【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の製造方法は以下の構成からなるスコロダイトの製造方法である。
〔1〕ヒ素含有物をナトリウム塩溶液で酸化浸出して得たヒ素浸出液に、第二鉄化合物を添加して鉄ヒ素澱物を生成させ、さらに該鉄ヒ素澱物を硫酸に溶解して、pH0.5以上〜1.0以下
であってヒ素濃度30.4〜36.3g/Lの範囲でFe/Asモル比
1.05以上〜1.10以下のスコロダイト合成溶液(以下、合成溶液とも云う)にし、該合成溶液を加熱して結晶質のスコロダイトを生成する方法において、前記合成溶液の
ナトリウム濃度21.0〜30.4g/Lの範囲で、初期Na/Asモル比を
1.88以上〜3.26以下に調整し、スコロダイトのBET比表面積および平均粒径を初期Na/Asモル比に比例して制御することを特徴とするスコロダイトの製造方法。
【0012】
本発明の製造方法は、
前記スコロダイト合成溶液(pH0.5以上〜1.0以下、ヒ素濃度30.4〜36.3g/L、およびFe/Asモル比1.05以上〜1.10以下)を加熱して結晶質のスコロダイトを生成する方法において、初期Na/Asモル比を制御因子にすることによって前記課題を解決し、スコロダイトのBET比表面積および平均粒径を制御できるようにした。
【0013】
本発明の製造方法は以下の態様を含む。
〔2〕前記スコロダイト合成溶液の初期Na/Asモル比を
1.88以上〜3.26以下に調整して、BET比表面積が2.0〜10m
2/g、および平均粒径27〜10μmのスコロダイトを合成する上記[1]に記載するスコロダイトの製造方法。
〔3〕脱銅電解スライムを酸化浸出して得たヒ素浸出液に第二鉄化合物を添加して鉄ヒ素澱物を生成させ、該ヒ素澱物を洗浄せずに硫酸に溶解してなるスコロダイト合成溶液を用い、BET比表面積2.0〜10m
2/g、および平均粒径27〜10μmであって、ヒ素溶出量が0.15mg/L以下の結晶質スコロダイトを95%以上の転換率で製造する上記[1]または上記[2]に記載するスコロダイトの製造方法。
【0014】
脱銅電解スライムを酸化浸出して得たヒ素浸出液に第二鉄化合物を添加して鉄ヒ素澱物を生成させ、該ヒ素澱物を洗浄せずに硫酸に溶解してなるスコロダイト合成溶液を用いることによって、BET比表面積2.0〜10m
2/g、および平均粒径27〜10μmであって、ヒ素溶出濃度が0.15mg/L以下のスコロダイトを95%以上の転換率で生成させることができる。
【0015】
〔具体的な説明〕
以下、本発明を実施例と共に具体的に説明する。
本発明の製造方法は、ヒ素含有物をナトリウム塩溶液で酸化浸出して得たヒ素浸出液に、第二鉄化合物を添加して鉄ヒ素澱物を生成させ、さらに該鉄ヒ素澱物を硫酸に溶解して、pH0.5以上〜1.0以下
であってヒ素濃度30.4〜36.3g/Lの範囲でFe/Asモル比
1.05以上〜1.10以下のスコロダイト合成溶液(以下、合成溶液とも云う)にし、該合成溶液を加熱して結晶質のスコロダイトを生成する方法において、前記合成溶液の
ナトリウム濃度21.0〜30.4g/Lの範囲で、初期Na/Asモル比を
1.88以上〜3.26以下に調整し、スコロダイトのBET比表面積および平均粒径を初期Na/Asモル比に比例して制御することを特徴とするスコロダイトの製造方法である。
【0016】
本発明の製造方法は、ヒ素含有物をナトリウム塩溶液で酸化処理して得たヒ素浸出液に、第二鉄化合物を添加して生成させた鉄ヒ素澱物からスコロダイトを製造する。ヒ素含有物は、例えば、ヒ化銅(Cu
3As、Cu
5As
2)を含有する脱銅電解スライムなどの銅ヒ素含有物である。ナトリウム塩溶液は水酸化ナトリウム溶液、硫酸ナトリウム溶液などを用いることができる。
ヒ化銅を含む脱銅電解スライムから鉄ヒ素澱物を生成する工程、および該鉄ヒ素澱物からスコロダイトを生成する工程の一例を
図1に示す。
【0017】
図示する処理例において、ヒ化銅を含む脱銅電解スライムなどの銅ヒ素含有物に、水酸化ナトリウム液を加え、酸化剤として例えば空気や酸素を吹き込み、50℃〜60℃の加熱下で酸化浸出してヒ素を溶出し、銅分を酸化銅の残渣にし、これを固液分離してヒ素浸出液を回収する。回収したヒ素浸出液に硫酸第二鉄などの第二鉄化合物を添加することによって鉄ヒ素澱物が生成する。該鉄ヒ素澱物は水酸化鉄にヒ酸イオンが吸着した状態の澱物であり、ヒ素の一部は非結晶質なヒ酸鉄として存在することもある。
【0018】
本発明の製造方法は、前記鉄ヒ素澱物を硫酸に溶解し、
pH0.5以上〜1.0以下、ヒ素濃度30.4〜36.3g/L、およびFe/Asモル比1.05以上〜1.10以下のスコロダイト合成溶液にし、これを加熱して結晶質のスコロダイトを生成する方法において、
ナトリウム濃度21.0〜30.4g/Lの範囲で、初期Na/Asモル比を制御因子にしてBET比表面積および平均粒径を制御する。
【0019】
前記合成溶液のpHが1.5より高いと該澱物が溶解し難く、pH0.5未満ではスコロダイトが生成し難い。好ましくはpH0.5以上〜1.0以下の合成溶液
にし、90℃以上に加熱して結晶質のスコロダイトを生成させる。
【0020】
前記合成溶液は、
ヒ素濃度30.4〜36.3g/Lの範囲で、反応開始時のFe/Asモル比は
1.05以上〜1.10以下の範囲が好ましい。該Fe/Asモル比は、鉄ヒ素澱物のFe/Asモル比であるので、ヒ素浸出液などに硫酸第二鉄を添加して鉄ヒ素澱物を生成させるときに、ヒ素濃度に応じて硫酸第二鉄の添加量を調整して該Fe/Asモル比が
1.05以上〜1.10以下になるようにすれば良い。
【0021】
Fe/Asモル比が
1.05未満では、液中のヒ素量が過剰になり、安定なスコロダイトが生成し難く、また生成したスコロダイトからのヒ素溶出量が多くなる。一方、Fe/Asモル比が
1.10を上回ると、スコロダイトへの転換率が低下する。
【0022】
本発明の製造方法は、
前記pH、ヒ素濃度、および前記Fe/Asモル比のスコロダイト合成溶液について、ナトリウム濃度21.0〜30.4g/Lの範囲で、スコロダイト合成溶液の初期Na/Asモル比を
1.88以上〜3.26以下に調整することによって、スコロダイトのBET比表面積および平均粒径を初期Na/Asモル比に比例して制御する。なお、初期Na/Asモル比とは、該酸性溶液を加熱してスコロダイトを生成させる反応の開始時のNa/Asモル比である。
【0023】
この初期Na/Asモル比は、ヒ素浸出液のNa濃度とAs濃度に由来するので、該ヒ素浸出液のNa/Asモル比が1.5以上〜4.0以下になるように調整し、鉄ヒ素澱物の生成後に該鉄ヒ素澱物を固液分離せず、該鉄ヒ素澱物を含む溶液に硫酸を加えて該鉄ヒ素澱物を溶解することによって、初期Na/Asモル比が前記範囲の合成溶液にすることができる。
図1の工程図は鉄ヒ素澱物を固液分離しない例を示す。
【0024】
鉄ヒ素澱物を固液分離して回収するときには、鉄ヒ素澱物にはヒ素浸出液のナトリウムが残留しているので、回収した鉄ヒ素澱物を洗浄せずに硫酸に溶解して、初期Na/Asモル比が前記範囲の合成溶液を調製すれば良い。
【0025】
前記スコロダイト合成溶液を加熱してスコロダイトを生成させる方法において、
ナトリウム濃度21.0〜30.4g/Lの範囲で、初期Na/Asモル比を
1.88以上〜3.26以下に調整してスコロダイトを生成させたときの、スコロダイトのBET比表面積および平均粒径と初期Na/Asモル比の関係を
図2、
図3に示す。
【0026】
図2に示すように、生成したスコロダイトのBET比表面積は、初期Na/Asモル比が
1.88以上〜3.26以下の範囲で、該Na/Asモル比に比例して、2〜9.8m
2/gの範囲で次第に大きくなる傾向を示している。また、
図3に示すように、平均粒径は初期Na/Asモル比が
1.88以上〜3.26以下の範囲で、該Na/Asモル比に比例して、次第に減少する傾向を示している。
【0027】
本発明の製造方法は、初期Na/Asモル比とBET比表面積の関係に基づくものであり、
前記スコロダイト合成溶液について、ナトリウム濃度21.0〜30.4g/Lの範囲で、初期Na/Asモル比を
1.88以上〜3.26以下に調整することによって、スコロダイトのBET比表面積を初期Na/Asモル比に比例して制御する。初期Na/Asモル比が
3.26を上回ると、スコロダイトのBET値は大きくなるが、平均粒径が小さくなり、ろ過性が非常に悪いため操業が困難になる。一方、初期Na/As比が
1.88未満では平均粒径が大きくなるのでスコロダイトの体積が増加し、埋立処理する際に問題になる可能性がある。
【0028】
前記合成溶液
について、ナトリウム濃度21.0〜30.4g/Lの範囲で、初期Na/Asモル比を
1.88以上〜3.26以下に調整することによって、BET比表面積が2.0〜10m
2/g、および平均粒径27〜10μmのスコロダイトを合成することができる。
【0029】
なお、特許文献5には、本発明の製造方法と同様のBET比表面積と平均粒径のスコロダイトが記載されているが、BET比表面積と平均粒径を制御する方法が不明なので、スコロダイトのBET比表面積と平均粒径は不揃いである。一方、本発明の製造方法によれば、初期Na/Asモル比を調整することによって、BET比表面積と平均粒径を制御したスコロダイトを製造することができる。
【0030】
また、本発明の製造方法は、ヒ素溶出量が0.15mg/L以下の結晶質スコロダイトを95%以上の転換率で製造することができる。水酸化ナトリウムを用いて脱銅電解スライムを酸化浸出して得たヒ素浸出液には多量のナトリウムが残留しており、このヒ素浸出液に第二鉄化合物を添加して生成した鉄ヒ素澱物を、回収後に洗浄せずに硫酸に溶解して得たスコロダイト合成溶液には、一般に概ね20g/L以上のナトリウムが含まれている。この初期ナトリウム濃度の合成溶液を用いれば、ヒ素溶出量が0.15mg/L以下の結晶質スコロダイトを95%以上の転換率で製造することができる。
【0031】
特許文献5の製造方法では、固液分離した鉄ヒ素澱物を洗浄しているので、該鉄ヒ素澱物を硫酸に溶解した合成溶液のナトリウム濃度は大幅に低下している。合成溶液の初期ナトリウム濃度が2.5g/L未満では、製造したスコロダイトのヒ素溶出量が多くなり、スコロダイトへの転換率も低下する。
【0032】
本発明の製造方法によって生成したスコロダイトは結晶質である。このスコロダイトを回収し、その一部をスコロダイトの生成工程に戻して種晶として使用することができる。