(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
揮発性内容物を収容した容器本体のフランジにヒートシールして密封する蓋材であって、上側シートと下側シートとを分離可能に接着して構成されると共に、上側シートを分離したとき、下側シートに前記揮発性内容物を透過する透過孔が形成される蓋材において、
前記下側シートの表面が二軸延伸ポリエステルフィルムで構成されており、かつ、このポリエステルフィルムの前記フランジにヒートシールする領域がレーザー光照射によってヒートシール性が付与されていることを特徴とする蓋材。
【背景技術】
【0002】
このような蓋材及び容器は特許文献1に記載されている。
【0003】
特許文献1に記載の蓋材100’は、
図3に示すように、上側シート1’と下側シート2’とを剥離層3’を介して積層したものであり、上側シート1’は基材シート11’とバリア層12’とで構成されており、下側シート2’はシーラントフィルム21‘と接着樹脂層22’とで構成されている。なお、この接着樹脂層22’はシーラントフィルム21‘と剥離層3’とを分離可能に接着するもので、一般に、ポリオレフィン樹脂を溶融押出しコーティングして形成される。
【0004】
そして、下側シート2’には、閉曲線状のスリット2’xが設けられており、上側シート1’を下側シート2’から分離したとき、この閉曲線状スリット2’xに囲まれた領域が上側シート1’に接着したまま分離されて、この部位に貫通孔2’dを形成する。
【0005】
図4に示すように、容器本体200’としては、上面に開口部を有し、この開口部の周囲にフランジを有するものが使用される。そして、蓋材100’は、この容器本体200’の上面に重ね、開口部周囲のフランジにヒートシールして密封する。蓋材100’はバリア層12’を有しているから、揮発性内容物の揮散が防止できる。
【0006】
なお、
図4においては、容器本体200’のフランジとヒートシールする領域を符号2’aで示している。そして、その端部には、ヒートシールされない領域2’bが配置されており、この領域をつまみ部として、開封することができる。このつまみ部2’bとヒートシール領域2’aとの間には、下側シート2’を貫通するスリット2’yが設けられており、つまみ部2’bから蓋材100’を持ち上げると、このスリット2’yによって下側シート2’が分断される。
【0007】
このため、この蓋材100’で密封した容器から蓋材100’を剥離開封すると、
図5に示すように、つまみ部2’bにおいては上側シート1’と下側シート2’の両方が除去され、その他の領域(中央部2’c)においては、上側シート1’が下側シート2’から分離されて除去され、下側シート2’は容器本体Aのフランジに接着したまま残存する。そして、この中央部2’cにおいては、下側シート2’は閉曲線状スリット2’xで分断され、この閉曲線状スリット2’xに囲まれた領域に貫通孔2’dが形成される。芳香剤等の揮発性内容物は、この貫通孔2’dから放出される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1に記載の蓋材においては、下側シートのシーラントフィルムとし
て、ポリエチレンやポリオレフィン等のポリオレフィン樹脂を使用していた。
【0010】
しかしながら、これらポリオレフィン樹脂は、芳香剤等の揮発性内容物に対する吸着性が高く、その保存中にこれら揮発性内容物を吸着してしまう。そして、この吸着により、揮発性内容物が経時的に減少してしまうという問題があった。
【0011】
そこで、本発明は、特許文献1に記載の前述のような蓋材を前提として、揮発性内容物を吸着せず、長期間の保存に耐える蓋材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
エチレンとテレフタール酸とを主たるモノマーとするポリエチレンテレフタレート樹脂は、一般に、熱溶着性(ヒートシール性)に乏しい樹脂である。そして、このポリエチレンテレフタレート樹脂を主成分とする二軸延伸ポリエステルフィルムは耐熱性と寸法安定性に優れているため、包装袋等の基材フィルムとして多用されているが、他方、シーラントフィルムとして使用されることはない。
【0013】
しかしながら、この二軸延伸ポリエステルフィルムの表面に炭酸ガスレーザーを照射すると、この照射部位は熱溶着性(ヒートシール性)を獲得することが分かった。
【0014】
なお、レーザー照射によってヒートシール性を獲得する理由は分かっていない。レーザー照射の熱によって延伸が戻り、ポリマーが分解して低分子量物質が生成し、あるいは表面が酸化されるものと推定できるが、その構造は二軸延伸ポリエステルフィルムの種類やレーザー照射の条件によって異なり、また、その物性も異なるため、これら構造や物性によって特定することは実際的ではない。
【0015】
いずれにしても、本発明はこのような事情によってなされたものである。
【0016】
すなわち、請求項1に記載の発明は、揮発性内容物を収容した容器本体のフランジにヒートシールして密封する蓋材であって、上側シートと下側シートとを分離可能に接着して構成されると共に、上側シートを分離したとき、下側シートに前記揮発性内容物を透過する透過孔が形成される蓋材において、
前記下側シートの表面が
二軸延伸ポリエステルフィルムで構成されており、かつ、このポリエステルフィルムの前記フランジにヒートシールする領域が
レーザー光照射によってヒートシール性が付与されていることを特徴とする蓋材である。
【0019】
次に、
請求項2に記載の発明は、前記上側シートが、前記揮発性内容物の透過を防止するバリア性を有していることを特徴とする
請求項1に記載の蓋材である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の蓋材は、下側シートの表面がポリエステルフィルムで構成されており、このポリエステルフィルムは揮発性内容物を吸着し難い樹脂フィルムであるから、この蓋材を使用して密封した場合、長期間保存しても、内容物の減少を防ぐことができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明を説明する。
図1は本発明の蓋材の具体例を示す断面図である。また、
図2はこの蓋材100を容器本体200にヒートシールして密封した容器を示すもので、
図2(a)はその断面図、
図2(b)は平面図である。
【0023】
この蓋材100は、上側シート1と下側シート2とを分離可能に接着して構成されるものである。これら上側シート1と下側シート2とを分離可能に接着するため、両者の間には剥離層3が配置されている。
【0024】
上側シート1は任意の材質のシートであってよく、単層構造あるいは多層構造のシートであってよい。望ましくは、揮発性内容物の透過を防止するバリア性を有しているシートである。この例では、基材シート12と揮発性内容物の透過を防止するバリア層11とを積層した二層構造のシートを使用している。
【0025】
基材シート12としては、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム等のプラスチックフィルムを使用することができる。もちろん、これらプラスチックフィルムを積層した多層構造のフィルムを使用してもよい。また、この基材シート12には印刷を施すことも可能である。
【0026】
また、バリア層11としては、アルミニウム箔等の金属箔を使用することができる。また、金属や無機化合物を蒸着した蒸着フィルムを使用することも可能である。無機化合物としては酸化ケイ素や酸化アルミニウムを例示することができる。また、バリア層11としてアクリロニトリルフィルムを使用してもよい。
【0027】
なお、この例では、上側シート1は、基材シート12を下側シート2側に配置しているが、逆の配置であってもよい。すなわち、バリア層11を下側シート2側に配置し、基材シート12をその反対側に配置することもできる。上側シート1が三層以上の多層構造を有する場合には、その層の順序は任意である。
【0028】
下側シート2は、容器本体200のフランジにヒートシールして、その表面が揮発性内容物に接触するものである。このため、揮発性内容物を吸着し難いものである必要がある。このような要請から、フランジに接触する下側シート12表面はポリエステルフィルムで構成されている必要がある。
【0029】
また、前述のように下側シート2は、容器本体200のフランジにヒートシールするものであるから、このヒートシール部位は熱溶着性(ヒートシール性)を有するものである必要がある。ポリエステルフィルム21の表面に対して炭酸ガスレーザーを照射することによって、このポリエステルフィルム21表面を改質して熱溶着性(ヒートシール性)を付与することができる。炭酸ガスレーザーの照射条件は、走査速度400mm/sec、走査間隔0.1mmでよい。
【0030】
なお、下側シート2の表面は、その全面がヒートシール性を有していてもよいが、容器
本体200のフランジにヒートシールする部位(ヒートシール性部位)がヒートシール性を有していれば十分である。この例では、蓋材100の周囲をヒートシール性部位2aとして、この部分のみに炭酸ガスレーザーを照射して、ヒートシール性を付与している(
図2(b)参照)。なお、この例では、蓋材100の角部にはヒートシール性のない領域(2b)があるが、この領域2bはつまみ部を構成しており、容器本体200のフランジにヒートシールされることのない領域である。また、この例では、ヒートシール性部位2aに囲まれた中央部2cもヒートシール性のない領域として構成されている。
【0031】
下側シート2は、ポリエステルフィルム21のみで構成してもよいが、このポリエステルフィルム21に他の層を積層した多層構造のシートで構成してもよい。下側シート2を多層構造のシートで構成した場合であても、フランジに接触する下側シート2表面はポリエステルフィルム21で構成されている必要がある。この例では、ポリエステルフィルム21に接着樹脂層22を積層した二層構造のシートで下側シート2を構成している。接着樹脂層22はポリエチレン等のポリオレフィン樹脂から成り、後述するように、剥離層3を形成した上側シート1とポリエステルフィルム21との間に、溶融した接着樹脂を押出して前記上側シート1とポリエステルフィルム21とを圧着することによって形成できる。
【0032】
ところで、下側シート2は、上側シート1を分離したとき、下側シート2に前記揮発性内容物を透過する透過孔2dが形成される必要がある。この例では、下側シート2の中央部2cに、下側シート2を貫通する閉曲線状のスリット2xが設けられており、下側シート2から上側シート1を分離したとき、この閉曲線状スリット2xで囲まれた領域2dに透過孔が形成される。
【0033】
なお、この例では、下側シート2には、つまみ部2bとヒートシール領域2bとの境界近傍に、下側シート2を貫通する線状スリット2yが設けられており、この線状スリット2yは蓋材100の端部から端部まで達している。このため、蓋材100を容器本体200にヒートシールして得られた容器において、蓋材100のつまみ部2bを把持して蓋材100を剥離開封すると、つまみ部2aでは上側シート1と下側シート2との両者が除去される。そして、線状スリット2yに達したときに下側シート2が線状スリット2yで切断され、その後には、上側シート1のみが剥離層3から剥離されて容器本体200から除去される。なお、線状スリット2yは複数本設けられていてもよい。
【0034】
次に、剥離層3としては公知の剥離剤あるいは剥離フィルムを使用できる。例えば、ポリプロピレンにポリエチレンまたはポリオレフィン系エラストマーを混合した混合物から成る剥離フィルムである。
【0035】
この蓋材100は次のように製造することができる。すなわち、まず、基材シート12とバリア層11とを接着して上側シート1を製造する。次に、この上側シート1の基材シート12に剥離層3を積層する。バリア層11と基材シート12との接着、あるいは基材シート12と剥離層3との接着は任意の方法で行ってよい。例えば、ドライラミネート法である。そして、剥離層3を積層した上側シート1とポリエステルフィルム21との間に、溶融した接着樹脂を押出して前記上側シート1とポリエステルフィルム21とを圧着する。次に、下側シート2にスリット2x,2yを形成する。これらスリット2x,2yは、例えば、トムソン刃によるハーフカットや、ポーラス加工、熱針加工等の方法で可能である。
【0036】
なお、ポリエステルフィルム21に炭酸ガスレーザーを照射して、そのヒートシール性を改善する工程は、任意の工程で可能である。例えば、上側シート1に積層する前に炭酸ガスレーザーを照射してヒートシール性を改善してもよいし、ポリエステルフィルム21
に上側シート1を積層した後、スリット2x,2yを形成する前に炭酸ガスレーザーを照射してヒートシール性を改善してもよい。また、スリット2x,2yを形成した後に炭酸ガスレーザーを照射してヒートシール性を改善することも可能である。
【0037】
次に、この蓋材100を適用する容器本体200としては、上面に開口部を有し、その開口部周囲にフランジを有するものが利用できる。好ましくは、内面がポリエステル樹脂で構成されており、かつ、そのフランジに炭酸ガスレーザーを照射してヒートシール性を改善した容器本体200が好ましい。
図2(a)はこのような容器本体200を使用する例を示しており、この容器本体200は、容器基体201の内面にポリエステル樹脂層202を積層し、そのフランジに炭酸ガスレーザーを照射してヒートシール性を付与したものである。容器基材201は任意の材質でよい。例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂等である。
【0038】
この蓋材100は、特許文献1に記載の蓋材100’と同様に使用することができる。
【0039】
すなわち、容器本体200に揮発性内容物を収容した後、その上面開口部に蓋材100を重ね、容器本体200のフランジと蓋材100のヒートシール領域2aとをヒートシールして密封する。蓋材100の内面はポリエステルフィルム21で構成されているためポリエステルフィルム21は揮発性内容物を吸着せず、また、蓋材100バリア層12を有しているため、揮発性内容物を透過することもない。このため、長期間にわたって保存しても、揮発性内容物の減少はわずかである。なお、容器本体200の内面がポリエステル樹脂層202で構成されている場合には、このポリエステル樹脂層202も揮発性内容物を吸着しないから、その保存性を一層向上させることができる。
【0040】
そして、こうして密封された容器を開封する際には、蓋材100のつまみ部2bを把持して蓋材100を引き剥がせばよい。前述のように、容器本体200の開口部には、透過孔2dを有する下側シート2が残存する。揮発性内容物はこの孔2dを通じて放出され、その機能を発揮する。
【実施例】
【0041】
(実施例)
上側シート1として、無機化合物を蒸着した二軸延伸ポリエステルフィルム(蒸着フィルム、厚さ12μm)に印刷を施したフィルムと、二軸延伸ポリアミドフィルム(厚さ15μm)との積層フィルムを使用した。二軸延伸ポリアミドフィルムが基材フィルム12、蒸着フィルムがバリア層11に相当する。そして、その基材フィルム12に剥離層3(厚さ30μm)を接着した。基材フィルム12とバリア層11との接着及び基材フィルム12と剥離層3との接着は、いずれも、ドライラミネート法による。
【0042】
次に、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ25μm)21にアンカーコート剤を塗布した後、この二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム21と上側フィルム1との間に、溶融したポリエチレン樹脂を押出し、全体を圧着して一体化した。このポリエチレン樹脂は接着樹脂層22に相当する。厚さは15μmである。
【0043】
そして、その二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム21と接着樹脂層22の両者を貫通して、スリット2x,2yを形成した。スリット2xは蓋材の中央部に位置し、閉曲線状のスリットである。また、スリット2yはヒートシール領域2aとつまみ部2bとの境界近傍に位置する直線状スリットである。
【0044】
最後に、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム21のヒートシール領域2bに炭酸ガスレーザーを照射して、その領域にヒートシール性を付与して、実施例の蓋材10
0を製造した。炭酸ガスレーザーの照射条件は、走査速度4000mm/sec、走査間隔0.1mmである。
【0045】
次に、容器本体200として、ポリプロピレン樹脂から成る容器基体201の内面にポリエステル樹脂層202を配置し、そのフランジに炭酸ガスレーザーを照射してヒートシール性を付与したものを準備した。
【0046】
そして、この容器本体200にメントールを充填した後、その上面開口部に蓋材100を重ね、容器本体200のフランジと蓋材100のヒートシール領域とをヒートシールして密封した。
【0047】
こうして密封した容器を、40℃で2ヶ月間保存した。その後、容器中に残存したメントールの量を測定した。その残存量が95%以上の場合「○」と評価し、95%未満の場合「×」と評価した。
【0048】
また、蓋材100を容器本体200から剥離して、容易に剥離開封できる場合を「○」、剥離抵抗が大きく、剥離困難な場合を「×」と評価した。
【0049】
(比較例)
この比較例は特許文献1に記載の蓋材100’に相当する例である。
【0050】
まず、上側シート1’は実施例の上側シート1と同一のシートを使用した。また、剥離層3も同様に形成した。
【0051】
実施例の二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム21の代わりに、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ12μm)と無延伸ポリプロピレンフィルム(厚さ30μm)とを積層した積層フィルム21’を使用した。
【0052】
そして、この積層フィルム21’の二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム側にアンカーコート剤を塗布した後、積層フィルム21’と上側フィルム1’との間に、溶融したポリエチレン樹脂を押出し、全体を圧着して一体化した。このポリエチレン樹脂は接着樹脂層22’に相当する。厚さは15μmである。
【0053】
そして、その積層フィルム21’と接着樹脂層22’の両者を貫通して、スリット2’x,2’yを形成することにより、比較例の蓋材100’を製造した。スリット2xは蓋材の中央部に位置し、閉曲線状のスリットである。また、スリット2’yはヒートシール領域2’aとつまみ部2’bとの境界近傍に位置する直線状スリットである。なお、炭酸ガスレーザーの照射は行っていない。
【0054】
次に、容器本体200として、ポリプロピレン樹脂から成るものを準備した。
【0055】
そして、実施例と同様に、容器本体200’にメントールを充填した後、その上面開口部に蓋材100’を重ね、容器本体200’のフランジと蓋材100’のヒートシール領域とをヒートシールして密封した。この容器を40℃で2ヶ月間保存した後、容器中に残存したメントールの量を測定した。また、容器の剥離性を評価した。
【0056】
実施例及び比較例の残存量の評価と剥離性の評価の結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
この結果から、剥離性については、実施例及び比較例のいずれも良好であるが、保存性
については、実施例の方がすぐれていることが理解できる。