特許第6828861号(P6828861)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6828861
(24)【登録日】2021年1月25日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】歯科用樹脂複合材料
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/816 20200101AFI20210128BHJP
   A61K 6/891 20200101ALI20210128BHJP
【FI】
   A61K6/816
   A61K6/891
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-243684(P2016-243684)
(22)【出願日】2016年12月15日
(65)【公開番号】特開2018-95620(P2018-95620A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年10月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】清水 朋直
(72)【発明者】
【氏名】永沢 友康
(72)【発明者】
【氏名】山川 潤一郎
【審査官】 榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/170649(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/148293(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/176877(WO,A1)
【文献】 特開2013−151440(JP,A)
【文献】 特開2012−031155(JP,A)
【文献】 国際公開第2018/105443(WO,A1)
【文献】 特開2017−008028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00− 6/90
A61C 5/00− 5/90
A61C 13/00−13/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアリールエーテルケトン樹脂、
(B)組成式(I):AlFe2−xTiO・ZTiO (但し、0<x<2、0≦Zの範囲にある。)で示される化合物からなり、CIELab表色系において、Lが0.0〜85.0の範囲であり、aが−10.0〜30.0の範囲であり、bが25.0〜50.0の範囲である、黄色もしくは茶色の無機顔料、及び
(C)複合酸化物からなり、CIELab表色系において、Lが10.0〜80.0の範囲であり、aが−40.0〜0.0の範囲であり、bが−20.0〜40.0の範囲である、緑色無機顔料
を含む、歯科用樹脂複合材料であって、
前記歯科用樹脂複合材料100質量部に対する前記(B)及び前記(C)の配合量が、夫々(B):0.3〜8質量部、及び(C):0.08〜0.2質量部である、
ことを特徴とする歯科用樹脂複合材料
【請求項2】
前記歯科用樹脂複合材料100質量部に対して、無機充填材を10〜70質量部を含有する、請求項1に記載の歯科用樹脂複合材料。
【請求項3】
請求項1に記載の歯科用樹脂複合材料を製造する方法であって、前記(A):100質量部、前記(B):0.3〜8質量部、及び前記(C):0.08〜0.2質量部を、250℃〜500℃で溶融混練する工程を含むことを特徴とする歯科用樹脂複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用樹脂複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、機械的・電気的な特性、軽量で加工性に優れるといった特徴を有しており、電気部材、建築材料、農業資材や日用雑貨まで幅広い分野で活用される重要な材料となっている。上記用途に関しては樹脂単体での使用例も多いが、その機械的特性、特に強度や耐熱性といった性能向上のためのフィラー含有や、外観を変えるための着色まで広く行われており、我々の生活に特に密着した材料であると言える。
【0003】
これら熱可塑性樹脂材料は、強度を保ったままの軽量化への寄与、優れた耐薬品性、生産性の高さ、といった特性を活かして各種金属部品の代替材料としての用途に広がりを見せており、使用量は増加を続けている。特に近年では、医療用材料分野への活用も盛んに行われており、従来用いられていたチタンなどと共に活用がなされている。
【0004】
しかしながら、樹脂材料は本質的に有機物であるため、金属と比較すると耐熱温度や機械的強度が低いといった問題を有しており、単純にこれまでの用途全てを樹脂製部品に代替することは容易ではない。上記問題を解決するために、エンジニアリングプラスチックや、スーパーエンジニアリングプラスチックといった耐熱性や強度の高い樹脂が開発されており、目的に応じてさらに機能を向上するために、これらの樹脂に無機粒子などを充填物として配合する複合技術も提案されている。
【0005】
歯科用途としてエンジニアリングプラスチックやスーパーエンジニアリングプラスチックを使用する技術も提案されている(特許文献1、2)。これらの材料を歯科用途として使用する場合、高い審美性を要求されることが多く、その色調が重要な要素となる。エンジニアリングプラスチックやスーパーエンジニアリングプラスチックを、歯科用途として使用する場合、例えばクラウンやブリッジのような歯冠修復用途として使用する際には、患者それぞれの歯の色に適した色調を有する必要がある。ここで、人の歯の色調は千差万別であるため、審美性の高い歯冠修復を広く行うためには、幅広い色調に調整できることが重要である。
【0006】
なお、歯冠修復用途を始めとした歯科用途において、口腔内でも高い耐久性を発揮する材料として、特に、結晶性を有し、分子骨格内に芳香族環を有するエンジニアリングプラスチックやスーパーエンジニアリングプラスチックが、強度や耐熱性といった物理的性質が優れるため適していると言える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−144778号公報
【特許文献2】特開2013−144784号公報
【特許文献3】特開2009−207743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
エンジニアリングプラスチックやスーパーエンジニアリングプラスチックに色調を付与する手段としては、これらの樹脂と発色物質(顔料)とを複合化する方法が挙げられる。
【0009】
しかし、耐熱性の高いエンジニアリングプラスチック、例えば、融点が250℃以上である熱可塑性樹脂は、通常複合化を250℃以上(融点以上)の高温でとする必要があるため、従来の樹脂系歯科用材料に用いられてきたような発色の良い有機系顔料を調色に使用することが出来ない。
【0010】
一方で、歯科用セラミックに使用される無機顔料は耐熱性が高く、焼成工程を必要とする歯科用セラミックへの使用が行われている(例えば特許文献3)。融点が250℃以上である熱可塑性樹脂も、このセラミック同様に無機顔料を使用する事で調色が可能であると推察されたが、発明者等の検討によれば、これら樹脂とセラミックへのそれとでは、顔料の発色挙動に大きな差異が生じてしまうため、これまでのセラミックへの無機顔料配合の知見では、幅広い色調を有する人の歯に対して、審美的な歯冠修復材料となるような色調の調整は困難であることが分かった。これは、融点が250℃以上である熱可塑性樹脂の加工温度が有機顔料の使用できない高温域ではあるものの、セラミックの加工時に比べると低温であるため、セラミック中では顔料がマトリックスに溶融した状態で分散しているが、これらの樹脂材料中では顔料が溶融しない状態で分散している事に起因すると推察される。上記に加えて、結晶性高分子は分子構造に由来して不透明で特有の色調を呈している場合が多く、これまでと異なった独自の知見での色調調整が必要であった。
【0011】
また、審美性と同様に色むらの低減もまた改善が困難な課題であった。これは、融点が250℃以上である熱可塑性樹脂の加工温度がセラミックの加工時に比べると低温であるため、加工後のセラミック中では顔料がマトリックスに均一に溶融した状態で、均一に分散する事で色むらが発生しないが、加工後のこれらの樹脂中では顔料が粒状のまま溶融しない状態で分散している事に起因すると推察される。
【0012】
このように、様々な色調を有する天然歯に対して広く対応可能な調色を、融点が250℃以上である熱可塑性樹脂に対して行う際に、色調や色むらの観点から問題点があり、これまでの知見では発色の度合いや傾向を予測することができず、幅広い審美的な対応をしつつ色むらが改善された色調を再現することを困難としていた。本発明者らが検討したところによると、とりわけ色むらを抑制しつつ、且つ赤味の低い歯を有する患者に対して審美的な治療を行うための材料を提供することが困難であった。
【0013】
そこで本発明では、千差万別である人の歯の色調に広く対応できる、とりわけ、色むらがなく、且つ赤味が抑制され、赤味の低い歯を有する患者に対しても審美的な治療を行うことが出来る、融点が250℃以上である熱可塑性樹脂を含む歯科用樹脂複合材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、融点が250℃以上であり、芳香族骨格を有する結晶性の熱可塑性樹脂に対して、黄色もしくは茶色の無機顔料と、緑色の無機顔料を配合することで、歯科用樹脂複合材料の赤味を抑制して赤味の低い歯を有する患者に対する治療、特に歯冠修復用途として適切な色調とすることが容易となり上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
【0015】
すなわち、本発明は、(A)ポリアリールエーテルケトン樹脂、(B)組成式(I):AlFe2−xTiO・ZTiO (但し、0<x<2、0≦Zの範囲にある。)で示される化合物からなり、CIELab表色系において、Lが0.0〜85.0の範囲であり、aが−10.0〜30.0の範囲であり、bが25.0〜50.0の範囲である、黄色もしくは茶色の無機顔料、及び(C)複合酸化物からなり、CIELab表色系において、Lが10.0〜80.0の範囲であり、aが−40.0〜0.0の範囲であり、bが−20.0〜40.0の範囲である、緑色無機顔料を含む、歯科用樹脂複合材料であって、前記歯科用樹脂複合材料100質量部に対する前記(B)及び前記(C)の配合量が、夫々(B):0.3〜8質量部、及び(C):0.08〜0.2質量部である、
ことを特徴とする歯科用樹脂複合材料、並びにその製造方法である。

【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、千差万別である人の歯の色調に広く対応できる、とりわけ、色むらがなく、且つ歯科用樹脂複合材料の赤味を抑制した、赤味の低い歯を有する患者に対しても審美的な治療を行うことが出来る、歯科用樹脂複合材料を提供することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の歯科用樹脂複合材料は、(A)融点が250℃以上であり、芳香族骨格を有する結晶性の熱可塑性樹脂であるポリアリールエーテルケトン樹脂、(B)黄色もしくは茶色の無機顔料、(C)緑色無機顔料を含む歯科用樹脂複合材料であり、赤味の低い歯を有する患者に対して審美的な治療を行うことが出来る。この原因は必ずしも明確ではないが、本発明者らは以下のように推察している。

【0019】
(A)融点が250℃以上であり芳香族骨格を有する結晶性の熱可塑性樹脂は、その分子構造に由来して独特の色調を有しており、これを歯科用途、特に歯冠修復用途の審美的な治療に使用するためには、(B)黄色もしくは茶色の無機顔料を配合することが必要となるが、これらの顔料を単に配合しただけでは、赤味の低い歯を有する患者に対して審美的な治療を行うことが難しい色調となる。ここで、赤色の反対色である緑色の顔料を配合することにより、黄色または茶色の顔料において本質的に審美的な修復が可能な色調のベースを調製しつつ、赤味が強くなりがちな場合に緑色顔料を併用して赤味の調整を行うことで、赤味の低い歯を有する患者に対して審美的な治療を行うことが可能な、融点が250℃以上であり、芳香族骨格を有する結晶性の熱可塑性樹脂をベースとした歯科用材料を提供することが可能となると推察している。
【0020】
以下に、本発明を構成する各成分について説明する。
【0021】
(A)融点が250℃以上であり芳香族骨格を有する結晶性の熱可塑性樹脂
本発明の歯科用樹脂複合材料に配合される、(A)融点が250℃以上であり芳香族骨格を有する結晶性の熱可塑性樹脂としては、公知のものを特に制限なく使用することが出来る。このような樹脂を用いることによって、高強度な歯科用樹脂複合材料を製造することができる。
【0022】
本発明において、芳香族骨格とは、芳香環を含む有機骨格のことであり、π電子を持つ原子が環状に並んだ構造をもつ不飽和環状骨格を意味し、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ピレン環、ピリジン環、チオフェン環等が挙げられる。
【0023】
また、本発明において結晶性とは示差走査熱量分析において融解ピークが観測されることを意味する。
【0024】
(A)融点が250℃以上であり芳香族骨格を有する結晶性の熱可塑性樹脂としては、具体的には、ポリアリールエーテルケトン樹脂(PAEK:融点340℃〜390℃)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS:融点280℃〜290℃)、4,4’−ビフェノールおよびフタル酸とパラヒドロキシ安息香酸との重縮合体などに代表される液晶ポリマー等(LCP)などが挙げられる。
【0025】
これら融点が250℃以上であり芳香族骨格を有する結晶性の熱可塑性樹脂の中でも、特に好ましいものとして、ポリアリールエーテルケトン樹脂が挙げられる。ポリアリールエーテルケトン樹脂は、特に高強度である点など、歯科用途として用いるための好ましい物性を具備していることや、成形性の良さの点から、本発明では、融点が250℃以上であり芳香族骨格を有する結晶性の熱可塑性樹脂としてポリアリールエーテルケトン樹脂を使用する

【0026】
ポリアリールエーテルケトン樹脂は、その構造単位として、芳香族基、エーテル基(エーテル結合)およびケトン基(ケトン結合)を少なくとも含む熱可塑性樹脂であり、多くは、フェニレン基がエーテル基およびケトン基を介して結合した直鎖状のポリマー構造を持つ。なお、ポリアリールエーテルケトン樹脂の構造単位を構成する芳香族基は、ビフェニル構造などのようにベンゼン環を2つまたはそれ以上有する構造を持ったものでもよい。また、ポリアリールエーテルケトン樹脂の構造単位中には、スルホニル基または共重合可能な他の単量体単位が含まれていてもよい。ポリアリールエーテルケトン樹脂の代表例としては、ポリエーテルケトン(PEK、融点370℃)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK、融点340℃)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK、融点360℃)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK、融点390℃)などが挙げられる。
【0027】
これらポリアリールエーテルケトン樹脂の中でも、色調および物性(強度等)の観点から、主鎖を構成するエーテル基とケトン基とが、エーテル・エーテル・ケトンの順に並んだ繰り返し単位を有するポリエーテルエーテルケトン、もしく、エーテル・ケトン・ケトンの順に並んだ繰り返し単位を有するポリエーテルケトンケトンが好ましい。
【0028】
本発明の歯科用樹脂複合材料への、(A)融点が250℃以上であり芳香族骨格を有する結晶性の熱可塑性樹脂の配合量は特に限定されないが、歯科用途としての物性等の観点から、歯科用樹脂複合材料100質量部当たり、25質量部〜95質量部の範囲であることが好ましく、40質量部〜85質量部の範囲であることがより好ましく、50質量部〜70質量部の範囲であることがより好ましい。
【0029】
(B)黄色もしくは茶色の無機顔料
(B)黄色もしくは茶色の無機顔料としては、該色調を示すものを特に制限なく使用することが出来る。これらの顔料を使用することにより、歯科用樹脂複合材料を天然歯に近い色調に調色することが容易となり、審美性の高い治療を行うことが可能となる。
【0030】
(B)黄色もしくは茶色の無機顔料としては、CIELab表色系で表した色調は、Lは30.0〜85.0であるものが好ましく、40.0〜80.0の範囲であるものがより好ましい。aは−10.0〜30.0の範囲であることが好ましく、1.0〜20.0の範囲であることがより好ましい。bは25.0〜50.0の範囲であることが好ましく、30.0〜45.0の範囲であることが好ましい。
顔料の色調を該範囲とすることにより、歯科用樹脂複合材料の色調を適切なものとすることが容易となる。Lが30.0以上であることにより、歯科用樹脂複合材料の色調が明るくなり、高い審美性が得られやすくなり、85.0以下であることにより、歯科用樹脂複合材料が白く不自然な色調になりにくく、高い審美性が得られやすくなる。aが−10.0以上であることにより歯科用樹脂複合材料を歯冠修復用途として使用するための自然な色調が得られやすくなり、30.0以下であることにより(C)緑色の無機顔料を配合した場合に赤味の低い天然歯に対して十分な審美性が得られやすくなる。また、後述するように、(A)融点が250℃以上であり芳香族骨格を有する結晶性の熱可塑性樹脂との混練時や、歯科用樹脂複合材料の成形時に色むらが発生しにくい、アルミニウム、亜鉛、タングステン、チタン、ビスマス、バナジウム、プラセオジムからなる群より選ばれるいずれかの元素と鉄の酸化物を含む複合酸化物からなる無機顔料を使用できることから、aは1.0〜20.0であることが特に好ましい。bが25.0〜50.0であることにより、歯科用樹脂複合材料が歯冠修復用途として適切な色調となりやすい。なお、CIELab表色系で表した色調(L、a、b)は、一般的な色差計を使用して、測定することが可能である。本発明においては、顔料粒子を透明なサンプル瓶に、高さ1cmとなるように詰め、該試料に黒背景下にて標準の光Cを照射した際の反射光から求めたものである。
【0031】
このような(B)黄色もしくは茶色の無機顔料としては、例えば、ピグメントイエロー24(クロムチタンアンチモンの複合酸化物)、ピグメントイエロー42(鉄黄)、ピグメントイエロー53(Ti−Ni−Sbの複合酸化物、チタンニッケルアンチモン黄)、ピグメントイエロー157(Ti−Ni−Baの複合酸化物、チタンニッケルバリウム黄)、ピグメントイエロー158(Sn−Vの複合酸化物、Sn−Ti−Vの複合酸化物、バナジウム錫黄)、ピグメントイエロー159(Pr−Zr−Siの複合酸化物、プラセオジムイエロー)、ピグメントイエロー160(Zr−Vの複合酸化物、Zr−V−Inの複合酸化物、Zr−Ti−V−Inの複合酸化物、バナジウムジルコニウム黄)、ピグメントイエロー162(Ti−Cr−Nbの複合酸化物、チタンクロムニオブ黄)、ピグメントイエロー163(Cr−Ti−Wの複合酸化物、クロムチタンタングステン黄)、ピグメントイエロー184(バナジン酸ビスマス)、ピグメントブラウン24(Cr−Ti−Sbの複合酸化物、クロムチタンアンチモン黄)、Ti−W−Feの複合酸化物(チタンタングステン鉄黄)、ピグメントイエロー119(Fe−Znの複合酸化物、若しくはFe−Zn−Tiの複合酸化物、亜鉛鉄茶)、ピグメントブラウン6(酸化鉄茶)、ピグメントブラウン8(酸化マンガン)、ピグメントブラウン29(Cr−Feの複合酸化物、クロム鉄茶)、ピグメントブラウン33(Zn−Cr−Feの複合酸化物、Zn−Al−Cr−Feの複合酸化物、亜鉛鉄クロム茶)、ピグメントブラウン48(Fe−Al−Tiの複合酸化物、アルミナチタニア鉄茶)等が挙げられる。
【0032】
これらの(B)黄色もしくは茶色の無機顔料のうち、複合酸化物顔料からなる(B)黄色もしくは茶色の無機顔料を使用した場合、(B)黄色もしくは茶色の無機顔料と(A)融点が250℃以上であり芳香族骨格を有する結晶性の熱可塑性樹脂との複合化により、色調が一定の歯科用樹脂複合材料を得ることが容易となり、好ましい。通常、無機顔料と熱可塑性樹脂との複合化は、融点以上に加熱して溶融させた熱可塑性樹脂と無機顔料とを混練することで行われるが、本発明の熱可塑性樹脂は融点が250℃以上と高温であり、混練中に顔料も250℃以上の高温にさらされる。そのため、無機顔料の中でも熱安定性が高い、複合酸化物顔料を使用することが好ましい。熱安定性が高いとは、400℃、好ましくは500℃以上で30分間保持した際に、重量の増減や色調の変化が発生しないものであることが好ましい。なお、複合酸化物顔料とは、複数の金属酸化物の固溶体からなる顔料であり、単一の酸化物構造内の金属原子を第二、第三といった別の原子で置換した構造を有する。
【0033】
また、(A)融点が250℃以上であり芳香族骨格を有する結晶性の熱可塑性樹脂との混練時や、歯科用樹脂複合材料の成形時に色むらが発生しにくいことから、(B)黄色もしくは茶色の無機顔料としては、アルミニウム、亜鉛、タングステン、鉄、チタン、ビスマス、バナジウム、及びプラセオジム、のいずれかの元素を含む(B)黄色もしくは茶色の無機顔料を使用する事が好ましく、アルミニウム、亜鉛、タングステン、鉄、チタン、ビスマス、バナジウム、及びプラセオジムからなる群より選ばれる少なくとも2種類以上の金属元素の酸化物を含む複合酸化物からなる(B)黄色もしくは茶色の無機顔料を使用する事がさらに好ましく、アルミニウム、亜鉛、タングステン、チタン、ビスマス、バナジウム、プラセオジムからなる群より選ばれるいずれかの元素と鉄の酸化物を含む複合酸化物からなる(B)黄色もしくは茶色の無機顔料を使用することが特に好ましい。これらの無機顔料を使用することで色むらが発生しにくくなる理由は定かではないが、上記の元素が含まれる事で、(A)融点が250℃以上であり芳香族骨格を有する結晶性の熱可塑性樹脂に対する分散時のなじみが改善されているものと推察される。
【0034】
アルミニウム、亜鉛、タングステン、チタン、ビスマス、バナジウム、プラセオジムからなる群より選ばれるいずれかの元素と鉄の酸化物を含む複合酸化物である(B)黄色もしくは茶色の無機顔料としては、例えば、Ti−W−Feの複合酸化物(チタンタングステン鉄黄)、ピグメントイエロー119(Fe−Znの複合酸化物、Fe−Zn−Tiの複合酸化物、亜鉛鉄茶)、ピグメントブラウン33(Zn−Cr−Feの複合酸化物、Zn−Al−Cr−Feの複合酸化物、亜鉛鉄クロム茶)、ピグメントブラウン48(Fe−Al−Tiの複合酸化物、アルミナチタニア鉄茶)等が挙げられる。
【0035】
このような特に好ましい、アルミニウム、亜鉛、タングステン、チタン、ビスマス、バナジウム、プラセオジムからなる群より選ばれるいずれかの元素と鉄の酸化物を含む複合酸化物からなる(B)黄色もしくは茶色の無機顔料の中でも、以下の組成式(I)で表される化合物を、発色性と審美性と色むらの観点から、使用する

【0036】
AlFe2−xTiO・ZTiO (I)
(但し、0<x<2、0≦Zの範囲にある。)
【0037】
組成式(I)で表わされる複合酸化物顔料としては、例えば、ピグメントブラウン48(アルミナチタニア鉄茶)を挙げることができる。アルミニウム、鉄で二酸化チタンのチタン原子が、置換される割合を調整することで、顔料の配色を微調整することが出来る。
【0038】
上記のように、特に色むらの抑制の効果が大きく特に好ましい(B)黄色もしくは茶色の無機顔料として、このようなアルミニウム、亜鉛、タングステン、チタン、ビスマス、バナジウム、プラセオジムからなる群より選ばれるいずれかの元素と鉄の酸化物を含む複合酸化物が挙げられるが、このような鉄を含む複合酸化物顔料は、通常、鉄が安定な3価の状態で存在して赤色を呈していることから、顔料自体も赤味を有するものとなる。すなわち、高度に色むらを改善した樹脂複合材料を調製しようとすると、通常赤味の高い色調のものとなってしまい、赤味の低い色調の樹脂複合材料を調製することは困難である。そのため、本発明のように赤味を抑制した樹脂複合材料を提供することは利点が大きいため好ましい。言い換えると、(B)黄色もしくは茶色の無機顔料が、鉄を含む複合酸化物である場合に、色むらを高度に抑制することが可能となる一方、赤味の少ない歯に対して審美的な治療を行うことが困難であったが、本発明によれば、そのような場合であっても(C)緑色顔料を配合することにより、赤味の少ない歯に対して色むらの抑制された審美的な治療が可能となる。
【0039】
歯科用樹脂材料中における(B)黄色もしくは茶色の無機顔料の配合割合は、歯科用樹脂複合材料の色調の観点から適宜調整すればよいが、歯科用樹脂複合材料100質量部中、0.05質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、0.3質量部以上であることがさらに好ましい。また、歯科用樹脂複合材料の強度への影響の観点から、15質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましく、8質量部以下であることがさらに好ましい。
【0040】
(B)黄色もしくは茶色の無機顔料の粒径は特に限定されないが、レーザー散乱法(ベックマン・コールター社製LS230、分散媒としてエタノール使用)で計測した体積平均粒径が0.01μm〜10μmである事が好ましく、0.05μm〜3μmであることがさらに好ましく、0.1μm〜1μmである事が最も好ましい。粒径が細かいことで分散性が向上し、より少量の混合でも高い発色を得る事ができるが、小さすぎる場合は凝集を解砕するのが難しくなり、分散性が悪化する可能性が高くなる。
【0041】
また、(B)黄色もしくは茶色の無機顔料は、表面性状を改質して(A)融点が250℃以上であり芳香族骨格を有する結晶性の熱可塑性樹脂や他の成分とのなじみを改善するなどの目的のために、表面処理剤等で表面処理を行っても良い。
【0042】
(C)緑色の無機顔料
本発明の歯科用樹脂複合材料には、緑色の無機顔料が配合される。緑色の無機顔料を配合することで、歯科用樹脂複合材料の赤色度を調製することが可能となり、単に(A)融点が250℃以上であり芳香族骨格を有する結晶性の熱可塑性樹脂と(B)黄色もしくは茶色の無機顔料とを使用した場合には困難であった、赤色が低い歯を有する患者に対する審美的な治療が可能となる。
【0043】
(C)緑色の無機顔料としては、CIELab表色系で表した色調が、Lは10.0〜80.0の範囲であることが好ましく、20.0〜60.0の範囲であることがより好ましく、25.0〜45.0の範囲であることがさらに好ましい。aは−40.0〜0.0の範囲であることが好ましく、−30.0〜−10.0の範囲であることがより好ましく、−25.0〜−15.0の範囲であることがさらに好ましい、bは−20.0〜40.0の範囲であることが好ましく、0.0〜25.0の範囲であることがより好ましく、0.0〜10.0の範囲であることがさらに好ましい。色調を該範囲とすることにより、(B)黄色または茶色の無機顔料と併用した際に、歯科用樹脂複合材料の色調を調製することが容易となる。Lが10.0以上であることにより、歯科用樹脂複合材料の色調が明るくなり、高い審美性が得られやすくなり、85.0以下であることにより、歯科用樹脂複合材料が白く不自然な色調になりにくく、高い審美性が得られやすくなる。aが−40.0以上であることにより効果的に赤味を抑制することが容易となり、0.0以下であることにより特に歯冠修復用途として適切な色調が得られやすくなる。bを−20.0〜40.0の範囲とすることにより、特に歯冠修復用途として適切な色調が得られやすくなる。
【0044】
(C)緑色の無機顔料は、複合酸化物であることが好ましい。複合酸化物顔料からなる(C)緑色の無機顔料を使用した場合、(C)緑色の無機顔料と(A)融点が250℃以上であり芳香族骨格を有する結晶性の熱可塑性樹脂との複合化により、色調が一定の歯科用樹脂複合材料を得ることが容易となり、好ましい。上記したように、通常、無機顔料と熱可塑性樹脂との複合化は、融点以上に加熱して溶融させた熱可塑性樹脂と無機顔料とを混練することで行われ、混練中に顔料も250℃以上の高温にさらされるため、無機顔料の中でも熱安定性が高い複合酸化物顔料を使用することが好ましい。熱安定性が高いとは、400℃、好ましくは500℃以上で30分間保持した際に、重量の増減や色調の変化が発生しないものであることが好ましい。ここで、複合酸化物顔料とは、複数の金属酸化物の固溶体からなる顔料であり、単一の酸化物構造内の金属原子を第二、第三といった別の原子で置換した構造を有する。
【0045】
このような(C)緑色の無機顔料としては、ピグメントグリーン19(Zn−Coの複合酸化物、亜鉛緑、コバルト緑)、ピグメントグリーン26(Co−Zn−Cr−Tiの複合酸化物)、ピグメントグリーン50(Co−Tiの複合酸化物、Co−Mg−Tiの複合酸化物、Co−Ni−Zn−Tiの複合酸化物、チタンコバルト緑)、ピグメントブルー36(Co−Al−Crの複合酸化物)などが挙げられる。
【0046】
また、(A)融点が250℃以上であり芳香族骨格を有する結晶性の熱可塑性樹脂との混練時や、歯科用樹脂複合材料の成形時に色むらが発生しにくいことから、亜鉛もしくはチタンのいずれかの元素を含む複合酸化物からなる(C)緑色の無機顔料を使用する事が好ましく、亜鉛及びチタンを含む複合酸化物からなる(C)緑色の無機顔料を使用する事がさらに好ましい。
【0047】
これらの無機顔料を使用することで色むらが発生しにくくなる理由は定かではないが、上記の元素が含まれる事で、(A)融点が250℃以上であり芳香族骨格を有する結晶性の熱可塑性樹脂に対する分散時のなじみが改善されているものと推察される。
【0048】
歯科用樹脂材料中における(C)緑色の無機顔料の配合割合は、歯科用樹脂複合材料の色調の観点から適宜調整すればよいが、歯科用樹脂複合材料100質量部中、0.01質量部〜0.5質量部の範囲であることが好ましく、0.04質量部〜0.3質量部の範囲であることがより好ましく、0.08質量部〜0.2質量部の範囲であることがさらに好ましい。(C)緑色の無機顔料の配合量を0.01質量部以上とすることにより効果的に赤味を抑制することが容易となり、0.5質量部以下とすることにより歯科用樹脂複合材料の明るさを適度なものとすることが容易となり、高い審美性が得られやすくなる。
【0049】
顔料の粒径は特に限定されないが、レーザー散乱法(ベックマン・コールター社製LS230、分散媒としてエタノール使用)で計測した体積平均粒径が0.01μm〜10μmである事が好ましく、0.1μm〜3μmであることがさらに好ましく、0.3μm〜2μmである事が最も好ましい。粒径が細かいことで分散性が向上し、より少量の混合でも高い発色を得る事ができるが、小さすぎる場合は凝集を解砕するのが難しくなり、分散性が悪化する可能性が高くなる。
【0050】
また、(C)緑色の無機顔料は、表面性状を改質して(A)融点が250℃以上であり芳香族骨格を有する結晶性の熱可塑性樹脂や他の成分とのなじみを改善するなどの目的のために、表面処理剤等で表面処理を行っても良い。
【0051】
本発明の歯科用樹脂複合材料には、(B)黄色もしくは茶色の無機顔料及び(C)緑色の無機顔料以外の無機顔料、無機充填材、帯電防止剤、X線造影材、紫外線吸収材、蛍光剤などの無機粒子を配合しても良い。なお、(B)黄色もしくは茶色の無機顔料、(C)緑色の無機顔料及びこれらの無機粒子を合わせて、以下「フィラー」と称することがある。
【0052】
無機充填材を配合することで、樹脂複合材料樹脂材料に歯科用途として適切な物性を付与することが容易となるため好ましい。無機充填材としては公知のものが特に制限無く利用できる。例えば、充填材の材質としては、シリカガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、アルミノシリケートガラス、およびフルオロアルミノシリケートガラス、重金属(たとえばバリウム、ストロンチウム、ジルコニウム)を含むガラス;それらのガラスに結晶を析出させた結晶化ガラス、ディオプサイド、リューサイトなどの結晶を析出させた結晶化ガラスなどのガラスセラミックス;シリカ−ジルコニア、シリカ−チタニア、シリカ−アルミナなどの複合無機酸化物;あるいはそれらの複合酸化物にI族金属酸化物を添加した酸化物;シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニアなどの金属無機酸化物;などが挙げられる。配合による生体に対する弊害が少ない事や、白色度が向上して審美性に有利な観点から、シリカや該シリカと他の金属酸化物との複合酸化物からなるシリカ系粒子、及びチタニアや該チタニアと他の金属酸化物との複合酸化物からなる二酸化チタン系粒子が好適であり、それぞれ単独又は混合して用いる事ができる。
【0053】
無機充填材の粒径は特に制限されないが、0.05μm〜5μmの範囲であることが好ましく、0.1μm〜3μmの範囲であることがより好ましい。なお、無機充填材の表面をシランカップリング剤などの表面処理剤で表面処理をして用いることも可能である。無機充填材の配合量は、歯科用樹脂複合材料100質量部当たり、10質量部〜70質量部の範囲であることが好ましく、15質量部〜60質量部の範囲であることがより好ましく、20質量部〜50質量部の範囲であることがさらに好ましい。無機充填材の配合量を10質量部以上とすることにより、歯科用途として適当な力学的特性などの物性を得ることが容易となる。また、配合量を70質量部以下とすることにより、(A)融点が250℃以上であり芳香族骨格を有する結晶性の熱可塑性樹脂と無機充填材とを溶融混練する際に、粘度の増大が抑制され、取り扱いが容易となるとともに、粒子成分の分散性を向上させることが容易となる。
【0054】
これら顔料、無機充填材を含むフィラーの配合量は、色調、強度、靱性などの必要な物性を考慮して適宜決定すればよいが、歯科材料として適切な物性を得られやすい観点から、歯科用樹脂複合材料100質量部当たり、10質量部〜70質量部の範囲であることが好ましく、15質量部〜60質量部の範囲であることがより好ましく、20質量部〜50質量部の範囲であることがさらに好ましい。フィラーの配合量を10質量部以上とすることにより、歯科用途として適当な力学的特性などの物性を得ることが容易となる。また、配合量を70質量部以下とすることにより、(A)融点が250℃以上であり芳香族骨格を有する結晶性の熱可塑性樹脂とフィラーとを溶融混練する際に、粘度の増大が抑制され、取り扱いが容易となるとともに、粒子成分の分散性を向上させることが容易となる。
【0055】
本発明の歯科用樹脂複合材料の製造方法は特に限定されないが、熱可塑性樹脂の融点以上の温度、例えば250℃〜500℃、好ましくは350℃〜450℃で加熱溶融して混練を行う、溶融混練工程を経て製造されることが好ましい。溶融混練を行う手法としては、公知の手法を特に限定せずに用いることが出来、例えば加熱装置付きミキサーによる溶融混練や、押出機(単軸溶融混練装置、二軸溶融混練装置、三軸溶融混練装置、四軸溶融混練装置など)による溶融混練を行う事ができる。これらの中でも、連続的に製造可能で、後述するように次工程での取り扱いが容易な粒状(ペレット状)の複合材料を得ることが容易である押出機による溶融混練が好ましく、二軸溶融混練装置による溶融混練が最も好ましい。
【0056】
溶融混練工程を経た後は必要に応じて各種の後工程を実施してよい。例えば、溶融混練工程を経た直後の高温状態の溶融混練物を、そのまま射出成形や押し出し成形などにより所定の形状に成形する事ができる。また、溶融混練工程を経た直後の高温状態の溶融混練物を、一旦、ペレット状、パウダー状、あるいはブロック状などの二次加工部材に成形した後、これらの二次加工部材を用いてさらに射出成形、押し出し成形、レーザーフォーミング、切断加工、切削加工、研磨加工等の各種加工を実施しても良い。なお、二次加工部材の形状は、取り扱い易さの観点からペレット形状(特に直径0.5mm〜5mm、長さ1mm〜10mm程度の円柱状)であることが好ましい。ペレット形状の複合材料は、押出機(単軸溶融混練装置、二軸溶融混練装置、三軸溶融混練装置、四軸溶融混練装置など)からストランド状で押し出された複合材料を、所望の間隔で切断することで容易に得ることができる。さらに所望の形状に成形した後に、成形時の応力を緩和して優れた強度を発揮させるために、熱処理工程を実施しても良い。熱処理工程は、(A)融点が250℃以上であり芳香族骨格を有する結晶性の熱可塑性樹脂のガラス転移点以上で融点未満の温度で実施することが出来る。
【0057】
本発明の歯科用樹脂複合材料は、義歯、人工歯、義歯床、歯科用インプラント、歯冠修復材料、支台築造材料など種々の歯科用途に利用する事ができるが、色調安定性・審美性の要求が高く、特に天然歯の色調に合わせて材料の色調を選択する要求が高い歯冠修復用途に使用することが好ましい。
【0058】
本発明の歯科用樹脂複合材料は、(A)融点が250℃以上であり芳香族骨格を有する結晶性の熱可塑性樹脂と(B)黄色もしくは茶色の無機顔料を配合した歯科樹脂脂複合材料では困難であった、赤味が低い天然歯を有する患者に対して歯冠修復治療を行う際に、特に優れた審美性を発揮することが出来る。このような患者の天然歯に対して高い審美性を有する観点から、CIELab表色系における、本発明の歯科用樹脂複合材料の厚さ1.0mmの成形体の黒背景条件下での測色値は、L値が60.0〜86.0、a値が−2.0〜1.0、b値は12.0〜28.0、の範囲が好ましく、L値が63.0〜83.0、a値が−1.0〜1.0、b値が14.0〜25.0、の範囲がさらに好ましく、L値が65.0〜80.0、a値が−1.0〜0.0、b値が16.0〜23.0、の範囲にある事が最も好ましい。
【実施例】
【0059】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。実施例中に示した略号、称号については以下のとおりである。
【0060】
[融点が250℃以上であり芳香族骨格を有する結晶性の熱可塑性樹脂]
・PEEK:ポリエーテルエーテルケトン樹脂(ダイセルエボニック社製:VESTAKEEP2000G)
[黄色もしくは茶色の無機顔料]
・Y:(Ti−W−Feの複合酸化物;東罐マテリアル・テクノロジー社製42−543A、L/a/b=67.8/2.1/40.7)
・Y119−1:ピグメントイエロー119(Zn−Feの複合酸化物、L/a/b=42.6/18.1/34.2)
・Y119−2:ピグメントイエロー119(Zn−Fe−Tiの複合酸化物、L/a/b=56.6/12.2/38.9)
・Y184:ピグメントイエロー184(BiVO4、L/a/b=76.1/−9.4/69.2)
・B48:ピグメントブラウン48(Fe−Ti−Alの複合酸化物、L/a/b=53.8/10.7/36.3)
体積平均粒径はすべて500nmのものを使用。
【0061】
[緑色の無機顔料]
・G26:ピグメントグリーン26(Co−Zn−Cr−Tiの複合酸化物、L/a/b=28.9/−20.3/4.1)
・G50−1:ピグメントグリーン50(Co−Mg−Tiの複合酸化物、L/a/b=36.0/−24.4/8.1)
・G50−2:ピグメントグリーン50(Co−Zn−Ni−Tiの複合酸化物、L/a/b=41.2/−20.3/21.1)
・B36:ピグメントブルー36(Co−Al−Crの複合酸化物、L/a/b=40.2/−26.6/−9.1)
平均体積粒径はすべて800nmのものを使用。
【0062】
[無機充填材]
・F1:SiO(球状 体積平均粒径1μm、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物)
・F2:TiO(球状 体積平均粒径0.25μm)
【0063】
各試験方法については、以下のとおりである。
【0064】
(顔料の色調測定)
顔料粒子を透明なサンプル瓶に、高さ1cmとなるように詰め、色差計(東京電色社製:TC−1800MKII)を用いて、黒背景下にて標準の光Cをサンプル瓶の底部から照射した際の反射光から色調データ(Lp、ap、bp)を得た。
【0065】
(歯科用樹脂複合材料の調製及び成形)
所定量のポリアリールエーテルケトン樹脂と顔料と無機充填材を二軸溶融混練装置に投入し、バレル温度360℃、回転数500rpmの条件で溶融混練を行い、歯科用樹脂複合材料を得た。ノズルから排出されたストランドは水槽で冷却後、ペレタイザーを使用して、直径1〜3mm程度、長さ2〜4mm程度の円柱状のペレットを得た。
【0066】
その後、得られたペレットを射出成形機で12×14×18mmのブロック形状に成形した。
【0067】
(歯科用樹脂複合材料の色調測定)
12×14×18mmに成形したブロックをダイヤモンドカッターで12mm×14mm×t1mmに切断して内部面を露出し、その後バフ研磨を行った。バフ研磨を行った内部面に対し、色差計(東京電色社製:TC−1800MKII)を用いて、黒背景下にて標準の光Cを照射した際の反射光から色調データ(Lc、ac、bc)を得た。なお、3個のブロックからそれぞれ1個ずつの試験片を作製して色調測定を行い、その平均値を歯科用樹脂複合材料の色調とした。
【0068】
(審美性の評価)
12×14×18mmに成形したブロックより、歯科用CAD/CAMシステムを利用して、臼歯クラウン形状に成形した。該成形体を、人工歯列に設置し、目視によりその審美性の評価を以下の基準に従って行った。なお、評価は1個の成形体で行った。
・A:色調の適合がとても優れる
・B:色調の適合が優れる
・C:色調の適合がやや優れる
・D:色調の適合が許容できる
・E:色調が適合するがやや劣る
・F:色調が全く適合しない
【0069】
なお、人工歯列としては、VITAシェードガイドのC系統色に相当する色調(C2色)を有する物を用いた。VITAシェードガイドは、歯冠修復の際の色調見本として広く使用されており、VITAシェードガイドの色調としては、A系(Reddish−brownish)、B系(Reddish−yellowish)、C系(Greyish)、D系(Reddish−Grey)があり、C系は最も赤味が少ない系統である。
【0070】
(色むらの評価)
色調の測定に使用した3個の試験片の、色調測定に用いた面の色むらの状態の評価を、以下の基準に従って目視により行った。なお、3個の評価結果が同一でなかった場合は、最も悪い評価結果を採用した。
・A:色ムラは確認されない
・B:入念に確認しないと色ムラが分からない
・C:色ムラは薄くすぐわからない
・D:うっすらと色ムラがあるのがすぐわかる
・E:はっきり分かるほどの色ムラがある
【0071】
<実施例1(参考例)
PEEKを120gと、無機充填材F1を60.8gと、無機充填材F2を16gと、前記組成式(I)で示される化合物以外の化合物からなる黄色もしくは茶色の無機顔料Yを3gと、緑色の無機顔料G26を0.2gとを二軸溶融混練装置で溶融混練し、ストランド状で排出された試料をペレタイザーにより切断して歯科用樹脂複合材料のペレットを得た。射出成形機を使用してこのペレットを12×14×18mmのブロックに成形した。

【0072】
該ブロックの色調測定後、色むらを目視により評価した。
【0073】
また、該ブロックから、歯科用CAD/CAMシステムを利用して、臼歯クラウン形状に成形した。該成形体を、人工歯列に設置し、目視により審美性の評価を行った。
【0074】
歯科用樹脂複合材料の組成を表1に、色調、審美性、色むらの評価結果を表2に示す。
【0075】
<実施例2〜28、比較例1〜8>
歯科用樹脂複合材料の組成を表1に示すものに変更した以外は、実施例1(参考例)に従って歯科用樹脂複合材料を得て、その色調、審美性、色むらの評価を行った。なお、実施例14〜24は、前記組成式(I)で示される化合物からなる黄色もしくは茶色の無機顔料と、緑色の無機顔料と、を配合した、本発明の歯科用樹脂複合材料の例であり、実施例2〜13及び実施例25〜28は、実施例1と同様に前記組成式(I)で示される化合物以外の化合物からなる黄色もしくは茶色の無機顔料と、緑色の無機顔料と、を配合した参考例である。また、比較例5〜8は、その審美性が著しく悪かったため、色調測定と色むらの評価を省略した。


【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
評価結果より、黄色または茶色の無機顔料と緑色の無機顔料の双方を使用した実施例1〜28は、黄色顔料または茶色の無機顔料は含むが緑色の無機顔料を含まない比較例1〜4、及び、緑色の無機顔料は含むが黄色または茶色の無機顔料を含まない比較例5〜8と比較して、赤味の少ない歯に対して高い審美性を示した。
【0079】
同一、同量の黄色または茶色の無機顔料及び同一の緑色の無機顔料を配合した実施例15、20〜24を比較すると、緑色の無機顔料の配合量が、0.04〜0.3質量部である実施例15、20〜23は、0.3質量部を超える実施例25と比較して、より高い審美性を示した。緑色の無機顔料の配合量が、0.08〜0.2質量部である実施例15、21、22は、0.08質量部未満もしくは0.2質量部を超える実施例20、23、24と比較して更に高い審美性を示した。
【0080】
同一、同量の黄色または茶色の無機顔料及び同量の緑色の無機顔料を配合した実施例1〜4を比較すると、緑色の無機顔料のaが−25.0〜−15.0、bが0.0〜25.0の範囲内である実施例1〜3は、該範囲外である実施例4と比較して、より高い審美性を示した。これは、実施例5〜8における比較、実施例9〜12における比較、実施例14〜17における比較、実施例25〜28における比較でも、同様の傾向を示した。
【0081】
同量の黄色または茶色の無機顔料及び同一、同量の緑色の無機顔料を配合した実施例2、6、10、13、15を比較すると、(B)黄色または茶色の無機顔料として、アルミニウム、亜鉛、タングステン、チタン、ビスマス、バナジウム、プラセオジムからなる群より選ばれるいずれかの元素と鉄の酸化物を含む複合酸化物からなるものである実施例2、6、10、15は、(B)黄色または茶色の無機顔料が、アルミニウム、亜鉛、タングステン、チタン、ビスマス、バナジウム、プラセオジムからなる群より選ばれるいずれかの元素と鉄の酸化物を含む複合酸化物からなるものではない実施例13と比較して、色むらが小さかった。また、組成式(I)に示す(B)黄色または茶色の無機顔料を使用した実施例15は、組成式(I)に示すものではない(B)黄色または茶色の無機顔料を使用したと実施例2、6、10、13と比較して色むらが小さかった。この傾向は、実施例1、5、9、14で比較した場合、実施例3、7、11、16で比較した場合、実施例4、8、12、17で比較した場合も同様であった。
【0082】
また、同一、同量の黄色または茶色の無機顔料を使用し、且つ同量の緑色の無機顔料を使用した実施例1〜4を比較すると、緑色の無機顔料が亜鉛もしくはチタンのいずれかを含むものである実施例1〜3は、緑色の無機顔料が亜鉛及びチタンの双方を含まない実施例4と比較して、色むらが少なかった。なお、実施例5〜8での比較、9〜12での比較、14〜17での比較で同様の傾向を示さなかったのは緑色の無機顔料の配合量が少ないためであると考えられた。また、緑色の無機顔料の配合量を多くして、緑色の無機顔料の影響が大きくなるようにした実施例25〜28を比較すると、緑色の無機顔料が亜鉛及びチタンを含む実施例25、27は、亜鉛及びチタンのどちらか一方を含まない、もしくは双方とも含まない実施例26、28と比較して、色むらが大きかった。これらの結果から、他の成分による影響もあるが、緑色顔料が亜鉛もしくはチタンのいずれかを含む場合により色むらが発生しにくくなり、亜鉛及びチタンを含む場合にさらに色むらが発生しにくくなると言える。