特許第6828513号(P6828513)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6828513発泡性積層体用ポリエチレン系樹脂組成物、発泡性積層体およびその製造方法、発泡加工紙並びに断熱容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6828513
(24)【登録日】2021年1月25日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】発泡性積層体用ポリエチレン系樹脂組成物、発泡性積層体およびその製造方法、発泡加工紙並びに断熱容器
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20210128BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20210128BHJP
   B32B 27/10 20060101ALI20210128BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20210128BHJP
   B65D 81/38 20060101ALI20210128BHJP
【FI】
   B32B27/32 Z
   B65D65/40 D
   B32B27/10
   B32B5/18
   B65D81/38 B
【請求項の数】11
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-37382(P2017-37382)
(22)【出願日】2017年2月28日
(65)【公開番号】特開2017-154821(P2017-154821A)
(43)【公開日】2017年9月7日
【審査請求日】2019年11月25日
(31)【優先権主張番号】特願2016-37385(P2016-37385)
(32)【優先日】2016年2月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303060664
【氏名又は名称】日本ポリエチレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 桂一
(72)【発明者】
【氏名】坂本 慎治
【審査官】 相田 元
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−201604(JP,A)
【文献】 特開2010−285586(JP,A)
【文献】 特開2015−51632(JP,A)
【文献】 特開2008−55759(JP,A)
【文献】 特開2010−214720(JP,A)
【文献】 特開2010−144134(JP,A)
【文献】 特開2013−78928(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B65D 65/40
B65D 81/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙を主体とする基材の少なくとも一方の面に発泡させるためのポリエチレン系樹脂層(I)を形成する発泡性積層体用ポリエチレン系樹脂組成物であって、
前記発泡性積層体用ポリエチレン系樹脂組成物は、下記(a−1)〜(a−3)の特性を満足するポリエチレン系樹脂(A)を含有することを特徴とする発泡性積層体用ポリエチレン系樹脂組成物。
(a−1):JIS K7210:1999に準拠(190℃、21.18N荷重)して測定したメルトフローレートMFRが6g/10分以上20g/10分未満である。
(a−2):試験温度23℃、JIS K7112:1999に準拠して測定した密度が0.920〜0.930g/cmである。
(a−3):オルトジクロロベンゼンによる温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出曲線において、溶出温度70℃以上の溶出物の割合が47〜83重量%である。
【請求項2】
前記ポリエチレン系樹脂(A)が、高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン及びエチレン共重合体から選択された1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の発泡性積層体用ポリエチレン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記発泡性積層体用ポリエチレン系樹脂組成物が、前記ポリエチレン系樹脂(A)としての高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレンと、エチレン−α−オレフィン共重合体とを含有することを特徴とする請求項2に記載の発泡性積層体用ポリエチレン系樹脂組成物。
【請求項4】
電子レンジ調理用であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の発泡性積層体用ポリエチレン系樹脂組成物。
【請求項5】
紙を主体とする基材の少なくとも一方の面に発泡させるためのポリエチレン系樹脂層(I)を備えた発泡性積層体であって、
前記ポリエチレン系樹脂層(I)が、請求項1〜4のいずれか1項に記載の発泡性積層体用ポリエチレン系樹脂組成物からなることを特徴とする発泡性積層体。
【請求項6】
前記基材の他方の面に、発泡時に前記基材から放出される蒸気を保持する熱可塑性樹脂層(II)を設け、前記熱可塑性樹脂層(II)に含まれる熱可塑性樹脂(B)が、下記(b−1)の特性を満足することを特徴とする請求項5に記載の発泡性積層体。
(b−1):融点(Tm(b))が、100〜140℃の範囲内にある。
【請求項7】
前記ポリエチレン系樹脂(A)の融点(Tm(a))と前記熱可塑性樹脂(B)の融点(Tm(b))とが、下記(b−2)の特性を満足することを特徴とする請求項6に記載の発泡性積層体。
(b−2):Tm(b)−Tm(a)が、10℃以上である。
【請求項8】
紙を主体とする基材の少なくとも一方の面に発泡させるためのポリエチレン系樹脂層(I)を備えた発泡性積層体の製造方法であって、
前記ポリエチレン系樹脂層(I)が、請求項1〜4のいずれか1項に記載の発泡性積層体用ポリエチレン系樹脂組成物を前記基材の少なくとも一方の面に押出しラミネート加工することにより形成されることを特徴とする発泡性積層体の製造方法。
【請求項9】
前記押出しラミネート加工の加工速度が、55m/分以上であることを特徴とする請求項8に記載の発泡性積層体の製造方法。
【請求項10】
請求項5〜7のいずれか1項に記載の発泡性積層体の前記ポリエチレン系樹脂層(I)が発泡した状態である発泡加工紙。
【請求項11】
請求項5〜7のいずれか1項に記載の発泡性積層体の前記ポリエチレン系樹脂層(I)が発泡した状態である断熱容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡性積層体用ポリエチレン系樹脂組成物、発泡性積層体およびその製造方法、発泡加工紙並びに断熱容器に関する。さらに詳しくは、加熱によって十分な高さと外観の良好な発泡セル(発泡層)が生産性良く得られ、かつ電子レンジ適性に優れる発泡性積層体用ポリエチレン系樹脂組成物、発泡性積層体およびその製造方法、発泡加工紙並びに断熱容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、断熱性を有する容器としては、合成樹脂製の発泡体が多く使用されている。また、廃棄し易く印刷適性の良い容器として、紙を複数枚使用した断熱紙容器や、紙基材の両面をポリエチレン系樹脂層で積層された材料を使用し、表面のポリエチレン系樹脂層を発泡させ断熱性を付与した紙容器がある。
【0003】
紙を基材とした技術としては、紙の少なくとも一面にポリエチレンを押出しラミネートし、他面には蒸気圧保持層を形成させ加熱により表面に不規則な凹凸模様を有する加工紙を製造する技術がある(例えば、特許文献1参照)。
また、胴部材の片側壁面に熱可塑性樹脂フィルムがラミネートまたはコーティングされ、加熱によりフィルムを発泡させて発泡断熱層を形成させる技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
また、容器胴部材及び底部材からなる紙製容器において、容器胴部材の外壁面の一部に有機溶剤含有インキによる印刷を施し、胴部材外壁面全体を熱可塑性合成樹脂フィルムで被覆されている紙容器を加熱することにより、印刷部分に比較的厚い発泡層を存在させる技術が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
さらに、少なくとも外面側からシングルサイト触媒を用いて重合したエチレン−αオレフィン共重合体またはそれを含む発泡層、紙を主体とする基材層、熱可塑性樹脂層とを備えた積層体からなる発泡加工紙が提案されている(例えば、特許文献4、特許文献5参照)。こうして得られた発泡層を保有する加工紙は、容器とした際に、発泡層により手とのなじみがよく滑りにくく、断熱性に優れるとともに紙を複数枚使用した断熱性容器に比較しコストが安いというメリットがある。
【0005】
また、特許文献6においては、紙容器における胴部材原材料シートの紙基材の少なくとも片面に、溶融状態の熱可塑性樹脂をTダイから紙基材に接するまでの時間が0.11〜0.33秒となるように押出しラミネートしてなる紙製容器の胴部材原材料シートが示され、低密度ポリエチレンを2種混合してMFRを調整した組成物が記載されている。
【0006】
しかし、従来の発泡層を有する積層体や、それを用いた加工紙は、押出しラミネート成型時に、ある一定以上の加工速度とした場合、加熱による発泡時に、外観不良となることがあり問題となっていた。従って、押出しラミネート成型速度を高速とした場合であっても、加熱によって十分な高さと外観の良好な発泡セルとなるような改良が望まれていた。
【0007】
一方、上記のような断熱性を有する容器は、近年、電子レンジ調理用容器として広く使用されている。しかし、従来技術の容器は、電子レンジ適性に劣るという問題点があった。すなわち、電子レンジによる調理・加熱によって発泡セルが肥大化し、また連通化して発泡層表面が隆起する現象(火ぶくれ)や、この火ぶくれによって肥大化した発泡セルが破れ、表面に凹凸が発生し、外観を損なうという問題点があった。
そのため、(A)特定の密度を有するポリエチレン系樹脂層/基材層/(B)特定の密度を有する発泡層を含み、(B)層を構成するポリエチレン系樹脂を高圧法低密度ポリエチレンとし、(A)層の厚みと発泡前後の(B)層の厚みとを規定する技術が提案されている(例えば、特許文献7参照)。
しかしながら、従来技術の断熱性を有する電子レンジ調理用容器は、加工速度を高速とした場合、加熱による発泡時に、外観不良となり、いまだ当業界の求めるレベルに到達しておらず、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭48−32283号公報
【特許文献2】特開昭57−110439号公報
【特許文献3】特開平7−232774号公報
【特許文献4】特開平10−128928号公報
【特許文献5】特開2007−168178号公報
【特許文献6】特開2008−105747号公報
【特許文献7】特許第5707848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、加熱によって十分な高さと外観の良好な発泡セル(発泡層)が生産性良く得られ、かつ電子レンジ適性に優れる発泡性積層体用ポリエチレン系樹脂組成物、発泡性積層体およびその製造方法、発泡加工紙並びに断熱容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討した結果、紙を主体とする基材の少なくとも一方の面に発泡させるためのポリエチレン系樹脂層(I)を形成する発泡性積層体用ポリエチレン系樹脂組成物において、該組成物に含まれるポリエチレン系樹脂(A)の特性を特定化することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明は以下の通りである。
1.紙を主体とする基材の少なくとも一方の面に発泡させるためのポリエチレン系樹脂層(I)を形成する発泡性積層体用ポリエチレン系樹脂組成物であって、
前記発泡性積層体用ポリエチレン系樹脂組成物は、下記(a−1)〜(a−3)の特性を満足するポリエチレン系樹脂(A)を含有することを特徴とする発泡性積層体用ポリエチレン系樹脂組成物。
(a−1):JIS K7210:1999に準拠(190℃、21.18N荷重)して測定したメルトフローレートMFRが6g/10分以上20g/10分未満である。
(a−2):試験温度23℃、JIS K7112:1999に準拠して測定した密度が0.920〜0.930g/cmである。
(a−3):オルトジクロロベンゼンによる温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出曲線において、溶出温度70℃以上の溶出物の割合が47〜83重量%である。
2.前記ポリエチレン系樹脂(A)が、高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン及びエチレン共重合体から選択された1種以上であることを特徴とする前記1に記載の発泡性積層体用ポリエチレン系樹脂組成物。
3.前記発泡性積層体用ポリエチレン系樹脂組成物が、前記ポリエチレン系樹脂(A)としての高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレンと、エチレン−α−オレフィン共重合体とを含有することを特徴とする前記2に記載の発泡性積層体用ポリエチレン系樹脂組成物。
4.電子レンジ調理用であることを特徴とする前記1〜3のいずれか1に記載の発泡性積層体用ポリエチレン系樹脂組成物。
5.紙を主体とする基材の少なくとも一方の面に発泡させるためのポリエチレン系樹脂層(I)を備えた発泡性積層体であって、
前記ポリエチレン系樹脂層(I)が、前記1〜4のいずれか1に記載の発泡性積層体用ポリエチレン系樹脂組成物からなることを特徴とする発泡性積層体。
6.前記基材の他方の面に、発泡時に前記基材から放出される蒸気を保持する熱可塑性樹脂層(II)を設け、前記熱可塑性樹脂層(II)に含まれる熱可塑性樹脂(B)が、下記(b−1)の特性を満足することを特徴とする前記5に記載の発泡性積層体。
(b−1):融点(Tm(b))が、100〜140℃の範囲内にある。
7.前記ポリエチレン系樹脂(A)の融点(Tm(a))と前記熱可塑性樹脂(B)の融点(Tm(b))とが、下記(b−2)の特性を満足することを特徴とする前記6に記載の発泡性積層体。
(b−2):Tm(b)−Tm(a)が、10℃以上である。
8.紙を主体とする基材の少なくとも一方の面に発泡させるためのポリエチレン系樹脂層(I)を備えた発泡性積層体の製造方法であって、
前記ポリエチレン系樹脂層(I)が、前記1〜4のいずれか1に記載の発泡性積層体用ポリエチレン系樹脂組成物を前記基材の少なくとも一方の面に押出しラミネート加工することにより形成されることを特徴とする発泡性積層体の製造方法。
9.前記押出しラミネート加工の加工速度が、55m/分以上であることを特徴とする前記8に記載の発泡性積層体の製造方法。
10.前記5〜7のいずれか1に記載の発泡性積層体の前記ポリエチレン系樹脂層(I)が発泡した状態である発泡加工紙。
11.前記5〜7のいずれか1に記載の発泡性積層体の前記ポリエチレン系樹脂層(I)が発泡した状態である断熱容器。
【発明の効果】
【0012】
本発明の発泡性積層体用ポリエチレン系樹脂組成物は、紙を主体とする基材の少なくとも一方の面に発泡させるためのポリエチレン系樹脂層(I)を形成するものであって、該組成物に含まれるポリエチレン系樹脂(A)の特性、すなわちMFR、密度およびTREFによって得られる溶出曲線における溶出物の割合が特定化されているので、ラミネート成形時の加工速度を高速とした場合においても、加熱によって十分な高さと外観の良好な発泡セル(発泡層)を生産性良く得ることができる。
また、電子レンジによる調理・加熱によって発泡セルが肥大化し、また連通化して発泡層表面が隆起する現象(火ぶくれ)や、この火ぶくれによって肥大化した発泡セルが破れ、表面に凹凸が発生し、外観を損なうという問題点を解決することができ、いわゆる電子レンジ適性に優れたものである。
本発明の発泡性積層体は、上記本発明の発泡性積層体用ポリエチレン系樹脂組成物からなるポリエチレン系樹脂層(I)を備えているので、ラミネート成形時の加工速度を高速とした場合においても、加熱によって十分な高さと外観の良好な発泡セル(発泡層)を生産性良く得ることができ(以下、発泡性と言うことがある)、また、上記電子レンジ適性に優れる。
本発明の発泡性積層体の製造方法は、上記本発明の発泡性積層体用ポリエチレン系樹脂組成物からなるポリエチレン系樹脂層(I)を基材上に押出しラミネート加工するものであるので、加熱によって十分な高さと外観の良好な発泡セル(発泡層)を生産性良く得ることができる。
本発明の発泡加工紙および断熱容器は、上記発泡性積層体を発泡させて得られるものであるので、良好な発泡外観を有し、また、上記電子レンジ適性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の発泡性積層体用ポリエチレン系樹脂組成物、発泡性積層体およびその製造方法、発泡加工紙並びに断熱容器について、詳細に説明する。
【0014】
1.発泡性積層体用ポリエチレン系樹脂組成物
本発明の発泡性積層体用ポリエチレン系樹脂組成物は、ポリエチレン系樹脂(A)を必須成分として含有するものであって、該ポリエチレン系樹脂(A)は、下記(a−1)〜(a−3)の特性を満足する。
(a−1):JIS K7210:1999に準拠(190℃、21.18N荷重)して測定したメルトフローレートMFRが6g/10分以上20g/10分未満である。
(a−2):試験温度23℃、JIS K7112:1999に準拠して測定した密度が0.920〜0.930g/cmである。
(a−3):オルトジクロロベンゼンによる温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出曲線において、溶出温度70℃以上の溶出物の割合が47〜83重量%である。
【0015】
ポリエチレン系樹脂(A)としては、エチレン単独重合体、高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン、エチレン・α−オレフィン共重合体、ポリプロピレン等のポリオレフィン及びそれらの混合物が例示される。原料として、植物由来又は石油由来のエチレンを用いたもののいずれを用いてもよい。
前記エチレン共重合体におけるエチレンと共重合するモノマーとしては、共役ジエン(例えばブタジエンやイソプレン)、非共役ジエン(例えば1,4−ペンタジエン)、アクリル酸、アクリル酸エステル(例えばアクリル酸メチルやアクリル酸エチル)、メタクリル酸、メタクリル酸エステル(例えばメタクリル酸メチルやメタクリル酸エチル)および酢酸ビニルエチレン等が例示される。
このうち好ましいのは、高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン、エチレン共重合体である。高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレンは、酸素、有機過酸化物などのラジカル発生剤を用いて、1000〜4000atmの超高圧下、塊状または溶液重合によって製造される。
また、高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレンと、エチレン−α−オレフィン共重合体との混合物も好ましい。この場合、高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレンと、エチレン−α−オレフィン共重合体との割合(重量比)は、前者:後者として、1:9〜5:5が好ましく、1:9〜3:7がさらに好ましい。
【0016】
樹脂(A)は、例えば高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレンにラジカル発生剤を添加しラジカル反応させたものを使用することもできる。
上記ラジカル発生剤としては、有機過酸化物、ジヒドロ芳香族、ジクミル化合物等が挙げられる。その有機過酸化物としては、例えば、(i)t−ブチルハイドロパーオサイド、クメンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、(ii)メチルエチルケトンパーオキサイド、メチルイソブチルケトンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類、(iii)イソブチリルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類、(iv)ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルヘキシン)−3、ジ−t−アミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類、(v)2,2−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ブタン等のパーオキシケタール、(vi)t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−アミルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等のアルキルパーエステル類、(vii)ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカルボネート、ジ−イソプロピルパーオキシジカルボネート、t−アミルパーオキシイソプロピルカーボネート等のパーカーボネート類、(viii)3,6,9−トリエチル−3,6,9−トリメチル−1,4,7−トリパーオキソナン等の環状有機過酸化物類などが挙げられる。中でも好ましいのは、環状有機過酸化物類である。
【0017】
有機過酸化物の配合量は、特に限定されないが、樹脂100重量部に対し、0.5重量部以下、特に0.1重量部以下であることが好ましい。有機過酸化物の配合量が0.5重量部を超えると、流動性が悪化する。
【0018】
ラジカル反応には、押出機内で樹脂とラジカル発生剤を同時に溶融混練して反応させる溶融反応法、または有機溶媒に樹脂とラジカル発生剤を溶解し、加温混合攪拌しながら反応させる溶液反応法が好適に用いられる。
【0019】
(a−1)メルトフローレートMFR
本発明におけるポリエチレン系樹脂(A)のMFRは、6g/10分以上20g/10分未満である。この条件を満たさないと、ラミネート成形時の加工速度を高速とした場合に、加熱によって十分な高さと外観の良好な発泡セル(発泡層)が得られない。
さらに好ましいMFRは、9〜20g/10分であり、とくに好ましいMFRは、9〜15g/10分である。
なおMFRは、JIS K7210:1999に準拠(190℃、21.18N荷重)して測定した値を意味する。また、ポリエチレン系樹脂(A)が混合物の場合は、混合物のMFRが上記範囲を満たせばよい。
【0020】
(a−2)密度
本発明におけるポリエチレン系樹脂(A)の密度は、0.920〜0.930g/cmである。この条件を満たさないと、良好な発泡性と電子レンジ適性を同時に満たすことができない。
さらに好ましい密度は、0.920〜0.928g/cmであり、とくに好ましい密度は、0.920〜0.925g/cmである。
なお密度は、試験温度23℃、JIS K7112:1999に準拠して測定した値を意味する。また、ポリエチレン系樹脂(A)が混合物の場合は、混合物の密度が上記範囲を満たせばよい。
【0021】
(a−3)溶出物
本発明におけるポリエチレン系樹脂(A)は、オルトジクロロベンゼンによる温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出曲線において、溶出温度70℃以上の溶出物の割合が47〜83重量%である。この条件を満たさないと、良好な発泡性と電子レンジ適性を同時に満たすことができない。
さらに上記溶出物の割合は、50〜80重量%であることが好ましく、とくに好ましい上記溶出物の割合は、60〜80重量%である。なお、ポリエチレン系樹脂(A)が混合物の場合は、混合物の溶出物が上記範囲を満たせばよい。
【0022】
なお、上記溶出物の割合は、下記の方法によって測定される。
試料を140℃でオルトジクロロベンゼン(0.5mg/mLBHT入り)に溶解し溶液とする。これを140℃のTREFカラムに導入した後8℃/分の降温速度で100℃まで冷却し、引き続き4℃/分の降温速度で40℃まで冷却し、更に続いて1℃/分の降温速度で−15℃まで冷却し、20分間保持する。その後、溶媒であるオルトジクロロベンゼン(0.5mg/mLBHT入り)を1mL/分の流速でカラムに流し、TREFカラム中で−15℃のオルトジクロロベンゼンに溶解している成分を10分間溶出させ、次に昇温速度100℃/時間にてカラムを140℃までリニアに昇温し、溶出曲線を得る。
【0023】
装置及び測定条件は例えば以下の通りである。
(TREF部)
TREFカラム:4.3mmφ×150mmステンレスカラム
カラム充填材:100μm表面不活性処理ガラスビーズ
加熱方式:アルミヒートブロック
冷却方式:ペルチェ素子(ペルチェ素子の冷却は水冷)
温度分布:±0.5℃
温調器:(株)チノー デジタルプログラム調節計KP1000
(バルブオーブン)
加熱方式:空気浴式オーブン
測定時温度:140℃
温度分布:±1℃
バルブ:6方バルブ、4方バルブ
(試料注入部)
注入方式:ループ注入方式
注入量:ループサイズ 0.1ml
注入口加熱方式:アルミヒートブロック
測定時温度:140℃
(検出部)
検出器:波長固定型赤外検出器 FOXBORO社製 MIRAN 1A
検出波長:3.42μm
高温フローセル:LC−IR用ミクロフローセル、
光路長:1.5mm、窓形状2φ×4mm長丸、合成サファイア窓板
測定時温度:140℃
(ポンプ部)
送液ポンプ:センシュウ科学社製 SSC−3461ポンプ
<測定条件>
溶媒:オルトジクロロベンゼン(0.5mg/mLBHT入り)
試料濃度:5mg/mL
試料注入量:0.1mL
溶媒流速:1mL/分
【0024】
本発明における発泡性積層体用ポリエチレン系樹脂組成物には、必要に応じて、ポリエチレン系樹脂(A)の特性を損ねない範囲で、フェノール系、リン系等の酸化防止剤、金属石鹸等の中和剤、アンチブロッキング剤、滑剤、分散剤、顔料、染料等の着色剤、防曇剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、造核剤などの添加剤を配合してもよい。
また、ポリエチレン系樹脂(A)の特性を損ねない範囲で、他の熱可塑性樹脂を配合しても構わない。熱可塑性樹脂としては、他のポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂などを挙げることができる。
本発明の発泡性積層体用ポリエチレン系樹脂組成物はとくに電子レンジ適性に優れることから電子レンジ調理用であることが好ましい。
【0025】
2.発泡性積層体
本発明の発泡性積層体は、紙を主体とする基材の少なくとも一方の面に発泡させるためのポリエチレン系樹脂層(I)を備え、前記ポリエチレン系樹脂層(I)が、先に説明した発泡性積層体用ポリエチレン系樹脂組成物からなるものである。
【0026】
(1)紙を主体とする基材
本発明において紙を主体とする基材は(以下、紙基材と言うことがある)、紙基材に含まれた蒸気、揮発分によって表面のポリエチレン系樹脂層(I)を発泡させることができるものであれば特に限定されない。
例えば、上質紙、クラフト紙、アート紙等が挙げられる。また、紙基材には、加熱により揮発性ガスを発生する物質をコーティングしたり、紙基材中へ加熱により揮発性ガスを発生する物質を配合したりすることもできる。紙基材には、パルプ紙や合成紙等の紙にインクなどで絵や文字、模様などを印刷することができる。基材に使用する紙は、坪量が100〜400g/m、特に150〜350g/mが好ましい。紙の含水率は4〜10%、好ましくは5〜8%程度のものが例示される。また、紙基材には印刷が施されていてもよい。
【0027】
(2)ポリエチレン系樹脂層(I)
本発明におけるポリエチレン系樹脂層(I)を構成する樹脂には、前記ポリエチレン系樹脂(A)を用いることができる。発泡倍率が高く、均一な発泡セルを形成させるためには、ポリオレフィン系樹脂の融点が80〜120℃の範囲、好ましくは、90〜110℃程度の範囲内で選択することが好ましい。
【0028】
本発明におけるポリエチレン系樹脂層(I)の厚みは、特に限定されないが、例えば20〜100μmであり、発泡層厚みを高くするという点で、30〜100μmが好ましい。ポリエチレン系樹脂層(I)の厚みが、20μm未満では発泡層厚みを十分に高くすることが難しい。
また、本発明におけるポリエチレン系樹脂層(I)には、必要に応じて印刷等を施してもよい。印刷は、部分的に着色インキで印刷しても、全面的に印刷してもよい。印刷の位置、印刷面積の大小、印刷の方法、使用されるインキなどは、従来公知の技術を適宜選択して用いることができる。
【0029】
本発明の発泡性積層体は、紙基材のポリエチレン系樹脂層(I)を形成する面とは逆の面(紙基材の他方の面)に、発泡時に前記紙基材から放出される蒸気を保持する熱可塑性樹脂層(II)を設けることもできる。この熱可塑性樹脂層(II)は、下記の熱可塑性樹脂(B)を含む。
【0030】
熱可塑性樹脂(B)は、ポリエチレン系樹脂(A)よりも融点が高いか、もしくは融解しない樹脂が挙げられ、特に限定されないが、ポリエチレン系樹脂層(I)を優先的に発泡させ、均一にかつ高いセル厚を容易に得るためには、下記(b−1)の特性を満足することが好ましい。
(b−1):融点(Tm(b))が、100〜140℃の範囲内にある。
なお本発明における融点は次のように測定される。
ペレットを熱プレスでシートとし、パンチで打ち抜いてサンプルとする。測定は、JIS K7121−1987の方法に従う。下記の条件で、第一昇温、降温、第二昇温の手順で実施し、第二昇温の最高ピーク高さの温度をTmとする。
装置:エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社社製のDSC(DSC7020)
昇降温条件
第一昇温:30℃から200℃までを10℃/分
降温:200℃から20℃までを10℃/分
第二昇温:20℃から200℃までを10℃/分
温度保持時間:第一昇温後5分間、降温後5分間
サンプル量:5mg
温度の校正:インジウム
リファレンス:アルミニウム
【0031】
また熱可塑性樹脂(B)は、下記(b−2)の特性を満足するのがさらに好ましい。
(b−2):Tm(b)−Tm(a)が、10℃以上である。
(ただし、Tm(a)はポリエチレン系樹脂(A)の融点(℃)であり、Tm(b)は熱可塑性樹脂(B)の融点(℃)である)
上記(b−2)の特性を満足することにより、均一で十分な発泡高さとなる発泡層が得られる。
【0032】
本発明において使用される熱可塑性樹脂(B)は、例えば、高・中・低密度ポリエチレン、エチレン共重合体、ポリプロピレン系樹脂、ポリブテン−1樹脂、ポリ−4−メチル−ペンテン−1樹脂等の炭素数2〜10のα−オレフィン単独重合体、またはそれらの相互共重合体等のポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、あるいはこれらとの混合物等が挙げられる。前記エチレン共重合体におけるエチレンと共重合体するモノマーとしては、共役ジエン(例えばブタジエンやイソプレン)、非共役ジエン(例えば1,4−ペンタジエン)、アクリル酸、アクリル酸エステル(例えばアクリル酸メチルやアクリル酸エチル)、メタクリル酸、メタクリル酸エステル(例えばメタクリル酸メチルやメタクリル酸エチル)および酢酸ビニルエチレン等が例示される。
これらの中でも、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂が好ましい。
【0033】
また、熱可塑性樹脂(B)として、ポリオレフィン系樹脂を採用する場合、MFRが0.1〜100g/10分、好ましくは0.3〜80g/10分、より好ましくは0.5〜60g/10分、密度が0.920〜0.970g/cm、好ましくは0.925〜0.960g/cm、より好ましくは、0.930〜0.950g/cm程度のものが好ましい。
【0034】
また、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂等のように紙基材と接着性の乏しい樹脂を使用する場合においては、不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂、エチレン−不飽和カルボン酸との共重合体等の通例の接着性樹脂等を介して積層体としてもよい。
【0035】
熱可塑性樹脂(B)には、必要に応じて、その特性を損ねない範囲で、フェノール系、リン系等の酸化防止剤、金属石鹸等の中和剤、アンチブロッキング剤、滑剤、分散剤、顔料、染料等の着色剤、防曇剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、造核剤などの添加剤を配合してもよい。
【0036】
熱可塑性樹脂層(II)の厚みは、特に限定されないが、ポリエチレン系樹脂層(I)の発泡後の発泡層厚みを高くすることができるという点で、通例では10〜100μm、特に20〜100μmの範囲で選択されることが好ましい。熱可塑性樹脂層(B)の厚みが、10μm未満では、紙基材から放出される蒸気等を十分に保持することができず、発泡層厚みを十分に高くすることができない虞がある。また100μmを超える場合には、それ以上の効果の向上が期待されず、経済的デメリットが大きくなるおそれが生じる。
【0037】
本発明の発泡性積層体においては、本発明の効果を損なわない範囲において、該層間、あるいはその内層及び/又は外層等に他の層を設けてもよく、例えば、外側から、{ポリエチレンフィルム層/ポリエチレン系樹脂層(I)/紙基材/熱可塑性樹脂層(II)}、{ポリエチレンフィルム層/バリア層/接着層/ポリエチレン系樹脂層(I)/紙基材/熱可塑性樹脂層(II)}、{ポリエチレン系樹脂層(I)/紙基材/熱可塑性樹脂層(II)/バリア層/熱可塑性樹脂層(II)}のように紙基材とポリエチレン系樹脂層(I)または、さらに熱可塑性樹脂層(II)を設けた積層体の内層及び/又は外層、あるいは該層間に一層または複数層のフィルム層、装飾層、補強層、接着剤層、バリア層等を設けてもよい。
また、必要に応じて印刷等を施してもよい。印刷は、部分的または全面的に着色インキで印刷してもよい。また、必要に応じて発泡性インキを使用して、部分的または全面的に発泡部位を設けてもよい。印刷の位置、印刷面積の大小、印刷の方法、使用されるインキなどは、従来公知の技術を適宜選択して用いることができる。
【0038】
上記装飾層としては、印刷された紙、フィルム、不織布、織布等が挙げられる。
また補強層とは、基材に積層されたポリエチレン系樹脂層(I)が加熱によって発泡されるときに発泡層が破裂しないように、ポリエチレン系樹脂層(I)の外層にポリエチレン樹脂フィルムなどを積層して発泡層の過度の発泡による破裂防止や、不ぞろいの発泡セルを均一に矯正する、あるいはフィルム、不織布等を積層して、機械的強度を持たせるなどの役割を果たすものである。樹脂としては、特に限定されるものではなく、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等でよい。
また、接着剤層を形成する樹脂としては、エチレンと不飽和カルボン酸またはその誘導体との共重合体、ポリオレフィン樹脂に不飽和カルボン酸等をグラフトした変性ポリオレフィン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体等ホットメルト、通常の接着剤等が挙げられる。
またバリア層を形成する樹脂としては、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体鹸化物(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、延伸ポリプロピレン(OPP)、延伸ポリエステル(OPET)、延伸ポリアミド、アルミナ蒸着フィルム、シリカ蒸着フィルム等の無機酸化物の蒸着フィルム、アルミ蒸着等の金属蒸着フィルム、金属箔等が挙げられる。
本発明の発泡性積層体用ポリエチレン系樹脂組成物はとくに電子レンジ適性に優れることから電子レンジ調理用であることが好ましい。
【0039】
3.発泡性積層体の製造方法
本発明の発泡性積層体の製造方法は、紙基材の少なくとも一方の面に前記発泡性積層体用ポリエチレン系樹脂組成物を押出しラミネート加工し、ポリエチレン系樹脂層(I)を形成する工程を有する。
【0040】
押出しラミネート加工は、Tダイより押出した溶融樹脂膜を、基材上に連続的に被覆・圧着する方法で、被覆と接着を同時に行う成形加工法である。押出しラミネート加工は、加工速度55m/分以上の速度で行うことが好ましく、加工速度65m/分以上の速度で行うことが生産性の観点からさらに好ましい。
【0041】
4.発泡加工紙
本発明の発泡加工紙は、前記ポリエチレン系樹脂層(I)を発泡させて得られるものである。発泡加工紙の発泡セルの高さは、370μm以上、好ましくは400μm以上とすることが好ましい。発泡セルの高さが370μm未満であると、十分な断熱性が得られない。
【0042】
加熱方法としては特に制限はないが、熱風、マイクロ波、高周波、赤外線、遠赤外線等が挙げられる。加熱温度には特に制約はないが、紙基材中の水分を蒸発させ、ポリエチレン系樹脂(A)が溶融する温度でなければならず、例えば、100〜140℃が好ましい。加熱時間は10秒間〜5分間が好ましい。上記範囲であれば、充分な発泡セル高さが得られやすい。
上記発泡加工紙は、下記のカップ等断熱容器用の断熱・保温材料としてはもちろんのこと、緩衝材料、遮音材料、発泡紙等としても用いられ、スリーブ材、紙皿、トレー、滑り止め材、果物の包装材、発泡紙等の農業用、産業用、生活用資材等として活用されるが、本発明の発泡加工紙はとくに電子レンジ適性に優れることから電子レンジ調理用であることが好ましい。
【0043】
5.断熱容器
本発明の断熱容器は、上記発泡性積層体を用いて容器を形成した後、該容器を加熱し、前記ポリエチレン系樹脂層(I)を発泡させて得られたものである。
断熱容器でも、上記発泡加工紙と同様に、発泡セルの高さは、370μm以上、好ましくは400μm以上とすることが好ましい。発泡セルの高さが370μm以上あると、十分な断熱性が得られやすい。
これにより得られた断熱容器は、トレー及びカップなどとして使用されるが、本発明の断熱容器はとくに電子レンジ適性に優れることから電子レンジ調理用であることが好ましい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例および比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、本例の物性、得られた発泡性積層体等の試験方法は、以下の通りである。
【0045】
(1)MFR:JIS K7210:1999に準拠(190℃、21.18N荷重)して測定した。
【0046】
(2)密度:ペレットを熱プレスして2mm厚のプレスシートを作成し、該シートを1000ml容量のビーカーに入れ蒸留水を満たし、時計皿で蓋をしてマントルヒーターで加熱した。蒸留水が沸騰してから60分間煮沸後、ビーカーを木製台の上に置き放冷した。
この時60分煮沸後の沸騰蒸留水は500mlとし室温になるまでの時間は60分以下にならないように調整した。また、試験シートは、ビーカー及び水面に接しないように水中のほぼ中央部に浸漬した。シートを23℃、湿度50%の条件において16時間以上24時間以内でアニーリングを行った後、タテ×ヨコ2mmになるように打ち抜き、試験温度23℃でJIS−K7112:1999に準拠して測定した。
【0047】
(3)溶出物の割合(重量%):試料を140℃でオルトジクロロベンゼン(0.5mg/mLBHT入り)に溶解し溶液とした。これを140℃のTREFカラムに導入した後8℃/分の降温速度で100℃まで冷却し、引き続き4℃/分の降温速度で40℃まで冷却し、更に続いて1℃/分の降温速度で−15℃まで冷却し、20分間保持した。その後、溶媒であるオルトジクロロベンゼン(0.5mg/mLBHT入り)を1mL/分の流速でカラムに流し、TREFカラム中で−15℃のオルトジクロロベンゼンに溶解している成分を10分間溶出させ、次に昇温速度100℃/時間にてカラムを140℃までリニアに昇温し、溶出曲線を得た。
装置及び測定条件は以下の通りである。
(TREF部)
TREFカラム:4.3mmφ×150mmステンレスカラム
カラム充填材:100μm表面不活性処理ガラスビーズ
加熱方式:アルミヒートブロック
冷却方式:ペルチェ素子(ペルチェ素子の冷却は水冷)
温度分布:±0.5℃
温調器:(株)チノー デジタルプログラム調節計KP1000
(バルブオーブン)
加熱方式:空気浴式オーブン
測定時温度:140℃
温度分布:±1℃
バルブ:6方バルブ、4方バルブ
(試料注入部)
注入方式:ループ注入方式
注入量:ループサイズ 0.1ml
注入口加熱方式:アルミヒートブロック
測定時温度:140℃
(検出部)
検出器:波長固定型赤外検出器 FOXBORO社製 MIRAN 1A
検出波長:3.42μm
高温フローセル:LC−IR用ミクロフローセル、
光路長:1.5mm、窓形状2φ×4mm長丸、合成サファイア窓板
測定時温度:140℃
(ポンプ部)
送液ポンプ:センシュウ科学社製 SSC−3461ポンプ
<測定条件>
溶媒:オルトジクロロベンゼン(0.5mg/mLBHT入り)
試料濃度:5mg/mL
試料注入量:0.1mL
溶媒流速:1mL/分
【0048】
(4)発泡高さ
実施例または比較例により得られた積層体を10cm×10cmに切り出し、120℃に加熱したパーフェクトオーブン(PH−102型エスペック製)中で360秒間静置した後、取り出して空気中で室温まで冷却した。発泡後の積層体の発泡層断面をデジタルマイクロスコープにて断面写真を撮影し、断面写真から発泡層のみの高さを10箇所測定し、平均の発泡層厚みを発泡高さとした。
発泡高さが1.1mm以上のものを(○)、1.1mm未満のもの又は、火ぶくれ状となり評価に値しないものを(×)と評価した。
【0049】
(5)発泡外観
実施例または比較例により得られた積層体を10cm×10cmに切り出し、120℃に加熱したパーフェクトオーブン(PH−102型エスペック製)中で360秒間静置し発泡させた後、取り出して空気中で室温まで冷却した。上記発泡させたセルサイズをデジタルマイクロスコープ(スカラ社製HDM−2100)で、下部より灯影させて1.3cm×1.3cm四方の各発泡セル全ての面積を測定後、その平均を算出し、平均値が0.8mm以上のもの、又は発泡不良により凹凸が激しいもの及び火ぶくれ状となり外観不良のものを外観不良(×)、0.8mm未満のものを外観良好(○)と評価した。
【0050】
(6)電子レンジ適性
実施例または比較例により得られた積層体をカップ状に賦型した後、120℃に加熱したパーフェクトオーブン(PH−102型エスペック製)中で360秒間静置し、電子レンジ適性評価用の発泡後の積層体を作製した。この発泡後の積層体中に常温の水、約300ccを注入し、出力750Wの電子レンジ(パナソニック社製 NE−EH212)を用いて8分間電子レンジ処理を行った後、取り出して空気中で室温まで冷却し、積層体の発泡層の状況を評価した。表面に膨らみが発生せず、表面光沢にも問題がなかったものを(○)、表面に大きな膨らみが発生していたもの、又は発泡不足により評価に値しないものを(×)として判定した。
【0051】
実施例または比較例で使用した樹脂種を下記表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
(実施例1)
ポリエチレン系樹脂層(熱可塑性樹脂層)(II)に使用する樹脂として、MFRが6g/10分、密度が0.942g/cm、溶融温度が130℃の中密度ポリエチレンを使用した。
坪量320g/m、含水率7%の紙基材の片面にコロナ処理(30W・min/m)を施し、90mmφ押出機(住友重機械モダン株式会社製)、エアーギャップ110mm、ダイス有効幅560mmの押出ラミネーターを用い、樹脂温度320℃、加工速度50m/min、40μm厚にて押出しラミネート加工し、ポリエチレン系樹脂層(熱可塑性樹脂層)(II)と紙基材との積層体を得た。
次に、上記積層体のポリエチレン系樹脂層(熱可塑性樹脂層)(II)と反対面の紙基材面にコロナ処理(30W・min/m)を施し、下記表2に示すポリエチレン系樹脂(A−1)を直径90mmφのスクリューを有する単軸押出機(住友重機械モダン株式会社製)に供給し、樹脂温度320℃、130mmのエアーギャップ長さで、ポリエチレン系樹脂層(I)の厚みが70μmとなるように押出しラミネートで、引取り速度を55m/minまたは65m/minとし、ポリエチレン系樹脂層(I)、紙基材、ポリエチレン系樹脂層(熱可塑性樹脂層)(II)の順に積層されてなる積層体を得た。また、濡れ性向上のため、ポリエチレン系樹脂層(I)の表面には、コロナ処理(10W・min/m)を施した。
得られた発泡性積層体の評価結果を表3に示す。加工速度55m/min、65m/minともに発泡外観及び発泡高さが良好な結果となった。また、電子レンジ適性においても、発泡層に異常は見られなかった。
【0054】
(実施例2)
ポリエチレン系樹脂層(I)に使用する樹脂として、下記表2に示すポリエチレン樹脂(A−2)を用いた以外は実施例1と同様にして発泡性積層体を得た。
得られた発泡性積層体の評価結果を表3に示す。加工速度55m/min、65m/minともに発泡外観及び発泡高さが良好な結果となった。また、電子レンジ適性においても、発泡層に異常は見られなかった。
【0055】
(実施例3)
ポリエチレン系樹脂層(I)に使用する樹脂として、下記表2に示すポリエチレン樹脂(A−3)を用いた以外は実施例1と同様にして発泡性積層体を得た。
得られた発泡性積層体の評価結果を表3に示す。加工速度55m/min、65m/minともに発泡外観及び発泡高さが良好な結果となった。また、電子レンジ適性においても、発泡層に異常は見られなかった。
【0056】
(実施例4)
ポリエチレン系樹脂層(I)に使用する樹脂として、下記表2に示すポリエチレン樹脂(A−4)を用いた以外は実施例1と同様にして発泡性積層体を得た。
得られた発泡性積層体の評価結果を表3に示す。加工速度55m/min、65m/minともに発泡外観及び発泡高さが良好な結果となった。また、電子レンジ適性においても、発泡層に異常は見られなかった。
【0057】
(実施例5)
ポリエチレン系樹脂層(I)に使用する樹脂として、下記表2に示すポリエチレン樹脂(A−5)を用いた以外は実施例1と同様にして発泡性積層体を得た。
得られた発泡性積層体の評価結果を表3に示す。加工速度55m/min、65m/minともに発泡外観及び発泡高さが良好な結果となった。また、電子レンジ適性においても、発泡層に異常は見られなかった。
【0058】
(比較例1)
ポリエチレン系樹脂層(I)に使用する樹脂として、下記表2に示すポリエチレン樹脂(A−6)を用いた以外は実施例1と同様にして発泡性積層体を得た。
得られた発泡性積層体の評価結果を表3に示す。加工速度55m/minでは発泡外観が良好であったが、加工速度65m/minでは発泡不良となった。また、電子レンジ適性においても、発泡体表面に大きな膨らみが発生した。
【0059】
(比較例2)
ポリエチレン系樹脂層(I)に使用する樹脂として、下記表2に示すポリエチレン樹脂(A−7)を用いた以外は実施例1と同様にして発泡性積層体を得た。
得られた発泡性積層体の評価結果を表3に示す。電子レンジ適性では、発泡層に異常は見られなかったが、発泡高さが低く、発泡外観においては、加工速度55m/min、65m/minともに発泡不良となった。
【0060】
(比較例3)
ポリエチレン系樹脂層(I)に使用する樹脂として、下記表2に示すポリエチレン樹脂(A−8)を用いた以外は実施例1と同様にして発泡性積層体を得た。
得られた発泡性積層体の評価結果を表3に示す。得られた発泡性積層体の評価結果を表3に示す。加工速度55m/min、65m/minともに発泡不良となった。また、電子レンジ適性においても、発泡体表面に大きな膨らみが発生した。
【0061】
(比較例4)
ポリエチレン系樹脂層(I)に使用する樹脂として、下記表2に示すポリエチレン樹脂(A−9)を用いた以外は実施例1と同様にして発泡性積層体を得た。
得られた発泡性積層体の評価結果を表3に示す。得られた発泡性積層体の評価結果を表3に示す。加工速度55m/min、65m/minともに発泡不良となった。発泡高さが低く、発泡外観の凹凸が激しかった。また、電子レンジ適性においては、発泡不足により評価に値しなかった。
【0062】
(比較例5)
ポリエチレン系樹脂層(I)に使用する樹脂として、下記表2に示すポリエチレン樹脂(A−10)を用いた以外は実施例1と同様にして発泡性積層体を得た。
得られた発泡性積層体の評価結果を表3に示す。得られた発泡性積層体の評価結果を表3に示す。加工速度55m/min、65m/minともに発泡後の発泡層に火ぶくれが発生し、発泡外観不良となったため、電子レンジ適性の評価に値しなかった。
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
上記から、紙基材の少なくとも一方の面に発泡させるためのポリエチレン系樹脂層(I)を形成する発泡性積層体用ポリエチレン系樹脂組成物において、該組成物に含まれるポリエチレン系樹脂(A)の特性を本発明で規定する範囲に定めることにより、加熱によって十分な高さと外観の良好な発泡セル(発泡層)が生産性良く得られ、かつ優れた電子レンジ適性が得られることが判明した。