特許第6828527号(P6828527)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6828527
(24)【登録日】2021年1月25日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】スコロダイトの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 49/00 20060101AFI20210128BHJP
   C22B 30/04 20060101ALI20210128BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20210128BHJP
   C22B 3/08 20060101ALI20210128BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20210128BHJP
【FI】
   C01G49/00 A
   C22B30/04
   C22B3/44 101Z
   C22B3/08
   C22B7/00 G
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-46839(P2017-46839)
(22)【出願日】2017年3月11日
(65)【公開番号】特開2018-150186(P2018-150186A)
(43)【公開日】2018年9月27日
【審査請求日】2019年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】鍋井 淳宏
(72)【発明者】
【氏名】ミリワリエフ リナート
【審査官】 青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−208581(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 49/00
C22B 30/04
C02F 1/62
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒ素含有物をナトリウム塩溶液で酸化浸出して得たヒ素浸出液に、第二鉄化合物を添加して鉄ヒ素澱物を生成させ、さらに該鉄ヒ素澱物を硫酸に溶解して、pH0.5以上〜1.0以下であってヒ素濃度30.4〜36.3g/Lの範囲でFe/Asモル比1.05以上〜1.10以下のスコロダイト合成溶液(以下、合成溶液とも云う)にし、該合成溶液を加熱して結晶質のスコロダイトを生成する方法において、前記合成溶液のナトリウム濃度21.0〜30.4g/Lの範囲で、初期Na/Asモル比を1.88以上〜3.26以下に調整し、スコロダイトのBET比表面積および平均粒径を初期Na/Asモル比に比例して制御することを特徴とするスコロダイトの製造方法。
【請求項2】
スコロダイト合成溶液の初期Na/Asモル比を1.88以上〜3.26以下に調整して、BET比表面積が2.0〜10m/g、および平均粒径27〜10μmのスコロダイトを合成する請求項1に記載するスコロダイトの製造方法。
【請求項3】
脱銅電解スライムを酸化浸出して得たヒ素浸出液に第二鉄化合物を添加して鉄ヒ素澱物を生成させ、該ヒ素澱物を洗浄せずに硫酸に溶解してなるスコロダイト合成溶液を用い、BET比表面積2.0〜10m/g、および平均粒径27〜10μmであって、ヒ素溶出量が0.15mg/L以下の結晶質スコロダイトを95%以上の転換率で製造する請求項1または請求項2に記載するスコロダイトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、BET比表面積等を制御してスコロダイトを効率よく安定に製造することができるスコロダイトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅の電解精製の際、銅アノードに含まれるヒ素などの不純物の一部は電解液に蓄積するため、電解液の一部を浄液処理として脱銅電解処理するのが一般的である。この工程の中で製錬中間産物としてヒ化銅(CuAsなど)を含むスライムが発生する。このヒ化銅含有スライムには、例えば、銅40〜60質量%、ヒ素20〜40質量%、鉛、錫、アンチモン、ビスマスなど(それぞれ0.5〜5質量%)が含まれているので、これを銅製錬工程に戻して繰返し処理するのが一般的である。またはヒ化銅含有スライム中のヒ素と銅を分離した後、ヒ素を安定な化合物に固定化処理して、銅製錬から系外除去する方法も知られている。
【0003】
例えば、5価のヒ素を含む溶液に2価の鉄イオンを加えて、溶液中のヒ素に対する鉄のモル比(Fe/As)を1以上〜1.5未満にし、酸化剤を加えて撹拌しながら70℃以上に加熱して反応させ、結晶性スコロダイト(FeAsO・2HO)を合成する方法が知られている(特許第4087433号公報、特許第4149488号公報、特許第4615561号公報)。
【0004】
しかし、ヒ素に対する鉄のモル比(Fe/As)を1以上〜1.5未満に調整してスコロダイトを合成する方法は、ヒ化銅などをアルカリ酸化浸出して銅分を除去した後に、Naとヒ素を含む溶液にCaを加えてCaヒ素化合物を生成させてNaと分離し、このCaヒ素化合物を硫酸溶解してCaを石膏にして除去したヒ素含有液を用いており、NaとCaの除去処理が煩雑である。
【0005】
また、酸性水溶液中に含まれる5価のAsに対する3価のFeのモル比を0.9以上〜1.0未満に調節した後に加熱して結晶性スコロダイトを合成する方法が知られている(特許第4538481号公報)。しかし、この方法は、ヒ素を含む酸性水溶液として銅製錬工程で産出する電解沈殿銅の硫酸浸出液を用いているので、液中の銅濃度が高く、スコロダイト中にCuが1〜2wt%程度混入する問題がある。
【0006】
従来方法の問題を解決した方法として、銅ヒ素含有物を水酸化ナトリウム溶液でアルカリ酸化浸出し、銅分を除去したヒ素含有溶液に第二鉄化合物を添加して鉄ヒ素澱物を生成させ、これをpH0.7〜1.2の硫酸酸性スラリーにし、加熱して結晶質のスコロダイトを生成する方法が提案されている(特開2014−208581号公報)。この方法は、処理工程が簡単であり、Cuの混入が少なく、かつ粒径の大きなスコロダイトを製造することができ、さらに鉄ヒ素澱物の容量がヒ素浸出液に対して大幅に低減する利点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4087433号公報
【特許文献2】特許第4149488号公報
【特許文献3】特許第4615561号公報
【特許文献4】特許第4538481号公報
【特許文献5】特開2014−208581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献5の方法によれば、鉄ヒ素澱物の硫酸酸性スラリーをpH0.7〜1.2にして、平均粒径20〜40μmおよびBET比表面積2.8〜9.5m/gのスコロダイトを製造しているが。pH値と平均粒径およびBET比表面積とは比例せず、BET比表面積等を制御する方法は不明である。
【0009】
また、特許文献5の方法では、製造したスコロダイトのヒ素溶出量は0.2ppmに抑制されており、溶出基準0.3ppm(廃掃法・特別管理廃棄物)に適合しているが、ヒ素は有毒物質であるのでヒ素の溶出量は出来るだけ少ないことが好ましい。また、特許文献2の製造方法ではスコロダイトへの転換率が約90%の処理例があるが、スコロダイトの生産性を高めるにはより高い転換率が好ましい。
【0010】
本発明の製造方法は、特許文献5の製造方法では、BET比表面積等を制御する方法が不明であると云う課題を解決したものであり、BET比表面積等を制御するスコロダイトの製造方法を提供する。また、好ましくは、BET比表面積等の制御と共に、ヒ素溶出量をさらに低減し、スコロダイトへの転換率を向上した製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の製造方法は以下の構成からなるスコロダイトの製造方法である。
〔1〕ヒ素含有物をナトリウム塩溶液で酸化浸出して得たヒ素浸出液に、第二鉄化合物を添加して鉄ヒ素澱物を生成させ、さらに該鉄ヒ素澱物を硫酸に溶解して、pH0.5以上〜1.0以下であってヒ素濃度30.4〜36.3g/Lの範囲でFe/Asモル比1.05以上〜1.10以下のスコロダイト合成溶液(以下、合成溶液とも云う)にし、該合成溶液を加熱して結晶質のスコロダイトを生成する方法において、前記合成溶液のナトリウム濃度21.0〜30.4g/Lの範囲で、初期Na/Asモル比を1.88以上〜3.26以下に調整し、スコロダイトのBET比表面積および平均粒径を初期Na/Asモル比に比例して制御することを特徴とするスコロダイトの製造方法。
【0012】
本発明の製造方法は、前記スコロダイト合成溶液(pH0.5以上〜1.0以下、ヒ素濃度30.4〜36.3g/L、およびFe/Asモル比1.05以上〜1.10以下)を加熱して結晶質のスコロダイトを生成する方法において、初期Na/Asモル比を制御因子にすることによって前記課題を解決し、スコロダイトのBET比表面積および平均粒径を制御できるようにした。
【0013】
本発明の製造方法は以下の態様を含む。
〔2〕前記スコロダイト合成溶液の初期Na/Asモル比を1.88以上〜3.26以下に調整して、BET比表面積が2.0〜10m/g、および平均粒径27〜10μmのスコロダイトを合成する上記[1]に記載するスコロダイトの製造方法。
〔3〕脱銅電解スライムを酸化浸出して得たヒ素浸出液に第二鉄化合物を添加して鉄ヒ素澱物を生成させ、該ヒ素澱物を洗浄せずに硫酸に溶解してなるスコロダイト合成溶液を用い、BET比表面積2.0〜10m/g、および平均粒径27〜10μmであって、ヒ素溶出量が0.15mg/L以下の結晶質スコロダイトを95%以上の転換率で製造する上記[1]または上記[2]に記載するスコロダイトの製造方法。
【0014】
脱銅電解スライムを酸化浸出して得たヒ素浸出液に第二鉄化合物を添加して鉄ヒ素澱物を生成させ、該ヒ素澱物を洗浄せずに硫酸に溶解してなるスコロダイト合成溶液を用いることによって、BET比表面積2.0〜10m/g、および平均粒径27〜10μmであって、ヒ素溶出濃度が0.15mg/L以下のスコロダイトを95%以上の転換率で生成させることができる。
【0015】
〔具体的な説明〕
以下、本発明を実施例と共に具体的に説明する。
本発明の製造方法は、ヒ素含有物をナトリウム塩溶液で酸化浸出して得たヒ素浸出液に、第二鉄化合物を添加して鉄ヒ素澱物を生成させ、さらに該鉄ヒ素澱物を硫酸に溶解して、pH0.5以上〜1.0以下であってヒ素濃度30.4〜36.3g/Lの範囲でFe/Asモル比1.05以上〜1.10以下のスコロダイト合成溶液(以下、合成溶液とも云う)にし、該合成溶液を加熱して結晶質のスコロダイトを生成する方法において、前記合成溶液のナトリウム濃度21.0〜30.4g/Lの範囲で、初期Na/Asモル比を1.88以上〜3.26以下に調整し、スコロダイトのBET比表面積および平均粒径を初期Na/Asモル比に比例して制御することを特徴とするスコロダイトの製造方法である。
【0016】
本発明の製造方法は、ヒ素含有物をナトリウム塩溶液で酸化処理して得たヒ素浸出液に、第二鉄化合物を添加して生成させた鉄ヒ素澱物からスコロダイトを製造する。ヒ素含有物は、例えば、ヒ化銅(CuAs、CuAs)を含有する脱銅電解スライムなどの銅ヒ素含有物である。ナトリウム塩溶液は水酸化ナトリウム溶液、硫酸ナトリウム溶液などを用いることができる。
ヒ化銅を含む脱銅電解スライムから鉄ヒ素澱物を生成する工程、および該鉄ヒ素澱物からスコロダイトを生成する工程の一例を図1に示す。
【0017】
図示する処理例において、ヒ化銅を含む脱銅電解スライムなどの銅ヒ素含有物に、水酸化ナトリウム液を加え、酸化剤として例えば空気や酸素を吹き込み、50℃〜60℃の加熱下で酸化浸出してヒ素を溶出し、銅分を酸化銅の残渣にし、これを固液分離してヒ素浸出液を回収する。回収したヒ素浸出液に硫酸第二鉄などの第二鉄化合物を添加することによって鉄ヒ素澱物が生成する。該鉄ヒ素澱物は水酸化鉄にヒ酸イオンが吸着した状態の澱物であり、ヒ素の一部は非結晶質なヒ酸鉄として存在することもある。
【0018】
本発明の製造方法は、前記鉄ヒ素澱物を硫酸に溶解し、pH0.5以上〜1.0以下、ヒ素濃度30.4〜36.3g/L、およびFe/Asモル比1.05以上〜1.10以下のスコロダイト合成溶液にし、これを加熱して結晶質のスコロダイトを生成する方法において、ナトリウム濃度21.0〜30.4g/Lの範囲で、初期Na/Asモル比を制御因子にしてBET比表面積および平均粒径を制御する。
【0019】
前記合成溶液のpHが1.5より高いと該澱物が溶解し難く、pH0.5未満ではスコロダイトが生成し難い。好ましくはpH0.5以上〜1.0以下の合成溶液にし、90℃以上に加熱して結晶質のスコロダイトを生成させる。
【0020】
前記合成溶液は、ヒ素濃度30.4〜36.3g/Lの範囲で、反応開始時のFe/Asモル比は1.05以上〜1.10以下の範囲が好ましい。該Fe/Asモル比は、鉄ヒ素澱物のFe/Asモル比であるので、ヒ素浸出液などに硫酸第二鉄を添加して鉄ヒ素澱物を生成させるときに、ヒ素濃度に応じて硫酸第二鉄の添加量を調整して該Fe/Asモル比が1.05以上〜1.10以下になるようにすれば良い。
【0021】
Fe/Asモル比が1.05未満では、液中のヒ素量が過剰になり、安定なスコロダイトが生成し難く、また生成したスコロダイトからのヒ素溶出量が多くなる。一方、Fe/Asモル比が1.10を上回ると、スコロダイトへの転換率が低下する。
【0022】
本発明の製造方法は、前記pH、ヒ素濃度、および前記Fe/Asモル比のスコロダイト合成溶液について、ナトリウム濃度21.0〜30.4g/Lの範囲で、スコロダイト合成溶液の初期Na/Asモル比を1.88以上〜3.26以下に調整することによって、スコロダイトのBET比表面積および平均粒径を初期Na/Asモル比に比例して制御する。なお、初期Na/Asモル比とは、該酸性溶液を加熱してスコロダイトを生成させる反応の開始時のNa/Asモル比である。
【0023】
この初期Na/Asモル比は、ヒ素浸出液のNa濃度とAs濃度に由来するので、該ヒ素浸出液のNa/Asモル比が1.5以上〜4.0以下になるように調整し、鉄ヒ素澱物の生成後に該鉄ヒ素澱物を固液分離せず、該鉄ヒ素澱物を含む溶液に硫酸を加えて該鉄ヒ素澱物を溶解することによって、初期Na/Asモル比が前記範囲の合成溶液にすることができる。図1の工程図は鉄ヒ素澱物を固液分離しない例を示す。
【0024】
鉄ヒ素澱物を固液分離して回収するときには、鉄ヒ素澱物にはヒ素浸出液のナトリウムが残留しているので、回収した鉄ヒ素澱物を洗浄せずに硫酸に溶解して、初期Na/Asモル比が前記範囲の合成溶液を調製すれば良い。
【0025】
前記スコロダイト合成溶液を加熱してスコロダイトを生成させる方法において、ナトリウム濃度21.0〜30.4g/Lの範囲で、初期Na/Asモル比を1.88以上〜3.26以下に調整してスコロダイトを生成させたときの、スコロダイトのBET比表面積および平均粒径と初期Na/Asモル比の関係を図2図3に示す。
【0026】
図2に示すように、生成したスコロダイトのBET比表面積は、初期Na/Asモル比が1.88以上〜3.26以下の範囲で、該Na/Asモル比に比例して、2〜9.8m/gの範囲で次第に大きくなる傾向を示している。また、図3に示すように、平均粒径は初期Na/Asモル比が1.88以上〜3.26以下の範囲で、該Na/Asモル比に比例して、次第に減少する傾向を示している。
【0027】
本発明の製造方法は、初期Na/Asモル比とBET比表面積の関係に基づくものであり、前記スコロダイト合成溶液について、ナトリウム濃度21.0〜30.4g/Lの範囲で、初期Na/Asモル比を1.88以上〜3.26以下に調整することによって、スコロダイトのBET比表面積を初期Na/Asモル比に比例して制御する。初期Na/Asモル比が3.26を上回ると、スコロダイトのBET値は大きくなるが、平均粒径が小さくなり、ろ過性が非常に悪いため操業が困難になる。一方、初期Na/As比が1.88未満では平均粒径が大きくなるのでスコロダイトの体積が増加し、埋立処理する際に問題になる可能性がある。
【0028】
前記合成溶液について、ナトリウム濃度21.0〜30.4g/Lの範囲で、初期Na/Asモル比を1.88以上〜3.26以下に調整することによって、BET比表面積が2.0〜10m/g、および平均粒径27〜10μmのスコロダイトを合成することができる。
【0029】
なお、特許文献5には、本発明の製造方法と同様のBET比表面積と平均粒径のスコロダイトが記載されているが、BET比表面積と平均粒径を制御する方法が不明なので、スコロダイトのBET比表面積と平均粒径は不揃いである。一方、本発明の製造方法によれば、初期Na/Asモル比を調整することによって、BET比表面積と平均粒径を制御したスコロダイトを製造することができる。
【0030】
また、本発明の製造方法は、ヒ素溶出量が0.15mg/L以下の結晶質スコロダイトを95%以上の転換率で製造することができる。水酸化ナトリウムを用いて脱銅電解スライムを酸化浸出して得たヒ素浸出液には多量のナトリウムが残留しており、このヒ素浸出液に第二鉄化合物を添加して生成した鉄ヒ素澱物を、回収後に洗浄せずに硫酸に溶解して得たスコロダイト合成溶液には、一般に概ね20g/L以上のナトリウムが含まれている。この初期ナトリウム濃度の合成溶液を用いれば、ヒ素溶出量が0.15mg/L以下の結晶質スコロダイトを95%以上の転換率で製造することができる。
【0031】
特許文献5の製造方法では、固液分離した鉄ヒ素澱物を洗浄しているので、該鉄ヒ素澱物を硫酸に溶解した合成溶液のナトリウム濃度は大幅に低下している。合成溶液の初期ナトリウム濃度が2.5g/L未満では、製造したスコロダイトのヒ素溶出量が多くなり、スコロダイトへの転換率も低下する。
【0032】
本発明の製造方法によって生成したスコロダイトは結晶質である。このスコロダイトを回収し、その一部をスコロダイトの生成工程に戻して種晶として使用することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の製造方法によれば、BET比表面積および平均粒径が制御されたスコロダイトを製造することができる。スコロダイトのBET比表面積および平均粒径が制御されていれば、スコロダイトを回収するときのろ過操作およびろ過時間の調整が容易であり、効率よくろ過することができる。また、この製造方法はスコロダイトへの転換率が高い(95%以上)ので、排液のヒ素濃度が格段に低く、排液処理の負担を低減することができる。
【0034】
本発明の製造方法では、ヒ素浸出液に第二鉄化合物を添加して生成した鉄ヒ素澱物を固液分離せずに合成溶液を調製することができるので、製造工程を簡略化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の製造方法の一例を示す処理工程図。
図2】実施例1の初期Na/Asモル比とスコロダイトのBET比表面積の関係を示すグラフ。
図3】実施例1の初期Na/Asモル比とスコロダイトの平均粒径の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示す。ヒ素、鉄、ナトリウムの測定はICP−AESを用いた。生成したスコロダイトを洗浄して環告13号に準拠した溶出試験を行った。この溶出試験の結果をAs溶出濃度(mg/L)として示した。スコロダイトの転換率は次式によって求めた。
転換率%=100−(終期ヒ素濃度(g/L)/初期ヒ素濃度(g/L)×100)
BET比表面積は比表面積測定器(QUANTACHROME 社製 AUTOSORB−iQ2)を用いて、BET3点法で測定した。平均粒径は湿式粒度分布測定器(堀場製作所製のLA950)を用いて測定した。
【0037】
〔ヒ素浸出液の調製〕
ヒ化銅を主成分とするスライム400g(As25質量%)と、水2Lをスラリーにし、攪拌しながら水酸化ナトリウムをNaOH/Asモル比約1.6になるように加え、スラリー調整した。このスラリーを50℃〜60℃に加熱し、空気を1L/分の流量で約6時間導入し、酸化浸出を行った。浸出が進むにつれてスラリーは黒色から茶色(CuOの色)に変化した。ここで撹拌を止め、スラリーを濾過して残渣の酸化銅を分離し、ヒ素浸出液を回収した。このヒ素浸出液はpH8.5、As40g/L、Na24.5g/L、Cu2ppm以下であった。
【0038】
〔実施例1〕
前記ヒ素浸出液600mlを50℃〜60℃に加熱して、ポリ硫酸第二鉄液(Fe濃度160g/Lの日鉄鉱業社製品:ポリテツ)121〜127mlを加え、60分間撹拌して鉄ヒ素澱物を生成させた。この鉄ヒ素澱物を含むスラリーに濃硫酸約8mlを混合してスコロダイト合成溶液を調製した。この溶液にNaOHを添加し、Na/As比を調製した溶液を93℃±3℃まで加熱し、結晶性スコロダイト36g(50g/L)を種材として加え、6時間、加熱撹拌を続けてスコロダイトを生成させた。その後、生成したスコロダイトを固液分離して回収した。製造条件および結果を表1に示す。
【0039】
表1に示すように、スコロダイト合成溶液のNa/Asモル比が1.88〜3.26の範囲で、生成したスコロダイトのBET比表面積はNa/Asモル比に比例して大きくなっている。なお、試料No.7(Na/Asモル比3.26)のBET比表面積は、試料No.6(Na/Asモル比2.60)より低いが、試料No.1〜No.5に対してBET比表面積が大きくなる傾向は変わらない。また、表1に示すように、試料No.3を除き、スコロダイトの平均粒径は、Na/Asモル比に比例して小さくなる傾向がある。なお、試料No.7の平均粒径は試料No.6より大きいが、試料No.1,2、4、5に対して平均粒径が小さくなる傾向は変わらない。さらに、試料No.1〜試料No.7の何れも、生成したスコロダイトのヒ素溶出量は0.11以下であり、スコロダイトへの転換率は96%以上である。
【0040】
一方、合成溶液の初期Na/Asモル比が1.8未満の試料No.8は、生成するスコロダイトの平均粒径が大き過ぎる。一方、合成溶液の初期Na/Asモル比が3.5より大きい試料No.9は、生成するスコロダイトの平均粒径が小さ過ぎるので濾過性が悪化する。
【0041】
【表1】
【0042】
〔比較例1〕
表2に示す初期pH、初期Na/Asモル比およびFe/Asモル比になるように調整した以外は実施例1と同様にして、スコロダイト合成溶液を調製した。これらの合成溶液を93±3℃に加熱した後、結晶性スコロダイトを種晶として50g/Lになるように加え、6時間、加熱攪拌を続けた。生成したスコロダイトを固液分離して回収した。製造条件および結果を表3に示す。
【0043】
表2に示すように、初期Na濃度が2.5g/Lより低い試料10〜16は、ヒ素の溶出量が多く、スコロダイトの安定性が低い、またスコロダイトへの転換率が低く90%以下である。また、Fe/Asモル比が1.0より低い試料20〜24は、スコロダイトへの転換率は高いが、ヒ素の溶出量が多く、スコロダイトの安定性が低い。一方、Fe/Asモル比が1.25より高い試料30〜32は、ヒ素の溶出量が0.2mg/L未満であるのでコロダイトの安定性は良いが、スコロダイトへの転換率は大幅に低い。BET比表面積および平均粒径はこの初期Na/Asモル比の範囲においては、相関がみられない。
【0044】
【表2】
図1
図2
図3