特許第6828217号(P6828217)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェの特許一覧

特許6828217X線位相コントラスト及び/又は暗視野イメージングのための回折格子およびその製造方法
<>
  • 特許6828217-X線位相コントラスト及び/又は暗視野イメージングのための回折格子およびその製造方法 図000002
  • 特許6828217-X線位相コントラスト及び/又は暗視野イメージングのための回折格子およびその製造方法 図000003
  • 特許6828217-X線位相コントラスト及び/又は暗視野イメージングのための回折格子およびその製造方法 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6828217
(24)【登録日】2021年1月22日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】X線位相コントラスト及び/又は暗視野イメージングのための回折格子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01T 7/00 20060101AFI20210128BHJP
   G21K 1/06 20060101ALI20210128BHJP
   G01N 23/041 20180101ALI20210128BHJP
   A61B 6/00 20060101ALN20210128BHJP
【FI】
   G01T7/00 B
   G21K1/06 C
   G21K1/06 D
   G01N23/041
   !A61B6/00 300J
   !A61B6/00 330Z
【請求項の数】15
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-512884(P2020-512884)
(86)(22)【出願日】2018年8月24日
(65)【公表番号】特表2020-534514(P2020-534514A)
(43)【公表日】2020年11月26日
(86)【国際出願番号】EP2018072833
(87)【国際公開番号】WO2019048252
(87)【国際公開日】20190314
【審査請求日】2020年11月18日
(31)【優先権主張番号】17189540.2
(32)【優先日】2017年9月6日
(33)【優先権主張国】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】KONINKLIJKE PHILIPS N.V.
(74)【代理人】
【識別番号】110001690
【氏名又は名称】特許業務法人M&Sパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ケーラー トーマス
【審査官】 藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−273668(JP,A)
【文献】 国際公開第2018/066198(WO,A1)
【文献】 特開2012−93332(JP,A)
【文献】 特開2012−225658(JP,A)
【文献】 特開2012−132793(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00−1/16
G01T 1/167−7/12
G21K 1/06
G01N 23/041
A61B 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線位相コントラスト及び/又は暗視野イメージングのための回折格子であって、前記回折格子が、
基材と、
複数の材料層と、
を備え、
前記複数の材料層が、前記基材の表面に形成され、
前記複数の材料層が、前記基材の前記表面にわたって互いに横方向に離隔されており、
前記複数の材料層のうちの1つの材料層が、複数の材料を含み、
前記複数の材料が、前記基材の前記表面に垂直な方向において互いに重なって形成されており、
前記複数の材料が、金を含む、
回折格子において
前記複数の材料が、金のkエッジ吸収エネルギーより高いkエッジ吸収エネルギーをもつ少なくとも1つの材料を含み、前記複数の材料層のうちの前記1つの材料層における金の厚さが、前記1つの材料層の合計の厚さの30%未満であることを特徴とする
回折格子。
【請求項2】
金のkエッジ吸収エネルギーより高いkエッジ吸収エネルギーをもつ前記少なくとも1つの材料のうちの1つの材料が、鉛である、
請求項1に記載の回折格子。
【請求項3】
金のkエッジ吸収エネルギーより高いkエッジ吸収エネルギーをもつ前記少なくとも1つの材料のうちの1つの材料が、ビスマスである、
請求項1又は2に記載の回折格子。
【請求項4】
前記複数の材料が、金のkエッジ吸収エネルギーより低いkエッジ吸収エネルギーをもつ少なくとも1つの材料を含む、
請求項1から3のいずれか一項に記載の回折格子。
【請求項5】
金のkエッジ吸収エネルギーより低いkエッジ吸収エネルギーをもつ前記少なくとも1つの材料のうちの1つの材料が、タングステンである、
請求項4に記載の回折格子。
【請求項6】
金のkエッジ吸収エネルギーより低いkエッジ吸収エネルギーをもつ前記少なくとも1つの材料のうちの1つの材料が、鉄である、
請求項4又は5に記載の回折格子。
【請求項7】
金のkエッジ吸収エネルギーより低いkエッジ吸収エネルギーをもつ前記少なくとも1つの材料のうちの1つの材料が、タングステン鉄合金である、
請求項4から6のいずれか一項に記載の回折格子。
【請求項8】
前記複数の材料層が、複数のレジスト層により互いに横方向に離隔されている、
請求項1から7のいずれか一項に記載の回折格子。
【請求項9】
前記複数の材料層のうちの前記1つの材料層における金の厚さが、前記1つの材料層の合計の厚さの10%未満である、
請求項1から8のいずれか一項に記載の回折格子。
【請求項10】
X線位相コントラスト及び/又は暗視野イメージングのための請求項1から9のいずれか一項に記載の回折格子を備える、
X線位相コントラスト及び/又は暗視野システム。
【請求項11】
X線位相コントラスト及び/又は暗視野イメージングのための回折格子を製造する方法であって、前記方法が、
a)基材の表面にフォトレジスト層を形成するステップと、
b)所望の回折格子構造物を描画するマスクを使用して、放射線を使用して前記フォトレジスト層を照射するステップと、
c)前記基材の前記表面にわたって互いに横方向に離隔された複数の溝を残すように、前記フォトレジスト層をエッチングして前記フォトレジスト層の一部を除去するステップと、
d)前記基材の前記表面に複数の材料層を形成するステップであって、各材料層が、前記溝内に形成され、1つの材料層が複数の材料を含み、前記複数の材料が、前記基材の前記表面に垂直な方向において互いに重なって形成され、前記複数の材料が、金を含む、複数の材料層を形成するステップと、
を有する、
方法において
前記複数の材料が、金のkエッジ吸収エネルギーより高いkエッジ吸収エネルギーをもつ少なくとも1つの材料を含み、前記複数の材料層のうちの前記1つの材料層における金の厚さが、前記1つの材料層の合計の厚さの30%未満であることを特徴とする
方法。
【請求項12】
金のkエッジ吸収エネルギーより高いkエッジ吸収エネルギーをもつ前記少なくとも1つの材料が、鉛及び/又はビスマスである、
請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ステップd)において、前記複数の材料が、金のkエッジ吸収エネルギーより低いkエッジ吸収エネルギーをもつ少なくとも1つの材料を含む、
請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
金のkエッジ吸収エネルギーより低いkエッジ吸収エネルギーをもつ前記少なくとも1つの材料が、タングステン、鉄、及び/又は、タングステン鉄合金である、
請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記複数の材料層間の複数のレジスト層を除去するステップe)を有する、
請求項11から14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相コントラスト及び/又は暗視野イメージングのための回折格子、X線位相コントラスト及び/又は暗視野システム、並びに、X線位相コントラスト及び/又は暗視野イメージングのための回折格子を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微分位相コントラスト及び暗視野イメージング(DPCI及びDFI)は、X線機器コンピュータ断層撮影(CT)及び放射線撮影システムの診断の質を高める可能性の高い有望な技術である。従来のX線源は、タルボ・ロー干渉計及び従来のX線ディテクターとともに使用され得る。しかし、重要なコンポーネントは、回折格子、特に線源回折格子(G0)及び分析器回折格子(G2)である。回折格子を製造するための現在の標準的なものは、回折格子が金から作られる「リソグラフィ、電気めっき、及びモールド成形」LIGA技術である。回折格子を形成する金層間の深溝をもつ回折格子は、高価であり、位置合わせをすることが困難である。金は19.3g/cmというその高密度に起因して、広範囲の関連するエネルギーにわたって優れた吸収を示し、このことが、層厚ができる限り小さく維持されることを可能にするので、このような回折格子は金から作られる。
【0003】
米国特許出願公開第2015/117599号A1は、従来のx線源が熱伝導基材に埋設された複数の構造化コヒーレントサブX線源を含む対象物を備えるX線干渉イメージングシステムを説明している。システムは、π位相シフト回折格子であるタルボ干渉パターンを確立するビーム分割回折格子G1と、二次元X線強度を電子信号に変換するX線ディテクターとをさらに備える。システムは、追加的な干渉縞を形成するようにディテクターの前に位置する第2の分析器回折格子G2と、ディテクターに対して第2の回折格子G2を並進移動させる手段とをさらに備える。いくつかの実施形態において、構造物は、概ねマイクロメートルで測定された横寸法をもち、基材内における電子侵入深さの概ね2分の1の厚さをもつ微細構造物である。いくつかの実施形態において、構造物は、規則的なアレイ内に形成される。
【0004】
WO2017/036729Aは、高アスペクト比の構造物を製造するためのいくつかの選択肢を含む方法を提案している。この方法は、ドライ又は化学エッチングを行い、続いて、電気めっき、原子層堆積、ウエハボンディング、金属鋳造、又はこれらの技法の組合せを使用することで金属を高アスペクト比の窪みに充填することによる、シリコンにおける高アスペクト比の窪み構造物の製造に基づく。回折格子は、X線又は中性子イメージング及び宇宙用途に使用され得る。
【0005】
米国特許出願公開第2013/142307号A1は、X線源から出射されたX線を回折させることにより干渉パターンを形成する回折格子、干渉パターンの一部を遮蔽する吸収型回折格子、吸収型回折格子から出射されたX線を検出するディテクター、及び、サンプル物体と吸収型回折格子との相対位置を変える移動ユニットを含むX線イメージング装置を説明している。移動ユニットは、第1の相対位置から第2の相対位置までサンプル物体と吸収型回折格子との相対位置を変える。少なくとも、サンプル物体と吸収型回折格子とが第1の相対位置にあるとき、及び、サンプル物体と吸収型回折格子とが第2の相対位置にあるとき、ディテクターがX線を検出する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、このような回折格子、及び、このような回折格子の製造のやり方を改善すること、並びに、現在の金を使用した標準的なものより低価格な手法で改善することが必要とされている。
【0007】
改善された位相コントラスト及び/又は暗視野イメージングのための回折格子及び位相コントラスト及び/又は暗視野イメージングのための回折格子を製造する方法を提供することが有益である。
【0008】
本発明の目的は、独立請求項の主題により解決され、さらなる実施形態が従属請求項に組み込まれる。本発明の後述の態様及び例は、位相コントラスト及び/又は暗視野イメージングのための回折格子、位相コントラスト及び/又は暗視野イメージングシステム、位相コントラスト及び/又は暗視野イメージングのための回折格子を製造する方法にも適用されることに留意されなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の態様によると、X線位相コントラスト及び/又は暗視野イメージングのための回折格子が提供され、回折格子は、
基材と、
複数の材料層と、
を備える。
【0010】
複数の材料層は、基材の表面に形成される。複数の材料層は、さらに、基材の表面にわたって互いに横方向に離隔されている。複数の材料層のうちの1つの材料層は、複数の材料を含む。複数の材料は、基材の表面に垂直な方向において互いに重なって形成される。複数の材料は、金のkエッジ吸収エネルギーより高いkエッジ吸収エネルギーをもつ少なくとも1つの材料を含む。複数の材料は、金をさらに含む。
【0011】
このようにして、金は非常に高価であるので、回折格子は金のkエッジ吸収エッジより高いkエッジ吸収エッジをもつ金以外の材料から作られるが、金層を使用して増強される。このようにして、位相コントラスト及び/又は暗視野イメージングにおいて使用される分析器回折格子G2及び/又は線源回折格子G0は、他の材料のみの回折格子の使用を通して達成可能なものより低いエネルギーにおいて、改善された透過率の低下を特にもたらし得る。特に、他の材料のkエッジ未満、かつ、80.7keVにおける金のkエッジより高い透過率が改善される。
【0012】
さらに、絶対的な層厚は、他の材料のみの絶対的な層厚より小さくされ得(より浅い回折格子が必要とされ)、そのことが、位相コントラスト及び/又は暗視野イメージングシステムをセットアップするときに必要とされる位置合わせ工程を緩いものにして、改善されたイメージング、及び、イメージングシステムをセットアップするために必要とされる時間の短縮を提供する。
【0013】
一例において、金のkエッジ吸収エネルギーより高いkエッジ吸収エネルギーをもつ少なくとも1つの材料のうちの1つの材料が鉛である。
【0014】
したがって、88.0keVにおける鉛のkエッジは、80.7keVにおける金のkエッジを補完して、高エネルギーにおけるG2及び/又はG0回折格子の要求される低透過率を改善するために使用される。
【0015】
一例において、金のkエッジ吸収エネルギーより高いkエッジ吸収エネルギーをもつ少なくとも1つの材料のうちの1つの材料がビスマスである。
【0016】
したがって、90.5keVにおけるビスマスのkエッジは、80.7keVにおける金のkエッジを補完して、高エネルギーにおけるG2及び/又はG0回折格子の要求される低透過率を改善するために使用され、これは、88.0keVにおける鉛のkエッジと組み合わせてさらに使用されて、高エネルギーにおけるG2及び/又はG0回折格子の要求される低透過率におけるさらなる改善を提供し得る。
【0017】
一例において、複数の材料が、金のkエッジ吸収エネルギーより低いkエッジ吸収エネルギーをもつ少なくとも1つの材料を含む。
【0018】
このようにして、位相コントラスト及び/又は暗視野イメージングにおいて使用される分析器回折格子G2及び/又は線源回折格子は、金以外の材料から作られている(が、より高いkエッジをもつ)回折格子の使用を通して達成可能なものと比べて、より高いエネルギーとより低いエネルギーとの両方における改善された透過率の低下を示し得る。さらに、回折格子は、金のみの回折格子に勝る改善された透過率の低下を伴い得る。80.7keVにおける金のkエッジ吸収エネルギーより高いkエッジ吸収エネルギーをもつ1つの、又は実際には1つより多い材料を使用することによる、及び、金のkエッジ吸収エネルギーより低いkエッジ吸収エネルギーをもつ1つの、又は実際には1つより多い材料を使用することによることは、80.7keVより高いエネルギーと80.7keV未満のエネルギーとの両方の広いエネルギー範囲にわたって、要求される低透過率を取得するための設計の柔軟性が提供されることを意味する。このようにして、金のkエッジより高い及び低い異なる材料におけるkエッジの存在が、改善された回折格子の設計を提供するために活用される。
【0019】
一例において、金のkエッジ吸収エネルギーより低いkエッジ吸収エネルギーをもつ少なくとも1つの材料のうちの1つの材料がタングステンである。
【0020】
一例において、金のkエッジ吸収エネルギーより低いkエッジ吸収エネルギーをもつ少なくとも1つの材料のうちの1つの材料が鉄である。
【0021】
一例において、金のkエッジ吸収エネルギーより低いkエッジ吸収エネルギーをもつ少なくとも1つの材料のうちの1つの材料がタングステン鉄合金である。
【0022】
一例において、複数の材料層は、複数のレジスト層により互いに横方向に離隔されている。
【0023】
言い換えると、回折格子自体が材料層の観点から改善されたパフォーマンスをもつので、必要な場合、それらの層間に存在するレジスト層を除去する必要性が不要とされ得る。これは、製造工程の簡潔化を提供し、及び、材料層が支持なしで立っているのではなく、レジスト層に当たるであるので、より頑丈な回折格子を提供する。
【0024】
一例において、複数の材料層のうちの1つの材料層における金の厚さは、1つの材料層の合計の厚さの10%未満である。
【0025】
したがって、必要な金の量は、金のみのG2回折格子に必要とされる量に比べて大幅に少なくされ、コストの大幅な削減につながる。
【0026】
第2の態様によると、先行する請求項のいずれか一項に記載のX線位相コントラスト及び/又は暗視野イメージングのための回折格子を備えるX線位相コントラスト及び/又は暗視野システムが提供される。
【0027】
第3の態様によると、X線位相コントラスト及び/又は暗視野イメージングのための回折格子を製造する方法であって、方法が、
a)基材の表面にフォトレジスト層を形成することと、
b)所望の回折格子構造物を描画するマスクを使用して、放射線を使用してフォトレジスト層を照射することと、
c)フォトレジスト層をエッチングしてフォトレジスト層の一部を除去し、基材の表面にわたる互いに横方向に離隔された複数の溝を残すことと、
d)基材の表面に複数の材料層を形成することであって、各層が、溝内に形成され、1つの材料層が、複数の材料を含み、複数の材料が、基材の表面に垂直な方向において互いに重なって形成され、複数の材料が、金のkエッジ吸収エネルギーより高いkエッジ吸収エネルギーをもつ少なくとも1つの材料、及び、金を含む、複数の材料層を形成することと、
を有する方法が提供される。
【0028】
一例において、金のkエッジ吸収エネルギーより高いkエッジ吸収エネルギーをもつ少なくとも1つの材料が、鉛及び/又はビスマスである。
【0029】
一例において、ステップd)において複数の材料が、金のkエッジ吸収エネルギーより低いkエッジ吸収エネルギーをもつ少なくとも1つの材料を含む。
【0030】
一例において、金のkエッジ吸収エネルギーより低いkエッジ吸収エネルギーをもつ少なくとも1つの材料が、タングステン、鉄及び/又はタングステン鉄合金である。
【0031】
一例において、本方法は、複数の材料層間の複数のレジスト層を除去するステップe)を有する。
【0032】
有益なことに、上述の態様のうちの任意の態様により提供される利点は、他の態様のすべてに等しく適用され、逆も同様である。
【0033】
上述の態様及び例は、以下で説明される実施形態から明らかとなり、以下で説明される実施形態を参照しながら説明される。
【0034】
以下の図面を参照しながら、例示的な実施形態が以下で説明される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】位相コントラスト及び/又は暗視野イメージングのための回折格子のための製造工程の一部の一例の概略構成を示す図である。
図2】各々が250μmの厚さをもつ異なる層の透過率を示す図である。
図3】位相コントラスト及び/又は暗視野イメージングシステムの一例の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1は、位相コントラスト及び/又は暗視野イメージングのための回折格子を製造する方法の一部の一例を示す。図1は、本方法の異なる段階における最終結果を示しており、方法ステップのすべてを示すわけではない。しかし、以下の説明は方法の全体に関連しており、その方法の適切な時点において、図1に示される特定の図が参照される。本方法は、基材の表面におけるフォトレジスト層の形成であるステップa)と呼ばれる第1のステップを有する。フォトレジストが、金属基材に、又は金属表面をもつ基材に堆積させられ、このことにより、後の層が電気めっきにより形成されることを可能にする。ステップa)の後、ステップb)において、本方法は、所望の回折格子構造物を描画するマスクを使用して、放射線を使用してフォトレジスト層を照射することを伴う。X線が照射のために使用される。次にステップc)において、照射されていないフォトレジスト層の一部を除去して、基材の表面にわたって互いから横方向に離隔された複数の溝を残すように、フォトレジスト層がエッチングされる。この結果は、図1の上部の図「A」に表されている。本製造方法はステップd)、すなわち、基材の表面における複数の材料層の形成に続く。電気めっきにより、各層が溝内に形成される。1つの材料層は複数の材料を含み、複数の材料は基材の表面に垂直な方向において互いに重なって形成される。複数の材料は金を含む。このステップの結果は、図1の中央の図「B」に示される。少なくとも1つの材料が、金のkエッジ吸収エネルギーより高いkエッジ吸収エネルギーをもつ材料をさらに備える。このステップの結果は、図1の下部の図「C」に示される。
【0037】
一例によると、金のkエッジ吸収エネルギーより高いkエッジ吸収エネルギーをもつ少なくとも1つの材料は、鉛及び/又はビスマスである。
【0038】
一例によると、ステップd)において、複数の材料は、金のkエッジ吸収エネルギーより低いkエッジ吸収エネルギーをもつ少なくとも1つの材料を含む。
【0039】
一例によると、金のkエッジ吸収エネルギーより低いkエッジ吸収エネルギーをもつ少なくとも1つの材料は、タングステン、鉄及び/又はタングステン鉄合金である。
【0040】
一例によると、本方法は、複数の材料層間の複数のレジスト層を除去するステップe)を有する。次に図1の図「C」を参照すると、複数の鉛/Au層間のレジスト層が除去される。
【0041】
このように、基材、複数の材料層を備えるX線位相コントラスト及び/又は暗視野イメージングのための回折格子が提供される。複数の材料層は基材の表面に形成される。複数の材料層は、基材の表面にわたって互いに横方向に離隔されている。複数の材料層のうちの1つの材料層が複数の材料を含む。複数の材料は、基材の表面に垂直な方向において互いに重なって形成される。さらに、複数の材料は、金のkエッジ吸収エネルギーより高いkエッジ吸収エネルギーをもつ少なくとも1つの材料及び金を含む。
【0042】
一例において、複数の材料層のうちの1つの材料層における、金のkエッジ吸収エネルギーより高いkエッジ吸収エネルギーをもつ少なくとも1つの材料の厚さは、1つの材料層の合計の厚さの70%より大きい。言い換えると、金の厚さは合計の厚さの30%未満であり、したがって、高エネルギーにおける改善された透過率の低下を提供することに加えて線源回折格子G0又は分析器回折格子G2などの回折格子のコストの大幅な削減がなされる。
【0043】
一例において、回折格子は線源回折格子G0である。一例において、回折格子は、分析器(G2)回折格子である。
【0044】
一例によると、金のkエッジ吸収エネルギーより高いkエッジ吸収エネルギーをもつ少なくとも1つの材料のうちの1つの材料は鉛である。
【0045】
一例によると、金のkエッジ吸収エネルギーより高いkエッジ吸収エネルギーをもつ少なくとも1つの材料のうちの1つの材料はビスマスである。
【0046】
一例によると、複数の材料は、金のkエッジ吸収エネルギーより低いkエッジ吸収エネルギーをもつ少なくとも1つの材料を含む。
【0047】
一例によると、金のkエッジ吸収エネルギーより低いkエッジ吸収エネルギーをもつ少なくとも1つの材料のうちの1つの材料は、タングステンである。
【0048】
一例によると、金のkエッジ吸収エネルギーより低いkエッジ吸収エネルギーをもつ少なくとも1つの材料のうちの1つの材料は、鉄である。
【0049】
一例によると、金のkエッジ吸収エネルギーより低いkエッジ吸収エネルギーをもつ少なくとも1つの材料のうちの1つの材料は、タングステン鉄合金である。
【0050】
一例において、各材料層は、合計の厚さの約8%を構成する金層、合計の厚さの約72%を構成する鉛(又はビスマス層)、及び、合計の厚さの約20%を構成するタングステン鉄可能層を備える。一例において、合計の厚さは約250マイクロメートルの厚さである。
【0051】
一例によると、複数の材料層は複数のレジスト層により互いに横方向に離隔されている。
【0052】
一例によると、複数の材料層のうちの1つの材料層における金の厚さは、1つの材料層の合計の厚さの10%未満である。
【0053】
図1に示される製造工程は、LIGA工程を使用する。電気めっきに対する主な要求は、工程を開始するための伝導面の存在であるので、異なる材料及び合金が1回の電気めっきステップにより堆積させられることができない場合でも、異なる材料及び合金を使用して回折格子を構築することが可能である。したがって、金より高いエネルギーにkエッジ吸収エッジをもつ、金以外の材料が電気めっきを使用して溝内に充填され、コスト削減をもたらす。しかし、回折格子をさらに改善するために、より低いエネルギーの低透過率を改善するために、比較的少量の金が使用される。異なる材料の使用は、異なる材料におけるkエッジの存在を活用する可能性を与える。論じられている特定の堆積技法はLIGA工程を使用するが、他の堆積技法、例えば化学蒸着(CVD)又は熱蒸着などが使用され得る。
【0054】
図2は、250μmの厚さの層を各々が含む4つの回折格子構造物の例示的な透過スペクトルを示す。1つの回折格子が金から作られた層を含み、1つが鉛から作られた層を含み、1つがタングステン鉄合金から作られた層を含む。最後の回折格子構造物は180μmのPb、50μmのW−Fe及び20μmのAuから作られた層を含む。したがって、70〜89keVの重要な範囲にわたる広帯域低透過率がより低コストに提供され、最終的な回折格子は金のみに対する低透過率プロファイルより適切であって、鉛のみに対する低透過率プロファイルより適切な改善された低透過率プロファイルをもつ。
【0055】
コンテキストにおいてX線位相コントラスト及び/又は暗視野イメージングのための回折格子を配置するために、図3は、暗視野画像をさらに獲得し得るX線位相コントラストシステムの例を示す。本システムは、X線減弱画像をさらに獲得し得る。本システムは、物体OBの、又は物体OBにおける吸収の空間分布に対してイメージングすることが可能であり、屈折の空間分布に対してイメージング(位相コントラストイメージング)することがさらに可能であり、小角散乱の空間分布に対してイメージング(暗視野イメージング)することがさらに可能である。本装置は、据置型X線ディテクターDにわたって走査され得る回折格子ベースの干渉計IFを含む。この例において、干渉計IFは、3つの回折格子構造物G0、G1及びG2を備えるが、他の例において、(回折格子G0及びG1、又は、G1及びG2のみを含む)2つの回折格子干渉計が使用される。
【0056】
図3において、回折格子G1は吸収型回折格子である(が、位相シフト回折格子でもあり得る)のに対し、G2は、吸収型回折格子である。両方の回折格子が、図1を参照してここまでに説明されているように製造されている。本システムは、X線源XR及びX線ディテクターDをさらに備える。X線ディテクターDは、平面状の、又は湾曲した2D全視野X線ディテクターであり得る。複数のディテクターピクセルは、X線源により放出されたX線放射線を検知することが可能な2D X線放射線感応面を形成するようにアレイとして行及び列に配置されている。
【0057】
X線ディテクターD及びX線源は、検査領域ERを形成するように離隔されている。検査領域は、イメージングされる物体OBを収容するように適切に離隔されている。物体は、無生物又は有生物である。例えば、物体は、イメージングされる手荷物又は他のサンプルであってよく、又は、医療の場面では、物体は、ヒト又は動物の患者、又は、ヒト又は動物の少なくとも1つの解剖学的部分である。
【0058】
干渉回折格子構造物G1及びG2は、X線源XRとX線ディテクターDとの間における検査領域ERに配置される。X線源XRは焦点スポットFSをもち、焦点スポットFSからX線放射線ビームが出る。焦点スポットFSとX線ディテクターの放射線感応面との間の空間に、2つ又は3つの回折格子構造物が配置されている。回折格子G1は位相回折格子であり、回折格子G2は分析器回折格子である。示される例において、干渉計IFの干渉回折格子G1、G2に加えて、線源回折格子であるさらなる回折格子G0が存在する。線源回折格子G0は、さらに、図1に関連してここまでに論じられているように製造されている。
【0059】
線源回折格子G0は、X線源XRの付近に、例えばX線管のハウジングの出口窓に配置される。線源回折格子G0の機能は、放出された放射線を少なくとも部分的にコヒーレントにする。言い換えると、コヒーレントな放射線を生成することが可能なX線源が使用される場合、線源回折格子G0は不要とされ得る。
【0060】
動作中、少なくとも部分的にコヒーレントな放射線が検査領域ERを通り、物体OBと相互作用する。次に、物体が放射線に対する減弱、屈折、及び小角散乱情報を変調し、それが、次に回折格子の並びG1及びG2の動作により抽出され得る。回折格子G1、G2は、モアレパターンの干渉縞としてX線ディテクターDにおいて検出され得る干渉パターンを誘起する。検査領域内に物体が存在しない場合、通常は較正手順中に捕捉される基準パターンと呼ばれるX線ディテクターDにおいて観測可能な干渉パターンが依然として存在する。これは、例えば2つの回折格子が完全に平行ではないようにわずかな歪みを誘起することにより、2つの回折格子G1と回折格子G2との間の相互の空間的関係を特に調節又は「離調」することにより発生する。ここで、言及されるように物体が検査領域内に位置決めされ、放射線と相互作用する場合、本例では、より適切に物体パターンと呼ばれるモアレパターンが、基準パターンの乱されたバージョンとして理解され得る。基準パターンからのこの違いは、次に、位相コントラスト、暗視野画像のうちの1つ又はすべてを演算するために使用され得る。
【0061】
図3をさらに参照すると、適切な信号であって、その適切な信号から画像が演算され得る適切な信号を獲得することができるように、走査運動が回折格子の並びG1〜G2により実施される。この運動の結果として、X線ディテクターDの各ピクセルにおいて、一連の強度値が検出される。良好な結果を得るために、回折格子G1、G2の離調は、モアレパターンの周期が走査運動の方向におけるそのサイクルのうちのいくつか(2つ又は3つ)にまたがらなければならないようにされている。各X線ディテクターピクセルに対して、一連の強度値は、次に、例えば、屈折、吸収、及び小角散乱のそれぞれの寄与分を導出するために(正弦)信号順モデルにフィッティングされ得る。このタイプの信号処理は図3に示されていないが当業者に知られた信号処理ユニットにおいて行われる。X線ディテクターDは、Z軸に沿って延びるように図3に示される光軸OXの任意の所与の配向に対して静止状態に留まる。言い換えると、X線ディテクターDは、検査領域内の任意の基準点に対して(少なくとも画像獲得動作中に)静止状態に維持される。上述の干渉計構成は、一般的にタルボ・ロー干渉計と呼ばれる。G0とG1との間の距離、及び、G1とG2との間の距離は、タルボ距離の要求を満たすように細かく調整されなければならず、タルボ距離は、また、それぞれの回折格子の「ピッチ」(すなわち、回折格子の形成線の空間的周期)に依存する。X線ディテクターDに対して干渉計IFを動かすことは、干渉縞のドリフトに起因して、干渉縞の分布のわずかな変化をもたらす。しかし、干渉縞のドリフトは、このようなドリフトを基準走査により取得された干渉縞のドリフトに関連させることにより補償され得る。このような基準走査は、X線イメージング装置の設置時に実施されるブランク走査である。
【0062】
上述の回折格子の位置合わせは、非常に困難であり、回折格子の層高さが大きくなるにつれてより困難になる。本製造方法により作られた回折格子は低減された高さをもち得、位置合わせ工程の緩和をもたらし、より簡単なシステム構成を可能にする。
【0063】
本発明の実施形態が異なる主題に関連して説明されることに注意が必要である。特に、いくつかの実施形態が方法形態の請求項に関連して説明されるのに対して、他の実施形態はデバイス形態の請求項に関連して説明される。しかし、当業者は、上述の内容と以下の説明とを参照して、別段の記載がない限り、1つの形態の主題に属する特徴の任意の組合せに加えて、異なる主題に関連した特徴間の任意の組合せも本出願において開示されているとみなされることを理解する。しかし、すべての特徴が、組み合わされることにより、特徴の単なる足し合わせを上回る相乗効果を提供し得る。
【0064】
図面及び上述の説明に本発明が例示され、詳細に説明されているが、このような例示及び説明は例示又は一例とみなされ、限定とはみなされない。本発明は、開示される実施形態に限定されない。開示される実施形態に対する他の変形例が、図面、本開示、及び従属請求項の考察により、特許請求された発明を実践する当業者により理解及び実現され得る。
【0065】
特許請求の範囲において、「備える(含む、有する、もつ)」という単語は、他の要素もステップも排除せず、単数形の表現は、複数を排除しない。単一のプロセッサ又は他のユニットが、特許請求の範囲に記載されているいくつかの項目の機能を実現してよい。単に特定の手段が相互に異なる従属請求項に記載されているということが、利点を得るためにこれらの手段の組合せが使用不可能なことを示すわけではない。特許請求の範囲における参照符号は、いずれも特許請求の範囲を限定するように解釈されてはならない。

図1
図2
図3