(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1において、脂環式エポキシ化合物(D)が、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキシルカルボキシレートであることを特徴とする成形品。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0021】
[芳香族ポリカーボネート樹脂組成物]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)と、該芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、リン系安定剤(B)として、スピロ環骨格を有するホスファイト系安定剤(B−I)0.001〜0.1質量部、及び下記一般式(II)で表されるホスファイト系安定剤(B−II)0.01〜0.5質量部と、数平均分子量が200以上1,000未満であるポリブチレングリコール化合物(C)0.05〜2質量部と、脂環式エポキシ化合物(D)0.0005〜0.2質量部を含有し、スピロ環骨格を有するホスファイト系安定剤(B−1)がビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトを含むことを特徴とする。
【0023】
(式(II)中、R
21〜R
25は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数6〜20のアリール基、又は炭素数1〜20のアルキル基を表す。)
【0024】
本発明において、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形して得られた成形品の成形直後の色相を「初期色相」と称し、得られた成形品を加熱条件下に長時間晒したときの黄変を抑制する効果を「耐熱黄変抑制効果」と称す。
【0025】
<芳香族ポリカーボネート樹脂(A)>
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)は、芳香族ヒドロキシ化合物と、ホスゲン又は炭酸のジエステルとを反応させることによって得られる芳香族ポリカーボネート重合体である。上記芳香族ポリカーボネート重合体は分岐を有していてもよい。芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、ホスゲン法(界面重合法)、溶融法(エステル交換法)等の従来法によることができる。
【0026】
芳香族ジヒドロキシ化合物の代表的なものとしては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等が挙げられる。
【0027】
上記芳香族ジヒドロキシ化合物の中では、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)が特に好ましい。
上記芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種類を単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0028】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)を製造する際に、上記芳香族ジヒドロキシ化合物に加えてさらに分子中に3個以上のヒドロキシ基を有する多価フェノール等を少量添加してもよい。この場合、上記芳香族ポリカーボネート樹脂(A)は分岐を有するものになる。
【0029】
上記3個以上のヒドロキシ基を有する多価フェノールとしては、例えばフロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−3、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンなどのポリヒドロキシ化合物、あるいは3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5−クロルイサチン、5,7−ジクロルイサチン、5−ブロムイサチン等が挙げられる。この中でも、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシルフェニル)エタン又は1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼンが好ましい。上記多価フェノールの使用量は、上記芳香族ジヒドロキシ化合物を基準(100モル%)として好ましくは0.01〜10モル%となる量であり、より好ましくは0.1〜2モル%となる量である。
【0030】
エステル交換法による重合においては、ホスゲンの代わりに炭酸ジエステルがモノマーとして使用される。炭酸ジエステルの代表的な例としては、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等に代表される置換ジアリールカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート等に代表されるジアルキルカーボネートが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、1種類を単独で、又は2種類以上を混合して用いることができる。これらのなかでも、ジフェニルカーボネート、置換ジフェニルカーボネートが好ましい。
【0031】
また上記の炭酸ジエステルは、好ましくはその50モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下の量を、ジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換してもよい。代表的なジカルボン酸又はジカルボン酸エステルとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジフェニル及びイソフタル酸ジフェニル等が挙げられる。このようなジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで炭酸ジエステルの一部を置換した場合には、ポリエステルカーボネートが得られる。
【0032】
エステル交換法により芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する際には、通常、触媒が使用される。触媒種に制限はないが、一般的にはアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物が使用される。中でもアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物が特に好ましい。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。エステル交換法では、上記触媒をp−トルエンスルホン酸エステル等で失活させることが一般的である。
【0033】
上記芳香族ポリカーボネート樹脂(A)には、難燃性等を付与する目的で、シロキサン構造を有するポリマー又はオリゴマーを共重合させることができる。
【0034】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は、10,000〜22,000であることが好ましい。芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量が10,000未満である場合、得られる成形品の機械的強度が不足し、十分な機械的強度を有するものを得ることができない場合がある。また、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量が22,000を超える場合、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の溶融粘度が大きくなるため、例えば芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を射出成形などの方法で成形して導光部材等の長尺状の成形品を製造する際に優れた流動性を得ることができず、また、樹脂の剪断による発熱量が大きくなり、熱分解により樹脂が劣化する結果、優れた色相を有する成形品を得ることができない場合がある。
上記芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量はより好ましくは12,000〜18,000であり、さらに好ましくは14,000〜17,000である。
【0035】
なお、粘度平均分子量[Mv]とは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10
−4Mv
0.83から算出される値を意味する。また、極限粘度[η]とは、各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[η
sp]を測定し、下記式により算出した値である。
【0037】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)は、粘度平均分子量の異なる2種以上の芳香族ポリカーボネート樹脂を混合したものであってもよく、また粘度平均分子量が上記範囲外である芳香族ポリカーボネート樹脂を混合して上記粘度平均分子量の範囲内としたものであってもよい。
【0038】
<リン系安定剤(B)>
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、リン系安定剤(B)として、スピロ環骨格を有するホスファイト系安定剤(B−I)(以下、単に「ホスファイト系安定剤(B−I)」と称す場合がある。)と、下記一般式(II)で表されるホスファイト系安定剤(B−II)(以下、単に「ホスファイト系安定剤(B−II)」と称す場合がある。)とを含有するものである。
【0040】
(式(II)中、R
21〜R
25は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数6〜20のアリール基、又は炭素数1〜20のアルキル基を表す。)
【0041】
<ホスファイト系安定剤(B−I)>
ホスファイト系安定剤(B−I)としては、スピロ環骨格を有するホスファイト系化合物であればよく、特に制限はないが、例えば、下記一般式(I)で表されるものが挙げられる。
【0043】
(式(I)中、R
10A及びR
10Bはそれぞれ独立に、炭素原子数1〜30のアルキル基又は炭素原子数6〜30のアリール基を表す。)
【0044】
上記一般式(I)中、R
10A,R
10B表されるアルキル基は、それぞれ独立に、炭素数1〜10の直鎖又は分岐のアルキル基であることが好ましい。R
10A,R
10Bがアリール基である場合、以下の一般式(I−a)、(I−b)、又は(I−c)のいずれかで表されるアリール基が挙げられる。
【0046】
(式(I−a)中、R
Aは炭素数1〜10のアルキル基を表す。式(I−b)中、R
Bは炭素数1〜10のアルキル基を表す。)
【0047】
本発明で用いるホスファイト系安定剤(B−I)は、これらのうち、下記構造式(I−A)で表されるビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトを含むことを必須とする。
【0049】
上記のホスファイト系安定剤(B−I)は、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよいが、ホスファイト系安定剤(B−I)中に、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトを50質量%以上含むことが好ましく、70質量%以上含むことがさらに好ましい。
【0050】
<ホスファイト系安定剤(B−II)>
ホスファイト系安定剤(B−II)は、前記一般式(II)で表されるものである。
【0051】
前記一般式(II)中、R
21〜R
25で表されるアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、n−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基及びオクチル基などが挙げられる。
【0052】
ホスファイト系安定剤(B−II)としては、特に、下記構造式(II−A)で表されるトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトが好ましい。
【0054】
上記のホスファイト系安定剤(B−II)は、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0055】
<リン系安定剤(B)の含有量>
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物において、上記のホスファイト系安定剤(B−I)の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.001〜0.1質量部である。ホスファイト系安定剤(B−I)の含有量が0.001質量部未満であると、十分な耐熱黄変抑制効果を得ることができない。ホスファイト系安定剤(B−I)の含有量が0.1質量部を超えても耐熱黄変抑制効果が低下する傾向にあり、また成形時のガスが多くなったり、モールドデポジットによる転写不良が起こったりするため、得られる成形品の光透過率が低下するおそれがある。ホスファイト系安定剤(B−I)の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して好ましくは0.002質量部以上、より好ましくは0.003質量部以上であり、好ましくは0.09質量部以下、より好ましくは0.07質量部以下、特に好ましくは0.06質量部以下である。
【0056】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物において、上記のホスファイト系安定剤(B−II)の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.01〜0.5質量部である。ホスファイト系安定剤(B−II)の含有量が0.01質量部未満であると、ホスファイト系安定剤(B−II)を配合することによる初期色相及び耐熱黄変抑制効果の更なる改善効果を十分に得ることができない。ホスファイト系安定剤(B−II)の含有量が0.5質量部を超えると、成形時のガスが多くなったり、モールドデポジットによる転写不良が起こったりするため、得られる成形品の光透過率が低下するおそれがある。ホスファイト系安定剤(B−II)の含有量は、好ましくは芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して0.03〜0.3質量部であり、より好ましくは0.05〜0.2質量部である。
【0057】
ホスファイト系安定剤(B−I)とホスファイト系安定剤(B−II)とを併用することによる効果をより有効に得るために、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物中のホスファイト系安定剤(B−I)とホスファイト系安定剤(B−II)の含有質量比は1:1〜30となるような量であることが好ましく、より好ましくは1:1〜20、さらに好ましくは1:1〜15、特に好ましくは1:2〜10、とりわけ好ましくは1:3〜7となるような量である。また、ホスファイト系安定剤(B−I)とホスファイト系安定剤(B−II)の合計の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して0.05〜0.2質量部であることが好ましく、0.1〜0.16質量部であることがより好ましい。
【0058】
<ポリブチレングリコール化合物(C)>
本発明で用いるポリブチレングリコール化合物(C)は、下記一般式(III)で表される分岐型のグリコール化合物である。
【0060】
(式(III)中、Rはエチル基を示し、X及びYは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜23の脂肪族アシル基、又は炭素数1〜23のアルキル基を示し、nは重合度を示し、2以上の整数である。)
【0061】
分岐型ポリブチレングリコール化合物としては、一般式(III)中、X,Yが水素原子であるポリブチレングリコールが好ましい。
【0062】
ポリブチレングリコール化合物(C)として、その片末端あるいは両末端が脂肪酸またはアルコールで封鎖されていてもその性能発現に影響はなく、脂肪酸エステル化物またはエーテル化物を同様に使用することができ、従って、一般式(III)中のX及び/又はYは炭素数1〜23の脂肪族アシル基又はアルキル基であってもよい。
【0063】
脂肪酸エステル化物としては、直鎖状又は分岐状脂肪酸エステルのいずれも使用でき、脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、飽和脂肪酸であってもよく不飽和脂肪酸であってもよい。また、一部の水素原子がヒドロキシル基などの置換基で置換されたものも使用できる。
脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、炭素数1〜23の1価又は2価の脂肪酸、例えば、1価の飽和脂肪酸、具体的には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸、ベヘン酸や、1価の不飽和脂肪酸、具体的には、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸などの不飽和脂肪酸、また炭素数10以上の二価の脂肪酸、具体的には、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、タプシア酸及びデセン二酸、ウンデセン二酸、ドデセン二酸が挙げられる。
これらの脂肪酸は1種又は2種以上組み合せて使用できる。前記脂肪酸には、1つ又は複数のヒドロキシル基を分子内に有する脂肪酸も含まれる。
【0064】
ポリブチレングリコールの脂肪酸エステルの好ましい具体例としては、一般式(III)において、X及びYが炭素数18の脂肪族アシル基であるポリブチレングリコールステアレート、X及びYが炭素数22の脂肪族アシル基であるポリブチレングリコールベヘネートが挙げられる。
【0065】
ポリブチレングリコールのアルキルエーテルを構成するアルキル基としては、直鎖状又は分岐状のいずれでもよく、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基、ラウリル基、ステアリル基等の炭素数1〜23のアルキル基が挙げられ、このようなポリブチレングリコール化合物(C)としては、ポリブチレングリコールのメチルエーテル、エチルエーテル、ブチルエーテル、ラウリルエーテル、ステアリルエーテル等が好ましく例示できる。
【0066】
本発明においては、このようなポリブチレングリコール化合物(C)として、数平均分子量が200以上1,000未満のものを用いる。ポリブチレングリコール化合物(C)の数平均分子量は、好ましくは300以上、さらに好ましくは500以上であり、好ましくは900以下、さらに好ましくは800以下である。上記範囲の上限を超えると、相溶性が低下するので好ましくなく、また上記範囲の下限を下回ると成形時のガス発生量が多くなり、ガスによる成形不良、例えば、未充填、ガスやけ、転写不良を発生する可能性があり、好ましくない。ここでいうポリブチレングリコール化合物(C)の数平均分子量はJIS K1577に準拠して測定した水酸基価に基づいて算出した数平均分子量である。
なお、ポリブチレングリコール化合物(C)の数平均分子量が低いほど、成形時の金型汚染性(金型付着物)を低減する効果がある。
【0067】
上記ポリブチレングリコール化合物(C)は、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0068】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物において、上記ポリブチレングリコール化合物(C)の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.05〜2質量部である。ポリブチレングリコール化合物(C)の含有量が0.05質量部未満であっても2質量部を超えても、得られる成形品の初期色相が劣る傾向がある。ポリブチレングリコール化合物(C)の含有量は、好ましくは芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し0.1〜1.5質量部であり、より好ましくは0.2〜1.2質量部、さらに好ましくは0.5質量部を超え1.0質量部以下である。
【0069】
[脂環式エポキシ化合物(D)]
脂環式エポキシ化合物(D)としては、1分子中にエポキシ基を1個以上有する脂環式化合物が用いられる。具体的には、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシ−6’−メチルシクロヘキシルカルボキシレート、2,3−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、4−(3,4−エポキシ−5−メチルシクロヘキシル)ブチル−3’,4’−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、3,4−エポキシシクロヘキシルエチレンオキシド、シクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−6’−メチルシロヘキシルカルボキシレート、ビス−エポキシジシクロペンタジエニルエーテル、ビス−エポキシシクロヘキシルアジペート、3,4−ジメチル−1,2−エポキシシクロヘキサン、3,5−ジメチル−1,2−エポキシシクロヘキサン、3−メチル−5−t−ブチル−1,2−エポキシシクロヘキサン、オクタデシル−2,2−ジメチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、N−ブチル−2,2−ジメチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、シクロヘキシル−2−メチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、N−ブチル−2−イソプロピル−3,4−エポキシ−5−メチルシクロヘキシルカルボキシレート、オクタデシル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、2−エチルヘキシル−3’,4’−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、4,6−ジメチル−2,3−エポキシシクロヘキシル−3’,4’−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、ジエチル−4,5−エポキシ−シス−1,2−シクロヘキシルジカルボキシレート、ジ−n−ブチル−3−t−ブチル−4,5−エポキシ−シス−1,2−シクロヘキシルジカルボキシレートなどを好ましく例示することができる。これらのうち、特に、1分子中にエポキシ基を2個以上有する脂環式エポキシ化合物が好ましく、特に3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキシルカルボキシレートが好ましい。
脂環式エポキシ化合物(D)は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物において、上記脂環式エポキシ化合物(D)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、0.0005〜0.2質量部であり、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.003質量部以上、さらに好ましくは0.005質量部以上、特に好ましくは0.01質量部以上、とりわけ好ましくは0.03質量部以上であり、また、好ましくは0.15質量以下、より好ましくは0.1質量部以下、さらに好ましくは0.07質量部以下である。脂環式エポキシ化合物(D)の含有量が0.0005質量部未満の場合は、色相、耐熱変色抑制効果が不十分となる上に、耐湿熱性の改善効果を十分に得ることができず、0.2質量部を超える場合は、耐熱変色抑制効果がかえって悪化するだけでなく、色相や湿熱安定性も低下する。
【0071】
<その他の成分>
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、任意成分としてさらに酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、染顔料、難燃剤、耐衝撃改良剤、帯電防止剤、滑剤、可塑剤、相溶化剤、充填剤等が配合されてもよい。
【0072】
<芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法>
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法は、特に制限されるものではなく、例えば最終成形品を成形するまでの任意の段階で、各成分を一括又は分割して配合し、溶融混練する方法が挙げられる。各成分の配合方法としては、例えばタンブラー、ヘンシェルミキサー等を使用する方法、フィーダーにより定量的に押出機ホッパーに供給して混合する方法などが挙げられる。溶融混練の方法としては、例えば単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等を使用する方法などが挙げられる。
【0073】
[成形品]
本発明の成形品は、上述の本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなるものである。
【0074】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の成形方法には特に制限はないが、例えば、射出成形法、圧縮成形法、射出圧縮成形法などが挙げられ、好ましくは射出成形法である。
【0075】
なお、成形時の樹脂の熱劣化を抑制し、初期色相に優れたものを得るために、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形する際には、窒素等の不活性ガス雰囲気下で成形を行うことが好ましい。
【0076】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる本発明の成形品は、従来品に比べて、耐湿熱性に優れ、成形品の白濁、発泡、芳香族ポリカーボネート樹脂の分解による機械的特性の低下といった問題がなく、また、加熱条件下に長時間晒された場合の黄変の程度が少ない上に、初期色相が著しく良好であるため、照明装置の導光部材、特に、デイライトの光源のみならず白熱灯から発生する熱によっても加熱条件下ないしは湿熱環境下に晒される自動車用照明装置の導光部材として好適に用いることができ、その優れた初期色相と耐熱変色抑制効果により、導光部材の光伝達効率を長期に亘り高く維持して、導光部材の交換頻度を大幅に低減することができる。
【0077】
[YI値]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、初期色相に著しく優れ、後掲の実施例の項に記載される方法に従って、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を用いて射出成形することにより得られた300mm長光路成形品について測定した300mm長のYI値が、通常20以下、好ましくは16以下、より好ましくは14以下となり、従来品にない著しく優れた色相を呈する。
【実施例】
【0078】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0079】
実施例及び比較例において用いた材料は次のとおりである。
【0080】
<芳香族ポリカーボネート樹脂(A)>
界面重合法で製造されたビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート樹脂:三菱エンジニアリングプラスチックス社製、粘度平均分子量19,000
【0081】
<リン系安定剤(B)>
<ホスファイト系安定剤(B−I)>
ADEKA社製「アデカスタブPEP−36」:前記構造式(I−A)で表されるビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(表1,2中、「PEP−36」と記載する。)
【0082】
Properties&Characteristics社製「Doverphos
S−9228」:下記構造式(Ia)で表されるビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(表1中、「S−9228」と記載する。)
【0083】
【0084】
<ホスファイト系安定剤(B−II)>
ADEKA社製「アデカスタブAS2112」:前記構造式(II−A)で表されるトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト(表1,2中、「AS2112」と記載する。)
【0085】
<ポリブチレングリコール化合物(C)>
日油社製「ユニオールPB−700」:ポリブチレングリコール(数平均分子量700)(表1,2中、「PB−700」と記載する。)
日油社製「ユニオールPB−500」:ポリブチレングリコール(数平均分子量500)(表1,2中、「PB−500」と記載する。)
【0086】
<脂環式エポキシ化合物(D)>
ダイセル社製「セロキサイド2021P」:3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート(表1,2中、「2021P」と記載する。)
【0087】
<脂肪酸エステル>
理研ビタミン(株)製「リケマールS−100A」:ステアリン酸モノグリセリド(表1中、「S−100A」と記載する。)
【0088】
[実施例1〜6及び比較例1〜3]
<芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造>
表1に示す成分を表1に示す割合となるように配合し、タンブラーミキサーで均一に混合して混合物を得た。この混合物を、フルフライトスクリューとベントとを備えた単軸押出機(いすず化工機社製「VS−40」)に供給し、スクリュー回転数80rpm、吐出量20kg/時間、バレル温度250℃の条件で混練し、押出ノズル先端からストランド状に押出した。押出物を水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてカットしてペレット化し、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
得られた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物について、以下の耐湿熱性試験を行い、結果を表1に示した。
【0089】
<耐湿熱性試験>
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを120℃で4〜8時間、熱風循環式乾燥機により乾燥した後、射出成形機(東芝機械社製「EC100」)により、280℃の温度でダンベル形状の試験片を成形した。
この試験片を、高加速寿命試験装置(プレッシャークッカー(PC)試験装置)(HIRAYAMA製「HASTEST MODEL PC−R8D」)にて、110℃、湿度85%の水蒸気雰囲気中で240時間処理し、このPC試験前後の芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量を、前述の方法で測定した。PC試験後の粘度平均分子量の低下が少ないものが耐湿熱性に優れる。
なお、このPC試験後の実施例1の試験片と比較例1,2の試験片の写真を
図1に示す。
後述の通り、実施例1の試験片は、PC試験前とPC試験後とで外観の変化はなく、実施例1の試験片も比較例1,2の試験片も、PC試験前は、実施例1のPC試験後の試験片と同じ外観である。
【0090】
【表1】
【0091】
表1より、リン系安定剤(B)としてビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトと特定のホスファイト系安定剤(B−II)とを含むと共に、数平均分子量が200以上1,000未満であるポリブチレングリコール化合物(C)と脂環式エポキシ化合物(D)とを含有することにより、耐湿熱性が改善されることが明らかとなった。
これに対して、ポリブチレングリコール化合物(C)や脂環式エポキシ化合物(D)を含まない比較例1〜3では、耐湿熱性に劣る。
図1からも、実施例1はPC試験前と変化がないのに対して、比較例1では白濁、発泡があり、比較例2では、更に激しく白濁、発泡していることが分かる。
【0092】
上記の実施例1〜6のうち、実施例1,2,4及び比較例2について、以下の評価を行い、結果を表2に示した。
【0093】
<初期色相(YI)評価>
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを120℃で4〜8時間、熱風循環式乾燥機により乾燥した後、射出成形機(東芝機械社製「EC100」)により、280℃の温度で300mm長光路成形品(6mm×4mm×300mm、L/d=50)を得た。この成形品について、長光路分光透過色計(日本電色工業社製「ASA1」)を使用して300mm長のYI値を測定した。
【0094】
<耐熱変色(ΔYI
1)評価>
上記の初期色相(YI)の評価で得られた長光路成形品を、120℃で1000時間保持した後、300mm光路長でYIを測定(処理後YI)し、YI値の差(ΔYI
1=処理後YI−初期YI)を求め、耐熱変色(ΔYI
1)を評価した。
【0095】
<耐滞留変色(ΔYI
2)評価>
射出成形機内で280℃の温度で25分間滞留させた後射出成形を行ったこと以外は上記の初期色相(YI)の評価におけると同様に、300mm光路長成形品を得、同様に300mm光路長でYIを測定(処理後YI)し、YI値の差(ΔYI
2=滞留後YI−初期YI)を求め、耐滞留変色(ΔYI
2)を評価した。
【0096】
【表2】
【0097】
表2より、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、初期色相に優れ、耐熱変色性も改善され、耐滞留変色性も改善されていることが分かる。比較例2は、初期色相、耐滞留変色性は良好であるが、耐熱変色性は劣る。