(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6828833
(24)【登録日】2021年1月25日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】二次元液体クロマトグラフシステム
(51)【国際特許分類】
G01N 30/46 20060101AFI20210128BHJP
G01N 30/34 20060101ALI20210128BHJP
G01N 30/02 20060101ALI20210128BHJP
G01N 30/82 20060101ALI20210128BHJP
【FI】
G01N30/46 A
G01N30/34 E
G01N30/02 Z
G01N30/82
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-561458(P2019-561458)
(86)(22)【出願日】2017年12月27日
(86)【国際出願番号】JP2017046847
(87)【国際公開番号】WO2019130460
(87)【国際公開日】20190704
【審査請求日】2019年11月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】渡部 悦幸
(72)【発明者】
【氏名】早川 禎宏
(72)【発明者】
【氏名】飯田 哲生
【審査官】
高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】
特表2017−534065(JP,A)
【文献】
特開2006−292392(JP,A)
【文献】
特開2004−101477(JP,A)
【文献】
Paul G. Stevenson et al.,Comprehensive two-dimensional chromatography with coupling of reversed phase high performance liquid chromatography and supercritical fluid chromatography,Journal of Chromatography,2012年,Vol 1220,P175-178
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00−30/96
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次元目分析用移動相が流れる一次元目分析流路、前記一次元目分析流路中に試料を注入するように構成された試料注入部、前記一次元目分析流路上に設けられて前記試料注入部により注入された試料を成分ごとに分離する一次元目分析カラム、及び前記一次元目分析流路上における前記一次元目分析カラムよりも下流に設けられ、前記一次元目分析カラムからの溶出液に基づくクロマトグラムを取得するための一次元目検出器を有する一次元目分析部と、
二次元目分析流路、前記二次元目分析流路上に設けられた二次元目分析カラム、及び前記二次元目分析カラムで分離した試料成分を検出するための二次元目検出器を有する二次元目分析部と、
前記二次元目分析流路中において二次元目分析用移動相を送液する二次元目送液装置と、
前記一次元目分析カラムからの溶出液を複数のモジュレーションに分割して前記二次元目分析流路中に連続的に導入するように構成された分画導入部と、
分析対象試料についての一連の分析動作中に、前記二次元目送液装置に、前記二次元目分析用移動相の組成を時間的に変化させるグラジエント送液を複数回にわたって繰り返すとともに前記グラジエント送液のグラジエントプロファイルを段階的に変化させるシフトグラジエント送液を実行させるためのシフトグラジエントプログラムを作成するように構成されたシフトグラジエントプログラム作成部と、
前記シフトグラジエントプログラム作成部により作成されたシフトグラジエントプログラムに基づいた前記シフトグラジエント送液を前記二次元目送液装置が実行するように前記二次元目送液装置の動作を制御するように構成された送液制御部と、
前記シフトグラジエントプログラム作成部により作成されたシフトグラジエントプログラムにおいて異なるグラジエントプロファイルをもつグラジエント送液の段階へのシフトタイミングを、当該分析対象試料について前記一連の分析動作前に前記一次元目検出器により取得された予備クロマトグラムに基づいて調整するように構成されたシフトタイミング調整部と、を備えている二次元液体クロマトグラフシステム。
【請求項2】
情報表示を行なう表示装置を備え、
前記シフトタイミング調整部は、前記予備クロマトグラムを前記表示装置に表示し、当該予備クロマトグラム上においてユーザにより指定されたタイミングを前記シフトタイミングとするように構成されている、請求項1に記載の二次元液体クロマトグラフシステム。
【請求項3】
前記シフトタイミング調整部は、前記分画導入部による複数の前記モジュレーションへの分割タイミングを前記予備クロマトグラムに重ねて前記表示装置に表示するように構成されている、請求項2に記載の二次元液体クロマトグラフシステム。
【請求項4】
前記分画導入部は、複数のサンプルループを備え、いずれか1つの前記サンプルループを前記一次元目分析カラムの下流に接続して前記一次元目分析カラムからの溶出液の一部を1つの前記モジュレーションとしてそのサンプルループに捕捉すると同時に、前記一次元目分析カラムの下流に接続されていない1つの前記サンプルループを前記二次元目分析流路に接続し、そのサンプルループに捕捉されていた前記モジュレーションを前記二次元目分析流路中に導入する動作を、前記サンプルループを切り替えながら連続的に行なうものである、請求項1から3のいずれか一項に記載の二次元液体クロマトグラフシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の分離分析を行なう一次元目分析部と、一次元目分析部の分析カラムから溶出した試料成分のさらなる分析を行なう二次元目分析部と、を備えた二次元液体クロマトグラフシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフを用いた分析をより詳細に行なうために、二次元液体クロマトグラフシステムが用いられる場合がある。二次元液体クロマトグラフシステムは、一次元目の分析カラム(以下、一次元目分析カラム)を用いて試料の一次元目分析を行なった後、一次元目分析カラムからの溶出液を二次元目の分析カラム(以下、二次元目分析カラム)へ導いて二次元目分析を行なうように構成されたものである。
【0003】
二次元液体クロマトグラフシステムでは、一次元目分析カラムからの溶出液を連続的に二次元目分析カラムへ導くために、一次元目分析カラムからの溶出液の一部をモジュレーションとして捕捉する2つのサンプルループを用いる。切替バルブによってサンプルループを交互に連続的に切り替えながら一次元目分析カラムの下流に接続し、一方のサンプルループを一次元目分析カラムの下流に接続している間に他方のサンプルループを二次元目分析カラムに接続する。二次元目分析カラムに接続されたサンプルループの上流からは、二次元目の分離分析を行なうための移動相が送液される。これにより、一次元目分析カラムからの溶出液が複数のモジュレーションに分割され、各モジュレーションが順次連続的に二次元目分析カラムへ導入される。
【0004】
このような二次元液体クロマトグラフシステムでは、二次元目分析をより効率よく行なうために、二次元目の分離分析用の移動相(以下、二次元目分析用移動相)の組成を時間的に変化させるグラジエント送液を複数回にわたって繰り返すとともに、グラジエント送液のグラジエントプロファイルを段階的に変化させる場合がある。このように繰り返されるグラジエント送液のグラジエントプロファイルを段階的に変化させることをシフトグラジエント送液という。シフトグラジエント送液を行なう場合には、一定時間ごとにグラジエント送液がグラジエントプロファイルの異なる次の段階へシフトするようにグラジエントプログラムが作成される。グラジエントプロファイルとは、グラジエント送液における移動相の初期濃度や最終濃度などである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、二次元液体クロマトグラフシステムでは、一次元目分析カラムからの溶出液を捕捉するサンプルループを一定時間ごとに切り替えて複数のモジュレーションに分割し、二次元目分析カラムへ導入している。このため、一次元目分析カラムで分離されて一次元目分析カラムから溶出した同一の試料成分が2以上のモジュレーションに分割されることがある。
【0006】
同一の試料成分が2以上のモジュレーションに分割された場合、同一の試料成分を含むモジュレーションが二次元目分析用移動相のシフトグラジエント送液の段階がシフトするタイミングで二次元目分析カラムに導入されることがある。
【0007】
シフトグラジエント送液の段階がシフトすると、グラジエントの初期濃度等が変化する。このため、同一の試料成分を含むモジュレーションがシフトグラジエント送液の段階がシフトするタイミングで二次元目分析カラムに導入されると、同一の試料成分を含むモジュレーションであるにも拘わらず、互いに異なるグラジエントプロファイルで二次元目の分析が行われてしまい、各モジュレーションに含まれる試料成分の二次元目分析カラムでの保持時間に差が生じ、二次元目分析の結果に悪影響を与える。
【0008】
そこで、本発明は、同一試料成分を含む複数のモジュレーションが存在する場合でも、それらのモジュレーションに含まれる試料成分について同じグラジエント送液条件下において二次元目の分離分析が行なわれるようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る二次元液体クロマトグラフシステムは、一次元目分析部と、二次元目分析部と、二次元目送液装置と、分画導入部と、シフトグラジエントプログラム作成部と、送液制御部と、シフトタイミング調整部と、を備えている。
【0010】
一次元目分析部は、一次元目分析用移動相が流れる一次元目分析流路、前記一次元目分析流路中に試料を注入するように構成された試料注入部、前記一次元目分析流路上に設けられて前記試料注入部により注入された試料を成分ごとに分離する一次元目分析カラム、及び前記一次元目分析流路上における前記一次元目分析カラムよりも下流に設けられ、前記一次元目分析カラムからの溶出液に基づくクロマトグラムを取得するための一次元目検出器を有する。
【0011】
二次元目分析部は、二次元目分析流路、前記二次元目分析流路上に設けられた二次元目分析カラム、及び前記二次元目分析カラムで分離した試料成分を検出するための二次元目検出器を有する。
【0012】
二次元目送液装置は、前記二次元目分析流路中において二次元目分析用移動相を送液する。
【0013】
分画導入部は、前記一次元目分析カラムからの溶出液を複数のモジュレーションに分割して前記二次元目分析流路中に連続的に導入するように構成されている。
【0014】
シフトグラジエントプログラム作成部は、分析対象試料についての一連の分析動作中に、前記二次元目送液装置に、前記二次元目分析用移動相の組成を時間的に変化させるグラジエント送液を複数回にわたって繰り返すとともに前記グラジエント送液のグラジエントプロファイルを段階的に変化させるシフトグラジエント送液を実行させるためのシフトグラジエントプログラムを作成するように構成されている。
【0015】
送液制御部は、前記シフトグラジエントプログラム作成部により作成されたシフトグラジエントプログラムに基づいた前記シフトグラジエント送液を前記二次元目送液装置が実行するように前記二次元目送液装置の動作を制御するように構成されている。
【0016】
シフトタイミング調整部は、前記シフトグラジエントプログラム作成部により作成されたシフトグラジエントプログラムにおいて異なるグラジエントプロファイルをもつグラジエント送液の段階へのシフトのタイミング(以下、シフトタイミング)を、当該分析対象試料について前記一連の分析動作前に前記一次元目検出器により取得された予備クロマトグラムに基づいて調整するように構成されている。
【0017】
本発明の好ましい実施形態では、情報表示を行なう表示装置をさらに備え、前記シフトタイミング調整部は、前記予備クロマトグラムを前記表示装置に表示し、当該予備クロマトグラム上においてユーザにより指定されたタイミングを前記シフトタイミングとするように構成されている。これにより、ユーザが予備クロマトグラムを参照しながら各段階へシフトさせるタイミングを指定することができるので、シフトタイミングの調整が容易になる。
【0018】
本発明のさらに好ましい実施形態では、前記シフトタイミング調整部は、前記分画導入部による複数の前記モジュレーションへの分割タイミングを前記予備クロマトグラムに重ねて前記表示装置に表示するように構成されている。これにより、ユーザは一次元目分析カラムからの溶出液がどのように複数のモジュレーションに分割されるかをクロマトグラムとともに視認することができるようになるので、シフトタイミングの調整がさらに容易になる。
【0019】
前記分画導入部の一実施形態として、複数のサンプルループを備え、いずれか1つの前記サンプルループを前記一次元目分析カラムの下流に接続して前記一次元目分析カラムからの溶出液の一部を1つの前記モジュレーションとしてそのサンプルループに捕捉すると同時に、前記一次元目分析カラムの下流に接続されていない1つの前記サンプルループを前記二次元目分析流路に接続し、そのサンプルループに捕捉されていた前記モジュレーションを前記二次元目分析流路中に導入する動作を、前記サンプルループを切り替えながら連続的に行なうものが挙げられる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る二次元液体クロマトグラフシステムでは、シフトグラジエント送液のシフトタイミングを分析対象試料についての予備クロマトグラムに基づいて調整することができるように構成されているので、同一試料成分を含む複数のモジュレーションが存在する場合でも、それらのモジュレーションに対して同一のグラジエントプロファイルをもつグラジエント送液を行なうようにシフトグラジエントプログラムを修正することが可能になる。これにより、複数のモジュレーションに分割された同一の試料成分について、確実に、同一のグラジエント送液条件下で二次元目の分離分析が行われるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】二次元液地帯クロマトグラフシステムの一実施例を示す概略構成図である。
【
図2】同実施例の一次元目分析部により得られるクロマトグラムの一例と調整前のグラジエントプログラムの一例を示す図である。
【
図3】同クロマトグラムと調整後のシフトグラジエントプログラムの一例を示す図である。
【
図4】同クロマトグラムと調整後のシフトグラジエントプログラムの他の例を示す図である。
【
図5】シフトグラジエントプログラムを調整せずに得られる二次元液体クロマトグラフの分析データの一例である。
【
図6】シフトグラジエントプログラムを調整して得られる二次元液体クロマトグラフの分析データの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、二次元液体クロマトグラフシステムの一実施例について、図面を用いて説明する。
【0023】
図1は二次元液体クロマトグラフシステムの概略的構成を示す。
【0024】
この実施例の二次元液体クロマトグラフシステムは、一次元目分析部2、二次元目分析部4、分画導入部6、二次元目送液装置8、演算制御装置10及び表示部12を備えている。
【0025】
一次元目分析部2は一次元目分析を行なうためのものであり、一次元目分析流路14、一次元目送液装置16、試料注入部18、一次元目分析カラム20及び一次元目検出器22を備えている。一次元目送液装置16は一次元目分析流路14中で移動相を送液するためのものである。試料注入部18は、試料容器に収容された試料を自動的に採取して一次元目分析流路14中に注入するように構成されている。一次元目分析カラム20は一次元目分析流路14上における試料注入部18よりも下流に設けられ、試料注入部18により注入された試料を成分ごとに分離する。一次元目検出器22は一次元目分析カラム20で分離された試料成分を検出するためのものであり、一次元目分析流路14上における一次元目分析カラム20よりも下流に設けられている。一次元目検出器22で得られる検出信号は演算制御装置10に取り込まれる。
【0026】
一次元目分析部2の一次元目分析流路14の下流端は分画導入部6の切替バルブ30aの1つのポートに接続されている。分画導入部6は、一次元目分析部2の一次元目検出器22を経た一次元目分析カラムからの溶出液を複数のモジュレーションに分け、各モジュレーションを順次、二次元目分析部4へ導入するように構成されている。
【0027】
分画導入部6は6つの接続ポートを有する切替バルブ30a,30bと2つのサンプルループ32、34を備えている。サンプルループ32、34のそれぞれの一端は、切替バルブ30aの接続ポートのうち、一次元目分析部2の一次元目分析流路14が接続されているポートに隣接するポートに接続されており、一次元目分析流路14の下流端がサンプルループ32,34のいずれか一方に接続されるようになっている。サンプルループ32,34のそれぞれの他端は、切替バルブ30bの接続ポートのうち二次元目分析部4の二次元面分析流路24が接続されているポートに隣接するポートに接続されており、二次元面分析流路24の上流端がサンプルループ32,34のいずれか一方に接続されるようになっている。切替バルブ30aの他の接続ポートには、二次元目送液装置8によって送液される二次元目分析用移動相が流れる二次元目移動相送液流路35も接続されている。
【0028】
切替バルブ30a,30bは互いに同期して切り替えられ、一次元目分析流路14の下流にサンプルループ32を接続しながら二次元目移動相送液流路35と二次元目分析流路24とをサンプルループ34を介して接続した状態(
図1の状態)と、一次元目分析流路14の下流にサンプルループ34を接続しながら二次元目移動相送液流路35と二次元目分析流路24とをサンプルループ32を介して接続した状態と、のいずれか一方の状態に切り替えることができる。
【0029】
一次元目分析流路14の下流に一方のサンプルループ32又は34が接続されると、一方のサンプルループ32又は34には一次元目分析カラム20からの溶出液の一部がモジュレーションとして捕捉される。このとき、他方のサンプルループ34又は32は二次元目移動相送液流路35と二次元目分析流路24との間に接続され、そのサンプルループ34又は32に捕捉されていたモジュレーションが二次元目送液装置8によって送液される二次元目分析用移動相によって二次元目分析部4へ導入される。切替バルブ30は一定時間ごとに一方の状態へ交互に切り替えられるようになっており、それによって一次元目分析カラム20からの溶出液が複数のモジュレーションに分割されながら二次元目分析部4へ導入される。
【0030】
なお、この実施例では、分画導入部6の機能が2つの切替バルブ30a,30bと2つのサンプルループ32、34によって実現されているが、本発明はこれに限定されない。切替バルブ30a,30bに代えて1つの切替バルブ(例えば、10ポートバルブ)を用いてもよい。
【0031】
二次元目分析部4の二次元目分析流路24上には、二次元目の分析を行なうための二次元目分析カラム26及び二次元目検出器28が設けられている。二次元目検出器28で得られる検出信号は演算制御装置10に取り込まれる。
【0032】
二次元目送液装置8は、少なくとも2種類の溶媒を送液する送液ポンプを備え、それらの溶媒を混合して二次元目分析用移動相として送液するように構成されている。二次元目送液装置8には送液ポンプの動作を制御する送液制御部36が設けられている。送液制御部36は、演算制御装置10から提供されるシフトグラジエントプログラムに基づいて二次元目分析用移動相のシフトグラジエント送液を実行するように構成されている。シフトグラジエント送液とは、
図2の下側のグラフに示されているような、二次元目分析用移動相の所定溶媒の濃度(図では移動相濃度と記載されている。)を時間的に変化させるグラジエント送液を繰り返すとともにグラジエント送液のグラジエントプロファイルを段階的に変更する送液方法である。
図2の例では、分画導入部6によるモジュレーションへの分割タイミングに同期してグラジエント送液を繰り返すようにプログラムされている。
【0033】
演算制御装置10は、一次元目分析部2、分画導入部6、二次元目送液装置8の動作管理を行なう機能や、一次元目検出器22の検出信号と二次元目検出器28の検出信号に基づいて所定の演算処理(例えば、
図2の上側に示されるようなクロマトグラムの作成や
図5、
図6に示されるような二次元マップの作成)を行なう機能を有する。演算制御装置10は、シフトグラジエントプログラムを作成するシフトグラジエントプログラム作成部38、シフトグラジエントプログラム作成部38により作成されたシフトグラジエントプログラムのシフトタイミングを調整するように構成されたシフトタイミング調整部40及び予備クロマトグラム保持部42を備えている。
【0034】
演算制御装置10は、専用のコンピュータ又は汎用のパーソナルコンピュータによって実現されるものである。シフトグラジエントプログラム作成部38とシフトタイミング調整部40は、演算制御装置10を実現するコンピュータにおいて所定のプログラムが実行されることにより得られる機能である。予備クロマトグラム保持部42は演算制御装置10を実現するコンピュータに設けられた記憶装置の一部の記憶領域によって実現される機能である。
【0035】
表示部12は演算制御装置10に接続されており、演算制御装置10は種々の情報を表示部12に表示させることができる。
【0036】
演算制御装置10のグラジエントプログラム作成部38は、ユーザによって入力された各段階の初期濃度、最終濃度に関する情報に基づいてシフトグラジエントプログラムを作成するように構成されている。シフトグラジエントプログラムは、
図2の下側のグラフに示されているように、グラジエント送液のグラジエントプロファイルが所定のタイミングでシフトしていくように作成される。
【0037】
シフトタイミング調整部40は、グラジエントプログラム作成部38によって作成されたシフトグラジエントプログラムの各段階へのシフトタイミングをユーザによって指定されたタイミングに調整するように構成されている。
【0038】
シフトタイミング調整部40は、その機能が有効になると、分析対象試料について予備的に行なわれた一次元目分析部2による分析により取得されたクロマトグラム(これを予備クロマトグラムという)とともに、分画導入部6によって各モジュレーションに分割されるタイミング、すなわち分画導入部6の切替バルブ30が切り替えられるタイミングを表示部12に表示する。
図2では、分画導入部6によって各モジュレーションに分割されるタイミングが破線で示されている。予備クロマトグラムは予備クロマトグラム保持部42に保持されている。シフトタイミング調整部38は、表示部12に表示された予備クロマトグラム上の任意のシフトタイミング又はシフトさせないタイミングをユーザに指定させる。
【0039】
図2は予備クロマトグラムに現れた1つのピーク部分を示している。この予備クロマトグラムの1つのピークは2つのモジュレーションM1とM2に分割されることになる。初期の(調整前の)シフトグラジエントプログラムでは、
図2下段に示されているように、同一のピーク成分を含む2つのモジュレーションM1、M2に対して互いに異なるグラジエントプロファイルをもつグラジエント送液がなされるようになっている。このようなシフトグラジエントプログラムでは、同じピーク成分であるにもかかわらず、モジュレーションM1に含まれる成分とモジュレーションM2に含まれる成分とで異なるグラジエントプロファイルによって二次元目の分析がなされてしまい、二次元目分析カラム26の保持時間が変わってしまう虞がある。このような現象が生じると、一次元目検出器22の検出信号と二次元目検出器28の検出信号に基づいて作成される二次元マップが、
図5のピーク3のように歪な形状となってしまい、目的成分の定性や定量の信頼性が損なわれる。
【0040】
なお、
図2下段のグラフは、同図上段のクロマトグラムを有する一次元目分析部2からの溶出液に供給される二次元目分析用移動相の所定溶媒の濃度(移動相濃度)を示している。
図3、
図4の下段のグラフも同様である。また、
図5の二次元マップは、横軸に一次元目分析カラム20による保持時間、縦軸に二次元目分析カラム26による保持時間をとり、各時間における検出器22、28の検出信号の強度を等高線で示したものである。
【0041】
上記の問題を避けるために、シフトグラジエントプログラムのシフトタイミングを調整し、同一のピーク成分を含むモジュレーションに対しては同一のグラジエントプロファイルによるグラジエント送液がなされるようにする。
図2でいえば、モジュレーションM1とM2との間でグラジエントプロファイルをシフトさせないようにし、モジュレーションM1とM2に対するグラジエント送液のグラジエントプロファイルを同一にする。
【0042】
モジュレーションM1とM2に対するグラジエント送液のグラジエントプロファイルを同一にする場合、モジュレーションM2の後のモジュレーションに対するグラジエント送液には、
図3下段のグラフに示されているように、モジュレーションM2に対して本来的に設定されていたグラジエントプロファイルを適用してもよい。この場合、全体の分析時間とモジュレーション数は、同一のピーク成分を含むモジュレーション数に応じて増えることとなる。
【0043】
また、モジュレーションM1とM2に対するグラジエント送液のグラジエントプロファイルを同一にする場合、モジュレーションM2の後のモジュレーションに対するグラジエント送液には、
図4下段のグラフに示されているように、当該モジュレーションに対して本来的に設定されていたグラジエントプロファイルをそのまま適用してもよい。この場合は、全体の分析時間やモジュレーション数は同一のピーク成分を含むモジュレーション数に関係なく初期設定時のままになる。
【0044】
このようにシフトグラジエントプログラムを調整すれば、モジュレーションM1に含まれる成分とモジュレーションM2に含まれる成分を同一グラジエントプロファイルで二次元目分析を行なうことができる。これにより、ピーク3の二次元マップの等高線図が
図6のように正常な形状となる。
【0045】
上記のようなシフトグラジエントプログラムの調整は、ユーザが予備クロマトグラムに基づいて任意に行なうことができるようになっていてもよいし、同一のピーク成分を含むモジュレーションを演算制御装置10が自動で認識し、それらのモジュレーションに対し同一のグラジエントプロファイルを適用するように構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0046】
2 一次元目分析部
4 二次元目分析部
6 分画導入部
8 二次元目送液装置
10 演算制御装置
12 表示部
14 一次元目分析流路
16 一次元目送液装置
18 試料注入部
20 一次元目分析カラム
22 一次元目検出器
24 二次元目分析流路
26 二次元目分析カラム
28 二次元目検出器
30 切替バルブ
32、34 サンプルループ
35 二次元目移動相送液流路
36 送液制御部
38 シフトグラジエントプログラム作成部
40 シフトタイミング調整部
42 予備クロマトグラム保持部