(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る無灰炭の製造方法及び無灰炭の製造装置の実施形態について説明する。
【0023】
〔第1実施形態〕
図1に示す無灰炭の製造装置は、加熱部1と、溶出部2と、固液分離部3と、第1溶剤分離部4と、第2溶剤分離部5とを主に備える。
【0024】
[加熱部]
加熱部1は、溶剤タンク11と、ポンプ12と、予熱器13と、供給器14とを備える。また、加熱部1は、溶剤タンク11の溶剤を溶出部2へ搬送する搬送管15を備える。
【0025】
<溶剤タンク>
溶剤タンク11は、石炭と混合する溶剤を貯留する。
【0026】
上記溶剤は、石炭を溶解するものであれば特に限定されないが、例えば石炭由来の二環芳香族化合物が好適に用いられる。この二環芳香族化合物は、基本的な構造が石炭の構造分子と類似していることから石炭との親和性が高く、比較的高い抽出率を得ることができる。石炭由来の二環芳香族化合物としては、例えば石炭を乾留してコークスを製造する際の副生油の蒸留油であるメチルナフタレン油、ナフタレン油等を挙げることができる。
【0027】
上記溶剤の沸点は、特に限定されないが、例えば上記溶剤の沸点の下限としては、180℃が好ましく、230℃がより好ましい。一方、上記溶剤の沸点の上限としては、300℃が好ましく、280℃がより好ましい。上記溶剤の沸点が上記下限未満であると、溶剤が揮発し易くなるため、スラリー中の石炭と溶剤との混合比の調整及び維持が困難となるおそれがある。逆に、上記溶剤の沸点が上記上限を超えると、溶剤可溶成分と溶剤との分離が困難となるため、溶剤の回収率が低下するおそれがある。
【0028】
<ポンプ>
ポンプ12は、搬送管15に配設され、溶剤タンク11の溶剤を溶出部2へ搬送する。
【0029】
上記ポンプ12の種類は、搬送管15を介して上記溶剤を溶出部2へ圧送できるものであれば特に限定されないが、例えば容積型ポンプ又は非容積型ポンプを用いることができる。より具体的には、容積型ポンプとしてダイヤフラムポンプやチューブフラムポンプ等を用いることができ、非容積型ポンプとして渦巻ポンプ等を用いることができる。
【0030】
ポンプ12により上記溶剤を溶出部2へ圧送する際の圧力(搬送管15の内部圧力)の下限としては、1.1MPaが好ましく、1.5MPaがより好ましい。一方、上記搬送管15の内部圧力の上限としては、5MPaが好ましく、4MPaがより好ましい。上記搬送管15の内部圧力が上記下限未満であると、後述する搬送中の溶剤への石炭供給時に溶剤が石炭を攪拌する力が弱くなるため石炭の溶解が不十分となるおそれがある。逆に、上記搬送管15の内部圧力が上記上限を超えると、加熱部1に必要な耐圧を確保するための製造設備のコスト上昇に対して得られる石炭溶解の向上効果が不十分となるおそれがある。
【0031】
また、ポンプ12により搬送される上記溶剤は、層流状態で搬送されてもよいが、乱流状態で搬送されるとよい。このように溶剤を乱流状態で搬送することで、搬送中の溶剤への石炭供給時に溶剤が石炭を攪拌する力が高まるので、石炭が溶剤と混合し易くなると共に、石炭の溶解が促進される。ここで、「層流状態」とはレイノルズ数Reが2100未満の状態をいい、「乱流状態」とはレイノルズ数Reが2100以上、より好ましくはレイノルズ数Reが4000以上の状態をいう。
【0032】
ポンプ12により搬送される上記溶剤の流速の下限としては、0.5m/秒が好ましく、1m/秒がより好ましい。一方、上記溶剤の流速の上限としては、10m/秒が好ましく、5m/秒がより好ましい。上記溶剤の流速が上記下限未満であると、搬送中の溶剤への石炭供給時に溶剤が石炭を攪拌する力が弱くなるため石炭の溶解が不十分となるおそれがある。逆に、上記溶剤の流速が上記上限を超えると、ポンプ12を強力なものとするためのコスト上昇に対して得られる石炭溶解の向上効果が不十分となるおそれがある。
【0033】
<予熱器>
予熱器13は、予熱器13内を通過する溶剤を加熱できるものであれば特に限定されないが、例えば抵抗加熱式ヒーターや誘導加熱コイルが挙げられる。また、熱媒を用いて加熱を行ってもよい。例えば予熱器13を通過する溶剤の流路の周囲に加熱管を配し、この加熱管に蒸気、油等の熱媒を供給することで予熱器13内を通過する溶剤を加熱することができる。
【0034】
予熱器13による加熱後の溶剤の温度の下限としては、300℃が好ましく、350℃がより好ましい。一方、上記溶剤の温度の上限としては、溶出可能な温度であれば特に限定されないが、480℃が好ましく、450℃がより好ましい。上記溶剤の温度が上記下限未満であると、溶出部2において石炭を構成する分子間の結合を十分に弱められず、溶出率が低下するおそれがある。逆に、上記溶剤の温度が上記上限を超えると、溶剤の温度を維持するための熱量が不必要に大きくなるため、製造コストが増大するおそれがある。
【0035】
予熱器13による加熱速度の下限としては、10℃/分が好ましく、20℃/分がより好ましい。一方、上記加熱速度の上限としては、100℃/分が好ましく、50℃/分がより好ましい。上記加熱速度が上記下限未満であると、溶剤を所定温度まで加熱する時間を要するため、無灰炭の製造効率が低下するおそれがある。逆に、上記加熱速度が上記上限を超えると、加熱するためのエネルギーや製造設備等のコストが不要に増大するおそれがある。
【0036】
予熱器13による加熱時間としては、特に限定されないが、上述の温度や加熱速度の関係から、例えば10分以上30分以下とできる。
【0037】
<供給器>
供給器14は、石炭及びラジカル安定剤を搬送管15へ供給する。供給器14としては、常圧状態で使用される常圧ホッパー、常圧状態及び加圧状態で使用される加圧ホッパー等の公知のホッパーを用いることができる。上記石炭及びラジカル安定剤は、混合して上記ホッパーへ投入される。
【0038】
(石炭)
供給器14から供給する石炭としては、様々な品質の石炭を用いることができる。上記石炭としては、例えば無灰炭の抽出率の高い瀝青炭や、より安価な劣質炭(亜瀝青炭や褐炭)が好適に用いられる。また、石炭を粒度で分類すると、細かく粉砕された石炭が好適に用いられる。ここで「細かく粉砕された石炭」とは、例えば石炭全体の質量に対する粒度1mm未満の石炭の質量割合が80%以上である石炭を意味する。また、供給器14から供給する石炭として塊炭を用いることもできる。ここで「塊炭」とは、例えば石炭全体の質量に対する粒度5mm以上の石炭の質量割合が50%以上である石炭を意味する。塊炭は、細かく粉砕された石炭に比べて石炭の粒度が大きいため、後述する固液分離部3での分離を効率化することができる。ここで、「粒度(粒径)」とは、JIS−Z8815(1994)のふるい分け試験通則に準拠して測定した値をいう。なお、石炭の粒度による仕分けには、例えばJIS−Z8801−1(2006)に規定する金属製網ふるいを用いることができる。
【0039】
また、溶出時間の短縮という観点から、供給器14から供給する石炭として劣質炭を多く含むものを用いることが好ましい。この場合、供給する石炭全体における劣質炭の割合の下限としては、80質量%が好ましく、90質量%がより好ましい。供給する石炭に含まれる劣質炭の割合が上記下限未満であると、溶剤可溶成分を溶出する時間が長くなるおそれがある。
【0040】
上記劣質炭の炭素含有率の下限としては、70質量%が好ましい。一方、上記劣質炭の炭素含有率の上限としては、85質量%が好ましく、82質量%がより好ましい。上記劣質炭の炭素含有率が上記下限未満であると、溶剤可溶成分の溶出率が低下するおそれがある。逆に、上記劣質炭の炭素含有率が上記上限を超えると、供給する石炭のコストが高くなるおそれがある。
【0041】
(ラジカル安定剤)
ラジカル安定剤は、上記石炭と混合して供給器14に投入される。
【0042】
ラジカル安定剤としては、アミン系安定剤やフェノール系安定剤等を挙げることができるが、中でもアミン及びアンモニウム塩等のアミン系安定剤が好ましく、アミンが特に好ましい。また、上記アミンとしてはオクタデシルアミン等のモノアミン、N−アルキル−1,3−ジアミノプロパン等のジアミン又は牛脂ジプロピレントリアミン等のトリアミンが好ましく、モノアミンがより好ましい。
【0043】
無水炭基準での石炭に対する上記ラジカル安定剤の添加量の下限としては、0.045mmol/gが好ましく、0.15mmol/gがより好ましい。一方、上記ラジカル安定剤の添加量の上限としては、0.4mmol/gが好ましく、0.22mmol/gがより好ましい。上記ラジカル安定剤の添加量が上記下限未満であると、無灰炭の抽出率の向上効果が不足するおそれがある。逆に、上記ラジカル安定剤の添加量が上記上限を超えると、無灰炭の抽出率の向上効果に対してラジカル安定剤のコストが高くなり過ぎるおそれがある。
【0044】
上記石炭及びラジカル安定剤の混合物は、予熱しておくとよい。上記混合物を予熱しておくことで、搬送管15へ供給し、溶剤と混合した際にスラリーの温度が低下することを防ぐことができる。上記混合物の予熱温度としては、特に限定されないが、例えば200℃以上300℃以下とできる。
【0045】
なお、供給器14から搬送管15へ供給する上記混合物として、溶剤を混合してスラリー化した混合物を用いてもよい。供給器14からスラリー化した混合物を搬送管15へ供給することにより、搬送管15内で石炭及びラジカル安定剤が溶剤と混合し易くなり、石炭をより早く溶解させることができる。
【0046】
上記石炭スラリーにおける無水炭基準での石炭濃度の下限としては、20質量%が好ましく、30質量%がより好ましい。一方、上記石炭濃度の上限としては、70質量%が好ましく、60質量%がより好ましい。上記石炭濃度が上記下限未満であると、後述する溶出部2で溶出される溶剤可溶成分の溶出量がスラリー処理量に対して少なくなるため、無灰炭の製造効率が低下するおそれがある。逆に、上記石炭濃度が上記上限を超えると、スラリー化による石炭と溶剤との混合容易化効果が不十分となるおそれがある。
【0047】
<搬送管>
搬送管15は、溶剤タンク11の溶剤を溶出部2へ搬送する。また、供給器14から搬送管15に供給された石炭及びラジカル安定剤の混合物は、搬送管15内を流れる加熱後の溶剤とこの搬送管15内で混合され、急速昇温される。ここで、「急速昇温」とは、例えば10℃/秒以上500℃/秒以下程度の加熱速度で加熱されることをいう。その結果、溶剤と石炭及びラジカル安定剤との混合体であるスラリーの温度は、石炭及びラジカル安定剤を投入後、数秒から十数秒の間に比較的均一な温度となる。なお、上記スラリーの温度は、加熱後の溶剤の温度より石炭の顕熱分だけ低く、例えば350℃以上420℃以下程度である。
【0048】
上記スラリー中の無水炭基準での石炭濃度の下限としては、5質量%が好ましく、10質量%がより好ましい。一方、上記石炭濃度の上限としては、40質量%が好ましく、30質量%がより好ましい。上記石炭濃度が上記下限未満であると、後述する溶出部2で溶出される溶剤可溶成分の溶出量がスラリー処理量に対して少なくなるため、無灰炭の製造効率が低下するおそれがある。逆に、上記石炭濃度が上記上限を超えると、溶剤中で上記溶剤可溶成分が飽和するため、上記溶剤可溶成分の溶出率が低下するおそれがある。
【0049】
[溶出部]
溶出部2は、上記加熱部1で得られたスラリー中の上記石炭から溶剤に可溶な石炭成分を溶出させる。上記溶出部2は、抽出槽21を有する。
【0050】
抽出槽21には、上記搬送管15からスラリーが供給される。上記抽出槽21では、このスラリーの温度を保持しながら溶剤に可溶な石炭成分が石炭から溶出される。また、上記抽出槽21は、攪拌機21aを有している。この攪拌機21aによりスラリーを攪拌することで上記溶出を促進できる。
【0051】
上記抽出槽21の内部圧力の下限としては、1.1MPaが好ましく、1.5MPaがより好ましい。一方、上記抽出槽21の内部圧力の上限としては、5MPaが好ましく、4MPaがより好ましい。上記抽出槽21の内部圧力が上記下限未満であると、溶剤が蒸発することで減少し、石炭の溶解が不十分となるおそれがある。逆に、上記抽出槽21の内部圧力が上記上限を超えると、圧力を維持するためのコスト上昇に対して得られる石炭溶解の向上効果が不十分となるおそれがある。
【0052】
なお、溶出部2での溶出時間としては、特に限定されないが、溶剤可溶成分の抽出量と抽出効率との観点から10分以上70分以下とできる。
【0053】
溶出部2で可溶な石炭成分が溶出されたスラリーは供給管を介して固液分離部3へ送られる。
【0054】
[固液分離部]
固液分離部3は、上記溶出部2で得られた石炭成分が溶剤に溶解した溶液と溶剤不溶成分を含む固形分濃縮液とを上記スラリーから分離する。なお、溶剤不溶成分とは、主に抽出用溶剤に不溶な灰分と不溶石炭とで構成されており、抽出用溶剤も含まれている抽出残分をいう。
【0055】
固液分離部3における上記分離は、例えば重力沈降法により行うことができる。ここで重力沈降法とは、沈降槽内で重力を利用して固形分を沈降させて固液分離する分離方法である。重力沈降法により分離を行う場合、溶剤可溶成分を含む溶液は固液分離部3の上部に溜まる。この溶液は必要に応じてフィルターユニットを用いて濾過した後、第1溶剤分離部4に排出される。一方、溶剤不溶成分を含む固形分濃縮液は、固液分離部3の下部に溜まり、第2溶剤分離部5に排出される。
【0056】
また、重力沈降法により分離を行う場合、スラリーを固液分離部3内に連続的に供給しながら溶剤可溶成分を含む液体分及び溶剤不溶成分を含む固形分濃縮液を沈降槽から排出することができる。これにより連続的な固液分離処理が可能となる。
【0057】
固液分離部3内でスラリーを維持する時間は、特に限定されないが、例えば30分以上120分以下とでき、この時間内で固液分離部3内の沈降分離が行われる。なお、石炭として塊炭を使用する場合には、沈降分離が効率化されるので、固液分離部3内でスラリーを維持する時間を短縮できる。
【0058】
固液分離部3内は、加熱及び加圧することが好ましい。固液分離部3内の加熱温度の下限としては、300℃が好ましく、350℃がより好ましい。一方、固液分離部3内の加熱温度の上限としては、420℃が好ましく、400℃がより好ましい。上記加熱温度が上記下限未満であると、溶剤可溶成分が再析出し、分離効率が低下するおそれがある。逆に、上記加熱温度が上記上限を超えると、加熱のための運転コストが高くなるおそれがある。
【0059】
また、固液分離部3内の圧力の下限としては、1MPaが好ましく、1.4MPaがより好ましい。一方、上記圧力の上限としては、3MPaが好ましく、2MPaがより好ましい。上記圧力が上記下限未満であると、溶剤可溶成分が再析出し、分離効率が低下するおそれがある。逆に、上記圧力が上記上限を超えると、加圧のための運転コストが高くなるおそれがある。
【0060】
なお、上記溶液及び固形分濃縮液を分離する方法としては、重力沈降法に限られず、例えば濾過法や遠心分離法を用いてもよい。固液分離方法として濾過法や遠心分離法を用いる場合、固液分離部3として濾過器や遠心分離器などが使用される。
【0061】
[第1溶剤分離部]
第1溶剤分離部4は、上記固液分離部3で分離した上記溶液から溶剤を蒸発させる。この溶剤の蒸発分離により無灰炭HPCが得られる。
【0062】
このようにして得られる無灰炭HPCは、例えばコークスの原料石炭よりも高い発熱量を示す。さらに無灰炭は、製鉄用コークスの原料として特に重要な品質である軟化溶融性が大幅に改善され、例えば原料石炭よりも遥かに優れた流動性を示す。従って無灰炭は、コークス原料に配合する石炭として使用することもできる。
【0063】
溶剤を蒸発分離する方法としては、蒸発分離器を用いた一般的な蒸留法や蒸発法(スプレードライ法等)を含む分離方法を用いることができる。
【0064】
なお、第1溶剤分離部4で蒸発させた溶剤は、例えば熱交換器により液化して、加熱部1に供給し、石炭及びラジカル安定剤と混合する溶剤として利用するとよい。このように溶剤を循環利用することで、無灰炭の製造コストを低減できる。
【0065】
[第2溶剤分離部]
第2溶剤分離部5は、固液分離部3で分離された上記固形分濃縮液から、溶剤を蒸発分離させて副生炭RCを得る。
【0066】
副生炭RCは、軟化溶融性は示さないが、含酸素官能基が脱離されている。そのため、副生炭RCは、配合炭として用いた場合にこの配合炭に含まれる他の石炭の軟化溶融性を阻害しない。従って、この副生炭RCは例えばコークス原料の配合炭の一部として使用することができる。また、副生炭RCは一般の石炭と同様に燃料として利用してもよい。
【0067】
固形分濃縮液から溶剤を分離する方法としては、第1溶剤分離部4の分離方法と同様に、蒸発分離器を用いた一般的な蒸留法や蒸発法(スプレードライ法等)を用いることができる。
【0068】
なお、第2溶剤分離部5で蒸発させた溶剤は、例えば熱交換器により液化して、加熱部1に供給し、石炭及びラジカル安定剤と混合する溶剤として利用するとよい。このように溶剤を循環利用することで、無灰炭の製造コストを低減できる。
【0069】
[無灰炭の製造方法]
当該無灰炭の製造方法は、加熱工程と、溶出工程と、分離工程と、第1蒸発工程と、第2蒸発工程とを備える。当該無灰炭の製造方法は、
図1の無灰炭の製造装置を用いて行うことができる。
【0070】
<加熱工程>
加熱工程では、石炭、ラジカル安定剤及び溶剤の混合物を加熱する。加熱工程は、溶剤加熱工程と、溶剤搬送工程と、供給工程とを備える。
【0071】
上記溶剤加熱工程では、溶剤を加熱する。具体的には、溶剤タンク11に貯留された溶剤をポンプ12により搬送管15へ流し、この搬送管15内を流れる溶剤が予熱器13を通る間に加熱される。
【0072】
上記溶剤搬送工程では、上記溶剤加熱工程で加熱した上記溶剤を上記溶出工程に搬送する。具体的には、搬送管15により溶剤が溶出部2へ供給される。
【0073】
上記供給工程では、上記溶剤搬送工程で上記溶剤に石炭及びラジカル安定剤を供給する。具体的には、供給器14から上記加熱後の溶剤が流れる搬送管15へ石炭及びラジカル安定剤を供給し、石炭及びラジカル安定剤と溶剤とを混合してスラリーとする。搬送管15へ供給された石炭及びラジカル安定剤は溶剤により急速昇温され、また、搬送管15を流れる溶剤が石炭を攪拌するので、石炭が溶解し易く、溶剤と石炭とがよく混合されたスラリーが得られる。
【0074】
上記供給工程における石炭の昇温速度の下限としては、600℃/分が好ましく、700℃/分がより好ましい。上記昇温速度が上記下限未満であると、ラジカル安定剤による無灰炭の抽出率の向上効果が不足するおそれがある。一方、上記昇温速度の上限としては、特に限定されないが、30000℃/分とできる。上記昇温速度が上記上限を超えると、昇温のためのコストが不要に増大するおそれがある。なお、上記昇温速度は、上記溶剤加熱工程での溶剤の加熱温度により調整できる。
【0075】
<溶出工程>
溶出工程では、上記加熱工程で得られたスラリー中の上記石炭から溶剤に可溶な石炭成分を溶出させる。具体的には、加熱工程で調製されたスラリーを抽出槽21に供給し、攪拌機21aで攪拌しながら所定温度で保持して抽出を行う。
【0076】
<分離工程>
分離工程では、上記溶出工程で溶出後の上記スラリーを、溶剤可溶成分を含む液体分及び溶剤不溶成分を含む固形分濃縮液に分離する。具体的には、抽出槽21から排出されるスラリーを固液分離部3へ供給し、固液分離部3内に供給されたスラリーを例えば重力沈降法により上記液体分及び固形分濃縮液に分離する。
【0077】
<第1蒸発工程>
第1蒸発工程では、上記分離工程で分離した上記溶液から溶剤を蒸発させる。具体的には、固液分離部3で分離された溶液を第1溶剤分離部4に供給し、第1溶剤分離部4で溶剤を蒸発させる。これにより上記溶液を溶剤と無灰炭とに分離する。
【0078】
<第2蒸発工程>
第2蒸発工程では、上記分離工程で分離した上記固形分濃縮液から溶剤を蒸発させる。具体的には、固液分離部3で分離された固形分濃縮液を第2溶剤分離部5に供給し、第2溶剤分離部5で溶剤を蒸発させて溶剤と副生炭とに分離する。
【0079】
[利点]
当該無灰炭の製造装置及び当該無灰炭の製造方法では、加熱して溶剤可溶成分を抽出する前のスラリーにラジカル安定剤を添加する。このラジカル安定剤が、スラリーの加熱により生じる石炭ラジカルの重縮合による高分子化を抑制できるので、溶出される石炭の可溶成分を増加させることができる。従って、当該無灰炭の製造装置及び当該無灰炭の製造方法を用いることで無灰炭の抽出率を高められる。
【0080】
また、当該無灰炭の製造装置及び当該無灰炭の製造方法では、搬送中の加熱された溶剤に石炭を供給することで、石炭を急速に昇温できると共に、溶剤の流れにより石炭と溶剤とを攪拌することができる。これにより、短い時間で石炭を溶剤に溶解できる。また、ラジカル安定剤を石炭と共に供給することで、石炭ラジカルの高分子化を効果的に抑止できるので、無灰炭の抽出率をさらに高められる。
【0081】
〔第2実施形態〕
図2の加熱部10は、
図1の無灰炭の製造装置の加熱部1に代えて用いられる。
図2の加熱部10は、溶剤タンク11と、供給器14と、混合部16と、ポンプ17と、昇温部18とを備える。なお、溶剤タンク11と供給器14とは、
図1の無灰炭の製造装置におけるものと同様であるので、同一符合を付して説明を省略する。
【0082】
<混合部>
混合部16は、溶剤タンク11から供給する溶剤と、供給器14から供給する石炭及びラジカル安定剤とを混合する。
【0083】
上記混合部16としては、調製槽19を用いることができる。この調製槽19には、供給管を介して上記石炭、ラジカル安定剤及び溶剤が供給される。上記調製槽19では、この供給された石炭、ラジカル安定剤及び溶剤が混合され、スラリーが調製される。また、上記調製槽19は、攪拌機19aを有しており、混合したスラリーを攪拌機19aで攪拌しながら保持することによりスラリーの混合状態を維持する。
【0084】
なお、混合部16の調製槽19で調製されたスラリーは、供給管を介して昇温部18へ送られる。
【0085】
<ポンプ>
ポンプ17は、混合部16から昇温部18へスラリーを供給する供給管に配設されており、上記調製槽19に貯留されているスラリーを昇温部18へ圧送する。
【0086】
上記ポンプ17の種類は、供給管を介して上記スラリーを昇温部18へ圧送できるものであれば特に限定されないが、例えば容積型ポンプ又は非容積型ポンプを用いることができる。上記容積型ポンプとしては、ダイヤフラムポンプやチューブフラムポンプ等が挙げられ、上記非容積型ポンプとしては、渦巻ポンプ等が挙げられる。
【0087】
<昇温部>
昇温部18は、上記混合部16で得られるスラリーを昇温する。
【0088】
昇温部18としては、内部を通過するスラリーを昇温できるものであれば特に限定されないが、例えば抵抗加熱式ヒーターや誘導加熱コイルが挙げられる。また、昇温部18は、熱媒を用いて昇温を行うよう構成されていてもよく、例えば内部を通過するスラリーの流路の周囲に配設される加熱管を有し、この加熱管に蒸気、油等の熱媒を供給することでスラリーを昇温可能に構成されていてもよい。
【0089】
昇温部18による昇温後のスラリーの温度の下限としては、300℃が好ましく、360℃がより好ましい。一方、上記スラリーの温度の上限としては、420℃が好ましく、400℃がより好ましい。上記スラリーの温度が上記下限未満であると、石炭を構成する分子間の結合を十分に弱められず、溶出率が低下するおそれがある。逆に、上記スラリーの温度が上記上限を超えると、スラリーの温度を維持するための熱量が不必要に大きくなるため、多孔質炭素粒子の製造コストが増大するおそれがある。
【0090】
[無灰炭の製造方法]
当該無灰炭の製造方法は、加熱工程と、溶出工程と、分離工程と、第1蒸発工程と、第2蒸発工程とを備える。当該無灰炭の製造方法は、
図2の加熱部10を有する無灰炭の製造装置を用いて行うことができる。なお、溶出工程、分離工程、第1蒸発工程、及び第2蒸発工程は、第1実施形態の無灰炭の製造方法と同様に行うことができるので、ここでは加熱工程についてのみ説明する。
【0091】
<加熱工程>
加熱工程では、石炭、ラジカル安定剤及び溶剤の混合物を加熱する。上記加熱工程は、混合工程と、昇温工程とを備える。
【0092】
混合工程では、石炭、ラジカル安定剤及び溶剤を混合する。具体的には、供給器14から供給される石炭及びラジカル安定剤と、溶剤タンク11から供給される溶剤を混合部16の調製槽19により混合してスラリーとする。
【0093】
昇温工程では、上記混合工程で得られたスラリーを昇温する。具体的には、上記スラリーをポンプ17によって昇温部18に供給してスラリーを昇温する。
【0094】
[利点]
当該無灰炭の製造装置及び当該無灰炭の製造方法では、ラジカル安定剤を混合した後にスラリーを昇温することで、石炭ラジカルの高分子化を効果的に抑止できるので、無灰炭の抽出率をさらに高められる。
【0095】
〔その他の実施形態〕
なお、本発明の無灰炭の製造装置及び無灰炭の製造方法は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0096】
上記実施形態では、石炭とラジカル安定剤とを予め混合した混合物を供給器から供給する構成を説明したが、石炭とラジカル安定剤とは別々に供給してもよい。
【0097】
また、上記実施形態では、無灰炭の製造方法として第2蒸発工程を備える場合を説明したが、例えば副生炭を利用しない場合、この第2蒸発工程は省略可能である。第2蒸発工程を行わない場合、無灰炭の製造装置は、第2溶剤分離部を備えなくともよい。
【0098】
上記第1実施形態では、加熱部としてポンプの下流側に予熱器が配設されている場合を説明したが、ポンプと予熱器との配設順は逆であってもよい。
【0099】
上記第2実施形態では、無灰炭の製造装置の混合部が調製槽を有する構成について説明したが、この構成に限らず、溶剤と石炭及びラジカル安定剤との混合ができれば、調製槽を省略してもよい。例えばラインミキサーにより上記混合が完了するような場合には、調製槽を省略して供給管と昇温部との間にラインミキサーを備える構成としてもよい。
【実施例】
【0100】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0101】
石炭として、瀝青炭を40g準備した。なお、上記石炭は、全石炭に対する粒子径1mm未満の石炭の割合が90質量%以上となるように粉砕して使用した。また、無灰炭の抽出用溶剤として、1−メチルナフタレンを240g準備した。この石炭及び溶剤を混合してスラリーを調製した。
【0102】
ラジカル安定剤として、モノアミンであるオクタデシルアミンを2g準備し、上記スラリーに添加して混合した。
【0103】
ステンレスフィルタを有する容量500ccのオートクレーブに上記スラリーを投入し、2MPaの圧力条件で380℃に昇温した。そして、温度を380℃に保持したまま40分間攪拌し、石炭から溶剤に可溶な石炭成分を溶出させた。
【0104】
上記抽出温度のまま濾過を行い、濾残(溶剤不溶成分)の質量を測定し、溶剤に可溶な石炭成分の割合、つまり抽出率を算出した。
【0105】
モノアミンの添加量を0g、0.5g、1g、4gとして、同様の処理を行った。なお、「モノアミンの添加量を0gとする」とは、モノアミンを添加しないことを意味する。
【0106】
モノアミンの添加量が0gであるときの抽出率を基準とし、他の添加量における抽出率の増加率(質量%)を算出した。結果を
図3に示す。なお、「増加率」は、添加量が0gであるときの抽出率をX、増加率を算出する条件における抽出率をYとするとき、(Y−X)/X×100で計算される量である。また、
図3において横軸は無水炭基準での石炭に対する上記ラジカル安定剤の添加量(mmol/g)に換算している。
【0107】
図3の結果から、添加量が0.045mmol/g以上で効果が認められるようになり(抽出率の増加が3%以上となり)、0.4mmol/g程度までモノアミンの添加量に比例して抽出率が増加することが分かる。
【0108】
また、ラジカル安定剤の添加量を2gに固定したまま、ラジカル安定剤の種類を第1級モノアミンのオクタデシルアミン(アミンA)、第2級モノアミンのジオクタデシルアミン(アミンB)、第4級アンモニウム塩の塩化ジアルキルジメチルアンモニウム(アミンC)、第1級ジアミンのN−アルキル−1,3−ジアミノプロパン(アミンD)、第1級トリアミンの牛脂ジプロピレントリアミン(アミンE)として、同様の処理を行い、抽出率の増加率(質量%)を算出した。結果を
図4に示す。また、
図5に上述の結果を無水炭基準での石炭に対するラジカル安定剤の添加量(mol量)を基準にグラフ化したものを示す。
【0109】
図4、
図5の結果から、いずれのラジカル安定剤においても抽出率が増加することが分かる。中でもモノアミンをラジカル安定剤とする場合、抽出率の増加率が高いことが分かる。また、無水炭基準での石炭に対するラジカル安定剤の添加量を増加することで、抽出率を高められることが分かる。以上から、ラジカル安定剤を添加することで、抽出率を高められると考えられる。