特許第6828522号(P6828522)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 中国電力株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6828522
(24)【登録日】2021年1月25日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】地盤変位の観測方法、及び情報処理装置
(51)【国際特許分類】
   G01C 9/06 20060101AFI20210128BHJP
   G01C 9/08 20060101ALI20210128BHJP
【FI】
   G01C9/06 E
   G01C9/08
【請求項の数】4
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-43589(P2017-43589)
(22)【出願日】2017年3月8日
(65)【公開番号】特開2018-146469(P2018-146469A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2020年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】横林 亮介
(72)【発明者】
【氏名】西谷 哲
【審査官】 眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−148578(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 9/00−9/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜センサを用いた地盤変位の観測方法であって、
情報処理装置が、
地盤の温度が均一であると見なすことができる所定のエリア内に設置した2つの傾斜センサの夫々について、夫々の傾斜角を時系列的に計測した値を取得する第1ステップ、
前記傾斜センサの夫々について、前記傾斜角の、温度変化による傾斜ベクトルに対する垂直方向成分の大きさC1,C2を求める第2ステップ、
前記傾斜センサの夫々について、地盤変位による傾斜を検出していないときに前記傾斜角の変化量d1,d2を計測し、前記d1,d2の比に基づき一定値Kを求める第3ステップ、
前記C1,C2に基づき地盤変位による傾斜を検出した際、前記C1,C2、及び前記傾斜センサの夫々の前記傾斜角の前記温度変化による傾斜ベクトルの方向への変化量S1,S2を取得する第4ステップ、
前記C1,C2が増加し、夫々C1´,C2´となった際、前記傾斜センサの夫々の前記傾斜角の前記温度変化による傾斜ベクトルの方向への変化量S1´,S2´を取得する第5ステップ、
前記K,S1,S2,C1,C2,S1´,S2´,C1´,C2´に基づき、前記傾斜センサの夫々の、温度変化による傾斜ベクトルを基準とした地盤変位による傾斜ベクトルの方向θ1,θ2を求める第6ステップ、及び、
前記C1,C2,θ1,θ2に基づき、前記地盤変位による傾斜ベクトルを求める第7ステップ、
を実行する、
地盤変位の観測方法。
【請求項2】
請求項1に記載の地盤変位の観測方法であって、
前記情報処理装置が、
前記第6ステップにおいて、次式からtanθ1,tanθ2を求め、
tanθ1=(C1×C2´−C1´×C2)/
(K(C2×S2´−C2´×S2)+(C2´×S1−C2×S1´))
tanθ2=(K(C1´×C2−C1×C2´))/
((C1×S1´−C1´×S1)+K(C1´×S2−C1×S2´))
前記第7ステップにおいて、次式から、前記地盤変位による傾斜ベクトルの、温度変化による傾斜ベクトルに対する垂直方向成分の大きさB1,B2を求め、
C1/B1=tanθ1
C2/B2=tanθ2
求めた前記C1,C2,B1,B2に基づき、前記地盤変位による傾斜ベクトルを求める、
地盤変位の観測方法。
【請求項3】
地盤変位の観測に用いる情報処理装置であって、
地盤の温度が均一であると見なすことができる所定のエリア内に設置した2つの傾斜センサの夫々について、夫々の傾斜角を時系列的に計測した値を取得する第1機能部、
前記傾斜センサの夫々について、前記傾斜角の、温度変化による傾斜ベクトルに対する垂直方向成分の大きさC1,C2を求める第2機能部、
前記傾斜センサの夫々について、地盤変位による傾斜を検出していないときに前記傾斜角の変化量d1,d2を計測し、前記d1,d2の比に基づき一定値Kを求める第3機能部、
前記C1,C2に基づき地盤変位による傾斜を検出した際、前記C1,C2、及び前記傾斜センサの夫々の前記傾斜角の前記温度変化による傾斜ベクトルの方向への変化量S1,S2を取得する第4機能部、
前記C1,C2が増加し、夫々C1´,C2´となった際、前記傾斜センサの夫々の前記傾斜角の前記温度変化による傾斜ベクトルの方向への変化量S1´,S2´を取得する第5機能部、
前記K,S1,S2,C1,C2,S1´,S2´,C1´,C2´に基づき、前記傾斜センサの夫々の、温度変化による傾斜ベクトルを基準とした地盤変位による傾斜ベクトルの方向θ1,θ2を求める第6機能部、及び、
前記C1,C2,θ1,θ2に基づき、前記地盤変位による傾斜ベクトルを求める第7機能部、
を備える、
情報処理装置。
【請求項4】
請求項3に記載の情報処理装置であって、
前記第6機能部は、次式からtanθ1,tanθ2を求め、
tanθ1=(C1×C2´−C1´×C2)/
(K(C2×S2´−C2´×S2)+(C2´×S1−C2×S1´))
tanθ2=(K(C1´×C2−C1×C2´))/
((C1×S1´−C1´×S1)+K(C1´×S2−C1×S2´))
前記第7機能部は、次式から、前記地盤変位による傾斜ベクトルの、温度変化による傾斜ベクトルに対する垂直方向成分の大きさB1,B2を求め、
C1/B1=tanθ1
C2/B2=tanθ2
求めた前記C1,C2,B1,B2に基づき、前記地盤変位による傾斜ベクトルを求める、
情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地盤変位の観測方法、及び情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、検出された傾斜角の温度による変化を広い温度範囲において精度良く補正するため、傾斜角を検出する角度検出部と検出時温度を検出する温度検出部とを備えた傾斜角補正装置が、傾斜角と検出時温度との組み合わせをサンプル値として取得し、複数の補正式ごとの複数の温度範囲の閾値を決定し、サンプル値に基づき複数の補正式のそれぞれに用いられる補正パラメータを決定し、補正式により傾斜角を補正して補正傾斜角を出力することが記載されている。
【0003】
特許文献2には、傾斜センサの入出力特性を考慮して加速度の影響を除去して正確且つ信頼性の高い傾斜値を得るため、車輪回転センサによって検出される車速を一次微分して加速度を求め、傾斜センサの出力に含まれる加速度による外乱成分を計算し、外乱成分を傾斜センサの出力から差し引き、傾斜成分のみを抽出して真の傾斜値として採用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−228525号公報
【特許文献2】特開平11−14353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、水力発電所の関連設備(導水路や貯水槽、水圧鉄管等)や送電鉄塔は山間部の急峻な場所に建設されることが多く、十分な設備保全等の観点から傾斜面の地盤変位を観測する必要が生じることがある。
【0006】
ここで地盤変位を検知する方法としては、伸縮計を用いるもの、B−OTDR方式、レーザー測距方式、GPS相対測位方式などがあるが、いずれの方法によってもある程度の精度は得られるものの、機器の設置に手間やコストがかかるという欠点を有する。
【0007】
そこで近年、複数の傾斜センサを傾斜面に広範囲に配置し、計測データを面的に収集することにより地盤変位を検知する方式(以下、傾斜センサ方式と称する。)が注目されている。この傾斜センサ方式では、地盤の変位量そのものではなく、傾斜角を計測することにより間接的に地盤変位を検知する。傾斜センサ方式によれば、例えば、各傾斜センサにバッテリや太陽電池を併設することで恒常電源が不要となり、また各傾斜センサに無線通信機能を設けることで通信ケーブルの付設も不要となる。このように、傾斜センサ方式は、設置の手間がかからず、さらに昨今の要素技術の低価格化により低コストでの実現が可能である。
【0008】
近年、傾斜センサ方式により既存技術と同等の検知精度が得られるかについて様々な検証が行われており、大きな状態変化の監視等、必ずしも高い検知精度が要求されない用途では、実際に現場への導入も進みつつある。また既存技術と同等の検知精度が得られるようになれば、地盤変位の大きな状態変化を予兆の段階で捉える、年間で数mm程度の緩慢な変化を長期的に監視する、といった用途への応用も開け、傾斜センサ方式の有用性はより一層高まるものと考えられる。
【0009】
ところで、前述したように、傾斜センサ方式においては、地盤の変位量そのものではなく、傾斜角を計測することにより地盤変位を間接的に検知する。例えば、地点Aを基点とし、水平方向に5m離れた地点Bで地盤が垂直方向に距離zだけ低下すると仮定すると、地点A〜地点Bの傾斜角θはtan-1(z/5000)で表わすことができる。表1は、垂直方向に距離zが1〜9(mm)変化したときの傾斜角θ(度)(小数点以下第3位を四捨五入)の算出結果である。
【0010】
【表1】
【0011】
表1より、距離zの変化1〜9(mm)に対して傾斜角θは0.01〜0.10(度)の範囲で変化しており、距離zについて数(mm)の変化を検知する精度を得るためには、外乱に因る傾斜角θの変化が0.01〜0.02(度)の範囲に収まっていなければならないことがわかる。そしてそのためには、地盤のわずかな動きが正確に傾斜センサに伝わるように傾斜センサを設置する必要があり、例えば、地盤にコンクリート基礎を埋め込み、コンクリートに対して傾斜センサを金物等により堅牢に固定するといった方法をとる必要がある。
【0012】
しかし傾斜センサを堅牢に固定した場合でも、傾斜センサの傾斜角θは次の事象による影響を受け、本来測定すべき「地盤変位による傾斜」を精度よく測定することが難しくなる。
【0013】
事象a:施工時に機械的な歪みができ徐々に顕在化する。
事象b:地盤がコンクリート基礎の重量を支えきれず、コンクリート基礎が徐々に沈む。
事象c:温度変化によりコンクリート基礎の膨張/収縮が発生する。
【0014】
ここで上記事象のうち、事象a及び事象bについては、長期的にみればいずれも次第に安定する傾向があるが、事象cについては屋外の温度変化に伴って常時発生し、長期的に安定化する傾向もなく、事象aや事象bに比べて「地盤変位による傾斜」の測定に与える影響が大きい。そこで事象cに着目すると、当該事象に起因する誤差を低減するには、例えば、個別にコンクリート基礎の特性を把握した上、温度の変化とコンクリート基礎の膨張/収縮の間に生じる時間差を考慮した温度補正を施す、といった対応をとる必要があるが、コンクリート基礎の特性を個別に把握するには高度な技術と手間が必要となる。
【0015】
本発明はこのような背景に鑑みてなされたもので、簡素な構成にて微小な地盤変位による傾斜を検知することが可能な、地盤変位の観測方法、及び情報処理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するための本発明のうちの一つは、傾斜センサを用いた地盤変位の観測方法であって、情報処理装置が、地盤の温度が均一であると見なすことができる所定のエリア内に設置した2つの傾斜センサの夫々について、夫々の傾斜角を時系列的に計測した値を取得する第1ステップ、前記傾斜センサの夫々について、前記傾斜角の、温度変化による傾斜ベクトルに対する垂直方向成分の大きさC1,C2を求める第2ステップ、前記傾斜センサの夫々について、地盤変位による傾斜を検出していないときに前記傾斜角の変化量d1,d2を計測し、前記d1,d2の比に基づき一定値Kを求める第3ステップ、前記C1,C2に基づき地盤変位による傾斜を検出した際、前記C1,C2、及び前記傾斜センサの夫々の前記傾斜角の前記温度変化による傾斜ベクトルの方向への変化量S1,S2を取得する第4ステップ、前記C1,C2が増加し、夫々C1´,C2´となった際、前記傾斜センサの夫々の前記傾斜角の前記温度変化による傾斜ベクトルの方向への変化量S1´,S2´を取得する第5ステップ、前記K,S1,S2,C1,C2,S1´,S2´,C1´,C2´に基づき、前記傾斜センサの夫々の、温度変化による傾斜ベクトルを基準とした地盤変位による傾斜ベクトルの方向θ1,θ2を求める第6ステップ、及び、前記C1,C2,θ1,θ2に基づき、前記地盤変位による傾斜ベクトルを求める第7ステップ、を実行する。
【0017】
このように、本発明によれば、地盤の温度が均一であると見なすことができる所定のエリア内に設置した2つの傾斜センサの夫々の計測値を用いて演算を行うことにより地盤変位による傾斜の大きさを求めることができる。このため、本発明によれば、温度センサを設置することなく、また温度補正を行うことなく、簡素な構成にて微小な地盤変位による傾斜を検知することができる。
【0018】
尚、前記情報処理装置は、例えば、 前記第6ステップにおいて、次式からtanθ1,tanθ2を求め、
tanθ1=(C1×C2´−C1´×C2)/
(K(C2×S2´−C2´×S2)+(C2´×S1−C2×S1´))
tanθ2=(K(C1´×C2−C1×C2´))/
((C1×S1´−C1´×S1)+K(C1´×S2−C1×S2´))
前記第7ステップにおいて、次式から、前記地盤変位による傾斜ベクトルの、温度変化による傾斜ベクトルに対する垂直方向成分の大きさB1,B2を求め、
C1/B1=tanθ1
C2/B2=tanθ2
求めた前記C1,C2,B1,B2に基づき、前記地盤変位による傾斜ベクトルを求める。
【0019】
その他、本願が開示する課題、及びその解決方法は、発明を実施するための形態の欄、及び図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、簡素な構成にて微小な地盤変位による傾斜を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】地盤変位観測システム1の概略的な構成を示す図である。
図2】センサノード10の構成を示す図である。
図3】制御装置11のハードウェアを示す図である。
図4】制御装置11の機能及び制御装置11が記憶する情報を示す図である。
図5】計測データ500のフォーマットを示す図である。
図6】制御指示600のフォーマットを示す図である。
図7】ゲートウェイ装置20のハードウェアを示す図である。
図8】ゲートウェイ装置20の機能及びゲートウェイ装置20が記憶する情報を示す図である。
図9】計測値管理テーブル900の一例である。
図10】サーバ装置30のハードウェアを示す図である。
図11】サーバ装置30の機能及びサーバ装置30が記憶する情報を示す図である。
図12】実験系1200の構成を示す図である。
図13】経過時間と傾斜角(X座標)の関係を示す図である。
図14】経過時間と傾斜角(Y座標)の関係を示す図である。
図15】「外乱による傾斜ベクトル」の大きさの軌跡を示す図である。
図16】温度(屋内実験室の温度)の変化を示すグラフである。
図17】温度と傾斜角(X座標)の関係(直線近似)を示すグラフである。
図18】温度と傾斜角(Y座標)の関係(直線近似)を示すグラフである。
図19】「温度変化による傾斜ベクトル」の時間変化を説明する図である。
図20】「地盤変位による傾斜ベクトル」の一例を示す図である。
図21A】傾斜センサにより計測されるベクトルと、「地盤変位による傾斜ベクトル」及び「温度変化による傾斜ベクトル」の関係を説明する図である。
図21B】「地盤変位による傾斜ベクトル」の「温度変化による傾斜ベクトル」を基準とした水平方向成分と垂直方向成分を説明する図である。
図22】傾斜センサ15をグループに分類した様子を示す図である。
図23】地盤変位観測処理S2300を説明するフローチャートである。
図24】地盤変位検知処理S2355を説明するフローチャートである。
図25】地盤変位判定結果テーブル950の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面とともに本発明の実施形態について詳述する。
【0023】
図1に一実施形態として説明する地盤変位観測システム1の概略的な構成を示している。同図に示すように、地盤変位観測システム1は、水力発電所の関連設備(導水路や貯水槽、水圧鉄管等)や送電鉄塔が建設される山間部の傾斜面等、屋外の所定範囲(以下、観測エリア2と称する。)における地盤変位を観測(計測)するシステムである。
【0024】
地盤変位観測システム1は、観測エリア2に面的に配設され、計測値を含む無線信号(後述の計測データ500)を随時送信する複数のセンサノード10、観測エリア2内もしくは観測エリア2の近傍に設置され、センサノード10と無線通信するゲートウェイ装置20、システムセンタやクラウド等に設けられ、ゲートウェイ装置20と有線方式又は無線方式の通信網5(インターネット、携帯通信網、専用線等)を介して通信するサーバ装置30、電力会社の事業所等に設置され、通信網5を介してサーバ装置30にアクセスするユーザ端末40を含む。
【0025】
図2にセンサノード10の主な構成を示している。同図に示すように、センサノード10は、制御装置11、無線装置12、傾斜センサ15、蓄電池17、及び太陽電池18を備える。制御装置11、無線装置12、及び傾斜センサ15は、各種制御線(I2C(Inter-Integrated Circuit)、SPI(Serial Peripheral Interface)、USB(Universal Serial Bus)等)を介して通信可能に接続されている。
【0026】
制御装置11は、センサノード10の各構成の統括的な制御、傾斜センサ15が出力する計測値の取得、計測値を含んだ無線信号の送信制御、ゲートウェイ装置20との間の通信制御等を行う。
【0027】
無線装置12は、ゲートウェイ装置20や他のセンサノード10の無線装置12と無線通信を行う。無線装置12は、例えば、特定小電力無線局(315MHz帯、426MHz帯、1200MHz帯、920MHz帯等)、小電力無線局(2.4GHz帯等)、近距離無線通信(Zigbee(登録商標)、Bluetooth(登録商標)、無線LAN、電子タグ等)、微弱な無線局等として機能する。尚、無線装置12は、ゲートウェイ装置20と直接通信するものであってもよいし、センサネットワーク機能やアドホック機能等により他の無線装置12を介して間接的にゲートウェイ装置20と通信するものであってもよい。
【0028】
傾斜センサ15は、傾斜角(変位角)(1軸又は2軸)に応じた電気信号(例えば、傾斜角に応じた大きさのアナログ電圧)を出力する素子を用いて構成され、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)を応用したもの、板ばねを用いた振り子式のもの、フロート式(錘と浮きを併用したハイブリッド機構)のもの等がある。本実施形態の傾斜センサ15は、傾斜角を2軸で検出するタイプであるものとする。
【0029】
蓄電池17は、二次電池(リチウムイオン二次電池、リチウムイオンポリマー電池、鉛蓄電池等)であり、センサノード10の構成要素を動作させるための駆動電力を供給する。
【0030】
太陽電池18は、太陽電池パネルや充電制御装置(チャージコントローラ)を備え、太陽電池パネルの発電電力を蓄電池17に供給する。尚、太陽電池18に代えて、もしくは太陽電池18とともに、蓄電池17に電力を供給する他の自然エネルギー利用の発電設備(風力発電設備等)をセンサノード10に設けてもよい。自然エネルギー利用の発電設備を用いることで、センサノード10を長期に亘って安定して動作させることができる。
【0031】
図3に制御装置11のハードウェアを示している。同図に示すように、制御装置11は、中央処理装置111、記憶装置112、及び計時装置113を備える。
【0032】
中央処理装置111は、例えば、MPU(Micro Processing Unit)、CPU(Central Processing Unit)等である。記憶装置112は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、NVRAM(Non Volatile RAM)等である。
【0033】
計時装置113は、RTC(Real Time Clock)等を用いて構成され、現在日時を示す情報を出力する。計時装置113が計時する日時と後述するゲートウェイ装置20の計時装置23が計時する日時とは、ゲートウェイ装置20と制御装置11との間の無線通信により随時同期が取られる。
【0034】
図4に制御装置11の機能及び制御装置11が記憶する情報を示している。同図に示すように、制御装置11は、計測処理部411、計測データ送信部412、及び消費電力/計測時期制御部413の各機能を有する。これらの機能は、制御装置11の中央処理装置111が、記憶装置112に格納されているプログラムを読み出して実行することにより実現される。
【0035】
計測処理部411は、計測値の計測時機が到来すると、傾斜センサ15から計測値(傾斜角)を取得し、取得した計測値を計測データ送信部412に渡す。
【0036】
計測データ送信部412は、計測処理部411から渡された計測値を含むデータである計測データ500をゲートウェイ装置20に向けて送信する。
【0037】
図5に計測データ500のフォーマットを示している。同図に示すように、計測データ500は、送信元のセンサノード10を特定する識別子であるノードID511、計測値512、及び計測値512を取得した日時である計測日時513等の情報を含む。ノードID511には、制御装置11が記憶している図4のノードID421が設定される。計測値512には、傾斜センサ15の出力値が設定される。尚、計測データ500の各項目は必ずしも全てが一度に送信されなくてもよく、ノードID511と他の一つ以上の項目との組合せが個別に送信される構成としてもよい。
【0038】
図4に戻り、消費電力/計測時期制御部413は、センサノード10の構成要素のうち駆動電力を必要とする構成(例えば、制御装置11、無線装置12、傾斜センサ15等)を制御対象として消費電力の制御を行う。この消費電力制御は、例えば、計測処理部411による単位時間当たりの計測値512の取得回数(単位時間当たりのサンプリング数)の増減、制御対象についてスタンバイモード等の待機状態(低消費電力な動作状態)への移行等により行われる。消費電力/計測時期制御部413は、例えば、ゲートウェイ装置20から送られてくる消費電力の制御を指示する命令(以下、制御指示600と称する。)に従い、制御対象について消費電力の制御を行う。
【0039】
また消費電力/計測時期制御部413は、計測データ(傾斜角)を取得するタイミングを制御する。
【0040】
図6にゲートウェイ装置20から送られてくる制御指示600のフォーマットを示している。同図に示すように、制御指示600は、制御対象となるセンサノード10の構成要素を特定する情報(傾斜センサ15の識別子等)である制御対象611、制御の内容に関する情報である制御内容612(傾斜センサ15を低消費電力モードに移行させる、傾斜センサ15を低消費電力モードから通常動作モード(動作が可能なモード)に移行させる、計測データ(傾斜角)を取得するタイミング)等の情報を含む。
【0041】
図4に戻り、制御装置11は、制御情報422を記憶している。制御情報422は、制御指示600の制御内容612に関する情報である。制御情報422はゲートウェイ装置20から受信した制御指示600によって随時更新される。消費電力/計測時期制御部413は、制御情報422を参照しつつ制御対象について消費電力の制御や計測データ(傾斜角)を取得するタイミングの設定を行う。
【0042】
図7にゲートウェイ装置20のハードウェアを示している。同図に示すように、ゲートウェイ装置20は、中央処理装置21、記憶装置22、計時装置23、無線装置24、出力装置25、及び通信装置26を備える。
【0043】
中央処理装置21は、例えば、MPU、CPU等であり、記憶装置22は、例えば、RAM、ROM、NVRAM等である。中央処理装置21及び記憶装置22は、ゲートウェイ装置20に情報処理装置としての機能を実現する。計時装置23は、RTC等を用いて構成され、日時情報を出力する。無線装置24は、センサノード10の無線装置12と無線通信する装置であり、例えば、特定小電力無線局、小電力無線局、微弱な無線局等である。出力装置25は、情報を出力するユーザインタフェースであり、例えば、液晶モニタ、液晶パネル、スピーカ等である。通信装置26は、NIC(Network Interface Card)や無線LANアダプタ等であり、通信網5を介してサーバ装置30等の他の装置と通信する。
【0044】
図8にゲートウェイ装置20の機能及びゲートウェイ装置20が記憶する情報を示している。同図に示すように、ゲートウェイ装置20は、計測データ受信部811、計測データ送信部813、制御指示中継部814、及び地盤変位検知部815の各機能を有する。これらの機能は、ゲートウェイ装置20の中央処理装置21が、記憶装置22に格納されているプログラムを読み出して実行することにより実現される。またゲートウェイ装置20は、計測値管理テーブル900及び地盤変位判定結果テーブル950を記憶する。
【0045】
計測データ受信部811は、センサノード10の制御装置11が送信する計測データ500(傾斜角)を受信し、受信した計測データ500の内容を計測値管理テーブル900に出力する。
【0046】
図9に計測値管理テーブル900の一例を示している。同図に示すように、計測値管理テーブル900は、ノードID911、グループID912、計測値913(傾斜角)、及び計測日時914の各項目を有するレコードの集合である。
【0047】
ノードID911には、当該レコードの計測値913の送信元のセンサノード10のノードIDが設定される。グループID912には、当該レコードのノードID911で特定されるセンサノード10の傾斜センサ15が所属している、後述するグループの識別子(以下、グループIDと称する。)が設定される。計測値913には、センサノード10において計測された傾斜角(傾斜センサ15の出力値)が設定される。計測日時914には、当該レコードの計測値913が取得(計測)された日時が設定される。
【0048】
図8に戻り、計測データ送信部813は、計測データ受信部811が受信した計測データ500をサーバ装置30に中継送信する。
【0049】
制御指示中継部814は、サーバ装置30から送られてくる制御指示600を受信すると、これをセンサノード10に中継送信する。
【0050】
地盤変位検知部815は、現在、地盤変位が生じているか否かを判定する処理(後述する地盤変位検知処理S2355)を行い、その結果を地盤変位判定結果テーブル950に出力する。地盤変位判定結果テーブル950の詳細については後述する。
【0051】
同図に示すように、地盤変位検知部815は、地盤変位垂直方向成分計測監視部8151、K値算出部8152、S1,S2算出部8153、tanθ算出部8154、地盤変位水平方向成分算出部8155、地盤変位量算出部8156、及び判定結果出力部8158の各機能を含む。
【0052】
地盤変位垂直方向成分計測監視部8151は、2つの傾斜センサ15の夫々について、傾斜角の後述する「温度変化による傾斜ベクトル」に対する垂直方向成分の大きさC1,C2の計測値をリアルタイムに取得して監視する。地盤変位垂直方向成分計測監視部8151は、上記C1,C2が現れていれば(例えば、上記C1,C2がいずれも予め設定された閾値を超えていれば)「地盤変位による傾斜」を検出したと判定し、C1,C2が現れていなければ「地盤変位による傾斜」を検出していないと判定する。
【0053】
K値算出部8152は、2つの傾斜センサ15の夫々について、「地盤変位による傾斜」が発生していないときに傾斜角の変化量d1,d2(後述)を計測し、計測した値を後述する式1に代入して一定値K(後述)を求める。
【0054】
S1,S2算出部8153は、上記C1,C2が現れて後述する「地盤変位による傾斜」を検出した際、傾斜角の「温度変化による傾斜ベクトル」の方向への変化量S1,S2(後述)を取得する。またS1,S2算出部8153は、上記C1,C2がある程度増加しC1´,C2´となった際に傾斜角の「温度変化による傾斜ベクトル」の方向の変化量S1´,S2´(後述)を取得する。
【0055】
tanθ算出部8154は、後述する式10及び式11より、後述するtanθ1,tanθ2の値を求める。
【0056】
地盤変位水平方向成分算出部8155は、後述する式6及び式7より、「地盤変位による傾斜ベクトル」の「温度変化による傾斜ベクトル」に対する水平方向成分の大きさB1,B2(後述)を求める。
【0057】
地盤変位量算出部8156は、上記C1,C2,B1,B2に基づき、「地盤変位による傾斜ベクトル」の大きさを求める。
【0058】
判定結果出力部8158は、地盤変位垂直方向成分計測監視部8151による「地盤変位による傾斜」の検出有無の判定結果、及び地盤変位量算出部8156が求めた「地盤変位による傾斜ベクトル」の大きさを地盤変位判定結果テーブル950に出力する。
【0059】
図10にサーバ装置30のハードウェアを示している。同図に示すように、サーバ装置30は、中央処理装置31、記憶装置32、通信装置33、及び出力装置34を備える。
【0060】
中央処理装置31は、例えば、MPU、CPU等である。記憶装置32は、例えば、RAM、ROM、NVRAM等である。中央処理装置31及び記憶装置32は、サーバ装置30に情報処理装置としての機能を実現する。通信装置33は、NICや無線LANアダプタ等であり、通信網5を介してゲートウェイ装置20やユーザ端末40と通信する。出力装置34は、情報を出力するユーザインタフェースであり、例えば、液晶モニタ、液晶パネル、スピーカ等である。
【0061】
図11にサーバ装置30の機能及びサーバ装置30が記憶する情報を示している。同図に示すように、サーバ装置30は、計測データ受信部1111、制御指示送信部1114、及び監視制御機能提供部1115の各機能を有する。これらの機能は、サーバ装置30の中央処理装置31が、記憶装置32に格納されているプログラムを読み出して実行することにより実現される。
【0062】
計測データ受信部1111は、ゲートウェイ装置20から送られてくる計測データ500を受信する。
【0063】
制御指示送信部1114は、計測値管理テーブル1122の内容に基づきセンサノード10の構成要素について電力供給の要否を随時判定し、その結果に応じて制御指示600を生成してゲートウェイ装置20に送信する。例えば、制御指示送信部1114は、後述する傾斜センサ15の選択において選択されなかった傾斜センサ15のオフ(もしくは低消費電力モードに移行)を指示する内容の制御指示600を生成してゲートウェイ装置20に送信する。このように制御指示送信部1114は、センサノード10の構成要素について電力供給の要否を随時判定し、不要な構成要素への電力供給を抑制するので、消費電力を抑えてセンサノード10を効率よく稼働させることができる。
【0064】
また制御指示送信部1114は、例えば、傾斜センサ15を低消費電力モードから通常動作モードに移行させる内容の制御指示600を生成してゲートウェイ装置20に送信する。
【0065】
また制御指示送信部1114は、計測データを取得するタイミングの設定を指示する内容の制御指示600を生成してゲートウェイ装置20に送信する。
【0066】
監視制御機能提供部1115は、通信網5を介してアクセスしてくる情報処理装置(パーソナルコンピュータ等)であるユーザ端末40に、計測値管理テーブル1122に基づく情報の提供やセンサノード10の制御のための機能の提供を行う。これらの機能は、例えば、Webページを介してユーザ端末40に提供される。
【0067】
同図に示すように、サーバ装置30は、計測値管理テーブル1122を記憶する。計測値管理テーブル1122の内容は、図9に示した計測値管理テーブル900の内容を含む。サーバ装置30は、ゲートウェイ装置20から送られてくる計測データ500によって計測値管理テーブル1122の内容を随時更新する。
【0068】
=地盤変位の検知方法=
続いて、温度センサを用いたり温度補正を行うことなく、微小な地盤変位(微小な「地盤変位による傾斜」)の発生を検知する仕組みについて説明する。
【0069】
<外乱による傾斜>
前述したように、本実施形態の地盤変位観測システム1で用いる傾斜センサ15は、傾斜角(変位角)を2軸で検出するタイプであり、傾斜角を二次元座標系(X,Y)の平面上のベクトル(大きさ(傾斜角),方位角)として表現した値を出力する。二次元座標系(X,Y)の原点Oは、例えば、傾斜センサ15の設置時(動作開始時)から24時間が経過した時点までの計測値の平均値に設定される。尚、傾斜センサ15の計測値には正規分布を示す誤差が含まれているが、この誤差は、統計的に有意な数の計測値を取得してそれらの平均(例えば、96回移動平均等)を求めることにより低減することができる。
【0070】
前述したように、地盤変位の検知精度を向上させるには地盤のわずかな動きが正確に傾斜センサ15に伝わるように傾斜センサ15を設置する必要があり、例えば、地盤にコンクリート基礎を埋め込み、コンクリートに対して傾斜センサ15を金物等により堅牢に固定するといった方法がとられる。
【0071】
しかしこの方法を採用した場合でも、前述した事象a〜cにより、傾斜センサ15が次第に傾斜する現象(以下、この傾斜のことを「外乱による傾斜」と称する。)が発生する。
【0072】
そこで外乱による傾斜の推移を検証すべく、本発明者等は、図12に示す実験系1200を構成し、この実験系1200について屋内実験室にて実験を行った。同図に示すように、コンクリートブロック1211(縦25cm×横25cm×高さ10cm)の上面を2箇所削孔(直径1cm,深さ 10cm)し、各削孔に棒鋼1213(直径0.6cm,長さ20cm)を埋設し、各棒鋼1213の上端に夫々傾斜センサ15(センサノード)を固定した。コンクリートブロック1211は、安定性の高い除振台1212の上に載置した。試験期間は44日間(905時間)とし、1時間に1回の頻度で傾斜角(X,Y 座標の2軸)と温度(屋内実験室の所定位置に設けた温度センサにより測定される屋内実験室の気温)を測定した。
【0073】
図13は、経過時間と傾斜角(X座標)との関係(1時間に1回の頻度で取得したデータの96回移動平均)を示すグラフであり、図14は経過時間と傾斜角(Y座標)との関係(1時間に1回の頻度で取得したデータの96回移動平均)を示すグラフである。これらのグラフより、時間が経過しても傾斜角が安定する傾向はみられないことがわかる。
【0074】
図15は、上記検証により得られた「外乱による傾斜ベクトル」の大きさ(X,Y座標系で表記)の軌跡である。同図に示すように、始点と終点とが大きく離れて傾斜角が大きく変動していることがわかる。
【0075】
<温度変化による傾斜>
前述したように、「地盤変位による傾斜」の測定精度を低下させる要因となる前述の事象a〜cのうち、事象a,bについては、長期的にみればいずれも次第に安定する傾向があるが、事象cについては屋外の温度変化に伴い常時発生し、長期的に安定化する傾向もなく、「地盤変位による傾斜」の測定に与える影響が大きい。そこで本発明者らは、事象cが「外乱による傾斜ベクトル」に与える影響について調べた。
【0076】
図16は、上記検証にて得られた温度(屋内実験室の温度)の変化を示すグラフであり、図17は、温度と傾斜角(X座標)の関係(直線近似)を示すグラフであり、図18は温度と傾斜角(Y座標)の関係(直線近似)を示すグラフである。これらの図から、温度と傾斜角との間には一定の相関があることがわかる。従って、傾斜角に温度補正を施す(例えば0℃に換算する)ことで、「地盤変位による傾斜」の測定精度を向上させることが可能である。
【0077】
しかし屋外の実フィールドにおいては、外気温の変化が生じてから傾斜センサによって傾斜の発生が検出されるまでの間に時間差があることを考慮する必要がある。この時間差は、より具体的には、外気温が変化してから、地盤温度が変化し、コンクリート基礎の温度が変化し、それによりコンクリートが膨張又は収縮し、それにより生じた傾斜が傾斜センサにより検出されるまでの時間である。
【0078】
ここで上記時間差は、傾斜角の温度補正に影響を与える。即ち、外気温の変化が遅い場合は傾斜角の変化の追従性は良いが、外気温の変化が速い場合は傾斜角の変化の追従性は悪くなり、外気温の変化速度(時間変化率)の違いにより、傾斜角を温度補正した結果に差(誤差)が生じることになる。そして屋外の実フィールドにおいては、外気温の変化速度は環境の変化(季節や天候等の変化)の影響により大きく変化し、上記の誤差は実フィールドにおいて頻繁に生じ得る。このことは、換言すれば、前述した温度と傾斜角との間の相関が環境によって変化する、ということである。
【0079】
上記の誤差を低減するには、例えば、上記時間差が生じないようにコンクリート基礎の温度を直に計測することが考えられるが、これを実施しようとすれば温度センサをコンクリート基礎の内部に設ける必要があり、また温度と傾斜角との関係に基づき補正式を求める必要もあり、測定系の構築に手間や時間を要することとなる。
【0080】
<本実施形態の検知方法>
以上を考慮し、本実施形態の地盤変位観測システム1においては、以下に示す方法により、温度センサを用いたり温度補正を行うことなく、微小な地盤変位(微小な「地盤変位による傾斜」)の発生を検知する仕組みを実現している。
【0081】
まず図15に示したように、傾斜角の軌跡は、温度変化に依存し、同一方向への進行/後退を繰り返し、ほぼ一直線となっている。これを「始点」を基準としたベクトルの大きさと方向で示せば図19のようになる。同図に示すように、「温度変化による傾斜ベクトル」は、時刻t1,t2の夫々において方向は変わらず、大きさのみが異なり、所定期間(t1からt2まで)における傾斜角の変化量は、大きさの差分で表される。
【0082】
ここで2つの傾斜センサ15の傾斜角の変化量が夫々d1,d2であったとする。またこのときのコンクリート基礎の温度の変化量がT1,T2であったとする。そして前提条件として、傾斜センサ15を設置した地盤の温度は平面的に均一であるものとし、夫々のコンクリート基礎が常に同一温度になるものとすれば、T1=T2となる(これをTとおく)。このときd1/T,d2/Tは、夫々のコンクリート基礎の膨張/収縮の度合に依存した固有の値になる。これは図17のグラフ及び図18のグラフの傾きが一定となっていることからもわかる。ここでd1/T,d2/Tの比はd1:d2であり、この比はT(コンクリート基礎の温度変化量)に依存せず一定となる。従って、Kを一定値として次式が成り立つ。
d1/d2=K ・・・式1
【0083】
次に、「地盤変位による傾斜」が発生し、t3時点に図20に示す「地盤変位による傾斜ベクトル」が発生したとすると、図21Aに示すように「温度変化による傾斜ベクトル」には「地盤変位による傾斜ベクトル」が合成される。
【0084】
ここで図21Bに示すように、「地盤変位による傾斜ベクトル」は、「温度変化による傾斜ベクトル」を基準として、水平方向成分と垂直方向成分に分解することができる。今、2つの傾斜センサ15の夫々のt2時点からt3時点の間の「温度変化による傾斜ベクトル」の大きさの変化を夫々、A1,A2とし、2つの傾斜センサ15の夫々の「地盤変位による傾斜ベクトル」の「温度変化による傾斜ベクトル」に対する水平方向成分の大きさを夫々、B1,B2とすれば、次式が成り立つ。尚、A1,A2,B1,B2はいずれも未知数である。
A1+B1=S1 ・・・式2
A2+B2=S2 ・・・式3
A1/A2=K ・・・式4
【0085】
式2のS1は、t1時点(「地盤による傾斜」が発生していない時点)からt3時点(「地盤による傾斜」が発生した時点)までの期間における傾斜角の「温度変化による傾斜ベクトル」の方向の変化量であり、式3のS2は、t1時点(「地盤による傾斜」が発生していない時点)からt3時点(「地盤による傾斜」が発生した時点)までの期間における傾斜角の「温度変化による傾斜ベクトル」の方向の変化量である。これらS1及びS2は、いずれも計測値から求めることができる。式4のKは式1における一定値であり、d1及びd2から求めることができる。式2〜式4からA1,A2を消去すれば次式が得られる。
(S1−B1)/(S2−B2)=K ・・・式5
【0086】
続いて「温度変化による傾斜ベクトル」を基準とした「地盤変位による傾斜ベクトル」の方向をθ1,θ2とし、2つの傾斜センサ15の夫々の「地盤変位による傾斜ベクトル」の「温度変化による傾斜ベクトル」に対する垂直方向成分の大きさをC1,C2とすれば、次式が成り立つ。
C1/B1=tanθ1 ・・・式6
C2/B2=tanθ2 ・・・式7
【0087】
ここでC1,C2はt3時点において計測することができ、B1,B2,θ1,θ2はいずれも未知数である。θ1,θ2は、傾斜センサ15の設置位置により同じ場合もあれば異なる場合もあるが、いずれも時間の変化に対して不変である。式5〜式7よりB1,B2を消去すると次式が得られる。
(S1−C1/tanθ1)/(S2−C2/tanθ2)=K ・・・式8
【0088】
次に「地盤変位による傾斜ベクトル」の大きさが増加し、2つの傾斜センサ15の夫々においてS1´,S2´,C1´,C2´が計測されたとすれば、次式が成り立つ。尚、前述の通りtanθ1,tanθ2は不変である。
(S1´−C1´/tanθ1)/(S2´−C2´/tanθ2)=K ・・・式9
【0089】
式8及び式9を夫々、tanθ1,tanθ2について整理すれば次式が得られる。
tanθ1=(C1×C2´−C1´×C2)/
(K(C2×S2´−C2´×S2)+(C2´×S1−C2×S1´))
・・・式10
tanθ2=(K(C1´×C2−C1×C2´))/
((C1×S1´−C1´×S1)+K(C1´×S2−C1×S2´))
・・・式11
【0090】
ここでK,S1,S2,C1,C2,S1´,S2´,C1´,C2´は、いずれも計測値から求めることができるので、式10,式11からtanθ1,tanθ2を求めることができ、更に式6及び式7からB1,B2を求めることができ、C1,C2,B1,B2から「地盤変位による傾斜ベクトル」の大きさを得ることができる。以上の手順をまとめれば次のようになる。
【0091】
(1)2つの傾斜センサ15の夫々について、傾斜角の「温度変化による傾斜ベクトル」に対する垂直方向成分の大きさC1,C2の計測値を常時監視する。C1,C2が現れていれば「地盤変位による傾斜」を検出したと判定し、C1,C2が現れていなければ「地盤変位による傾斜」を検出していないと判定する。
(2)2つの傾斜センサ15の夫々について、「地盤変位による傾斜」を検出したときに傾斜角の変化量d1,d2を計測し、計測した値を式1に代入してKを求める。
(3)C1,C2が現れて「地盤変位による傾斜」を検出した際、傾斜角の「温度変化による傾斜ベクトル」の方向への変化量S1,S2を取得する。
(4)C1,C2がある程度増加しC1´,C2´となった際に傾斜角の「温度変化による傾斜ベクトル」の方向への変化量S1´,S2´を取得する。
(5)式10及び式11よりtanθ1,tanθ2の値を求める。
(6)式6及び式7よりB1,B2を求める。
(7)C1,C2,B1,B2に基づき「地盤変位による傾斜ベクトル」の大きさを求める。
【0092】
上記手順によれば、観測エリア2に温度センサを用いることなく、また温度補正を行うことなく、簡素な構成にて微小な地盤変位による傾斜を検知することができる。
【0093】
=処理説明=
続いて、以上に説明した構成からなる地盤変位観測システム1が行う処理について説明する。尚、以下の説明において、観測エリア2にはその全体に亘って多数の傾斜センサ15が設置されているものとする。また図22に示すように、各傾斜センサ15は、近い位置に設置されている所定数の傾斜センサ15が同じグループ(この例では、グループIDを「A」、「B」、「C」、・・・などとしている。)に所属するように複数のグループに分類されているものとする。また同じグループに所属する各傾斜センサ15が設置されている地盤の温度は均一であり、同じグループに所属する各傾斜センサ15の夫々が設置されているコンクリート基礎の温度は時間の経過とともに同一になるものとする。
【0094】
図23は、地盤変位観測システム1において行われる処理(以下、地盤変位観測処理S2300と称する。)を説明するフローチャートである。以下、同図とともに地盤変位観測処理S2300について説明する。
【0095】
センサノード10の制御装置11は、ゲートウェイ装置20からの制御指示600の受信有無をリアルタイムに監視している(S2311)。制御指示600を受信すると(S2311:YES)、制御装置11は、受信した制御指示600の内容に従ってセンサノード10の構成要素についての消費電力の制御や計測データ(傾斜角)を取得するタイミングの設定を行う(S2312)。制御指示600を受信していない場合(S2311:NO)、制御装置11はS2313からの処理を行う。
【0096】
S2313では、制御装置11は、当該センサノード10の傾斜センサ15が、現在、オン(傾斜角を計測可能な状態)であるか否かを判定する。傾斜センサ15がオンである場合(S2313:YES)、処理はS2314に進む。一方、傾斜センサ15がオフ(傾斜センサ15がスタンバイ状態等で傾斜角を計測できない状態)である場合(S2313:NO)、処理はS2311に戻る。
【0097】
S2314では、制御装置11は、現在が傾斜角の計測時機か否かを判定する。現在が傾斜角の計測時機である場合(S2314:YES)、制御装置11は、当該センサノード10の傾斜センサ15から計測値を取得する(S2315)。現在が傾斜角の計測時機でない場合(S2314:NO)、処理はS2316に進む。
【0098】
S2316では、制御装置11は、送信データが有るか(S2315において新たに取得した計測値(傾斜角)があるか)否かを判定する。送信データが有る場合(S2316:YES)、制御装置11は、計測値を設定した計測データ500を生成してゲートウェイ装置20に送信する(S2317)。一方、送信データが無い場合(S2316:NO)、処理はS2311に戻る。
【0099】
ゲートウェイ装置20は、センサノード10から計測データ500を受信する時機が到来した否かをリアルタイムに監視している(S2351)。現在が計測データ500の受信時機である場合(S2351:YES)、ゲートウェイ装置20は、計測データ500の受信を開始する(S2352)。計測データ500を受信すると、ゲートウェイ装置20は、受信した計測データ500の内容を計測値管理テーブル900に出力する(S2353)。尚、ゲートウェイ装置20は、計測データ500を随時サーバ装置30に中継送信し、一方でサーバ装置30は、計測データ500を受信すると、計測値管理テーブル900の内容を、受信した計測データ500の内容に更新する。
【0100】
S2354では、ゲートウェイ装置20は、「地盤変位による傾斜」が発生しているか否かを判定する処理(以下、地盤変位検知処理と称する。)を開始するか否かを判定する。ゲートウェイ装置20が地盤変位検知処理を開始すると判定した場合(S2354:YES)、処理はS2355に進み。ゲートウェイ装置20が地盤変位検知処理を開始しないと判定した場合(S2354:NO)、処理はS2352に戻る。尚、ゲートウェイ装置20は、例えば、計測データ500を受信することが予定されているセンサノード10からの計測データ500の受信が完了した場合に地盤変位検知処理を開始すると判定する。またゲートウェイ装置20は、例えば、タイムアウトした(予定されている計測データ500の受信期間が終了した)場合に地盤変位検知処理を開始すると判定する。またゲートウェイ装置20は、予め設定されたタイミングが到来した場合に地盤変位検知処理を開始すると判定する。
【0101】
S2355では、ゲートウェイ装置20は、地盤変位検知処理を実行する。地盤変位検知処理S2355の詳細については後述する。
【0102】
S2356では、ゲートウェイ装置20は、「地盤変位による傾斜」を検出したか否かを判定する。ゲートウェイ装置20は、例えば、後述する地盤変位判定結果テーブル950の判定結果952に「有」が設定されているグループが一つでもあれば「地盤変位による傾斜」を検出したと判定する。
【0103】
「地盤変位による傾斜」を検出したと判定した場合(S2356:YES)、ゲートウェイ装置20は、「地盤変位による傾斜」を検出した旨を出力装置25に出力する(S2357)。またゲートウェイ装置20は、地盤変位検知処理S2355において「地盤変位による傾斜ベクトル」の大きさを求めた場合はその値も出力する。一方、ゲートウェイ装置20が「地盤変位による傾斜」を検出していないと判定した場合(S2356:NO)、処理はS2358に進む。
【0104】
S2358では、サーバ装置30が制御指示600を生成する。S2359では、サーバ装置30が制御指示600をゲートウェイ装置20を介してセンサノード10に送信する。
【0105】
<地盤変位検知処理>
図24は、図23に示した地盤変位検知処理S2355の詳細を説明するフローチャートである。以下、同図とともに地盤変位検知処理S2355について説明する。
【0106】
まずゲートウェイ装置20は、計測値管理テーブル900から、グループ(未選択のグループID)を一つ選択する(S2411)。
【0107】
続いて、ゲートウェイ装置20は、計測値管理テーブル900に格納されている値に基づき、選択中のグループに所属する2つの傾斜センサ15について、C1,C2(又はC1’,C2’)を取得する(S2412)。
【0108】
続いて、ゲートウェイ装置20は、取得したC1,C2(又はC1’,C2’)に基づき、「地盤変位による傾斜」を検出したか否かを判定する(S2413)。ゲートウェイ装置20が、「地盤変位による傾斜」を検出したと判定した場合(S2413:YES)、処理はS2414に進む。ゲートウェイ装置20が、「地盤変位による傾斜」を検出していないと判定した場合(S2413:NO)、処理はS2430に進む。尚、ゲートウェイ装置20は、例えば、C1,C2(又はC1’,C2’)の値がいずれも予め設定された閾値を超えている場合に「地盤変位による傾斜」を検出したと判定し、それ以外は「地盤変位による傾斜」を検出していないと判定する。
【0109】
S2430では、ゲートウェイ装置20は、計測値管理テーブル900に格納されている値に基づき傾斜角の変化量d1,d2を取得し、前述した式1から一定値Kを求めて記憶する。その後、処理はS2420に進む。
【0110】
S2414では、ゲートウェイ装置20は、計測値管理テーブル900に格納されている値に基づきS1,S2(又はS1’,S2’)を取得して記憶する。
【0111】
S2415では、ゲートウェイ装置20は、C1,C2(又はC1’,C2’)を記憶する。
【0112】
続いてゲートウェイ装置20は、tanθ1及びtanθ2を算出可能か否かを判定する(S2416)。ゲートウェイ装置20がtanθ1及びtanθ2を算出可能と判定した場合(S2416:YES)、処理はS2417に進む。ゲートウェイ装置20がtanθ1及びtanθ2を算出できないと判定した場合(S2416:NO)、処理はS2420に進む。尚、ゲートウェイ装置20は、選択中のグループについて、式10及び式11よりtanθ1及びtanθ2を算出するのに必要なデータ(K,C1,C2,C1’,C2’,S1,S2,S1’,S2’)が出揃っている(全て記憶している)場合にtanθ1及びtanθ2を算出可能と判定し、それ以外はtanθ1及びtanθ2を算出できないと判定する。
【0113】
S2417では、ゲートウェイ装置20は、式10及び式11よりtanθ1及びtanθ2を求める。
【0114】
S2418では、ゲートウェイ装置20は、式6及び式7よりB1,B2を求める。
【0115】
S2419では、ゲートウェイ装置20は、B1,B2,C1,C2に基づき「地盤変位による傾斜ベクトル」の大きさを求める。
【0116】
S2420では、ゲートウェイ装置20は、S2413の判定結果を地盤変位判定結果テーブル950に出力(設定)する。またS2419にて地盤変位による傾斜ベクトルの大きさが求められている場合はその値も地盤変位判定結果テーブル950に出力(設定)する。
【0117】
図25に、地盤変位判定結果テーブル950の一例を示している。同図に示すように、地盤変位判定結果テーブル950は、グループID951、判定結果952、判定日時953、及び地盤変位による傾斜ベクトルの大きさ954の各項目を有するレコードの集合である。
【0118】
判定結果952には、当該レコードのグループID951についての判定結果が設定される(「地盤変位有り」の場合は「有」、「地盤変位無し」の場合は「無」が設定される。)。判定日時953には、当該レコードのグループ951について判定を行った日時が設定される。地盤変位判定結果テーブル950の内容を参照することで、ユーザはグループごとに(観測エリア2の所定領域ごとに)地盤変位が生じた否かを把握することができる。地盤変位による傾斜ベクトルの大きさ954には、S2419にてゲートウェイ装置20が求めた「地盤変位による傾斜ベクトル」の大きさが設定される。
【0119】
図24に戻り、続いて、ゲートウェイ装置20は、全てのグループを選択済か否かを判定する(S2421)。全てのグループを選択済であれば(S2421:YES)、処理は図23のS2356に進む。一方、未選択のグループが残存すれば(S2421:NO)、処理はS2411に戻る。
【0120】
以上詳細に説明したように、本実施形態の地盤変位観測システム1によれば、地盤の温度が均一であると見なすことができる所定のエリア内に設置した2つの傾斜センサの夫々の計測値を用いて演算を行うことにより地盤変位による傾斜の大きさを求めることができる。このため、温度センサを設置することなく、また温度補正を行うことなく、簡素な構成にて微小な地盤変位による傾斜を検知することができる。
【0121】
ところで、以上の説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【0122】
例えば、ゲートウェイ装置20とサーバ装置30を共通のハードウェア(ゲートウェイ装置20とサーバ装置30の双方の機能を兼ね備えた装置)としてもよい。
【0123】
また前述した地盤変位観測処理S2300においてゲートウェイ装置20が主体となって行う処理については、これをサーバ装置30が主体となって行う処理としてもよい。
【符号の説明】
【0124】
1 地盤変位観測システム、2 観測エリア、5 通信網、10 センサノード、11 制御装置、12 無線装置、15 傾斜センサ、20 ゲートウェイ装置、30 サーバ装置、40 ユーザ端末、413 消費電力/計測時機制御部、500 計測データ、600 制御指示、815 地盤変位検知部、8151 地盤変位垂直方向成分計測監視部、8152 K値算出部、8153 S1,S2算出部、8154 tanθ算出部、8155 地盤変位水平方向成分算出部、8156 地盤変位量算出部、8158 判定結果出力部、900 計測値管理テーブル、950 地盤変位判定結果テーブル、1200 実験系、S2300 地盤変位観測処理、S2355 地盤変位検知処理
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21A
図21B
図22
図23
図24
図25