【文献】
Journal of Thermal Analysis and Calorimetry,2004,Vol.75,pp.727−738
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
pH5.5〜10.0では流動性を有し、且つpH5.5未満において増粘及び/又は固形化する液状食品組成物であって、アルギン酸、及びその塩からなる群より選択される1種以上、二価金属塩、及び植物性タンパク質を含み、前記植物性タンパク質がSDS−PAGE電気泳動デンシトメトリー解析において、ピクセル強度頻度の積算値50%における相対移動度(Rf値)が0.7以上、0.80以下であり、
アルギン酸、及びその塩からなる群より選択される1種以上の含量が0.3重量%以上、5.0重量%以下であり、
植物性タンパク質の含量が4.0重量%以上、20重量%以下であり、
植物性タンパク質が大豆タンパク質の分解処理物である、液状食品組成物。
植物性タンパク質に含まれる7Sグロブリンの含量が0.01重量%以上、21重量%未満、且つ、11Sグロブリンの含量が0.01重量%以上、41重量%未満である、請求項1に記載の液状食品組成物。
アルギン酸、及びその塩からなる群より選択される1種以上と植物性タンパク質の含量比が0.05以上、2.5以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の液状食品組成物。
アルギン酸、及びその塩からなる群より選択される1種以上と7Sグロブリン質の含量比が0.07より大きく、200000以下である、請求項2〜4のいずれか1項に記載の液状食品組成物。
アルギン酸、及びその塩からなる群より選択される1種以上と11Sグロブリン質の含量比が0.04より大きく、200000以下である、請求項2〜5のいずれか1項に記載の液状食品組成物。
アルギン酸、及びその塩からなる群より選択される1種以上 、二価金属塩、及び植物性タンパク質を含む液状食品組成物において、前記植物性タンパク質としてRf値が0.7以上、0.80以下である大豆タンパク質の分解処理物を、
アルギン酸、及びその塩からなる群より選択される1種以上の含量が0.3重量%以上、5.0重量%以下、
大豆タンパク質の分解処理物の含量が4.0重量%以上、20重量%以下となるように用いる、pH5.5未満における液状食品組成物の固形化を向上する方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、例えば、特許文献1に記載の方法は、栄養食品の流動性が低下しているため、経管投与時に栄養食品がチューブを通過し難いとの特徴がある。そのため、栄養食品の摂取に長時間を要することになり、摂取者にとって負担となることや座位保持による褥瘡の発生及び悪化の原因になるなどの問題がある。また、特許文献2に記載の方法は、栄養食品に別途ゲル化剤を添加するものであり操作が煩雑となる。そのため、栄養食品の利用時には、調製に手間と時間が必要になる上、操作中の雑菌の混入等、衛生面においても問題が懸念される。
【0007】
一方、特許文献3に記載の組成物は、上述の問題に対してある程度の抑制効果を期待できる。しかしながら、特許文献3の組成物は胃の条件下における組成物のゲル化が十分ではないため、胃食道逆流症、嘔吐、食道炎、肺炎、窒息、下痢等の発生リスクを十分に低減できるものではなく、上述の問題は未だ解決されていない。
【0008】
本発明者らは、上記の特許文献3における問題を解決するため、例えば、特許文献4、5に記載の植物性タンパク質を、水溶性食物繊維、ミネラル等を配合した液状食品組成物に添加することを検討した。しかしながら、胃食道逆流症、嘔吐、食道炎、肺炎、窒息、下痢等の発生に対しては、胃内条件下で形成されるゲル状物のゲル強度の向上によっては改善することができなかった。すなわち、上記問題の発生は胃内で固形化せずに残存する未固形物の存在が原因であり、そのような未固形分の低減が重要であること、つまり、胃内条件下において組成物が固形化する際の効率の向上が必要であるとの問題を見出した。
以上の問題等に鑑みて、本発明の目的は、簡便に摂取及びチューブを介した投与が可能であり、且つ、胃内の条件下における組成物の固形化率の向上により、胃食道逆流症、嘔吐、食道炎、肺炎、窒息、下痢等の防止、及び満腹感促進が可能な液状食品組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、グロブリン等のタンパク質を構成する分子の含量が低減された植物性タンパク質、水溶性食物繊維、二価金属塩等を配合することにより、胃内条件下での固形化率が向上された組成物を提供できることを見出した。特に固形化率が、56%より大きい態様において、目的の効果が十分に期待できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1)pH5.5〜10.0では流動性を有し、且つpH5.5未満において増粘及び/又は固形化する液状食品組成物であって、アルギン酸、その塩及びペクチンからなる群より選択される1種以上、二価金属塩、植物性タンパク質を含み、前記植物性タンパク質がSDS−PAGE電気泳動デンシトメトリー解析において、ピクセル強度頻度の積算値50%における相対移動度(Rf値)が0.6より大きい、液状食品組成物。あるいは、pH5.5〜10.0では流動性を有し、且つpH5.5未満において増粘及び/又は固形化する液状食品組成物であって、アルギン酸、その塩及びペクチンからなる群より選択される1種以上、二価金属塩、植物性タンパク質を含み、前記植物性タンパク質に含まれる7Sグロブリンの含量が0.01重量%以上、21重量%未満、及び/又は11Sグロブリンの含量が0.01重量%以上、41重量%未満である、液状食品組成物。
(2)植物性タンパク質に含まれる7Sグロブリンの含量が0.01重量%以上、21重量%未満、且つ、11Sグロブリンの含量が0.01重量%以上、41重量%未満である、(1)に記載の液状食品組成物。
(3)11Sグロブリンと7Sグロブリンの含量比(〔11Sグロブリン〕/〔7Sグロブリン〕、重量基準)が0.0005より大きく、4100未満である、(2)に記載の液状食品組成物。
(4)アルギン酸、その塩及びペクチンからなる群より選択される1種以上と植物性タンパク質の含量比(〔アルギン酸、その塩及びペクチンからなる群より選択される1種以上〕/〔植物性タンパク質〕、重量基準)が0.05以上、4以下である、(1)〜(3)のいずれかに記載の液状食品組成物。
(5)アルギン酸、その塩及びペクチンからなる群より選択される1種以上と7Sグロブリン質の含量比(〔アルギン酸、その塩及びペクチンからなる群より選択される1種以上〕/〔7Sグロブリン〕、重量基準)が0.07より大きく、200000以下である、(2)〜(4)のいずれかに記載の液状食品組成物。
(6)アルギン酸、その塩及びペクチンからなる群より選択される1種以上と11Sグロブリン質の含量比(〔アルギン酸、その塩及びペクチンからなる群より選択される1種以上〕/〔11Sグロブリン〕、重量基準)が0.04より大きく、200000以下である、(2)〜(5)のいずれかに記載の液状食品組成物。
(7)植物性タンパク質が大豆タンパク質である、(1)〜(6)のいずれかに記載の液状食品組成物。
(8)7Sグロブリンがβ−コングリシニンである、(2)〜(7)のいずれかに記載の液状食品組成物。
(9)11Sグロブリンがグリシニンである、(2)〜(8)のいずれかに記載の液状食品組成物。
(10)二価金属塩がカルシウム化合物及び/又はマグネシウム化合物である、(1)〜(9)のいずれかに記載の液状食品組成物。
(11)経鼻カテーテル又は胃瘻カテーテルに接続可能な容器に充填された、(1)〜(10)のいずれかに記載の液状食品組成物。
(12)流動食又は経管栄養を必要とする疾患又は状態の処置において使用する、(1)〜(11)のいずれかに記載の液状食品組成物。
(13)アルギン酸、その塩及びペクチンからなる群より選択される1種以上 、二価金属塩、及び植物性タンパク質を含む液状食品組成物において、前記植物性タンパク質としてRf値が0.6より大きいものを用いる、pH5.5未満における液状食品組成物の増粘及び/又は固形化を向上する方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の液状食品組成物は、胃内の酸性条件における固形化の効率が優れていることから、胃食道逆流症、誤嚥性肺炎、下痢等の発生リスクをより効果的に低減できる。さらに、摂取時にゲル化剤等を別途添加する手間が不要であり、また液体であるため経管栄養法においても簡便に摂取することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の液状食品組成物は、組成物のpHが中性条件である場合には、その液状の物性が安定に維持される。さらに、摂取後の胃内において組成物のpHが酸性条件となった場合には、その性状が液状から固形状に変化する。すなわち、本液状食品組成物は、調製中・流通中・保存中・摂取時等における組成物の形態としては液体である。また、摂取後の胃液との混合時において、固形状に形状変化する性質を有する。
【0014】
本発明における中性条件とは、摂取時や保存中等において液状食品組成物のその液状の物性が損なわれない範囲であれば、特に限定されるものではない。中性条件のpHの下限は、pH5.5以上が好ましく、pH6.0以上がより好ましく、pH6.5以上がさらに好ましい。また、中性条件のpHの上限は、下限がいずれの場合であっても、pH10.0以下が好ましく、pH9.5以下がより好ましく、pH9.0以下がさらに好ましい。pH下限がpH5.5未満の場合、組成物の液状の物性を維持することが難しく、pH上限が10.0より大きい場合、組成物に含まれる栄養成分の劣化、分解が懸念され、好ましくない。
【0015】
本発明における酸性条件とは、液状食品組成物が固形状に形状変化する範囲であれば、特に限定されるものではない。酸性条件のpH上限は、pH5.5未満が好ましく、pH5.0以下がより好ましく、pH4.5以下がさらに好ましく、pH4.0以下が特に好ましい。酸性条件のpH上限がpH5.5以上の場合、酸性条件における組成物の固形状への形状変化が十分に成されない場合があり、好ましくない。
【0016】
本発明における「液体」、「液状の性状」又は「流動性を有する」とは、当該食品組成物が経管的(例えば、経鼻チューブ、胃瘻チューブ)に投与可能な状態を意味する。経管的に投与する際の簡便性が損なわれない範囲であれば、その粘度は特に限定されないが、例えば1000cP以下が好ましく、500cP以下がより好ましく、300cP以下がさらに好ましく、200cP以下が特に好ましい。なお、本発明おいて粘度の値を示すときは、特に記載した場合を除き、25℃における値である。
【0017】
本発明における「固形化」、「固形状への形状変化」又は「増粘及び/又は固形化する」とは、当該液状食品組成物の液状の性状が酸性条件において変化した状態であり、液状食品組成物の不溶化、粘度の増加、ゾル化、ゲル化などの状態を意味し、固形化率で評価することができる。
本発明における固形化率とは、前記液状食品組成物の酸性条件における形状変化の効率を意味する指標であり、固形化率が高い程、酸性条件にて組成物が効率的に固形状に変化することを意味し、液体(未固形分)の存在量が少なくなる。
本発明における固形化率は、56%より大きいことが好ましく、65%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましく、80%以上が特に好ましい。なお、本発明で固形化率を示したときは、特に記載した場合を除き、本明細書の実施例の<酸性条件における固形化率の確認試験>の項に記載した方法による測定値である。
【0018】
本発明における液状食品組成物は、アルギン酸、その塩及びペクチンからなる群より選択される1種以上、又はアルギン酸及び/又はその塩、ペクチンを含む。アルギン酸の塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩の使用が適しているが、液状から固形状への良好な形状変化の観点から、それらの中でも、アルギン酸ナトリウムの使用が好ましい。また、ペクチンは、高メトキシル化(HM)−ペクチン、低メトキシル化(LM)−ペクチンの使用が適しているが、液状から固形状への良好な形状変化の観点から、それらの中でも、LM−ペクチンの使用が好ましい。また、それらは単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。液状食品組成物に対してアルギン酸、その塩及びペクチンからなる群より選択される1種以上の含量(2種以上用いる場合は総量)の下限は、0.3重量%以上が好ましく、0.5重量%以上がより好ましく、0.7重量%以上がさらに好ましく、1.0重量%以上が特に好ましい。0.3重量%未満では、酸性条件における液状食品組成物の固形化が不十分となる場合があり、好ましくない。また、アルギン酸、その塩及びペクチンからなる群より選択される1種以上の上限は、下限がいずれの場合であっても、5.0重量%以下が好ましく、2.5重量%以下がより好ましく、2.0重量%以下がさらに好ましく、1.5重量%以下が特に好ましい。5.0重量%よりも多い場合、液状食品組成物の粘性が増加するため、組成物の液状の物性が損なわれる可能性があり、好ましくない。
【0019】
本発明における液状食品組成物は、二価金属塩を含む。本発明における二価金属塩は、カルシウム化合物及び/又はマグネシウム化合物より選択できる。例えば、カルシウム化合物としては、塩化カルシウム、グルコン酸カルシウム、酢酸カルシウム、水酸化カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸三カルシウム、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、ピロリン酸二水素カルシウム、リン酸一水素カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ケイ酸カルシウムの使用が好ましく、その中でも、中性条件で難溶性のカルシウム化合物の使用がより好ましく、炭酸カルシウム、ピロリン酸二水素カルシウム、リン酸三カルシウムの使用がさらに好ましい。また、マグネシウム化合物は、塩化マグネシウム、酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、リン酸三マグネシウム、ケイ酸マグネシウムなどの使用が好ましく、その中でも、中性条件で難溶性のマグネシウム化合物の使用がより好ましく、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウムの使用がさらに好ましい。これらのカルシウム化合物及び/又はマグネシウム化合物は単独又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
なお、本発明における難溶性とは、日本薬局方通則に記載されている溶解性の基準に従った場合、「やや溶けにくい」〜 「ほとんど溶けない」の範囲にあるものを意味する。より詳しくは、溶質を水中に入れ、20±5℃ で5分ごとに強く30秒間振り混ぜるとき、溶質1g又は1mlを30分以内に溶かすのに必要な水の量が30ml以上であることを意味する。さらに、本発明の難溶性カルシウム化合物及び/又は難溶性マグネシウム化合物は、20±5℃の水に対する溶解度が、100mg/100ml以下が好ましく、75mg/100mlがより好ましく、50mg/100ml以下がさらに好ましい。
【0020】
また、前記二価金属塩は上記のいずれを使用してもよく、その組合せも特に限定されないが、中性領域における溶解性と食品での使用に適する組合せとして炭酸カルシウムと炭酸マグネシウムの組合せが好ましい。さらに、液状食品組成物中での二価金属塩の含量は、液状食品組成物の摂取者や投与者が栄養的に満足し得る量であれば特に限定されないが、カルシウム含量の下限は、2μg/100ml以上、好ましくは2mg/100ml以上、より好ましくは20mg/100ml以上、さらに好ましくは50mg/100ml以上、よりさらに好ましくは100mg/100ml以上、特に好ましくは150mg/100ml以上である。また、二価金属塩の上限は、下限がいずれの場合であっても、3500mg/100ml以下、好ましくは2400mg/100ml以下、より好ましくは1100mg/100ml以下、さらに好ましくは600mg/100ml以下、特に好ましくは350mg/100ml以下である。炭酸カルシウムと炭酸マグネシウムを組合せて用いる場合、液状食品組成物中でのカルシウム含量の下限は、マグネシウム含量がいずれの場合であっても、1μg/100ml以上、好ましくは1mg/100ml以上、より好ましくは10mg/100ml以上、さらに好ましくは30mg/100ml以上、よりさらに好ましくは50mg/100ml以上、特に好ましくは75mg/100ml以上である。また、カルシウム含量の上限は、下限がいずれの場合であっても、3000mg/100ml以下、好ましくは2000mg/100ml以下、より好ましくは1000mg/100ml以下、さらに好ましくは500mg/100ml以下、特に好ましくは250mg/100ml以下である。また、マグネシウム含量の下限は、カルシウム含量がいずれの場合であっても、1μg/100ml以上、好ましくは1mg/100ml以上、より好ましくは10mg/100ml以上、さらに好ましくは15mg/100ml以上、よりさらに好ましくは20mg/100ml以上、特に好ましくは35mg/100ml以上である。また、マグネシウム含量の上限は、下限がいずれの場合であっても、500mg/100ml以下、好ましくは350mg/100ml以下、より好ましくは100mg/100ml以下、さらに好ましくは75mg/100ml以下、特に好ましくは50mg/100ml以下である。
【0021】
本発明における液状食品組成物は、植物性タンパク質を含む。前記植物性タンパク質は、SDS−PAGE電気泳動パターンのデンシトメトリー解析より得られる「ピクセル強度頻度の積算値50%における相対移動度(Rf値)」が0.6より大きいものであれば、特に限定されないが、0.7以上がより好ましく、0.8以上がさらに好ましい。また、「ピクセル強度頻度の積算値50%における相対移動度(Rf値)」の上限は、下限がいずれの場合であっても、0.99以下が好ましく、0.95以下がより好ましく、0.90以下がさらに好ましい。前記相対移動度(Rf値)が0.6以下の場合、前記植物性タンパク質の分解が不十分であるため、液状食品組成物の酸性条件での形状変化の性質を十分に発揮できない場合がある。また、前記相対移動度(Rf値)が0.99より大きい場合は組成物の浸透圧が高くなり、下痢を誘発しやすくなる場合がある。
本発明の「ピクセル強度」とは、電気泳動パターンをデンシトメーター(光学密度測定機)にて取り込んだ際に得られる濃度値を意味し、タンパク質濃度に相関するものである。また、SDS-PAGE電気泳動法は、タンパク質の構成分子を分子量に従って分離する方法である。
【0022】
本発明の「相対移動度」(Rf値:Relative to front値)とは、電気泳動時における先行色素(ブロモフェノールブルー)の泳動距離を“1”とした場合における各バンドの相対的な移動距離を意味し、“1”に近い数値になる程、分子量が小さい。
【0023】
本発明の「ピクセル強度頻度の積算値50%」とは、電気泳動により分離された植物性タンパク質の構成分子の“分布の中央値”を意味する。よって、「ピクセル強度頻度の積算値50%におけるRf値」とは、前記植物性タンパク質の構成分子の“分布の中央値”に対応する相対移動度を意味し、積算値50%におけるRf値が“1”に近い数値になる程、前記植物性タンパク質の分解が進んでいることを意味する。
本発明における植物性タンパク質は、植物性タンパク質に含まれるグロブリンの含量が少ない方が好ましく、特に7Sグロブリン及び/又は11Sグロブリンの含量が少ない方がより好ましい。なお、7Sグロブリン及び11Sグロブリンの植物タンパク質中の含量及び液状食品組成物中の含量は、SDS−PAGE電気泳動パターンのデンシトメトリー解析より、測定することができる。
【0024】
具体的には、植物性タンパク質に対して7Sグロブリンの含量の下限は、0.01重量%以上が好ましく、0.05重量%以上がより好ましく、0.1重量%以上がさらに好ましい。また、7Sグロブリンの含量の上限は、下限がいずれの場合であっても、21重量%未満が好ましく、15重量%以下がより好ましく、6重量%以下がさらに好ましい。植物性タンパク質に含まれる7Sグロブリン含量が0.01重量%未満であると、組成物の浸透圧が高くなり、下痢を誘発しやすくなる場合があり好ましくない。また、7Sグロブリン含量が21重量%以上であると、前記植物性タンパク質の分解が不十分であるため、液状食品組成物の酸性条件での形状変化の性質を十分に発揮できない場合があり好ましくない。なお、前記7Sグロブリン含量は、植物性タンパク質あたりの重量%として算出するものとする。
【0025】
また、前記植物性タンパク質に対して11Sグロブリンの含量の下限は、0.01重量%以上が好ましく、0.05重量%以上がより好ましく、0.1重量%以上がさらに好ましい。また、11Sグロブリンの含量の上限は、下限がいずれの場合であっても、41重量%未満が好ましく、32重量%以下がより好ましく、20重量%以下がさらに好ましい。植物性タンパク質に含まれる11Sグロブリン含量が0.01重量%未満であると、組成物の浸透圧が高くなり、下痢を誘発しやすくなる場合があり好ましくない。また、11Sグロブリン含量が41重量%以上であると、前記植物性タンパク質の分解が不十分であるため、液状食品組成物の酸性条件での形状変化の性質を十分に発揮できない場合があり好ましくない。なお、前記11Sグロブリン含量は、植物性タンパク質あたりの重量%として算出するものとする。
【0026】
また、液状食品組成物に対する7Sグロブリン分子及び/又は11Sグロブリンの含量は、液状食品組成物に対する前記植物性タンパク質の添加量により適宜調整することができ、特に限定されない。具体的には、液状食品組成物に対して7Sグロブリン含量の下限は、0.000025重量%以上が好ましく、0.001重量%以上がより好ましく、0.01重量%以上がさらに好ましく、0.015重量%以上がさらにより好ましく、0.06重量%以上が特に好ましい。また、液状食品組成物に対する7Sグロブリン含量の上限は、下限がいずれの場合であっても、4.2量%以下が好ましく、3.0重量%以下がより好ましく、2.1重量%以下がさらに好ましく、1.2重量%以下がさらにより好ましく、0.6重量%以下が特に好ましい。液状食品組成物に対する7Sグロブリン含量が0.000025重量%未満であると、組成物の浸透圧が高くなり、下痢を誘発しやすくなる場合があり好ましくない。また、液状食品組成物に対する7Sグロブリン含量が4.2重量%を超えると、前記植物性タンパク質の分解が不十分であるため、液状食品組成物の酸性条件での形状変化の性質を十分に発揮できない場合があり好ましくない。
【0027】
また、液状食品組成物に対する11Sグロブリン含量の下限は、0.000025重量%以上が好ましく、0.001重量%以上がより好ましく、0.01重量%以上がさらに好ましく、0.05重量%以上がさらにより好ましく、0.2重量%以上が特に好ましい。また、液状食品組成物に対する11Sグロブリン含量の上限は、下限がいずれの場合であっても、8.2重量%以下が好ましく、6.4重量%以下がより好ましく、4.0重量%以下がさらに好ましく、3.0重量%以下がさらにより好ましく、2.0重量%以下が特に好ましい。液状食品組成物に対する11Sグロブリン含量が0.000025重量%未満であると、組成物の浸透圧が高くなり、下痢を誘発しやすくなる場合があり好ましくない。また、液状食品組成物に対する11Sグロブリン含量が8.2重量%を超えると、前記植物性タンパク質の分解が不十分であるため、液状食品組成物の酸性条件での形状変化の性質を十分に発揮できない場合があり好ましくない。
【0028】
本発明における植物性タンパク質は、大豆、えんどう豆、米、小麦、トウモロコシ等の群より選択することができ、栄養面の観点から大豆由来の植物性タンパク質が好ましい。なお、前記植物性タンパク質が大豆に由来する場合には、7Sグロブリンをβ−コングリシニン、11Sグロブリンをグリシニンと呼称する。
【0029】
本発明における植物性タンパク質は分解処理されたものが好ましい。上記したような特定の分解度を有する植物性タンパク質を得るための方法は、特に限定されるものではなく、いずれの方法を利用しても良い。例えば、塩酸等の酸を使用した酸加水分解法、あるいはプロテアーゼ等の酵素を使用した酵素加水分解法等を挙げることができる。それらの方法の実施に際しての条件は、上記の分解度を有する植物性タンパク質を得ることができるものであれば、特に限定されるものではない。また、本発明の植物性タンパク質は上記の分解度を有するものであれば良く、必ずしも分解処理によって得られた植物性タンパク質である必要はない。例えば、大豆を例に挙げると、7Sグロブリン分子が欠失した品種、11Sグロブリン分子が欠失した品種(例えば、東山205号)等の大豆品種が知られており、それら品種の大豆より得た植物性タンパク質を利用した場合にも、本発明の効果を発揮することができる。
【0030】
本発明における前記植物性タンパク質は、11Sグロブリンと7Sグロブリンの含量比(〔11Sグロブリン〕/〔7Sグロブリン〕、重量基準)が、0.0005より大きいことが好ましく、0.0007以上であることがより好ましく、0.002以上であることがさらに好ましく、1以上であることがさらにより好ましく、2以上であることが特に好ましい。また、11Sグロブリンと7Sグロブリンの含量比が、4100未満であることが好ましく、800以下であることがより好ましく、400以下であることがさらに好ましく、6.8以下であることがさらにより好ましく、5以下であることが特に好ましい。11Sグロブリンと7Sグロブリンの含量比が0.0005以下、又は4100以上であると、酸性条件における固形化率が低下する場合があり、好ましくない。
【0031】
また、11Sグロブリンと7Sグロブリンの含量比(〔11Sグロブリン〕/〔7Sグロブリン〕、重量基準)は、液状食品組成物に対する11Sグロブリンと7Sグロブリンの含量からも計算することもできる。具体的には、0.0005より大きいことが好ましく、0.0007以上であることがより好ましく、0.002以上であることがさらに好ましく、1以上であることがさらにより好ましく、2以上であることが特に好ましい。また、いずれの場合であっても、11Sグロブリンと7Sグロブリンの含量比が、4100未満であることが好ましく、800以下であることがより好ましく、400以下であることがさらに好ましく、6.8以下であることがさらにより好ましく、5以下であることが特に好ましい。11Sグロブリンと7Sグロブリンの含量比が0.0005以下、又は4100以上であると、酸性条件における固形化率が低下する場合があり、好ましくない。
【0032】
本発明における前記植物性タンパク質の含量は、液状食品組成物の摂取者や投与者が栄養的に満足し得る量であれば特に限定されるものではないが、液状食品組成物に対して0.25重量%以上が好ましく、0.5重量%以上がより好ましく、1.0重量%以上がさらに好ましく、2.0重量%以上がさらにより好ましく、4.0重量%以上が特に好ましい。また、前記植物性タンパク質の含量の上限は、下限がいずれの場合であっても、液状食品組成物に対して20.0重量%以下が好ましく、10.0重量%以下がより好ましく、7.5重量%以下がさらに好ましく、5.0重量%以下がさらにより好ましい。植物性タンパク質の含量が0.25重量%未満では、タンパク質成分の補給の観点から好ましくない。また、前記含量が20.0%重量より大きいと、液状食品組成物の粘度が増加するとの問題があり好ましくない。
【0033】
本発明における前記アルギン酸、その塩及びペクチンからなる群より選択される1種以上と、前記植物性タンパク質の含量比(〔アルギン酸、その塩及びペクチンからなる群より選択される1種以上〕/〔植物性タンパク質〕、重量基準)は、液状食品組成物の酸性条件における固形化の効率に影響するため、前記含量比の下限は、0.05以上が好ましく、0.1以上がより好ましく、0.2以上がさらに好ましい。また、前記含量比の上限は、下限がいずれの場合であっても、4.0以下が好ましく、3.0以下がより好ましく、2.5以下がさらに好ましく、2.0以下がさらにより好ましく、1.0以下が特にこのましい。アルギン酸、その塩及びペクチンからなる群より選択される1種以上と植物性タンパク質の含量比が0.05未満、又は4.0より大きいと、酸性条件における固形化率が低下する場合があり好ましくない。
【0034】
また、本発明における前記アルギン酸、その塩及びペクチンからなる群より選択される1種以上と、前記7Sグロブリン質の含量比(〔アルギン酸、その塩及びペクチンからなる群より選択される1種以上〕/〔7Sグロブリン〕、重量基準)は、液状食品組成物の酸性条件における固形化の効率に影響するため、前記含量比の下限は、0.07より大きいことが好ましく、0.24以上がより好ましく、0.5以上がさらに好ましく、0.8以上がさらにより好ましく、1.7以上が特に好ましい。また、前記アルギン酸、その塩及びペクチンからなる群より選択される1種以上と、前記7Sグロブリン質の含量比の上限は、下限がいずれの場合であっても、200000以下であることが好ましく、1000以下がより好ましく、100以下がさらに好ましく、67以下がさらにより好ましく、17以下が特に好ましい。アルギン酸、その塩及びペクチンからなる群より選択される1種以上と、前記7Sグロブリン質の含量比が0.07以下、又は200000より大きいと、酸性条件における固形化率が低下する場合があり好ましくない。なお、前記含量比は、液状食品組成物に対するアルギン酸、その塩及びペクチンからなる群より選択される1種以上含量と、液状食品組成物に対する7Sグロブリン含量より計算される。
【0035】
また、本発明における前記アルギン酸、その塩及びペクチンからなる群より選択される1種以上と、前記11Sグロブリン質の含量比(〔アルギン酸、その塩及びペクチンからなる群より選択される1種以上〕/〔11Sグロブリン〕、重量基準)は、液状食品組成物の酸性条件における固形化の効率に影響するため、0.04より大きいことが好ましく、0.12より大きいことがより好ましく、0.16以上がさらに好ましく、0.25以上がさらにより好ましく、0.5以上が特に好ましい。また、前記アルギン酸、その塩及びペクチンからなる群より選択される1種以上と前記11Sグロブリン質の含量比の上限は、下限がいずれの場合であっても、200000以下が好ましく、1000以下がより好ましく、100以下がさらに好ましく、20以下がさらにより好ましく、5以下が特に好ましい。アルギン酸、その塩及びペクチンからなる群より選択される1種以上と、前記11Sグロブリン質の含量比が0.04以下、又は200000より大きいと、酸性条件での固形化率が低下する場合があり好ましくない。なお、前記含量比は、液状食品組成物に対するアルギン酸、その塩及びペクチンからなる群より選択される1種以上含量と、液状食品組成物に対する11Sグロブリン含量より計算される。
【0036】
本発明における液状食品組成物は、油を含んでも良い。油の種類は特に限定はされず液状、半固形状、固形状のいずれ油、又は脂肪酸を含む油を用いても良い。具体的には、大豆油、コーン油、ナタネ油、パーム油、パーム核油、サフラワー油、オリーブ油、エゴマ油、ゴマ油、魚油、牛脂、ラードなどの油のほか、例えば、ステアリン酸などの飽和脂肪酸を含む油や、オレイン酸、α−リノレン酸、γ−リノレン酸、リノール酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、アラキドン酸などの不飽和脂肪酸を含む油、さらに、中鎖脂肪酸などを含む油(MCT)などを含んでも良く、それらを組み合わせて使用することもできる。また、液状食品組成物に対する油の含量は特に限定されるものではなく、組成物の配合により適正量が変わるが液状食品組成物の摂取者や投与者が栄養的に満足し得る量であればよい。具体的には、液状食品組成物に対して油の含量の下限は、0.01重量%以上、好ましくは0.20重量%以上、より好ましくは0.50重量%以上、さらに好ましくは1.00重量%以上、よりさらに好ましくは2.00重量%以上、特に好ましくは3.00重量%以上、より特に好ましくは3.40重量%以上である。また、油の含量の上限は、下限がいずれの場合であっても、10.0重量%以下、好ましくは7.5重量%以下、より好ましくは5.0重量%以下、さらに好ましくは4.0重量%以下の範囲での配合が好ましい。油の含量が0.01重量%より小さいと、脂質成分の補給の観点から好ましくない。また、油の含量が10.0重量%より大きいと、脂質成分の摂取過多となる可能性があり好ましくない。
【0037】
また、本発明における液状食品組成物は乳化剤を含んでも良い。乳化剤の種類は特に限定されないが、例えば、レシチン、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、リゾレシチン、ショ糖脂肪酸エステルなどが挙げられる。それらの中でも、液状食品組成物の乳化安定化の観点からリゾレシチン、ショ糖脂肪酸エステルの使用が好ましい。また、これらの乳化剤は、単独で用いても良いし、2種以上組み合せて用いても良く、乳化剤の含量は組成物の配合によって適時変更しても良い。具体的には、液状食品組成物に対して乳化剤の含量の下限は、下限がいずれの場合であっても、0.17重量%より大きいことが好ましく、より好ましくは0.24重量%以上、さらに好ましくは0.34重量%以上である。また、乳化剤の含量の上限は、2.00重量%以下が好ましく、より好ましくは1.02重量%以下、さらに好ましくは0.85重量%以下、よりさらに好ましくは0.68重量%以下、特に好ましくは0.51重量%以下が良い。乳化剤の含量が0.17重量%以下であると、液状食品組成物の乳化安定性が低下する場合があり好ましくない。また、乳化剤の含量が2.00重量%より大きいと、液状食品組成物の粘度の増加につながるため好ましくない。また、乳化剤含量は組成物中の油に対する量によって調整しても良い。具体的には、好ましくは油に対して5重量%以上、より好ましくは油に対して7重量%以上、さらに好ましくは油に対して10重量%以上であり、また、下限がいずれの場合であっても、好ましくは油に対して30重量%以下、より好ましくは油に対して20重量%以下、さらに好ましくは油に対して15重量%以下である。乳化剤の含量が油に対して5重量%より小さいと、液状食品組成物の乳化安定性が低下する場合があり好ましくない。また乳化剤の含量が油に対して30重量%より大きいと、液状食品組成物の粘度の増加につながるため好ましくない。
【0038】
本発明における液状食品組成物は、さらに、一般的な食品に使用できる一般飲食物添加物、既存添加物、香料などの食品添加物や、栄養成分であるビタミン類、ミネラル類、また、食感や味、香り、色、保存性、品質等の改善を期待して添加する植物、きのこ、動物、微生物に由来する成分、例えば、増粘多糖類、食物繊維、不凍素材、氷再結晶化抑制素材などを使用でき、それらを組合せたものを使用してもよい。
本発明の液状食品組成物は、酸性条件における固形化率が優れた組成物であるため、胃内等において形状変化する際に残存する液体(未固形分)の量が低減される。そのため、上記の利点を活かした栄養食品、経腸栄養食品、濃厚流動食、ダイエット食品、糖尿病や腎臓病等の病者用食品、医薬品分類を含む経腸栄養剤などに利用することができる。なお、本発明の液状食品組成物は、経口、経管などの方法により摂取することができ、その摂取方法は特に限定されるものではないが、濃厚流動食、及び経鼻、胃瘻などのチューブを介して摂取する経腸栄養食品、経腸栄養剤としての使用が好適である。
【0039】
本発明の液状食品組成物は、経鼻カテーテル又は胃瘻カテーテルに接続可能な容器に所定の量(例えば、100ml以上500ml以下)が充填された、容器入り液状食品組成物とすることができる。
【0040】
本発明名の液状食品組成物は、高齢者、病者、手術前後の患者又は健常者に対して用いることができる。特に、流動食(医療食)又は経管栄養を必要とする疾患又は状態を有する者に対して用いるのに好適である。このような疾患又は状態には、高齢による噛む力や飲み込む力の不足、嚥下力の低下又は嚥下障害(脳卒中後遺症、筋萎縮性側索硬化症等)、中枢神経疾患による食思不振(痴呆性疾患等)、癌性悪液質などによる食思不振(末期癌症例等)、咽頭から噴門の狭窄(咽頭癌、食道癌、胃噴門部癌等)、成分栄養投与療法が有効な疾患(クローン病等)、胃食道逆流症(非びらん性胃食道逆流症、逆流性食道炎、及びバレット食道を含む。)が含まれる。
【0041】
本発明で「A及び/又はB」というときは、特に記載した場合を除き、AとBとの両方又はいずれか一方の意味で用いている。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明を具体的に説明するために実施例及び比較例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
<酸性条件における固形化率の確認試験>
(1)50ml容量のプラスチック製チューブに、37℃に保温した人工胃液(日本薬局方崩壊試験液第1液、詳しくは、塩化ナトリウム2.0gを塩酸7.0mL及び水に溶解して1000mLとしたもの。この液は無色澄明で、そのpHは約1.2である。)20g([人工胃液重量]とする)を投入した。
(2)液状食品組成物10g(25℃)を人工胃液中に投入し、人工胃液と液状食品組成物を含むプラスチック製チューブ重量を測定(〔ろ過前チューブ重量〕とする)した。
(3)プラスチック製チューブは、「HL−2000HybriLinker(UVP Laboratory Products社製)」により穏やかに撹拌した。詳しくは、チューブをチャンバー内の固定具に固定し、機器のMotor Controlつまみを“MIN”に設定の上、37℃、2分30秒の条件で撹拌した。
(4)固形物を事前に重量を測定したナイロン製網(40メッシュ;(株)相互理化学硝子製作所製)上にて吸引ろ過し、液部分を除いた後に、ナイロン製網ごとペーパータオル等の上に置いて、2分間、余分な水分を除去し、ナイロン製網を含む固形物の重量を測定(〔ろ過後固形物重量〕とする)した。さらに、内容液を払い出した後、風袋に残存する水分を除去しプラスチック製チューブの重量を測定(〔ろ過後風袋重量〕とする)した。
(5)ナイロン製網上に残存した固形物を確認し、固形化率を、式(1)にて計算した。
【0044】
【数1】
【0045】
<ピクセル強度頻度の積算値、及び積算値50%に対応する相対移動度の算出方法>
(1)SDS−PAGE電気泳動用検体の調製
50℃の温水100mlに植物性タンパク質4.4gを投入後30分撹拌し、タンパク質分散液を調製した。次いで、蒸留水で5倍希釈したタンパク質分散液50μlと、2倍濃度SDS-PAGE用サンプルバッファー50μlを混合し、ブロックヒーターで95℃、3分間の加熱を行い、SDS-PAGE電気泳動用検体とした。
【0046】
(2)SDS-PAGE電気泳動の実施
SDS-PAGE電気泳動は「Laemmli法(Nature,227,680−685;1970)」により実施した。電気泳動用ゲル(5〜20%濃度のグラジエントゲル)は「e−PAGEL:E−T/R/D520L(ATTO社製)」、タンパク質分子量マーカーは「プレシジョンPLUSプロテインスタンダード(Bio−Rad社製)」を使用し、その他の試薬はLaemmli法に準じた。(1)で調製した泳動用検体7.5μlを泳動用ゲルのウェルに投入後、20mA/ゲルの定電流にてSDS-PAGE電気泳動を実施した。泳動終了後、「Bio-Safeクマシ―ステイン(Bio−Rad社製)」によりタンパク質を染色した。
【0047】
(3)ピクセル強度頻度の積算値、及び積算値50%に対応するRf値の算出
デンシトメーター(光学密度測定機)「CCDカメラタイプ画像解析装置:Image Quant LAS4000(GEヘルスケア社製)」を使用し、白色透過光(フィルターなし、露光時間:1/100秒)にて電気泳動パターンを取り込み、イメージ解析ソフト「Image Quant TL(GEヘルスケア社製)」にて泳動パターンのデンシトメトリーデータを得た。
デンシトメトリーデータを基に、「ピクセル強度頻度(%)」を(〔ピクセル強度〕/〔全ピクセル強度の和〕×100)の式より算出し、次いで、横軸を「Rf値」、縦軸を「ピクセル強度頻度の積算値(%)」とするデンシトメトリー解析結果を得た(
図1)。さらに、デンシトメトリー解析結果より、積算値50%(縦軸の50%積算値に相当)に対応する相対移動度(Rf値)を得た。
【0048】
<粘度の確認試験>
液状食品組成物の粘度の確認は、「B型粘度計(トキメック社製)」により測定した。詳しくは、内径60mmのガラス製容器に測定サンプルを投入し、液温度25℃、ロータNo.2、回転数60回転/分、保持時間30秒の条件で3回測定し、その平均値を測定値(粘度)とした。
【0049】
(実施例1)
大豆タンパク質原料Aについて、<ピクセル強度頻度の積算値、及び積算値50%に対応する相対移動度の算出方法>に従って解析し、横軸を「Rf値」、縦軸を「ピクセル強度頻度の積算値(%)」とするデンシトメトリー解析結果(
図1:実線)を得た。大豆タンパク質原料Aは、積算値50%(縦軸の50%積算値に相当)に対応するRf値が0.8であった(表1)。
次いで、大豆タンパク質原料Aを使用し、その他の原料として(表2)に示す組成で液状食品組成物を調製した。液状食品組成物の粘度は170cP(25℃)であり流動性を有していた。さらに、<酸性条件における固形化率の確認試験>に従い、酸性条件における固形化率を算出した結果、固形化率は80%であり極めて良好に固形化した(表3)。
【0050】
(実施例2)
実施例1と同様の方法により、大豆タンパク質原料Bの積算値50%に対応するRf値を求めた。デンシトメトリー解析結果を(
図1:破線)に記載した。大豆タンパク質原料Bは、積算値50%(縦軸の50%積算値に相当)に対応するRf値が0.7であった(表1)。
次いで、大豆タンパク質原料Bを使用し、その他の原料として(表2)に示す組成で液状食品組成物を調製した。液状食品組成物の調製後、(実施例1)と同様の方法により評価した結果、液状食品組成物の粘度は190cP(25℃)であり、酸性条件における固形化率は65%であり良好に固形化した(表3)。
【0051】
(比較例1)
実施例1と同様の方法により、大豆タンパク質原料Cの積算値50%に対応するRf値を求めた。デンシトメトリー解析結果を(
図1:二重線)に記載した。大豆タンパク質原料Cは、積算値50%(縦軸の50%積算値に相当)に対応するRf値が0.6であった(表1)。
次いで、大豆タンパク質原料Cを使用し、その他の原料として(表2)に示す組成で液状食品組成物を調製した。液状食品組成物の調製後、(実施例1)と同様の方法により評価した結果、液状食品組成物の粘度は220cP(25℃)であり、酸性条件における固形化率は55%であり固形化したが、その固形化率は低値であった(表3)。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
(実施例3)
<7Sグロブリン及び/又は11Sグロブリン含量の定量方法>
(1)SDS−PAGE電気泳動用検体の調製、及び電気泳動の実施
前記の<ピクセル強度頻度の積算値、及び積算値50%に対応する相対移動度の算出方法>に記載の方法(1)、(2)に準拠し、SDS−PAGE電気泳動用検体の調製、及び電気泳動を実施した。
【0056】
(2)7Sグロブリン(グリシニン)、11Sグロブリン(β−コングリシニン)含量の定量
デンシトメ−ター(光学密度測定機)「CCDカメラタイプ画像解析装置:Image Quant LAS4000(GEヘルスケア社製)」を使用し、白色透過光(フィルターなし、露光時間:1/100秒)にて電気泳動パターンを取り込み、イメージ解析ソフト「Image Quant TL(GEヘルスケア社製)」を使用し、植物性タンパク質の構成分子である7Sグロブリン(β−コングリシニン)、11Sグロブリン(グリシニン)含量を定量した。
すなわち、CCDカメラタイプ画像解析装置にて泳動パターンを取り込んだ後、イメージ解析ソフトによりデンシトグラムデータを得た。次いで、デンシトグラムデータより、11Sグロブリン分子、7Sグロブリン分子に由来するピークエリア面積と、濃度既知の分子量マーカーに由来するピークエリア面積を比較することにより、各分子を定量した。さらに、SDS−PAGE電気泳動に供した検体中の総タンパク質の量を測定(Micro BCA Protein Assay Kit:PIERCE社製)し、植物性タンパク質原料中の7Sグロブリン(β−コングリシニン)、11Sグロブリン(グリシニン)の含量を算出した。
【0057】
上記の<7Sグロブリン及び/又は11Sグロブリン含量の定量方法>に従い、大豆タンパク質原料DのSDS−PAGE電気泳動パターンを得た(
図2:D)。さらに、11Sグロブリン(グリシニン)、7Sグロブリン(β−コングリシニン)、及び総タンパク質を定量した。
大豆タンパク質原料Dの泳動パターンより算出した7Sグロブリン(β−コングリシニン)含量は6重量%、11Sグロブリン(β−グリシニン)含量は20重量%であった(表4)。なお、分離大豆タンパク質原料Dの積算値50%(縦軸の50%積算値に相当)に対応するRf値は、0.8以上であった。
次いで、大豆タンパク質原料Dを使用し、その他の原料として(表2)に示す組成で液状食品組成物を調製した。液状食品組成物の粘度は150cP(25℃)であり、中性条件にて流動性を有していた。さらに、<酸性条件における増粘及び/又は固形化の確認試験>に従い、酸性条件における固形化率を算出した結果、固形化率79%であり極めて良好に固形化した(表5)、(表6)。
【0058】
(実施例4)
実施例3と同様の方法により、大豆タンパク質原料EのSDS-PAGE電気泳動パターンを得た(
図2:E)うえで、11Sグロブリン(グリシニン)、7Sグロブリン(β−コングリシニン)、総タンパク質を定量した。
大豆タンパク質原料Eの泳動パターンより算出した7Sグロブリン(β−コングリシニン)含量は15重量%、11Sグロブリン(グリシニン)含量は32重量%であった(表4)。なお、分離大豆タンパク質原料Eの積算値50%(縦軸の50%積算値に相当)に対応するRf値は、0.7以上であった。
次いで、大豆タンパク質原料Eを使用し、その他の原料として(表2)に示す組成で液状食品組成物を調製した。液状食品組成物の調製後、(実施例1)と同様の方法により評価した結果、液状食品組成物の粘度は180cP(25℃)であり、中性条件にて流動性を有していた。さらに、<酸性条件における固形化率の確認試験>に従い、酸性条件における固形化率を算出した結果、固形化率は70%であり良好に固形化した(表4)、(表5)。
【0059】
(比較例2)
実施例3と同様の方法により、大豆タンパク質原料FのSDS-PAGE電気泳動パターンを得た(
図2:F)うえで、11Sグロブリン(グリシニン)、7Sグロブリン(β−コングリシニン)を定量した。
大豆タンパク質原料Fの泳動パターンより算出した7Sグロブリン(β−コングリシニン)含量は21重量%、11Sグロブリン(グリシニン)含量は41重量%であった(表4)。なお、分離大豆タンパク質原料Fの積算値50%(縦軸の50%積算値に相当)に対応するRf値は、0.6以下であった。
次いで、大豆タンパク質原料Fを使用し、その他の原料として(表2)に示す組成で液状食品組成物を調製した。液状食品組成物の調製後、(実施例1)と同様の方法により評価した結果、液状食品組成物の粘度は210cP(25℃)であり、中性条件にて流動性を有すものの、流動性の悪化が見られた。さらに、<酸性条件における固形化率の確認試験>に従い、酸性条件における固形化率を算出した結果、固形化率は51%であり、固形化したが、その固形化率は低値であった(表4)、(表5)。
【0060】
【表4】
【0061】
【表5】
【0062】
(実施例5)
植物性タンパク質に大豆タンパク質原料Dを使用し、次の各条件、条件1;0.25重量%、条件2;1重量%、条件3;10重量%、条件4;20重量%の含量にて液状食品組成物を調製した。なお、植物性タンパク質以外のその他原料は、(表2)の組成に従った。調製した液状食品組成物は、さらに、マントン・ゴーリン型高圧乳化機(Rannie2000:APV社製)により均質化処理後(1回目:20MPa、2回目:48MPa)、レトルト殺菌機にて殺菌処理(F値8)した。<酸性条件における固形化率の確認試験>により、固形化率を算出した結果、条件1〜4の固形化率は58%以上となり、良好に固形化した(表6)。
【0063】
(実施例6)
積算値50%(縦軸の50%積算値に相当)に対応するRf値が0.8、さらに、タンパク質原料中の7Sグロブリン含量が5.5重量%、11Sグロブリン含量が20重量%の分離大豆タンパク質原料Gを使用し、その他の原料は(表2)の組成にて、液状食品組成物を調製した。さらに、(実施例5)と同様の方法により、調製した組成物を均質化処理し、殺菌処理を実施した。<酸性条件における固形化率の確認試験>により、固形化率を算出した結果、固形化率は81%であり、極めて良好に固形化した(表6)。
【0064】
(実施例7)
積算値50%(縦軸の50%積算値に相当)に対応するRf値が0.7、さらに、タンパク質原料中の7Sグロブリン含量が14重量%、11Sグロブリン含量が30重量%の分離大豆タンパク質原料Hを使用し、その他の原料は(表2)の組成にて、液状食品組成物を調製した。さらに、(実施例5)と同様の方法により、調製した組成物を均質化処理し、殺菌処理を実施した。<酸性条件における固形化率の確認試験>により、固形化率を算出した結果、固形化率は72%であり、良好に固形化した(表6)。
【0065】
【表6】