特許第6828876号(P6828876)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6828876
(24)【登録日】2021年1月25日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】星型ポリマーおよびその設計方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 293/00 20060101AFI20210128BHJP
   C08G 81/02 20060101ALI20210128BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20210128BHJP
   A61L 33/06 20060101ALI20210128BHJP
【FI】
   C08F293/00
   C08G81/02
   A61L31/04 110
   A61L33/06 200
【請求項の数】15
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-160918(P2016-160918)
(22)【出願日】2016年8月18日
(65)【公開番号】特開2018-28029(P2018-28029A)
(43)【公開日】2018年2月22日
【審査請求日】2019年7月2日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1)発表題目 基材接着性向上を目指した生体適合性を有するヘテロアーム星型ポリマーの合成 開催日 2016年2月18日 集会名、開催場所 奈良先端科学技術大学院大学 物質創成科学研究科 平成27年度修士論文発表会、国立大学法人奈良先端科学技術大学院大学(奈良県生駒市高山町8916−5) 2)刊行物名 日本化学会第96春季年会(2016)論文予稿集 発行日 2016年3月10日 発行所 公益社団法人日本化学会 該当頁 メディカルデバイス用樹脂材料へ生体適合性を付与するヘテロアーム星型ポリマー(奈良先端大物質)3PC−141
(73)【特許権者】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000822
【氏名又は名称】特許業務法人グローバル知財
(72)【発明者】
【氏名】安藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】谷原 正夫
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 匡康
【審査官】 藤本 保
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−507670(JP,A)
【文献】 特表2013−540881(JP,A)
【文献】 特表2015−533878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 293/00
C08G 81/02
A61L 31/04
A61L 33/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(メタクリル酸エステル)の親水性ポリマーアームと、炭素数が4以上の長鎖アルキル基を有するポリ(メタクリル酸エステル) の疎水性ポリマーアームを同一分子内に有する星型ポリマーであって、上記の親水性ポリマーアームの原料ポリマーに対する疎水性ポリマーアームの原料ポリマーの数自体のモル比が0.1〜0.5である星型ポリマー
【請求項2】
上記の長鎖アルキル基は、炭素数が4以上18以下のアルキル基である請求項1に記載の星型ポリマー。
【請求項3】
上記の親水性ポリマーアームは、ポリ(メタクリル酸ヒドロキシエチル)である請求項1又は2に記載の星型ポリマー。
【請求項4】
上記の疎水性ポリマーアームは、ポリ(メタクリル酸ブチル)、ポリ(メタクリル酸ラウリル)、ポリ(メタクリル酸ステアリル)の何れかである請求項1〜3の何れかに記載の星型ポリマー。
【請求項5】
上記の疎水性ポリマーアームは単独重合体もしくは共重合体である請求項1〜の何れかに記載の星型ポリマー。
【請求項6】
上記の疎水性ポリマーアームを成すポリマーのガラス転移温度(T)は310(K)以下である請求項1〜の何れかに記載の星型ポリマー。
【請求項7】
前記星型ポリマーはヘテロアーム星型ポリマーである請求項1〜の何れかの星型ポリマー。
【請求項8】
ポリ(メタクリル酸エステル)の親水性ポリマーアームと、炭素数が4以上の長鎖アルキル基を有するポリ(メタクリル酸エステル) の疎水性ポリマーアームを同一分子内に有する星型ポリマーの設計方法であって、
上記の疎水性ポリマーアームを成すポリマーとして、ガラス転移温度が310(K)以下である候補を選択するステップと、
候補として選択されたポリマーの内、接着させる基材の溶解度パラメータ(SP値)との差分が小さいものを選択するステップ、
を備えたことを特徴とする星型ポリマー設計方法。
【請求項9】
上記の親水性ポリマーアームの原料ポリマーに対する疎水性ポリマーアームの原料ポリマーの数自体のモル比が0.1〜0.5になるようにモル比を調整するステップ、を更に備えたことを特徴とする請求項に記載の星型ポリマー設計方法。
【請求項10】
請求項1〜の何れかの星型ポリマーを含有するコート剤。
【請求項11】
医療用として使用し得るプラスチック糸、プラスチックフィルム、プラスチックチューブ、プラスチック袋およびプラスチック容器の何れかのプラスチック製用具であって、
請求項1〜の何れかの星型ポリマーが、コート剤として上記プラスチック製用具の表面上にコートされた医療用用具。
【請求項12】
人工臓器、人工血管、留置カテーテルおよび人工心臓弁の何れかのデバイスであって、
請求項1〜の何れかの星型ポリマーが、コート剤として上記デバイスの表面上にコートされた医療用デバイス。
【請求項13】
請求項1〜の何れかの星型ポリマーが、コート剤として培養基材にコートされた細胞培養器。
【請求項14】
請求項1〜の何れかの星型ポリマーが、コート剤として表面にコートされた便器。
【請求項15】
請求項1〜の何れかの星型ポリマーが、コート剤として表面にコートされた水槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、星型ポリマーおよびその設計方法に関するもので、特に、防汚性星型ポリマーコート剤における基材接着性の向上を図るために改変された星型ポリマーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、より安全な医療、より高い生活の質を提供しうる新規な医療用材料、医療用デバイスの開発が望まれている。医療用デバイスは、非常に多岐にわたって使用されているが、これらのデバイスには、生体内に存在しない金属や高分子材料が用いられているものが多い。これらの中には血液適合性が必要なものが多く、特に人工血管、人工心臓や人工腎臓などのデバイスでは血液接触があり、凝固反応等により血栓形成が引き起こされるため、デバイス表面に血液適合性を付与することが重要である。現在、これらのデバイスへ血液適合性を付与するために抗血栓性材料の研究が行われている。また、血液適合性材料は、表面の凝固因子活性化、補体活性化、血小板粘着を抑制する必要がある。現在、血液適合性材料として、タンパク質吸着が起こるが活性化しない不活性化表面、ミクロドメイン構造表面や、タンパク質吸着や血小板粘着を抑制する高含水率溶解鎖表面、生体膜類似表面、血栓を溶解する専用酵素を固定した表面などの研究が行われている。
しかしながら、長期的に血液適合性を維持し、血栓ができない表面形成には到達していないのが実情である。
【0003】
それらの研究の中で、星型ポリマーによる血液適合性や抗菌性表面の創出の研究が進んでいる。本発明者らは、既に、親水性ポリマーであるポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート) (PHEMA)と、疎水性ポリマーであるポリ(メタクリル酸メチル) (PMMA)の2種類のポリマーアームを同一分子内に有するヘテロアーム星型ポリマー(PHEMA/PMMAヘテロアーム星型ポリマー)を用いて(図1を参照)、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに単純にドロップキャストでコートすることにより、タンパク質の吸着や血小板の粘着や大腸菌の接着を大幅に抑制できることの知見を得て(図2を参照)、医療用デバイスの機能、信頼性を高められる可能性があることを見出している(非特許文献1,2を参照。)。
【0004】
また、岡野らは、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)とスチレン(Styrene;St)のブロック共重合体が、親水−疎水のミクロ相分離表面を形成し、特にこの共重合体が25nmの幅を持つとき、血液適合性を有することを報告している(非特許文献3)。また、明石らは、アラミドとシリコーンのマルチブロック共重合体(PAS)がミクロ相分離表面を形成し、特にこの共重合体が0.2−2μmの幅を持つとき、血液適合性を持つことを報告している(非特許文献4)。このミクロ相分離において、アルブミンは選択的に親水性ドメインにγ−グロブリンは疎水性ドメインに吸着する。そのため吸着するタンパク質を制御することができ、血小板などの活性化を抑制している。しかしながら、PHEMA−PStのブロック共重合体においては、接触もしくは粘着したリンパ球の壊死が確認されており、炎症反応の引き金となるといった問題がある。
【0005】
また、秋沢らは、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)をグラフトしたセルロース膜が、タンパク質吸着に加え、補体の活性を抑制することを報告している(非特許文献5)。PEOが水溶性かつ高い運動性をもつことから、水和したPEOの排除体積効果によりタンパク質吸着を抑制している。このような表面を高含水率溶解鎖表面といい、血液適合性を有する表面の1つに挙げられる。
また、吉川らは、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)(PHEMA)の高密度ブラシ表面がタンパク質吸着を抑制することを報告している(非特許文献6)。これは表面開始グラフト重合をした表面であり、高密度ブラシ表面のサイズ排除効果によりタンパク質吸着を抑制したと考えられる。
【0006】
また、石原らは、メタクリル酸ブチル(BMA)と2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)の共重合体が、タンパク質吸着、血小板粘着を防ぎ、また補体の活性化を抑制したことを報告している(非特許文献7)。MPCはリン脂質極性基のホスホリルコリン基を有しており、脂質二重膜の主成分であるリン脂質と類似した構造を有している。このMPCのホスホリルコリン基が血液中のリン脂質分子と親和性を示すことに加え、MPC分子が双性イオンを持っており電気的に中性であること、共重合体の周りに自由水があることなどにより血液適合性が発現していると考えられる。しかしながら、このポリマーは、基材への接着が弱く、長期的な血液適合性の維持には至っていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Masayasu Totani et al. “Utilization of star-shaped polymer architecture in the creation of high-density polymer brush coatings for the prevention of platelet and bacteria adhesion”, Biomaterials Science, 2014年, 第2巻9号, p.1172-1185.
【非特許文献2】安藤剛, 「星型ポリマーの医療用途展開」, 高分子論文集, 2015年, 第72巻7号, p.410-420.
【非特許文献3】Okano, T.; Suzuki, K.; Yui, N.; Sakurai, Y.; Nakahama, S. “Prevention of changes in platelet cytoplasmic free calcium levels by interaction with 2-hydroxyethyl methacrylate/styrene block copolymer surfaces” J. Biomed. Mater. Res. 1993, 27, 1519-1525.
【非特許文献4】Furuzono, T.; Yashima, E.; Kishida, A.; Maruyama, I.; Matsumoto, T.; Akashi, M. “A novel biomaterial: poly(dimethylsiloxane)-polyamide multiblock copolymer I. Synthesis and evaluation of blood compatibility” J. Biomater. Sci. Polym. Ed. 1993, 5, 89-98.
【非特許文献5】Akizawa, T.; Kino, K.; Koshikawa, S.; Ikada, Y.; Kishida, A.; Yamashita, M.; Imamura, K. “Efficiency and biocompatibility of a polyethylene glycol grafted cellulosic membrane during hemodialysis” Trans. Am. Soc. Artif. Intern. Organs. 1989, 35, 333-335.
【非特許文献6】Yoshikawa, C.; Goto, A,; Tsujii, Y.; Fukuda, T.; Kimura, T.; Yamamoto, K.; Kishida, A. “Protein Repellency of Well-Defined, Concentrated Poly(2-hydroxyethyl methacrylate) Brushes by the Size-Exclusion Effect” Macromolecules 2006, 39, 2284-2290.
【非特許文献7】Ishihara, K.; Iwasaki, Y.; Nakabayashi, N. “Novel biomedical polymers for regulating serious biological reactions” Mater. Sci. Eng., C 1998, 6, 253-259.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の如く、親水性ポリマーと疎水性ポリマーの2種類のポリマーアームを同一分子内に有するPHEMA/PMMAヘテロアーム星型ポリマーをコートした表面は、血小板やバクテリア、タンパク質などの付着抑制に有効である。しかしながら、かかるヘテロアーム星型ポリマーは、PETにはコートできるものの、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などの極性基を持たない樹脂基材にコートした場合には、樹脂基材への接着性が低く、弱い力でも剥離してしまうという問題があった。
【0009】
かかる状況に鑑みて、本発明は、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの極性基を持たない樹脂への接着性が高く、コートした表面では、血小板,バクテリア,タンパク質などの付着を抑制できる星型ポリマーとその設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、本発明の星型ポリマーは、ポリ(メタクリル酸エステル)の親水性ポリマーアームと、長鎖アルキル基を有するポリ(メタクリル酸エステル) の疎水性ポリマーアームを同一分子内に有することを特徴とする。
本発明者らは、PHEMA/PMMAヘテロアーム星型ポリマーの幅広い基材への接着を可能にするために、基材接着性部位であるPMMAをより効果的な疎水性ポリマーへと改変する必要があると考えた。基材への接着部位となる疎水性ポリマーアームを、長鎖アルキル基を有するポリ(メタクリル酸エステル)に変更することにより、基材への高い接着性を星型ポリマーコーティングにより実現したのである。特に、疎水性ポリマーアームを基材の性質に近いポリマーにすることにより、基材との親和性が向上し、基材に対する高い接着性が得られる。
【0011】
長鎖アルキル基とは、炭素数が4以上のアルキル基であることが好ましく、直鎖状または分岐状のいずれでもよい。側鎖の種類が違うとガラス転移温度を含め物性が種々異なる。直鎖状や分岐状のアルキル基は一般的に原料の種類も多く、コストが安くなるが、環状であっても構わない。炭素数は好ましくは4〜40であり、より好ましくは4〜18である。なお、炭素数が1であっても構わない。
【0012】
具体的には、親水性ポリマーアームは、ポリ(メタクリル酸ヒドロキシエチル)であり、疎水性ポリマーアームは、ポリ(メタクリル酸ブチル)、ポリ(メタクリル酸ラウリル)、ポリ(メタクリル酸ステアリル)の何れかであることが好ましい。また、親水性ポリマーアームの原料ポリマーに対する疎水性ポリマーアームの原料ポリマーの数自体のモル比が0.1〜0.5となるように合成することが好ましい。かかるモル比は、より好ましくは0.1〜0.3である。これによりタンパク質吸着や血小板粘着の抑制能を向上できる。また、疎水性ポリマーアームは、単独重合体もしくは共重合体であってもよい。共重合体を用いた場合は、より細かな物性のコントロールができるようになり、さらに機能を高められる可能性がある。
【0013】
疎水性ポリマーアームを成すポリ(メタクリル酸エステル)のガラス転移温度は、310(K)以下であることが好ましい。基材が血流下で使用もしくは生体内で応用することを踏まえると、使用時の温度は310(K)であるので、これを基準としたものである。
【0014】
星型ポリマーは、2種のポリマーアームから成るヘテロアーム星型ポリマーと、2種以上のポリマーアームを含むミクトアーム星型ポリマーがある。ポリ(メタクリル酸ヒドロキシエチル)の親水性ポリマーアームと、長鎖アルキル基を有するポリ(メタクリル酸エステル) の疎水性ポリマーアームを同一分子内に有するヘテロアーム星型ポリマーが好適に用いられる。
【0015】
本発明の星型ポリマー設計方法について説明する。
本発明の星型ポリマー設計方法は、上述の星型ポリマーの設計方法であって、次の2つのステップから成る。基材との接着の尺度として、溶解度パラメータ(Solubility Parameter:SP値)とガラス転移温度(Glass Transition Temperature:T)を用い、接着部位の疎水性ポリマーを選択する。
(ステップ1)疎水性ポリマーアームを成すポリ(メタクリル酸エステル)として、ガラス転移温度(T)が310(K)以下である候補を選択する。
(ステップ2)候補として選択されたポリ(メタクリル酸エステル)の内、接着させる基材の溶解度パラメータ(SP値)との差分が小さいものを選択する。
【0016】
ここで、SP値は、凝集エネルギー密度(Cohesive Energy Density:CED)の平方根で定義される。CEDとは、単位体積あたりに含まれる分子間結合を切るために必要なエネルギーである。つまり、SP値は物質の分子間力の尺度である。
また、本発明の星型ポリマー設計方法において、親水性ポリマーアームの原料ポリマーに対する疎水性ポリマーアームの原料ポリマーの数自体のモル比が0.1〜0.5になるようにモル比を調整するステップを更に備えることにより、タンパク質吸着や血小板粘着の抑制能を向上できる。
【0017】
本発明の星型ポリマーを用いることによって、星型ポリマーを含有するコート剤など新規な応用品を提供できる。
本発明の星型ポリマーを用いることによって、医療用として使用し得るプラスチック糸、プラスチックフィルム、プラスチックチューブ、プラスチック袋およびプラスチック容器の何れかのプラスチック製用具であって、本発明の星型ポリマーが、コート剤として上記プラスチック製用具の表面上にコートされた新規な医療用用具を提供できる。
【0018】
また、本発明の星型ポリマーを用いることによって、人工臓器、人工血管、留置カテーテルおよび人工心臓弁の何れかのデバイスであって、本発明の星型ポリマーが、コート剤としてデバイスの表面上にコートされた医療用デバイスを提供できる。
また、本発明の星型ポリマーを用いることによって、コート剤として培養基材にコートされた細胞培養器を提供できる。
また、本発明の星型ポリマーを用いることによって、コート剤として表面にコートされた便器および水槽の何れかの物品を提供できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の星型ポリマーによれば、基材との親和性が向上し、従来の星型ポリマーと比べて高い接着性が得られるといった効果がある。
また、本発明の星型ポリマーをコートするだけで容易に生物関連物質の付着抑制効果が得られるといった効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】ヘテロアーム星型ポリマーの説明図
図2】ヘテロアーム星型ポリマーの機能のイメージ図
図3】疎水性ポリマーアームの改変の説明図
図4】ヘテロアーム星型ポリマーの合成の説明図
図5】実施例1の星型ポリマーのタンパク質吸着試験の結果を示すグラフ
図6】実施例2の星型ポリマーのタンパク質吸着試験の結果を示すグラフ
図7】引っ掻き試験の説明図
図8】実施例1の星型ポリマーの接着性試験の結果を示すグラフ
図9】実施例1の星型ポリマーの引っ掻き試験後の走査電子顕微鏡(SEM)画像
図10】実施例3の星型ポリマーの引っ掻き試験後の走査電子顕微鏡(SEM)画像
図11】星型ポリマー設計方法のフロー図
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
【実施例1】
【0022】
ポリ(メタクリル酸ヒドロキシエチル)(PHEMA)の親水性ポリマーアームと、長鎖アルキル基を有するポリ(メタクリル酸エステル) の疎水性ポリマーアームを同一分子内に有する星型ポリマーを作製する。
本実施例では、図3に示すように、星型ポリマーの疎水性アームポリマーとして、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)ではなく、ポリ(メタクリル酸ブチル) (PBMA)、ポリ(メタクリル酸ラウリル)(PLaMA)、ポリ(メタクリル酸ステアリル)(PStMA)の3種の疎水性ポリマーアームを同一分子内に有する星型ポリマーを作製する。
まず、PBMA、PLaMA、PStMAのそれぞれのポリマーをリビングラジカル重合により合成する。また、PHEMA前駆体のポリ(メタクリル酸トリメチルシリロキシエチル)(PTMSOEMA)のポリマーを合成する。それぞれのポリマーの特性を下記表1に示す。それぞれのポリマーの重合度および分子量はH NMRによって、分子量分散度(M/M)はGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)測定によって行った。表1に示すように、分子量分散度の比較的狭い重合度(DP)85〜89量体のアームポリマーを用いた。
【0023】
【表1】
【0024】
上記のPTMSOEMAと、上記のPBMA、PLaMA、PStMAを用いて、PHEMA/PBMAヘテロアーム星型ポリマー、PHEMA/PLaMAヘテロアーム星型ポリマー、PHEMA/PStMAヘテロアーム星型ポリマーの合成を行った。なお、基材接着性試験や血液適合性試験のコントロールとして、PBMA,PLaMA,PStMAのホモ星型ポリマーとPHEMA/PMMAヘテロアーム星型ポリマーを用いた。
【0025】
星型ポリマーは、中央のコアから複数の直鎖状のアームポリマーが、放射状に結合した分岐高分子である。リビングラジカル重合を用いて星型ポリマーを合成する方法には、多官能性開始剤法、多官能性停止剤法、ジビニル化合物に基づくコアファースト法、ジビニル化合物に基づくアームファースト法の4種類がある。多官能性開始剤法は、多官能性開始剤を用いて合成する手法であり、重合開始点の数に等しい本数のアームを持った星型ポリマーが合成可能であるが、この多官能性開始剤の合成が難しい。また、多官能性停止剤法では、多官能性開始剤法と同様に本数の決まったアームを持つ星型ポリマーが得られるが、停止剤の合成が難しい。また停止点の増加に伴い、ポリマーの立体障害によりすべての停止点に付加させることが難しい。
一方、ジビニル化合物に基づくコアファースト法、アームファースト法は、星型ポリマーのアームの本数の分布にばらつきがあるが、ジビニル化合物と枝ポリマーの濃度比を調整することにより、多数のアームを持つ星型ポリマーの合成に適している。本実施例では、より多くのアームを持った星型ポリマーを得ることのできるアームファースト法を用いる。
【0026】
図4に示すように、PHEMA前駆体のPTMSOEMAと合成したPBMA,PLaMA,PStMAのそれぞれを重合体開始剤とし、EGDMAをリンキング剤として、トルエン中で、Ru(Ind)Cl(PPhを触媒、n−BuNを助触媒として、3種類のヘテロアーム星型ポリマーの合成を行った。
それぞれ合成したヘテロアーム星型ポリマーについて、GPC測定による分子量測定曲線を用いて、アームのピークとスターのピークの面積比からスター変換率を求めた。
【0027】
下記表2に、合成した3種類のヘテロアーム星型ポリマーと比較用の3種類のホモ星型ポリマーのそれぞれの特性を示す。なお、粒径は、動的光散乱法(Dynamic Light Scattering;DLS)により算出している。
【0028】
【表2】
【0029】
PHEMA/PBMAヘテロアーム星型ポリマーの合成では、GPC曲線からスター変換率は72%であった。星型ポリマーをトルエンに溶解し(20wt%)、9倍量のMeOHを滴下することにより、PTMSOEMAおよびPBMAの直鎖状ポリマーを除去した。次に、ポリマーをテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran;THF)に溶解させ、HCl(in EtOH,1M)を滴下することで、PTMSOEMAのトリメチルシリル基とHClを反応させ脱保護し、そこへヘキサンを滴下することでポリマーの精製を行った。直鎖状ポリマーの除去は、GPC曲線より、直鎖状ポリマーのピークが消失したことから判断した。得られたポリマーの H NMRスペクトルから、ヘテロアーム星型ポリマーのPHEMAとPBMAの割合を算出したところ48/52となった。得られたポリマーの分子量分散度は1.38であり、比較的狭かった。また、PHEMA/PBMAヘテロアーム星型ポリマーの粒径は34.8nmであり、PBMAホモ星型ポリマーの粒径の29.5nmと近似した値が得られた。
【0030】
PHEMA/PLaMAヘテロアーム星型ポリマーの合成では、GPC曲線からスター変換率は77%であった。星型ポリマーをTHFに溶解し(20wt%)、少量のHOを滴下して星型ポリマーを沈殿させることにより、PTMSOEMAの直鎖状ポリマーを除去した。次に、ポリマーをヘキサンに溶解させ、HCl(in EtOH,1M)を滴下することで、PTMSOEMAのトリメチルシリル基とHClを反応させ脱保護し、そこへヘキサンを加え、EtOHを滴下することでPLaMAの直鎖状ポリマーを除去し、ポリマーの精製を行った。直鎖状ポリマーの除去は、GPC曲線より、直鎖状ポリマーのピークが消失したことから判断した。得られたポリマーの H NMRスペクトルから、ヘテロアーム星型ポリマーのPHEMAとPLaMAの割合を算出したところ56/44となった。また、PHEMA/PLaMAヘテロアーム星型ポリマーの粒径は37.2nmであり、PLaMAホモ星型ポリマーの粒径の22.4nmと比較して大きな値が得られた。
【0031】
PHEMA/PStMAヘテロアーム星型ポリマーの合成では、GPC曲線からスター変換率は84%であった。星型ポリマーをヘキサンに溶解し(20wt%)、EtOHを滴下することにより、PTMSOEMAの直鎖状ポリマーを除去した。次に、ポリマーをヘキサンに溶解させ、HCl(in EtOH,1M)を滴下することで、PTMSOEMAのトリメチルシリル基とHClを反応させ脱保護させた、得られたポリマーをヘキサンで洗浄し、沈殿物を得ることで、PStMAの直鎖状ポリマーを除去し、ポリマーの精製を行った。直鎖状ポリマーの除去は、GPC曲線より、直鎖状ポリマーのピークが消失したことから判断した。得られたポリマーの H NMRスペクトルから、ヘテロアーム星型ポリマーのPHEMAとPLaMAの割合を算出したところ51/49となった。また、PHEMA/PStMAヘテロアーム星型ポリマーの粒径は61.6nmであり、PStMAホモ星型ポリマーの粒径の24.4nmと比較して非常に大きな値が得られた。これは脱保護することにより得られたPHEMAのポリマーアームがGPCの展開溶媒であるTHFに溶解しないことから凝集体が生成したことで、粒径が大きくなったことに起因する。
【0032】
基材接着性試験や血液適合性試験のコントロール(比較例)として用いる、PBMA、PLaMA、PStMAのホモ星型ポリマー、そして、PHEMA/PMMAヘテロアーム星型ポリマーについて簡単に述べる。合成したPBMA,PLaMA,PStMA,PMMAのそれぞれを重合体開始剤とし、EGDMAをリンキング剤として、トルエン中で、Ru(Ind)Cl(PPhを触媒、n−BuNを助触媒として、3種類のホモ星型ポリマーと1種類のヘテロアーム星型ポリマーの合成を行った。
【0033】
1)PBMAホモ星型ポリマーの合成では、GPC曲線からスター変換率は88%であった。ポリマーをトルエン/MeOH(1/2)溶液で再沈殿させ、アームポリマーを除去した。分子量分散度が1.30のホモ星型ポリマーが得られた。
2)PLaMAホモ星型ポリマーの合成では、GPC曲線からスター変換率は72%であった。ポリマーをトルエン/アセトン(10/23)溶液で再沈殿させ、アームポリマーを除去した。分子量分散度が1.37のホモ星型ポリマーが得られた。
3)PStMAホモ星型ポリマーの合成では、GPC曲線からスター変換率は89%であった。ポリマーをトルエン/アセトン(24/17)溶液で再沈殿させ、アームポリマーを除去した。分子量分散度が1.33のホモ星型ポリマーが得られた。
4)PHEMA/PMMAヘテロアーム星型ポリマーの合成では、GPC曲線からスター変換率は93%であった。ポリマーをトルエン/メタノール(1/4)溶液で再沈殿させ、アームポリマーを除去した。分子量分散度が1.39のヘテロアーム星型ポリマーが得られた。
【0034】
(PHEMA/PBMAヘテロアーム星型ポリマーの合成)
以下では、PHEMA/PBMAヘテロアーム星型ポリマーを合成する手順に関し、PHEMAの親水性ポリマーアームとPBMAの疎水性ポリマーアームの組成比が異なる3種類について説明する。
A1)PHEMAとPBMAを同等量で反応させた場合:(H48/B52 star)
まず、三方コックを取り付け、攪拌子をいれたシュレンク管に対してベーキングを行ったものを2セット用意した。一方のシュレンク管には、[Ru(Ind)Cl(PPh](0.0209mmol,18.0mg)を入れ、反応容器内をアルゴンで置換した。さらに、トルエン(4.49mL)、n−BuN(トルエン中に430mM,0.209mmol,0.494mL)、トリメトキシベンゼン(0.0464mmol,8.07mg)を加えた。他方のシュレンク管には、PBMA(18200g/mol,0.0418mmol,0.528g)を量りとり、そこへPTMSOEMA(トルエン中で20.3wt%,0.0418mmol,3.71mL)、EGDMA(0.835mmol,0.157mL)、トルエン(1.57mL)を加えた。その後、錯体溶液3.98mLをポリマー溶液の入ったシュレンク管に加えた。そのシュレンク管を80℃のオイルバス上で重合を開始させた。46h後にシュレンク管を氷浴させ、重合を停止した。反応溶液をシリカゲルおよびアルミナゲルカラムクロマトグラフィーにより反応錯体[Ru(Ind)Cl(PPh]を除去した。
その後、溶媒留去した。得られたポリマーをトルエンに20wt%の濃度で溶解させ、そこへMeOHを滴下することで、未反応のPTMSOEMAを除去した。次に、そのポリマーをTHFに溶解させ、HCl(in EtOH,1M)を加えて脱保護し、ヘキサンを滴下することで未反応のPBMAを除去することにより、目的の星型ポリマーを得た。
【0035】
A2)PHEMAとPBMAを75/25濃度比で反応させた場合:(H75/B25 star)
基本的な合成方法は、上記A1)のH48/B52starと同じである。上記A1)と同様のシュレンク管に、[Ru(Ind)Cl(PPh](0.0167mmol,14.4mg)、トルエン(6.78mL)、n−BuN(トルエン中に490mM,0.167mmol,0.341mL)、トリメトキシベンゼン(0.046mmol,7.86mg)、PBMA(12、700g/mol,0.0209mmol,0.265g)、PTMSOEMA(18200g/mol、トルエン中で20wt%,0.0626mmol,5.70mL)、EGDMA(0.835mmol,0.157mL)を加えた。そのシュレンク管を80℃のオイルバス上で重合を開始させた。43h後にシュレンク管を氷浴させ、重合を停止した。その後、重合溶液をトルエンで希釈した後に、シリカゲルおよびアルミナゲルカラムクロマトグラフィーにより反応錯体[Ru(Ind)Cl(PPh]を除去した。回収したポリマー溶液の溶媒を留去した。得られたポリマーをアセトンに20wt%の濃度で溶解させ、そこへ水を滴下することで未反応のPHEMAとPBMAを除去した。次に、そのポリマーをTHFに溶解させ、HCl(in EtOH,1M)を加えて脱保護し、過剰の水を加えることで沈殿させることで目的の星型ポリマーを得た。
【0036】
A3)PHEMAとPBMAを25/75濃度比で反応させた場合:(H25/B75 star)
基本的な合成方法は、上記A1)のH48/B52starと同じである。上記A1)と同様のシュレンク管に、[Ru(Ind)Cl(PPh](0.0167mmol,14.4mg)、トルエン(6.78mL)、n−BuN(トルエン中に490mM,0.167mmol,0.341mL)、トリメトキシベンゼン(0.046mmol,7.86mg)、PBMA(12、700g/mol,0.0626mmol,0.7960g)、PTMSOEMA(18200g/mol、トルエン中で20wt%,0.0209mmol,1.90mL)、EGDMA(0.835mmol,0.157mL)を加えた。そのシュレンク管を80℃のオイルバス上で重合を開始させた。68h後にシュレンク管を氷浴させ、重合を停止した。その後、重合溶液をトルエンで希釈した後に、シリカゲルおよびアルミナゲルカラムクロマトグラフィーにより反応錯体[Ru(Ind)Cl(PPh]を除去した。得られたポリマーをトルエンに溶解させ、メタノールに再沈殿させることで、未反応のPTMSOEMAを除去した。次に、そのポリマーをTHFに溶解させ、HCl(in EtOH,1M)を加えて脱保護し、過剰の水を加えることで沈殿させた。次に、DMF/EtOH(2/1)に溶解させ、ヘキサンに再沈殿させ未反応のPBMAを除去し、溶媒を留去することで目的の星型ポリマーを得た。
【0037】
(PHEMA/PLaMAヘテロアーム星型ポリマーの合成)
以下では、PHEMA/PLaMAヘテロアーム星型ポリマーを合成する手順に関し、PHEMAの親水性ポリマーアームとPLaMAの疎水性ポリマーアームの組成比が異なる3種類について説明する。
B1)PHEMAとPLaMAを同等量で反応させた場合:(H48/La52 star)
まず、三方コックを取り付け、攪拌子をいれたシュレンク管に対してベーキングを行ったものを2セット用意した。一方のシュレンク管には、[Ru(Ind)Cl(PPh](0.0167mmol,14.5mg)を入れ、反応容器内をアルゴンで置換した。さらに、トルエン(2.53mL)、n−BuN(トルエン中で430mM,0.167mmol,0.393mL)、トリメトキシベンゼン(0.0464mmol,7.56mg)を加えた。他方のシュレンク管には、PLaMA溶液(トルエン中で28.7wt%,0.0418mmol,3.78mL)を量りとり、そこへPTMSOEMA(20.3wt% in toluene,0.0418mmol,3.71mL)、EGDMA(0.835mmol,0.157mL)を加えた。その後、シュレンク管を80℃のオイルバス上で重合を開始させた。46h後にシュレンク管を氷浴させ、重合を停止した。次に、重合溶液をトルエンで希釈した後に、シリカゲルおよびアルミナゲルカラムクロマトグラフィーにより反応錯体[Ru(Ind)Cl(PPh]を除去した。その後、溶媒留去した。得られたポリマーをTHFに20wt%の濃度で溶解させ、そこへHOを滴下し、再沈殿させることで未反応のPTMSOEMA除去した。次に、その沈殿物をヘキサンに溶解させ、HCl(in EtOH,1M)を滴下し、再沈殿することで未反応のPLaMAを除去し、溶媒を留去することで目的の星型ポリマーを得た。
【0038】
B2)PHEMAとPLaMAを75/25濃度比で反応させた場合:(H75/La25 star)
基本的な合成方法は、上記B1)のH48/La52starと同じである。上記B1)と同様のシュレンク管に、[Ru(Ind)Cl(PPh](0.0167mmol,14.4mg)、トルエン(1.50mL)、n−BuN(トルエン中に490mM,0.167mmol,0.341mL)、トリメトキシベンゼン(0.046mmol,7.74mg)、PLaMA(21、800g/mol,トルエン中で20wt%,0.0209mmol,2.28mL)、PTMSOEMA(18200g/mol、トルエン中で20wt%,0.0626mmol,5.70mL)、EGDMA(0.835mmol,0.157mL)を加えた。そのシュレンク管を80℃のオイルバス上で重合を開始させた。45h後にシュレンク管を氷浴させ、重合を停止した。その後、重合溶液をトルエンで希釈した後に、シリカゲルおよびアルミナゲルカラムクロマトグラフィーにより反応錯体[Ru(Ind)Cl(PPh]を除去した。回収したポリマー溶液の溶媒を留去した。得られたポリマーをTHFに20wt%の濃度で溶解させ、そこへメタノールを滴下することで未反応のPHEMAを除去した。次に、そのポリマーをTHFに溶解させ、HCl(in EtOH,1M)を加えて脱保護し、過剰の水を加えることで再沈殿させた。次にTHFに溶解させ、ヘキサンを敵下し再沈殿させることで未反応のPLaMAを除去することで、目的の化合物を得た。
【0039】
B3)PHEMAとPLaMAを25/75濃度比で反応させた場合:(H25/La75 star)
基本的な合成方法は、上記B1)のH48/La52starと同じである。上記B1)と同様のシュレンク管に、[Ru(Ind)Cl(PPh](0.0167mmol,14.4mg)、トルエン(1.50mL)、n−BuN(トルエン中に490mM,0.167mmol,0.341mL)、トリメトキシベンゼン(0.046mmol,7.74mg)、PLaMA(21、800g/mol,トルエン中で20wt%,0.0626mmol,6.8mL)、PTMSOEMA(18200g/mol、トルエン中で20wt%,0.0209mmol,1.90mL)、EGDMA(0.835mmol,0.157mL)を加えた。そのシュレンク管を80℃のオイルバス上で重合を開始させた。45h後にシュレンク管を氷浴させ、重合を停止した。その後、重合溶液をトルエンで希釈した後に、シリカゲルおよびアルミナゲルカラムクロマトグラフィーにより反応錯体[Ru(Ind)Cl(PPh]を除去した。回収したポリマー溶液の溶媒を留去した。得られたポリマーをTHFに20wt%の濃度で溶解させ、そこへメタノールを滴下することで未反応のPHEMAを除去した。次に、そのポリマーをTHFに溶解させ、HCl(in EtOH,1M)を加えて脱保護し、過剰の水を加えることで再沈殿させた。次にトルエンに溶解させ、エタノールを敵下し再沈殿させることで未反応のPLaMAを除去することで、目的の化合物を得た。
【0040】
(PHEMA/PStMAヘテロアーム星型ポリマーの合成)
以下では、PHEMA/PStMAヘテロアーム星型ポリマーを合成する手順に関し、PHEMAの親水性ポリマーアームとPStMAの疎水性ポリマーアームの組成比が異なる3種類について説明する。
C1)PHEMAとPStMAを同等量で反応させた場合:(H48/St52 star)
まず、三方コックを取り付け、攪拌子をいれたシュレンク管に対してベーキングを行ったものを2セット用意した。一方のシュレンク管には、[Ru(Ind)Cl(PPh](0.0209mmol,18.3mg)を入れ、反応容器内をアルゴンで置換した。さらに、トルエン(4.56mL)、n−BuN(トルエン中に430mM,0.209mmol,0.494mL)、トリメトキシベンゼン(0.0464mmol,7.89mg)を加えた。他方のシュレンク管には、PStMA(29800g/mol,0.0752mmol,2.24g)を量りとり、そこへPTMSOEMA(トルエン中で20.3wt%,3.76mL)、EGDMA(0.835mmol,0.157mL)、トルエン(0.827mL)を加えた。その後、錯体溶液4.0mLをポリマー溶液の入ったシュレンク管に加えた。そのシュレンク管を80℃のオイルバス上で重合を開始させた。42h後にシュレンク管を氷浴させ、重合を停止した。その後、重合溶液をトルエンで希釈した後に、シリカゲルおよびアルミナゲルカラムクロマトグラフィーにより反応錯体[Ru(Ind)Cl(PPh]を除去した。その後、溶媒留去した。得られたポリマーをヘキサンに20wt%の濃度で溶解させ、そこへEtOHを滴下し、沈殿させることで未反応のPTMSOEMAを除去した。次に、その沈殿物をヘキサンに溶解させ、HCl(in EtOH,1M)を滴下し、再沈殿させることで未反応のPStMAを除去した。さらに減圧乾燥することにより、目的の化合物が得られた。
【0041】
C2)PHEMAとPStMAを75/25濃度比で反応させた場合:(H75/St25 star)
基本的な合成方法は、上記C1)のH48/St52 starと同じである。上記C1)と同様のシュレンク管に、[Ru(Ind)Cl(PPh](0.0167mmol,14.4mg)、トルエン(3.16mL)、n−BuN(トルエン中に490mM,0.167mmol,0.341mL)、トリメトキシベンゼン(0.046mmol,7.74mg)、PStMA(29、800g/mol,0.0209mmol,0.623g)、PTMSOEMA(18200g/mol、トルエン中で20wt%,0.0626mmol,5.70mL)、EGDMA(0.835mmol,0.157mL)を加えた。そのシュレンク管を80℃のオイルバス上で重合を開始させた。52h後にシュレンク管を氷浴させ、重合を停止した。その後、重合溶液をトルエンで希釈した後に、シリカゲルおよびアルミナゲルカラムクロマトグラフィーにより反応錯体[Ru(Ind)Cl(PPh]を除去した。回収したポリマー溶液の溶媒を留去した。得られたポリマーをTHFに20wt%の濃度で溶解させ、そこへメタノールを滴下することで未反応のPHEMAを除去した。次に、そのポリマーをTHFに溶解させ、HCl(in EtOH,1M)を加えて脱保護し、過剰の水を加えることで再沈殿させた。次にTHFに溶解させ、エタノールを敵下し再沈殿させることで未反応のPStMAを除去することで、目的の化合物を得た。
【0042】
C3)PHEMAとPStMAを25/75濃度比で反応させた場合:(H25/St75 star)
基本的な合成方法は、上記C1)のH48/St52 starと同じである。上記C1)と同様のシュレンク管に、[Ru(Ind)Cl(PPh](0.0167mmol,14.4mg)、トルエン(5.71mL)、n−BuN(トルエン中に490mM,0.167mmol,0.341mL)、トリメトキシベンゼン(0.046mmol,7.74mg)、PStMA(29、800g/mol,0.0626mmol,1.87g)、PTMSOEMA(18200g/mol、トルエン中で20wt%,0.0209mmol,1.90mL)、EGDMA(0.835mmol,0.157mL)を加えた。そのシュレンク管を80℃のオイルバス上で重合を開始させた。54h後にシュレンク管を氷浴させ、重合を停止した。その後、重合溶液をトルエンで希釈した後に、シリカゲルおよびアルミナゲルカラムクロマトグラフィーにより反応錯体[Ru(Ind)Cl(PPh]を除去した。回収したポリマー溶液の溶媒を留去した。得られたポリマーをTHFに20wt%の濃度で溶解させ、そこへメタノールを滴下することで未反応のPHEMAを除去した。次に、そのポリマーをTHFに溶解させ、HCl(in EtOH,1M)を加えて脱保護し、過剰の水を加えることで再沈殿させた。次にクロロホルムに溶解させ、エタノールを敵下し再沈殿させることで未反応のPStMAを除去することで、目的の化合物を得た。
【0043】
基材接着性試験や血液適合性試験のコントロールとして用いる、PBMA、PLaMA、PStMAのホモ星型ポリマーの合成手順についても簡単に述べる。
PBMAホモ星型ポリマーの合成手順としては、次の通りである。三方コックを取り付け、攪拌子をいれたナス型フラスコに対してベーキングを行ったものを2セット用意する。一方のナス型フラスコに、[Ru(Ind)Cl(PPh](0.050mmol,42.7mg)を入れ、反応容器内をアルゴンで置換した。さらに、トルエン(18.9mL)、n−BuN(トルエン中に610mM,0.501mmol,0.813mL)、トリメトキシベンゼン(0.0625mmol,11.64mg)を加えた。他方のナス型フラスコに、PBMA(12700g/mol,0.251mM,3.28g)を量りとり、そこへEGDMA(2.51mmol,0.489mL)、トルエン(6.55mL)を加えた。その後、ポリマー溶液10.0mLを錯体溶液の入ったナス型フラスコに加えた。ナス型フラスコを80℃のオイルバス上で重合を開始させ、55h後にナス型フラスコを氷浴させ、重合を停止した。その後、溶媒留去を行った。トルエンに20wt%の濃度で溶解させ、そこへ2倍量のMeOHを加え、ポリマーを再沈殿させ精製を行った。
【0044】
PLaMAホモ星型ポリマーの合成手順としては、次の通りである。三方コックを取り付け、攪拌子をいれたシュレンク管に対してベーキングを行ったものを2セット用意する。一方のシュレンク管に、[Ru(Ind)Cl(PPh](0.0158mmol,13.6mg)入れ、反応容器内をアルゴンで置換した。さらに、トルエン(5.88mL)、n−BuN(トルエン中に430mM,0.158mmol,0.367mL)、トリメトキシベンゼン(0.250mmol,42.0mg)を加えた。他方のシュレンク管に、PLaMA(21800g/mol,0.0752mM,1.64g)を量りとり、そこへEGDMA(0.752mmol,0.142mL)、トルエン(1.22mL)を加えた。その後、錯体溶液5.7mLをポリマー溶液の入ったシュレンク管に加えた。そのシュレンク管を80℃のオイルバス上で重合を開始させた。46h後にシュレンク管を氷浴させ、重合を停止した。その後、溶媒留去を行った。トルエンに20wt%の濃度で溶解させ、そこへ2.3倍量のアセトンを加えポリマーを再沈殿させ精製を行った。
【0045】
PStMAホモ星型ポリマーの合成手順としては、次の通りである。三方コックを取り付け、攪拌子をいれたシュレンク管に対してベーキングを行ったものを2セット用意する。一方のシュレンク管に、[Ru(Ind)Cl(PPh](0.0158mmol,13.4mg)入れ、反応容器内をアルゴンで置換した。さらに、トルエン(5.82mL)、n−BuN(トルエン中に430mM,0.158mmol,0.362mL)、トリメトキシベンゼン(0.0418mmol,6.88mg)を加えた。他方のシュレンク管に、PStMA(29800g/mol,0.0752mM,2.24g)を量りとり、そこへEGDMA(0.752mmol,0.142mL)、トルエン(0.618mL)を加えた。その後、錯体溶液6.0mLをポリマー溶液の入ったシュレンク管に加えた。そのシュレンク管を80℃のオイルバス上で重合を開始させた。52h後にシュレンク管を氷浴させ、重合を停止した。その後、溶媒留去を行った。トルエンに20wt%の濃度で溶解させ、そこへ0.7倍量のアセトンを加えポリマーを再沈殿させ精製を行った。
【0046】
以下では、合成した3種の星型ポリマー、すなわち、PHEMA/PBMAヘテロアーム星型ポリマー、PHEMA/PLaMAヘテロアーム星型ポリマー、PHEMA/PStMAヘテロアーム星型ポリマーを用いて、それぞれをコートした表面のタンパク質吸着試験と、それぞれのポリマーのポリプロピレン(PP)への接着性試験を行った結果について説明する。
【0047】
(タンパク質吸着試験)
合成した3種の星型ポリマーをコートした表面のタンパク質吸着試験の結果を説明する。
試験に用いるサンプルは、金(Gold)センサー上にそれぞれの星型ポリマーをスピンコートしたものを用いた。コートする際のポリマー溶液としては、下記表3に示すように、PHEMA/PMMAヘテロアーム星型ポリマーの場合には、アセトン/MeOH(1/1)を溶媒とし、PHEMA/PStMAヘテロアーム星型ポリマーの場合には、CHCl/MeOH(8/2)を溶媒とし、PHEMA/PBMAヘテロアーム星型ポリマーおよびPHEMA/PLaMAヘテロアーム星型ポリマーの場合には、THFを溶媒とした。また、比較例として用いるホモ星型ポリマー(PBMA,PLaMA,PStMA)はTHFを溶媒とした。
【0048】
【表3】
【0049】
具体的には、Goldセンサーに、それぞれ0.1wt%ポリマー溶液25μLをスピンコートし、その後、ポリマーをコートしたGoldセンサーを、3時間、減圧乾燥させた。そして、QCM−D(Quartz Crystal Microbalance with Dissipation Monitoring)へGoldセンサーを取り付け、タンパク質として、0.05 mg/mLフィブリノーゲン溶液(ウシ血清由来)(BPF)を30分間接触させ、その後、吸着量を求めた。
【0050】
Goldセンサーへの吸着量を100とし、それぞれの表面のフィブリノーゲンの吸着率を調べた結果を下記表4および図5に示す。
PBMA、PLaMA、PStMAのホモ星型ポリマーをコートしたそれぞれの表面への吸着量は、Gold表面への吸着量と同程度であった。これに対して、PMMAまたはPStMAを疎水性ポリマーアームに有するヘテロアーム星型ポリマーをコートした表面へのタンパク質吸着量は、Gold表面への吸着量と比較し、タンパク質吸着の抑制傾向があることがわかった。そして、PBMAまたはPLaMAを疎水性ポリマーアームに有するヘテロアーム星型ポリマーをコートしたそれぞれの表面へのタンパク質吸着量は、Gold表面への吸着量と比較し、タンパク質吸着が抑制されることがわかった。さらに、PBMAまたはPLaMAを疎水性ポリマーアームに有するヘテロアーム星型ポリマーをコートした表面の方が、PMMAを疎水性ポリマーアームに有するヘテロアーム星型ポリマーをコートした表面と比較し、よりタンパク質吸着を抑制されることがわかった。なお、PStMAを疎水性ポリマーアームに有するヘテロアーム星型ポリマーをコートした表面への吸着量は、PMMAを疎水性ポリマーアームに有するヘテロアーム星型ポリマーをコートした表面と同程度であった。
【0051】
【表4】
【0052】
上記表4および図5に示すフィブリノーゲンの吸着率を調べた結果から、PMMA、PBMA、PLaMA、PStMAを疎水性ポリマーアームに有するヘテロアーム星型ポリマー表面のタンパク質吸着抑制において、PBMA又はPLaMAを疎水性ポリマーアームに有するヘテロアーム星型ポリマーが優れたタンパク質吸着抑制を示すことがわかった。これは、PBMA、PLaMAのTgが310Kよりも低いため、水中におけるポリマーアームの再配置が速やかに起こり、効率的にPHEMAポリマーアームが表面を覆ったためであろう。
【0053】
一方で、PStMAを疎水性ポリマーアームに有するヘテロアーム星型ポリマー表面は、PStMAの側鎖に結晶性を有するため、PMMA、PBMA、PLaMAと比較し、親水性溶媒中で親水性ポリマーアームのPHEMAと疎水性ポリマーアームの再配向が起こりにくいため、タンパク質吸着抑制を示さなかったと推察する。
また、PHEMA/PMMAを有するヘテロアーム星型ポリマーが最もタンパク質吸着抑制を示したアーム比は75/25であったが、これはヘテロアーム星型ポリマーの親水性ポリマーアームが疎水性ポリマーアームより体積分率が大きく、効率的に表面を覆ったためと推察する。
本実施例で合成したPBMA、PLaMA、PStMAのそれぞれを疎水性ポリマーアームに有するヘテロアーム星型ポリマーにおいても、親水性ポリマーアームと疎水性ポリマーアームの比を調整することにより、タンパク質吸着能を制御できる。
【0054】
(基材に対する接着性試験)
次に、合成した3種の星型ポリマーをコートした表面の接着性試験の結果を説明する。
上述したタンパク質吸着能で用いたそれぞれの星型ポリマー溶液をPP基材へドロップキャストさせた。詳しくは、PP基材(1cm×4cm)に対して、0.1wt%ポリマー溶液100μLをドロップキャストし、自然乾燥させた後、終夜、減圧乾燥させた。コートした基材を、図7に示すような引っかき試験機を用いて、19.8mN、49mN、98mN、196mNの力で引っかき、それぞれの表面コートの強度を調べた。さらに、それらの引っかき後の表面コートの状態をSEMで観察し、引っかき幅を測定した。引っかき試験の結果を下記表5および図8に、引っかき後の表面コートのSEM像を図9に示す。
【0055】
【表5】
【0056】
PHEMA/PMMAヘテロアーム星型ポリマーの場合、引っかき試験では、19.8mN、49mN、98mNと力を増加させると、引っかき幅が29μm、36μm、48μmと増加した。それに対し、PHEMA/PBMAヘテロアーム星型ポリマーの場合、引っかき試験では、196mN以下の力ではコートした表面に傷付は見られなかった。
PHEMA/PLaMAヘテロアーム星型ポリマーの場合、並びに、PHEMA/PStMAヘテロアーム星型ポリマーの場合、引っかき試験では、98mN以下の力では傷が付かず、198mNにおいて、PHEMA/PMMAヘテロアーム星型ポリマーコート表面と同程度の約50μm幅の傷が見られた。
【0057】
上記の引っかき試験の結果から、PHEMA/PMMAヘテロアーム星型ポリマーよりも、PBMA、PLaMA、PStMAを疎水性ポリマーアームに有するヘテロアーム星型ポリマーの方が、PPへの接着性が高いということがわかった。PBMAを疎水性ポリマーアームに有するヘテロアーム星型ポリマーにおいては、PBMAがPPと非常に近いSP値である点、Tが室温付近である点から、強固にPPに接着したといえる。
PLaMAまたはPStMAをそれぞれ疎水性ポリマーアームに有するヘテロアーム星型ポリマーにおいては、Tが低いため、PMMAを疎水性ポリマーアームに有するヘテロアーム星型ポリマーと比較すると強固に接着した。しかしながら、PPと疎水性ポリマーのSP値の差が、PBMAより大きいことから、PBMAを疎水性ポリマーアームに有するヘテロアーム星型ポリマーが接着していた198mNの力で剥離してしまったといえる。
このことから、ポリマーのSP値は、基材のSP値と比較的近い値であれば、接着可能であるが、接着強度の観点では、Tが使用温度付近であれば、強く接着していることがわかる。
【0058】
上述したように、タンパク質吸着試験においては、PHEMA/PBMAを有するヘテロアーム星型ポリマー、PHEMA/PLaMAを有するヘテロアーム星型ポリマーが優れたタンパク質吸着抑制を示した。
また、引っかき試験においては、SP値が最も近く、Tが室温付近のPBMAを疎水性ポリマーアームに有するヘテロアーム星型ポリマーが最も強固にPP上へ接着した。また、PLaMAまたはPStMAを疎水性ポリマーアームに有するヘテロアーム星型ポリマーにおいてもPMMAを疎水性ポリマーアームに有するヘテロアーム星型ポリマーよりも優れた接着性を示した。
【0059】
上述のポリマー合成および試験に使用した機器について説明する。
H NMRは、JEOL社のJNM−ECX400を用いて測定した。DLS測定は、Zetasizer(Malvern Instruments社製)を用いて行った。また、基材へのスピンコーティングは、MIKASA社のOpticoat SpinCoater MS−A100を用いた。QCM−Dは、Biolin Scientific社のQCM−D300を用いて測定した。引っかき試験機は、トライボギアTYPE:18・18L(新東科学社製)を用い、直径50μmのサファイア製の引っかき針を使用した。SEMはS−4800 EUACER(日立製作所製)、スパッタリングはVPS−O20 QUICK COATER(SINKU KIKO社製)を使用した。
【実施例2】
【0060】
PHEMA/PBMAヘテロアーム星型ポリマー、PHEMA/PLaMAヘテロアーム星型ポリマーおよびPHEMA/PStMAヘテロアーム星型ポリマーにおいて、親水性と疎水性のアームポリマーの割合を変更したヘテロアーム星型ポリマーの合成を行ったものに関して、タンパク質吸着試験を行った。QCMセンサーへのポリマーコート条件は、前述した方法と同条件で行った。
これらのタンパク質吸着試験の結果を下記表6および図6に示す。
【0061】
【表6】
【0062】
タンパク質吸着試験の結果から、PHEMAの含有率がPHEMA75%程度含有するPHEMA/PBMAヘテロアーム星型ポリマー、PHEMA/PLaMAヘテロアーム星型ポリマーおよびPHEMA/PStMAヘテロアーム星型ポリマーは、そのすべてのコート表面において高いタンパク質吸着抑制能を示した。また、それぞれのヘテロアーム星型ポリマーにおいて、PBMA、PLaMA、PStMAの含有量が増加するに従い、タンパク質吸着抑制能が低下する傾向があることが示された。このことから、PHEMAポリマーアームの密度がある程度高いほど、高いタンパク質吸着抑制能を示すといえる。
【実施例3】
【0063】
タンパク質吸着試験において、タンパク質吸着抑制能が最も高かったPHEMA/PBMAヘテロアーム星型ポリマー(75/25)、PHEMA/PLaMAヘテロアーム星型ポリマー(75/25)およびPHEMA/PStMAヘテロアーム星型ポリマー(75/25)において、親水性と疎水性のアームポリマーの割合を変更したヘテロアーム星型ポリマーをコートした表面に対する引っ掻き試験を行った。
引っ掻き試験の結果を図10に示す。
PHEMA/PStMAヘテロアーム星型ポリマー(75/25)は、PHEMAの含有量に関係なく198mNの力で傷付が認められた。一方で、PHEMA/PBMAヘテロアーム星型ポリマー(75/25)、PHEMA/PLaMAヘテロアーム星型ポリマー(75/25)のコート表面では、コート膜が剥離するほどの傷付きが起こって無いことがわかった。このコート膜強度の向上については、組成比がPHEMA側またはアルキル鎖側のどちらかに偏ることで、製膜性が向上し膜強度が上がるものと考えられる。
【実施例4】
【0064】
タンパク質吸着抑制能が高かったPHEMAの含有量が75%程度のPHEMA/PBMAヘテロアーム星型ポリマー、PHEMA/PLaMAヘテロアーム星型ポリマーおよびPHEMA/PStMAヘテロアーム星型ポリマーにおいて、エタノール溶媒における溶解性試験を行った。ポリマーの溶解性の結果を下記表7に示す。表中、可溶とは、室温条件下で0.1wt%濃度で溶解したものであり、不溶とは、0.1wt%濃度では75℃に加熱してもほとんど溶解しなかったものであり、難溶とは、0.1wt%%濃度で75℃に加熱すると一時的に溶解するが、室温下で放置すると、再白濁したものを表している。
【0065】
【表7】
【0066】
PHEMA/PBMAヘテロアーム星型ポリマー、PHEMA/PLaMAヘテロアーム星型ポリマーはエタノールに可溶であることが分かった。比較として、PHEMA/PStMAヘテロアーム星型ポリマーのエタノール溶解性試験を行ったが、エタノールには難溶であることが分かった。
PHEMAの含有量が75%程度のPHEMA/PBMAヘテロアーム星型ポリマー、PHEMA/PLaMAヘテロアーム星型ポリマーは、エタノールに溶解すること可能であるため、PP以外の基材ポリエチレンやポリビニルクロライドなどの異なる基材にもコート可能であることが示された。
【実施例5】
【0067】
本発明の星型ポリマー設計方法の一実施形態について説明する。
本発明の星型ポリマー設計方法では、基材との接着の尺度として溶解度パラメータ(SP値)とガラス転移温度(T)を用いる。
SP値は、凝集エネルギー密度(CED)の平方根で定義される。星型ポリマーのコート膜と基材との接着性は、2種の材料間のSP値を用いて下記式1,2で表される。
【0068】
(数1)
ΔG=ΔH−TΔS ・・・(式1)
ΔH/V=(δ−δΦΦ ・・・(式2)
【0069】
ここで、ΔGは混合ギブズエネルギー、ΔSは混合エントロピー、ΔHは混合エンタルピー、Tは絶対温度、Vは体積、δはiのSP値、Φはiの体積分率である。接着前の状態から接着後の状態に変化する場合、ΔG<0でなければいけない。上記式1において、エントロピー増大の法則より、ΔG≦0のときTΔS≧0となる。またΔG<0になるためには、ΔHが0もしくは、それと近い値をとる。つまりSP値が近い値であるほど、接着しやすくなる。このSP値は、ポリマーの場合、溶解試験、膨潤率、屈折率、双極子モーメント、水素結合、固有粘度、分子内の二重結合やアルコールなどの原子団をもとにした計算から求められる。
【0070】
一方、ポリマーを基材へ塗布した際の接着強度の尺度として、ガラス転移温度(T)を用いる。ポリマーは塗布表面上で固化することにより、体積収縮が起こり、内部応力が発生する。この応力が大きくなるとポリマーと基材は剥離してしまう。この内部応力は、分子の運動性が低いガラス状態では大きくなり、分子の熱運動性が大きいゴム状態では小さくなる。
ポリマーはTより高い温度ではミクロブラウン運動によりゴム状態、低い温度では、ミクロブラウン運動が起こらないガラス状態を示す。これらの点から、界面での接着強度は、ポリマーのTに依存している。T以上では、接着後に応力が緩和され、一方でT以下では応力が残留してしまう。そのため、基材使用時の温度がT以上であると強固に接着する。
【0071】
疎水性ポリマーアームのPMMAのSP値が18.6×10(J/m1/2であり、PPのSP値は18.8×10(J/m1/2であることから、SP値の理論では接着できることが予想される。しかし、前述の接着性試験から、コートできない結果となっていた。これは、SP値だけではなく、PMMAのTが高いことが原因であり、PP基材へ接着した際の内部応力が、大きくなったためであろう。
【0072】
また、ポリマーと基材との接着に関し、基材の使用温度よりポリマーのガラス転移温度(T)の値が小さいほど強固に接着する。
基材を血流下で使用もしくは生体内に応用することを前提とすると、星型ポリマーの使用時の温度は310K(37℃)である。これらの点から、上述した実施例1では、PPやPEとSP値が近い値をとり、かつ、Tが使用温度付近のPBMA(293K)、使用温度より少し低いTをもつPLaMA(208K)、使用温度よりかなり低いTをもつPStMA(173K)の3種類の疎水性ポリマーを選定した。
下記表8に、4種類の疎水性ポリマー(PMMA,PBMA,PLaMA,PStMA)のガラス転移温度(T)とSP値と、PETとPPとPEの基材のSP値の差(ΔSP)を示す。
【0073】
【表8】
【0074】
図11を参照して、星型ポリマーの設計方法のフローについて説明する。星型ポリマーの設計方法は、長鎖アルキル基を有するポリ(メタクリル酸エステル) の中から疎水性アームポリマーを選択する際に、ガラス転移温度(T)が所定値以下のポリマーを選択し(ステップS02)、さらに星型ポリマーを接着させる基材の溶解度パラメータ(SP値)との差分が小さいポリマーを選択する(ステップS03)。また、ポリ(メタクリル酸エステル)の中から親水性アームポリマーを選択し(ステップS04)、親水性アームポリマーと疎水性アームポリマーのモル比を調整して(ステップS05)、星型ポリマーを合成する。
【0075】
例えば、生体内で使用する医療用用具であって、その用具がPEで構成されるとした場合、ヘテロアーム星型ポリマーの設計方法は次の通りである。
(ステップ1)疎水性ポリマーアームを成すポリ(メタクリル酸エステル)として、ガラス転移温度(T)が310(K)以下である候補として、PBMA(293K)、PLaMA(208K)、PStMA(173K)の3種類の疎水性ポリマーを選定する。
(ステップ2)接着させる基材がPEであり、候補として選択されたPBMA、PLaMA、PStMAの内、基材の溶解度パラメータ(SP値)との差分が小さいPLaMA(ΔSP=0.4)とPStMA(ΔSP=0.4)を選択する。
また、血小板粘着抑制能を更に高める必要がある場合、以下のステップを追加する。
(ステップ3)親水性ポリマーアームのポリマーに対する疎水性ポリマーアームのポリマーのモル比が0.1〜0.3になるようにモル比を調整する。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の星型ポリマーは、低付着性表面に基づいた医療デバイスや医療材料、異種素材の接着を目指した中間膜への応用などに有用である。
【符号の説明】
【0077】
1 引っかき試験機
2 基材
3 コート膜
4 溝
5 針
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11