(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数の異なる咬合位においてスキャンされたデジタル3Dモデルを受け取る前記ステップは、過蓋咬合位、開咬合位、前方咬合位、左側方咬合位、及び右側方咬合位においてスキャンされた前記デジタル3Dモデルを受け取ることを含む、請求項1に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0005】
添付図面は、本明細書に組み込まれ、本明細書の一部をなし、記載と共に本発明の利点及び原理を説明する。
【
図1】口腔内スキャンからのデジタル3Dモデルを使用して仮想咬合を生成するためのシステムの図である。
【
図2】口腔内スキャンからの歯の3Dモデルを示す図である。
【
図3】口腔内スキャンからの仮想咬合の決定を表すフローチャートである。
【
図4】仮想咬合を生成するためのスキャンに関する咬合位を示す図である。
【
図5】咬合位のスキャンの基準スキャンへの重ね合わせを示す図である。
【
図6】回転成分を有する並進ベクトルを純粋回転軸に転換することを示す図である。
【
図7】仮想モデルにおける咬合の動きを示すデジタル3Dモデルを示す図である。
【
図8】上顎弓のデジタル3Dモデルを示す図である。
【
図9】下顎弓のデジタル3Dモデルを示す図である。
【
図10】過蓋咬合位のデジタル3Dモデルを示す図である。
【
図11】開咬合位のデジタル3Dモデルを示す図である。
【
図12】前方(前方向)咬合位のデジタル3Dモデルを示す図である。
【
図13】左側方咬合位のデジタル3Dモデルを示す図である。
【
図14】右側方咬合位のデジタル3Dモデルを示す図である。
【
図15】開位のデジタル3Dモデルを示す図である。
【
図16】前方位のデジタル3Dモデルを示す図である。
【
図17】左側方位のデジタル3Dモデルを示す図である。
【
図18】右側方位のデジタル3Dモデルを示す図である。
【
図19】デジタル3Dモデルにおける元の回転軸を示す図である。
【
図20】デジタル3Dモデル並進ベクトルを示す図である。
【
図23】ベクトルをデジタル3Dモデルと共に示す図である。
【
図24】ベクトルをデジタル3Dモデルと共に示す図である。
【
図25】デジタル3Dモデルを仮想咬合に関する下顎モデルをアニメーション化する4つの異なる軸線と共に示す図である。
【
図26】仮想咬合モデルを適用するためのユーザインターフェースの図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
歯科市場におけるデジタル3Dモデルの使用はますます広まっている。これらのモデルは、例えば、口腔内スキャナ、コーンビーム断層撮影法(Cone Beam Computed Tomography、CBCT)スキャン(すなわち、3D X線)、若しくは磁気共鳴画像(Magnetic Resonance Imaging、MRI)を使用して、in vivoで直接取得できるか、又は、歯の印象又は歯の印象の鋳造物のスキャンから間接的に取得できるかのいずれかである。間接的データ取得方法のいくつかの例としては、産業用のコンピューター断層撮影(Computed Tomography、CT)スキャン(すなわち、3D X線)、レーザスキャン、及びパターン光スキャンが挙げられるが、これらに限定されない。デジタル3Dモデルは、治療計画策定、歯冠及びインプラントの調製、歯科補綴に関する修復、歯科矯正用の構成の設計、歯科矯正装置の設計を含む、様々な臨床上のタスクのために、並びに、診断補助において、例えば、歯の摩耗を評価又は視覚的に示すために、使用できる。
【0007】
概観
本発明の実施形態は、口腔内スキャナを用いて採得したいくつかの限界の咬合スキャンから、下顎の咬合の仮想モデルを算定する。仮想モデルは患者の下顎の上顎に対する任意のあり得る運動の再現を可能にするので、本発明により、例えば、人工補綴具の設計、歯科矯正用の構成の設計、摩耗ファセットの特定、ファセットの根本原因の特定、歯の摩耗の予測、動的な咬合設計及び調節(側方及び前方干渉の回避、早期接触の排除)、並びに他の高度な診断、予測、及び治療計画策定が容易になり得る。鍵となる革新的特徴は、口腔内スキャナを介して取得可能な歯の表面のデータから、下顎の動きを算定することである。
【0008】
図1は、口腔内スキャンからのデジタル3Dモデルを使用して仮想咬合を生成するためのシステム10の図である。システム10は、口腔内3Dスキャン又は印象のスキャン又は歯の鋳造物からの、歯又は他の口腔内構造(12)のデジタル3Dモデルを受け取る、プロセッサ20を含む。システム10はまた、口腔内構造のスキャンからのデジタル3Dモデルを表示する電子ディスプレイデバイス16、及びユーザ命令又は他の情報を受け取る入力デバイス18も含み得る。スキャンからの患者の歯のデジタル3Dモデルの例が、
図2に示されている。複数のビューからの画像セットに基づきデジタル3D画像又はモデルを生成するシステムが、いずれも全体が記載されているかのように参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第7,956,862号及び同第7,605,817号に開示されている。これらのシステムは、歯又は他の口腔内構造の複数のビューからデジタル画像を入手するために口腔内スキャナを使用することができ、それらのデジタル画像は、スキャンされた歯又は他の口腔内構造を表すデジタル3Dモデル又はスキャンを生成するために処理される。3Dモデル又はスキャンは、例えば、スキャンされた物体又は口腔内の構造の表面を表す、多角形メッシュ又はポイントクラウドとして実現することができる。
【0009】
口腔内の構造には、歯列、より典型的にはヒトの歯列、例えば、個々の歯、四分円、完全な弓、分離して又は咬合していてよい様々なタイプの弓の対、軟部組織(例えば、口の歯肉表面及び粘膜表面、又は唇、鼻、頬、及び頤などの口周囲の構造)など、並びに、骨及び何らかの他の支持構造又は包囲構造が含まれる。口腔内の構造は場合によっては、口内の自然の構造と、歯科学に関する物体(例えば、人工補綴具、インプラント、矯正装置、修復装置、修復用構成要素、又は橋脚歯)などの人工の構造と、の両方を含み得る。
【0010】
システム10は、例えば、デスクトップ、ノートブック、又はタブレットコンピュータにより実現することができる。システム10は、ローカルで又はネットワークを介してリモートで、3Dスキャンを受け取ることができる。ディスプレイデバイス16は、任意の電子ディスプレイ、例えば、陰極線管(Cathode Ray Tube、CRT)、液晶ディスプレイ(liquid crystal display、LCD)、発光ダイオード(light emitting diode、LED)ディスプレイ、又は有機発光ダイオード(organic light emitting diode、OLED)ディスプレイを用いて実現することができる。入力デバイス18は、情報又は命令を入力する任意のデバイス、例えば、キーボード、マイクロフォン、カーソル制御デバイス、又はタッチスクリーンを用いて実現することができる。システム10の構成要素は組み合わせてもよく、例えば、タブレットコンピュータは、プロセッサ、ディスプレイ、及びタッチスクリーン入力デバイスを、単一のユニットに統合することができる。
【0011】
図3は、口腔内スキャンから仮想咬合を決定する方法を表すフローチャートである。この方法は、以下に更に説明するように、デジタル3Dモデル又はスキャン1−nを受け取ること(ステップ22)と、前方(及び任意選択的に後方)、開、左側方、並びに右側方の純粋回転軸を含むスキャンから咬合を決定すること(ステップ24)と、人の下顎の運動を表す仮想咬合モデルを出力すること(ステップ26)と、純粋回転軸に関するユーザ入力又は他のタイプの入力に基づいて仮想咬合モデルの姿勢を表示すること(ステップ28)と、を含む。咬合を決定するステップ24は、以下で更に説明するように、咬合位のスキャンを基準スキャンと重ね合わせること(ステップ23)と、並進ベクトル及び元の回転軸を決定すること(ステップ25)と、並進ベクトル及び元の回転軸から純粋回転軸を決定すること(ステップ27)と、を含む。方法は、プロセッサ20などのプロセッサによって実行されるソフトウェアモジュール又はファームウェアモジュールにおいて実現することができ、場合によってはクラウドコンピューティングを使用して実現することができる。仮想咬合モデルを、ディスプレイデバイス16などのディスプレイデバイス上に表示することができ、使用者はディスプレイデバイス16及び入力デバイス18を介して、仮想咬合モデルとやりとりできる。
【0012】
方法への入力は、下顎スキャン、上顎スキャン、及び以下の5つ、すなわち、過蓋(中心/最大咬頭嵌合)咬合位スキャン、開咬合位スキャン、前方向又は前方(及び任意選択的に後方)咬合位スキャン、左側方咬合位スキャン、並びに右側方咬合位スキャンである。
図4は、上顎(上側)弓30に対する、下顎(下側)弓31の位置のこれらの咬合位を示す。方法は、これらの下顎弓及び上顎弓の、5つの咬合スキャンの各々への最良適合の重ね合わせを見出し、各々に対して下顎と上顎との間の相対関係を確立する。
図5は、咬合位のスキャンを基準スキャンに重ね合わせることを示す。特に、この例では、閉鎖位置にある上顎弓30及び下顎弓31のスキャンに対応する過蓋咬合スキャン32が基準スキャンとして使用され、咬合位置のスキャン、右スキャン33、前方スキャン34、開スキャン35、及び左スキャン36が、過蓋スキャン32と各々重ね合わされる。過蓋スキャン32とは別に、重ね合わせのための基準スキャンとして他のスキャンを使用することができる。
【0013】
上顎を固定された基準座標系として使用し、方法は、これらの相対的な関係を共有の座標系に変換して、過蓋位に対する咬合の個々の各タイプの、特に過蓋対開放、過蓋対前方、過蓋対左側方、及び過蓋対右側方の咬合に関する、限界下顎位を記述する変換を実現する。過蓋咬合位とそれぞれの咬合位との間の下顎の位置及び向きを、その特定の姿勢を実現するための下顎の動きを反映させて、様々な形態で補間することが、その場合可能である。この場合、仮想咬合モデルにおける全体的な下顎の動きは、補間の様々な段において4つの個々の咬合の変換の複合変換として表現でき、物理的な解剖学上の制約に従って補間を制限する。これら姿勢位置の限度までの限界下顎位とは別に、かなりの変位、又は仮想咬合を生成するのに少なくとも十分な変位を有する、他の下顎の姿勢を使用することができる。
【0014】
過蓋位から他の姿勢のいずれかへの下顎の運動は、各姿勢に関して、回転行列(座標軸x、y、zを中心とした3つの回転を複合したもの)と座標の原点の並進ベクトルの組み合わせとして記述できる。この組み合わせ(回転と並進ベクトル)は通常、「3D変換行列」又はより狭義には「剛体変換」と呼ばれる。
【0015】
ヒトの下顎の運動の特定の場合には、あり得る運動は、「ボールジョイント」として機能する下顎頭及び下顎窩に合わせて、機械的に条件付けられる。「ボールジョイント」運動のこの特定の条件により、(異なる姿勢から生じる)下顎のこれらの運動のうちのいずれも、(どのような一般的な運動にも要求されるような)回転と並進の組み合わせの代わりに、(並進を伴わない)一意の純粋回転として記述することが可能になる。
図6は、並進ベクトルと回転成分を併せたものを、下顎窩内での下顎頭のこの特定の「ボールジョイント」運動における、一意の軸線を中心とした純粋回転に転換するための方法を示す。
【0016】
図4及び
図5に示すスキャン及び姿勢は、基準スキャンとの姿勢スキャンの重ね合わせと併せて、始点41(下顎3D物体の座標の原点)と42(この下顎の最初の点の終点)との間の並進ベクトル40と、元の回転軸と呼ばれる回転ベクトル46成分と、を提供する。並進ベクトル40と回転ベクトル46を合わせたものは、算出された点44を通る純粋回転軸47と等価である。このように、元の姿勢から任意の所与の姿勢への運動は、軸46を中心とした回転(角度45)及び並進ベクトル40を介した(点41から点42への)並進の組み合わせとして当初は記述されていたが、この時点で、軸線47を中心とした一意の純粋回転(回転角度45)として記述できる。この変換は、並進ベクトル及び(開の、右の、左の、前方の)下顎位置の各々に関する元の回転軸を、これらの位置の各々に関する純粋回転軸に転換するために行われ、
図7に示すように、これらの4つの純粋回転軸を中心とした下顎の組み合わされた運動により、仮想咬合モデルが提供される。特に、この仮想咬合モデルは、
図7に示す純粋回転軸を使用して、全体的な下顎の運動を、以下のような、咬合位のスキャン同士の間の4つの単純な下顎の動きの組み合わせとしてシミュレートする:開から過蓋、前方又は前方向から過蓋、右側方前方から過蓋、及び左側方前方から過蓋。
【0017】
入力スキャン
仮想咬合モデルを生成するための入力データは、7つの口腔内スキャン、すなわち以下を含む:
図8に示すような上顎弓のスキャン、
図9に示すような下顎弓のスキャン、
図10に示すような過蓋(中心最大インターカスピデーション(inter-cuspidation)咬合位のスキャン、
図11に示すような、弓同士の間の空間関係を維持するための介在物を含む、開咬合位のスキャン、
図12に示すような前方(前方向)咬合位のスキャン、
図13に示すような左側方咬合位のスキャン、及び
図14に示すような右側方咬合位のスキャン、である。
図8〜
図14におけるデジタル3Dモデル又はスキャンは、上記したような口腔内スキャナを使用して入手できるもので、同じ患者からのかかる入力スキャンを例示している。
【0018】
これらのスキャンは場合によっては、患者のスキャンのライブラリから、又は患者の歯の印象若しくは鋳造物をスキャンすることによっても、入手できる。入力スキャンは完全な弓を含むのが好ましいが、場合によっては部分的な弓しか含まなくてもよい。咬合位のスキャンは、かかる運動の限度までの限界の咬合位のスキャン、又は別法として、限度までではないがかなりの変位を有する咬合位のスキャンを含み得る。側方位では、作用側の下顎頭は必然的に後方位置にあり、いかなる並進も伴わずに「ボールジョイント」として回転する。他方の下顎頭は前方へと並進することになるが、スキャンは下顎のいかなる全体的な突出も伴わずに行われるものとする。作用側の下顎頭が回転のみしている状態でのスキャンにより、純粋回転モデルによる正確な動きの表現が可能になる。
【0019】
最良適合の重ね合わせ及び変換の算定
下顎弓及び上顎弓の個々のスキャンは、咬合位のスキャンの各々と重ね合わされる。重ね合わせは、(下顎の又は上顎の)弓のスキャンの、咬合スキャンとの幾何的な最良の適合を見出すことを含み、2つ以上の3Dモデルの重ね合わせのための知られているアルゴリズムの応用である。例えば、3Dデータを重ね合わせる1つの手法は、Iterative−Closest Point(ICP)マッチングと呼ばれる、知られているアルゴリズムである。他の重ね合わせアルゴリズムが、全体が記載されているかのように参照により本明細書に組み込まれる、米国特許出願公開第2016/0004811号に開示されている。
【0020】
咬合スキャンとの2つの弓の重ね合わせにより、その咬合スキャンの姿勢にある2つの弓のスキャンの間の空間関係を定める3D変換を算出することが可能になる。上顎は、デフォルトの座標空間内に固定されているものと見なされる。下顎及び上顎は、空間内を移動できるがサイズを変えることはできない、剛性の物体であると見なされる。各咬合の重ね合わせの変換はしたがって、上顎に対する下顎の相対的な並進(位置)及び回転(向き)を記述している。
【0021】
上記した咬合スキャンに対して、咬合の重ね合わせが見出される。変換行列は、以下の姿勢にある下顎に関して見出される:
図15に示すような開位、
図16に示すような前方位、
図17に示すような左側方位、及び
図18に示すような右側方位。
図15〜
図18に示すこれらの姿勢のこれらの咬合スキャンは、この例では過蓋咬合位のスキャンと、又は、基準スキャンとしての異なるスキャンと、重ね合わされる。
【0022】
各変換は、上顎に対する下顎の回転及び並進を含む3D行列として表現でき、このとき回転は3つの座標軸軸(X、Y、及びZ)を中心とした3つの回転として表現され、これらはオイラー角としても知られている。軸−角度回転と並進ベクトルを併せたもの、又は四元数回転と並進ベクトルを併せたものなどの、他の等価な表現が存在する。これらの変換はデータベースに保存することができ、例えば、回転は3×3部分行列として保存され、並進はその行列におけるある列中の3つの要素として保存される。次いでこれらの変換を使用して、対応する純粋回転軸を決定する。
【0023】
重ね合わせに関するいくつかの実施形態では、上顎弓は、上顎歯列弓、上顎歯槽突起、口蓋、頭骸骨、又は下顎を除く頭部のうちの、任意の認識可能な部分から成ることができる。特に、算定された純粋回転軸を、顎関節(下顎窩の後部及び上側関節結節の角度)の形態に、物理的にリンクさせることができる。結果として、所与の時間に入手した仮想咬合を、口腔の時間固定部分(口蓋)の重ね合わせによって、同じ患者のために任意の別の時間に再び呼び出すことができる。新しいスキャンにおける口蓋を、仮想咬合情報を含む同じ患者に関する以前のスキャンの口蓋と重ね合わせるとき、これらの算定された純粋回転軸が、この新しいスキャンに正確に移されることになる。患者の仮想咬合情報をこのように、その患者についてのあるスキャンから別のスキャンへと移すことができる。
【0024】
等価な姿勢及び補間表現
重ね合わせの変換が知られると、過蓋位と他の個々の咬合位との間の補間を使用して、下顎を移動させることができる。剛性変換は通常、回転成分及び並進成分へと分解され、これらの成分は個別に補間され、その後再び組み合わされて、補間された変換となる。多数のタイプの補間が可能である。2つの成分の線形補間を行えば、結果として、付随する回転を伴う、空間を通る直線的な経路が得られるであろう。物理的に導出された動きの経路をモデル化するために、より高次の補間又はテーブルに基づく補間を使用することができる。本明細書に記載される方法は、動きに影響を与えるために回転成分のみを使用する、姿勢の変換の代替の表現を使用し、この表現は、補間されると、直線の代わりに空間を通る円弧に従う。この代替の表現は、自然な顎の動きの旋回挙動をより厳密に近似する。この表現は「純粋回転(pure rotation)」と呼ばれ、並進及び回転の両方を含む変換と等価な又はそれに対応する回転を提供するが、これはこの純粋回転の結果、同じ最終位が得られるからである。
【0025】
以下に、この等価な又は対応する純粋回転表現を見出すために必要な計算について記載する。最初に、方法は純粋回転軸及び回転角度を見出し、次いで方法は、純粋回転が追加の並進なしで所望の最終位を達成するように純粋回転軸の位置を決定するための、純粋回転軸の一点を見出す。
【0026】
元の回転軸及び回転角度を見出すことは、以下を含む。剛体の動きを、向き(3つの座標軸を中心とした回転を表す3×3回転行列)と並進(座標空間原点を起点とし等価な点で終端するベクトルを表す並進ベクトル)を併せたものとして記述できる。
【0027】
Rを所与の動きの3×3回転行列とし、その成分を以下のように標記する:
【数1】
回転角度は以下のように算定される:
【数2】
元の回転軸は以下のように算定される:
【数3】
【0028】
純粋回転軸上の点を見出すことは、以下を含む。純粋回転は、純粋回転軸の直線方程式をその位置を含めて定めることを要件とする。上記の幾何的条件により、座標空間の原点を通る元の回転軸が得られ、変換されている対象の向きが変えられるが、元の変換の並進成分は無視される。所望の純粋回転は、ある程度ずらされた位置で元の回転軸と平行である純粋回転軸を要件とし、このときこの純粋軸を中心とした回転は、並進操作なしで(並進成分を含む)元の変換と同じ結果を達成するようになっている。
【0029】
図19は、座標系(X、Y、Z)、及び先の節で得られた元の回転軸を表す。
図20は、元の座標系、変換された下顎、及び先の節で得られた並進ベクトルを示す。ベクトル的な視点から、この状況が
図21に示されている。
【0030】
純粋回転軸の一点を見出す鍵は、以下の条件を考慮に入れることである。純粋回転軸は、原点を通る元の回転軸と平行となる。並進ベクトルの中点を起点としこの並進ベクトルに対して垂直な線(
図22〜
図24において補助線と名付ける)を定めると、純粋回転軸と交差することになる。補助線に交わるように回転される角度は、回転される角度の半分となる。定義上、元の回転軸は並進ベクトルに対して常に垂直である。このベクトル構成を、
図22に示す。
【0031】
純粋回転軸は、
図22〜
図24で純粋回転軸(Pure Rotation Axis)として識別されており、補助線と点Rにおいて交差している。(原点から点Rまでの)距離「d」は、ちょうど原点からの回転半径である。線dと補助線との間の角度は、既に算定された純粋回転角度の半分である(補助線が並進ベクトルの中心を起点として引かれたと考える)。含まれるベクトル、線、及び点の別の説明については、異なる視点からの(元の及び移動した)対象物を含む、
図23及び
図24を参照されたい。
【0032】
この状況によれば、等式は以下の通りである:
点R:(X
r、Y
r、Z
r)
点P:(X
p、Y
p、Z
p)
点Po(並進ベクトルの中点):(X
o、Y
o、Z
o)、定義は以下の通りである:
【数4】
u
1(補助線の方向の単位ベクトル):(u
1x、u
1y、u
1z)
回転角度:Φ
パラメータu
1は、並進ベクトルと元の回転軸との間の正規化されたベクトル積として得られる(これらのいずれも先のステップから入手可能である)。
【0033】
補助線の等式は以下のように書くことができる:
【数5】
(Oが原点である)基本的な三角法を適用すると:
【数6】
したがって回転半径は以下のように表現できる:
【数7】
ただし距離「d」は、点O及び点Rに基づいて、以下のように表現することもできる:
【数8】
ただし、
u
1が単位ベクトルであれば、u
1x2+u
1y2+u
1z2=1
X
0u
1x+Y
0u
1y+Z
0u
1zは点乗積
【数9】
であり、
【数10】
と直交していれば0に等しい
【数11】
したがって、等式(1)及び(2)を組み合わせると、以下がλを決定する等式である:
【数12】
したがって、最後に方法は、純粋回転軸上の点Rを決定するλの値を以下のように得る:
【数13】
最後に、点Rは以下のように表現できる
【数14】
【0034】
この手順を繰り返して、4つの姿勢の純粋回転軸の各々に関する回転点を得る。この手順から得られる、下顎モデルをアニメーション化する4つの異なる軸に関する純粋回転軸が、
図25に示されている。4つの純粋回転軸に関する回転点及び対応する回転角度は、例えばデータベースに保存できる。
【0035】
個々の変換の組み合わせ及び制約を介した複合的な動き
下顎の動きの全範囲は、補間の様々な状態における個々の変換から構成され得る。他の動きの補間パラメータに依存する所与の補間パラメータを制約することは、物理的な現実のより忠実な表現に合わせて動きの範囲を制限するのに役立ち得る。
【0036】
5つの咬合の重ね合わせの各々は、顎の限界の又はかなりの可動域を表すことによって、いくつかの方向における下顎の動きの制約条件を確立する。例えば、下顎は、左限界の咬合位よりも左には移動できず、また下顎は、過蓋咬合の重ね合わせよりも接近することはできない。この結果、個々の限界位と、例示的な基準としての過蓋位との間の補間(これらを超える外挿ではない)により、1組の制約条件がもたらされる。この方法に関する慣習の例として、0の補間パラメータは過蓋位を表し、1のパラメータは他の咬合スキャンのうちの1つの咬合位を表す。2つのスキャンされた末端部の間に介在する姿勢を、0から1の間のパラメータが表している。
【0037】
全体的な仮想咬合モデルは、4つの補間パラメータの組として表現できる、4つの補間された姿勢の組み合わせを含む。
図26のユーザインターフェースにおいて、4つの補間パラメータに対応する表示されたスライダ(開、右、左、前方)を右下に有する例が示されている。このユーザインターフェースは、ディスプレイデバイス16上に表示できる。使用者は、入力デバイス18(例えば、カーソル制御デバイス)を使用して、表示されたスライダを調節し、表示された仮想咬合モデルの対応する動きを見ることができる。スライダの調節により、選択されたタイプの運動又は姿勢に関する2つの端点の間で、対応する純粋回転の回転が引き起こされる。スライダはまた、連続的な動きを実現するアニメーションモードも有し、使用者が決定した相の違いにより様々な複雑な動きのサイクルを同時にシミュレーションするようにアニメーション化される、複数のスライダを含む。スライダとは別に、例えば、表示された下顎弓の表現を4つの姿勢の間で移動させるために、タッチスクリーンを使用することができる。
【0038】
物理的な現実に合致するよう動きの範囲を制約するために、補間値に対して追加的な限度を設けることができる。例えば、左の動きと右の動きは、同時に使用することができない。このことは、2つのそれぞれの補間パラメータを、これらのうちの最大でも1つがゼロにならないように制限するものと表現できる。回転値は正の値に制約され得る−右軸は右側方運動に対してのみ有効であり、左軸は左側方運動に対してのみ有効である。側方回転を開回転と組み合わせるためには、開回転軸を側方回転に従って空間内で回転させねばならない。言い換えれば、開−過蓋ヒンジは、ちょうど現実のヒトの下顎のように、外方に回転した下顎に対して回転しなければならない。更なるタイプの制約条件を利用することもできる。ヒトの動きの研究に基づいたより微妙な物理ベースの制約条件を追加することができる。動いている最中の弓同士の間の衝突の検出を使用して、例えば対向する歯の表面の弓同士の間の補間を行わないようにすることができる。
本発明の実施態様の一部を以下の〔態様1〕−〔態様22〕に記載する。
〔態様1〕
人の上顎弓及び下顎弓のデジタル3Dモデルを受け取るステップと、
前記上顎弓及び前記下顎弓の複数の異なる咬合位のデジタル3Dモデルを受け取るステップと、
前記複数の異なる咬合位の前記デジタル3Dモデルに基づいて、前記上顎弓に対する前記下顎弓の純粋回転軸を含む仮想咬合モデルを決定するステップと、を含む、
歯のスキャンから仮想咬合を決定する方法。
〔態様2〕
複数の異なる咬合位のデジタル3Dモデルを受け取る前記ステップは、過蓋咬合位、開咬合位、前方咬合位、左側方咬合位、及び右側方咬合位に関する前記デジタル3Dモデルを受け取ることを含む、態様1に記載の方法。
〔態様3〕
前記決定するステップは、前記上顎弓及び前記下顎弓の前記デジタル3Dモデルを、前記複数の異なる咬合位の前記デジタル3Dモデルと重ね合わせることを含む、態様1に記載の方法。
〔態様4〕
前記上顎弓は、上顎歯列弓、上顎歯槽突起、口蓋、頭骸骨、又は下顎を除く頭部のうちの、認識可能な部分から成る、態様3に記載の方法。
〔態様5〕
前記重ね合わせから、前記複数の異なる咬合位の各々に関して、回転部分行列及び並進ベクトルを含む変換行列を決定することを更に含む、態様3に記載の方法。
〔態様6〕
前記決定するステップは、前方位に関連する純粋回転軸を決定することを含む、態様2に記載の方法。
〔態様7〕
前記決定するステップは、開位に関連する純粋回転軸を決定することを含む、態様2に記載の方法。
〔態様8〕
前記決定するステップは、右側方位に関連する純粋回転軸を決定することを含む、態様2に記載の方法。
〔態様9〕
前記決定するステップは、左側方位に関連する純粋回転軸を決定することを含む、態様2に記載の方法。
〔態様10〕
前記仮想咬合モデルを電子ディスプレイデバイス上に表示することを更に含む、態様1に記載の方法。
〔態様11〕
人の上顎弓及び下顎弓のデジタル3Dモデルを受け取るモジュールと、
前記上顎弓及び前記下顎弓の複数の異なる咬合位のデジタル3Dモデルを受け取るモジュールと、
前記複数の異なる咬合位の前記デジタル3Dモデルに基づいて、前記上顎弓に対する前記下顎弓の各咬合位に関する純粋回転軸の表現を含む、仮想咬合モデルを決定するモジュールと、を備える、
歯のスキャンから仮想咬合を決定するシステム。
〔態様12〕
複数の異なる咬合位のデジタル3Dモデルを受け取る前記モジュールは、過蓋咬合位、開咬合位、前方咬合位、左側方咬合位、及び右側方咬合位に関する前記デジタル3Dモデルを受け取るモジュールを備える、態様11に記載のシステム。
〔態様13〕
前記決定するモジュールは、前記上顎弓及び前記下顎弓の前記デジタル3Dモデルを、前記複数の異なる咬合位の前記デジタル3Dモデルと重ね合わせるモジュールを備える、態様11に記載のシステム。
〔態様14〕
前記上顎弓は、上顎歯列弓、上顎歯槽突起、口蓋、頭骸骨、又は下顎を除く頭部のうちの、認識可能な部分から成る、態様13に記載のシステム。
〔態様15〕
前記重ね合わせから、前記複数の異なる咬合位の各々に関して、回転部分行列及び並進ベクトルを含む変換行列を算出するモジュールを更に備える、態様13に記載のシステム。
〔態様16〕
前記決定するモジュールは、前方位に関連する純粋回転軸を決定するモジュールを備える、態様12に記載のシステム。
〔態様17〕
前記決定するモジュールは、開位に関連する純粋回転軸を決定するモジュールを備える、態様12に記載のシステム。
〔態様18〕
前記決定するモジュールは、右側方位に関連する純粋回転軸を決定するモジュールを備える、態様12に記載のシステム。
〔態様19〕
前記決定するモジュールは、左側方位に関連する純粋回転軸を決定するモジュールを備える、態様12に記載のシステム。
〔態様20〕
前記仮想咬合モデルを電子ディスプレイデバイス上に表示するモジュールを更に備える、態様11に記載のシステム。
〔態様21〕
人の上顎弓及び下顎弓のデジタル3Dモデルを受け取るステップと、
前記上顎弓及び前記下顎弓の複数の異なる咬合位のデジタル3Dモデルを受け取るステップと、
前記複数の異なる咬合位の前記デジタル3Dモデルに基づいて、前記上顎弓に対する前記下顎弓の複数の純粋回転軸を含む仮想咬合モデルを決定するステップと、
前記純粋回転軸を中心とした1つ以上の回転に関するユーザ入力に基づいて、前記仮想咬合モデルの姿勢を電子ディスプレイデバイス上に表示するステップと、を含む、
歯のスキャンから仮想咬合を決定し表示する方法。
〔態様22〕
前記決定するステップは、前方位、開位、右側方位、及び左側方位に関連する、純粋回転軸を決定することを含む、態様21に記載の方法。