【課題を解決するための手段】
【0011】
糸つぎ装置を用いた繊維機械の作業ステーションにおいて糸つぎ工程を制御する方法では、実際の糸つぎ操作の準備として、複数の作業ステップが時系列で連続的に行われる。いずれの場合も、それぞれの作業ステップには、当該作業ステップが実行される予め決められた期間が割り当てられる。その際、糸つぎ装置は、繊維機械の作業ステーションに沿って移動できるメンテナンス装置に設けられてもよく、繊維機械の作業ステーションに個別に設けられてもよい。繊維機械は、例えば、巻き取り機、または、紡糸機から構成することができる。本発明は、糸が製造または処理される繊維機械に適用することができ、繊維機械では、糸の製造が中断されると、繊維機械の通常工程に糸を戻さなければならない。よって、本発明の糸つぎ工程は、紡糸機において紡糸を再開させて巻き取り機で糸を接合する工程、または、他の糸接続工程であると理解される。
【0012】
少なくとも1つの作業ステップの予め決められた期間は、異なってよい。少なくとも1つの作業ステップの現在の期間は、現在製造中の糸の特性の関数、および/または、糸つぎ装置の稼働率の関数、および/または、その作業ステップの成功率の関数、および/または、個々の作業ステップの成功率の関数として決定される。好ましくは、少なくとも1つの作業ステップの期間は、製造される糸の特性の関数として、少なくとも製造バッチごとに決定される。したがって、それぞれの作業ステップにおいて、その糸特性により糸の取り扱いが容易である単純な用途では、それぞれの作業ステップの成功率を低下させることなく、作業ステップの期間を実質的に短縮することができる。逆に、特定の作業ステップが頻繁に失敗することが予測される、より難易度の高い用途においては、当該作業ステップをよりゆっくり実行する(すなわち、サイクルタイムをより長くする)ことにより、作業ステップの成功率を高めることができる。その際の作業ステップの期間は、現在の糸の特性に応じて、広い範囲内で変更可能であり、0秒に設定してもよい。つまり、1つのステップを完全に省略してもよい。一方、糸つぎ装置の稼働率が低い場合、または、特定の糸特性を有する場合には、0秒の標準期間から開始する特定の期間を設定することにより、特定の作業ステップを追加することもできる。
【0013】
また、作業ステップの期間を、この作業ステップの成功率の関数として特定してもよい。したがって、例えば、前の糸つぎ工程で作業ステップが失敗した後には、その作業ステップのサイクルタイムを現在の糸つぎ工程において増大させることができる。また、1つの作業ステップの成功率をいくつかの糸つぎ工程にわたって記録し、その作業ステップの期間を成功率の関数として再定義することもできる。期間を決定するために用いられる基準とは別に、稼働中に調整または最適化が継続して行われるように、該当する作業ステップの期間が永続的に、または、単に一時的に決定されてよい。
【0014】
さらに、1つの作業ステップの期間を、個別の作業ステップの成功率の関数として決定してもよい。これは、例えば、糸つぎ操作における1つの作業ステップが失敗した後、その作業ステップは繰り返されるが、その期間を変更する(特に、増大する)ことを意味する。
【0015】
個々の作業ステップは数秒範囲内に多数存在するので、全体としてのサイクルタイムは大きく短縮し、作業ステーションにおける非生産的なダウンタイムを回避することができる。
【0016】
さらに、特定の作業ステップの期間は、広い範囲で変更できるので、特定の操作条件に適合するオプションも提供できる。したがって、作業ステップの期間を、糸つぎ装置の稼働率の関数として決定することもできる。よって、メンテナンス作業が多く発生するために糸つぎ装置の稼働率が高い場合、あるいは、可動糸つぎ装置のうちの一方の糸つぎ装置が故障した場合には、特定の作業ステップに対して短縮されたサイクルタイムを設定することができる。これにより、全体として、作業ステーションのダウンタイムを低く抑えることができる。逆に、ごく少数の糸つぎ工程しか実行する必要がない場合には、該当する作業ステップを確実に成功させ、稼働要求を達成すべく、当該作業ステップのサイクルタイムを長くしてよい。
【0017】
個々の作業ステップの期間は、記憶された基準に基づき、制御装置によって自動的に特定されるか、または手動で特定されてよい。よって、例えば、オペレータが確保できない場合、あるいは、高品質の糸が望まれる場合には、工程の信頼性を高めるためにより長い期間を手動で設定するオプションもあり、またその逆もあり得る。ただし、少なくとも1つの作業工程の現在の期間は、繊維機械の制御装置によって自立的に決定されることが好ましい。
【0018】
紡糸機では、紡糸を開始する準備としての個々の作業ステップは、糸の端部を紡糸部に少なくとも戻すことを含み、好ましくは、紡糸を再開するために糸の端部を準備すること、および/または、紡糸部をクリーニングすることを含む。
【0019】
巻き取り装置で接合すると即座に糸つぎまたはスプライシングの準備をする作業ステップは、糸をスプライシング室に少なくとも導入することを含む。追加のステップは、ボビンに巻かれた糸の端部を探索するステップと、糸を巻き戻すステップと、スプライシングのための糸の端部を準備するとともに糸の端部を固定して必要な長さに切断するステップとを含む。
【0020】
ボビンに巻かれた糸の端部を探索する期間、および/または、糸つぎ装置の操作部に糸の端部を送る期間、および/または、繊維機械の作業ステーション内の特に紡糸ユニット内に糸の端部を戻す期間が、生成された糸の特性の関数として変更可能であることが好ましい。ここで、単純な用途では、探索および/または返送のサイクルタイムまたは期間は10秒以上短縮できる。例えば、太い糸は、一般的に、ボビンの表面において比較的すばやく見つけられるので、このような糸を探索する期間を短縮できる。
【0021】
好ましくは、情報記憶装置には、異なる糸の特性が記憶されており、それぞれの特性には、少なくとも1つの作業ステップの期間について少なくとも1つの適切な値が割り当てられる。現在製造中の糸に対しては、その糸の特性に対応する期間の値が情報記憶装置から選択される。これは、制御装置により自動的に、または、オペレータによって行われてよい。
【0022】
一般に、それぞれの作業ステップの期間は、その作業ステップを実行するための固定された設定値に基づくものである。したがって、作業ステーションの作業部で糸の端部を探索または送る作業ステップ、あるいは、作業ステーションに糸の端部を戻す作業ステップにおいて、現在の作業ステップの期間は、現在製造中の糸の特性の関数として特定される巻き戻し速度によって特定されることが好ましい。例えば、太くて丈夫な糸は、糸の探索中に高速で巻きを解くことができ、その際に糸が損傷または切断されることを想定する必要もないため、時間を節約することができる。より繊細な糸の場合には、糸を痛めない方法で処理すべく、巻き戻し速度を予め低く設定してよい。
【0023】
しかしながら、太くて比較的剛性が高い糸を紡糸部に戻す際には、しばしば問題が発生する。したがって、糸を確実に戻すために、紡糸部に戻す期間を長くすることができる。これは、好ましくは、糸を戻す際の巻き戻し速度を低減することによって達成される。
【0024】
したがって、一方では、取り扱いが容易な糸を巻き戻す時間が大きく節約できるので、機械の稼働効率を大幅に向上させることができる。必要に応じて巻き戻し速度を遅く指定することにより、糸の損傷をさらに防ぐことができ、該当するステップの不要な繰り返しを避けることができるので、全体的な効率を高めることができる。
【0025】
方法の特に有利な追加の実施態様によれば、異なる糸の特性を情報記憶装置に記憶させる。このような異なる糸の特性は、少なくとも1つの適切な巻き戻し速度がそれぞれ割り当てられる。この方法では、それぞれの製造バッチにおける現在製造中の糸に対して、その糸の特性に対応する巻き戻し速度が情報記憶装置から選択される。それぞれの作業ステップにおいて高速処理と高成功率との間で最善の妥協点が得られるように、最適化された巻き戻し速度が各糸の基準値として記憶されてよい。その際、1つ以上の糸の特性に対して追加した特定の条件のさらなる値または値の範囲を記憶することも可能である。そのような追加の条件が存在しない場合、情報記憶装置からデフォルト値が選択される。逆に、追加の条件が存在する場合、その条件に対応し、かつ、その条件に対して最適化された値が情報記憶装置から選択される。その際、許容できる調整範囲を情報記憶装置に記憶させることができる。
【0026】
好ましくは、糸を探索する作業ステップの巻き戻し速度は、ボビンを駆動するローラの回転速度によって決定される。紡糸機では、紡糸ユニットに糸を戻す作業ステップの巻き戻し速度は、紡糸ローラの回転速度によって決定される。
【0027】
ここで、経験に基づいた巻き戻し速度の初期値が予め決定されていることが好ましい。くまた、該当する作業ステップの成功率の関数としての巻き戻し速度は、予め決められた最低成功率が達成されるまで、複数の糸つぎ工程において初期値から調整(特に低減)されることが好ましい。この方法によれば、該当する作業ステップの一時的な最適化が図られ、工程の信頼性も向上させることができる。
【0028】
ここで、予め決められた最低成功率が達成されるとすぐに、後続の糸つぎ工程の巻き戻し速度の作業値として、上記の方法で決定された巻き戻し速度が選択されれば特に有利である。したがって、最適な巻き戻し速度の決定は、製造バッチの最初のみ必要であり、最適な巻き戻し速度が見つかり次第、後続の糸つぎ工程は、経験値に基づく初期値ではなく、本願明細書において作業値と称する最適化された巻き戻し速度で実行できる。
【0029】
また、このようにして決定された巻き戻し速度の最適化作業値が情報記憶装置に記憶され、後続の製造バッチの初期値として予め決定されるならば有利である。したがって、糸の特性が後続の製造バッチにおいて同じ場合には、最低成功率に基づいて作業値を決定することは適切でない。
【0030】
この場合、情報記憶装置が制御装置に接続されていることが好ましく、この制御装置によって作業値の特定が自動的になされ、新たに見出された作業値を制御装置または情報記憶装置に自動的に記憶することができる。したがって、制御装置は、自己学習型として設計されている。
【0031】
糸を探索する作業ステップと、糸つぎ装置を作業部に導くまたは作業ステーションの特に紡糸ユニットに糸の端部を戻すステップとに加えて、他の作業ステップの期間を糸の特性の関数または糸つぎ装置の稼働率の関数として変更可能である。
【0032】
よって、紡糸機の場合には、紡糸ユニットの紡糸部、特に紡糸ロータをクリーニングする期間が変更可能であれば有利である。したがって、可動メンテナンス装置または糸つぎ装置の一部である紡糸部をクリーニングするための可動装置の場合、この期間を可動装置の稼働率の関数として変更することができる。例えば、稼働率が高い場合には、時間を節約し、かつ、その装置を待っている他の作業ステーションのダウンタイムを回避すべく、より短いクリーニング時間が指定されてよい。逆に、汚れの程度が高いことが予想されるタイプの糸の場合には、紡糸部をクリーニングする期間を長くとることにより、紡糸開始時のトラブルを避けて工程の信頼性を確保してよい。例えば、典型的なロータクリーニング時間は、1〜6秒の範囲である。しかしながら、クリーニング時間を短くすることにより機械の稼働効率が著しく向上するように、サイクルタイムを10秒以上変化させてもよい。
【0033】
方法の他の態様によれば、少なくとも1つの作業ステップの期間は、糸つぎ装置の操作部の横行速度を変化させることにより変更し得る。例えば、より太く剛性が高い糸の場合は、糸の端部を移動または格納するために操作部をさらに速く動かしてよい。
【0034】
少なくとも1つの作業ステップの現在の期間が、それぞれの製造バッチのボビン形態の関数として特定されることが好ましい。例えば、紡糸の開始時、または、予測可能な紡糸の停止時におけるボビンの加速または減速は、円錐形のボビンより円筒形のボビンのほうがよりすばやく行われ得る。
【0035】
またさらに、少なくとも1つの作業ステップを実行する間に、当該作業ステップの作業結果が決定され、決定された作業結果の関数として、当該作業ステップの現在の期間および/または作業レベル(負圧レベル、吸気流の圧力レベルおよび巻き戻し速度のような動作速度レベルなど)が特定されることが好ましい。例えば、ロータを機械的にクリーニングする場合、クリーニング装置の駆動によるモータの電力消費からクリーニング結果を導き出すことにより、作業結果を決定してよい。清潔なロータの消費電力と同じになるまでクリーニングを続けることによる作業結果に基づいて、ロータをクリーニングする期間が延長または短縮される。したがって、個々のクリーニングサイクルに対して、予め決められた最短および最長期間内で異なる期間を定めることができる。
【0036】
以下に、本発明のさらなる利点を実施形態に基づき記載する。