特許第6828763号(P6828763)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6828763
(24)【登録日】2021年1月25日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】生体用移送装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 37/00 20060101AFI20210128BHJP
   A61F 2/10 20060101ALI20210128BHJP
【FI】
   A61M37/00
   A61F2/10
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2019-68171(P2019-68171)
(22)【出願日】2019年3月29日
(65)【公開番号】特開2020-162981(P2020-162981A)
(43)【公開日】2020年10月8日
【審査請求日】2020年9月7日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】今井 慶一
(72)【発明者】
【氏名】吉原 佳菜
【審査官】 竹下 晋司
(56)【参考文献】
【文献】 特表2001−502937(JP,A)
【文献】 特表2007−503876(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0169420(US,A1)
【文献】 米国特許第6113568(US,A)
【文献】 特表2007−536992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 37/00
A61M 5/178
A61M 5/32
A61F 2/10
A61L 27/38
A61L 27/56
A61L 27/58
A61L 31/14
C12M 1/26
C12M 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内に対象物を配置するための生体用移送装置であって、
1つの方向に沿って延びる筒状の針状部であって、当該針状部の先端部の開口から前記対象物である細胞群を内部に取り込む前記針状部と、
前記針状部の内側に位置し、前記針状部の内部から前記開口に向けて前記針状部に対して相対的に移動可能に構成された押出部と、を備え、
前記押出部は、前記針状部の延びる方向に沿って延びる筒状の内筒部であって、前記対象物の全体が前記内筒部の内側に入り込まない大きさの内径を有する前記内筒部を備え、
前記内筒部は、前記内筒部内を吸引する機構に接続され、前記吸引によって前記内筒部の先端部に前記対象物を保持可能に構成されている
生体用移送装置。
【請求項2】
記押出部は、前記内筒部の先端部が前記針状部の内部に位置した状態と、前記内筒部の先端部が前記針状部の前記開口から突き出した状態との間で、前記針状部に対して相対的に移動可能に構成されている
請求項1に記載の生体用移送装置。
【請求項3】
前記押出部は、
記内筒部の先端部に位置し、空気の注入によって膨らむ膨張部を備える
請求項1または2に記載の生体用移送装置。
【請求項4】
先端部に前記針状部が接続された第1注射筒と、
先端部に前記押出部が接続された第2注射筒と、を備え、
前記第1注射筒の内側に前記第2注射筒が挿入されている
請求項1〜3のいずれか一項に記載の生体用移送装置。
【請求項5】
前記対象物は、細胞凝集体であって、
前記針状部は、当該針状部の内部に前記細胞凝集体を含む液状体を取り込む
請求項1〜4のいずれか一項に記載の生体用移送装置。
【請求項6】
前記対象物である細胞群は、凝集された複数の細胞の集合体、細胞間結合により結合した複数の細胞の集合体、スフェロイド、原基、組織、器官、オルガノイド、および、ミニ臓器からなる群から選択されるいずれか1つである
請求項1〜4のいずれか一項に記載の生体用移送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内への対象物の移送に用いられる生体用移送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体から採取した細胞の培養に基づき得られた移植物を、生体の皮内や皮下へ移植する技術が開発されている。例えば、毛を作り出す器官である毛包の形成に寄与する細胞群を精製し、この細胞群を皮内へ移植することによって、毛髪を再生させることが試みられている。
【0003】
毛包は、上皮系細胞と間葉系細胞との相互作用により形成される。毛髪の良好な再生のためには、移植された細胞群から、正常な組織構造を有して周期的な毛髪の形成能力を有する毛包が生じることが望ましい。そこで、こうした毛包を形成可能な細胞群の製造方法について、様々な研究開発が行われている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2017/073625号
【特許文献2】国際公開第2012/108069号
【特許文献3】特開2008−29331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
移植物の円滑な移植のためには、培養容器等の容器に入れられている移植物を、生体内へ円滑に移動できることが望ましい。生体の皮膚や臓器等の組織内では細胞が密に詰まっており、移植物の配置に際して組織から受ける圧力が大きい。そのため、生体内への細胞の配置を補助する装置の開発が望まれている。
なお、こうした課題は、細胞に限らず薬剤等の固形物を移送して生体の組織内に配置する場合にも共通する。
【0006】
本発明は、生体内への対象物の円滑な配置を可能とした生体用移送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する生体用移送装置は、生体内に対象物を配置するための生体用移送装置であって、1つの方向に沿って延びる筒状の針状部であって、当該針状部の先端部の開口から前記対象物を内部に取り込む前記針状部と、前記針状部の内側に位置し、前記針状部の内部から前記開口に向けて前記針状部に対して相対的に移動可能に構成された押出部と、を備える。
【0008】
上記構成によれば、押出部が針状部に対して相対的に移動することによって、針状部の内部に収容されている対象物は、押出部に支持されつつ針状部の開口から出る。したがって、液体の流れのみによって対象物が針状部から出る場合と比較して、対象物が針状部の内部から組織内へ出やすい。したがって、対象物を対象領域に円滑に配置することができる。
【0009】
上記構成において、前記押出部は、前記針状部の延びる方向に沿って延びる筒状の内筒部を備え、前記押出部は、前記内筒部の先端部が前記針状部の内部に位置した状態と、前記内筒部の先端部が前記針状部の前記開口から突き出した状態との間で、前記針状部に対して相対的に移動可能に構成されていてもよい。
【0010】
上記構成によれば、内筒部の先端部が針状部の開口から突き出す位置まで、押出部が針状部に対して相対的に移動するため、対象物は、針状部の外部に完全に出るまで、押出部に支持される。したがって、対象物を対象領域により円滑に配置することができる。
【0011】
上記構成において、前記内筒部は、前記内筒部内を吸引する機構に接続され、前記吸引によって前記内筒部の先端部に前記対象物を保持可能に構成されていてもよい。
上記構成によれば、内筒部の先端部に対象物が保持されるため、対象物が針状部の内部に収容されている間から対象領域に配置されるまで、対象物が押出部に支持されている状態が的確に維持される。それゆえ、針状部に対する押出部の相対移動によって、対象物を対象領域に的確に配置することができる。
【0012】
上記構成において、前記押出部は、前記針状部の延びる方向に沿って延びる筒状の内筒部と、前記内筒部の先端部に位置し、空気の注入によって膨らむ膨張部と、を備えてもよい。
【0013】
上記構成によれば、膨らんだ膨張部が組織内で空間を押し広げるため、対象物の配置のための空間を好適に確保することが可能である。したがって、対象物をより円滑に対象領域に配置することができる。
【0014】
上記構成において、前記押出部は、前記針状部の延びる方向に沿って延びる棒状体を備え、前記押出部は、前記棒状体の先端部が前記針状部の内部に位置する状態と、前記棒状体の先端部が前記針状部の前記開口から突き出した状態との間で、前記針状部に対して相対的に移動可能に構成されていてもよい。
【0015】
上記構成によれば、棒状体の先端部が針状部の開口から突き出す位置まで、押出部が針状部に対して相対的に移動するため、対象物は、針状部の外部に完全に出るまで、押出部に支持される。したがって、対象物を対象領域により円滑に配置することができる。
【0016】
上記構成において、生体用移送装置は、先端部に前記針状部が接続された第1注射筒と、先端部に前記押出部が接続された第2注射筒と、を備え、前記第1注射筒の内側に前記第2注射筒が挿入されていてもよい。
【0017】
上記構成によれば、針状部に対して相対的に移動可能な押出部を備える生体用移送装置が、簡易な構成で的確に実現できる。
【0018】
上記構成において、前記対象物は、細胞凝集体であって、前記針状部は、当該針状部の内部に前記細胞凝集体を含む液状体を取り込んでもよい。
上記構成によれば、細胞凝集体を移植する際に、細胞凝集体を移植の対象領域に円滑に配置することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、生体内へ対象物を円滑に配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】生体用移送装置としての細胞移植装置の第1実施形態について、細胞移植装置の全体構成を示す図。
図2】第1実施形態の細胞移植装置について、針状部および押出部の断面構造を示す図。
図3】第1実施形態の細胞移植装置の全体構成の例を示す図。
図4】第1実施形態の細胞移植装置について、複数の針状部を備える形態の断面構造を示す図。
図5】第1実施形態の細胞移植装置を用いた移植方法における細胞移植装置と移植物を保持するトレイとの配置を示す図。
図6】第1実施形態の細胞移植装置を用いた移植方法における移植物の保持工程を示す図。
図7】第1実施形態の細胞移植装置を用いた移植方法における移植物の収容工程を示す図。
図8】第1実施形態の細胞移植装置を用いた移植方法における針状部を移植部位に刺す工程を示す図。
図9】第1実施形態の細胞移植装置を用いた移植方法における移植物の配置工程を示す図。
図10】第1実施形態の細胞移植装置を用いた移植方法における細胞移植装置と移植物を保持するトレイとの配置の他の例を示す図。
図11】第1実施形態の細胞移植装置を用いた移植方法における移植物の保持工程の他の例を示す図。
図12】第1実施形態の細胞移植装置を用いた移植方法における移植物の収容工程の他の例を示す図。
図13】生体用移送装置としての細胞移植装置の第2実施形態について、針状部および押出部の断面構造を示す図。
図14】第2実施形態の細胞移植装置を用いた移植方法における移植物の収容工程を示す図。
図15】第2実施形態の細胞移植装置を用いた移植方法における針状部を移植部位に刺す工程を示す図。
図16】第2実施形態の細胞移植装置を用いた移植方法における移植物の配置工程を示す図。
図17】生体用移送装置としての細胞移植装置の第3実施形態について、針状部および押出部の断面構造を示す図。
図18】第3実施形態の細胞移植装置を用いた移植方法における移植物の収容工程を示す図。
図19】第3実施形態の細胞移植装置を用いた移植方法における針状部を移植部位に刺す工程を示す図。
図20】第3実施形態の細胞移植装置を用いた移植方法における移植物の配置工程を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1実施形態)
図1図12を参照して、生体用移送装置の第1実施形態を説明する。本実施形態の生体用移送装置は、細胞の移植に用いられる細胞移植装置に具体化される。
【0022】
[移植対象]
本実施形態の細胞移植装置は、生体内へ移植物を移植するために用いられる。移植の対象領域は、皮内および皮下の少なくとも一方、あるいは、臓器等の組織内である。移植物は、細胞群を含む。この移植される対象である細胞群について説明する。
【0023】
移植対象の細胞群は、複数の細胞を含む。細胞群は、凝集された複数の細胞の集合体であってもよいし、細胞間結合により結合した複数の細胞の集合体であってもよい。あるいは、細胞群は、分散した複数の細胞から構成されてもよい。また、細胞群を構成する細胞は、未分化の細胞であってもよいし、分化が完了した細胞であってもよいし、細胞群は、未分化の細胞と分化した細胞とを含んでいてもよい。細胞群は、例えば、細胞塊(スフェロイド)、原基、組織、器官、オルガノイド、ミニ臓器等である。
【0024】
移植対象の細胞群は、対象領域に配置されることによって、生体における組織形成に作用する能力を有する。こうした細胞群の一例は、幹細胞性を有する細胞を含んだ細胞凝集体である。細胞群は、例えば、皮内または皮下に配置されることにより、発毛または育毛に寄与する。具体的には、細胞群は、毛包器官として機能する能力、毛包器官へ分化する能力、毛包器官の形成を誘導もしくは促進する能力、あるいは、毛包における毛の形成を誘導もしくは促進する能力等を有する。また、細胞群は、色素細胞もしくは色素細胞に分化する幹細胞等のように、毛色の制御に寄与する細胞を含んでいてもよい。また、細胞群は、血管系細胞を含んでいてもよい。
【0025】
具体的には、本実施形態における移植対象の細胞群の一例は、原始的な毛包器官である毛包原基である。毛包原基は、間葉系細胞と上皮系細胞とを含む。毛包器官では、間葉系細胞である毛乳頭細胞が、毛包上皮幹細胞の分化を誘導し、これによって形成された毛球部にて毛母細胞が分裂を繰り返すことにより、毛が形成される。毛包原基は、こうした毛包器官に分化する細胞群である。
【0026】
毛包原基は、例えば、毛乳頭等の間葉組織に由来する間葉系細胞と、バルジ領域や毛球基部等に位置する上皮組織に由来する上皮系細胞とを、所定の条件で混合培養することによって形成される。ただし、毛包原基の製造方法は上述の例に限定されない。また、毛包原基の製造に用いられる間葉系細胞と上皮系細胞との由来も限定されず、これらの細胞は、毛包器官由来の細胞であってもよいし、毛包器官とは異なる器官由来の細胞であってもよいし、多能性幹細胞から誘導された細胞であってもよい。
なお、移植物は、細胞群とともに、細胞群の移植を補助する部材を含んでいてもよい。
【0027】
[細胞移植装置]
図1が示すように、細胞移植装置100は、1つの方向に沿って延びる針状部10と、針状部10の内側に位置する押出部20と、針状部10と押出部20とを相対的に動かすための構造を含む位置変更部30とを備えている。
【0028】
まず、針状部10および押出部20の詳細な構成を説明する。図2が示すように、針状部10は、筒状を有する。押出部20は、針状部10の内側に位置する筒状の内筒部21を備えている。針状部10は、その先端部が、生体における移植の対象の部位を刺すことの可能な形状を有していれば、その他の形状は特に限定されない。例えば、針状部10は、円筒状に延び、針状部10の先端部は、円筒をその延びる方向に対して斜めに切断した形状を有し、尖っている。
【0029】
内筒部21は、針状部10の内側で、針状部10の延びる方向に沿って延びる。内筒部21は、筒状であれば、その他の形状は特に限定されない。例えば、針状部10が円筒状に延びる場合、内筒部21も円筒状に延びていればよい。内筒部21の先端部の端面は、内筒部21の延びる方向と直交する平面であることが好ましい。針状部10および内筒部21は、金属や樹脂から構成される。
【0030】
内筒部21は、針状部10に対して相対的に、これらの筒の延びる方向、すなわち、針状部10の延びる方向に沿って移動可能に構成されている。詳細には、内筒部21の先端部が、針状部10の先端部の開口11から突き出さずに針状部10の内部に位置する状態と、内筒部21の先端部が、開口11から突き出して外部に出ている状態との間で、針状部10に対する内筒部21の位置が変更可能に構成されている。
【0031】
また、内筒部21に接続された機構の作動によって、内筒部21内が吸引可能とされている。なお、位置変更部30が、内筒部21内を吸引する機能を兼ね備えていてもよい。また、内筒部21内の吸引に加えて、空気圧による内筒部21内への加圧が可能であってもよい。
【0032】
内筒部21は、内筒部21内の吸引に基づき移植物を引き寄せ、内筒部21の先端に移植物を保持する。内筒部21の内径は、移植物の全体が内筒部21の内側に入り込まない程度の大きさを有する。一方で、内筒部21の内径は、移植物を引き寄せるために十分な吸引力を発揮できる程度に大きいことが好ましい。針状部10の内周面と内筒部21の外周面との間には、針状部10に沿って内筒部21が動くことが可能な程度の隙間が空いていればよい。
【0033】
例えば、移植物が、発毛または育毛に寄与する細胞群であって、細胞凝集体等の細胞の集合体である場合、この細胞群を球体に近似したときの当該球体の直径、すなわち、細胞群に外接する最小の球の直径は、0.1mm以上1mm以下の程度となる。
【0034】
この場合、内筒部21の内径di2は、例えば、0.05mm以上1.1mm以下の範囲から選択され、針状部10の内径di1は、例えば、0.2mm以上1.5mm以下の範囲から選択される。
【0035】
一例としては、移植物である細胞群の上記近似直径が0.1mmから0.2mm程度である場合、内筒部21の内径di2が0.1mm、内筒部21の外径do2が0.2mm、針状部10の内径di1が0.22mm、針状部10の外径do1が0.4mmとされる。この場合、針状部10としては、27Gの注射針が用いられればよい。
【0036】
他の例としては、移植物である細胞群の上記近似直径が0.2mmから0.3mm程度である場合、内筒部21の内径di2が0.17mm、内筒部21の外径do2が0.36mm、針状部10の内径di1が0.4mm、針状部10の外径do1が0.5mmとされる。この場合、針状部10としては、25Gの注射針が用いられればよい。
【0037】
図3は、上記針状部10に対する内筒部21の移動を可能とする位置変更部30を備えた細胞移植装置100の例を示す。細胞移植装置100は、2つの注射器が重ねられた構造を有する。外側の注射筒である第1注射筒31の先端部に針状部10の基端部が接続され、第1注射筒31の内側に挿入されている注射筒である第2注射筒32の先端部に内筒部21の基端部が接続されている。内筒部21は、第1注射筒31の内部から、針状部10の内部へ延びている。
【0038】
第2注射筒32は、第1注射筒31に対する押子として機能する。第1注射筒31内で第2注射筒32が針状部10の延びる方向に動かされることによって、針状部10に対する内筒部21の位置が変更される。
【0039】
また、第2注射筒32の内側には、第2注射筒32に対する押子として機能する押子33が挿入されている。第2注射筒32内で、針状部10の延びる方向に押子33が引かれることによって、内筒部21内が吸引され、上記押子33が押されることによって、内筒部21内が加圧される。
【0040】
上記構成においては、第1注射筒31、第2注射筒32、および、押子33が、位置変更部30を構成する。当該位置変更部30は、内筒部21に対する吸引および加圧を行う機能も有している。
【0041】
なお、針状部10に対する内筒部21の移動が可能であれば、位置変更部30の構成は上記形態に限られない。針状部10に対する内筒部21の移動は手動で行われてもよいし、モーター等を利用した電動により行われてもよい。また、内筒部21に対する吸引や加圧は、内筒部21に接続されたコンプレッサー等の機器の駆動によって行われてもよい。
【0042】
細胞移植装置100が備える針状部10の数は特に限定されず、細胞移植装置100は、図1および図3が示すように単一の針状部10を備えていてもよいし、図4が示すように複数の針状部10を備えていてもよい。細胞移植装置100が複数の針状部10を備える場合、複数の針状部10の配置は特に限定されず、複数の針状部10は規則的に並んでいてもよいし、不規則に並んでいてもよい。
【0043】
細胞移植装置100が複数の針状部10を備える場合、針状部10ごとに独立して針状部10に対する内筒部21の移動が可能であってもよいし、複数の針状部10において、針状部10に対する内筒部21の移動が一括して行われてもよい。また、内筒部21に対する吸引は、内筒部21ごとに独立して行われてもよいし、複数の内筒部21に対して一括して行われてもよい。
【0044】
[移植方法]
第1実施形態の細胞移植装置100を用いた移植物の移植方法を説明する。
図5が示すように、移植前において、移植物Cgは、培養容器等のトレイ50に保護液Plと共に保持されている。例えば、図5が示すように、移植物Cgは、トレイ50が有する凹部51に入れられている。そして、トレイ50内において、凹部51の内部と凹部51上の領域の全体に、保護液Plが入れられている。トレイ50における移植物Cgと保護液Plとの保持態様は、凹部51を含むトレイ50内の全域に保護液Plが保持され、凹部51に移植物Cgが保持される形態に限らず、例えば、トレイ50が有する平面上に移植物Cgと保護液Plとが配置されていてもよい。
【0045】
保護液Plは、細胞の生存を阻害し難い液体であればよく、また、生体に注入された場合に生体に与える影響の小さい液体であることが好ましい。例えば、保護液Plは、生理食塩水、ワセリンや化粧水等の皮膚を保護する液体、あるいは、これらの液体の混合物である。保護液Plは、栄養成分等の添加成分を含んでいてもよい。また、トレイ50が培養容器であって、移植物Cgがトレイ50にて培養される場合、保護液Plは、細胞の培養のための培地であってもよいし、培地から交換された液体であってもよい。移植物Cgと保護液Plとを含む液状体は、低粘度の流体、あるいは、高粘度の流体であり得る。
【0046】
針状部10への移植物Cgの取り込みに際して、細胞移植装置100は、内筒部21の先端部が、針状部10の先端部の開口11から突き出した状態とされる。そして、保護液Pl中の移植物Cgに、内筒部21の先端部が近づけられ、内筒部21内が吸引される。これにより、図6が示すように、移植物Cgが内筒部21の先端部に引き寄せられ、移植物Cgが内筒部21の先端部に保持される。その後、図7が示すように、針状部10に対して内筒部21が動かされることによって、内筒部21の先端部が針状部10の内部に引き込まれ、これに伴って、移植物Cgも針状部10の内部に収容される。移植物Cgは保護液Plと共に取り込まれ、針状部10の内部において、移植物Cgの周囲には、保護液Plが位置することが好ましい。
【0047】
移植物Cgを針状部10に収容した細胞移植装置100が、生体の例えば皮膚Skである移植部位まで運ばれ、図8が示すように、移植部位に針状部10が刺される。このとき、移植物Cgおよび内筒部21の先端部は、針状部10の内部に収容されているため、細胞移植装置100の先端には、針状部10の先端部が位置する。針状部10の先端部は生体に刺さりやすい形状を有しているため、細胞移植装置100は移植部位に円滑に進入できる。
【0048】
針状部10の先端部が移植の対象領域まで進入すると、図9が示すように、内筒部21に対して針状部10が基端側に引かれる。すなわち、内筒部21およびその先端部に保持された移植物Cgの位置は変わらずに、針状部10が移植部位から抜かれる方向に後退させられる。これにより、針状部10の開口11から移植物Cgと内筒部21の先端部とが突き出た状態となり、結果として、移植部位の内部において、針状部10の先端部が位置していた空間に、移植物Cgと内筒部21の先端部とが配置される。移植物Cgと周囲の組織との接触等に起因して移植物Cgの保持が解除され、移植物Cgが内筒部21の先端部から離れて移植の対象領域に配置される。なお、移植物Cgの保持の解除を補助するために、内筒部21内が加圧されてもよい。その後、針状部10および内筒部21は、移植部位から引き抜かれる。
【0049】
以上により、移植物Cgの対象領域への移植が完了する。細胞移植装置100を用いた上記移植方法によれば、移植物Cgをトレイ50から取り出して移植の対象領域へ配置するまでを1つの装置によって連続して行うことができるため、細胞の円滑な移植が可能である。
【0050】
そして、内筒部21が、内筒部21の先端部が針状部10の開口11から突き出た状態となるように、針状部10に対して移動可能であるため、移植物Cgは、内筒部21の先端部に支持されつつ、針状部10の外に出て、対象領域へ配置される。例えば、保護液Pl等の液体の流れのみによって移植物Cgを対象領域に配置しようとする場合、生体の組織内では細胞が密に詰まっていて液体の浸透速度が遅いため、針状部10から移植物Cgが流れ出にくい。これに対し、本実施形態では、移植物Cgが、内筒部21という構造物の先端部に支持されつつ針状部10と内筒部21との相対移動によって針状部10の外に出るため、移植物Cgが針状部10の外に出やすい。それゆえ、移植物Cgを対象領域に円滑に配置することができる。
【0051】
特に、内筒部21に対して針状部10が基端側に引かれることによって、内筒部21の先端部が針状部10の開口11から突き出た状態とされるため、針状部10の先端部が位置していた空間に移植物Cgを配置することができる。すなわち、移植物Cgを配置のための空間が、針状部10の先端部によって予め形成されるため、移植物Cgの配置に際して、移植物Cgが組織から受ける圧力の大きさを低減できる。
【0052】
また、液体の流れのみによって移植物Cgを対象領域に配置することと比較して、移植部位の表面に沿った方向および深さ方向において、移植物Cgの配置位置を制御しやすい。すなわち、内筒部21の先端部の位置に追従した位置に移植物Cgが配置されるため、内筒部21の先端部の位置の制御によって、移植物Cgの配置位置を的確に制御することができる。具体的には、内筒部21に対して針状部10が基端側に引かれることによって、移植物Cgが対象領域に配置される場合、針状部10および内筒部21の先端部の配置位置、すなわち、針状部10を刺す位置や深さの制御と内筒部21の先端部の位置や深さの制御とによって、移植物Cgの配置位置を制御することができる。
【0053】
また、針状部10への移植物Cgの取り込みに際しては、内筒部21内の吸引によって、内筒部21の先端部に移植物Cgが保持される。したがって、針状部10の内部に移植物Cgが収容されている間、および、針状部10から移植物Cgが出るときに、移植物Cgが内筒部21の先端部に支持されている状態が好適に維持される。それゆえ、移植物Cgを針状部10から出して対象領域へ配置することを、針状部10に対する内筒部21の相対移動によって的確に実現できる。
【0054】
また、針状部10への移植物Cgの取り込みに際しては、内筒部21の先端部が針状部10の開口11から突き出た状態で、内筒部21の先端部に移植物Cgが保持される。したがって、針状部10の内部で内筒部21の先端部に移植物Cgが保持されることと比較して、移植物Cgの保持部分をより移植物Cgに近づけた状態で移植物Cgを保持することができる。それゆえ、移植物Cgの保持を円滑に行うことができる。
【0055】
なお、図8および図9においては、移植部位の表面に対して傾斜した方向に針状部10が移植部位に進入する形態を図示したが、針状部10は、移植部位の表面に対して直交する方向に移植部位に進入してもよい。
【0056】
また、図10が示すように、トレイ50において、保護液Plは、凹部51の内部にのみ保持されていてもよい。この場合も、保護液Pl中の移植物Cgに近づけられた内筒部21内が吸引されることにより、図11が示すように、移植物Cgが内筒部21の先端部に保持される。その後、図12が示すように、針状部10の内部へ内筒部21が動かされることによって、移植物Cgが針状部10の内部に収容される。
【0057】
また、内筒部21の先端部が針状部10の内部に位置する状態で、移植物Cgの取り込みが行われてもよい。すなわち、内筒部21の先端部が針状部10の内部に位置する状態で、内筒部21内が吸引され、その結果、移植物Cgが針状部10の内部に引き込まれ、内筒部21の先端部に保持される。この場合、内筒部21に代えて、針状部10内を吸引するように針状部10に吸引機構が接続されていてもよい。そして、針状部10内が吸引されることによって、針状部10と内筒部21との間の隙間が吸引され、これによって、針状部10の内部に移植物Cgが引き込まれてもよい。また、移植物Cgが針状部10の内部に収容された状態において、内筒部21の内部には、保護液Plが存在してもよいし、存在しなくてもよい。内筒部21の内部に保護液Plが入るか否かは、例えば、針状部10と内筒部21とのいずれを吸引するか等によって調整することができる。
【0058】
以上説明したように、第1実施形態の生体用移送装置によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)押出部20が針状部10の開口11に向けて相対的に移動することによって、針状部10の内部に収容されている移植物Cgが、押出部20に支持されつつ針状部10の開口11から出る。そのため、液体の流れのみによって移植物Cgが針状部10から出る場合と比較して、移植物Cgが針状部10の内部から組織内へ出やすい。したがって、移植物Cgを対象領域に円滑に配置することができる。
【0059】
(2)押出部20に対して針状部10が基端側に引かれることによって、押出部20の先端部が針状部10よりも突き出た状態とされるため、針状部10の先端部が位置していた空間に移植物Cgを配置することができる。したがって、移植物Cgの配置に際して、移植物Cgが組織から受ける圧力の大きさを低減できる。
【0060】
(3)押出部20の先端部の位置に追従した位置に移植物Cgが配置されるため、液体の流れのみによって移植物Cgを対象領域に配置することと比較して、押出部20の先端部の位置の制御を通じて、移植物Cgの配置位置を制御しやすい。
【0061】
(4)押出部20が内筒部21を備え、押出部20は、内筒部21の先端部が針状部10の内部に位置した状態と、内筒部21の先端部が針状部10の開口11から突き出した状態との間で、針状部10に対して相対的に移動可能に構成されている。こうした構成によれば、内筒部21の先端部が針状部10の開口11から突き出す位置まで、押出部20が針状部10に対して相対的に移動するため、移植物Cgは、針状部10の外部に完全に出るまで、押出部20に支持される。したがって、移植物Cgをより円滑に対象領域に配置することができる。
【0062】
(5)内筒部21が、内筒部21内を吸引する機構に接続され、当該吸引によって内筒部21の先端部に移植物Cgを保持可能に構成されている。こうした構成によれば、内筒部21の先端部に移植物Cgが保持されるため、移植物Cgが針状部10の内部に収容されている間から対象領域に配置されるまで、移植物Cgが押出部20に支持されている状態が的確に維持される。それゆえ、針状部10に対する押出部20の相対移動によって、移植物Cgを対象領域に的確に配置することができる。
【0063】
(6)針状部10への移植物Cgの取り込みに際して、内筒部21の先端部が針状部10の開口11から突き出た状態で、内筒部21の先端部に移植物Cgが保持される。したがって、針状部10の内部で内筒部21の先端部に移植物Cgが保持されることと比較して、移植物Cgの保持部分をより移植物Cgに近づけた状態で移植物Cgを保持することができる。それゆえ、移植物Cgの保持を円滑に行うことができる。
【0064】
(7)細胞移植装置100が、先端部に針状部10が接続された第1注射筒31と、先端部に押出部20が接続された第2注射筒32とを備え、第1注射筒31の内側に第2注射筒32が挿入されている形態であれば、針状部10に対して相対的に移動可能な押出部20を備える細胞移植装置100が、簡易な構成で的確に実現できる。
【0065】
(第2実施形態)
図13図16を参照して、生体用移送装置の第2実施形態を説明する。第2実施形態の生体用移送装置も、第1実施形態と同様の移植物の移植に用いられる細胞移植装置に具体化される。第2実施形態は、第1実施形態と比較して、押出部の構成が異なっている。以下では、第2実施形態と第1実施形態との相違点を中心に説明し、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付してその説明を省略する。
【0066】
[細胞移植装置]
図13が示すように、第2実施形態の押出部25は、針状部10の内側に位置する筒状の内筒部21に加えて、内筒部21の先端部に取り付けられている膨張部22を備えている。膨張部22は、空気の注入によって膨らむ。具体的には、膨張部22は、袋状や風船状の構造体であり、移植物の収容前においては萎んでいる。膨張部22は、例えば、生体適合性を有する材料から構成される。
【0067】
内筒部21は、膨張部22と共に、針状部10の延びる方向に沿って、針状部10に対して相対的に移動可能に構成されている。詳細には、内筒部21の先端部および膨張部22が、針状部10の先端部の開口11から突き出さずに針状部10の内部に位置する状態と、内筒部21の先端部および膨張部22が、針状部10の開口11から突き出して外部に出ている状態との間で、針状部10に対する押出部25の位置が変更可能に構成されている。
【0068】
内筒部21に接続された機構の作動によって、内筒部21内が吸引可能とされるとともに、内筒部21を通じて、膨張部22への空気の注入が可能とされている。なお、位置変更部30が、内筒部21内を吸引する機能および膨張部22へ空気を注入する機能を兼ね備えていてもよい。
なお、第1実施形態にて説明した、位置変更部30が、第1注射筒31、第2注射筒32、および、押子33から構成される形態は、第2実施形態にも適用できる。
【0069】
[移植方法]
第2実施形態の細胞移植装置110を用いた移植物の移植方法を説明する。第1実施形態と同様に、内筒部21の先端部が、針状部10の先端部の開口11から突き出した状態とされ、内筒部21内が吸引されることによって、移植物Cgが内筒部21の先端部に保持される。そして、図14が示すように、内筒部21の先端部が針状部10の内部に引き込まれ、これに伴って、移植物Cgが針状部10の内部に収容される。
【0070】
なお、第1実施形態と同様に、内筒部21の先端部が針状部10の内部に位置する状態で、内筒部21内が吸引されることにより、移植物Cgが針状部10の内部に引き込まれ、内筒部21の先端部に保持されてもよい。また、針状部10内が吸引されることによって、針状部10と内筒部21との間の隙間が吸引され、これによって、針状部10の内部に移植物Cgが引き込まれてもよい。また、移植物Cgが針状部10の内部に収容された状態において、内筒部21の内部には、保護液Plが存在してもよいし、存在しなくてもよい。内筒部21の内部に保護液Plが入るか否かは、例えば、針状部10と内筒部21とのいずれを吸引するかや、内筒部21の先端部における膨張部22の取り付けの態様によって調整することができる。
【0071】
移植物Cgを針状部10に収容した細胞移植装置110が、生体の例えば皮膚Skである移植部位まで運ばれ、図15が示すように、移植部位に針状部10が刺される。針状部10の先端部が移植の対象領域まで進入すると、図16が示すように、内筒部21に対して針状部10が基端側に引かれる。そして、内筒部21内へ空気が注入されることを通じて、膨張部22が膨らむ。これにより、針状部10の開口11から移植物Cgと内筒部21の先端部と膨張部22とが突き出た状態となり、内筒部21による移植物Cgの保持は解除されて、移植物Cgは、膨張部22に支持されつつ移植の対象領域に配置される。その後、針状部10および内筒部21は、移植部位から引き抜かれる。膨張部22は、針状部10および内筒部21と共に移植部位から取り出されてもよいし、移植部位の内部に残されてもよい。
【0072】
以上により、移植物Cgの対象領域への移植が完了する。第2実施形態においても、内筒部21と膨張部22とからなる押出部25が、針状部10の開口11から突き出た状態となるように、針状部10に対して移動可能であるため、移植物Cgは、押出部25の先端部に支持されつつ、針状部10の外に出て、対象領域へ配置される。したがって、移植物Cgを対象領域に円滑に配置することができる。
【0073】
第2実施形態では、膨張部22が組織内で空間を押し広げるため、移植物Cgの配置のための空間を好適に確保することが可能であり、移植物Cgをより円滑に対象領域に配置することができる。
【0074】
なお、第2実施形態においては、移植物Cgの対象領域への配置の際に、少なくとも膨らんだ状態の膨張部22が針状部10の開口11から突き出していればよい。すなわち、内筒部21の先端部は、針状部10の内部に位置していてもよい。膨らんだ状態の膨張部22が針状部10の開口11から突き出していれば、移植物Cgは、押出部25の先端部に支持されつつ対象領域へ配置されるようになる。
【0075】
以上説明したように、第2実施形態の生体用移送装置によれば、第1実施形態の(1)〜(7)に加えて、以下の効果を得ることができる。
(8)押出部25が、内筒部21と膨張部22とを備える。こうした構成によれば、膨らんだ膨張部22が組織内で空間を押し広げるため、移植物Cgの配置のための空間を好適に確保することが可能である。したがって、移植物Cgをより円滑に対象領域に配置することができる。
【0076】
(第3実施形態)
図17図20を参照して、生体用移送装置の第3実施形態を説明する。第3実施形態の生体用移送装置も、第1実施形態と同様の移植物の移植に用いられる細胞移植装置に具体化される。第3実施形態は、第1実施形態と比較して、押出部の構成が異なっている。以下では、第3実施形態と第1実施形態との相違点を中心に説明し、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付してその説明を省略する。
【0077】
[細胞移植装置]
図17が示すように、第3実施形態の押出部26は、針状部10の内側に位置する棒状体24を備えている。棒状体24は、針状部10の内側で、針状部10の延びる方向に沿って延びる。棒状体24は、内部に空間を有さない棒状に延びる構造体であれば、その他の形状は特に限定されない。棒状体24と針状部10の内周面との間には、移植物Cgが入り込まない程度の大きさの隙間が空いている。
【0078】
棒状体24は、針状部10の延びる方向に沿って、針状部10に対して相対的に移動可能に構成されている。詳細には、棒状体24の先端部が、針状部10の先端部の開口11から突き出さずに針状部10の内部に位置する状態と、棒状体24の先端部が、針状部10の開口11から突き出して外部に出ている状態との間で、針状部10に対する棒状体24の位置が変更可能に構成されている。
【0079】
また、針状部10に接続された機構の作動によって、針状部10内が吸引可能とされている。なお、位置変更部30が、針状部10内を吸引する機能を兼ね備えていてもよい。また、針状部10内の吸引に加えて、空気圧による針状部10内への加圧が可能であってもよい。
【0080】
第1実施形態にて説明した、位置変更部30が、第1注射筒31、第2注射筒32、および、押子33から構成される形態は、第3実施形態にも適用できる。第2注射筒32もしくは押子33を引くことによって、針状部10と棒状体24との隙間を通じて針状部10内が吸引されるように各部が組み付けられていればよい。
【0081】
[移植方法]
第3実施形態の細胞移植装置120を用いた移植物の移植方法を説明する。
第3実施形態においては、針状部10への移植物Cgの取り込みに際して、棒状体24の先端部は、針状部10の内部に位置する状態とされる。そして、図18が示すように、移植物Cgに針状部10の先端部が向けられ、針状部10内が吸引されることにより、移植物Cgが保護液Plと共に開口11から針状部10の内部に収容される。針状部10の内部には、棒状体24が位置するため、移植物Cgは、針状部10の内部において棒状体24の先端部よりも先端側の領域に留められる。
【0082】
移植物Cgを針状部10に収容した細胞移植装置120が、生体の例えば皮膚Skである移植部位まで運ばれ、図19が示すように、移植部位に針状部10が刺される。針状部10の先端部が移植の対象領域まで進入すると、図20が示すように、棒状体24に対して針状部10が基端側に引かれる。その結果、針状部10の先端部の開口11から移植物Cgと棒状体24の先端部とが突き出た状態となり、移植部位の内部において、針状部10の先端部が位置していた空間に、移植物Cgおよび棒状体24の先端部が配置される。これにより、移植物Cgが移植の対象領域に配置される。その後、針状部10および棒状体24は、移植部位から引き抜かれる。
【0083】
以上により、移植物Cgの対象領域への移植が完了する。第3実施形態においても、棒状体24からなる押出部26が、針状部10の開口11から突き出た状態となるように、針状部10に対して移動可能であるため、移植物Cgは、棒状体24の先端部に支持されつつ、針状部10の外に出て、対象領域へ配置される。したがって、移植物Cgを対象領域に円滑に配置することができる。
【0084】
以上説明したように、第3実施形態の生体用移送装置によれば、第1実施形態の(1)〜(3),(7)の効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
(9)押出部26が棒状体24を備え、押出部26は、棒状体24の先端部が針状部10の内部に位置した状態と、棒状体24の先端部が針状部10の開口11から突き出した状態との間で、針状部10に対して相対的に移動可能に構成されている。こうした構成によれば、棒状体24の先端部が針状部10の開口11から突き出す位置まで、押出部26が針状部10に対して相対的に移動するため、移植物Cgは、針状部10の外部に完全に出るまで、押出部26に支持される。したがって、移植物Cgをより円滑に対象領域に配置することができる。
【0085】
(実施例)
上述した生体用移送装置としての細胞移植装置について、具体的な実施例を用いて説明する。実施例の細胞移植装置は、第1実施形態の細胞移植装置に相当する。
【0086】
[細胞移植装置の形成]
先の図3に示したように、2つの注射器を重ねた構造の細胞移植装置を形成した。針状部としては、25Gの注射針を用いた。針状部の内径は0.40mmであり、針状部の外径は0.50mmである。内筒部としては、内径が0.17mm、外形が0.36mmの精密パイプを用いた。
【0087】
[評価]
実施例の細胞移植装置を用いて、対象領域への移植物の配置性能を2種類の試験によって評価した。
【0088】
<試験1>
移植物のモデルとして、平均粒子径が210μmのプラスチックビーズを用意した。細胞移植装置の内筒部に1つのプラスチックビーズを吸引によって保持させ、ヌードマウスの摘出皮膚の内部にプラスチックビーズを移送する試験を10回行った。
【0089】
試験後、上記摘出皮膚の表面と裏面とを顕微鏡で観察し、プラスチックビーズが摘出皮膚の内部に配置されているかを確認した。その結果、10回の試験のすべてにおいて、プラスチックビーズが、針状部内に残留することなく、摘出皮膚の内部に固定されていることが確認された。したがって、実施例の細胞移植装置を用いて、皮膚内に対象物を配置することができることが確認された。
【0090】
<試験2>
移植物として、ホルマリンによって固定された毛包原基を用いて、試験1と同様に、細胞移植装置の内筒部に1つの毛包原基を吸引によって保持させ、ヌードマウスの摘出皮膚の内部に毛包原基を移送する試験を10回行った。毛包原基としては、平均直径が約400μm未満の細胞群(上皮系細胞4×10cellsと間葉系細胞4×10cellsとの集合体)を用いた。
【0091】
試験後、上記摘出皮膚の表面と裏面とを顕微鏡で観察し、毛包原基が摘出皮膚の内部に配置されているかを確認した。その結果、10回の試験のすべてにおいて、毛包原基が、針状部内に残留することなく、摘出皮膚の内部に固定されていることが確認された。したがって、実施例の細胞移植装置を用いて、皮膚内に対象物を配置することができることが確認された。
【0092】
(変形例)
上記各実施形態は、以下のように変更して実施することが可能である。
・移植物の対象領域への配置に際しては、針状部10が基端側に引かれることに限らず、針状部10の内部から開口11に向けて、押出部が針状部10に対して相対的に動かされればよい。例えば、針状部10が移植部位に進入した後、針状部10の位置を変えずに押出部のみを開口11から突き出す位置まで動かしてもよい。この場合、押出部の移動の前に、針状部10が押出部と共に移植部位から抜かれる方向にやや後退させられることが好ましい。これにより、針状部10の先端部が位置していた空間に移植物を配置することができる。また例えば、針状部10が移植部位に進入した後、針状部10と押出部とを互いに反対の方向に動かすことにより、押出部を開口11から突き出させてもよい。
【0093】
・上記各実施形態において、針状部10や内筒部21である筒状の部材は、先端部と基端部とに開口を有し、これらの開口が筒内の空間を通じて連通している構成を有していればよく、円筒状に延びる構造体に限られない。上記筒状の部材の外形は、円柱状であってもよく、錐体状であってもよく、角柱体状であってもよく、特に限定されない。また、上記筒状の部材の内部に区画される空間の形状は、円柱状であってもよく、錐体状であってもよく、角柱体状であってもよく、特に限定されない。
【0094】
・移植対象の細胞群は、発毛または育毛に寄与する細胞群でなくてもよく、生体の組織内に配置されることによって、所望の効果を発揮する細胞群であればよい。例えば、移植対象の細胞群は、皮膚における皺の解消や保湿状態の改善等、美容用途での効果を発揮する細胞群であってもよい。さらに、生体用移送装置が生体内へ移送する対象物は、細胞群に限らず、薬剤等の固形物であってもよい。
【符号の説明】
【0095】
10…針状部、11…開口、20,25,26…押出部、21…内筒部、22…膨張部、24…棒状体、30…位置変更部、31…第1注射筒、32…第2注射筒、33…押子、50…トレイ、51…凹部、100,110,120…細胞移植装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20