特許第6827757号(P6827757)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6827757
(24)【登録日】2021年1月22日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】ウエザーストリップ取付用クリップ
(51)【国際特許分類】
   F16B 5/06 20060101AFI20210128BHJP
   B60J 10/36 20160101ALI20210128BHJP
   F16B 19/00 20060101ALI20210128BHJP
【FI】
   F16B5/06 Q
   B60J10/36
   F16B19/00 E
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-199654(P2016-199654)
(22)【出願日】2016年10月11日
(65)【公開番号】特開2018-62939(P2018-62939A)
(43)【公開日】2018年4月19日
【審査請求日】2019年8月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000158840
【氏名又は名称】鬼怒川ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】石橋 広輔
【審査官】 谷口 耕之助
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−085425(JP,A)
【文献】 特開2000−229542(JP,A)
【文献】 特開2002−305832(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0114735(US,A1)
【文献】 米国特許第09121426(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 5/06
B60J 10/36
F16B 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パネルに形成された取付穴に挿入することによって、ウエザーストリップを上記パネルに取り付けるクリップであって、
上記ウエザーストリップへの取付部として機能する頭部と、
上記頭部から突出形成された支柱壁部と、
上記頭部と支柱壁部との間に形成されて上記取付穴よりも大径のフランジ部と、
上記支柱壁部のうち頭部とは反対側の端部両側から上記フランジ部側に向かってそれぞれ傾斜姿勢で突出形成されて、双方の外周面同士の離間距離がフランジ部側に向かって漸次拡大化する形状の弾性変形可能な一対の係止脚部と、
上記各係止脚部の先端部にそれぞれ形成されて上記取付穴の内周面に係合可能な係止段部と、
を備え、
上記各係止脚部の外周面に上記取付穴への挿入方向に沿って溝部が形成され、
上記溝部は、上記各係止脚部の外周面のうち周方向の両端部と中央部との間にそれぞれに形成され、
上記各係止脚部の外周面は円弧状面であって、その各係止脚部の外周面に形成された上記各溝部は、各係止脚部の厚み方向に非貫通の凹溝であることを特徴とするウエザーストリップ取付用クリップ。
【請求項2】
上記凹溝の溝幅が係止脚部の先端部に近い部分よりも当該係止脚部の根元部に近い部分の方が狭くなっていることを特徴とする請求項1に記載のウエザーストリップ取付用クリップ。
【請求項3】
上記凹溝のうち係止脚部の根元部に近い部分に狭窄部が形成されていることを特徴とする請求項2に記載のウエザーストリップ取付用クリップ。
【請求項4】
上記各係止脚部の先端部に小径側の係止段部と大径側の係止段部とが二段にわたって形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のウエザーストリップ取付用クリップ。
【請求項5】
上記各係止脚部の内側面とフランジ部とがウェブを介して接続されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載のウエザーストリップ取付用クリップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用のウエザーストリップを母体となるパネルに取り付けるためのクリップに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車における車体側のドア開口部とドアとの間をシールするために、ドアの周囲にドアウエザーストリップ(防水線条)が取り付けられる。そして、このドアウエザーストリップを取り付けるためのクリップとして例えば特許文献1に記載されたものが提案されている。
【0003】
特許文献1に記載されたクリップは、大きく分けて、ウエザーストリップに取り付けられる頭部と、相手側となる取付孔を被覆可能な鍔部と、上記取付孔へ抜け止め状態で差し込まれる脚部と、を備えている。その上で、上記脚部は、上記鍔部から垂下された支柱と、この支柱から突出形成された一対の係止脚片と、この係止脚片と上記鍔部とを連結しているリブと、上記支柱を切り欠いて形成された逃がし凹部と、を有している。
【0004】
そして、かかる特許文献1に記載されたクリップによれば、支柱に逃がし凹部が形成されていることにより、クリップを取付孔に差し込む際に、支柱とリブとの干渉が回避されてリブが支柱と擦れ合うことがなく、取付孔へのクリップの押し込み荷重が過大となる事態を解消できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−229542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された従来のクリップの構造では、取付孔に対するクリップの挿入性向上のために、クリップの押し込み荷重が過大になる事態を解消することを目的としながらも、一対の係止脚片の外周面は傾斜した円筒面となっているため、クリップの押し込み荷重を小さくする上でなおも改善の余地を残している。
【0007】
より具体的には、特許文献1に記載された従来のクリップの構造では、支柱とリブとの干渉を問題とする以前に、取付孔へのクリップの挿入時に、傾斜した円筒面となっている各係止脚片の外周面の広い範囲が取付孔の内周面と摺動することになるために摺動抵抗が大きく、依然としてクリップ挿入力が大きなものとなっている。それ故に、クリップ挿入時のいわゆる組付作業性が悪いばかりでなく、クリップ挿入時にクリップを押し込み過ぎてしまい、場合によってはクリップが変形したり傾いたりして、クリップ本来の固定保持力を得ることができなくなるおそれがあった。
【0008】
本発明はこのような課題に着目してなされたものであり、クリップの主要な要素である一対の係止脚部での摺動抵抗の低減化を図り、もってクリップ挿入力を小さくして組付作業性の改善を図り、併せてクリップ本来の固定保持力を安定して得ることができるようにしたクリップを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、パネルに形成された取付穴に挿入することによって、ウエザーストリップを上記パネルに取り付けるクリップであって、
上記ウエザーストリップへの取付部として機能する頭部と、
上記頭部から突出形成された支柱壁部と、
上記頭部と支柱壁部との間に形成されて上記取付穴よりも大径のフランジ部と、
上記支柱壁部のうち頭部とは反対側の端部両側から上記フランジ部側に向かってそれぞれ傾斜姿勢で突出形成されて、双方の外周面同士の離間距離がフランジ部側に向かって漸次拡大化する形状の弾性変形可能な一対の係止脚部と、
上記各係止脚部の先端部にそれぞれ形成されて上記取付穴の内周面に係合可能な係止段部と、
を備え、
上記各係止脚部の外周面に上記取付穴への挿入方向に沿って溝部が形成され、
上記溝部は、上記各係止脚部の外周面のうち周方向の両端部と中央部との間にそれぞれに形成され、
上記各係止脚部の外周面は円弧状面であって、その各係止脚部の外周面に形成された上記各溝部は、各係止脚部の厚み方向に非貫通の凹溝であることを特徴としている。
【0010】
この場合において、請求項2に記載のように、上記各係止脚部の外周面は円弧状面であって、その各係止脚部の外周面に形成された溝部は各係止脚部の厚み方向に非貫通の凹溝であるものとする。
【0012】
より具体的には、請求項に記載のように、上記凹溝の溝幅が係止脚部の先端部に近い部分よりも当該係止脚部の根元部に近い部分の方が狭くなっていることが望ましい。さらには、請求項に記載のように、上記凹溝のうち係止脚部の根元部に近い部分に狭窄部が形成されていることが望ましい。
【0013】
また、クリップ挿入用の取付穴が形成されるパネルの板厚の違いに柔軟に対応するためには、請求項に記載のように、上記各係止脚部の先端部に小径側の係止段部と大径側の係止段部とが二段にわたって形成されていることが望ましい。
【0014】
さらに、各係止脚部の強度向上とともに、各係止脚部の弾性変形の安定性の向上を図る上では、請求項に記載のように、上記各係止脚部の内側面とフランジ部とがウェブを介して接続されていることが望ましい。
【0015】
したがって、少なくとも請求項1に記載の発明では、クリップの主要な要素である一対の係止脚部の外周面に凹溝が形成されていることにより、一対の係止脚部の本来の機能を維持しながら、クリップ挿入時における各係止脚部と取付穴との間の接触面積を少なくして、両者の間の摺動抵抗を低減できることになる。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、各係止脚部に溝部を形成したことによって、各係止脚部と取付穴との間の摺動抵抗を低減してクリップ挿入力を小さくすることができる。そのため、クリップ挿入時の組付作業性を改善できるとともに、クリップの押し込み過ぎによる変形や傾きの発生を未然に防止して、クリップ本来の固定保持力を安定して得ることができるようになる。
しかも、各係止脚部の外周面のうち周方向の両端部と中央部との間にそれぞれに溝部を形成してあるため、係止脚部の外周面と取付穴の内周面とは周方向の三箇所で接触するかたちとなり、溝部が形成されていたとしても、取付穴への挿入時の各係止脚部による案内効果は安定して維持できる。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、各係止脚部の外周面に形成された溝部が各係止脚部の厚み方向に非貫通の凹溝であることにより、各係止脚部の強度を維持しつつ各係止脚部と取付穴との間の接触面積を少なくして、両者の間の摺動抵抗を低減できる。
【0019】
請求項に記載の発明によれば、凹溝の溝幅が係止脚部の先端部に近い部分よりも当該係止脚部の根元部に近い部分の方が狭くなっているため、当該部分では逆に先端部に近い部分よりも取付穴に対する係止脚部の周方向での接触面積が大きくなる。これにより、取付穴への挿入初期段階の各係止脚部による案内効果は一段と安定して維持できる。そして、この傾向は、請求項に記載のように、凹溝のうち係止脚部の根元部に近い部分に狭窄部が形成されていると一段と顕著となる。
【0020】
請求項に記載の発明によれば、各係止脚部の先端部に小径側の係止段部と大径側の係止段部とが二段にわたって形成されているため、クリップ挿入用の取付穴が形成されるパネルの板厚の違いに柔軟に対応することができる。
【0021】
請求項に記載の発明によれば、各係止脚部の内側面とフランジ部とがウェブを介して接続されているため、各係止脚部の強度が一段と向上するとともに、各係止脚部の弾性変形がより安定して行われるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係るウエザーストリップ取付用クリップの具体的な第1の実施の形態を示す図で、クリップを俯瞰した斜視図。
図2】同じく図1のクリップを俯仰した斜視図。
図3図1のクリップ1を矢印A方向から見た拡大正面図。
図4図3の平面図。
図5図3のC−C線に沿った断面図。
図6図3のD−D線に沿った断面図。
図7図3のE−E線に沿った断面図。
図8図3のF−F線に沿った断面図。
図9図3のG−G線に沿った断面図。
図10】クリップを用いたドアインナパネル(厚板)へのドアウエザーストリップの取付状態を示す断面図。
図11】クリップを用いたドアインナパネル(薄板)へのドアウエザーストリップの取付状態を示す断面図。
図12図10におけるドアウエザーストリップの取付過程での要部の中間状態を示す拡大説明図。
図13図10におけるドアウエザーストリップの取付状態での要部拡大説明図。
図14図11におけるドアウエザーストリップの取付状態での要部拡大説明図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1〜14は本発明に係るウエザーストリップ取付用クリップを実施するためのより具体的な第1の形態を示していて、特に図1はクリップ1単独で俯瞰した斜視図を、図2は同じくクリップ1単独で俯仰した斜視図をそれぞれ示している。また、図3図1のクリップ1を矢印A方向から見た拡大正面図を示し、図4図3の平面図を示している。
【0024】
図1〜4に示すクリップ1は比較的硬質の樹脂材料により一体に形成されたものであって、大きく分けて、頭部2と、頭部2の下側の首部3と、首部3の下側に張り出すように形成されたフランジ部4と、フランジ部4の下側に比較的長目に形成された支柱壁部5と、支柱壁部5の下端部両側からフランジ部4側に向かって斜めに形成された一対の係止脚部6と、係止脚部6の根元部よりも最下端の突起部7と、から形成されている。なお、ここで用いる「下側」あるいは「下端」等の方向を特定する用語は、あくまで図面上での説明のためであって、実際にクリップ1を使用する際の各部の方向を指すものではない。
【0025】
頭部2は幅寸法に比べ数倍の長さを有する長片状または略バー状のものとして形成されていて、長さ方向または長手方向の両端部では端末に向かって漸次高さが小さくなるように緩やかな傾斜面となっている。そして、図1,4に示すように、頭部2の幅方向の中央部には長手方向に沿って凹状の溝部2aが形成されている。
【0026】
頭部2の下面のうちその長手方向中央部から頭部2の幅寸法よりもわずかに小径の首部3が下方に突出形成されていて、この首部3は偏平円柱状のものとして形成されている。また、首部3の下側からその径方向に張り出すように形成されたフランジ部4は、下方に向かって拡径化する円形傘状または円形逆皿状のものとして形成されている。このフランジ部4の平面投影視においてフランジ部4の直径内に後述する支柱壁部5および一対の係止脚部6の各部が収まるように、フランジ部4の直径が設定されている。そして、後述する図13,14に示すように、フランジ部4は、クリップ1を取付穴17に挿入する際に、その取付穴17が形成されたドアインナパネル12aまたは12bに着座することになるために、フランジ部4の直径は取付穴17の直径よりも大きいことが条件とされる。
【0027】
図5,6は図3のC−C線およびD−D線に沿ったそれぞれの断面図を示し、図7〜9は図3のE−E線、F−F線およびG−G線に沿ったそれぞれの断面図を示している。なお、上記クリップ1を用いたウエザーストリップの実際の取付状態については後述する。
【0028】
図2,3に示すように、フランジ部4の下面中央部から下方に突出形成された支柱壁部5は、傾斜部5aにて下方に向かって漸次幅寸法が小さくなる略均一肉厚の板状のものとして形成されている。その支柱壁部5の下端部を根元部として、当該下端部の両面からフランジ部4に向かって一対の係止脚部6が傾斜姿勢にて突出形成されている。これらの一対の係止脚部6の肉厚は、図5に示すように、支柱壁部5のそれよりも厚肉であり、支柱壁部5に対する一対の係止脚部6の根元部の下側に当該一対の係止脚部6よりも厚肉の矩形状の突起部7が形成されている。したがって、一対の係止脚部6はそれ自体の自己弾性力により支柱壁部5をはさんで互いに接近離間する方向に根元部から弾性変形可能となっている。
【0029】
なお、図1,2に示すように、一対の係止脚部6同士が接近離間する方向は、クリップ1の平面投影視において頭部2の長手方向と直交する方向となっている。また、図3から明らかなように、先に述べた支柱壁部5の幅寸法はその上半部では一対の係止脚部6の幅寸法よりも大きいものの、下半部では傾斜部5aにて下方に向かってその幅寸法が漸次小さくなるように徐変していて、最終的には一対の係止脚部6と同等の幅寸法をもって収束している。
【0030】
一対の係止脚部6は双方の外周面同士のなす離間距離がフランジ部4側に向かって漸次拡大化する形状であって、且つ図7〜9に示すようにその外周面は断面が円弧状をなす円筒面となっている。また、図5,6に示すように、各係止脚部6の先端はフランジ部4の直下まで延びるもフランジ部4には接続されておらず、フランジ部4との間に微小隙間が確保されている。そして、各係止脚部6の内側面の長手方向中央部とフランジ部4の内下面とが、支柱壁部5をはさんで互いに平行な薄肉状の一対のウェブ8を介して相互に接続されている。このように、薄肉状のウェブ8を介して各係止脚部6とフランジ部4とが相互に接続されていることにより、各係止脚部6の強度の向上が図られていて、後述するように各係止脚部6の弾性変形がより安定して行われるようになる。もちろん、一対の係止脚部6が弾性変形する際には、同時に一対のウェブ8も弾性変形して、各係止脚部6の弾性変形を補助する補助ばねとして機能することになる。
【0031】
また、各係止脚部6の先端部には、小径側の係止段部6aと大径側の係止段部6bとが、小径側の係止段部6aを上側にして上下二段にわたって形成されている。これらの係止段部6a,6bは、後述する図13,14に示すように、クリップ1が取付穴17に挿入された時にその取付穴17の内周面に係合または係止されるもので、小径側の係止段部6aと大径側の係止段部6bは、後述するように取付穴17が形成されるドアインナパネル12aまたは12bの板厚に応じて使い分けられる。
【0032】
図2,3および図6〜9に示すように、一対の係止脚部6の外周面には、クリップ1の挿入方向である各係止脚部6の長手方向に延びる溝部としての凹溝9が各係止脚部6の周方向または幅方向に二つ並んで形成されている。これらの凹溝9は各係止脚部6の厚み方向で貫通しない非貫通タイプのものである。そして、各係止脚部6の円筒状の外周面のうち周方向または幅方向の両端部と中央部との間、つまりは図3および図7〜9に示すように、各係止脚部6の周方向または幅方向の中央部のブリッジ部10と、各係止脚部6の周方向または幅方向の両端部の端部円筒面11との間に、該当部位を薄肉化するべく切除するようにしてそれぞれに凹溝9が形成されている。
【0033】
これらの凹溝9は長手方向で溝幅が一定したものではなく、各係止脚部6の根元部に近い部分では溝幅が極端に狭くなる狭窄部9aがブリッジ部10をはさんで左右対称位置に形成されている。これにより、凹溝9の溝幅が係止脚部6の先端部に近い部分よりも当該係止脚部6の根元部に近い部分の方が狭くなるように設定されている。より詳しくは、図3に示すように、凹溝9の溝幅は上方側から狭窄部9aに向かって当該狭窄部9aの近くで漸次小さくなるように徐変していて、狭窄部9aにおいて溝幅が最小となる一方で、狭窄部9aからその下方に向かって再び溝幅が漸次大きくなるように徐変している。
【0034】
したがって、このように形成されたクリップ1の構造において、例えばドアウエザーストリップを車両用ドアのドアインナパネルに取り付ける際の使用形態を示せば図10,11のとおりである。なお、図10はドアインナパネル12aが厚板の場合の例を、図11はドアインナパネル12bの板厚が図10のものよりも小さな薄板の場合の例をそれぞれ示している。そして、ドアインナパネル12a,12bには共に同一径の取付穴17が予め形成されている。
【0035】
ドアウエザーストリップ13は、周知のようにゴム系弾性材料により長尺紐状のものとして形成されているものであり、取付基部14と、この取付基部14と一体に形成された中空シールリップ15と、を備え、取付基部14には、中空シールリップ15の中空部15aとは別に独立した中空部14aが形成されている。そして、取付基部14の長手方向において、円形状のクリップ挿入穴16が所定のピッチで形成されていて、このクリップ挿入穴16に予めクリップ1が挿入されて支持されている。つまり、後述するように、長尺紐状のドアウエザーストリップ13は、所定ピッチごとに挿入される複数のクリップ1にて母体であるドアインナパネル12aまたは12bに装着される。
【0036】
図10,11のいずれの場合であっても、ドアウエザーストリップ13にクリップ1を挿入するには次のとおりとする。図10,11に示した取付基部14の長手方向と図1,2に示したクリップ1の頭部2の長手方向とを合致させた上で、頭部2の長手方向の一端部を取付基部14のクリップ挿入穴16から中空部14a内に差し込む。そして、クリップ挿入穴16を取付基部14の長手方向に撓み変形させながら、頭部2の長手方向の他方の端部までをクリップ挿入穴16から中空部14a内に嵌め込むものとする。
【0037】
クリップ1の頭部2が完全にクリップ挿入穴16から中空部14a内に収まった時点で、それまでのクリップ挿入穴16の撓み変形を解除すると、クリップ挿入穴16は元の形状に復元しながらクリップ1の首部3に密着して安定した状態となる。この状態がドアウエザーストリップ13に対するクリップ1の正しい挿入支持状態となる。そして、図10,11に示した中空部14aの幅寸法がクリップ1側の頭部2の長さよりも小さく形成されていることにより、取付基部14に挿入支持されたクリップ1の回り止めも同時になされることになる。これにより、頭部2はドアウエザーストリップ13への取付部として機能することになる。
【0038】
この場合において、図1〜3に示すように、クリップ1における頭部2の長手方向の両端部では、端末に向かってその高さ寸法が漸次小さくなるように徐変している。そのため、その頭部2をクリップ挿入穴16からドアウエザーストリップ13における取付基部14の中空部14aに差し込んで、クリップ挿入穴16の穴径よりも長い頭部2がクリップ挿入穴16を乗り越えるまでの作業が行い易くなる。
【0039】
しかも、クリップ1の頭部2には長手方向に沿って溝部2aが形成されているので、その分だけ取付基部14に対する頭部2の接触面積ひいては摩擦抵抗が小さくなり、ドアウエザーストリップ13へのクリップ挿入時の作業性が一段と良好なものとなる。すなわち、図1〜3に示したような頭部2の形状を採用することにより、ドアウエザーストリップ13側のクリップ挿入穴16へのクリップ1の挿入容易性と抜けにくさとを両立できることになる。
【0040】
なお、ドアウエザーストリップ13の取付基部14にクリップ1を挿入するに際しては、例えば特許第3547649号公報に記載されているように、クリップ1を専用の治具(ホルダ)に保持させて挿入作業を行うことがある。このような場合に、クリップ1の下端の略矩形状の突起部7が治具による保持部として使用される。
【0041】
また、図10,11のいずれの場合であっても、クリップ1を用いてドアウエザーストリップ13を母体となるドアインナパネル12aまたは12bに取り付けるには次のとおりとする。
【0042】
例えば図10に示すドアインナパネル12aにドアウエザーストリップ13を取り付けるに際しては、先に述べたように、ドアウエザーストリップ13の取付基部14には予めクリップ1が挿入支持されている。そこで、そのクリップ1の下端部、すなわち一対の係止脚部6の根元部側をドアインナパネル12a側の取付穴17に合致させて挿入する。そして、中空シールリップ15を取付基部14側に押し潰すように撓み変形させて、その押し潰した中空シールリップ15越しに中空部14a内の頭部2に押し込み力を加えて、クリップ1をドアインナパネル12a側の取付穴17に挿入するものとする。
【0043】
このような取付穴17に対するクリップ1の圧入過程における図10の要部を拡大したものを図12,13に示している。図12に示すように、取付穴17に対してクリップ1を押し込むと、取付穴17の内周面とクリップ1における一対の係止脚部6の外周面とが摺動する。そして、クリップ1の押し込み度合いの進行とともに一対の係止脚部6同士が互いに接近または縮径する方向に撓み変形することになる。
【0044】
その後、クリップ1のフランジ部4がドアインナパネル12aに着座するタイミングと相前後して、図13に示すように、一対の係止脚部6が取付穴17の長さ(ドアインナパネル12aの板厚分)を通過し終わると、一対の係止脚部6同士が互いに離間または拡径する方向に撓み変形することになる。この一対の係止脚部6の撓み変形に伴い、先端部における下段側(大径側)の係止段部6bに取付穴17の下面側の周縁部が係合または係止されることになる。これにより、取付穴17よりも大径のフランジ部4と係止段部6bとでドアインナパネル12aを表裏両面から挟持するかたちとなる、この状態では、クリップ1はドアインナパネル12aの下側から一対の係止脚部6同士を縮径させないかぎり抜け止めが施された状態となり、ドアインナパネル12aに対してドアウエザーストリップ13を確実に固定することができる。なお、フランジ部4が下方に向かって拡径化する円形傘状または円形逆皿状のものであることにより、ドアインナパネル12aへの着座時のフランジ部4自体の過剰変形が抑制される。
【0045】
また、取付穴17に対するクリップ1の圧入過程における図11の要部を拡大したものを図14に示している。図14図13と比較してドアインナパネル12aと12bの板厚が異なるだけであり、取付穴17の直径も図13のものと同じである。したがって、一対の係止脚部6が取付穴17を通過するまでの挙動は図12と同様である。
【0046】
そして、図14に示すように、クリップ1のフランジ部4がドアインナパネル12bに着座するタイミングと相前後して、一対の係止脚部6が取付穴17の長さ(ドアインナパネル12bの板厚分)を通過し終わると、一対の係止脚部6同士が互いに離間または拡径する方向に撓み変形することになる。この一対の係止脚部6の撓み変形に伴い、先端部における上段側(小径側)の係止段部6aに取付穴17の下面側の周縁部が係合または係止されることになる。これにより、取付穴17よりも大径のフランジ部4と係止段部6bとでドアインナパネル12aを表裏両面から挟持するかたちとなる、この状態では、クリップ1はドアインナパネル12bの下側から一対の係止脚部6同士を縮径させないかぎり抜け止めが施された状態となり、ドアインナパネル12bに対してドアウエザーストリップ13を確実に固定することができる。
【0047】
図12に示したように、クリップ1をドアインナパネル12aまたは12bの取付穴17に押し込む際に、取付穴17の内周面と一対の係止脚部6の外周面とが摺動することは先に述べたとおりである。そして、本実施の形態では、図2,3に示したように、一対の係止脚部6の外周面にそれぞれに二つの凹溝9を形成してあることで、凹溝9を形成していない場合と比べて、取付穴17の内周面に対する一対の係止脚部6の接触面積が削減されていることになる。そのため、取付穴17に一対の係止脚部6を押し込んだ際に、接触面積の削減分だけ取付穴17に対する一対の係止脚部6の摺動抵抗が減少し、それに応じてクリップ挿入力を小さくすることができる。その結果として、クリップ挿入時の組付作業性を良好なものとして、従来のものと比べてその組付作業性を改善できる。また、クリップ1の押し込み過ぎによる変形や傾きの発生を未然に防止して、クリップ1の本来の固定保持力を安定して得ることができるようになる。加えて、各係止脚部6に凹溝9を形成したことにより、その分だけクリップ1全体の体積が減少し、材料コストの低減効果及び軽量化効果も併せて期待できるようになる。
【0048】
さらに、一対の係止脚部6に形成された二つの凹溝9は各係止脚部6の厚み方向に非貫通のものであり、凹溝9を形成したとしても各係止脚部6の強度が極端に低下することもない。そのため、各係止脚部6に必要な強度を維持しつつ各係止脚部6と取付穴17との間の接触面積を少なくして、両者の間の摺動抵抗を低減できることになる。
【0049】
加えて、一対の係止脚部6の外周面のそれぞれについて、周方向または幅方向の中央部のブリッジ部10と同じく周方向または幅方向の両端の端部円筒面11との間に凹溝9を形成してあり、これら一対の係止脚部6の外周面が取付穴17の内周面と接触して摺動する際には、各係止脚部6の外周面ごとに周方向の三箇所にて接触するかたちとなる。そのため、凹溝9が形成されていたとしても取付穴17へのクリップ挿入時の各係止脚部6による案内効果は安定して維持できることになる。
【0050】
その上、図3に示したように、それぞれの凹溝9は上方側から下方の狭窄部9aに向かって溝幅が漸次小さくなるように徐変しているため、狭窄部9aおよび当該狭窄部9aに近い部分では、溝幅が大きい上方側に比べて取付穴17に対する各係止脚部6の周方向での接触面積が大きくなる。これにより、取付穴17へのクリップ挿入初期段階の各係止脚部6による案内効果を一段と安定して維持できる。そして、この効果は、凹溝9としての溝幅が最も小さい狭窄部9aに相当する部分において最も顕著となる。
【0051】
ここで、上記の各係止脚部6の外周面に形成された凹溝9の形状は一例にすぎず、必ずしも当該形状のものに限定されるものではない。例えば、凹溝9は長さ方向の全長を通してその溝幅が一定していても良く、あるいは凹溝9の上端から下端に向かって溝幅が段階的または連続的に小さくなるように変化しているものであっても良い。さらに、凹溝9は各係止脚部6の厚み方向に貫通しているいわゆるスリット状のものであっても良い。ただし、上述したように、取付穴17へのクリップ挿入時における一対の係止脚部6による案内効果等を安定して得るためには、図2,3に示したように、凹溝9は各係止脚部6の厚み方向に非貫通タイプのものであって、且つ凹溝9の下部に狭窄部9aが形成されていることが好ましい。
【0052】
また、図1〜3に示したクリップ1における頭部2の形状も一例にすぎず、例えば取り付けるべきドアウエザーストリップ13の仕様等に応じて頭部2の形状を適宜変更することが可能である。さらに、図10,11に示したドアウエザーストリップ13もウエザーストリップの一例にすぎず、ドアウエザーストリップ13以外の他の形式あるいは他の形状のウエザーストリップの取り付けにも本発明のクリップを適用することができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0053】
1…クリップ
2…頭部
3…首部
4…フランジ部
5…支柱壁部
6…係止脚部
6a…係止段部
6b…係止段部
8…ウェブ
9…凹溝(溝部)
9a…狭窄部
10…ブリッジ部
11…端部円筒面
12a…ドアインナパネル
12b…ドアインナパネル
13…ドアウエザーストリップ
17…取付穴
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14