【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1)発表題目 基材接着性向上を目指した生体適合性を有するヘテロアーム星型ポリマーの合成 開催日 2016年2月18日 集会名、開催場所 奈良先端科学技術大学院大学 物質創成科学研究科 平成27年度修士論文発表会、国立大学法人奈良先端科学技術大学院大学(奈良県生駒市高山町8916−5) 2)刊行物名 日本化学会第96春季年会(2016)論文予稿集 発行日 2016年3月10日 発行所 公益社団法人日本化学会 該当頁 メディカルデバイス用樹脂材料へ生体適合性を付与するヘテロアーム星型ポリマー(奈良先端大物質)3PC−141
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記の疎水性ポリマーアームは、ポリ(メタクリル酸ブチル)、ポリ(メタクリル酸ラウリル)、ポリ(メタクリル酸ステアリル)の何れかである請求項1〜3の何れかに記載の星型ポリマー。
医療用として使用し得るプラスチック糸、プラスチックフィルム、プラスチックチューブ、プラスチック袋およびプラスチック容器の何れかのプラスチック製用具であって、
請求項1〜7の何れかの星型ポリマーが、コート剤として上記プラスチック製用具の表面上にコートされた医療用用具。
【実施例1】
【0022】
ポリ(メタクリル酸ヒドロキシエチル)(PHEMA)の親水性ポリマーアームと、長鎖アルキル基を有するポリ(メタクリル酸エステル) の疎水性ポリマーアームを同一分子内に有する星型ポリマーを作製する。
本実施例では、
図3に示すように、星型ポリマーの疎水性アームポリマーとして、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)ではなく、ポリ(メタクリル酸ブチル) (PBMA)、ポリ(メタクリル酸ラウリル)(PLaMA)、ポリ(メタクリル酸ステアリル)(PStMA)の3種の疎水性ポリマーアームを同一分子内に有する星型ポリマーを作製する。
まず、PBMA、PLaMA、PStMAのそれぞれのポリマーをリビングラジカル重合により合成する。また、PHEMA前駆体のポリ(メタクリル酸トリメチルシリロキシエチル)(PTMSOEMA)のポリマーを合成する。それぞれのポリマーの特性を下記表1に示す。それぞれのポリマーの重合度および分子量は
1H NMRによって、分子量分散度(M
w/M
n)はGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)測定によって行った。表1に示すように、分子量分散度の比較的狭い重合度(DP
n)85〜89量体のアームポリマーを用いた。
【0023】
【表1】
【0024】
上記のPTMSOEMAと、上記のPBMA、PLaMA、PStMAを用いて、PHEMA/PBMAヘテロアーム星型ポリマー、PHEMA/PLaMAヘテロアーム星型ポリマー、PHEMA/PStMAヘテロアーム星型ポリマーの合成を行った。なお、基材接着性試験や血液適合性試験のコントロールとして、PBMA,PLaMA,PStMAのホモ星型ポリマーとPHEMA/PMMAヘテロアーム星型ポリマーを用いた。
【0025】
星型ポリマーは、中央のコアから複数の直鎖状のアームポリマーが、放射状に結合した分岐高分子である。リビングラジカル重合を用いて星型ポリマーを合成する方法には、多官能性開始剤法、多官能性停止剤法、ジビニル化合物に基づくコアファースト法、ジビニル化合物に基づくアームファースト法の4種類がある。多官能性開始剤法は、多官能性開始剤を用いて合成する手法であり、重合開始点の数に等しい本数のアームを持った星型ポリマーが合成可能であるが、この多官能性開始剤の合成が難しい。また、多官能性停止剤法では、多官能性開始剤法と同様に本数の決まったアームを持つ星型ポリマーが得られるが、停止剤の合成が難しい。また停止点の増加に伴い、ポリマーの立体障害によりすべての停止点に付加させることが難しい。
一方、ジビニル化合物に基づくコアファースト法、アームファースト法は、星型ポリマーのアームの本数の分布にばらつきがあるが、ジビニル化合物と枝ポリマーの濃度比を調整することにより、多数のアームを持つ星型ポリマーの合成に適している。本実施例では、より多くのアームを持った星型ポリマーを得ることのできるアームファースト法を用いる。
【0026】
図4に示すように、PHEMA前駆体のPTMSOEMAと合成したPBMA,PLaMA,PStMAのそれぞれを重合体開始剤とし、EGDMAをリンキング剤として、トルエン中で、Ru(Ind)Cl(PPh
2)
3を触媒、n−Bu
3Nを助触媒として、3種類のヘテロアーム星型ポリマーの合成を行った。
それぞれ合成したヘテロアーム星型ポリマーについて、GPC測定による分子量測定曲線を用いて、アームのピークとスターのピークの面積比からスター変換率を求めた。
【0027】
下記表2に、合成した3種類のヘテロアーム星型ポリマーと比較用の3種類のホモ星型ポリマーのそれぞれの特性を示す。なお、粒径は、動的光散乱法(Dynamic Light Scattering;DLS)により算出している。
【0028】
【表2】
【0029】
PHEMA/PBMAヘテロアーム星型ポリマーの合成では、GPC曲線からスター変換率は72%であった。星型ポリマーをトルエンに溶解し(20wt%)、9倍量のMeOHを滴下することにより、PTMSOEMAおよびPBMAの直鎖状ポリマーを除去した。次に、ポリマーをテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran;THF)に溶解させ、HCl(in EtOH,1M)を滴下することで、PTMSOEMAのトリメチルシリル基とHClを反応させ脱保護し、そこへヘキサンを滴下することでポリマーの精製を行った。直鎖状ポリマーの除去は、GPC曲線より、直鎖状ポリマーのピークが消失したことから判断した。得られたポリマーの
1H NMRスペクトルから、ヘテロアーム星型ポリマーのPHEMAとPBMAの割合を算出したところ48/52となった。得られたポリマーの分子量分散度は1.38であり、比較的狭かった。また、PHEMA/PBMAヘテロアーム星型ポリマーの粒径は34.8nmであり、PBMAホモ星型ポリマーの粒径の29.5nmと近似した値が得られた。
【0030】
PHEMA/PLaMAヘテロアーム星型ポリマーの合成では、GPC曲線からスター変換率は77%であった。星型ポリマーをTHFに溶解し(20wt%)、少量のH
2Oを滴下して星型ポリマーを沈殿させることにより、PTMSOEMAの直鎖状ポリマーを除去した。次に、ポリマーをヘキサンに溶解させ、HCl(in EtOH,1M)を滴下することで、PTMSOEMAのトリメチルシリル基とHClを反応させ脱保護し、そこへヘキサンを加え、EtOHを滴下することでPLaMAの直鎖状ポリマーを除去し、ポリマーの精製を行った。直鎖状ポリマーの除去は、GPC曲線より、直鎖状ポリマーのピークが消失したことから判断した。得られたポリマーの
1H NMRスペクトルから、ヘテロアーム星型ポリマーのPHEMAとPLaMAの割合を算出したところ56/44となった。また、PHEMA/PLaMAヘテロアーム星型ポリマーの粒径は37.2nmであり、PLaMAホモ星型ポリマーの粒径の22.4nmと比較して大きな値が得られた。
【0031】
PHEMA/PStMAヘテロアーム星型ポリマーの合成では、GPC曲線からスター変換率は84%であった。星型ポリマーをヘキサンに溶解し(20wt%)、EtOHを滴下することにより、PTMSOEMAの直鎖状ポリマーを除去した。次に、ポリマーをヘキサンに溶解させ、HCl(in EtOH,1M)を滴下することで、PTMSOEMAのトリメチルシリル基とHClを反応させ脱保護させた、得られたポリマーをヘキサンで洗浄し、沈殿物を得ることで、PStMAの直鎖状ポリマーを除去し、ポリマーの精製を行った。直鎖状ポリマーの除去は、GPC曲線より、直鎖状ポリマーのピークが消失したことから判断した。得られたポリマーの
1H NMRスペクトルから、ヘテロアーム星型ポリマーのPHEMAとPLaMAの割合を算出したところ51/49となった。また、PHEMA/PStMAヘテロアーム星型ポリマーの粒径は61.6nmであり、PStMAホモ星型ポリマーの粒径の24.4nmと比較して非常に大きな値が得られた。これは脱保護することにより得られたPHEMAのポリマーアームがGPCの展開溶媒であるTHFに溶解しないことから凝集体が生成したことで、粒径が大きくなったことに起因する。
【0032】
基材接着性試験や血液適合性試験のコントロール(比較例)として用いる、PBMA、PLaMA、PStMAのホモ星型ポリマー、そして、PHEMA/PMMAヘテロアーム星型ポリマーについて簡単に述べる。合成したPBMA,PLaMA,PStMA,PMMAのそれぞれを重合体開始剤とし、EGDMAをリンキング剤として、トルエン中で、Ru(Ind)Cl(PPh
2)
3を触媒、n−Bu
3Nを助触媒として、3種類のホモ星型ポリマーと1種類のヘテロアーム星型ポリマーの合成を行った。
【0033】
1)PBMAホモ星型ポリマーの合成では、GPC曲線からスター変換率は88%であった。ポリマーをトルエン/MeOH(1/2)溶液で再沈殿させ、アームポリマーを除去した。分子量分散度が1.30のホモ星型ポリマーが得られた。
2)PLaMAホモ星型ポリマーの合成では、GPC曲線からスター変換率は72%であった。ポリマーをトルエン/アセトン(10/23)溶液で再沈殿させ、アームポリマーを除去した。分子量分散度が1.37のホモ星型ポリマーが得られた。
3)PStMAホモ星型ポリマーの合成では、GPC曲線からスター変換率は89%であった。ポリマーをトルエン/アセトン(24/17)溶液で再沈殿させ、アームポリマーを除去した。分子量分散度が1.33のホモ星型ポリマーが得られた。
4)PHEMA/PMMAヘテロアーム星型ポリマーの合成では、GPC曲線からスター変換率は93%であった。ポリマーをトルエン/メタノール(1/4)溶液で再沈殿させ、アームポリマーを除去した。分子量分散度が1.39のヘテロアーム星型ポリマーが得られた。
【0034】
(PHEMA/PBMAヘテロアーム星型ポリマーの合成)
以下では、PHEMA/PBMAヘテロアーム星型ポリマーを合成する手順に関し、PHEMAの親水性ポリマーアームとPBMAの疎水性ポリマーアームの組成比が異なる3種類について説明する。
A1)PHEMAとPBMAを同等量で反応させた場合:(H48/B52 star)
まず、三方コックを取り付け、攪拌子をいれたシュレンク管に対してベーキングを行ったものを2セット用意した。一方のシュレンク管には、[Ru(Ind)Cl(PPh
3)
2](0.0209mmol,18.0mg)を入れ、反応容器内をアルゴンで置換した。さらに、トルエン(4.49mL)、n−Bu
3N(トルエン中に430mM,0.209mmol,0.494mL)、トリメトキシベンゼン(0.0464mmol,8.07mg)を加えた。他方のシュレンク管には、PBMA(18200g/mol,0.0418mmol,0.528g)を量りとり、そこへPTMSOEMA(トルエン中で20.3wt%,0.0418mmol,3.71mL)、EGDMA(0.835mmol,0.157mL)、トルエン(1.57mL)を加えた。その後、錯体溶液3.98mLをポリマー溶液の入ったシュレンク管に加えた。そのシュレンク管を80℃のオイルバス上で重合を開始させた。46h後にシュレンク管を氷浴させ、重合を停止した。反応溶液をシリカゲルおよびアルミナゲルカラムクロマトグラフィーにより反応錯体[Ru(Ind)Cl(PPh
3)
2]を除去した。
その後、溶媒留去した。得られたポリマーをトルエンに20wt%の濃度で溶解させ、そこへMeOHを滴下することで、未反応のPTMSOEMAを除去した。次に、そのポリマーをTHFに溶解させ、HCl(in EtOH,1M)を加えて脱保護し、ヘキサンを滴下することで未反応のPBMAを除去することにより、目的の星型ポリマーを得た。
【0035】
A2)PHEMAとPBMAを75/25濃度比で反応させた場合:(H75/B25 star)
基本的な合成方法は、上記A1)のH48/B52starと同じである。上記A1)と同様のシュレンク管に、[Ru(Ind)Cl(PPh
3)
2](0.0167mmol,14.4mg)、トルエン(6.78mL)、n−Bu
3N(トルエン中に490mM,0.167mmol,0.341mL)、トリメトキシベンゼン(0.046mmol,7.86mg)、PBMA(12、700g/mol,0.0209mmol,0.265g)、PTMSOEMA(18200g/mol、トルエン中で20wt%,0.0626mmol,5.70mL)、EGDMA(0.835mmol,0.157mL)を加えた。そのシュレンク管を80℃のオイルバス上で重合を開始させた。43h後にシュレンク管を氷浴させ、重合を停止した。その後、重合溶液をトルエンで希釈した後に、シリカゲルおよびアルミナゲルカラムクロマトグラフィーにより反応錯体[Ru(Ind)Cl(PPh
3)
2]を除去した。回収したポリマー溶液の溶媒を留去した。得られたポリマーをアセトンに20wt%の濃度で溶解させ、そこへ水を滴下することで未反応のPHEMAとPBMAを除去した。次に、そのポリマーをTHFに溶解させ、HCl(in EtOH,1M)を加えて脱保護し、過剰の水を加えることで沈殿させることで目的の星型ポリマーを得た。
【0036】
A3)PHEMAとPBMAを25/75濃度比で反応させた場合:(H25/B75 star)
基本的な合成方法は、上記A1)のH48/B52starと同じである。上記A1)と同様のシュレンク管に、[Ru(Ind)Cl(PPh
3)
2](0.0167mmol,14.4mg)、トルエン(6.78mL)、n−Bu
3N(トルエン中に490mM,0.167mmol,0.341mL)、トリメトキシベンゼン(0.046mmol,7.86mg)、PBMA(12、700g/mol,0.0626mmol,0.7960g)、PTMSOEMA(18200g/mol、トルエン中で20wt%,0.0209mmol,1.90mL)、EGDMA(0.835mmol,0.157mL)を加えた。そのシュレンク管を80℃のオイルバス上で重合を開始させた。68h後にシュレンク管を氷浴させ、重合を停止した。その後、重合溶液をトルエンで希釈した後に、シリカゲルおよびアルミナゲルカラムクロマトグラフィーにより反応錯体[Ru(Ind)Cl(PPh
3)
2]を除去した。得られたポリマーをトルエンに溶解させ、メタノールに再沈殿させることで、未反応のPTMSOEMAを除去した。次に、そのポリマーをTHFに溶解させ、HCl(in EtOH,1M)を加えて脱保護し、過剰の水を加えることで沈殿させた。次に、DMF/EtOH(2/1)に溶解させ、ヘキサンに再沈殿させ未反応のPBMAを除去し、溶媒を留去することで目的の星型ポリマーを得た。
【0037】
(PHEMA/PLaMAヘテロアーム星型ポリマーの合成)
以下では、PHEMA/PLaMAヘテロアーム星型ポリマーを合成する手順に関し、PHEMAの親水性ポリマーアームとPLaMAの疎水性ポリマーアームの組成比が異なる3種類について説明する。
B1)PHEMAとPLaMAを同等量で反応させた場合:(H48/La52 star)
まず、三方コックを取り付け、攪拌子をいれたシュレンク管に対してベーキングを行ったものを2セット用意した。一方のシュレンク管には、[Ru(Ind)Cl(PPh
3)
2](0.0167mmol,14.5mg)を入れ、反応容器内をアルゴンで置換した。さらに、トルエン(2.53mL)、n−Bu
3N(トルエン中で430mM,0.167mmol,0.393mL)、トリメトキシベンゼン(0.0464mmol,7.56mg)を加えた。他方のシュレンク管には、PLaMA溶液(トルエン中で28.7wt%,0.0418mmol,3.78mL)を量りとり、そこへPTMSOEMA(20.3wt% in toluene,0.0418mmol,3.71mL)、EGDMA(0.835mmol,0.157mL)を加えた。その後、シュレンク管を80℃のオイルバス上で重合を開始させた。46h後にシュレンク管を氷浴させ、重合を停止した。次に、重合溶液をトルエンで希釈した後に、シリカゲルおよびアルミナゲルカラムクロマトグラフィーにより反応錯体[Ru(Ind)Cl(PPh
3)
2]を除去した。その後、溶媒留去した。得られたポリマーをTHFに20wt%の濃度で溶解させ、そこへH
2Oを滴下し、再沈殿させることで未反応のPTMSOEMA除去した。次に、その沈殿物をヘキサンに溶解させ、HCl(in EtOH,1M)を滴下し、再沈殿することで未反応のPLaMAを除去し、溶媒を留去することで目的の星型ポリマーを得た。
【0038】
B2)PHEMAとPLaMAを75/25濃度比で反応させた場合:(H75/La25 star)
基本的な合成方法は、上記B1)のH48/La52starと同じである。上記B1)と同様のシュレンク管に、[Ru(Ind)Cl(PPh
3)
2](0.0167mmol,14.4mg)、トルエン(1.50mL)、n−Bu
3N(トルエン中に490mM,0.167mmol,0.341mL)、トリメトキシベンゼン(0.046mmol,7.74mg)、PLaMA(21、800g/mol,トルエン中で20wt%,0.0209mmol,2.28mL)、PTMSOEMA(18200g/mol、トルエン中で20wt%,0.0626mmol,5.70mL)、EGDMA(0.835mmol,0.157mL)を加えた。そのシュレンク管を80℃のオイルバス上で重合を開始させた。45h後にシュレンク管を氷浴させ、重合を停止した。その後、重合溶液をトルエンで希釈した後に、シリカゲルおよびアルミナゲルカラムクロマトグラフィーにより反応錯体[Ru(Ind)Cl(PPh
3)
2]を除去した。回収したポリマー溶液の溶媒を留去した。得られたポリマーをTHFに20wt%の濃度で溶解させ、そこへメタノールを滴下することで未反応のPHEMAを除去した。次に、そのポリマーをTHFに溶解させ、HCl(in EtOH,1M)を加えて脱保護し、過剰の水を加えることで再沈殿させた。次にTHFに溶解させ、ヘキサンを敵下し再沈殿させることで未反応のPLaMAを除去することで、目的の化合物を得た。
【0039】
B3)PHEMAとPLaMAを25/75濃度比で反応させた場合:(H25/La75 star)
基本的な合成方法は、上記B1)のH48/La52starと同じである。上記B1)と同様のシュレンク管に、[Ru(Ind)Cl(PPh
3)
2](0.0167mmol,14.4mg)、トルエン(1.50mL)、n−Bu
3N(トルエン中に490mM,0.167mmol,0.341mL)、トリメトキシベンゼン(0.046mmol,7.74mg)、PLaMA(21、800g/mol,トルエン中で20wt%,0.0626mmol,6.8mL)、PTMSOEMA(18200g/mol、トルエン中で20wt%,0.0209mmol,1.90mL)、EGDMA(0.835mmol,0.157mL)を加えた。そのシュレンク管を80℃のオイルバス上で重合を開始させた。45h後にシュレンク管を氷浴させ、重合を停止した。その後、重合溶液をトルエンで希釈した後に、シリカゲルおよびアルミナゲルカラムクロマトグラフィーにより反応錯体[Ru(Ind)Cl(PPh
3)
2]を除去した。回収したポリマー溶液の溶媒を留去した。得られたポリマーをTHFに20wt%の濃度で溶解させ、そこへメタノールを滴下することで未反応のPHEMAを除去した。次に、そのポリマーをTHFに溶解させ、HCl(in EtOH,1M)を加えて脱保護し、過剰の水を加えることで再沈殿させた。次にトルエンに溶解させ、エタノールを敵下し再沈殿させることで未反応のPLaMAを除去することで、目的の化合物を得た。
【0040】
(PHEMA/PStMAヘテロアーム星型ポリマーの合成)
以下では、PHEMA/PStMAヘテロアーム星型ポリマーを合成する手順に関し、PHEMAの親水性ポリマーアームとPStMAの疎水性ポリマーアームの組成比が異なる3種類について説明する。
C1)PHEMAとPStMAを同等量で反応させた場合:(H48/St52 star)
まず、三方コックを取り付け、攪拌子をいれたシュレンク管に対してベーキングを行ったものを2セット用意した。一方のシュレンク管には、[Ru(Ind)Cl(PPh
3)
2](0.0209mmol,18.3mg)を入れ、反応容器内をアルゴンで置換した。さらに、トルエン(4.56mL)、n−Bu
3N(トルエン中に430mM,0.209mmol,0.494mL)、トリメトキシベンゼン(0.0464mmol,7.89mg)を加えた。他方のシュレンク管には、PStMA(29800g/mol,0.0752mmol,2.24g)を量りとり、そこへPTMSOEMA(トルエン中で20.3wt%,3.76mL)、EGDMA(0.835mmol,0.157mL)、トルエン(0.827mL)を加えた。その後、錯体溶液4.0mLをポリマー溶液の入ったシュレンク管に加えた。そのシュレンク管を80℃のオイルバス上で重合を開始させた。42h後にシュレンク管を氷浴させ、重合を停止した。その後、重合溶液をトルエンで希釈した後に、シリカゲルおよびアルミナゲルカラムクロマトグラフィーにより反応錯体[Ru(Ind)Cl(PPh
3)
2]を除去した。その後、溶媒留去した。得られたポリマーをヘキサンに20wt%の濃度で溶解させ、そこへEtOHを滴下し、沈殿させることで未反応のPTMSOEMAを除去した。次に、その沈殿物をヘキサンに溶解させ、HCl(in EtOH,1M)を滴下し、再沈殿させることで未反応のPStMAを除去した。さらに減圧乾燥することにより、目的の化合物が得られた。
【0041】
C2)PHEMAとPStMAを75/25濃度比で反応させた場合:(H75/St25 star)
基本的な合成方法は、上記C1)のH48/St52 starと同じである。上記C1)と同様のシュレンク管に、[Ru(Ind)Cl(PPh
3)
2](0.0167mmol,14.4mg)、トルエン(3.16mL)、n−Bu
3N(トルエン中に490mM,0.167mmol,0.341mL)、トリメトキシベンゼン(0.046mmol,7.74mg)、PStMA(29、800g/mol,0.0209mmol,0.623g)、PTMSOEMA(18200g/mol、トルエン中で20wt%,0.0626mmol,5.70mL)、EGDMA(0.835mmol,0.157mL)を加えた。そのシュレンク管を80℃のオイルバス上で重合を開始させた。52h後にシュレンク管を氷浴させ、重合を停止した。その後、重合溶液をトルエンで希釈した後に、シリカゲルおよびアルミナゲルカラムクロマトグラフィーにより反応錯体[Ru(Ind)Cl(PPh
3)
2]を除去した。回収したポリマー溶液の溶媒を留去した。得られたポリマーをTHFに20wt%の濃度で溶解させ、そこへメタノールを滴下することで未反応のPHEMAを除去した。次に、そのポリマーをTHFに溶解させ、HCl(in EtOH,1M)を加えて脱保護し、過剰の水を加えることで再沈殿させた。次にTHFに溶解させ、エタノールを敵下し再沈殿させることで未反応のPStMAを除去することで、目的の化合物を得た。
【0042】
C3)PHEMAとPStMAを25/75濃度比で反応させた場合:(H25/St75 star)
基本的な合成方法は、上記C1)のH48/St52 starと同じである。上記C1)と同様のシュレンク管に、[Ru(Ind)Cl(PPh
3)
2](0.0167mmol,14.4mg)、トルエン(5.71mL)、n−Bu
3N(トルエン中に490mM,0.167mmol,0.341mL)、トリメトキシベンゼン(0.046mmol,7.74mg)、PStMA(29、800g/mol,0.0626mmol,1.87g)、PTMSOEMA(18200g/mol、トルエン中で20wt%,0.0209mmol,1.90mL)、EGDMA(0.835mmol,0.157mL)を加えた。そのシュレンク管を80℃のオイルバス上で重合を開始させた。54h後にシュレンク管を氷浴させ、重合を停止した。その後、重合溶液をトルエンで希釈した後に、シリカゲルおよびアルミナゲルカラムクロマトグラフィーにより反応錯体[Ru(Ind)Cl(PPh
3)
2]を除去した。回収したポリマー溶液の溶媒を留去した。得られたポリマーをTHFに20wt%の濃度で溶解させ、そこへメタノールを滴下することで未反応のPHEMAを除去した。次に、そのポリマーをTHFに溶解させ、HCl(in EtOH,1M)を加えて脱保護し、過剰の水を加えることで再沈殿させた。次にクロロホルムに溶解させ、エタノールを敵下し再沈殿させることで未反応のPStMAを除去することで、目的の化合物を得た。
【0043】
基材接着性試験や血液適合性試験のコントロールとして用いる、PBMA、PLaMA、PStMAのホモ星型ポリマーの合成手順についても簡単に述べる。
PBMAホモ星型ポリマーの合成手順としては、次の通りである。三方コックを取り付け、攪拌子をいれたナス型フラスコに対してベーキングを行ったものを2セット用意する。一方のナス型フラスコに、[Ru(Ind)Cl(PPh
3)
2](0.050mmol,42.7mg)を入れ、反応容器内をアルゴンで置換した。さらに、トルエン(18.9mL)、n−Bu
3N(トルエン中に610mM,0.501mmol,0.813mL)、トリメトキシベンゼン(0.0625mmol,11.64mg)を加えた。他方のナス型フラスコに、PBMA(12700g/mol,0.251mM,3.28g)を量りとり、そこへEGDMA(2.51mmol,0.489mL)、トルエン(6.55mL)を加えた。その後、ポリマー溶液10.0mLを錯体溶液の入ったナス型フラスコに加えた。ナス型フラスコを80℃のオイルバス上で重合を開始させ、55h後にナス型フラスコを氷浴させ、重合を停止した。その後、溶媒留去を行った。トルエンに20wt%の濃度で溶解させ、そこへ2倍量のMeOHを加え、ポリマーを再沈殿させ精製を行った。
【0044】
PLaMAホモ星型ポリマーの合成手順としては、次の通りである。三方コックを取り付け、攪拌子をいれたシュレンク管に対してベーキングを行ったものを2セット用意する。一方のシュレンク管に、[Ru(Ind)Cl(PPh
3)
2](0.0158mmol,13.6mg)入れ、反応容器内をアルゴンで置換した。さらに、トルエン(5.88mL)、n−Bu
3N(トルエン中に430mM,0.158mmol,0.367mL)、トリメトキシベンゼン(0.250mmol,42.0mg)を加えた。他方のシュレンク管に、PLaMA(21800g/mol,0.0752mM,1.64g)を量りとり、そこへEGDMA(0.752mmol,0.142mL)、トルエン(1.22mL)を加えた。その後、錯体溶液5.7mLをポリマー溶液の入ったシュレンク管に加えた。そのシュレンク管を80℃のオイルバス上で重合を開始させた。46h後にシュレンク管を氷浴させ、重合を停止した。その後、溶媒留去を行った。トルエンに20wt%の濃度で溶解させ、そこへ2.3倍量のアセトンを加えポリマーを再沈殿させ精製を行った。
【0045】
PStMAホモ星型ポリマーの合成手順としては、次の通りである。三方コックを取り付け、攪拌子をいれたシュレンク管に対してベーキングを行ったものを2セット用意する。一方のシュレンク管に、[Ru(Ind)Cl(PPh
3)
2](0.0158mmol,13.4mg)入れ、反応容器内をアルゴンで置換した。さらに、トルエン(5.82mL)、n−Bu
3N(トルエン中に430mM,0.158mmol,0.362mL)、トリメトキシベンゼン(0.0418mmol,6.88mg)を加えた。他方のシュレンク管に、PStMA(29800g/mol,0.0752mM,2.24g)を量りとり、そこへEGDMA(0.752mmol,0.142mL)、トルエン(0.618mL)を加えた。その後、錯体溶液6.0mLをポリマー溶液の入ったシュレンク管に加えた。そのシュレンク管を80℃のオイルバス上で重合を開始させた。52h後にシュレンク管を氷浴させ、重合を停止した。その後、溶媒留去を行った。トルエンに20wt%の濃度で溶解させ、そこへ0.7倍量のアセトンを加えポリマーを再沈殿させ精製を行った。
【0046】
以下では、合成した3種の星型ポリマー、すなわち、PHEMA/PBMAヘテロアーム星型ポリマー、PHEMA/PLaMAヘテロアーム星型ポリマー、PHEMA/PStMAヘテロアーム星型ポリマーを用いて、それぞれをコートした表面のタンパク質吸着試験と、それぞれのポリマーのポリプロピレン(PP)への接着性試験を行った結果について説明する。
【0047】
(タンパク質吸着試験)
合成した3種の星型ポリマーをコートした表面のタンパク質吸着試験の結果を説明する。
試験に用いるサンプルは、金(Gold)センサー上にそれぞれの星型ポリマーをスピンコートしたものを用いた。コートする際のポリマー溶液としては、下記表3に示すように、PHEMA/PMMAヘテロアーム星型ポリマーの場合には、アセトン/MeOH(1/1)を溶媒とし、PHEMA/PStMAヘテロアーム星型ポリマーの場合には、CHCl
3/MeOH(8/2)を溶媒とし、PHEMA/PBMAヘテロアーム星型ポリマーおよびPHEMA/PLaMAヘテロアーム星型ポリマーの場合には、THFを溶媒とした。また、比較例として用いるホモ星型ポリマー(PBMA,PLaMA,PStMA)はTHFを溶媒とした。
【0048】
【表3】
【0049】
具体的には、Goldセンサーに、それぞれ0.1wt%ポリマー溶液25μLをスピンコートし、その後、ポリマーをコートしたGoldセンサーを、3時間、減圧乾燥させた。そして、QCM−D(Quartz Crystal Microbalance with Dissipation Monitoring)へGoldセンサーを取り付け、タンパク質として、0.05 mg/mLフィブリノーゲン溶液(ウシ血清由来)(BPF)を30分間接触させ、その後、吸着量を求めた。
【0050】
Goldセンサーへの吸着量を100とし、それぞれの表面のフィブリノーゲンの吸着率を調べた結果を下記表4および
図5に示す。
PBMA、PLaMA、PStMAのホモ星型ポリマーをコートしたそれぞれの表面への吸着量は、Gold表面への吸着量と同程度であった。これに対して、PMMAまたはPStMAを疎水性ポリマーアームに有するヘテロアーム星型ポリマーをコートした表面へのタンパク質吸着量は、Gold表面への吸着量と比較し、タンパク質吸着の抑制傾向があることがわかった。そして、PBMAまたはPLaMAを疎水性ポリマーアームに有するヘテロアーム星型ポリマーをコートしたそれぞれの表面へのタンパク質吸着量は、Gold表面への吸着量と比較し、タンパク質吸着が抑制されることがわかった。さらに、PBMAまたはPLaMAを疎水性ポリマーアームに有するヘテロアーム星型ポリマーをコートした表面の方が、PMMAを疎水性ポリマーアームに有するヘテロアーム星型ポリマーをコートした表面と比較し、よりタンパク質吸着を抑制されることがわかった。なお、PStMAを疎水性ポリマーアームに有するヘテロアーム星型ポリマーをコートした表面への吸着量は、PMMAを疎水性ポリマーアームに有するヘテロアーム星型ポリマーをコートした表面と同程度であった。
【0051】
【表4】
【0052】
上記表4および
図5に示すフィブリノーゲンの吸着率を調べた結果から、PMMA、PBMA、PLaMA、PStMAを疎水性ポリマーアームに有するヘテロアーム星型ポリマー表面のタンパク質吸着抑制において、PBMA又はPLaMAを疎水性ポリマーアームに有するヘテロアーム星型ポリマーが優れたタンパク質吸着抑制を示すことがわかった。これは、PBMA、PLaMAのTgが310Kよりも低いため、水中におけるポリマーアームの再配置が速やかに起こり、効率的にPHEMAポリマーアームが表面を覆ったためであろう。
【0053】
一方で、PStMAを疎水性ポリマーアームに有するヘテロアーム星型ポリマー表面は、PStMAの側鎖に結晶性を有するため、PMMA、PBMA、PLaMAと比較し、親水性溶媒中で親水性ポリマーアームのPHEMAと疎水性ポリマーアームの再配向が起こりにくいため、タンパク質吸着抑制を示さなかったと推察する。
また、PHEMA/PMMAを有するヘテロアーム星型ポリマーが最もタンパク質吸着抑制を示したアーム比は75/25であったが、これはヘテロアーム星型ポリマーの親水性ポリマーアームが疎水性ポリマーアームより体積分率が大きく、効率的に表面を覆ったためと推察する。
本実施例で合成したPBMA、PLaMA、PStMAのそれぞれを疎水性ポリマーアームに有するヘテロアーム星型ポリマーにおいても、親水性ポリマーアームと疎水性ポリマーアームの比を調整することにより、タンパク質吸着能を制御できる。
【0054】
(基材に対する接着性試験)
次に、合成した3種の星型ポリマーをコートした表面の接着性試験の結果を説明する。
上述したタンパク質吸着能で用いたそれぞれの星型ポリマー溶液をPP基材へドロップキャストさせた。詳しくは、PP基材(1cm×4cm)に対して、0.1wt%ポリマー溶液100μLをドロップキャストし、自然乾燥させた後、終夜、減圧乾燥させた。コートした基材を、
図7に示すような引っかき試験機を用いて、19.8mN、49mN、98mN、196mNの力で引っかき、それぞれの表面コートの強度を調べた。さらに、それらの引っかき後の表面コートの状態をSEMで観察し、引っかき幅を測定した。引っかき試験の結果を下記表5および
図8に、引っかき後の表面コートのSEM像を
図9に示す。
【0055】
【表5】
【0056】
PHEMA/PMMAヘテロアーム星型ポリマーの場合、引っかき試験では、19.8mN、49mN、98mNと力を増加させると、引っかき幅が29μm、36μm、48μmと増加した。それに対し、PHEMA/PBMAヘテロアーム星型ポリマーの場合、引っかき試験では、196mN以下の力ではコートした表面に傷付は見られなかった。
PHEMA/PLaMAヘテロアーム星型ポリマーの場合、並びに、PHEMA/PStMAヘテロアーム星型ポリマーの場合、引っかき試験では、98mN以下の力では傷が付かず、198mNにおいて、PHEMA/PMMAヘテロアーム星型ポリマーコート表面と同程度の約50μm幅の傷が見られた。
【0057】
上記の引っかき試験の結果から、PHEMA/PMMAヘテロアーム星型ポリマーよりも、PBMA、PLaMA、PStMAを疎水性ポリマーアームに有するヘテロアーム星型ポリマーの方が、PPへの接着性が高いということがわかった。PBMAを疎水性ポリマーアームに有するヘテロアーム星型ポリマーにおいては、PBMAがPPと非常に近いSP値である点、T
gが室温付近である点から、強固にPPに接着したといえる。
PLaMAまたはPStMAをそれぞれ疎水性ポリマーアームに有するヘテロアーム星型ポリマーにおいては、T
gが低いため、PMMAを疎水性ポリマーアームに有するヘテロアーム星型ポリマーと比較すると強固に接着した。しかしながら、PPと疎水性ポリマーのSP値の差が、PBMAより大きいことから、PBMAを疎水性ポリマーアームに有するヘテロアーム星型ポリマーが接着していた198mNの力で剥離してしまったといえる。
このことから、ポリマーのSP値は、基材のSP値と比較的近い値であれば、接着可能であるが、接着強度の観点では、T
gが使用温度付近であれば、強く接着していることがわかる。
【0058】
上述したように、タンパク質吸着試験においては、PHEMA/PBMAを有するヘテロアーム星型ポリマー、PHEMA/PLaMAを有するヘテロアーム星型ポリマーが優れたタンパク質吸着抑制を示した。
また、引っかき試験においては、SP値が最も近く、T
gが室温付近のPBMAを疎水性ポリマーアームに有するヘテロアーム星型ポリマーが最も強固にPP上へ接着した。また、PLaMAまたはPStMAを疎水性ポリマーアームに有するヘテロアーム星型ポリマーにおいてもPMMAを疎水性ポリマーアームに有するヘテロアーム星型ポリマーよりも優れた接着性を示した。
【0059】
上述のポリマー合成および試験に使用した機器について説明する。
1H NMRは、JEOL社のJNM−ECX400を用いて測定した。DLS測定は、Zetasizer(Malvern Instruments社製)を用いて行った。また、基材へのスピンコーティングは、MIKASA社のOpticoat SpinCoater MS−A100を用いた。QCM−Dは、Biolin Scientific社のQCM−D300を用いて測定した。引っかき試験機は、トライボギアTYPE:18・18L(新東科学社製)を用い、直径50μmのサファイア製の引っかき針を使用した。SEMはS−4800 EUACER(日立製作所製)、スパッタリングはVPS−O20 QUICK COATER(SINKU KIKO社製)を使用した。
【実施例5】
【0067】
本発明の星型ポリマー設計方法の一実施形態について説明する。
本発明の星型ポリマー設計方法では、基材との接着の尺度として溶解度パラメータ(SP値)とガラス転移温度(T
g)を用いる。
SP値は、凝集エネルギー密度(CED)の平方根で定義される。星型ポリマーのコート膜と基材との接着性は、2種の材料間のSP値を用いて下記式1,2で表される。
【0068】
(数1)
ΔG
m=ΔH
m−TΔS
m ・・・(式1)
ΔH
m/V=(δ
1−δ
2)
2 Φ
1Φ
2 ・・・(式2)
【0069】
ここで、ΔG
mは混合ギブズエネルギー、ΔS
mは混合エントロピー、ΔH
mは混合エンタルピー、Tは絶対温度、Vは体積、δ
iはiのSP値、Φ
iはiの体積分率である。接着前の状態から接着後の状態に変化する場合、ΔG
m<0でなければいけない。上記式1において、エントロピー増大の法則より、ΔG
m≦0のときTΔS
m≧0となる。またΔG
m<0になるためには、ΔH
mが0もしくは、それと近い値をとる。つまりSP値が近い値であるほど、接着しやすくなる。このSP値は、ポリマーの場合、溶解試験、膨潤率、屈折率、双極子モーメント、水素結合、固有粘度、分子内の二重結合やアルコールなどの原子団をもとにした計算から求められる。
【0070】
一方、ポリマーを基材へ塗布した際の接着強度の尺度として、ガラス転移温度(T
g)を用いる。ポリマーは塗布表面上で固化することにより、体積収縮が起こり、内部応力が発生する。この応力が大きくなるとポリマーと基材は剥離してしまう。この内部応力は、分子の運動性が低いガラス状態では大きくなり、分子の熱運動性が大きいゴム状態では小さくなる。
ポリマーはT
gより高い温度ではミクロブラウン運動によりゴム状態、低い温度では、ミクロブラウン運動が起こらないガラス状態を示す。これらの点から、界面での接着強度は、ポリマーのT
gに依存している。T
g以上では、接着後に応力が緩和され、一方でT
g以下では応力が残留してしまう。そのため、基材使用時の温度がT
g以上であると強固に接着する。
【0071】
疎水性ポリマーアームのPMMAのSP値が18.6×10
3(J/m
3)
1/2であり、PPのSP値は18.8×10
3(J/m
3)
1/2であることから、SP値の理論では接着できることが予想される。しかし、前述の接着性試験から、コートできない結果となっていた。これは、SP値だけではなく、PMMAのT
gが高いことが原因であり、PP基材へ接着した際の内部応力が、大きくなったためであろう。
【0072】
また、ポリマーと基材との接着に関し、基材の使用温度よりポリマーのガラス転移温度(T
g)の値が小さいほど強固に接着する。
基材を血流下で使用もしくは生体内に応用することを前提とすると、星型ポリマーの使用時の温度は310K(37℃)である。これらの点から、上述した実施例1では、PPやPEとSP値が近い値をとり、かつ、T
gが使用温度付近のPBMA(293K)、使用温度より少し低いT
gをもつPLaMA(208K)、使用温度よりかなり低いT
gをもつPStMA(173K)の3種類の疎水性ポリマーを選定した。
下記表8に、4種類の疎水性ポリマー(PMMA,PBMA,PLaMA,PStMA)のガラス転移温度(T
g)とSP値と、PETとPPとPEの基材のSP値の差(ΔSP)を示す。
【0073】
【表8】
【0074】
図11を参照して、星型ポリマーの設計方法のフローについて説明する。星型ポリマーの設計方法は、長鎖アルキル基を有するポリ(メタクリル酸エステル) の中から疎水性アームポリマーを選択する際に、ガラス転移温度(T
g)が所定値以下のポリマーを選択し(ステップS02)、さらに星型ポリマーを接着させる基材の溶解度パラメータ(SP値)との差分が小さいポリマーを選択する(ステップS03)。また、ポリ(メタクリル酸エステル)の中から親水性アームポリマーを選択し(ステップS04)、親水性アームポリマーと疎水性アームポリマーのモル比を調整して(ステップS05)、星型ポリマーを合成する。
【0075】
例えば、生体内で使用する医療用用具であって、その用具がPEで構成されるとした場合、ヘテロアーム星型ポリマーの設計方法は次の通りである。
(ステップ1)疎水性ポリマーアームを成すポリ(メタクリル酸エステル)として、ガラス転移温度(T
g)が310(K)以下である候補として、PBMA(293K)、PLaMA(208K)、PStMA(173K)の3種類の疎水性ポリマーを選定する。
(ステップ2)接着させる基材がPEであり、候補として選択されたPBMA、PLaMA、PStMAの内、基材の溶解度パラメータ(SP値)との差分が小さいPLaMA(ΔSP=0.4)とPStMA(ΔSP=0.4)を選択する。
また、血小板粘着抑制能を更に高める必要がある場合、以下のステップを追加する。
(ステップ3)親水性ポリマーアームのポリマーに対する疎水性ポリマーアームのポリマーのモル比が0.1〜0.3になるようにモル比を調整する。