特許第6827794号(P6827794)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6827794繊維機械の作業ステーションにおける糸つぎ工程を制御する方法及び繊維機械
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6827794
(24)【登録日】2021年1月22日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】繊維機械の作業ステーションにおける糸つぎ工程を制御する方法及び繊維機械
(51)【国際特許分類】
   B65H 69/06 20060101AFI20210128BHJP
   B65H 67/08 20060101ALI20210128BHJP
   B65H 69/00 20060101ALI20210128BHJP
   D02J 1/22 20060101ALI20210128BHJP
   D01H 15/00 20060101ALI20210128BHJP
【FI】
   B65H69/06
   B65H67/08 W
   B65H69/00
   D02J1/22 D
   D02J1/22 G
   D01H15/00 Z
【請求項の数】9
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-245177(P2016-245177)
(22)【出願日】2016年12月19日
(65)【公開番号】特開2017-128444(P2017-128444A)
(43)【公開日】2017年7月27日
【審査請求日】2019年12月10日
(31)【優先権主張番号】10 2015 122 391.0
(32)【優先日】2015年12月21日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】507248815
【氏名又は名称】リーター インゴルシュタット ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人 エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アダルベルト ステファン
【審査官】 西本 浩司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−143395(JP,A)
【文献】 米国特許第05950957(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 69/06
B65H 67/08
B65H 69/00
D01H 15/00
D02J 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の作業ステーションを有する繊維機械において、作業ステーションである糸つぎ装置(5)を用いて、糸(G)を継ぐ糸つぎ工程を制御する方法であって、
作業ステーションでは、複数の作業ステップが時系列的に実行され、各作業ステップには、各作業ステップを実行する所定の期間が割り当てられ、
少なくとも1つの作業ステップの前記期間は、糸特性(GC)の関数として特定される巻き戻し速度に基づいて特定又は変更可能であり、
異なる糸特性(GC)が情報記憶装置(13)に記憶されており、それぞれの前記糸特性(GC)には、前記巻き戻し速度の少なくとも1つの適切な値(W)が割り当てられ、
前記糸(G)の前記糸特性(GC)に対応する前記巻き戻し速度の値(W)が前記情報記憶装置(13)から選択される、
方法。
【請求項2】
少なくとも1つの前記作業ステップの前記期間は、前記繊維機械の制御装置(12)によって自動的に決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記期間は、ボビン(6)に巻かれた糸の端部(G’)を探索する期間、および/または、前記糸つぎ装置の操作部(15、16、17、18、19、20、21)に前記糸の端部(G’)を送る期間、および/または、前記繊維機械の前記作業ステーションの紡糸ユニット(7)に前記糸の端部(G’)を戻す期間である、請求項1および2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記期間は、紡糸ユニット(7)の紡糸部(8)をクリーニングする期間である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記巻き戻し速度の初期値(SW)は、予め決められており、前記巻き戻し速度は、予め決められた最低成功率が達成されるまで、該当する作業ステップの複数の糸つぎ工程による成功率の関数として前記初期値(SW)から調整される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記予め決められた最低成功率を達成すると、前記巻き戻し速度の値(W)は、後続の糸つぎ工程の前記巻き戻し速度の作業値(AW)となる、および/または、前記情報記憶装置(13)に記憶され、次の製造バッチの前記初期値(SW)として予め決められる、請求項に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1つの前記作業ステップの前記期間は、それぞれの製造バッチのボビン形態の関数として特定される、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1つの前記作業ステップを実行する間に前記作業ステップの作業結果が決定され、前記期間、および/または、前記作業ステップを実行する間の前記作業ステップの前記巻き戻し速度は、決定された前記作業結果の関数として特定される、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
制御装置(12)を有する繊維機械であって、前記制御装置(12)は、請求項1〜のいずれか一項に記載された方法に従って前記繊維機械を操作するように設計された繊維機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維機械の作業ステーションにおいて糸つぎ工程を制御する方法に関する。より詳しくは、本発明は、糸つぎ装置を用いて、紡糸機の紡糸ユニットで紡糸を再開する方法に関する。糸つぎ工程では、実際の糸つぎ操作の準備として、複数の作業ステップが時系列で連続的に実行される。それぞれの作業ステップには、当該作業ステップが実行される予め決められた期間が割り当てられる。
【背景技術】
【0002】
最新のオープンエンド紡糸機では、糸がちぎれた後または切断された後の糸つぎは、自動的に行われることがほとんどである。糸つぎは、オープンエンド紡糸機の紡糸ステーションに沿って移動できるロボットによって、または、紡糸ステーション自体の操作部よって行われる。いずれの場合も、まず、糸つぎのためには複数の予備作業ステップが必要であり、これらのステップは、時系列で連続的に行われるか、あるいは、並行して行われる場合もある。作業ステップは、例えば、ボビンの表面で糸の端部を探索するステップと、ボビンから糸の端部を巻き戻すステップと、紡糸を再開させるために糸の端部を準備するステップと、紡糸部をクリーニングするステップと、準備した糸の端部を紡糸部に戻すステップと、を含む。糸の端部を紡糸部に戻すことにより、実際の糸つぎ操作が始まる。同様に、巻き取り機での糸つぎ工程、または、繊維機械における他の糸接続工程が行われ次第、複数の予備作業ステップが時系列で連続的に、あるいは、一部の例では並行して行われる必要がある。
【0003】
周知の繊維機械では、個々の作業ステップは、常に一定のサイクルタイムで行われる。つまり、それぞれの作業ステップの期間は一定であり、別々の糸つぎ工程にかかる時間は常に同じである。この作業ステップには、繊維機械の作業ステーションをごくわずかな時間だけ停止するのに好都合な短いサイクルタイムが選択される。その一方で、糸つぎ操作の繰り返しによる時間の浪費を防ぐように、作業ステップには許容成功率が設けられている。
【0004】
個々の作業ステップの成功率を向上させるためのいくつかの方策がすでに提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1は、予想される汚れの程度の関数として空気圧クリーニングの時刻および期間を制御して摩擦紡糸機の摩擦面をクリーニングする空気圧クリーニング工程を開示している。
【0006】
また、特許文献2は、ボビン表面で糸を見つける確実性を向上させることを目的とした、糸探索工程の最適化について開示している。その際、吸引ノズルにより吸引される糸の端部をセンサでモニタしている。予め決められた期間が過ぎても糸の端部を発見しない場合、ボビンの巻き戻し速度を低減させる(例えば、通常の巻き戻し速度の3分の1未満にする)。その結果、糸の端部がより長い期間吸気流にさらされるので、糸の端部を吸込みやすくなる。この方法により、繊維機械全体を費用対効果良く稼働させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】独国特許出願公開第3502118号明細書
【特許文献2】独国特許発明第4418743号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1は、予想される汚れの程度の決め方、および、クリーニング時間の調整をどのように行うのかについての詳細は記載されていない。
また、特許文献2は、個別の作業ステップの成功率を上記のように制御すると、しばしば機械の稼働効率に悪影響を及ぼすことがある。
【0009】
本発明は、糸つぎ工程を制御することにより、機械の稼働効率を高めることができる方法を提供することを目的とする。
【0010】
この目的は、独立項に記載された特徴により達成される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
糸つぎ装置を用いた繊維機械の作業ステーションにおいて糸つぎ工程を制御する方法では、実際の糸つぎ操作の準備として、複数の作業ステップが時系列で連続的に行われる。いずれの場合も、それぞれの作業ステップには、当該作業ステップが実行される予め決められた期間が割り当てられる。その際、糸つぎ装置は、繊維機械の作業ステーションに沿って移動できるメンテナンス装置に設けられてもよく、繊維機械の作業ステーションに個別に設けられてもよい。繊維機械は、例えば、巻き取り機、または、紡糸機から構成することができる。本発明は、糸が製造または処理される繊維機械に適用することができ、繊維機械では、糸の製造が中断されると、繊維機械の通常工程に糸を戻さなければならない。よって、本発明の糸つぎ工程は、紡糸機において紡糸を再開させて巻き取り機で糸を接合する工程、または、他の糸接続工程であると理解される。
【0012】
少なくとも1つの作業ステップの予め決められた期間は、異なってよい。少なくとも1つの作業ステップの現在の期間は、現在製造中の糸の特性の関数、および/または、糸つぎ装置の稼働率の関数、および/または、その作業ステップの成功率の関数、および/または、個々の作業ステップの成功率の関数として決定される。好ましくは、少なくとも1つの作業ステップの期間は、製造される糸の特性の関数として、少なくとも製造バッチごとに決定される。したがって、それぞれの作業ステップにおいて、その糸特性により糸の取り扱いが容易である単純な用途では、それぞれの作業ステップの成功率を低下させることなく、作業ステップの期間を実質的に短縮することができる。逆に、特定の作業ステップが頻繁に失敗することが予測される、より難易度の高い用途においては、当該作業ステップをよりゆっくり実行する(すなわち、サイクルタイムをより長くする)ことにより、作業ステップの成功率を高めることができる。その際の作業ステップの期間は、現在の糸の特性に応じて、広い範囲内で変更可能であり、0秒に設定してもよい。つまり、1つのステップを完全に省略してもよい。一方、糸つぎ装置の稼働率が低い場合、または、特定の糸特性を有する場合には、0秒の標準期間から開始する特定の期間を設定することにより、特定の作業ステップを追加することもできる。
【0013】
また、作業ステップの期間を、この作業ステップの成功率の関数として特定してもよい。したがって、例えば、前の糸つぎ工程で作業ステップが失敗した後には、その作業ステップのサイクルタイムを現在の糸つぎ工程において増大させることができる。また、1つの作業ステップの成功率をいくつかの糸つぎ工程にわたって記録し、その作業ステップの期間を成功率の関数として再定義することもできる。期間を決定するために用いられる基準とは別に、稼働中に調整または最適化が継続して行われるように、該当する作業ステップの期間が永続的に、または、単に一時的に決定されてよい。
【0014】
さらに、1つの作業ステップの期間を、個別の作業ステップの成功率の関数として決定してもよい。これは、例えば、糸つぎ操作における1つの作業ステップが失敗した後、その作業ステップは繰り返されるが、その期間を変更する(特に、増大する)ことを意味する。
【0015】
個々の作業ステップは数秒範囲内に多数存在するので、全体としてのサイクルタイムは大きく短縮し、作業ステーションにおける非生産的なダウンタイムを回避することができる。
【0016】
さらに、特定の作業ステップの期間は、広い範囲で変更できるので、特定の操作条件に適合するオプションも提供できる。したがって、作業ステップの期間を、糸つぎ装置の稼働率の関数として決定することもできる。よって、メンテナンス作業が多く発生するために糸つぎ装置の稼働率が高い場合、あるいは、可動糸つぎ装置のうちの一方の糸つぎ装置が故障した場合には、特定の作業ステップに対して短縮されたサイクルタイムを設定することができる。これにより、全体として、作業ステーションのダウンタイムを低く抑えることができる。逆に、ごく少数の糸つぎ工程しか実行する必要がない場合には、該当する作業ステップを確実に成功させ、稼働要求を達成すべく、当該作業ステップのサイクルタイムを長くしてよい。
【0017】
個々の作業ステップの期間は、記憶された基準に基づき、制御装置によって自動的に特定されるか、または手動で特定されてよい。よって、例えば、オペレータが確保できない場合、あるいは、高品質の糸が望まれる場合には、工程の信頼性を高めるためにより長い期間を手動で設定するオプションもあり、またその逆もあり得る。ただし、少なくとも1つの作業工程の現在の期間は、繊維機械の制御装置によって自立的に決定されることが好ましい。
【0018】
紡糸機では、紡糸を開始する準備としての個々の作業ステップは、糸の端部を紡糸部に少なくとも戻すことを含み、好ましくは、紡糸を再開するために糸の端部を準備すること、および/または、紡糸部をクリーニングすることを含む。
【0019】
巻き取り装置で接合すると即座に糸つぎまたはスプライシングの準備をする作業ステップは、糸をスプライシング室に少なくとも導入することを含む。追加のステップは、ボビンに巻かれた糸の端部を探索するステップと、糸を巻き戻すステップと、スプライシングのための糸の端部を準備するとともに糸の端部を固定して必要な長さに切断するステップとを含む。
【0020】
ボビンに巻かれた糸の端部を探索する期間、および/または、糸つぎ装置の操作部に糸の端部を送る期間、および/または、繊維機械の作業ステーション内の特に紡糸ユニット内に糸の端部を戻す期間が、生成された糸の特性の関数として変更可能であることが好ましい。ここで、単純な用途では、探索および/または返送のサイクルタイムまたは期間は10秒以上短縮できる。例えば、太い糸は、一般的に、ボビンの表面において比較的すばやく見つけられるので、このような糸を探索する期間を短縮できる。
【0021】
好ましくは、情報記憶装置には、異なる糸の特性が記憶されており、それぞれの特性には、少なくとも1つの作業ステップの期間について少なくとも1つの適切な値が割り当てられる。現在製造中の糸に対しては、その糸の特性に対応する期間の値が情報記憶装置から選択される。これは、制御装置により自動的に、または、オペレータによって行われてよい。
【0022】
一般に、それぞれの作業ステップの期間は、その作業ステップを実行するための固定された設定値に基づくものである。したがって、作業ステーションの作業部で糸の端部を探索または送る作業ステップ、あるいは、作業ステーションに糸の端部を戻す作業ステップにおいて、現在の作業ステップの期間は、現在製造中の糸の特性の関数として特定される巻き戻し速度によって特定されることが好ましい。例えば、太くて丈夫な糸は、糸の探索中に高速で巻きを解くことができ、その際に糸が損傷または切断されることを想定する必要もないため、時間を節約することができる。より繊細な糸の場合には、糸を痛めない方法で処理すべく、巻き戻し速度を予め低く設定してよい。
【0023】
しかしながら、太くて比較的剛性が高い糸を紡糸部に戻す際には、しばしば問題が発生する。したがって、糸を確実に戻すために、紡糸部に戻す期間を長くすることができる。これは、好ましくは、糸を戻す際の巻き戻し速度を低減することによって達成される。
【0024】
したがって、一方では、取り扱いが容易な糸を巻き戻す時間が大きく節約できるので、機械の稼働効率を大幅に向上させることができる。必要に応じて巻き戻し速度を遅く指定することにより、糸の損傷をさらに防ぐことができ、該当するステップの不要な繰り返しを避けることができるので、全体的な効率を高めることができる。
【0025】
方法の特に有利な追加の実施態様によれば、異なる糸の特性を情報記憶装置に記憶させる。このような異なる糸の特性は、少なくとも1つの適切な巻き戻し速度がそれぞれ割り当てられる。この方法では、それぞれの製造バッチにおける現在製造中の糸に対して、その糸の特性に対応する巻き戻し速度が情報記憶装置から選択される。それぞれの作業ステップにおいて高速処理と高成功率との間で最善の妥協点が得られるように、最適化された巻き戻し速度が各糸の基準値として記憶されてよい。その際、1つ以上の糸の特性に対して追加した特定の条件のさらなる値または値の範囲を記憶することも可能である。そのような追加の条件が存在しない場合、情報記憶装置からデフォルト値が選択される。逆に、追加の条件が存在する場合、その条件に対応し、かつ、その条件に対して最適化された値が情報記憶装置から選択される。その際、許容できる調整範囲を情報記憶装置に記憶させることができる。
【0026】
好ましくは、糸を探索する作業ステップの巻き戻し速度は、ボビンを駆動するローラの回転速度によって決定される。紡糸機では、紡糸ユニットに糸を戻す作業ステップの巻き戻し速度は、紡糸ローラの回転速度によって決定される。
【0027】
ここで、経験に基づいた巻き戻し速度の初期値が予め決定されていることが好ましい。くまた、該当する作業ステップの成功率の関数としての巻き戻し速度は、予め決められた最低成功率が達成されるまで、複数の糸つぎ工程において初期値から調整(特に低減)されることが好ましい。この方法によれば、該当する作業ステップの一時的な最適化が図られ、工程の信頼性も向上させることができる。
【0028】
ここで、予め決められた最低成功率が達成されるとすぐに、後続の糸つぎ工程の巻き戻し速度の作業値として、上記の方法で決定された巻き戻し速度が選択されれば特に有利である。したがって、最適な巻き戻し速度の決定は、製造バッチの最初のみ必要であり、最適な巻き戻し速度が見つかり次第、後続の糸つぎ工程は、経験値に基づく初期値ではなく、本願明細書において作業値と称する最適化された巻き戻し速度で実行できる。
【0029】
また、このようにして決定された巻き戻し速度の最適化作業値が情報記憶装置に記憶され、後続の製造バッチの初期値として予め決定されるならば有利である。したがって、糸の特性が後続の製造バッチにおいて同じ場合には、最低成功率に基づいて作業値を決定することは適切でない。
【0030】
この場合、情報記憶装置が制御装置に接続されていることが好ましく、この制御装置によって作業値の特定が自動的になされ、新たに見出された作業値を制御装置または情報記憶装置に自動的に記憶することができる。したがって、制御装置は、自己学習型として設計されている。
【0031】
糸を探索する作業ステップと、糸つぎ装置を作業部に導くまたは作業ステーションの特に紡糸ユニットに糸の端部を戻すステップとに加えて、他の作業ステップの期間を糸の特性の関数または糸つぎ装置の稼働率の関数として変更可能である。
【0032】
よって、紡糸機の場合には、紡糸ユニットの紡糸部、特に紡糸ロータをクリーニングする期間が変更可能であれば有利である。したがって、可動メンテナンス装置または糸つぎ装置の一部である紡糸部をクリーニングするための可動装置の場合、この期間を可動装置の稼働率の関数として変更することができる。例えば、稼働率が高い場合には、時間を節約し、かつ、その装置を待っている他の作業ステーションのダウンタイムを回避すべく、より短いクリーニング時間が指定されてよい。逆に、汚れの程度が高いことが予想されるタイプの糸の場合には、紡糸部をクリーニングする期間を長くとることにより、紡糸開始時のトラブルを避けて工程の信頼性を確保してよい。例えば、典型的なロータクリーニング時間は、1〜6秒の範囲である。しかしながら、クリーニング時間を短くすることにより機械の稼働効率が著しく向上するように、サイクルタイムを10秒以上変化させてもよい。
【0033】
方法の他の態様によれば、少なくとも1つの作業ステップの期間は、糸つぎ装置の操作部の横行速度を変化させることにより変更し得る。例えば、より太く剛性が高い糸の場合は、糸の端部を移動または格納するために操作部をさらに速く動かしてよい。
【0034】
少なくとも1つの作業ステップの現在の期間が、それぞれの製造バッチのボビン形態の関数として特定されることが好ましい。例えば、紡糸の開始時、または、予測可能な紡糸の停止時におけるボビンの加速または減速は、円錐形のボビンより円筒形のボビンのほうがよりすばやく行われ得る。
【0035】
またさらに、少なくとも1つの作業ステップを実行する間に、当該作業ステップの作業結果が決定され、決定された作業結果の関数として、当該作業ステップの現在の期間および/または作業レベル(負圧レベル、吸気流の圧力レベルおよび巻き戻し速度のような動作速度レベルなど)が特定されることが好ましい。例えば、ロータを機械的にクリーニングする場合、クリーニング装置の駆動によるモータの電力消費からクリーニング結果を導き出すことにより、作業結果を決定してよい。清潔なロータの消費電力と同じになるまでクリーニングを続けることによる作業結果に基づいて、ロータをクリーニングする期間が延長または短縮される。したがって、個々のクリーニングサイクルに対して、予め決められた最短および最長期間内で異なる期間を定めることができる。
【0036】
以下に、本発明のさらなる利点を実施形態に基づき記載する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】紡糸を開始するための複数の操作部を有する紡糸機の紡糸ステーションを示す概略側面図である。
図2】特定の作業ステップの期間調整を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図1は、紡糸機1の紡糸ステーションを示す概略側面図である。紡糸機1は、一般的に隣り合って配列された複数の紡糸ステーション2を有する。各紡糸ステーションは、糸Gを生成するための複数の作業部を有する。より詳しくは、各紡糸ステーション2は、1つの紡糸部8と、1つの排出部10とを備える少なくとも1つの紡糸ユニット7を有する。通常の紡糸モードでは、紡糸部8で生成された糸Fは、排出装置11により排出され、ボビン6へと送られて巻き取られる。この目的のため、ボビン6は、回転可能かつ駆動可能に装着され、図に示す例では、ボビン6を駆動するためのローラ4が設けられている。通常の紡糸操作において、ボビン6は、ローラ4によって糸排出方向(破線矢印の方向)に駆動される。あるいは、ボビン6は、直接駆動されてもよい。
【0039】
さらに、紡糸機1は、糸つぎ装置5を有し、この糸つぎ装置5は、糸Gの紡糸を開始するための複数の操作部14、15、16、17、18、19、20、21、22を有する。この例では、吸引ノズル14、空気圧操作部15、糸捕獲器16、固定装置18を備える送りユニット17、糸準備ユニット19、分離装置20、および、対の補助ローラ21が操作部として示されている。この例によれば、糸つぎ装置は、紡糸ステーション2に沿って移動可能なメンテナンス装置3内に配置される。なお、糸つぎ装置は、紡糸ステーション2に配置されてもよい。本願明細書に記載される操作部14、15、16、17、18、19、20、21、22は、例にすぎない。紡糸機1のバージョンによっては、特定の操作部14、15、16、17、18、19、20、21、22のうちのいくつかは必要ないか、または、特定の他の操作部14、15、16、17、18、19、20、21、22を代わりに設けてもよく、異なるアセンブリを形成するためにそれらを組み合わせてもよい。なお、糸Gの存在をモニタすべく、操作部14、15、16、17、18、19、20、21、22のいくつかにはセンサSが設けられてよい。センサSは、順序の正しさ、あるいは、個々の操作部14、15、16、17、18、19、20、21、22の旋回またはアセンブリの旋回を検出するために設けることができる。本実施例では、吸引ノズル14内、および、空気圧操作部15内にセンサが設けられている。従来の方法では、糸Gの存在をモニタすべく、そして該当する場合には糸Gの品質をモニタすべく、紡糸ステーション2の糸の経路に追加のセンサSが配置されていた。
【0040】
糸がちぎれるか明確に切断された場合、糸Gの端部は回転中のボビン6に巻きついており、紡糸を開始するためには、まず糸Gの端部をボビン6の表面から探す必要がある(糸を探索する作業ステップ)。本実施例によれば、この目的のため、ボビン6は、補助ドライブ22のローラ4によって、通常の排出方向とは反対の方向(実線矢印の方向)に駆動される。その一方で、糸の端部G’を探索しかつ検出すべく、吸引ノズル14がボビン6の位置する方向(破線で示す位置)に旋回する。吸引ノズル14が糸の端部G’を検出すると、吸引ノズル14は実線で示された位置に軸回転して、糸Gが空気圧操作部15へと送られる。糸の端部G’は、実線で示された位置において糸捕獲器16によって検出され、糸捕獲器16を旋回させることにより、破線で示された送りユニット17の位置へと送られる。同時に、紡糸が開始されると、オープンエンド式の紡糸ユニット7から糸Fが一時的に排出されることにより、糸の端部G’は、対の補助ローラ21内へと挿入される。
【0041】
糸の端部G’を準備する作業ステップでは、糸の端部G’は、初めに固定装置18で固定され、分離装置20によって分離される。これによって新たな糸の端部G’が生じ、紡糸を再開させるために糸準備ユニット19内で準備される。
【0042】
その一方で、紡糸ユニット7内では、紡糸部8をクリーニングする作業ステップが行われてよい。
【0043】
糸の端部G’が準備されると、糸の端部G’を紡糸ユニット7へと送る作業ステップが実行される。そのために、移動可能に支持された送りユニット17がその排出準備位置から、破線で示された送り位置へと移動され、それによって糸の端部G’が排出部10の前に配置される。
【0044】
次に、糸の端部G’を紡糸ユニット7または紡糸部8へと戻す作業ステップが実行される。この目的のため、対の補助ローラ21、および/または、送りユニット17に配置された追加の対の補助ローラ21(図示せず)が通常の排出方向とは反対の方向に駆動されることにより、糸の端部G’は、紡糸部8の有効範囲へと最終的に到達する。
【0045】
近年の技術水準では、個々の作業ステップは、全体として一定の順序で行われるように、常に固定のサイクルタイムまたは期間で実行されていた。一般に、個別の作業ステップの期間は、より難易度の高い糸Gに合わせて作業ステップの成功率が高くなるように指定されていた。
【0046】
それに対し、時間を節約すると共にそれに伴う機械の稼働効率を向上させるためには、少なくとも個々の作業ステップのサイクルタイムを現在生成中の糸Gの特性GCに適合させるべきである。同様に、特定の作業ステップが、関連する作業ステップの成功率が低いことに基づいてより難易度の高い用途であると予想される場合には、サイクルタイムを延長してもよい。
【0047】
図1に示された紡糸機1の場合、紡糸部8のクリーニング期間の調整、または、糸の端部を準備する期間の調整が問題になる。同様に、糸を探索する期間、糸捕獲器16によって糸Gを移動させる期間、糸の端部G’を紡糸ユニット7に送る期間、および糸の端部G’を紡糸ユニット7に戻す期間は、予め決められてよい。
【0048】
作業ステップの期間の設定を容易にすべく、本例では、紡糸機1の制御装置12に接続された情報記憶装置13が設けられている。情報記憶装置13には異なる糸特性GC、GC、・・・、GCが記憶されており、それぞれの特性には、それぞれの作業ステップの期間に対して少なくとも1つの適切な値W、W、・・・、Wが割り当てられている。したがって、情報記憶装置13によって現在の用途の糸特性GCを入力すると、その糸特性GCに適した値Wを得ることができる。記憶された値Wは、前の糸つぎ工程の経験に基づくものであり、最初のバージョンに従って、情報記憶装置13に記憶されている。なお、現在の糸特性GCに適した値Wの選択は、オペレータによって行われてもよい。この場合、制御装置12は、現在の糸特性GCに適した特定の値Wを提示するのみであり、その値はオペレータによって確認する必要がある。確認後、その値Wが制御装置12によって採用され、その結果、糸つぎ装置5またはその操作部14、15、16、17、18、19、20、21が制御される。ただし、適切な値Wの選択および採用を制御装置12で自動的に行うことが好ましい。
【0049】
特に有利なバージョンによれば、制御装置12は、自己学習型制御装置12として設計されて、情報記憶装置13に記憶されている特定の糸特性GCの値Wを変更可能とすることが好ましい。その際、紡糸工程または製造バッチ処理の間であっても、作業ステップの期間の最初に選択された値Wが、特定の糸特性GCに自動的に適合されるなら特に有利である。図2に、特定の作業ステップの期間を調整する手順を概略的に示す。
【0050】
いくつかの作業ステップでは、適切な期間が値Wとして直接記憶される一方で、他の作業ステップでは、特定の作業ステップの期間は、当該作業ステップを実行するための特定の設定値から導かれる。このような設定値は、例えば、吸引ノズル14、空気圧操作部15、糸捕獲器16および特に送りユニット17のような操作部14、15、16、17の横行速度であってよい。設定値は、糸Gの巻き戻し速度または特定の回転速度、例えば補助ローラ21の回転速度またはボビン6を駆動するローラ4の回転速度とすることができ、また他のパラメータにすることもできる。その場合、対応する期間は、値Wとしては記憶されず、そのような速度または回転速度に適した値として記憶される。
【0051】
ここでは、糸を探索する作業ステップ、または、糸の端部G’を紡糸ユニット7に戻す作業ステップの例を用いて手順を説明する。いずれにしても、糸の端部G’の巻き戻し速度の特定の値Wが設定値として記憶される。図1に示すように、各糸特性GC、GC、・・・、GCに対して、巻き戻し速度の少なくとも1つの適切な値W、W、・・・、Wが情報記憶装置に記憶される。紡糸工程の初めであって、特に、特定の製造バッチの初めに、オペレータは、制御装置12を用いて現在の用途での糸特性GCを入力する。さらに、オペレータは、該当する作業ステップの所望の最低成功率を入力することができる。しかしながら、例とは異なり、最低成功率は、制御装置12に永久的に記憶されていてもよい。記憶されている値W,W,・・・,Wに対応する入力された糸特性GCに対しては、その糸特性GCに適した値Wが情報記憶装置13から選択され、制御装置12によって初期値SWとして出力され得る。初期値SWは、該当する作業ステップを実行するために適した値Wとして、自動的にまたはオペレータによって予め決められてよい。
【0052】
好ましくは、この予め決められた値Wで複数の糸つぎ工程が実行された後、予め入力された所望の最低成功率、または、永久的に記憶された最低成功率が達成されたかの試験が行われてよい。その場合、予め決められた値Wは、今後の糸つぎ工程のための作業値AWとしても用いられ、値Wをさらに調整する必要はない。しかしながら、最低成功率が達成されない場合、制御手段12によって予め決められた値Wを引き下げ、この低減された値Wは、該当する作業ステップを実行するための値として再度決定される。巻き戻し速度の値Wを低減させる場合には、予め決められた最低成功率が達成されるまで、値Wの修正が行われる。その直後に、その方法で決定された値Wが、今後の糸つぎ工程のための作業値AWとして再度決定され、さらなる調整は必要ない。また、この方法で決定された作業値AWを情報記憶装置13に記憶しておくことにより、今後の製造バッチで最初から初期値SWとして用いることができる。
【0053】
ただし、該当する作業ステップの成功率の関数としての期間を複数の糸つぎ工程で変更する代わりに、またはそれに加えて、個別の作業ステップの成功率の関数としての期間を単一の糸つぎ工程で変更してよい。1つの作業ステップが失敗に終わって再び行う必要がある場合がこのケースに当たる。
【0054】
例えば、糸の探索の成功率を向上させるためには、ボビン6に巻き取られた糸の端部Gを探す(糸の探索)際の巻き戻し速度を変更することができる。糸の探索のための巻き戻し速度の値Wが選択され、選択された値Wを、例えば1m/sの巻き戻し速度の初期値SWとして用いて糸の探索が開始される。糸の端部G’を探索する作業ステップの期間は、例えば、初期値SWとして探索時間5秒に特定され、作業ステップは、通常の負圧レベルで実行される。
【0055】
この作業ステップが成功すれば、巻き戻し速度の初期値SWは、他の作業ステーションにおける後続の糸つぎ工程のための作業値AWとして採用される。また、作業ステップの期間、および、後続の糸つぎ工程の負圧レベルは、そのまま変わらない。
【0056】
作業ステップが失敗した場合、選択された初期値SWが変更され、この場合は糸を探索する当該作業ステップが、変更された値Wで再び行われる。例えば、巻き戻し速度は、0.5m/sまで低減される。その場合、期間および負圧レベルは変化しない。糸の探索が成功した場合、0.5m/sに低減された巻き戻し速度は、後続の糸つぎ工程のための作業値AWとして採用される。
【0057】
同じ糸つぎ工程における作業ステップがさらに失敗した場合も、作業ステップを再度行うと共に後続の糸つぎ工程を行うための作業値AWとして、0.5m/Sに低減された巻き戻し速度が採用されてよい。ただし、追加の値Wへの調整が行われ、該当する作業ステップは、調整された値Wによって再度行われる。例えば、負圧値を増大させてもよい。作業ステップが再び失敗した場合、糸の探索のための期間を初期値SWの5秒からさらに増加させる。ただし、当該作業ステップが成功すれば、今後の糸つぎ工程のための値Wは、初期値SWにリセットされる。
【0058】
初期値に設定された該当する作業ステップが、多数の糸つぎ工程で頻繁に失敗するためにこの作業ステップの成功率が低くなる場合のみ、値Wに変更し、この場合、低減された巻き戻し速度が上記のように永久に記憶されるか、あるいは、制御装置のそれぞれの部分に値Wとして少なくとも記憶される。
【0059】
本例では、適切な値Wは、糸Gの巻き戻し速度に基づき決定される。同様に、上記のような他の設定値として適切な値Wが決定されてもよい。その際、常に、比較的高い初期値SWで開始し、続いてその値を低減させる必要はない。サイクルタイムを遅くする必要があるようなより難易度が高い用途にたびたび用いられる場合には、遅い巻き戻し速度または低い値Wで開始し、許容可能な成功率に達するまで値Wを連続的に増大させてもよい。その際、作業ステップの成功率は、例えば、図1の説明で示したようなセンサSによってモニタすることができる。
【0060】
さらに、記載された手順は、他の繊維機械と同様の方法で、情報記憶装置13によって、特定の設定値としての適切な値Wの決定に用いられることもできる。巻き取り機では、例えば、糸の準備、糸の探索、繊維機械の作業部による糸Gの移動、スプライシング室への糸の端部G’の供給、また、必要であれば、作業ステーションへの糸の端部G’の返送の期間に対して予め決められた調整がなされてよい。
【0061】
したがって、個々の作業ステップおよび各糸特性GCのサイクルタイムは、特定の用途に対して最適な効率をもたらすように最適化され得る。このことは、特に、糸つぎ工程の多数の作業ステップに対してサイクルタイムの最適化を図る場合に、大幅な時間の節約および効率の向上をもたらす。
【符号の説明】
【0062】
1 紡糸機
2 紡糸ステーション
3 メンテナンス装置
4 ボビンを駆動するローラ
5 糸つぎ装置
6 ボビン
7 紡糸ユニット
8 紡糸部
10 排出部
11 排出装置
12 制御装置
13 情報記憶装置
14 吸引ノズル
15 空気圧操作部
16 糸捕獲器
17 送りユニット
18 固定装置
19 糸準備ユニット
20 分離装置
21 対の補助ローラ
22 予備ドライブ
G 糸
G’ 糸の端部
S センサ
W 値
SW 初期値
AW 作業値
GC 糸特性
図1
図2