特許第6828130号(P6828130)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6828130ロープ検査方法、ロープ検査システム、および、プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6828130
(24)【登録日】2021年1月22日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】ロープ検査方法、ロープ検査システム、および、プログラム
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/00 20060101AFI20210128BHJP
   B66B 5/02 20060101ALI20210128BHJP
   G01B 11/14 20060101ALI20210128BHJP
   G01B 11/02 20060101ALI20210128BHJP
【FI】
   B66B5/00 G
   B66B5/02 C
   G01B11/14 H
   G01B11/02 H
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-232548(P2019-232548)
(22)【出願日】2019年12月24日
【審査請求日】2019年12月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 悠介
【審査官】 有賀 信
(56)【参考文献】
【文献】 特開2019−137489(JP,A)
【文献】 特開平07−330244(JP,A)
【文献】 特開2004−018246(JP,A)
【文献】 特開平06−115846(JP,A)
【文献】 特開平10−182036(JP,A)
【文献】 特開2018−076151(JP,A)
【文献】 特開2018−204977(JP,A)
【文献】 特開2019−156554(JP,A)
【文献】 国際公開第2019/063866(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/00─ 5/28
G01B 11/00─11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の物体を吊り下げるロープにおいて軸方向に所定間隔でマーキングが施されている側面を撮像して得られた画像データに基づいて、隣接する2つの前記マーキングの間の距離を検知する検知ステップと、
前記距離と前記所定間隔の初期値との差分が、前記ロープの伸びとして許容する範囲として設定された許容閾値範囲に含まれていなくて、かつ、前記ロープの伸びによって変動しうる範囲として設定された誤検知閾値範囲に含まれている場合は、異常ありと判定し、
前記差分が前記誤検知閾値範囲に含まれていない場合は、前記距離が誤検知であって異常なしと判定する判定ステップと、を含むロープ検査方法。
【請求項2】
前記判定ステップによって異常ありと判定された場合に、前記ロープの使用停止を指令する停止指令ステップを、さらに備える請求項1に記載のロープ検査方法。
【請求項3】
前記判定ステップによって前記ロープの同じ位置について前記差分が前記誤検知閾値範囲に含まれていないと判定された回数を計測する回数計測ステップと、
前記回数が所定回数に達した場合に、前記距離の誤検知が解消しない旨と前記ロープにおけるその位置の情報を出力する出力ステップと、をさらに備える請求項1に記載のロープ検査方法。
【請求項4】
所定の物体を吊り下げるロープにおいて軸方向に所定間隔でマーキングが施されている側面を撮像して得られた画像データに基づいて、隣接する2つの前記マーキングの間の距離を検知する検知部と、
前記距離と前記所定間隔の初期値との差分が、前記ロープの伸びとして許容する範囲として設定された許容閾値範囲に含まれていなくて、かつ、前記ロープの伸びによって変動しうる範囲として設定された誤検知閾値範囲に含まれている場合は、異常ありと判定し、
前記差分が前記誤検知閾値範囲に含まれていない場合は、前記距離が誤検知であって異常なしと判定する判定部と、
を備えるロープ検査システム。
【請求項5】
所定の物体を吊り下げるロープにおいて軸方向に所定間隔でマーキングが施されている側面を撮像して得られた画像データに基づいて、隣接する2つの前記マーキングの間の距離を検知する検知ステップと、
前記距離と前記所定間隔の初期値との差分が、前記ロープの伸びとして許容する範囲として設定された許容閾値範囲に含まれていなくて、かつ、前記ロープの伸びによって変動しうる範囲として設定された誤検知閾値範囲に含まれている場合は、異常ありと判定し、
前記差分が前記誤検知閾値範囲に含まれていない場合は、前記距離が誤検知であって異常なしと判定する判定ステップと、をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ロープ検査方法、ロープ検査システム、および、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、機器の検査に関して、検査対象を作業員が直接目視する代わりに、検査対象を撮像して得た画像データを用いて検査する技術が知られている。検査対象としては、例えば、エレベータ、クレーン、橋梁等に使用されているロープがある。
【0003】
例えば、エレベータのメインロープはエレベータの運用によって劣化が生じるため、メインロープの健全性を確認する検査が定期的に行われている。メインロープの検査方法として、例えば、エレベータ装置にメインロープをかけた状態で、メインロープを撮像することによって検査を行う方法がある。
【0004】
具体的には、例えば、まず、ロープにおいて軸方向に所定間隔でマーキングが施されている側面を撮像して得た画像データに基づいて、隣接する2つのマーキングの間の距離を検知する。そして、その距離と所定間隔の初期値との差分が、ロープの伸びとして許容する範囲として設定された許容閾値範囲に含まれていない場合、ロープの異常であると判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018−204977号公報
【特許文献2】特開2009−143678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の従来技術の場合、例えば、ロープの表面に異物(ゴミ、埃等)の付着や変色等によって変化があると、その変化した表面をマーキングとして誤検知してしまう場合がある。そうなると、実際にはロープに異常がなくても、上述の差分が許容閾値範囲に含まれず、ロープの異常であると誤判定してしまうことがある。
【0007】
そこで、以下の実施形態では、ロープの表面に変化があった場合でもロープの劣化を高精度に検査することができるロープ検査方法、ロープ検査システム、および、プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態のロープ検査方法は、所定の物体を吊り下げるロープにおいて軸方向に所定間隔でマーキングが施されている側面を撮像して得られた画像データに基づいて、隣接する2つの前記マーキングの間の距離を検知する検知ステップと、前記距離と前記所定間隔の初期値との差分が、前記ロープの伸びとして許容する範囲として設定された許容閾値範囲に含まれていなくて、かつ、前記ロープの伸びによって変動しうる範囲として設定された誤検知閾値範囲に含まれている場合は、異常ありと判定し、前記差分が前記誤検知閾値範囲に含まれていない場合は、前記距離が誤検知であって異常なしと判定する判定ステップと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、第1実施形態のエレベータシステムの全体構成の概略を示すブロック図である。
図2図2は、第1実施形態のエレベータの樹脂被覆ロープの一例を示す図である。
図3図3は、第1実施形態において樹脂被覆ロープの表面に変化があった場合の一例を示す図である。
図4図4は、第1実施形態のエレベータシステムにおける動作を示すフローチャートである。
図5図5は、第2実施形態のエレベータシステムの全体構成の概略を示すブロック図である。
図6図6は、第2実施形態のエレベータシステムにおける動作を示すフローチャートである。
図7図7は、第3実施形態のエレベータシステムの全体構成の概略を示すブロック図である。
図8図8は、第3実施形態のエレベータシステムにおける動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら、実施形態(第1実施形態〜第3実施形態)のロープ検査方法、ロープ検査システム、および、プログラムについて説明する。
【0011】
実施形態の理解を助けるために、まず、エレベータの樹脂被覆ロープを診断(検査)する場合の従来技術の課題について説明する。エレベータに使用するメインロープの種類の1つとして、樹脂被覆ロープがある。また、そのような樹脂被覆ロープを遠隔監視センタで診断(以下、遠隔診断ともいう。)する場合がある。
【0012】
その場合、樹脂被覆ロープにおいて軸方向に所定間隔でマーキングが施されている側面を撮像して得た画像データに基づいて、隣接する2つのマーキングの間の距離を検知する。そして、その距離と所定間隔の初期値との差分が、ロープの伸びとして許容する範囲として設定された許容閾値範囲に含まれていない場合、ロープの異常であると判定する。
【0013】
また、上述の特許文献1(特開2018−204977号公報)では、仮にマーキングを検知できない箇所が発生した場合には、その箇所の前後で検知できたマーキングの間隔から樹脂被覆ロープの伸びを算出する。そして、ロープの異常の有無を判定し、異常がある場合には異常箇所を検出できる。
【0014】
また、上述の特許文献2(特開2009−143678号公報)では、樹脂被覆ロープの内部に電気的導通確認ができる部品を一定間隔で設置する。そして、部品間の電気的導通の有無で、樹脂被覆ロープの外装被覆損傷や素線切れ等の異常を認識することができる。
【0015】
しかしながら、上述の2つの従来技術の場合、例えば、樹脂被覆ロープの表面に異物(ゴミ、埃等)の付着や変色等によって変化があると、その変化した表面をマーキングとして誤検知してしまう場合がある。そうなると、実際には樹脂被覆ロープに異常がなくても、上述の差分が許容閾値範囲に含まれず、樹脂被覆ロープの異常であると誤判定してしまうことがある。樹脂被覆ロープの異常と誤判定されると、保守員の出役工数の増加等につながってしまう。
【0016】
そこで、以下の実施形態では、樹脂被覆ロープの表面に変化があった場合でも樹脂被覆ロープの劣化を高精度に検査することができる技術について説明する。
【0017】
(第1実施形態)
図1を参照して、第1実施形態のエレベータシステムS(ロープ検査システム)の全体構成について説明する。図1は、第1実施形態のエレベータシステムSの全体構成の概略を示すブロック図である。
【0018】
エレベータシステムSは、エレベータ1と、エレベータ制御装置5と、ロープ診断装置13と、遠隔監視センタ16と、保守員ツール22と、を備える。
【0019】
エレベータ1は、巻上機2と、樹脂被覆ロープ3と、エレベータかご4と、を備える。巻上機2は、例えば、エレベータかご4とカウンタウエイト(不図示)とを連結するメインロープである樹脂被覆ロープ3の巻き上げを行うことで、エレベータかご4を昇降させる。
【0020】
次に、樹脂被覆ロープ3について、図2を参照して説明する。図2は、第1実施形態のエレベータ1の樹脂被覆ロープ3の一例を示す図である。図2において、(a)は本実施形態にかかる樹脂被覆ロープ3の断面図を示し、(b)は樹脂被覆ロープ3の側面図を示している。図2に示すように、樹脂被覆ロープ3は、例えば炭素鋼及びステンレス鋼等で造られた複数の素線をより合わせた複数のストランド3aを心鋼3bの周りに所定のピッチでより合わせることで構成されたワイヤロープ3Aの外周が樹脂製のカバー層3Bで覆われた構造を有する。
【0021】
カバー層3Bの外周面には、外側から視認することが可能なマーキング51が所定間隔Lで設けられている。したがって、マーキング51間の所定間隔Lを実測することで、そのマーキング51間の樹脂被覆ロープ3がどの程度伸張しているかを特定することができる。そこで、本実施形態では、特定された伸張度合いから、樹脂被覆ロープ3の劣化の程度を推定・評価する。これにより得られた推定・評価の結果は、例えば樹脂被覆ロープ3のメンテナンスや交換の時期を決定する際に利用することが可能である。
【0022】
なお、実施形態の検査対象は、図2に例示する樹脂被覆ロープ3に限定されず、金属表面が露出したワイヤロープなどの他のロープあってもよい。そのような他のロープの場合でも、ロープの外周面には、外側から視認することが可能なマーキングが所定間隔で設けられているものとする。
【0023】
図1に戻って、エレベータかご4は、利用者が乗降するための箱状の構造物である。
【0024】
エレベータ制御装置5は、乗場情報検出部6と、乗りかご情報検出部7と、乗りかご運転制御部8と、遠隔診断指令部9と、時計10と、遠隔診断運転実施判定部11と、遠隔診断結果送信部12と、を備える。
【0025】
乗場情報検出部6は、乗場呼びがあったこと(乗場情報)を検出し、検出した乗場情報を遠隔診断運転実施判定部11に送信する。
【0026】
乗りかご情報検出部7は、エレベータかご4内の階床ボタンやドア開閉ボタンが押されたこと(乗りかご情報)を検出し、検出した乗りかご情報を遠隔診断運転実施判定部11に送信する。
【0027】
乗りかご運転制御部8は、エレベータかご4の戸開閉や上下運転を制御する。
【0028】
遠隔診断指令部9は、時計10からの時間信号を用いて、遠隔診断運転のタイミングが来たら、樹脂被覆ロープ3のロープ伸び診断とエレベータ定格速度等の遠隔診断運転指令を出力する。
【0029】
遠隔診断運転実施判定部11は、遠隔診断指令部9からの遠隔診断指令を受信すると、乗場呼びがなく、かつ、エレベータかご4内の階床ボタンやドア開閉ボタンの押下がない場合に、遠隔診断を実施すると判定する。
【0030】
遠隔診断結果送信部12は、ロープ伸び測定部14から樹脂被覆ロープ3の伸び測定結果を受信し、また、ロープ状態判定部15から樹脂被覆ロープ3の状態判定結果を受信し、それらを含めた遠隔診断運転の診断結果等を遠隔監視センタ16に送信する。
【0031】
ロープ診断装置13は、ロープ伸び測定部14と、ロープ状態判定部15と、を備える。ロープ伸び測定部14は、撮像部(不図示)から、樹脂被覆ロープ3において軸方向に所定間隔でマーキングが施されている側面を撮像して得られた画像データを取得する。撮像部は、例えばCCD(Charge-Coupled Device)カメラなどの静止画像または動画を取得可能な撮像装置であり、樹脂被覆ロープ3を撮像することで得られた画像データを出力する。
【0032】
また、ロープ伸び測定部14は、その画像データに基づいて、樹脂被覆ロープ3のマーキング位置を検出し、隣接する2つのマーキングの間の距離を検知する検知部の機能を含む。また、ロープ伸び測定部14は、そのマーキングの間の距離に基づいて、樹脂被覆ロープ3の伸びを測定する。
【0033】
ロープ状態判定部15は、ロープ伸び測定部14の測定結果から樹脂被覆ロープ3のロープ伸びの異常有無とロープ伸びの異常箇所を判定する。ロープ状態判定部15は、例えば、マーキング間距離と、所定間隔L(図2)の初期値との差分が、ロープの伸びとして許容する範囲として設定された許容閾値範囲に含まれていない場合、ロープ伸びの異常であると判定する。
【0034】
また、遠隔監視センタ16は、例えば、エレベータ管理会社に構築されたコンピュータシステムを備える。遠隔監視センタ16は、エレベータ制御装置5から送られてきた各種データに基づいて、検査結果の解析や解析結果等のオペレータへの表示などを実行する。遠隔監視センタ16は、センタ遠隔診断指令部17と、遠隔診断結果受信部18と、初期値記憶部19と、判定部20と、ロープ伸び異常個所表示部21と、を備える。
【0035】
センタ遠隔診断指令部17は、エレベータ制御装置5へ遠隔診断指令を送信する。
【0036】
遠隔診断結果受信部18は、エレベータ制御装置5の遠隔診断結果送信部12から樹脂被覆ロープ3の各マーキング位置、マーキング間距離等を含む遠隔診断結果を受信する。
【0037】
初期値記憶部19は、遠隔診断結果受信部18で取得した樹脂被覆ロープ3の各マーキング位置や、マーキング間距離の初期値等を記憶する。
【0038】
判定部20は、マーキング間距離と所定間隔L(図2)の初期値との差分が、ロープの伸びとして許容する範囲として設定された許容閾値範囲に含まれていなくて、かつ、ロープの伸びによって変動しうる範囲として設定された誤検知閾値範囲に含まれている場合、異常ありと判定する。また、判定部20は、異常ありの場合、異常箇所が樹脂被覆ロープ3のどこであるかも判定する。また、判定部20は、その差分が誤検知閾値範囲に含まれていない場合は、マーキング間距離が誤検知であって異常なしと判定する。以下、これらについて詳述する。
【0039】
樹脂被覆ロープ3の表面に異物(ゴミ、埃等)の付着や変色等によって変化があると、その変化した表面をマーキングとして誤検知してしまう場合がある。そうなると、実際には樹脂被覆ロープ3に伸びの異常がなくても、上述の差分が許容閾値範囲に含まれず、ロープの異常であると誤判定してしまうことがある。
【0040】
ここで、図3は、第1実施形態において樹脂被覆ロープ3の表面に変化があった場合の一例を示す図である。ここでは、上述の許容閾値範囲や誤検知閾値範囲を踏まえて、樹脂被覆ロープ3の軸方向について、樹脂被覆ロープ3が伸びた場合にマーキング51が検出される可能性のある区間としてのロープ伸び検知区間Aと、樹脂被覆ロープ3が伸びた場合にマーキング51が検出される可能性のない区間としてのロープ伸び検知区間Bと、を設ける。
【0041】
つまり、樹脂被覆ロープ3のロープ伸び検知区間Bにおいてマーキングが検出された場合、検出されたものは、実際には、マーキングではなくて、樹脂被覆ロープ3の表面に付着したゴミ、埃等の異物Dである。
【0042】
したがって、マーキング間距離が許容閾値範囲に含まれていない場合であって、さらに、マーキングがロープ伸び検知区間Aで検出されている場合、ロープ伸びの異常があると判定するのが妥当である。
【0043】
一方、マーキング間距離が許容閾値範囲に含まれていない場合であっても、さらに、マーキングがロープ伸び検知区間Bで検出されている場合、原因は樹脂被覆ロープ3の表面に付着した異物D等であるので、ロープ伸びの異常はないがあると判定するのが妥当である。したがって、その場合、保守員等にロープ伸びの異常は通知しない。なお、この図3に示すロープ伸びの異常の判定の方法は例であり、これに限定されない。
【0044】
図1に戻って、ロープ伸び異常個所表示部21は、判定部20によってロープ伸びの異常が妥当であると判定された場合、ロープ伸び異常とその異常箇所を表示する。また、ロープ伸び異常個所表示部21は、その場合、ロープ伸び異常とその異常箇所の情報をロープ異常通知部23に送信する。
【0045】
保守員ツール22は、例えばスマートフォン等の通信端末であり、ロープ異常通知部23を備える。ロープ異常通知部23は、遠隔監視センタ16の判定部20において妥当と判定されたロープ伸びの異常について、ロープ伸び異常とその異常箇所を表示や音声によって保守員に通知する。
【0046】
次に、図4を参照して、第1実施形態のエレベータシステムSにおける動作について説明する。図4は、第1実施形態のエレベータシステムSにおける動作を示すフローチャートである。
【0047】
まず、ステップS1−1において、エレベータ1が通常走行を開始する際に、エレベータシステムSにおいて初回の遠隔診断運転が実施され、エレベータ1がUPまたはDOWN運転して樹脂被覆ロープ3の各マーキング位置、マーキング間距離の初期値を初期値記憶部19が記憶する。
【0048】
次に、エレベータ1が通常走行を続け、ステップS1−2において、遠隔診断指令部9は、例えば、時計10からの時間信号を用いて、遠隔診断運転のタイミングが来たら、樹脂被覆ロープ3のロープ伸び診断とエレベータ定格速度等の遠隔診断運転指令を出力する。なお、ステップS1−2では、遠隔診断指令部9は、センタ遠隔診断指令部17からの遠隔診断運転の要求に基づいて、遠隔診断運転指令を出力するようにしてもよい。
【0049】
そして、遠隔診断運転実施判定部11によって、乗場呼びがなく、かつ、エレベータかご4内の階床ボタンやドア開閉ボタンの押下がなく、遠隔診断を実施すると判定された場合に、エレベータ1がロープ診断運転を開始する。
【0050】
ロープ診断運転では、乗りかご運転制御部8によってエレベータかご4を上下方向に走行させて、ロープ伸び測定部14は、樹脂被覆ロープ3のマーキング位置を検出し、隣接する2つのマーキングの間の距離を検知し、そのマーキングの間の距離に基づいて、樹脂被覆ロープ3の伸びを測定する。
【0051】
また、ロープ状態判定部15は、ロープ伸び測定部14の測定結果から樹脂被覆ロープ3のロープ伸びの異常有無とロープ伸びの異常箇所を判定する。
【0052】
次に、ステップS1−3において、遠隔診断結果送信部12は、樹脂被覆ロープ3の各マーキング位置、ロープ伸び算出結果、ロープ異常判定結果、エレベータ定格速度測定結果等を含めた遠隔診断運転結果を遠隔監視センタ16の遠隔診断結果受信部18に送信する。
【0053】
次に、ステップS1−4において、判定部20は、ロープ伸びの算出値が異常か否か、つまり、マーキング間距離と所定間隔L(図2)の初期値との差分が上述の許容閾値範囲に含まれていないか否かを判定し、Yesの場合はステップS1−5に進み、Noの場合は処理を終了する。
【0054】
ステップS1−5において、判定部20は、ロープ伸び異常に誤判定があるか否か、つまり、上述の差分が誤検知閾値範囲に含まれていないか否かを判定し、Yesの場合はステップS1−8に進み、Noの場合はステップS1−6に進む。
【0055】
ステップS1−8において、判定部20は、診断結果としてロープ伸びは異常なしで正常と判定する。
【0056】
ステップS1−4でNoの後とステップS1−8の後の場合、ロープ伸び異常個所表示部21は保守員ツール22のロープ異常通知部23に何も通知しない。
【0057】
ステップS1−6において、判定部20は、ロープ伸びが異常と判定し、ステップS1−7に進む。
【0058】
ステップS1−7において、ロープ伸び異常個所表示部21は保守員ツール22のロープ異常通知部23にロープ伸び異常とその異常箇所の情報を送信する。ロープ異常通知部23は、ロープ伸び異常とその異常箇所を表示や音声によって保守員に通知する。
【0059】
このように、第1実施形態のエレベータシステムS(ロープ検査システム)によれば、樹脂被覆ロープ3について、マーキング間距離と所定間隔の初期値との差分が、許容閾値範囲に含まれていなくても、かつ、誤検知閾値範囲に含まれていない場合は、異常なしと判定する。その場合は、樹脂被覆ロープ3の伸びに異常があるのではなく、樹脂被覆ロープ3の表面に異物の付着等による変化があったと考えられるからである。
【0060】
したがって、樹脂被覆ロープ3の表面に異物の付着等により変化があった場合でも、ロープの劣化を高精度に検査することができる。よって、樹脂被覆ロープ3の異常の誤判定による保守員の出役工数の増加等を回避することができる。
【0061】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。第1実施形態と同様の事項については説明を適宜省略する。図5は、第2実施形態のエレベータシステムSの全体構成の概略を示すブロック図である。図5は、図1と比較して、エレベータ制御装置5にエレベータ停止指令部25が追加され、遠隔監視センタ16にセンタ側エレベータ停止指令部24が追加されている点で相違する。
【0062】
センタ側エレベータ停止指令部24は、判定部20によってロープ異常ありと判定された場合に、エレベータ停止指令部25に対してエレベータ1の停止を指令する。エレベータ停止指令部25は、センタ側エレベータ停止指令部24からの停止の指令に基づいて、乗りかご運転制御部8に対してエレベータ1の停止を指令する。
【0063】
図6は、第2実施形態のエレベータシステムSにおける動作を示すフローチャートである。図6のステップS2−1〜S2−8については、図4のステップS1−1〜S1−8と同様である。
【0064】
ステップS2−7の後、ステップS2−9において、センタ側エレベータ停止指令部24からエレベータ停止指令部25を経由して乗りかご運転制御部8に対してエレベータ1の停止が指令され、乗りかご運転制御部8はエレベータ1を停止させる。
【0065】
このように、第2実施形態のエレベータシステムSによれば、樹脂被覆ロープ3のロープ伸びの異常が妥当と判定された場合にはエレベータ1を停止させることで、エレベータ利用者の安全性をさらに向上させることができる。また、樹脂被覆ロープ3の異常の誤判定によるエレベータ1の停止を回避することができる。
【0066】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について説明する。第2実施形態と同様の事項については説明を適宜省略する。図7は、第3実施形態のエレベータシステムの全体構成の概略を示すブロック図である。図7は、図5と比較して、遠隔監視センタ16に誤検知位置/回数記憶部26、誤検知異常送信部27、誤検知位置/回数表示部29が追加され、保守員ツール22に誤検知異常通知部28が追加されている点で相違する。
【0067】
誤検知位置/回数記憶部26は、判定部20によってロープの同じ位置について上述の差分が誤検知閾値範囲に含まれていないと判定された回数を記憶する。そして、誤検知位置/回数記憶部26は、その誤判定回数(誤検知回数)が一定回数を超えたら誤検知が消えないと判定し、誤検知異常送信部27と誤検知位置/回数表示部29に誤検知が消えない異常を知らせるための異常出力をする。
【0068】
誤検知異常送信部27は、誤検知位置/回数記憶部26から異常出力を受けると、誤検知が解消しない旨と樹脂被覆ロープ3におけるその位置を保守員ツール22の表示部に表示させる表示制御部としての機能部を含む。つまり、誤検知異常送信部27は、その場合、誤検知異常通知部28に誤検知が消えない異常とその誤検知が消えない位置の情報を送信する。
【0069】
誤検知位置/回数表示部29は、誤検知位置/回数記憶部26から異常出力を受けると、誤検知が消えない異常を表示する。具体的には、誤検知位置/回数表示部29は、誤検知位置とその位置での誤検知回数を表示する。
【0070】
誤検知異常通知部28は、誤検知異常送信部27から誤検知が消えない異常とその誤検知が消えない位置の情報を受信すると、その誤検知が消えない異常とその誤検知が消えない位置と確認へ向かう指示を表示や音声によって保守員に通知する。
【0071】
次に、図8を参照して、第3実施形態のエレベータシステムSにおける動作について説明する。図8は、第3実施形態のエレベータシステムSにおける動作を示すフローチャートである。図8のステップS3−1〜S3−9については、図6のステップS2−1〜S2−9と同様である。
【0072】
ステップS3−5でYesの後、ステップS3−10において、誤検知位置/回数記憶部26は、ロープ伸び異常の誤判定の回数が一定回数以下であるか否かを判定し、Yesの場合はステップS3−8に進み、Noの場合はステップS3−11に進む。
【0073】
ステップS3−11において、誤検知位置/回数記憶部26は、誤判定が消えない位置があること(誤判定回数が一定回数を超えたこと)を異常と判定する。
【0074】
次に、ステップS3−12において、誤検知位置/回数表示部29は、誤検知位置とその位置での誤検知回数を表示する。
【0075】
次に、ステップS3−13において、誤検知異常通知部28は、誤検知異常送信部27から誤検知が消えない異常とその誤検知が消えない位置の情報を受信すると、その誤検知が消えない異常とその誤検知が消えない位置と確認へ向かう指示を表示や音声によって保守員に通知する。
【0076】
このように、第3実施形態のエレベータシステムSによれば、樹脂被覆ロープ3のロープ伸びの異常の誤検知を一定回数以上検出したら、保守員ツール22へ誤検知の異常を出力する。これにより、保守員は、例えば、樹脂被覆ロープ3に付着した異物の清掃の必要性等を認識でき、適切に対応できる。
【0077】
本実施形態のエレベータシステムS(ロープ検査システム)で実行されるロープ検査プログラムは、上述した各機能部(ロープ伸び測定部14等の各ソフトウェア機能部)を含むモジュール構成となっており、実際のハードウェアとしてはCPU(プロセッサ)が上記記憶媒体からロープ検査プログラムを読み出して実行することにより上記各機能部が主記憶装置上にロードされ、各機能部が主記憶装置上に生成されるようになっている。
【0078】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0079】
例えば、本発明の検査対象は、エレベータに使用されているロープに限定されず、クレーン、橋梁等に使用されているロープなどの他のロープであってもよい。
【符号の説明】
【0080】
1…エレベータ、2…巻上機、3…樹脂被覆ロープ、4…エレベータかご、5…エレベータ制御装置、6…乗場情報検出部、7…乗りかご情報検出部、8…乗りかご運転制御部、9…遠隔診断指令部、10…時計、11…遠隔診断運転実施判定部、12…遠隔診断結果送信部、13…ロープ診断装置、14…ロープ伸び測定部、15…ロープ状態判定部、16…遠隔監視センタ、17…センタ遠隔診断指令部、18…遠隔診断結果受信部、19…初期値記憶部、20…判定部、21…ロープ伸び異常個所表示部、22…保守員ツール、23…ロープ異常通知部、24…センタ側エレベータ停止指令部、25…エレベータ停止指令部、26…誤検知位置/回数記憶部、27…誤検知異常送信部、28…誤検知異常通知部、29…誤検知位置/回数表示部
【要約】
【課題】ロープの表面に変化があった場合でもロープの劣化を高精度に検査する。
【解決手段】実施形態のロープ検査方法は、所定の物体を吊り下げるロープにおいて軸方向に所定間隔でマーキングが施されている側面を撮像して得られた画像データに基づいて、隣接する2つの前記マーキングの間の距離を検知する検知ステップと、前記距離と前記所定間隔の初期値との差分が、前記ロープの伸びとして許容する範囲として設定された許容閾値範囲に含まれていなくて、かつ、前記ロープの伸びによって変動しうる範囲として設定された誤検知閾値範囲に含まれている場合は、異常ありと判定し、前記差分が前記誤検知閾値範囲に含まれていない場合は、前記距離が誤検知であって異常なしと判定する判定ステップと、を含む。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8