特許第6828616号(P6828616)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6828616
(24)【登録日】2021年1月25日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20210128BHJP
【FI】
   G03G15/20 510
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-126175(P2017-126175)
(22)【出願日】2017年6月28日
(65)【公開番号】特開2019-8241(P2019-8241A)
(43)【公開日】2019年1月17日
【審査請求日】2019年6月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100161953
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 敬直
(72)【発明者】
【氏名】権 鐘浩
【審査官】 山下 清隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−184446(JP,A)
【文献】 特開2017−072711(JP,A)
【文献】 特開2017−072645(JP,A)
【文献】 特開平10−198200(JP,A)
【文献】 特開平04−242774(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0107029(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能に設けられる定着ベルトと、
前記定着ベルトと共に定着ニップを形成し、回転可能に設けられる加圧部材と、
前記定着ベルトの内部に設けられ、前記加圧部材と共に前記定着ベルトを挟み込む固定部材と、を備え、
前記固定部材は、
断面の曲率半径が異なる、記録媒体の搬送方向における上流側部分と下流側部分とが、前記定着ニップ側の面に形成されるパッドと、
前記上流側部分と前記下流側部分の境界を覆うように前記パッドの前記定着ニップ側の面の前記搬送方向における中央部に固定される弾性シートと、を備え
前記上流側部分の断面の曲率半径をRaとし、前記下流側部分の断面の曲率半径をRbとした場合に、Ra>Rbの関係が成り立ち、前記弾性シートの前記搬送方向における中央部が前記境界と一致していることを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記上流側部分は、平面状を成しており、
前記下流側部分は、前記加圧部材の回転軸から離間する側に向かって膨らむように湾曲していることを特徴とする請求項に記載の定着装置。
【請求項3】
前記上流側部分及び前記下流側部分は、前記加圧部材の回転軸から離間する側に向かって膨らむように湾曲していることを特徴とする請求項に記載の定着装置。
【請求項4】
前記固定部材は、
前記パッドと前記定着ベルトの間に介装される接触シートと、
前記パッドを挟んで前記定着ニップの反対側に設けられ、前記パッドを支持するステーと、を更に備えていることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載の定着装置を備えていることを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体にトナー像を定着させる定着装置と、この定着装置を備えた画像形成装置と、に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複写機、プリンター、ファクシミリなどの画像形成装置は、用紙などの記録媒体にトナー像を定着させる定着装置を備えている。この定着装置は、例えば、記録媒体にトナー像を定着させる定着部材(例えば、定着ローラーや定着ベルト)と、この定着部材と共に定着ニップを形成する加圧部材と、を備えている。
【0003】
従来、このような定着装置では、回転軸によって定着部材を支持する方式が幅広く採用されてきた。一方で、近年、定着装置の省エネルギー化への要求が高まる中、ウォームアップタイムの短縮が重要になってきているが、回転軸によって定着部材を支持する方式では、ウォームアップタイムの短縮には限界がある。
【0004】
そこで、ウォームアップタイムの短縮を実現するために、定着ベルト内に配置された固定部材に対して定着ベルトを摺動させる方式(以下、「摺動ベルト方式」と称する)が提案されている(特許文献1参照)。この摺動ベルト方式の定着装置では、加圧部材と固定部材によって定着ベルトを挟み込んだ状態で加圧部材を回転させることで、加圧部材に従動して定着ベルトを回転させる。このような構成を採用することで、定着装置の熱容量を小さくすることが可能となるため、ウォームアップタイムを短縮することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−41190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
摺動ベルト方式の定着装置では、固定部材の形状を工夫することで、定着ニップの幅を広くすることが可能となり、これに伴って、記録媒体に対するトナー像の定着性を向上させることができる。例えば、固定部材の定着ニップ側の面を湾曲させることで、固定部材の定着ニップ側の面が平面状を成している場合と比較して、定着ニップの幅を広くすることが可能となる。
【0007】
しかしながら、上記のように固定部材の定着ニップ側の面を湾曲させると、定着ニップの圧抜け(定着ニップの圧力が部分的に低下する現象)が発生する恐れがある。このように定着ニップの圧抜けが発生すると、記録媒体が微小にスリップして記録媒体上のトナー像にズレが発生し、画質の低下につながる恐れがある。
【0008】
そこで、本発明は上記事情を考慮し、記録媒体に対するトナー像の定着性を向上させつつ、定着ニップの圧抜けによる画質の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る定着装置は、回転可能に設けられる定着ベルトと、前記定着ベルトと共に定着ニップを形成し、回転可能に設けられる加圧部材と、前記定着ベルトの内部に設けられ、前記加圧部材と共に前記定着ベルトを挟み込む固定部材と、を備え、前記固定部材は、断面の曲率半径が異なる複数の部分が前記定着ニップ側の面に形成されるパッドと、前記複数の部分の境界を覆うように前記パッドの前記定着ニップ側の面の一部に固定される弾性シートと、を備えていることを特徴とする。
【0010】
前記複数の部分は、上流側部分と、前記上流側部分よりも記録媒体の搬送方向下流側に設けられる下流側部分と、を含み、前記上流側部分の断面の曲率半径をRaとし、前記下流側部分の断面の曲率半径をRbとした場合に、Ra>Rbの関係が成り立っても良い。
【0011】
前記上流側部分は、平面状を成しており、前記下流側部分は、前記加圧部材の回転軸から離間する側に向かって膨らむように湾曲していても良い。
【0012】
前記上流側部分及び前記下流側部分は、前記加圧部材の回転軸から離間する側に向かって膨らむように湾曲していても良い。
【0013】
前記固定部材は、前記パッドと前記定着ベルトの間に介装される接触シートと、前記パッドを挟んで前記定着ニップの反対側に設けられ、前記パッドを支持するステーと、を更に備えていても良い。
【0014】
本発明に係る画像形成装置は、上記定着装置を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、記録媒体に対するトナー像の定着性を向上させつつ、定着ニップの圧抜けによる画質の低下を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る画像形成装置の概略を示す模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係る定着装置を示す断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る固定部材及びその周辺部を示す断面図である。
図4】第1比較例に係る固定部材及びその周辺部を示す断面図である。
図5】第2比較例に係る固定部材及びその周辺部を示す断面図である。
図6】第3比較例に係る固定部材及びその周辺部を示す断面図である。
図7】本発明の他の異なる実施形態に係る固定部材及びその周辺部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
まず、画像形成装置1の全体の構成について説明する。
【0018】
以下、説明の便宜上、図1における紙面手前側を画像形成装置1の前側とする。各図に適宜付される矢印L、R、U、Loは、それぞれ画像形成装置1の左側、右側、上側、下側を示している。
【0019】
図1を参照して、画像形成装置1は、例えば、プリンターである。画像形成装置1は、箱型の装置本体2を備えている。装置本体2の下部には、用紙S(記録媒体の一例)を収納する給紙カセット3が収容されている。装置本体2の上面には排紙トレイ4が設けられている。装置本体2の上部には、排紙トレイ4の下方に露光器5が収容されている。
【0020】
装置本体2の内部には、用紙Sの搬送路Pが設けられている。搬送路Pの上流端部には、給紙部6が設けられている。搬送路Pの中流部には、画像形成部7が設けられている。搬送路Pの下流部には、定着装置8が設けられている。
【0021】
次に、このような構成を備えた画像形成装置1の動作について説明する。
【0022】
まず、露光器5からのレーザー光(図1の二点鎖線参照)により画像形成部7において静電潜像が形成される。次に、画像形成部7において上記の静電潜像が現像され、トナー像が形成される。これにより、画像形成動作が完了する。
【0023】
一方、給紙部6によって給紙カセット3から取り出された用紙Sは、上記した画像形成動作とタイミングを合わせて画像形成部7へと搬送され、画像形成部7において上記のトナー像が用紙Sに転写される。トナー像を転写された用紙Sは、搬送路Pを下流側へと搬送されて定着装置8に進入し、この定着装置8において用紙Sにトナー像が定着される。トナー像が定着された用紙Sは、排紙トレイ4に排出される。
【0024】
次に、定着装置8について更に説明する。
【0025】
なお、図2以降の各図に付される矢印Yは、定着装置8における用紙Sの搬送方向(以下、「搬送方向Y」と称する)を示している。本実施形態では、搬送方向Yは、左側から右側に向かう方向である。
【0026】
図2を参照して、定着装置8は、定着ベルト11と、定着ベルト11の下側(外部)に設けられる加圧ローラー12(加圧部材の一例)と、定着ベルト11の上側(外部)に設けられる加熱機構13と、定着ベルト11の内部に設けられる固定部材14、ガイド部材15及び保持部材16と、を備えている。
【0027】
定着装置8の定着ベルト11は、前後方向に長い円筒状を成している。定着ベルト11は、可撓性を有しており、周方向には無端状である。定着ベルト11の直径は、例えば、30mmである。定着ベルト11は、前後方向に延びている回転軸X1の周りを回転可能である。つまり、本実施形態では、前後方向が定着ベルト11の回転軸方向である。
【0028】
定着ベルト11は、例えば、円筒状の基材層と、この基材層の周りに設けられる弾性層と、この弾性層を被覆する離型層と、を備えている。定着ベルト11の基材層は、例えば、ニッケル電鋳などの金属によって構成されている。定着ベルト11の基材層の厚みは、例えば、30μm〜50μmである。定着ベルト11の基材層の内周面(定着ベルト11全体の内周面にも相当する)には、PTFE(Poly Tetra Fluoro Ethylene)等の耐熱性樹脂によるコーティングが施されている。定着ベルト11の弾性層は、例えば、シリコンゴムなどの弾性材料によって構成されている。定着ベルト11の弾性層の厚みは、例えば、200μm〜500μmである。定着ベルト11の離型層は、例えば、PFA(Per Fluoro Alkoxy)等の耐熱性樹脂によって構成されている。
【0029】
定着装置8の加圧ローラー12は、前後方向に長い円筒状を成している。加圧ローラー12の直径は、例えば、30mmである。加圧ローラー12は、前後方向に延びている回転軸X2の周りを回転可能である。つまり、本実施形態では、前後方向が加圧ローラー12の回転軸方向である。
【0030】
加圧ローラー12は、定着ベルト11に所定の圧力で接触することで、定着ベルト11と共に定着ニップNを形成している。A3機(A3の用紙Sに対して印刷が可能な画像形成装置1)において、定着ニップNの圧力は、例えば、300N〜400Nである。
【0031】
加圧ローラー12は、例えば、円筒状の基材層と、この基材層の周りに設けられる弾性層と、この弾性層を被覆する離型層と、を備えている。加圧ローラー12の基材層は、例えば、ステンレスやアルミニウムなどの金属によって構成されている。加圧ローラー12の弾性層は、例えば、シリコンゴムなどの弾性材料によって構成されている。加圧ローラー12の弾性層の厚みは、例えば、5mmである。加圧ローラー12の離型層は、例えば、PFA(Per Fluoro Alkoxy)等の耐熱性樹脂によって構成されている。
【0032】
定着装置8の加熱機構13は、定着ベルト11の上部を径方向外側から覆っており、定着ベルト11の上部を誘導加熱(Induction Heating)によって加熱するように構成されている。つまり、本実施形態の加熱機構13は、所謂「外包IH型」である。
【0033】
加熱機構13は、ボビン18と、ボビン18を径方向外側から覆うコア19と、ボビン18とコア19の間の空間に設けられるIHコイル20(熱源の一例)と、を備えている。IHコイル20は、定着ベルト11の外周面に沿って円弧状に湾曲しており、定着ベルト11の外周面と所定の間隔を介して対向している。
【0034】
定着装置8の固定部材14は、加圧ローラー12と共に定着ベルト11を挟み込んでいる。固定部材14は、定着フレーム(図示せず)に固定されている。固定部材14は、固定的に設けられており、回転不能である。
【0035】
固定部材14は、ステー24と、ステー24の左側(搬送方向Yにおける上流側)に設けられるプレート25と、ステー24の左側から下側にかけて設けられる接触シート26と、ステー24の下側に設けられるパッド27と、パッド27の下側に設けられる弾性シート28と、を備えている。
【0036】
固定部材14のステー24は、前後方向に長い四角筒状を成している。ステー24は、パッド27を挟んで定着ニップNの反対側に設けられている。ステー24は、例えば、板金を屈曲させることによって形成されている。ステー24は、加圧ローラー12からの圧力を受け止めることができる機械的強度を有している。
【0037】
固定部材14のプレート25は、前後方向に長い平板状を成している。プレート25は、ビス30によってステー24の左側面の下部に固定されている。
【0038】
固定部材14の接触シート26は、前後方向に長い形状を成している。接触シート26は、例えば、PTFE(Poly Tetra Fluoro Ethylene)等の耐熱性樹脂によって構成されている。接触シート26は、パッド27よりも摩擦係数が小さい。接触シート26には、固定部材14に対する定着ベルト11の摺動性を高めるために、潤滑剤が塗布されている。
【0039】
接触シート26の左端部(搬送方向Yにおける上流側の端部)は、ステー24とプレート25の間に挟み込まれている。接触シート26の左右中央部は、パッド27と定着ベルト11の間に介装されており、定着ベルト11の内周面に直接接触している。
【0040】
固定部材14のパッド27は、前後方向に長い形状を成している。パッド27は、例えば、LCP(Liquid Crystal Polymer)等の耐熱性樹脂によって構成されている。パッド27は、加圧ローラー12と共に定着ベルト11及び接触シート26を挟み込んでいる。
【0041】
パッド27の上面(定着ニップNとは反対側の面)は、ステー24の下面に当接している。これにより、パッド27がステー24に上側(定着ニップNとは反対側)から支持されている。
【0042】
図2図3を参照して、パッド27の下面(定着ニップN側の面)は、接触シート26を介して定着ベルト11を下側(加圧ローラー12側)に向かって押圧している。パッド27の下面は、定着ニップNの形状を規制している。
【0043】
パッド27の下面には、断面の曲率半径が異なる複数の部分31、32が形成されている。複数の部分31、32は、上流側部分31と、上流側部分31よりも右側(搬送方向Yにおける下流側)に設けられる下流側部分32と、を含んでいる。
【0044】
パッド27の下面の上流側部分31は、定着ニップNの入口(搬送方向Yにおける上流側の端部)付近から上流側部分31と下流側部分32の境界Zまで連続している。上流側部分31は、平面状を成している。上流側部分31の断面の曲率半径Raは、∞(無限大)である。
【0045】
パッド27の下面の下流側部分32は、上流側部分31と下流側部分32の境界Zから定着ニップNの出口(搬送方向Yにおける下流側の端部)付近まで連続している。下流側部分32は、上側(加圧ローラー12の回転軸X2から離間する側)に向かって膨らむように湾曲している。下流側部分32の断面の曲率半径Rbは、例えば、40mm以上である。上流側部分31の断面の曲率半径Raと下流側部分32の断面の曲率半径Rbとの間には、Ra>Rbの関係が成り立っている。
【0046】
固定部材14の弾性シート28は、前後方向に長い形状を成している。弾性シート28は、例えば、シリコンゴムなどの弾性材料によって構成されている。弾性シート28の厚みは、例えば、0.1mm〜0.2mmであり、パッド27の厚みよりも薄い。搬送方向Yにおける弾性シート28の幅は、例えば、3mm〜5mmである。
【0047】
弾性シート28は、パッド27の下面の上流側部分31と下流側部分32の境界Zを覆っている。弾性シート28の左右中央部(搬送方向Yにおける中央部)は、境界Zと一致している。弾性シート28は、パッド27の下面の左右中央部(搬送方向Yにおける中央部)のみに固定されており、パッド27の下面の左側部(搬送方向Yにおける上流部)及び右側部(搬送方向Yにおける下流部)には固定されていない。具体的には、弾性シート28は、両面テープ等で、境界Z付近に貼付固定されている。
【0048】
図2を参照して、定着装置8のガイド部材15は、前後方向に長い形状を成している。ガイド部材15は、例えば、磁性を有するSUS板によって構成されている。ガイド部材15の厚みは、例えば、0.2mm〜0.3mmである。
【0049】
ガイド部材15は、上側に向かって膨らむように湾曲する湾曲部34と、湾曲部34の左右両端部から径方向内側(定着ベルト11の回転軸X1に接近する側)に向かって屈曲される一対の第1平板部35と、各第1平板部35の径方向内側の端部から下側に向かって屈曲される一対の第2平板部36と、を備えている。湾曲部34は、定着ベルト11の上部(IHコイル20と対向する部分)を径方向内側からガイドすることで、定着ベルト11の回転軌道を安定させている。各第2平板部36は、ステー24の左右両側面の上部に固定されている。これにより、ガイド部材15がステー24に支持されている。
【0050】
定着装置8の保持部材16は、前後方向に長い形状を成している。保持部材16は、上側に向かって開口されたコ字状を成している。保持部材16の下面は、ステー24の上面に固定されている。これにより、保持部材16がステー24に支持されている。保持部材16の内部には、電装部品(図示せず)の配線が保持されている。
【0051】
次に、上記のように構成された定着装置8において、用紙Sにトナー像を定着させる動作について説明する。
【0052】
図2を参照して、用紙Sにトナー像を定着させる際には、加熱機構13のIHコイル20に高周波電流を流す。これに伴って、IHコイル20が磁界を発生させ、この磁界の作用によって定着ベルト11に渦電流が発生し、定着ベルト11が発熱する。つまり、IHコイル20によって定着ベルト11が加熱される。
【0053】
また、用紙Sにトナー像を定着させる際には、モーターなどの駆動源(図示せず)によって加圧ローラー12を回転させる(図2の矢印A参照)。このように加圧ローラー12が回転すると、これに従動して定着ベルト11が回転する(図2の矢印B参照)。これに伴って、定着ベルト11が固定部材14の接触シート26に対して摺動する。つまり、本実施形態では、所謂「摺動ベルト方式」が採用されている。
【0054】
この状態で、用紙Sが定着ニップNに進入すると、用紙Sとトナー像が定着ベルト11及び加圧ローラー12によって加熱及び加圧される。これにより、用紙Sにトナー像が定着する。
【0055】
次に、第1〜第3比較例に係る固定部材41〜43の課題について、図4図6を参照しつつ説明する。
【0056】
固定部材41〜43の形状には、以下の機能1〜3が求められる。
<機能1>搬送方向Yにおける定着ニップNの幅(以下、「定着ニップ幅」と称する)を広げて、用紙Sに対するトナー像の定着性を向上させる機能
<機能2>定着ニップNの出口付近における定着ベルト11の曲率の変化を利用して、用紙Sを定着ベルト11から自然分離させる機能
<機能3>定着ニップNの圧抜け(定着ニップNの圧力が部分的に低下する現象)による画質の低下を抑制する機能
【0057】
図4を参照して、第1比較例に係る固定部材41では、パッド27の下面が平面状を成している。また、第1比較例に係る固定部材41は、弾性シート28を備えていない。
【0058】
第1比較例に係る固定部材41では、パッド27の下面が平面状を成しているため、パッド27の下面が湾曲している場合と比較して、定着ニップ幅が狭くなる。従って、上記機能1は満たされない。
【0059】
また、第1比較例に係る固定部材41では、パッド27の下面が平面状を成しているため、定着ニップNの出口付近における定着ベルト11の曲率の変化が小さくなり、定着ニップNを通過した用紙Sが定着ベルト11から自然分離されにくい。従って、上記機能2も満たされない。
【0060】
一方で、第1比較例に係る固定部材41では、パッド27の下面が平面状を成しているため、用紙Sがパッド27の下面の形状に沿いやすい。そのため、パッド27の下面と定着ベルト11の内周面の間に隙間が生じにくく、定着ニップNの圧抜けは発生しにくい。従って、上記機能3は満たされる。
【0061】
図5を参照して、第2比較例に係る固定部材42では、パッド27の下面が一定の曲率で湾曲している。また、第2比較例に係る固定部材42は、弾性シート28を備えていない。
【0062】
第2比較例に係る固定部材42では、パッド27の下面が一定の曲率で湾曲しているため、パッド27の下面が平面状を成している場合と比較して、定着ニップ幅が広くなる。従って、上記機能1は満たされる。
【0063】
また、第2比較例に係る固定部材42では、パッド27の下面が一定の曲率で湾曲しているため、定着ニップNの出口付近における定着ベルト11の曲率の変化が大きくなり、定着ニップNを通過した用紙Sが定着ベルト11から自然分離されやすい。従って、上記機能2も満たされる。
【0064】
一方で、第2比較例に係る固定部材42では、定着ニップ幅を広げるためにパッド27の下面の曲率を大きくすると、厚紙のような腰の強い用紙Sが定着ニップNに進入した場合に、用紙Sがパッド27の下面の形状に沿って十分に湾曲しないことがある。このように用紙Sの湾曲が不十分であると、定着ベルト11の内周面とパッド27の下面の間に隙間Gが形成され、これに伴って、定着ニップNの圧抜けが発生する。従って、上記機能3は満たされない。なお、定着ニップNの圧抜けが発生するか否かは、例えば、パッド27の下面の上流側部分31と下流側部分32の境界Zの形状、加圧ローラー12の外径、加圧ローラー12の弾性層の設定(厚み、硬度)、定着ニップNの圧力など、様々な要素に依存する。
【0065】
図6を参照して、第3比較例に係る固定部材43では、パッド27の下面の上流側部分31が平面状を成しており、パッド27の下面の下流側部分32が湾曲している。第3比較例に係る固定部材43は、弾性シート28を備えていない。
【0066】
第3比較例に係る固定部材43では、パッド27の下面の下流側部分32が湾曲しているため、第2比較例に係る固定部材42と同様の理由により、上記機能1及び機能2は満たされる。
【0067】
一方で、第3比較例に係る固定部材43では、定着ニップ幅を広げるためにパッド27の下面の下流側部分32の曲率を大きくすると、第2比較例に係る固定部材42と同様の理由により、定着ニップNの圧抜けが発生する。従って、上記機能3は満たされない。
【0068】
以上のように、第1〜第3比較例に係る固定部材41〜43はいずれも、その形状に求められる機能1〜3をすべて満たすことは困難である。
【0069】
これに対して、本実施形態に係る固定部材14では、パッド27の下面の下流側部分32が湾曲しているため、パッド27の下面が平面状を成している場合と比較して、定着ニップ幅が広くなる。従って、上記機能1は満たされる。
【0070】
また、本実施形態に係る固定部材14では、パッド27の下面の下流側部分32が湾曲しているため、定着ニップNの出口付近における定着ベルト11の曲率の変化が大きくなり、定着ニップNを通過した用紙Sが定着ベルト11から分離されやすい。従って、上記機能2も満たされる。
【0071】
更に、本実施形態に係る固定部材14では、パッド27の下面の上流側部分31と下流側部分32の境界Zが弾性シート28によって覆われている。そのため、厚紙のような腰の強い用紙Sが定着ニップNに進入した場合に、用紙Sがパッド27の下面の形状に沿って十分に湾曲しなくても、定着ベルト11の内周面とパッド27の下面の間に隙間が形成されにくくなり、定着ニップNの圧抜けを抑制することが可能となる(図3参照)。従って、上記機能3も満たされる。
【0072】
以上のように、本実施形態に係る固定部材14は、その形状に求められる機能1〜3をバランス良く満たすことが可能である。
【0073】
また、パッド27の下面の全部に弾性部材が固定される場合、定着ニップNの圧抜けを抑制するためには、弾性部材に0.5mm〜1mm程度の厚みが必要となる。これは、定着ニップNの圧抜けが発生しやすい部分だけでなく、定着ニップNの圧抜けが発生しにくい部分においても、弾性部材の弾性力が発揮されてしまうからである。
【0074】
これに対して、本実施形態では、パッド27の下面の一部(定着ニップNの圧抜けが発生しやすい部分)のみに弾性シート28が固定されているため、弾性シート28に0.1mm〜0.2mmの厚みがあれば、定着ニップNの圧抜けを十分に抑制することが可能となる。つまり、本実施形態では、パッド27の下面に対する弾性シート28の固定面積を小さくするだけでなく、弾性シート28の厚みを薄くすることが可能となる。これに伴って、弾性シート28の熱容量を小さくすることが可能となり、ウォームアップタイムを短縮することができる。
【0075】
また、弾性シート28の厚みが0.1mm〜0.2mmであるため、弾性シート28の左右両端部(搬送方向Yにおける両端部)とパッド27の下面との間に段差が発生するのを抑制し、弾性シート28の左右両端部とパッド27の下面を滑らかに連続させることが可能となる。これに伴って、画質の低下を抑制することが可能となる。
【0076】
また、パッド27の下面の上流側部分31の断面の曲率半径Raとパッド27の下面の下流側部分32の断面の曲率半径Rbとの間に、Ra>Rbの関係が成り立っている。このような構成を採用することで、定着ニップNに進入する用紙Sに掛かるストレスを軽減し、定着ニップNへと用紙Sを安定的に進入させることが可能となる。
【0077】
更に、パッド27の下面の上流側部分31は、平面状を成している。このような構成を採用することで、パッド27の下面の上流側部分31を搬送方向Yに沿わせることが可能となり、定着ニップNへと用紙を一層安定的に進入させることが可能となる。
【0078】
また、固定部材14は、パッド27と定着ベルト11の間に介装される接触シート26を備えている。このような構成を採用することで、固定部材14に対する定着ベルト11の摺動性を向上させることが可能となる。更に、固定部材14は、パッド27を挟んで定着ニップNの反対側に設けられるステー24を備え、ステー24がパッド27を支持している。このような構成を採用することで、加圧ローラー12からの押圧力によってパッド27の位置がずれるのを抑制することが可能となる。
【0079】
また、本発明に係る画像形成装置1は、上記定着装置8を備えている。このような構成を採用することで、用紙Sに対するトナー像の定着性が高く、定着ニップNの圧抜けによる画質の低下を抑制可能な画像形成装置1を提供することが可能となる。
【0080】
本実施形態では、パッド27の下面の上流側部分31が平面状を成しており、パッド27の下面の下流側部分32が上側(加圧ローラー12の回転軸X2から離間する側)に向かって膨らむように湾曲している。一方で、他の異なる実施形態では、図7に示されるように、パッド27の下面の上流側部分31及び下流側部分32の両方が上側(加圧ローラー12の回転軸X2から離間する側)に向かって膨らむように湾曲していても良い。このような構成を採用することで、定着ニップ幅を一層広くすることが可能となり、用紙Sに対するトナー像の定着性を一層向上させることが可能となる。なお、このような構成を採用する場合、上流側部分31の断面の曲率半径Raは、例えば、80mm以上であり、下流側部分32の断面の曲率半径Rbは、例えば、40mm以上である。また、定着ニップNへと用紙Sを安定的に進入させるためには、本実施形態と同様に、上流側部分31の断面の曲率半径Raと下流側部分32の断面の曲率半径Rbとの間にRa>Rbの関係が成り立っているのが好ましい。
【0081】
本実施形態では、IHコイル20が熱源として用いられている。一方で、他の異なる実施形態では、ハロゲンヒーターなどのIHコイル20以外の部材が熱源として用いられても良い。
【0082】
本実施形態では、画像形成装置1がプリンターである。一方で、他の異なる実施形態では、画像形成装置1がコピー機、ファクシミリ、複合機(プリント機能、コピー機能及びファックス機能等を複合的に備えた画像形成装置)等であっても良い。
【符号の説明】
【0083】
1 画像形成装置
8 定着装置
11 定着ベルト
12 加圧ローラー(加圧部材の一例)
14 固定部材
24 ステー
26 接触シート
27 パッド
28 弾性シート
31 上流側部分(複数の部分の一例)
32 下流側部分(複数の部分の一例)
N 定着ニップ
S 用紙(記録媒体の一例)
X1 (定着ベルトの)回転軸
X2 (加圧ローラーの)回転軸
Y (用紙の)搬送方向
Z (上流側部分と下流側部分の)境界
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7