の厚さTに対して粗大粒領域31の幅TLの割合(TL/T)が0.1以上、0.9未満であるのが望ましく、0.4以上、0.8未満であるのがより望ましい。
【0039】
ここで、粗大粒領域31とはインターセプト法で求めた坩堝の高さ方向の粒径が1mm以上の結晶粒が、測定領域の面積の95%以上である領域であり、微細粒領域33とはインターセプト法で求めた坩堝の高さ方向の粒径が10μm以上、500μm以下の結晶粒が、測定領域の面積の95%以上である領域である。
【0040】
粗大粒領域31と微細粒領域33の境界23はインターセプト法で求めた坩堝の高さ方向の粒径が10μm以上、500μm以下の結晶粒(微細粒)の数を外壁13側から数え、5個目の結晶粒の粒界の位置とする(図3でハッチングした5つの結晶粒41を参照)これは、以下の理由によるものである。
【0041】
まず、境界23付近の領域(例えば図3の領域R2)は粗大粒領域31と微細粒領域33の定義のいずれにも該当しない領域であるため、粗大粒領域31と微細粒領域33の定義だけでは境界23を規定できないため、境界23を別途定義する必要があるためである。
【0042】
また、単純に粗大粒と微細粒の粒界を境界23とすると、図3のように微細粒39が粗大粒領域31内に孤立して存在する場合に境界23の位置が粗大粒領域31側に大きくずれるためである。
【0043】
上記の、粗大粒領域と微細粒領域の割合についてその発現条件について説明する。一般に結晶粒成長は熱処理温度と時間によってその粒成長の速度が異なる。また、どのような結晶粒でも長時間の熱処理をすることにより、最終的には粗大粒へ成長することが想定される。本発明では、この結晶粒成長が早い外側領域と結晶粒成長が遅い内側領域からなるものであり、従来の坩堝に比べ、微細粒領域と粗大粒領域の2層構造が熱処理開始直後から発現し、長時間に渡って持続するものである。2層組織が発現すれば、時間の経過によってその割合が徐々に変化するものの、この2層構造が発現するならば、本発明の効果がある。ここでいう熱処理とは実際のサファイア育成中も含まれる。
【0044】
ここで、側壁部21をこのような粒径分布とする理由について説明する。
【0045】
前述のように、坩堝の結晶粒径は、小さくなるほど粒界が複雑に入り組んだ構造となるため粒界亀裂からのサファイア融液の漏れの防止効果を高めることができるが、一方で坩堝の強度が低下する。
【0046】
逆に、坩堝の結晶粒径を大きくするほど粒界が少なくなり坩堝の強度が高くなるが、粒界亀裂からサファイア融液が漏れやすくなる。
【0047】
本発明者はこのような問題に対して鋭意検討の結果、サファイア融液と接触する内壁11側の結晶粒径を外壁13側と比べて小さくし、逆に外壁13側の結晶粒径を内壁11側と比べて大きくすることにより、融液の漏れの防止と坩堝の強度確保を両立できることを見出したため、このような構造としたものである。
【0048】
即ち、サファイア融液と触れる内壁11側の結晶粒径を外壁13側と比べて小さくすることにより、融液の漏れの防止効果を高めることができる。
【0049】
一方で、外壁13側の結晶粒径を内壁11側と比べて大きくすることにより、強度に劣る内壁11側を強度に優れる外壁13側で覆う構造となり、坩堝の強度確保が可能となる。
【0050】
また、この構造は坩堝を繰り返し使用することによる長寿命化が期待できることと、従来に比べて壁厚が薄くても強度の高い坩堝が製造できることから、坩堝の重量減となり原料コストも削減できる点も有利である。
【0051】
また、図4に示すように、側壁部21は、内壁11側から外壁13側に向けて厚さTを8等分した場合における、内壁11側から数えて7番目の領域である外壁側領域15が粗大粒領域31である。また側壁部21は、内壁11側から外壁13側に向けて厚さTを8等分した場合における、内壁11側から数えて2番目の領域である内壁側領域17が微細粒領域33であるのが望ましい。このような条件でも側壁部21の厚さ方向における粗大粒領域31の割合が10%以上、90%未満である場合と同等の効果が得られる。また、この条件は境界23を測定する必要がない点で有利である。
【0052】
ここで、結晶粒径の定義および微細粒領域33と粗大粒領域31の定義についてより詳細に説明する。
【0053】
まず、結晶粒径は、以下の手順で求める。
まず、領域内の断面の500μm×2mm(図1のX方向×Y方向)の矩形断面を1単位として、インターセプト法にて断面に現れる結晶の高さ方向(図1のY方向)の粒径Lを測定する。
【0054】
次に、上記粒径L=1mm以上の結晶粒が面積の95%以上を占めている範囲を粗大粒領域31とする。
【0055】
また、上記粒径Lが10μm以上、500μm以下の結晶粒が面積の95%以上を占めている範囲を微細粒領域33とする。
【0056】
なお、実際に外壁側領域15および内壁側領域17の結晶粒径を測定する際の、坩堝の高さ方向の測定位置は例えば坩堝の高さ中心、即ち図1のH/2の高さ地点である。
【0057】
また、上記の例では結晶粒径の定義を結晶の坩堝の高さ方向の粒径Lのみに基づき規定しており、坩堝(側壁部21)の厚さ方向(図1のX方向)の粒径は考慮していない。これは、坩堝の厚さによっては内壁11側から外壁13側に向けて厚さTを8等分した場合に、T/8が500μm(即ち微細粒領域33の粒径の上限)未満となり、厚さ方向の粒径に基づいた微細粒領域の定義が困難となるためである。具体的には側壁部21の厚さが4mm未満の場合はT/8が500μm未満となる。
【0058】
ただし側壁部21の厚さが4mmを超えるとT/8は500μmを超える。この場合は側壁部21の厚さ方向の粒径に基づいて微細粒領域33を定義してもよい。この場合の微細粒領域33の定義は以下の通りである。
【0059】
まず、インターセプト法で坩堝高さ方向の粒径Lおよび坩堝厚さ方向の粒径Wを求める。
【0060】
次に、LとWから以下の式を用いて粒径の平均値を求める。
(粒径の平均値)=(L+W)/2
【0061】
最後に、上記平均粒径(L+W)/2が10μm以上、500μm以下の結晶粒が面積の95%以上を占めている範囲を微細粒領域33とする。
【0062】
<アスペクト比>
微細粒領域33のアスペクト比は1.0以上、2.0以下であるのが望ましく、1.0以上、1.5以下であるのがより望ましい。
【0063】
なお、粗大粒領域31は側壁部21の幅によっては粒径Wが厚さを8等分した幅よりも大きくなり、アスペクト比を規定し難いため、アスペクト比は特に規定しない。
【0064】
<硬度>
モリブデン坩堝100の硬度はビッカース硬度(Hv、以下同様)でHv140以上、190以下であるのが望ましく、Hv150以上、180以下であるのがより望ましい。
【0065】
<熱処理前の条件>
次に、このような結晶構造の坩堝を得るために必要な条件について説明する。
【0066】
前述のように、モリブデン坩堝100はサファイア単結晶の育成において、2050℃以上の温度にさらされることになる(即ち2050℃以上で熱処理される)。この際、モリブデン坩堝100が微細粒領域33と粗大粒領域31を有する構造であるためには、熱処理前の坩堝が外壁13側から内壁11側にかけて硬度と加工組織に傾斜がある構造とするのが望ましい。
【0067】
このような構造とすることにより、熱処理によって微細粒領域33と粗大粒領域31を有する構造となる。
【0068】
なお、以下の説明では熱処理前の坩堝を熱処理前坩堝101と称す。また、熱処理前坩堝101の形状はモリブデン坩堝100と同様であり、図1に示す通りである。
【0069】
熱処理前坩堝101の具体的な条件は以下の通りである。
まず、熱処理前坩堝101の外壁側領域15の結晶粒のアスペクト比は3.0以上、20.0以下であるのが望ましく、熱処理前の内壁側領域17の結晶粒のアスペクト比は1.0以上、3.0未満であるのが望ましい。
【0070】
より好ましい範囲は熱処理前坩堝101の外壁側領域15の結晶粒のアスペクト比は3.5以上、6.0以下、内壁側領域17の結晶粒のアスペクト比が1.5以上、2.9以下である。
【0071】
次に、熱処理前坩堝101の平均粒径は10.0μm以上、300μm以下であるのが望ましく、20〜150μm以下であるのがより望ましい。
【0072】
また、熱処理前坩堝101の外壁側領域15のビッカース硬度がHv225以上、350以下であるのが望ましく、内壁側領域17のビッカース硬度がHv140以上、225未満であるのが望ましい。
【0073】
より望ましくは、外壁側領域15のビッカース硬度がHv230以上、250以下であり、内壁側領域17のビッカース硬度がHv160以上、220未満である。
【0074】
この条件を満たす熱処理前坩堝101に熱処理を行うと、側壁部21は、内壁11側から外壁13側に向けて厚さTを8等分した場合における、内壁11側から数えて7番目の領域である外壁側領域15が粗大粒領域31となる。また内壁11側から外壁13側に向けて厚さTを8等分した場合における、内壁11側から数えて2番目の領域である内壁側領域17が微細粒領域33となる。
【0075】
なお、上記した熱処理前坩堝101の条件は例示であって、この条件でなければ熱処理した場合にモリブデン坩堝100が必ずしも得られない訳ではない。例えば熱処理前坩堝101の外壁側領域15と内壁側領域17のアスペクト比や硬度の境界値はそれまでの塑性加工の履歴によって上記範囲から多少外れることもあり得る。
【0076】
前記の形態では坩堝の高さ中心においてのアスペクト比や硬度を規定しているが、これはサファイア溶解時、サファイア原料を坩堝上部まで充填しても溶解後はその容積が充填時の約半分程度にしかならないためである。すなわち坩堝上部はサファイア溶解部とは接しないためすべて粗大粒であっても良い。
【0077】
<製造方法>
次に、モリブデン坩堝100の製造方法について、図5を参照して説明する。
【0078】
モリブデン坩堝100の製造方法は上記の粒径分布を有するモリブデン坩堝100を製造できるものであれば特定の方法に限定されるものではないが、以下の方法を例示できる。
【0079】
まず、原料となるモリブデン粉末を用意する(図5のS1)。具体的にはFsss(Fisher Sub-Sieve Sizer)粒度で1μm以上、10μm以下のモリブデン粉末を用いるのが望ましい。これは、粒度が1μmより小さいと粉末の発火の危険性が高まり、工業的な生産に適さなくなり、10μmを超えると粉末冶金による材料の作製が困難になるためである。
【0080】
次に、モリブデン粉末をラバー容器内に充填して加圧成形する(図5のS2)。
【0081】
なお、粉末を充填する際にはラバー容器に仕切りを入れて片側に3N〜3N5モリブデン粉末、もう一方に4NUPモリブデン粉末(より純度の高いモリブデン粉末)を充填し、その後仕切りを外すことにより、組成(モリブデン純度)の異なる2層を有する成形体を得ることも可能である。
【0082】
なお、モリブデン粉末の純度は、タングステン・モリブデン工業会規格(TMIAS)規格番号0001(タングステンおよびモリブデン分析方法)に準拠する分析によるものである。
【0083】
また、加圧は例えば1トン/cm2以上、3トン/cm2以下の圧力にて静水圧プレス(Cold Isostatic Press)にて粉末に圧力をかける。
【0084】
次に、得られた成形体を焼結する(図5のS3)。
【0085】
具体的には例えば、水素焼結炉において1700℃以上、2300℃以下、好ましくは1800℃以上の温度で5時間以上、30時間以下保持して成形体を焼結する。これは、1700℃未満の温度では焼結後の密度が十分でなく、後の加工歩留まりが極端に悪化するためである。また、2300℃を超える温度では水素焼結炉の短寿命化、早期老朽化につながり、生産コスト増大の主因ともなるため、工業的に現実的ではないためである。
【0086】
次に、得られた焼結体を平板状に圧延する(図5のS4)。
【0087】
具体的には、例えば1100℃以上、1400℃以下の水素加熱炉の中に焼結体を装入し、10分以上、30分以下加熱した後、熱間圧延加工を行う。
【0088】
次に、圧延で得られた板をワイヤーカット切断などの方法で円板に切断する(図5のS5)。
【0089】
次に、切断した円板に一次再結晶処理を行う(図5のS6)。これは、この後に円板を坩堝形状に加工する際に曲げやすくし、加工率を制御しやすくするためである。
【0090】
具体的には例えば円板を1100℃以上、1400℃以下(例えば1200℃)で10分以上、60分以下加熱する。このとき、1100℃未満の温度では材料の再結晶が完全に進まず、1400℃より高い温度で熱処理を行うと、結晶粒が大きくなりすぎてしまう恐れがある。さらに高い温度では二次再結晶が起こることでこの段階で粗大粒となってしまう恐れがあり、いずれも後の加工に適さない。
【0091】
次に、円板をヘラ絞り等で坩堝形状に加工する(図5のS7)。具体的な手順は例えば以下の通りである。
【0092】
まず、スピニングマシンに金型を装着し、これに圧延した円板を押し棒で固定する。このとき成形体が2層の異なる組成を有する場合、加工後に坩堝外側になる側に4Nモリブデンの層(より純度の高いモリブデン粉末の層)が位置するように取り付ける。次に、円板を赤熱するまで大気中で加熱し、ローラーを繰り出して金型に倣わせながら、円板の外周部をスピニング加工して坩堝形状に成形する。このときの2種類の粉末の比率と絞り加工での側壁の加工率によって、本実施形態の組織、硬度が発現する。
【0093】
加工温度は500℃以上、1200℃以下が望ましい。これは500℃を下回ると加工割れが生じやすくなり、歩留まりが極端に悪化するためである。また、1200℃を超えると加工中に再結晶が進行するようになり、これも後工程を含め加工の歩留まりが極端に悪化するためである。
【0094】
次に、必要に応じて、最終的な坩堝形状を得るために汎用旋盤や、立型旋盤等を用いて形状の仕上げ加工を行う(図5のS8)。
以上の手順により、熱処理前の条件を満たす熱処理前坩堝101が完成する。
【0095】
次に、熱処理後の坩堝を得るために、熱処理を行い、モリブデン坩堝100が完成する(図5のS9)。
【0096】
熱処理条件は例えば1800℃以上、2400℃以下(例えば2000℃)で30分以上の熱処理を行う。雰囲気は還元性ガス、不活性ガス、真空のいずれかが望ましい。
【0097】
なお、この熱処理は実際のサファイア育成と兼ねることができるため、必ずしもあらかじめ再結晶化させておく必要はない。
【0098】
そのため、坩堝を出荷する際に運搬中の衝撃などを考慮する場合は熱処理せず熱処理前坩堝101の状態で出荷してもよい。
以上がモリブデン坩堝100の製造方法の例である。
【0099】
このように、本実施形態によれば、モリブデン坩堝100は筒状の側壁部21と、側壁部21の一方の端部に一体となって設けられた底部3を有し、側壁部21は、外壁13から内壁11に向かって設けられた粗大粒領域31と、粗大粒領域31と接するように内壁11から外壁13に向かって設けられた微細粒領域33を有し、側壁部21の厚さ方向における粗大粒領域31の割合が10%以上、90%未満である。
そのため、モリブデン坩堝100は融液の漏れの防止と坩堝の強度確保を両立できる。
【実施例】
【0100】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態をより具体的に説明する。
【0101】
(実施例1)
図5に示す手順に従って、坩堝形状に加工する際の加工率を変化させてモリブデン坩堝100を製造して構造・物性を評価した。具体的な手順は以下の通りである。
【0102】
まず、原料粉末として、Fsss平均粒径4.5μm、純度99.9質量%のモリブデン粉末とFsss粒度4.9μm、純度99.99質量%のモリブデン粉末を用意した。
【0103】
次に仕切りを入れたラバー容器にそれぞれのモリブデン粉末を充填し、仕切りを外してからCIP(Cold Isostatic Pressing)・焼結することで2層の焼結体インゴットを3個得た。
【0104】
次に、得られた焼結体インゴットを圧延加工→熱処理→ヘラ絞り加工(スピニング加工とも言う)を行うことによって坩堝形状に加工した。加工の際には側壁部21の加工率が絞り加工の加工率で60%(試料A)、30%(試料B)、20%(試料C)の3つの条件で試料を作製した。
【0105】
なお、加工率は以下の式で定義した。
加工率={(絞り加工前の厚み−絞り加工後の厚さ)/(絞り加工前の厚さ)}×100
【0106】
坩堝の硬度と加工率の関係を図6に、試料A、B、Cそれぞれの金型からの距離(単位はmm)と硬度の関係を図7に示す。なお、図6には比較用に絞り加工前の試料(加工率0%の試料)の硬度も記載している。
【0107】
また、硬度(ビッカース硬度)は荷重10kgにて測定した。また、硬度の測定位置は坩堝高さの中央部(図1H/2の位置)で、外壁側領域15および内壁側領域17を側壁部21の円周方向に均等に12箇所測定し、平均した値を硬度とした。
【0108】
図6に示すように、内壁側領域17と外壁側領域15の硬度差は加工率が20%付近で最大となり、その後差は減少し、加工率が60%になるとその差はほとんど無かった。即ち、側壁の内外で硬度に差があるのは加工率が0%より大きく60%未満の範囲であった。
【0109】
また、図7に示すように、側壁部21の硬度は加工率が高くなるにつれ、高くなっていた。
【0110】
次に、試料A、B、Cそれぞれの外壁側領域15と内壁側領域17の平均粒径(L+W)/2)、アスペクト比、および硬度を測定した。結果を表1に示す。なお、表中の「素材」とは絞り加工前の材料を意味する。
【0111】
【表1】
【0112】
表1から明らかなように、平均粒径はスピニング加工により若干小さくなっていた。
また、アスペクト比は加工後に大きくなっており、硬度は高くなっていた。
【0113】
次にスピニング加工を行った坩堝を真空雰囲気中で温度2000℃にて1時間の熱処理を行った。
【0114】
その後熱処理後の試料の組織を顕微鏡で観察し、さらに平均粒径、アスペクト比、硬度を熱処理前と同じ条件で測定した。
【0115】
熱処理前後の組織を図8〜13に、熱処理後の平均粒径、アスペクト比、硬度を表2に示す。
【0116】
【表2】
【0117】
まず、絞り加工を行っていない素材は熱処理前後で粒径分布に大きな差はなかった。
【0118】
一方で、表2および図8および図9に示すように、試料Aは熱処理を行うことにより側壁部21の結晶粒全体が粗大化していた。
【0119】
さらに、表2および図10〜13に示すように、試料B、Cについては側壁の内壁側領域17と外壁側領域15で結晶粒径の異なる領域が生じており、微細粒領域33と粗大粒領域31に2層化していた。また、試料B、Cでは微細粒領域33と粗大粒領域31の割合が異なっていた。
【0120】
次に製作した坩堝を用いて、アルミナ(サファイア)溶融試験を行った。
【0121】
まず、坩堝として最終の熱処理(2000℃で1時間の熱処理)を行っていないもの、即ち熱処理前坩堝101、および最終の熱処理を行なったもの、即ち熱処理後坩堝(モリブデン坩堝100)を各12個用意した。なお、坩堝の寸法は高さHが100mm、内径D(図1参照)が300mmとした。
【0122】
次に、公知の単結晶サファイア育成装置を利用して坩堝の中にアルミナ粉末を充填し、最高温度2150℃でアルミナを融解させ5時間保持したのち、400℃まで10時間かけて冷却を1つのサイクルとして、次の項目を調査した。サファイア漏れの確認、側壁変形量の確認、および外部からの汚染状況の確認を行った。
【0123】
以下にそれぞれの評価方法を記載する。
(1)サファイア漏れの確認:
冷却後の坩堝を目視で確認し、サファイアの漏れが無いか確認した。
具体的には同じ条件で製作した坩堝を各12個準備し、それぞれを同条件で溶融試験後、漏れが発生した坩堝の割合を調査した。
(2)側壁変形量の確認:
それぞれの坩堝を溶融試験後、坩堝の高さ中心における側壁外径の変化量を測定した。
外径の変化量が1%未満(片側0.5%未満)を『変形なし』、1%以上1.5%未満を『変形わずか』、1.5%以上変形した坩堝を『変形あり』として表記した。
(3)外部からの汚染状況の確認:
サファイア育成装置は加熱にカーボンヒーターを使用しているため、使用後のカーボン汚染を側壁断面のEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)にて評価した。測定位置は坩堝の高さ中心(図1の1/2H地点)の側壁とした。
【0124】
表3に熱処理前の坩堝の評価結果を、表4に熱処理後の坩堝の評価結果を示す。
なお、表3と表4で番号が同じ坩堝は熱処理前の製造条件が同じだが、坩堝そのものは同じものではない。これは、熱処理前の坩堝の硬度やアスペクト比を測定するためには破壊検査が必要であり、破壊検査後の坩堝は熱処理及びその後の試験に用いることができないためである。そのため、本実施例においては製造条件が同じ坩堝を2つ製造し、1つを熱処理せずに評価し、もう1つを熱処理して検査した。
【0125】
【表3】
【0126】
【表4】
【0127】
表3および表4に示すように、以下の結果が得られた。
まず、サファイア漏れについては、粗大粒領域31が90%以上の試料(番号10〜12)では、サファイアの漏れが確認された。一方で粗大粒領域31が0%以上、90%未満の試料(番号1〜9)ではサファイアの漏れは確認されなかった。
【0128】
次に、側壁変形量については、粗大粒領域31が0%の試料(番号1〜4)では変形があり、20%でわずかな変形(サファイア単結晶育成上、許容できる程度の変形)が確認された。一方で粗大粒領域31が20%を超える試料(番号6〜12)については変形が確認されなかった。
【0129】
次に、外部からの汚染状況については、外壁側領域15に粗大粒領域31が存在する方が、粒界に沿った内部への汚染が軽減されていた。
【0130】
そのため融液の漏れを防止し、同時に高温変形を抑え、外部からの汚染を防いで坩堝の長寿命化を図るためには試料番号5〜9のように、実施形態に記載の硬度やアスペクト比等の条件を満たす必要があることが分かった。
【0131】
具体的な条件は以下の通りである。
(1)熱処理前の外壁側領域15の結晶粒のアスペクト比が3.0以上、6.0以下であるのが望ましい。
(2)熱処理前の内壁側領域17の結晶粒のアスペクト比が1.5以上、2.9以下であるのが望ましい。
(3)熱処理前の外壁側領域15の硬度はHv225以上、350以下が望ましく、Hv230以上、250以下がより望ましい。
(4)熱処理前の内壁側領域17の硬度はHv140以上、225未満が望ましく、Hv160以上、220未満がより望ましい。
(5)熱処理後の外壁側領域15が粗大粒領域31となっており、内壁側領域17が微細粒領域となっていることが望ましい。
(6)熱処理後の粗大粒領域31の割合は10%以上、90%未満が望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0132】
以上、本発明を実施形態および実施例に基づき説明したが、本発明は上記した実施形態および実施例に限定されることはない。
【0133】
当業者であれば、本発明の範囲内で各種変形例や改良例に想到するのは当然のことであり、これらも本発明の範囲に属するものと了解される。
【0134】
例えば上記した実施形態ではモリブデン坩堝として、サファイア単結晶の育成用坩堝を例示したが、モリブデン坩堝の用途はサファイア単結晶の育成用には限定されない。
【符号の説明】
【0135】
3 :底部
11 :内壁
13 :外壁
15 :外壁側領域
17 :内壁側領域
21 :側壁部
23 :境界
31 :粗大粒領域
33 :微細粒領域
39 :微細粒
41 :結晶粒
100 :モリブデン坩堝
101 :熱処理前坩堝
R1 :領域
R2 :領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13