【実施例1】
【0019】
(ケーシング把持具)
本発明の実施例1におけるケーシング把持具について、
図1を参照して説明する。
図1は、本発明の実施例1におけるケーシング把持具を説明する図である。
【0020】
実施例1におけるケーシング把持具10は、地中に埋め込んで途中まで引き上げた際に、落下しないようにケーシングを把持するものである。
図1(a)におけるケーシング把持具10は非把持状態にあり、
図1(b)におけるケーシング把持具10は把持状態にある。
【0021】
ケーシング把持具10は、略円弧状の第1アーム1と、略円弧状の第2アーム2と、第1アーム1と第2アーム2とを把持状態又は非把持状態に選択可能とする油圧シリンダ8を備えている。つまり、第1アームの一方の端部と第2アームの一方の端部を軸支する可動軸7近傍の第2アーム2と第1アーム1の他方の端部近傍との間に油圧シリンダ8を配置しており、油圧シリンダ8を伸長させて第1アーム1を第2アームに接近させて閉鎖状態とすることにより把持状態を選択し、油圧シリンダ8を圧縮させて第1アーム1を第2アーム2から離間させて開放状態とすることにより非把持状態を選択することができる。
【0022】
第1アーム1における略円弧の中心を向く側に第1アーム側把持部3を設け、第2アーム2における略円弧の中心を向く側に第2アーム側把持部5を設けている。また、第1アーム側把持部3の中心側の第1端部4、及び第2アーム側把持部5の中心側の第2端部6は略円弧形状を有している。そして、油圧シリンダ8を伸長させて第1アーム1を第2アームに接近させて閉鎖状態とすることで第1端部4及び第2端部6が対向し略円形状を形成することができる。そうすると、第1端部4及び第2端部6により、断面略円形状のケーシングを把持する把持状態とすることができる。また、油圧シリンダ8を圧縮させて第1アーム1を第2アーム2から離間させて開放状態とすることで、第1端部4、及び第2端部6が対向せず略円形状を形成しないで、ケーシング非把持状態とすることができる。つまり、油圧シリンダ8を伸長させて閉鎖状態とすることによりケーシングの把持状態を選択し、油圧シリンダ8を圧縮させて開放状態とすることによりケーシングの非把持状態を選択することができる。
【0023】
上述のように、第1端部4及び第2端部6が対向し略円形状を形成することにより、断面円形状のケーシングが地中に落下しないようにしっかりと把持することができる。ここで、第1端部4及び第2端部6が対向して形成する略円形状の直径は、ケーシングの直径より小さめにしておくと把持状態が確実なものとすることができる。
【0024】
(杭抜き機)
次に、杭抜き機20について
図2を参照して説明する。
図2は、本発明の実施例1における杭抜き機を説明する図である。
【0025】
杭抜き機20は、地面に対して略垂直に建てたリーダ21に沿って上下可能な減速機22を備えている。実施例1におけるリーダ21の長さは22mである。減速機22の下端にφ600、かつ18m長のケーシングKを接続して、減速機22を回転させながら下降させることでケーシングKを地中に埋め込むことができる。ケーシングKは複数の分割ケーシングKBを接続したものであり、最上部の分割ケーシングを最上部ケーシングKAと呼び、最下部の分割ケーシングを最下部ケーシング宇KCと呼ぶ。
【0026】
なお、実施例1においては、リーダ21を22m長、ケーシングKをφ600かつ18m長としたが、必ずしもこれに限定されず適宜変更が可能である。例えば、リーダ21を23m以上の長さ又は21m長以下として、20m以上又は17m以下のケーシングKとしてもよい。また、φ600以上、又はφ450程度のケーシングKを用いてもよい。
【0027】
最下部ケーシングKCの最下端には、地中を掘り進むための掘削刃23を備えるとともに、掘削刃23の上部に杭チャッキング機構24を備えている。杭チャッキング機構24は図示しない油圧シリンダにより開いた状態と閉じた状態を選択できる。
図2(a)は、杭チャッキング機構24が開いている状態を示し、
図2(b)は、杭チャッキング機構24が閉じている状態を示している。杭チャッキング機構24が閉じることで、既設杭Pの先端を把持又は係合でき、ケーシングKを引抜くことで既設杭Pを引抜くことができる。
【0028】
(杭抜き工法)
次に、ケーシング把持具10を用いた中抜き工法と呼ばれる杭抜き工法について
図3―
図7を参照して説明する。
図3は、本発明の実施例1における杭抜き工法を説明する第1の図である。
図4は、発明の実施例1における杭抜き工法を説明する第2の図である。
図5は、本発明の実施例1における杭抜き工法を説明する第3の図である。
図6は、本発明の実施例1における杭抜き工法を説明する第4の図である。
図7は、本発明の実施例1における杭抜き工法を説明する第5の図である。
【0029】
まず、略円弧状の第1アーム1と、略円弧状の第2アーム2と、前記第1アームにおける略円弧の中心を向く側に設けられた第1アーム側把持部3と、前記第2アームにおける略円弧の中心を向く側に設けられた第2アーム側把持部5と、を備え、前記第1アーム側把持部の中心側の第1端部4、及び前記第2アーム側把持部の中心側の第2端部6は略円弧形状を有し、前記第1端部、及び前記第2端部を対向させて略円形状を形成することで、断面略円形状のケーシングを把持する把持状態と、前記第1端部、及び前記第2端部が対向せず略円形状を形成しない非把持状態と、を選択可能なことを特徴とするケーシング把持具10を準備するケーシング把持具準備工程を実施する。このケーシング把持具10は、途中まで地上に引き上げたケーシングKが地中に落下しないように把持するものである。このケーシング把持具10を用いることで、ケーシングKとともに引き上げた既設杭Pを落下防止して安全に、かつ確実に引抜くことができる。
【0030】
次に、
図3(a)、(b)に示すように、複数の分割ケーシングKBを継合し、かつ最下端に掘削刃23を有するとともに、杭チャッキング機構24を有した最下部ケーシングKCを含む円筒状のケーシングKを既設杭Pの周囲に位置するようにケーシングKを地中に埋め込むケーシング埋込み工程を実行する。この際、減速機22が回転しながら最下部ケーシングKCの掘削刃23で地面を掘削してケーシングKを地中に向けて押し込む。
【0031】
一度に埋め込めるケーシングKの長さは18m程度なので、それより深く既設杭Pが埋め込まれている場合は、
図3(c)に示すように最上部ケーシングKAだけを切り離して上昇させ、
図4(d)、(e)に示すように新たな分割ケーシングKBを最上部ケーシングKAの下に継ぎ足す。このときのケーシングKは、埋込み途中でケーシングKCの下方に空間がないので、最上部ケーシングKAを切り離しても地中に落下することはない。そして、
図4(f)、
図5(g)に示すように継ぎ足した分割ケーシングKBを含めたケーシングKを既設杭Pの周囲に位置するように地中に埋め込む。このときも減速機22が回転しながら最下部ケーシングKCの掘削刃23で地面を掘削してケーシングKを地中に向けて押し込む。
【0032】
最下部ケーシングKCの先端が既設杭Pの先端に到達すると、
図5(h)に示すように、杭チャッキング機構24を閉じて、既設杭Pの先端に係合させる。そして、
図5(i)に示すように、最下部ケーシングKCの杭チャッキング機構24が既設杭Pの先端に係合した状態でケーシングK全体を途中まで引抜くケーシング引抜き第1工程を実行する。ケーシングKを引抜く長さは任意であるが、太い既設杭Pなら最大10mが限界である。
【0033】
そして、ケーシングKを途中まで引抜いたら、引抜きを停止し、ケーシング落下防止工程を実行する。ケーシング落下防止工程は、ケーシング把持具10の油圧シリンダ8を圧縮して第1アーム1及び第2アーム2について非把持状態を選択し地上に露出したケーシングKの地上に近い部分を挟むように配置した後、油圧シリンダ8を伸長して第1アーム1及び第2アーム2について把持状態を選択して第1アーム側把持部3の第1端部4及び第2アーム側把持部5の第2端部6によりケーシングKよりわずかに小さい直径の円形状が形成されることで断面略円形状のケーシングKをしっかりと把持することにより行われ、これによりケーシングKの地中への落下を防止することができる(
図6(j)参照)。
【0034】
次に、
図6(k)に示すように、ケーシング把持具10が把持した部分より上部の分割ケーシングKBを分離する分割ケーシング分離工程を実行する。分割ケーシング分離工程は、落下を防止されているケーシングKの最上部ケーシングKAを切離し、さらにその下の分割ケーシングKBを切り離した後、ロープで吊りさげて切り離す。
【0035】
そうすると、ケーシングKとともに引き上げられている既設杭Pの頭部分が露出することになるので、ロープで吊下げて撤去する既設杭撤去工程を実行する。既設杭撤去工程において、既設杭Pが長い場合は、地上に露出している既設杭Pを適切な長さで切断して撤去すればよい。その際、
図7(m)に示すように、既設杭Pの切断場所より下を別のロープで吊下げ、地中への落下を防止する。
【0036】
既設杭撤去工程が終わると、残りのケーシングKを引抜く作業に移る。まず、最上部ケーシングKAを地上に出ている分割ケーシングKBの最上部に結合する(
図7(n)参照)。次に、減速機22でケーシングKを引っ張って落下を防止しながら、ケーシングKを把持しているケーシング把持具10について非把持状態を選択するケーシング把持具非把持工程を実行する(
図7(o)参照)。
【0037】
次に、地中に埋設されている残りのケーシングKを引抜くケーシング引抜き第2工程を実行する。もし、地中に既設杭Pが残っている場合は、ケーシングKの引抜きに伴い、残りの既設杭Pも同時に引抜くことができる。残りの既設杭Pを引抜いた場合は、前述のように、分割ケーシングKBを順に切り離して、露出した既設杭Pをロープで吊下げて撤去する。
【0038】
既設杭P及びケーシングKが長い場合には、さらに前述のケーシング引抜き第1工程、ケーシング落下防止工程、分割ケーシング分離工程、既設杭引抜き工程、ケーシング把持具非把持工程、及びケーシング引抜き第2工程を再度実行する。
【0039】
従来は、ケーシングKを全部引抜いた後、既設杭Pを引抜いていたので、既設杭Pが途中で折れていると全ての既設杭Pを引抜くことができない。また、折れた既設杭PがケーシングKに絡まったりすると、ケーシングKを引抜く際に、過度なオーバーロードが杭抜き機20にかかって杭抜き機20のクレーンが転倒する事故がおきる恐れがあった。
【0040】
これに対して、本発明のケーシング把持具10を用いて、途中まで既設杭Pとともに引き上げたケーシングKを地中に落下しないように把持することで、安全にまた確実に既設杭を引抜くことができる。
【0041】
また、ケーシングK内に既設杭Pがなければ、棒状のカンザシ定規材をケーシングK側面の穴に貫通させて地中への落下を防止できるが、ケーシングK内に既設杭Pがある場合は、カンザシ定規材が既設杭PにあたりケーシングKを貫通することができず地中への落下防止ができない。
【0042】
これに対して、本発明のケーシング把持具10を用いて、途中まで既設杭Pとともに引き上げたケーシングKを地中に落下しないように把持することで、安全にまた確実に既設杭Pを引抜くことができる。
【0043】
このように、実施例1においては、ケーシングを把持するケーシング把持具であって、
略円弧状の第1アームと、
略円弧状の第2アームと、
前記第1アームにおける略円弧の中心を向く側に設けられた第1アーム側把持部と、
前記第2アームにおける略円弧の中心を向く側に設けられた第2アーム側把持部と、を備え、
前記第1アーム側把持部の中心側の第1端部、及び前記第2アーム側把持部の中心側の第2端部は略円弧形状を有し、
前記第1端部、及び前記第2端部を対向させて略円形状を形成することで、断面略円形状のケーシングを把持する把持状態と、前記第1端部、及び前記第2端部が対向せず略円形状を形成しない非把持状態と、を選択可能なことを特徴とするケーシング把持具を用いることにより、既設杭を安全に、かつ確実に引抜くことができる。
【0044】
また、地中に埋設された既設杭を引抜く杭抜き工法であって、
略円弧状の第1アームと、略円弧状の第2アームと、前記第1アームにおける略円弧の中心を向く側に設けられた第1アーム側把持部と、前記第2アームにおける略円弧の中心を向く側に設けられた第2アーム側把持部と、を備え、前記第1アーム側把持部の中心側の第1端部、及び前記第2アーム側把持部の中心側の第2端部は略円弧形状を有し、前記第1端部、及び前記第2端部を対向させて略円形状を形成することで、断面略円形状のケーシングを把持する把持状態と、前記第1端部、及び前記第2端部が対向せず略円形状を形成しない非把持状態と、を選択可能なことを特徴とするケーシング把持具を準備するケーシング把持具準備工程と、
複数の分割ケーシングを継合し、かつ最下端に掘削刃を有するとともに、杭チャッキング機構を有した円筒状のケーシングを前記既設杭の周囲に位置するように前記ケーシングを地中に埋め込むケーシング埋込み工程と、
前記チャッキング機構で既設杭の地中の先端部を把持して前記ケーシングを途中まで引抜くケーシング引抜き第1工程と、
前記ケーシング把持具の前記第1アーム及び前記第2アームについて前記非把持状態を選択し地上に露出した前記ケーシングを挟むように配置した後、前記第1アーム及び前記第2アームについて前記把持状態を選択して前記第1アーム側把持部及び前記第2アーム側把持部により前記ケーシングを把持して落下を防止するケーシング落下防止工程と、
前記ケーシング把持具が把持した部分より上部の前記分割ケーシングを分離する分割ケーシング分離工程と、
露出した既設杭を撤去する既設杭撤去工程と、を実行することを特徴とする杭抜き工法により、既設杭を安全に、かつ確実に引抜くことができる。