特許第6827768号(P6827768)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6827768
(24)【登録日】2021年1月22日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】研削盤
(51)【国際特許分類】
   B24B 55/00 20060101AFI20210128BHJP
   B24B 41/06 20120101ALI20210128BHJP
   B24B 5/00 20060101ALI20210128BHJP
   B24B 5/04 20060101ALI20210128BHJP
   B24B 53/053 20060101ALI20210128BHJP
   B23Q 11/08 20060101ALI20210128BHJP
【FI】
   B24B55/00
   B24B41/06 J
   B24B5/00 A
   B24B5/04
   B24B53/053
   B23Q11/08 Z
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-209345(P2016-209345)
(22)【出願日】2016年10月26日
(65)【公開番号】特開2018-69356(P2018-69356A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000152675
【氏名又は名称】コマツNTC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】道吉 和則
(72)【発明者】
【氏名】小倉 和哉
【審査官】 小川 真
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第1999/059774(WO,A1)
【文献】 特開平08−118196(JP,A)
【文献】 特開2002−254220(JP,A)
【文献】 特開2005−297181(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 55/00−55/06
B24B 5/00、5/04
B24B 41/06
B24B 53/053
B23Q 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを保持する一対の保持装置と、
前記ワークが砥石で研削される領域である加工領域とそれ以外の領域である非加工領域とを区画する区画壁と、
一方の保持装置に設けられ、前記区画壁の孔を通って前記非加工領域から前記加工領域に向けて延び、前記加工領域に位置する端に前記ワークを把持する把持部を備え、前記把持部を前記区画壁の孔を移動可能に構成された主軸と、
前記把持部を囲う筒状を有して前記孔を通るカバーであって、前記加工領域に位置する前記カバーの先端が、前記区画壁の近傍に位置する近傍位置と前記近傍位置よりも前記区画壁から離れた位置である離間位置との間を移動することを可能に、前記把持部と共に前記孔を移動可能に構成された前記カバーと、
前記孔の周囲に位置し前記一方の保持装置に並んで設置されると共に、該保持装置の前記主軸の延在する方向への移動に干渉しない位置に固定され、前記カバーが前記近傍位置に位置するときの前記カバーの先端、及び、前記把持部の先端よりも前記区画壁から離れた位置で前記砥石を研ぐドレッサとを備える
ことを特徴とする研削盤。
【請求項2】
前記カバーは円筒状である
請求項1に記載の研削盤。
【請求項3】
前記ドレッサが前記砥石を研ぐときに前記カバーの先端を前記近傍位置に位置させる
請求項1又は2に記載の研削盤。
【請求項4】
前記カバーは、その先端に前記把持部の先端を露出させる大きさの先端孔を有するとともに、前記先端孔と前記把持部の先端との間にエアシールを形成するエアが供給される配管に接続されている
請求項1〜3のいずれか一項に記載の研削盤。
【請求項5】
前記ドレッサが前記砥石を研ぐ位置は、前記主軸の延在する方向において、前記カバーが前記近傍位置に位置するときの前記カバーの先端、及び、前記把持部の先端よりも前記砥石の厚さに対応する長さ以上、前記区画壁から離れた位置である
請求項1〜4のいずれか一項に記載の研削盤。
【請求項6】
前記カバーの外周面と前記孔の内面との間を密閉し、前記カバーの外周面が摺動可能であるパッキンをさらに備える
請求項1〜5のいずれか一項に記載の研削盤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関が備えるカム等のワークにおける外周面を研削する研削盤に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の研削盤は、一対のワーク支持装置を備える。一対のワーク支持装置は、ベッド上においてワークの両端をクランプし、そのワークを水平軸線の周りで回転させる。ベッド上に位置するサドルは、ワークの回転軸線に沿って移動し、サドル上に位置する回転砥石及びその駆動機構を備えた砥石台は、サドルの移動方向と直交する方向へ移動する。そして、サドルの移動によってワークの所定加工部位に回転砥石が対向した状態で、回転砥石が回転されながら、砥石台が回転中のワークに向かって接近することによって、ワークの加工部位に研削加工が施される。
【0003】
このような構成の研削盤においては、回転砥石によるワークの研削加工部位に常に多量のクーラント液が供給され、その研削加工屑を含んだクーラント液やクーラントミストが研削加工部位から機械の周囲に飛散するおそれがある。そこで、例えばクーラント液の飛散を防止等する研削盤の一例が特許文献1に記載されている。
【0004】
特許文献1に記載の研削盤は、機械全体を全体カバーにより被覆して、クーラント液等の機械外部への飛散を防止する。また、この研削盤は、全体カバー内において回転砥石を含む加工領域やワークをクランプしているワーク支持装置の先端部分以外を保護カバーで覆い、飛散したクーラント液等が保護カバーで覆われた部分に付着することを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3923769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、研削盤においてワークを収容する加工領域には、より広い大きさが求められている。しかしながら、単に加工領域を広くしようとすれば、全体カバー内においては保護カバーで覆われる範囲を広くすることにともなって装置の大型化を招来するなど、広い加工領域の確保は容易ではない。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、装置の大型化を抑えつつ、ワークの加工領域をより広く確保することのできる研削盤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する研削盤は、ワークが砥石で研削される領域である加工領域とそれ以外の領域である非加工領域とを区画する区画壁と、前記区画壁の孔を通って前記非加工領域から前記加工領域に向けて延び、前記加工領域に位置する端に前記ワークを把持する把持部を備え、前記把持部を前記区画壁の孔を移動可能に構成された主軸と、前記把持部を囲う筒状を有して前記孔を通るカバーであって、前記加工領域に位置する前記カバーの先端が、前記区画壁の近傍に位置する近傍位置と前記近傍位置よりも前記区画壁から離れた位置である離間位置との間を移動することを可能に、前記把持部と共に前記孔を移動可能に構成された前記カバーと、前記孔の周囲に位置し、前記カバーが前記近傍位置に位置するときの前記カバーの先端、及び、前記把持部の先端よりも前記区画壁から離れた位置で前記砥石を研ぐドレッサとを備えることを特徴とする。
【0009】
主軸の延在方向における加工領域の大きさは、加工対象となるワークが収容される大きさに通常設定される。そこで、このような構成であれば、カバーの先端が区画壁の近傍にある近傍位置まで、コレットチャック等の把持部と共に加工領域を非加工領域の方向に退避できるため、主軸の延在方向における加工領域のほとんどの幅をワークの収容空間とすることができる。そして、砥石を研ぐときには、カバーの先端が近傍位置に位置するときのカバーの先端、及び、把持部の先端よりも区画壁から離れた位置でドレッサが砥石を研ぐため、砥石を研ぐための空間を確保するために加工領域を別途主軸の延在方向に拡張することも抑えられる。結果として、砥石を研ぐことまでも加味して、主軸の延在方向における加工領域の大きさを、ワークの大きさに相当する大きさに止めることができる。そのため、加工領域のコンパクト化を図ることが可能となる。
【0010】
好ましい構成として、前記カバーは円筒状である。
このような構成によれば、カバーが円筒状であるため、加工領域に占有されるカバーの体積を最小限にすることができる。
【0011】
好ましい構成として、前記ドレッサが前記砥石を研ぐときに前記カバーの先端を前記近傍位置に位置させる。
ドレッサが砥石を研ぐことによってクーラント液や研ぎ屑等が飛散する。上記構成によれば、ドレッサが砥石を研ぐ位置よりも非加工領域側である近傍位置にカバーが位置するため、ドレッサが砥石を研ぐ位置よりも非加工領域側に把持部の先端も位置し、カバー及び把持部がクーラント液や研ぎ屑等の飛散によって汚染されるおそれが抑制される。
【0012】
好ましい構成として、前記カバーは、その先端に前記把持部の先端を露出させる大きさの先端孔を有するとともに、前記先端孔と前記把持部の先端との間にエアシールを形成するエアが供給される配管に接続されている。
【0013】
このような構成によれば、配管からカバーにエアを供給してカバーの先端孔と把持部の先端との間にエアシールを形成することで、加工領域にあるクーラント液や研ぎ屑等が先端孔からカバー内に侵入して、主軸の回転等にトラブルを生じさせるおそれが抑制される。
【0014】
好ましい構成として、前記ドレッサが前記砥石を研ぐ位置は、前記主軸の延在する方向において、前記近傍位置よりも前記砥石の厚さに対応する長さ以上、前記区画壁から離れた位置である。
【0015】
このような構成によれば、上述したクーラント液や研ぎ屑等の飛散による汚染の抑制を、主軸の延在方向における砥石の全幅を研ぐ際に得ることができる。
好ましい構成として、前記カバーの外周面と前記孔の内面との間を密閉し、前記カバーの外周面が摺動可能であるパッキンをさらに備える。
【0016】
このような構成によれば、区画壁が有する孔とカバーとがパッキンで密閉されることで、カバーが区画壁の孔を移動しても加工領域内にあるクーラント液や研ぎ屑等が孔を通って非加工領域に侵入することが抑制される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の研削盤によれば、装置の大型化を抑えつつ、ワークの加工領域をより広く確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】研削盤を具体化した一実施形態について、その概略構造を示す概略図。
図2】同実施形態の研削盤における電気的構成を示すブロック図。
図3】同実施形態の研削盤のワーク保持部を示す図であって、(a)は正面の断面構造を示す断面図、(b)は右側面の構造を示す側面図。
図4】同実施形態の研削盤における動作について説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、研削盤10を具体化した一実施形態を説明する。
図1に示すように、研削盤10は、ベッド11を備えている。ベッド11には、ワークWを保持する一対の保持装置13,14と、保持装置13に並んで設置されるドレッサ15と、保持装置13,14に保持されたワークWを研削する砥石装置16とが設置されている。また、研削盤10は、ベッド11上に加工領域11Aと非加工領域11Bとを区画する第1区画構造体21と、加工領域11Aと非加工領域11Cとを区画する第2区画構造体22とを備えている。第1及び第2区画構造体21,22により、各非加工領域11B,11Cは、加工領域11Aにあるクーラント液や研ぎ屑等の侵入が抑制されるように区画されている。
【0020】
保持装置13は、ベッド11上にガイドレール(図示略)を介して主軸32の延在方向であるZ軸方向13Zへ移動可能にワークテーブル30を支持している。ワークテーブル30は、同ワークテーブル30に設置されたサーボモータ等の主軸移動モータ30Mによりボールネジ(図示略)を介してZ軸方向13Zに移動される。ワークテーブル30上には、主軸台31が固定支持されている。主軸台31には、主軸32がZ軸方向13Zに沿って延びる回転軸線L1の周りで回転可能に支持されている。主軸台31は主軸回転モータ32Mにより駆動されて、主軸32を回転軸線L1の周りで回転させる。
【0021】
主軸32は、加工領域11A側の端である先端に把持部33を備えている。把持部33は、第1区画構造体21を挿通しており、先端が加工領域11Aに配置されている一方、主軸32側の部分は第1区画構造体21よりも非加工領域11Bに配置されている。把持部33は、主軸32の回転に応じて回転軸線L1の周りで回転する。また、把持部33の外周には、円筒状のカバーである把持部カバー34が設けられている。把持部カバー34は、円筒の先端の一部が封鎖されており、把持部33の周囲を覆うように配置されている。把持部カバー34は、主軸台31側にある基端35が主軸台31の先端側にある接続部36に気密性を有して固定されている。把持部カバー34は、第1区画構造体21を貫通しており、先端が加工領域11Aに配置されている一方、主軸台31側の部分は非加工領域11Bに配置されている。
【0022】
保持装置14は、ベッド11上に芯押台40を備える。芯押台40は、主軸台31に対向して位置調整可能に配置されている。芯押台40には、ラム42が主軸32の回転軸線L1と平行な軸上においてZ軸方向13Zに移動可能に支持されている。ラム42は、第2区画構造体22を貫通しており、先端が加工領域11Aに配置されている一方、芯押台40側の基端が非加工領域11Cに配置されている。ラム42は、先端にあって主軸32の回転軸線L1と同軸上にセンタピボット43を備えている。
【0023】
一対の保持装置13,14は、主軸32とラム42とを対向させている。主軸32及びラム42の対向端部に設けられているコレットチャック332とセンタピボット43とでワークWの把持や開放を可能にしている。一対の保持装置13,14は、コレットチャック332とセンタピボット43との間隔を狭くすることでワークWを把持し、間隔を広げることでワークWを開放する。コレットチャック332の中心軸と、センタピボット43の中心軸とは回転軸線L1上に対向配置されている。本実施形態では、ワークWは、例えば、複数のカムを並設したカムシャフトである。
【0024】
つまり、主軸台31は、主軸32が主軸回転モータ32Mにより駆動されて、主軸32とラム42との間に把持されるワークWを回転軸線L1の周りで回転させる。
砥石装置16は、ベッド11上に配置され主軸32の回転軸線L1に平行であるZ軸方向16Zに移動可能なZ軸移動テーブル60と、Z軸移動テーブル60上に配置されX軸方向16Xに移動可能な砥石台61とを有している。Z軸移動テーブル60及び砥石台61は、モータにより回転されるボールねじとこれに螺合されるナット部とを有するボールねじ機構部(図示せず)の送り作用によって、Z軸方向16Z及びX軸方向16Xにそれぞれ移動させられるようになっている。具体的には、Z軸移動テーブル60は砥石Z移動モータ66(図2参照)の駆動によりZ軸方向16Zに移動させられ、砥石台61は砥石X移動モータ65(図2参照)の駆動によりX軸方向16Xに移動させられる。
【0025】
砥石台61には、砥石軸62がZ−Xと平行な平面上においてワークWの回転軸線L1に対して平行した砥石軸線L2の周りで回転可能に支持されている。砥石軸62の先端には、砥石軸線L2を中心とした外周に研削面63a,63bを有する回転砥石63が装着されている。砥石軸62は砥石台61に設置された砥石回転モータ63Mにより駆動されて、回転砥石63を砥石軸線L2の周りで回転させる。回転砥石63は、研削面63a,63bのみ露出して回転砥石63の後ろ部分(図1においてワークWと反対側)を覆う砥石カバーが取り付けられていてもよい。
【0026】
ドレッサ15は、回転砥石63の研削面63a,63bをドレス(ドレッシング)するドレス部材52を備えている。ドレッサ15は、保持装置13の近傍であって、保持装置13のZ軸方向13Zへの移動に干渉しない位置に設置されている。ドレッサ15は、ドレッサモータ15Mに接続されて回転軸線L1の周りに回転するスピンドル53を備えている。ドレス部材52は、スピンドル53の先端に取り付けられている。ドレス部材52は、円盤状を呈するとともに、スピンドル53の先端において回転軸線L1と平行な回転軸線L3の周りに回転する。ドレス部材52としては、例えばダイヤモンドの砥粒が埋め込まれたロータリドレッサが使用される。ドレッサ15は、第1区画構造体21を貫通しており、ドレス部材52側が加工領域11Aに配置されている一方、ドレッサモータ15M側が非加工領域11Bに配置されている。
【0027】
次に、図2を参照して、研削盤の電気的構成について説明する。
研削盤は、研削盤の動作を制御する制御装置80を備える。制御装置80は、CPUやROM、RAM等で構成されたマイクロコンピュータを含んで構成される。制御装置80は、主軸回転モータ32M、砥石回転モータ63M、ドレッサモータ15M、主軸移動モータ30M、砥石X移動モータ65、砥石Z移動モータ66を、目的の研削やドレッシング等が行えるように、同期させながら駆動する。
【0028】
続いて、図3(a),(b)を参照して、保持装置13の先端部分の構造について詳しく説明する。
主軸32の先端には同じ軸線を中心にして回転可能に把持部33が接続されている。把持部33は、主軸32に接続される接続軸331と、ワークWを把持するコレットチャック332とを備えている。コレットチャック332は、軸心の周囲に配置された複数の把持片333の中央にワーク支持孔334が設けられている。ワーク支持孔334は、複数の把持片333のそれぞれが中心に向けて押圧する力でワークWを把持しつつ、回転軸線L1を回転中心として回転軸線L1の周りに回転する。Z軸方向13Zに対して、コレットチャック332の先端は、先端面342よりも長さL34だけ加工領域11A側に突出している。長さL34は、把持部カバー34が近傍位置P1にあるとき、ドレッシング位置P3までよりもZ軸方向13Zに対して短い長さである。
【0029】
主軸台31の先端側にある把持部カバー34は、第1区画構造体21の区画壁211に貫通形成された区画壁211の孔としての主軸孔212に貫通配置されている。また、主軸台31は、把持部カバー34が主軸孔212を抜け出ない範囲でZ軸方向13Zに移動することができる。
【0030】
主軸孔212の内周と把持部カバー34の外周面341との間にはパッキン70が設けられている。パッキン70は無端円周状の輪であって、主軸孔212の内周に設けられることで、主軸孔212の内周と把持部カバー34の外周面341との間に介在する。把持部カバー34は、主軸台31とともにZ軸方向13Zに移動すると、その外周面341がパッキン70の内周を摺動して、主軸孔212を貫通している部分が移動する。つまり、把持部カバー34は、Z軸方向13Zへの移動によって、加工領域11Aにある部分と非加工領域11Bにある部分とが変化する。パッキン70は、主軸孔212との間、及び把持部カバー34との間にそれぞれ高い密閉性を確保している。つまり、把持部カバー34は、加工領域11A側の部分と非加工領域11B側の部分との間が高い密閉性で区画される。これによって、加工領域11A内のクーラント液や研ぎ屑等が把持部カバー34の外周面341を介して非加工領域11B側に侵入することが抑制される。
【0031】
把持部カバー34は、先端の一部を覆う先端面342にチャック孔343が設けられている。チャック孔343の内径R1は、コレットチャック332の外径R2よりも大きい。また、チャック孔343は、コレットチャック332の先端部分が挿通されている。チャック孔343と、コレットチャック332との間には、内径の大きさが外径R2、外径の大きさが内径R1である環状の隙間が形成される。よって、径方向における隙間の間隔は、チャック孔343の中心軸とコレットチャック332の中心軸とが一致していれば「(外径R2−内径R1)/2」になる。このように、把持部カバー34のチャック孔343にコレットチャック332を挿通配置させることで、チャック孔343よりも小さい環状の隙間が維持される。よって、加工領域11A内の異物が環状の隙間を介して把持部カバー34内へ侵入しづらいようになっている。
【0032】
把持部カバー34は、非加工領域11Bにエア供給管71が接続されている。エア供給管71は、高圧のエアを把持部カバー34内に供給する。把持部カバー34は、基端35が主軸台31の接続部36に気密性を有して固定されていることから、エア供給管71から供給されたエアは、先端面342のチャック孔343とコレットチャック332との間の環状の隙間を通って加工領域11Aに排出される。加工領域11Aに排出されるエアの環状の隙間の所定の通過速度を確保することによって、環状の隙間にエアシールを形成し、加工領域11A内にあるクーラント液や研ぎ屑等の把持部カバー34内への侵入を抑制することができる。把持部カバー34内の基端にある主軸32は、ベアリング等の軸受け機構にクーラント液や研ぎ屑等の異物が侵入すると回転に支障が生じるおそれがある。本実施形態によれば、小さい環状の隙間であるとともに、エアシールされていることから加工領域11A内にあるクーラント液や研ぎ屑等の把持部カバー34内への侵入が抑制される。よって、加工領域11A内にある異物等が主軸32の回転に支障を生じさせるおそれが抑制される。
【0033】
ドレッサ15は、ドレッサモータ15Mが第1区画構造体21の区画壁211に貫通形成されたドレッサ孔213にパッキン73を介して貫通配置されている。よって、ドレッサモータ15Mは、加工領域11Aに配置されている部分と非加工領域11Bに配置されている部分とがドレッサ孔213によって区画されている。ドレッサ15は、ドレス部材52を加工領域11Aに配置させている。ドレス部材52は、ドレッシング部分54が外周に形成されており、ドレッシング部分54は区画壁211から距離L52だけ離れた加工領域11A内におけるドレッシング位置P3に配置される。この距離L52は、保持装置13が非加工領域11B側に最も後退したとき、加工領域11A内でコレットチャック332の先端が配置される位置である近傍位置P1と区画壁211との間の距離L33Aよりも長い距離である。つまり、非加工領域11Bから見て、ドレッシング位置P3は、近傍位置P1よりも加工領域11A内に進出している。
【0034】
図4を参照して、研削盤の動作について説明する。
[ワーク把持]
保持装置13を加工領域11AからZ軸方向13Zに最も後退させた近傍位置P1に移動させる。そして、把持部33のコレットチャック332にワークWを挟み込む。それから把持部33にワークWを把持した状態で、保持装置13を最も加工領域11Aに進出した位置である離間位置P2に向けてZ軸方向13Zに進出させる。保持装置13は、近傍位置P1から離間位置P2までの間の位置であって、ワークWの反対側の端部が保持装置14のセンタピボット43に押圧される位置で停止し、ワークWが一対の保持装置13,14の間に支持される。
【0035】
通常、主軸32の延在方向における加工領域の大きさでワークWが収容される大きさが規定される。把持部カバー34の先端が211区画壁の近傍にある近傍位置P1まで、コレットチャック332等の把持部33と共に加工領域11Aを非加工領域11Bの方向に退避できる構成であることから、主軸32の延在方向における加工領域11Aのほとんどの幅をワークWの収容空間とすることができる。
【0036】
つまり、保持装置13は、Z軸方向13Zに進退するが、第1区画構造体21の主軸孔212を離間位置P2から近傍位置P1までの範囲で進退するため、加工領域11Aの大きさは変化しない。加工領域11Aとしても、そこに要求される大きさを、保持装置13の把持部カバー34が最も後退した近傍位置P1にあるときに確保できる大きさに抑えることができる。これにより、加工領域11Aの大きさをコンパクト(小型)にすることができる。また、加工領域11Aがコンパクトにできれば、研削盤10としてもその大きさの維持又は縮小が図られるようになる。このとき、近傍位置P1から離間位置P2までの距離Lを、ワークWの着脱に必要最小限の長さにすれば、加工領域11Aの一層のコンパクト化(小型化)が図れる。
【0037】
また、保持装置13は、主軸孔212から抜け出ない位置まで把持部カバー34を後退させることができる。本実施形態では、把持部33を進退させる構造としても、Z軸方向13Zに、その構造上必要とされるが進退距離の延長には貢献しない無駄な長さを短い長さに抑えることができる。例えば、保持装置13の一部が非加工領域11Bから加工領域11Aに進出するとき、加工領域11Aに進出する部分を異物から保護するために蛇腹を用いる構造とすると、後退時に蛇腹の折り畳まれるひだが重なる距離がZ軸方向13Zに必要であるから、その折り畳まれた距離の分だけ加工領域11Aの拡大が必要になる。
【0038】
[ワーク研削]
一対の保持装置13,14は、加工領域11A内に回転軸線L1の周りで回転可能にワークWを保持する。なお、一対の保持装置13,14は、ワークWをドレッサ15のドレッシング部分54よりもラム42側に保持する。加工領域11A内にワークWが配置されると、砥石装置16は、回転砥石63を待機位置(例えば、図1に示す位置)から加工位置に移動させる。続いて砥石装置16は、回転砥石63の研削面63a,63bをワークWの研削対象部分に当接させることができるようにZ軸方向16Zへの移動、及び、X軸方向16Xへの移動が行われる。砥石装置16は、Z軸方向16Zへの移動、及び、X軸方向16Xへの移動の組み合わせによって、ワークWにおける加工対象部分に順次移動させられるとともに、研削に適切な位置に回転砥石63が配置される。ワークWの研削が終了すると、砥石装置16は、Z軸方向16Zへの移動、及び、X軸方向16Xへの移動の組み合わせによって回転砥石63をワークWから離間させるとともに、待機位置まで戻す。
【0039】
ワークWが回転砥石63によって研削されるとき、加工領域11Aにはクーラント液が飛散するとともに、ワークWの削り屑等が飛散する。こうした加工領域11A内の異物が保持装置13,14の機構に悪影響を与えないようにするため、保持装置13は、第1区画構造体21で区画された非加工領域11Bに配置されており、保持装置14は、第2区画構造体22で区画された非加工領域11Cに配置されている。保持装置13は、把持部カバー34やコレットチャック332の一部が加工領域11Aに配置され、保持装置14は、ラム42の一部が加工領域11Aに配置されているが、加工領域11Aと各非加工領域11B,11Cとの間に高い気密性が確保されることで加工領域11A内の異物の各非加工領域11B,11Cへの侵入が抑制される。よって、各保持装置13,14において異物の侵入による不具合の発生が抑制される。
【0040】
また、研削盤10は、ワークWの研削時に必要な領域が加工領域11Aとして確保されることからワークWの研削が可能であるとともに、一対の保持装置13,14にワークWを着脱するためのスペースが加工領域11Aの拡大を伴わない保持装置13の後退で済む。このため、加工領域11Aを研削に必要な必要最小限の大きさにすることが可能になる。
【0041】
また、コレットチャック332は複雑な形状であるため、ここに気密性を確保することは容易ではないが、周囲に設けた把持部カバー34と区画壁211との間に気密性を確保することで、非加工領域11Bを加工領域11Aから隔離することができる。また、把持部カバー34のチャック孔343とコレットチャック332との間に環状の隙間を確保するとともに、把持部カバー34内に高圧のエアを供給することで、環状の隙間にエアシールドを形成して把持部カバー34内に加工領域11Aの異物が侵入することを抑制することができる。つまり、把持部カバー34内を加工領域11Aから隔離することができる。よって、主軸32の回転に異物による不具合の生じるおそれが抑制される。
【0042】
[ドレッシング]
保持装置13を加工領域11AからZ軸方向13Zに最も後退させた近傍位置P1に移動させる。近傍位置P1は、加工領域11A内においてドレッシング位置P3よりも区画壁211に近い位置である。そして、ドレッサ15のドレッサモータ15Mを駆動してドレス部材52を回転させ、ドレス部材52がドレッシング部分54で回転砥石63の研削面63a,63bのドレッシングの準備をする。
【0043】
ドレッシング位置P3の区画壁211からの距離L52は、研削面63a,63bの軸方向の厚みD63よりも長い。これにより、回転砥石63は、区画壁211に接触することなく、研削面63a,63bの厚みD63の全幅をドレッサ15でドレッシングすることができるようになっている。
【0044】
砥石装置16は、回転砥石63を待機位置(例えば、図1に示す位置)から加工位置に移動させる。続いて砥石装置16は、回転砥石63の研削面63a,63bをドレッシング部分54に当接させることができるようにZ軸方向16Zへの移動、及び、X軸方向16Xへの移動が行われる。砥石装置16は、Z軸方向16Zへの移動、及び、X軸方向16Xへの移動の組み合わせによって、ドレッシング部分54に対して研削面63a,63bを順次移動させるとともに、ドレッシングすることに適切な位置に研削面63a,63bを配置させる。研削面63a,63bのドレッシングが終了すると、砥石装置16は、Z軸方向16Zへの移動、及び、X軸方向16Xへの移動の組み合わせによって回転砥石63をドレッシング位置P3から離間させるとともに、待機位置まで戻す。
【0045】
ドレッサ15が回転砥石63をドレッシングすると、クーラント液やドレス部材52や回転砥石63の研ぎ屑等の異物が周囲に飛散する。特に、ドレス部材52や回転砥石63の回転面の延長される方向には、より多くの異物が飛散するため、その方向にある機器等は異物によって最も汚染されるようになる。その点、本実施形態では、把持部カバー34の近傍位置P1がドレッシング位置P3よりも区画壁211側に後退していて、ドレス部材52や回転砥石63の回転面の延長される方向には、存在しない。これにより、クーラント液や研ぎ屑による把持部カバー34の外周面341や把持部33のコレットチャック332等の汚染も抑えられる。
【0046】
また、把持部カバー34が区画壁211を進退する構造にあっても、汚染が抑えられれば、把持部カバー34の外周面341を介してドレッシングの際に生じた異物が非加工領域11Bに侵入するおそれが少ない。さらに、把持部カバー34が非加工領域11Bに最大限引き込まれた近傍位置P1まで後退していれば、ドレッシングによって汚染された把持部カバー34の外周面341がパッキン70を介して非加工領域11Bにさらに引き込まれることもない。これによっても、ドレッシングで発生した異物が非加工領域11Bに侵入するおそれが少ない。
【0047】
また、ドレッシングのとき、把持部カバー34内に高圧のエアを供給することで、把持部カバー34先端の環状の隙間にエアシールを形成してもよい。環状の隙間にエアシールが形成されれば、ドレッシングで発生した異物が把持部カバー34内に侵入するとともに、この侵入した異物が主軸32の軸受け36a等に挟み込まれ、主軸32の回転に悪影響を及ぼすことが防止される。
【0048】
本実施形態の研削盤10は、回転砥石63を研ぐことまでも加味して、主軸32の延在方向における加工領域11Aの大きさを、ワークWの大きさに相当する大きさに止めることができる。そのため、加工領域11Aのコンパクト化を図ることが可能となる。
【0049】
以上説明したように、本実施形態の研削盤によれば、以下に記載するような効果が得られるようになる。
(1)主軸32の延在方向における加工領域11Aの大きさは、加工対象となるワークWが収容される大きさに通常設定される。把持部カバー34の先端が区画壁211の近傍にある近傍位置P1まで、コレットチャック332等の把持部33と共に加工領域11Aを非加工領域11Bの方向に退避できる構成であれば、主軸32の延在方向における加工領域11Aの幅をワークWの収容空間とすることができる。そして、回転砥石63を研ぐときには、把持部カバー34の先端が近傍位置P1に位置するときの把持部カバー34の先端、及び、把持部33の先端よりも区画壁211から離れた位置でドレッサ15が回転砥石63を研ぐため、回転砥石63を研ぐための空間を確保するために加工領域11Aを主軸32の延在方向に拡張することも抑えられる。結果として、回転砥石63を研ぐことまでも加味して、主軸32の延在方向における加工領域11Aの大きさを、ワークWの大きさに相当する大きさに止めることができる。そのため、加工領域11Aのコンパクト化を図ることが可能となる。
【0050】
(2)把持部カバー34が円筒状であれば、加工領域11Aに占有される把持部カバー34の体積を最小限にすることができる。
(3)ドレッサ15が回転砥石63を研ぐことによってクーラント液や研ぎ屑等が飛散することに対し、把持部カバー34が加工領域11A内でドレッサ15が回転砥石63を研ぐ位置よりも非加工領域11B側である近傍位置P1にあるとともに、把持部33の先端もドレッサ15が回転砥石63を研ぐ位置よりも非加工領域11B側にある。このため、把持部カバー34及び把持部33がクーラント液や研ぎ屑等の飛散によって汚染されるおそれが抑制される。
【0051】
(4)エア供給管71から把持部カバー34にエアを供給して把持部カバー34のチャック孔343と把持部33の先端との間にエアシールを形成することで、加工領域11Aにあるクーラント液や研ぎ屑等がチャック孔343から把持部カバー34内に侵入して、主軸32の回転等にトラブルを生じさせるおそれが抑制される。
【0052】
(5)主軸32の延在方向に対する回転砥石63の全幅をドレッサ15で研ぐことができる。
(6)区画壁211の主軸孔212と把持部カバー34とがパッキン70で密閉されることで、把持部カバー34が区画壁211の主軸孔212を移動しても加工領域11A内にあるクーラント液や研ぎ屑等が区画壁211の主軸孔212を通って非加工領域11Bに侵入することが防止される。
【0053】
(その他の実施形態)
なお上記実施形態は、以下の態様で実施することもできる。
[ワーク]
・上記実施形態では、ワークWがカムを並設したカムシャフトである場合について例示したが、これに限らず、ワークは外周面を研削する必要のあるものであればよい。
【0054】
[パッキン]
・上記実施形態では、加工領域11Aと非加工領域11Bとの間をパッキン70で摺動可能に密閉する場合について例示したが、チャック孔と把持部カバーの外周面との間の密閉性が確保されるのであればパッキン以外のシール部材で密閉されてもよい。
【0055】
[ドレッシング位置]
・上記実施形態では、ドレッシング位置P3の区画壁211からの距離L52が回転砥石63の厚みD63よりも厚い場合について例示した。しかしこれに限らず、区画壁がドレッシング位置で後退しているなどして、ドレッシング位置に砥石を研ぐことができる距離であれば、ドレッシング位置以外の部分において区画壁からの距離が砥石の厚みよりも短くてもよい。
【0056】
[エア供給管]
・上記実施形態では、エア供給管71から把持部カバー34にエアを供給してエアシールを形成する場合について例示したが、これに限らず、把持部カバー内にエアが供給できるのであれば、エア供給管は把持部カバーのどこに接続されていてもよい。例えば、主軸台側からエア供給管が接続されてもよい。
【0057】
[ドレッシングのカバー位置]
・上記実施形態では、ドレッシングの際、把持部カバー34が近傍位置P1に配置される場合について例示したが、これに限らず、把持部カバーは、区画壁に近ければよい。
【0058】
[把持部カバー]
・上記実施形態では、把持部カバー34が円筒状である場合について例示したが、これに限らず、把持部カバーは、断面矩形状など断面多角形状の筒状であってもよい。
【0059】
[近傍位置]
・上記実施形態では、近傍位置P1は把持部カバー34の先端面342が区画壁211の近傍である位置の場合について例示した。しかしこれに限らず、Z軸方向に対して、コレットチャックの先端がドレッシング位置に到達しなければ、近傍位置は、把持部カバーの先端面と区画壁とが重なる位置が含まれてもよい。また、近傍位置は、ドレッシング位置よりも区画壁に近い位置であってもよい。近傍位置がドレッシング位置よりも区画壁に近い位置にあれば汚染が軽減されるようになる。
【符号の説明】
【0060】
10…研削盤、11…ベッド、11A…加工領域、11B,11C…非加工領域、13…保持装置、13Z…Z軸方向、14…保持装置、15…ドレッサ、15M…ドレッサモータ、16…砥石装置、16X…X軸方向、16Z…Z軸方向、21…第1区画構造体、22…第2区画構造体、30…ワークテーブル、30M…主軸移動モータ、31…主軸台、32…主軸、32M…主軸回転モータ、33…把持部、34…把持部カバー、35…基端、36…接続部、36a…軸受け、40…芯押台、42…ラム、43…センタピボット、52…ドレス部材、53…スピンドル、54…ドレッシング部分、60…Z軸移動テーブル、61…砥石台、62…砥石軸、63…回転砥石、63a,63b…研削面、63M…砥石回転モータ、65…砥石X移動モータ、66…砥石Z移動モータ、70…パッキン、71…エア供給管、73…パッキン、80…制御装置、211…区画壁、212…主軸孔、213…ドレッサ孔、331…接続軸、332…コレットチャック、333…把持片、334…ワーク支持孔、341…外周面、342…先端面、343…チャック孔、W…ワーク。
図1
図2
図3
図4