特許第6828685号(P6828685)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイソー株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6828685
(24)【登録日】2021年1月25日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用の正極材料
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/131 20100101AFI20210128BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20210128BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20210128BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20210128BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20210128BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20210128BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20210128BHJP
【FI】
   H01M4/131
   H01M4/62 Z
   H01M10/0566
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M4/136
   H01M4/58
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-539937(P2017-539937)
(86)(22)【出願日】2016年9月14日
(86)【国際出願番号】JP2016077109
(87)【国際公開番号】WO2017047639
(87)【国際公開日】20170323
【審査請求日】2019年8月8日
(31)【優先権主張番号】特願2015-180359(P2015-180359)
(32)【優先日】2015年9月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108993
【氏名又は名称】株式会社大阪ソーダ
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一博
(72)【発明者】
【氏名】中村 美和
(72)【発明者】
【氏名】松尾 孝
(72)【発明者】
【氏名】植田 秀昭
【審査官】 結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−294140(JP,A)
【文献】 特開2007−250380(JP,A)
【文献】 特開2016−085964(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/156195(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/131
H01M 4/136
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/58
H01M 4/62
H01M 10/0566
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質、バインダー、及び水溶性酸化防止剤を含む、非水電解質二次電池用の正極材料であって、
前記バインダーは、以下の構成単位(A)〜(C)を備える共重合体であり、
前記構成単位(A)は、下記一般式(1)で表される、水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位であり、
【化1】
[一般式(1)中、R1は、水素原子または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、R2およびR3は、それぞれ水素原子または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、nは、2〜30の整数である。]
前記構成単位(B)は、少なくとも1種の官能基を有するエチレン性不飽和モノマーから誘導される構成単位であり、
前記構成単位(C)は、5官能以下の多官能(メタ)アクリレートモノマーとから誘導される構成単位である、
非水電解質二次電池用の正極材料
【請求項2】
前記水溶性酸化防止剤が、アスコルビン酸及び/またはその塩、エリソルビン酸及び/またはその塩、緑茶ポリフェノール、グルタチオン、リポ酸、茶抽出物、並びにローズマリー抽出物からなる群より選択された少なくとも1種である、請求項1に記載の正極材料。
【請求項3】
前記バインダーが、水系バインダーである、請求項1または2に記載の正極材料。
【請求項4】
前記バインダー100質量部に対して、前記水溶性酸化防止剤が0.1〜50質量部含まれる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の正極材料。
【請求項5】
前記正極活物質が、AMO2(Aはアルカリ金属、Mは単一または2種以上の遷移金属からなり、その一部に非遷移金属を含んでもよい)、AM24(Aはアルカリ金属、Mは単一または2種以上の遷移金属からなり、その一部に非遷移金属を含んでもよい)、A2MO3(Aはアルカリ金属、Mは単一または2種以上の遷移金属からなり、その一部に非遷移金属を含んでもよい)、またはAMBO4(Aはアルカリ金属、BはP、Si、またはその混合物、Mは単一または2種以上の遷移金属からなり、その一部に非遷移金属を含んでもよい)のいずれかの組成で示されるアルカリ金属含有複合酸化物を含んでいる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の正極材料。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の正極材料と、正極集電体とを備える、非水電解質二次電池用の正極。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の正極材料を、正極集電体の表面に塗布する工程を備える、非水電解質二次電池用の正極の製造方法。
【請求項8】
請求項6に記載の正極と、負極と、有機電解液とを備える、非水電解質二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用の正極材料に関する。さらに詳しくは、本発明は、非水電解質二次電池の内部抵抗を効果的に低下させ、さらに、充放電サイクル特性を効果的に向上させることができる、非水電解質二次電池用の正極材料、当該正極材料を用いた正極、当該正極を用いた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池などの非水電解質二次電池は、エネルギー密度が高く、高電圧であるため、携帯電話やノートパソコン、カムコーダーなどの電子機器に広く用いられている。最近では、環境保護への意識の高まりや関連法の整備により、電気自動車やハイブリッド電気自動車などの車載用途や家庭用電力貯蔵用の蓄電池としての応用も進んできている。いずれの用途においても、電池の占有体積や質量等の観点より、電池のエネルギー密度は高いことが望ましい。
【0003】
通常、リチウムイオン二次電池では、正極にコバルト酸リチウム、負極には炭素材料が使用されている。作動電圧の上限は4.2Vで用いられるが、これはエネルギー密度と電池部材の耐久性とのバランスで設定されている。
【0004】
このようなリチウムイオン二次電池では、充電電圧が4Vを越えてくると、電解液やその他有機系部材の劣化が引き起こされる。また使用温度が高くなってくると、この劣化は促進される傾向にある。この電解液の劣化は正極の強力な酸化作用によるものであり、この酸化作用を防止するための手段として、電解液や電極中への酸化防止剤の添加が検討されている(例えば、特許文献1〜3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−338684号公報
【特許文献2】特開平11−67211号公報
【特許文献3】特開2006−209995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、特許文献1〜3の電池では、充放電を繰り返すうちに、酸化防止剤が電解液中に溶解または溶出し、酸化防止剤が失活して、酸化防止効果が持続しないという問題が見出された。
【0007】
また、リチウムイオン二次電池の使用温度が高くなった場合は、特に正極表面近傍における酸化雰囲気が強まり、酸化分解を受けやすくなる。このため、電池の内部抵抗が増大化し、特に充放電サイクル特性が低下するなどの問題がある。例えば、充電電圧が4V以上で高容量を維持し、かつ充放電サイクル特性を向上させるためには、正極での強力な酸化作用を抑制する必要がある。
【0008】
以上のような事情を鑑み、本発明は、非水電解質二次電池の内部抵抗を効果的に低下させ、さらに、充放電サイクル特性を効果的に向上させることができる、非水電解質二次電池用の正極材料を提供することを主な目的とする。さらに、本発明は、当該正極材料を用いた正極、当該正極を用いた非水電解質二次電池を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、正極活物質、バインダー、及び水溶性酸化防止剤を含む、非水電解質二次電池用の正極材料は、非水電解質二次電池の内部抵抗を効果的に低下させ、さらに、充放電サイクル特性を効果的に向上させることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0010】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 正極活物質、バインダー、及び水溶性酸化防止剤を含む、非水電解質二次電池用の正極材料。
項2. 前記水溶性酸化防止剤が、アスコルビン酸及び/またはその塩、エリソルビン酸及び/またはその塩、緑茶ポリフェノール、グルタチオン、リポ酸、茶抽出物、並びにローズマリー抽出物からなる群より選択された少なくとも1種である、項1に記載の正極材料。
項3. 前記バインダーが、水系バインダーである、項1または2に記載の正極材料。
項4. 前記バインダー100質量部に対して、前記水溶性酸化防止剤が0.1〜50質量部含まれる、項1〜3のいずれか1項に記載の正極材料。
項5. 前記正極活物質が、AMO2(Aはアルカリ金属、Mは単一または2種以上の遷移金属からなり、その一部に非遷移金属を含んでもよい)、AM24(Aはアルカリ金属、Mは単一または2種以上の遷移金属からなり、その一部に非遷移金属を含んでもよい)、A2MO3(Aはアルカリ金属、Mは単一または2種以上の遷移金属からなり、その一部に非遷移金属を含んでもよい)、またはAMBO4(Aはアルカリ金属、BはP、Si、またはその混合物、Mは単一または2種以上の遷移金属からなり、その一部に非遷移金属を含んでもよい)のいずれかの組成で示されるアルカリ金属含有複合酸化物を含んでいる、項1〜4のいずれか1項に記載の正極材料。
項6. 項1〜5のいずれか1項に記載の正極材料と、正極集電体とを備える、非水電解質二次電池用の正極。
項7. 項1〜5のいずれか1項に記載の正極材料を、正極集電体の表面に塗布する工程を備える、非水電解質二次電池用の正極の製造方法。
項8. 項6に記載の正極と、負極と、有機電解液とを備える、非水電解質二次電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、非水電解質二次電池用の正極材料が、正極活物質、バインダー、及び水溶性酸化防止剤を含むことから、非水電解質二次電池の内部抵抗を効果的に低下させ、さらに、充放電サイクル特性を効果的に向上させることができる。すなわち、本発明の非水電解質二次電池は、正極に当該正極材料を用いているため、内部抵抗が低く、充放電サイクル特性にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.正極材料
本発明の正極材料は、非水電解質二次電池の正極に用いるための正極材料であって、正極活物質、バインダー、及び水溶性酸化防止剤を含むことを特徴とする。以下、本発明の正極材料について、詳述する。
【0013】
本発明の正極材料に含まれる正極活物質としては、特に制限されず、非水電解質二次電池の正極に用いられる公知の正極活物質を用いることができる。正極活物質は、例えば、AMO2、AM24、A2MO3、またはAMBO4の組成で示されるアルカリ金属含有複合酸化物を含んでいることが好ましい。これらの組成において、Aは、アルカリ金属を示す。Mは、単一または2種以上の遷移金属からなり、その一部に非遷移金属を含んでもよい。Bは、P、Siまたはその混合物からなる。なお正極活物質は、粉末であることが好ましく、その粒子径としては、好ましくは50μm以下、より好ましくは20μm以下が挙げられる。これらの正極活物質は、3V(vs. Li/Li+)以上の起電力を有するものが好ましい。
【0014】
正極活物質の好ましい具体例としては、LixCoO2, LixNiO2, LixMnO2, LixCrO2, LixFeO2, LixCoaMn1-aO2, LixCoaNi1-aO2, LixCoaCr1-aO2, LixCoaFe1-aO2, LixCoaTi1-aO2, LixMnaNi1-aO2, LixMnaCr1-aO2, LixMnaFe1-aO2, LixMnaTi1-aO2, LixNiaCr1-aO2, LixNiaFe1-aO2, LixNiaTi1-aO2, LixCraFe1-aO2, LixCraTi1-aO2, LixFeaTi1-aO2, LixCobMncNi1-b-cO2, LixCrbMncNi1-b-cO2, LixFebMncNi1-b-cO2, LixTibMncNi1-b-cO2, LixMn2O4, LixMndCo2-dO4, LixMndNi2-dO4, LixMndCr2-dO4, LixMndFe2-dO4, LixMndTi2-dO4, LiyMnO3, LiyMneCo1-eO3, LiyMneNi1-eO3, LiyMneFe1-eO3, LiyMneTi1-eO3, LixCoPO4, LixMnPO4, LixNiPO4, LixFePO4, LixCofMn1-fPO4, LixCofNi1-fPO4, LixCofFe1-fPO4, LixMnfNi1-fPO4, LixMnfFe1-fPO4, LixNifFe1-fPO4,LiyCoSiO4, LiyMnSiO4, LiyNiSiO4, LiyFeSiO4, LiyCogMn1-gSiO4, LiyCogNi1-gSiO4, LiyCogFe1-gSiO4, LiyMngNi1-gSiO4, LiyMngFe1-gSiO4, LiyNigFe1-gSiO4, LiyCoPhSi1-hO4, LiyMnPhSi1-hO4, LiyNiPhSi1-hO4, LiyFePhSi1-hO4, LiyCogMn1-gPhSi1-hO4, LiyCogNi1-gPhSi1-hO4, LiyCogFe1-gPhSi1-hO4, LiyMngNi1-gPhSi1-hO4, LiyMngFe1-gPhSi1-hO4, LiyNigFe1-gPhSi1-hO4などのリチウム含有複合酸化物を挙げることができる。ここで、x=0.01〜1.2, y=0.01〜2.2, a=0.01〜0.99, b=0.01〜0.98, c=0.01〜0.98である。但し、b+c=0.02〜0.99, d=1.49〜1.99, e=0.01〜0.99, f=0.01〜0.99, g=0.01〜0.99, h=0.01〜0.99である。
【0015】
より好ましい正極活物質としては、具体的には、LixCoO2, LixNiO2, LixMnO2, LixCrO2, LixCoaNi1-aO2, LixMnaNi1-aO2, LixCobMncNi1-b-cO2, LixMn2O4, LiyMnO3, LiyMneFe1-eO3, LiyMneTi1-eO3, LixCoPO4, LixMnPO4, LixNiPO4, LixFePO4, LixMnfFe1-fPO4, を挙げることができる。ここで、x=0.01〜1.2, y=0.01〜2.2, a=0.01〜0.99, b=0.01〜0.98, c=0.01〜0.98但し、b+c=0.02〜0.99, d=1.49〜1.99, e=0.01〜0.99, f=0.01〜0.99である。なお、上記のx, yの値は充放電によって増減する。
【0016】
正極材料中の正極活物質の含有量としては、特に制限されず、例えば99.9〜50質量%程度、より好ましくは99.5〜70質量%程度、さらに好ましくは99〜85質量%程度が挙げられる。正極活物質は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0017】
本発明の正極材料に含まれるバインダーとしては、特に制限されず、非水電解質二次電池の正極に用いられる公知のバインダーを用いることができる。バインダーとしては、例えば、フッ化ビニリデン、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、及び三フッ化エチレンの少なくとも1種から選ばれるモノマーの単独重合体または共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリル系重合体、ビニル系重合体から選ばれる1種以上の化合物が挙げられる。これらの中でも、フッ化ビニリデン系重合体、四フッ化エチレン系重合体、アクリル系重合体が好ましい。
【0018】
正極材料中におけるバインダーの含有量としては、特に制限されないが、正極活物質100質量部に対して、好ましくは7質量部以下、より好ましくは5質量部以下が挙げられる。なお、バインダーの含有量の下限値としては、通常、0.05質量部以上、0.1質量部以上、0.2質量部以上、0.5質量部以上、1質量部以上を例示することができる。
【0019】
本発明においては、バインダーとして、水系バインダーを用いることが好ましい。例えば、本発明の正極材料において、水系のアクリル系重合体をバインダーとして用いた場合、バインダー溶液(ラテックス溶液)に後述の水溶性酸化防止剤を添加することにより、バインダーの保存安定性が向上するという相乗効果を有する。このため、後述の水溶性酸化防止剤を含む本発明の正極材料のバインダーとしては、水系バインダーが好ましく、特に、水系のアクリル系重合体バインダーが好ましい。なお、水系バインダーとは、水やアルコールなどの溶媒に分散させて用いられるバインダーを意味する。
【0020】
本発明の正極材料を製造するにあたり、水系バインダーとしてアクリル共重合体を用いる場合には、水系バインダーの供給源としてアクリル共重合体の水系エマルジョンを用いることができる。アクリル共重合体の水系エマルジョンとしては、以下の構成単位(A)〜(C)のを備えるもの(すなわち、以下の構成単位(A)〜(C)のモノマーの共重合体)が挙げられる。
【0021】
構成単位(A)は、下記一般式(1)で表される、水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位である。構成単位(B)は、少なくとも1種の官能基を有するエチレン性不飽和モノマーから誘導される構成単位である。構成単位(C)は、5官能以下の多官能(メタ)アクリレートモノマーとから誘導される構成単位である。
【0022】
【化1】
【0023】
構成単位(A)のモノマーにおいて、一般式(1)中、R1は、水素原子または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、R2およびR3は、それぞれ水素原子または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、nは、2〜30の整数である。
【0024】
一般式(1)で表される、水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーとしては、分子量が150〜1000のアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好ましい。具体例としては、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、およびポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、およびポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは1種又は2種以上併用できる。これらの中でも、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好ましい。なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」または「メタクリレート」を意味し、これに類する表現についても同様である。
【0025】
構成単位(B)において、前述の官能基の具体例としては、ニトリル基、カルボン酸基、ケトン基、有機酸ビニルエステル基、ビニルアルコール基等が挙げられる。すなわち、構成単位(B)のモノマーとしては、ニトリル基を含むエチレン性不飽和モノマー、カルボン酸基を含むエチレン性不飽和モノマー、ケトン基を含むエチレン性不飽和モノマー、有機酸ビニルエステル基を含むエチレン性不飽和モノマーが挙げられる。また、構成単位(B)において、有機酸ビニルエステルモノマーの重合体をアルカリでケン化することによって、ビニルアルコール基を有する構成単位とすることができる。
【0026】
ニトリル基を含むエチレン性不飽和モノマーは、ニトリル基を含有するものであれば特に限定されないが、好ましくはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、クロトンニトリル、α−エチルアクリロニトリル、α−シアノアクリレート、シアン化ビニリデン、フマロニトリルなどのα,β−不飽和ニトリルモノマーが用いられる。更に好ましくはアクリロニトリル、メタクリロニトリルである。これらは1種又は2種以上併用できる。
【0027】
カルボン酸基を含むエチレン性不飽和モノマーの具体例としては、メタアクリル酸、アクリル酸等の単官能モノマー、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸、3−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸、4−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸、メチル−3,6−エンドメチレン−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸、エキソ−3,6−エポキシ−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸、ハイミック酸等の2官能モノマーが挙げられる。さらに、上記2官能のカルボン酸基を含むエチレン性不飽和モノマーは、不飽和カルボン酸の無水物、例えば無水マレイン等も使用でき、また、これら無水物を鹸化したものを使用してもよい。カルボン酸基を含むエチレン性不飽和モノマーは、好ましくはメタアクリル酸、アクリル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸である。更に好ましくは、メタアクリル酸、アクリル酸、イタコン酸である。これらは1種又は2種以上併用できる。
【0028】
ケトン基を含むエチレン性不飽和モノマーの具体例としては、メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、イソプロピルビニルケトン、イソブチルビニルケトン、t-ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン等のビニルケトン類が挙げられる。これらは1種又は2種以上併用できる。
【0029】
有機酸ビニルエステル基を含むエチレン性不飽和モノマーの具体例としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、トリメチル酢酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニルなどが挙げられる。これらは1種又は2種以上併用できる。これらの中でも、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルが好ましい。
【0030】
前述の通り、構成単位(B)において、有機酸ビニルエステルモノマーの重合体をアルカリでケン化することによって、ビニルアルコール基を有する構成単位とすることができる。
【0031】
構成単位(B)の割合としては、特に制限されないが、構成単位(A)100質量部に対して、好ましくは5〜500質量部程度、より好ましくは5〜300質量部程度が挙げられる。
【0032】
構成単位(B)がビニルアルコール基を有する構成単位である場合には、ビニルアルコール基を有する構成単位の量は、水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーの構成単位(A)100質量部に対して、好ましくは10〜300質量部程度、より好ましくは10〜250質量部程度、さらに好ましくは15〜250質量部が挙げられる。
【0033】
構成単位(B)のモノマーとしては、カルボン酸基を有するモノマーが、電池特性や集電体との接着性の点から最も好ましい。カルボン酸基を有するモノマーとしては、特に、アクリル酸、メタアクリル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸が好ましい。
【0034】
構成単位(C)の5官能以下の多官能(メタ)アクリレートモノマーは、架橋剤として働く。多官能(メタ)アクリレートモノマーとしては2官能〜5官能(メタ)アクリレートが挙げられる。2官能〜5官能の架橋剤では、乳化重合での分散が良好であり、バインダーとしての物性(屈曲性、結着性)が優れている。多官能(メタ)アクリレートモノマーは、好ましくは3官能または4官能(メタ)アクリレートである。
【0035】
2官能(メタ)アクリレートモノマーの具体例としては、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジオキサングリコールジ(メタ)アクリレート、ビス(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェートなどが挙げられる。
【0036】
3官能(メタ)アクリレートモノマーの具体例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンEO付加トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンPO付加トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、2,2,2-トリス(メタ)アクリロイロキシメチルエチルコハク酸、エトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、ε−カプロラクトン変性トリス−(2−(メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート、グリセリンEO付加トリ(メタ)アクリレート、グリセリンPO付加トリ(メタ)アクリレートおよびトリス(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェートなどが挙げられる。これらの中でも、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンEO付加トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0037】
4官能(メタ)アクリレートモノマーの具体例としては、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートおよびペンタエリスリトールEO付加テトラ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0038】
5官能(メタ)アクリレートモノマーの具体例としては、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0039】
構成単位(C)において、多官能(メタ)アクリレートモノマーは、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0040】
構成単位(C)の割合としては、特に制限されないが、構成単位(A)100質量部に対して、好ましくは0.1〜500質量部程度、より好ましくは0.5〜450質量部程度、さらに好ましくは1〜400質量部が挙げられる。
【0041】
アクリル共重合体における、構成単位(A)、構成単位(B)、及び構造単位(C)の割合は、質量比で、構成単位(A)が10〜90、構成単位(B)が3〜70、及び構成単位(C)が0.5〜90であることが好ましく、構成単位(A)が13〜80、構成単位(B)が4〜50、及び構成単位(C)が1〜70であることがより好ましく、構成単位(A)が20〜70、構成単位(B)が5〜40、構成単位(C)が5〜65であることがさらに好ましい。
【0042】
また、当該共重合体が、構成単位(A)、構成単位(B)と、構造単位(C)とを含んでいる場合、当該共重合体においては、以下のように含有することが好ましい。
構成単位(A)は、その下限が10質量%以上含有することが好ましく、13質量%以上含有することがより好ましく、20質量%以上含有することが更に好ましく、その上限が90質量%以下含有することが好ましく、80質量%以下含有することがより好ましく、70質量%以下含有することが更に好ましい。
構成単位(B)は、その下限が3質量%以上含有することが好ましく、4質量%以上含有することがより好ましく、5質量%以上含有することが更に好ましく、その上限が70質量%以下含有することが好ましく、50質量%以下含有することがより好ましく、40質量%以下含有することが更に好ましい。
構成単位(C)は、その下限が0.5質量%以上含有することが好ましく、1質量%以上含有することがより好ましく、5質量%以上含有することが更に好ましく、その上限が90質量%以下含有することが好ましく、70質量%以下含有することがより好ましく、65質量%以下含有することが更に好ましい。
【0043】
アクリル共重合体には、上記構成単位(A)、上記構成単位(B)、及び上記構造単位(C)に加えて、さらに、他の構成単位が含まれていてもよい(すなわち、他のモノマーが共重合されていてもよい)。他の構成単位(モノマー)としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n−アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、および(メタ)アクリル酸ラウリル((メタ)アクリル酸ドデシル)等の(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸アミド、反応性界面活性剤等が挙げられる。他の構成単位は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0044】
本発明において、バインダーは、バインダーが水に分散した水系エマルジョンとして、正極材料の調製に用いることが好ましい。エマルジョン中のバインダーの含有量(固形分濃度)としては、特に制限されず、好ましくは0.2〜80質量%程度、より好ましくは0.5〜70質量%程度、さらに好ましくは0.5〜60質量%程度が挙げられる。
【0045】
バインダーの水系エマルジョンを得る方法としては、特に制限されず、一般的な乳化重合法、ソープフリー乳化重合法、シード重合法、シード粒子にモノマー等を膨潤させた後に重合する方法等が挙げられる。具体的には、攪拌機および加熱装置付きの密閉容器に、室温でバインダーの構成単位であるモノマー、乳化剤、重合開始剤、水、必要に応じて分散剤、連鎖移動剤、pH調整剤等を含んだ組成物を不活性ガス雰囲気下で攪拌することで、モノマー等を水に乳化させる。乳化の方法は撹拌、剪断、超音波等による方法等が適用でき、撹拌翼、ホモジナイザー等を使用することができる。次いで、攪拌しながら温度を上昇させて重合を開始させることで、バインダー(モノマーの共重合体)が水に分散した球形の重合体のラテックス(バインダーの水系エマルジョン)を得ることができる。重合時のモノマーの添加方法は、一括仕込みの他に、モノマー滴下やプレエマルジョン滴下等でもよく、これらの方法を2種以上併用してもよい。
【0046】
バインダーの水系エマルジョンにおける粒子構造は、特に限定されない。例えば、シード重合によって作製された、コア−シェル構造の複合重合体粒子を含む重合体のラテックスを用いることができる。シード重合法は、例えば、「分散・乳化系の化学」(発行元:工学図書(株))に記載された方法を用いることができる。具体的には、上記の方法で作製したシード粒子を分散した系にモノマー、重合開始剤、乳化剤を添加し、核粒子を成長させる方法であり、上記方法を1回以上繰り返してもよい。
【0047】
シード重合のシードには、本発明で好適に用いられるバインダー(共重合体)、または公知のポリマーを用いた粒子を用いることもできる。公知のポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリレートおよびポリエーテルなどが例示できるが、限定されるものではなく、他の公知のポリマーを用いることができる。また、1種のホモポリマーまたは2種以上の共重合体またはブレンド体を用いても良い。
【0048】
粒子の形状としては、球形が挙げられ、さらに、板状、中空構造、複合構造、局在構造、だるま状構造、いいだこ状構造、ラズベリー状構造等も挙げられる。粒子としては、本発明を逸脱しない範囲で、2種類以上の構造および組成の粒子を用いることができる。
【0049】
乳化剤としては、特に限定されず、乳化重合法おいて一般的に用いられるノニオン性乳化剤およびアニオン性乳化剤等を使用することができる。ノニオン乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられ、アニオン性乳化剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、脂肪酸塩等が挙げられ、これらを1種または2種以上用いてもよい。アニオン性乳化剤の代表例としてはドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミンが挙げられる。
【0050】
乳化剤の使用量は、乳化重合法おいて一般的に用いられる量であればよい。具体的には、仕込みのモノマー量に対して、0.01〜10質量%の範囲であり、好ましくは0.05〜5質量%、更に好ましくは0.05〜3質量%である。モノマー成分として、反応性界面活性剤を用いる場合は、乳化剤の添加は必ずしも必要でない。
【0051】
重合開始剤としては、特に限定されず、乳化重合法おいて一般的に用いられる重合開始剤を使用することができる。その具体例としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムおよび過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩に代表される水溶性の重合開始剤、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドに代表される油溶性の重合開始剤、ハイドロパーオキサイド、4−4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2−2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン、2−2’−アゾビス(プロパン−2−カルボアミジン)2−2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロパンアミド、2−2’−アゾビス[2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン]、2−2’−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−メチルプロパン)および2−2’−アゾビス[2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロパンアミド]などのアゾ系開始剤、レドックス開始剤等が挙げられる。これら重合開始剤は1種または2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0052】
重合開始剤の使用量は、乳化重合法おいて一般的に用いられる量であればよい。具体的には、仕込みのモノマー100質量部に対して、例えば0.01〜5質量部程度、好ましくは0.05〜3質量部程度、さらに好ましくは0.1〜1質量部程度である。
【0053】
水系エマルジョンを作製する際に用いる水は、特に限定されず、一般的に用いられる水を使用することができる。その具体例としては水道水、蒸留水、イオン交換水および超純水などが挙げられる。その中でも、好ましくは蒸留水、イオン交換水および超純水である。
【0054】
本発明の正極材料には、前述の正極活物質、バインダーに加えて、さらに、水溶性酸化防止剤が含まれている。本発明において、水溶性酸化防止剤とは、常温(25℃)で水100gに対して5g以上溶解する酸化防止剤を意味する。本発明において、好ましい水溶性酸化防止剤の具体例としては、アスコルビン酸及び/またはその塩、エリソルビン酸及び/またはその塩、緑茶ポリフェノール、グルタチオン、リポ酸、茶抽出物、ローズマリー抽出物等が挙げられる。また、アスコルビン酸の塩としては、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カリウム、アスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸2−グルコシドなどが挙げられる。エリソルビン酸の塩としては、エリソルビン酸ナトリウム等が挙げられる。これらの中でも、水溶性酸化防止剤としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カリウム、アスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸2−グルコシド、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウムが好ましく、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、及びエリソルビン酸がさらに好ましい。水溶性酸化防止剤は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0055】
本発明の正極材料は、脂溶性酸化防止剤を実質的に含まないことが好ましい。本発明において、脂溶性酸化防止剤とは、常温(25℃)の水100gに対する溶解度が5g未満である酸化防止剤を意味する。脂溶性酸化防止剤としては、例えば、3,5−ジターシャリーブチル−4−ヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソールなどが挙げられる。脂溶性酸化防止剤は、電解液への溶解および拡散により、正極近傍における酸化防止剤の濃度が著しく低下し、酸化防止効果が認められなくなる。また、脂溶性酸化防止剤の存在により、水溶性酸化防止剤による退部抵抗低下効果や充放電サイクル特性の向上効果が阻害されるおそれがある。脂溶性酸化防止剤の含有量は、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下が挙げられる。
【0056】
本発明の正極材料において、水溶性酸化防止剤の含有量としては、特に制限されないが、水溶性酸化防止剤による内部抵抗低下効果や充放電サイクル特性の向上効果を好適に発揮させる観点からは、バインダー100質量部に対して、水溶性酸化防止剤が0.1〜50質量部程度含まれることが好ましく、0.5〜30質量部程度含まれることがより好ましい。
【0057】
正極材料には、必要に応じて、導電助剤がさらに含まれていてもよい。導電助剤としては、特に制限されず、非水電解質二次電池の正極に用いられる公知の導電助剤を用いることができる。導電助剤の具体例としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、グラファイトなどの導電性カーボンや、導電性ポリマー、金属粉末などが挙げられる。これらの中でも、導電性カーボンが特に好ましい。
【0058】
導電助剤を用いる場合、導電助剤の含有量としては特に制限されないが、正極活物質100質量部に対して、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下が挙げられる。なお、正極材料中に導電助剤が含まれる場合、導電助剤の含有量の下限値としては、通常、0.05質量部以上、0.1質量部以上、0.2質量部以上、0.5質量部以上、2質量部以上を例示することができる。
【0059】
正極材料には、必要に応じて、増粘剤がさらに含まれていてもよい。増粘剤としては、特に制限されず、非水電解質二次電池の正極に用いられる公知の増粘剤を用いることができる。増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等およびこれらのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩等である。
【0060】
増粘剤を用いる場合、正極材料中における増粘剤の含有量としては、特に制限されないが、正極活物質100質量部に対して、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下が挙げられる。なお、正極材料中に増粘剤が含まれる場合、増粘剤の含有量の下限値としては、通常、0.05質量部以上、0.1質量部以上、0.2質量部以上、0.5質量部以上、1質量部以上を例示することができる。
【0061】
2.正極
本発明の正極は、前述の「1.正極材料」の欄で説明した本発明の正極材料と、正極集電体とを備えることを特徴とする。本発明の正極材料の詳細については、前述の通りである。
【0062】
正極集電体としては、特に制限されず、非水電解質二次電池の正極に用いられる公知の正極集電体を用いることができる。正極集電体としては、例えば、アルミニウム、ニッケル、ステンレス、金、白金、チタン等の金属の基板により構成することができる。
【0063】
本発明の正極は、例えば、前述の本発明の正極材料を、正極集電体の表面に塗布する工程を備える方法により好適に製造することができる。具体的には、本発明の正極材料のペーストを正極集電体の表面に塗布し、乾燥させる方法が挙げられる。さらに、本発明の正極材料のうち、水溶性酸化防止剤以外の材料を含むペーストを正極集電体の表面に塗布したのち、水溶性酸化防止剤を含む水溶液を当該ペーストの上から塗布し、乾燥させることにより、本発明の正極を得ることもできる。
【0064】
特にバインダーとして、水系バインダーを用いる場合は、バインダーの水溶液に水溶性酸化防止剤を溶解させたペーストを用意し、これを正極集電体の表面に塗布することにより、水溶性酸化防止剤を正極材料中に均一に分散させることができるため、水溶性酸化防止剤による内部抵抗低下効果や充放電サイクル特性の向上効果を好適に発揮させることができる。なお、水溶性酸化防止剤は、水系バインダーの製造時に添加してもよいし、製造された水系バインダーのエマルジョンに、水溶性酸化防止剤を溶解させてもよい。
【0065】
水系バインダーのエマルジョンに水溶性酸化防止剤を溶解させる副次効果としては、バインダーのエマルジョンの増粘等の経時変化を有効に抑制する効果が挙げられる。
【0066】
3.非水電解質二次電池
本発明の非水電解質二次電池は、前述の「2.正極」の欄で説明した本発明の正極と、負極と、有機電解液とを備えることを特徴としている。すなわち、本発明の非水電解質二次電池に用いられる正極は、本発明の正極材料を含んでいる。本発明の正極の詳細については、前述の通りである。
【0067】
負極は、負極材料と、負極集電体とを備えている。負極材料は、負極活物質と、バインダーを含んでいる。負極活物質としては、特に制限されず、非水電解質二次電池の負極に用いられる公知の負極活物質を用いることができる。負極活物質は、例えば、リチウムイオンなどのアルカリ金属イオンを吸蔵・放出可能な構造(多孔質構造)を有する炭素材料(天然黒鉛、人造黒鉛、非晶質炭素等)、リチウムイオンなどのアルカリ金属イオンを吸蔵・放出可能なリチウム、アルミニウム系化合物、スズ系化合物、シリコン系化合物等の金属からなる粉末が挙げられる。粒子径は、好ましくは10nm以上100μm以下が挙げられ、さらに好ましくは20nm以上20μm以下が挙げられる。また、負極活物質としては、金属と炭素材料との混合物を用いてもよい。なお負極活物質としては、気孔率が70%程度のものを用いることが望ましい。
【0068】
負極のバインダーとしては、特に制限されず、非水電解質二次電池の負極に用いられる公知のバインダーを用いることができる。負極のバインダーの具体例としては、前述の正極のバインダーとして例示したものと同じものが挙げられる。
【0069】
負極集電体としては、特に制限されず、非水電解質二次電池の負極に用いられる公知の負極集電体を用いることができる。負極集電体は、例えば、銅、ニッケル、ステンレス、金、白金、チタン等の金属の基板により構成することができる。
【0070】
有機電解液としては、特に制限されず、非水電解質二次電池の負極に用いられる公知の有機電解液を用いることができる。有機電解液の具体例としては、電解質としてのリチウム塩化合物と、溶媒としての非プロトン性有機溶剤等を含む溶液が挙げられる。電解質及び溶媒は、それぞれ、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0071】
リチウム塩化合物としては、リチウムイオン電池に一般的に利用されているような、広い電位窓を有するリチウム塩化合物が用いられる。たとえば、LiBF4、LiPF6、LiClO4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22,LiN(C25SO22,LiN[CF3SC(C25SO23]2などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0072】
非プロトン性有機溶剤としてはプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、ジプロピルカーボネート、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピルニトリル、アニソール、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、ジエチルエーテルなどの直鎖エーテルを使用することができ、2種類以上混合して使用してもよい。
【0073】
また、溶媒として、常温溶融塩を用いることができる。常温溶融塩とは、常温において少なくとも一部が液状を呈する塩をいい、常温とは電池が一般的に作動すると想定される温度範囲をいう。電池が通常作動すると想定される温度範囲とは、上限が120℃程度、場合によっては80℃程度であり、下限は−40℃程度、場合によっては−20℃程度である。
【0074】
常温溶融塩はイオン液体とも呼ばれており、イオンのみ(アニオン、カチオン)から構成される「塩」であり、特に液体化合物をイオン液体という。
【0075】
常温溶融塩のカチオン種としては、ピリジン系、脂肪族アミン系、脂環族アミン系の4級アンモニウム有機物カチオンが知られている。4級アンモニウム有機物カチオンとしては、ジアルキルイミダゾリウム、トリアルキルイミダゾリウム、などのイミダゾリウムイオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、アルキルピリジニウムイオン、ピラゾリウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオンなどが挙げられる。特に、イミダゾリウムイオンが好ましい。
【0076】
なお、テトラアルキルアンモニウムイオンとしては、トリメチルエチルアンモニウムイオン、トリメチルエチルアンモニウムイオン、トリメチルプロピルアンモニウムイオン、トリメチルヘキシルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオン、トリエチルメチルアンモニウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0077】
また、アルキルピリジウムイオンとしては、N−メチルピリジウムイオン、N−エチルピリジニウムイオン、N−プロピルピリジニウムイオン、N−ブチルピリジニウムイオン、1−エチル−2メチルピリジニウムイオン、1−ブチル−4−メチルピリジニウムイオン、1−ブチル−2,4ジメチルピリジニウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0078】
イミダゾリウムイオンとしては、1,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−メチル−3−エチルイミダゾリウムイオン、1−メチル−3−ブチルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1,2,3−トリメチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−エチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0079】
常温溶融塩のアニオン種としては、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンなどのハロゲン化物イオン、過塩素酸イオン、チオシアン酸イオン、テトラフルオロホウ素酸イオン、硝酸イオン、AsF6-、PF6-などの無機酸イオン、ステアリルスルホン酸イオン、オクチルスルホン酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオン、ナフタレンスルホン酸イオン、ドデシルナフタレンスルホン酸イオン、7,7,8,8−テトラシアノ−p−キノジメタンイオンなどの有機酸イオンなどが例示される。
【0080】
なお、常温溶融塩は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0081】
有機電解液には必要に応じて種々の添加剤を使用することができる。添加剤としては、難燃剤、不燃剤、正極表面処理剤、負極表面処理剤、過充電防止剤などが挙げられる。難燃剤、不燃剤としては、臭素化エポキシ化合物、ホスファゼン化合物、テトラブロムビスフェノールA、塩素化パラフィン等のハロゲン化物、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、リン酸エステル、ポリリン酸塩、及びホウ酸亜鉛等が例示できる。正極表面処理剤としては、炭素や金属酸化物(MgОやZrO2等)の無機化合物やオルト−ターフェニル等の有機化合物等が例示できる。負極表面処理剤としては、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ポリエチレングリコールジメチルエーテル等が例示できる。過充電防止剤としては、ビフェニルや1−(p−トリル)アダマンタン等が例示できる。
【0082】
本発明の非水電解質二次電池において、水溶性酸化防止剤を含む正極は、熱処理を行ってから電池に組み込まれることが好ましい。熱処理は、電位を印加する以前に行うことが好ましい。熱処理の方法は特に限定されないが、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で正極表面を暴露した状態で熱処理を施すことが好ましい。熱処理の温度は50℃以上150℃以下の範囲が好ましい。この温度範囲において、熱処理に長時間を費やすことなく、有機材料の酸化分解が促進しない状態で熱処理を行える。熱処理の時間は温度により異なるが通常7日以内、例えば1時間〜48時間である。
【0083】
本発明の非水電解質二次電池の製造方法は、特に限定されず、正極、負極、有機電解液、セパレータなどを用いて、公知の方法にて製造される。例えば、コイン型の電池の場合、正極、セパレータ、負極を外装缶に挿入する。これに電解液を入れ含浸する。その後、封口体とタブ溶接などで接合して、封口体を封入し、カシメることで蓄電池が得られる。電池の形状は限定されないが、例としてはコイン型、円筒型、シート型などが挙げられ、2個以上の電池を積層した構造であってもよい。
【0084】
セパレータは、正極と負極が直接接触して蓄電池内でショートすることを防止するものであり、公知の材料を用いることができる。セパレータとしては、具体的には、ポリオレフィンなどの多孔質高分子フィルム、紙等が挙げられる。多孔質高分子フィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのフィルムが、有機電解液による影響が少ないため、好ましい。
【0085】
なお、正極材料のみの特性を評価する際には、対極に金属リチウム箔を用いることで、正極材料の可逆性を評価できる。また、正極材料と負極材料の組み合わせ評価の場合には、金属リチウム箔を用いず、正極材料と炭素系負極材料との組み合わせが用いられる。
【0086】
本発明の非水電解質二次電池は、内部抵抗が小さく、充放電サイクル特性に優れている。本発明の非水電解質二次電池は、携帯電話やノートパソコン、カムコーダーなどの電子機器など小型の電池から、電気自動車やハイブリッド電気自動車などの車載用途や家庭用電力貯蔵用の蓄電池といった大型の二次電池用途に好適に利用可能である。
【実施例】
【0087】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。但し本発明は実施例に限定されるものではない。
【0088】
なお、以下の実施例及び比較例では、各電極及び各コイン電池を製造し、各コイン電池の性能評価として、内部抵抗の測定、及び充放電サイクル特性試験を以下の実験方法にて行った。それぞれの結果を表1に示す。
【0089】
<内部抵抗の測定>
作製したコイン電池(リチウムイオン二次電池)を、定電流−定電圧充電により、4.2Vまで充電した。終止電流は2C相当であった。充電後、電池を10分間休止させた。次いで定電流放電を実施し、電流値I(mA)及び10秒後の電圧降下ΔE(mV)より、コイン電池の内部抵抗R(Ω)=ΔE/Iを測定した。
【0090】
<充放電サイクル特性(容量維持率)>
東洋システム(株)製の充放電装置を用い、4.2Vを上限、2.5Vを下限とし、初回から3回目において8時間で所定の充電および放電が行える試験条件(C/8)、4回目以降1Cにて一定電流通電により正極の充放電サイクル特性を評価した。試験温度は25℃の環境とした。容量維持率は、充放電を100サイクル行った後の容量と4サイクル目の容量の比で評価した。
【0091】
[合成例1:バインダーAの合成]
500mlの攪拌機付き反応容器に、ポリプロピレングリコールモノアクリレート(日油製:ブレンマーAP−400)19質量部、メタアクリル酸メチル58.5質量部、メタアクリル酸4質量部、アクリル酸1.5質量部、トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学製:A−TMPT)17質量部、反応性乳化剤としてポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム水溶液(花王製:PD−104)の固形分として8質量部、イオン交換水150質量部および重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.1質量部を入れ、ホモジナイザーを用いて十分乳化させた後、窒素雰囲気下で60℃に加温し5時間重合し、その後冷却した。冷却後、28%アンモニア水溶液を用いて、重合液のpHを8.2に調整し、バインダーA(重合転化率99%以上)(固形分濃度40質量%)を得た。得られた重合体の平均粒子径は0.213μmであった。
【0092】
[合成例2:バインダーBの合成]
500mlの攪拌機付き反応容器に、ポリエチレングリコールモノメタアクリレート(日油製:ブレンマーPE−90)4.5質量部、メタアクリル酸メチル70質量部、メタアクリル酸5質量部、アクリル酸1.5質量部、トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学製:A−TMPT)20質量部、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウム(花王製:エマール10G)1質量部、L−アスコルビン酸ナトリウム0.1質量部、イオン交換水150質量部および重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.1質量部を入れ、ホモジナイザーを用いて十分乳化させた後、窒素雰囲気下で60℃に加温し5時間重合し、その後冷却した。冷却後、28%アンモニア水溶液を用いて、重合液のpHを8.2に調整し、バインダーB(重合転化率99%以上)(固形分濃度39質量%)を得た。得られた重合体の平均粒子径は0.198μmであった。
【0093】
[合成例3:バインダーCの合成]
500mlの攪拌機付き反応容器に、ポリエチレングリコールモノメタアクリレート(日油製:ブレンマーAE−200)20質量部、メタアクリル酸メチル57質量部、メタアクリル酸4.5質量部、アクリル酸1.5質量部、トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学製:A−TMPT)17質量部、反応性乳化剤としてポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム水溶液(花王製:PD−104)の固形分として3質量部、L−アスコルビン酸3質量部、イオン交換水150質量部および重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.1質量部を入れ、ホモジナイザーを用いて十分乳化させた後、窒素雰囲気下で60℃に加温し5時間重合し、その後冷却した。冷却後、28%アンモニア水溶液を用いて、重合液のpHを8.2に調整し、バインダーC(重合転化率99%以上)(固形分濃度40質量%)を得た。得られた重合体の平均粒子径は0.215μmであった。バインダーCの粘度は26mPa・sであった。また、環境温度25℃で2週間保存したが、粘度の上昇は見られなかった。なお、粘度の測定はE型粘度計(英弘精機社製)で25℃、10rpmで測定した値である。
【0094】
[実施例1]
<正極の製造例1>
正極活物質には、平均粒径10μmのニッケル/マンガン/コバルト酸リチウム(3元系)を用いた。この正極活物質94質量部に対して、導電助剤としてアセチレンブラックを4質量部、バインダーとして合成例1で得られたバインダーAの固形分として1質量部、L−アスコルビン酸0.05質量部、カルボキシメチルセルロース1質量部、更に、スラリーの固形分が55質量%となるように水を溶媒として遊星ミルを用いて、十分に混練して正極用のスラリー組成物1(正極材料)を得た。得られた正極用のスラリー組成物1を厚さ20μmのアルミニウム集電体上に100μmギャップのバーコーターを用いて塗布し、110℃真空状態で12時間以上乾繰後、ロールプレスして、更にアルゴンガス雰囲気下にて120℃で12時間熱処理を施して、厚さ30μmの正極シート1を作製した。
【0095】
<コイン電池の製造例1>
アルゴンガスで置換されたグローブボックス内において、コインセルに正極の製造例1で得た正極、セパレータとして厚み18μmのポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン多孔質膜を2枚、更に対極として厚さ300μmの金属リチウム箔を貼り合わせた積層物を入れ、電解液として1mol/Lの6フッ化リン酸リチウムのエチレンカーボネートとジメチルカーボネート溶液(体積比1:1)を十分に含浸させてコインセルでふたをしてカシメ、試験用2032型コイン電池を製造した。内部抵抗の測定結果と100サイクル後の容量維持率の評価結果を表1の実施例1に示す。
【0096】
[実施例2]
<正極の製造例2>
正極活物質には、平均粒径10μmのニッケル/マンガン/コバルト酸リチウム(3元系)を用いた。この正極活物質94質量部に対して、導電助剤としてアセチレンブラックを4質量部、バインダーとして合成例1で得られたバインダーAの固形分として1質量部、L−アスコルビン酸0.1質量部、カルボキシメチルセルロース1質量部、更に、スラリーの固形分が55質量%となるように水を溶媒として遊星ミルを用いて、十分に混練して正極用のスラリー組成物2(正極材料)を得た。得られた正極用のスラリー組成物2を厚さ20μmのアルミニウム集電体上に100μmギャップのバーコーターを用いて塗布し、110℃真空状態で12時間以上乾繰後、ロールプレスして、更にアルゴンガス雰囲気下にて120℃で12時間熱処理を施して、厚さ30μmの正極シート2を作製した。
【0097】
<コイン電池の製造例2>
アルゴンガスで置換されたグローブボックス内において、コインセルに正極の製造例2で得た正極、セパレータとして厚み18μmのポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン多孔質膜を2枚、更に対極として厚さ300μmの金属リチウム箔を貼り合わせた積層物を入れ、電解液として1mol/Lの6フッ化リン酸リチウムのエチレンカーボネートとジメチルカーボネート溶液(体積比1:1)を十分に含浸させてコインセルでふたをしてカシメ、試験用2032型コイン電池を製造した。内部抵抗の測定結果と100サイクル後の容量維持率の評価結果を表1の実施例2に示す。
【0098】
[実施例3]
<正極の製造例3>
正極活物質には、平均粒径10μmのニッケル/マンガン/コバルト酸リチウム(3元系)を用いた。この正極活物質94質量部に対して、導電助剤としてアセチレンブラックを4質量部、バインダーとして合成例1で得られたバインダーAの固形分として1質量部、L−アスコルビン酸0.2質量部、カルボキシメチルセルロース1質量部、更に、スラリーの固形分が55質量%となるように水を溶媒として遊星ミルを用いて、十分に混練して正極用のスラリー組成物3(正極材料)を得た。得られた正極用のスラリー組成物3を厚さ20μmのアルミニウム集電体上に100μmギャップのバーコーターを用いて塗布し、110℃真空状態で12時間以上乾繰後、ロールプレスして、更にアルゴンガス雰囲気下にて120℃で12時間熱処理を施して、厚さ30μmの正極シート3を作製した。
【0099】
<コイン電池の製造例3>
アルゴンガスで置換されたグローブボックス内において、コインセルに正極の製造例3で得た正極、セパレータとして厚み18μmのポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン多孔質膜を2枚、更に対極として厚さ300μmの金属リチウム箔を貼り合わせた積層物を入れ、電解液として1mol/Lの6フッ化リン酸リチウムのエチレンカーボネートとジメチルカーボネート溶液(体積比1:1)を十分に含浸させてコインセルでふたをしてカシメ、試験用2032型コイン電池を製造した。内部抵抗の測定結果と100サイクル後の容量維持率の評価結果を表1の実施例3に示す。
【0100】
[実施例4]
<正極の製造例4>
正極活物質には、平均粒径10μmのニッケル/マンガン/コバルト酸リチウム(3元系)を用いた。この正極活物質93質量部に対して、導電助剤としてアセチレンブラックを4質量部、バインダーとして合成例2で得られたバインダーBの固形分として2質量部、L−アスコルビン酸ナトリウム0.2質量部、カルボキシメチルセルロース1質量部、更に、スラリーの固形分が55質量%となるように水を溶媒として遊星ミルを用いて、十分に混練して正極用のスラリー組成物4(正極材料)を得た。得られた正極用のスラリー組成物4を厚さ20μmのアルミニウム集電体上に100μmギャップのバーコーターを用いて塗布し、110℃真空状態で12時間以上乾繰後、ロールプレスして、更にアルゴンガス雰囲気下にて120℃で12時間熱処理を施して、厚さ30μmの正極シート4を作製した。
【0101】
<コイン電池の製造例4>
アルゴンガスで置換されたグローブボックス内において、コインセルに正極の製造例4で得た正極、セパレータとして厚み18μmのポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン多孔質膜を2枚、更に対極として厚さ300μmの金属リチウム箔を貼り合わせた積層物を入れ、電解液として1mol/Lの6フッ化リン酸リチウムのエチレンカーボネートとジメチルカーボネート溶液(体積比1:1)を十分に含浸させてコインセルでふたをしてカシメ、試験用2032型コイン電池を製造した。内部抵抗の測定結果と100サイクル後の容量維持率の評価結果を表1の実施例4に示す。
【0102】
[実施例5]
<正極の製造例5>
正極活物質には、平均粒径10μmのニッケル/マンガン/コバルト酸リチウム(3元系)を用いた。この正極活物質93質量部に対して、導電助剤としてアセチレンブラックを4質量部、バインダーとして合成例3で得られたバインダーCの固形分として3質量部、エリソルビン酸0.3質量部、更に、スラリーの固形分が55質量%となるように水を溶媒として遊星ミルを用いて、十分に混練して正極用のスラリー組成物5(正極材料)を得た。得られた正極用のスラリー組成物5を厚さ20μmのアルミニウム集電体上に100μmギャップのバーコーターを用いて塗布し、110℃真空状態で12時間以上乾繰後、ロールプレスして、更にアルゴンガス雰囲気下にて120℃で12時間熱処理を施して、厚さ30μmの正極シート5を作製した。
【0103】
<コイン電池の製造例5>
アルゴンガスで置換されたグローブボックス内において、コインセルに電極の正極の製造例5で得た正極、セパレータとして厚み18μmのポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン多孔質膜を2枚、更に対極として厚さ300μmの金属リチウム箔を貼り合わせた積層物を入れ、電解液として1mol/Lの6フッ化リン酸リチウムのエチレンカーボネートとジメチルカーボネート溶液(体積比1:1)を十分に含浸させてコインセルでふたをしてカシメ、試験用2032型コイン電池を製造した。内部抵抗の測定結果と100サイクル後の容量維持率の評価結果を表1の実施例5に示す。
【0104】
[比較例1]
<正極の比較製造例1>
正極活物質には、平均粒径10μmのニッケル/マンガン/コバルト酸リチウム(3元系)を用いた。この正極活物質94質量部に対して、導電助剤としてアセチレンブラックを4質量部、バインダーとして合成例1で得られたバインダーAの固形分として1質量部、カルボキシメチルセルロース1質量部、更に、スラリーの固形分が55質量%となるように水を溶媒として遊星ミルを用いて、十分に混練して正極用のスラリー組成物6(正極材料)を得た。得られた正極用のスラリー組成物を厚さ20μmのアルミニウム集電体上に100μmギャップのバーコーターを用いて塗布し、110℃真空状態で12時間以上乾繰後、ロールプレスして、更にアルゴンガス雰囲気下にて120℃で12時間熱処理を施して、厚さ30μmの正極シート6を作製した。
【0105】
<コイン電池の比較製造例1>
アルゴンガスで置換されたグローブボックス内において、コインセルに電極の正極の比較製造例1で得た正極、セパレータとして厚み18μmのポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン多孔質膜を2枚、更に対極として厚さ300μmの金属リチウム箔を貼り合わせた積層物を入れ、電解液として1mol/Lの6フッ化リン酸リチウムのエチレンカーボネートとジメチルカーボネート溶液(体積比1:1)を十分に含浸させてコインセルでふたをしてカシメ、試験用2032型コイン電池を製造した。内部抵抗の測定結果と100サイクル後の容量維持率の評価結果を表1の比較例1に示す。
【0106】
[比較例2]
<正極の比較製造例2>
正極活物質には、平均粒径10μmのニッケル/マンガン/コバルト酸リチウム(3元系)を用いた。この正極活物質93質量部に対して、導電助剤としてアセチレンブラックを4質量部、バインダーとして合成例1で得られたバインダーAの固形分として1質量部、3,5−ジターシャリーブチル−4−ヒドロドキシトルエン0.1質量部、カルボキシメチルセルロース1質量部、更に、スラリーの固形分が55質量%となるように水を溶媒として遊星ミルを用いて、十分に混練して正極用のスラリー組成物7(正極材料)を得た。得られた正極用のスラリー組成物7を厚さ20μmのアルミニウム集電体上に100μmギャップのバーコーターを用いて塗布し、110℃真空状態で12時間以上乾繰後、ロールプレスして、更にアルゴンガス雰囲気下にて120℃で12時間熱処理を施して、厚さ30μmの正極シート7を作製した。
【0107】
<コイン電池の比較製造例3>
アルゴンガスで置換されたグローブボックス内において、コインセルに正極の比較製造例2で得た正極、セパレータとして厚み18μmのポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン多孔質膜を2枚、更に対極として厚さ300μmの金属リチウム箔を貼り合わせた積層物を入れ、電解液として1mol/Lの6フッ化リン酸リチウムのエチレンカーボネートとジメチルカーボネート溶液(体積比1:1)を十分に含浸させてコインセルでふたをしてカシメ、試験用2032型コイン電池を製造した。内部抵抗の測定結果と100サイクル後の容量維持率の評価結果を表1の比較例2に示す。
【0108】
[比較例3]
<正極の比較製造例3>
正極活物質には、平均粒径10μmのニッケル/マンガン/コバルト酸リチウム(3元系)を用いた。この正極活物質94質量部に対して、導電助剤としてアセチレンブラックを4質量部、バインダーとして合成例1で得られたバインダーAの固形分として1質量部、0.3質量部、カルボキシメチルセルロース1質量部、更に、スラリーの固形分が55質量%となるように水を溶媒として遊星ミルを用いて、十分に混練して正極用のスラリー組成物8(正極材料)を得た。得られた正極用のスラリー組成物8を厚さ20μmのアルミニウム集電体上に100μmギャップのバーコーターを用いて塗布し、110℃真空状態で12時間以上乾繰後、ロールプレスして、更にアルゴンガス雰囲気下にて120℃で12時間熱処理を施して、厚さ30μmの正極シート8を作製した。
【0109】
<コイン電池の比較製造例3>
アルゴンガスで置換されたグローブボックス内において、コインセルに正極の比較製造例3で得た正極、セパレータとして厚み18μmのポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン多孔質膜を2枚、更に対極として厚さ300μmの金属リチウム箔を貼り合わせた積層物を入れ、電解液として1mol/Lの6フッ化リン酸リチウムのエチレンカーボネートとジメチルカーボネート溶液(体積比1:1)を十分に含浸させてコインセルでふたをしてカシメ、試験用2032型コイン電池を製造した。内部抵抗の測定結果と100サイクル後の容量維持率の評価結果を表1の比較例3に示す。
【0110】
表1に実施例および比較例を示す。
【表1】