【実施例】
【0022】
以下に挙げる例において、結晶構造の変化の評価以外の粉末X線回折法は、株式会社リガク製粉末X線回折装置RINT1400を用いて測定した。
【0023】
参考例1
〔LiCoO
2〕
正極活物質として従来のLiCoO
2を用いて、正極活物質90重量%に、アセチレンブラック5重量%及びPVDF(ポリフッ化ビニリデン)5重量%をN−メチル−2−ピロリドンに添加して混練し、正極スラリーを作製した。作製したスラリーをアルミニウム箔の上に塗布した後乾燥し、その後圧延ロールを用いて圧延し、直径11mmの円板状に打ち抜いて正極とした。この正極と、負極としての金属リチウム箔と、セパレータとしてのガラス繊維ろ紙と、電解液としての、EC(エチレンカーボネイト)とDEC(ジエチルカーボネイト)を体積比1:1となるよう混合した溶媒に、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)を1モル/Lの濃度となるように溶解した溶液とを用いてリチウムイオン二次電池を作成した。これを参考例1とした。
【0024】
比較例1〜3
〔LiCo
1-xMn
xO
2の作成〕
四酸化三コバルト(Co
3O
4)を水に分散させてスラリー化したものに、Co:Mnのモル比が、それぞれ95:5、92:8、89:11、となるように、硫酸マンガン(MnSO
4)水溶液と、MnSO
4の2.2モル当量にあたる苛性ソーダ(NaOH)水溶液を滴下してCo
3O
4にMn化合物を付着させ、CoとMnの混合物を得た。付着したMn化合物の径は5μm以下であった。これに炭酸リチウム(Li
2CO
3)を乾式法で混合した後、空気雰囲気中にて1000℃で4時間焼成し、乳鉢で解砕して、LiCo
1-xMn
xO
2を得た。
CoとMnの合計量に対しMn含有量が5モル%のものを比較例1、8モル%のものを比較例2、11モル%のものを比較例3とした。
【0025】
実施例1〜3≪Ca含有量が3モル%≫
〔LiCo
1-xMn
xO
2とCa化合物との混合体の作成〕
酢酸カルシウム(Ca(CH
3COO)
2)水溶液と、比較例1〜3の作成途中で得たCoとMnの混合物を混合してスラリーとし、水分を蒸発させてCoとMnとCaの混合物を得た。なお、Ca(CH
3COO)
2は、CoとMnの合計量に対し、Ca含有量が3モル%となるように秤量した。
上記のようにして得られた混合物と炭酸リチウム(Li
2CO
3)を乾式法で混合した後、空気雰囲気中にて1000℃で4時間焼成し、乳鉢で解砕してLiCo
1-xMn
xO
2とCa化合物との混合体を得た。
CoとMnの合計量に対し、Mn含有量が5モル%のものを実施例1、8モル%のものを実施例2、11モル%のものを実施例3とした。Ca含有量は、いずれもCoとMnの合計量に対し3モル%である。粉末X線回折法による分析の結果、実施例1〜3に含まれるCa化合物はCa
3Co
2O
6であった。
【0026】
〔分散《偏在》状態の確認〕
分散《偏在》状態の確認は、走査型電子顕微鏡(SEM)として日本電子株式会社製JSM6700Fを、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)として日本電子株式会社製JED2300Fを用いて行った。
正極活物質の、径8〜20μmの範囲内の任意の粒子の、ほぼ二等分した断面を、EDSによって組成マッピングしたところ、Caは、実施例1〜3のいずれも
図3(D)のような偏在状態であった。
また、この《偏在》したCaが占める領域の大きさと数を目視により数えたところ、実施例1〜3のいずれも、径1〜5μmの範囲内の粒子は、5〜40個程度であった。
さらに、Coが占める領域と、Mnが占める領域は、いずれも一致していた。
【0027】
〔放電容量維持率の評価〕
比較例1〜3および実施例1〜3で得られたものを、正極活物質として使用する以外は参考例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
参考例1、比較例1〜3、実施例1〜3の各リチウムイオン二次電池について、20℃の雰囲気下、電流密度0.5Cで電圧4.3Vと、4.5Vに充電し、電流密度0.5Cで電圧3.0Vまで放電する操作をそれぞれ100回繰り返した後(100サイクル目)の放電容量維持率(%)を求めた。
図4(A)が充電電圧4.3V、(B)が充電電圧4.5Vの各場合の放電容量維持率を示している。
【0028】
〔結晶構造の変化の評価〕
比較例1〜3および実施例1〜3で得られた正極活物質について、結晶構造の変化を評価するために、次の要領で粉末X線回折を行った。
充放電サイクルを行う前の正極活物質と、充電電圧4.5Vまでの充放電サイクル試験を100回行った後の電池を解体して取り出した正極活物質について、公益財団法人高輝度光科学研究センター運営の大型放射光施設SPring−8(ビームラインBL19B2、波長λ=0.7Å)を用い、回折角2θ=0°〜70°の範囲で行った。
【0029】
得られたデータについて、解析プログラムRIETAN-FP(F.Izumi and K.Momma,Solid State Phenom.,130,15−20(2007)参照)により、リートベルト解析を行い、c軸の長さと単位格子の体積を算出した。
充放電を行う前(0(ゼロ)サイクル時)の正極活物質の、リートベルト解析によって算出された“c軸の長さ”に対する、100サイクル試験後の正極活物質の、リートベルト解析によって算出された“c軸の長さ”の割合を、c軸長維持率(%)とした。
同様に、充放電を行う前(0(ゼロ)サイクル時)の正極活物質の、リートベルト解析によって算出された“単位格子の体積”に対する、サイクル試験後の正極活物質の、リートベルト解析によって算出された“単位格子の体積”の割合を、体積維持率(%)とした。
【0030】
図5(A)に、c軸長維持率(%)を、
図5(B)に、体積維持率(%)をそれぞれ示す。実施例1〜3は、参考例1や比較例1〜3と比べて、c軸長、体積ともに維持率が100%に近い、すなわち、実施例1〜3の正極活物質は、4.5Vという高い電圧で充電を繰り返しても、結晶構造の変化が小さい(充電電圧4.5V未満の場合、変化がより小さいことは非特許文献1から推測できる)。
以上から、実施例1〜3の正極活物質を正極材料に使用した電池は、サイクル試験において優れた放電容量維持率を示すことが確認できる。
【0031】
比較例4
Co
3O
4にMn化合物を付着させなかったこと以外は、実施例1〜3と同様にして、LiCoO
2とCa化合物との混合体を得た。
粉末X線回折法による分析の結果、Ca化合物は複数種の混合物であることは判明したが、それらの化合物を粉末X線回折法によっては特定することができなかった。
【0032】
比較例5〜7
Mn原料を5μmより大きな粒子を含む二酸化マンガン(MnO
2)に、Ca原料を水酸化カルシウム(Ca(OH)
2)に、Co
3O
4との混合方法を乾式法に変更した以外は、実施例1〜3と同様にしてLiCo
1-xMn
xO
2とCa化合物との混合体を得た。
CoとMnの合計量に対しMn含有量が5モル%のものを比較例5、8モル%のものを比較例6、11モル%のものを比較例7とした。
粉末X線回折法による分析の結果、比較例5〜7に含まれるCa化合物はCa
3Co
2O
6であることが解った。
この混合体について、前記〔分散《偏在》状態の確認〕と同様にして、任意の粒子の断面をEDSによって組成マッピングしたところ、
図8(B)及び
図8(C)に示すように、Mnは一部に偏在し、Coと固溶していないことが確認された。
また、
図8(D)に示すように、Caが占める領域は斑点状になっておらず、実施例と全く異なる形状を成していることが分かる。
【0033】
〔放電容量維持率の評価〕
比較例4〜7で得られたものを、正極活物質として使用する以外は参考例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製し、実施例1〜3と同様にして放電容量維持率の評価を行った。
比較例4〜7のいずれにおいても、100サイクル目の放電容量維持率は、充電電圧が4.5Vの場合、多くて60%程度にしかならず、放電容量が低下し易くなっていることがわかる。
従って、比較例4〜7については結晶構造の変化の評価は行わなかった。
【0034】
実施例4
Co:Mnのモル比が99:1に、CoとMnの合計量に対し、Caが1モル%となるようにした以外は実施例1と同様にしてLiCo
0.99Mn
0.01O
2とCa化合物との混合体を得た。Caの混合モル比が小さいため、粉末X線回折法ではCa化合物を特定することが極めて困難であった。
【0035】
実施例5
Co:Mnのモル比が99:1に、CoとMnの合計量に対し、Caが15モル%となるようにした以外は実施例1と同様にしてLiCo
0.99Mn
0.01O
2とCa化合物との混合体を得た。粉末X線回折法による分析の結果、このCa化合物はCa
3Co
2O
6とCa
9Co
12O
28であった。
【0036】
実施例6
Co:Mnのモル比が80:20に、CoとMnの合計量に対し、Caが1モル%となるようにした以外は実施例1と同様にしてLiCo
0.8Mn
0.2O
2とCaコバルト複合酸化物との混合体を得た。Caの混合モル比が小さいため、粉末X線回折法ではCa化合物を特定することが極めて困難であった。
【0037】
実施例7
Co:Mnのモル比が80:20に、CoとMnの合計量に対し、Caが15モル%となるようにした以外は実施例1と同様にしてLiCo
0.8Mn
0.2O
2とCa化合物との混合体を得た。粉末X線回折法による分析の結果、このCa化合物はCa
3Co
2O
6であった。
【0038】
実施例4〜7で得られた、Mnが固溶しているLiCo
1-xMn
xO
2(0.01≦x≦0.2)とCa化合物との混合体を正極活物質として使用する以外は、参考例1 と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
各リチウムイオン二次電池について、測定温度20℃の条件下、0.5Cの電流密度で電圧4.3Vあるいは4.5Vまで充電し、0.5Cの電流密度で電圧3.0 Vまで放電する操作を、それぞれ100回繰り返した。
【0039】
〔放電容量維持率の評価〕
充放電を100回繰り返した後(100サイクル目)の放電容量維持率(%)を求めた。
図7(A)が充電電圧4.3V、(B)が充電電圧4.5Vの各場合の放電容量維持率を示しており参考のために参考例1の結果を併せて示している。