特許第6827670号(P6827670)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6827670光学部材保護フィルム用粘着剤組成物及び光学部材保護フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6827670
(24)【登録日】2021年1月22日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】光学部材保護フィルム用粘着剤組成物及び光学部材保護フィルム
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/00 20060101AFI20210128BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20210128BHJP
   C09J 133/02 20060101ALI20210128BHJP
   C09J 7/30 20180101ALI20210128BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20210128BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALN20210128BHJP
【FI】
   C09J133/00
   C09J11/06
   C09J133/02
   C09J7/30
   G02B5/30
   !G02F1/1335 510
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-194488(P2016-194488)
(22)【出願日】2016年9月30日
(65)【公開番号】特開2018-53208(P2018-53208A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年7月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004592
【氏名又は名称】日本カーバイド工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】堀 崇晴
(72)【発明者】
【氏名】鴨井 彬
(72)【発明者】
【氏名】藤川 はる奈
(72)【発明者】
【氏名】中野 宏人
【審査官】 菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−200540(JP,A)
【文献】 特開2005−314579(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/027787(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性基を有する単量体に由来する構成単位と、
アルキレンオキシド鎖を有する単量体に由来する構成単位と、を含む、(メタ)アクリル系共重合体と、
エポキシ系架橋剤と、を含有し、
前記(メタ)アクリル系共重合体の全構成単位100質量%に対して、前記酸性基を有する単量体に由来する構成単位を3〜9質量%と、
前記アルキレンオキシド鎖を有する単量体に由来する構成単位を0.1〜5質量%と、を含む、
光学部材保護フィルム用粘着剤組成物。
【請求項2】
前記アルキレンオキシド鎖を有する単量体が、エチレンオキシド鎖を有する単量体である請求項1に記載の光学部材保護フィルム用粘着剤組成物。
【請求項3】
前記エチレンオキシド鎖を有する単量体において、エチレンオキシド鎖におけるエチレンオキシド単位の平均付加モル数が1モル以上9モル以下である請求項2に記載の光学部材保護フィルム用粘着剤組成物。
【請求項4】
前記酸性基を有する単量体が、(メタ)アクリル酸である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の光学部材保護フィルム用粘着剤組成物。
【請求項5】
基材と、
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の光学部材保護フィルム用粘着剤組成物に由来する粘着剤層と、を備えた光学部材保護フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部材保護フィルム用粘着剤組成物及び光学部材保護フィルムに関する。
【0002】
液晶表示装置や有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置は、薄型軽量であること、消費電力が少なくて済むことなどから、近年、各種の情報関連機器、例えばテレビジョン、ノ−ト型パソコン、スマートフォン、タブレット端末、カーナビゲーションなどの画面表示装置として利用されている。
このような表示装置、例えば液晶表示装置には、本体である液晶を内包した液晶セル(ガラスセル)と共に、偏光フィルム、位相差フィルム、透明導電膜、輝度向上フィルムに代表される各種の光学部材が用いられている。
【0003】
これらの光学部材は、通常、打抜加工、検査、輸送、表示板の組立などの各工程を経る間にその表面が汚染されたり損傷したりしないよう、粘着フィルムを貼りつけて保護することが行われる。このような光学部材の表面を保護するために用いられる粘着フィルムは、光学部材保護フィルム(以下、「保護フィルム」ともいう。)と呼ばれる。
保護フィルムが備える粘着剤層には、光学部材の保護が必要とされる間は光学部材の表面上でのずれや光学部材の表面から意図せぬ剥落がない程度の粘着力を有し、かつ、光学部材の保護が不要となった段階では光学部材から剥離しやすいこと(以下、「剥離性」ともいう。)が求められる。
【0004】
近年、保護フィルムと光学部材とを貼り合せた積層体の状態で、更に加熱を伴った加工を施す場合がある。例えばITOフィルムを製造する場合、結晶化のために150℃で1時間程度加熱処理されることがある。一般に、保護フィルムは、保護フィルムと光学部材とを貼り合せた状態で加熱処理すると、保護フィルムが備える粘着剤層の光学部材に対する粘着力が過度に上昇するため、光学部材から剥がし難くなる。また、加熱処理により光学部材に対する保護フィルムが備える粘着剤層の濡れ性にばらつきが生じるため、光学部材から保護フィルムを剥離する際に音が発生したり、光学部材側に剥離した際の保護フィルムの剥離痕(ジッピングライン)が見えたりする、いわゆるジッピングが問題となる。
このため、保護フィルムには、加熱処理前にくわえ加熱処理後の剥離性が良好であることが求められる。
一般に、保護フィルム用粘着剤組成物は、被着体である光学部材に対する濡れ性を高めることでジッピングを抑制できることが知られている。例えば、粘着剤組成物の架橋密度を低くすれば、光学部材に対する濡れ性が良好となる。
【0005】
光学部材保護フィルム用粘着剤組成物は広く知られている。
例えば、特許文献1には、(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加物を特定量の範囲で含み(メタ)アクリル系ポリマーを架橋せしめて得られる表面保護シート用粘着剤組成物が開示されている。特許文献1によれば、高接着力でありながら、高速剥離時に低速剥離時よりも低い力で剥離でき、濡れ性が良好である旨が記載されている。なお、特許文献1の実施例の粘着剤組成物は、架橋剤としてイソシアネート系架橋剤、より詳しくはトリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンの付加物、が用いられている。
【0006】
また、光学部材保護フィルムには、光学部材から保護フィルムを剥離した後に光学部材表面に保護フィルムが備える粘着剤層に由来する残渣が残らないこと、いわゆる耐汚染性が求められる。このような残渣は、例えば粘着剤組成物が含有する共重合体の低分子成分に由来する。
なお、光学部材保護フィルムにおいて、前述した粘着剤層に由来する残渣は、被着体と共に加熱処理した後に多く発生する傾向が見られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−127052号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
保護フィルム用粘着剤組成物の耐汚染性は、粘着剤組成物の架橋密度を高めることや、例えばカルボキシ基に代表される官能基を有する単量体に由来する構成単位を粘着剤組成物が含有する共重合体に含有させることで改善できる。
これに対して、特許文献1には、粘着剤組成物が含む架橋剤の種類の変更に伴い粘着剤組成物の架橋密度を高めることで耐汚染性が改善できることについて何ら記載がない。また、特許文献1には、表面保護シート用粘着剤組成物の加熱処理後の使用について何ら記載がない。
さらに、特許文献1に記載の粘着剤組成物は、耐汚染性について何ら検討されていない。そのため、特許文献1に記載されているような従来の粘着剤組成物における加熱処理後の物性、すなわちジッピングの抑制、剥離性及び耐汚染性は、それぞれ十分といえない場合がある。
【0009】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであり、加熱処理後のジッピングを十分に抑制し、加熱処理前及び加熱処理後の剥離性を維持し、かつ、耐汚染性が優れる光学部材保護フィルムを製造し得る粘着剤組成物を提供することを課題とする。
また、本発明は、前記粘着剤組成物に由来する粘着剤層を備え、加熱処理後のジッピングを十分に抑制し、加熱処理前及び加熱処理後の剥離性を維持し、かつ、耐汚染性が優れる光学部材保護フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1>酸性基を有する単量体に由来する構成単位と、
アルキレンオキシド鎖を有する単量体に由来する構成単位と、を含む、(メタ)アクリル系共重合体と、
エポキシ系架橋剤と、を含有し、
前記(メタ)アクリル系共重合体の全構成単位100質量%に対して、前記酸性基を有する単量体に由来する構成単位を3〜9質量%含む、
光学部材保護フィルム用粘着剤組成物。
【0011】
<2>前記アルキレンオキシド鎖を有する単量体が、エチレンオキシド鎖を有する単量体である<1>に記載の光学部材保護フィルム用粘着剤組成物。
<3>前記エチレンオキシド鎖を有する単量体において、エチレンオキシド鎖におけるエチレンオキシド単位の平均付加モル数が1モル以上9モル以下である<2>に記載の光学部材保護フィルム用粘着剤組成物。
<4>前記酸性基を有する単量体が、(メタ)アクリル酸である<1>〜<3>のいずれか一つに記載の光学部材保護フィルム用粘着剤組成物。
【0012】
<5>基材と、
<1>〜<4>のいずれか一つに記載の光学部材保護フィルム用粘着剤組成物に由来する粘着剤層と、を備えた光学部材保護フィルム。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、加熱処理後のジッピングを十分に抑制し、加熱処理前及び加熱処理後の剥離性を維持し、かつ、耐汚染性が優れる光学部材保護フィルムを製造し得る粘着剤組成物を提供できる。
また、本発明によれば、前記粘着剤組成物に由来する粘着剤層を備え、加熱処理後のジッピングを十分に抑制し、加熱処理前及び加熱処理後の剥離性を維持し、かつ、耐汚染性が優れる光学部材保護フィルムを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜、変更を加えて実施できる。
【0015】
本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本明細書において、組成物中の各成分の量は、各成分に該当する物質が組成物中に複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
【0016】
本明細書において、「粘着剤組成物」とは、(メタ)アクリル系共重合体と、エポキシ系架橋剤とを混合した後から、架橋反応が終了する前の液状又はペースト状の物質を意味する。
本明細書において、「粘着剤層」とは、粘着剤組成物の架橋反応が終了した後の物質を意味する。
本明細書において「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートの両方を包含する用語であり、「(メタ)アクリル」は、アクリル及びメタクリルの両方を包含する用語である。
【0017】
[光学部材保護フィルム用粘着剤組成物]
本発明の光学部材保護フィルム粘着剤組成物(以下、単に粘着剤組成物とも称する。)は、酸性基を有する単量体に由来する構成単位と、アルキレンオキシド鎖を有する単量体に由来する構成単位と、を含む、(メタ)アクリル系共重合体と、エポキシ系架橋剤と、を含有し、前記(メタ)アクリル系共重合体の全構成単位100質量%に対して、前記酸性基を有する単量体に由来する構成単位を3〜9質量%含む。
【0018】
本発明の粘着剤組成物が含有する(メタ)アクリル系共重合体は、酸性基を有する単量体に由来する構成単位を特定量、具体的には(メタ)アクリル系共重合体100質量%に対し、酸性基を有する単量体に由来する構成単位を3質量%以上含むため、耐汚染性が優れる。
なお、本明細書において、「耐汚染性が優れる」とは、被着体への汚染を抑制する、すなわち保護フィルムの被着体上に残る粘着剤層に由来する残渣を低減できることを意味する。
通常、(メタ)アクリル系共重合体の製造の際、分子量が例えば数百〜2万程度の低分子ポリマー(オリゴマー)が生成する。そのため、一般に(メタ)アクリル系共重合体を含有する粘着剤組成物は、前記低分子ポリマーも含有する。このような低分子ポリマーは、粘着剤組成物において経時で粘着剤層の界面付近にブリードアウトする傾向がある。このようなブリードアウトは、水酸基、酸性基及びアミノ基に代表される官能基を有する単量体に由来する構成単位量が少ない低分子ポリマーが含まれている場合、(メタ)アクリル系共重合体と低分子ポリマーとがそれぞれ有する官能基間での相互作用が小さくなるため顕著である。保護フィルム用粘着剤組成物では、保護フィルムを保護する被着体に貼付後、被着体から剥離すると、被着体表面に低分子ポリマーが残渣として残り、被着体を汚染する一因となっている。さらに、このような残渣は、被着体と共に加熱処理した後に多く発生する傾向が見られる。
本発明の粘着剤組成物が含有する(メタ)アクリル系共重合体は、酸性基を有する単量体に由来する構成単位を特定量以上含むため、(メタ)アクリル系共重合体が含む前述した低分子ポリマーも酸性基を有する単量体に由来する構成単位を特定量以上含む。そのため、粘着剤組成物中で酸性基を有する単量体に由来する構成単位を共に有している(メタ)アクリル系共重合体と前述した低分子ポリマーとが相互作用し、前述した粘着剤層の界面付近への低分子ポリマーのブリードアウトが抑制される。したがって、本発明の粘着剤組成物は、保護フィルムに用いた際の被着体すなわち光学部材への耐汚染性が優れる。
くわえて、本発明の粘着剤組成物が含有する(メタ)アクリル系共重合体は、(メタ)アクリル系共重合体100質量%に対し、酸性基を有する単量体に由来する構成単位を3質量%以上含み、かつ、エポキシ系架橋剤を含むため、架橋密度が高くなる。本発明の粘着剤組成物は、架橋密度が高いため、前述した界面付近への低分子ポリマーのブリードアウトが抑制されることで保護フィルムに用いた際の光学部材への耐汚染性が優れる。
なお、例えば特許文献1に記載の表面保護シート用粘着剤組成物のように、(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加物を特定量の範囲で含み(メタ)アクリル系ポリマーをイソシアネート系架橋剤で架橋した粘着剤組成物は、前述した低分子ポリマーのブリードアウトが多くなる傾向がある。
【0019】
また、本発明の粘着剤組成物が含有する(メタ)アクリル系共重合体は、アルキレンオキシド鎖を有する単量体に由来する構成単位を含むため、加熱処理後のジッピングを十分抑制できる。
前述したとおり、本発明の粘着剤組成物が含有する(メタ)アクリル系共重合体は、酸性基を有する単量体に由来する構成単位を特定量含み、かつ、エポキシ系架橋剤を含むため、架橋密度が高い。一般に、架橋密度が高い粘着剤組成物は、被着体への濡れ性が小さい。そのため、架橋密度が高い粘着剤組成物に由来する粘着剤層では、特に保護フィルムと光学部材とを貼り合せた積層体を加熱処理した後にジッピングが生じやすい傾向が見られる。
本発明の粘着剤組成物が含有する(メタ)アクリル系共重合体は、架橋密度が高くても、アルキレンオキシド鎖を有する単量体に由来する構成単位を含むことで、被着体すなわち光学部材への濡れ性が向上し、加熱処理前にくわえ加熱処理後の剥離性を維持し、前述した加熱処理後に生じるジッピングを抑制できる。
つまり、本発明によれば、加熱処理後のジッピングを十分に抑制し、加熱処理前にくわえ加熱処理後の剥離性を維持し、かつ、耐汚染性が優れる光学部材保護フィルムを製造し得る粘着剤組成物を提供できる。
【0020】
<(メタ)アクリル系共重合体>
本発明の粘着剤組成物が含有する(メタ)アクリル系共重合体は、酸性基を有する単量体に由来する構成単位と、アルキレンオキシド鎖を有する単量体に由来する構成単位とを含む。前記酸性基を有する単量体に由来する構成単位の含有量は、(メタ)アクリル系共重合体100質量%に対し3〜9質量%である。
【0021】
本明細書において、「酸性基を有する単量体に由来する構成単位」とは、酸性基を有する単量体が付加重合して形成される構成単位を意味する。
また、本明細書において、「アルキレンオキシド鎖を有する単量体に由来する構成単位」とは、アルキレンオキシド鎖を有する単量体が付加重合して形成される構成単位を意味する。
【0022】
本発明の粘着剤組成物が含有する(メタ)アクリル系共重合体は、1種のみであってもよく、単量体の組成、重量平均分子量等が異なる2種以上であってもよい。
【0023】
(メタ)アクリル系共重合体が酸性基を有する単量体に由来する構成単位を含むことで、前述したとおりエポキシ系架橋剤によって架橋される。
酸性基を有する単量体に由来する構成単位の含有量が(メタ)アクリル系共重合体100質量%に対し3質量%以上であるため、前述したとおり被着体である光学部材への耐汚染性が優れ、また、9質量%以下であるため、架橋密度が過度に高くならず、加熱処理後に生じるジッピングを抑制できる。さらに、酸性基を有する単量体に由来する構成単位の影響による光学部材の劣化を抑制できる。
【0024】
酸性基を有する単量体の種類は、特に制限はない。
酸性基を有する単量体としては、例えば、カルボキシ基を有する単量体、スルホ基を有する単量体等が挙げられる。
酸性基を有する単量体は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
カルボキシ基を有する単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、カルボキシ基を有するポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、桂皮酸、コハク酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、マレイン酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フマル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、1,2−ジカルボキシシクロヘキサンモノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ダイマー及びω−カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。スルホ基を有する単量体としては、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。
本発明において、酸性基を有する単量体に由来する構成単位としては、その他の単量体との共重合性の観点と、架橋剤との反応性の観点から、(メタ)アクリル酸、が好ましく、アクリル酸がより好ましい。
【0026】
(メタ)アクリル系共重合体がアルキレンオキシド鎖を有する単量体に由来する構成単位を含むことで、本発明の粘着剤組成物は、被着体への濡れ性を制御できる。
アルキレンオキシド鎖としては、例えば、エチレンオキシド鎖、プロピレンオキシド鎖が挙げられる。
アルキレンオキシド鎖を有する単量体に由来する構成単位の含有量が(メタ)アクリル系共重合体100質量%に対し0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上であれば、前述したとおり光学部材への濡れ性が向上し、加熱処理後に生じるジッピングをより抑制できるため好ましく、また、30質量%以下、好ましくは10質量%以下であれば、加熱処理後の粘着力が過度に高くならず、保護フィルムと光学部材とを貼り合せた積層体の加熱処理後の剥離性がより適正となるため好ましい。
さらに、アルキレンオキシド鎖を有する単量体がエチレンオキシド鎖を有する単量体であれば、より被着体への濡れ性が適度な範囲となり、加熱処理後に生じるジッピングをより抑制できるため好ましい。
【0027】
アルキレンオキシド鎖を有する単量体の種類は、特に制限はない。
アルキレンオキシド鎖を有する単量体は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
アルキレンオキシド鎖を有する単量体としては、例えば、メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−(エトキシエトキシ)エチルアクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート及びメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートが挙げられる。
これらの中でも、被着体への濡れ性を適正に制御でき、加熱処理後に生じるジッピングを抑制できる観点から、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート又はメトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレートが好ましく、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートがより好ましく、メトキシポリエチレングリコールメタクリレートがさらに好ましい。
【0029】
アルキレンオキシド鎖におけるアルキレンオキシド単位の平均付加モル数としては、1モル〜25モルが好ましく、被着体への濡れ性を適正に制御でき、加熱処理後に生じるジッピングを抑制できる観点から、1モル〜9モルがより好ましい。
なお、アルキレンオキシド鎖におけるアルキレンオキシド単位の平均付加モル数とは、含有される単量体におけるアルキレンオキシドの付加モル数の平均値を意味する。
【0030】
アルキレンオキシド鎖を有する単量体は市販品を使用できる。
アルキレンオキシド鎖を有する単量体であるメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートの市販品は、例えば、新中村化学工業社製、商品名M−90G(エチレンオキシド鎖におけるアルキレンオキシド単位の平均付加モル数が9)、M−230G(同平均付加モル数が23)、共栄社化学社製、商品名ライトアクリレート130A(同平均付加モル数が9)日油株式会社製、商品名ブレンマーPME200(同平均付加モル数が4)、商品名ブレンマーPME400(同平均付加モル数が9)、商品名ブレンマーPME1000(同平均付加モル数が23)、として市販されている。
【0031】
さらに、本発明の粘着剤組成物が含有する(メタ)アクリル系共重合体は、アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含むことが好ましい。(メタ)アクリル系共重合体がアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含むことで、粘着力すなわち加熱処理前及び加熱処理後の剥離性を容易に調整できる。
【0032】
本明細書において、「アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位」とは、アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位が付加重合して形成される構成単位を意味する。
【0033】
(メタ)アクリル系共重合体がアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含む場合、アルキル(メタ)アクリレートは、無置換のアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、その種類は特に制限されない。アルキル(メタ)アクリレートのアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれであってもよい。また、アルキル基の炭素数は、1〜18の範囲が好ましく、1〜12の範囲がより好ましく、1〜8の範囲がさらに好ましい。アルキル基の炭素数が前述した範囲内であると、粘着力すなわち加熱処理前と加熱処理後のそれぞれの剥離性をより制御しやすく、保護フィルムとしたときの被着体との濡れ性がより優れる。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート及びイソボルニル(メタ)アクリレートが挙げられる。
アルキル(メタ)アクリレートは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
アルキル(メタ)アクリレートは、粘着力すなわち加熱処理前及び加熱処理後の剥離性をより容易に制御できるとともに、保護フィルムとしたときの被着体への濡れ性の観点から、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート及びn−ブチル(メタ)アクリレートが好ましく、2−エチルヘキシルアクリレート及びn−ブチルアクリレートがより好ましい。
【0035】
(メタ)アクリル系共重合体の全構成単位に占めるアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位の含有量の割合は、被着体から容易に剥落しない程度に十分な粘着力を粘着剤層に付与できる観点から、全構成単位に対して55質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。
(メタ)アクリル系共重合体は、アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を全構成単位に対して55質量%以上含むことで、共重合性が良好となり、酸性基を有する単量体に由来する構成単位を共重合体中により均一に分布させ得るため、架橋のムラがより抑制され、被着体への耐汚染性をより改善できる。
【0036】
(メタ)アクリル系共重合体は、本発明の効果が発揮される範囲内において、酸性基を有する単量体に由来する構成単位、アルキレンオキシド鎖を有する単量体に由来する構成単位及びアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位以外の構成単位(以下、「その他の構成単位」ともいう。)を含んでもよい。
その他の構成単位を構成する単量体の種類は、特に制限されない。
その他の構成単位を構成する単量体としては、例えば、例えば、ベンジル(メタ)アクリレートに代表される芳香族環を有する(メタ)アクリル系単量体、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートに代表される水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体、グリシジル(メタ)アクリレートに代表されるグリシジル基を有する(メタ)アクリル系単量体、アミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートに代表される窒素原子を有する(メタ)アクリル系単量体、スチレン、α−メチルスチレンに代表される芳香族モノビニル単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリルに代表されるシアン化ビニル単量体や、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルに代表されるカルボン酸ビニル単量体が挙げられる。
【0037】
(メタ)アクリル系共重合体の重量平均分子量(Mw)は、被着体への汚染を抑制する観点からは、100000以上が好ましく、200000以上がより好ましい。また、(メタ)アクリル系共重合体の重量平均分子量は、加熱処理後に生じるジッピングを抑制できる観点及び粘着剤組成物塗工時の揮発性溶媒量を少なくする観点からは、1500000以下が好ましく、1000000以下がより好ましい。(メタ)アクリル系共重合体の数平均分子量(Mn)に対する(メタ)アクリル系共重合体の重量平均分子量(Mw)の比で表される分散度(Mw/Mn)は、特に制限されない。例えば、被着体への汚染を抑制する観点からは、(メタ)アクリル系共重合体の分散度(Mw/Mn)は、1〜30の範囲が好ましい。
【0038】
なお、(メタ)アクリル系共重合体の重量平均分子量(Mw)は、下記の(1)〜(3)に従って測定される値である。
(1)(メタ)アクリル系共重合体の溶液を剥離紙に塗布し、100℃で2分間乾燥し、フィルム状の(メタ)アクリル系共重合体を得る。
(2)上記(1)で得られたフィルム状の(メタ)アクリル系共重合体とテトラヒドロフランとを用いて、固形分濃度が0.2質量%である試料溶液を得る。
(3)下記条件にて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、標準ポリスチレン換算値として、(メタ)アクリル系共重合体の重量平均分子量(Mw)を測定する。
(条件)
GPC :HLC−8220 GPC〔東ソー株式会社製〕
カラム :TSK−GEL GMHXL 4本使用
移動相溶媒:テトラヒドロフラン
流速 :0.6mL/分
カラム温度:40℃
【0039】
粘着剤組成物における(メタ)アクリル系共重合体の含有率は、目的に応じて適宜選択することができる。(メタ)アクリル系共重合体の含有率は、粘着剤組成物の固形分総質量中に、80質量%〜99質量%が好ましく、85質量%〜99質量%がより好ましく、90質量%〜98質量%が更に好ましい。なお、固形分総質量とは、粘着剤組成物から、溶剤などの揮発性成分を除いた残渣の総質量を意味する。
【0040】
(メタ)アクリル系共重合体の製造方法は、特に制限されない。例えば、溶液重合、乳化重合、懸濁重合及び塊状重合に代表される公知の重合方法で、単量体を重合して製造できる。これらの重合方法の中でも、処理方法が比較的簡単であり、かつ、短時間で行える点で溶液重合が好ましい。
【0041】
溶液重合は、一般に、重合槽内に所定の有機溶媒、単量体、重合開始剤、触媒及び必要に応じて連鎖移動剤を仕込み、窒素気流中又は有機溶媒の還流下で、撹拌しながら数時間加熱反応させることで行う。前記重合開始剤としては、特に制限されるものではなく、例えばアゾ系化合物を用いることができる。
なお、前述した(メタ)アクリル系共重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、反応温度、反応時間、有機溶媒量、触媒の種類や量を調整することにより、所望の分子量に調整できる。
【0042】
<エポキシ系架橋剤>
本発明の粘着剤組成物は、エポキシ系架橋剤を含有する。
また、本発明の粘着剤組成物は、前述した(メタ)アクリル系共重合体100質量部に対し、0.1〜20質量部のエポキシ系架橋剤を含有することが好ましい。
本発明の粘着剤組成物は、(メタ)アクリル系共重合体100質量部に対し、エポキシ系架橋剤を0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上含有すれば、前述したとおり(メタ)アクリル系共重合体が含む酸性基を有する単量体に由来する構成単位が架橋するため、本発明の粘着剤組成物の架橋密度が高くなり、被着体である光学部材への汚染をより抑制できるため好ましく、また、20質量部以下、より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは8質量部以下含有すれば、架橋密度が過度に高くなりすぎず、前述した加熱処理後に生じるジッピングをより抑制できるため好ましい。
通常エポキシ系架橋剤は、溶液状態で使用される。上記したエポキシ系架橋剤の質量部は、固形分換算値である。
なお、(メタ)アクリル系共重合体のエポキシ系架橋剤による架橋は、例えばイソシアネート系架橋剤を用いた架橋よりも架橋密度が高くなる傾向がある。
【0043】
エポキシ系架橋剤としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、2,2−ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリトリトールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、アジピン酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、トリス(グリシジル)イソシアヌレート、トリス(グリシドキシエチル)イソシアヌレート、1,3−ビス(N,N−グリシジルアミノメチル)シクロヘキサン及びN,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミンが挙げられる。これらのエポキシ系架橋剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
エポキシ系架橋剤が、トリス(グリシジル)イソシアヌレート、トリス(グリシドキシエチル)イソシアヌレート、1,3−ビス(N,N−グリシジルアミノメチル)シクロヘキサン及びN,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミンから成る群より選ばれる少なくとも1種であれば、粘着剤組成物の透明性がより優れることで光学部材保護フィルム用粘着剤組成物としてより好適となる。
【0045】
エポキシ系架橋剤は市販品を使用できる。
エポキシ系架橋剤の市販品は、例えば、三菱ガス化学社製 商品名テトラッド−C、テトラッド−Xが挙げられる。
【0046】
本発明の粘着剤組成物は、本発明の効果が発揮される範囲内において、エポキシ系架橋剤以外の架橋剤、例えば、イソシアネート系架橋剤、金属キレート系架橋剤を含有してもよい。
【0047】
<その他の成分>
本発明の粘着剤組成物は、本発明の効果が発揮される範囲内において、(メタ)アクリル系共重合体及びエポキシ系架橋剤以外の成分を含有してもよい。
前述した(メタ)アクリル系共重合体及びエポキシ系架橋剤以外の成分としては、例えば、溶剤、耐候性安定剤、タッキファイアー、架橋触媒、可塑剤、軟化剤、剥離助剤、染料、顔料、無機充填剤、界面活性剤、帯電防止剤、シランカップリング剤、(メタ)アクリル系共重合体以外のポリマー、重量平均分子量が数百から3万程度のオリゴマー及びポリエーテル変性シリコーンに代表されるシリコーン系剥離調整剤等が挙げられる。
【0048】
[光学部材保護フィルム]
本発明の光学部材保護フィルムは、基材と、前記基材上に設けられ本発明の粘着剤組成物に由来する粘着剤層と、を備える。すなわち、本発明の光学部材保護フィルムは、基材と、本発明の粘着剤組成物に由来する粘着剤層と、が積層されている。本発明の光学部材保護フィルムは、本発明の粘着剤組成物に由来する粘着剤層を備えることで、加熱処理後のジッピングを十分に抑制でき、かつ、耐汚染性も優れる。
【0049】
本発明の保護フィルムを構成する基材の材料は、特に制限されない。基材の材料としては、透視による光学部材の検査及び管理の観点から、例えば、ポリエステル系樹脂、アセテート系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びアクリル系樹脂が挙げられる。これらの中でも、基材の材料としては、表面保護性能の観点からは、ポリエステル系樹脂が好ましく、透明性及び耐熱性の観点からは、ポリエチレンテレフタレート系樹脂がより好ましい。
【0050】
基材の厚みは、特に制限されず、例えば、5μm〜500μmの範囲が好ましく、10μm〜200μmの範囲がより好ましい。
【0051】
基材の片面又は両面には、帯電防止層や易接着処理層を設けてもよい。また基材の、粘着剤層が設けられる側の表面には、粘着剤層との密着性を向上させるためにコロナ放電処理等が施されていてもよい。
【0052】
基材上には、本発明の粘着剤組成物に由来する粘着剤層が設けられている。
粘着剤層の形成方法としては、例えば、粘着剤組成物を、そのままで又は必要に応じて適宜の溶媒で希釈し、これを基材に塗布した後、乾燥して溶媒を除去する方法を採用することができる。
また、先ず、シリコーン樹脂等により離型処理が施された紙又はポリエステルフィルム等の適宜のフィルムからなる剥離シートの上に粘着剤組成物を塗布し、加熱乾燥して粘着剤層を形成し、次に、剥離シートの粘着剤層側を基材に圧接して、粘着剤層を基材に転写させる方法を採用することもできる。
【0053】
本発明における粘着剤層は、架橋剤によって、(メタ)アクリル系共重合体が架橋されてなる粘着剤層である。(メタ)アクリル系共重合体をエポキシ系架橋剤で架橋する条件は特に制限されない。例えば、23℃、50%RHの環境下で、4〜14日間養生することで、粘着剤組成物の架橋反応が終了し、粘着剤層が形成される。
【0054】
基材上に形成される粘着剤層の厚さは、光学部材保護フィルムに求められる粘着力、光学部材の表面粗さ等に応じて適宜設定することができる。粘着剤層の厚さとしては、一般に、1μm〜100μmであり、好ましくは5μm〜50μm、更に好ましくは15μm〜30μm程度を例示することができる。
【0055】
粘着剤層のゲル分率は、粘着力の観点から、80質量%以上100質量%以下の範囲が好ましく、90質量%以上100質量%以下の範囲がより好ましい。
【0056】
本発明の保護フィルムは、被着体である光学部材に積層して用いられる。被着体である光学部材は、液晶表示装置や有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置に代表される各種表示装置を構成する部材又はタッチパネルに代表される各種入力装置機器に用いられる部材が挙げられる。このような光学部材は、例えば、偏光板、波長板、位相差板、光学補償フィルム、輝度向上フィルム、光拡散フィルム、導光板、反射フィルム、反射防止フィルム、透明導電フィルム(ITOフィルム)、意匠フィルム、装飾フィルム、ハードコートフィルム、カラーフィルター、センサー付きガラス基板、フレキシブルプリント基板及びリジッドプリント配線基板が挙げられる。
なお、各種光学部材の材質は特に制限はない。例えば偏光板表面の材質としては、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ノルボルネン系樹脂が挙げられる。
【0057】
本発明の保護フィルムは、光学部材と積層後、例えば100℃〜250℃の範囲で加熱処理して用いられることが好ましい。本発明の保護フィルムは、例えば100℃〜250℃の加熱処理工程においては光学部材の表面を保護又は補強し、加熱処理工程後においてはジッピングを生じることなく容易に剥がすことができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその主旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例4は、本発明の参考例である。
【0059】
(製造例A−1)
温度計、攪拌機、窒素導入管及び逐次滴下装置を備えた反応容器内に、酢酸エチル70質量部を入れた。また、別の容器に単量体としてn−ブチルアクリレート(BA)89質量部、酸性基を有する単量体としてアクリル酸(AA)6質量部、アルキレンオキシド鎖を有する単量体としてメトキシポリエチレングリコールアクリレート[共栄社化学社製、商品名ライトアクリレート130A]5質量部を入れ、混合して単量体混合物とした。この単量体混合物の中の20質量%を反応容器中に加え、次いで反応容器の空気を窒素ガスで置換した後、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(以下、「AIBN」ともいう。)0.01質量部を添加して、攪拌下に窒素雰囲気中で、前記反応容器内の混合物温度を86℃に昇温させて、初期反応を開始させた。初期反応がほぼ終了した後、残りの単量体混合物80質量%、酢酸エチル20質量部及びAIBN0.07質量部の混合物をそれぞれ逐次添加しながら約2時間反応させ、引き続いて、さらに2時間反応させた。その後、酢酸エチル25質量部にAIBN0.12質量部を溶解させた溶液を1時間かけて滴下し、さらに1.5時間反応させた。反応終了後、トルエン60質量部を添加し、その後攪拌することで、(メタ)アクリル系共重合体(A−1)の溶液を得た。(メタ)アクリル系共重合体(A−1)の溶液の固形分は40.0質量%であった。また、重量平均分子量は50万であった。
なお、「固形分」とは(メタ)アクリル系共重合体の溶液から溶媒を除去した残渣である。
【0060】
[製造例(A−2)〜(A−9)]
製造例(A−1)において、表1に示す単量体組成に変更し、開始剤量他を適宜調整したこと以外は、製造例(A−1)と同様にして、(メタ)アクリル系共重合体(A−2)〜(A−9)の溶液を製造した。
【0061】
【表1】
【0062】
表1における略号は以下のとおりである。なお、表1中の「−」は、該当の成分を含まないことを示す。
・2EHA:2−エチルヘキシルアクリレート
・BA:n−ブチルアクリレート
・AA:アクリル酸
・MePEGA:メトキシポリエチレングリコールアクリレート(アルキレンオキシド単位の平均付加モル数は9)
【0063】
<実施例1>
攪拌羽根、温度計、冷却器、滴下ロートを備えた四つ口フラスコに製造例A−1で調製した、(メタ)アクリル系共重合体(A−1)の溶液(固形分40.0質量%)を250.0質量部(固形分として100質量部)、エポキシ系架橋剤としてN,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン[三菱ガス化学社製 商品名テトラッド−X、固形分20質量%]30.0質量部(固形分換算6.0質量部)を添加し、十分に攪拌して粘着剤組成物溶液を得た。実施例1の粘着剤組成物における酸性基を有する単量体に対する架橋剤当量は0.72である。
この粘着剤組成物溶液を用いて、以下の試験用保護フィルムの作製方法に従い、試験用保護フィルムを作製し、各種物性試験を行った。得られた結果を表2に示す。
【0064】
[評価]
(1)試験用保護フィルムの作製
基材として、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(商品名:ルミラーU35、東レ社製、厚み125μm)上に、乾燥後の塗工量が20g/mとなるように粘着剤組成物を塗工し、100℃で60秒間熱風循環式乾燥機にて乾燥させた。次いで、粘着剤組成物を塗工したPETフィルムと、シリコーン系離型剤で表面処理された離型フィルム(商品名:フィルムバイナ100E−0010NO23、厚み100μm、藤森工業社製)とを、粘着剤組成物が塗工された面が離型フィルムの表面処理面に接するように重ね合せて積層体とした。この積層体を加圧ニップロール対に通して圧着して貼り合わせた後、23℃、50%RHの条件下で7日間、架橋反応が完了するまで養生して試験用保護フィルムを作製した。
【0065】
(2)剥離性
上記で作製した試験用保護フィルムを25mm×150mmの大きさに切断し、得られた試験用保護フィルム片から離型フィルムを剥がし、ハードコート処理されたPETフィルム(商品名:KBフィルムG01S、きもと社製)のハードコート処理された面に貼り合わせ、2kgのゴムローラーを1往復して圧着し、試験片を得た。この試験片を23℃、50%RH環境下で1時間放置して、加熱処理前の剥離性の試験片とした。また、別の試験片を準備し、同様に23℃、50%RH環境下で1時間放置後、150℃環境下で60分間加熱処理を行い、続いて23℃、50%RH環境下で1時間放置して加熱処理後の剥離性の試験片とした。
それぞれの試験片について、長辺(150mm)方向に剥離した場合の180°剥離における粘着力(単位:N/25mm)を剥離速度10m/分の条件で測定し、以下の評価基準に従って、剥離性を評価した。評価結果を表2に示す。粘着力の大きさにより、加熱処理後の剥離性の優劣を評価した。加熱処理前及び加熱処理後のいずれにおいても、試験用保護フィルムの粘着力が過度に高い場合、被着体から剥離できず、剥離性が劣り、保護フィルムとして不適である。また、粘着力が過度に低い場合、被着体から意図せぬ剥落が生じやすく、剥離性が劣り、保護フィルムとして不適である。
なお、「/」を挟んで2つの値が記載されている評価結果は、ジッピングにより2つの値の間で粘着力が変動したことを示している。
【0066】
−評価基準−
(剥離性)
AA:加熱処理前及び加熱処理後の粘着力がいずれも0.05N/25mm以上かつ0.5N/25mm未満であり、加熱処理前及び加熱処理後のいずれも剥離性に優れる。
A:上記AAの基準を満たさず、加熱処理前及び加熱処理後の粘着力がいずれも0.05N/25mm以上かつ1.0N/25mm未満であり、加熱処理前及び加熱処理後のいずれも剥離性が良好である。
B:加熱処理前または加熱処理後の少なくとも一方の粘着力が1.0N/25mm以上であり、加熱処理前及び加熱処理後の少なくとも一方の剥離性が劣り、保護フィルムとして不適である。
C:加熱処理前または加熱処理後の少なくとも一方の粘着力が0.05N/25mm未満であり、加熱処理前及び加熱処理後の少なくとも一方の剥離性が劣り、保護フィルムとして不適である。
【0067】
(3)ジッピング
上記の「(2)剥離性」において、加熱処理後の粘着力測定後における被着体の状態を、以下の基準で評価した。評価結果を表2に示す。
【0068】
−評価基準−
(ジッピング)
A:加熱処理後の粘着力測定時に剥離音が発生せず、測定後の被着体に息を吹きかけた後の状態を目視で観察したところ、試験用保護フィルムの剥離痕(ジッピングライン)が見えない。
B:加熱処理後の粘着力測定時に剥離音が発生し、測定後の被着体に息を吹きかけた後の状態を目視で観察したところ、試験用保護フィルムの剥離痕(ジッピングライン)が見える。
【0069】
(4)耐汚染性
上記の「(2)剥離性」において、試験片から試験用保護フィルムを剥離した後のハードコート処理されたPETフィルムのハードコート処理面上に、2μLの純水を滴下し、滴下から30秒後に、接触角測定装置(装置名:Drop Master DM−701、協和界面科学社製)を用いて、水の接触角(θ1)を測定した。
得られた値を耐汚染性の指標とし、以下の基準に従って評価した。評価結果を表2に示す。
【0070】
−評価基準−
A:θ1が75°以下であり、耐汚染性が優れる。
B:θ1が80°未満であり、耐汚染性が劣る。
C:θ1が80°以上であり、耐汚染性が非常に劣る。
【0071】
<実施例2〜5及び比較例1〜4>
各実施例2〜5及び各比較例1〜4では、実施例1における(メタ)アクリル系共重合体の組成及びエポキシ系架橋剤の部数を表2に示すものにした以外は、実施例1と同様にして粘着剤組成物を得た。
なお、表2におけるエポキシ系架橋剤の部数は、固形分換算値である。
得られた粘着剤組成物を用い、実施例1と同様にして、試験用保護フィルムを作製した。そして、作製した試験用保護フィルムについて、実施例1と同様にして、加熱処理前及び加熱処理後のそれぞれの剥離性、ジッピング、耐汚染性の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
表2に示すように、実施例1〜5の粘着剤組成物は、いずれも、加熱処理後のジッピングを十分抑制でき、加熱処理前及び加熱処理後の剥離性が良好で、かつ、耐汚染性が優れるため、光学部材保護フィルム用の粘着剤組成物として適している。
一方、アルキレンオキシド鎖を有する単量体に由来する構成単位を含まない(メタ)アクリル系共重合体を含有する比較例1の粘着剤組成物は、加熱処理前及び加熱処理後のそれぞれの粘着力が過度に小さく剥離性が劣り、加熱処理後にジッピングが生じたため、光学部材保護フィルム用の粘着剤組成物として不適であった。
また、アルキレンオキシド鎖を有する単量体に由来する構成単位を含まない(メタ)アクリル系共重合体を含有する比較例2の粘着剤組成物は、加熱処理後にジッピングが生じたため、光学部材保護フィルム用の粘着剤組成物として不適であった。
また、酸性基を有する単量体に由来する構成単位の含有量が(メタ)アクリル系共重合体100質量%に対し3質量%未満である比較例3の粘着剤組成物は、粘着力が過度に高く加熱処理後の剥離性が劣り、かつ耐汚染性が劣るため、光学部材保護フィルム用の粘着剤組成物として不適であった。
さらに、酸性基を有する単量体に由来する構成単位の含有量が(メタ)アクリル系共重合体100質量%に対し9質量%を超える比較例4の粘着剤組成物は、加熱処理前及び加熱処理後の粘着力が過度に小さく剥離性が劣り、かつ加熱処理後にジッピングが生じたため、光学部材保護フィルム用の粘着剤組成物として不適であった。