特許第6828623号(P6828623)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6828623R−T−B系希土類焼結磁石及びR−T−B系希土類焼結磁石用合金
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  • 特許6828623-R−T−B系希土類焼結磁石及びR−T−B系希土類焼結磁石用合金 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6828623
(24)【登録日】2021年1月25日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】R−T−B系希土類焼結磁石及びR−T−B系希土類焼結磁石用合金
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/057 20060101AFI20210128BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20210128BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20210128BHJP
   B22F 1/00 20060101ALN20210128BHJP
【FI】
   H01F1/057 170
   C22C38/00 303D
   B22F3/00 F
   !B22F1/00 Y
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-133619(P2017-133619)
(22)【出願日】2017年7月7日
(65)【公開番号】特開2019-16707(P2019-16707A)
(43)【公開日】2019年1月31日
【審査請求日】2020年2月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100169694
【弁理士】
【氏名又は名称】荻野 彰広
(72)【発明者】
【氏名】阪口 隼也
【審査官】 秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特表2017−508269(JP,A)
【文献】 特開2016−184737(JP,A)
【文献】 特開2017−045828(JP,A)
【文献】 特開2008−264875(JP,A)
【文献】 特開平05−017853(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/119393(WO,A1)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素であるRと、Bと、Geと、Alと、Gaと、Cuと、Feを主成分とする遷移金属であるTおよび不可避不純物を含み、
Rを13.5原子%以上、17.0原子%未満、
Bを4.5原子%以上、5.5原子%未満、
Geを0.00原子%超、0.45原子%以下、
Alを0.05原子%以上、1.50原子%以下、
Gaを0.05原子%以上、1.40原子%以下、
Cuを0.03原子%以上、0.30原子%未満含み、
Tおよび不可避不純物が残部であることを特徴とするR−T−B系希土類焼結磁石。
【請求項2】
前記Rが、Dyを0.00原子%以上、3.00原子%以下と、Tbを0.00原子%以上、3.00原子%以下のうち、一方または両方を含有することを特徴とする請求項1に記載のR−T−B系希土類焼結磁石。
【請求項3】
希土類元素であるRと、Bと、Geと、Alと、Gaと、Cuと、Feを主成分とする遷移金属であるTおよび不可避不純物を含み、
Rを13.5原子%以上、17.0原子%未満、
Bを4.5原子%以上、5.5原子%未満、
Geを0.00原子%超、0.45原子%以下、
Alを0.05原子%以上、1.50原子%以下、
Gaを0.05原子%以上、1.40原子%以下、
Cuを0.03原子%以上、0.30原子%未満含み、
Tおよび不可避不純物が残部であることを特徴とするR−T−B系希土類焼結磁石用合金。
【請求項4】
前記Rが、Dyを0.00原子%以上、3.00原子%以下と、Tbを0.00原子%以上、3.00原子%以下のうち、一方または両方を含有することを特徴とする請求項3に記載のR−T−B系希土類焼結磁石用合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、R−T−B系希土類焼結磁石及びR−T−B系希土類焼結磁石用合金に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、R−T−B系希土類焼結磁石(以下、「R−T−B系磁石」と略記する場合がある)は、ハードディスクドライブのボイスコイルモーター、ハイブリッド自動車や電気自動車のエンジン用モーターなどのモーターに使用されている。自動車用モーターに用いられるR−T−B系磁石は、高温に曝されるため、高い保磁力(Hcj)および角形性(Hk/Hcj)が要求される。
従来、R−T−B系磁石としては、特許文献1〜4に記載のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5572673号公報
【特許文献2】特開2016−169438号公報
【特許文献3】特表2017−508269号公報
【特許文献4】特開2015−119130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来、重希土類の含有量を削減するためにGaを含むとともに、B含有量を削減した十分な保磁力(Hcj)を有するR−T−B系磁石では、角形性(Hk/Hcj)が不十分であった。このため、より一層R−T−B系磁石の角形性(Hk/Hcj)を高くすることが要求されている。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、十分な保磁力(Hcj)を有し、かつ高い角形性(Hk/Hcj)を有するR−T−B系希土類焼結磁石を提供することを課題とする。
また、本発明は、十分な保磁力(Hcj)を有し、かつ高い角形性(Hk/Hcj)を有するR−T−B系磁石が得られるR−T−B系希土類焼結磁石用合金を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために、以下に示すように、鋭意検討した。
すなわち、B含有量が4.5原子%以上、5.5原子%未満であるR−T−B系磁石に着目し、その角形性(Hk/Hcj)を向上させるべく、検討した。
その結果、Gaを0.05原子%以上、1.40原子%以下含み、かつGeを0.00原子%超、0.45原子%以下含むことにより、十分な保磁力(Hcj)を有し、かつ高い角形性(Hk/Hcj)を有するR−T−B系磁石が得られることを見出し、本発明を想到した。
すなわち、本発明は以下の事項に関する。
【0007】
(1)希土類元素であるRと、Bと、Geと、Alと、Gaと、Cuと、Feを主成分とする遷移金属であるTおよび不可避不純物を含み、
Rを13.5原子%以上、17.0原子%未満、
Bを4.5原子%以上、5.5原子%未満、
Geを0.00原子%超、0.45原子%以下、
Alを0.05原子%以上、1.50原子%以下、
Gaを0.05原子%以上、1.40原子%以下、
Cuを0.03原子%以上、0.30原子%未満含み、
Tおよび不可避不純物が残部であることを特徴とするR−T−B系希土類焼結磁石。
【0008】
(2)前記Rが、Dyを0.00原子%以上、3.00原子%以下と、Tbを0.00原子%以上、3.00原子%以下のうち、一方または両方を含有することを特徴とする(1)に記載のR−T−B系希土類焼結磁石。
【0009】
(3)希土類元素であるRと、Bと、Geと、Alと、Gaと、Cuと、Feを主成分とする遷移金属であるTおよび不可避不純物を含み、
Rを13.5原子%以上、17.0原子%未満、
Bを4.5原子%以上、5.5原子%未満、
Geを0.00原子%超、0.45原子%以下、
Alを0.05原子%以上、1.50原子%以下、
Gaを0.05原子%以上、1.40原子%以下、
Cuを0.03原子%以上、0.30原子%未満含み、
Tおよび不可避不純物が残部であることを特徴とするR−T−B系希土類焼結磁石用合金。
【0010】
(4)前記Rが、Dyを0.00原子%以上、3.00原子%以下と、Tbを0.00原子%以上、3.00原子%以下のうち、一方または両方を含有することを特徴とする(3)に記載のR−T−B系希土類焼結磁石用合金。
【発明の効果】
【0011】
本発明のR−T−B系希土類焼結磁石は、十分な保磁力(Hcj)を有し、かつ高い角形性(Hk/Hcj)を有する。
本発明のR−T−B系希土類焼結磁石用合金を用いることにより、十分な保磁力(Hcj)を有し、かつ高い角形性(Hk/Hcj)を有するR−T−B系磁石を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】合金B、合金Iから作製したR−T−B系磁石の第2熱処理温度と角形性の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態のR−T−B系希土類焼結磁石およびR−T−B系希土類焼結磁石用合金について詳細に説明する。本発明は、以下に説明する一実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0014】
「R−T−B系希土類焼結磁石用合金」
本実施形態のR−T−B系希土類焼結磁石用合金(以下、「R−T−B系磁石用合金」と略記する場合がある。)は、希土類元素であるRと、Bと、Geと、Alと、Gaと、Cuと、Feを主成分とする遷移金属であるTおよび不可避不純物を含む。
【0015】
本実施形態のR−T−B系磁石用合金は、R(希土類元素)を13.5原子%以上、17.0原子%未満、Bを4.5原子%以上、5.5原子%未満、Geを0.00原子%超、0.45原子%以下、Alを0.05原子%以上、1.50原子%以下、Gaを0.05原子%以上、1.40原子%以下、Cuを0.03原子%以上、0.30原子%未満含み、T(遷移金属)および不可避不純物が残部である。
【0016】
R−T−B系磁石用合金に含まれるR(希土類元素)の含有量は13.5原子%以上、17.0原子%未満である。Rの含有量が13.5原子%以上であると、保磁力の十分に高いR−T−B系磁石が得られる。また、Rの含有量が17.0原子%未満であると、残留磁化の十分に高いR−T−B系磁石が得られる。Rの含有量は、14.0〜16.5原子%であることが好ましい。
【0017】
R(希土類元素)としては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Ho、Er、Tm、Yb、Luが挙げられる。これらの希土類元素の中でも特に、Nd、Prが好ましく用いられる。Rは、Ndを主成分とすることが好ましい。
R(希土類元素)は、Dyを0.00原子%以上、3.00原子%以下と、Tbを0.00原子%以上、3.00原子%以下のうち、一方または両方を含有するものであってもよい。Rが、DyとTbの一方または両方を含有する場合、より保磁力の高いR−T−B系磁石が得られる。しかし、DyおよびTbは、資源が偏在していて産出量が限られるため、含有量を抑制することが好ましい。このため、Dy含有量は、0.00原子%以上、2.50原子%以下であることが好ましく、Tb含有量は、0.00原子%以上、2.50原子%以下であることが好ましい。
【0018】
R−T−B系磁石用合金に含まれるB(ホウ素)含有量は4.5原子%以上、5.5原子%未満である。Bの含有量が4.5原子%以上であると、R−T−B系磁石中におけるR17相の析出が抑制され、良好な保磁力および角形性を有するR−T−B系磁石が得られる。Bが5.5原子%未満であると、より高い保磁力を有するR−T−B系磁石が得られる。Bの含有量は、4.8〜5.5原子%であることが好ましい。R−T−B系磁石用合金に含まれるBは、一部をCまたはNで置換できる。
【0019】
本実施形態のR−T−B系磁石用合金は、下記(式1)を満たすことが好ましい。
0.27≦B/R≦0.40・・(式1)
(式1)において、Bはホウ素元素の濃度(原子%)、Rは希土類元素合計の濃度(原子%)を表す。
【0020】
上記(式1)で示されるB/Rは0.27〜0.40であることが好ましく、高い保磁力を有するR−T−B系磁石を得るために、0.29〜0.38であることがさらに好ましい。
B含有量が4.5原子%以上、5.5原子%未満であってB/Rが(式1)で示される範囲であると、これを用いて製造したR−T−B系磁石の粒界相の分布が均一となる。また、相対的にR−T−B系磁石用合金中におけるB含有量が少なくなり、R(希土類元素)とT(遷移金属)の含有量が多くなる。その結果、R−T−B系磁石用合金を用いてR−T−B系磁石を製造する工程において、後述するR−T−M相の生成がMにより効果的に促進される。ここで、Mは合金に含まれるR、T、B以外の元素で構成される。よって、得られたR−T−B系磁石が、十分にR−T−M相の生成された高い保磁力を有するものになると推定される。
【0021】
R−T−B系磁石用合金に含まれるGeは0.00原子%超、0.45原子%以下である。R−T−B系磁石用合金中にGeとGaがともに含まれると、高い保磁力(Hcj)を維持したまま高い角形性(Hk/Hcj)を有するR−T−B系磁石が得られる。それは、以下に示す理由によるものであると推定される。
Gaを含みBを削減したR−T−B系磁石では、磁性相である主相間に生成されたR−T−M相によって、主相間の磁気的な結合が弱められることで、保磁力の増加がもたらされる。しかし、このR−T−B系磁石では、主相間の磁気的な結合が弱いため、磁化反転が部分的に進行する。このことが、R−T−B系磁石の角形性の低下をもたらしていた。
これに対し、Gaを含みBを削減したR−T−B系磁石にGeを添加すると、保磁力を維持したままで角形性を改善できることが確認できた。これは、Geを添加することにより主相間の磁気的相互作用が変化したためであると推定される。
しかし、Geの含有量が0.45原子%を超えると、R−T−B系磁石用合金を用いて製造したR−T−B系磁石の角形性(Hk/Hcj)が低下する。このため、Geの含有量は0.45原子%以下とする。Geの含有量は、0.01〜0.40原子%であることが好ましい。
【0022】
R−T−B系磁石用合金に含まれるAlの含有量は0.05原子%以上、1.50原子%である。Alの含有量が0.10原子%以上であると、R−T−B系磁石用合金を用いてR−T−B系磁石を製造する際に、R−T−M相の生成が十分に促進される。Alの含有量は、0.10原子%以上であることが好ましい。Alの含有量が1.50原子%以下であると、R−T−B系磁石の磁化(Br)および最大エネルギー積(BHmax)が良好となる。R−T−B系磁石の磁化および最大エネルギー積を確保するために、Alの含有量は、1.00原子%以下であることが好ましい。
【0023】
R−T−B系磁石用合金に含まれるGaの含有量は0.05原子%以上、1.40原子%以下である。R−T−B系磁石用合金にGaが含まれると、R17相の生成が抑制され、R17相が生成することによる保磁力および角形性の低下を防止できる。また、GaがGeとともに含まれると、保磁力(Hcj)を維持したまま高い角形性(Hk/Hcj)を有するR−T−B系磁石が得られる。また、Gaの含有量が0.10原子%以上であると、R−T−B系磁石用合金を用いてR−T−B系磁石を製造する際に、R−T−M相の生成が十分に促進される。Gaの含有量は、0.10原子%以上であることが好ましい。Gaの含有量が1.40原子%以下であると、R−T−B系磁石の磁化(Br)および最大エネルギー積(BHmax)が良好となる。R−T−B系磁石の磁化および最大エネルギー積を確保するために、Gaの含有量は、1.35原子%以下であることが好ましい。
【0024】
R−T−B系磁石用合金に含まれるCuの含有量は0.03原子%以上、0.30原子%未満である。R−T−B系磁石用合金にCuが0.03原子%以上含まれると、R−T−B系磁石を製造するための焼結が容易となる。Cuの含有量は、0.05原子%以上であることが好ましい。Cuの含有量が0.30原子%未満であると、R−T−B系磁石の残留磁化(Br)が良好となる。Cuの含有量は、0.28原子%未満であることが好ましい。
【0025】
R−T−B系磁石用合金に含まれる遷移金属Tは、Feを主成分とする。R−T−B系磁石用合金のTに含まれるFe以外の遷移金属としては、種々の3〜11族元素を用いることができる。Fe以外の遷移金属として具体的には、例えば、Ti、Zr、Co、Nbなどが挙げられる。
R−T−B系磁石用合金のTがZr、Tiのいずれか一方または両方を含む場合、保磁力および角形性がより高いR−T−B系磁石が得られる。TがZr、Tiのいずれか一方または両方を含む場合、Zrの含有量は0.015〜0.10原子%であることが好ましく、Tiの含有量は0.015〜0.10原子%であることが好ましい。
R−T−B系磁石用合金のTがCoを含む場合、Tc(キュリー温度)及び耐食性が改善されるため好ましい。TがCoを含む場合、Coの含有量は0.30〜3.00原子%であることが好ましい。
R−T−B系磁石用合金のTがNb、Zr、Tiのいずれか一種以上を含む場合、R−T−B系磁石を製造するための焼結時に主相の粒成長が抑制されたものとなるため、好ましい。
【0026】
R−T−B系磁石用合金中には、不純物が含まれている場合がある。R−T−B系磁石用合金中に不純物として含まれる酸素と窒素と炭素の合計濃度が高いと、焼結工程において、これら元素と希土類元素Rとが結合して希土類元素Rが消費される。このため、焼結工程後に熱処理を行う場合、R−T−B系磁石用合金中の希土類元素Rのうち、熱処理時にR−T−M相の原料として利用される希土類元素Rの量が少なくなる。その結果、熱処理によって生成するR−T−M相の生成量が少なくなり、熱処理によるR−T−B系磁石の保磁力(Hcj)向上効果が得られにくくなる。したがって、R−T−B系磁石用合金中に含まれる酸素と窒素と炭素の合計濃度は2原子%以下であることが好ましい。
【0027】
本実施形態のR−T−B系磁石用合金は、必要に応じて、上記Rと、Bと、Geと、Alと、Gaと、Cuと、上記Tおよび不可避不純物の他に、これらとは別の元素を含んでいてもよい。
【0028】
R−T−B系磁石用合金は、R14Bからなる主相と、主相よりRを多く含む粒界相とを備えている。
【0029】
(R−T−B系磁石用合金の製造方法)
本実施形態のR−T−B系磁石用合金を製造するには、まず、SC(ストリップキャスト)法により、Ar雰囲気中で1450℃程度の温度で所定の組成を有する合金溶湯を、銅ロールに溶湯を注いで鋳造合金薄片を製造する。
その後、得られた鋳造合金薄片を、水素解砕法などにより解砕し、粉砕機により粉砕することによってR−T−B系磁石用合金が得られる。
【0030】
鋳造合金薄片を水素解砕法により解砕する方法としては、例えば、以下に示す方法が挙げられる。まず、室温で鋳造合金薄片に水素を吸蔵させ、300℃程度の温度の水素中で熱処理する。その後、熱処理炉内を減圧して鋳造合金における主相の格子間に入り込んだ水素を脱気する。その後、500℃程度の温度で熱処理して、鋳造合金の粒界相中の希土類元素と結合した水素を除去する。水素の吸蔵された鋳造合金薄片は、体積が膨張するので、合金内部に容易に多数のひび割れ(クラック)が発生し、解砕される。
【0031】
水素解砕された鋳造合金薄片を粉砕する方法としては、ジェットミルなどが用いられる。具体的には、水素解砕された鋳造合金薄片をジェットミル粉砕機に入れ、例えば0.6MPaの高圧窒素を用いて平均粒度1〜4.5μmに微粉砕して粉末とする。粉末の平均粒度を小さくした方が、焼結磁石の保磁力が向上する。しかし、粒度をあまり小さくすると、粉末表面が酸化されやすくなり、逆に保磁力が低下してしまう。
【0032】
なお、本実施形態においては、SC法を用いてR−T−B系磁石用合金を製造する場合について説明した。しかし、本実施形態のR−T−B系磁石用合金の製造方法は、SC法を用いる製造方法に限定されない。例えば、R−T−B系磁石用合金は、遠心鋳造法、ブックモールド法などを用いて鋳造してもよい。
【0033】
「R−T−B系希土類焼結磁石」
本実施形態のR−T−B系磁石は、本実施形態のR−T−B系磁石用合金を成形して焼結した焼結体である。したがって、本実施形態のR−T−B系磁石は、本実施形態のR−T−B系磁石用合金と同様に、希土類元素であるRと、Bと、Geと、Alと、Gaと、Cuと、Feを主成分とする遷移金属であるTおよび不可避不純物を含む。
【0034】
本実施形態のR−T−B系磁石は、R(希土類元素)を13.5原子%以上、17.0原子%未満、Bを4.5原子%以上、5.5原子%未満、Geを0.00原子%超、0.45原子%以下、Alを0.05原子%以上、1.50原子%以下、Gaを0.05原子%以上、1.40原子%以下、Cuを0.03原子%以上、0.30原子%未満含み、T(遷移金属)および不可避不純物が残部である。
本実施形態のR−T−B系磁石中のRは、Dyを0.00原子%以上、3.00原子%以下と、Tbを0.00原子%以上、3.00原子%以下のうち、一方または両方を含有していてもよい。
【0035】
本実施形態のR−T−B系磁石は、必要に応じて、上記Rと、Bと、Geと、Alと、Gaと、Cuと、上記Tおよび不可避不純物の他に、これらとは別の元素を含んでいてもよい。
本実施形態のR−T−B系磁石に含まれる各成分の限定理由と好ましい含有量の範囲は、R−T−B系磁石用合金と同じである。
【0036】
本実施形態のR−T−B系磁石は、R14Bからなる主相と、主相よりRを多く含む粒界相とを備えている。粒界相は、Rリッチ相と、Rリッチ相よりもRの濃度が低く遷移金属元素の濃度が高いR−T−M相とを有している。Rリッチ相は、希土類元素の合計原子濃度が50原子%以上のものである。R−T−M相は、希土類元素の合計原子濃度が25〜35原子%であり、Gaを含む。
Gaを含みBを削減したR−T−B系磁石では、磁性相である主相間に生成されたR−T−M相によって、主相間の磁気的な結合が弱められることで、保磁力の増加がもたらされる。しかし、このR−T−B系磁石では、主相間の磁気的な結合が弱いため、磁化反転が部分的に進行する。このことが、R−T−B系磁石の角形性の低下をもたらしていた。
これに対し、Gaを含みBを削減したR−T−B系磁石にGeを添加すると、保磁力を維持したままで角形性を改善できることが確認できた。これは、Geを添加することにより主相間の磁気的相互作用が変化したためであると推定される。
【0037】
R−T−M相中のFeの原子濃度は、50〜70原子%であることが好ましい。R−T−M相中のFeの原子濃度が50原子%以上であると、粒界相中にR−T−M相が含まれていることによる保磁力(Hcj)向上効果が、より顕著となる。また、R−T−M相のFeの原子濃度が70原子%以下であると、R17相あるいはFeが析出してR−T−B系磁石の磁気特性に悪影響を及ぼすことを防止できる。
【0038】
「R−T−B系希土類焼結磁石の製造方法」
次に、本実施形態のR−T−B系磁石の製造方法を説明する。
まず、本実施形態のR−T−B系磁石用合金の粉末に、潤滑剤として0.02質量%〜0.03質量%のステアリン酸亜鉛を添加し、横磁場中成型機などを用いてプレス成形し、成形体とする。
次に、成形体を真空中で焼結し、焼結体(R−T−B系磁石)とする。成形体を焼結する焼結温度は、800℃〜1200℃であることが好ましく、より好ましくは900℃〜1100℃である。
【0039】
本実施形態では、焼結後に得られた焼結体に400℃〜950℃で熱処理を行うことが好ましい。熱処理を行うことにより、R−T−M相がより一層多く含まれるR−T−B系磁石中となり、より一層保磁力の高いR−T−B系磁石となる。
本実施形態では、上記(式1)を満たすことによってR−T−B系磁石用合金中にR17相が生成されている。R17相は、R−T−B系磁石用合金を焼結した後の熱処理において、R−T−B系磁石のR−T−M相の原料として使用されると推測される。
【0040】
焼結後のR−T−B系磁石の熱処理は、1回だけでもよいし2回以上であってもよい。
例えば、焼結後の熱処理を1回だけ行う場合には、450℃〜550℃で熱処理を行うことが好ましい。また、焼結後の熱処理を2回行う場合には、600℃〜950℃の温度と、450℃〜550℃の温度との2段階の温度で熱処理を行うことが好ましい。
2段階の温度で熱処理を行う場合、以下に示すように、R−T−M相の生成が促進され、より保磁力の優れたR−T−B系磁石が得られると推定される。
すなわち、2段階の温度で熱処理を行う場合、1回目の600〜950℃の熱処理において、Rリッチ相が液相となって主相の周囲に回り込む。このことによって、2回目の400〜550℃の熱処理において、Rリッチ相とR17相とMとの反応が促進され、R−T−M相の生成が促進される。
【0041】
本実施形態のR−T−B系磁石は、0.00原子%超、0.45原子%以下のGeと、0.05原子%以上、1.40原子%以下のGaとを含むため、GeとGaとの相乗効果により、高い保磁力(Hcj)を維持したまま高い角形性(Hk/Hcj)を有する。
したがって、本実施形態のR−T−B系磁石は、モーターに好適に用いられる優れた磁気特性を有する。
【0042】
R−T−B系磁石の保磁力(Hcj)は、高いほど好ましい。R−T−B系磁石の保磁力(Hcj)は、自動車などの電動パワーステアリングのモーター用磁石として用いる場合、20kOe以上であることが好ましい。
R−T−B系磁石の角形性(Hk/Hcj)は、高いほど好ましい。R−T−B系磁石の角形性(Hk/Hcj)は、自動車などの電動パワーステアリングのモーター用磁石として用いる場合、0.90以上であることが好ましい。
【実施例】
【0043】
「実施例1〜7、比較例1〜3」
Ndメタル(純度99wt%以上)、Prメタル(純度99wt%以上)、フェロボロン(Fe80%、B20w%)、鉄(純度99%wt以上)、Ge(純度99wt%以上)、Alメタル(純度99wt%以上)、Gaメタル(純度99wt%以上)、Cuメタル(純度99wt%)、Coメタル(純度99wt%以上)、Dyメタル(純度99wt%以上)を、表1に示す合金A〜Jの合金組成になるように秤量し、アルミナるつぼに装填した。表1における「R」は希土類元素の合計含有量(原子%)であり、「bal.」は残部である。
【0044】
【表1】
【0045】
その後、アルミナるつぼを高周波真空誘導炉内に設置して、炉内をArで置換した。そして、高周波真空誘導炉内を1450℃まで加熱し、合金を溶融させて合金溶湯とした。その後、水冷銅ロールに合金溶湯を注ぎ、SC(ストリップキャスト)法により鋳造し、鋳造合金とした。鋳造は、水冷銅ロールの周速度を1.0m/秒、合金溶湯の平均厚みを0.3mm程度とし、Ar雰囲気中で行った。その後、鋳造合金を破砕して鋳造合金薄片を得た。
【0046】
次に、鋳造合金薄片を以下に示す水素解砕法により解砕した。まず、鋳造合金薄片を室温の水素中に挿入して水素を吸蔵させた。続いて、水素を吸蔵させた鋳造合金薄片を、300℃の水素中で熱処理した。その後、熱処理炉内を減圧して、鋳造合金における主相の格子間の水素を脱気した。さらに、500℃まで加熱する熱処理を行って、鋳造合金の粒界相中の水素を放出除去し、室温まで冷却する方法により解砕した。
次に、ジェットミル(ホソカワミクロン100AFG)により、0.6MPaの高圧窒素を用いて、水素解砕された鋳造合金薄片を平均粒度(d50)4.5μmに微粉砕し、R−T−B系合金粉末を得た。
【0047】
次に、得られたR−T−B系合金粉末に、潤滑剤として0.02質量%〜0.03質量%のステアリン酸亜鉛を添加し、横磁場中成型機を用いて成型圧力0.8t/cmでプレス成形して成形体とした。
その後、成形体をカーボン製のトレイに入れて熱処理炉内に配置し、0.01Paまで減圧した。そして、有機物の除去を目的として500℃で熱処理し、水素化物の分解を目的として800℃で熱処理した。その後、焼結を目的として1000〜1100℃で熱処理を行って焼結体とし、900℃で1時間の第1熱処理と、500℃で1時間の第2熱処理とを行って実施例1〜7、比較例1〜3のR−T−B系磁石を得た。
表2に、実施例1〜7、比較例1〜3のR−T−B系磁石に使用した合金の種類を示す。
【0048】
その後、得られた実施例1〜7、比較例1〜3のR−T−B系磁石それぞれの磁気特性を、パルス型BHカーブトレーサー(東英工業TPM2−10)で測定した。その結果を表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
表2において「Br」とは残留磁化であり、「Hcj」とは保磁力である。「Hk/Hcj」はBrが90%となる磁場HkとHcjとの比に基づく角形性である。これらの磁気特性の値は、それぞれ3個のR−T−B系磁石を測定して得た値の算術平均値である。
【0051】
表2に示すように、Geを0.00原子%超、0.45原子%以下含む合金A〜Gを用いた実施例1〜7のR−T−B系磁石は、十分な保磁力(Hcj)を有し、かつ高い角形性(Hk/Hcj)を有するものであった。
また、Dyを含む合金D〜Gを用いた実施例4〜7のR−T−B系磁石は、Dyを含まない実施例1〜3のR−T−B系磁石よりも、高い保磁力(Hcj)を有するものであった。
【0052】
これに対し、Geを含まない合金H、Iを用いた比較例1、2のR−T−B系磁石は、実施例1〜7と比較して、角形性(Hk/Hcj)が低かった。また、Ge含有量が0.45原子%超である合金Jを用いた比較例3のR−T−B系磁石も、実施例1〜7と比較して、角形性(Hk/Hcj)が低かった。
【0053】
また、第2熱処理の温度を480℃、520℃、450℃のいずれかとしたこと以外は、実施例2および比較例2と同様にして合金Bを用いたR−T−B系磁石と、合金Iを用いたR−T−B系磁石を得た。
得られた合金Bを用いたR−T−B系磁石と、合金Iを用いたR−T−B系磁石について、実施例1と同様にして「Hk/Hcj」角形性を測定した。その結果を図1に示す。また、第2熱処理の温度が500℃である実施例2および比較例3の結果も併せて図1に示す。
【0054】
図1に示すように、Geを0.00原子%超、0.45原子%以下含む合金Bを用いたR−T−B系磁石では、Geを含まない合金Iを用いたR−T−B系磁石と比較して、第2熱処理の温度に関わらず、角形性(Hk/Hcj)が高かった。
図1