特許第6827592号(P6827592)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6827592
(24)【登録日】2021年1月21日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】うどんこ病の防除方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/00 20060101AFI20210128BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20210128BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20210128BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20210128BHJP
【FI】
   A01N59/00 Z
   A01G7/00 604Z
   A01N25/02
   A01P3/00
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2020-522247(P2020-522247)
(86)(22)【出願日】2019年5月29日
(86)【国際出願番号】JP2019021266
(87)【国際公開番号】WO2019230789
(87)【国際公開日】20191205
【審査請求日】2020年11月17日
(31)【優先権主張番号】特願2018-103059(P2018-103059)
(32)【優先日】2018年5月30日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518189998
【氏名又は名称】株式会社アクアソリューション
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕之
【審査官】 松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−073988(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/179673(WO,A1)
【文献】 特開平8−175921(JP,A)
【文献】 特開2010−094117(JP,A)
【文献】 特開2018−075240(JP,A)
【文献】 特開2016−053004(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 59/00
A01G 7/00
A01N 25/02
A01P 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノバブル水を植物体に施用する、うどんこ病の防除方法であって、
前記ナノバブル水が、1×10〜1×1010個/mLの気泡を有する、うどんこ病の防除方法
【請求項2】
前記ナノバブル水を用いた散水、および、前記ナノバブル水を用いて希釈した農薬の散布のうち、少なくとも一方を実施する、請求項1に記載のうどんこ病の防除方法。
【請求項3】
前記ナノバブル水に含まれる気泡の最頻粒子径が10〜500nmである、請求項1または2に記載のうどんこ病の防除方法。
【請求項4】
前記ナノバブル水に含まれる気泡が、酸素、窒素、二酸化炭素およびオゾンからなる群から選択される少なくとも1種の気体を含む、請求項1〜3のいずれかに記載のうどんこ病の防除方法。
【請求項5】
前記植物体が、果菜類である、請求項1〜のいずれかに記載のうどんこ病の防除方法。
【請求項6】
前記植物体が、ナス科植物またはバラ科植物である、請求項に記載のうどんこ病の防除方法。
【請求項7】
前記植物体が、ピーマンまたはバラである、請求項に記載のうどんこ病の防除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、うどんこ病の防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
うどんこ病は、ウドンコカビ科に属する子嚢菌による植物病害の総称であり、うどんこ病に発症すると、葉または茎がうどん粉を振りかけたように白くなることが知られている。
また、うどんこ病の防除には、従来、アゾール系殺菌剤などが用いられている。
しかしながら、これらの殺菌剤には、人および植物体への安全性の問題に加え、病原菌の薬剤抵抗性の出現という大きな問題がある。
【0003】
このような問題に対して、特許文献1には、「ユーカリ葉抽出エキス及び水溶性キトサンをうどんこ病感染防止用乃至発病防止用の有効成分として含有する水溶液からなるうどんこ病防除用液体組成物」が提案されている([請求項1])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−019011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、特許文献1に記載されたうどんこ病防除用液体組成物について検討したところ、水溶液に含まれるユーカリ葉抽出エキスおよび水溶性キトサンの濃度を適正に管理する必要があることを明らかとした。
【0006】
そこで、本発明は、簡便な操作によって高い防除効果を達成することができるうどんこ病の防除方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、植物体にナノバブル水を施用することにより、うどんこ病に対する高い防除効果が得られることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明者は、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0008】
[1] ナノバブル水を植物体に施用する、うどんこ病の防除方法。
[2] 上記ナノバブル水を用いた散水、および、上記ナノバブル水を用いて希釈した農薬の散布のうち、少なくとも一方を実施する、[1]に記載のうどんこ病の防除方法。
[3] 上記ナノバブル水に含まれる気泡の最頻粒子径が10〜500nmである、[1]または[2]に記載のうどんこ病の防除方法。
[4] 上記ナノバブル水に含まれる気泡が、酸素、窒素、二酸化炭素およびオゾンからなる群から選択される少なくとも1種の気体を含む、[1]〜[3]のいずれかに記載のうどんこ病の防除方法。
[5] 上記ナノバブル水が、1×10〜1×1010個/mLの気泡を有する、[1]〜[4]のいずれかに記載のうどんこ病の防除方法。
[6] 上記植物体が、果菜類である、[1]〜[5]のいずれかに記載のうどんこ病の防除方法。
[7] 上記植物体が、ナス科植物またはバラ科植物である、[6]に記載のうどんこ病の防除方法。
[8] 上記植物体が、ピーマンまたはバラである、[7]に記載のうどんこ病の防除方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡便な操作によって高い防除効果を達成することができるうどんこ病の防除方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ナノバブル生成装置の一例を示す模式図である。
図2A】試験区1−1における1株のピーマンの全体を表す画像である。
図2B】試験区1−1における1株のピーマンにおける葉の画像である。
図3】試験区1−2における1株のピーマンにおける葉の画像である。
図4A】試験2において、うどんこ病が軽度に発症している例を示す、バラの葉の画像である。
図4B】試験2において、うどんこ病が軽度に発症している例を示す、バラの葉の画像である。
図5A】試験2において、うどんこ病が重度に発症している例を示す、バラの葉の画像である。
図5B】試験2において、うどんこ病が重度に発症している例を示す、バラの葉の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。
なお、本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
本発明のうどんこ病の防除方法(以下、「本発明の防除方法」とも略す。)は、ナノバブル水を植物体に施用する、うどんこ病の防除方法である。
ここで、「うどんこ病」とは、上述した通り、ウドンコカビ科に属する子嚢菌による植物病害の総称をいう。
うどんこ病としては、具体的には、例えば、ムギ類のうどんこ病(Blumeria graminis)、リンゴのうどんこ病(Podosphaera leucotricha)、ナシ類のうどんこ病(Phyllactinia mali)、ブドウのうどんこ病(Uncinula necator)、カキのうどんこ病(Phyllactinia kakicola)、スイカのうどんこ病(Sphaerotheca fuliginea)、キュウリのうどんこ病(Erysiphe polygoni、Sphaerotheca cucurbitae)、メロンのうどんこ病(Sphaerotheca fuliginea)、カボチャのうどんこ病(Sphaerotheca cucurbitae)、ナスのうどんこ病(Erysiphe cichoracerum、Oidiopsis sicula)、トマトのうどんこ病(Oidium lycopersici)、ピーマンのうどんこ病(Oidiopsis sicula)、イチゴのうどんこ病(Sphaerotheca aphanis)、ニンジンのうどんこ病(Erysiphe heraclei)、タバコのうどんこ病(Erysiphe cichoracearum)、バラ類のうどんこ病(Sphaerotheca pannosa)、および、ヒマワリのうどんこ病(Erysiphe cichoracearum)などが挙げられる。
【0013】
本発明においては、上述した通り、植物体にナノバブル水を施用することにより、うどんこ病に対する高い防除効果が得られる。
これは、詳細には明らかではないが、本発明者は以下のように推測している。
すなわち、後述する実施例において、うどんこ病が発症していた植物体(ピーマン)に対してナノバブル水を散水した試験区1−1において、うどんこ病の症状が改善していることを考慮すると、本発明においては、植物体にナノバブル水を施用することにより、ナノバブル水の有する洗浄もしくは界面活性作用によって植物体の茎葉に付着した病原菌を洗い流すことができ、また、土壌もしくは培地または植物体の根の周辺に存在している病原菌を死滅させることができたためと考えられる。
以下に、本発明の防除方法で用いるナノバブル水および任意の成分について詳述する。
【0014】
〔ナノバブル水〕
本発明の防除方法で用いるナノバブル水は、直径が1μm未満の気泡を含む水であって、上記気泡を混入させた水である。なお、「上記気泡を混入させた水」とは、ナノバブル水の生成に使用する水(例えば、不純物を含む井水)などに起因して不可避的に含まれる上記気泡を含む水を除外する意図である。
ここで、ナノバブル水に含まれる気泡の直径(粒子径)、ならびに、後述する気泡の最頻粒子径および気泡の個数は、水中の気泡のブラウン運動移動速度を、ナノ粒子トラッキング解析法を用いて測定した値であり、本明細書においては、ナノ粒子解析システム ナノサイトシリーズ(NanoSight社製)により測定した数値を採用する。
なお、ナノ粒子解析システム ナノサイトシリーズ(NanoSight社製)では、直径(粒子径)は、粒子のブラウン運動の速度を計測し、その速度から算出することができ、最頻粒子径は、存在するナノ粒子の粒子径分布から、モード径として確認することができる。
【0015】
本発明においては、うどんこ病の防除効果がより向上する理由から、上記ナノバブル水に含まれる気泡の最頻粒子径が10〜500nmであることが好ましく、30〜300nmであることがより好ましく、70〜130nmであることが更に好ましい。
【0016】
上記ナノバブル水に含まれる気泡を構成する気体は特に限定されないが、水中に長時間残存させる観点から、水素以外の気体が好ましく、具体的には、例えば、空気、酸素、窒素、フッ素、二酸化炭素、および、オゾンなどが挙げられる。
これらのうち、うどんこ病の防除効果がより向上する理由から、酸素、窒素、二酸化炭素およびオゾンからなる群から選択される少なくとも1種の気体を含むことが好ましく、特に、植物体の生育が良好となり、また、気泡がより長時間残存することができる理由から、酸素を含むことがより好ましい。
ここで、酸素を含むこととは、空気中の酸素濃度よりも高い濃度で含むことをいう。窒素、および、二酸化炭素も同様である。なお、酸素の濃度については、気泡中の30体積%以上であることが好ましく、50体積%超100体積%以下であることが好ましい。
【0017】
上記ナノバブル水は、うどんこ病の防除効果がより向上する理由から、1×10〜1×1010個/mLの気泡を有していることが好ましく、特に、気泡の生成時間と気泡の残存性のバランスが良好となる理由から、1×10個/mLより多く、1×1010個/mLより少ない気泡を有していることがより好ましく、5×10〜5×10個/mLの気泡を有していることが更に好ましい。
【0018】
上記ナノバブル水の生成方法としては、例えば、スタティックミキサー法、ベンチュリ法、キャビテーション法、蒸気凝集法、超音波法、旋回流法、加圧溶解法、および、微細孔法等が挙げられる。
ここで、本発明の防除方法は、上記ナノバブル水を施用する前に、上記ナノバブル水を生成させる生成工程を有していてもよい。すなわち、本発明の防除方法は、例えば、貯水タンク、井戸または農業用水などの水源から水をナノバブル生成装置に取り込み、ナノバブル水を生成させる生成工程と、生成したナノバブル水を施用する施用工程とを有する防除方法であってもよい。なお、水源からの水をナノバブル生成装置に取り込む手法としては、例えば、桶またはポンプ等を用いて水源から汲み上げた水をナノバブル生成装置に供給する手法、および、水源とナノバブル生成装置との間に敷設された流路をナノバブル生成装置に繋いで流路からナノバブル生成装置へ水を直接送り込む手法などが挙げられる。
【0019】
また、上記ナノバブル水の生成方法としては、意図的にラジカルを発生させることがない装置を用いた生成方法が好ましく、具体的には、例えば、特開2018−15715号公報の[0080]〜[0100]段落に記載されたナノバブル生成装置を用いて生成する方法が挙げられる。なお、上記の内容は本明細書に組み込まれる。
【0020】
意図的にラジカルを発生させることがない他のナノバブル生成装置としては、例えば、水を吐出する液体吐出機と、上記液体吐出機から吐出された水に、気体を加圧して混入させる気体混入機と、気体を混入させた水を内部に通すことにより、水中に微細気泡を生成する微細気泡生成器と、を有する微細気泡生成装置であって、上記気体混入機が、上記液体吐出機と上記微細気泡生成器の間において、加圧された状態で上記微細気泡生成器に向かって流れる液体に、気体を加圧して混入させることを特徴とする微細気泡生成装置が挙げられる。具体的には、図1に示すナノバブル生成装置を用いて生成する方法が挙げられる。
ここで、図1に示すナノバブル生成装置10は、その内部に液体吐出機30、気体混入機40、および、ナノバブル生成ノズル50を備える。
また、液体吐出機30は、ポンプによって構成され、ナノバブル水の原水(例えば、井戸水)を取り込んで吐出する。気体混入機40は、圧縮ガスが封入された容器41と、略筒状の気体混入機本体42とを有し、液体吐出機30から吐出された水を気体混入機本体42内に流しつつ、気体混入機本体42内に容器41内の圧縮ガスを導入する。これにより、気体混入機本体42内で気体混入水が生成されることになる。
また、ナノバブル生成ノズル50は、その内部に気体混入水が通過することにより、加圧溶解の原理に従って気体混入水中にナノバブルを発生させるものであり、その構造としては、特開2018−15715号公報に記載されたナノバブル生成ノズルと同じ構造が採用できる。ナノバブル生成ノズル50内に生成されたナノバブル水は、ナノバブル生成ノズル50の先端から噴出した後、ナノバブル生成装置10から流出し、不図示の流路内を通じて所定の利用先に向けて送水される。
以上のようにナノバブル生成装置10では、気体混入機40が、液体吐出機30とナノバブル生成ノズル50の間において、加圧された状態でナノバブル生成ノズル50に向かって流れる水(原水)に、圧縮ガスを混入させる。これにより、液体吐出機30の吸込み側(サクション側)で気体を水に混入させるときに生じるキャビテーション等の不具合を回避することができる。また、ガスが加圧(圧縮)された状態で水に混入されるので、ガス混入箇所での水の圧力に抗してガスを混入させることができる。このため、ガス混入箇所において特に負圧を発生させなくとも、ガスを適切に水に混入させることが可能となる。
さらに、液体吐出機30のサクション側に、井戸または水道等の水源から供給される水の流路が繋ぎ込まれており、その流路において液体吐出機30の上流側から液体吐出機30に流れ込む水の圧力(すなわち、サクション側の水圧)が正圧であるとよい。この場合には、上記の構成がより有意義なものとなる。すなわち、液体吐出機30の上流側の水圧(サクション圧)が正圧となる場合には、液体吐出機30の下流側でガスを水に混入させることになるため、液体吐出機30の下流側でもガスを適切に水に混入させることができるナノバブル生成装置10の構成がより際立つことになる。
【0021】
また、上記ナノバブル水の生成に使用する水は特に限定されず、例えば、雨水、水道水、井水、農業用水、および、蒸留水等を使用することができる。
このような水は、ナノバブル水の発生に供される前に他の処理を施されたものであってもよい。他の処理としては、例えば、pH調整、沈殿、ろ過、および、滅菌(殺菌)等が挙げられる。具体的には、例えば、農業用水を使用する場合、典型的には、沈殿、および、ろ過のうちの少なくとも一方を施した後の農業用水を使用してもよい。
【0022】
本発明においては、上記ナノバブル水の植物体への施用態様は、植物体の栽培方法により異なるため特に限定されないが、例えば、土耕栽培において上記ナノバブル水を散水する態様、土耕栽培において上記ナノバブル水によって希釈された農薬を散布する態様、養液栽培(水耕、噴霧耕もしくは固形培地耕)または養液土耕栽培(灌水同時施肥栽培)において上記ナノバブル水によって希釈された培養液を培地に供給する態様、および、養液土耕栽培において上記ナノバブル水をそれ単独で散水(灌水)する態様などが挙げられる。
これらのうち、より簡便な操作によって高い防除効果を達成することができる理由から、上記ナノバブル水を用いた散水、および、上記ナノバブル水を用いて希釈した農薬の散布のうち、少なくとも一方を実施する態様が好ましい。
なお、施用の一態様である「散水」の方法は特に限定されず、栽培方法が土耕栽培である場合には、例えば、植物体の全体に水を散布する方法、植物体の一部(例えば、茎または葉など)に水を散布する方法、および、植物体が植えられた土壌に水を散布する方法などが挙げられる。また、栽培方法が養液土耕栽培である場合は、上述したように、灌水による散水であってもよい。
【0023】
また、本発明においては、上記ナノバブル水の植物体への施用時期は、施用態様および植物体の種類により異なるため特に限定されないが、例えば、果菜類を土耕栽培する場合は、播種から収穫までの全期間であってもよく、一定期間(例えば、播種および育苗期)のみに施用してもよい。
【0024】
<農薬>
上記ナノバブル水を用いて希釈する農薬としては、うどんこ病の防除方法において用いられている従来公知の薬剤を用いることができる。
このような薬剤としては、具体的には、例えば、プロピコナゾール(propiconazole)、プロチオコナゾール(prothioconazole)、トリアジメノール(triadimenol)、プロクロラズ(prochloraz)、ペンコナゾール(penconazole)、テブコナゾール(tebuconazole)、フルシラゾール(flusilazole)、ジニコナゾール(diniconazole)、ブロムコナゾール(bromuconazole)、エポキシコナゾール(epoxiconazole)、ジフェノコナゾール(difenoconazole)、シプロコナゾール(cyproconazole)、メトコナゾール(metconazole)、トリフルミゾール(triflumizole)、テトラコナゾール(tetraconazole)、マイクロブタニル(microbutanil)、フェンブコナゾール(fenbuconazole)、ヘキサコナゾール(hexaconazole)、フルキンコナゾール(fluquinconazole)、トリティコナゾール(triticonazole)、ビテルタノール(bitertanol)、イマザリル(imazalil)、フルトリアホール(flutriafol)、シメコナゾール(simeconazole)、および、イプコナゾール(ipconazole)などのアゾール系殺菌剤が挙げられる。
【0025】
本発明においては、農薬を使用する場合の使用量は、人および植物体への安全性などの観点から、上記ナノバブル水100質量部に対して、0.00001〜10質量部であることが好ましく、0.00005〜5質量部であることがより好ましい。
【0026】
<他の成分>
上記ナノバブル水は、上述した任意の農薬以外に、更に他の成分を含んでいてもよい。
上記他の成分としては、例えば、肥料、界面活性剤、凍結防止剤、消泡剤、防腐剤、酸化防止剤、および、増粘剤等が挙げられる。他の成分の種類、および、含有量は特に限定されず、目的に応じて選択可能である。
ただし、本発明においては、上記他の成分として、上記ナノバブル水中においてラジカルを実質的に含まないことが好ましい。なお、「ラジカルを実質的に含まない」とは、上記ナノバブル水の生成に使用する水(例えば、不純物を含む井水)などに起因して不可避的にラジカルが含まれることを除外する意図ではなく、何らかの操作で生成させたラジカルを混入させることを除外する意図である。
【0027】
〔植物体〕
本発明においては、上記ナノバブル水を施用する植物体は、うどんこ病が発症しうる植物体であれば特に限定されない。
このような植物体としては、例えば、ナス科植物(例えば、ナス、ペピーノ、トマト(ミニトマトを含む)、タマリロ、トウガラシ、シシトウガラシ、ハバネロ、ピーマン、パプリカ、および、カラーピーマンなど)、ウコギ科植物(例えば、タカノツメなど)、ウリ科植物(例えば、カボチャ、ズッキーニ、キュウリ、ツノニガウリ、シロウリ、ゴーヤ、トウガン、ハヤトウリ、ヘチマ、ユウガオ、スイカ、メロン、および、マクワウリなど)、アオイ科植物(例えば、オクラなど)、バラ科植物(例えば、バラ、および、イチゴなど)等の果菜類;
イネ、ムギ、および、トウモロコシ等の穀物類;
カブ、ダイコン、ハツカダイコン、ワサビ、ホースラディッシュ、ゴボウ、チョロギ、ショウガ、ニンジン、ラッキョウ、レンコン、および、ユリ根等の根菜類;
ミカン、リンゴ、モモ、ナシ、西洋ナシ、バナナ、ブドウ、サクランボ、グミ、キイチゴ、ブルーベリー、ラズベリー、ブラックベリー、クワ、ビワ、イチジク、カキ、アケビ、マンゴー、アボカド、ナツメ、ザクロ、パッションフルーツ、パイナップル、バナナ、パパイア、アンズ、ウメ、スモモ、モモ、キウイフルーツ、カリン、ヤマモモ、クリ、ミラクルフルーツ、グァバ、スターフルーツ、および、アセロラ等の果樹類;
などが挙げられる。
【0028】
これらのうち、本発明の防除方法の有用性が高くなる理由から、果菜類が好ましく、ナス科植物またはバラ科植物がより好ましく、ピーマンまたはバラが更に好ましい。
【実施例】
【0029】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、および、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0030】
〔試験1〕
<試験1の内容>
試験は、熊本県熊本市南区にて栽培したピーマン(品種:エースピーマン)の農業ハウスにおいて、以下の区分により実施した。
試験区1−1:うどんこ病の発症しているピーマンを30株含む合計2100株の農業ハウスにおいて、2017年の10月〜12月にかけて2日に1回、20分間行う土壌(根)への散水に、下記の方法で生成したナノバブル水を用いた。
試験区1−2:うどんこ病の発症しているピーマンを200株含む合計2100株の農業ハウスにおいて、2017年の10月〜12月にかけて2日に1回、20分間行う土壌(根)への散水に、井戸水を使用し、ナノバブル水を用いなかった。
なお、散水量は、常法に従い、ピーマンの生育状況、および、天候等に応じて適宜変更したが、両試験区で概ね同様となるように調整した。
【0031】
<ナノバブル水の生成方法>
ナノバブル水は、ナノバブル生成装置〔株式会社カクイチ製作所 アクアソリューション事業部(現:株式会社アクアソリューション)製、200V,40L/minタイプ〕を用いて加圧溶解方式にて水中に気泡(ナノバブル)を発生させることで生成した。
なお、ナノバブル水の生成用に使用した水には、井戸水を用い、気泡を構成する気体には、酸素(工業用酸素、濃度:99.5体積%)を用いた。
また、上記のナノバブル生成装置を用いてナノバブルを発生させる条件は、ナノ粒子解析システム ナノサイトLM10(NanoSight社製)による解析結果が以下となる条件で行った。
・水1mL当たりの気泡の数:5×10個/mL
・気泡の最頻粒子径:100nm
【0032】
<うどんこ病の防除の評価>
各試験区において、試験前からうどんこ病を発症していたピーマンの全株を対象に、葉の表および裏を目視で確認した。結果を以下に示す。
試験区1−1:いずれの株においても、うどんこ病の症状は改善していた(図2Aおよび図2B参照)。特に、図2Bを見ると、図3に示す葉に見られるような白カビの斑点が確認できなかった。
試験区1−2:いずれの株においても、うどんこ病の症状は改善していなかった(図3参照)。
【0033】
〔試験2〕
<試験2の内容>
試験は、2018年4月〜2019年1月にかけて静岡県掛川市で栽培したバラ(品種:アルファ・スターダスト)の圃場において以下の区分により実施した。各試験区は、同一のビニールハウス内に設定されている。
試験区2−1:ビニールハウス栽培において、散水に、水道水を使用し、ナノバブル水を用いなかった。
試験区2−2:ビニールハウス栽培において、散水に、水1mL当たりの気泡数が5×10個/mLに調整されたナノバブル水を用いた。
なお、各試験区では、それぞれ、50株のバラを栽培した。
また、散水の頻度および量は、常法に従い、バラの生育状況、および、天候等に応じて適宜変更したが、2つの試験区の間で概ね同様となるように調整した。
また、試験2では、2つの試験区のいずれにおいても農薬を散布したが、農薬の希釈には、ナノバブル水を用いなかった。
【0034】
<ナノバブル水の生成方法>
ナノバブル水は、ナノバブル生成装置(株式会社アクアソリューション製、100V,10L/minタイプ〕を用いて加圧溶解方式にて水中に気泡(ナノバブル)を発生させることで生成した。
なお、ナノバブル水の生成用に使用した水には、水道水を用い、気泡を構成する気体には、酸素(工業用酸素、濃度:99.5体積%)を用いた。
また、上記のナノバブル生成装置を用いてナノバブルを発生させる条件は、ナノ粒子解析システム ナノサイトLM10(NanoSight社製)による解析結果が以下となる条件で行った。
・水1mL当たりの気泡の数:5×10個/mL
・気泡の最頻粒子径:100nm
【0035】
<うどんこ病の防除の評価>
各試験区につき、50株のそれぞれについて、植物体の上部領域(地表からの高さを1とした際に規格される上から1/3の領域)から任意に選択した10枚の葉における、うどんこ病発症の程度を栽培期間中(2019年1月16日)に下記の基準に従って評価し、各評価区分に該当する株数を調査した。
[評価区分]
「発症なし」:10枚の葉のいずれにもうどんこ病の発症が確認されなかった
「軽度発症」:10枚の葉のうち、1〜3枚の葉にうどんこ病の発症が確認でき、うどんこ病が発症している領域が、葉1枚の表面の面積の1/10以下である
「重度発症」:10枚の葉のうち、4枚以上の葉にうどんこ病の発症が確認でき、うどんこ病が発症している領域が、葉1枚の表面の面積の1/5以上である
各試験区における評価結果は、下記の表2に示す通りである。また、「軽度発症」の区分に該当する株の写真として、試験区2−1で栽培されたバラの葉を図4Aおよび図4Bに示し、「重度発症」の区分に該当する株の写真として、試験区2−1で栽培されたバラの葉を図5Aおよび図5Bに示す。
【0036】
【表1】
【0037】
上記の評価結果から明らかなように、ナノバブル水を施用した試験区2−2は、ナノバブル水を施用しなかった試験区2−1と比較すると、重度発症の株がなくなり、軽度発症の株数についても半数以下となった。
以上までに説明したように、試験1および試験2の試験結果から、ナノバブル水によるうどんこ病の防除効果が明らかとなった。
【符号の説明】
【0038】
10 ナノバブル生成装置
30 液体吐出機
40 気体混入機
41 容器
42 気体混入機本体
50 ナノバブル生成ノズル
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5A
図5B