特許第6827467号(P6827467)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シルラジェン,インコーポレイテッドの特許一覧

特許6827467ウイルス塞栓術のための組成物および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6827467
(24)【登録日】2021年1月21日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】ウイルス塞栓術のための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/768 20150101AFI20210128BHJP
   A61K 35/763 20150101ALI20210128BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20210128BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20210128BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20210128BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20210128BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20210128BHJP
   A61K 39/245 20060101ALI20210128BHJP
   A61K 39/275 20060101ALI20210128BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20210128BHJP
   C12N 7/01 20060101ALN20210128BHJP
【FI】
   A61K35/768
   A61K35/763
   A61K9/06
   A61K9/16
   A61K47/36
   A61K47/32
   A61K47/42
   A61K39/245
   A61K39/275
   A61K38/19
   !C12N7/01ZNA
【請求項の数】21
【全頁数】58
(21)【出願番号】特願2018-517499(P2018-517499)
(86)(22)【出願日】2016年6月17日
(65)【公表番号】特表2018-517778(P2018-517778A)
(43)【公表日】2018年7月5日
(86)【国際出願番号】IB2016000993
(87)【国際公開番号】WO2017037523
(87)【国際公開日】20170309
【審査請求日】2019年6月14日
(31)【優先権主張番号】62/182,383
(32)【優先日】2015年6月19日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517444322
【氏名又は名称】シルラジェン,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ファン,テ,ホ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ナム,ヒ
(72)【発明者】
【氏名】チョ,モン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,ウンベ
(72)【発明者】
【氏名】ビョン,ドゥ,ジン
【審査官】 山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/135734(WO,A1)
【文献】 特表2014−502970(JP,A)
【文献】 Cancer Gene Therapy,2005年,Vol.12,p.115-121
【文献】 Nat Med.,2013年,Vol.19, No.3,p.329-336
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/768
A61K 9/06
A61K 9/16
A61K 35/763
A61K 38/19
A61K 39/245
A61K 39/275
A61K 47/32
A61K 47/36
A61K 47/42
C12N 7/01
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物の血管系に組成物を導入することによって、哺乳動物の血管上の部位に能動的塞栓術を施す方法への使用のための上記組成物であって、
複製的なポックスウイルス科の腫瘍溶解性ウイルスまたは複製的なヘルペスウイルス科の腫瘍溶解性ウイルスと、
能動的塞栓術に適している、生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質と、を含んでおり、
上記生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質は、分解性デンプン、ポリビニルアルコール、ゼラチンフォームおよびスルホン化ポリビニルアルコールヒドロゲルからなる群より選択される、使用のための組成物。
【請求項2】
上記腫瘍溶解性ウイルスは、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスである、請求項1に記載の使用のための組成物。
【請求項3】
上記腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、下記(i)および/または(ii)を満たしている、請求項2に記載の使用のための組成物:
(i)活性なチミジンキナーゼ遺伝子を有していない;
(ii)活性なワクシニア成長因子(VGF)遺伝子を有していない。
【請求項4】
上記腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、Renillaルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質、βガラクトシダーゼおよびβグルクロニダーゼをコードしている導入遺伝子を有している、請求項2または3に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
上記腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、Copenhagen株、Western Reserve株、Wyeth株またはLister株である、請求項2〜4のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
上記腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子タンパク質、シトシンデアミナーゼタンパク質およびソマトスタチン受容体2型タンパク質のうち1つ以上をさらに有している、請求項2〜5のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
上記腫瘍溶解性ウイルスは、
当該ウイルスの最短軸に沿った直径が0.1μm以上であるか、または、
当該ウイルスの最短軸に沿った直径が0.2μm以上である、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項8】
上記生体適合性微粒子物質の当該微粒子の大きさは、100μm〜2000μm、150μm〜350μm、150μm〜200μm、200μm〜250μm、250μm〜300μm、または300μm〜350μmである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項9】
上記生体適合性微粒子物質の個々の粒子は、0μm〜100μm、0μm〜50μm、または0μm〜25μmの範囲で大きさが異なっている、請求項1〜8のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項10】
上記生体適合性微粒子物質の個々の粒子は、直径の平均差が、100μm以下、50μm以下、25μm以下、10μm以下、または5μm以下である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項11】
上記生体適合性微粒子物質の個々の粒子は、10〜200μmの粒子または10〜100μmの粒子の凝集体である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項12】
上記親水性高分子ゲル物質は、10〜200μmの粒子または10〜100μmの粒子を含んでいる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項13】
上記生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質は、一時的な塞栓物質または永久的な塞栓物質である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項14】
上記血管上の部位は、腫瘍である部位、上記腫瘍に血液を供給している部位、または上記腫瘍に近接している部位である、請求項1〜13に記載の使用のための組成物。
【請求項15】
上記腫瘍は肝臓に位置している原発性腫瘍または続発性腫瘍である、請求項14に記載の使用のための組成物。
【請求項16】
上記腫瘍は、続発性腫瘍であり、かつ、転移性悪性黒色腫である、請求項15に記載の使用のための組成物。
【請求項17】
上記哺乳動物はヒトである、請求項14〜16のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項18】
上記血管系への造影剤の導入と併せて用いられる、請求項14〜17のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項19】
上記造影剤は、メトリザミド、イオパミドール、イオジキサノール、イオヘキソール、イオプロミド、イオビトリドール、イオメプロール、イオペントール、イオパミロン、イオキシラン、イオトロラン、ガドジアミド、ガドテリドール、イオトロール、イオベルソールまたはその組み合わせから選択される、請求項18に記載の使用のための組成物。
【請求項20】
上記組成物を適用して肝臓の腫瘍塊を減量させることによる、癌の処置への使用のための組成物であって、
塞栓術を施された腫瘍塊の75%以上にネクローシスが誘導され、
上記組成物は肝動脈に導入される、請求項14〜19のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項21】
上記生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質は、ゼラチンフォームである、請求項1〜20のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、腫瘍溶解性ウイルスを用いた、経動脈塞栓術に関連する組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
治療的血管閉塞(塞栓術)は、血管中に閉塞物質(塞栓物質)を注入することにより、病的状態をin situで処置するために用いられる技法である。塞栓術は、カテーテルを用いて施される。そのため、粒子状の閉塞物質またはゲル(塞栓子)を、循環系の中に設置することができる。能動的塞栓術療法においては、塞栓物質は、治療的物質(薬剤または化学療法薬など)と共に調合されている。その結果、機械的な封鎖と、治療的物質のin situ送達との両方が行われる。癌治療における塞栓術の使用もまた、確立されてきている。例えば、癌性腫瘍を栄養する血管を、当該血管に塞栓物質を注入することによって、意図的に封鎖する。血管の閉塞は、手術中においては失血を防止することができ、また腫瘍をネクローシスさせて縮小させることに寄与しうる。閉塞物質と化学療法薬とを組み合わせることによって、大掛かりな全身性の送達を伴わずに、化学療法薬を直接腫瘍に送達できるようになった。このため、化学療法薬を高用量で使用することが可能になった。
【0003】
経動脈塞栓術(Transarterial embolization;TAE)または経動脈化学塞栓術(transarterial chemoembolization;TACE)は、肝臓内に止まっている多血性腫瘍の患者や、肝臓内の部分が転移および死亡の主因となっている腫瘍の患者を処置するために、大規模に利用されている。TAE/TACEは、切除できない腫瘍にとって効果的な緩和ケアであるとか、あるいは、手術後の腫瘍再発を管理するアジュバントであると、見做されている(Camma et al, (2002) Radiology, 224:47-54; Llovet et al., (2002) Lancet 359:1734-1739; Jelic et al., (2010) Ann Oncol. 21 Suppl 5:v59-v64)。種々の塞栓物質および化学療法薬が用いられてきたが、しかしそれらが、あらゆる特定の治療方針および化学療法薬よりも優れていることは、未だ明確には示されていない(Nakamura et al., (1994) Cancer Chemother Pharmacol 33 Suppl:S89-S92; Bruix et al., (2004) Gastroenterology 127:S179-S188))。
【0004】
これと同時に、癌を処置するために、腫瘍溶解性ウイルスが開発されている。例えば、複製選択的腫瘍溶解性ウイルスが、癌の処置に期待できる(Kirn et al., (2001) Nat. Med., 7(7):781-787)。これらのウイルスは、複製依存的に直接に、および/または、ウイルス性遺伝子の発現依存的に、腫瘍溶解効果を生じさせ、腫瘍細胞を致死させることができる(Kirn et al., (2001) Nat. Med., 7(7):781-787)。また、ウイルスによって、宿主中における細胞媒介性の抗腫瘍免疫の誘導を向上させることができる(Todo et al., (2001) Cancer Res., 61:153-161; Sinkovics et al., (2000) J. Clin. Viro., 16:1-15)。これらのウイルスはまた、腫瘍内において治療的導入遺伝子を発現して、抗腫瘍効果が向上するように設計できる(Hermiston, (2000) J. Clin. Invest., 105:1169-1172)。
【0005】
しかしながら、この治療上のアプローチには、大きな制限が存在している。幾種類かのウイルスは、ある程度の自然な腫瘍選択性を示すことができる。しかし、この新規なアプローチには、安全性および有効性を最大限にするために、腫瘍溶解性ウイルスの腫瘍選択性を設計するおよび/または向上させる必要が依然として残されている。このような選択性は、(i)静脈内投与を採用しており、かつ、(ii)抗腫瘍の効能を向上させるために、潜在的な毒性を有する治療遺伝子を上記ウイルスに導入している場合、特に重要である。このような場合、正常な組織における遺伝子発現を、厳しく制限する必要がある。さらに、追加の機構によって抗腫瘍の効能を増強させることも、強く望まれている(例えば、抗腫瘍免疫を導入すること、または、腫瘍に関連する血管系を標的とすること)。したがって、癌を処置するための、より効果的かつ毒性の低い療法が求められている。
【0006】
腫瘍溶解性ウイルス療法と塞栓術とを組み合わせる、最初の試みが成されている。水疱性口内炎ウイルス(vesicular stomatitis virus;VSV)の腫瘍溶解性を示す型が、腫瘍モデルにおいて検討された(Altomonte et al. (2008) Hepatology 48:1864-1873)。VSVは、塞栓術を検討する上で、理想的な候補であった。VSV(Rhabdoviridae科のウイルス)は、長さ180nm、幅75nmの、マイナス鎖RNAウイルスである。VSVは、極性細胞の基底表面・側面から侵入し、放出される。VSVが基底面・側面から放出されることにより、VSVは、下層にある組織(腫瘍組織を含む)に容易に感染することができる(Basak et al., (1989) J. Virology, 63(7):3164-3167)。さらに、VSVはサイズが小さいので(具体的には、最短軸の直径が75nm)、血管の細胞間の漏出結合を通過することができる。つまり、血管の細胞の基底面・側面を経由して、下層にある組織に感染することができる。サイズが小さく、基底面から出芽することから、一部の当業者は、VSVのウイルス塞栓術によって、腫瘍組織に上首尾に感染させることを期待していたかもしれない。
【0007】
VSVは理想的な特徴を与えはしたが、他の腫瘍溶解性ウイルスにも適用することは難しかった。例えば、最短軸に沿った直径が血管の細胞間の結合よりも大きいウイルスは、血流を出て周囲の組織に入れない可能性がある。同様に、極性細胞の頂端側から放出されるウイルスは、通常、上皮細胞の表面沿いに感染が限られている(Basak et al. (1989) J. Virology, 63(7):3164-3167)。このようなウイルスが血管の極性内皮細胞に感染する場合、複製されたウイルスが頂端側に放出されるならば、単に血流に再放出されうるだけであって、下層の組織には移動できない。ワクシニアウイルスは、効果的な塞栓術を阻害すると予期されてきたかもしれない、多くの望ましくない特徴を有しているウイルスの一例である。ポックスウイルス科のウイルスであるワクシニアウイルス(vaccinia virus;VV)は、サイズが約360nm×250nmと、大型のウイルスである。ワクシニアウイルスは、極性細胞の基底面・側面を優先的に経由して感染する。しかし、複製されたウイルスは頂端面から放出される(Vermeer et al., (2007) J. Virology, 81(18):9891-9899)。血管壁を形成する内皮性の極性細胞の、頂端側から放出されるウイルスには、それゆえ、血流に流されるという危険性がある。さらに、ワクシニアウイルスはサイズが大きいため、血管壁の細胞間の細胞結合を通過して、内皮細胞の基底外側表面に到達し、その後実質的な量が基礎組織に感染することは、非常に困難であろう。ライフサイクルとサイズに基づいて、VSVの結果から腫瘍溶解性ワクシニアウイルス(または、そのことに関しては、他の大型ウイルスもしくは他の頂端側から放出されるウイルス)の結果を外挿することはできず、血管塞栓術により腫瘍内部への大幅な侵入を達成することができる。
【0008】
本明細書において援用されている全ての参考文献(特許出願および公開特許を含む)は、参照により、その全体が本明細書に組み込まれる。
【発明の概要】
【0009】
本発明の態様のいくつかは、次のような発見に基づいている。すなわち、代表的な腫瘍溶解性ウイルスである腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、そのサイズおよび極性細胞の頂端側から放出されるという事実にもかかわらず、驚くべきことに、塞栓術療法との組み合わせにおいて効果的な方法として利用できるのである。
【0010】
本発明の一態様は、(i)ポックスウイルス科の腫瘍溶解性ウイルス、ヘルペスウイルス科の腫瘍溶解性ウイルスまたは腫瘍溶解性麻疹ウイルスと、(ii)能動的塞栓術に適している、生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質と、を含んでいる組成物を包含している。いくつかの実施形態において、上記腫瘍溶解性ウイルスは、ワクシニアウイルス、ミクソーマウイルスおよびパラポックスウイルスからなる群より選択されるポックスウイルス科のウイルスである。いくつかの実施形態において、上記腫瘍溶解性ウイルスは、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスである。いくつかの実施形態において、上記腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、活性なチミジンキナーゼ遺伝子を有していない。いくつかの実施形態において(当該実施形態は、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスを包含している任意の先行する実施形態と、組み合わせることができる)、上記腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、活性なワクシニア成長因子(vaccinia growth factor;VGF)遺伝子を有していない。特定の実施形態において(当該実施形態は、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスを包含している任意の先行する実施形態と、組み合わせることができる)、上記腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、Renillaルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質、βガラクトシダーゼおよびβグルクロニダーゼをコードしている導入遺伝子を有している。特定の実施形態において(当該実施形態は、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスを包含している任意の先行する実施形態と、組み合わせることができる)、上記腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、Copenhagen株、Western Reserve株、Wyeth株またはLister株である。特定の実施形態において(当該実施形態は、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスを包含している任意の先行する実施形態と、組み合わせることができる)、上記腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子タンパク質、シトシンデアミナーゼタンパク質およびソマトスタチン受容体2型タンパク質のうち1つ以上をさらに有している。いくつかの実施形態において、上記腫瘍溶解性ウイルスは、単純ヘルペスウイルス1型、単純ヘルペスウイルス2型およびサイトメガロウイルスからなる群より選択されるヘルペスウイルス科のウイルスである。いくつかの実施形態において、上記腫瘍溶解性ウイルスは、単純ヘルペスウイルス1型である。特定の実施形態において、上記単純ヘルペスウイルス1型は、JS-1株由来である。特定の実施形態において(当該実施形態は、単純ヘルペスウイルス1型を包含している任意の先行する実施形態と、組み合わせることができる)、上記単純ヘルペスウイルス1型は、不活性化ICP34.5遺伝子、不活性化ICP45遺伝子、初期に発現するUS11遺伝子の挿入、不活性化ICP6遺伝子、ヒト粒球マクロファージコロニー刺激因子遺伝子、およびニトロレダクターゼ遺伝子のうち1つ以上を有している。特定の実施形態において(当該実施形態は、単純ヘルペスウイルス1型を包含している任意の先行する実施形態と、組み合わせることができる)、上記単純ヘルペスウイルス1型は、不活性化ICP34.5遺伝子、不活性化ICP45遺伝子、およびヒト粒球マクロファージコロニー刺激因子遺伝子を有している。いくつかの実施形態において、上記腫瘍溶解性ウイルスは、ミクソーマウイルスである。いくつかの実施形態において、上記ミクソーマウイルスは、Lausanne株由来である。特定の実施形態において(当該実施形態は、ミクソーマウイルスを包含している任意の先行する実施形態と、組み合わせることができる)、上記ミクソーマウイルスは、以下の不活性化された遺伝子から選択される1つ以上を有している:M010L、M011L、M−T5、M151R、M001R、M152R、M153R、M154L、M156R、M008.1R、M008R、M007R、M006R、M005R、M004.1R、M004R、M003.2R、M003.1RおよびM002R。いくつかの実施形態において、上記腫瘍溶解性ウイルスは、パラポックスウイルスである。いくつかの実施形態において、上記パラポックスウイルスは、orf virus株に由来する。いくつかの実施形態において、上記orf株は、OV NZ-2、OV NZ-7およびOV-SA00から選択される。特定の実施形態において(当該実施形態は、パラポックスウイルスを包含している任意の先行する実施形態と、組み合わせることができる)、上記パラポックスウイルスには、1つ以上の異種の宿主域遺伝子(heterologous host range genes)が挿入されている。いくつかの実施形態において、上記異種の宿主域遺伝子は、以下から選択される:SPI−1、SPI−2、KIL、C7L、p28/NlR、B5R、E3L、K3L、M−T2、M−T4、M−T5、M11L、M13L、M063およびF11L。いくつかの実施形態において、上記腫瘍溶解性ウイルスは、麻疹ウイルスである。いくつかの実施形態において、上記麻疹ウイルスは、Edmonston株、Moraten株、Leningrad株、Moscow株またはSchwarz株由来である。特定の実施形態において(当該実施形態は、麻疹ウイルスを包含している任意の先行する実施形態と、組み合わせることができる)、上記麻疹ウイルスには、ヒト甲状腺ナトリウム/ヨウ素共輸送体(sodium iodide symporter;NIS)をコードしている遺伝子が挿入されている。特定の実施形態において(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、上記腫瘍溶解性ウイルスは、当該ウイルスの最短軸に沿った直径が0.1μm以上である。特定の実施形態において(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、上記腫瘍溶解性ウイルスは、当該ウイルスの最短軸に沿った直径が0.2μm以上である。特定の実施形態において(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、上記生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質は、分解性デンプン、ポリビニルアルコール、ゼラチンフォームおよびスルホン化ポリビニルアルコールヒドロゲルからなる群より選択される。特定の実施形態において(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、上記生体適合性微粒子物質の上記微粒子の大きさは、100μm〜2000μm、150μm〜350μm、150μm〜200μm、200μm〜250μm、250μm〜300μm、または大きさが300μm〜350μmである。特定の実施形態において(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、上記生体適合性微粒子物質の個々の粒子は、約0μm〜約100μm、約0μm〜約50μm、または約0μm〜約25μmの範囲で大きさが異なっている。特定の実施形態において(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、上記生体適合性微粒子物質の個々の粒子は、直径の平均差が、100μm以下、約50μm以下、約25μm以下、約10μm以下、または約5μm以下である。特定の実施形態において(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、上記生体適合性微粒子物質の個々の粒子は、10〜200μmの粒子または10〜100μmの粒子の凝集体である。特定の実施形態において(当該実施形態は、親水性高分子ゲル物質を包含している任意の先行する実施形態と、組み合わせることができる)、上記親水性高分子ゲル物質は、10〜200μmの粒子または10〜100μmの粒子を含んでいる。特定の実施形態において(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、上記生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質は、一時的な塞栓物質または永久的な塞栓物質である。
【0011】
本発明の他の態様は、(i)腫瘍溶解性ウイルスであって、当該ウイルスの最短軸に沿った直径が0.1μm以上であるウイルスと、(ii)能動的塞栓術に適している、生体適合性微粒子または親水性高分子ゲルと、を含んでいる組成物を包含している。いくつかの実施形態において、上記腫瘍溶解性ウイルスは、当該ウイルスの最短軸に沿った直径が、0.15μm以上または0.2μm以上である。いくつかの実施形態において、上記腫瘍溶解性ウイルスは、当該ウイルスの最短軸に沿った直径が、0.1〜0.2μm、0.2〜0.3μm、0.3〜0.4μm、0.4〜0.5μm、0.5〜0.6μm、0.6〜0.7μm、0.1〜0.7μm、0.15〜0.7μmまたは0.2〜0.7μmである。特定の実施形態において(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、上記生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質は、分解性デンプン、ポリビニルアルコール、ゼラチンフォームおよびスルホン化ポリビニルアルコールヒドロゲルからなる群より選択される。特定の実施形態において(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、上記生体適合性微粒子物質の上記微粒子の大きさは、100μm〜2000μm、150μm〜350μm、150μm〜200μm、200μm〜250μm、250μm〜300μm、または大きさが300μm〜350μmである。特定の実施形態において(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、上記生体適合性微粒子物質の個々の粒子は、約0μm〜約100μm、約0μm〜約50μm、または約0μm〜約25μmの範囲で大きさが異なっている。特定の実施形態において(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、上記生体適合性微粒子物質の個々の粒子は、直径の平均差が、100μm以下、約50μm以下、約25μm以下、約10μm以下、または約5μm以下である。特定の実施形態において(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、上記生体適合性微粒子物質の個々の粒子は、10〜200μmの粒子または10〜100μmの粒子の凝集体である。特定の実施形態において(当該実施形態は、親水性高分子ゲル物質を包含している任意の先行する実施形態と、組み合わせることができる)、上記親水性高分子ゲル物質は、10〜200μmの粒子または10〜100μmの粒子を含んでいる。特定の実施形態において(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、上記生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質は、一時的な塞栓物質または永久的な塞栓物質である。
【0012】
本発明のさらに他の態様は、(i)感染した極性細胞の頂端面から出芽する、腫瘍溶解性ウイルスと、(ii)能動的塞栓術に適している、生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質と、を含んでいる組成物を包含している。特定の実施形態において、上記腫瘍溶解性ウイルスは、当該ウイルスの最短軸に沿った直径が0.1μm以上である。特定の実施形態において(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、上記腫瘍溶解性ウイルスは、当該ウイルスの最短軸に沿った直径が0.2μm以上である。特定の実施形態において(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、上記生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質は、分解性デンプン、ポリビニルアルコール、ゼラチンフォームおよびスルホン化ポリビニルアルコールヒドロゲルからなる群より選択される。特定の実施形態において(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、上記生体適合性微粒子物質の上記微粒子の大きさは、100μm〜2000μm、150μm〜350μm、150μm〜200μm、200μm〜250μm、250μm〜300μm、または大きさが300μm〜350μmである。特定の実施形態において(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、上記生体適合性微粒子物質の個々の粒子は、約0μm〜約100μm、約0μm〜約50μm、または約0μm〜約25μmの範囲で大きさが異なっている。特定の実施形態において(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、上記生体適合性微粒子物質の個々の粒子は、直径の平均差が、100μm以下、約50μm以下、約25μm以下、約10μm以下、または約5μm以下である。特定の実施形態において(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、上記生体適合性微粒子物質の個々の粒子は、10〜200μmの粒子または10〜100μmの粒子の凝集体である。特定の実施形態において(当該実施形態は、親水性高分子ゲル物質を包含している任意の先行する実施形態と、組み合わせることができる)、上記親水性高分子ゲル物質は、10〜200μmの粒子または10〜100μmの粒子を含んでいる。特定の実施形態において(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、上記生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質は、一時的な塞栓物質または永久的な塞栓物質である。
【0013】
本発明のさらにまた他の態様は、(i)腫瘍溶解性ウイルスと、(ii)能動的塞栓術に適している、生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質と、を含んでいる組成物であって;上記生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質は、in vitroで培養されている腫瘍細胞におけるウイルス産生量を、50%以上増加させる組成物、を包含している。いくつかの実施形態において、上記生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質は、in vitroで培養されている腫瘍細胞におけるウイルス産生量を、75%以上、100%以上、150%以上、200%以上または300%以上増加させる。いくつかの実施形態において、上記生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質は、in vitroで培養されている腫瘍細胞におけるウイルス産生量を、50%〜400%、75%〜400%、100%〜400%、150%〜400%、200%〜400%または300%〜400%増加させる。特定の実施形態において(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、上記組成物は、(i)ポックスウイルス科の腫瘍溶解性ウイルス、ヘルペスウイルス科の腫瘍溶解性ウイルスまたは腫瘍溶解性麻疹ウイルスと、(ii)能動的塞栓術に適している、生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質と、を含んでいる。いくつかの実施形態において、上記腫瘍溶解性ウイルスは、ワクシニアウイルス、ミクソーマウイルスおよびパラポックスウイルスからなる群より選択されるポックスウイルス科のウイルスである。いくつかの実施形態において、上記腫瘍溶解性ウイルスは、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスである。いくつかの実施形態において、上記腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、活性なチミジンキナーゼ遺伝子を有していない。いくつかの実施形態において(当該実施形態は、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスを包含している任意の先行する実施形態と、組み合わせることができる)、上記腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、活性なワクシニア成長因子(VGF)遺伝子を有していない。特定の実施形態において(当該実施形態は、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスを包含している任意の先行する実施形態と、組み合わせることができる)、上記腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、Renillaルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質、βガラクトシダーゼおよびβグルクロニダーゼをコードしている導入遺伝子を有している。特定の実施形態において(当該実施形態は、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスを包含している任意の先行する実施形態と、組み合わせることができる)、上記腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、Copenhagen株、Western Reserve株、Wyeth株またはLister株である。特定の実施形態において(当該実施形態は、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスを包含している任意の先行する実施形態と、組み合わせることができる)、上記腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子タンパク質、シトシンデアミナーゼタンパク質およびソマトスタチン受容体2型タンパク質のうち1つ以上をさらに有している。いくつかの実施形態において、上記腫瘍溶解性ウイルスは、単純ヘルペスウイルス1型、単純ヘルペスウイルス2型およびサイトメガロウイルスからなる群より選択されるヘルペスウイルス科のウイルスである。いくつかの実施形態において、上記腫瘍溶解性ウイルスは、単純ヘルペスウイルス1型である。特定の実施形態において、上記単純ヘルペスウイルス1型は、JS-1株由来である。特定の実施形態において(当該実施形態は、単純ヘルペスウイルス1型を包含している任意の先行する実施形態と、組み合わせることができる)、上記単純ヘルペスウイルス1型は、不活性化ICP34.5遺伝子、不活性化ICP45遺伝子、初期に発現するUS11遺伝子の挿入、不活性化ICP6遺伝子、ヒト粒球マクロファージコロニー刺激因子遺伝子、およびニトロレダクターゼ遺伝子のうち1つ以上を有している。特定の実施形態において(当該実施形態は、単純ヘルペスウイルス1型を包含している任意の先行する実施形態と、組み合わせることができる)、上記単純ヘルペスウイルス1型は、不活性化ICP34.5遺伝子、不活性化ICP45遺伝子、およびヒト粒球マクロファージコロニー刺激因子遺伝子を有している。いくつかの実施形態において、上記腫瘍溶解性ウイルスは、ミクソーマウイルスである。いくつかの実施形態において、上記ミクソーマウイルスは、Lausanne株由来である。特定の実施形態において(当該実施形態は、ミクソーマウイルスを包含している任意の先行する実施形態と、組み合わせることができる)、上記ミクソーマウイルスは、以下の不活性化された遺伝子から選択される1つ以上を有している:M010L、M011L、M−T5、M151R、M001R、M152R、M153R、M154L、M156R、M008.1R、M008R、M007R、M006R、M005R、M004.1R、M004R、M003.2R、M003.1RおよびM002R。いくつかの実施形態において、上記腫瘍溶解性ウイルスは、パラポックスウイルスである。いくつかの実施形態において、上記パラポックスウイルスは、orf株のウイルスに由来する。いくつかの実施形態において、上記orf株は、OV NZ-2、OV NZ-7およびOV-SA00から選択される。特定の実施形態において(当該実施形態は、パラポックスウイルスを包含している任意の先行する実施形態と、組み合わせることができる)、上記パラポックスウイルスには、1つ以上の異種の宿主域遺伝子(heterologous host range genes)が挿入されている。いくつかの実施形態において、上記異種の宿主域遺伝子は、以下から選択される:SPI−1、SPI−2、KIL、C7L、p28/NlR、B5R、E3L、K3L、M−T2、M−T4、M−T5、M11L、M13L、M063およびF11L。いくつかの実施形態において、上記腫瘍溶解性ウイルスは、麻疹ウイルスである。いくつかの実施形態において、上記麻疹ウイルスは、Edmonston株、Moraten株、Leningrad株、Moscow株またはSchwarz株由来である。特定の実施形態において(当該実施形態は、麻疹ウイルスを包含している任意の先行する実施形態と、組み合わせることができる)、上記麻疹ウイルスには、ヒト甲状腺ナトリウム/ヨウ素共輸送体(NIS)をコードしている遺伝子が挿入されている。特定の実施形態において(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、上記腫瘍溶解性ウイルスは、当該ウイルスの最短軸に沿った直径が0.1μm以上である。特定の実施形態において(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、上記腫瘍溶解性ウイルスは、当該ウイルスの最短軸に沿った直径が0.2μm以上である。特定の実施形態において(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、上記生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質は、分解性デンプン、ポリビニルアルコール、ゼラチンフォームおよびスルホン化ポリビニルアルコールヒドロゲルからなる群より選択される。特定の実施形態において(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、上記生体適合性微粒子物質の上記微粒子の大きさは、100μm〜2000μm、150μm〜350μm、150μm〜200μm、200μm〜250μm、250μm〜300μm、または大きさが300μm〜350μmである。特定の実施形態において(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、上記生体適合性微粒子物質の個々の粒子は、約0μm〜約100μm、約0μm〜約50μm、または約0μm〜約25μmの範囲で大きさが異なっている。特定の実施形態において(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、上記生体適合性微粒子物質の個々の粒子は、直径の平均差が、100μm以下、約50μm以下、約25μm以下、約10μm以下、または約5μm以下である。特定の実施形態において(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、上記生体適合性微粒子物質の個々の粒子は、10〜200μmの粒子または10〜100μmの粒子の凝集体である。特定の実施形態において(当該実施形態は、親水性高分子ゲル物質を包含している任意の先行する実施形態と、組み合わせることができる)、上記親水性高分子ゲル物質は、10〜200μmの粒子または10〜100μmの粒子を含んでいる。特定の実施形態において(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、上記生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質は、一時的な塞栓物質または永久的な塞栓物質である。
【0014】
本発明の他の態様は、哺乳動物の血管上の部位に能動的塞栓術を施す方法であって;上記哺乳動物の上記血管上の部位に組成物を導入する工程を含み;上記組成物は、先行する4つの態様のうち任意のもの、およびその任意の実施形態、ならびに実施形態の組み合わせである方法を、包含している。特定の実施形態において、上記血管上の部位は、腫瘍である部位、上記腫瘍に血液を供給している部位、または上記腫瘍に近接している部位である。いくつかの実施形態において、上記腫瘍は肝臓に位置している。特定の実施形態において(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、上記腫瘍は、原発性腫瘍または続発性腫瘍である。特定の実施形態において、上記続発性腫瘍は、転移性悪性黒色腫である。いくつかの実施形態において、上記腫瘍は肝臓に位置している。特定の実施形態において(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、上記哺乳動物はヒトである。特定の実施形態においては(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、造影剤が血管系に導入される。特定の実施形態において、上記造影剤は、以下から選択される:メトリザミド、イオパミドール、イオジキサノール、イオヘキソール、イオプロミド、iobtiridol、イオメプロール、イオペントール、イオパミロン、イオキシラン、イオトロラン、ガドジアミド、ガドテリドール、イオトロール、イオベルソールまたはその組み合わせ。
【0015】
本発明のさらに他の態様は、腫瘍塊を減量させることによって癌を処置する方法であって;哺乳動物の血管上の部位に組成物を導入する工程を含み;上記組成物は、先行する4つの組成物に関する態様のうち任意のもの、およびその任意の実施形態、ならびに実施形態の組み合わせであり;上記方法は、上記塞栓術を施された腫瘍塊の75%以上にネクローシスを誘導する方法を包含している。特定の実施形態において、上記方法は、上記塞栓術を施された腫瘍塊の85%以上、上記塞栓術を施された腫瘍塊の90%以上、または上記塞栓術を施された腫瘍塊の95%以上にまで、ネクローシスを誘導する。特定の実施形態において(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、上記血管上の部位は、腫瘍である部位、上記腫瘍に血液を供給している部位、または上記腫瘍に近接している部位である。いくつかの実施形態において、上記腫瘍は肝臓に位置している。特定の実施形態において(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、上記腫瘍は、原発性腫瘍または続発性腫瘍である。特定の実施形態において、上記続発性腫瘍は、転移性悪性黒色腫である。いくつかの実施形態において、上記腫瘍は肝臓に位置している。特定の実施形態において(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、上記哺乳動物はヒトである。特定の実施形態においては(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、造影剤が血管系に導入される。特定の実施形態において、上記造影剤は、以下から選択される:メトリザミド、イオパミドール、イオジキサノール、イオヘキソール、イオプロミド、iobtiridol、イオメプロール、イオペントール、イオパミロン、イオキシラン、イオトロラン、ガドジアミド、ガドテリドール、イオトロール、イオベルソールまたはその組み合わせ。
【0016】
本発明のさらにまた他の態様は、哺乳動物の血管上の部位に能動的塞栓術を施す方法であって;上記哺乳動物の上記血管上の部位に、(i)腫瘍溶解性ウイルスと、(ii)能動的塞栓術に適している、生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質と、を含んでいる組成物を導入する工程を含み;上記導入する工程から1日後において、上記哺乳動物の血液1mLあたりの上記腫瘍溶解性ウイルスが、10pfu未満である方法、を包含している。特定の実施形態において、上記組成物は、先行する4つの組成物に関する態様のうち任意のもの、およびその任意の実施形態、ならびに実施形態の組み合わせであってもよい。特定の実施形態においては、上記導入する工程から1日後において、上記哺乳動物の血液1mLあたりの上記腫瘍溶解性ウイルスが、5pfu未満または2pfu未満である。特定の実施形態において(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、上記血管上の部位は、腫瘍である部位、上記腫瘍に血液を供給している部位、または上記腫瘍に近接している部位である。いくつかの実施形態において、上記腫瘍は肝臓に位置している。特定の実施形態において(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、上記腫瘍は、原発性腫瘍または続発性腫瘍である。特定の実施形態において、上記続発性腫瘍は、転移性悪性黒色腫である。いくつかの実施形態において、上記腫瘍は肝臓に位置している。特定の実施形態において(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、上記哺乳動物はヒトである。特定の実施形態においては(当該実施形態は、任意の先行する実施形態と組み合わせることができる)、造影剤が血管系に導入される。特定の実施形態において、上記造影剤は、以下から選択される:メトリザミド、イオパミドール、イオジキサノール、イオヘキソール、イオプロミド、iobtiridol、イオメプロール、イオペントール、イオパミロン、イオキシラン、イオトロラン、ガドジアミド、ガドテリドール、イオトロール、イオベルソールまたはその組み合わせ。
【0017】
本明細書において説明されている種々の実施形態の、一特性、複数の特性または全ての特性を組み合わせることによって、本開示の他の実施形態となりうることを理解されたい。本開示の上述の態様および他の態様は、当業者にとって明白である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1A図1は、リピオドール、アドリアマイシンおよび/またはゼルフォームと共にプレインキュベートした後における、JX-594ウイルスが感染したHuH-7細胞のウイルス産生量を示している。ウイルス産生量は、感染から24時間後(図1A、1B)または48時間後(図1C、1D)に回収した細胞上清から測定した。感染は、100MOI(図1A、1C)または1MOI(図1B、1D)で行った。
図1B図1Aの項目に記載の通り。
図1C図1Aの項目に記載の通り。
図1D図1Aの項目に記載の通り。
図2A図2は、実験スケジュール(図2A)、および組織の回収・分析計画(図2B)を示している。上記実験とは、ウサギの肝臓腫瘍モデルにおいて、ゼルフォームで調合したPexa-Vecを用いる経動脈塞栓術療法の実験である。
図2B図2Aの項目に記載の通り。
図3A図3は、対照動物(図3A)およびゼルフォームで調合したPexa-Vecで処置した動物(図3B)由来の肝組織の、代表的なCT像および組織染色像を示している。
図3B図3Aの項目に記載の通り。
図3C図3Cは、ゼルフォームで調合したPexa-Vecで処置した動物由来の胆管の、代表的な血管造影像を示している。
図3D図3D、3Eは、ゼルフォームで調合したPexa-Vecで処置した動物における、正常な肝臓と腫瘍組織との境界(図3D)および正常な肝実質(図3E)の、代表的なH&E染色像を示している。
図3E図3Dの項目に記載の通り。
図4図4は、有効性および薬物動態(pharmacokinetic;PK)の検討に関する、実験スケジュールを示している。上記実験とは、ウサギの腫瘍モデルにおいて、TAVEウイルスによる腫瘍溶解性ウイルス療法および塞栓術を施すものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
→ 本明細書に開示されている、本発明の特定の態様は、次のような驚くべき発見に基づいている。すなわち、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、(i)その大きなサイズ、ならびに(ii)最適ではない基底外感染および上皮細胞(血管壁を形成している細胞のような)からの頂端放出にもかかわらず、経動脈塞栓術の技法によって、効果的に投与されうるのである。この驚くべき発見に基づいて、(i)同等かそれ以下の大きさである、他の腫瘍溶解性ウイルス、および(ii)同様の最適ではない生活環を有する、他の腫瘍溶解性ウイルス、に容易に外挿することができる。代表的な腫瘍溶解性ウイルスとしては、二本鎖DNAウイルス(ポックスウイルス科のウイルスおよびヘルペスウイルスなど)、当該ウイルスの最短軸に沿った直径が100nmを超えるウイルス、および、極性細胞(血管内皮細胞など)の頂端膜から出芽するウイルスが挙げられる。
【0020】
本明細書に開示されている、本発明の特定の態様は、従来技術(腫瘍への直接注入、および経動脈腫瘍溶解性VSV塞栓術)に対する他の驚くべき改良に基づいている。限定されるものではないが、このような従来技術には、特許請求の範囲に記載の組成物からの欠如および血流中に漏出する方法が包含される。好ましくは、本明細書に開示されている腫瘍溶解性ウイルスの導入または投与から1日後において、被験体の血液1mLあたりの当該腫瘍溶解性ウイルスは、10pfu未満、5pfu未満または2pfu未満である。
【0021】
本明細書に開示されている腫瘍溶解性ウイルスを用いる塞栓術の一態様は、ウイルス媒介性の腫瘍細胞の殺傷によって、腫瘍塊を減量させることである。この態様は、(i)経動脈塞栓術、または(ii)腫瘍溶解性ウイルスのみの腫瘍内への直接注入、のいずれよりも効果的に腫瘍塊を減量させる。好ましい実施形態において、本明細書に開示されている腫瘍溶解性ウイルスを用いる塞栓術は、ウイルス媒介性の腫瘍細胞の殺傷によって、以下の方法のいずれよりも効果的に腫瘍塊を減量させる:経動脈塞栓術、経動脈化学塞栓術、経動脈放射線塞栓術、または腫瘍溶解性ウイルスのみの腫瘍内への直接注入。本開示の腫瘍溶解性ウイルスを塞栓物質と共に送達すると、当該ウイルスは、腫瘍の微小環境内に止まり続ける。そのため、多くの癌細胞をウイルス感染させることができ、また、腫瘍溶解性ウイルスが血流に侵入することを防止する。一時的な血管の遮断およびウイルスの複製の結果、血管系に近い腫瘍環境だけでなく腫瘍の微小環境全体にわたって、腫瘍のネクローシスが生じる。その結果、周囲の正常組織に観測可能な損傷を与えることなく、腫瘍塊が「減量」される。好ましい実施形態において、上記の減量方法の結果、塞栓術を施された腫瘍塊の75%以上、80%以上、85%以上、90%以上または95%以上に、ネクローシスが生じる。一態様において、本開示は、(i)腫瘍溶解性ウイルスと、(ii)能動的塞栓術に適している、生体適合性微粒子または親水性高分子ゲルと、を含んでいる組成物を提供する。他の態様において、本開示は、哺乳動物の血管に、(i)腫瘍溶解性ウイルスと、(ii)能動的塞栓術に適している、生体適合性微粒子または親水性高分子ゲルと、を導入することによって、上記哺乳動物の上記血管上の部位に能動的塞栓術を施す方法を提供する。
【0022】
〔腫瘍溶解性ウイルス〕
本明細書に開示されている組成物および方法は、VSV以外の腫瘍溶解性ウイルスに関係している。腫瘍溶解性ウイルスの例としては、二本鎖DNAウイルスが挙げられる(ポックスウイルスおよびヘルペスウイルスなど)。好ましい腫瘍溶解性ウイルスは、ワクシニアウイルスである。一態様において、腫瘍溶解性ウイルスは、感染した極性細胞の頂端面から出芽する。好ましい実施形態において、感染した極性細胞の頂端面から出芽する腫瘍溶解性ウイルスは、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスである。他の態様において(上記態様は、先行する任意の態様と組み合わせることができる)、腫瘍溶解性ウイルスは、当該ウイルスの最短軸に沿った直径が0.1μm以上である。一実施形態において、腫瘍溶解性ウイルスは、当該ウイルスの最短軸に沿った直径が、0.1μm以上、0.15μm以上または0.2μm以上である。腫瘍溶解性ウイルスは、当該ウイルスの最短軸に沿った直径が、0.1〜0.2μm、0.2〜0.3μm、0.3〜0.4μm、0.4〜0.5μm、0.5〜0.6μm、0.6〜0.7μm、0.1〜0.7μm、0.15〜0.7μmまたは0.2〜0.7μmであってもよい。
【0023】
[A.腫瘍溶解性ワクシニアウイルス]
好ましい実施形態において、腫瘍溶解性ウイルスはポックスウイルス科のウイルスである(腫瘍溶解性ワクシニアウイルスなど)。ワクシニアウイルス(vaccinia virus;VV)は、複合エンベロープを有するウイルスである。ワクシニアウイルスは、約190kbpで、およそ250の遺伝子をコードしている、線状二本鎖DNAゲノムを有している。ワクシニアウイルスは大型のウイルスであり、大きさはおよそ360nm×250nmである。ワクシニアは、天然痘を撲滅したワクチンとしての役割によって、広く知られている。天然痘の撲滅後は、遺伝子治療における生体組織に遺伝子を送達する道具として、また、遺伝子工学への応用として、ワクシニアの利用が探求されてきた。
【0024】
ワクシニアウイルスは、細胞の基底面・側面を優先択的に経由して感染する。しかし、複製されたウイルスは、頂端面から放出される。極性細胞としては、上皮細胞、内皮細胞、免疫細胞、破骨細胞、ニューロンおよび線維芽細胞が挙げられる(ただし、これらに限定されない)。
【0025】
ワクシニアウイルスおよび他のポックスウイルス科のウイルスは、宿主細胞の細胞質内のみで複製する点において、DNAウイルスの中でも特徴的である。そのため、ウイルスDNAの複製に必要な種々の酵素およびタンパク質をコードするための、大型のゲノムが必要になる。複製に際して、ワクシニアは、互いに外膜が異なっている、何種類かの感染形態をとる。すなわち、細胞内成熟ビリオン(intracellular mature virion;IMV)、細胞内エンベロープ化ビリオン(intracellular enveloped virion;IEV)、細胞随伴エンベロープ化ビリオン(cell-associated enveloped virion;CEV)および細胞外エンベロープ化ビリオン(extracellular enveloped virion;EEV)である。IMVは最も数が多く感染性の形態であり、宿主間での拡散を担っていると考えられている。一方、CEVは細胞間における拡散の役割があると考えられており、EEVは宿主の生体内での長距離伝播に重要であると考えられている。上述の形態は、本開示の組成物および方法において用いられている腫瘍溶解性ウイルスの形態に関する、単なる説明である。
【0026】
ワクシニアウイルスの腫瘍溶解性の株はいずれも、本開示の組み合わせの、ワクシニアウイルス要素として使用してよい。好ましい実施形態において、本開示の組成物および方法の腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、Copenhagen株、Western Reserve株またはWyeth株である。他の株も、容易に用いることができる(例えば、大韓民国内において流通している株を挙げることができる)。
【0027】
本開示の腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、外来タンパク質を発現するように設計されていてもよい(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子タンパク質、またはGM−CSFなど)。GM−CSFとは、マクロファージによって分泌されるタンパク質である。上記タンパク質は、幹細胞を刺激して、顆粒球(好中球、好酸球および好塩基球)およびマクロファージを産生させる。ヒトGM−CSFは、第23アミノ酸残基(ロイシン)、第27アミノ酸残基(アスパラギン)および第39アミノ酸残基(グルタミン酸)がグリコシル化されている(米国特許第5,073,627号を参照。参照により本明細書に組み込まれる)。
【0028】
腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、当該ウイルスの腫瘍選択性を向上させるために、1つ以上の機能遺伝子を欠失するように設計されていてもよい。一態様において、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、チミジンキナーゼ(thymidine kinase;TK)活性を欠失するように設計されていてもよい。TK欠失ワクシニアウイルスは、DNAの合成にチミジン三リン酸を必要とする。このため、上記ウイルスは、分裂中の細胞(特に癌細胞)において優先的に複製される。他の態様において、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、ワクシニアウイルス成長因子(VGF)を欠失するように設計されていてもよい。この分泌タンパク質は感染の初期段階に産生され、感染のために、周囲の細胞に対する分裂促進因子として働く。他の態様において、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、VFG活性およびTK活性の両方を欠失するように設計されていてもよい。他の態様において、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、宿主インターフェロン(interferon;IFN)応答の回避に関わっている遺伝子の、1つ以上を欠失するように設計されていてもよい(E3L、K3L、B18RまたはB8Rなど)。いくつかの実施形態において、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、(i)Western Reserve株またはWyeth株であり、かつ(ii)機能性TK遺伝子を欠失している。他の実施形態において、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、(i)Western Reserve株であり、かつ(ii)機能性B18R遺伝子および/または機能性B8R遺伝子を欠失している。
【0029】
いくつかの実施形態において、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、(i)機能性TK遺伝子を欠失しており、かつ(ii)ヒトGM−CSFを発現している。好ましい実施形態において、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、(i)腫瘍溶解性ワクシニアウイルスのWyeth株であり、(ii)機能性TK遺伝子を欠失しており、かつ(iii)ヒトGM−CSFを発現している。
【0030】
特に好ましい実施形態において、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、JX-594である。JX-594とは、複製可能な組換えワクシニアウイルスで、New York Board of Health vaccinia株に由来する。上記ウイルスは、Dryvax(Wyeth Laboratories;登録商標)として市販されており、現在では一般的に、「ワクシニアウイルスWyeth株」と呼ばれている。JX-594は、ヒトGM−CSF遺伝子および大腸菌βガラクトシダーゼ遺伝子(それぞれ、合成初期/後期プロモーターおよびp7.5プロモーターの制御下にある)を、当該ウイルスのチミジンキナーゼ(TK)遺伝子中に挿入して作出された。そのため、TK遺伝子は不活性化されている。TK遺伝子が不活性化されているため、ワクシニアウイルスの毒性は低減され、腫瘍に特異的な複製が増強されている。上述したJX-594の複製およびGM−CSF発現は、臨床試験中の患者における、腫瘍に対する応答としても報告されている(腫瘍内投与および静脈内投与のいずれによる臨床試験においても。最大で1×10pfu/回の投与量)。
【0031】
(a)いくつかの実施形態において、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、SJ103β(vvDD-CDSRとしても知られている)である。vvDD-CDSRウイルスは、選択的に複製する腫瘍溶解性ワクシニアウイルスで、TK遺伝子およびワクシニア成長因子(VGF)遺伝子を二重欠失している。vvDD-CDSRは、ワクシニアウイルスWestern Reserve(WR)株に、シトシンデアミナーゼ(Cytosine Deaminase;CD)遺伝子、ヒトソマトスタチン受容体2型(Human Somatostatin Receptor Type 2;SSTR2)遺伝子を挿入し、さらに当該ウイルスのTK遺伝子内にgpt遺伝子を挿入して、作出された(それぞれ、合成初期/後期プロモーター、合成後期プロモーターおよびp7.5プロモーターの制御下にある)。また、VGF遺伝子には、相同組換えによって大腸菌βガラクトシダーゼ遺伝子が挿入されている。TK遺伝子およびVGF遺伝子の両方が不活性化されているため、安全性に関するワクシニアウイルスの毒性は低減され、さらに、選択性に関する腫瘍に特異的な複製が促進されている。一方または両方の不活性化は、このような挿入によって達成してもよいし、変異体の不活性化によって達成してもよいし、および/または、遺伝子の一部もしくは全部の欠失により達成してもよい。
【0032】
(b)いくつかの実施形態において、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、vvDDである。vvDDは、選択的に複製する腫瘍溶解性ワクシニアウイルスで、親株であるWR株から、TK遺伝子およびVGF遺伝子を二重欠失している。両遺伝子を欠失しているため、ウイルスの複製に関して腫瘍特異的性が増し、安全性に関してウイルスが弱毒化されている。
【0033】
(c)いくつかの実施形態において、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、SJ-102である。SJ-102は、複製可能な組換えワクシニアウイルスで、Wyeth株を仔牛に馴化させたものである、New York City Department of Health Laboratories株に由来している。SJ-102ウイルスは、親株であるワクシニアウイルスWyeth株のTKローカスに、gptおよび緑色蛍光タンパク質(green fluorescent protein;GFP)を挿入することにより設計され、作製された。gptは選択マーカーで、p7.5初期/後期ウイルスプロモーターの制御下にあり、イノシン一リン酸デヒドロゲナーゼ酵素の阻害剤に対する抵抗性を与える。GFPは、他の可視化選択マーカーで、合成初期/後期プロモーターであるpSE/Lの制御下にある。
【0034】
(d)いくつかの実施形態において、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、SJ-103である。組換えウイルスSJ-103の親株であるワクシニアウイルスは、Western Reserve(WR)株である。Western Reserve株は、Wyeth株に由来し、マウスで継代されている。このため、マウス細胞株における腫瘍選択性が強化されており、in vitroでの腫瘍溶解効果が増強されている。WR株のチミジンキナーゼ(TK)遺伝子に、gptおよび緑色蛍光タンパク質(GFP)を挿入することによって分断して、SJ-103は作製される。gptは初期/後期ウイルスプロモーターp7.5の制御下にあり、GFPは合成初期/後期プロモーターpSE/Lの制御下にある。
【0035】
(e)いくつかの実施形態において、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、WR TK(-)である。組換えウイルスWR TK(-)の親株であるワクシニアウイルスは、Western Reserve(WR)株である。WR TK(-)においては、WR株のチミジンキナーゼ遺伝子は、選択マーカーの挿入によって分断されている。
【0036】
(f)いくつかの実施形態において、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、Lister株のInstitute of Viral Preparations変異型(Lister strain variant from the Institute of Viral Preparations;LIVP)である。
【0037】
(g)いくつかの実施形態において、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、GL-ONC1(Genelux;GLV-lh68またはRVGL21としても知られる)である。GL-ONC1は、遺伝子設計により弱毒化されたLIVPワクシニアウイルスである。GL-ONC1は、Renillaルシフェラーゼおよび緑色蛍光タンパク質(いずれもF14.5Lローカスに挿入)、βガラクトシダーゼ(J2Rローカス(チミジンキナーゼをコードしている)に挿入)、ならびにβグルクロニダーゼ(A56Rローカス(血球凝集素をコードしている)に挿入)をコードする導入遺伝子を有している。
【0038】
(h)いくつかの実施形態において、腫瘍溶解性ウイルスは、WR ΔB18R luc+である。WR ΔB18R luc+は、B18R遺伝子を欠失させ、さらにTK遺伝子にルシフェラーゼ遺伝子を挿入した、WRワクシニアウイルスである。
【0039】
ワクシニアウイルスは、Earl and Moss(Ausubel et al. (1994) Current Protocols in Molecular Biology, pp.16.15.1-16.18.10)に記載の方法、または、国際公開第WO2013/022764号に記載の方法を用いて増殖させてもよい。両文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0040】
[B.その他のポックスウイルス]
Orthopoxvirus属は、他のChordopoxvirinae亜科のウイルスよりも比較的相同性が高く、11の異なる(しかし密接に関係する)種が含まれている。これらの種としては、ワクシニアウイルス、天然痘ウイルス(天然痘の原因ウイルス)、牛痘ウイルス、バッファロー痘ウイルス、サル痘ウイルス、マウス痘ウイルス、ウマ痘ウイルスといった種、およびその他の種が挙げられる([Moss, (1996) Fields Virology, 3:3637-2672]を参照)。本明細書にて説明されているように、本開示の特定の実施形態は、他のOrthopoxvirus属のウイルスに加えて、Parapoxvirus属、Avipoxvirus属、Capripoxvirus属、Leporipoxvirus属、Suipoxvirus属、Molluscipoxvirus属およびYatapoxvirus属にも拡張されうる。Poxvirus科の属は、通常、血清学的方法によって決定される。このような方法としては、実験動物における中和および交差反応性が挙げられる。Orthopoxvirus属の種々のウイルスの他に、Chordovirinae亜科の他のウイルスも、免疫調節分子を利用して、宿主生物の免疫応答を弱めている(免疫遅延物質の例は、本明細書に与えられている)。このように、本明細書で説明されている本開示は、ワクシニアウイルスに限定されるものではなく、多種のウイルスに適用可能でありうる。
【0041】
<ミクソーマウイルス>
一実施形態において、本開示の組成物および方法において用いられる腫瘍溶解性ウイルスは、ミクソーマウイルスである。ミクソーマウイルス(Myxoma Virus;MV)は、ウサギ粘液腫の原因ウイルスである。MVは、ポックスウイルス科のレポリポックスウイルス属に属する、最大のDNAウイルスである。MVは、その自然宿主(アメリカ大陸に棲息するワタオウサギ)においては、良性疾患を引き起こす。しかし、MVは有毒で宿主特異的なポックスウイルスであり、ヨーロッパ産のウサギには致死的な疾患を引き起こす。上記疾患は、全身性(特に粘膜周辺)の病変を特徴とする(Cameron C, Hota-Mitchell S, Chen L, Barrett J, Cao J X, Macaulay C, Wilier D, Evans D, McFadden G. Virology 1999, 264(2): 298-318; Kerr P & McFadden G. Viral Immunology 2002, 15(2): 229-246)。
【0042】
MVは、163kbの2本鎖DNAを有する大型のウイルスで、感染細胞の細胞質中で複製する(B. N. Fields, D. M. Knipe, P. M. Howley, Eds., Virology Lippincott Raven Press, New York, 2nd ed., 1996)。MVは、種々の細胞結合性タンパク質および分泌タンパク質をコードしていることが知られている。これらのタンパク質は、宿主の免疫応答および炎症応答を抑制し、ウイルス感染細胞のアポトーシスを阻害することに関与している。MVは、全てのヒト体細胞に取り込まれることができる。MVは、癌細胞(例えばヒトの腫瘍細胞)に感染し、これを殺傷することができる。
【0043】
ミクソーマウイルスは、ポックスウイルスのレポリポックスウイルス種(Leporipoxvirus species)に属する、任意の複製可能なウイルスであってもよい。ミクソーマウイルスは、ミクソーマウイルスの野生型株であってもよいし、ミクソーマウイルスの遺伝子を改変した株であってもよい。
【0044】
ミクソーマウイルスのゲノムを改変して、1つ以上の治療的な導入遺伝子を容易に発現させることができる。これには、当業者に知られている分子生物学の標準的な技法や、例えば[Sambrook et al. ((2001) Molecular Cloning: a Laboratory Manual, 3rd ed., Cold Spring Harbour Laboratory Press)]に記載されている技法を用いればよい。当業者ならば、ミクソーマウイルスに増殖性感染能を保持させたまま、当該ウイルスゲノムのどのタンパク質を欠失させることができるかを、容易に判断することができる。例えば、ウイルスゲノム中で欠失させることのできる非本質的な領域は、公開されているウイルスゲノム配列と、明確に特徴づけられている他のウイルスのゲノムとを比較することにより、推定することができる(例えば[C. Cameron, S. Hota-Mitchell, L. Chen, J. Barrett, J.-X. Cao, C. Macaulay, D. Willer, D. Evans, and G. McFadden, Virology (1999) 264: 298-318)]を参照)。
【0045】
(a)いくつかの実施形態において、腫瘍溶解性ミクソーマウイルスは、vMyxlacである。上記ウイルスは、Lausanne株を組み換えたものである。上記ウイルスは、オープンリーディングフレームM010LとオープンリーディングフレームM011Lとの間にある非侵害性領域に挿入された、大腸菌lacZ遺伝子を有している。
【0046】
(b)いくつかの実施形態において、腫瘍溶解性ミクソーマウイルスは、vMyxT5KOである。上記ウイルスは、複数のM−T5遺伝子がlacZ遺伝子に置き換えられている、組み換えウイルスである。
【0047】
(c)いくつかの実施形態において、腫瘍溶解性ミクソーマウイルスは、SG33である(CNCM 1-1594としても知られる)。SG33ウイルスは、ゲノムの右部分約15kbを欠失している。レファレンスのLausanne株と比較すると、M151R遺伝子およびM001R遺伝子は、ごく一部のみを欠失しており、不活性な短縮タンパク質が産生される。また、M152R遺伝子、M153R遺伝子、M154L遺伝子、M156R遺伝子に加え、右側ITRに位置するM008.1R遺伝子、M008R遺伝子、M007R遺伝子、M006R遺伝子、M005R遺伝子、M004.1R遺伝子、M004R遺伝子、M003.2R遺伝子、M003.1R遺伝子およびM002R遺伝子は、完全に欠失している。SG33株のゲノムとレファレンスであるLausanne株のゲノムとの、さらなる違いとしては、M011L遺伝子(Lausanne株のゲノムでは14125〜13628の位置)のレベルがある。上記遺伝子は、アポトーシスの阻害因子をコードしている(ML11;GenBank NP_051725)。改変された弱毒化ミクソーマウイルスであって、所望の遺伝子を発現しているウイルスを用いることができる。このような所望の遺伝子としては、例えば、ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ型の治療遺伝子、またはFCU1が挙げられる。FCU1は、シトシンデアミナーゼをコードしている遺伝子と、ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼをコードしている遺伝子とを融合して作製される(ERBS et al, Cancer Gene Therapy, 15, 18-28, 2008)。所定の遺伝子を発現するように改変された弱毒化ミクソーマウイルスは、FR2736358に開示されている。
【0048】
<パラポックスウイルス>
一実施形態において、本開示の組成物および方法において用いられる腫瘍溶解性ウイルスは、パラポックスウイルスである。Parapoxvirus orf virusは、ヒトを含む種々の哺乳動物種において急性の皮膚病変を引き起こす、ポックスウイルスである。Parapoxvirus orf virusは、通常、ヒツジ、ヤギおよびヒトに感染する。感染は皮膚の損壊部または損傷部を通じたものであり、再生中の上皮細胞内で複製する。膿疱性の病変を引き起こし、当該病変は痂皮に変化する。Parapoxvirus orf virusは、PKR活性の阻害に関与している、OV20.0L遺伝子をコードしている。Parapoxvirus orf virusは、Ras経路が活性化されていない細胞中では複製できない。より好ましい腫瘍溶解性ウイルスは、PKRの活性化を阻害する遺伝子産物を欠いており、PKRの活性化が阻害されないように抑制または変異させられている、「弱毒化Parapoxvirus orf virus」または「改変Parapoxvirus orf virus」である。OV20.0L遺伝子は、転写されないことが好ましい。このような弱毒化または改変されたParapoxvirus orf virusは、Ras経路が活性化されていない正常細胞中では複製できないが、Ras経路が活性化されている細胞においては感染・複製できる。
【0049】
(a)いくつかの実施形態において、腫瘍溶解性パラポックスウイルスは、OV NZ-2(New Zealand-2)、OV NZ-7(New Zealand-7)およびOV-SA00から選択される、orf virus株である。
【0050】
(b)いくつかの実施形態において、腫瘍溶解性パラポックスウイルスは、1つ以上の異種の宿主域遺伝子を有している、組み換えorf virus(ORFV)である。ここで、上記遺伝子は、上記ウイルスがヒト細胞内で複製することを可能にするものである。異種の宿主域遺伝子としては、SPI−1、SPI−2、KIL、C7L、p28/NlR、B5R、E3L、K3L、M−T2、M−T4、M−T5、M11L、M13L、M063およびF11Lが挙げられる(ただし、これらに限定されない)。
【0051】
[C.ヘルペスウイルス]
<単純ヘルペスウイルス>
一態様において、本開示は、(i)腫瘍溶解性ウイルスと、(ii)能動的塞栓術に適している、生体適合性微粒子または親水性高分子ゲルと、を含んでいる組成物を提供する。一実施形態において、腫瘍溶解性ウイルスは、Herpesviridaeウイルスである(単純ヘルペスウイルス1型(HSV−1)または単純ヘルペスウイルス2型(HSV−2)など)。ヒトヘルペスウイルスとしては、単純ヘルペスウイルス1型(HSV−1)、単純ヘルペスウイルス2型(HSV−2)、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)、Epstein-Barrウイルス(EBV)、カポジ肉腫(HHV−8)、ロゼオロウイルス6A型(HHV−6A)およびロゼオロウイルス6B型(HHV−6B)が挙げられる。
【0052】
HSVのビリオンは大型であり(直径120〜300nm)、二十面体型カプシドと、エンベロープとを有するウイルスである。HSVは2本鎖DNA有しており、当該DNAに含まれるゲノムは70以上のポリペプチドをコードしている。これら大量の調節情報によって、このウイルスは、自らの遺伝子発現を調節することができ、感染細胞内における多様で複合的な事象を変化させることができる。単純ヘルペスウイルスは、直接的な接触によって宿主に侵入する。伝播は標的組織のみであり、宿主内ではニューロン軸索流に乗って伝播する。脊髄神経節を標的とし、宿主が急性感染症から回復した後も、標的組織内に潜伏を続ける。限られた範囲にしか伝播しないので、HSVは、腫瘍溶解性ウイルスの好ましい候補である。
【0053】
選択的な腫瘍溶解活性をHSVに発揮させることができる変異としては、ICP34.5、ICP6および/またはチミジンキナーゼ(TK)をコードしている遺伝子に対する変異が挙げられ、ICP34.5をコードしている遺伝子に対する変異が好ましい。HSVの実験室株における、このようなICP34.5をコードしている遺伝子に対する変異は、[Chou et al 1990]および[Maclean et al 1991]に開示されている。しかし、ICP34.5を機能させなくする任意の変異を用いることができる。したがって、HSVの株においては、上記ウイルスは、ICP34.5をコードしている機能性遺伝子、ICP6をコードしている機能性遺伝子、糖タンパク質Hをコードしている機能性遺伝子、チミジンキナーゼをコードしている機能性遺伝子、のうち1つ以上を欠くように改変されていることが好ましい。また、非HSVの株においては、上記ウイルスは、上記のHSVの遺伝子の1つと等価な機能性遺伝子を欠くように改変されていることが好ましい。より好ましくは、上記ウイルスは、ICP34.5をコードしている機能性遺伝子を欠いている。また、他の改変を導入してもよい。具体的には、HSVウイルスは、機能性のICP47遺伝子を欠くように改変されていてもよい。この理由は、以下の通りである。すなわち、ICP47は、通常、HSV感染細胞における抗原提示を阻害するように機能する。そのため、ICP47を破壊することにより、感染した腫瘍細胞において、ウイルスは、HSV感染細胞を宿主の免疫系から守りうる特定の特性を与えられなくなる。さらに、HSVウイルスは、ヒトGM−CSF遺伝子を発現するように改変されていてもよい。GM−CSFを分泌する(または他の様式で放出する)ことによって、腫瘍に樹状細胞を集合させることができ、当該腫瘍細胞に対する免疫応答が増強される。
【0054】
本発明のウイルスが単純ヘルペスウイルスである場合、当該ウイルスは、例えば、HSV1もしくはHSV2の株、またはその派生株に由来していてもよく、好ましくはHSV1である。好ましいHSV1の株は、JS-1である。JS-1は、ICP34.5遺伝子およびICP47遺伝子を不活性化させ、ヒトGM−CSFを導入することにより、改変することができる(例えば、[Senzer et al. JCO (2009) 27(34): 5763-5771])。
【0055】
(a)いくつかの実施形態において、野生型HSV1はATCCから得られ(VR-735)、改変されていない。
【0056】
(b)いくつかの実施形態において、HSV1の株はMP(単純ヘルペスウイルス1型の変異株)である。
【0057】
(c)いくつかの実施形態において、HSV1ウイルスは、Talimogene laherparepvecである(OncoVEX GMCSFまたはT-VEC(AMGEN)としても知られる)。T-VECは、親株であるHSV1のJS-1を弱毒化し、癌細胞に対する選択性を向上させる改変によって作製された。JS-1株は、(i)ICP34.5遺伝子およびICP47遺伝子の欠失(それぞれ、非腫瘍細胞の感染防止のため、抗原提示を可能にするため)、(ii)初期に発現するUS11遺伝子の挿入(複製および抗腫瘍活性を促進するため)、および(iii)ヒトGM−CSF遺伝子の挿入(抗腫瘍免疫応答を増強するため)によって改変されている。
【0058】
(d)いくつかの実施形態において、腫瘍溶解性HSV1ウイルスは、HSV1716である(SEPREHVIRとしても知られる)。HSV1716株は、ICP34.5遺伝子を欠失しているので、腫瘍細胞内で選択的に複製されうる。
【0059】
(e)いくつかの実施形態において、HSV1ウイルスは、HSV1716NTRである。これは、遺伝子指向性酵素プロドラッグ療法(gene-directed enzyme prodrug therapy;GDEPT)の戦略に則り、ニトロレダクターゼ(nitroreductase;NTR)酵素をHSV1716ウイルスに挿入することによって作出された、腫瘍溶解性ウイルスである。
【0060】
(f)いくつかの実施形態において、HSV1ウイルスは、G207である。これは、親株であるHSV1の実験室株Fに対して大腸菌LacZ遺伝子の挿入によることによって、ICP34.5遺伝子を欠失させ、ICP6遺伝子を不活性化させて作製された、腫瘍溶解性ウイルスである。
【0061】
(g)いくつかの実施形態において、HSV1ウイルスは、NV1020である。これは、ICP34.5遺伝子の1つを欠失させることによって作製された、腫瘍溶解性ウイルスである。
【0062】
派生株としては、HSV1の株に由来するDNAとHSV2の株に由来するDNAとを有する、型間組換株が挙げられる。このような型間組換株は、本技術において開示されている(例えば、[Thompson et al (1998)]および[Meignier et al (1988)])。派生株は、ヌクレオチドの置換によって改変されている(例えば、1、2または3〜10、25、50または100の置換)、HSV1ゲノムまたはHSV2ゲノムの配列を有していてもよい。その代わりに(または、それに加えて)、上記HSV1ゲノムまたはHSV2ゲノムは、1つ以上の挿入および/または欠失および/または一端もしくは両端の延長、によって改変されていてもよい。
【0063】
<サイトメガロウイルス>
一実施形態において、本開示の組成物および方法において用いられる腫瘍溶解性ウイルスは、サイトメガロウイルスである。サイトメガロウイルス(cytomegalovirus;CMV)は、ヒトヘルペスウイルス5型(human herpesvirus 5;HHV−5)としても知られ、herpesviridae科のベータ亜科の一種に分類されるヘルペスウイルスである。疾病管理予防センターによると、CMV感染症はヒト集団に非常に広汎に見られ、合衆国の成人人口の40〜80%に感染経験があると推定されている。このウイルスは主に体液を通じて伝播し、頻繁に妊婦から胎児または新生児へと移動する。多くの個人では、CMV感染症は潜伏性である。しかしウイルスが活性化すると、高熱、悪寒、倦怠感、頭痛、吐気および巨脾などを引き起こしうる。
【0064】
多くのヒトCMV感染症は、無症候性である。しかし、免疫不全の個体(HIV陽性患者、同種移植を受けた患者および癌患者など)または免疫系が完全に発達しきっていない者(新生児など)におけるCMV感染症は、特に問題になりうる(Mocarski et al., Cytomegalovirus, in Field Virology, 2701-2772, Editor: Knipes and Howley, 2007)。このような個体におけるCMV感染症は、重篤な病的状態を引き起こしうる(諸々の有害な状態の中でも、例えば、肺炎、肝炎、脳炎、大腸炎、ぶどう膜炎、網膜炎、失明、および神経障害が挙げられる)。加えて、妊娠中のCMV感染症は、先天性異常の主要な原因となる(Adler, 2008 J. Clin Virol, 41:231; Arvin et al, 2004 Clin Infect Dis, 39:233; Revello et al, 2008 J Med Virol, 80:1415)。in vivoにおいて、CMVは種々の細胞に感染する。例えば、単球、マクロファージ、樹状細胞、好中球、内皮細胞、上皮細胞、線維芽細胞、ニューロン、平滑筋細胞、肝細胞および間質細胞が挙げられる(Plachter et al. 1996, Adv. Virus Res. 46:195)。臨床的に単離されたCMVは種々の細胞で複製するが、実験室株であるAD169(Elek & Stem, 1974, Lancet 1:1)およびTowne(Plotkin et al., 1975, Infect. Immun. 12:521)は、専ら線維芽細胞の中のみで複製する(Hahn et al., 2004, J. Virol. 78:10023)。ウイルスを線維芽細胞中で継代し、最終的に線維芽細胞に馴化させることによって親和性が制限されていることが、弱毒化を表す印として求められる(Gerna et al., 2005, J. Gen. Virol. 86:275; Gerna et al, 2002, J. Gen Virol. 83:1993; Gerna et al, 2003, J. Gen Virol. 84:1431; Dargan et al, 2010, J. Gen Virol. 91:1535)。ヒトCMVの実験室株において、上皮細胞、内皮細胞、白血球および樹状細胞に対する親和性を欠失させる変異は、3つのオープンリーディングフレーム(open reading frame;ORF)に位置付けられている。そのオープンリーディングフレームとは、UL128、UL130およびUL131である(Hahn et al., 2004, J. Virol. 78:10023; Wang and Shenk, 2005 J. Virol. 79:10330; Wang and Shenk, 2005 Proc Natl Acad Sci USA. 102:18153)。生化学研究および再構築研究によると、UL128、UL130およびUL131はgH/gL足場上で会合して、5量体のgH複合体を形成している(Wang and Shenk, 2005 Proc Natl Acad Sci USA. 102:1815; Ryckman et al, 2008 J. Virol. 82:60)。実験室株において、ビリオン中の上記複合体を元に戻すことによって、ウイルスの上皮細胞親和性が回復する(Wang and Shenk, 2005 J. Virol. 79:10330)。従前評価されていたワクチン(Towneなど)が不充分にしか働かないことから、内皮細胞および上皮細胞に対する親和性の欠失が疑われていた(Gerna et al, 2002, J. Gen Virol. 83:1993; Gerna et al, 2003, J. Gen Virol. 84:1431)。CMVに自然感染したヒト被験体の血清中の中和抗体活性は、線維芽細胞からウイルスが侵入した場合よりも、上皮細胞からウイルスが侵入した場合の方が15倍以上高い(Cui et al, 2008 Vaccine 26:5760)。一次感染したヒトでは、内皮細胞または上皮細胞からのウイルスの侵入に対する中和抗体が、急速に産生される。これに対して、線維芽細胞からのウイルスの侵入に対する中和抗体は、緩やかにしか産生されない(Gerna et al, 2008 J. Gen. Virol. 89:853)。さらに、Towneワクチンを接種されたヒト被験体の免疫血清中には、内皮細胞または上皮細胞からのウイルスの侵入に対する中和活性が見られない(Cui et al, 2008 Vaccine 26:5760)。より最近には、HCMVに感染した4人のドナーに由来する、ヒトモノクローナル抗体のパネルが記載されている。また、上記パネル由来のより強力な中和クローンは、5量体gH複合体抗原を認識した(Macagno et al, 2010 J. Virol. 84:1005)。
【0065】
[D.麻疹ウイルス]
一実施形態において、本開示の組成物および方法において用いられる腫瘍溶解性ウイルスは、麻疹ウイルスである。麻疹ウイルスのビリオンは大型かつ多臓器発現性で、直径は最大で550nmにも及ぶ。麻疹ウイルスはマイナス鎖RNAウイルスで、ゲノムには6つのタンパク質産物がコードされている。そのタンパク質とは、Nタンパク質(nucleocapsid)、Pタンパク質(polymerase cofactor phosphoprotein)、Mタンパク質(matrix)、Fタンパク質(fusion)、Hタンパク質(hemaglutinin)およびLタンパク質(large RNA polymerase)である。Hタンパク質は、麻疹ウイルスがその受容体(CD46)に結合することを仲介する、表面糖タンパク質である(Dorig, et al., Cell 75: 295-305, 1993)。Fタンパク質は、ウイルスの結合後における、細胞−細胞間融合を担っている。麻疹ウイルスは、通常、リンパ系細胞(特に癌性のリンパ系細胞)に対する親和性を有している。
【0066】
麻疹ウイルスの腫瘍選択性は、癌化していない細胞ではウイルスが伝播できないが、癌化細胞に存在する細胞因子によって伝播できるようになるという、ウイルスの生活環に対する細胞内での制限に起因している。(Robbins, et al., Virology 106: 317-326, 1980; Robbins, Intervirology 32: 204-208, 1991)。麻疹がリンパ系細胞に感染することにより、非常に特徴的な細胞病理学的効果がもたらされる。麻疹ウイルスが複製する際、多数の細胞−細胞間融合の結果として、リンパ節において巨大な多核細胞が生じる(Warthin, Arch. Pathol. 11: 864-874, 1931)。組織培養においては、麻疹ウイルスへの感染によって、単層の細胞全体を融合させることができる。感染細胞の表面には、F抗原およびH抗原が見られる。したがって、麻疹ウイルスに感染して、Fタンパク質およびHタンパク質を膜上に発現している細胞は、非常に融合性が高くなる。このような細胞は、他の感染細胞のみならず、隣接する非感染細胞とも融合することができる(Norrby and Oxman, “Measles Virus.” In Virology, 1990, B. N. Fields, et al., eds. New York, Raven Press, Ltd., pp 1013-1044)。また、腫瘍細胞の表面上にウイルス抗原を発現させることによって、腫瘍選択的な免疫応答も媒介できる。
【0067】
麻疹ウイルスの弱毒化株は、免疫原性を有し病原性を有さないと認められるまで、ウイルスを培養細胞中にて(例えば、非ヒト細胞中にて)継代することにより得ることができる。野生型のウイルスはマーモセットに対して致死性の感染症を引き起すのに対し、ワクチン化株は引き起こさない。ヒトにおいて、野生型ウイルス株への感染は、一般に致死的であるわけではないが、古典麻疹を伴う。古典麻疹は、10〜14日の潜伏期間があり、その後、発熱、感冒、咳嗽および結膜炎の症候群が現れ、さらにその後、斑状丘疹性発疹およびKoplik斑(口内に見られる小型・赤色・不定形の斑で、青白色の中央部を有する)を生じる。発疹の現れと同時に免疫応答が生じ、ウイルスのクリアランスが始まる。一方、弱毒化麻疹ウイルスワクチンを接種された個体は、古典麻疹の症状を示さない。弱毒化に伴って、ウイルスの複製が低減され(サルにおいて麻疹を発症させないことによって、in vivoで評価される)、ウイルス血症を発症しなくなり、組織中での細胞病理的症状(例えば、細胞−細胞間融合、多核細胞)が促進されなくなる。しかし、これらの生物学的変化は、ウイルスゲノム中での一つの遺伝子変化に帰されてはいない。
【0068】
麻疹感染症のワクチンとして臨床的に試験済である麻疹ウイルスの弱毒化株を用いて、癌細胞群(腫瘍など)を拡大させないおよび/または縮小させる有効量を与える。麻疹ウイルスの弱毒化型であるMoratenがワクチンとして世界的に用いられており、優れた安全性を有している(Hilleman, et al., J. Am. Med. Assoc. 206: 587-590, 1968)。したがって、本発明の一実施形態においては、Moraten株を用いて有効量を与える。MoratenワクチンはMerck(登録商標)から市販されており、バイアル中で凍結乾燥されたものが提供されている(元に戻すと0.5mL、103pfu/mLである)。Moraten Berna株に対するワクチンは、Swiss Serum Vaccine Institute Berneから入手できる。
【0069】
本発明のさらなる実施形態においては、麻疹ウイルスのEdmonston-Bワクチン化株(MV-Edm)が用いられる(Enders and Peebles, Proc. Soc. Exp. Biol. Med. 86: 277-286, 1954)。MV-Edmは、腫瘍細胞中において有効に増殖する。しかし、ヒト末梢血の単核細胞、正常表皮性線維芽細胞および血管平滑筋細胞の初代培養中においては、MV-Edmの成長は非常に制限される。弱毒化Edmonston株のEnders型は、Merckから市販されている(Attenuvax(登録商標))。いくつかの実施形態において、麻疹ウイルスは、MV-NISである。MV-NISは、ヒト甲状腺ナトリウム/ヨウ素共輸送体(MV-NIS)をコードしている麻疹ウイルスである。MV-NIS用の麻疹ウイルスは、弱毒化腫瘍溶解性Edmonston(ED)株である。MV-NISは、選択的に骨髄腫の形質細胞を破壊する。また、MV-NIS感染細胞は、ヨウ素123(I−123)を取り込ませることによって、画像化できる。
【0070】
他の弱毒化麻疹ウイルス株もまた、本発明の範囲に包含される(Leningrad-16株およびMoscow-5株(Sinitsyna, et al., Res. Virol. 141(5): 517-31, 1990)、Schwarz株(Fourrier, et al., Pediatrie 24(1): 97-8, 1969)、9301B株(Takeda, et al. J. VIROL. 72/11: 8690-8696)、AIK-C株(Takehara, et al., Virus Res 26 (2): 167-75, 1992 November)、ならびに、[Schneider-Shaulies, et al., PNAS 92(2): 3943-7, 1995](援用により全体が本明細書に組み込まれる)に記載の株など)。
【0071】
本発明のさらなる実施形態においては、弱毒化腫瘍溶解性ウイルスの混合物を含んでいる組成物の状態で、麻疹ウイルスが提供される。一実施形態においては、流行性耳下腺炎・麻疹・風疹ワクチン(MMR)が用いられる。MMRワクチンは、合衆国では1972年に、英国では1998年に導入された。市販のMMRワクチン製剤は、Merck、Pasterur Merieux ConnaughtまたはSmithKline Beechamから入手できる。これらの製剤は、弱毒化麻疹ウイルスのMoraten株を、最低でも1PFU/mLの力価で含んでいる。本発明のさらなる実施形態においては、(i)麻疹のEdmonston Zagreb株(Edmonston-enders株から得られる弱毒化株)、および(ii)風疹のWistar RA 27/3株(Swiss Serum Vaccine Institute Berne)を含んでいる組成物の状態で、麻疹ウイルスが提供される。任意の臨床的に試験済の麻疹ワクチンが本発明において使用でき、これらのワクチンは本発明の範囲に包含されることが、当業者には明らかである。
【0072】
本発明のまたさらなる実施形態においては、弱毒化ウイルスを作出するために、遺伝子を改変した組み換え麻疹ウイルスが、野生型麻疹ウイルスから作製される。例えば、高い免疫原性を有し(セロコンバージョン率が70〜100%であることにより評価される)、病原性を有さない(例えば、上述した古典麻疹の症状を生じさせない)ウイルスが作製される。本発明の一実施形態においては、野生型麻疹ウイルスの配列を有するプラスミドに対してランダム突然変異を誘導することによって、遺伝子改変が導入される。単離された野生型の配列は、米国特許第5,578,448号に開示されている(援用により全体が本明細書に組み込まれる)。
【0073】
本発明の他の実施形態においては、麻疹ウイルスゲノム中の特定のシストロンを標的として、その発現が弱毒化に関連している遺伝子を改変する(Schneider-Shaulies, et al. PNAS 92(2): 3943-7, 1995; Takeda, et al. J. Virol. 1998 72/11 (8690-8696))。したがって、本発明の一実施形態においては、Hタンパク質、Vタンパク質、Cタンパク質およびこれらの組み合わせのいずれかに、(i)1つの点突然変異または(ii)隣接していない複数の点突然変異を有する、組み換え麻疹ウイルス株が作出される。本発明のまたさらなる実施形態において、野生型の自然変異株または弱毒化麻疹ウイルスは、ゲノム中に少なくとも1つの点突然変異を有していることによって特定される(例えば、感染者に由来する種々の培養ウイルスなどから)。
【0074】
〔腫瘍溶解性ウイルスの設計〕
特定の実施形態において、本開示の組成物および方法において用いられる腫瘍溶解性ウイルスは、有効性、安全性または当該ウイルスの他の特性を向上させるように設計されていてもよい。通常、ウイルスは、免疫調節分子(インターフェロン(−α、−β、−γ)および腫瘍壊死因子α(TNF)など)によって不活性化、抑制または排除される(Moss, 1996)。不活性化は、(i)ウイルスの遺伝子の不活性化(当該遺伝子への挿入によって成されてもよい)、(ii)ウイルスの遺伝子の不活性変異、および/または、(iii)ウイルスの遺伝子の一部もしくは全部の欠失、によって成されてもよい。通常は、宿主組織および炎症細胞/免疫細胞が、ウイルス感染に応答して、これらの分子を放出する。これらの分子は、(i)直接的な抗ウイルス効果を有していてもよいし、および/または(ii)動員を介した間接的な効果を有していてもよいし、および/または(iii)炎症細胞およびリンパ系細胞を活性化させてもよい。免疫クリアランス機構の重要性を考慮して、これらのサイトカイン/ケモカインおよびインターフェロンの誘導および/または機能を阻害する遺伝子産物を発現するように、ウイルスは発展してきた。例えば、ワクシニアウイルス(VV)および何種類かの他のポックスウイルスは、分泌タンパク質vCKBP(B29R)をコードしている。このタンパク質は、CC(隣接する2つのシステイン)ケモカイン(例えば、RANTES、エオタキシン、MIP−1−α)に結合し、これを阻害する(Alcami et al., 1998)。何種類かのVVの株はまた、TNFに結合し、これを不活性化する分泌タンパク質(例えば、Lister A53R)をも発現させている(Alcami et al., 1999)。ほとんどのポックスウイルスの株は、(i)インターフェロンα/βに結合し、その機能を阻害する分泌タンパク質(例えば、B18R)、または(ii)インターフェロンγに結合し、その機能を阻害する分泌タンパク質(例えば、B8R)、をコードしている遺伝子を有している。vC12Lは、IL−18に結合するタンパク質で、IL−18がIFN−γおよびNK細胞/細胞傷害性T細胞の活性化を誘導することを阻害している。
【0075】
ポックスウイルスの毒性に関する研究のほとんどは、マウスにおいて成されてきた。上述のタンパク質の多くは、全てではないにしろ(例えば、B18は活性がない)、マウスにおいて活性を有している。上述のタンパク質がマウスの標的サイトカインに対する活性を有している場合は、その遺伝子を欠失させることによって、毒性を低減し、安全性を増したVV変異株となる。このようなVV変異株は、上記遺伝子を欠失しているか、上記遺伝子に機能変異が生じている。さらに、このような変異株に対する炎症応答/免疫応答およびウイルスクリアランスは、阻害タンパク質を発現している親ウイルス株と比較して、通常は増強されている。例えば、ポックスウイルスの分泌タンパク質であるT1/35kDaファミリー(ケモカイン結合/阻害タンパク質)を欠失させることにより、ウイルス感染組織における白血球の侵入を、著しく向上させることができる(Graham et al., 1997)。VVのvC12L遺伝子を欠失させることにより、マウスに対する鼻腔内投与後のウイルス価/毒性が低減される。さらに、NK細胞および細胞傷害性Tリンパ球の活性は上昇し、IFN−γの誘導も促進される(Smith et al., 2000)。ミクソーマウイルスのT7遺伝子(IFN−γおよび広汎なケモカインに結合できる)を欠失させることにより、毒性モデルにおいて、毒性が低減され、組織の炎症/組織への侵入が著しく促進される(Upton et al., 1992; Mossman et al., 1996)。ミクソーマウイルスからM−T2遺伝子を欠失させることによっても、ウサギモデルにおける毒性が低減される(Upton et al. 1991)。抗インターフェロンα/β遺伝子産物であるB18Rの欠失により、IFN媒介性クリアランスのウイルス感受性が向上し、正常組織におけるウイルス価が低下し、毒性も低減される(Symons et al., 1995; Colamonici et al., 1995; Alcami et al., 2000)。要約すると、これらのウイルス遺伝子の産物は、ウイルス感染組織中において、抗ウイルス免疫応答および炎症細胞の侵入を低減するように機能している。欠失/変異によってタンパク質の機能が失われることにより、宿主組織中にあるウイルスの毒性が低減し、および/または、炎症を促進する特性が増強される。PCT/US2003/025141を参照されたい(援用により、本明細書に組み込まれる)。
【0076】
サイトカインおよびケモカインは、強力な抗腫瘍効果を有している場合がある(Vicari et al., 2002; Homey et al., 2002)。これらの効果は、腫瘍細胞そのものに直接的に及ぼされる場合もあるし(例えばTNF)、非腫瘍細胞を通じて間接的に及ぼされる場合もある。後者の例には、TNFがある。TNFは、腫瘍関連血管に毒性効果を及ぼすことによる、抗腫瘍効果を有している場合がある。この結果、腫瘍に血流が届かなくなり、当該腫瘍はネクローシスする。また、ケモカインは、免疫エフェクター細胞(好中球、好酸球、マクロファージおよび/またはリンパ系細胞など)を動員するように、そして場合によっては活性化するように作用することができる。これらの免疫エフェクター細胞は、種々の機構によって腫瘍を駆除することができる。これらのメカニズムとしては、抗腫瘍サイトカイン(例えばTNF)の発現、Fasリガンドの発現、パーフォリンおよびグランザイムの発現、ナチュラルキラー細胞の動員などが挙げられる。炎症応答によって、最終的には全身性の腫瘍特異的免疫を誘導させることができる。最後に、上述したサイトカイン(例えばTNF)またはケモカインの多くは、化学療法または放射線療法と相乗的に作用して、腫瘍を駆除することができる。
【0077】
上記の免疫賦活タンパク質の組み換えタンパク質を、臨床上効果的に全身投与することは、以下の理由のため実現可能ではない:(1)全身投与に伴う重篤な毒性効果が誘導される、また(2)局所的な炎症効果および抗腫瘍効果を促すためには、腫瘍組織中での局所的な発現が必要である。これらの分子を、腫瘍塊の中では局所的に高濃度にする一方で、全身性の循環中におけるレベルを最小化できるアプローチが求められている。ウイルスの効能を強化する目的で、サイトカイン遺伝子またはケモカイン遺伝子を発現するようにウイルスを設計することができる。これらの遺伝子を複製選択的ベクターから発現させることは、非複製ベクターから発現させることに対して、潜在的な利点を有している。複製可能なウイルスからの発現によって、腫瘍塊の中での局所的な高濃度を達成することができる。さらに、複製可能なウイルスは、腫瘍細胞を駆除し/腫瘍溶解させ、炎症誘発性環境中に腫瘍抗原を放出させることによって、抗腫瘍免疫を誘導する一助となりうる。しかし、このアプローチにはいくつかの制限が存在する。たとえ腫瘍選択的であったとしても、複製可能なウイルス(局所的に高濃度に発現された場合、毒性を示しうる遺伝子を有している)が環境中に放出される可能性からは、安全性に対する重大な懸念が生じる。したがって、ゲノムから強力な炎症誘発遺伝子を発現するウイルスは、処置を受ける患者および一般公衆に対して、安全性に関するリスクを突き付けることになるかもしれない。腫瘍を標的とする複製選択的なウイルスにこれらの遺伝子を発現させるとしても、遺伝子の発現は正常組織中でも発生しうるし、結果として毒性がもたらされうる。また、大きさの限界のために、複数および/または大型の遺伝子をウイルス(アデノウイルスなど)に発現させることができない(これらの分子は、間違いなく、組み合わせによってより効果的に作用するであろうにもかかわらず)。最後に、使用されている腫瘍溶解性ウイルスの多くは、抗炎症タンパク質を発現する。それゆえ、これらのウイルスは、感染した腫瘍塊において炎症誘発性環境の誘導を妨げるであろう。その結果、抗腫瘍免疫の誘導、抗血管効果、および化学療法/放射線療法の増強が妨げられるであろう。
【0078】
〔塞栓物質〕
種々の生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質を、本開示の組成物および方法に用いることができる。好ましい実施形態において、生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質は、分解性デンプン微粒子、ポリビニルアルコール微粒子、ゼラチンフォーム微粒子およびスルホン化ポリビニルアルコールヒドロゲル微粒子から選択される。一態様において、生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質は、in vitroで培養されている腫瘍細胞におけるウイルス産生量を、50%以上、75%以上、100%以上、150%以上、200%以上または300%以上増加させる。関連する態様において、生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質は、in vitroで培養されている腫瘍細胞におけるウイルス産生量を、50%〜400%、75%〜400%、100%〜400%、150%〜400%、200%〜400%または300%〜400%増加させる。
【0079】
生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質(「塞栓物質」)は、一時的なものであっても、永久的なものであってもよい。一時的な塞栓物質の代表例としては、ゼルフォーム、コラーゲンおよびトロンビンが挙げられる。永久的な塞栓物質の代表例としては、微粒子(ポリビニルアルコール微粒子(polyvinyl alcohol;PVA)およびembosphereなど)、コイル(pushableコイル、injectableコイル、detachableコイル、mechanicalコイル、electrolyticコイルおよびhydrolyticコイルなど)、液状物質(膠、Onyx、アルコールおよびALGEL(登録商標。アルギナートの誘導体である糖類高分子・ヒドロゲル)など)、および他の物質(Amplatzerプラグ、Gianturco-Grifka血管閉塞デバイス(Gianturco-Grifka vascular occlusive device;GGVOD)および離脱型バルーンなど)が挙げられる。塞栓すべき血管の大きさ、塞栓術施術後における所望の血管閉塞部の長さ、および、閉塞後に塞栓術を施した組織を生存させたままにするか否かに応じて、異なる塞栓物質を用いてもよい。数多の塞栓術が施されていることを鑑みると、当業者である画像下治療技師ならば、適切な物質の種類、物質の寸法の範囲などを容易に選択して、所望の塞栓術を施すことに困難はないであろう。血管閉塞は、外傷および出血などの臨床シナリオにおいて、あるいは塞栓術を繰り返し施すことが好ましい場合に有用である。このような場合には、本明細書に記載の腫瘍溶解性ウイルスを用いた腫瘍塞栓術が望ましいこともある。
【0080】
一実施形態において、生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質は、ゼラチンフォーム微粒子である。ゼラチンフォームの代表例としては、ゼルフォーム(Alicon/Scion Medical Technologies製)が挙げられる。ゼルフォームは、精製皮膚ゼラチン製の生体物質で、無菌シートまたは粉末状に製剤されている。ゼルフォームは、30年以上に亘って塞栓術の施術に用いられており、廉価かつ多用途な塞栓物質である。ゼルフォームは、機械的な閉塞によって血流を停滞させる。ゼルフォーム粉末は、大きさが150〜1000μmの粒子からなり、吸水すると凝集して大きな集合体粒子を形成することができる。ゼルフォームシートは、種々の異なる寸法・形状に切断することができ、注入に際しては所望の用途に応じて他の液状物質と共に製剤することができる。造影剤およびゼルフォームスポンジの両方を含有しているゼルフォームスラリーは、近接する塞栓すべき血管の「鋳型」を形成するために用いることができる。一方、細い柱状または立方体状のゼルフォームは、より大きな血管に用いることができる。ゼルフォームは、血流を停滞させ、血栓形成を促進し、血栓の足場として機能することによって、一時的に血管を閉塞させる。
【0081】
一実施形態において、生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質は、分解性デンプン微粒子である。分解性デンプン微粒子(degradable starch microparticles;DSM)の代表例としては、EMBOCEPTS粒子(Pharmacept製)およびSPHEREX粒子(Mangle Life Sciences製)が挙げられる。EMBOCEPTS粒子(有効成分:Amilomer)は、加水分解した馬鈴薯デンプンから構成される架橋粒子である。これらの粒子は、半減期が約35分間であり、分解性であるため、一時的塞栓術に好適である。SPHEREX粒子は、DSM−S微粒子から構成されており、無菌化されて食塩水中に懸濁されている。分子量を減らした精製アミロペクチン系デンプンの水溶液から、デンプン微粒子を調製してもよい。この場合、(i)重合体溶液の外相でデンプン小滴の乳濁液を形成させ、(ii)デンプン小滴をゲルに置換し、(iii)デンプン粒子を乾燥させることによって調製する。また任意構成で、上記粒子に放出制御用外殻を追加してもよい。非経口投与の後、生分解性物質は体内で分解されて、最終的には内因性物質を形成する(例えばグルコース)。生分解性は、適切な酵素(例えばαアミラーゼ)と共にインキュベートすることによって、in vitroで測定または検査することができる。また、微粒子を非経口投与し(例えば、皮下投与または粘膜内投与)、時間の関数として組織を組織学的に検査することによっても、生分解性を検査することができる。生分解性デンプン微粒子は、通常、数週間で組織から消失する(一般的には一週間以内)。デンプン微粒子が放出制御用外殻で被覆されている場合は(例えば被覆)、一般的に、当該外殻が生分解の速度を決定する。そしてその後、今度は、いつαアミラーゼがデンプン基質に到達するかを、上記外殻は決定する。
【0082】
一実施形態において、生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質は、ポリビニルアルコール(PVA)微粒子である。ポリビニルアルコール微粒子の代表例は、Boston Scientific Corporation (Natick, MA)によって製造されている。PVA粒子は、PVAフォームシートを真空乾燥させ、細片化して製造される。上記粒子は篩別され、大きさ100μm〜1100μmのものが利用できる。ポリビニルアルコール粒子の大きさ・形状は不定であるため、凝集が促進される。懸濁後、懸濁後のPVA粒子は、長円形、楕円形、不定形、尖った形、角張った形の小片でありうる。ポリビニルアルコール粒子は、血管壁に付着し、当該粒子が通過できる最小の血管を封鎖することによって、永久的に閉塞させる。PVAによる閉塞の結果、炎症反応、局所的な血管のネクローシス、および、それに引き続く血管の線維化が発生する。
【0083】
一実施形態において、生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質は、スルホン化ポリビニルアルコールヒドロゲル微粒子である。スルホン化ポリビニルアルコールヒドロゲル微粒子の代表例は、DCビーズ(Biocompatibles (UK, Surrey, UK)製)である。DCビーズは、スルホン基で修飾されたポリビニルアルコールヒドロゲルを主成分とする、塞栓用微粒子製品である。DCビーズは、アントラサイクリン化合物の塩(例えばドキソルビシン塩酸塩)を溶液から能動的に隔離し、当該化合物を制御下で継続的に放出することができる。薬物を塞栓術の直前に加えることができる。これによって、薬物およびデバイスを、一回の施術で同時に送達することができる。その結果、当該薬物を局所的かつ継続的に送達することになる。
【0084】
上述したように、特に腫瘍血管系の大きさおよび所望の塞栓術の性質に基づいて、生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質の適切な大きさを、当業者は容易に選択することができる。好ましい実施形態において、生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質の大きさは、100μm〜2000μmである。好ましい実施形態において、生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質の大きさは、150〜350μmである。一実施形態において、生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質の大きさは、150〜200μmである。一実施形態において、生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質の大きさは、200〜250μmである。一実施形態において、生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質の大きさは、250〜300μmである。一実施形態において、生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質の大きさは、300〜350μmである。
【0085】
特定の実施形態において、生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質の大きさは均一である。これは、個々の粒子の直径の差が、約0μm〜約100μm、約0μm〜約50μm、または約0μm〜約25μmであることを意味する。いくつかの実施形態において、上記微粒子の直径の差は、100μm以下、約50μm以下、約25μm以下、約10μm以下または約5μm以下である。
【0086】
〔塞栓術を施す方法〕
一態様において、本開示は、哺乳動物の血管上の部位に能動的塞栓術を施す方法であって、哺乳動物の血管系に、(i)本開示の腫瘍溶解性ウイルスと、(ii)能動的塞栓術に適している生体適合性微粒子または親水性高分子ゲルと、を導入することによる方法を提供する。一態様において、本開示は、哺乳動物の血管上の部位に能動的塞栓術を施す方法であって、哺乳動物の血管系に、(i)最短軸に沿った直径が0.1μm以上である腫瘍溶解性ウイルスと、(ii)能動的塞栓術に適している生体適合性微粒子または親水性高分子ゲルと、を導入することによる方法を提供する。一態様において、本開示は、哺乳動物の血管上の部位に能動的塞栓術を施す方法であって、哺乳動物の血管系に、(i)感染した極性細胞の頂端面から出芽する腫瘍溶解性ウイルスと、(ii)能動的塞栓術に適している生体適合性微粒子または親水性高分子ゲルと、を導入することによる方法を提供する。他の態様において、本開示は、腫瘍塊を減量させることによって癌を処置する方法であって、哺乳動物の血管系に、(i)腫瘍溶解性ウイルスと、(ii)能動的塞栓術に適している生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質と、を導入する工程を含む方法を提供する。この方法も、ウイルスの複製および一時的な血管閉塞により、腫瘍をネクローシスさせる。その結果、周囲の正常組織に観測可能な損傷を与えることなく、腫瘍塊が「減量」される。好ましい実施形態において、上記の減量方法の結果、塞栓術を施された腫瘍塊の75%以上、80%以上、85%以上、90%以上または85%以上に、ネクローシスが生じる。
【0087】
生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質、腫瘍溶解性ウイルスおよび本開示の組成物の導入は、通常、腫瘍近傍の血管内への注入によって行われる。特定の実施形態において、生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質、腫瘍溶解性ウイルスおよび本開示の組成物は、カテーテルによって導入される。他の実施形態において、生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質、腫瘍溶解性ウイルスおよび本開示の組成物は、シリンジを装着したカテーテルによる注入を介して導入される。いくつかの実施形態において、導入は、腫瘍または腫瘍の一部を直接に栄養している血管内に行われる。他の実施形態において、導入は、作用部位に直接行われる(例えば、腫瘍の近位端にある血管内)。本開示に係る生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質は、腫瘍溶解性ウイルスを既に含ませた状態(すなわち、本開示の組成物)で導入することができる。他の実施形態においては、生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質を、腫瘍溶解性ウイルスと組み合わせて導入する。このとき、ウイルスの導入は、生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質の導入に先立ってもよいし、導入と同時であってもよいし、導入後であってもよい。導入に際して、生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質、腫瘍溶解性ウイルスおよび本開示の組成物は、注入に適している。特定の施形態において、生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質、腫瘍溶解性ウイルスおよび本開示の組成物は、無菌化されている。
【0088】
生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質、腫瘍溶解性ウイルスおよび本開示の組成物を、カテーテルまたはマイクロカテーテルを用いて送達してもよい。生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質、腫瘍溶解性ウイルスおよび本開示の組成物を送達するカテーテルは、径の小さい医療用カテーテルであってもよい。生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質、腫瘍溶解性ウイルスおよび本開示の組成物に対して適合性のあるカテーテルの材質としては、ポリエチレン、フッ素系高分子およびシリコーンを挙げてもよい。カテーテルの設置後すぐに、生体適合性微粒子物質もしくは親水性高分子ゲル物質、腫瘍溶解性ウイルスおよび/または本開示の組成物は、当該カテーテルを通じて緩やかに導入される(通常は、蛍光透視ガイドの補助を伴って)。生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質、腫瘍溶解性ウイルスおよび本開示の組成物は、患部の血管内に直接導入してもよいし、標的血管の上流に導入してもよい。塞栓術の施術に際して導入される、生体適合性微粒子物質もしくは親水性高分子ゲル物質、または本開示の組成物の量は、塞栓に充分な量である(例えば、標的血管の血流を減少または封鎖するために充分な量)。生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質、腫瘍溶解性ウイルスおよび本開示の組成物の送達量は、例えば、塞栓すべき血管系の大きさまたは範囲、ならびに腫瘍の大きさおよび性質に応じて変化しうる。塞栓術の施術後、施術の完了を確認するために、別途、動脈造影を行ってもよい。塞栓術の施術箇所に近接する正常な体組織に向けては、動脈の血流がある程度存在している。しかし、疾患部位または標的部位に向けた血流は、封鎖されている。また、施術を容易にするために、術前、術中または術後の患者に、血管拡張薬(例えばアデノシン)を投与してもよい。
【0089】
医学または塞栓術に関する当業者ならば、本明細書に記載されている生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質、腫瘍溶解性ウイルスおよび本開示の組成物を、種々の塞栓術の工程においてどのように使用できるかを理解し、正しく評価できるであろう。ここで、上記塞栓術の工程とは、(i)所望の血管上の部位に送達機構をガイドし、(ii)適量の生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質、腫瘍溶解性ウイルスおよび本開示の組成物を当該部位に送達して、(iii)1つ以上の所望の血管に拘束、閉塞、充填または封鎖を生じせしめ、当該血管の血流を減少または停止させることによるものである。上記の工程を何らかの具体的な塞栓術の工程に適用するにあたって、考慮、制御または調節されうるであろう要素としては、(i)選択される生体適合性微粒子物質もしくは親水性高分子ゲル物質、腫瘍溶解性ウイルスおよび/または本開示の組成物(例えば、放射線不透過性粒状担体を画像化、追跡および検出するために);(ii)体の部位に送達される生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質、腫瘍溶解性ウイルスおよび本開示の組成物;(iii)送達の方法(使用する特定の装置(例えばカテーテル)、カテーテルの注入端を所望の体の位置に設置するために用いる方法および経路など);などが挙げられる。当業者は、これらの要素のそれぞれを正しく評価するであろうし、これらの要素を容易に扱って、無数にある塞栓術の施術方法に上述の方法を適用できる。
【0090】
一実施形態においては、本開示の塞栓術療法を利用して、原発性肝腫瘍および転移性肝腫瘍を処置してもよい。肝腫瘍は、原発性であっても続発性であってもよい。続発性肝腫瘍は、例えば、転移性悪性黒色腫であってもよい。簡潔に説明すると、カテーテルを大腿動脈から挿入し、蛍光透視ガイドの下、血管系中で当該カテーテルを操作することによって、肝動脈中を進行させることが好ましい。肝動脈樹の中でカテーテルを必要なだけ進行させ、腫瘍を栄養している血管を完全に封鎖できるようにする。その一方で、正常組織を栄養している多くの動脈枝は、可能な限り封鎖しない。理想的には、肝動脈の一分節枝を封鎖する。しかし、腫瘍の程度およびそれぞれの腫瘍への血液供給によっては、胃十二指腸動脈起始より末梢にある肝動脈の全体や、時には複数の異なる動脈を封鎖することが必要となる場合もある。カテーテルが所望の位置に達した後すぐに、生体適合性微粒子物質または親水性高分子ゲル物質、腫瘍溶解性ウイルスおよび本開示の組成物を、動脈カテーテルを通じて動脈の血流が封鎖されて消滅するまで導入することによって、当該動脈に塞栓術を施す。カテーテルを通じて放射線不透過性造影剤を注入し、以前は造影剤で満たされていた血管が現在では満たされないことを示すことによって(好ましくは蛍光透視法によって)、動脈の閉塞を確認してもよい。同じ技法を、閉塞されるべきそれぞれの栄養動脈に対して繰り返してもよい。
【0091】
〔組み合わせ療法〕
いくつかの実施形態においては、本開示の経カテーテル動脈ウイルス塞栓術法(Transcatheter Arterial Viroembolization;「TAVE」)と組み合わせて、追加の治療剤を用いる。追加の治療剤としては、チロシンキナーゼ阻害剤(スニツニブ、ソラフェニブ)、放射線療法、および従来型の化学療法が挙げられる(ただし、これらには限定されない)。追加の治療剤は、TAVEの術後に投与することができる(例えば、TAVEの施術から2〜3週間後)。いくつかの実施形態においては、追加の治療剤の投与前にTAVEを施術する。いくつかの実施形態においては、追加の治療剤の投与後にTAVEを施す。いくつかの実施形態においては、追加の治療剤の投与と同時にTAVEを施す。いくつかの実施形態においては、TAVEおよび追加の治療剤の投与は連続的であり、複数サイクル繰り返される。
【0092】
〔可視化方法〕
いくつかの実施形態においては、能動的塞栓術の施術に先立って、造影剤を用いて血管系を可視化する。造影剤による可視化によって、血管系内でのカテーテルの設置をガイド・監視することができる。このため、所望の血管内での能動的塞栓術が可能になる。造影剤は、公知の方法により、追跡・監視することができる(放射線撮影法、蛍光透視法など)。造影剤とは、所望の画像化モダリティ(例えば、磁気共鳴、X線(例えばCT)、超音波、磁気断層撮影、電気インピーダンス撮影法、光学イメージング(例えば、共焦点顕微鏡法および蛍光イメージング))および核イメージング(例えば、シンチグラフィ、SPECTおよびPET)において、コントラストを増加させることのできる任意の物質でありうる。造影剤は、塞栓術および類似の医療行為において周知であり、このような種々の造影剤の任意のものが、本開示の製剤および方法に好適に用いられる。
【0093】
いくつかの実施形態において、造影剤は放射線不透過性であり、特に、永久的な放射線不透過性を示す放射線不透過性物質である(例えば、金属または金属酸化物)。永久的な放射線不透過性は、何種類かの他のコントラスト促進物質、または塞栓術もしくは類似の医療行為において用いられている放射線不透過物質とは異なる。これらの物質は、生体内で分解されるか、あるいは一定期間(例えば、数日または数週間(7〜14日間など))でその効果(放射線不透過性)を失ってしまうのである(例えば、PCT/GB98/02621を参照)。永久的な放射線不透過性物質は、それらが体内に残っている限りは監視または追跡できるため、通常好まれる。一方、他の非永久的なコントラスト促進物質または非永久的な放射線不透過性物質には、検出および追跡が可能な制限時間がある。
【0094】
放射線不透過性物質としては、常磁性物質(例えば、安定フリーラジカル、またはより好ましくは、常磁性金属種の化合物、塩および複合体(例えば、遷移金属またはランタニドイオン));重元素(すなわち原子番号37以上)の化合物、塩または複合体(例えば、重金属化合物、ヨウ素標識した化合物など);放射性核種を有する化合物、塩または複合体(例えば、放射性金属同位体の化合物、塩もしくは複合体、または放射線標識された有機化合物);ならびに、超常磁性粒子(例えば、金属酸化物または混合酸化物の粒子の。特に鉄酸化物)が挙げられる。好ましい常磁性金属としては、Gd(III)、Dy(III)、Fe(II)、Fe(III)、Mn(III)およびHo(III)、ならびに、常磁性Ni種、常磁性Co種および常磁性Eu種が挙げられる。好ましい重金属としては、Pb、Ba、Ag、Au、W、Cu、Biおよびランタニド(Gdなど)が挙げられる。
【0095】
コントラスト促進物質の使用量は、塞栓を望ましく検出するのに充分であるべきである。好ましくは、塞栓物質組成物は、約1〜約50重量%の造影剤を含んでいてよい。放射線不透過性物質関する濃度の違いは、次の通りである。例えば、好ましい実施形態において、逆感熱性高分子混合物は、約50体積%の放射線不透過性造影剤の溶液を含んでいる。このとき、好ましい造影剤は非イオン性である(例えば、OmnipaqueまたはVisipaque)。MRIによる検出に関して、MR検出物質の濃度は、好ましくは約1重量%である。
【0096】
本開示において、好適に使用される造影剤の例としては、メトリザミド、イオパミドール(Isovue(登録商標)またはIopamiron(登録商標))、イオジキサノール(Visipaque(登録商標))、イオヘキソール(Omnipaque(登録商標))、イオプロミド(Ultravist(登録商標))、iobtiridol、イオメプロール、イオペントール、イオパミロン、イオキシラン、イオトロラン、ガドジアミド、ガドテリドール、イオトロール、イオベルソール(Optiray(登録商標))またはこれらの組み合わせが挙げられる(ただし、これらに限定されない)。
【実施例】
【0097】
以下は、本開示の方法および組成物の例示である。上記に提供される一般的な説明を鑑みると、種々の他の実施形態を実施しうることが理解される。
【0098】
〔実施例1:JX-594ワクシニアウイルスの安定性およびウイルスの複製の評価〕
経動脈化学塞栓術(TACE)に使用される他の試薬との組み合わせにおける、JX-594腫瘍溶解性ワクシニアウイルスの安定性を、in vitroで評価した。JX-594は、Wyeth株ワクシニアウイルスに由来する、複製可能な組換えワクシニアウイルスである。JX-594は、ヒトGM−CSF遺伝子および大腸菌βガラクトシダーゼ遺伝子(それぞれ、合成初期/後期プロモーターおよびp7.5プロモーターの制御下にある)を、当該ウイルスのチミジンキナーゼ(TK)遺伝子中に挿入して作出された。そのため、TK遺伝子は不活性化されている。TK遺伝子が不活性化されているため、ワクシニアウイルスの毒性は低減され、腫瘍に特異的な複製が増強されている。
【0099】
<方法>
表1にまとめられる処置群に従って、JX-594ワクシニアウイルスを、リピオドール、アドリアマイシンおよび/またはゼルフォームと混合した。
【0100】
【表1】
【0101】
表1の「群」欄に記載の混合物を、細胞(HuH-7細胞株)へ添加する前に、表に記載の時間インキュベートした。ウイルス接種材料を調製するため、スクロースクッションで精製したJX-594を、最大出力で30秒間激しくボルテックスした。2.5%仔ウシ血清を含むDMEM(感染培地)で、所定量のJX-594懸濁液を希釈した。アドリアマイシン粉末(ドキソルビシン塩酸塩、SIGMA-ALDRICH, 登録商標)、リピオドール(登録商標, Guerbet)およびゼルフォーム(Alicon, 登録商標, Hangzhou Alicon Pharm SCI&TEC Co., Ltd)を同じ感染培地に溶解させて、アドリアマイシン、リピオドールおよびゼルフォームのストック溶液を調製した。第2群、第3群、第5群および第6群では、アドリアマイシン、リピオドールおよび/またはゼルフォームと共にJX-594を混合し、感染前に室温で10分間インキュベートした。第4群および第6群では、室温で1時間、リピオドールおよびアドリアマイシンと共に細胞を前処理した。その後、24ウェル組織培養プレートの各ウェルに接種材料混合物を200μL加え、ウイルスを吸着させるために、加湿COインキュベーター中にて37℃で2時間インキュベートした。
【0102】
1または100の感染多重度(MOI)で、細胞を感染させた。ウイルスの吸着から2時間後、2.5%仔ウシ血清を含むDMEM 500μLで2回、細胞を洗浄した。加湿COインキュベーター中で、37℃にて24時間または48時間、上記プレートをインキュベートした。ウイルス培養に使用する試薬を、それぞれの濃度および購入元と併せて表2にまとめる。HuH-7細胞は、JCRB細胞バンク(Japanese Collection of Research Bioresources, Osaka, Japan)から購入し、完全増殖培地(10%仔ウシ血清を含むDMEM)で培養した。加湿COインキュベーター中で、37℃にて上記細胞をインキュベートした。
【0103】
感染から24時間後および48時間後、細胞培養上清を回収し、ウイルス産生量(pfu/ml)を測定した。感染細胞は、1mLシリンジのゴム製プランジャーを用いて擦り取ることにより回収した。凍結融解を3サイクル行うことによって、回収した細胞懸濁液を溶解させた。感染性のウイルス粒子の量を測定するために、溶解させた細胞回収物を用いて、プラークアッセイを行った。プラークアッセイのために、U-2 OS細胞を増殖させ、6ウェル組織培養プレートに播種した。ウイルス滴定を行う前の16〜20時間、加湿COインキュベーター中で、37℃にて上記プレートをインキュベートした。感染前に、HuH-7細胞を無血清DMEM培地で溶解させ、希釈系列を調製した。完全増殖培地を吸引した後、無血清DMEM培地 900μLを各ウェルに加え、接種材料の希釈系列100μLを加えた。ウイルスを吸着させるために、加湿COインキュベーター中で37℃にて2時間、プレートをインキュベートした。2時間後、接種材料と、1.5%カルボキシメチルセルロースを含むDMEM(2%仔ウシ血清および1%ペニシリン−ストレプトマイシン添加)3mLとを交換した。観察できるプラークが形成されるまで、加湿COインキュベーター中で37℃にて3日間(72±6時間)、プレートを再度インキュベートした。3日間のインキュベーション期間の終わりに、上層を吸引し、1mLの0.1%クリスタルバイオレット溶液で1時間、U-2 OS細胞を染色した。クリスタルバイオレットを除去した後、プラークの数を数え、それぞれの溶解物の抗体価を算出した。プラークアッセイに使用した試薬を表3にまとめる。
【0104】
【表2】
【0105】
【表3】
【0106】
<結果>
感染前に、ゼルフォームと共にJX-594をインキュベートした場合は、24時間後および48時間後における細胞のウイルス産生量が増加した(図1A〜D)。逆に、リピオドールおよび/またはアドリアマイシンと共にインキュベートした場合は、ゼルフォームの有無にかかわらず、24時間後におけるウイルス産生量が減少した(図1AおよびB)。2%リピオドールのみ、またはアドリアマイシンおよびゼルフォームの組み合わせと共にインキュベートした場合は、48時間後における1MOIのウイルス産生量は減少した。一方、アドリアマイシンのみと共にインキュベートした場合は、1MOIおよび100MOIのウイルス産生量が減少した(図1CおよびD)。驚くべきことにこれらの結果は、ゼルフォームが、in vitroにおいて3倍近くJX-594ウイルスの複製を増加させることを示している。逆に、アドリアマイシンおよびリピオドールは、in vitroにおけるJX-594ウイルスの複製を減少させる。先行研究により、塞栓物質を添加しても、基底放出する小型のウイルス(VSVなど)のウイルス産生量には影響がないことが示されている。このことは、塞栓物質と共に培養したときと、塞栓物質なしで培養したときで、ウイルス増殖曲線が類似していること示されている(Altomonte et al. (2008) Hepatology 48:1864-1873)。したがって、基本の塞栓物質は、大型の腫瘍溶解性ウイルスおよび/または頂端放出する腫瘍溶解性ウイルス(ワクシニアウイルスなど)と適合性を有しており、また驚くべきことに、ウイルス産生量を増大させる。理論には拘束されないが、ウイルス産生量の増大により、本開示の塞栓術を施す方法が、大型の腫瘍溶解性ウイルスおよび頂端面から出芽するウイルス(ワクシニアウイルスなど)にさえも効果的である理由が説明されうる。
【0107】
〔実施例2:血清中のJX-594ウイルス検出〕
ゼルフォームで調合したJX-594によって塞栓術を施されたウサギの、術後の末梢血中におけるウイルスの存在を評価した。
【0108】
<方法>
VX2腫瘍を移植していない3匹の正常なニュージーランド白ウサギ(Biogenomics, Seoul, Korea; Samtako, Oh San, South Korea)に、ゼルフォームで調合したJX-594を用いて塞栓術を施した。塞栓術療法は、蛍光透視ガイド下で行った。血管造影は通常通り、経耳法で行った。詳細な方法は以下の通りである(Chang et al., (2011) J Vasc Interv Radiol 22:1181-1187)。右左の中央耳介動脈にカニューレを挿入して、肝動脈血管造影を行うためにどちら側が好ましいかを決定した。
【0109】
麻酔のため、キシラジンとチレタミン/ゾラゼパムとの2:3混合物1.5mLを後太腿に筋肉注射した。麻酔の後、ウサギを背臥位にして、蛍光透視台に載せた。耳介を介して動脈に達するための剃毛は、不要であった。穿刺部位の短い毛を、電気バリカンで剃毛した。ウサギの両耳を殺菌用アルコールで消毒した。ウサギの片耳の皮膚を貫通させて中央耳介動脈を穿刺し、18ゲージアンジオカス(Angiocath)の針を逆行方向に挿入した。アンジオカス(Angiocath)の針のプラスチックシースを前進させた後、内部の細い針を取り除き、三方コックのキャップでプラスチックシースのハブを塞いだ。絆創膏を貼付して、上記プラスチックシースを固定した。
【0110】
プラスチックシースのハブに改良型回転キャップを取り付けた後、画像下治療技師が、2.0Fマイクロカテーテル(Progreat, Terumo, Tokyo, Japan)および0.016インチガイドワイヤ(Meister, Asahi intec, Aichi, Co, Ltd, Japan)を中央耳介動脈に導入した。約1mLの造影剤を注入し、頭蓋外頸動脈から胸部大動脈へのロードマップを得た。下行胸大動脈内で上記ガイドワイヤを注意深く前進させ、その後、上記ガイドワイヤを操作することにより、適当な肝動脈を選択した。上記適当な肝動脈にマイクロカテーテルの先端を設置した後、造影剤を手動で注入して肝動脈を造影した。
【0111】
1×10PFUのPexa-Vec(SillaJen, Busan, Korea)および150μm〜350μmのゼルフォーム粒子(Alicon, China)の混合物を調製した。バイアルの半量のゼルフォームを、5mLの造影媒体および5mLの生理食塩水に溶解させ、その混合物を1mLのPexa-Vecに混合した。腫瘍を栄養する血管が閉塞するまで、塞栓術を施した。マイクロカテーテルで血管を選択した後、調製したPexa-Vecおよびゼルフォーム粒子の混合物1.5mLを用いて塞栓術を施した。マイクロカテーテルおよびプラスチックシースを中央耳介動脈から取り除いた後、穿刺部位を手で圧迫した。
【0112】
所定の時刻に、末梢血試料を採取した。血液試料は耳の血管から採取し、3,000rpmで5分間遠心して、血清を分離させた。製造者の使用説明書(Blood and Body Fluid Spin Protocol)に従い、QIAamp DNA Blood Mini Kitを用いて、血清200μL中のDNAを抽出した。要約すると、20μLのプロテアーゼを1.5mLマイクロ遠心チューブに入れ、200μLの血清を加えた。200μLの溶解バッファAL(QIAGEN, Cat#19075)を加え、上記チューブを56℃で10分間インキュベートした。200μLの無水エタノールを上記試料に加え、混合物をQIAampスピンカラムに移した。上記試料を1分間6,000×gで遠心した後すぐに、付属の洗浄バッファAW1(QIAGEN, Cat#19081)およびAW2(QIAGEN, Cat#19072)でカラムを2度洗浄した。200μLの溶出バッファAE(QIAGEN, Cat#10977)中に、DNAを溶出させた。7300 Real Time PCR System(Applied Biosystems, model: PRI SM7300)を用いて、ワクシニアDNAポリメラーゼ遺伝子(E9L)に関するqPCR解析を行った。qPCR条件を表4に示す。平均ウイルス量を測定した。検出限界は5であった。
【0113】
【表4】
【0114】
<結果>
血清中におけるウイルス検出値(コピー数で表される)は全て、検出限界以下であった(表5)。表5において、NDは検出されなかった値(値=0)を表し、<LODは検出限界以下であった値を示している。これらの結果は、塞栓術療法によって送達されたウイルスは、腫瘍のみに局在し、腫瘍から他の組織または血流へと流出しないことを示している。逆に、先行研究の実証するところによれば、腫瘍内への直接注入後には、JX-594ウイルスは血流内で検出されうる。また、VSVウイルスを用いた先行研究が実証するところによれば、VSVは、ウイルス塞栓術から1日後に血流中で検出されうる。このことは、塞栓物質では小型のウイルスを充分に保持することができず、それゆえ、腫瘍外の組織へ到達できることを示している(Shinozaki et al. (2004) Mol Therapy 9:368-376)。
【0115】
塞栓術療法によって送達されるJX-594ウイルスが、体循環において検出されないことは、極めて驚くべきことである。腫瘍中へのJX-594の直接注入または小型のウイルス(VSVなど)を用いた塞栓術療法よりも、JX-594塞栓術の安全性が向上していることを、これらの結果は示している。JX-594は安全であると一般に考えられている。しかし、他の腫瘍溶解性ウイルスは、体内の他の正常組織を傷害または殺傷しうる。ウイルス塞栓術によって送達されるJX-594ウイルスは、腫瘍外へと輸送されることができず、それゆえ、正常組織を傷害または殺傷することができない。それゆえ、JX-594ウイルス塞栓術療法は、腫瘍への直接注入および小型のウイルス(VSVなど)を用いた塞栓術療法の両方に対する、より安全な代替策である。理論には拘束されないが、上述のように、小型のウイルス(VSVなど)は塞栓物質によって適切に保持されえない。
【0116】
【表5】
【0117】
〔実施例3:Pexa-Vecおよびゼルフォームを用いた経カテーテル動脈ウイルス塞栓術〕
JX-594腫瘍溶解性ワクシニアウイルス(PexaVec)を用いた経カテーテル動脈ウイルス塞栓術におけるゼルフォームの影響を、ウサギVX2肝臓腫瘍モデルにおいて評価した。
【0118】
<方法>
[動物の準備]
それぞれ体重が2.5〜3kgの、4匹の健康なニュージーランド白ウサギ(Biogenomics, Seoul, Korea; Samtako, Oh San, South Korea)をこの研究では用いた。
【0119】
キャリアウサギの後肢に継続的に移植することによって、VX2腫瘍系統を維持した。麻酔のため、キシラジン(Rompun; Bayer Korea, Seoul, Korea)とチレタミン/ゾラゼパム(Zoletil; Virbac, Carros, France)との2:3混合物を2.5〜3mL、後太腿に筋肉注射した。腹部を正中切開して、細かく刻んだVX2腫瘍(2〜3mm)0.1mLを、肝内側左葉の被膜下実質に移植した。腫瘍移植から14日後、腫瘍が直径15〜30mmとなった時点で、動物を実験に使用した。
【0120】
PexaVec塞栓術療法の1日前、動物を腹臥位または側臥位にして、コンピュータ断層撮影(CT)を行った(Somatom definition AS; Siemens Medical Systems, Erlangen, Germany)。非造影CTを行い、肝臓全体を網羅した(コリメーション:1.5mm、ピッチ:1.5、再構築間隔:1mm)。造影CTのために、耳介静脈を介して、13mLの造影剤を0.5mL/秒の速度で注入した。ボーラストラッキング法によって、5秒間隔および16秒間隔で、肝動脈相スキャン像および門静脈相スキャン像を得た(Yoon et al., (2003) Radiology 229:126-31)。
【0121】
CTスキャンに際して、腫瘍の場所および大きさを測定した。腫瘍の体積(V)を、以下の式に従って算出した:V=L×S/2(Lは腫瘍の最長径であり、Sは腫瘍の最短径である)(Okada et al., (1995) Br J Cancer 71:518-524; Watanabe et al., (1994) Oncology 52:76-81.31)。
【0122】
[Pexa-Vec経カテーテル動脈ウイルス塞栓術]
肝臓にVX2腫瘍を移植してから2週間後に、蛍光透視ガイド下で塞栓術療法を施した。通例に則り、血管造影は経耳法で行い、詳細な方法は以下の通りである(Chang et al., (2011) J Vasc Interv Radiol 22:1181-1187)。右左の中央耳介動脈にカニューレ挿入し、肝動脈血管造影を行うためにどちら側が好ましいかを決定した。
【0123】
麻酔のため、キシラジンとチレタミン/ゾラゼパムとの2:3混合物1.5mLを、後太腿に筋肉注射した。麻酔の後、ウサギを背臥位にして、蛍光透視台に載せた。耳介を介して動脈に達するための剃毛は、不要であった。穿刺部位の短い毛を、電気バリカンで剃毛した。ウサギの両耳を殺菌用アルコールで消毒した。ウサギの片耳の皮膚を貫通させて中央耳介動脈を穿刺し、18ゲージアンジオカス(Angiocath)の針を逆行方向に挿入した。アンジオカス(Angiocath)の針のプラスチックシースを前進させた後、内部の細い針を取り除き、三方コックのキャップでプラスチックシースのハブを塞いだ。絆創膏を貼付して、上記プラスチックシースを固定した。
【0124】
プラスチックシースのハブに改良型回転キャップを取り付けた後、画像下治療技師が、2.0Fマイクロカテーテル(Progreat, Terumo, Tokyo, Japan)および0.016インチガイドワイヤ(Meister, Asahi intec, Aichi, Co, Ltd, Japan)を中央耳介動脈に導入した。約1mLの造影剤を注入し、頭蓋外頸動脈から胸部大動脈へのロードマップを得た。下行胸大動脈内で上記ガイドワイヤを注意深く前進させ、その後、上記ガイドワイヤを操作することにより、適当な肝動脈を選択した。上記適当な肝動脈にマイクロカテーテルの先端を設置した後、造影剤を手動で注入して肝動脈を造影した。
【0125】
1×10PFUのPexa-Vec(SillaJen, Busan, Korea)および150μm〜350μmのゼルフォーム粒子(Caligel, Alicon, China)の混合物を調製した。バイアルの半量のゼルフォームを、5ccの造影媒体および5ccの生理食塩水に溶解させ、その混合物を1ccのPexa-Vecと共に混合した。腫瘍を栄養する血管が閉塞するまで、塞栓術を施した。マイクロカテーテルでVX2腫瘍を選択した後、調製したPexa-Vecおよびゼルフォーム粒子の混合物1.5ccを用いて塞栓術を施した。対照動物には、Trisバッファ、Pexa-Vecまたはゼルフォームのみを用いて塞栓術を施した。マイクロカテーテルおよびプラスチックシースを中央耳介動脈から取り除いた後、穿刺部位を手で圧迫した。4つの処置群の組成および投与計画を表6にまとめる。
【0126】
【表6】
【0127】
<動物の観察>
表7に基づいて、生存、腫瘍の大きさ、体重および外観について、動物を観察した。実験スケジュールの模式図を、図2Aに示す。塞栓術の直前(0日目)および7日目にCTスキャンを行った。−1日目、3日目および9日目に採血した。9日目(腫瘍移植から32日後)に動物を致死させ、分析のために組織を回収した(図2B)。
【0128】
【表7】
【0129】
[組織イメージング]
処置動物および対照動物から回収した肝組織を、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色し、腫瘍を可視化した。以下のパラメータの下、128セクションCTユニット(Somatom Definition AS Plus; Siemens Healthcare)を用いてCTスキャンを行った。管電圧:120kVp、実効管電流:90mA、視野:146mm、再構築厚さ:2mm(2mm間隔)。一部の動物については、ベースライン、および血清処置開始から23日後に、CTスキャンを行った。CTプロトコルには以下が含まれている:(i)造影剤を用いない像の取得、ならびに(ii)耳の静脈を介して、2mL/秒で非イオン性ヨード造影剤8〜9mLを静脈内ボーラス注入した(イオヘキソール(Omnipaque; GE Healthcare AS)1mL当たり300mgのヨウ素、2mL/kg、2.4〜2.7gのヨウ素)後の、一連の動脈相像、静脈相像および遅延位相像の順次取得。下行大動脈を100ハンスフィールド単位で造影してから10秒後、ボーラストラッキング法で測定しながら動脈相像を得た。動脈相が終了してから10秒後に静脈相像を得て、静脈相が終了してから70秒後に遅延型相像を得た。組織試料を得るため、COを吸入させることによりVX2移植ウサギを安楽死させた。続いて、腹部を外科的に切開して、肝組織全体を取り出した。当該組織を、10%ホルマリン溶液で2日間処理した。VX2塊を横断するように、肝臓全体を注意深く切断した後、組織をパラフィンに包埋した。通常通りH&E染色した後、100〜200倍の光学顕微鏡下で組織観察を行った。
【0130】
<結果>
造影したVX2腫瘍塊(増殖可能な病変部を有する)が、JX-594塞栓術療法施術前のCTスキャンにおいて観察された(図3A)。組織染色した組織において、増殖可能なVX2組織(図3A中の明部)が、正常な肝実質に囲まれている。VX2組織は、何も処置をしなくとも、40〜50%がネクローシスした。このことは、VX2腫瘍塊の自発的ネクローシスを示している。左肝動脈を介してJX-594ゼルフォーム混合物を注入する前の血管造影像中に、上記腫瘍塊は観察された(図3C、黒丸)。
【0131】
しかし、JX-594ゼルフォーム混合物を動脈注入した後には、CT像および組織像の両方において、完全な腫瘍ネクローシスが観察された(図3Bおよび図3D)。JX-594塞栓術療法の施術後に観察された高度にネクローシスが進行している腫瘍組織は、ピンク色の染色が存在せず、明確に染色された核も存在しないことによって、組織像中で特定される(図3D)。これらの結果は、JX-594塞栓術療法を一回施すことによって、腫瘍が完全に死滅することを示している。とりわけ、組織像によると、JX-594塞栓術療法施術後の腫瘍の外側に、正常で無傷の肝組織が認められる。これは、パネルの左側(図3D)および図3Eの全体における、濃いピンク色の染色および明確に染色された核によって特定される。これは、JX-594塞栓術療法の結果、腫瘍と正常組織との境界であっても、正常な肝組織には損傷を受けなかったことを示している。腫瘍と正常な実質との境界部分においては、最低限の炎症しか観察されていない(図3D)。これらの結果は、JX-594塞栓術療法の強い特異性によって(ウイルスはもっぱら腫瘍を標的としている)、正常な肝組織を傷つけることなく、効果的に腫瘍をネクローシスさせられることを強調している。したがって、本開示の塞栓術を施す方法は、腫瘍を減量させるための安全かつ有効な方法であることが示される。
【0132】
理論には拘束されないが、ゼルフォーム塞栓物質は、大型のウイルスまたは極性細胞の頂端から放出されるウイルスを(ワクシニアウイルスなど)、塞栓術療法の間、適切な場所に留めるのに効果的であると考えられる。このように、腫瘍の界面において局在化が保持されることにより、今度は、腫瘍組織への送達が強化され、腫瘍組織を標的とする感染も強化される。逆に、小型のウイルスは(VSVなど)、塞栓物質を通過して拡散し、腫瘍から分散することができる。そのため、標的への送達が弱められ、腫瘍組織への感染が減少する。理論には拘束されないが、上述のように、ゼルフォームを用いて調合した場合に標的組織においてウイルスの局在化が強まることにより、本開示の塞栓術を施す方法が単に有効であるだけでなく、大型の腫瘍溶解性ウイルスおよび頂端面から出芽するウイルス(ワクシニアウイルスなど)を用いているにも関わらず、驚くことに効果的である理由が説明されうる。
【0133】
加えて、上記の結果により、本開示の塞栓術を施す方法の大いなる有効性が強調される(単回の処置によって、完全に腫瘍をネクローシスさせる)。一方、従来使用されている経動脈化学塞栓術を施す方法は、腫瘍を効果的に死滅させるために、繰り返し処置が必要とされている。
【0134】
〔実施例4:ウサギにおける経カテーテル動脈ウイルス塞栓術施術後の、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスの有効性およびPK調節〕
腫瘍溶解性ウイルス治療および塞栓術と対比した経カテーテル動脈ウイルス塞栓術(TAVE)の有効性を、ウサギ腫瘍モデルにて評価する。注入したウイルスの薬物動態(PK)は、末梢血試料中のウイルス粒子数を測定することで検討する。
【0135】
<方法>
それぞれ体重が2.5〜3kgの、メスのニュージーランド白ウサギ(Biogenomics, Seoul, Korea; Samtako, Oh San, South Korea)をこの研究で用いる。RompunとZoletilとの2:3混合物 2.5〜3.0mLを、後太腿に筋肉注射することにより麻酔を行う。腹部を正中切開して、細かく刻んだVX2腫瘍組織(0.1mL)を肝内側左葉の被膜下実質に移植する。そして、腫瘍が直径15〜30mmになるまで、14〜23日間インキュベートする。スクロースクッションにて精製したワクシニアウイルス株vvDD-CDSRを、本研究では用いる。ゼルフォーム粒子(SCION, Alicon, Hangzhou, China、大きさ150〜350μm)を用いて、実施例3に記載の方法に従い、塞栓術を施す。320mg/mL イオジキサノール(VISIPAQUE, GE Healthcare, Cork, Ireland)100mLを、造影剤として塞栓術中に用いる。処置群、投与量および研究計画を表8および図4に示す。腫瘍溶解性ウイルス(OV)のみ、経動脈塞栓術(TAE)のみ、および経動脈ウイルス塞栓術(TAVE)の、3種類の処置群がある。1日目および処置直前、処置後30分、4時間、1日、7日、14日、28日および56日に採血する。
【0136】
【表8】
【0137】
採取した血液試料について、全血球算定(CBC)および生化学アッセイを行う(表9)。血液試料中のウイルス粒子を、定量PCR(Q−PCR)によって定量する。300μLの血漿を用いて、塞栓術の施術前および処置後28日に抗体測定を行う。CTスキャンを用いて、塞栓術療法の術前術後における腫瘍の大きさを測定する。試験中、表10に従って動物の観察を行う。
【0138】
【表9】
【0139】
【表10】
【0140】
〔実施例5:vvDD-CDSRウイルスおよびゼルフォームを用いた経カテーテル動脈ウイルス塞栓術〕
vvDD-CDSR腫瘍溶解性ワクシニアウイルスを用いた経カテーテル塞栓術療法におけるゼルフォームの影響を、ウサギVX2肝臓腫瘍モデルにおいて評価する。
【0141】
<方法>
[動物の準備]
それぞれ体重が2.5〜3kgの、4匹の健康なニュージーランド白ウサギ(Biogenomics, Seoul, Korea; Samtako, Oh San, South Korea)をこの研究では用いる。
【0142】
キャリアウサギの後肢に継続的に移植することによって、VX2腫瘍系統を維持する。麻酔のため、キシラジン(Rompun; Bayer Korea, Seoul, Korea)とチレタミン/ゾラゼパム(Zoletil; Virbac, Carros, France)との2:3混合物を2.5〜3mL、後太腿に筋肉注射する。腹部を正中切開して、細かく刻んだVX2腫瘍(2〜3mm)0.1mLを、肝内側左葉の被膜下実質に移植する。腫瘍移植から14日後、腫瘍が直径15〜30mmとなった時点で、動物を実験に使用する。
【0143】
vvDD-CDSR塞栓術療法の1日前、動物を腹臥位または側臥位にして、コンピュータ断層撮影(CT)を行う(Somatom definition AS; Siemens Medical Systems, Erlangen, Germany)。非造影CTを行い、肝臓全体を網羅する(コリメーション:1.5mm、ピッチ:1.5、再構築間隔:1mm)。造影CTのために、耳介静脈を介して、13mLの造影剤を0.5mL/秒の速度で注入する。ボーラストラッキング法によって、5秒間隔および16秒間隔で、肝動脈相スキャン像および門静脈相スキャン像を得る(Yoon et al., (2003) Radiology 229:126-31)。
【0144】
CTスキャンに際して、腫瘍の場所および大きさを測定する。腫瘍の体積(V)を、以下の式に従って算出する:V=L×S/2(Lは腫瘍の最長径であり、Sは腫瘍の最短径である)(Okada et al., (1995) Br J Cancer 71:518-524; Watanabe et al., (1994) Oncology 52:76-81.31)。
【0145】
[vvDD-CDSR経カテーテル動脈ウイルス塞栓術]
肝臓にVX2腫瘍を移植してから2週間後に、蛍光透視ガイド下で塞栓術療法を施す。通例に則り、血管造影は経耳法で行い、詳細な方法は以下の通りである(Chang et al., (2011) J Vasc Interv Radiol 22:1181-1187)。右左の中央耳介動脈にカニューレ挿入し、肝動脈血管造影を行うためにどちら側が好ましいかを決定する。
【0146】
麻酔のため、キシラジンとチレタミン/ゾラゼパムとの2:3混合物1.5mLを、後太腿に筋肉注射する。麻酔の後、ウサギを背臥位にして、蛍光透視台に載せる。耳介を介して動脈に達するための剃毛は、不要である。穿刺部位の短い毛を、電気バリカンで剃毛する。ウサギの両耳を殺菌用アルコールで消毒する。ウサギの片耳の皮膚を貫通させて中央耳介動脈を穿刺し、18ゲージアンジオカス(Angiocath)の針を逆行方向に挿入する。アンジオカス(Angiocath)の針のプラスチックシースを前進させた後、内部の細い針を取り除き、三方コックのキャップでプラスチックシースのハブを塞ぐ。絆創膏を貼付して、上記プラスチックシースを固定する。
【0147】
プラスチックシースのハブに改良型回転キャップを取り付けた後、画像下治療技師が、2.0Fマイクロカテーテル(Progreat, Terumo, Tokyo, Japan)および0.016インチガイドワイヤ(Meister, Asahi intec, Aichi, Co, Ltd, Japan)を中央耳介動脈に導入する。約1mLの造影剤を注入し、頭蓋外頸動脈から胸部大動脈へのロードマップを得る。下行胸大動脈内で上記ガイドワイヤを注意深く前進させ、その後、上記ガイドワイヤを操作することにより、適当な肝動脈を選択する。上記適当な肝動脈にマイクロカテーテルの先端を設置した後、造影剤を手動で注入して肝動脈を造影する。
【0148】
1×10PFUのvvDD-CDSR(Ottawa Hospital Research Institute;OHRI)および150μm〜350μmのゼルフォーム粒子(Caligel, Alicon, China)の混合物を調製する。バイアル1本分のゼルフォームを、10mLの生理食塩水に20mLのシリンジを用いて溶解させ、上記シリンジの末端を三方コックの一端に挿入する。10mLの造影媒体を別の10mLシリンジに調製し、三方コックの他端に挿入する。プランジャーを押し込むことにより、ゼルフォームおよび食塩水の混合物と、造影媒体とを緩やかに混合する。ゼルフォーム−食塩水−造影媒体混合物 0.3mLを1mLシリンジで採取し、さらに1ccのウイルスを混合する。腫瘍を栄養する血管が閉塞するまで、塞栓術を施す。マイクロカテーテルでVX2腫瘍を選択した後、調製したウイルスおよびゼルフォーム粒子の混合物0.4mLを用いて塞栓術を施す。対照動物には、Trisバッファ、ウイルスまたはゼルフォームのみを用いて塞栓術を施す。マイクロカテーテルおよびプラスチックシースを中央耳介動脈から取り除いた後、上記穿刺部位を手で圧迫する。4つの処置群の組成および投与計画を表11にまとめる。
【0149】
【表11】
【0150】
<動物の観察>
表12に基づいて、生存、腫瘍の大きさ、体重および外観について、動物を観察する。塞栓術の直前(0日目)および7日目にCTスキャンを行う。−1日目、3日目および9日目に採血する。9日目(腫瘍移植から32日後)に動物を致死させ、分析のために組織を回収する。
【0151】
【表12】
【0152】
[組織イメージング]
処置動物および対照動物から回収した肝組織を、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色し、腫瘍を可視化する。以下のパラメータの下、128セクションCTユニット(Somatom Definition AS Plus; Siemens Healthcare)を用いてCTスキャンを行う。管電圧:120kVp、実効管電流:90mA、視野:146mm、再構築厚さ:2mm(2mm間隔)。ベースライン、および血清処置開始から23日後に、CTスキャンを行う。CTプロトコルには以下が含まれている:(i)造影剤を用いない像の取得、ならびに(ii)耳の静脈を介して、2mL/秒で非イオン性ヨード造影剤8〜9mLを静脈内ボーラス注入した(イオヘキソール(Omnipaque; GE Healthcare AS)1mL当たり300mgのヨウ素、2mL/kg、2.4〜2.7gのヨウ素)後の、一連の動脈相像、静脈相像および遅延位相像の順次取得。下行大動脈を100ハンスフィールド単位で造影してから10秒後、ボーラストラッキング法で測定しながら動脈相像を得る。動脈相が終了してから10秒後に静脈相像を得て、静脈相が終了してから70秒後に遅延型相像を得る。組織試料を得るため、COを吸入させることによりVX2移植ウサギを安楽死させる。続いて、腹部を外科的に切開して、肝組織全体を取り出す。当該組織を、10%ホルマリン溶液で2日間処理する。VX2塊を横断するように、肝臓全体を注意深く切断した後、組織をパラフィンに包埋する。通常通りH&E染色した後、100〜200倍の光学顕微鏡下で組織観察を行う。
【0153】
〔実施例6:SJ-102ウイルスおよびゼルフォームを用いた経カテーテル動脈ウイルス塞栓術〕
SJ-102腫瘍溶解性ワクシニアウイルスを用いた経カテーテル塞栓術療法におけるゼルフォームの影響を、ウサギVX2肝臓腫瘍モデルにおいて評価する。
【0154】
<方法>
[動物の準備]
それぞれ体重が2.5〜3kgの、4匹の健康なニュージーランド白ウサギ(Biogenomics, Seoul, Korea; Samtako, Oh San, South Korea)をこの研究では用いる。
【0155】
キャリアウサギの後肢に継続的に移植することによって、VX2腫瘍系統を維持する。麻酔のため、キシラジン(Rompun; Bayer Korea, Seoul, Korea)とチレタミン/ゾラゼパム(Zoletil; Virbac, Carros, France)との2:3混合物を2.5〜3mL、後太腿に筋肉注射する。腹部を正中切開して、細かく刻んだVX2腫瘍(2〜3mm)0.1mLを、肝内側左葉の被膜下実質に移植する。腫瘍移植から14日後、腫瘍が直径15〜30mmとなった時点で、動物を実験に使用する。
【0156】
SJ-102塞栓術療法の1日前、動物を腹臥位または側臥位にして、コンピュータ断層撮影(CT)を行う(Somatom definition AS; Siemens Medical Systems, Erlangen, Germany)。非造影CTを行い、肝臓全体を網羅する(コリメーション:1.5mm、ピッチ:1.5、再構築間隔:1mm)。造影CTのために、耳介静脈を介して、13mLの造影剤を0.5mL/秒の速度で注入する。ボーラストラッキング法によって、5秒間隔および16秒間隔で、肝動脈相スキャン像および門静脈相スキャン像を得る(Yoon et al., (2003) Radiology 229:126-31)。
【0157】
CTスキャンに際して、腫瘍の場所および大きさを測定する。腫瘍の体積(V)を、以下の式に従って算出する:V=L×S/2(Lは腫瘍の最長径であり、Sは腫瘍の最短径である)(Okada et al., (1995) Br J Cancer 71:518-524; Watanabe et al., (1994) Oncology 52:76-81.31)。
【0158】
[SJ-102経カテーテル動脈ウイルス塞栓術]
肝臓にVX2腫瘍を移植してから2週間後に、蛍光透視ガイド下で塞栓術療法を施す。通例に則り、血管造影は経耳法で行い、詳細な方法は以下の通りである(Chang et al., (2011) J Vasc Interv Radiol 22:1181-1187)。右左の中央耳介動脈にカニューレ挿入し、肝動脈血管造影を行うためにどちら側が好ましいかを決定する。
【0159】
麻酔のため、キシラジンとチレタミン/ゾラゼパムとの2:3混合物1.5mLを、後太腿に筋肉注射する。麻酔の後、ウサギを背臥位にして、蛍光透視台に載せる。耳介を介して動脈に達するための剃毛は、不要である。穿刺部位の短い毛を、電気バリカンで剃毛する。ウサギの両耳を殺菌用アルコールで消毒する。ウサギの片耳の皮膚を貫通させて中央耳介動脈を穿刺し、18ゲージアンジオカス(Angiocath)の針を逆行方向に挿入する。アンジオカス(Angiocath)の針のプラスチックシースを前進させた後、内部の細い針を取り除き、三方コックのキャップでプラスチックシースのハブを塞ぐ。絆創膏を貼付して、上記プラスチックシースを固定する。
【0160】
プラスチックシースのハブに改良型回転キャップを取り付けた後、画像下治療技師が、2.0Fマイクロカテーテル(Progreat, Terumo, Tokyo, Japan)および0.016インチガイドワイヤ(Meister, Asahi intec, Aichi, Co, Ltd, Japan)を中央耳介動脈に導入する。約1mLの造影剤を注入し、頭蓋外頸動脈から胸部大動脈へのロードマップを得る。下行胸大動脈内で上記ガイドワイヤを注意深く前進させ、その後、上記ガイドワイヤを操作することにより、適当な肝動脈を選択する。上記適当な肝動脈にマイクロカテーテルの先端を設置した後、造影剤を手動で注入して肝動脈を造影する。
【0161】
1×10PFUのSJ-102(Wyeth株(ATCC)から作出)および150μm〜350μmのゼルフォーム粒子(Caligel, Alicon, China)の混合物を調製する。バイアルの半量のゼルフォームを5ccの造影媒体および5ccの生理食塩水に溶解させ、この混合物を1ccのウイルスと共に混合する。腫瘍を栄養する血管が閉塞するまで、塞栓術を施す。マイクロカテーテルでVX2腫瘍を選択した後、調製したウイルスおよびゼルフォーム粒子の混合物1.5ccを用いて塞栓術を施す。対照動物には、Trisバッファ、ウイルスまたはゼルフォームのみを用いて塞栓術を施す。マイクロカテーテルおよびプラスチックシースを中央耳介動脈から取り除いた後、上記穿刺部位を手で圧迫する。4つの処置群の組成および投与計画を表13にまとめる。
【0162】
【表13】
【0163】
<動物の観察>
表14に基づいて、生存、腫瘍の大きさ、体重および外観について、動物を観察する。塞栓術の直前(0日目)および7日目にCTスキャンを行う。−1日目、3日目および9日目に採血する。9日目(腫瘍移植から32日後)に動物を致死させ、分析のために組織を回収する。
【0164】
【表14】
【0165】
[組織イメージング]
処置動物および対照動物から回収した肝組織を、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色し、腫瘍を可視化する。以下のパラメータの下、128セクションCTユニット(Somatom Definition AS Plus; Siemens Healthcare)を用いてCTスキャンを行う。管電圧:120kVp、実効管電流:90mA、視野:146mm、再構築厚さ:2mm(2mm間隔)。ベースライン、および血清処置開始から23日後に、CTスキャンを行う。CTプロトコルには以下が含まれている:(i)造影剤を用いない像の取得、ならびに(ii)耳の静脈を介して、2mL/秒で非イオン性ヨード造影剤8〜9mLを静脈内ボーラス注入した(イオヘキソール(Omnipaque; GE Healthcare AS)1mL当たり300mgのヨウ素、2mL/kg、2.4〜2.7gのヨウ素)後の、一連の動脈相像、静脈相像および遅延位相像の順次取得。下行大動脈を100ハンスフィールド単位で造影してから10秒後、ボーラストラッキング法で測定しながら動脈相像を得る。動脈相が終了してから10秒後に静脈相像を得て、静脈相が終了してから70秒後に遅延型相像を得る。組織試料を得るため、COを吸入させることによりVX2移植ウサギを安楽死させる。続いて、腹部を外科的に切開して、肝組織全体を取り出す。当該組織を、10%ホルマリン溶液で2日間処理する。VX2塊を横断するように、肝臓全体を注意深く切断した後、組織をパラフィンに包埋する。通常通りH&E染色した後、100〜200倍の光学顕微鏡下で組織観察を行う。
【0166】
〔実施例7:SJ-103ウイルスおよびゼルフォームを用いた経カテーテル動脈ウイルス塞栓術〕
SJ-103腫瘍溶解性ワクシニアウイルスを用いた経カテーテル塞栓術療法におけるゼルフォームの影響を、ウサギVX2肝臓腫瘍モデルにおいて評価する。
【0167】
<方法>
[SJ-103ウイルス]
SJ-103弱毒化ワクシニアウイルスは、Western Reserveワクシニア(ATCC VR-1354 培養組織馴化)に対して、当該ウイルスのチミジンキナーゼ(TK)遺伝子中に2つの選択マーカー遺伝子を挿入することにより設計された。そのため、TK遺伝子は不活性化されている。gpt選択遺伝子(イノシン一リン酸デヒドロゲナーゼ酵素の阻害剤に対する抵抗性を与える)は、初期/後期ウイルスプロモーターp7.5の制御下に配置した。GFP蛍光マーカー遺伝子は、合成初期/後期プロモーターの制御下に配置した。TKを分断した結果、SJ-103ウイルスは、癌細胞を選択的に標的とする。
【0168】
[動物の準備]
それぞれ体重が2.5〜3kgの、4匹の健康なニュージーランド白ウサギ(Biogenomics, Seoul, Korea; Samtako, Oh San, South Korea)をこの研究では用いる。
【0169】
キャリアウサギの後肢に継続的に移植することによって、VX2腫瘍系統を維持する。麻酔のため、キシラジン(Rompun; Bayer Korea, Seoul, Korea)とチレタミン/ゾラゼパム(Zoletil; Virbac, Carros, France)との2:3混合物を2.5〜3mL、後太腿に筋肉注射する。腹部を正中切開して、細かく刻んだVX2腫瘍(2〜3mm)0.1mLを、肝内側左葉の被膜下実質に移植する。腫瘍移植から14日後、腫瘍が直径15〜30mmとなった時点で、動物を実験に使用する。
【0170】
SJ-103塞栓術療法の1日前、動物を腹臥位または側臥位にして、コンピュータ断層撮影(CT)を行う(Somatom definition AS; Siemens Medical Systems, Erlangen, Germany)。非造影CTを行い、肝臓全体を網羅する(コリメーション:1.5mm、ピッチ:1.5、再構築間隔:1mm)。造影CTのために、耳介静脈を介して、13mLの造影剤を0.5mL/秒の速度で注入する。ボーラストラッキング法によって、5秒間隔および16秒間隔で、肝動脈相スキャン像および門静脈相スキャン像を得る(Yoon et al., (2003) Radiology 229:126-31)。
【0171】
CTスキャンに際して、腫瘍の場所および大きさを測定する。腫瘍の体積(V)を、以下の式に従って算出する:V=L×S/2(Lは腫瘍の最長径であり、Sは腫瘍の最短径である)(Okada et al., (1995) Br J Cancer 71:518-524; Watanabe et al., (1994) Oncology 52:76-81.31)。
【0172】
[SJ-103経カテーテル動脈ウイルス塞栓術]
肝臓にVX2腫瘍を移植してから2週間後に、蛍光透視ガイド下で塞栓術療法を施す。通例に則り、血管造影は経耳法で行い、詳細な方法は以下の通りである(Chang et al., (2011) J Vasc Interv Radiol 22:1181-1187)。右左の中央耳介動脈にカニューレ挿入し、肝動脈血管造影を行うためにどちら側が好ましいかを決定する。
【0173】
麻酔のため、キシラジンとチレタミン/ゾラゼパムとの2:3混合物1.5mLを、後太腿に筋肉注射する。麻酔の後、ウサギを背臥位にして、蛍光透視台に載せる。耳介を介して動脈に達するための剃毛は、不要である。穿刺部位の短い毛を、電気バリカンで剃毛する。ウサギの両耳を殺菌用アルコールで消毒する。ウサギの片耳の皮膚を貫通させて中央耳介動脈を穿刺し、18ゲージアンジオカス(Angiocath)の針を逆行方向に挿入する。アンジオカス(Angiocath)の針のプラスチックシースを前進させた後、内部の細い針を取り除き、三方コックのキャップでプラスチックシースのハブを塞ぐ。絆創膏を貼付して、上記プラスチックシースを固定する。
【0174】
プラスチックシースのハブに改良型回転キャップを取り付けた後、画像下治療技師が、2.0Fマイクロカテーテル(Progreat, Terumo, Tokyo, Japan)および0.016インチガイドワイヤ(Meister, Asahi intec, Aichi, Co, Ltd, Japan)を中央耳介動脈に導入する。約1mLの造影剤を注入し、頭蓋外頸動脈から胸部大動脈へのロードマップを得る。下行胸大動脈内で上記ガイドワイヤを注意深く前進させ、その後、上記ガイドワイヤを操作することにより、適当な肝動脈を選択する。上記適当な肝動脈にマイクロカテーテルの先端を設置した後、造影剤を手動で注入して肝動脈を造影する。
【0175】
1×10PFUのSJ-103(WR株(ATCC)から作出)および150μm〜350μmのゼルフォーム粒子(Caligel, Alicon, China)の混合物を調製する。バイアルの半量のゼルフォームを5ccの造影媒体および5ccの生理食塩水に溶解させ、この混合物を1ccのウイルスと共に混合する。腫瘍を栄養する血管が閉塞するまで、塞栓術を施す。マイクロカテーテルでVX2腫瘍を選択した後、調製したウイルスおよびゼルフォーム粒子の混合物1.5ccを用いて塞栓術を施す。対照動物には、Trisバッファ、ウイルスまたはゼルフォームのみを用いて塞栓術を施す。マイクロカテーテルおよびプラスチックシースを中央耳介動脈から取り除いた後、上記穿刺部位を手で圧迫する。4つの処置群の組成および投与計画を表15にまとめる。
【0176】
【表15】
【0177】
<動物の観察>
表16に基づいて、生存、腫瘍の大きさ、体重および外観について、動物を観察する。塞栓術の直前(0日目)および7日目にCTスキャンを行う。−1日目、3日目および9日目に採血する。9日目(腫瘍移植から32日後)に動物を致死させ、分析のために組織を回収する。
【0178】
【表16】
【0179】
[組織イメージング]
処置動物および対照動物から回収した肝組織を、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色し、腫瘍を可視化する。以下のパラメータの下、128セクションCTユニット(Somatom Definition AS Plus; Siemens Healthcare)を用いてCTスキャンを行う。管電圧:120kVp、実効管電流:90mA、視野:146mm、再構築厚さ:2mm(2mm間隔)。ベースライン、および血清処置開始から23日後に、CTスキャンを行う。CTプロトコルには以下が含まれている:(i)造影剤を用いない像の取得、ならびに(ii)耳の静脈を介して、2mL/秒で非イオン性ヨード造影剤8〜9mLを静脈内ボーラス注入した(イオヘキソール(Omnipaque; GE Healthcare AS)1mL当たり300mgのヨウ素、2mL/kg、2.4〜2.7gのヨウ素)後の、一連の動脈相像、静脈相像および遅延位相像の順次取得。下行大動脈を100ハンスフィールド単位で造影してから10秒後、ボーラストラッキング法で測定しながら動脈相像を得る。動脈相が終了してから10秒後に静脈相像を得て、静脈相が終了してから70秒後に遅延型相像を得る。組織試料を得るため、COを吸入させることによりVX2移植ウサギを安楽死させる。続いて、腹部を外科的に切開して、肝組織全体を取り出す。当該組織を、10%ホルマリン溶液で2日間処理する。VX2塊を横断するように、肝臓全体を注意深く切断した後、組織をパラフィンに包埋する。通常通りH&E染色した後、100〜200倍の光学顕微鏡下で組織観察を行う。
【0180】
〔実施例8:WR-TK(-)ウイルスおよびゼルフォームを用いた経カテーテル動脈ウイルス塞栓術〕
WR-TK(-)腫瘍溶解性ワクシニアウイルスを用いた経カテーテル塞栓術療法におけるゼルフォームの影響を、ウサギVX2肝臓腫瘍モデルにおいて評価する。
【0181】
<方法>
[動物の準備]
それぞれ体重が2.5〜3kgの、4匹の健康なニュージーランド白ウサギ(Biogenomics, Seoul, Korea; Samtako, Oh San, South Korea)をこの研究では用いる。
【0182】
キャリアウサギの後肢に継続的に移植することによって、VX2腫瘍系統を維持する。麻酔のため、キシラジン(Rompun; Bayer Korea, Seoul, Korea)とチレタミン/ゾラゼパム(Zoletil; Virbac, Carros, France)との2:3混合物を2.5〜3mL、後太腿に筋肉注射する。腹部を正中切開して、細かく刻んだVX2腫瘍(2〜3mm)0.1mLを、肝内側左葉の被膜下実質に移植する。腫瘍移植から14日後、腫瘍が直径15〜30mmとなった時点で、動物を実験に使用する。
【0183】
WR-TK(-)塞栓術療法の1日前、動物を腹臥位または側臥位にして、コンピュータ断層撮影(CT)を行う(Somatom definition AS; Siemens Medical Systems, Erlangen, Germany)。非造影CTを行い、肝臓全体を網羅する(コリメーション:1.5mm、ピッチ:1.5、再構築間隔:1mm)。造影CTのために、耳介静脈を介して、13mLの造影剤を0.5mL/秒の速度で注入する。ボーラストラッキング法によって、5秒間隔および16秒間隔で、肝動脈相スキャン像および門静脈相スキャン像を得る(Yoon et al., (2003) Radiology 229:126-31)。
【0184】
CTスキャンに際して、腫瘍の場所および大きさを測定する。腫瘍の体積(V)を、以下の式に従って算出する:V=L×S/2(Lは腫瘍の最長径であり、Sは腫瘍の最短径である)(Okada et al., (1995) Br J Cancer 71:518-524; Watanabe et al., (1994) Oncology 52:76-81.31)。
【0185】
[WR-TK(-)経カテーテル動脈ウイルス塞栓術]
肝臓にVX2腫瘍を移植してから2週間後に、蛍光透視ガイド下で塞栓術療法を施す。通例に則り、血管造影は経耳法で行い、詳細な方法は以下の通りである(Chang et al., (2011) J Vasc Interv Radiol 22:1181-1187)。右左の中央耳介動脈にカニューレ挿入し、肝動脈血管造影を行うためにどちら側が好ましいかを決定する。
【0186】
麻酔のため、キシラジンとチレタミン/ゾラゼパムとの2:3混合物1.5mLを、後太腿に筋肉注射する。麻酔の後、ウサギを背臥位にして、蛍光透視台に載せる。耳介を介して動脈に達するための剃毛は、不要である。穿刺部位の短い毛を、電気バリカンで剃毛する。ウサギの両耳を殺菌用アルコールで消毒する。ウサギの片耳の皮膚を貫通させて中央耳介動脈を穿刺し、18ゲージアンジオカス(Angiocath)の針を逆行方向に挿入する。アンジオカス(Angiocath)の針のプラスチックシースを前進させた後、内部の細い針を取り除き、三方コックのキャップでプラスチックシースのハブを塞ぐ。絆創膏を貼付して、上記プラスチックシースを固定する。
【0187】
プラスチックシースのハブに改良型回転キャップを取り付けた後、画像下治療技師が、2.0Fマイクロカテーテル(Progreat, Terumo, Tokyo, Japan)および0.016インチガイドワイヤ(Meister, Asahi intec, Aichi, Co, Ltd, Japan)を中央耳介動脈に導入する。約1mLの造影剤を注入し、頭蓋外頸動脈から胸部大動脈へのロードマップを得る。下行胸大動脈内で上記ガイドワイヤを注意深く前進させ、その後、上記ガイドワイヤを操作することにより、適当な肝動脈を選択する。上記適当な肝動脈にマイクロカテーテルの先端を設置した後、造影剤を手動で注入して肝動脈を造影する。
【0188】
1×10PFUのWR-TK(-)および150μm〜350μmのゼルフォーム粒子(Caligel, Alicon, China)の混合物を調製する。バイアルの半量のゼルフォームを5ccの造影媒体および5ccの生理食塩水に溶解させ、この混合物を1ccのウイルスと共に混合する。腫瘍を栄養する血管が閉塞するまで、塞栓術を施す。マイクロカテーテルでVX2腫瘍を選択した後、調製したウイルスおよびゼルフォーム粒子の混合物1.5ccを用いて塞栓術を施す。対照動物には、Trisバッファ、ウイルスまたはゼルフォームのみを用いて塞栓術を施す。マイクロカテーテルおよびプラスチックシースを中央耳介動脈から取り除いた後、上記穿刺部位を手で圧迫する。4つの処置群の組成および投与計画を表17にまとめる。
【0189】
【表17】
【0190】
<動物の観察>
表18に基づいて、生存、腫瘍の大きさ、体重および外観について、動物を観察する。塞栓術の直前(0日目)および7日目にCTスキャンを行う。−1日目、3日目および9日目に採血する。9日目(腫瘍移植から32日後)に動物を致死させ、分析のために組織を回収する。
【0191】
【表18】
【0192】
[組織イメージング]
処置動物および対照動物から回収した肝組織を、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色し、腫瘍を可視化する。以下のパラメータの下、128セクションCTユニット(Somatom Definition AS Plus; Siemens Healthcare)を用いてCTスキャンを行う。管電圧:120kVp、実効管電流:90mA、視野:146mm、再構築厚さ:2mm(2mm間隔)。ベースライン、および血清処置開始から23日後に、CTスキャンを行う。CTプロトコルには以下が含まれている:(i)造影剤を用いない像の取得、ならびに(ii)耳の静脈を介して、2mL/秒で非イオン性ヨード造影剤8〜9mLを静脈内ボーラス注入した(イオヘキソール(Omnipaque; GE Healthcare AS)1mL当たり300mgのヨウ素、2mL/kg、2.4〜2.7gのヨウ素)後の、一連の動脈相像、静脈相像および遅延位相像の順次取得。下行大動脈を100ハンスフィールド単位で造影してから10秒後、ボーラストラッキング法で測定しながら動脈相像を得る。動脈相が終了してから10秒後に静脈相像を得て、静脈相が終了してから70秒後に遅延型相像を得る。組織試料を得るため、COを吸入させることによりVX2移植ウサギを安楽死させる。続いて、腹部を外科的に切開して、肝組織全体を取り出す。当該組織を、10%ホルマリン溶液で2日間処理する。VX2塊を横断するように、肝臓全体を注意深く切断した後、組織をパラフィンに包埋する。通常通りH&E染色した後、100〜200倍の光学顕微鏡下で組織観察を行う。
【0193】
〔実施例9:vvDDウイルスおよびゼルフォームを用いた経カテーテル動脈ウイルス塞栓術〕
vvDD腫瘍溶解性ワクシニアウイルスを用いた経カテーテル塞栓術療法におけるゼルフォームの影響を、ウサギVX2肝臓腫瘍モデルにおいて評価する。
【0194】
<方法>
[動物の準備]
それぞれ体重が2.5〜3kgの、4匹の健康なニュージーランド白ウサギ(Biogenomics, Seoul, Korea; Samtako, Oh San, South Korea)をこの研究では用いる。
【0195】
キャリアウサギの後肢に継続的に移植することによって、VX2腫瘍系統を維持する。麻酔のため、キシラジン(Rompun; Bayer Korea, Seoul, Korea)とチレタミン/ゾラゼパム(Zoletil; Virbac, Carros, France)との2:3混合物を2.5〜3mL、後太腿に筋肉注射する。腹部を正中切開して、細かく刻んだVX2腫瘍(2〜3mm)0.1mLを、肝内側左葉の被膜下実質に移植する。腫瘍移植から14日後、腫瘍が直径15〜30mmとなった時点で、動物を実験に使用する。
【0196】
vvDD塞栓術療法の1日前、動物を腹臥位または側臥位にして、コンピュータ断層撮影(CT)を行う(Somatom definition AS; Siemens Medical Systems, Erlangen, Germany)。非造影CTを行い、肝臓全体を網羅する(コリメーション:1.5mm、ピッチ:1.5、再構築間隔:1mm)。造影CTのために、耳介静脈を介して、13mLの造影剤を0.5mL/秒の速度で注入する。ボーラストラッキング法によって、5秒間隔および16秒間隔で、肝動脈相スキャン像および門静脈相スキャン像を得る(Yoon et al., (2003) Radiology 229:126-31)。
【0197】
CTスキャンに際して、腫瘍の場所および大きさを測定する。腫瘍の体積(V)を、以下の式に従って算出する:V=L×S/2(Lは腫瘍の最長径であり、Sは腫瘍の最短径である)(Okada et al., (1995) Br J Cancer 71:518-524; Watanabe et al., (1994) Oncology 52:76-81.31)。
【0198】
[vvDD経カテーテル動脈ウイルス塞栓術]
肝臓にVX2腫瘍を移植してから2週間後に、蛍光透視ガイド下で塞栓術療法を施す。通例に則り、血管造影は経耳法で行い、詳細な方法は以下の通りである(Chang et al., (2011) J Vasc Interv Radiol 22:1181-1187)。右左の中央耳介動脈にカニューレ挿入し、肝動脈血管造影を行うためにどちら側が好ましいかを決定する。
【0199】
麻酔のため、キシラジンとチレタミン/ゾラゼパムとの2:3混合物1.5mLを、後太腿に筋肉注射する。麻酔の後、ウサギを背臥位にして、蛍光透視台に載せる。耳介を介して動脈に達するための剃毛は、不要である。穿刺部位の短い毛を、電気バリカンで剃毛する。ウサギの両耳を殺菌用アルコールで消毒する。ウサギの片耳の皮膚を貫通させて中央耳介動脈を穿刺し、18ゲージアンジオカス(Angiocath)の針を逆行方向に挿入する。アンジオカス(Angiocath)の針のプラスチックシースを前進させた後、内部の細い針を取り除き、三方コックのキャップでプラスチックシースのハブを塞ぐ。絆創膏を貼付して、上記プラスチックシースを固定する。
【0200】
プラスチックシースのハブに改良型回転キャップを取り付けた後、画像下治療技師が、2.0Fマイクロカテーテル(Progreat, Terumo, Tokyo, Japan)および0.016インチガイドワイヤ(Meister, Asahi intec, Aichi, Co, Ltd, Japan)を中央耳介動脈に導入する。約1mLの造影剤を注入し、頭蓋外頸動脈から胸部大動脈へのロードマップを得る。下行胸大動脈内で上記ガイドワイヤを注意深く前進させ、その後、上記ガイドワイヤを操作することにより、適当な肝動脈を選択する。上記適当な肝動脈にマイクロカテーテルの先端を設置した後、造影剤を手動で注入して肝動脈を造影する。
【0201】
1×10PFUのvvDD(OHRI)および150μm〜350μmのゼルフォーム粒子(Caligel, Alicon, China)の混合物を調製する。バイアルの半量のゼルフォームを5ccの造影媒体および5ccの生理食塩水に溶解させ、この混合物を1ccのウイルスと共に混合する。腫瘍を栄養する血管が閉塞するまで、塞栓術を施す。マイクロカテーテルでVX2腫瘍を選択した後、調製したウイルスおよびゼルフォーム粒子の混合物1.5ccを用いて塞栓術を施す。対照動物には、Trisバッファ、ウイルスまたはゼルフォームのみを用いて塞栓術を施す。マイクロカテーテルおよびプラスチックシースを中央耳介動脈から取り除いた後、上記穿刺部位を手で圧迫する。4つの処置群の組成および投与計画を表19にまとめる。
【0202】
【表19】
【0203】
<動物の観察>
表20に基づいて、生存、腫瘍の大きさ、体重および外観について、動物を観察する。塞栓術の直前(0日目)および7日目にCTスキャンを行う。−1日目、3日目および9日目に採血する。9日目(腫瘍移植から32日後)に動物を致死させ、分析のために組織を回収する。
【0204】
【表20】
【0205】
[組織イメージング]
処置動物および対照動物から回収した肝組織を、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色し、腫瘍を可視化する。以下のパラメータの下、128セクションCTユニット(Somatom Definition AS Plus; Siemens Healthcare)を用いてCTスキャンを行う。管電圧:120kVp、実効管電流:90mA、視野:146mm、再構築厚さ:2mm(2mm間隔)。ベースライン、および血清処置開始から23日後に、CTスキャンを行う。CTプロトコルには以下が含まれている:(i)造影剤を用いない像の取得、ならびに(ii)耳の静脈を介して、2mL/秒で非イオン性ヨード造影剤8〜9mLを静脈内ボーラス注入した(イオヘキソール(Omnipaque; GE Healthcare AS)1mL当たり300mgのヨウ素、2mL/kg、2.4〜2.7gのヨウ素)後の、一連の動脈相像、静脈相像および遅延位相像の順次取得。下行大動脈を100ハンスフィールド単位で造影してから10秒後、ボーラストラッキング法で測定しながら動脈相像を得る。動脈相が終了してから10秒後に静脈相像を得て、静脈相が終了してから70秒後に遅延型相像を得る。組織試料を得るため、COを吸入させることによりVX2移植ウサギを安楽死させる。続いて、腹部を外科的に切開して、肝組織全体を取り出す。当該組織を、10%ホルマリン溶液で2日間処理する。VX2塊を横断するように、肝臓全体を注意深く切断した後、組織をパラフィンに包埋する。通常通りH&E染色した後、100〜200倍の光学顕微鏡下で組織観察を行う。
【0206】
〔実施例10:HSV−1およびゼルフォームを用いた経カテーテル動脈ウイルス塞栓術〕
HSV−1を用いた経カテーテル塞栓術療法におけるゼルフォームの影響を、ウサギVX2肝臓腫瘍モデルにおいて評価する。
【0207】
<方法>
[動物の準備]
それぞれ体重が2.5〜3kgの、4匹の健康なニュージーランド白ウサギ(Biogenomics, Seoul, Korea; Samtako, Oh San, South Korea)をこの研究では用いる。
【0208】
キャリアウサギの後肢に継続的に移植することによって、VX2腫瘍系統を維持する。麻酔のため、キシラジン(Rompun; Bayer Korea, Seoul, Korea)とチレタミン/ゾラゼパム(Zoletil; Virbac, Carros, France)との2:3混合物を2.5〜3mL、後太腿に筋肉注射する。腹部を正中切開して、細かく刻んだVX2腫瘍(2〜3mm)0.1mLを、肝内側左葉の被膜下実質に移植する。腫瘍移植から14日後、腫瘍が直径15〜30mmとなった時点で、動物を実験に使用する。
【0209】
HSV−1塞栓術療法の1日前、動物を腹臥位または側臥位にして、コンピュータ断層撮影(CT)を行う(Somatom definition AS; Siemens Medical Systems, Erlangen, Germany)。非造影CTを行い、肝臓全体を網羅する(コリメーション:1.5mm、ピッチ:1.5、再構築間隔:1mm)。造影CTのために、耳介静脈を介して、13mLの造影剤を0.5mL/秒の速度で注入する。ボーラストラッキング法によって、5秒間隔および16秒間隔で、肝動脈相スキャン像および門静脈相スキャン像を得る(Yoon et al., (2003) Radiology 229:126-31)。
【0210】
CTスキャンに際して、腫瘍の場所および大きさを測定する。腫瘍の体積(V)を、以下の式に従って算出する:V=L×S/2(Lは腫瘍の最長径であり、Sは腫瘍の最短径である)(Okada et al., (1995) Br J Cancer 71:518-524; Watanabe et al., (1994) Oncology 52:76-81.31)。
【0211】
[HSV−1経カテーテル動脈ウイルス塞栓術]
肝臓にVX2腫瘍を移植してから2週間後に、蛍光透視ガイド下で塞栓術療法を施す。通例に則り、血管造影は経耳法で行い、詳細な方法は以下の通りである(Chang et al., (2011) J Vasc Interv Radiol 22:1181-1187)。右左の中央耳介動脈にカニューレ挿入し、肝動脈血管造影を行うためにどちら側が好ましいかを決定する。
【0212】
麻酔のため、キシラジンとチレタミン/ゾラゼパムとの2:3混合物1.5mLを、後太腿に筋肉注射する。麻酔の後、ウサギを背臥位にして、蛍光透視台に載せる。耳介を介して動脈に達するための剃毛は、不要である。穿刺部位の短い毛を、電気バリカンで剃毛する。ウサギの両耳を殺菌用アルコールで消毒する。ウサギの片耳の皮膚を貫通させて中央耳介動脈を穿刺し、18ゲージアンジオカス(Angiocath)の針を逆行方向に挿入する。アンジオカス(Angiocath)の針のプラスチックシースを前進させた後、内部の細い針を取り除き、三方コックのキャップでプラスチックシースのハブを塞ぐ。絆創膏を貼付して、上記プラスチックシースを固定する。
【0213】
プラスチックシースのハブに改良型回転キャップを取り付けた後、画像下治療技師が、2.0Fマイクロカテーテル(Progreat, Terumo, Tokyo, Japan)および0.016インチガイドワイヤ(Meister, Asahi intec, Aichi, Co, Ltd, Japan)を中央耳介動脈に導入する。約1mLの造影剤を注入し、頭蓋外頸動脈から胸部大動脈へのロードマップを得る。下行胸大動脈内で上記ガイドワイヤを注意深く前進させ、その後、上記ガイドワイヤを操作することにより、適当な肝動脈を選択する。上記適当な肝動脈にマイクロカテーテルの先端を設置した後、造影剤を手動で注入して肝動脈を造影する。
【0214】
1×10PFUのHSV−1および150μm〜350μmのゼルフォーム粒子(Caligel, Alicon, China)の混合物を調製する。バイアルの半量のゼルフォームを5ccの造影媒体および5ccの生理食塩水に溶解させ、この混合物を1ccのウイルスと共に混合する。腫瘍を栄養する血管が閉塞するまで、塞栓術を施す。マイクロカテーテルでVX2腫瘍を選択した後、調製したウイルスおよびゼルフォーム粒子の混合物1.5ccを用いて塞栓術を施す。対照動物には、Trisバッファ、ウイルスまたはゼルフォームのみを用いて塞栓術を施す。マイクロカテーテルおよびプラスチックシースを中央耳介動脈から取り除いた後、上記穿刺部位を手で圧迫する。4つの処置群の組成および投与計画を表21にまとめる。
【0215】
【表21】
【0216】
<動物の観察>
表26に基づいて、生存、腫瘍の大きさ、体重および外観について、動物を観察する。塞栓術の直前(0日目)および7日目にCTスキャンを行う。−1日目、3日目および9日目に採血する。9日目(腫瘍移植から32日後)に動物を致死させ、分析のために組織を回収する。
【0217】
【表22】
【0218】
[組織イメージング]
処置動物および対照動物から回収した肝組織を、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色し、腫瘍を可視化する。以下のパラメータの下、128セクションCTユニット(Somatom Definition AS Plus; Siemens Healthcare)を用いてCTスキャンを行う。管電圧:120kVp、実効管電流:90mA、視野:146mm、再構築厚さ:2mm(2mm間隔)。ベースライン、および血清処置開始から23日後に、CTスキャンを行う。CTプロトコルには以下が含まれている:(i)造影剤を用いない像の取得、ならびに(ii)耳の静脈を介して、2mL/秒で非イオン性ヨード造影剤8〜9mLを静脈内ボーラス注入した(イオヘキソール(Omnipaque; GE Healthcare AS)1mL当たり300mgのヨウ素、2mL/kg、2.4〜2.7gのヨウ素)後の、一連の動脈相像、静脈相像および遅延位相像の順次取得。下行大動脈を100ハンスフィールド単位で造影してから10秒後、ボーラストラッキング法で測定しながら動脈相像を得る。動脈相が終了してから10秒後に静脈相像を得て、静脈相が終了してから70秒後に遅延型相像を得る。組織試料を得るため、COを吸入させることによりVX2移植ウサギを安楽死させる。続いて、腹部を外科的に切開して、肝組織全体を取り出す。当該組織を、10%ホルマリン溶液で2日間処理する。VX2塊を横断するように、肝臓全体を注意深く切断した後、組織をパラフィンに包埋する。通常通りH&E染色した後、100〜200倍の光学顕微鏡下で組織観察を行う。この実施例が実証する所によると、腫瘍溶解性HSV−1ウイルス(特に限定されないが、ICP34.5遺伝子およびICP47遺伝子を不活性化し、ヒトGM−CSF遺伝子を導入することによって改変された、HIV−1のJS-1株など)は、本願の塞栓術を施す方法による肝臓癌の処置に利用しうる(例えば、肝臓に転移した黒色腫など)。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]